(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143703
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】抗菌性を有する物品
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20241003BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20241003BHJP
A61M 39/16 20060101ALI20241003BHJP
A61L 2/23 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
A61M39/16
A61L2/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056497
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】富安 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】乾 洋治
(72)【発明者】
【氏名】内山 茂
(72)【発明者】
【氏名】礒島 隆史
(72)【発明者】
【氏名】中村 振一郎
【テーマコード(参考)】
4C058
4C066
4F071
4F209
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB02
4C066AA09
4C066GG01
4C066GG20
4C066KK14
4F071AA67
4F071AF52
4F071AH19
4F071BB01
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC08
4F071BC15
4F209AA33
4F209AE10
4F209AF01
4F209AG05
4F209AG08
4F209AH63
4F209PA02
4F209PB01
4F209PC05
4F209PN09
4F209PQ11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】摩擦や外力により変形しにくい立体構造を表面に備えることによって、その表面において抗菌性を発現する物品を提供すること。
【解決手段】表面上に、複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有する物品において、物品の表面に対して垂直、又は略垂直方向における、基準面1、凸部の頂面2、及び凹部の底面3の位置を互いに異ならせ、基順面1の外周が他の基準面1の外周と接せず、凸部の頂面2の外周が他の凸部の頂面2の外周と接せず、凹部の底面3の外周が他の凹部の底面3の外周と接しないようにし、基準面1、凸部の頂面2、及び凹部の底面3の径を、それぞれ所定の範囲内の径とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に、複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有する物品であって、
前記物品において、前記表面に対して垂直、又は略垂直方向であって表面から前記物品の内部に向かう方向が下方であり、前記下方とは反対の方向が上方であり、
前記凸部の頂面は、前記基準面に対して上方に位置し、
前記凹部の底面は、前記基準面に対して下方に位置し、
前記領域を前記表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、以下の1)~8):
1)前記領域内に、複数の前記基準面と、複数の前記凸部の頂面と、複数の前記凹部の底面とが観察され、
2)前記基準面が、1以上の前記凸部の頂面、及び/又は1以上の前記凹部の底面で囲まれ、
3)前記凸部の頂面が、1以上の前記基準面、及び/又は1以上の前記凹部の底面で囲まれ、
4)前記凹部の底面が、1以上の前記基準面、及び/又は1以上前記凸部の頂面で囲まれ、
5)いずれの前記基準面においても、前記基順面の外周が他の前記基準面の外周と接しておらず、
6)いずれの前記凸部の頂面においても、前記凸部の頂面の外周が他の前記凸部の前記頂面の外周と接しておらず、
7)いずれの前記凹部の底面においても、前記凹部の底面の外周が他の前記凹部の底面の外周と接しておらず、
8)前記基準面の円相当径の数平均径L1と、前記凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、前記凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも0.2μm以上200μm以下である、
との条件を満たす、物品。
【請求項2】
