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特開2024-144078重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144078
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/04 20060101AFI20241003BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G77/04
C08F283/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212138
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023052722
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】尾野本 広志
(72)【発明者】
【氏名】許 書堯
(72)【発明者】
【氏名】桑原 惇
【テーマコード(参考)】
4J026
4J246
【Fターム(参考)】
4J026AB44
4J026BA05
4J026BA27
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB13
4J026FA04
4J026GA01
4J026GA02
4J026GA07
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA070
4J246BA07X
4J246BA120
4J246BA12X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA240
4J246CA249
4J246CA24X
4J246CA400
4J246CA409
4J246CA40X
4J246CA650
4J246CA659
4J246CA65X
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA271
4J246FA291
4J246FA321
4J246FA421
4J246FA521
4J246FB041
4J246FD06
4J246FE27
4J246GB09
4J246GC12
4J246GC21
4J246HA06
4J246HA20
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】透明性と衝撃強度とを両立する成形体が得られる重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】アリール基を含有するシロキサン単位を有するポリオルガノシロキサンを含有する重合体粒子群であって、吸光度法で測定される平均粒子径が200nm以下である、重合体粒子群。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリール基を含有するシロキサン単位を有するポリオルガノシロキサンを含有する重合体粒子群であって、
吸光度法で測定される平均粒子径が200nm以下である、重合体粒子群。
【請求項2】
アリール基を含有する前記シロキサン単位が、下記一般式(1)で示される、請求項1に記載の重合体粒子群。
【化1】
式(1)中、Arはアリール基、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。
【請求項3】
前記ポリオルガノシロキサンが、アリール基を含有しないシロキサン単位をさらに含有する、請求項1に記載の重合体粒子群。
【請求項4】
前記アリール基を含有するシロキサン単位と前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計に対し、前記アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が、5~80質量部であり、前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量が、20~95質量部である、請求項3に記載の重合体粒子群。
【請求項5】
ビニル単量体(a)由来の構成単位を含有する、請求項1に記載の重合体粒子群。
【請求項6】
[前記アリール基を含有するシロキサン単位と前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計]/[ビニル単量体(a)由来の構成単位の含有量]の質量比が3/97~50/50である、請求項3に記載の重合体粒子群。
【請求項7】
前記ポリオルガノシロキサンの屈折率が1.410~1.560である、請求項1に記載の重合体粒子群。
【請求項8】
アリール基を含有するシロキサン単位を有する重合体のラテックスの存在下で、ビニル単量体(a)を重合して得られた重合体複合体に、さらに、ビニル単量体(b)を重合して得られる重合体粒子群であって、
吸光度法で測定される平均粒子径が200nm以下である、重合体粒子群。
【請求項9】
アリール基を含有するオルガノシロキサンを重合してポリオルガノシロキサンを得る工程と、
前記ポリオルガノシロキサンとビニル単量体(a)を重合して重合体複合体を得る工程とを含む、重合体粒子群の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で得られた重合体複合体とビニル単量体(b)を重合して重合体粒子群を得る工程を含む、重合体粒子群の製造方法。
【請求項11】
アリール基を含有する前記オルガノシロキサンの15℃における粘度が、0.5~35.0mPa・sである、請求項10に記載の重合体粒子群の製造方法。
【請求項12】
アリール基を含有する前記オルガノシロキサンが、下記一般式(2)で示される、請求項10に記載の重合体粒子群の製造方法。
【化2】
式(2)中、Arはアリール基、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の重合体粒子群と、熱可塑性樹脂とを含有する、樹脂組成物。
【請求項14】
[前記重合体粒子群の含有量]/[前記熱可塑性樹脂の含有量]で表される質量比が10/90~50/50である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂又は脂肪族ポリエステル樹脂である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム質重合体に対してビニル単量体が重合されたゴム含有重合体は、所定のゴム粒子径、ゴム構造を維持したまま多種多様な樹脂に分散させることができることから、衝撃強度が求められる樹脂に好適に用いられる。
一般的に、ゴムの弾性率が低く、ポアソン比が高いゴム質重合体を用いることが、衝撃強度改良の面から好ましい。ブタジエンゴム及びシリコーン系ゴムは、ポアソン比が0.5と極めて高く、弾性率も低いことから、ゴム質重合体として好適に用いられる。
中でもシリコーン系ゴムは、ブタジエンゴムに比べ、熱や紫外線による硬化や着色を起こしにくく、耐久性に優れることから、建材や自動車部材等の長期的に機械特性を維持することが求められる用途に好適に用いられる。シリコーン系ゴムとしては、ポリジメチルシロキサンに代表されるポリオルガノシロキサンが用いられる。
【0003】
しかし、ポリオルガノシロキサンは、ブタジエンゴムより高価である。また、ポリオルガノシロキサン含有重合体を、ポリオルガノシロキサン含有重合体に比べて高屈折率の樹脂(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-アクリロニトリル共重合体等)に配合し、成形体としたときに、成形体の透明性が低下する問題があった。
【0004】
特許文献1には、アリール基を含有するポリオルガノシロキサン(A)に対し、シアン化ビニル系単量体単位、芳香族アルケニル単位、アルキル(メタ)アクリレート単位から選ばれた少なくとも1種の単量体単位(B’)がグラフト重合していることを特徴とする重合体粒子群(C)を用いることで、得られる成形体の透明性を改良している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-20438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、得られる成形体の透明性と衝撃強度との両立が充分ではないという課題があった。
本発明の目的は、透明性と衝撃強度とを両立する成形体が得られる重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] アリール基を含有するシロキサン単位を有するポリオルガノシロキサンを含有する重合体粒子群であって、
吸光度法で測定される平均粒子径が200nm以下である、重合体粒子群。
[2] アリール基を含有する前記シロキサン単位が、下記一般式(1)で示される、[1]に記載の重合体粒子群。
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、Arはアリール基、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。
[3] 前記ポリオルガノシロキサンが、アリール基を含有しないシロキサン単位をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の重合体粒子群。
[4] 前記アリール基を含有するシロキサン単位と前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計に対し、前記アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が、5~80質量部であり、前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量が、20~95質量部である、[3]に記載の重合体粒子群。
[5] ビニル単量体(a)由来の構成単位を含有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の重合体粒子群。
[6] [前記アリール基を含有するシロキサン単位と前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計]/[ビニル単量体(a)由来の構成単位の含有量]の質量比が3/97~50/50である、[3]又は[4]に記載の重合体粒子群。
[7] 前記ポリオルガノシロキサンの屈折率が1.410~1.560である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の重合体粒子群。
[8] アリール基を含有するシロキサン単位を有する重合体のラテックスの存在下で、ビニル単量体(a)を重合して得られた重合体複合体に、さらに、ビニル単量体(b)を重合して得られる重合体粒子群であって、
吸光度法で測定される平均粒子径が200nm以下である、重合体粒子群。
[9] アリール基を含有するオルガノシロキサンを重合してポリオルガノシロキサンを得る工程と、
前記ポリオルガノシロキサンとビニル単量体(a)を重合して重合体複合体を得る工程とを含む、重合体粒子群の製造方法。
[10] [9]に記載の製造方法で得られた重合体複合体とビニル単量体(b)を重合して重合体粒子群を得る工程を含む、重合体粒子群の製造方法。
[11] アリール基を含有する前記オルガノシロキサンの15℃における粘度が、0.5~35.0mPa・sである、[10]に記載の重合体粒子群の製造方法。
[12] アリール基を含有する前記オルガノシロキサンが、下記一般式(2)で示される、[10]又は[11]に記載の重合体粒子群の製造方法。
【0010】
【化2】
【0011】
式(2)中、Arはアリール基、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。)
[13] [1]~[8]のいずれか一項に記載の重合体粒子群と、熱可塑性樹脂とを含有する、樹脂組成物。
[14] [前記重合体粒子群の含有量]/[前記熱可塑性樹脂の含有量]で表される質量比が10/90~50/50である、[13]に記載の樹脂組成物。
[15] 前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂又は脂肪族ポリエステル樹脂である、[13]又は[14]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性と衝撃強度とを両立する成形体が得られる重合体粒子群及びその製造方法、並びに樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明において、ビニル単量体は、重合性二重結合を有する化合物である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートである。
【0014】
〔重合体粒子群〕
本発明の一態様に係る重合体粒子群(以下、単に「重合体粒子群(C)」とも記す。)は、重合体複合体(以下、単に「重合体(A)」とも記す。)に、第2のビニル単量体(b)をグラフト重合させて得られるものであり、第2のビニル単量体(b)由来の構成単位が重合体(A)と共有結合を形成したグラフト共重合体(C1)を含む。本発明の重合体粒子群(C)は、グラフト共重合体(C1)に加えてさらに、第2のビニル単量体(b)からなるフリー重合体と、前記重合体(A)とを含む重合体複合体(C2)であって、前記フリー重合体が、前記重合体(A)と共有結合を形成せずに前記重合体(A)の外面に物理的に吸着しているものを含んでいてもよい。以下、グラフト共重合体(C1)における第2のビニル単量体(b)由来の構成単位を含むグラフト層、及び重合体複合体(C2)における第2のビニル単量体(b)由来の構成単位を含むフリー重合体を、総じて、「ビニル重合体(B)」ともいう。
【0015】
重合体粒子群(C)は、アリール基を含有するシロキサン単位を有するポリオルガノシロキサン(以下、「ポリオルガノシロキサン(A1)」ともいう。)を含有する。
【0016】
重合体粒子群(C)の吸光度法で測定される粒子径は、200nm以下であり、10nm以上150nm以下が好ましく、50nm以上120nm以下がより好ましい。吸光度法で測定される粒子径が前記下限値以上であれば、成形体の衝撃強度がより優れ、前記上限値以下であれば、成形体の着色外観、透明性がより優れる。
重合体粒子群(C)の吸光度法で測定される粒子径は特に限定されないが、例えば実施例に記載された方法により測定できる。
【0017】
重合体粒子群(C)は、樹脂中に分散させて得られた樹脂片の断面をTEMにて観察したときに、重合体(A)が、ポリオルガノシロキサン(A1)を海成分、ビニル重合体(A2)を島成分とする海島構造を有することが好ましい。このようにポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とが複合した海島構造を取ることで、重合体粒子群(C)を含む成形体の衝撃強度、着色外観、透明性及び耐候性がより優れる。
