(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143701
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】研磨用組成物及びその製造方法、研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20241003BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20241003BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241003BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056494
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】天▲高▼ 恭祐
(72)【発明者】
【氏名】長谷 英治
(72)【発明者】
【氏名】大原 早瑛
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA06
3C158CA07
3C158CB01
3C158CB10
3C158EB01
3C158ED12
3C158ED26
3C158ED28
5F057AA05
5F057AA28
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5F057DA02
5F057DA38
5F057EA01
5F057EA08
5F057EA17
5F057EA21
5F057EA27
5F057EA29
5F057FA37
(57)【要約】
【課題】拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨対象物の表面に曇りが残りにくい研磨用組成物及びその製造方法、研磨方法を提供する。
【解決手段】研磨用組成物は、砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを含む。界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。式(i)中、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを含み、
前記界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、
前記式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記平均付加モル数nは5以上15以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤の水と油への親和性を示すHLB値は、10以上16以下である、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は、当該研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以上30質量%以下で含有される、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒は、酸化アルミニウムを含む、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記酸化アルミニウムのα化率は、50%以上100%以下である請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記疎水性分散媒は、
ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素からなる群より選択される少なくとも一種を含み、かつ、
引火点が30℃以上100℃以下である、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記疎水性分散媒は、20℃における蒸気圧が0.004kPa以上2kPa以下である、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを混合して、研磨用組成物を製造する工程を含む研磨用組成物の製造方法であって、
前記界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、
前記式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である、研磨用組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項11】
前記研磨対象物は、樹脂材料、合金材料、及びガラス材料からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項10に記載の研磨方法。
【請求項12】
前記研磨対象物を研磨する工程では、
前記研磨対象物の表面に前記研磨用組成物を供給し、前記研磨用組成物が供給された前記表面に研磨バフを接触させて研磨する、請求項10に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物及びその製造方法、研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の表面に被覆された樹脂塗膜の表面を平滑化して光沢を出す加工方法として、バフ研磨加工が知られている。バフ研磨加工とは、例えば布製のバフと研磨対象物との間に研磨用組成物を介在させつつ、回転するバフを研磨対象物(例えば、樹脂塗膜)に押し当てて表面を研磨する加工方法である。
【0003】
バフ研磨加工に用いられる研磨用組成物は砥粒(研磨材)と界面活性剤とを含有しており、砥粒としては例えば酸化アルミニウム(アルミナ)の粒子が使用される(例えば特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-255232号公報
【特許文献2】特開2008-127456号公報
【特許文献3】特開2007-277379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バフ研磨加工を終了した後は、樹脂塗膜の表面を洗浄して研磨用組成物を拭き取る必要がある。従来の研磨用組成物を用いたバフ研磨加工では、拭き取りまでに時間を置くと、洗浄後の仕上がり面に白い曇りが残る傾向があった。この白い曇りは洗浄を繰り返しても除去することは難しいため、バフ研磨加工を再度行う等の手直しの作業が必要となる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨対象物の表面に曇りが残りにくい研磨用組成物及びその製造方法、研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の一態様に係る研磨用組成物は、砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを含む。前記界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、前記式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨対象物の表面に曇りが残りにくい研磨用組成物及びその製造方法、研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態において使用される研磨装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