前記領域を前記表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、前記基準面の円相当径の数平均径L1と、前記凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、前記凹部の底面の円相当径の数平均径L3とのうちの少なくとも1つが、1μm以上100μm以下の範囲内である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記領域を前記表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、前記基準面の円相当径の数平均径L1と、前記凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、前記凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも1μm以上100μm以下の範囲内である、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記凹部の底面に対する前記基準面の高さと、前記基準面に対する前記凸部の頂面の高さとが、それぞれ0.5μm以上500μm以下の範囲内である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記領域を前記表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、前記基準面の形状、前記凸部の頂面の形状、及び前記凹部の底面の形状が、いずれも多角形形状、又は略多角形形状である、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記領域を前記表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、前記基準面の形状、前記凸部の頂面の形状、及び前記凹部の底面の形状が、いずれも六角形、又は略六角形である、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
シートであって、前記シートの少なくとも一方の主面上に前記領域を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
シートであって、前記シートの一方の主面上に前記領域を有し、
前記領域を有する主面とは反対の主面上に粘着剤層を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
チューブであって、前記チューブの内面、及び/又は外面に前記領域を備える、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
請求項9に記載の物品としての前記チューブを備えるカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その表面に複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有することで抗菌性を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新型コロナウイルス感染症の世界的な爆発的な流行をきっかけに、消費者の衛生意識が急激に高まっている。かかる事情から、表面が抗ウイルス処理された製品のみならず、表面が抗菌化処理された製品に対するニーズも増加している。特に、ドアや窓等の建築部材、水栓やシャワーヘッド等の水回り製品、冷蔵庫等の家電製品、キーボードやマウス等のコンピューター備品、及びスマートーフォンやタブレット端末等のような情報通信機器のような日常的に人の手に触れる各種製品や、医療用機器等において、表面の抗菌化のニーズは大きい。
【0003】
種々の物品の表面に抗菌性を付与する方法として、例えば、以下の方法が提案されている。特許文献1には、ナノメートルオーダーのサイズの細く尖った微小突起を物品の表面に密集して設けることによって抗菌性が付与された物品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される抗菌性物品が備える突起は、非常に細く尖っている。このため、突起の強度が低く、物品の表面が摩擦されたり、押圧されたりすることにより、突起が変形して抗菌性が損なわれやすい。