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特開2024-143836リードフレーム、導電部品及び複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143836
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】リードフレーム、導電部品及び複合体
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20241003BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20241003BHJP
   H01L 23/50 20060101ALI20241003BHJP
   C23C 18/36 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
C25D5/14
H01L23/50 D
C23C18/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056742
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康則
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
【テーマコード(参考)】
4K022
4K024
5F067
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022BA14
4K022BA32
4K022BA36
4K022DA01
4K022DB02
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA09
4K024AA10
4K024AA11
4K024AA12
4K024AA16
4K024AB01
4K024AB02
4K024AB03
4K024AB11
4K024BA09
4K024BB13
5F067DC18
5F067EA01
5F067EA04
5F067EA06
(57)【要約】
【課題】表面上でのペーストや樹脂の濡れ広がりを有効に抑制することができるリードフレーム、導電部品、当該濡れ広がりが有効に抑制された複合体を提供する。
【解決手段】基材1と、基材1上に形成されためっき層2とを有するリードフレームであって、前記めっき層2が、Ni及びPを含有するNi-P層3を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材上に形成されためっき層とを有するリードフレームであって、
前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含むリードフレーム。
【請求項2】
前記Ni-P層のP含有量が、8質量%~15質量%である請求項1に記載のリードフレーム。
【請求項3】
前記Ni-P層の厚みが1μm~6μmである請求項1又は2に記載のリードフレーム。
【請求項4】
前記めっき層が、Au、Ag、Sn、Pd及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する最表層を含む請求項1又は2に記載のリードフレーム。
【請求項5】
前記めっき層が、前記基材と前記Ni-P層との間に位置してNiを含有するNi層を含む請求項1又は2に記載のリードフレーム。
【請求項6】
基材と、基材上に形成されためっき層とを有する導電部品であって、
ペーストが塗布されるペースト塗布領域、及び/又は、樹脂が接合される樹脂接合領域の少なくとも一部における前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含む導電部品。
【請求項7】
前記Ni-P層のP含有量が、8質量%~15質量%である請求項6に記載の導電部品。
【請求項8】
前記Ni-P層の厚みが1μm~6μmである請求項6又は7に記載の導電部品。
【請求項9】
前記めっき層が、Au、Ag、Sn、Pd及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する最表層を含む請求項6又は7に記載の導電部品。
【請求項10】
前記めっき層が、前記基材と前記Ni-P層との間に位置してNiを含有するNi層を含む請求項6又は7に記載の導電部品。
【請求項11】
複数個の部材が互いに接合されてなる複合体であって、
前記複数個の部材に含まれる第一部材及び第二部材と、第一部材及び第二部材の相互間に介在して第一部材と第二部材とを接合する焼結部とを有し、
前記第一部材及び第二部材のうちの少なくとも一方の部材の基材上に、めっき層が形成されており、