<研磨用組成物>
本発明の実施形態(以下、本実施形態)に係る研磨用組成物は、砥粒と、疎水性分散媒(有機溶媒)と、水と、界面活性剤とを含む。界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレン(C2H4O)の平均付加モル数を表し、3以上50以下である。
【0012】
このような構成を有する研磨用組成物は、拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨用組成物の成分が研磨用組成物の表面に固着することを抑制することができ、研磨対象物の表面に曇りが残りにくい。研磨対象物の研磨後の表面に曇りの原因となる固着物が残存することを抑制することができる。この固着物が原因で研磨後の表面に十分な光沢が得られなくなることを抑制することができる。
【0013】
以下、本実施形態に係る研磨用組成物に含有される各成分について、例を挙げて説明する。
(1)砥粒
本実施形態に係る研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。本実施形態で用いられる砥粒の具体的な例としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム、酸化チタン(チタニア)、酸化スズ、酸化マンガン等の金属酸化物、炭化ケイ素、炭化チタン等の金属炭化物、窒化ケイ素、窒化チタン等の金属窒化物、ホウ化チタン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物、ジルコン(ZrSiO4)等のケイ酸塩化合物、ダイヤモンド等が挙げられる。該砥粒は、単独でも又は二種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0014】
これら砥粒の中でも、様々な粒子径を有するものが容易に入手でき、優れた研磨レートが得られるという観点から、金属酸化物及び金属炭化物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、又は金属酸化物がより好ましく、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムの少なくとも一種がさらに好ましく、酸化アルミニウムが特に好ましい。また、アルミナとジルコンとの混合物等も好ましく使用できる。なお、本明細書では、「研磨レート」を研磨除去速度(polishing removal rate)と言い換えてもよい。
【0015】
さらに酸化アルミニウムの中でも、研磨砥粒として好ましい結晶構造としてα相、又は、θ相、δ相、γ相等のα相になる過程である遷移状態の結晶相を含むものが適する。好ましくはα相、又はθ相を含むこと、より好ましくはα相を含むことである。また、α相について、α相化の度合いにより最適な範囲があると考えられる。
【0016】
一般的に、α相の結晶構造が最も硬いとされるが、α相化するために高温で十分に焼結すると、粒子形状が丸く変化し研磨性能が落ちることが推定される。酸化アルミニウムに含まれるα相の程度を表す値として、α化率が参考になる。好ましいα化率の下限は50%以上である。α化率の下限は60%以上がさらに好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましく、90%以上がさらに好ましい。また、好ましいα化率の上限は100%以下である。α化率の上限は98%以下がより好ましい。すなわち、酸化アルミニウムのα化率は、50%以上100%以下が好ましく、60%以上98%以下がより好ましい。
【0017】
α化率を上記の好ましい範囲とすることで、研磨力の向上、すなわち傷消し速度の高速化、及び研磨レートの向上が見込まれる。なお、酸化アルミニウム粒子のα化率は、X線回析装置(Ultima-IV、株式会社リガク製)を使用し、X線回折測定による(113)面回折線の積分強度比より算出できる。
【0018】
砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)の下限は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)が0.05μm以上であることにより、加工力を向上し、粗研磨及び仕上げ研磨のどちらにおいても研磨対象物を良好に研磨することができる。
【0019】
また、砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)の上限は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、4μm以下であることが特に好ましく、3μm以下であることが最も好ましい。砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)が小さくなるにつれて、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることが容易となる。
【0020】
したがって、砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)が0.05μm以上15μm以下であることにより、加工力を向上しつつ、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることができる。
【0021】
研磨される前の粒子径が大きいものの、研磨中にバフと研磨対象物との界面において研磨粒子が小さくなる砥粒(研磨中に二次粒子が崩れて一次粒子となる砥粒)を使用してもよい。上記より、砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)は、好ましくは0.05μm以上15μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以上5μm以下であり、特に好ましくは0.2μm以上4μm以下であり、最も好ましくは0.2μm以上3μm以下である。一実施形態において、砥粒の体積平均粒子径(平均二次粒子径)は、0.05μm以上10μm以下であり、0.2μm以上4μm以下であり、0.2μm以上3μm以下である。
【0022】
なお、本明細書において、砥粒の体積平均粒子径は、体積基準の粒度分布に基づく積算50%粒子径(D50)と定義する。すなわち、D50とは、体積基準における積算粒子径分布の大粒子径側(または、小粒子径側)からの積算体積が50%となるときの粒子径である。砥粒のD50は、市販の粒度測定装置を利用して測定することができる。かかる粒度測定装置は、動的光散乱法、レーザー回折法、レーザー散乱法、又は細孔電気抵抗法等のいずれの手法に基づくものであってもよい。D50の測定方法及び測定装置の一例として、実施例に記載の測定方法及び測定装置が挙げられる。
【0023】
研磨用組成物中の砥粒の含有量の下限は、研磨用組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、7質量%以上であることが特に好ましく、10質量%以上であることが最も好ましい。砥粒の含有量が0.1質量%以上であることにより、加工力が適切に制御され、粗研磨及び仕上げ研磨のどちらにおいても研磨対象物を良好に研磨することができる。
【0024】
