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特開2024-143550高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物、高灰分小麦粉含有パン類生地とその製造方法、高灰分小麦粉含有パン類、および高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143550
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物、高灰分小麦粉含有パン類生地とその製造方法、高灰分小麦粉含有パン類、および高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20241003BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20241003BHJP
   A21D 2/22 20060101ALI20241003BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20241003BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D2/22
A21D2/26
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056285
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 紘介
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DL02
4B026DL09
4B026DX03
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK08
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK51
4B032DK54
4B032DK70
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】高等級小麦粉のみをもちいた場合と同等のボリュームがあり、内相と食感が良好な、低等級小麦粉や全粒粉小麦粉を用いたパン類を提供すること。
【解決手段】アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および油脂を含有する高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物。高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼを含む、高灰分小麦粉含有パン類生地。高灰分小麦粉含有パン類生地の加熱処理品である、高灰分小麦粉含有パン類。高灰分小麦粉含有パン類生地の製造方法。高灰分小麦粉含有パン類生地にアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを添加する、高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および油脂を含有する高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物。
【請求項2】
高灰分小麦粉が、低等級小麦粉、および全粒粉小麦粉から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量が20~650単位である、請求項1または請求項2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼを含む、高灰分小麦粉含有パン類生地。
【請求項5】
アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および油脂を含む油脂組成物を含有する、請求項4に記載の高灰分小麦粉含有パン類生地。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の高灰分小麦粉含有パン類生地の加熱処理品である、高灰分小麦粉含有パン類。
【請求項7】
以下の工程(1)~工程(3)を含む、高灰分小麦粉含有パン類生地の製造方法。
工程(1):澱粉類、酵母、および水を含む原材料を混合し、ドウを得る工程
工程(2):ドウを発酵させる工程
工程(3):発酵させたドウに、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼを含む原材料を混合する工程
【請求項8】
工程(3)において、原材料が、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼから選ばれる1種以上、並びに油脂を含有する油脂組成物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
高灰分小麦粉含有パン類生地にアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを添加する、高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法。
【請求項10】
高灰分小麦粉含有パン類生地に、請求項1または2記載の油脂組成物を添加する、高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物、高灰分小麦粉含有パン類生地とその製造方法、高灰分小麦粉含有パン類、および高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類の製造に一般的に用いられる小麦粉は、特等級小麦粉や一等級小麦粉(以下、単に「高等級小麦粉」と記載する。)である。これらは原料小麦から外皮、小麦ふすま、胚芽を取り除き得られた胚乳部分のうち、中心に近い胚乳部分のみを粉砕した小麦粉であり、外皮、小麦ふすま、胚芽の混入度合いが低いものである。
【0003】
対して、二等級小麦粉や三等級小麦粉(以下、単に「低等級小麦粉」と記載する。)は、外皮に近い胚乳部分を含む小麦粉であり、高等級小麦粉と比較して、外皮、小麦ふすま、胚芽の混入度合いが高いため、これらに由来する灰分やビタミン等を多く含んでいる。また、原料小麦の外皮、小麦ふすま、胚芽、胚乳の全てを粉砕して得られる全粒粉小麦粉は、灰分やビタミンに加えて、食物繊維を豊富に含んでいる。よって、近年、これらの栄養素を摂取できるよう、低等級小麦粉や全粒粉小麦粉を用いたパン類が製造されている。
【0004】
しかし、低等級小麦粉や全粒粉小麦粉等の高灰分小麦粉をパン類の製造に用いると、混入している外皮、小麦ふすま、胚芽等の夾雑物が、パン類生地中のグルテンの形成を阻害する。そのため、グルテンが十分に形成されず、その結果、焼成後のパン類のボリュームが小さくなってしまうことや、パン類生地が伸びにくくなって、パン類の内相に大きな穴が生じてしまうという問題があった。また、パン類の食感がパサついたり、重く詰まったものになってしまうという問題もあった。
【0005】
低等級小麦粉や全粒粉小麦粉等の高灰分小麦粉を用いたパン類に生じる上記問題は、高等級小麦粉のみを用いるような一般的なパン類に適用される方法では解決が困難であるため、低等級小麦粉や全粒粉小麦粉等の高灰分小麦粉を用いたパン類のための様々な検討が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、小麦全粒粉と、バイタルグルテンと、還元処理バイタルグルテンとを含有し、前記小麦全粒粉の含有量は、穀粉および澱粉の合計質量あたり70質量%以上である、イースト発酵ベーカリー食品用組成物が開示されており、該イースト発酵ベーカリー食品用組成物を用いたイースト発酵ベーカリー食品の製造方法も開示されている。
【0007】
特許文献2には、穀粉および特定量以上のベーキングパウダーを含有する基本原料粉を用いてパン生地を調製し、該パン生地をイースト発酵させずに加熱する工程を有する、パンの製造方法であって、前記基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分が0.5質量%以上の強力粉3~10質量%とを用いて、前記パン生地を調製する、パンの製造方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、食物繊維含量が4質量%以上の穀物粉を10~60質量%含み、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを1~35質量%含む、パン焼菓子生地が開示されており、食物繊維含量が4質量%以上の穀物粉として、小麦全粒粉が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-162593号公報
【特許文献2】特開2022-124506号公報
【特許文献3】特開2015-116190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従前より検討され、開示されてきた特許文献1~3に記載の発明には、以下のような問題があった。
【0011】
特許文献1に記載の発明は、バイタルグルテンや還元処理バイタルグルテンを添加し、パン類生地中のグルテンを補うことで問題の解決を図った方法である。この方法によれば、ボリュームの問題は解決することができるが、バイタルグルテンを添加するとパン類生地が硬くなりすぎてしまうため、内相の悪化を解決することはできなかった。また、バイタルグルテンに由来する独特な食感や風味により、得られるパン類の食感が硬く、風味も劣るという問題があった。
【0012】
特許文献2に記載の発明は、ベーキングパウダーによりボリュームのあるパン類を得ることはできるが、得られるパン類のボリュームはまだ不十分であった。また、得られるパン類の内相や、パサつきなどの食感に関する問題については解決できなかった。
【0013】
特許文献3に記載の発明は、特定のトリアシルグリセロールを含有させることで、食感のパサつきを抑制したパン類を得ることはできるが、パン類のボリュームや内相に関する問題は解決することができなかった。
【0014】
よって、特許文献1~3に示されているような特定の素材を、低等級小麦粉や全粒粉小麦粉等の高灰分小麦粉を含むパン類生地やパン類に含有させることでは、上述の問題を解決できなかった。
【0015】
従って、本発明の課題は、以下の3点である。
1)高等級小麦粉のみを用いた場合と同等のボリュームがある、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供すること。
2)内相が良好な、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供すること。
3)食感が良好な、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、灰分含有量が特定量範囲である高灰分小麦粉を用いたパン類生地において、パン類生地に作用する速度の異なる、複数の特定素材を併用することで、ボリュームがあって、内相と食感が良好なパン類が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は下記の構成を有するものである。
(1)アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および油脂を含有する高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物。
(2)高灰分小麦粉が、低等級小麦粉、および全粒粉小麦粉から選ばれる1種以上である、(1)に記載の油脂組成物。
(3)油脂組成物中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量が20~650単位である、(1)または(2)に記載の油脂組成物。
(4)高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼを含む、高灰分小麦粉含有パン類生地。
(5)アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および油脂を含む油脂組成物を含有する、(4)に記載の高灰分小麦粉含有パン類生地。
(6)(4)または(5)に記載の高灰分小麦粉含有パン類生地の加熱処理品である、高灰分小麦粉含有パン類。
(7)以下の工程(1)~工程(3)を含む、高灰分小麦粉含有パン類生地の製造方法。
工程(1):澱粉類、酵母、および水を含む原材料を混合し、ドウを得る工程
工程(2):ドウを発酵させる工程
工程(3):発酵させたドウに、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼを含む原材料を混合する工程
(8)工程(3)において、原材料が、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼから選ばれる1種以上、並びに油脂を含有する油脂組成物を含む、(7)に記載の方法。
(9)高灰分小麦粉含有パン類生地にアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを添加する、高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法。
(10)高灰分小麦粉含有パン類生地に、(1)~(3)の何れかに記載の油脂組成物を添加する、高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の3点の効果を得ることができる。
1)高等級小麦粉のみを用いた場合と同等のボリュームのある、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供することができる。
2)内相が良好な、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供することができる。
3)食感が良好な、高灰分小麦粉を用いたパン類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例の検討1において製造した、コントロール、対照例1、および実施例1の食パンの外観及び内相を表す写真図である。
図2図2は、実施例の検討3において製造した、対照例2、実施例11、対照例3、および実施例12の食パンの外観及び内相を表す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は、以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【0021】
