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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143775
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】磁場発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/20 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 7/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F7/20 F
H01F7/18 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056645
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】小濱 芳允
(72)【発明者】
【氏名】横山 真一
(72)【発明者】
【氏名】殷 越
(57)【要約】
【課題】比較的長い時間に亘り、比較的強い磁場を発生させることができ、さらに製造コスト、運用コストを低減できる磁場発生装置を提供する。
【解決手段】蓄電手段と、この蓄電手段に電荷を供給して蓄積させる充電器と、直流抵抗値を低減した状態とした電磁石と、蓄電手段と電磁石との間に介在するスイッチ回路と、を有し、スイッチ回路がオフである状態で充電器により蓄電手段に電荷を蓄積させ、蓄電手段に電荷が蓄積された状態でスイッチ回路をオンとして蓄電手段の放電電流を、直流抵抗値を低減した状態の電磁石に供給して磁場を生じさせる磁場発生装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電手段と、
前記蓄電手段に電荷を供給して蓄積させる充電器と、
直流抵抗値を低減した状態とした電磁石と、
前記蓄電手段と前記電磁石との間に介在するスイッチ回路と、
を有し、
前記スイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記蓄電手段に電荷を蓄積させ、前記蓄電手段に電荷が蓄積された状態で前記スイッチ回路をオンとして前記蓄電手段の放電電流を、前記直流抵抗値を低減した状態の電磁石に供給して磁場を生じさせる磁場発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石は、高純度金属を巻き回して形成され、直流抵抗値を低減した状態とされた電磁石である磁場発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石は、
所定の冷却手段により冷却され、直流抵抗値を低減した状態とされた電磁石である磁場発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石は、高純度金属を巻き回して形成されるとともに、所定の冷却手段により冷却され、直流抵抗値を低減した状態とされた電磁石である磁場発生装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の磁場発生装置であって、
前記冷却手段は、前記電磁石を50°K以下に冷却する磁場発生装置。
【請求項6】
請求項2または4に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石は、6N以上の高純度の銅線または無酸素銅以上の純度の銅を用いた銅線を巻き回して形成した磁場発生装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記蓄電手段は、電気二重層コンデンサである磁場発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁場を発生させる装置として、大きくわけて一巻コイル法など(準)破壊的方法、非破壊的パルスマグネットを用いる方法、静的方法などが知られている。
【0003】
破壊的方法によると、1000T程度の強磁場が得られるものの、磁場発生装置が一度で破壊されてしまい、磁場の持続時間も10-6から10-5秒程度と短いものとなる。非破壊的パルスマグネットを用いる方法では、3Tから100T程度の強い磁場が得られ、磁場の持続時間は10-3から1秒程度となる。
【0004】
静的方法には種々の方法があり、装置に費用をかければ、数十T程度の磁場を、数十秒から104秒程度の期間発生させるものもあるが、比較的安価なものでは数T程度の磁場を発生させることができる程度となる(非特許文献1)。