また、研磨用組成物中の砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましく、15質量%以下であることが最も好ましい。砥粒の含有量が50質量%以下であることにより、研磨用組成物の製造コストが低減するのに加えて、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることができる。
【0025】
好ましい一実施形態において、砥粒は、研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以上30質量%以下で含有される。
【0026】
(2)砥粒の他の例
本実施形態に係る研磨用組成物において、砥粒は上記(1)に記載された例に限定されない。本実施形態に係る研磨用組成物において、砥粒は以下に示す他の例1又は2であってもよい。
(2.1)他の例1
本実施形態の砥粒として、当該砥粒の比表面積(m2/g)を粒子径D50(μm)の2乗で除した形状パラメータの値が、0.6以上60以下、好ましくは0.8以上50以下であり、より好ましくは1.0以上40以下の砥粒を使用してもよい。
また、上記形状パラメータを有する砥粒において、平均二次粒子径が0.05μm以上10μm以下の砥粒を使用してもよい。これによれば、加工力を向上しつつ、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることができる。また、上記形状パラメータを有する砥粒において、砥粒の比表面積(m2/g)は、好ましくは2.1以上21以下であり、より好ましくは8以上20以下であり、さらに好ましくは12以上15以下である。これにより、研磨対象物の研磨後の仕上がり面を良好なものとすることが可能である。
この例においても、砥粒は、例えば酸化アルミニウムを含んでもよく、溶融アルミナと比べて表面に凹凸が多い焼結アルミナを含むことが好ましい。
【0027】
このような砥粒を含む研磨用組成物を用いて研磨対象物の表面を研磨することで、研磨対象物における研磨レート(μm/min)と、研磨対象物に対するキズ消し性能(例えば、キズの数を低減する性能、キズの深さを低減する性能)とをそれぞれ高めることが可能である。
【0028】
(2.2)他の例2
本実施形態の砥粒として、当該砥粒の粒度分布幅(D10-D90)/D50が、0.4以上2.0以下、かつ比表面積(m2/g)が12以上20以下である砥粒を使用してもよい。
ここで、D10、D50、D90とは、体積基準における積算粒子径分布の大粒子径側からの積算体積がそれぞれ10%、50%、90%となるときの粒子径である。D10、D50、D90は、市販の粒度測定装置を利用して測定することができる。
【0029】
この例において、砥粒の粒度分布幅(D10-D90)/D50は、好ましくは0.4以上1.8以下であり、より好ましくは0.4以上1.6以下である。砥粒の比表面積(m2/g)は、好ましくは12以上18以下であり、より好ましくは12以上15以下である。砥粒の粒度分布幅が、上記粒度分布幅の下限値より小さい場合は研磨レートが高くなりづらく、上限値より大きい場合は研磨後の研磨対象物に傷が発生し易い。また、砥粒の比表面積(m2/g)が、上記比表面積の下限値よりも小さい場合は研磨後の研磨対象物に傷が発生し易く、上限値より大きい場合は研磨レートが高くなりづらい。両者をともに上記範囲内にすることにより、研磨対象物を研磨レート高く研磨することができ、しかも、研磨後の仕上がり面を良好なものとすることができる。すなわち、研磨組成物の高性能化が可能である。
また、上記構成に加えて、平均二次粒子径が0.05μm以上10μm以下の砥粒を使用してもよい。
また、上記構成に加えて、当該砥粒の比表面積(m2/g)を粒子径D50(μm)の2乗で除した形状パラメータの値が0.6以上60以下である砥粒を使用してもよい。
この例においても、砥粒は、例えば酸化アルミニウムを含んでもよい。酸化アルミナとして、溶融アルミナと比べて表面に凹凸が多い焼結アルミナを用いることが好ましい。
【0030】
このような砥粒を含む研磨用組成物を用いて研磨対象物の表面を研磨することで、研磨対象物における研磨レート(μm/min)と、研磨対象物に対するキズ消し性能(例えば、キズの数を低減する性能、キズの深さを低減する性能)とをそれぞれ高めることが可能である。
【0031】
(3)疎水性分散媒
本実施形態に係る研磨用組成物は、疎水性分散媒を含む。疎水性分散媒は、例えば、ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素からなる群より選択される少なくとも一種を含む。疎水性分散媒は、20℃における蒸気圧が0.004kPa以上2kPa以下であることが好ましい。疎水性分散媒は、引火点が30℃以上100℃以下であることが好ましい。このような疎水性分散媒を用いることで、樹脂塗膜をバフ研磨加工する際の加工効率(研磨除去速度)が向上する。以下では、疎水性分散媒に含まれうるノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素を「有機溶剤」と称する場合がある。
【0032】
本実施形態における疎水性分散媒及び有機溶剤としては、水に容易に溶けないものが好ましい。なお、疎水性分散媒及び有機溶剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0033】
ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素は、鉱油由来であるのが好ましく、鉱油由来の成分を抽出・精製したものであってもよく、鉱油由来の成分を原料として合成したもの(鉱油由来の合成炭化水素)であってもよい。ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素は、鉱油由来の合成炭化水素であるのがより好ましい。これらの疎水性有機溶剤は一般的に他のハロゲン系やベンゼン系の有機溶剤と比較し毒性が低く、また、他のポリエチレングリコール等と比較して揮発性が高いことが知られている。
【0034】
ノルマルパラフィン系炭化水素としては、例えば、炭素数5以上30以下程度の直鎖状炭化水素、流動パラフィン、灯油、軽油等が挙げられる。
【0035】
イソパラフィン系炭化水素としては、例えば、炭素数5以上40以下程度の分岐状炭化水素、流動イソパラフィン等が挙げられる。
【0036】
ナフテン系炭化水素としては、炭素数5以上40以下程度の環状炭化水素が挙げられ、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロノナン等の単環シクロパラフィン類;デカリン等の多環シクロパラフィン類;メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-メチル-4-イソプロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、メチルデカリン等のアルキルシクロパラフィン類;等が挙げられる。
【0037】
テルペン系炭化水素としては、例えば、ミルセン、ファルネセン、シトラール等の鎖状テルペン系炭化水素;メントール、シネオール、ピネン、リモネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、カンフェン、フェランドレン、ターピネン、ターピノレン、p-サイメン、セドレン等の環状テルペン系炭化水素が挙げられる。
【0038】
