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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143700
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/32 20140101AFI20241003BHJP
   B23K 26/28 20140101ALI20241003BHJP
   B23K 26/06 20140101ALI20241003BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K26/32
B23K26/28
B23K26/06
B23K26/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056490
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】高田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA14
4E168BA73
4E168BA87
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA13
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA39
4E168EA02
4E168EA11
4E168EA15
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接することが可能な、新規な改善された溶接方法および溶接装置を得る。
【解決手段】溶接方法は、例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接方法であって、レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、レーザ光を、表面上でウォブリングしながら照射する。第二レーザ光の波長は、380[nm]以上かつ500[nm]以下であってもよい。また、第一レーザ光は、複数のビームに分割され、表面上に複数のスポットを形成してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記表面上でウォブリングしながら照射する、溶接方法。
【請求項2】
前記第二レーザ光の波長は、380[nm]以上かつ500[nm]以下である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第一レーザ光は、複数のビームに分割され、前記表面上に複数のスポットを形成する、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記第一レーザ光を、ビームシェイパを用いて複数のビームに分割する、請求項3に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記ビームシェイパは、回折光学素子である、請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記第一レーザ光は、中心レーザ光と、当該中心レーザ光の周囲の周辺レーザ光と、を含み、
前記周辺レーザ光のパワーに対する前記中心レーザ光のパワーの比は、1/4以上かつ7/3以下である、請求項4に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ光のウォブリング中心の移動速度は、100[mm/s]以下である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光のウォブリング周波数は、300[Hz]以上である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記レーザ光のウォブリング速度は、100[mm/s]以下であり、前記レーザ光のウォブリング周波数は、300[Hz]以上である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記ウォブリングの重なり率Rを、次の式(1)
R=2×(Ae-Aw)/Ae ・・・ (1)
ここに、Awは、ウォブリング1回転分の走査経路が最初にウォブリング中心の移動経路上に位置する場所と次に前記移動経路上に位置する場所との距離を長径としウォブリング直径を短径とする第一楕円と、次のウォブリング1回転分の走査経路が最初に前記移動経路上に位置する場所と次に前記移動経路上に位置する場所との距離を長径としウォブリング直径を短径とする第二楕円との和となる領域の面積であり、Aeは、前記第一楕円の面積と前記第二楕円の面積との和である、
のように定義したとき、R≧0.51である、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記レーザ光の照射によって形成される溶融池にキーホールが形成され、
前記キーホールが間欠的に閉じることなく開いた状態が維持される、請求項1~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項12】
アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記レーザ光を、前記表面上でウォブリングしながら照射する、溶接方法を行う、溶接装置であって、
前記表面に向けて前記レーザ光を出力する光学ヘッドを備え、