【0005】
このように従来一般的なパルス磁場発生装置では、磁場発生時間のスケールが短いため、得られるパルス磁場及びパルス電流の大きさへの影響は、負荷(コイル)の実抵抗成分よりも、インダクタンス成分が支配的であった。そこで従来例では、コイルの材料の直流抵抗値については配慮していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.Battesti, et.al., High magnetic fields for fundamental physics, Physics Reports, Vol. 765-766, 10 November 2018, pp.1-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、非破壊的パルスマグネットは、精密な物性の計測など、強磁場を必要とする物性科学研究に広く利用されているが、その設置コストは小さくない。このため、比較的長い時間、比較的強い磁場を発生させることができ、また製造コストや運用コストを低減できる磁場発生装置が求められているのが現状である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、比較的長い時間に亘り、比較的強い磁場を発生させることができ、さらに製造コスト、運用コストを低減できる磁場発生装置を提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決する本発明の一態様は、磁場発生装置であって、蓄電手段と、前記蓄電手段に電荷を供給して蓄積させる充電器と、直流抵抗値を低減した状態とした電磁石と、前記蓄電手段と前記電磁石との間に介在するスイッチ回路と、を有し、前記スイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記蓄電手段に電荷を蓄積させ、前記蓄電手段に電荷が蓄積された状態で前記スイッチ回路をオンとして前記蓄電手段の放電電流を、前記直流抵抗値を低減した状態の電磁石に供給して磁場を生じさせることとしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁場発生装置は、比較的長い時間に亘り、比較的強い磁場を発生させることが可能となる。またこの磁場発生装置によれば、製造コストや運用コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置の構成例を表す概略回路図である。
図2】金属の純度と抵抗率との関係を表す説明図である。
図3】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置における冷却装置の例を表す概略説明図である。
図4】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置が発生する磁場の例を表す説明図である。
図5】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置が発生する磁場の例を表すもう一つの比較説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明及び添付の図面において、各部の大きさや比率、液体の充填状況などは例示であり、本実施の形態における各部の大きさなどは、この例示に限られない。本発明の実施の形態に係る磁場発生装置1は、図1にその基本的構成を示すように、パルス電源部10と、放電回路部20と、トリガ回路30と、電磁石40とを基本的に含んで構成される。また、この磁場発生装置1は、クローバー回路50と補助放電回路60とをオプショナルに含んでもよい。さらに後に説明するように、電磁石40は、冷却装置70内に配されて冷却されてもよい。
【0013】
ここでパルス電源部10は、コンデンサバンク11と、充電器12とを含む。また放電回路部20は、第1,第2のスイッチ回路部21,22と、保護キャパシタ23とを含む。
【0014】
パルス電源部10のコンデンサバンク11は、本発明の蓄電手段に相当し、例えば複数の電気二重層コンデンサを直列および並列に接続したものである。図1に示した例では、直列および並列接続された電気二重層コンデンサの末端の一端側(負極側(-))は、共通電位(GND)に接続される。またその他端側(正極側(+))は、後に説明する放電回路部20の電源端子Vに接続される。なお、蓄電手段は、この例のようなコンデンサのほか、リチウム電池等の二次電池などにより実現されてもよい。