疎水性分散媒は、上記の炭化水素以外の他の有機溶剤をさらに含んでもよい。以下では、ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素以外の有機溶剤を「他の有機溶剤」と称する。このような他の有機溶剤の例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチル等が挙げられる。
【0039】
疎水性分散媒(有機溶剤)は、一般的に引火点を有している。引火点とは、液体を一定昇温で加熱し、これに火炎を近づけた時、瞬間的に引火するのに必要な濃度の蒸気を発生する最低温度である。引火点とは、疎水性分散媒が揮発して空気と可燃性の混合物を作ることができる最低温度であるともいえる。引火点の測定には、測定の目的や試料の性状により種々の方法がある。引火点の測定方法としては、密閉法と開放法とがある。密閉法としては、例えば、タグ密閉法(JIS K 2265-1:2007)、セタ密閉法(JIS K 2265-2:2007)、ペンスキーマルテンス密閉法(JIS K 2265-3:2007)等が用いられる。開放法としては、クリーブランド開放法(JIS K 2265-4:2007)等が用いられる。
【0040】
(4)水
本実施形態に係る研磨用組成物は、水を含む。水としては、他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、又は蒸留水が好ましい。
【0041】
研磨用組成物中の水の含有量の下限は、研磨用組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましく、20質量%以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物中の水の含有量の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが特に好ましく、70質量%以下であることが最も好ましい。
【0042】
すなわち、研磨用組成物中の水の含有量は、1質量%以上90質量%以下であることが好ましく、5質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以上75質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以上70質量%以下であることが最も好ましい。水の含有量が上記範囲であることにより、加工力を向上し、粗研磨及び仕上げ研磨のどちらにおいても研磨対象物を良好に研磨することができる。
【0043】
(5)界面活性剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、疎水性分散媒又は水を、分散又は乳化させる。また、界面活性剤は、研磨後の被研磨面に親水性を付与することにより研磨後の被研磨面の洗浄効率を良くするため、被研磨面への汚れの付着等を防ぐこともできる。さらに、本実施形態に係る界面活性剤によれば、乳化後の安定性に寄与する。
【0044】
上述したように、本実施形態の界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である。平均付加モル数nは、より好ましくは5以上20以下であり、さらに好ましくは5以上15以下である。
【0045】
本実施形態の界面活性剤は、式(i)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルとして、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C12~14第二級アルコール)、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン2-ヘキシルデシルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含む。C12~14とは式(i)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおいて、Rの炭素数が、12のもの、13のもの、14のもの、又はこれらのうち2以上の混合であることを示す(以下同様)。
【0046】
なお、式(i)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、第2級アルコールエトキシレート(セカンダリーアルコールエトキシレート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(第二級アルコール)、又は、ポリオキシエチレン2級アルキルエーテル、と呼んでもよい。いずれの呼称においても、式(i)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルと同じ構造を有する。
【0047】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、研磨用組成物中の界面活性剤の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。該界面活性剤の含有量が上記の範囲内にある場合、研磨用組成物中におけるエマルションの安定性が増す。
例えば、界面活性剤の水と油への親和性を示すHLB値は、10以上16以下であり、好ましくは10以上14以下である。
【0048】
(6)各種添加剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、その性能を向上させるために、pH調整剤、研磨促進剤、酸化剤、分散剤、粘度調整剤、錯化剤、防食剤、防カビ剤等の各種添加剤を含んでもよい。以下に、本実施形態の研磨用組成物に配合可能な添加剤の例について説明する。
【0049】
(6.1)pH調整剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、pH調整剤を含んでもよい。研磨用組成物のpHの値は、pH調整剤の添加により調整することができる。研磨用組成物のpHの値を所望の値に調整するために必要に応じて使用されるpH調整剤は、酸及びアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物及び有機化合物のいずれであってもよい。
【0050】
pH調整剤としての酸の具体例としては、無機酸や、カルボン酸、有機硫酸等の有機酸があげられる。無機酸の具体例としては、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、リン酸等があげられる。また、カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸等があげられる。さらに、有機硫酸の具体例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸等があげられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
pH調整剤としての塩基の具体例としては、アルカリ金属の水酸化物又はその塩、アルカリ土類金属の水酸化物又はその塩、水酸化第四級アンモニウム又はその塩、アンモニア、アミン等があげられる。
【0052】
アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等があげられる。また、アルカリ土類金属の具体例としては、カルシウム、ストロンチウム等があげられる。さらに、塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等があげられる。さらに、第四級アンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等があげられる。