【0018】
重合体粒子群(C)は、前記樹脂片の断面をTEMにて観察したときに、重合体(A)がコア、第2のビニル単量体(b)由来の構成単位がシェルを構成するコアシェル構造を有することが好ましい。コアシェル構造を形成することで、重合体粒子群(C)を含む成形体の衝撃強度、着色外観、透明性及び耐候性がより優れる。
【0019】
重合体粒子群(C)の各々の粒子は、前記樹脂片の断面をTEMにて観察したときに、ポリオルガノシロキサン(A1)を海成分、ビニル重合体(A2)を第1の島成分、ビニル重合体(B)を第2の島成分とする海島構造を有することが好ましい。このようにポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とビニル重合体(B)とが複合した海島構造を有することで、成形体の衝撃強度と着色外観、透明性がより優れる。
【0020】
上記のようにポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とビニル重合体(B)とが複合した海島構造は、例えば、重合体粒子群(C)の製造時に、ビニル重合体(B)を構成するビニル単量体成分(b)の少なくとも一部を重合体(A)に含浸し、重合することにより形成できる。
ビニル単量体成分(b)の少なくとも一部を重合体(A)に含浸するには、例えば、ビニル単量体成分(b)の少なくとも一部に、30℃における水への溶解度が1.0g/L以下であるビニル単量体を用いればよい。
30℃における水への溶解度が1.0g/L以下であるビニル単量体としては、例えば、後述するビニル単量体のうち、スチレン、アルキル置換スチレン、アルキル置換イソプロペニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
第1の島成分と第2の島成分を区別する方法としては、例えば、染色条件(具体的には染色剤種、染色時間)を調整したTEM観察や、エネルギー分散型X線分光法、電子エネルギー損失分光法等による元素分析が挙げられる。
重合体粒子群(C)の各々の粒子は、第2の島成分を形成していないビニル重合体(B’)を含んでいてもよい。第2の島成分を形成しないビニル重合体(B’)(重合体(A)に含浸されなかったビニル単量体成分(b)が重合されたビニル重合体)は、重合体粒子群(C)の各々の粒子において、グラフト重合体(重合体(A)に共有結合した重合体)又はフリー重合体(重合体(A)とは共有結合せず物理的に吸着している重合体)として重合体(A)の外面に存在する。
【0021】
前記樹脂片の断面のTEM像は、具体的には、以下の手順に従い取得できる。
(1)まず、重合体粒子群(C)をポリエチレンカプセル先端に取り、液状の未硬化エポキシ樹脂を注ぎ、25℃で12時間静置し硬化させ、樹脂片を得る。
(2)次いで、得られた樹脂片に対し、四酸化オスミウム水溶液(23℃、12時間)による染色を行う。
(3)次いで、四酸化オスミウム水溶液による染色後の樹脂片に対し、四酸化ルテニウム水溶液(23℃、5時間)による染色を行う。
(4)次いで、四酸化ルテニウム水溶液による染色後の樹脂片から、ミクロトームを用いて切片を切り出し、支持膜付き銅グリッドの上に回収する。切片の厚みは50nmとする。
(5)次いで、TEMにより、切片の表面(樹脂片の断面)の無作為に選択された0.5μm以上の範囲の画像(TEM像)を取得する。画像の取得倍率は20万倍とする。
【0022】
重合体粒子群(C)100質量%に対するポリオルガノシロキサン(A1)の比率は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることがさらにより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、6質量%以下であることが最も好ましく、一方、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。ポリオルガノシロキサン(A1)の比率が前記下限値以上であれば、成形体の衝撃強度がより優れ、前記上限値以下であれば、成形体の着色外観、透明性がより優れる。
【0023】
重合体粒子群(C)100質量%に対する重合体(A)の比率は、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、一方、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。重合体(A)の含有量が前記下限値以上であれば、成形体の衝撃強度がより優れ、前記上限値以下であれば、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性がより優れ、得られる成形体の外観がより優れる。
重合体粒子群(C)100質量%に対する重合体(A)の比率は、例えば60~95質量%であってよく、60~90質量%であってよく、65~90質量%であってよく、65~85質量%であってよい。
【0024】
重合体粒子群(C)100質量%に対するビニル重合体(B)の比率は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15量%以上であることがさらに好ましく、一方、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。ビニル重合体(B)の含有量が前記下限値以上であれば、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性がより優れ、得られる成形体の外観がより優れ、前記上限値以下であれば、成形体の衝撃強度がより優れる。
重合体粒子群(C)100質量%に対するビニル重合体(B)の比率は、例えば5~40質量%であってよく、10~40質量%であってよく、10~35質量%であってよく、15~35質量%であってよい。
【0025】
重合体粒子群(C)の屈折率は、1.470~1.560であることが好ましく、1.480~1.500であることがより好ましい。
本明細書において屈折率は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0026】
重合体粒子群(C)の吸光度は、0.01~0.06が好ましく、0.02~0.05がより好ましい。
本明細書において吸光度は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0027】
典型的には、重合体粒子群(C)の各々の粒子の一部はアセトンに不溶である。換言すれば、重合体粒子群(C)の各々の粒子の一部はアセトンに可溶である。
以下、重合体粒子群(C)の各々の粒子のアセトンに不溶な部分を「アセトン不溶分」ともいい、アセトンに可溶な部分を「アセトン可溶分」ともいう。
【0028】
重合体粒子群(C)100質量%に対するアセトン不溶分の比率は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90量%以上であることがさらに好ましく、93質量%以上であることが特に好ましく、一方、100質量%未満であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましい。アセトン不溶分の比率が前記下限値以上であれば、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性がより優れ、得られる成形体の衝撃強度及び外観がより優れる。アセトン不溶分の比率が100質量%未満であれば、衝撃強度と発色性のバランスがより優れ、99質量%以下であれば、熱可塑性樹脂に添加した際の溶融流動性がより優れる。
重合体粒子群(C)100質量%に対するアセトン不溶分の比率は、80質量%以上100質量%未満であってよく、85質量%以上100質量%未満であってよく、90量%以上99質量%以下であってよく、93質量%以上99質量%以下であってよい。
重合体粒子群(C)100質量%に対するアセトン可溶分の比率は、10質量%以下であってよく、8質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0029】
アセトン不溶分は以下の(1-1)~(1-5)の操作を行うことによって測定される。
(1-1)試料(重合体粒子群(C))0.5gをアセトン50mL(44.5g)へ加え、混合溶液を調製し、25℃で8時間静置後、30分間スターラーで撹拌し、アセトン可溶分を溶解させる。
(1-2)前記混合溶液を、質量を測定した遠心管に入れ、遠心分離機(16000rpm、4時間)にてアセトン不溶分とアセトン可溶分を含む液とを遠心分離する。
(1-3)上澄み液を除去した後、新たにアセトンを加えてかき混ぜたのち、再度、前記(1-2)と同様に遠心分離を行い、アセトン不溶分を洗浄する。
(1-4)前記(1-3)を2回繰り返した後、上澄み液を除去する。アセトン不溶分が残った遠心管を温水バスに浸け(80℃、8時間)、アセトンを揮発させた後、65℃、6時間真空乾燥し、乾燥試料(遠心管に付着したアセトン不溶分)を得る。
(1-5)得られた乾燥試料の質量(アセトン不溶分+遠心管)を測定し、次式によりアセトン不溶分の比率wais(%)を算出する。
ais=(wc1-was)/wt×100
wt:測定に供した重合体粒子群(C)の質量
as:遠心管の質量
c1:アセトン不溶分の質量(遠心管を含む質量)
【0030】
重合体粒子群(C)中のアセトン不溶分の比率を前記した範囲内とする観点から、ビニル重合体(A2)が充分に架橋され、ポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)が共有結合していることが好ましい。また、ビニル重合体(B)が重合体(A)と共有結合していることが好ましく、ビニル重合体(B)が重合体(A)中のビニル重合体(A2)と共有結合していることがより好ましい。
【0031】
重合体粒子群(C)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、2万以上であることが好ましく、5万以上であることがより好ましく、一方、50万以下であることが好ましく、35万以下であることがより好ましく、20万以下であることがさらに好ましく、15万以下であることが特に好ましい。
アセトン可溶分の重量平均分子量が2万以上50万以下であれば、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性に優れ、得られる成形体の衝撃強度及び外観に優れる。中でも、アセトン可溶分の重量平均分子量が5万以上15万以下であれば、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性が特に良好となり、混練レベルの低い場合も含め、幅広い成形条件において、得られる成形体の衝撃強度及び外観に優れる。
重合体粒子群(C)のアセトン可溶分の重量平均分子量は、2万以上50万以下であってよく、2万以上35万以下であってよく、5万以上20万以下であってよく、5万以上15万以下であってよい。
【0032】
アセトン可溶分の重量平均分子量は以下の(2-1)~(2-3)の操作を行うことによって測定される。
(2-1)前記したアセトン不溶分の比率の測定にて採取したアセトン可溶分を含む液から、ロータリーエバポレーターを用いてアセトンを減圧留去し、アセトン可溶分を得る。
(2-2)前記(2-1)で得られたアセトン可溶分を、試料濃度:0.1~0.3質量%となるようTHFに再度溶解させ、アセトン可溶分のTHF溶液を得る。
(2-3)前記(2-2)で得られたアセトン可溶分のTHF溶液について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレンによる検量線から重量平均分子量(Mw)を求める。
GPCの測定条件は、後述する実施例に記載の通りである。
【0033】
アセトン可溶分の重量平均分子量は、ビニル重合体(B)を構成するビニル単量体成分(b)を重合する際の、開始剤量や還元剤量、重合温度及び連鎖移動剤の使用により調整できる。例えば、開始剤量、還元剤量の増量や重合温度の高温化等によるラジカル発生の増進や、連鎖移動剤の添加及び添加量の増量による連鎖移動反応の促進により、アセトン可溶分の重量平均分子量は低下する。
【0034】
(ポリオルガノシロキサン(A1))
ポリオルガノシロキサン(A1)は、アリール基を有するオルガノシロキサン単位を含む重合体である。
ポリオルガノシロキサン(A1)は、アリール基を有するオルガノシロキサンを含むオルガノシロキサン混合物を重合することにより得ることができる。オルガノシロキサン混合物は、必要に応じて使用される成分をさらに含んでいてもよい。
必要に応じて使用される成分としては、シロキサン系架橋剤、シロキサン系交叉剤、及び末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0035】
ポリオルガノシロキサン(A1)は、アリール基を含有する前記シロキサン単位として、下記一般式(1)で示される構成単位を含むことが好ましい。
【0036】
【化3】
【0037】
式(1)中、Arはアリール基、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。
【0038】
アリール基を有するオルガノシロキサンとしては、下記一般式(2)で示されるモノマーが挙げられる。
【0039】
【化4】
【0040】
式(2)中、Arはアリール基、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数5~12のアリール基、又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基である。
【0041】
アリール基を有するオルガノシロキサンとしては、アリール基を有するものであれば特に限定されず、鎖状オルガノシロキサン、環状オルガノシロキサン等が挙げられ、いずれも用いることができる。その中でも、鎖状オルガノシロキサンが好ましい。
【0042】
アリール基を有する鎖状オルガノシロキサンとしては、アリール基を含む2つの炭化水素基を有するものが好ましく、アリール基を含む2つの炭化水素基と2つのアルコキシ基を有するものがより好ましい。鎖状オルガノシロキサンとしては、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
アリール基を有する環状オルガノシロキサンとしては、3~7員環のものが好ましく、例えば、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
ポリオルガノシロキサン(A1)は、アリール基を有するオルガノシロキサン単位以外に、アリール基を有しないオルガノシロキサン単位を含んでいてもよい。
アリール基を有しない鎖状オルガノシロキサンとしては、特に限定されず、鎖状オルガノシロキサン、アルコキシシラン化合物、環状オルガノシロキサン等が挙げられ、いずれも用いることができる。その中でも、アルコキシシラン化合物、環状オルガノシロキサンが好ましく、特に、重合安定性が高く、重合速度が大きいことから、環状オルガノシロキサンが好ましい。