【0015】
充電器12は、外部からの電力供給を受けて、コンデンサバンク11が備える複数の電気二重層コンデンサのそれぞれに電荷を供給して蓄積させる。コンデンサバンク11の電気二重層コンデンサに電荷を蓄積させるこのような充電器は広く知られたものを採用できるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0016】
放電回路部20の第1のスイッチ回路部21は、少なくとも一つの第1スイッチ回路要素210を含み、第2のスイッチ回路部22は、少なくとも一つの第2スイッチ回路要素220を含む。ここで第1のスイッチ回路部21の第1スイッチ回路要素210は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)211と、ダイオード212と、これらにそれぞれ対応して設けられた二つのスナバ回路213とを含んで構成される。
【0017】
本実施の形態のこの放電回路部20の例において、IGBT211はN型のIGBTであり、そのエミッタ端子(E)は、ダイオード212のカソード(K)に接続される。またIGBT211のコレクタ端子(C)は、パルス電源部10の正極側に接続され、ゲート端子(G)は、後に説明するトリガ回路30に接続される。さらにこのIGBT211のコレクタ端子(C)とエミッタ端子(E)との間には対応するスナバ回路213が接続される。
【0018】
またダイオード212のカソード端子(K)は、IGBT211のエミッタ端子(E)に接続されており、アノード端子(A)は共通電位(GND)に接続される。このダイオード212のアノード端子(A)とカソード端子(K)との間にも対応するスナバ回路213が接続される。
【0019】
なお、第1スイッチ回路要素210が複数ある場合は、当該複数の第1スイッチ回路要素210のダイオード212のカソード端子(K)同士、アノード端子(A)同士、IGBT211のコレクタ端子(C)同士がそれぞれ連結される。
【0020】
またこの第2のスイッチ回路部22の第2スイッチ回路要素220は、IGBT221と、ダイオード222と、これらにそれぞれ対応して設けられた二つのスナバ回路213とを含んで構成される。
【0021】
本実施の形態のこの放電回路部20の例において、IGBT221はN型のIGBTであり、そのエミッタ端子(E)は、共通電位(GND)に接続され、コレクタ端子(C)は、ダイオード222のアノード端子(A)に接続される。またこのIGBT221のゲート端子(G)は、後に説明するトリガ回路30に接続される。IGBT221のコレクタ端子(C)とエミッタ端子(E)との間には対応するスナバ回路213が接続される。
【0022】
ダイオード222のカソード端子(K)は、パルス電源部10の正極側に接続され、アノード端子(A)は、IGBT221のコレクタ端子(C)に接続される。さらにこのダイオード222のアノード端子(A)とカソード端子(K)との間にも対応するスナバ回路213が接続される。保護キャパシタ23は、パルス電源部10の正極側と負極側との間に接続されている。
【0023】
なお、第2スイッチ回路要素220が複数ある場合は、当該複数の第2スイッチ回路要素220のダイオード222のカソード端子(K)同士、アノード端子(A)同士、IGBT221のエミッタ端子(E)同士がそれぞれ連結される。
【0024】
またここまでの説明でスナバ回路213は、いずれも、IGBT211,221がオフとなるときに、スナバ回路213が接続されたIGBT211,221、及びダイオード212,222の端子間に過渡的に生じる高電圧を吸収するスナバ回路として広く知られた回路構成を利用できるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0025】
保護キャパシタ23は、パルス電源部10の正極側と負極側との間に介在し、IGBT211,221のオン/オフの状態が切り替わったときなどに生じる急激な電流の変動を抑制する。
【0026】
トリガ回路30は、本実施の形態の磁場発生装置1の利用者の指示により、放電回路部20のIGBT211及びIGBT221のゲート端子(G)に、IGBT211,221をオンとするトリガ信号を出力し、またトリガ信号を停止して、IGBT211,221をオフとする。
【0027】
クローバー回路50は、例えば抵抗器R1と、少なくとも一つのダイオードDとを直列に接続して構成される。このクローバー回路50を備える例では、クローバー回路50のダイオードDのカソード端子は、パルス電源部10の正極側に接続され、アノード端子は、抵抗器R1を介してパルス電源部10の負極側に接続される。