【0053】
水酸化第四級アンモニウム化合物としては、水酸化第四級アンモニウム又はその塩を含み、具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等があげられる。
【0054】
さらに、アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン等があげられる。
これらの塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
これらの塩基の中でも、アンモニア、アンモニウム塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、水酸化第四級アンモニウム化合物、及びアミンが好ましく、さらに、アンモニア、カリウム化合物、水酸化ナトリウム、水酸化第四級アンモニウム化合物、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムがより好ましい。
【0056】
また、研磨用組成物には、金属汚染防止の観点から、塩基としてカリウム化合物を含むことがさらに好ましい。カリウム化合物としては、カリウムの水酸化物又はカリウム塩があげられ、具体的には水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム等があげられる。
【0057】
また、前記の酸の代わりに、又は前記の酸と組み合わせて、前記酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩を、緩衝剤となるpH調整剤として用いてもよい。特に、前記酸と緩衝剤との組み合わせを、弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、又は弱酸と弱塩基の組み合わせとした場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0058】
(6.2)研磨促進剤(酸化剤)
本実施形態に係る研磨用組成物は、研磨促進剤を含んでもよい。研磨促進剤は研磨対象物を化学的に研磨する役割を担い、樹脂塗膜の外表面に作用することで著しく加工効率を高めることができる。
【0059】
研磨促進剤の具体例としては、無機酸の金属塩、有機酸の金属塩、無機酸のアンモニウム塩、及び有機酸のアンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種の塩からなるものがあげられる。
【0060】
無機酸は、硝酸、硫酸、及び塩酸のいずれであってもよい。有機酸は、シュウ酸、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリコール酸、及びマロン酸のいずれであってもよい。金属塩は、アルミニウム塩、ニッケル塩、リチウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩のいずれであってもよい。
【0061】
これらの研磨促進剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
また、研磨促進剤として酸化剤を添加してもよい。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化物、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩などがあげられる。
【0063】
(6.3)分散剤/粘度調整剤(増粘剤)
本実施形態に係る研磨用組成物は、分散剤又は増粘剤を含んでもよい。分散剤又は増粘剤は、砥粒(研磨材)を液中に均一に分散させることにより、砥粒が研磨対象物へ効率的に作用できるようにする。また、分散剤又は増粘剤が砥粒の間に存在することで、砥粒のケーキングを抑制する作用も期待できる。これにより、凝集した砥粒に起因するスクラッチの発生が抑制される。
【0064】
分散剤の具体例としては、微細な粒子を含む物質としてのコロイド状物質として、例えばコロイダルアルミナ、コロイダルシリカ、コロイダルジルコニア、コロイダルチタニア、アルミナゾル、シリカゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、ヒュームドアルミナ、フュームドシリカ、フュームドジルコニア、フュームドチタニア等があげられる。一般的に分散剤として用いられるリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等を用いてもよい。
【0065】
また、増粘剤の具体例としては、プロピレングリコール重合物、エチレングリコール重合体等のグリコール類や、高分子化合物があげられる。より具体的には、グリコール類としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。高分子化合物としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース等があげられる。
【0066】
(6.4)錯化剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、はキレート作用を有する剤(錯化剤)を含んでもよい。錯化剤は、研磨装置や研磨対象物等に由来する金属イオン等を閉じ込めるので、金属イオンによる研磨面の金属汚染を抑制し、良好な研磨面を得ることが期待できる。
【0067】
錯化剤としては、例えば、有機酸、アミノ酸、ニトリル化合物、及びこれら以外のキレート剤などがあげられる。有機酸の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等があげられる。有機酸の代わりに又は有機酸と組み合わせて、有機酸のアルカリ金属塩等の塩を用いてもよい。
【0068】
アミノ酸の具体例としては、グリシン、α-アラニン、β-アラニン、N-メチルグリシン、N,N-ジメチルグリシン、2-アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、タウリン、セリン、トレオニン、ホモセリン、チロシン、ビシン、トリシン、3,5-ジヨード-チロシン、β-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-アラニン、チロキシン、4-ヒドロキシ-プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン、シスタチオニン、シスチン、システイン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、S-(カルボキシメチル)-システイン、4-アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン、アルギニン、カナバニン、シトルリン、δ-ヒドロキシ-リシン、クレアチン、ヒスチジン、1-メチル-ヒスチジン、3-メチル-ヒスチジン、トリプトファンなどがあげられる。
【0069】
ニトリル化合物の具体例としては、例えば、アセトニトリル、アミノアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等があげられる。
【0070】