【0045】
アリール基を有しないアルコキシシラン化合物としては、2官能性アルコキシシラン化合物が好ましく、例えば、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
アリール基を有しない環状オルガノシロキサンとしては、3~7員環のものが好ましく、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、粒子径分布を制御しやすいことから、オクタメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。
【0047】
アリール基を含有するシロキサン単位とアリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計に対し、アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が、5~80質量部であることが好ましく、7~77質量部であることがより好ましく、10~75質量部であることがさらに好ましい。
アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が上記下限値以上であると、成形体の透明性を向上しやすくなる。アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が上記上限値以下であると、成形体の衝撃強度を向上しやすくなる。
アリール基を含有するシロキサン単位とアリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計に対し、前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量が、20~95質量部であることが好ましく、25~93質量部であることがより好ましく、27~92質量部であることがさらに好ましい。
アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量が上記下限値以上であると、成形体の衝撃強度を向上しやすくなる。アリール基を含有するシロキサン単位の含有量が上記上限値以下であると、成形体の透明性を向上しやすくなる。
【0048】
シロキサン系架橋剤としては、シロキシ基を有するものが好ましい。シロキサン系架橋剤としては、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の3官能性又は4官能性のシラン系架橋剤が挙げられる。中でも、4官能性の架橋剤が好ましく、テトラエトキシシランがより好ましい。
【0049】
オルガノシロキサン混合物100質量%に対するシロキサン系架橋剤の比率は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量%であってもよい。シロキサン系架橋剤の含有率が10質量%以下であれば、成形体の衝撃強度をより良好にできる重合体粒子群(C)を得ることができる。
【0050】
シロキサン系交叉剤は、シロキシ基(-Si-O-)を有すると共にビニル単量体と重合可能な官能基を有するものである。シロキサン系交叉剤としては、例えば、下記式(I)で表されるシロキサンが挙げられる。
R-Si(R(OR(3-n) (I)
式(I)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基を示す。Rは、炭化水素基等の有機基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基が好ましい。nは、0、1又は2を示す。Rは、下記式(I-1)~(I-4)のいずれかで表される官能基を示す。
CH=C(R)-COO-(CH- (I-1)
CH=C(R)-C- (I-2)
CH=CH- (I-3)
HS-(CH- (I-4)
これらの式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示し、pは1~6の整数を示す。
【0051】
式(I-1)で表される官能基としては、例えば、メタクリロイルオキシアルキル基が挙げられる。この基を有するシロキサンとしては、例えば以下のものが挙げられる。β-メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ-メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等。
【0052】
式(I-2)で表される官能基としては、例えば、ビニルフェニル基が挙げられる。この基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルフェニルエチルジメトキシシランが挙げられる。
式(I-3)で表される官能基を有するシロキサンとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0053】
式(I-4)で表される官能基としては、メルカプトアルキル基が挙げられる。この基を有するシロキサンとして、例えば以下のものが挙げられる。γ-メルカプトプロピルジメトキメチルシラン、γ-メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、γ-メルカプトプロピルエトキシジメチルシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等。
【0054】
シロキサン系交叉剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
シロキサン系交叉剤としては、ポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とが複合化した際に海島構造を形成しやすいことから、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0055】
オルガノシロキサン混合物100質量%に対するシロキサン系交叉剤の比率は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、一方、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。シロキサン系グラフト交叉剤の比率が前記上限値及び前記下限値の範囲内であれば、ポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)との共有結合を充分に形成でき、衝撃強度が良好な重合体粒子群(C)を得ることができる。
オルガノシロキサン混合物100質量%に対するシロキサン系交叉剤の比率は、例えば、0.05~20質量%であってよく、0.1~10質量%であってよく、0.5~5質量%であってよい。
【0056】
アリール基を含有するオルガノシロキサンの15℃における粘度は、0.5~35.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましく、1.5~15.0mPa・sであることがさらに好ましい。
本明細書において粘度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0057】
ポリオルガノシロキサン(A1)の屈折率は、1.410以上が好ましく、1.440以上がより好ましい。一方、1.560以下であることが好ましく、1,520以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサンの屈折率が上記範囲内であれば、重合体粒子群の屈折率が調整しやすく、成形体の透明性が優れる。
本明細書において屈折率は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0058】
<ポリオルガノシロキサン(A1)の製造方法>
ポリオルガノシロキサン(A1)の製造方法としては特に制限はなく、例えば、以下の製造方法を採用できる。
まず、オルガノシロキサン、必要に応じてシロキサン系架橋剤、必要に応じてシロキサン系交叉剤、及び必要に応じて末端封鎖基を有するシロキサンオリゴマーを含むオルガノシロキサン混合物を、乳化剤と水によって乳化させてエマルションを調製し、このエマルション中で、酸触媒の存在下、オルガノシロキサン混合物を高温で重合させ、その後、アルカリ性物質により酸触媒を中和してポリオルガノシロキサンのラテックスを得る製造方法。
なお、以下の製造方法の説明においては、重合用の原料として「オルガノシロキサン混合物」を用いた場合について説明するが、「オルガノシロキサン」を用いた場合についても同様の製造プロセスを適用できる。
【0059】
この製造方法において、エマルションの調製方法としては、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーを用いる方法;高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を用いて高速攪拌により混合する方法等が挙げられる。これらの中でも、ホモジナイザーを用いる方法は、ポリオルガノシロキサンのラテックスの粒子径の分布が狭くなるので好ましい。
【0060】
重合の際の酸触媒の混合方法としては、(1)オルガノシロキサン混合物、乳化剤及び水とともに酸触媒を一括して添加し、混合する方法、(2)オルガノシロキサン混合物のエマルション中に酸触媒水溶液を一括して添加する方法、(3)オルガノシロキサン混合物のエマルションを高温の酸触媒水溶液中に一定速度で滴下して混合する方法等が挙げられる。中でも、ポリオルガノシロキサンの粒子径を制御しやすいことから、オルガノシロキサン混合物のエマルションを高温の酸触媒水溶液中に一定速度で滴下して混合する方法が好ましい。
【0061】
重合温度は、50℃以上が好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。重合温度の上限は、例えば100℃である。
重合時間は、オルガノシロキサン混合物のエマルションを高温の酸触媒水溶液中に一定速度で滴下して重合する場合には、通常2時間以上、好ましくは5時間以上である。
【0062】
更に、30℃以下の温度においては、シラノール間の架橋反応が進行することから、ポリオルガノシロキサンの架橋密度を上げるために、50℃以上の高温で重合させた後に、生成したラテックスを、30℃以下の温度で5時間から100時間程度保持することもできる。
【0063】
オルガノシロキサン混合物の重合反応は、ラテックスを含む反応系を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液等のアルカリ性物質でpH6以上8以下に中和して、終了させることができる。
【0064】
上記製造方法で使用される乳化剤としては、オルガノシロキサン混合物を乳化できれば特に制限されないが、アニオン系乳化剤又はノニオン系乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
ノニオン系乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
これらの乳化剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
乳化剤の使用量は、オルガノシロキサン混合物100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、一方、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。乳化剤の使用量によって、ポリオルガノシロキサンのラテックスの粒子径を所望の値に調整することが可能である。乳化剤の使用量が前記下限値以上であれば、オルガノシロキサン混合物のエマルションの乳化安定性を高めることができる。乳化剤の使用量が前記上限値以下であれば、成形体の耐熱変色性及び表面外観がより優れる。
【0066】
オルガノシロキサン混合物の重合に用いられる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類、及び硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸を使用すると、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径分布を狭くすることができ、さらに、ポリオルガノシロキサンラテックス中の乳化剤成分に起因する不具合(成形体の耐熱分解性の低下、外観不良等)の発生を抑制できる。
【0067】
酸触媒の使用量は、オルガノシロキサン100質量部に対して0.005質量部以上40質量部以下であることが好ましい。酸触媒の使用量が0.005質量部以上であれば、オルガノシロキサン混合物を短時間で重合することができる。酸触媒の使用量が40質量部以下であれば、成形体の耐熱変色性及び表面外観がより優れる。
【0068】
また、酸触媒の使用量がポリオルガノシロキサン(A1)の粒子径を決定する因子となるため、後述する粒子径のポリオルガノシロキサン(A1)を得るためには、酸触媒の使用量を、オルガノシロキサン100質量部に対して1質量部以上30質量部以下とすることがより好ましい。
【0069】
上記方法により得られるポリオルガノシロキサンのラテックスには、機械的安定性を向上させる目的で、必要に応じて、乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、上記例示したものと同様のアニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好ましい。
【0070】
(ビニル重合体(A2))
本発明の重合体粒子群(C)は、ビニル単量体(a)由来の構成単位を有することが好ましい。
本発明の重合体粒子群(C)は、ビニル単量体(a)由来の構成単位を有するビニル重合体(A2)を含むことが好ましい。
ビニル重合体(A2)を構成するビニル単量体成分(a)は、1種以上のビニル単量体からなる。
【0071】
ビニル単量体成分(a)は、成形体の衝撃強度の観点から、単官能の(メタ)アクリレート単量体(以下、「単量体(a1-1)」とも記す。)を含むことが好ましい。
ビニル単量体成分(a)は、単量体(a1-1)以外に、単量体(a1-1)と共重合し得る単量体(a1-1)とは異なるその他の単官能単量体(以下、「単量体(a1-2)」とも記す。)、及び単量体(a1-1)と共重合し得る多官能単量体(以下、「単量体(a1-3)」とも記す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
ビニル単量体成分(a)は、成形体の衝撃強度の観点及び重合体粒子群(C)中のTHF不溶分の比率を前記した範囲内とする観点から、単量体(a1-1)と単量体(a1-3)を含むことが好ましい。
【0072】