[高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物]
本発明の高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物(以下、単に「本発明の油脂組成物」と記載する。)は、高灰分小麦粉含有パン類用の油脂組成物であって、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼおよび油脂を含むものである。
【0022】
ここでまず、本発明における「高灰分小麦粉」とは、小麦粉類の中でも、灰分含有量が0.45質量%以上のものを指す。
【0023】
本発明における高灰分小麦粉としては、例えば、低等級小麦粉、末粉、全粒粉小麦粉が挙げられる。なお、本発明における低等級小麦粉とは、二等級小麦粉、または三等級小麦粉を指す。
【0024】
また、本発明における「高灰分小麦粉含有パン類」とは、生地に用いられる澱粉類中の高灰分小麦粉の含有量が10~100質量%であるパン類を指す。
【0025】
なお、高灰分小麦粉含有パン類や、その生地に用いられる高灰分小麦粉、澱粉類に占める高灰分小麦粉の含有量の好適な数値範囲等については後述する。
【0026】
<アスコルビン酸類>
本発明の油脂組成物は、アスコルビン酸類を含有する。
【0027】
本発明の油脂組成物に用いられるアスコルビン酸類としては、例えば、アスコルビン酸、デヒドロアスコルビン酸、およびこれらの金属塩ならびにこれらの誘導体が挙げられる。
【0028】
上記アスコルビン酸およびデヒドロアスコルビン酸の金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が挙げられる。また、アスコルビン酸およびデヒドロアスコルビン酸の誘導体としては、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸グリコシドが挙げられる。
【0029】
本発明の油脂組成物に用いられるアスコルビン酸類はD体であってもよく、L体であってもよく、DL体であってもよいが、L体であることが好ましい。
【0030】
本発明の油脂組成物においては、上記アスコルビン酸類の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができるが、これらの中でも、アスコルビン酸、アスコルビン酸の金属塩、アスコルビン酸の誘導体の中から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、アスコルビン酸、アスコルビン酸の金属塩の中から選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸の金属塩の中から選ばれる1種または2種以上を用いることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の油脂組成物においては、アスコルビン酸類として、市販されているアスコルビン酸類の製剤を用いてもよい。また、アスコルビン酸類の含有量が多い果実の果汁やその濃縮物および抽出物を用いてもよい。アスコルビン酸類の含有量が多い果実としては、例えば、アセロラ、レモン、カムカムが挙げられる。
【0032】
本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸類の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.15質量%以上または0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、6.0質量%以下であることが好ましく、5.5質量%以下または5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸類の含有量は、0.1~6.0質量%であることが好ましく、0.15~5.5質量%または0.2~5.0質量%であることがより好ましく、0.5~4.0質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の油脂組成物においては、アスコルビン酸類の含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものになりやすくなるため好ましい。アスコルビン酸類の含有量が上記好ましい範囲の上限値以下であると、高灰分小麦粉含有パン類生地が硬くなることを防ぎ、高灰分小麦粉含有パン類の内相や食感の悪化を防止しやすくなるため好ましい。
【0034】
<グルコースオキシダーゼ>
本発明の油脂組成物は、グルコースオキシダーゼを含有する。
【0035】
グルコースオキシダーゼとは、グルコースおよび酸素を基質として、グルコノラクトンと過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。
【0036】
本発明の油脂組成物に用いられるグルコースオキシダーゼの由来は特に制限されない。
【0037】
また、グルコースオキシダーゼとして、例えば、市販されているグルコースオキシダーゼ製剤を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。
【0038】
市販されているグルコースオキシダーゼ製剤としては、例えば、DSMフードスペシャリティーズ社(またはディー・エス・エムジャパン(株))の「ベイクザイムGo Pure BG」、「ベイクザイムGO1500」、「マキサパールGO4」、ダニスコジャパン(株)の「グリンドアミルS757」、「グリンドアミルS700」、新日本化学工業(株)の「スミチームGOP」、ノボザイムジャパン(株)の「グルザイム10000BG」、「グルザイムBG」、天野エンザイム(株)の「ハイデラーゼ」、「ハイデラーゼ15」、ナガセ生化学工業(株)の「グルコースオキシダーゼAN1」を挙げることができる。
【0039】
グルコースオキシダーゼの酵素活性は、例えば、定められた測定条件下で、3mgのグルコースをグルコン酸に酸化するのに必要な酵素量を1単位とする。
【0040】
具体的な酵素活性の測定は、グルコースおよび酸素を基質として35℃、pH5.1の条件下に15分間インキュベートし、グルコースオキシダーゼによる反応、即ち、該酸素の存在下で過酸化水素を生成しグルコースをグルコン酸に変換する反応を過剰の水酸化ナトリウムによって終了させ、生成したグルコン酸を中和する。過剰に残った水酸化ナトリウムを滴定すると、グルコースオキシダーゼ活性に反比例しているので、反応終了後の水酸化ナトリウムの余剰分を塩酸で逆滴定する。必要な塩酸量は、酵素なしのブランク・インキュベーションの塩酸量と比較し、生成したグルコン酸の量(つまり酸化されたグルコースの量)を直接測定する。
【0041】
本発明においてグルコースオキシダーゼの酵素活性をいうときは、特に記載した場合を除き、市販の「ベイクザイムGo Pure BG」(DSMフードスペシャリティーズ社)1gを3150単位と定義する。
【0042】
本発明の油脂組成物中のグルコースオキシダーゼの含有量は、本発明の油脂組成物100gに対して、25単位以上であることが好ましく、50単位以上であることがより好ましく、75単位以上であることがさらに好ましい。また、350単位以下であることが好ましく、300単位以下であることがより好ましく、250単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物中のグルコースオキシダーゼの含有量は、本発明の油脂組成物100gに対して、25~350単位であることが好ましく、50~300単位であることがより好ましく、75~250単位であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の油脂組成物においては、グルコースオキシダーゼの含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものになりやすく、内相と食感も良好なものになりやすくなるため好ましい。グルコースオキシダーゼの含有量が好ましい範囲の上限値以下であると、高灰分小麦粉含有パン類が膨らみにくくなることを防止し、ボリュームのあるものになりやすくなるため好ましい。
【0044】
本発明の油脂組成物を用いることで、ボリュームがあり、内相と食感が良好な高灰分小麦粉含有パン類が得られる理由については明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
アスコルビン酸類は、高灰分小麦粉含有パン類生地製造初期にすばやく生地に作用するため、高灰分小麦粉に含まれる外皮や小麦ふすまや胚芽等の夾雑物により、グルテン形成が阻害される前に、すばやくグルテンを形成できる。ここに、アスコルビン酸類よりもゆるやかに生地に作用するグルコースオキシダーゼが存在することで、形成されたグルテンを適度に強化することができる。よって、このように作用速度が異なる特定の素材を併用することで、生地中のグルテン形成が不十分になったり、過度にグルテンが強化されすぎて生地が伸びにくくなったりすることを抑制できるため、本発明の効果が得られているのだと推測している。
【0045】
本発明の油脂組成物においては、高灰分小麦粉含有パン類に用いることで、よりボリュームのある高灰分小麦粉含有パン類が得られやすくなるという観点や、高灰分小麦粉含有パン類の内相や食感が良好なものになりやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量は、20単位以上であることが好ましく、30単位以上であることがより好ましく、60単位以上であることがさらに好ましい。その上限は、650単位以下であることが好ましく、400単位以下であることがより好ましく、250単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量は、20~650単位であることが好ましく、30~400単位であることがより好ましく、60~250単位であることがさらに好ましい。
【0046】
<アミラーゼ類>
本発明の油脂組成物は、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、パサつきがなく食感が良好でソフトなものになりやすくなるという観点から、さらにアミラーゼ類を含有することが好ましい。
【0047】
アミラーゼ類は、澱粉等が有するグルコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、一般にその作用部位の違いによって、α-1,4グルコシド結合をランダムに切断するα-アミラーゼ、非還元性末端からマルトース単位で逐次分解するβ-アミラーゼ、同じくα-1,4グルコシド結合をグルコース単位で分解し、また、分岐点のα-1,6結合をも分解するグルコアミラーゼ等に分けられる。
【0048】
本発明のパン生地においては、上記アミラーゼ類の中から選ばれる1種または2種以上を含有することができ、これらの中でもα-アミラーゼ、β-アミラーゼから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましく、α-アミラーゼを含有することがより好ましい。
【0049】
また、本発明の油脂組成物においては、α-アミラーゼの中でも、マルトース生成α-アミラーゼであることが好ましい。マルトース生成α-アミラーゼとは、α-1,4グルコシド結合を切断してマルトースを生成する酵素である。
【0050】
本発明の油脂組成物においては、上記アミラーゼ類として、市販されているアミラーゼ類製剤を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。
【0051】
本発明の油脂組成物において、アミラーゼ類として最も好ましく用いられるマルトース生成α-アミラーゼの製剤としては、例えば、三菱化学フーズ社の「コクラーゼ(登録商標)」、Novozymes A/S(デンマーク)社の「Novamyl(登録商標;ノバミル)10000BG」、「Novamyl(登録商標)L」、「マルトゲナーゼ(登録商標)」、ダニスコジャパン社の「グリンドアミル(登録商標)MAX-LIFE100」が挙げられる。
【0052】
本発明の油脂組成物に用いられるアミラーゼ類の由来は特に制限されず、例えば、細菌、カビ、穀物が由来のものを用いることができる。
【0053】
本発明の油脂組成物に用いられるアミラーゼ類の至適温度は、60℃以上であることが好ましく、63~95℃又は65~95℃であることがより好ましく、70~90℃であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明の油脂組成物において、アミラーゼ類として最も好ましく用いられる、マルトース生成型α-アミラーゼの酵素活性は、例えば至適条件下において、マルトトリオースを基質に酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を指標とすることができる。本発明においてマルトース生成型アミラーゼの酵素活性は、該酵素量を1単位とする。マルトースの酵素活性の測定は、「還元糖の定量法第2版」(福井作蔵著、学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0055】
本発明の油脂組成物中のアミラーゼ類の含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、パサつきがなく食感がより良好でソフトなものとなるという観点から、本発明の油脂組成物100gに対して100単位以上であることが好ましく、200単位以上であることがより好ましく、250単位以上であることがさらに好ましい。また、1500単位以下であることが好ましく、1000単位以下であることがより好ましく、800単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物中のアミラーゼ類の含有量は、本発明の油脂組成物100gに対して、100~1500単位であることが好ましく、200~1000単位であることがより好ましく、250~800単位であることがさらに好ましい。
【0056】
<油脂>
本発明の油脂組成物に用いられる油脂は、食用であれば特に制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油、落花生油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の植物油脂や、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、ならびにこれら植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明の油脂組成物においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることができる。