これら以外のキレート剤の具体例としては、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N,N-トリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンスルホン酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,2-ジアミノプロパン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミンジ琥珀酸(SS体)、N-(2-カルボキシラートエチル)-L-アスパラギン酸、β-アラニンジ酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-ジ酢酸、1,2-ジヒドロキシベンゼン-4,6-ジスルホン酸等があげられ
る。
これら錯化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合しても用いてもよい。
【0071】
(6.5)防食剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、防食剤を含んでもよい。防食剤は、金属表面に保護膜を形成するので、研磨装置、研磨対象物、固定治具等の腐食を防止することが期待できる。
【0072】
使用可能な防食剤は特に限定されるものではなく、例えば複素環式化合物又は界面活性剤である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。防食剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合しても用いてもよい。
【0073】
防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物があげられる。
【0074】
(6.6)防カビ剤、防腐剤
本実施形態に係る研磨用組成物は、防カビ剤、防腐剤を含んでもよい。防カビ剤、防腐剤の具体例としては、イソチアゾリン系防腐剤(例えば2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノールがあげられる。これらの防カビ剤、防腐剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
<研磨用組成物の製造方法>
本実施形態に係る研磨用組成物の製造方法は、砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを混合して、研磨用組成物を製造する工程を含む。界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である。
【0076】
このような製造方法によって、拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨対象物の表面に曇りが残りにくい研磨用組成物を製造することができる。
【0077】
なお、上記の製造方法では、あらかじめ疎水性分散媒と界面活性剤とを混合した後、水及び砥粒と混合することが好ましい。また、本発明の研磨用組成物が増粘剤、乳化安定剤等の親水性成分を含む場合は、あらかじめ、疎水性分散媒と界面活性剤とを混合して疎水性混合物を用意するとともに、水と親水性成分とを混合して親水性混合物を用意し、その後、疎水性混合物と親水性混合物と砥粒とを混合することが好ましい。
【0078】
また、本発明の研磨用組成物がpH調整剤等の他の成分を含む場合は、疎水性分散媒、界面活性剤、水、及び砥粒を混合した後、必要に応じて、pH調整剤等の他の成分を攪拌混合してもよい。
【0079】
なお、各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、例えば10℃以上40℃以下が好ましい。また、混合時間は特に制限されない。
【0080】
(砥粒の製造方法の具体例)
砥粒(二次粒子)の製造方法について、具体例を挙げてさらに説明する。上述したように、本実施形態において、砥粒は酸化アルミニウム(アルミナ)であってもよい。アルミナの製造方法は、特に限定されるものではないが、一例として酸化アルミニウム前駆体粉末などの出発原料を焼成した粉末を適宜粉砕、及び/又は分級することが挙げられる。
酸化アルミニウムの出発原料の種類及び焼成条件により、表面の凸凹度合いを含む砥粒の形状を制御することができる。
【0081】
酸化アルミニウム前駆体粉末は、水酸化アルミニウム粉末、または遷移性酸化アルミニウム相を含有する酸化アルミニウム粉末であってよい。水酸化アルミニウム粉末は、ギブサイト、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。酸化アルミニウム前駆体粉末は、ガンマ(γ)、イータ(η)、シータ(θ)、カイ(χ)、(カッパ)κ、および/またはデルタ(δ)相酸化アルミニウムを含むことができる。
【0082】
上記の酸化アルミニウム前駆体粉末を焼成することで酸化アルミニウム(アルミナ)を形成することができる。焼成方法は、特に限定されるものではないが、一例としてロータリーキルン、トンネルキルン、電気炉、マッフル炉、エレベータキルン、またはプッシャーキルンを使用することができる。焼成条件は、焼成温度は、約700~1600℃であり、焼成時間は、約1~48時間であり得る。これにより、好適なα化率を有するα-アルミナを得ることができる。焼成温度が高いほど、また焼成時間が長いほど表面の凸凹度合いが小さくなる、すなわち比表面積が小さくなる傾向がある。
【0083】
焼成されたアルミナ粉末を、適宜粉砕及び分級することにより、所望の粒子径分布を有するアルミナを得ることができる。粉砕、分級は湿式または乾式プロセスで行うことができる。
【0084】
粉砕方法の例として、ローラーミル、ジェットミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミルを含む様々な装置を使用することができる。各装置において、例えば粉砕時間などの粉砕条件を変更することで所望の粒度分布を有するアルミナを得ることができる。
【0085】
分級方法の例として、フィルタリング(ろ過)、ふるい分け法、気流分級法、水簸式分級、重量分級法、慣性分級法、遠心分級法を含む様々な方法を使用することができる。フィルタリングの例として、粗ろ過、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透を含む様々なろ過手法を使用することができる。フィルタリングに用いるフィルターとしては、例えばメッシュフィルター、デプスフィルター、メンブレンフィルターが挙げられる。フィルタリングにおいて、ろ過時間、ろ過速度、及びろ過精度によって、粉末の粒度分布を制御することができる。例えば、ろ過精度は0.1~300μmであり得る。
【0086】
上述した焼成方法、粉砕方法、及び分級・フィルタリング方法の1以上を適宜選択、及び/又は組み合わせるとともに夫々の条件を制御することにより所望の粒度分布及び比表面積を有するアルミナを得ることができる。
【0087】
<研磨対象物>
本実施形態に係る研磨対象物は、特に制限されないが、合金材料、樹脂材料、金属、半金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、半金属酸化物、半金属炭化物、半金属窒化物、及びガラス材料からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、さらにこれら材料の複合材料であってもよい。特に、自動車のボディー等の塗装面に用いられる樹脂材料(樹脂塗膜)が好ましい。