単量体(a1-1)としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート等のアルキルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられる。
中でも、成形体の衝撃強度がより良好になることから、単量体(a1-1)は、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート及びn-オクチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の単量体を含むことが好ましく、n-ブチルアクリレートを含むことがより好ましい。
これら単量体(a1-1)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
単量体(a1-2)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、(メタ)アクリル基変性シリコーン等の各種ビニル単量体が挙げられる。これら単量体(a1-2)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
単量体(a1-3)としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、メルカプト基等の求核性基;ハロゲン原子、イソシアネート基等の求電子性基;エポキシ基、オキセタン基等のカチオン重合性基;ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、等のラジカル重合性基等の反応性基を有するものが好ましい。単量体(a1-3)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリル基変性シリコーン、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等、トリアリルトリメリテート等が挙げられる。
中でも、成形体の衝撃強度がより良好になること、及び後述するビニル単量体成分(b)と化学結合を形成しやすくなることから、単量体(a1-3)は、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、アリルメタクリレート、及びアリルアクリレートがより好ましく、アリルメタクリレートがさらに好ましい。
これら単量体(a1-3)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
ビニル単量体成分(a)100質量%に対する単量体(a1-1)の比率は、成形体の衝撃強度の観点から、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
ビニル単量体成分(a)100質量%に対する単量体(a1-1)の比率は、100質量%であってもよいが、99.9質量%以下であることが好ましい。
【0076】
ビニル単量体成分(a)100質量%に対する単量体(a1-2)の比率は、成形体の衝撃強度の観点から、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であってもよい。
ビニル単量体成分(a)100質量%に対する単量体(a1-2)の比率は、透明性の観点から、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0077】
ビニル単量体成分(a)100質量%に対する単量体(a1-3)の比率は、成形時の溶融流動性の観点と、成形体の着色外観もしくは透明性及び衝撃強度のバランスを取る観点からは、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0078】
(重合体(A))
重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(A1)と第1のビニル重合体(A2)との複合体であり、ポリオルガノシロキサン(A1)と第1のビニル重合体(A2)とが共有結合を形成していてもよいし、ポリオルガノシロキサン(A1)と第1のビニル重合体(A2)とが共有結合していなくてもよい。
【0079】
重合体(A)中、[前記アリール基を含有するシロキサン単位と前記アリール基を含有しないシロキサン単位の含有量との合計]/[前記ビニル単量体(a)由来の構成単位の含有量]で表される質量比が3/97~50/50であることが好ましく、5/95~30/70であることがより好ましく、6/94~20/80であることがさらに好ましい。
【0080】
重合体(A)中、[ポリオルガノシロキサン(A1)を構成する構成単位の合計質量]/[ビニル重合体(A2)を構成する構成単位の合計質量]で表される質量比(以下、「A1/A2」とも記す。)は、成形体の衝撃強度の観点から、3/97~50/50であることが好ましく、5/95~30/70であることがより好ましく、6/94~20/80であることがさらに好ましい。
【0081】
<重合体(A)の製造方法>
重合体(A)の製造方法は特に限定されないが、成形体の衝撃強度がより優れることから、ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスの存在下で、ビニル重合体(A2)を構成するビニル単量体成分(a)を重合する方法が好ましい。
【0082】
ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスの存在下でビニル単量体成分(a)を重合する方法は特に限定されず、(i)ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスにビニル単量体成分(a)を滴下し重合する方法、(ii)ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスに、ビニル単量体成分(a)の一部を、重合が開始しない条件下で投入し、ポリオルガノシロキサン(A1)の粒子に含浸させた後、重合を開始させ、その後、ビニル単量体成分(a)の残部を滴下又は一括投入し重合する方法、(iii)ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスに、ビニル単量体成分(a)の全量を、重合が開始しない条件下で投入し、ポリオルガノシロキサン(A1)の粒子に含浸させた後、重合する方法が挙げられる。
【0083】
重合体(A)の製造方法としては、上記の中でも、成形体の衝撃強度がより優れることから、ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスに、ビニル単量体成分(a)の全量を、重合が開始しない条件下で投入し、ポリオルガノシロキサン(A1)の粒子に含浸させた後、重合する方法が好ましい。
【0084】
重合体(A)の製造方法としては、以下の工程i~ivを有する製造方法が特に好ましい。
【0085】
工程i:
任意の条件下で、ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスを製造する。
ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスは、前記した方法により製造できる。
このとき、ポリオルガノシロキサン(A1)は、オルガノシロキサンとシロキサン系交叉剤からなることが好ましい。
【0086】
工程ii:
工程iで得たポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスに、ビニル単量体成分(a)の全量とラジカル重合開始剤を、ビニル単量体成分(a)の重合が開始しない条件下で投入し、ポリオルガノシロキサン(A1)の粒子に含浸させる。
このとき、ビニル単量体成分(a)の全量を投入することで、成形体の衝撃強度がより優れる。
【0087】
ビニル単量体成分(a)が、複数種のビニル単量体を含む場合、例えば単量体(a1-1)と、単量体(a1-2)及び単量体(a1-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む場合、これらの単量体の投入方法は特に限定されない。例えば、単量体(a1-1)と単量体(a1-2)又は/及び単量体(a1-3)とを同時に投入してもよいし、単量体(a1-1)と単量体(a1-2)又は/及び単量体(a1-3)とを別に投入してもよい。
ビニル単量体成分(a)が単量体(a1-3)を含む場合、適切な架橋構造を得る観点から、単量体(a1-1)又は/及び単量体(a1-2)と混合して投入することが好ましい。
【0088】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、過酸化物、ジハロゲン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
アゾ化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)等の油溶性アゾ系開始剤;4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシメチル)-2-メチルプロピオナミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス-(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等の水溶性アゾ系開始剤等。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
ラジカル重合開始剤としてアゾ化合物を用いる場合、アゾ化合物の使用量は、重合しようとする単量体の合計100質量%に対して0.01質量%以上であることが好ましく、一方、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。アゾ化合物の使用量を前記上限値及び前記下限値の範囲内とすることで、重合速度が過度に高まることを抑制でき、前記した海島構造を構築しやすくなる。
【0091】
過酸化物としては、例えば以下のものが挙げられる。
過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物等。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、乳化重合時の取扱いが容易となることから、10時間半減期温度が25℃~105℃の間にあることが好ましい。
【0092】
ラジカル重合開始剤として過酸化物を用いる場合、過酸化物の使用量は、重合しようとする単量体の合計100質量%に対して0.01質量%以上であることが好ましく、一方、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましい。過酸化物の使用量を前記上限値及び前記下限値の範囲内とすることで、重合速度が過度に高まることを抑制でき、前記した海島構造を構築しやすくなる。
【0093】
ラジカル重合開始剤としては、重合速度の制御が容易であり、成形体の衝撃強度がより優れることから、過酸化物が好ましい。
【0094】
ラジカル重合開始剤として過酸化物を用いる場合に、過酸化物の分解を促進する目的で還元剤を併用することができる。
【0095】
還元剤としては、サルファイト、ハイドロゲンサルファイト、アルカリ金属ビサルファイト、アセトンビサルファイト、アルカリ金属ジサルファイト、メタビサルファイト及びその塩等の硫黄化合物;チオ硫酸塩、スルフィン酸、ヒドロキシルアルキルスルフィン酸、ヒドロキシルメチルスルフィン酸及び2-ヒドロキシ-2-スルフィン酢酸、ホルマジンスルフィン酸、プロピルスルフィン酸、イソプロピルスルフィン酸、フェニルスルフィン酸等の有機硫黄化合物;ホルムアルデヒドスルホキシレート及びその塩、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンヒドロスルフェート、ヒドロキシルアンモニウム塩、ポリアミン、ジメチルアニリン等の還元性窒素化合物;ソルボース、フラクトース、グルコース、ラクトース、デキストロース等の還元糖類;アスコルビン酸及びイソアスコルビン酸等のエンジオール等が挙げられる。「塩」としては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、及び亜鉛イオンが挙げられる。
【0096】
また、周期律表の第3族~第11族の間に存在する遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び塩化物も、還元剤として有用である。遷移金属としては、第3族のCe等、第4族のTi等、第5族のV等、第6族のCr、Mo等、第7族のMn等、第8族のFe等、第9族のCo等、第10族のNi等、第11族のCu、Ag等が挙げられる。
【0097】
還元剤としては、工業的に入手しやすいこと、成形体の耐熱変色性及び表面外観がより優れることから、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、L(+)-酒石酸、二亜硫酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸、硫酸第一鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0098】
還元剤の使用量は、ビニル単量体成分(a)の重合に用いる過酸化物の2.0モル当量以下とすることが好ましく、1.0モル当量以下とすることがより好ましく、0.6モル当量以下とすることがさらに好ましく、0モル当量であってもよい。還元剤の使用量を前記上限値以下とすることで、重合速度が過度に高まることを抑制でき、前記した海島構造を構築しやすくなる。
【0099】
遷移金属塩を還元剤として用いる際には、その反応性を高める目的で、キレート化剤を併用することができる。
キレート化剤としては、対象の遷移金属原子と配位結合を形成しうる、2個以上の電子供与体原子を含む化合物を用いることができ、例えばエチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、5-スルホサリチル酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリアミノトリエチルアミン、トリエタノールアミン、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、シュウ酸ナトリウム及びこれらの金属塩等が挙げられる。中でも、重合の安定性に優れることから、エチレンジアミン四酢酸及びその金属塩が好ましい。
【0100】
キレート化剤の使用量は、重合反応性制御の面から、還元剤に対して0.5モル当量以上であることが好ましく、1.0当量以上であることがより好ましく、一方、5.0モル当量以下であることが好ましく、2.5モル当量以下であることがより好ましい。
【0101】
工程iiにおいて、必要に応じて、ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスに、水系媒体を投入してもよい。