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであって、摩擦や外力により変形しにくい立体構造を表面に備えることによって、その表面において抗菌性を発現する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、表面上に、複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有する物品において、底面の物品の表面に対して垂直、又は略垂直方向における、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の位置が互いに異なっており、基準面の外周が他の基準面の外周と接せず、凸部の頂面の外周が他の凸部の頂面の外周と接せず、凹部の底面の外周が他の凹部の底面の外周と接しておらず、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の径が、それぞれ所定の範囲内の径であることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 表面上に、複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有する物品であって、
物品において、表面に対して垂直、又は略垂直方向であって表面から物品の内部に向かう方向が下方であり、下方とは反対の方向が上方であり、
凸部の頂面は、基準面に対して上方に位置し、
凹部の底面は、基準面に対して下方に位置し、
領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、以下の1)~8):
1)領域内に、複数の基準面と、複数の凸部の頂面と、複数の凹部の底面とが観察され、
2)基準面が、1以上の凸部の頂面、及び/又は1以上の凹部の底面で囲まれ、
3)凸部の頂面が、1以上の基準面、及び/又は1以上の凹部の底面で囲まれ、
4)凹部の底面が、1以上の基準面、及び/又は1以上凸部の頂面で囲まれ、
5)いずれの基準面においても、基順面の外周が他の基準面の外周と接しておらず、
6)いずれの凸部の頂面においても、凸部の頂面の外周が他の凸部の頂面の外周と接しておらず、
7)いずれの凹部の底面においても、凹部の底面の外周が他の凹部の底面の外周と接しておらず、
8)基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも0.2μm以上200μm以下である、
との条件を満たす、物品。
【0009】
(2) 領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とのうちの少なくとも1つが、1μm以上100μm以下の範囲内である、(1)に記載の物品。
【0010】
(3) 領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも1μm以上100μm以下の範囲内である、(2)に記載の物品。
【0011】
(4) 凹部の底面に対する基準面の高さと、基準面に対する凸部の頂面の高さとが、それぞれ0.5μm以上500μm以下の範囲内である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の物品。
【0012】
(5) 領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、基準面の形状、凸部の頂面の形状、及び凹部の底面の形状が、いずれも多角形形状、又は略多角形形状である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の物品。
【0013】
(6) 領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、基準面の形状、凸部の頂面の形状、及び凹部の底面の形状が、いずれも六角形、又は略六角形である、(5)に記載の物品。
【0014】
(7) シートであって、当該シートの少なくとも一方の主面上に前述の領域を有する、(1)~(6)のいずれか1つに記載の物品。
【0015】
(8) シートであって、当該シートの一方の主面上に前述の領域を有し、
前述の領域を有する主面とは反対の主面上に粘着剤層を有する、(1)~(6)のいずれか1つに記載の物品。
【0016】
(9) チューブであって、当該チューブの内面、及び/又は外面に前述の領域を備える、(1)~(6)のいずれか1つに記載の物品。
【0017】
(10) (9)に記載の物品としてのチューブを備えるカテーテル。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、摩擦や外力による変形しにくい立体構造を表面に備えることによって、その表面において抗菌性を発現する物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の好ましい配置の例を示す図である。
【
図2】領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の好ましい配置の例を示す図である。
【
図3】領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の好ましい配置の例を示す図である。
【
図4】領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の好ましい配置の例を示す図である。
