(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144017
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】カルバミン酸エステル化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 71/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G71/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023160735
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2023051903
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亮平
(72)【発明者】
【氏名】遠田 淳
(72)【発明者】
【氏名】矢野 友健
(72)【発明者】
【氏名】宮林 佑妃
(72)【発明者】
【氏名】浅場 裕貴
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034SA02
4J034SA03
4J034SB01
4J034SB05
4J034SC01
4J034SC03
4J034SC04
4J034SD01
4J034SD02
4J034SD03
4J034SE03
(57)【要約】
【課題】従来のカルバミン酸エステル化合物とは異なる化学構造を有し、軟質なポリウレタンを与える重縮合性の新規カルバミン酸エステル化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される、カルバミン酸エステル化合物。このカルバミン酸エステル化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネートよりなる群から選択されるカーボネート(A)と、ジアミン(B)とを反応させることで得られる。
(式(1)中において、R
1、R
2はそれぞれ独立に、炭素数2~10の直鎖又は分岐を有する炭化水素基を示す。m、n、pはそれぞれ独立に、2~4の整数を示す。oは1~4の整数を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、カルバミン酸エステル化合物。
【化1】
(式(1)中において、R
1、R
2はそれぞれ独立に、炭素数2~10の直鎖又は分岐を有する炭化水素基を示す。m、n、pはそれぞれ独立に、2~4の整数を示す。oは1~4の整数を示す。)
【請求項2】
水酸基価が130mg-KOH/g以上400mg-KOH/g以下である、請求項1に記載のカルバミン酸エステル化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、R1、R2がそれぞれ独立に、炭素数2~4の直鎖又は分岐を有する炭化水素基である、請求項1に記載のカルバミン酸エステル化合物。
【請求項4】
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネートよりなる群から選択されるカーボネート(A)と、ジアミン(B)とを反応させることで得られる、請求項1~3のいずれかに記載のカルバミン酸エステル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバミン酸エステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは成形加工性に優れることから、様々な形態をとることが可能であり、容器、什器、表示部材、電化製品、自動車用部材、弾性繊維、その他広範な産業上の用途に使用されている。
【0003】
ポリウレタンの合成方法としては、ジイソシアネートとジオールとの重付加反応が広く用いられてきた。しかし、一般的にイソシアネート化合物は、人体への刺激性、環境への有害性が高く、また吸湿などで容易に失活するため取り扱い性に劣るといった問題があった。
【0004】
そこで、イソシアネートを用いることなくポリウレタンを合成する重合方法として、カルバミン酸エステル化合物を重縮合させる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、ジ(β-ヒドロキシアルキル)カルバミン酸エステル化合物を、単独又はジオールと共に重縮合させる方法について開示されている。
また、特許文献2~4では、ジ(アルキル)カルバミン酸エステル化合物又はジ(フェニル)カルバミン酸エステルを、ジオールと重縮合させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02-127428号公報
【特許文献2】特開2012-140473号公報
【特許文献3】特開昭60-084257号公報
【特許文献4】特表2009-518494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4には、ポリウレタンの製造に用いるカルバミン酸エステル化合物として、カルバミン酸エステル基間に、脂肪族、脂環式、芳香族といった各種のスペーサー構造を分子中に有するカルバミン酸エステル化合物が記載されているが、いずれの特許文献に開示されているカルバミン酸エステル化合物にあっても、そのスペーサー構造に起因してそれ自体の柔軟性が不足し、これらのカルバミン酸エステル化合物を用いて得られるポリウレタンは硬度が高く、成形加工性や異形複雑形状の成形品への造形性が低いと考えられる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、従来のカルバミン酸エステル化合物とは異なる化学構造を有し、軟質なポリウレタンを与える重縮合性の新規カルバミン酸エステル化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の構造単位を有するカルバミン酸エステル化合物が、その重縮合によって得られるポリウレタンが軟質で良好な成形加工性や異形複雑形状の成形品への造形性を示すことを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 下記式(1)で表される、カルバミン酸エステル化合物。