水系媒体としては、水、及び水と有機溶剤との混合媒体が挙げられる。混合媒体における有機溶剤としては、水と混和可能なものであればよく、例えば、メタノール、エタノールが挙げられる。
【0102】
工程iiにおいて、必要に応じて、ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスに、乳化剤を投入してもよい。
乳化剤としては、特に制限されず、前記したポリオルガノシロキサン(A1)の製造に使用される乳化剤と同様の乳化剤を用いることができる。中でもアニオン系乳化剤又はノニオン系乳化剤が好ましい。
なお、工程iiにおいて乳化剤を投入せず、ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックス中に含まれる乳化剤のみで重合を行ってもよい。
【0103】
ビニル単量体成分(a)を重合する際に、連鎖移動剤を使用してもよい。
連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
連鎖移動剤の使用量は、ビニル単量体成分(a)100質量%に対し、1.0質量%以下であることが好ましく、0質量%であってもよい。連鎖移動剤の使用量を1.0質量%以下とすることで、重合体粒子群(C)のTHF不溶分比率の低下が抑えられ、成形体の衝撃強度がより優れる。
【0105】
工程iii:
工程iiでビニル単量体成分(a)とラジカル重合開始剤を投入したポリオルガノシロキサン(A1)のラテックスについて、下記式(ア)を満たす条件でビニル単量体成分(a)の重合を開始させる。
10>(Tin+10) ・・・(ア)
ここで、T10は、用いたラジカル重合開始剤の10時間半減期温度を表し、Tinは、ビニル単量体成分(a)の重合を開始させる温度を表す。複数のラジカル重合開始剤を組み合わせて用いる場合は、最も低い10時間半減期温度を示すラジカル重合開始剤のT10値を用いる。
【0106】
式(ア)を満たすこと、換言すれば、ビニル単量体成分(a)の重合を開始させる温度Tin(以下、重合温度(Tin)とする)を、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度T10より10℃以上低い温度とすることで、重合速度を抑制することができ、前記したポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とが複合した海島構造を構築しやすくなり、得られる成形体の衝撃強度をより良好にできる重合体粒子群(C)を得ることができる。
重合温度(Tin)は、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度T10より、15℃以上低い温度であることが好ましく、20℃以上低い温度であることがより好ましい。
重合温度(Tin)の下限値は特に限定されないが、重合開始の安定性の観点から、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度T10から50℃以上低くないことが好ましい。
重合時間は、重合温度(Tin)によっても異なるが、例えば0.1~30時間である。
【0107】
10時間半減期温度T10とは、用いるラジカル重合開始剤の50モル%が10時間で熱分解するときの温度である。例えば、下記数式(イ)と下記数式(ウ)に、ラジカル重合開始剤の転化率X=50[%]、時間t=36000[s](=10時間)、気体定数R=8.314[J/Kmol]、頻度因子A及び活性化エネルギーEについては文献値又は計算値を代入することで、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度T10を算出できる。10時間半減期温度T10として、文献値を用いてもよい。
【0108】
X=100×exp(-kdt) ・・・(イ)
kd=A×exp(-E/RT) ・・・(ウ)
(X[%]:転化率、kd[1/S]:反応速度、t[s]:時間、A[1/S]:頻度因子、E[J/mol]:活性化エネルギー、R[J/Kmol]:気体定数、T[K]:温度)
例えば、過硫酸カリウムの10時間半減期温度は67℃であり、t-ブチルハイドロパーオキサイド(商品名パーブチルH69、日本油脂(株)製)の10時間半減期温度は167℃である。
【0109】
工程iv:
工程iiiで重合を開始させたのちの重合挙動において、ビニル単量体成分(a)の重合で到達した系内の最高温度をT(℃)、系内の温度がTin+1(℃)に到達してから、Tin+{(T-Tin)/3}(℃)に到達するまでに要した時間をS(秒)(以下、重合速度(S)とする)としたとき、以下の式(エ)を満たすように重合を行う。
≧80 ・・・(エ)
【0110】
重合速度(S)を80秒以上とすることで、前記したポリオルガノシロキサン(A1)とビニル重合体(A2)とが複合した海島構造を構築しやすくなり、得られる成形体の衝撃強度をより良好にできる重合体粒子群(C)を得ることができる。重合速度(S)は、100秒以上であることがより好ましく、120秒以上であることがさらに好ましく、150秒以上であることが特に好ましい。
重合速度(S)は、前記ラジカル重合開始剤の種類、量、重合開始温度Tinの他、重合時の徐熱システムによって調整することができる。
【0111】
(ビニル重合体(B))
ビニル重合体(B)は、ビニル単量体(b)が重合されて形成された構造であり、ビニル単量体に基づく単位からなる。
ビニル重合体(B)は、前記グラフト共重合体(C1)における第2のビニル単量体(b)由来の構成単位を含むグラフト層、及び前記重合体複合体(C2)における第2のビニル単量体(b)由来の構成単位を含むフリー重合体の両方を意味する。
ビニル重合体(B)を構成するビニル単量体成分(b)は、1種以上のビニル単量体からなる。
ビニル単量体成分(b)を構成するビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体等の各種ビニル系単量体が挙げられる。
【0112】
(メタ)アクリレート単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート等が挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、アルキル置換スチレン(p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、o-エチルスチレン等)、アルキル置換イソプロペニルベンゼン(イソプロペニルベンゼン(α-メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等)、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。中でも、カレットの発生を抑制できることから、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
ビニル単量体成分(b)は、成形体の耐候性がより優れる点では、(メタ)アクリレート単量体及び芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
ビニル単量体成分(b)100質量%に対する、(メタ)アクリレート単量体及び芳香族ビニル単量体の合計の比率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0114】
ビニル単量体成分(b)は、(メタ)アクリレート単量体及び芳香族ビニル単量体の中でも、成形体の耐候性が特に優れることから、メチルメタクリレート及びスチレンのいずれか一方又は両方を含むことがより好ましい。
ビニル単量体成分(b)100質量%に対する、メチルメタクリレート及びスチレンの合計の比率は、50質量%以上であることが好ましい。
【0115】
ビニル単量体成分(b)は、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性及び成形体の耐候性がより優れる点では、(メタ)アクリレート単量体を含むことが好ましい。
ビニル単量体成分(b)100質量%に対する(メタ)アクリレート単量体の比率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0116】
ビニル単量体成分(b)は、(メタ)アクリレート単量体の中でも、重合体粒子群(C)の熱可塑性樹脂への分散性及び成形体の耐候性が特に優れることから、メチルメタクリレートを含むことがより好ましい。
ビニル単量体成分(b)100質量%に対するメチルメタクリレートの比率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0117】
ビニル重合体(B)のガラス転移温度(以下、「Tg」とも記す。)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましく、一方、105℃以下であることが好ましい。ビニル重合体(B)のTgが前記下限値以上であれば、重合体粒子群(C)の粉体の特性(粉体の流動性や粒子径)が良好となる。
ビニル重合体(B)のTgは、ビニル単量体成分(b)を構成するビニル単量体の種類と比率によって調整できる。
【0118】
ビニル重合体(B)のTgは、FOXの式により求められる。このとき、ビニル単量体成分(b)を構成するビニル単量体の単独重合体のTgは、例えば、「POLYMER HANDBOOK」(Wiley Interscience社/1999年)に記載の値を用いることができる。この文献に記載のないビニル単量体の単独重合体のTgは、Biceranoの方法「Prediction of Polymer Properties」(MARCEL DEKKER社/2002年)を用いて算出することができる。
【0119】
(重合体粒子群(C)の製造方法)
重合体粒子群(C)は、アリール基を含有するシロキサン単位を有する重合体のラテックスの存在下で、ビニル単量体(a)を重合して得られた重合体(A)に、さらに、ビニル単量体(b)を重合して得られる。
前記ラテックスは、アリール基を含有するオルガノシロキサンを重合してポリオルガノシロキサンを製造することにより得られる。
重合体粒子群(C)は、例えば、重合体(A)の存在下でビニル単量体成分(b)を重合(グラフト重合)する方法により製造できる。これにより、重合体(A)にビニル単量体成分(b)がグラフトされた重合体(C1)が得られる。重合体(A)にグラフトせずに、ビニル単量体成分(b)のみで重合してビニル重合体(B)が生成し、これが重合体(A)の外面に物理的に吸着して重合体複合体(C2)が得られる。
【0120】
重合体粒子群(C)の製造方法としては、重合体(A)のラテックスにビニル単量体成分(b)を添加し、ラテックス中でビニル単量体成分(b)を重合する方法が好ましい。
重合体(A)のラテックスは、前記したように、ポリオルガノシロキサン(A1)を含むラテックスの存在下で、ビニル単量体成分(a)を重合することにより製造することが好ましい。
【0121】
ビニル単量体成分(b)を重合する温度(以下、「重合温度(T)」とも記す。)は、特に限定されず慣用の条件を適用でき、例えば45~95℃、重合時間は0.1~10時間の条件が挙げられる。
【0122】
重合体(A)のラテックスへのビニル単量体成分(b)の添加方法は特に限定されないが、カレットの発生を抑制し、重合体(A)とビニル単量体成分(b)のグラフト化率が良好となることから、滴下添加することが好ましい。このとき、ビニル単量体成分(b)の全量を連続的に滴下してもよいし、間にビニル単量体成分(b)を滴下しない保持時間を設けながら複数回に分けて滴下してもよい。
ビニル単量体成分(b)が複数種のビニル単量体からなる場合に、ビニル単量体成分(b)の全量を連続的に滴下する方法は特に限定されず、同一組成の混合物を連続的に添加する方法、パワーフィード重合のように連続的に組成を変化させながら添加する方法等が挙げられる。ビニル単量体成分(b)が複数種のビニル単量体からなる場合に、間に保持時間を設けながら複数回に分けて滴下添加する方法としては、同一組成の混合物を複数回に分けて添加する方法や、各成分単体及び/又は異なる組成の混合物を複数回に分けて添加する方法が挙げられる。
【0123】
ビニル単量体成分(b)が(メタ)アクリレート単量体、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を含む場合は、(メタ)アクリレート単量体を重合し、次に芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を重合することが好ましい。この方法で重合することで、重合後に粉体回収工程を行って得られる重合体粒子群(C)の粉体の特性(粉体の流動性や粒子径)が良好となる。
【0124】
ビニル単量体成分(b)は、ポリオルガノシロキサン(A1)に含まれるシロキサン系交叉剤に基づく単位及び/又はビニル重合体(A2)に含まれる単量体(a1-3)に基づく単位と化学結合することで、重合体(A)とのグラフト共重合体(C1)を形成しやすくなる。
【0125】
このグラフト化の効率を向上させるため、ビニル単量体成分(b)の添加前に、例えばエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリル基変性シリコーン、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等、トリアリルトリメリテート等の多官能単量体をあらかじめ重合することができる。
【0126】
ビニル単量体成分(b)を重合する際に使用する乳化剤は、特に制限されず、ポリオルガノシロキサン(A1)の製造及び/又はビニル重合体(A2)の製造に用いたものと同じ乳化剤を用いることができるが、アニオン系乳化剤又はノニオン系乳化剤が好ましい。
また、ビニル単量体成分(b)を重合する際に特段乳化剤を追加することなく、ビニル重合体(A2)ラテックス中に含まれる乳化剤のみで重合を行ってもよい。
【0127】
ポリオルガノシロキサン(A1)の製造、ビニル重合体(A2)の製造及びビニル単量体成分(b)の重合時に用いる乳化剤の総量は、重合体粒子群(C)を形成するすべての単量体の合計100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、一方、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。乳化剤の総量によって、重合体粒子群(C)のラテックスの粒子径を所望の値に調整することが可能である。乳化剤の総量が前記下限値以上であれば、ポリオルガノシロキサン(A1)のラテックス、重合体(A)のラテックス、重合体(C)のラテックスそれぞれの安定性を充分に高めることができる。乳化剤の総量が前記上限値以下であれば、重合体粒子群(C)の粉体中に残存する乳化剤の量を充分に低減でき、重合体粒子群(C)と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を用いた成形体の耐熱分解性及び表面外観の低下を抑制できる。
【0128】