【0057】
上記加工油脂を製造するための水素添加、分別およびエステル交換は、従前より知られた方法により行うことができ、これらの処理の後、精製を行ってもよい。
なお、分別については溶剤分別であってもよく、ドライ分別であってもよい。
エステル交換についてはリパーゼ等の酵素触媒を用いてもよく、ナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いてもよい。本発明においては、よりボリュームがあり、食感が良好なパン類が得られやすくなるという観点から、ランダムエステル交換であることが好ましい。
以下、本発明における加工油脂を製造するための水素添加、分別およびエステル交換についても同様である。
【0058】
高灰分小麦粉含有パン類が、よりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、内相や食感がより良好なものになりやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量は、60.0質量%以上であることが好ましく、65.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、99.8質量%以下であることが好ましく、99.0質量%以下であることがより好ましく、95.0質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量は、60.0~99.8質量%であることが好ましく、65.0~99.0質量%であることがより好ましく、70.0~95.0質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
なお、上記本発明の油脂組成物中の油脂の含有量は、後述の本発明の油脂組成物のその他の原材料に含まれる油脂も含めた値である。
【0060】
本発明の油脂組成物においては、本発明の油脂組成物が後述の25℃における固体脂含量(以下、単に「SFC-25℃」と記載する。)の好ましい数値範囲を満たすように、上記油脂の中から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることができる。
【0061】
<<SFC>>
本発明の油脂組成物は、SFC-25℃が、5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。その上限は、45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物のSFC-25℃は、5~45%であることが好ましく、8~40%であることがより好ましく、10~35%であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の油脂組成物が、上記SFC-25℃の好ましい数値範囲を満たしていると、高灰分小麦粉含有パン類生地の捏ね上げ温度付近である25℃において、適度に油脂結晶が存在するため、生地中に本発明の油脂組成物が含有されやすくなり、本発明の効果が得られやすくなるため好ましい。
【0063】
上記本発明の油脂組成物のSFC-25℃は、従前より知られた方法を用いて測定することができ、例えば、本発明の油脂組成物、あるいは本発明の油脂組成物の油相のみを、アステック株式会社製「SFC-2000R」を用いて、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)」に記載の方法を用いることで測定することができる。
【0064】
なお、本発明の油脂組成物を測定に用いた場合は、得られた測定値を油相量に換算した値をSFC-25℃とし、本発明の油脂組成物の油相のみを測定に用いた場合は、得られた測定値をそのままSFC-25℃とすることができる。
【0065】
<<比重>>
また、本発明の油脂組成物においては、好ましくは比重が下記好ましい数値範囲を満たすように、より好ましくは上述のSFC-25℃の好ましい数値範囲を満たしたうえで、比重が下記好ましい数値範囲を満たすように、上記油脂の中から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることができる。
本発明の油脂組成物の比重は、0.9以下であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。下限は、特に制限はないが、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物の比重は、0.4~0.9であることが好ましく、0.6~0.85であることがより好ましく、0.7~0.8であることがさらに好ましい。
【0066】
本発明の油脂組成物の比重が、上記好ましい数値範囲を満たしていると、高灰分小麦粉含有パン類生地中に本発明の油脂組成物を含有させやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られるようになるため好ましい。
【0067】
本発明の油脂組成物が、上述のSFC-25℃および比重の好ましい数値範囲を満たしやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物に用いられる油脂は、上述の油脂の中でも1種または2種以上のエステル交換油脂を含有することが好ましい。
【0068】
本発明の油脂組成物に用いられる油脂中のエステル交換油脂の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明の油脂組成物に用いられる油脂中のエステル交換油脂の含有量の上限値は100質量%である。
【0069】
また、本発明の油脂組成物においては、本発明の効果が得られやすくなるという観点から、エステル交換油脂の中でも、以下の条件を満たす、エステル交換油脂(A)とエステル交換油脂(B)とから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましく、エステル交換油脂(A)およびエステル交換油脂(B)の両方を含有することがより好ましい。
エステル交換油脂(A):パーム分別軟部油100質量%からなる油脂配合物のエステル交換油脂
エステル交換油脂(B):パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のエステル交換油脂
【0070】
<<エステル交換油脂(A)>>
本発明の油脂組成物に好ましく用いられるエステル交換油脂(A)(以下、単に「本発明のエステル交換油脂(A)」と記載する。)は、パーム分別軟部油100質量部からなる油脂配合物のエステル交換油脂である。
【0071】
本発明に用いられるパーム分別軟部油としては、例えば、パーム油を分別して得られる低融点部であるパームオレインや、パームオレインをさらに分別して得られる低融点部であるパームスーパーオレインが挙げられる。
【0072】
本発明のエステル交換油脂(A)は、上記1種または2種以上のパーム分別軟部油100質量%からなる油脂配合物をエステル交換することによって得られる。
【0073】
本発明のエステル交換油脂(A)は、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、食感が良好なものになりやすくなるという観点から、ヨウ素価が70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。その下限は、52以上であることが好ましい。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(A)のヨウ素価は、52~70であることが好ましく、52~65であることがより好ましく、52~60であることがさらに好ましい。
【0074】
上記油脂のヨウ素価の測定方法としては、従前より知られた方法を用いることができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.4.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。以下、本発明における油脂のヨウ素価の測定方法について同様である。
【0075】
本発明の油脂組成物が本発明のエステル交換油脂(A)を含有する場合、その含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものとなりやすくなるという観点や、食感が良好なものとなりやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物が含有する油脂中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(A)の含有量は、本発明の油脂組成物が含有する油脂中、20~100質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましく、40~80質量%であることがさらに好ましい。
【0076】
<<エステル交換油脂(B)>>
本発明の油脂組成物に好ましく用いられるエステル交換油脂(B)(以下、単に「本発明のエステル交換油脂(B)」と記載する。)は、パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のエステル交換油脂である。
【0077】
本発明に用いられるパーム極度硬化油とは、パーム油をヨウ素価が5以下、好ましくは3以下、より好ましくは1以下となるまで水素添加を行った油脂を指す。
【0078】
本発明のエステル交換油脂(B)は、パーム極度硬化油10~60質量%と、パーム極度硬化油以外の油脂40~90質量%とを合わせて100質量%とした油脂配合物をエステル交換することによって得られる。油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。その上限は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(B)を得るにあたり、油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは15~55質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0079】
本発明のエステル交換油脂(B)を製造するために用いられる、パーム極度硬化油以外の油脂としては、上記本発明の油脂組成物に用いることのできる油脂のうち、パーム極度硬化油以外の油脂から選ばれる1種または2種以上を用いることができ、これらの中でも、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ならびにこれらに水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した、パーム極度硬化油以外の加工油脂から選ばれる1種または2種以上であることが好ましく、パーム油、パーム分別硬部油、およびパーム核油から選ばれる1種または2種以上であることがより好ましく、パーム油、およびパーム核油から選ばれる1種または2種以上であることがさらに好ましい。
【0080】
本発明のエステル交換油脂(B)は、本発明の効果がより好適に発揮できるという観点から、ヨウ素価が45以下であることが好ましく、42以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましい。その下限は、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態においては、本発明のエステル交換油脂(B)のヨウ素価は、8~45であることが好ましく、10~42であることがより好ましく、12~40であることがさらに好ましい。
【0081】
本発明の油脂組成物が本発明のエステル交換油脂(B)を含有する場合、その含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、内相や食感が良好なものとなりやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物が含有する油脂中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、18質量%以上または20質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(B)の含有量は、本発明の油脂組成物が含有する油脂中、10~100質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがより好ましく、18~60質量%または20~60質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
本発明の油脂組成物がより高灰分小麦粉含有パン類生地に含有されやすくなって、本発明の効果がより好ましく得られやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物は、本発明のエステル交換油脂(B)の中でも特に、以下の条件を満たす、エステル交換油脂(B-i)とエステル交換油脂(B-ii)とから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましく、エステル交換油脂(B-i)とエステル交換油脂(B-ii)の両方を含有することがより好ましい。
【0083】
エステル交換油脂(B-i):パーム極度硬化油10~60質量%と、パーム油ならびにパーム油に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施したパーム極度硬化油以外の加工油脂40~90質量%とを合わせて100質量%とした油脂配合物のエステル交換油脂
エステル交換油脂(B-ii):パーム極度硬化油10~60質量%と、ラウリン系油脂40~90質量%とを合わせて100質量%とした油脂配合物のエステル交換油脂
【0084】
<<<エステル交換油脂(B-i)>>>
上記エステル交換油脂(B-i)の製造に用いられるパーム極度硬化油以外の加工油脂としては、パーム油ならびにパーム油に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施したパーム極度硬化油以外の加工油脂(以下、単に「パーム油ならびにパーム極度硬化油以外のパーム油の加工油脂」と記載する。)から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。パーム油ならびにパーム極度硬化油以外のパーム油の加工油脂としては、パーム油、およびパーム分別硬部油から選ばれる1種または2種以上が好ましく、パーム油がより好ましい。
