(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143927
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】組成物、ベーカリー製品の製造方法及びベーカリー製品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20241004BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20241004BHJP
A21D 8/04 20060101ALI20241004BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A21D13/00
A21D8/04
A23L7/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056881
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(71)【出願人】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 暢人
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】田川 祐眞
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LG06
4B023LK17
4B023LP07
4B023LQ03
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4B035LG34
4B035LG51
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP56
(57)【要約】
【課題】ベーカリー製品等の生地食品製造時において、生地のべたつきを抑えて作業性を良くしつつ、しっとりした食感を有する食品を提供する。
【解決手段】食品用アミラーゼ素材を、40℃以上60℃以下の水性液と混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物、及び、食品用アミラーゼ素材、40℃以上55℃未満の水性液及び穀粉類を混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用アミラーゼ素材を、40℃以上60℃以下の水性液と混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物。
【請求項2】
食品用アミラーゼ素材、40℃以上55℃未満の水性液及び穀粉類を混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物。
【請求項3】
前記水性液が水100質量部に対して、0.001質量部以上の食塩を含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物をベーカリー生地に含有させる工程を有する、ベーカリー製品の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の組成物を用いて製造されるベーカリー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、ベーカリー製品の製造方法及びベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湯種製造時等に、酵素を水とともに混合することが行われている。
例えば特許文献1には、でん粉質原料の一部を湯捏ねして湯種を調製する工程、及び、調製された湯種と残りの原材料とを混練する工程を含む、湯種パンの製造方法であって、ブランチングエンザイム、α-グルコシダーゼ、及びグルコースオキシダーゼからなる群から選択される1以上の酵素を、前記でん粉質原料の一部を湯捏ねして湯種を調製する工程及び前記調製された湯種と残りの原材料とを混練する工程のいずれか又は両方において添加することを特徴とする、湯種パンの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
従来、アミラーゼをベーカリー生地等の生地の調製に用いることで、生地にしっとりした食感を付与できるとされている。
しかしながら、近年の食品への品質向上の要求は強いものであり、従来よりもさらに一層良好な品質を有し、製造時に生地がべたつかず作業性のよい生地食品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