ビニル単量体成分(b)を重合する際には、アセトン可溶分の調整、分子量の調整等を目的に連鎖移動剤を使用してもよい。
連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
連鎖移動剤の使用量は、ビニル単量体成分(b)100質量%に対し、2.0質量%以下であることが好ましく、0質量%であってもよい。連鎖移動剤の使用量を2.0質量%以下とすることで、重合体粒子群(C)のTHF不溶分の比率の低下が抑えられ、成形体の衝撃強度がより優れる。
【0130】
ビニル単量体成分(b)を重合した後、得られた重合体粒子群(C)のラテックスから、重合体粒子群(C)を粉体として回収してもよい。
重合体粒子群(C)を粉体として回収する場合には、噴霧乾燥法等の直接乾燥法又は凝固法を用いることができる。凝固法では、凝析後の洗浄工程にて、重合時に使用した乳化剤及びその凝析塩、開始剤等、得られる粉体中に含まれる重合助剤残存物を低減できる。一方で、直接乾燥法では、重合時に添加した助剤類を概ね得られる粉体中に残存させることができる。これらの粉体回収法は、重合体粒子群(C)を熱可塑性樹脂に添加した際に、好ましい残存状態とするために適宜選択することができる。
【0131】
噴霧乾燥法は、重合体粒子群(C)のラテックスを乾燥機中に微小液滴状に噴霧し、これに乾燥用の加熱ガスを当てて乾燥する方法である。微小液滴を発生する方法としては、例えば、回転円盤型式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式が挙げられる。乾燥機の容量は、実験室で使用するような小規模な容量から、工業的に使用するような大規模な容量のいずれであってもよい。乾燥用の加熱ガスの温度は200℃以下が好ましく、120~180℃がより好ましい。別々に製造された2種以上のグラフト共重合体のラテックスを、一緒に噴霧乾燥することもできる。更には、噴霧乾燥時のブロッキング、嵩比重等の粉末特性を向上させるために、重合体粒子群(C)のラテックスに、シリカ等の任意成分を添加して噴霧乾燥することもできる。
【0132】
凝固法は、重合体粒子群(C)のラテックスを凝析して、重合体粒子群(C)を分離し、回収し、乾燥する方法である。先ず、凝固剤を溶解した熱水中に重合体(C)のラテックスを投入し、塩析し、凝固することにより重合体粒子群(C)を分離する。次いで、分離した湿潤状の重合体粒子群(C)に対し、脱水等を行って、水分量が低下した重合体粒子群(C)を回収する。回収された重合体粒子群(C)は圧搾脱水機や熱風乾燥機を用いて乾燥される。
【0133】
凝固剤としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、酢酸カルシウム等の無機塩や、硫酸等の酸等が挙げられ、酢酸カルシウムが特に好ましい。これらの凝固剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
上記の凝固剤は、通常、水溶液として用いられる。凝固剤水溶液の濃度は、重合体粒子群(C)を安定的に凝固し、回収する観点から、0.1質量%以上、特に1質量%以上であることが好ましい。また、回収された重合体粒子群(C)中に残存する凝固剤の量を少なくして成形体の成形外観の低下を防止する観点から、凝固剤水溶液の濃度は、20質量%以下、特に15質量%以下であることが好ましい。
凝固剤水溶液の量は特に限定されないが、重合体粒子群(C)のラテックス100質量部に対して10質量部以上、500質量部以下であることが好ましい。
【0135】
重合体粒子群(C)のラテックスを凝固剤水溶液に接触させる方法は特に限定されないが、通常、下記の方法が挙げられる。
(1)凝固剤水溶液を攪拌しながら、その中にラテックスを連続的に添加して一定時間保持する方法。
(2)凝固剤水溶液とラテックスとを、一定の比率で攪拌機付きの容器内に連続的に注入しながら接触させ、凝析された重合体と水とを含む混合物を容器から連続的に抜き出す方法。
ラテックスを凝固剤水溶液に接触させるときの温度は特に限定されないが、30℃以上、100℃以下であることが好ましい。接触時間は特に限定されない。
【0136】
凝析した重合体粒子群(C)は、重合体粒子群(C)の1~100質量倍程度の水で洗浄され、ろ別される。ろ別された湿潤状の重合体粒子群(C)は、流動乾燥機や圧搾脱水機等を用いて乾燥される。乾燥温度、乾燥時間は得られる重合体粒子群(C)によって適宜決めればよい。
なお、圧搾脱水機や押出機から排出された重合体粒子群(C)を回収せず、直接、樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送り、熱可塑性樹脂と混合して成形体を得ることも可能である。
【0137】
〔樹脂組成物〕
本発明の一態様に係る樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」とも記す。)は、重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(以下、「熱可塑性樹脂(E)」とも記す。)とを含む。
【0138】
熱可塑性樹脂(E)としては、特に限定されず、例えばエンジニアリングプラスチック(芳香族ポリカーボネート等)、スチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、オレフィン系樹脂(ポリエチレン等)、熱可塑性エラストマー、生分解性樹脂(ポリ乳酸等)、ハロゲン系樹脂(塩化ビニル樹脂等)、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0139】
エンジニアリングプラスチックとしては、公知の各種の熱可塑性エンジニアリングプラスチックを特に制限なく用いることができる。
エンジニアリングプラスチックとしては、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエステル系重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シンジオタクチックポリスチレン、ナイロン系重合体(6-ナイロン、6,6-ナイロン等)、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタールを例示できる。
【0140】
また、高度に耐熱性に優れ、溶融流動性が必要とされる耐熱ABS等の特殊なスチレン系樹脂や耐熱アクリル系樹脂等も、本発明におけるエンジニアリングプラスチックとして例示できる。これらの中でも、強度発現性がより求められる場合には、芳香族ポリカーボネートやポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
芳香族ポリカーボネートとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン(すなわちビスフェノールA)系ポリカーボネート等の4,4’-ジオキシジアリールアルカン系ポリカーボネートが挙げられる。
【0141】
オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンとその他のα-オレフィンとの共重合体;ポリプロピレン、プロピレンとその他のα-オレフィンとの共重合体;ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1等が挙げられる。
【0142】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩素化PE系エラストマー、アクリル系エラストマー等が挙げられる。
【0143】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブテン共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体の部分水添物:SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の部分水添物、スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体の部分水添物等が挙げられる。「-」は、「-」で連絡された単位を形成する単量体が共重合されたものであることを示し、「・」は、共重合後に水添等によりランダムに変性されて存在することを示す。
【0144】
ウレタン系エラストマーとしては、高分子ジオールと有機ジイソシアネートと鎖伸張剤との反応生成物が挙げられる。
高分子ジオールとしては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオール等が挙げられる。
有機ジイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素化4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの有機ジイソシアネートの中でも4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
鎖伸張剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0145】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ブチルゴム、ブタジエンゴム、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0146】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、ABS樹脂、AS樹脂、MABS樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-置換マレイミド共重合体、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-β-イソプロペニルナフタレン共重合体、及びアクリロニトリル-メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン-マレイミド共重合体等が挙げられる。
【0147】
芳香族ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの重合体であって、熱可塑性を有することを条件として特に限定されない。多塩基酸としては、テレフタル酸、ナフタルジカルボン酸、シクロヘキシルジカルボン酸及びそれらのエステル等が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、1,4-ジメチロールテトラブロモベンゼン、テトラブロモビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(TBA-EO)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂は、単独重合体、共重合体又はこれら2種以上のブレンド物であってもよい。
ポリエステル系樹脂としては、イーストマンケミカル製の商品名「PETG」等の市販品を用いてもよい。
【0148】
生分解性樹脂としては、微生物系ポリマー、化学合成系ポリマー、天然物系ポリマー等が挙げられる。
微生物系ポリマーとしては、ポリヒドロキシブチレート/バリレート(PHB/V)等のバイオポリエステル、バクテリアセルロース、微生物多糖(プルラン、カードラン等)等が挙げられる。
化学合成系ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル樹脂(ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸類(PMLG等)等が挙げられる。
天然物系ポリマーとしては、キトサン、セルロース、澱粉、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0149】
ハロゲン系樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルが80質量%以上の割合で含有される共重合体、高塩素化ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル樹脂が挙げられる。共重合体の成分としては、塩化ビニル以外に、エチレン、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、及びブチルアクリレート等のモノビニリデン化合物が例示できる。共重合体中にはこれらの化合物がその合計量で20質量%以下の割合で含有されてもよい。
ハロゲン系樹脂としては、塩化ビニル樹脂のほか、フッ素化重合体、臭素化重合体、ヨウ素化重合体等も挙げられる。
【0150】
アクリル系樹脂としては、例えば、メチルメタクリレートと共重合可能なビニル単量体とが重合された共重合体等が挙げられる。共重合可能なビニル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0151】
ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、6-ナイロン及び6,6-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチックと、他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイも本発明における熱可塑性樹脂(E)の範囲に含まれる。
【0152】
これらの熱可塑性樹脂(E)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
熱可塑性樹脂(E)は、工業的に入手しやすいこと、成形体の衝撃強度と着色性のバランスにより優れることから、芳香族ポリカーボネート、アクリル系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルファイド及びポリアセタールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アクリル系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、及びスチレン-アクリロニトリル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、アクリル系樹脂及び脂肪族ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、ポリメチルメタクリレート及びポリ乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0153】
本樹脂組成物100質量%に対する重合体粒子群(C)の比率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましく、一方、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。重合体粒子群(C)の比率が前記下限値以上であれば、得られる成形体の衝撃強度がより優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の流動性や耐熱変形温度の低下を抑制できる。