【0088】
樹脂塗膜の種類は特に限定されるものではないが、樹脂塗膜を構成する樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂であることが好ましく、樹脂の種類はウレタン樹脂、アクリル樹脂の単独、及び、それらの混合であっても良い。さらに樹脂塗膜は、透明なクリア塗膜であってもよい。また、樹脂塗膜の厚さは特に限定されるものではないが、100μm以下としてもよく、10μm以上40μm以下としてもよい。樹脂は乾燥温度により硬度が調整可能であり、一般的に60℃付近の乾燥温度であれば軟らかく、140℃付近の乾燥温度であれば硬くなり得る。このような樹脂塗膜のバフ研磨加工に本実施形態に係る研磨用組成物を適用すれば、加工効率を向上しつつ研磨後の拭き取り性の改善を実現することができる。
【0089】
本実施形態の研磨用組成物は、基材の表面に樹脂塗膜が被覆されてなる塗装部材の製造に使用することができる。本実施形態の研磨用組成物を用いて塗装部材の樹脂塗膜の外表面を研磨すれば、拭き取りまでに時間を置いた場合でも、研磨対象物の表面に曇りが残りにくく、美しい光沢を有する樹脂塗膜を備える塗装部材を製造することが可能である。
【0090】
なお、塗装部材の種類(すなわち樹脂塗膜の用途)は自動車のボディーに限定されるものでない。塗装部材の種類は特に限定されず、例えば、鉄道車両、航空機、樹脂製部材などが挙げられる。
【0091】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法は、上記研磨用組成物又は上記の製造方法により得られた研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む。
【0092】
研磨対象物を研磨する工程では、例えば、研磨対象物である樹脂塗膜の表面に研磨用組成物を供給し、研磨用組成物が供給された表面に研磨バフを接触させて研磨する。研磨バフとして、例えば、ウールバフ又はスポンジバフ、もしくはその両方が用いられる。
【0093】
研磨装置の構成は特に限定されるものではなく、作業者が手で持つことができるポリッシャー(以下、ハンドポリッシャともいう)や片面研磨機、両面研磨機、レンズ研磨機、縦型電動研磨機、グラインダー等の一般的な研磨装置、又は、自動研磨装置であってもよい。
【0094】
ハンドポリッシャを用いる場合は、作業者が手作業でハンドポリッシャを動かして、研磨対象物(例えば、樹脂塗膜)の表面を研磨する。ハンドポリッシャの駆動手段は特に限定されないが、一般的にシングルアクション、ダブルアクション、ギアアクション等が用いられ、樹脂塗膜の研磨ではダブルアクションが好まれる。
【0095】
自動研磨装置を用いる場合は、自動研磨装置がコントローラの制御下でロボットアームを動かして、研磨対象物(例えば、樹脂塗膜)の表面を研磨する。
【0096】
<研磨装置>
図1は、本発明の実施形態において使用される研磨装置の一例を示す図である。
図1の自動研磨装置1は、ロボットアーム2と、研磨バフ10と、研磨工具4と、押圧力検出部5と、コントローラ7と、を備える。ロボットアーム2は、複数の関節20、21、22を有しているため、研磨バフ10、研磨工具4、及び押圧力検出部5が取り付けられた先端部23を複数方向に移動させることができる。研磨対象物90は、例えば、表面に樹脂塗膜が被覆された自動車等の車体である。
【0097】
研磨工具4は、押圧力検出部5を介して先端部23に取り付けられており、内蔵する駆動手段により、研磨バフ10の研磨面10aに垂直な方向を回転軸として研磨バフ10を回転させる。コントローラ7は、ロボットアーム2の挙動と、研磨工具4による研磨バフ10の回転とを制御する。図示しない研磨用組成物供給機構からは、研磨バフ10の研磨面10aと研磨対象物90の樹脂塗装面との間に研磨用組成物が供給されるようになっている。
【0098】
コントローラ7は、ロボットアーム2によって研磨バフ10の研磨面10aを研磨対象物90の樹脂塗装面に押し付け研磨バフ10を回転させることによって、樹脂塗装面を研磨する。押圧力検出部5は、樹脂塗装面に対する研磨バフ10の研磨面10aの押圧力を検出する。コントローラ7は、押圧力検出部5による押圧力の検出結果に基づいて、研磨面10aを樹脂塗装面に押し付ける力の調整を行ってもよい。また、コントローラ7は、押圧力検出部5による押圧力の検出結果に基づいて、樹脂塗装面に対する研磨面10aの押圧力を一定にしたまま、樹脂塗装面上を研磨バフ10が移動するように、ロボットアーム2を制御してもよい。
【0099】
研磨バフ10の材質は特に限定されるものではなく、一般的な不織布、スウェード、ウールバフ、織布、ポリウレタン発泡体、ポリエチレン発泡体、多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨バフ10は、液状の研磨用組成物が溜まるような溝が研磨面10aに設けられているものを使用することができる。
【0100】
<実施例>
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例及び比較例は、室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度30%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。
【0101】
表1に、本発明の実施例及び比較例に係る研磨用組成物の構成と、研磨後の樹脂塗膜への固着物の有無とを示す。
(実施例1~5および比較例1~6の研磨用組成物の調製)
疎水性分散媒16質量%(以下、wt%)に、界面活性剤を0.8wt%加え、疎水性分散媒の溶液を調製した。次いで、水に、ポリアクリル酸系高分子(増粘剤)1.0wt%およびグリセリン(乳化安定剤)2.0wt%を混合し、その溶液を疎水性分散媒の溶液に加えて室温(25℃)で攪拌し、その後、表1に示される砥粒を12wt%加えた。得られた分散液に、防腐剤を加え、アルカリとして水酸化ナトリウムを加えてpH9.0に調整し、O/W型エマルションの実施例1~5及び比較例1~6の研磨用組成物を作成した。なお、表1中、-が付された欄は、データ無しを意味する。
【0102】
また、表1中、R部分の構造とはポリオキシエチレンアルキルエーテル中のアルキルエーテル部分の構造を示し、式(i)においてはRに対応する。また、表1中、平均付加モル数は、オキシエチレン(C
2H
4O)、又はオキシアルキレンの平均付加モル数を示し、式(i)においてはnに対応する。
【表1】
【0103】
実施例1~5及び比較例1~6において、砥粒及び疎水性分散媒は、下記のものを使用した。
【0104】
(砥粒)
砥粒として、組成が酸化アルミニウム、α化率が95%、平均二次粒子径(D50)が0.8μm、(D10-D90)/D50が1.1、及び比表面積が14.1m2/gである砥粒を使用した。
なお、酸化アルミニウム粒子のα化率の測定は、X線解析装置(Ultima-IV、株式会社リガク製)を使用し、基準物質として、焼成温度が十分に高くα化が十分に進行している市販のαアルミナ単結晶粒子(α化率:100%)を用いた。基準物質及び対象となる砥粒(酸化アルミニウム粒子)のX線回折測定による(113)面回折線の積分強度を測定し、基準物質に対する対象となる砥粒の(113)面回折線の積分強度比により、対象となる砥粒(酸化アルミニウム粒子)のα化率を算出した。
【0105】