出願人は鋭意検討した結果、食品用アミラーゼ素材を、水性液を用いて所定温度域にて、所定pH条件にて所定時間加熱することで、従来よりも得られるベーカリー製品においてしっとりした食感を向上させることができ、且つ、生地のべたつきを効果的に抑制できることを見出した。
【0006】
本発明は、上記知見に基づくものであり、食品用アミラーゼ素材を、40℃以上60℃以下の水性液と混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物を提供する。
【0007】
また本発明は、食品用アミラーゼ素材、40℃以上60℃以下の水性液及び穀粉類を混合し、当該温度域にて、pH5.5以上7.0以下で1分以上60分未満、保持して得られる組成物を提供する。
【0008】
本発明は、上記組成物をベーカリー生地に含有させる工程を有する、ベーカリー製品の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、上記組成物を用いて製造されるベーカリー製品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベーカリー製品等の生地食品の製造時において、生地のべたつきを抑えて作業性を良くしつつ、しっとりした食感を有する食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、食品用アミラーゼ素材におけるアミラーゼとは、例えば、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼなどが挙げられる。
【0012】
α-アミラーゼ(酵素番号:EC 3.2.1.1)はデンプン、グリコーゲンなどのα-1,4結合をランダムに切断するエンド型の酵素の総称である。
【0013】
マルトース生成α-アミラーゼ(酵素番号:EC 3.2.1.133)は、デンプンに作用し、主としてマルトースを生成する酵素の総称である。
【0014】
マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼは、デンプンに作用し、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースのようなグルコースがα-1,4結合したオリゴ糖を生成する。マルトトリオース生成α-アミラーゼは酵素番号:EC 3.2.1.116の酵素として知られている。マルトテトラオース生成α-アミラーゼは酵素番号:EC 3.2.1.60の酵素として知られている。
【0015】
β-アミラーゼとは、デンプン、グリコーゲンなどの非還元性末端からα-1,4結合をマルトース単位で切断するエキソ型の酵素を指す。
【0016】
これらのうち、本発明ではいずれを用いてもよいが、アミラーゼとして、ベーカリー製品におけるしっとり感の付与効果が高い点や、くちゃついた食感の改善等の理由から、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、α-アミラーゼを用いることが特に好ましい。
【0017】
また、アミラーゼとしては、至適温度が30~60℃のものを用いることが好ましく、40~50℃のものを用いることがより好ましい。
【0018】
また、アミラーゼとしては、至適pHが4.0~7.0のものを用いることが好ましく、5.0~6.5のものを用いることがより好ましい。
【0019】
食品用アミラーゼ素材におけるアミラーゼとしては、細菌、カビ類、放線菌、イネ科及びマメ科植物の種子、ヒト及びブタなどの動物の消化腺など多くの生物から得られているものを使用することができる。α-アミラーゼ等のアミラーゼ源となる細菌としては、バチルス ズブチリス マーバーグ(Bacillus subtilis Marburg)、バチルス ズブチリス ナットウ(Bacillus subtilis natto)、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス セレウス(Bacillus cereus)、バチルス マセランス(Bacillus macerans)、シュードモナス シュツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、クレブシェラ アエリゲネス(Klebusiella aerogenes)などが挙げられる。
α-アミラーゼ等のアミラーゼ源となる放線菌としては、ストレプトマイセス グリセウス(Streptomyces griseus)等が挙げられる。
α-アミラーゼ等のアミラーゼ源となるカビ類としては、アスペルギウス オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などを使用することができる。