【0010】
【0011】
(式(1)中において、R1、R2はそれぞれ独立に、炭素数2~10の直鎖又は分岐を有する炭化水素基を示す。m、n、pはそれぞれ独立に、2~4の整数を示す。oは1~4の整数を示す。)
【0012】
[2] 水酸基価が130mg-KOH/g以上400mg-KOH/g以下である、[1]に記載のカルバミン酸エステル化合物。
【0013】
[3] 前記式(1)において、R1、R2がそれぞれ独立に、炭素数2~4の直鎖又は分岐を有する炭化水素基である、[1]又は[2]に記載のカルバミン酸エステル化合物。
【0014】
[4] エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネートよりなる群から選択されるカーボネート(A)と、ジアミン(B)とを反応させることで得られる、[1]~[3]のいずれかに記載のカルバミン酸エステル化合物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の化学構造を有し、軟質なポリウレタンを与える重縮合性の新規カルバミン酸エステル化合物が提供される。
本発明のカルバミン酸エステル化合物を用いたポリウレタンは、軟質で成形加工性、異形複雑形状の成形品への造形性に優れることから、様々な形態の用途に幅広く適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0017】
本発明のカルバミン酸エステル化合物は、下記式(1)で表される。
【0018】
【0019】
(式(1)中において、R1、R2はそれぞれ独立に、炭素数2~10の直鎖又は分岐を有する炭化水素基を示す。m、n、pはそれぞれ独立に、2~4の整数を示す。oは1~4の整数を示す。)
【0020】
従来のカルバミン酸エステル化合物は、2つのカルバミン酸エステル基に挟まれたスペーサー構造部が、脂肪族、脂環式、芳香族の連結基であり剛直な構造であるため、このカルバミン酸エステル化合物自体が硬く、従って、このようなカルバミン酸エステル化合物を重縮合して得られるポリウレタンは、高硬度で成形加工性、異形複雑形状の成形品への造形性に劣るものであった。
これに対して、本発明のカルバミン酸エステル化合物は、2つのカルバミン酸エステル基に挟まれたスペーサー構造部が、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールのような、結晶性が低く、柔軟なオキシアルキレン構造であるため、それ自体が柔軟性に優れ、このカルバミン酸エステル化合物を用いて柔軟で成形加工性、異形複雑形状の成形品への造形性に優れたポリウレタンを得ることができる。
【0021】
上記式(1)において、R1、R2はそれぞれ独立に、炭素数2~10の直鎖又は分岐を有する炭化水素基である。該炭化水素基の炭素数が1では、その化学構造が不安定であるために目的のカルバミン酸エステル化合物が得られず、11以上であると重縮合によってポリウレタンを合成した際に、脱離するアルコールの除去が困難となる。該炭化水素基の炭素数は好ましくは2~6であり、より好ましくは2~4であり、特に好ましくは2又は3である。
【0022】
該炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよいが、重縮合によるポリウレタン合成の過程での反応、変性を防ぐ観点から、好ましくは飽和炭化水素基である。また、該炭化水素基は、目的のカルバミン酸エステル化合物の合成原料として、入手が容易である観点から、直鎖炭化水素基であることが好ましい。
該飽和炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキレン基が挙げられ、好ましくは直鎖アルキレン基である。
【0023】
なお、R1とR2は同一であってもよく、異なるものであってもよいが、合成の容易性の観点からは同一であることが好ましい。
【0024】
式(1)中のm、n、pはそれぞれ独立に、2~4の整数である。結晶性が低く、柔軟なオキシアルキレン構造を構成するカルバミン酸エステル化合物が得られる観点から、m、n、pはそれぞれ独立に、2~3であることが好ましい。
なお、m、n、pは同一であってもよく、異なるものであってもよいが、合成の容易性の観点からは同一であることが好ましい。
【0025】
式(1)中、oは1~4の整数を示す。結晶性が低く、柔軟なオキシアルキレン構造を構成するカルバミン酸エステル化合物が得られる観点から、oは1~3であることが好ましく、1~2であることが好ましい。
【0026】
本発明のカルバミン酸エステル化合物の分子量は280~850の範囲であることが好ましく、310~560の範囲であることがより好ましい。
また、本発明のカルバミン酸エステル化合物の水酸基価は130~400mg-KOH/gの範囲であることが好ましく、200~360mg-KOH/gの範囲であることがより好ましい。
分子量が上記下限以上で、水酸基価が上記上限以下であれば、得られるカルバミン酸エステル化合物が、柔軟性を発現するために十分な長さのスペーサー構造を有しており、一方、分子量が上記上限以下で、水酸基価が上記下限以上であれば、得られるカルバミン酸エステル化合物が、高い重縮合反応性を示す数の水酸基を有する。
【0027】
なお、ここで、カルバミン酸エステル化合物の分子量は、カルバミン酸エステル化合物を構成する原子の原子量の総和として算出することができ、水酸基価は、算出された分子量に対する水酸基の数に基づいて算出することができる。
【0028】