【0085】
上記エステル交換油脂(B-i)の製造に用いられる油脂配合物は、パーム極度硬化油とパーム極度硬化油以外の加工油脂とをあわせて100質量%とした油脂配合物のエステル交換油脂である。
油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。その上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(B-i)の製造に用いられる油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~45質量%である。
油脂配合物中のパーム極度硬化油以外のパーム油の加工油脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。その上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(B-i)の製造に用いられる油脂配合物中のパーム極度硬化油以外のパーム油の加工油脂の含有量は、好ましくは50~80質量%、より好ましくは55~70質量%である。
【0086】
エステル交換油脂(B-i)のヨウ素価は、上述のエステル交換油脂(B)のヨウ素価の好ましい数値範囲を満たしていればよいが、本発明の効果をより好適に発揮する観点から、44以下であることが好ましく、41以下であることがより好ましく、38以下であることがさらに好ましい。その下限は、25以上であることが好ましく、28以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態においては、本発明のエステル交換油脂(B-i)のヨウ素価は、25~44であることが好ましく、28~41であることがより好ましく、30~38であることがさらに好ましい。
【0087】
本発明の油脂組成物においては、エステル交換油脂(B-i)を含有する場合、その含有量は、本発明の油脂組成物に用いられる油脂中5質量%以上であることが好ましい。その上限は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物においては、エステル交換油脂(B-i)の含有量は、5~50質量%であることが好ましく、5~45質量%であることがより好ましく、5~40質量%であることがさらに好ましい。
【0088】
<<<エステル交換油脂(B-ii)>>>
上記エステル交換油脂(B-ii)の製造に用いられるラウリン系油脂とは、構成脂肪酸残基中のラウリン酸残基の含有量が10質量%以上の油脂を指し、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~60質量%の油脂である。このような油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ならびにこれらに水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。
【0089】
上記エステル交換油脂(B-ii)においては、ラウリン系油脂としてこれらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができ、中でもパーム核油、ならびにパーム核油に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、パーム核油を用いることがより好ましい。
【0090】
上記エステル交換油脂(B-ii)の製造に用いられる油脂配合物は、パーム極度硬化油とラウリン系油脂とをあわせて100質量%とした油脂配合物のエステル交換油脂である。
油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。その上限は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。したがって、一実施形態において、油脂配合物中のパーム極度硬化油の含有量は、好ましくは15~55質量%、より好ましくは20~50質量%である。
油脂配合物中のラウリン系油脂の含有量は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。したがって、一実施形態において、油脂配合物中のラウリン系油脂の含有量は、好ましくは45~85質量%、より好ましくは50~80質量%である。
【0091】
エステル交換油脂(B-ii)のヨウ素価は、上述のエステル交換油脂(B)のヨウ素価の好ましい数値範囲を満たしていればよいが、本発明の効果をより好適に発揮する観点から、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。その下限は、9以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態においては、本発明のエステル交換油脂(B-ii)のヨウ素価は、9~25であることが好ましく、11~20であることがより好ましく、13~18であることがさらに好ましい。
【0092】
また、エステル交換油脂(B-ii)を含有する場合、その含有量は、本発明の油脂組成物に用いられる油脂中5質量%以上であることが好ましい。その上限は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、エステル交換油脂(B-ii)の含有量は、本発明の油脂組成物に用いられる油脂中、5~50質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0093】
本発明の油脂組成物は、エステル交換油脂(A)とエステル交換油脂(B)とから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましく、エステル交換油脂(A)およびエステル交換油脂(B)の両方を含有することがより好ましく、エステル交換油脂(A)、エステル交換油脂(B-i)、およびエステル交換油脂(B-ii)を含有することがさらにより好ましい。また、本発明の油脂組成物が含有する油脂としては、エステル交換油脂(A)およびエステル交換油脂(B)をあわせて100質量%とした配合油脂であることが好ましく、エステル交換油脂(A)、エステル交換油脂(B-i)、およびエステル交換油脂(B-ii)をあわせて100質量%とした配合油脂であることがより好ましい。
【0094】
また、本発明の油脂組成物が、本発明のエステル交換油脂(A)および本発明のエステル交換油脂(B)を含有する場合、それぞれの含有量は、本発明の油脂組成物が含有する油脂中、本発明のエステル交換油脂(A)20~90質量%と本発明のエステル交換油脂(B)10~80質量%であることが好ましく、本発明のエステル交換油脂(A)40~80質量%と本発明のエステル交換油脂(B)20~60質量%であることがより好ましい。
従って、本発明の油脂組成物に用いられる油脂における、好ましい一様態としては、本発明の油脂組成物に用いられる油脂中、本発明のエステル交換油脂(A)を40~80質量%、エステル交換油脂(B-i)を5~40質量%、エステル交換油脂(B-ii)を5~20質量%含有するものが挙げられる。
エステル交換油脂(A)、エステル交換油脂(B-i)、およびエステル交換油脂(B-ii)が上記数値範囲を満たすことにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0095】
<水分>
本発明の油脂組成物は、水分を含有してもよい。
【0096】
本発明が含有することのできる水分としては、例えば、水道水やミネラルウォーター等の水に加えて、後述の本発明の油脂組成物のその他の原材料に含まれる水分が挙げられる。
【0097】
本発明の油脂組成物中の水分の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の油脂組成物中の水分の含有量の下限値は0質量%である。これにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0098】
本発明の油脂組成物が水分を含有する場合は、本発明の油脂組成物は乳化油脂組成物であることが好ましい。
【0099】
本発明の油脂組成物が乳化油脂組成物である場合、その乳化形態は特に制限されず、例えば、油中水型や油中水中油型、油中油型等の、油相を連続相とする乳化形態であってもよく、水中油型や水中油中水型等の、水相を連続相とする乳化形態であってもよいが、これらの中でも油相を連続相とする乳化形態をとることが好ましく、油中水型の乳化形態をとることがより好ましい。
【0100】
<高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物のその他の原材料>
本発明の油脂組成物は、上述のアスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ類、油脂、および水分以外のその他の原材料(以下、単に「本発明の油脂組成物のその他の原材料」と記載する。)を含有してもよい。
【0101】
本発明の油脂組成物のその他の原材料としては、例えば、糖類、高甘味度甘味料、デキストリン、増粘安定剤、乳化剤、グルコースオキシダーゼとアミラーゼ類以外の酵素類、アスコルビン酸類以外の酸化剤や還元剤、食物繊維、塩味料、酸味料、全脂粉乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエイパウダー・脱脂濃縮乳・蛋白質濃縮ホエイ・発酵乳等の乳や乳製品、着色料、着香料、酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、動物蛋白、全卵・卵黄・卵白・酵素処理卵黄等の卵および卵加工品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、肉類、魚類、野菜類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0102】
本発明の油脂組成物中のその他の原材料の含有量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されないが、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。その他の原材料の下限値は0質量%である。
【0103】
上記糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等の糖アルコールが挙げられる。
【0104】
上記高甘味度甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリンが挙げられる。
【0105】
上記乳化剤としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、レシチン、リゾレシチンが挙げられる。
【0106】
<高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、最終的にアスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼが油脂組成物中に含有されるものであれば、従前より知られた油脂組成物の製造方法により製造することができる。
【0107】
本発明の油脂組成物の製造方法においては、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを油脂組成物中に含有させる方法は特に制限されず、例えば、アスコルビン酸類を添加した後にグルコースオキシダーゼを順に添加することもでき、グルコースオキシダーゼを添加した後にアスコルビン酸類を順に添加することもでき、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを同時に添加することもでき、別個に添加することもできる。同時に添加する場合は、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを事前に混合していてもよい。
【0108】
また、添加する際のアスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼのそれぞれの形態も特に制限されず、液体であってもよく、粉体であってもよい。
【0109】
そして、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有させるタイミングについても特に制限されず、例えば、本発明の油脂組成物が好ましい一様態である油中水型の乳化形態をとる場合は、油相や水相の調製時に、油相あるいは水相に、あるいはその両方に添加して含有させてもよく、油相と水相とを乳化後に添加して含有させてもよく、後述の冷却、好ましくは冷却可塑化後に添加して混合し、含有させてもよい。
【0110】
本発明の油脂組成物の製造方法においては、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼから選ばれる少なくとも1種以上を、冷却可塑化後に添加して混合し、含有させることが好ましく、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを、冷却可塑化後に添加して混合し、含有させることがより好ましい。
【0111】
本発明の油脂組成物の製造方法においては、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを、冷却可塑化後に添加して混合し含有させると、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼが本発明の油脂組成物中に、粒径が粗い状態で存在することになる。これにより、高灰分小麦粉含有パン類に用いた際に、本発明の油脂組成物中のアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼが生地に作用しやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られるようになる。
【0112】
以下に、本発明の油脂組成物が、好ましい一様態である油中水型の乳化形態をとる場合の製造方法を示す。
【0113】
まず、加熱融解させた油脂に、必要に応じてその他の原材料を加えて混合し、溶解あるいは分散させて油相を得る。次に、好ましくは加熱した水に、必要に応じてその他の原材料を加えて混合し、溶解あるいは分散させて水相を得る。
【0114】
得られた上記油相に上記水相を加えて乳化し、油中水型の乳化形態をとる乳化物を得る。
【0115】