【0020】
本発明に用いる食品用アミラーゼ素材におけるアミラーゼは、前記生物又は、それらの変異株、あるいはこれらの酵素若しくはその変異体をコードするDNA配列を有する組換えベクターで形質転換された宿主細胞等を、同化性の炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い培養し、一般の酵素の採取及び精製方法に準じて得ることができる。このようにして得られる酵素液はそのまま用いることもできるが、さらに公知の方法により精製、結晶化、粉末化又は造粒化したものを用いることができる。
本発明に用いるアミラーゼ含有食品素材におけるアミラーゼの形態は特に限定されず、酵素蛋白質の乾燥物、酵素蛋白質を含む粒子、及び酵素蛋白質を含む液体等を用いることができる。
【0021】
また、食品用アミラーゼ素材としては、食品素材や食品添加物等として一般に販売されているアミラーゼ製剤を特に限定なく用いることができる。
【0022】
食品用アミラーゼ素材におけるアミラーゼ活性は、一般的であればよいが、例えば、食品用アミラーゼ素材1gあたり50~100000000mUとすることが好ましく、より好ましくは500~50000000mUであり、後述した実施例では当該範囲内の素材を用いている。アミラーゼ活性は公知の方法で測定でき、例えばα-アミラーゼであれば、α-アミラーゼキット(Ceraipha,Me-gazyme Co.,Ltd.,Wicklow,Ireland)を用いた日本食品工業学会誌,41,p927-932(1994)に記載の方法を挙げることができる。
【0023】
本発明の一の実施態様を以下説明する。本態様の組成物は、食品用アミラーゼ素材を40℃以上60℃以下の水性液と混合させた状態で、pH5.5以上7.0以下の条件で1分以上60分未満加熱して得られる。ここで、当該pHは水性液と食品用アミラーゼ素材とを混合し、当該混合状態で40℃以上60℃以下、1分以上60分未満保持したときの何れかの時点で測定して上記範囲内であることが確認できればよい。
【0024】
水性液としては、水、水溶液又は水分散液が挙げられる。水溶性又は水分散液としては、水に対して、アミラーゼ活性への悪影響がない又は少ない成分を添加したものが好適である。その様な成分としては、例えば食塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウムといった無機塩化物等の無機塩、酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等の有機酸塩、リン酸塩等の塩や、酢酸、クエン酸といった有機酸等の酸が挙げられる。無機塩や有機酸塩、リン酸塩や有機酸はpH調整剤としても用いられる。これらを1または2種類以上用いてもよい。
【0025】
なかでも、水性液は食塩を含有していることが生地のべたつき抑制効果や、ベーカリー製品のしっとり感を一層向上させることができる点で好ましい。水性液が食塩を含有する場合、その量は、水性液に含まれる水100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。水性液における食塩量の上限としては15質量%以下であることが、生地のべたつき抑制効果や、ベーカリー製品のしっとり感を一層向上させることができる点で好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0026】
本発明では、水性液として水又は水溶液に食品用アミラーゼ素材を混合させることが好ましい。当該水溶液としては、水にpH調整剤及び/又は塩を溶解させたものが挙げられる。
【0027】
水性液は、食品用アミラーゼ素材が混合される時点の温度が40~60℃の範囲内である。水性液の温度が40℃以上であることで、本発明の組成物をベーカリー製品等の生地の製造に用いた場合に生地のべたつき防止効果が得られる。60℃以下であることで、得られるベーカリー製品等にてしっとりした食感が得られるようになる。更に、本発明では、当該温度域において、食品用アミラーゼ素材と水性液を含む混合物を1分以上60分未満保持する。
【0028】
本発明が特定の温度域の水性液に食品用アミラーゼ素材を混合して所定時間所定温度とすることで、べたつき防止の抑制としっとりした食感に特に優れる理由は明確ではないが、一つの理由として以下が推測される。食品用アミラーゼ素材には、極微量のプロテアーゼ等のアミラーゼ以外の酵素が含まれている場合があり、これを失活することで、生地のべたつきを効果的に防止できるほか、アミラーゼ活性を優れたものとできる可能性があると推測される。本発明では、特定の温度域、所定時間、所定pHの条件で水性液を食品用アミラーゼ素材と接触させることでプロテアーゼ等をアミラーゼに対して優先的に失活させることができ、それにより、上記の効果が得やすい可能性があるものと考えられる。