このような本発明のカルバミン酸エステル化合物は、カーボネート(A)とジアミン(B)とを2対1のモル比で付加させることによって合成してもよく、他のカルバミン酸エステル化合物に対して、ジオール化合物をエステル交換反応させることで合成してもよい。
目的のカルバミン酸エステル化合物を高収率で得られる観点から、カーボネート(A)とジアミン(B)とを2対1のモル比で付加させることが好ましい。
【0029】
カーボネート(A)としては、式(1)におけるカルバミン酸エステル基のR1及びR2を形成することができるカーボネート(A)であればよく、エチレンカーボネート(炭素数2の直鎖アルキレン基のR1、R2)、プロピレンカーボネート(炭素数3の分岐を有するアルキレン基のR1、R2)、トリメチレンカーボネート(炭素数3の直鎖アルキレン基のR1、R2)等を用いることができる。
これらは、1種のみを用いてよく、2種以上を混合して用いてもよいが、通常は1種のみが用いられる。
【0030】
ジアミン(B)としては、式(1)におけるカルバミン酸エステル基同士の間のスペーサー構造部分を形成することができるものであればよく、下記式(2)で表されるジアミン(B)が挙げられる。
【0031】
【0032】
(式(2)中、m、n、o、pは、式(1)におけると同義である。)
【0033】
このようなジアミン(B)としては、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,4-ブタンジオールビス(3-アミノプロピル)エーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらは、1種のみを用いてよく、2種以上を混合して用いてもよいが、通常は1種のみが用いられる。
【0034】
カーボネート(A)とジアミン(B)との反応は、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、N,N-ジメチルアセトアミド、水等の溶媒中、または無溶媒で、25~200℃の反応温度で行うことができる。反応時間は反応温度にもよるが、通常3~30時間程度である。
【0035】
このような本発明のカルバミン酸エステル化合物を重縮合させることで、ポリウレタンを製造することができる。
また、本発明のカルバミン酸エステル化合物又はカルバミン酸エステル化合物を重縮合して得られた重合体を更にジオール等の他の化合物と反応させることで、より高分子量のポリウレタンを製造することもできる。
【0036】
本発明のカルバミン酸エステル化合物を重縮合させる方法としては、公知の重合方法が適用できるが、例えば、カルバミン酸エステル化合物単独またはカルバミン酸エステル化合物と共重合させる化合物とを融点以上に加熱して混合撹拌することにより反応させる溶融重合を用いてもよく、溶媒に溶解して混合撹拌することにより反応させる溶液重合を用いてもよい。重縮合後の精製工程が不要である観点から、溶融重合を用いることが好ましい。
【0037】
なお、カルバミン酸エステル化合物の重縮合に際しては、二塩化スズ、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウレート等のスズ化合物、テトラブトキシチタン等のウレタン化触媒を用いることができる。
【0038】
なお、本発明のカルバミン酸エステル化合物を用いてポリウレタンを製造する際には、カルバミン酸エステル化合物として本発明のカルバミン酸エステル化合物のみを用いてもよく、本発明のカルバミン酸エステル化合物と、本発明のカルバミン酸エステル化合物以外の従来のカルバミン酸エステル化合物の1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明のカルバミン酸エステル化合物についても、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明のカルバミン酸エステル化合物と本発明のカルバミン酸エステル化合物以外のカルバミン酸エステル化合物とを組み合わせて用いる場合、本発明のカルバミン酸エステル化合物による柔軟性の効果を有効に得る観点から、全カルバミン酸エステル化合物中の本発明のカルバミン酸エステル化合物の含有割合が10質量%以上、特に50~100質量%となるように用いることが好ましい。
【0039】
また、本発明のカルバミン酸エステル化合物は、カルバミン酸エステル化合物以外のポリウレタン原料と共に用いることができる。いずれの場合においても、本発明のカルバミン酸エステル化合物による柔軟性の効果を有効に得る観点から、全ポリウレタン原料中の本発明のカルバミン酸エステル化合物の含有割合が5質量%以上、特に20~100質量%となるように用いることが好ましい。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[カルバミン酸エステルの合成]
<合成例1:カルバミン酸エステル1の合成>
冷却管および温度計を備えた1L三口フラスコ中に、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)177.4g、エチレンカーボネート(富士フイルム和光純薬社製)88.1gを加えて、マグネチックスターラーで撹拌しながらエチレンカーボネートを溶解させた。さらに1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(富士フイルム和光純薬社製)74.1gを加えて溶液を撹拌しながら、内温60℃で8時間保持して反応を進行させた。反応後の溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、0.1MPa以下40℃で重量が一定になるまで減圧乾燥することで、液状のカルバミン酸エステル1を得た。
【0042】
<合成例2:カルバミン酸エステル2の合成>