【0154】
本樹脂組成物100質量%に対する熱可塑性樹脂(E)の比率は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、一方、99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましく、98質量%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(E)の比率が前記下限値以上であれば、樹脂組成物の流動性や耐熱変形温度の低下を抑制でき、前記上限値以下であれば、得られる成形体の衝撃強度がより優れる。
【0155】
本樹脂組成物は、さらに、リン酸化合物及びそのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分(以下、「成分(D)」とも記す。)を含んでもよい。
成分(D)は、重合体粒子群(C)を含む樹脂組成物を可塑化し、成形時の樹脂組成物の流動性を向上させる。また、樹脂組成物の分子量の低下を抑制し、成形安定性を向上させる。
【0156】
成分(D)におけるリン酸化合物としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸等のアルキルリン酸;ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸等のアルキルアリールリン酸等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸において、ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基等が挙げられ、ポリオキシエチレン基が好ましい。ポリオキシエチレン基におけるオキシエチレン単位のユニット数は、例えば2~14であり、好ましくは2~10、より好ましくは2~8、さらに好ましくは2~6である。アルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは5~18、より好ましくは7~16、さらに好ましくは10~16である。
アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0157】
成分(D)としては、後述するリン原子含有量の調整が容易な点から、リン酸化合物のアルカリ金属塩が好ましく、アルキルリン酸のアルカリ金属塩及びアルキルアリールリン酸のアルカリ金属塩がより好ましい。中でも、成形時の樹脂組成物の流動性と成形安定性の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸のアルカリ金属塩が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸のアルカリ金属塩がより好ましい。
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸のアルカリ金属塩としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸のアルカリ金属塩が好ましい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸のアルカリ金属塩としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸のアルカリ金属塩が好ましい。
これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸のアルカリ金属塩が好ましい。
これらの化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0158】
本樹脂組成物が成分(D)を含む場合、本樹脂組成物中の成分(D)の含有量は、重合体粒子群(C)と成分(D)との合計100質量%に対する、成分(D)に含まれるリン原子の比率(以下、「リン含有量」とも記す。)を考慮して設定される。
リン含有量は、成形時の樹脂組成物の流動性と成形安定性の観点から、10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましく、200質量ppm以上であることが特に好ましく、300質量ppm以上であることが最も好ましい。リン原子含有量の上限は特に限定されないが、例えば2000質量ppm以下、好ましくは1500質量ppm以下である。
【0159】
本樹脂組成物は、成分(D)以外の他の乳化剤をさらに含んでいてもよい。他の乳化剤としては、特に制限はなく、例えば重合体粒子群(C)の製造に用いたものと同じ乳化剤を用いることができる。
本樹脂組成物が成分(D)を含む場合、本樹脂組成物100質量%に対する、重合体粒子群(C)と成分(D)との合計の比率は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。
【0160】
本樹脂組成物の好ましい一態様は、重合体粒子群(C)と乳化剤とを含み、乳化剤の少なくとも一部が前記リン酸化合物のアルカリ金属塩であるラテックスから粉体回収されたものである。
かかる組成物は、例えば、重合体粒子群(C)のラテックス(他の乳化剤を含んでいてもよい)にリン酸化合物のアルカリ金属塩を添加し、粉体回収することや、重合体粒子群(C)の重合過程(重合体(A)またはビニル重合体(B)の重合時)にリン酸化合物のアルカリ金属塩を添加し、粉体回収することにより製造できる。粉体回収方法としては、前記した重合体粒子群(C)のラテックスから重合体粒子群(C)を粉体として回収する方法と同様の方法が挙げられる。
【0161】
本樹脂組成物は、上記の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤を含むことができる。
添加剤としては、難燃剤(燐系、ブロム系、シリコーン系、有機金属塩系等)、ドリップ防止剤(例えば、フッ素化ポリオレフィン、シリコーン及びアラミド繊維)、滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等の長鎖脂肪酸金属塩等)、離型剤(例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート等)、成核剤、帯電防止剤、安定剤(例えば、フェノール系安定剤、硫黄系安定剤、リン系安定剤、紫外線吸収剤、アミン系光安定剤等)、充填材(酸化チタン、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ガラスフレーク等)、可塑剤、強化剤(例えば、ガラス繊維、炭素繊維等)、色素及び顔料等が挙げられる。
【0162】
フェノール系安定剤は、フェノール性ヒドロキシル基を有する安定剤であり、中でも、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個または2個の炭素原子が、炭素数4以上の置換基により置換されている、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を好適に用いることができる。この時、炭素数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素-炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0163】
フェノール系安定剤としては、例えば、p-シクロヘキシルフェノール、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、4,4’-イソプロピリデンジフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、4-ヒドロキシメチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、2,2’-メチレンビス[4-メチル-6-(1,3,5-トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、1,1,3-トリス[2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル]ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス[3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、チオビス(β-ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することが出来る。これらのフェノール系安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0164】
本樹脂組成物100質量%に対する、フェノール系安定剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.003質量%以上であることがより好ましく、一方、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。フェノール系安定剤の含有量が前記下限値以上であれば、酸化防止効果により優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の酸化熱安定性や溶融混練時の樹脂分解をより抑制できる。
【0165】
硫黄系安定剤は、フェノール性ヒドロキシル基を有さず、硫黄原子を有する安定剤であり、熱可塑性樹脂の劣化で生じるヒドロペルオキシドの分解剤として作用することで樹脂組成物の耐熱老化性を改良し、色調、引張強度、伸度等の保持率を向上させる効果を有する。硫黄系安定剤は、単体で用いることもできるが、前記フェノール系安定剤と組み合わせて用いることで、さらに長期熱安定性を改良することができる。
【0166】
硫黄系安定剤としては、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系安定剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することが出来る。これらの硫黄系安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0167】
本樹脂組成物100質量%に対する、硫黄系安定剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.003質量%以上であることがより好ましく、一方、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。硫黄系安定剤の含有量が前記下限値以上であれば、熱安定化効果により優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の溶融混練時の樹脂分解をより抑制できる。
【0168】
リン系安定剤とは、リン原子を有する安定剤であり、P(OR)構造を有する亜リン酸エステル化合物である。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基等であり、3個のRは同一でも異なっていてもよく、2個のRが環構造を形成していてもよい。さらに、一分子中にP(OR)構造を複数有してもよい。リン系安定剤は、熱可塑性樹脂の劣化で生じるヒドロペルオキシドの分解剤として作用することで、樹脂組成物の耐熱老化性を改良し、色調、引張強度、伸度等の保持率を向上させる効果を有する。リン系安定剤は単体で用いることもできるが、前記フェノール系安定剤と組み合わせて用いることで、特に長期熱安定性を改良することができるとともに、フェノール系安定剤由来の黄変を抑制することができる。
【0169】
亜リン酸エステル化合物としては、例えば、トリアリールホスファイト(トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリキシレニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等)、ジアリールアルキルホスファイト(ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト等のジアリールC1-18アルキルホスファイト等)、アリールジアルキルホスファイト(フェニルジイソオクチルホスファイト等のアリールC1-18ジアルキルホスファイト等)、トリアルキルホスファイト(トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリ-n-ブチルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト等のトリC1-18アルキルホスファイト等)、ジアルキルホスファイト(ジラウリルホスファイト等のジC1-18アルキルホスファイト等)、アルキルアリール単位を含むホスファイト[トリス(2,4-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジノニルフェニル-o-ビフェニルホスファイト等のトリス(C1-18アルキル-アリール)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等]、脂肪族カルボン酸亜リン酸エステル(トリステアリルホスファイト等のC1-18脂肪族カルボン酸亜リン酸エステル等)、アルキレンオキシド単位含むホスファイト(ポリジプロピレングリコールノニルフェニルホスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールホスファイト等)、サイクリックネオペンタン単位を含むホスファイト[サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト等]、ジホスファイト類(ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ジドデシルペンタエリスリトールジホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェニルジドデシルジホスファイト等)、トリホスファイト類[ヘプタシスジプロピレングリコールトリホスファイト、ヘキサ・トリデシル-1,1,3-トリ(3-t-ブチル-6-メチル-4-オキシフェニル)-3-メチルプロパントリホスファイト等]等が挙げられる。これらの亜リン酸エステル化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0170】
中でも、熱可塑性樹脂(E)としてポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等、ポリマー構成単位に炭酸エステル結合やエステル結合、アミド結合、アセタール結合を含む樹脂を用いる場合、これら熱可塑性樹脂の耐湿熱分解性の低下を抑制する等の観点から、耐加水分解性の高いリン系安定剤を用いることが好ましい。