一層のべたつき防止効果を得る点から、前記水性液の温度は45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、52℃以上が更に好ましい。一層のしっとり感の向上効果を得る点から、前記水性液の温度は60℃以下が好ましく、57℃以下がより好ましく、55℃以下が更に好ましい。
【0029】
同様に水性液と混合した食品用アミラーゼ素材の保持温度は、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましい。一層のしっとり感の向上効果を得る点から、前記保持温度は60℃以下が好ましく、57℃以下がより好ましく、55℃以下が更に好ましい。
【0030】
前記水性液と食品用アミラーゼ素材を含む混合物のpHは5.5以上7.0以下であることで、得られる組成物においてアミラーゼ活性に優れ、ベーカリー製品のしっとり感の向上効果が得られる。この点から、前記混合物のpHは、5.8以上であることが更に一層好ましく、6.0以上が特に好ましい。また同様の点から、前記混合物のpHは、6.8以下であることが更に一層好ましく、6.5以下が特に好ましい。pHは一般のpH計で測定することができる。
【0031】
前記水性液と、食品用アミラーゼ素材との混合質量比は、水性液100質量部に対し、食品用アミラーゼ素材の固形分が0.1~10質量部であることが混合処理により、生地のべとつきを防止しつつしっとり感の向上効果に優れる点で好ましく、0.5~2質量部であることが特に好ましい。ここでいう固形分とは食品用アミラーゼ素材が粉末等の固形状である場合は、食品用アミラーゼ素材の量であり、食品用アミラーゼ素材が溶液等の液状、流動状である場合は、その水等の溶媒を除く量である。
【0032】
食品用アミラーゼ素材を、40~60℃の水性液と混合して当該温度域にてpH5.5~7.0の条件で1分以上60分未満保持する。この保持時間が1分以上であることで生地のべたつき抑制効果が得られる。この保持時間が60分未満であることで、組成物を用いたときの生地のべたつき防止効果が高いものとなり、またしっとり感付与効果が良好なものとなる。これらの効果を一層優れたものとする点から、食品用アミラーゼ素材を前記水性液に混合して40~60℃の温度域に保持する時間は、2分以上58分以下がより好ましく、5分以上55分以下が更に好ましく、10分以上50分以下が更に一層好ましく、20分以上40分以下が特に好ましい。
【0033】
前記温度域に保持した後、得られた組成物は通常40℃未満に冷却する。本冷却の速度は上記温度域での時間が所定の保持時間内となるようにコントロールされる。冷却方法としては、ウォーターバスを用いて冷却する方法などが挙げられる。
【0034】
本態様では、水性液に対し、穀粉類の量は少なくてもよく、例えば水性液の水100質量部に対し5質量部未満であってもよく、3質量部以下であってもよい。
【0035】
或いは上記態様とは異なり、前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合してもよい。後述する実施例27~31に示す通り、この場合であっても、得られる組成物により、べたつき抑制及びしっとりした食感の向上効果を得ることができる。以下、この態様について、更に説明する。本態様については、上記の態様と異なる点について説明する。上記態様で説明した点は特に断らない限り、下記態様に限定なく適用できる。
【0036】
穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられる。穀粉としては、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、ハト麦粉、燕麦、ひえ粉、あわ粉、大豆粉及びこれらの穀物粒の全粒粉等が挙げられる。また熱処理等の加工処理を施した穀粉も挙げられる。
また、澱粉としては、前記の穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が挙げられ、該加工澱粉としては、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化にはヒドロキシプロピル化が含まれ、エステル化にはアセチル化が含まれる。
穀粉類の中でも、小麦粉を用いることが好ましい。
【0037】