前記光学ヘッドは、レーザスキャナを有した、溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム系材料で作られた複数の部材の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/181724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の溶接においては、所要の接合強度の確保は勿論のこと、例えばスパッタやブローホールのような溶接欠陥を生じさせないことは、重要である。発明者らの鋭意研究により、特に、アルミニウム系材料においては、他の材料に比べてブローホールが生じ易いことが、判明した。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接することが可能な、新規な改善された溶接方法および溶接装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶接方法は、例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、前記レーザ光を、前記表面上でウォブリングしながら照射する。
【0007】
前記溶接方法では、前記第二レーザ光の波長は、380[nm]以上かつ500[nm]以下であってもよい。
【0008】
前記溶接方法では、前記第一レーザ光は、複数のビームに分割され、前記表面上に複数のスポットを形成してもよい。
【0009】
前記溶接方法では、前記第一レーザ光を、ビームシェイパを用いて複数のビームに分割してもよい。
【0010】
前記溶接方法では、前記ビームシェイパは、回折光学素子であってもよい。
【0011】
前記溶接方法では、前記第一レーザ光は、中心レーザ光と、当該中心レーザ光の周囲の周辺レーザ光と、を含み、前記周辺レーザ光のパワーに対する前記中心レーザ光のパワーの比は、1/4以上かつ7/3以下であってもよい。
【0012】
前記溶接方法では、前記レーザ光のウォブリング中心の移動速度は、100[mm/s]以下であってもよい。
【0013】
前記溶接方法では、前記レーザ光のウォブリング周波数は、300[Hz]以上であってもよい。
【0014】
前記溶接方法では、前記レーザ光のウォブリング速度は、100[mm/s]以下であり、前記レーザ光のウォブリング周波数は、300[Hz]以上であってもよい。
【0015】
前記溶接方法では、前記ウォブリングの重なり率Rを、次の式(1)
R=2×(Ae-Aw)/Ae ・・・ (1)
ここに、Awは、ウォブリング1回転分の走査経路が最初にウォブリング中心の移動経路上に位置する場所と次に前記移動経路上に位置する場所との距離を長径としウォブリング直径を短径とする第一楕円と、次のウォブリング1回転分の走査経路が最初に前記移動経路上に位置する場所と次に前記移動経路上に位置する場所との距離を長径としウォブリング直径を短径とする第二楕円との和となる領域の面積であり、Aeは、前記第一楕円の面積と前記第二楕円の面積との和である、のように定義したとき、R≧0.51であってもよい。
【0016】
前記溶接方法では、前記レーザ光の照射によって形成される溶融池にキーホールが形成され、前記キーホールが間欠的に閉じることなく開いた状態が維持されてもよい。
【0017】
本発明の溶接装置は、例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接する溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、前記レーザ光を、前記表面上でウォブリングしながら照射する、溶接方法を行う、溶接装置であって、前記表面に向けて前記レーザ光を出力する光学ヘッドを備え、前記光学ヘッドは、レーザスキャナを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば、アルミニウム系材料で作られた複数の部材を含む加工対象の表面にレーザ光を照射しながら走査して当該複数の部材を溶接することが可能な、新規な改善された溶接方法および溶接装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図2図2は、実施形態のレーザ溶接装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
図3図3は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
図4図4は、参考例のレーザ溶接装置によって溶接部が形成された加工対象の一例の断面図(写真画像)である。
図5図5は、実施形態のレーザ溶接装置によって溶接部が形成された加工対象の一例の断面図(写真画像)である。
図6図6は、実施形態のレーザ溶接装置による加工対象の表面上におけるウォブリング作動の説明図である。
図7図7は、参考例のレーザ溶接装置による加工対象の表面上におけるレーザ光のスポットの走査経路の一例を示す模式図である。
図8図8は、実施形態のレーザ溶接装置による加工対象の表面上におけるレーザ光のスポットの走査経路の一例を示す模式図である。
図9図9は、実施形態のレーザ溶接装置による加工対象の表面上におけるウォブリングの重なり率の説明図である。
図10図10は、実施形態のレーザ溶接装置のウォブリング作動におけるウォブリング中心の移動速度およびウォブリング周波数の数値範囲に対応した溶接結果の一例を示す説明図である。
図11図11は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
図12図12は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
図13図13は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