【
図5】72時間の培養に供された、実施例2のシリコーン樹脂シートの試料を実体顕微鏡により観察した画像を示す図である。
【
図6】72時間の培養に供された、比較例1のシリコーン樹脂シートの試料を実体顕微鏡により観察した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪物品≫
物品は、表面上に、複数の基準面と、複数の凸部と、複数の凹部とを備える領域を有する。かかる物品において、前述の領域上での微生物のコロニー形成が抑制され、バイオフィルムの形成が阻害される。つまり、物品の表面は抗菌性を有する。物品の具体的な構成については詳細に後述する。
【0021】
上記の物品において、表面に対して垂直、又は略垂直方向であって表面から物品の内部に向かう方向が下方と定義される。また、下方とは反対の方向が上方と定義される。
【0022】
上記凸部の頂面は、基準面に対して上方に位置する。上記凹部の底面は、基準面に対して下方に位置する。つまり、物品の表面の領域には、凹部の底面、基準面、及び凸部の頂面が、下方から上方に向けて、この順で存在する。
【0023】
基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面は、それぞれ平面であるのが好ましい。
しかし、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面は、所望する効果が損なわれない範囲において、曲面を含んでいてもよい。基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面が曲面を含む場合、各面の最も下方の位置を、当該面の位置とする。
【0024】
基準面、凸部、及び凹部は、領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、以下の1)~8)の条件を満たすように領域内に設けられる。
1)領域内に、複数の基準面と、複数の凸部の頂面と、複数の凹部の底面とが観察される。
2)基準面が、1以上の凸部の頂面、及び/又は1以上の凹部の底面で囲まれる。
3)凸部の頂面が、1以上の基準面、及び/又は1以上の凹部の底面で囲まれる。
4)前記凹部の底面が、1以上の前記基準面、及び/又は1以上前記凸部の頂面で囲まれる。
5)いずれの基準面においても、基順面の外周が他の基準面の外周と接していない。
6)いずれの凸部の頂面においても、凸部の頂面の外周が他の凸部の頂面の外周と接していない。
7)いずれの凹部の底面においても、凹部の底面の外周が他の凹部の底面の外周と接していない。
8)基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも0.2μm以上200μm以下である。
【0025】
上記の所定の条件を満たす領域に設けられた立体構造では、先端が尖った突起ではなく、ある程度の広がりを有する上記の凸部の頂面が露出しているため、摩擦や外力によって、上記の立体構造が変形しにくい。
【0026】
物品が、その表面上に、基準面、凸部、及び凹部を上記の1)~8)の条件を満たすように備える領域を有することで、領域上において抗菌性が発現する。以下、抗菌性が発現する理由について説明する。
【0027】
基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とは、いずれも0.2μm以上200μm以下である。従って、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の面積はある程度狭い。このため、基準面、凸部、及び凹部のそれぞれにおいて菌のコロニーが成長しにくい。
【0028】
基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面のうちの2つの面には段差がある。このため、基準面、凸部の頂面、又は凹部の底面から他の面にコロニーの成長が広がったり、基準面、凸部の頂面、又は凹部の底面上のコロニーと、他の面上のコロニーとが一体化して成長したりしにくい。
【0029】
また、領域内において、基準面の外周が他の基準面の外周と接しておらず、凸部の頂面の外周が他の凹部の頂面の外周と接しておらず、凸部の底面の外周が他の凸部の底面の外周に接していない。このため、上記の領域では、同じ高さに位置する同種の複数の面にコロニーの成長が広がったり、同じ高さに位置する同種の複数の面上の複数のコロニーが一体化して成長したりしにくい。
以上の理由により、上記の物品では、上記の領域上に菌が付着しても、大きなコロニーが形成したり、コロニー同士の一体化が生じにくい。その結果、バイオフィルムの形成も妨げられる。
【0030】
前述の、基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とのうちの少なくとも1つが、1μm以上100μm以下の範囲内であるのが好ましく、5μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