本発明では、前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合する場合、前記水性液と、穀粉類とは、前記水性液100質量部に対し、前記穀粉類が10~150質量部となるように混合することが所定範囲へのpH調整しやすさや、均一な加熱のしやすさ等から、好ましい。これらの観点から、前記水性液100質量部に対し、前記穀粉類が、20質量部以上120質量部以下が好ましく、30質量部以上110質量部以下がより好ましく、50質量部以上100質量部以下が最も好ましい。
なお、水性液と混合して所定温度で保持するために用いられる穀粉類は、本発明の組成物がベーカリー製品等の食品製造に用いられる場合、通常、食品を構成する穀粉類の一部であり、例えば食品を構成する穀粉類の50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
【0038】
前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合する場合、前記水性液と、食品用アミラーゼ素材と、穀粉類を同時に混合してもよく、食品用アミラーゼ素材と、穀粉類を先に混合し、その混合物に前記水性液を混合してもよく、穀粉類と水性液を先に混合し、その混合物に食品用アミラーゼ素材を混合してもよく、穀粉類と食品用アミラーゼ素材を先に混合し、その混合物に水性液を混合してもよい。なかでも穀粉類と食品用アミラーゼ素材を先に混合し、その混合物に水性液を混合する方法であると、酵素に対して安定的な熱処理ができることの利点を有する。いずれの場合も、上記の保持時間の起点は、所定温度の水性液と食品用アミラーゼ素材との接触開始時点となる。
【0039】
前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合する場合、特に、前記水性液の温度は42℃以上55℃未満であることが好ましく、47℃以上54℃以下がより好ましい。本態様では前記水性液の温度が55℃未満であることで、特に、本態様の組成物を用いて得られるベーカリー製品のしっとり感を向上させる利点がある。
【0040】
前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合する場合、特に、混合物の保持温度は40℃以上55℃未満であることが好ましく、45℃以上54℃以下がより好ましい。本態様では前記水性液の温度が55℃未満であることで、特に、本態様の組成物を用いて得られるベーカリー製品のしっとり感を向上させる利点がある。
【0041】
前記水性液と、食品用アミラーゼ素材とを混合する際に、穀粉類を合わせて混合する場合、前記水性液と食品用アミラーゼ素材と穀粉類を含む混合物のpHは、pH5.5以上7.0以下であることで、得られる組成物においてアミラーゼ活性に優れ、ベーカリー製品のしっとり感の向上効果が得られる。同様の点から、前記混合物のpHは、5.8以上あることが更に一層好ましい。また、前記混合物のpHは、6.8以下であることが更に一層好ましく、6.5以下が特に好ましい。
【0042】
穀粉類を水性液及び食品用アミラーゼ素材と混合させる場合においても、40~60℃での保持時間は1分以上60分未満の範囲内であり、10分以上50分以下がより好ましく、20分以上40分以下が特に好ましい。混合状態の組成物が所定温度域となる時間が保持時間内となるように、ウォーターバスなどの恒温槽を用いる方法等で冷却する。冷却方法としては、上記と同様の方法が挙げられる。
また、水性液、食品用アミラーゼ素材及び必要に応じて穀粉類と混合させる工程、及び、得られた混合物を所定温度に保持する工程は、加圧状態で行ってもよいが、1MPa未満の加圧又は無加圧状態で行うことが、本様態の組成物を用いて得られるベーカリー製品のしっとり感を向上させる点で好ましく、0.2MPa未満の加圧又は無加圧状態で行うことがより好ましく、無加圧状態で行うことが最も好ましい。
【0043】
本発明の組成物によるアミラーゼの活性を高める観点から、本発明の組成物中、水、アミラーゼ及び必要に応じて添加される穀粉類、並びに必要に応じて添加される食塩、及びpH調整剤以外の成分の合計量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に一層好ましい。
【0044】
以上の処理により、本発明の組成物が得られる。
本発明の組成物は、これをベーカリー生地等の生地に含有させることで、ベーカリー製品等の食品を製造できる。
【0045】
ベーカリー製品用の生地としては、本発明の組成物に加えて、水分、穀粉類、及び必要に応じてイースト又は膨張剤(ベーキングパウダー等)やその他の副原料を混合して得られた発酵又は非発酵生地が挙げられる。ここで用いる水分としては、水や液乳、液卵等が挙げられる。穀粉類としては、上記で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0046】