図14図14は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの、中心を通り幅方向に延びる線上におけるパワー密度分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0021】
本明細書において、序数は、方向や、部材、部位、レーザ光、形状等を区別するために便宜上付与されうるものである。なお、序数は、優先順位や順番を示すものではないし、数を特定するものでもない。
【0022】
また、本明細書において、序数は、部品や、部材、部位、レーザ光、方向等を区別するために便宜上付与されうるものである。なお、序数は、優先順位や順番を示すものではないし、数を特定するものでもない。
【0023】
各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。また、レーザ光のスポットの走査方向SDを矢印SDで表し、走査方向と直交した幅方向WDを矢印WDで示している。
【0024】
[実施形態]
図1は、実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成図である。図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置111と、レーザ装置112と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、移動機構140と、を備えている。レーザ溶接装置100は、溶接装置の一例である。
【0025】
図1に示されるように、加工対象Wは、アルミニウム系材料で作られた金属部材11と、アルミニウム系材料で作られた金属部材12とが、Z方向に積層されたものである。レーザ溶接装置100は、加工対象WのZ方向を向いた表面Waに対して、Z報告の反対方向に略沿ってレーザ光Lを照射することにより、当該表面Waから金属部材11をZ方向の反対方向に貫通して金属部材12に至る溶接部14を形成する。これにより、金属部材11と金属部材12とが溶接部14を介して接合された接合体10が得られる。すなわち、接合体10は、金属部材11と、金属部材12と、溶接部14と、を有している。また、金属部材11および金属部材12が導体である場合、接合体10において、金属部材11と金属部材12とは、溶接部14を介して電気的に接続される。
【0026】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を有しており、例えば、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置111,112は、380[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を出射する。レーザ装置111,112は、内部に、例えば、ファイバレーザや、半導体レーザ(素子)、YAGレーザ、ディスクレーザのような、レーザ光源を有している。レーザ装置111,112は、複数の光源の出力の合計として、数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。
【0027】
レーザ装置111は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置111は、レーザ光源として、ファイバレーザかあるいは半導体レーザ(素子)を有する。第一レーザ光は、主として、溶融池のキーホールを形成することに寄与する。
【0028】
他方、レーザ装置112は、550[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置の一例である。一例として、レーザ装置112は、レーザ光源として、半導体レーザ(素子)を有する。レーザ装置112は、380[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力するのが好適である。第一レーザ光よりも波長が短い第二レーザ光は、第一レーザ光よりも金属部材11,12に対する吸収率が高く、その分、金属部材11,12をより効率良く加熱することができる。よって、第一レーザ光とともに第二レーザ光を照射することにより、第一レーザ光を単独で照射する場合に比べて、溶融池およびその周辺部分において場所による温度変化を緩和し、溶融池の動きを抑制して安定化することができるという効果が得られる。
【0029】
光ファイバ130は、それぞれ、レーザ装置111,112から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0030】
光学ヘッド120は、レーザ装置111,112から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、ダイクロイックミラー124と、DOE125と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、ダイクロイックミラー124、およびDOE125は、光学部品とも称されうる。
【0031】
光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Wa上でレーザ光Lの照射を行いながらレーザ光Lを走査するために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に構成されている。光学ヘッド120と加工対象Wとの相対移動は、移動機構140による光学ヘッド120の移動、不図示の移動ステージ等による加工対象Wの移動、または移動機構140による光学ヘッド120および移動ステージ等による加工対象Wの双方の移動により、実現されうる。移動機構140および移動ステージは、走査機構とも称されうる。