前記少なくとも一方の部材の、前記焼結部と接する部分における少なくとも一部の前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含む複合体。
【請求項12】
前記Ni-P層のP含有量が、8質量%~15質量%である請求項11に記載の複合体。
【請求項13】
前記Ni-P層の厚みが1μm~6μmである請求項11又は12に記載の複合体。
【請求項14】
前記めっき層が、Au、Ag、Sn、Pd及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する最表層を含む請求項11又は12に記載の複合体。
【請求項15】
前記めっき層が、前記基材と前記Ni-P層との間に位置してNiを含有するNi層を含む請求項11又は12に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、リードフレーム、導電部品及び複合体に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器等の装置に組み込まれ、その使用時に電流が流れるリードフレームその他の導電部品では、当該装置の製造に際し、表面にペーストを塗布することや、樹脂により封止されること等が行われる。
【0003】
たとえば半導体デバイスの製造では、いわゆるダイボンディングの際に、リードフレームのチップ搭載部分に、エポキシ樹脂等の樹脂及び金属粉(例えば銀粉)を含むペーストを塗布する。そして、そこに半導体チップを配置した状態で、ペーストを加熱して金属粉を焼結させる。これにより、リードフレームに半導体チップが固定される。
【0004】
また、リードフレームに半導体チップを固定した後は、シリコーン樹脂などにより半導体チップを封止する。これにより、リードフレームの一部に樹脂が接合されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、導電部品の表面にペーストを塗布し、又は樹脂を接合するに際しては、当該表面上で毛細管現象によりペーストもしくは樹脂が、狙いの範囲を超えて濡れ広がることがある。この場合、導電部品の信頼性その他の品質の低下や、不良品の発生による歩留まりの低下等を招くおそれがある。
【0006】
この明細書では、表面上でのペーストや樹脂の濡れ広がりを有効に抑制することができるリードフレーム、導電部品及び、当該濡れ広がりが有効に抑制された複合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書で開示するリードフレームは、基材と、基材上に形成されためっき層とを有するものであって、前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含むものである。
【0008】
この明細書で開示する導電部品は、基材と、基材上に形成されためっき層とを有するものであって、ペーストが塗布されるペースト塗布領域、及び/又は、樹脂が接合される樹脂接合領域の少なくとも一部における前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含むものである。
【0009】
この明細書で開示する複合体は、複数個の部材が互いに接合されてなるものであって、前記複数個の部材に含まれる第一部材及び第二部材と、第一部材及び第二部材の相互間に介在して第一部材と第二部材とを接合する焼結部とを有し、前記第一部材及び第二部材のうちの少なくとも一方の部材の基材上に、めっき層が形成されており、前記少なくとも一方の部材の、前記焼結部と接する部分における少なくとも一部の前記めっき層が、Ni及びPを含有するNi-P層を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
上述したリードフレーム、導電部品によれば、表面上でのペーストや樹脂の濡れ広がりを有効に抑制することができる。上述した複合体は、当該濡れ広がりが有効に抑制されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一の実施形態における基材及びめっき層を模式的に示す、表面に直交する方向に沿う部分断面図である。
図2】他の実施形態における基材及びめっき層を模式的に示す、表面に直交する方向に沿う部分断面図である。
図3】さらに他の実施形態における基材及びめっき層を模式的に示す、表面に直交する方向に沿う部分断面図である。
図4】さらに他の実施形態における基材及びめっき層を模式的に示す、表面に直交する方向に沿う部分断面図である。
図5】試験例1のサンプルA~Eにおける銀粉ペーストの硬化後の状態を示す写真である。
図6】試験例2のサンプルF~Kにおける塩水噴霧後の外観を示す写真である。