ベーカリー製品とは当該ベーカリー製品用生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品をいう。ベーカリー製品及びその生地の具体的な例としては、パン類;ピザ類;ケーキ類;シュー、ビスケット、どら焼き、焼き饅頭等の和洋焼き菓子類;中華まん、カレーまん等の蒸し菓子類;ドーナツ(イーストドーナツ、ケーキドーナツ)等の揚げ菓子;お好み焼き、ねぎ焼等のスナック菓子及びそれらの生地が挙げられる。尚パン類としては食パン、菓子パン、フランスパン、ハードロール、バゲット、ペストリーなどが挙げられる。ケーキとしては、バー、クッキー、パンケーキ、ホットケーキ等が挙げられる。
【0047】
ベーカリー生地における上記の副原料としては、糖類、油脂類、粉乳や乾燥卵等の蛋白質、食塩、膨張剤、イースト、増粘剤、乳化剤、卵殻カルシウム、酵素、呈味剤、香辛料、色素、香料などが挙げられる。
【0048】
本発明において、ベーカリー製品としては、生地のべたつき防止やしっとりした食感改善効果を得やすい点では、パン類、ピザ類、ドーナツ類、パンケーキ、ホットケーキから選ばれることが好ましく、とりわけ、パン類、ピザ類、ドーナツ類から選ばれることが好ましい。
【0049】
本発明の組成物をベーカリー生地に含有させる方法としては、水分、及び穀粉類並びに必要に応じて添加される副材料を混合した後に、本発明の組成物を混合してもよいし、或いは、本発明の組成物と、穀粉類と、水分とを混合してもよいが、好ましくは本発明の組成物と、穀粉類とを混合する工程を経ることがしっとりした食感と生地のべたつき抑制効果が得やすい点で好ましく、本発明の組成物と、穀粉類と水分とを混合する工程を経ることがより好ましい。本発明の組成物と、穀粉類と水分とを混合する場合、本発明の組成物と、穀粉類と水分とを同時に混合しても、本発明の組成物と、穀粉類とを混合した後に水分を添加して混合しても、本発明の組成物と、水分とを混合した後に穀粉類を混合しても、水分と穀粉を混合した後に本発明の組成物を混合してもよい。
【0050】
一層の効果を高める観点から、本発明の組成物は、用いるベーカリー製品に用いる穀粉類に対し、食品用アミラーゼ素材の固形分として10~800質量ppmの量で用いることが好ましい。中でも、しっとりした食感の向上を図ることができる観点から、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がより好ましく、150質量ppm以上が特に好ましい。また、穀粉類に対し、食品用アミラーゼ素材の固形分を400質量ppm以下とすることで、生地のべたつきを一層効果的に抑制でき、この観点から、200質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下であってもよい。
【0051】
本発明者は、食品用アミラーゼ素材を、40~60℃の水性液と混合し、当該温度域に、pH5.5~7.0の条件で、1分以上60分未満保持すること、及び、食品用アミラーゼ素材、40~60℃(特に40℃以上55℃未満)の水性液及び穀粉類を混合し、当該温度域に、pH5.5~7.0の条件で、1分以上60分未満保持することで、得られる組成物をベーカリー製品等の調製に供した場合に、得られるベーカリー製品のしっとりした食感が効果的に改善され、かつ生地のべたつきを改善できることを見出した。しかしながら、当該の組成物の物性や特性は種々のものが存在し、全てを明らかにして出願することは、物性の特定方法から開発する必要があるため長期の研究が必要であり、製品寿命の短い食品の分野において実際的には不可能である。そこで、本出願においては、上記の処理により得られた組成物であることを、組成物の構成として特許請求の範囲に規定することとした。以上の通り、出願時において本明細書に記載されていること以外に当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在した。
【実施例0052】
(実施例1~16、比較例1~6)
・組成物の製造
食品用アミラーゼ素材として粉末状のα-アミラーゼ製剤、ビオザイムA(天野エンザイム社製)(Aspergillus oryzae由来、至適pH5.0、至適温度50℃)を用いた。表1~表3に記載の温度に調整し、酢酸水溶液又は/及び酢酸ナトリウム水溶液を用いて表1~表3に記載のpHに調整した水溶液又は水10mlに、食品用アミラーゼ素材0.1gを添加及び混合して酵素を溶解ないし分散させて、表1~表3に記載の時間、前記のpH及び温度に保持した。温度はウォーターバスでコントロールした。pHを6.5、5.5、5.8、6.0、6.8、7.0、5.0及び8.0に調整するいずれの場合においても、合計酢酸根は水溶液中2質量%以下であった。pHの測定は株式会社堀場アドバンスドテクノ社製pHメータD-52を用いて行った。