【0028】
この例のクローバー回路50は、所定の条件で電磁石40の両端間を短絡させるよう機能する。具体的にクローバー回路50は、放電回路部20の第1、第2のスイッチ回路部21、22においてIGBT211,221がオンとなっている間、電磁石40に並列に接続された状態となって、電磁石40の両端間を短絡させる。このときクローバー回路50は、電磁石40とともに閉回路を形成し、電磁石40を通過する電流の方向を一定に保つことに寄与する。
【0029】
補助放電回路60は、負荷である抵抗器R2と、スイッチング回路Wとを含んで構成され、利用者の指示によりコンデンサバンク11の電荷を放電する。ここでスイッチング回路Wは、サイリスタあるいはIGBTにより構成される。この補助放電回路60を設ける場合、スイッチング回路Wの一方端(サイリスタを用いる場合アノード端側)をパルス電源部10の正極側に接続し、スイッチング回路Wの他方端(サイリスタを用いる場合カソード端側)を、抵抗器R2を介してパルス電源部10の負極側に接続する。
【0030】
この例においてスイッチング回路Wは、利用者からの指示入力に従い、トリガ回路30が放電の指示を表す放電信号を出力すると、この放電信号を受け入れる。スイッチング回路Wは、この放電信号が入力されることで、オンとなって、パルス電源部10のコンデンサバンク11に蓄積された電荷を放出させる。
【0031】
電磁石40は、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),アルミニウム(Al)などの金属導電線を用いたコイルを含む。このコイルは、例えばビッター型のコイル(Bitter Coil)やソレノイドなど広く知られた形式のコイルでよい。本実施の形態では、このコイルを形成する材料は、高純度の金属とする。これは一般的に、金属の場合、純度が高いほど、またその温度が低いほど、直流抵抗値が低下することに鑑み、本実施の形態の構成で比較的長時間(0.1秒から秒のオーダー)の磁場を発生させる場合、パルス磁場の大きさ等がコイルの材料の実抵抗成分により支配されるため、純度の高い金属を用いて直流抵抗値を低下させているものである。
【0032】
例えば銅を用いる場合、この電磁石40のコイルは、99.9999%の高純度の銅線を巻回して形成する。図2(a)から理解されるように、酸素などの不純物が含まれるほど抵抗率(Resistivity)ρは、大きくなり純度が高いほど抵抗率は小さくなる。さらに極低温下では、図2(b)に例示するように、100°K以下における銅の抵抗率は、一般的な銅材や無酸素銅(純度99.96%以上)よりも高純度銅(6N高純度銅)が有意に低くなっており、特に50°K以下、さらには30°K以下ではその差がさらに顕著となって、30°K以下の状況では無酸素銅の低温の抵抗率(残留抵抗率)ρ0が0.15nΩm程度であるのに対し、6N高純度銅の抵抗率(残留抵抗率)ρ0は、0.015nΩmまで低下する。本実施の形態の一例では、電磁石40のコイルを、例えば6N高純度銅(酸化物以外の不純物も低減されている)を用いることで、コイルの直流抵抗値R(単位はmΩ)を低減している。
【0033】
この電磁石40のコイルの一端は、第1のスイッチ回路部21の第1スイッチ回路要素210のIGBT211のエミッタ端子(E)(つまりダイオード212のカソード端子(K))に接続される。また、当該コイルの他端は、第2のスイッチ回路部22の第2スイッチ回路要素220のIGBT221のコレクタ端子(C)(つまりダイオード222のアノード端子(A))に接続される。この構成により、第1,第2のスイッチ回路部21,22は、パルス電源部10と電磁石40との間に介在することとなる。
【0034】
このように構成した本実施の形態の磁場発生装置1を利用するときには、まず、トリガ回路30により、IGBT211及びIGBT221をオフとする(トリガ信号を停止するよう制御する)。これにより第1のスイッチ回路部21の第1スイッチ回路要素210のIGBT211のエミッタ端子(E)とコレクタ端子(C)間が導通しない状態となり、電磁石40のコイルの一端側は、パルス電源部10の正極側から切断された状態となる。また、第2のスイッチ回路部22の第2スイッチ回路要素220のIGBT221のエミッタ端子(E)とコレクタ端子(C)間も導通しないので、電磁石40のコイルの他端側は、パルス電源部10の負極側から切断された状態となる。
【0035】