図7】試験例2のサンプルFのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、上述したリードフレーム、導電部品及び複合体の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態のリードフレーム、導電部品及び複合体(以下、「リードフレーム等」と称することがある。)はいずれも、図1に例示するように、基材1と、基材1上に形成されためっき層2とを有するものである。そして、めっき層2には、Ni及びPを含有するNi-P層3が含まれる。
【0013】
基材1上にNi及びPを含有するNi-P層3を含むめっき層2が形成されていると、その表面に塗布ないし接触したペーストや樹脂の濡れ広がりが有効に抑制される。これは、Ni-P層3が緻密な結晶構造であり、表面が平滑であることに起因するものと考えられる。但し、その理由の正否によらず、後述する実施例の項目で示すように、基材1上にNi-P層3を含むめっき層2を形成した場合、Ni層の場合に比して、ペーストや樹脂の濡れ広がりが抑制されたという試験結果が得られている。
【0014】
なお、詳細については後述するが、図2に示すように、Ni-P層13以外に、Au、Ag、Sn、Pd及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する最表層14を含むめっき層12としてもよい。また、図3に示すめっき層22のように、基材21とNi-P層23との間に位置してNiを含有するNi層25を形成してもよい。さらに図4に示すように、Ni-P層33の他、最表層34及びNi層35の両方を含むめっき層32とすることもできる。ここでは、主に、図1に示す実施形態を例としてその詳細を説明する。図2~4の各実施形態については、図1の実施形態と異なる構成についてのみ説明するが、その他の構成は図1の実施形態と同様とすることができる。
【0015】
(基材)
基材1の材質は特に問わず、任意の金属もしくは合金とすることができる。基材1の材質は、たとえば、Cu(銅)、Al(アルミニウム)もしくはFe(鉄)、又は、それらのうちの少なくとも一種を含む合金等とすることがある。高い導電率及び強度を有するとの観点から、基材1の材質として好ましくは、CuやCu合金、より具体的には、リン青銅や黄銅、コルソン銅、無酸素銅、タフピッチ銅等が挙げられる。特に、銅開発協会(Copper Development Association、CDA)で定められた規格のC11000、C10200、C19400、C70250、C26000又はC52100等を、基材1の材料とすることがある。基材1の寸法及び形状は、リードフレーム等が用いられる部品に応じて適宜変更され得る。
【0016】
(Ni-P層)
基材1上に形成されためっき層2の少なくとも一部を構成するNi-P層3は、Ni(ニッケル)及びP(リン)を含有するものである。
【0017】
Ni-P層3のP含有量は、8質量%~15質量%であることが好ましい。P含有量を8質量%以上とすることにより、Ni-P層がアモルファス構造となり、非磁性になることに起因してNi-P層を含む導電部材の伝送損失が小さくなる。P含有量が15質量%以下であることにより、Pを含有することによるNi-P層の導電率の低下を抑えることができる。より好ましくは、P含有量は、10質量%~13質量%である。P以外の残部は実質的にNiからなることが多いが、不純物として、Cu、Pb及びZnからなる群から選択される少なくとも一種が合計15質量ppm以下で含まれることもある。
【0018】
上記のP含有量を測定するには、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製のJXA-8500F)を用いることができる。より詳細には、電子プローブマイクロアナライザーを用いて、標準試料及びサンプルのそれぞれについて、Pのピーク位置(197.235mm)のX線強度を測定し、式:P含有量(at%)=(サンプルのX線強度の平均値)÷(標準試料のX線強度の平均値)×50により算出する。標準試料の測定条件としては、標準試料:InPウェハー(P含有量50at%)、使用結晶:PETH、使用X線:Kα、加速電圧15kV、照射電流1×10-7A、ビーム径10μmとし、この測定条件で、標準試料のPのピーク位置(197.235mm)のX線強度を5回測定し、その平均値を算出する。サンプルの測定では、基材1上にNi-P層3が形成されたリードフレーム等のサンプルについて、標準試料の測定と同様の測定条件でサンプルの中央部を5回測定し、Pのピーク位置(197.235mm)のX線強度の平均値を算出する。
【0019】
Ni-P層3の厚みは、1μm~6μmであることが好ましい。Ni-P層3の厚みが1μm未満になると、ピットやピンホールが発生しやすく耐食性が低下するおそれがある。一方、Ni-P層3の厚みが6μmを超えると、Ni-Pが固いことに起因して、リードフレーム等を曲げた際に割れが発生することが懸念される。Ni-P層3の厚みの測定は、蛍光X線膜厚計により行うことができる。めっき層2のNi-P層3以外の層の厚みも、これと同様にして測定可能である。