得られた油中水型の乳化形態をとる乳化物は、均質化してもよい。また、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理を施してもよく、あるいは直火等の加熱調理により加熱してもよい。また、加熱滅菌処理もしくは加熱殺菌処理、あるいは加熱後に必要に応じて再度均質化してもよく、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行ってもよい。
【0116】
次に、油中水型の乳化形態をとる乳化物を冷却、好ましくは急冷可塑化する。その後、冷却、好ましくは冷却可塑化した油中水型の乳化形態をとる乳化物に、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼ、好ましくは、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、およびアミラーゼ類、必要に応じてその他の酵素類を添加して混合し、本発明の油脂組成物を製造することができる。
【0117】
なお、上記冷却は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機や、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせにより行うことができる。
【0118】
上記可塑化は、例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で捏和することにより行うことができる。
【0119】
冷却の速度は、急冷であってもよく、緩慢な冷却であってもよいが、急冷であることが好ましい。本発明における急冷とは、1℃/分以上の冷却速度での冷却を指し、緩慢な冷却とは、1℃/分未満の冷却速度での冷却を指す。
本発明の油脂組成物は、可塑性を有することが好ましい。
【0120】
また、本発明の油脂組成物は、高灰分小麦粉含有パン類生地中に含有させやすくなり、本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、比重が0.9以下であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。下限は、特に制限はないが、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の油脂組成物の比重は、0.4~0.9であることが好ましく、0.6~0.85であることがより好ましく、0.7~0.8であることがさらに好ましい。
【0121】
本発明の油脂組成物の比重を上記好ましい数値範囲とする方法は特に制限されず、本発明の油脂組成物の製造工程における任意のタイミングで行ってよいが、例えば、油脂組成物にエアレーションにより気体を注入する方法や、連続式の含気装置を用いて、気体を乳化物または油脂組成物に連続的に注入する方法が挙げられる。本発明の油脂組成物の製造方法においては、急冷可塑化の工程で油脂組成物に含気させ、混和することが好ましい。
【0122】
本発明の油脂組成物が含む気体としては、例えば、空気や窒素、二酸化炭素が挙げられる。
【0123】
上記本発明の油脂組成物の比重の測定方法としては、従前より知られた測定方法を用いることができ、例えば、一定容積の計量カップに本発明の油脂組成物を充填し、該カップ中の本発明の油脂組成物の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して算出する方法が挙げられる。なお、本発明の油脂組成物における比重は、25℃において測定するものとする。
【0124】
<用途>
本発明の油脂組成物は、高灰分小麦粉含有パン類用として用いられるものである。
【0125】
本発明の油脂組成物は、高灰分小麦粉含有パン類生地に含有させて用いることで、得られる高灰分小麦粉含有パン類を、特等級小麦粉や一等級小麦粉等の高等級小麦粉のみを用いたパン類と同等あるいはそれ以上のボリュームにすることができる。また、大きな穴がなくきめ細かい良好な内相にすることができる。さらに、パサついたり、重く詰まった食感のない、良好な食感にすることができる。
【0126】
本発明の油脂組成物は特に、低等級小麦粉、全粒粉小麦粉から選ばれる1種以上を含むパン類用であることが好ましい。
【0127】
また、本発明の油脂組成物は、練込用油脂組成物として用いることもでき、折込用油脂組成物として用いることもできるが、本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、練込用油脂組成物であることが好ましい。
【0128】
[高灰分小麦粉含有パン類生地]
次に、本発明の高灰分小麦粉含有パン類生地について説明する。
【0129】
本発明の高灰分小麦粉含有パン類生地(以下、単に「本発明のパン類生地」と記載する。)は、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼを含有するものである。本発明の高灰分小麦粉含有パン類生地は、好ましくはアスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼおよび油脂を含む油脂組成物を含有するパン類生地であり、該油脂組成物の詳細は、上述の[高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物]欄にて説明したとおりである。
【0130】
本発明の高灰分小麦粉含有パン類生地から製造される高灰分小麦粉含有パン類は、高等級小麦粉のみを用いたパン類と同等かそれ以上のボリュームとなり、内相や食感が良好なものとなるという特徴を有する。
【0131】
本発明のパン類生地の種類としては、特に制限されず、例えば、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地が挙げられる。
【0132】
本発明のパン類生地においては、これらの中でも、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、フランスパン生地であることが好ましい。
【0133】
<高灰分小麦粉>
まず、本発明のパン類生地が含有する高灰分小麦粉について説明する。
【0134】
本発明のパン類生地に用いられる高灰分小麦粉とは、灰分含有量が0.45質量%以上である小麦粉類である。本発明のパン類生地においては、高灰分小麦粉の灰分含有量は、0.45質量%以上であることが好ましく、0.46質量%以上であることがより好ましく、0.48質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましく、1.6質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地における、高灰分小麦粉の灰分含有量は、0.45~2.0質量%であることが好ましく、0.46~1.8質量%であることがより好ましく、0.48~1.6質量%であることがさらに好ましい。高灰分小麦粉の灰分含有量が上記数値範囲を満たすことにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0135】
本発明のパン生地に用いられる高灰分小麦粉としては、例えば、低等級小麦粉、末粉、全粒粉小麦粉が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができるが、本発明のパン類生地においては、高灰分小麦粉として、低等級小麦粉、全粒粉小麦粉から選ばれる1種または2種のみを用いることが好ましい。
【0136】
すなわち、本発明のパン類生地は、低等級小麦粉、全粒粉小麦粉から選ばれる1種以上を含むパン類生地であることが好ましい。
【0137】
また、本発明のパン類生地は、高灰分小麦粉以外の澱粉類を含有してもよい。
【0138】
本発明のパン類生地に用いることのできる高灰分小麦粉以外の澱粉類としては、例えば、高等級小麦粉等の、高灰分小麦粉以外の小麦粉類、小麦ふすま、胚芽、ライ麦粉、大麦粉、米粉、その他の穀粉類や、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉や、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉や、これらの澱粉に対して酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などの中から選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工澱粉が挙げられる。本発明のパン類生地は、これらの中から選ばれる1種または2種以上の高灰分小麦粉以外の澱粉類を用いることができる。
【0139】
本発明のパン類生地においては、高灰分小麦粉以外の澱粉類を含有する場合は、これらの中でも、高灰分小麦粉以外の小麦粉類、小麦ふすま、胚芽から選ばれる1種または2種を用いることが好ましく、高灰分小麦粉以外小麦粉類を用いることがより好ましい。
【0140】
本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉の含有量は、用いる高灰分小麦粉の種類によっても異なるが、例えば、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。その上限は、好ましくは100質量%である。すなわち、一実施形態において、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉の含有量は、5~100質量%であることが好ましく、15~100質量%であることがより好ましく、20~100質量%であることがさらに好ましい。
【0141】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉のみを用いる場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める低等級小麦粉の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%である。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める低等級小麦粉の含有量は、10~100質量%であることが好ましく、30~100質量%であることがより好ましく、50~100質量%であることがさらに好ましい。
【0142】
また、高灰分小麦粉として全粒粉小麦粉のみを用いる場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める全粒粉小麦粉の含有量は、10質量%以上好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下または70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める全粒粉小麦粉の含有量は、10~100質量%であることが好ましく、20~80質量%または20~70質量%であることがより好ましく、25~50質量%であることがさらに好ましい。
【0143】
また、低等級小麦粉と全粒粉小麦粉とを併用し、高灰分小麦粉としてこれらの小麦粉のみを用いる場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める低等級小麦粉および全粒粉小麦粉の含有量は、低等級小麦粉10~90質量%、全粒粉小麦粉10~90質量%であることが好ましく、低等級小麦粉25~80質量%、全粒粉小麦粉20~75質量%であることがより好ましい。
【0144】
なお、「本発明のパン類生地に用いられる澱粉類」とは、本発明のパン類生地中の高灰分小麦粉および高灰分小麦粉以外の澱粉類を指す。以下、本発明において同様である。
【0145】
本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、本発明のパン類生地に用いられている高灰分小麦粉の種類によっても異なるが、例えば、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。その下限は、0質量%である。
【0146】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉のみを用いた場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。その下限は、0質量%である。
【0147】
また、高灰分小麦粉として全粒粉小麦粉のみを用いた場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、20~80質量%または30~80質量%であることがより好ましく、50~75質量%であることがさらに好ましい。
【0148】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉と全粒粉小麦粉とを併用した場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。その下限は、0質量%である。
【0149】
本発明のパン類生地においては、小麦粉類の含有量は、用いられる澱粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち全量である。
【0150】
<アスコルビン酸類>
次に、本発明のパン類生地が含有するアスコルビン酸類について説明する。
【0151】
本発明のパン類生地に用いられるアスコルビン酸類の好ましい態様については、上述の本発明の油脂組成物に用いられるアスコルビン酸類のとおりである。
【0152】
本発明のパン類生地中のアスコルビン酸類の含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものとなりやすいという観点や、内相や食感が良好なものとなりやすいという観点から、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、0.005質量部以上または0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上または0.05質量部以上であることがさらに好ましい。また、0.3質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地中のアスコルビン酸類の含有量は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、0.005~0.3質量部または0.01~0.3質量部であることが好ましく、0.03~0.25質量部であることがより好ましく、0.04質量部以上または0.05~0.2質量部であることがさらに好ましい。
【0153】
<グルコースオキシダーゼ>
次に、本発明のパン類生地が含有するグルコースオキシダーゼについて説明する。