組成物は、加熱処理後、20℃にまで冷却させて使用した。冷却方法はウォーターバスを用いた冷却とした。表1~3記載の保持温度から20℃まで品温が低下するのにかかる時間は5分以内であった。なお、比較例6では、食品用アミラーゼ素材と、20℃でpH6.5の水溶液10mlとを混合し、加熱は行わなかった。
以上のようにして、実施例及び比較例の組成物を製造し、下記方法のパンの製造に用いた。
【0053】
・パンの製造
(配合)
小麦粉(日清製粉社、「ミリオン」)100質量部
生イースト 3質量部
グラニュー糖 5質量部
食塩 2質量部
ビタミンC 0.01質量部
ショートニング 5質量部
水 70質量部
組成物 小麦粉100質量部に対する酵素添加量が表1~3に記載となる量
【0054】
(工程)
(1)上記(配合)のうち、ショートニング以外の材料を、ミキサー(エスケーミキサー社 SK-10)にて、低速3分、中低速7分にて混合した。
(2)次いで、ショートニングを投入し、低速1分、中低速3分、中高速8分で混合した。捏ね上げ温度は27℃であった。
(3)27℃、湿度75%RHにて60分発酵した後、400gに分割・まるめを行い、ベンチタイム20分をとり、ワンローフ成型した。38℃、湿度85%RHにて42分発酵した後、上火165℃、下火190℃で30分焼成し、パンを製造した。
【0055】
専門パネラー10名に、上記工程での分割・まるめ時、成型時における生地のべたつきを下記基準で評価させたほか、焼成後2時間25℃で静置したパンの食感を下記基準にて評価させた。評価点の平均値を求め、表1~3に記載する。
・評価
(生地のべたつき)
5:まったくべたつかない。
4:ややべたつかない。
3:ややべたつく。
2:べたつく。
1:かなりべたつく。
【0056】
(しっとり感)
5:かなりしっとりしている。
4:しっとりしている。
3:ややしっとりしている。
2:しっとりしていない。
1:まったくしっとりしていない。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
上記の通り、40~60℃の水性液に混合させて当該温度、pH5.5~7.0で1分以上60分未満保持することで、得られるベーカリー生地にべたつきがなく、得られるベーカリー製品にしっとりした食感が得られることが判る。
【0061】
(実施例17~22)
食品用アミラーゼ素材と混合する水性液として、表4に記載の量で食塩を溶解させた水溶液を用い、水性液と食品用アミラーゼ素材とを混合して、pH6.5に保持した。その点以外は実施例1と同様にして、組成物の調製及びベーカリー製品の製造を行い、評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【0063】
(実施例23~26、比較例7)
上記のパンの製造工程における実施例1の組成物の使用量を、小麦粉に対するα-アミラーゼの添加量が表5に示す値となるように変更した。その点以外は実施例1と同様としてベーカリー製品の製造を行い、評価した。なお、比較例7は本発明の組成物を添加していない以外は実施例1と同様にパンを製造した例である。結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
(実施例27~31、比較例8~10)
小麦粉(日清製粉社製、「ミリオン」)20質量部と、食品用アミラーゼ素材の表6に記載の量とを混合した後、表6に記載の温度の水20質量部を添加及び混合した。水の混合はミキサー(エスケーミキサー社SK-10)にて低速2分、中低速2分の条件で行った。得られた混合物は、表6に記載の保持温度、pHで30分間保持された。その後、ウォーターバスを用いて25℃まで冷却して組成物を調製した。表6記載の保持温度から25℃まで品温が低下するのにかかった時間は5分以内であった。なお、混合物のpHの測定は株式会社堀場アドバンスドテクノ社製pHメータD-52を用いて行った。
得られた組成物を、小麦粉80質量部、水50質量部、塩2質量部、砂糖5質量部、パン酵母3質量部と更に混合し、ミキサー(エスケーミキサー社製SK-10)にて、低速3分、中低速7分にて混合した。その後は、上記(工程)の(2)以降の工程を行い、パンを製造した。
なお、表6に記載の食品用アミラーゼ素材の使用量は、パンの製造に用いた全小麦粉に対する質量ppmを示す。
【0066】
【0067】
上記の通り、40℃以上55℃未満という好適な温度域の水性液と穀粉類と混合して当該温度域にpH5.5~7.0にて1分以上60分未満保持することで、得られるベーカリー生地にべたつきがなく、得られるベーカリー製品にしっとりした食感が得られることが判る。