【0020】
基材1上にNi-P層3を形成するには、基材1に対して、たとえば、めっき浴を硫酸Ni浴とし、硫酸Ni(II)六水和物等を添加して硫酸Ni濃度を205g/L~295g/L、亜リン酸濃度を68g/L~95g/L、電流密度を7A/dm2~13A/dm2、液温を55℃~65℃とすることで形成できる。Ni-P層3におけるP濃度は電流密度により制御することができる。具体的には、電流密度を低くすることでNi-P層3におけるP濃度を高くすることができる。他の実施形態において、Ni-P層3は、電解めっきではなく、無電解めっきによって形成されてもよい。
【0021】
(最表層)
図2図4に示す実施形態のようにリードフレーム等のめっき層12、32は、Au(金)、Ag(銀)、Sn(スズ)、Pd(パラジウム)及びCu(銅)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する最表層14、34を含むことが好ましい。図示の例では、最表層14、34は、Ni-P層13、33上で最も表面側(図2、4では上方側)に形成されている。
【0022】
めっき層12、32が最表層14、34を含むことにより、最表層14、34に対するペーストの適切な濡れ性を担保できる。一方、最表層がNi-PなどNiを多く含む場合は表面が酸化し、ペーストが濡れにくい現象がみられる。
【0023】
最表層14、34の厚みは、0.005μm~5μmとする場合がある。最表層14、34の厚みが薄すぎる場合は、ペーストの濡れ性が低下する可能性があり、厚すぎる場合は、ペースト及び樹脂が狙いの範囲を超えて濡れ広がりやすくなるとともに製造コストが高くなることの懸念がある。
【0024】
たとえば、最表層14、34をAu-Coめっき(硬質めっき)で形成した場合、最表層14、34のAu含有量は、99.7質量%程度になることがある。あるいは、最表層14、34を純Auめっき(軟質めっき)で形成した場合、最表層14、34のAu含有量は、ほぼ100質量%になることがある。あるいは、最表層14、34が、他の金属(Ag(銀)、Sn(スズ)、Pd(パラジウム)又はCu(銅))を含有する場合、当該金属の含有量は、ほぼ100質量%になることがある。最表層14、34の当該金属含有量は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製のJXA-8500F)を用いることにより測定することができる。たとえばAu-Coのように、さらにCoを含む最表層14、34を形成してもよい。また、異なる材質の最表層14、34を二層以上形成することも可能である。
【0025】
最表層14、34を形成するには、Ni-P層13、33を形成した基材11、31に対し、最表層14、34の材質に応じて適切なめっき液を用いて、めっきを施すことができる。めっき液としては、たとえば、Agを含有する最表層14、34の場合はEEJA製シルブレックスブライトHS等が、またAuを含有する最表層14、34の場合は硬質Auめっき液等がそれぞれ好適に用いられ得る。たとえばAgめっきでは、電流密度を5A/dm2~25A/dm2、液温を30℃~60℃とすることがある。また、たとえばAuめっきでは、電流密度を5A/dm2~60A/dm2、液温を50℃~60℃とすることがある。
【0026】
(Ni層)
図3、4に示す実施形態のように、めっき層22、32は、基材21、31と上述したNi-P層23、33との間に位置するNi層25、35を含むことが、耐食性向上の観点から好ましい。
【0027】
基材21、31とNi-P層23、33との間にNi層25、35を介在させることにより、仮にNi-P層23、33でピンホールが発生したとしても、その下側のNi層25、35で腐食性物質が遮断されて、基材21、31への腐食性物質の到達が抑制される。その結果、耐食性が向上する。なお、Ni-P層23、33は、Ni層25、35に比して水素ガスが発生しやすいことから、表面にピンホールが形成される傾向があると考えられる。
【0028】
Ni層25、35を形成する場合、Ni層25、35の厚みは1μm~6μmとすることが好ましい。Ni層25、35の厚みが薄すぎる場合は、腐食性物質の遮断効果が不十分になることが懸念され、厚すぎる場合は最表層の表面平滑性が低下し、ペーストや樹脂が狙いの範囲を超えて濡れ広がりやすくなる可能性がある。
【0029】
Ni層25、35のNi含有量は、ほぼ100質量%となることがある。電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製のJXA-8500F)を用いることにより、Ni層25、35のNi含有量を測定することができる。
【0030】
Ni層25、35を形成するには、これに限らないが、基材21、31に対して、無光沢、半光沢又は粗化等のNiめっきを施すことにより行うことができる。めっき液には、たとえばスルファミン酸ニッケルめっき液を使用することがあり、電流密度を3A/dm2~20A/dm2、液温を40℃~60℃とする場合がある。