【0154】
本発明のパン類生地に用いられるグルコースオキシダーゼの好ましい態様については、上述の本発明の油脂組成物に用いられるグルコースオキシダーゼのとおりである。
【0155】
本発明のパン類生地中のグルコースオキシダーゼの含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものとなりやすいという観点や、内相や食感が良好なものとなりやすいという観点から、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100gに対して、1単位以上であることが好ましく、2単位以上であることがより好ましく、3単位以上であることがさらに好ましい。また、17.5単位以下であることが好ましく、15単位以下であることがより好ましく、12.5単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地中のグルコースオキシダーゼの含有量は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100gに対して、1~17.5単位であることが好ましく、2~15単位であることがより好ましく、3~12.5単位であることがさらに好ましい。
【0156】
また、本発明のパン類生地においては、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすいという観点や、より良好な食感となりやすいという観点から、本発明のパン類生地中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量は、20単位以上であることが好ましく、30単位以上であることがより好ましく、60単位以上であることがさらに好ましい。その上限は、650単位以下であることが好ましく、400単位以下であることがより好ましく、250単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地中のアスコルビン酸類1質量部に対するグルコースオキシダーゼの含有量は、20~650単位であることが好ましく、30~400単位であることがより好ましく、60~250単位であることがさらに好ましい。
【0157】
<アミラーゼ類>
本発明のパン類生地は、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、パサつきがなく食感が良好でソフトなものになりやすいという観点から、上記アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼに加えて、アミラーゼ類を含有することが好ましい。
【0158】
本発明のパン類生地に用いられるアミラーゼ類の好ましい態様については、上述の本発明の油脂組成物に用いられるアミラーゼ類の通りである。
【0159】
本発明のパン類生地中のアミラーゼ類の含有量は、高灰分小麦粉含有パン類がよりボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、パサつきがなく食感がより良好でソフトなものになりやすくなるという観点から、本発明のパン類に用いられる澱粉類100gに対して、5単位以上であることが好ましく、7単位以上であることがより好ましく、10単位以上であることがさらに好ましい。また、50単位以下であることが好ましく、45単位以下であることがより好ましく、40単位以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地中のアミラーゼ類の含有量は、本発明のパン類に用いられる澱粉類100gに対して、5~50単位であることが好ましく、7~45単位であることがより好ましく、10~40単位であることがさらに好ましい。
【0160】
<油脂>
本発明のパン類生地は、高灰分小麦粉含有パン類がボリュームのあるものになりやすくなるという観点や、内相や食感が良好なものとなりやすいという観点から、油脂を含有することが好ましい。
【0161】
本発明のパン類生地が含有する油脂としては、食用であれば特に制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油、落花生油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の植物油脂や、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、ならびにこれら植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの中から選ばれる1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、本発明のパン類生地は、例えば、ショートニングやマーガリン等の油脂組成物の形態で油脂を含有させることもできる。
【0162】
本発明のパン類生地においては、パン類生地中に油脂を含有させやすくなるという観点から、油脂組成物の形態で油脂を含有させることが好ましい。
【0163】
本発明のパン類生地に用いられる油脂組成物は特に制限されず、例えば、ショートニングのような水分を含有しない油脂組成物であってもよく、油相を連続相とする乳化形態をとる乳化油脂組成物であってもよく、水相を連続相とする乳化形態をとる乳化油脂組成物であってもよいが、本発明のパン類生地においては、水分を含有しない油脂組成物、あるいは油相を連続相とする乳化形態をとる油脂組成物を用いることが好ましく、油相を連続相とする乳化形態をとる油脂組成物を用いることがより好ましく、油中水型の乳化形態をとる油脂組成物を用いることがさらに好ましい。
【0164】
また、本発明のパン類生地に用いられる油脂組成物は、可塑性を有する油脂組成物であることが好ましい。
【0165】
特に、アスコルビン酸類やグルコースオキシダーゼを本発明のパン類生地中に良好に分散させることができ、本発明の効果がより好ましく得られるようになるという観点から、本発明のパン類生地は、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼから選ばれる1種または2種以上を含む油脂組成物を含有することがより好ましく、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物を含有することがさらに好ましい。
【0166】
上記本発明のパン類生地が含有する、最も好ましい一様態である、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物は、上述の本発明の油脂組成物である。
【0167】
本発明のパン類生地中の油脂の含有量は、本発明のパン類生地の種類によっても異なるが、例えば、食パン生地である場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、30.0質量部以下であることが好ましく、20.0質量部以下であることがより好ましく、15.0質量部以下であることがさらに好ましい。また、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類生地中の油脂の含有量は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、0.5~30.0質量部であることが好ましく、1.0~20.0質量部であることがより好ましく、1.5~15.0質量部であることがさらに好ましい。
【0168】
なお、上記本発明のパン類生地中の油脂の含有量は、上述の油脂に加えて、後述の本発明のパン生地のその他の原材料に油脂が含まれる場合、その量も含めた値とする。
【0169】
<本発明のパン類生地のその他の原材料>
本発明のパン類生地は、上述のアスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ類、油脂や油脂組成物以外の、本発明のパン類生地のその他の原材料を含有することができる。
【0170】
本発明のパン類生地のその他の原材料としては、例えば、水、酵母(イースト)、イーストフード、ベーキングパウダー、糖類、高甘味度甘味料、デキストリン、増粘安定剤、乳化剤、グルコースオキシダーゼおよびアミラーゼ類以外の酵素類、酸化剤や還元剤、食物繊維、塩味料(例、食塩)、酸味料、乳や乳製品、着色料、着香料、酸化防止剤、植物蛋白、動物蛋白、卵および卵加工品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、肉類、魚類、野菜類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。より具体的には、上述の本発明の油脂組成物のその他の原材料で挙げたものを用いることができる。
【0171】
上記本発明のパン類生地のその他の原材料の中でも、水については、本発明のパン類生地の種類によっても異なるが、例えば、本発明のパン類生地が食パン生地である場合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20質量部以上含有することが好ましく、30質量部以上含有することがより好ましい。また、100質量部以下含有することが好ましく、90質量部以下含有することがより好ましい。
【0172】
また、水以外の本発明のパン類生地のその他の原材料の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されないが、例えば、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0173】
なお、上記水の含有量は、本発明のパン類生地中に含まれる水の他に、上述の油脂組成物や、水以外の本発明のパン類生地のその他の原材料に含まれる水分も含めた値とする。
【0174】
また、本発明のパン類生地は、バイタルグルテンを用いずとも、ボリュームがあり、内相と食感が良好な高灰分小麦粉含有パン類を得ることができるという特徴を有する。よって、本発明のパン類生地においては、バイタルグルテンを実質的に含有しないことが好ましい。
【0175】
バイタルグルテンとは、生のグルテンの活性を損なわないように、乾燥し粉末状にしたグルテンであり、活性グルテンとも呼ばれる。具体的には、小麦蛋白質であるグリアジンとグルテニンとの複合体を主な構成成分とし、その総蛋白含有量が、典型的には60~95質量%であり、より典型的には65~90質量%であり、さらに典型的には70~85質量%である小麦蛋白質含有物である。
【0176】
なお、本発明における「実質的にバイタルグルテンを含まない」とは、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、バイタルグルテンの含有量が1質量部以下であることを指し、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0質量部である。
【0177】
<高灰分小麦粉含有パン類生地の製造方法>
次に、本発明のパン類生地の製造方法について説明する。
【0178】
本発明のパン類生地の製造方法は、パン類生地の原材料として、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼを含んでいれば、従前より知られたパン生地の製造方法を用いることができ、例えば、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法が挙げられ、これらの中でも、中種法、直捏法で製造することが好ましく、中種法で製造することがより好ましい。これらの方法を用いて製造することで、ボリュームがあり、内相や食感が良好な高灰分小麦粉含有パン類が得られやすくなる。
【0179】
本発明のパン類生地の製造方法において、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有させる方法は特に制限されず、例えば、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼを順次、別個に添加することができ、粉末状のアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを事前に混合してから添加することもでき、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む水溶液を添加することもでき、上述のように油脂組成物の形態で含有させることもできる。
【0180】
また、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有させるタイミングは任意のタイミングで行ってよく、例えば、最初にアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼ以外のパン類生地の原材料と混合して含有させてもよく、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼ以外のパン類生地の原材料を混捏してから含有させてもよく、製造後のパン類生地に混合して含有させてもよい。また、中種法で製造する場合は、中種生地に含有させてもよく、本捏生地に含有させてもよく、中種生地と本捏生地の両方に含有させてもよいが、本発明のパン類生地の製造方法においては、本捏生地に含有させることが好ましい。
【0181】
また、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼは、パン類生地に同じタイミングで含有させてもよく、別々のタイミングで含有させてもよいが、本発明の効果が好ましく得られるようになるという観点から、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを同じタイミングで含有させる、もしくは、アスコルビン酸類をグルコースオキシダーゼよりも先に含有させることが好ましい。
【0182】
従って、本発明のパン類生地の製造方法における好ましい一様態としては、以下の工程(1)~工程(3)を含む製造方法が挙げられる。
工程(1):澱粉類、酵母、および水を含む原材料を混合し、ドウを得る工程
工程(2):ドウを発酵させる工程
工程(3):発酵させたドウに、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼを含む原材料を混合する工程
【0183】
<<工程(1)>>
工程(1)において、澱粉類、酵母、および水を含む原材料を混合し、ドウを得る。
【0184】
工程(1)においては、澱粉類として、高灰分小麦粉、および高灰分小麦粉以外の澱粉類から選ばれる1種以上の澱粉類が用いられる。工程(1)においては、本発明のパン類生地に用いられる高灰分小麦粉中80質量%以下または70質量%以下の高灰分小麦粉を用いることが好ましい。工程(1)で用いられる澱粉類の高灰分小麦粉の含有量の下限値は0質量%である。