また、基準面の円相当径の数平均径L1と、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2と、凹部の底面の円相当径の数平均径L3とが、いずれも1μm以上100μm以下の範囲内であり、5μm以上60μm以下であるのが好ましい。
【0031】
凹部の底面に対する基準面の高さと、基準面に対する凸部の頂面の高さとは、それぞれ0.5μm以上500μm以下の範囲内であるのが好ましく、1μm以上100μm以下の範囲内であるのがより好ましく、1.5μm以上50μm以下の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0032】
凹部の底面に対する基準面の高さを、上記のL1で除した値、又は基準面に対する凸部の頂面の高さを上記のL2で除した値であるアスペクト比は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
アスペクト比は、例えば0.01以上50以下が好ましく、0.02以上30以下がより好ましく、0.03以上10以下がさらに好ましい。
【0033】
領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の形状は、上記の1)~8)の条件を満たすように領域が形成される限り特に限定されない。
領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合に、基準面の形状、凸部の頂面の形状、及び凹部の底面の形状が、いずれも多角形形状、又は略多角形形状であるのが好ましい。略多角形形状としては、例えば、多角形の頂点の部分が円みをおびた形状や、多角形を構成する辺がわずかに湾曲している形状等が挙げられる。
多角形は、凸多角形であっても、凹多角形でもよく、凸多角形が好ましい。
領域に形成される立体構造の機械的な強度や、領域における立体構造の形成の容易さの点等から、領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の形状は、いずれも六角形、又は略六角形であるのが好ましい。
【0034】
以下、領域を表面の面方向に対して垂直方向から観察した場合の、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面の好ましい配置の例について、
図1~4を参照して説明する。
【0035】
図1には、同じサイズの正六角形が隙間なく配置されたパターンが示される。より具体的には、
図1において、正六角形の基準面1と、正六角形の凸部の頂面2と、正六角形の凹部の底面3とが、同種の面の外周同士が接触しないように隙間なく配置されている。
図1に示されるパターンを有する領域は、立体構造の機械的な強度や、領域における立体構造の形成の容易さの点等から好ましい。
【0036】
図2には、同じサイズの長方形が隙間なく配置されたパターンが示される。より具体的には、
図1において、長方形の基準面1と、長方形の凸部の頂面2と、長方形の凹部の底面3とが、同種の面の外周同士が接触しないように隙間なく配置されている。
【0037】
図3には、2種の十字形と、1種の正方形とが隙間なく配置されたパターンが示される。より具体的には、
図1において、十字形の基準面1と、十字形の凸部の頂面2と、正方形の凹部の底面とが、同種の面の外周同士が接触しないように隙間なく配置されている。
【0038】
図4に示されるパターンでは、正三角形の頂点に位置するように配置された3つの円形の基準面1からなるパターンが繰り返されている。
図4に示されるパターンは、前述の円形の基準面1と、前述の正三角形の中心部に3つの基準面1と重なるように配置された円形の凸部の頂面2と、基準面1と凸部の頂面2との間を埋めるように配置された凹部の底面3とからなる。
【0039】
上記の領域における、基準面1、凸部の頂面2、及び凹部の底面3の配置パターンは、
図1~
図4に示されるパターンには限定されない。
【0040】
物品の表面の材質は、基準面、凸部、及び凹部を備える立体構造を形成できる限り特に限定されない。
後述するように、上記の立体構造を表面に備えるシートが提供され得る。かかるシートを、物品の表面に貼り付けて物品の表面に上記の立体構造を設ける場合、物品の表面の材質は限定されない。
物品の材質の好適な例としては、種々のポリマー、ガラス、セラミック、及び金属等が挙げられる。
【0041】
物品の表面の材質がポリマーである場合、例えば、インプリント法により物品の表面に上記の立体構造を形成できる。