表1に記載した通り、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、及びジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、70℃で1日6時間加熱を3日間継続したこと以外は、合成例1と同様に操作することで、液状のカルバミン酸エステル2を得た。
【0043】
<合成例3:カルバミン酸エステル3の合成>
表1に記載した通り、トリエチレンカーボネート及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、120℃で22時間、130℃で5時間加熱し、固体のカルバミン酸エステル3を得た。
【0044】
<合成例4:カルバミン酸エステル4の合成>
表1に記載した通り、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、及びヘキサメチレンジアミン(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、70℃で6時間保持して反応を進行させた。反応後の溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、析出した固体を吸引ろ過によって回収した後に、テトラヒドロフランで懸洗することで、固体のカルバミン酸エステル4を得た。
【0045】
<合成例5:カルバミン酸エステル5の合成>
表1に記載した通り、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、70℃で1日6時間加熱を3日間継続した。反応後の溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、析出した固体を吸引ろ過で回収した後に、酢酸エチルで懸洗することで、固体のカルバミン酸エステル5を得た。
【0046】
<合成例6:カルバミン酸エステル6の合成>
表1に記載した通り、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、及び1,4-ブタンジオールビス(3-アミノプロピル)エーテル(富士フイルム和光純薬社製)を用いて、最初にテトラヒドロフランで十分に混和させた後に、室温下で減圧濃縮を行った。室温から段階的に110℃まで加熱しながら濃縮を行い、泡が出なくなったのを確認した後に、常圧110℃で反応を3時間継続した。その後5時間減圧下110℃で加熱して未反応成分を除去することで、固体のカルバミン酸エステル6を得た。
【0047】
【0048】
各合成例で得られたカルバミン酸エステルの構造式と、構造式から求めた分子量及び水酸基価を以下に示す。なお、カルバミン酸エステル4,5は、特許文献1に記載のカルバミン酸エステルである。
【0049】
【0050】
[実施例1]
<カルバミン酸エステル重合体1の合成>
撹拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた反応容器に、原料として、合成例1にて得られたカルバミン酸エステル1を16.6gと、二塩化スズ2水和物(富士フイルム和光純薬社製)0.030gを加えて、窒素ガスの導入と減圧を繰り返し窒素雰囲気にした。
次に、170℃のオイルバスに反応容器を投入し、170℃で2時間反応容器を保持した。その後、45分かけて30mmHgとなるまで反応容器内を減圧し、その後液体の流出が止まるまで30mmHgで保持した。続いて反応容器内を到達減圧度1.5mmHgまで減圧して、粘度が向上して撹拌翼に樹脂がまとわりつくようになった時点で、加熱を停止して大気圧に復圧して重合を停止することで、カルバミン酸エステル重合体1を得た。
原料および触媒の仕込みと到達減圧度を表2に示す。
【0051】
<カルバミン酸エステル重合体1の平均重合度の計算>
得られたカルバミン酸エステル重合体1を、ジメチルスルホキシド-d6に溶解して、NMR測定装置(Ascend400 Bruker社製)を用いて、カルバミン酸エステル重合体1の平均重合度を次のようにして算出した。
重合体中の窒素原子に隣接するメチレン基に由来するピーク強度を4.0として規格化した条件において、末端水酸基に由来する化学シフト4.7ppm付近のピーク面積強度Ipを求めた。カルバミン酸エステル1において、同様に規格化した条件における末端水酸基に由来する化学シフト4.7ppmのピーク面積強度Imを求めた。平均重合度はIpとImとを用いて下記式より値を決定した。
平均重合度=Im/Ip
得られたカルバミン酸エステル重合体1の平均重合度を表2に示す。
【0052】
<カルバミン酸エステル重合体1の柔軟性の評価>
重合により得られたカルバミン酸エステル重合体1を0.5g秤取し、ハンドプレス機(Mini Test Press型番MP-WNH 東洋精機社製)を用いて、20℃で2MPaの加圧を3分保持することでプレスフィルムを得た。得られたフィルムの端部を把持して、90度以上の角度に折り曲げてから元に戻す操作を2回繰り返すことで、フィルムの柔軟性を評価した。
戻した後のフィルムに割れが起こらないものを〇、割れが起こるものを×として評価した。
結果を表2に示す。
【0053】
[実施例2~5、比較例1~2]
原料仕込みとプレス条件を表2に記載したように変更した他は、実施例1と同様にして、それぞれカルバミン酸エステル重合体2~7を得、同様に評価を行った。
原料仕込み、到達減圧度、平均重合度、柔軟性の評価結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2に記載した通り、実施例1~5に示したカルバミン酸エステル重合体は、柔軟性に優れ、フィルム成形した際の折り曲げに対して、割れを起こさずに変形させることができた。一方、比較例1~2に示したカルバミン酸エステル重合体は、折り曲げにより割れが生じた。
この結果から、本発明のカルバミン酸エステル化合物は、柔軟性に優れ、このカルバミン酸エステル化合物を用いて軟質で、成形加工性、異形複雑形状の成形品への造形性に優れるポリウレタンを得ることができることが分かる。