また、砥粒の平均二次粒子径(D50)、D10、及びD90は、Multisizer 3(ベックマン・コールター株式会社製)を用い、細孔電気抵抗法により測定した。砥粒の比表面積は、Macsorb HM model-1201(株式会社マウンテック製)を用い、BET法により測定した。
【0106】
(疎水性分散媒)
疎水性分散媒として、次のようなものを使用した。鉱油由来の合成炭化水素(イソパラフィン系炭化水素)であり、引火点:63℃(密閉法)、ベンゼン系有機溶剤およびハロゲン系有機溶剤の合計含有量0.5質量%以下、蒸気圧0.05kPa(分子量170)である疎水性分散媒。なお蒸気圧は20℃の時の値である。
【0107】
(研磨対象物)
研磨対象物として、鋼板の表面に合成樹脂塗料で塗装されたクリア塗膜を有する複合材料であり、60℃で焼き付けを実施したものを使用した。焼き付け実施後のクリア塗膜の鉛筆硬度はFである。
【0108】
(研磨機)
研磨機として、ダブルアクションポリッシャLHR12E(ルペス社製)を使用した。
【0109】
(研磨条件)
研磨条件は、以下の通りである。
・研磨バフ:スポンジバフ
・押しつけ荷重:4kg
・ポリッシャの回転数:5300rpm
・研磨線速度:200m/分
・研磨用組成物の流量:0.6g/30秒
・研磨時間:30秒
・研磨面積:400×600mm
(洗浄、拭き取り)
【0110】
実施例1~5及び比較例1~6に係る研磨用組成物の拭き取り性を評価するために、以下のステップ1~6の順で、洗浄処理及び拭き取り処理を行った。その後、拭き取り性の評価を行った。
・ステップ1
上記研磨条件にて研磨対象物の表面を縦方向に研磨した後で1時間放置し、その後、水をかける(濡らす程度)。
・ステップ2
容器に入った25倍希釈の洗浄液を泡立てる。
・ステップ3
羊毛製の柔らかい布地を上記容器に浸して洗浄液を十分に染み込ませる。洗浄液を十分に染み込ませた上記布地を研磨対象物の表面に接触させて、洗浄液を泡立てながら軽く擦り、研磨対象物の表面を軽く洗浄する。
・ステップ4
研磨対象物の表面を水洗して、洗浄液を洗い流す。
・ステップ5
研磨対象物の表面にエアーを吹きかけて水気を除去する。
・ステップ6
研磨対象物の表面を布地で軽く拭き取る。
【0111】
(拭き取り性の評価)
本発明者は、上記ステップ1から6の処理を行った後で、研磨対象物の表面に白い曇り(固着物)有無を目視で確認することで、拭き取り性の評価を行った。目視で白い曇り(固着物)を確認できない場合は研磨用対象物の表面(すなわち、クリア塗膜)への固着物無し(良好:〇)と判定した。また、目視で白い曇り(固着物)を確認できた場合は研磨用対象物の表面(すなわち、クリア塗膜)への固着物有り(不良:×)と判定した。
【0112】
表1に示すように、実施例1~5では、いずれも固着物無しであり、拭き取り性は良好:〇であった。一方、比較例1~6では、いずれも固着物有りであり、拭き取り性は不良:×であった。
【0113】
(安定性の評価)
本発明者は、拭き取り性の判定結果が良好である実施例1~5に係る研磨用組成物について、安定性の評価を行った。ここで、安定性とは、研磨用組成物において水分と油分とが均一に混ざりあっている状態(すなわち、乳化状態)を維持することを意味する。研磨用組成物を製造した後で一定時間経過後に、目視で乳化状態を維持している場合は安定性あり(良好:〇)と判定し、目視で乳化状態を維持していない(すなわち、水層と油層とに分離している)場合は安定性なし(不良:×)と判定した。
【0114】
表1に示すように、実施例1~5では、いずれも乳化状態を維持しており、安定性あり(良好:〇)であった。
【0115】
<その他の実施形態>
上記のように、本技術は実施形態及び実施例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本技術を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本技術はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態及び実施例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0116】
なお、本発明は、以下のような構成も取ることができる。
(1)
砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを含み、
前記界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、
前記式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である、研磨用組成物。
(2)
前記平均付加モル数nは5以上15以下である、前記(1)に記載の研磨用組成物。
(3)
前記界面活性剤の水と油への親和性を示すHLB値は、10以上16以下である、前記(1)又は(2)に記載の研磨用組成物。
(4)
前記砥粒は、当該研磨用組成物の全質量に対して、5質量%以上30質量%以下で含有される、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
(5)
前記砥粒は、酸化アルミニウムを含む、前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
(6)
前記酸化アルミニウムのα化率は、50%以上100%以下である前記(5)に記載の研磨用組成物。
(7)
前記疎水性分散媒は、
ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及びテルペン系炭化水素からなる群より選択される少なくとも一種を含み、かつ、
引火点が30℃以上100℃以下である、前記(1)から(6)のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
(8)
前記疎水性分散媒は、20℃における蒸気圧が0.004kPa以上2kPa以下である、前記(1)から(7)のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
(9)
砥粒と、疎水性分散媒と、水と、界面活性剤とを混合して、研磨用組成物を製造する工程を含む研磨用組成物の製造方法であって、
前記界面活性剤は、式(i)RO-(C2H4O)n-Hで表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、
前記式(i)において、Rは炭素数12以上20以下の分岐鎖のアルキル基であり、nはオキシエチレンの平均付加モル数を表し、3以上50以下である、研磨用組成物の製造方法。
(10)
前記(1)から(8)のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
(11)
前記研磨対象物は、樹脂材料、合金材料、及びガラス材料からなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記(10)に記載の研磨方法。
(12)
前記研磨対象物を研磨する工程では、
前記研磨対象物の表面に前記研磨用組成物を供給し、前記研磨用組成物が供給された前記表面に研磨バフを接触させて研磨する、前記(10)又は(11)に記載の研磨方法。
【符号の説明】
【0117】
1 自動研磨装置
2 ロボットアーム
4 研磨工具
5 押圧力検出部
7 コントローラ
10 研磨バフ
10a 研磨面
20、21、22 関節
23 先端部
90 研磨対象物