物品の表面の材質が熱可塑性樹脂である場合、加熱により樹脂が軟化した状態で、上記の立体構造を転写するためのモールドを軟化した樹脂に押し当てることで、物品の表面に上記の立体構造を形成できる。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されない。熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリカーボネート(PC)、及び変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等が挙げられる。
【0042】
また、物品の表面の材質が、硬化性樹脂の硬化物からなる場合、物品の表面に配置された未硬化の硬化性樹脂を含む原料に対して、上記の立体構造を転写するためのモールドを押し当てた状態で、加熱、又は露光により未硬化の硬化性樹脂原料を硬化させることで、物品の表面に上記の立体構造を形成できる。
【0043】
硬化性樹脂組成物としては特に限定されない。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレートが挙げられる。
光硬化性樹脂としては、アクリロイル基や(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物のような不飽和化合物を含む単量体と、感光性硬化剤とを組み合わせて含む組成物の硬化物や、エポキシ樹脂(エポキシ化合物)と、感光性硬化剤とを組み合わせて含む組成物の硬化物が挙げられる。
【0044】
水分硬化型の組成物の硬化物を硬化性樹脂として用いることもできる。水分硬化型の組成物としては、加水分解性縮合性のシラン化合物や、加水分解によりシラノール基を生成させ得る反応性シリル基を有する樹脂を含む組成物が挙げられる。
【0045】
触媒硬化型の組成物の硬化物を硬化性樹脂として用いることもできる。触媒硬化型の組成物としては、Si-H結合を有するヒドロシリル基を有する化合物と、炭素-炭素不飽和結合含有基を有する化合物との間でのヒドロシリル化反応により硬化する組成物が挙げられる。典型的には、ヒドロシリル基含有シリコーン樹脂と、ビニル基含有シリコーン樹脂と、ヒドロシリル化触媒とを含む組成物が使用される。ヒドロシリル化触媒は特に限定されないが、種々の白金化合物が好ましく使用される。
【0046】
上記のインプリント法において用いるモールドは、基準面、凸部、及び凹部のサイズに応じた好ましい方法により製造される。
モールドの材質は、インプリントを行う際に、モールドが容易に破損したり、変形したりしない限り特に限定されない。
モールドの材質としては、典型的には、金属、ガラス、セラミック、ポリマー等が挙げられる。
例えば、エキシマレーザー等を用いるレーザー加工法を用いる場合、モールドの材質によらず、物品の表面に形成される立体構造に応じた形状の立体構造を微細加工により製造できる。
【0047】
モールドの材質が、金属やセラミックである場合、感光性組成物を用いてフォトリソグラフィー法により形成されたエッチングマスクを用いて金属やセラミックをエッチングすることにより、モールドを形成することができる。
【0048】
また、感光性組成物を用いるフォトリソグラフィー法により、基材上に物品の表面に形成される立体構造に応じた形状の立体構造を形成してモールドを形成することもできる。フォトリソグラフィー法では、感光性組成物の塗布と、感光性組成物からなる塗布膜への位置選択的な露光と、露光された塗布膜との現像が行われる。感光性組成物としては、露光により現像液に対して不溶化するネガ型の組成物、及び露光により現像液に対して可溶化するポジ型の組成物のいずれも使用できる。塗布、露光、及び現像については、いずれも周知のフォトリソグラフィー法において採用されている方法を適宜適用できる。
【0049】
さらに、3Dプリンティング法により、基材上に物品の表面に形成される立体構造に応じた形状の立体構造を形成してモールドを形成することもできる。3Dプリンティング法は、基準面の円相当径の数平均径L1、凸部の頂面の円相当径の数平均径L2、及び凹部の底面の円相当径の数平均径L3が10μm以上や20μm以上である場合に特に有用である。3Dプリンティング用のインクとしては、十分な強度を備えるモールドを形成できる限り特に限定されない。3Dプリンティング用のインクは、例えば、光硬化性のインクであっても、熱硬化性のインクであっても、樹脂の溶液のような溶媒が揮発することにより固化、賦形されるインクであってもよい。
【0050】
なお、レーザー加工法、エッチング法、フォトリソグラフィー法、及び3Dプリンティング法等の方法により、物品の表面に直接上記の立体構造を形成することも可能である。しかし、上記のインプリント法のほうが、レーザー加工法、エッチング法、フォトリソグラフィー法、及び3Dプリンティング法等の方法よりも短時間で、大量に物品を製造できる。その結果、低コストで物品を製造できる。
【0051】
物品の形状が、シートやフィルムのような所謂ロールトゥロール法を適用可能な形状である場合、外表面に、物品の表面に形成される立体構造に応じた形状の立体構造が形成されたロール型のモールドが使用される。