そしてこの状態で、パルス電源部10の充電器12がコンデンサバンク11に電荷を蓄積させる。コンデンサバンク11に十分な電荷が蓄積されるだけの時間が経過した後、トリガ回路30により、IGBT211及びIGBT221をオンとする(トリガ信号を各IGBT211及びIGBT221のゲート端子に印加する)。
【0036】
すると、第1のスイッチ回路部21の第1スイッチ回路要素210のIGBT211のエミッタ端子(E)とコレクタ端子(C)間が導通し、電磁石40のコイルの一端側が、パルス電源部10の正極側に接続された状態となる。また、第2のスイッチ回路部22の第2スイッチ回路要素220のIGBT221のエミッタ端子(E)とコレクタ端子(C)間も導通し、電磁石40のコイルの他端側が、パルス電源部10の負極側に接続された状態となる。そして、コンデンサバンク11に蓄積された電荷による、コンデンサバンク11の放電電流が、電磁石40のコイルに供給されて磁場を生じさせる。
【0037】
ここで電磁石40は、直流抵抗値を低減した状態にあるため、磁場発生時のエネルギー損失が低く抑えられており、コイル温度の上昇が抑えられて磁場の発生時間が増大する。また直流抵抗値が低減されているためコイルに電流が流れやすくなっており、磁場の強度も増大する。
【0038】
さらに、本実施の形態の放電回路部20では、トリガ回路30により、IGBT211及びIGBT221がオンの状態からオフの状態となると、コイルに流れる電流がダイオード212,222を介してパルス電源部10のコンデンサバンク11に流入し、コンデンサバンク11に電荷を蓄積する(回生動作)。
【0039】
ここまでの説明では、電磁石40のコイルの直流抵抗値を低減するため、コイルを高純度の金属により形成することとしたが、電磁石40のコイルの直流抵抗値は、コイルを冷却することによっても低減できる。この例ではコイルは、必ずしも高純度の金属により形成されなくてもよい。もっとも、コイルを高純度の金属により形成しつつ、かつ、冷却することがより好適である。
【0040】
コイルの冷却のため、本実施の形態の一例では、図3に例示するように、冷却装置70を用いてもよい。この冷却装置70は、槽300とガラスデュワー310とを含む。
【0041】
槽300には、第1の冷却液301を満たしておき、この槽内300の第1の冷却液301に、ガラスデュワー310を浸漬して配する。
【0042】
またこのガラスデュワー310の内部には、第2の冷却液311を導入する。ガラスデュワー310は、蓋312で上部開口を覆うことが好適である。
【0043】
ここで蓋312には、電磁石40に接続される導線を引き出す開口315と、電磁石40を固定するコイルフランジを支持する支持体316を貫通させた貫通孔317と、第2の冷却液311を導入、あるいは排出するための第1のポート318aと、内部に配した電気的部材に電気的に連結するコネクタ部319と、排気のための第2のポート318bとを形成しておく。そしてこの蓋312とガラスデュワー310との連結部外周にはシーリングを施してガラスデュワー310と蓋312とで形成される空間を気密とする。また、当該空間の気密を保持するため、開口315、貫通孔317等の開口部にもシーリングを施しておく。さらに本実施の形態の例では、このガラスデュワー310と蓋312とで形成される空間内のガスを、第2のポート318bを通じて真空ポンプ等で排気して、この空間内を減圧してもよい。
【0044】
このガラスデュワー310内の第2の冷却液311に、支持体316に支持されたコイルフランジと、このコイルフランジに固定された電磁石40が浸漬される。
【0045】
またこの電磁石40から引き出される一対の導線(放電回路部20の第1,第2のスイッチ回路部21,22に接続される)は、ガラスデュワー310の上部に配した開口315から導出されるが、このガラスデュワー310の開口315近傍にはさらに、第1の冷却液3311を貯留した第2の槽331を配し、この第2の槽331内の第1の冷却液3311を通じて導線を開口315内に導入した状態としてもよい。ガラスデュワー310内に導線を通じて熱が流入することを防止するためである。なお、この導線は電磁石40として巻き回す金属線よりも径の大きい金属線としておくのも好ましい。
【0046】
なお、この例においてガラスデュワー310内には、さらに、第2の冷却液311に浸漬される温度計Tや、電磁石40が発生した磁場の強度を測定するためのコイルCが配されてもよい。これら温度計TやコイルCに接続される配線は、蓋312のコネクタ部319を通じて、外部の機器に接続される。なお、コイルC(ピックアップコイル)は、電磁石40の中心に近い位置に配されていることが好適であるが、図3では図示の都合上、電磁石40の近傍に配した状態で図示している。