【0185】
また、工程(1)で用いられる澱粉類の割合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類中50~90質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。
【0186】
<<工程(2)>>
工程(2)は、ドウを発酵させる工程である。
【0187】
具体的には、工程(1)得られたドウを発酵させる工程である。
【0188】
工程(2)における発酵の条件は、本発明のパン類生地の種類によっても異なるが、一般的なパン類生地の製造に用いられる条件とすることができる。例えば、本発明のパン類生地の種類が食パン生地であった場合は、発酵させる際の温度は好ましくは20~30℃であり、発酵させる際の湿度は好ましくは相対湿度で70~90%であり、発酵時間は好ましくは60分~4時間である。
【0189】
<<工程(3)>>
工程(3)は、発酵させたドウ(すなわち、中種生地)に、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼを含む原材料を混合する工程である。
【0190】
具体的には、工程(2)で発酵させたドウに、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼと、好ましくはアミラーゼ類、油脂、必要に応じて、高灰分小麦粉以外の澱粉類や、本発明のパン類生地のその他の原材料とを加えて混合し、本発明のパン類生地を得る工程である。
【0191】
工程(3)においては、本発明のパン類生地に用いられる高灰分小麦粉のうち、好ましくは20質量%または30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは全量を、工程(3)で用いる。なお、工程(3)でパン類生地に含有させなかった高灰分小麦粉が存在する場合は、工程(1)で含有させることができる。
【0192】
また、工程(3)で用いられる澱粉類の割合は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類中10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0193】
また、工程(3)においては、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼが、油脂とともにパン類生地中に良好に分散しやすくなり、本発明の効果が好ましく得られるようになるという観点から、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼから選ばれる1種以上を油脂組成物の形態で含有させることが好ましく、斯かる態様において、工程(3)における原材料は、アスコルビン酸類、およびグルコースオキシダーゼから選ばれる1種以上、並びに油脂を含有する油脂組成物を含む。中でも、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを油脂組成物の形態で含有させることがより好ましく、斯かる態様において、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物は、上述の本発明の油脂組成物である。
【0194】
本発明のパン類生地の製造方法において、油脂組成物を含有させる場合は、その方法は特に制限されず、例えば、練り込んで含有させることができ、折り込んで含有させることもできるが、本発明のパン類生地の製造方法においては、練り込んで含有させることが好ましい。この際、油脂組成物以外の原料の添加前に油脂組成物を添加してもよく、油脂組成物以外の原料と共に油脂組成物を添加してもよく、油脂組成物以外の原料を添加した後に油脂組成物を添加してもよいが、油脂組成物以外の原料を添加した後に油脂組成物を添加することが好ましい。
【0195】
本発明のパン類生地の製造方法においては、本発明のパン類生地中のアスコルビン酸類のうち、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは全量を、油脂組成物の形態で含有させる。
【0196】
同様に、本発明のパン類生地中のグルコースオキシダーゼのうち、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは全量を、油脂組成物の形態で含有させる。
【0197】
すなわち、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼは、上述の、本発明の高灰分小麦粉含有パン類用油脂組成物の形態で含有させることが好ましい。
【0198】
なお、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼのうち、油脂組成物の形態で含有させないものが存在する場合は、工程(1)でパン類生地に含有させてもよく、工程(3)で油脂組成物と別個でパン類生地に含有させてもよいが、工程(3)で油脂組成物と別個でパン類生地に含有させることが好ましい。
【0199】
本発明のパン類生地の製造方法により得られる本発明のパン類生地や、本発明のパン類生地の製造方法に用いられる澱粉類、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、油脂や油脂組成物、パン類生地のその他の原材料等については、その好適な態様も含め、上述のとおりである。
【0200】
また、本発明のパン類生地の製造方法においては、一般的なパン類生地の製造方法で行われる、フロアタイム、分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ等を任意に行ってもよい。
【0201】
また、本発明のパン類生地の製造方法により得られたパン類生地は、冷蔵保存してもよく、冷凍保存してもよい。
【0202】
[高灰分小麦粉含有パン類]
次に、本発明の高灰分小麦粉含有パン類(以下、単に「本発明のパン類」と記載する。)について説明する。
【0203】
本発明のパン類は、本発明のパン類生地の加熱処理品である。
【0204】
本発明のパン類は、高灰分小麦粉を含有していても、高等級小麦粉のみを用いたパン類と同等かそれ以上のボリュームであり、内相や食感が良好なものであるという特徴を有する。
【0205】
本発明のパン類においては、低等級小麦粉、全粒粉小麦粉から選ばれる少なくとも1種以上を含むパン類であることが好ましい。
【0206】
本発明のパン類を得るための加熱処理の方法としては、例えば、焼成、蒸し、蒸し焼き、フライ、電子レンジによる加熱が挙げられる。
【0207】
加熱処理の条件は特に制限されず、加熱処理の方法や、本発明のパン類生地の種類によっても異なるが、例えば、本発明のパン類生地が食パン生地であり、加熱処理が焼成である場合は、120~250℃で10~40分間加熱処理することが好ましい。
【0208】
本発明のパン類の種類としては特に制限されないが、例えば、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、デニッシュ、ペストリー、フランスパンが挙げられ、これらの中でも、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、またはフランスパンであることが好ましい。
【0209】
<高灰分小麦粉>
本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉の含有量は、含有する高灰分小麦粉の種類によっても異なるが、例えば、5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%である。したがって、一実施形態において、本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉の含有量は、5~100質量%であることが好ましく、15~100質量%であることがより好ましく、20~100質量%であることがさらに好ましい。これにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0210】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉のみを含有する場合は、本発明のパン類中の澱粉類に占める低等級小麦粉の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%である。したがって、一実施形態において、本発明のパン類中の澱粉類に占める低等級小麦粉の含有量は、10~100質量%であることが好ましく、30~100質量%であることがより好ましく、50~100質量%であることがさらに好ましい。
【0211】
また、高灰分小麦粉として全粒粉小麦粉のみを含有する場合は、本発明のパン類中の澱粉類に占める全粒粉小麦粉の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、100質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のパン類中の澱粉類に占める全粒粉小麦粉の含有量は、10~100質量%であることが好ましく、20~70質量%であることがより好ましく、25~50質量%であることがさらに好ましい。
【0212】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉および全粒粉小麦粉のみを含有する場合は、低等級小麦粉が10~90質量%、全粒粉小麦粉が10~90質量%であることが好ましく、低等級小麦粉が25~80質量%、全粒粉小麦粉が20~75質量%であることがより好ましい。
【0213】
また、本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、含有する高灰分小麦粉の種類によっても異なるが、例えば、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。これにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0214】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉のみを含有する場合は、本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0215】
また、高灰分小麦粉として全粒粉小麦粉のみを含有する場合は、本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、50~75質量%であることがさらに好ましい。
【0216】
また、高灰分小麦粉として低等級小麦粉および全粒粉小麦粉の両方を含有する場合は、本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。
【0217】
なお、上記本発明のパン類中の澱粉類に占める高灰分小麦粉以外の澱粉類の含有量の下限値は0質量%である。
【0218】
[高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法]
次に、本発明の高灰分小麦粉含有パン類の品質改良方法(以下、単に「本発明の品質改良方法」ともいう。)について説明する。
【0219】
本発明の品質改良方法は、高灰分小麦粉含有パン類生地に、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを添加することを特徴とするものである。
【0220】
本発明の品質改良方法によれば、高灰分小麦粉含有パン類の品質を改良することができる。
【0221】
具体的には、高灰分小麦粉含有パン類のボリュームを、高等級小麦粉のみを用いたパン類と同等かそれ以上のボリュームに改良することができる。あるいは、高灰分小麦粉含有パン類の内相を、大きな穴のないきめ細かい良好な内相に改良することができる。あるいは、高灰分小麦粉含有パン類の食感を、パサつきや重い詰まった食感がない、良好な食感に改良することができる。また、本発明の高灰分小麦粉含有パン類の改良方法によれば、これらの改良効果を複数得ることもできる。
【0222】
本発明の品質改良方法における、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを添加するタイミングは特に制限されず、高灰分小麦粉含有パン類生地の製造工程の任意のタイミングで添加してもよく、出来上がった高灰分小麦粉含有パン類生地に添加してもよいが、高灰分小麦粉含有パン類生地の製造工程の任意のタイミングで添加することが好ましい。
【0223】
また、本発明の品質改良方法における、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを添加する方法は特に制限されず、例えば、アスコルビン酸類を添加した後にグルコースオキシダーゼを順に添加することもでき、グルコースオキシダーゼを添加した後にアスコルビン酸類を順に添加することもでき、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを同時に添加することもでき、別個に添加することもできる。同時に添加する場合は、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを事前に混合していてもよい。
【0224】
また、添加する際のアスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼの形態も特に制限されず、液体であってもよく、粉末であってもよく、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物の形態で添加することもできる。
【0225】
本発明の品質改良方法においては、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼをより高灰分小麦粉含有パン類生地に好ましく作用させることができ、本発明の効果が好ましく得られるようになるという観点から、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物の形態で添加することが好ましい。
アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含む油脂組成物の形態でパン生地に添加する場合は、上述の本発明の油脂組成物を用いることが好ましい。したがって好適な一実施形態において、本発明の品質改良方法は、高灰分小麦粉含有パン類生地に、本発明の油脂組成物を添加することを含む。