【0052】
基準面、凸部、及び凹部のサイズがある程度大きい場合、熱可塑性樹脂等を用いる射出成形によって、表面に上記の立体構造を備える物品を製造し得る。この場合、金型の、物品中の上記の領域に該当する位置に、上記の立体構造を転写するための立体構造が形成される。
射出成形に用いられる金型に立体構造を形成する方法としては、上記のレーザー加工法やエッチング法等が挙げられる。
【0053】
上記の物品としては、例えば、シートが好ましい。当該シートは、少なくとも一方の主面上に前述の領域を有する。
また、一方の主面上に前述の領域を有し、前述の領域を有する主面とは反対の主面上に粘着剤層を有するシートも好ましい。粘着剤層としては特に限定されない。従来から種々の粘着シートにおいて採用されている粘着剤層から、適宜粘着剤層を選択できる。
これらのシートは、好ましくは、表面への抗菌性の付与が望まれる物品の表面に貼り付けらて使用される。
【0054】
上記の物品として、内面、及び/又は外面に前述の領域を備えるチューブも好ましい。かかるチューブは、例えば、射出成型等の方法により製造され得る。かかるチューブは例えば、カテーテルを構成するチューブとして好ましく使用される。
【0055】
上記の他に好ましい物品としては、エアーコンディショナー、空気清浄機、冷蔵庫、洗濯機、電話機、掃除機、電子レンジ、炊飯器、マッサージ機、電動歯ブラシ、及び電気カミソリ等の家庭用電気製品;プリンター、ファクシミリ、及び複合機等のOA機器;キーボード、及びマウス等のコンピューター備品;スマートーフォン、タブレット端末、ノート型パソコン等の情報通信端末;ドア、窓、及び手すり等の建築部材;哺乳瓶、及び乳幼児用玩具等の乳幼児用の製品;ペット用トイレ、ケージ、給餌容器、給水容器、給餌装置、及び給水装置等のペット用品;水栓、洗面台、流し台天板、及びキッチン用シンク等の水回り製品;シャワーヘッド、シャワー用ホース、浴槽、浴槽用の蓋、風呂桶、浴室用壁材、及び浴室用床材等の浴室用製品;内視鏡、及び酸素マスク等の医療用の物品が挙げられる。
これらの物品の抗菌性が望まれる部位に、前述の領域が直接形成されてもよい。これらの物品の抗菌性が望まれる部位に、前述のシートが貼り付けられてもよい。
【0056】
以上説明した物品では、上記の所定の領域上において、菌のコロニーの成長が抑制されるとともに、バイオフィルムの形成も抑制される。
以上説明した物品は、物品の表面上においてコロニーを形成し得るあらゆる菌に対して良好な抗菌性能を発現する。
例えば、上記の物品の表面における前述の領域は、大腸菌、黄色ブドウ球菌(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む)、緑膿菌、肺炎球菌、種々の食中毒菌(サルモネラを含む)、及びレジオネラ菌に対する抗菌性を示す。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施例には何ら限定されない。
【0058】
〔実施例1〕
実施例1において、それぞれ正六角形である、基準面、凸部の頂面、及び凹部の底面が
図1に示されるように配置された、領域を備えるシートを作成した。正六角形の最長の対角線の長さが10μmである。
【0059】
(モールドパターンの製造)
26mm×26mmの正方形型のガラス基板上に、ポジ型レジスト(AZ-1500-38cP、メルク社製)を5000rpmで30秒スピンコートして、膜厚1.8μmの塗布膜を形成した。ガラス基板は、市販のスライドガラスを切断して得た。
塗布膜を、80℃、30分間プレベークした。ベークされた塗布膜に対して、第1層目のハニカムパターンを露光した。露光は、マスクレス露光方式の露光装置(D-light-CL1000R、ナノシステムソリューション社製)を用いて、90mW/cm2の露光量で行った。
露光された塗布膜を、現像液(AZ Developer、メルク社製)に室温で3分間浸漬して現像した。現像された第1層目のハニカムパターンに対して、超純水を用いる30秒間のリンスを2回行った。
このようにして得られた、第1層目のハニカムパターンを備えるガラス基板を、乾燥窒素雰囲気下で、80℃で30分加熱した。次いで、加熱されたパターンに、水銀ランプ(250W、フィルタなし、REX-250、朝日分光製)を用いて、乾燥窒素雰囲気下で、80℃で紫外線照射を30分行った。紫外線照射により、第1層目ハニカムパターンの感光性が消失するとともに、ハニカムパターンの耐薬品性が向上した。
次いで、第1層目のハニカムパターンを備える基板上に、第1層目のハニカムパターンの形成と同様の方法により、第2層目のハニカムパターンを形成した。第1層目のハニカムパターンの厚さは約1.8μmであり、第2層目のハニカムパターンの厚さは約0.8μmであった。
このようにして、第1層目のハニカムパターンと、第2層目のハニカムパターンとをガラス基板上に備える転写用のモールドを得た。