【0032】
コリメートレンズ121(121-1,121-2)は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0033】
ミラー123は、コリメートレンズ121-1で平行光となった第一レーザ光を反射する。ミラー123で反射した第一レーザ光は、X方向の反対方向に進み、ダイクロイックミラー124へ向かう。なお、第一レーザ光が光学ヘッド120においてX方向の反対方向へ進むように入力される構成にあっては、ミラー123は不要である。
【0034】
DOE125は、第一レーザ光のビームの形状を適宜に成形し、ひいては表面Wa上におけるスポットの配置や形状を適宜に成形することができる。図2に概念的に例示されるよう、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0035】
なお、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2の後段に設けられ第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパや、ダイクロイックミラー124の後段に設けられ第一レーザ光および第二レーザ光の双方のビーム形状を調整するビームシェイパ等を有してもよい。ビームシェイパによってレーザ光Lのビーム形状を適宜に整えることにより、溶接においてスパッタやブローホールの発生をより一層抑制することができる。
【0036】
ダイクロイックミラー124は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。第一レーザ光は、ダイクロイックミラー124を透過してX方向の反対方向へ進み、ガルバノスキャナ126へ向かう。他方、ダイクロイックミラー124は、コリメートレンズ121-2で平行光となった第二レーザ光を反射する。ダイクロイックミラー124で反射した第二レーザ光は、X方向の反対方向に進み、ガルバノスキャナ126へ向かう。
【0037】
ガルバノスキャナ126は、2枚のミラー126a,126bを有しており、当該2枚のミラー126a,126bの角度を制御することで、光学ヘッド120を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させ、レーザ光Lを走査することができる装置である。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば不図示のモータによって変更される。ガルバノスキャナ126は、レーザスキャナの一例であり、走査機構とも称されうる。なお、レーザスキャナは、ガルバノスキャナ126には限定されない。
【0038】
集光レンズ122は、平行光としての第一レーザ光および第二レーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。
【0039】
図3は、レーザ光Lの照射によって表面Wa上に形成されたスポットSの一例を示す平面図である。図3に示される複数のスポットS1,S2を含むスポットSは、DOE125によって形成される。図3の例では、第一レーザ光のビームがDOE125を介して複数のビームに分割され、当該複数のビームにより、表面Wa上に、レーザ光Lの光軸上に位置した一つのスポットS11と、当該光軸を中心として環状に略等間隔で配置された複数のスポットS12と、が形成される。スポットS1を形成するレーザ光を、第一レーザ光の中心レーザ光、スポットS12を形成するレーザ光を、第一レーザ光の周辺レーザ光と称する。
【0040】
スポットS1を形成するビーム、およびスポットS2を形成するビームのそれぞれは、例えば、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、ガウシアン形状や、フラットトップ形状、その他の形状(パワー分布)を有する。なお、図3のように、表面Waにおいて、各ビームのスポットS1,S2を円で表している各図において、当該スポットS1,S2を表す円の直径が、スポット径である。各スポット径は、当該スポットのピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義することができる。なお、図示されないが、円形でないスポットの場合は、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の、Z方向および走査方向SDと交差するとともに直交する幅方向WDにおける長さを、スポット幅と定義することができる。
【0041】
図3の例では、第二レーザ光のビームによって形成されるスポットS2は、第一レーザ光に基づく複数のスポットS1が当該スポットS2外縁の内側に位置するよう、形成される。
【0042】
[溶接方法]
レーザ溶接装置100を用いた溶接にあっては、まず、金属部材11と金属部材12とを有した加工対象Wが、レーザ光Lが表面Waに照射される位置および姿勢となるように、不図示の支持装置等にセットされる(仮固定される)。そして、レーザ光Lが表面Waに照射されている状態で、走査機構の作動により、レーザ光Lと加工対象WとがZ方向と交差した方向に相対的に動く。これにより、レーザ光Lが表面Wa上に照射されながら当該表面Wa上を走査方向SDに移動する(走査する)。加工対象Wのレーザ光Lが照射された部分には、溶融池が形成される。その後、温度の低下に伴って溶融池が凝固することにより、金属部材11と金属部材12とが溶接され、接合体10が得られる。
【0043】
[溶接部の断面]