【0031】
なお、図3の実施形態は、基材21上に、Ni層25及びNi-P層23をこの順序で形成したものである。図4の実施形態では、さらにその上に最表層34が形成されており、基材31側から表面側に向かってNi層35、Ni-P層33、最表層34の順に各層が形成されている。
【0032】
(表面粗さ)
リードフレーム等の表面(外部に露出する表面)における三次元表面性状(面粗さ)の算術平均高さSaは、0.2μm以下であることが好適である。これにより、毛細管現象による濡れ広がりを有効に抑制することができる。上記の表面は、図1及び3ではNi-P層3、23の表面を意味し、図2及び4では最表層14、34の表面を意味する。
【0033】
表面の算術平均高さSaはISO25178に準拠し、表面の平均面からの高さの絶対値の平均値を意味し、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。より詳細には、株式会社キーエンス製のVK-X150を使用し、観察倍率2000倍、測定面積100μm×140μm、スポット径φ0.8mmで表面を測定し、測定データとしては、基準面が平面になるように基準面設定を行った値を使用する。リードフレーム等のサンプル内の測定箇所は、その中央の1点とすることができる。サンプルはレーザー顕微鏡にセットする際に、傾きおよび反りが1度以下になるようにして測定する。
【0034】
(リードフレーム、導電部品、複合体)
上述したようなめっき層2は、リードフレームその他の導電部品又は複合体等の基材1上に設けられ得る。
【0035】
リードフレームは、半導体デバイスに搭載される半導体チップを支持するとともに外部配線に接続する導電部品であり、半導体チップが配置されるダイパッドと、ダイパッドの周囲のインナーリードやアウターリード等のリードとを含んで構成されることがある。ペーストが塗布される、あるいは樹脂と接合される他の導電部品としては、たとえば、コネクタ等が挙げられる。このような導電部品は、例えば、モーター、二次電池、パワーコントロールユニット(PCU)、エレクトロニックコントロールユニット(ECU)等に用いられる。
【0036】
リードフレーム等の導電部品には、その表面に、ペーストが塗布されるペースト塗布領域、及び/又は、樹脂が接合される樹脂接合領域が設定されることがある。なお、このペーストは、銀粉等の金属粉を含むペーストとする場合がある。そのようなペースト塗布領域又は樹脂接合領域に、ペーストが塗布されたとき、又は、たとえばインサート成形時に溶融状態の樹脂が流れ込んで接触したとき、当該ペースト又は樹脂が毛細管現象により、所期した範囲を超えて濡れ広がると、導電部品の信頼性の低下や不良の発生を招くおそれがある。
【0037】
これに対し、この実施形態では、導電部品の表面側のめっき層がNi-P層を含むことにより、先に述べたように、ペーストや樹脂の濡れ広がりを有効に抑制することができる。その結果として、導電部品の信頼性を確保できるとともに、不良品の発生を抑制することができる。
【0038】
また、ここで対象とする複合体は、複数個の部品が互いに接合されてなるものであって、複数個の部品の少なくとも一部としての第一部材及び第二部材と、第一部材及び第二部材の相互間に介在して第一部材と第二部材とを接合する焼結部とを有するものである。第一部材及び第二部材のうちの少なくとも一方の部材は、基材、及び、基材上に形成されためっき層を含んで構成され得る。
【0039】
上記のような複合体を製造するには、第一部材及び第二部材のうちの少なくとも一方の部材の表面の所定の領域(ペースト塗布領域)に、金属粉を含むペーストを塗布し、第一部材と第二部材との間にペーストを挟んだ状態で加熱することがある。これにより、ペースト中の金属粉が焼結して焼結部となり、その焼結部が接着剤として機能して、第一部材と第二部材とが互いに接合される。
【0040】
かかる複合体において、この実施形態では、基材上にめっき層が形成された上記の少なくとも一方の部材の、焼結部と接する部分における少なくとも一部の当該めっき層が、Ni-P層を含む。それにより、この複合体は、当該焼結部と接する部分の表面のペースト塗布領域に金属粉を含むペーストが塗布された際に、ペーストの濡れ広がりが有効に抑制されたものであるといえる。その結果、複合体は、所期した範囲に焼結部が設けられており、優れた品質を有するものになる。
【実施例0041】
次に、上述したリードフレームや導電部品、複合体の効果を確認する試験を行ったので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0042】
(試験例1)
表1に示すように、純銅製の基材上に、該基材側から表面側に向かって、Ni-P層又はNi層、任意のPd層及び、Au層をこの順序で含むめっき層を形成した板状のサンプルA~Eを各2枚準備した。このNi-P層のP濃度は全て11wt%である。