得られたモールドにおいて、ガラス基板が露出する面が、モールドの形状が転写された領域における、凸部の頂面に相当する。第1層目のハニカムパターンのガラス基板の面方向に沿った面が、基準面に相当する。第2層目のハニカムパターンのガラス基板の面方向に沿った面が、凹部の底面に相当する。
【0060】
(前述の領域を備えるシリコーン樹脂製の物品の製造)
ポリジメチルシロキサン(高精細転写用シリコーン印象材SIM-240、信越化学工業社製)、及び硬化剤(CAT-340、信越化学工業社製)を、容量100mLのガラス容器中で、スパチュラを用いて25℃で10分間混合した。硬化剤の使用量は、主剤のSIM-240の質量に対して10質量%であった。このようにして、液状の触媒硬化型のシリコーン樹脂組成物を得た。
次いで、アクリル樹脂板(50mm×60mm×2mm)の中央に、上記の転写用モールドを、パターンが露出するようにエポキシ樹脂系接着剤(ボンドクイック5、コニシ社製)で貼り付けた。転写用モールド(26mm×26mm)の外周を接しつつ囲うように、2mm×2mmの断面を有するアクリル樹脂製の角棒をアクリル樹脂板に貼り付けて型枠を作製した。型枠内の深さは約1mmであった。
得られた型枠内に、上記のシリコーン樹脂組成物をある程度盛り上がるように流し入れた。型枠内に入れられたシリコーン樹脂組成物を、気泡が消失するまで5回減圧脱泡した。シリコーン樹脂組成物に気泡が入らないように、アクリル樹脂板(50mm×60mm×2mm)をシリコーン樹脂にかぶせた後、2枚のアクリル樹脂板の四辺をクリップで挟んで固定し、30℃で8時間かけてシリコーン樹脂組成物を硬化させた。
シリコーン樹脂組成物の硬化後、硬化したシリコーン樹脂を転写用のモールドから剥離し、上記の所定の領域を備えるシリコーン樹脂シートを物品として得た。
【0061】
〔実施例2〕
正六角形の最長の対角線の長さが20μmであることの他は、実施例1と同様にして、転写用のモールドを作製した。
得られた転写用のモールドを用いることの他は、実施例1と同様にして、上記の所定の領域を備えるシリコーン樹脂シートを物品として得た。
【0062】
〔実施例3〕
正六角形の最長の対角線の長さが40μmであることの他は、実施例1と同様にして、転写用のモールドを作製した。
得られた転写用のモールドを用いることの他は、実施例1と同様にして、上記の所定の領域を備えるシリコーン樹脂シートを物品として得た。
【0063】
〔比較例1〕
転写用のモールドを、パターンを備えないガラス基板に変えることの他は、実施例1と同様にして、平滑な表面を有するシリコーン樹脂シートを物品として得た。
【0064】
<抗菌性の評価>
実施例1~3と、比較例1で得られたシリコーン樹脂シートを用いて、以下の方法に従い、シリコーン樹脂シートの表面の抗菌性を評価した。
まず、プラスチックシャーレの底内面に121℃、15分間の高圧蒸気滅菌済みのシリコーン樹脂シートを評価する面を表にして計6枚貼り付けた。6枚のシリコーン樹脂シートが貼り付けられたシャーレを4枚準備した。次いで、TSB培地25mLに、1白金耳量の黄色ブドウ球菌を植菌して18時間37℃で静置して前培養を行った。
次いで、培地の質量に対して1質量%のグルコースを加えたTSB培地150mLに対して、前培養された上記の菌液を1.5mL加え、評価用の菌液を得た。
得られた評価用の菌液を、各シャーレに25mL注ぎ、37℃の恒温装置内で培養を行った。
培養開始から、48時間後、72時間後、96時間後、及び168時間後に1枚ずつ恒温装置からシャーレを取り出し、培養を終了させた。
シャーレ内の培養液を除いた後、シャーレ内を滅菌水で3回洗浄した。洗浄後のシャーレを風乾した後、シャーレ内のシリコーン樹脂シートを濃度95質量%のエタノールに浸漬して、シリコーン樹脂シート上の菌を固定した。
次いで、濃度0.1質量%のクリスタルバイオレット水溶液をシャーレ内に入れ、シリコーン樹脂シート上の菌の染色を行った。染色後、滅菌水により、シリコーン樹脂シートの表面を洗浄した後、シリコーン樹脂シートを風乾した。
染色後の、シリコーン樹脂シートの表面を、実体顕微鏡で観察したところ、実施例1~3のシリコーン樹脂シート上では、コロニーの成長が抑制されるとともに、バイオフィルムも形成されなかったのに対して、比較例1のシリコーン樹脂シート上では、バイオフィルムの形成が顕著であった。
【0065】
一例として、72時間の培養に供された、実施例2のシリコーン樹脂シートの試料と、72時間の培養に供された、比較例1のシリコーン樹脂シートの試料とを実体顕微鏡により倍率400倍で観察した画像を、
図5(実施例2)、及び
図6(比較例1)として示す。
【0066】
また、画像解析ソフトウェアを用いて、染色されたシリコーン樹脂の試料の顕微鏡観察画像を解析し、シリコーン樹脂シート上での微生物占有率を算出したところ、所定の立体構造を有する実施例1~3のシリコーン樹脂シート上での微生物占有率は、比較例1の平滑なシリコーン樹脂シート上での微生物占有率に対して明らかに低かった。