【0047】
またここでの例において、第2の冷却液311の温度は、第1の冷却液301,3311の温度より低温(例えば約50°K以下)となっているものとする。一例として第2の冷却液311は液体ヘリウムであり、第1の冷却液301、3311は液体窒素であり得る。しかしながらこれは一例であり第1,第2の冷却液301,3311,311のいずれも液体窒素であってもよい。この場合、ガラスデュワー310内を減圧して、第2の冷却液311の温度を、第1の冷却液301,3311の温度より低下させる。例えば液体窒素の場合、減圧によりその温度を50°K程度まで低下できることが知られている。その他、第2の冷却液としては液化水素や液体ネオンなどを利用してもよい。
【0048】
また本実施の形態では、例えば上記コイルC等を用いた磁場測定器によって電磁石40が発生する磁場を測定し、必要な磁場が得られた時点でトリガ回路30がトリガ信号を停止して磁場の発生を停止してもよい。このようにすると、不要な磁場発生を抑えてエネルギの利用効率を向上できる。
【0049】
本発明の実施の形態の磁場発生装置1は、電気二重層コンデンサや、スイッチなど比較的安価な構成で実現できる。またコイルのジュール損失を低減するので、比較的長時間で、かつ強度の大きい磁場を発生させることが可能となっている。さらに、磁場発生時の損失が小さいので運用コストも低減でき、また冷却にあたり、高価な液体ヘリウムに代えて、液体窒素などの比較的安価な冷却剤を利用可能となっているので、運用コストをさらに低減できる。
【実施例0050】
ここまでに説明した本実施の形態の磁場発生装置1の構成を用い、パルス電源部10として、最大充電電圧162V、キャパシタンス157.5Fのコンデンサバンク11を含むものを利用した例を以下に示す。
【0051】
以下の例ではさらに、電磁石40として6Nの高純度銅を巻回したコイルを用いた。そしてこのコイルを大気圧下の液体窒素に浸漬した例(77.4°K)と、液体ネオン等を用いてコイルをさらに低温(約37°K)とした例とで、コンデンサバンクを73Vまで充電して放電させて比較した(図4(a))。
【0052】
図4(a)に示すように、温度を低くしたコイル(37°K)では、比較的高い温度(77.4°K)のコイルよりも、瞬時に発生する磁場の強度が倍程度まで増大している。
【0053】
一方、低温(37°K)で、このコイルの材料を、一般的な銅線(残留抵抗率ρ0=1.15nΩm)とした場合と、無酸素銅(残留抵抗率ρ0=0.15nΩm)とした場合と、高純度銅(残留抵抗率ρ0=0.015nΩm)とした場合とを比較した。この結果を図4(b)に示す。
【0054】
図4(b)に示されるように、コイルの材料が高純度となるほど、最大の磁場強度は大きくなり、また強い磁場が維持される時間も伸びている。
【0055】
またこのコイル(温度を77.4°Kとした)の磁場の時間的変化(磁場波形)を図5に示す。この図5に示す例では、トリガ回路30を制御して、放電の開始(放電回路部20のIGBT211及びIGBT221をオンとする)から1.1秒後に放電を停止(IGBT211及びIGBT221をオフとする)した。
【0056】
この例では、電磁石40は、当初9.5Tを超える磁場を発生させた後、約3から4Tの磁場を1秒以上に亘って安定的に発生させていることが理解され、また、1秒以上が経過した時点で、コンデンサバンク11の電圧を計測したところ、67Vであった。つまり、約1秒の磁場の発生においてパルス電源部10のコンデンサバンク11が蓄積した約エネルギの15%が利用されたことが理解される。
【0057】
このことは、コンデンサバンク11が蓄積したエネルギを完全に利用する従来例に比べ、再度の充電の時間も短縮でき、エネルギ及び磁場の再発生までの時間を節約できることを意味し、運用コストの低減が可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 磁場発生装置、10 パルス電源部、11 コンデンサバンク、12 充電器、20 放電回路部、21 第1のスイッチ回路部、22 第2のスイッチ回路部、23 保護キャパシタ、30 トリガ回路、40 電磁石、50 クローバー回路、60 補助放電回路、70 冷却装置、210 第1スイッチ回路要素、211,221 IGBT、212,222 ダイオード、213 スナバ回路、220 第2スイッチ回路要素、300,331 槽、301,311,3311 冷却液、310 ガラスデュワー、312 蓋、315 開口、316 支持体、317 貫通孔、318 ポート、319 コネクタ部。

図1
図2
図3
図4
図5