図4は、溶接部14が形成された参考例の加工対象Wの、Z方向および走査方向SDに沿った断面図である。図4に示されるように、金属部材11,12がアルミニウム系材料である場合には、銅系材料等である場合と比較して、溶接部14中の比較的深い位置にブローホールHが生じ易く、溶接条件を適切に設定しない場合には、多数のブローホールHが生じてしまうことが判明した。また、そのような場合、溶接中にスパッタの飛散も多くなることが確認された。
【0044】
図5は、溶接部14が形成された実施形態の加工対象Wの、Z方向および走査方向SDに沿った断面図である。発明者らの鋭意研究により、金属部材11,12がアルミニウム系材料である場合にあっても、溶接条件を適切に設定した場合には、溶接部14中のブローホールHの少ない好適な接合体10が得られることが判明した。また、そのような場合、溶接中のスパッタの飛散も大幅に減らせることが確認された。
【0045】
以下、図5のような好適な溶接部14および接合体10を得ることを可能とした溶接条件について説明する。なお、接合体10の良否は、例えば、溶接部14の走査方向SDの単位長さあたりのブローホールHの数に基づいて判定することができる。
【0046】
[ウォブリングの重なり率]
発明者らは、鋭意研究により、スポットSの表面Wa上でのウォブリング作動が高い効果を発揮することを見出した。
【0047】
図6は、表面Wa上でレーザ光Lの照射によって形成されるスポットS(図3参照)をウォブリングしながら走査する場合の、光学ヘッド120に固定された座標系における、当該スポットSの走査経路Pcを示す。レーザ光LのスポットSは、ガルバノスキャナ126の作動により、ウォブリング中心Cw回りに略等速円運動で、ウォブリング半径Rwおよびウォブリング直径Dwの円周上を走査される。すなわち、走査経路Pcは、円形である。また、移動機構140のような走査機構の作動により、ウォブリング中心Cwは、表面Waに沿う移動経路Ptcに沿って移動速度Vcで移動する。なお、移動経路Ptcは、図6の例では直線状の形状を有するが、直線状の形状には限定されない。移動経路Ptcにより、表面Wa上に形成される溶接部14のビードの形状が定まる。
【0048】
図7は、参考例の加工対象Wの表面Wa上におけるスポットSの走査経路Ptを示す平面図である。また、図8は、実施形態の加工対象Wの表面Wa上におけるスポットSの走査経路Ptを示す平面図である。図6のようなスポットSの回転運動およびウォブリング中心Cwの並進運動により、図7,8に示されるように、表面Wa上で、スポットSは、渦巻き状に走査される。言い換えると、スポットSの走査経路Ptは、渦巻き状の形状を有することになる。なお、走査方向SDは、ウォブリング中心Cwの移動方向、言い換えると、ウォブリング中心Cwの移動経路Ptcの延び方向とする。
【0049】
図7の走査経路Ptでは、図4の断面のように、ブローホールHが数多く発生し、スパッタも多数生じた。これに対し、図8の走査経路Ptでは、図5の断面のように、ブローホールHが少なく、スパッタも少なかった。これは、図8の走査経路Ptは、図7の走査経路Ptに比べて、ウォブリングの1回転と次の1回転との重なり度合いが高く、溶融池の溶融状態がより長い時間にわたって維持されることで、気泡がより抜けやすくなるからであると推定される。
【0050】
図9は、ウォブリングの1回転と次の1回転との間の重なり率を説明する平面図である。ここでは、簡単のため、連続するウォブリング2回転分のスポットSの走査経路Ptを、二つの楕円(第一楕円E1および第二楕円E2)に置き換える。第一楕円E1は、ウォブリング1回転分の走査経路Ptが最初にウォブリング中心Cwの移動経路Ptc上に位置する場所P11と次に移動経路Ptc上に位置する場所P12との距離D1を長径としウォブリング直径Dwを短径とする楕円とする。また、第二楕円E2は、次のウォブリング1回転分の走査経路Ptが最初に移動経路Ptc上に位置する場所P21と次に移動経路Ptc上に位置する場所P22との距離D2を長径としウォブリング直径Dwを短径とする楕円とする。そして、ウォブリングの重なり率Rを、次の式(1)により算出する。
R=2×(Ae-Aw)/Ae ・・・ (1)
ここに、Awは、第一楕円E1と第二楕円E2との和の領域(図9中でハッチングを施した領域)の面積とし、Aeは、第一楕円E1の面積と第二楕円E2の面積との和とする。
【0051】
発明者らの実験的な解析により、式(1)のようにウォブリングの重なり率Rを定義した場合にあっては、R≧0.51である場合に、図5の断面に近い状態、すなわち、溶接部14中のブローホールHが少なく機械的強度や電気伝導度の所定条件を満たす好適な接合体10が得られ、スパッタも周囲に影響を及ぼさないための所定条件を満たすレベルまで少なくなることが判明した。また、R≧0.82である場合に、図5の断面の状態、すなわち、溶接部14中のブローホールHが殆ど無く、スパッタの飛散も著しく少ない最良の状態となることが判明した。
【0052】
[ウォブリング中心の移動速度およびウォブリングの周波数]
図10は、ウォブリング中心Cwの移動速度Vcおよびウォブリング周波数の数値範囲に対応した溶接結果を示すグラフである。ここに、ウォブリング周波数は、スポットSのウォブリング1回転、すなわち図6の走査経路Pcの1回転分に要する時間をtwとした場合、1/twである。
【0053】
発明者らの実験的な解析により、図10に示されるように、ウォブリング中心Cwの移動速度Vcは、100[mm/s]以下であるのが好ましく(良好であり)、ウォブリング周波数は、300[Hz]以上であるのが好ましいこと(良好であること)が判明した。これは、移動速度Vcが低くなるほど重なり率Rが大きくなり、ウォブリング周波数が高くなるほど重なり率Rが大きくなることから、溶融池の溶融状態がより長い時間にわたって維持されることで、気泡がより抜けやすくなるからであると推定される。また、図10に示されるように、ウォブリング中心Cwの移動速度Vcは、100[mm/s]以下であるとともに、ウォブリング周波数は、300[Hz]以上である場合に、より一層好ましいこと(最良であること)が判明した。