【0226】
また、本発明の品質改良方法は、低等級小麦粉、全粒粉小麦粉から選ばれる1種以上を含むパン類の品質改良方法であることが好ましい。
【0227】
本発明の品質改良方法における、澱粉類、高灰分小麦粉、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、および本発明のパン類の品質改良方法により得られるパン生地やパン類における、好適な態様は上述のとおりである。
【実施例0228】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0229】
[使用した原材料]
<澱粉類>
高等級小麦粉:一等級小麦粉である、カメリア(日清製粉(株)製:灰分含有量0.37質量%)を用いた。
低等級小麦粉:二等級小麦粉である、オーション(日清製粉(株)製:灰分含有量0.50質量%)を用いた。本発明における高灰分小麦粉にあたる。
全粒粉小麦粉:スーパーファインハード(日清製粉(株)製:灰分含有量1.50質量%)を用いた。本発明における高灰分小麦粉にあたる。
【0230】
<アスコルビン酸類・酵素類>
アスコルビン酸類:L-アスコルビン酸を用いた。
グルコースオキシダーゼ:ベイクザイムGo Pure BG(DSMフードスペシャリティーズ社製:酵素活性3150単位/g)を用いた。
アミラーゼ類:Novamyl(登録商標)10000BG(Novozymes A/S(デンマーク)社製:マルトース生成α-アミラーゼ:酵素活性10000単位/g、至適温度65~85℃)を用いた。
【0231】
<油脂>
下記エステル交換油脂(I)~(III)
パーム油
パーム核油:構成脂肪酸残基中のラウリン酸残基の含有量が50質量%であるものを用いた。
【0232】
[エステル交換油脂の製造]
<エステル交換油脂(I)>
ヨウ素価が56であるパーム分別軟部油100質量部からなる油脂配合物を、ナトリウムメトキシドを用いてランダムエステル交換し、ヨウ素価が56であるエステル交換油脂(I)を得た。
エステル交換油脂(I)は、上述の本発明の「エステル交換油脂(A)」にあたる。
【0233】
<エステル交換油脂(II)>
エステル交換油脂(I)の製造における油脂配合物を、パーム油65質量部と、パーム油をヨウ素価1まで水素添加して得られたパーム極度硬化油35質量部とからなる油脂配合物とした以外は、エステル交換油脂(I)と同様の製造方法により、ヨウ素価が35であるエステル交換油脂(II)を得た。
エステル交換油脂(II)は、上述の本発明の「エステル交換油脂(B)」にあたり、特に上述のエステル交換油脂(B-i)にあたる。
【0234】
<エステル交換油脂(III)>
エステル交換油脂(I)の製造における油脂配合物を、パーム核油75質量部と、パーム油をヨウ素価1まで水素添加して得られたパーム極度硬化油25質量部とからなる油脂配合物とした以外は、エステル交換油脂(I)と同様の製造方法により、ヨウ素価が15であるエステル交換油脂(III)を得た。
エステル交換油脂(III)は、上述の本発明の「エステル交換油脂(B)」にあたり、特に上述の「エステル交換油脂(B-ii)」にあたる。
【0235】
[検討1:本発明の油脂組成物について]
まず、本発明の油脂組成物による効果、特に、本発明の油脂組成物が含有するアスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼによる効果について検討を行った。
【0236】
検討1においては、表1に記載の配合に則り、下記の油脂組成物の製造方法により得られた油脂組成物(1)~(6)、あるいはショートニング(プレミアムショートCF:株式会社ADEKA製;アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼ未含有)を用いた。表2に記載の配合に則り、下記のパン類の製造方法により、コントロールとして、高等級小麦粉のみを用いた食パン、対照例1として、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含まない高灰分小麦粉含有食パン、油脂組成物(1)~(6)を含む実施例1~6、アスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ及びショートニングを含む実施例7、並びに、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含まない比較例1~2の高灰分小麦粉含有食パンを製造した。
【0237】
得られた食パンの、ボリューム、内相、食感について、それぞれ以下の方法により評価し、すべての評価において合格を得たものを、合格品とした。
【0238】
【表1】
【0239】
【表2】
【0240】
<油脂組成物の製造方法>
まず、配合油脂を加熱して混合し、油相を得た。
次に、上記油相に水を加えて混合、乳化し、油中水型の乳化形態をとる乳化物を得た。
得られた油中水型の乳化形態をとる乳化物に窒素ガスを注入しながら急冷可塑化し、その後、表1に記載の量のアスコルビン酸類、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ類を添加して混合し、油脂組成物(1)~(6)を得た。
また、得られた油脂組成物(1)~(6)の25℃におけるSFC、並びに25℃における比重を測定した。結果を表1に示す。
なお、油脂組成物(1)~(6)は、本発明の油脂組成物にあたる。
【0241】
<パン類の製造方法>
まず、中種生地の原材料をミキサーボウルに投入し、フックを使用して、低速で2分間、中速で2分間ミキシングし、混合物(ドウ)を得た。この時の捏ね上げ温度は24℃であった。次に、得られた混合物を、28℃、相対湿度85%の恒温室で4時間発酵させ、中種生地を得た。
【0242】
発酵させた中種生地をミキサーボウルに投入し、ショートニングおよび油脂組成物以外の本捏生地の原材料を加え、フックを使用して、低速で3分間、中速で3分間ミキシングした。ここで、ショートニングあるいは油脂組成物を投入し、さらに低速で3分間、中速で4分間ミキシングし、食パン生地を得た。この時の捏ね上げ温度は27℃であった。
【0243】
続いて、フロアタイムを20分間とり、380gに分割して丸目を行った。次に、ベンチタイムを20分間とった後、モルダー成形し、ワンローフ型にロール状の生地を1本詰め、38℃、相対湿度80%で45分間ホイロをとった。その後、上火200℃、下火200℃に設定したオーブンで25分間焼成し、コントロール、対照例1、実施例1~7、および比較例1~2の食パンを得た。
なお、実施例1~7の食パンは、本発明の高灰分小麦粉含有パン類にあたる。
【0244】
<食パンのボリュームの評価方法>
各サンプルの食パンを4斤ずつ製造し、それぞれのサンプルの比容積をレーザー体積計 Selnac-Win VM2100((株)アステックス製)を用いて測定した。各サンプルの測定結果のうち、比容積が最大だったものを外れ値として除き、残りの3サンプルの比容積の平均値を求め、比容積の平均値が5.0以上であったものを合格とした。
【0245】
<食パンの内相の評価方法>
各サンプルの食パン1斤を、2cmずつスライスし、スライスした食パンの表面の気泡(クラム)の様子を目視で確認し、以下の評価基準に沿って評価した。○以上の評価を得たものを合格とした。
【0246】
-食パンの内相の評価基準-
◎:クラムは非常にきめ細かく均一であり、非常に良好な内相であった。
○:大きなクラムがわずかに存在するが、全体的にきめ細かく、良好な内相であった。
△:大きなクラムがところどころに存在し、やや劣った内相であった。
×:大きなクラムが多く存在し、または、非常に大きな穴が開いており、不良な内相であった。
【0247】
<食パンの食感の評価>
各サンプルの食パンを、5人の熟練したパネラーが喫食し、その食感を以下の評価基準に沿って採点し、その点数の合計点によって評価した。○以上の評価を得たものを合格とした。
なお、5名のパネラーは、採点の前に各点数に対応する官能の程度についてすり合わせを行っており、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0248】
-食パンの食感の評価基準-
3点:コントロールの食パンと同等の、パサつきや重い詰まった食感のない、良好な食感であった。
2点:コントロールの食パンと比較して、わずかにパサついた、あるいは、わずかに重い詰まった食感であるが問題のない程度であり、良好な食感であった。
1点:コントロールの食パンと比較して、パサついた、あるいは、重い詰まった食感であり、やや不良な食感であった。
0点:コントロールの食パンと比較して、非常にパサついた、あるいは、非常に重く詰まった食感であり、非常に不良な食感であった。
【0249】
-食パンの食感の評価の表示方法-
◎:合計点が13~15点であった。
○:合計点が10~12点であった。
△:合計点が6~9点であった。
×:合計点が5点以下であった。
【0250】
検討1の結果を表3に示した。また、コントロール、対照例1、および実施例1の食パンの外観及び内相を表す写真図を図1に示した。
【0251】
【表3】
【0252】
対照例1の結果から、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含まない高灰分小麦粉含有食パンは、コントロールの食パンと比較して、ボリューム、内相、食感が劣ることが確認された。
【0253】
対して、本発明の高灰分小麦粉含有パン類である実施例1~7は、ボリュームがあって、内相と食感が良好な食パンであった。また、実施例1~3の比較から、高灰分小麦粉含有パン類生地中のアスコルビン酸類の含有量について、実施例1、実施例4~5の比較から、高灰分小麦粉含有パン類生地中のグルコースオキシダーゼの含有量について、それぞれ本発明の効果を得るためのより好ましい数値範囲が存在することが分かった。また、アミラーゼ類をさらに含む実施例6の食パンは、食感がソフトなものとなっており、特に良好であった。実施例7は、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを油脂組成物の形態ではなく、小麦粉含有パン類生地に直接配合した例であるが、本発明の油脂組成物を配合した場合よりも効果は少し劣るが、問題なく本発明の効果が得られていた。
【0254】
さらに、比較例1の結果から、高灰分小麦粉含有パン類生地がアスコルビン酸類を含有しない場合は、ボリュームと良好な食感が得られないこと、比較例2の結果から、高灰分小麦粉含有パン類生地がグルコースオキシダーゼを含有しない場合は、良好な内相と食感が得られないことが分かった。これらの結果は、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有した実施例1~7の高灰分小麦粉含有パン類において、アスコルビン酸類またはグルコースオキシダーゼを単独で含有するよりも本発明の効果をより顕著に発揮できることを示している。
【0255】
[検討2:本発明の油脂組成物の油脂配合について]
次に、本発明の油脂配合物の油脂配合による効果について検討を行った。
【0256】
表4に示した配合表に則り、上述の油脂組成物の製造方法と同様にして、油脂組成物(7)~(9)を製造した。油脂組成物(7)~(9)は、本発明の油脂組成物にあたる。
【0257】
油脂組成物(7)~(9)を用いて、表5に記載の配合に則り、上述のパン類の製造方法と同様にして、実施例8~10の食パンを製造した。実施例8~10の食パンは、本発明の高灰分小麦粉含有パン類にあたる。
【0258】
評価方法と同様にして評価した。すべての評価において合格を得たものを、合格品とした。
【0259】
【表4】
【0260】
【表5】
【0261】
検討2の評価結果を表6に示した。また、参考として、実施例1の評価結果も表6に併せて示した。
【0262】
【表6】
【0263】
実施例1、実施例8~10の高灰分小麦粉含有パン類は、本発明の油脂組成物を原料とすることで、ボリュームがあり、内相と食感が良好なものとなることが分かった。これらの中でも特に、上述の本発明のエステル交換油脂(A)にあたるエステル交換油脂およびエステル交換油脂(B)にあたるエステル交換油脂を含む実施例1と実施例8の食パンは、特にボリュームがあり、食感が良好なことに加えて、歯切れも良好なものであった。
【0264】
[検討3:用いる高灰分小麦粉の種類、および含有量について]
次に、本発明の高灰分小麦粉含有パン類生地に用いられる高灰分小麦粉の種類、およびその含有量による効果について検討を行った。
【0265】
ショートニングまたは油脂組成物(1)を用いて、表7に記載の配合に則り、上述のパン類の製造方法と同様にして、対照例2として、低等級小麦粉のみを用いた食パン、対照例3として、全粒粉小麦粉のみを用いた食パン、実施例11~12、および比較例3の食パンを製造した。実施例11~12の食パンは、本発明の高灰分小麦粉含有パン類にあたる。
【0266】
対照例2~3、実施例11~12、および比較例3の食パンの、ボリューム、内相、食感について、それぞれ上述の評価方法と同様にして評価した。すべての評価において合格を得たものを、合格品とした。
【0267】
【表7】
【0268】
検討3の評価結果を表8に示した。参考として、コントロールの食パンの評価結果も表8に併せて示した。また、対照例2、実施例11、対照例3、および実施例12の食パンの外観及び内相を表す写真図を図2に示した。
【0269】
【表8】
【0270】
対照例2の結果から、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有せず、低等級小麦粉のみを用いた食パンは、ボリューム、内相、食感のすべての面で、コントロールの食パンと比較して、やや劣ることが確認された。また、対照例3の結果から、アスコルビン酸類およびグルコースオキシダーゼを含有せず、全粒粉小麦粉のみを用いた食パンは、全くボリュームが出ず、クラムにも大きな穴が存在し、食感もパサついたものとなることが確認された。
【0271】
対して、実施例11の、低等級小麦粉のみを用いた本発明の高灰分小麦粉含有食パンと、実施例12の、全粒粉小麦粉のみを用いた本発明の高灰分小麦粉含有食パンは、どちらもボリュームがあって、良好な内相と食感であった。比較例3は、澱粉類として低等級小麦粉のみを用い、アスコルビン酸類を含有し、グルコースオキシダーゼを含有しない例であるが、ボリュームの評価は合格を得ることができていたのに対し、内相と食感は悪いままであった。
【0272】
よって、アスコルビン酸類とグルコースオキシダーゼとを含有することで、用いられる高灰分小麦粉の種類、および含有量に関わらず、高灰分小麦粉含有パン類において本発明の効果が得られることが分かった。
図1
図2