【0043】
【表1】
【0044】
上記の各サンプルA~Eについて、表面上に銀粉ペースト(ヘンケルエイブルスティック製のQMI519)を塗布し、これを常温で1時間静置した後、オーブン(AS ONE製のDO-450A)内にて175℃で1時間にわたって加熱して銀粉ペーストを硬化させた。その後、実体顕微鏡(LEICA MICROSYSTEMS製のM125C)を用いて、銀粉ペーストの周囲に濡れ広がった部分の範囲((濡れ広がり直径-銀粉ペースト直径)÷2)を確認した。その結果を表2に示す。また、サンプルA~Eの銀粉ペースト硬化後の状態を、図5に写真で示す。なお、図5に示されるように濡れ広がった後のペースト形状が真円でないところ、目視で最も濡れ広がっている直径を濡れ広がり直径として測定した。また、濡れ広がっていない銀粉ペースト形状も真円でないところ、濡れ広がっていない銀粉ペースト輪郭に対して上記最も濡れ広がっている直径に対応する直線と交差する2点間の距離を、銀粉ペースト直径として測定した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、Ni-P層を形成したサンプルA及びBはいずれも、Ni層を形成したサンプルC~Eに比して、銀粉ペーストの濡れ広がり部分の範囲が小さいことがわかる。銀粉ペーストの濡れ広がりと樹脂(例えば封止樹脂として用いられるエポキシ樹脂)の濡れ広がりとの間には相関があることから、樹脂の濡れ広がりも同様の傾向になると推測できる。
【0047】
よって、上記の試験より、Ni-P層を形成することで、ペーストや樹脂の濡れ広がりを有効に抑制できることがわかった。
【0048】
なお、サンプルA~Eの三次元表面性状(面粗さ)の算術平均高さSaを先述した方法により測定したところ、表3に示す結果が得られた。ここでは、各サンプルA~Eの2枚のそれぞれにつき、その中央の1点に対して測定を行い、その平均値を算術平均高さSaとした。
【0049】
【表3】
【0050】
表3より、サンプルA~Eの算術平均高さSaはそれほど差がないことがわかる。また、サンプルA~Eの最表層は全てAu層である。それにも関わらず、上述したように、濡れ広がりについては、サンプルC~EよりもサンプルA及びBで抑制されるという結果が得られた。このことから、理由は不明であるものの、表面粗さによらず、Ni-P層を形成することにより、濡れ広がりを抑えることができると考えられる。
【0051】
(試験例2)
純銅製の平板(基材)上に、下記に示すように左側から右側に向けて順次に各めっきを施して、各めっき層を形成し、サンプルF~Kの金属材料を作製した。
サンプルF:Ni-P(P11wt%)1μm/Au-Co0.01μm
サンプルG:Ni-P(P11wt%)1μm/Pd0.015μm/Au-Co0.01μm
サンプルH:無光沢Ni1μm/Au-Co0.01μm
サンプルI:無光沢Ni1μm/Pd0.015μm/Au-Co0.01μm
サンプルJ:無光沢Ni0.5μm/Ni-P(P11wt%)0.5μm/Au-Co0.01μm
サンプルK:無光沢Ni0.25μm/Ni-P(P11wt%)0.75μm/Au-Co0.01μm
【0052】
各サンプルF~Kについて、下記の条件で塩水噴霧を24時間行い、その後に外観を観察した。各サンプルF~Kの当該外見を、図6に示す。
装置:スガ試験機ST-ISO-3
濃度:塩化ナトリウム50±5g/L
pH:6.5~7.2
温度:35±2℃
圧縮空気圧力:98±10kPa
噴霧液採取量:1.5±0.5mL/h
水平採取面積:80cm2
【0053】
図6に示すように、下地がNi-P層であるサンプルF及びGは、下地がNi層であるサンプルH及びIにと比べて基材の腐食が激しく、基材のCuが露出している箇所や、塩化銅と思われる緑色の箇所が散見された。
【0054】
図7は、塩水噴霧後のサンプルFのSEM画像である。圧延目にそって表面に無数のピンホールが存在することが分かる。このピンホールによって耐食性が悪くなっていると考えられる。
【0055】
これに対し、Ni-P層の下地としてNi層を形成したサンプルJ及びKでは、図6に示すように、基材の腐食が抑制されていることがわかる。これは、仮にNi-P層よりも表面側でピンホールが発生していたとしても、Ni層により、基材への腐食性物質の到達が抑制されたことによるものと考えられる。このため、基材とNi-P層との間にNi層を形成することにより、リードフレーム等の耐食性を向上させることが可能であるといえる。
【符号の説明】
【0056】
1、11、21、31 基材
2、12、22、32 めっき層
3、13、23、33 Ni-P層
14、34 最表層
25、35 Ni層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7