【0054】
[スポット形状]
図11~13は、レーザ光LのスポットSの表面Wa上でのパターンを例示する平面図である。図3に示されるパターンの他、図11~13に示されるパターンにあっても、溶接部14中のブローホールHの少ない好適な接合体10が得られることが判明した。図11~13に示されるように、第二レーザ光によるスポットS2の形状は、円形状、四角形状、楕円形状、長円状(不図示)のような種々の形状とすることができる。また、これらの例に限定されず、第一レーザ光によるスポットS1および第二レーザ光によるスポットS2の形状や、配置、数のようなスペックは、種々に変更して実施することができる。いずれの場合も、スポットS2のサイズ(直径、幅、面積)は、スポットS1のサイズ(直径、幅、面積)より大きいのが好ましい。
【0055】
また、発明者らの実験的な解析により、図3に例示されるスポットS12を形成するような第一レーザ光の周辺レーザ光のパワーに対する、図3に例示されるスポットS11を形成するような第一レーザ光の中心レーザ光のパワーの比(以下、パワー比と称する)に関して、
(1)パワー比が高過ぎると、深い溶融池を形成できるものの、周囲の溶融量が減るため、溶融池からブローホールが抜けるのに十分な時間を確保できなくなること、
(2)パワー比が低過ぎると、深い溶融池を形成し難くなり、薄い加工対象にしか適用できなくなること、
が判明した。このような観点から、発明者らは、パワーの比は、1/4以上かつ7/3以下であるのが好ましいことが判明した。なお、中心レーザ光および周辺レーザ光のスポットのパターンは、図3の例には限定されない。
【0056】
[スポット内の強度分布]
図14は、表面Wa上に形成されたレーザ光LのスポットSの、中心C1を通り幅方向に延びる線上におけるパワー密度分布の一例を示すグラフである。発明者らの実験的な解析により、図14に示されるように、パワー密度は、中心にピークを有するとともに、その周囲に、幅方向の位置による変化が少ない、所謂フラットトップ形状の分布を有するのが好ましいことが判明した。これは、中心のピークによって溶融池ひいては溶接部の深さを確保できるとともに、周辺では、場所によるパワー密度の変化を小さくすることにより溶融池を安定化させ、溶融池の動きに伴うブローホールHの発生やスパッタの発生を抑制できるからであると推定される。
【0057】
[溶接中のキーホールの開閉]
また、発明者らの実験的な解析により、溶接工程において、主として第一レーザ光の作用によって溶融池に形成されるキーホールは、間欠的に閉じることなく開いた状態が維持される場合に、溶接部14中のブローホールHの少ない好適な接合体10が得られることが判明した。これは、溶接中にキーホールが閉じると当該キーホールによって溶融池中に形成された凹部が、溶接部14中にブローホールHとして残存するからであると推定される。上述したウォブリングのパラメータや、スポット形状、パワー比、パワー密度分布等の各条件は、キーホールが間欠的に閉じることなく開いた状態が維持されるための条件にもなっている。
【0058】
以上、説明したように、アルミニウム系材料で作られた複数の金属部材11,12を含む加工対象Wの表面Waにレーザ光Lを照射しながら走査して当該複数の金属部材11,12を溶接する溶接方法にあっては、本実施形態のように、第一レーザ光と第二レーザ光とを含むレーザ光Lを表面Wa上で適切にウォブリングしながら照射することにより、溶接部14中のブローホールHの少ない好適な接合体10が得られる。
【0059】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0060】
例えば、実施形態では、加工対象は、アルミニウム系材料で作られた二つの金属部材が重ねられた構成を有したが、加工対象はこれには限定されず、本発明は、例えば、アルミニウム系材料で作られた三つ以上の金属部材を有した加工対象や、端部同士が互いに突き合わせられて境界を形成する金属部材を有した加工対象のような、他の形態の加工対象に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…接合体
11,12…金属部材
14…溶接部
100…レーザ溶接装置(溶接装置)
111…レーザ装置
112…レーザ装置
120…光学ヘッド
121,121-1,121-2…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
124…ダイクロイックミラー
125…DOE(回折光学素子)
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ(レーザスキャナ)
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…移動機構
Ae…第一楕円の面積と第二楕円の面積との和
Aw…第一楕円と第二楕円の和領域の面積
C1…中心
Cw…ウォブリング中心
D1,D2…距離
Dw…ウォブリング直径
E1…第一楕円
E2…第二楕円
H…ブローホール
L…レーザ光
P11,P12,P21,P22…場所
Pc…走査経路
Pt…走査経路
Ptc…移動経路
Rw…ウォブリング半径
S,S1,S11,S12,S2…スポット
SD…走査方向
Vc…移動速度
W…加工対象
Wa…表面
WD…幅方向
X…方向
Y…方向
Z…方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14