中でも、一分子中のリン原子数が1であり、かつ各エステル部の炭素数(複数のエステル部が環を形成している場合は、エステル結合に挟まれた領域にある合計炭素数を各炭素数とする)が8以上である亜リン酸エステル化合物、または、一分子中に複数のリン原子を有し、かつ各リン元素の間にあるエステル部の炭素数が8以上である亜リン酸エステル化合物が好ましく、例えば、トリC6-18アルキルホスファイト(トリイソデシルホスファイト等)、分岐C3-6アルキル基(t-ブチル基等)を含むホスファイト[トリス(2,4-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等]、テトラアルキル(C12-15)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト等が挙げられる。
【0171】
本樹脂組成物100質量%に対する、リン系安定剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.003質量%以上であることがより好ましく、一方、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。リン系安定剤の含有量が前記下限値以上であれば、熱安定化効果により優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の溶融混練時の樹脂分解や耐湿熱分解性の低下をより抑制できる。
【0172】
本樹脂組成物において、フェノール系安定剤と硫黄系安定剤及び/又はリン系安定剤を併用させる場合、硫黄系安定剤とリン系安定剤の合計添加質量は、フェノール系安定剤の添加質量に対して0.1倍以上であることが好ましく、0.2倍以上であることがさらに好ましく、一方、5倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましい。硫黄系安定剤とリン系安定剤の含有量が、前記下限値以上であれば、耐熱老化性の向上効果により優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の溶融混練時の樹脂分解をより抑制できる。
【0173】
本樹脂組成物において、フェノール系安定剤と硫黄系安定剤及び/又はリン系安定剤を含有させる場合、安定剤の含有量の合計は、樹脂組成物100質量%に対し、2質量%以下であることが好ましい。安定剤の含有量の合計を2質量%以下とすることで、溶融混練時に樹脂の分解をより抑制することができる。
【0174】
色素又は顔料としては、無機系顔料であれば、例えば酸化鉄、群青、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。有機系顔料であれば、例えばフタロシアニン系やアンスラキノン系の青色顔料、ペリレン系やキナクリドン系の赤色顔料、イソインドリノン系の黄色顔料等が挙げられる。また、特殊顔料として蛍光顔料、金属粉顔料、パール顔料等が挙げられる。染料であれば、ニグロシン系、ペリノン系、アンスラキノン系の染料が挙げられる。これらの色素及び顔料は、要求される色に応じた様々なグレードが市販されており、それらを使用することができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0175】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物は、重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)と、必要により添加剤とを混合することにより製造できる。
各材料の混合方法としては、公知のブレンド方法が挙げられ、特に限定されない。例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合、混練する方法が挙げられる。
本発明の樹脂組成物の製造方法の一例として、重合体粒子群(C)と、ペレット状の熱可塑性樹脂(E)と、必要により添加剤とを押出機を用いて混合し、ストランド状に押出し、回転式カッター等でペレット状にカットする方法が挙げられる。この方法により、ペレット状の樹脂組成物を得ることができる。
【0176】
〔成形体〕
本発明の一態様に係る成形体(以下、「本成形体」とも記す。)は、重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む。
本成形体は、成分(D)をさらに含んでいてもよい。
本成形体は、前記した本樹脂組成物からなるものであることが好ましい。
【0177】
本成形体は、例えば、本樹脂組成物を成形することにより製造できる。
成形方法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。
【0178】
重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む樹脂組成物から製造した成形体において、Δヘイズ値は、樹脂単体のヘイズ値から重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む樹脂組成物のヘイズ値を差し引いた値である。Δヘイズ値は、14%未満であることが好ましく、13%未満であることがより好ましく、12%未満であることがさらに好ましく、8%以下であることが特に好ましい。
本明細書において、ヘイズ値は、実施例に記載された方法により測定できる。
また、重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む樹脂組成物から製造した成形体において、全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。本明細書において、全光線透過率は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0179】
重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む樹脂組成物から製造した成形体において、-30℃におけるシャルピー衝撃強度は、0.5kJ/m以上であることが好ましく、1.0kJ/m以上であることがより好ましく、1.2kJ/m以上であることがさらに好ましい。-30℃におけるシャルピー衝撃強度は、高ければ高いほど良く上限は特に限定されないが、例えば7.0kJ/m以下が好ましく、5.0kJ/m以下がより好ましい。
重合体粒子群(C)と、熱可塑性樹脂(E)とを含む樹脂組成物から製造した成形体において、23℃におけるシャルピー衝撃強度は、0.5kJ/m以上であることが好ましく、1.0kJ/m以上であることがより好ましく、1.5kJ/m以上であることがさらに好ましい。23℃におけるシャルピー衝撃強度は、高ければ高いほど良く上限は特に限定されないが、例えば25kJ/m以下が好ましく、10kJ/m以下がより好ましい。
本明細書において、シャルピー衝撃強度は、実施例に記載された方法により測定できる。
【0180】
本成形体は、自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野、建築分野、生活・化粧品分野、医用品分野等の種々の材料として、工業的に広く利用することができる。より具体的には電子機器等の筐体、各種部品、被覆材、自動車構造部材、自動車内装部品、光反射板、建物構造部材、建具等として使用することができる。更に具体的には、パソコン筐体、携帯電話筐体、携帯情報端末筐体、携帯ゲーム機筐体、プリンタ、複写機等の内装・外装部材、導電体被覆材、自動車内装・外装部材、建物外装材、樹脂窓枠部材、床材、配管部材等として使用することができる。
【実施例0181】
以下、製造例及び実施例により本発明を更に詳細に説明する。製造例1-1~1-10は、ポリオルガノシロキサン(A1)の製造例、製造例2-1~2-13は重合体複合体(A)の製造例、実施例1~9及び比較例1~4は重合体粒子群(C)の製造例である。なお、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味し、「ppm」は「質量ppm」を意味する。また、下記に、各種の測定方法について記載する。
【0182】
(1)固形分
質量w1のグラフト共重合体のラテックスを180℃の熱風乾燥機で30分間乾燥し、乾燥後の残渣の質量w2を測定し、下記式(1)により固形分[%]を算出した。
固形分[%]=w2/w1×100 ・・・(1)
(2)重合率
重合体を製造する際に仕込んだ全単量体の質量w3と重合後に得られた固形分の質量w4から、下記式(2)により重合率を算出した。
重合率[%]=w4/w3×100 ・・・(2)
【0183】
(3)グラフト共重合体の吸光度法で測定される粒子径
グラフト共重合体のラテックスの濃度(固形分)を、脱イオン水を用いて0.5g/Lに希釈した液について、紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV-mini1240)を用いて、波長700nmにおける吸光度DAを測定した。下記式(3)により粒子径を算出した。
【0184】
【数1】
【0185】
(4)シャルピー衝撃強度
JIS K 7111‐1/1eAに準拠して、温度23℃、及び-30℃にて、試験片(長さ80.0mm、幅10.0mm、厚み4mm、Vノッチ付き)のシャルピー衝撃強度を測定した。
【0186】
(5)成形外観特性評価(全光線透過率、ヘイズ)
JIS K 7375に準拠して、日本電色工業(株)製HAZE Meter NDH4000を用いて、試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)について、D65光源における全光線透過率及びヘイズを測定した。
【0187】
(6)ポリオルガノシロキサン(A1)および重合体粒子群(C)の屈折率
ポリジメチルシロキサン(屈折率:1.40、比重:0.97)、ポリジフェニルシロキサン(屈折率:1.61、比重:1.08)、ポリメチルフェニルシロキサン(屈折率:1.53、比重:1.01)、ポリメチルメタクリレート(屈折率1.49、比重:1.20)、ポリスチレン(屈折率1.59、比重:1.05)、ポリn-ブチルアクリレート(屈折率1.47、比重:1.09)の仕込み原料の重量比率を、ポリマー体積比率に変換し、各屈折率に掛けあわせて、ポリオルガノシロキサン(A1)および重合体粒子群(C)の屈折率を算出した。
【0188】
(7)アリール基を含有するオルガノシロキサンの粘度
JIS K 8803に準拠して、東機産業製TVB10M型および低粘度アダプタを用いて、15℃における粘度を測定した。
【0189】
(8)アセトン不溶分、可溶分
アセトン可溶分は以下の(1-1)~(1-5)の操作を行うことによって測定される。
(1-1)試料(重合体粒子群(C))0.5gをアセトン50mL(44.5g)へ加え、混合溶液を調製し、25℃で8時間静置後、30分間スターラーで撹拌し、アセトン可溶分を溶解させる。
(1-2)前記混合溶液を、質量を測定した遠心管に入れ、遠心分離機(16000rpm、4時間)にてアセトン不溶分とアセトン可溶分を含む液とを遠心分離する。
(1-3)上澄み液を除去した後、新たにアセトンを加えてかき混ぜたのち、再度、前記(1-2)と同様に遠心分離を行い、アセトン不溶分を洗浄する。
(1-4)前記(1-3)を2回繰り返した後、上澄み液を除去する。アセトン不溶分が残った遠心管を温水バスに浸け(80℃、8時間)、アセトンを揮発させた後、65℃、6時間真空乾燥し、乾燥試料(遠心管に付着したアセトン不溶分)を得る。
(1-5)得られた乾燥試料の質量(アセトン不溶分+遠心管)を測定し、次式によりアセトン可溶分の比率w(%)を算出する。
=1-(wc1-was)/wt×100
wt:測定に供した重合体粒子群(C)の質量
as:遠心管の質量
c1:アセトン不溶分の質量(遠心管を含む質量)
【0190】
[製造例1-1]
3-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン(KBM502、信越シリコーン社製、製品名:KBM-502)2部、及び環状オルガノシロキサン混合物(DMC、信越シリコーン社製、製品名:DMC、3~6員環の環状オルガノシロキサンの混合物)57部、ジメトキシジフェニルシラン(DMODPS、東京化成社製)43部を混合してオルガノシロキサン混合物100部を得た。脱イオン水310部中にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG15、花王社製、製品名:ネオペレックス G-15、固形分換算)0.7部を溶解した水溶液を、前記混合物中に添加しウルトラタラックスにて12,000rpmで5分間攪拌して、安定な予備混合エマルションを得た。
【0191】
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、脱イオン水90部中にドデシルベンゼンスルホン酸(ネオペレックスGS、花王社製、製品名:ネオペレックスGS)10部を溶解した水溶液を入れた後、この水溶液を温度80℃に加熱し、次いで、上記エマルションを240分間にわたり連続的に投入し重合反応させた後、25℃に冷却し、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンラテックス(A-1)を得た。
【0192】
このラテックスの屈折率は1.485であり、固形分は17.4%であり、吸光度は0.014であった。表1に混合比と評価結果を示す。
【0193】
[製造例1-2~1-8、及び1-10]
製造例1-1において用いた各原料の種類及び量を表1に記載の通り変更したこと以外は製造例1-1と同様にして、ポリオルガノシロキサンラテックス(A-2)~(A-8)、及び(A-10)を得た。表1に原料と評価結果を示す。
【0194】
[製造例1-9]
テトラエトキシシラン(TEOS、ダウ・東レ社製、製品名:DOWSIL Z-6697)2部、3-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン(KBM502、信越シリコーン社製、製品名:KBM-502)2部、及び環状オルガノシロキサン混合物(DMC、信越シリコーン社製、製品名:DMC、3~6員環の環状オルガノシロキサンの混合物)57部、ジメトキシジフェニルシラン(DMODPS、東京化成社製)43部を混合して、オルガノシロキサン混合物100部を得た。脱イオン水220部中にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG15、花王社製、製品名:ネオペレックス G-15、固形分換算)1部を溶解した水溶液を、前記混合物中に添加し、ウルトラタラックスにて12,000rpmで5分間攪拌して、予備混合エマルションを得た。
【0195】
次いで、冷却コンデンサーを備えた容量5リットルのセパラブルフラスコ内に、上記エマルションを入れた。該エマルションを温度80℃に加熱し、次いで硫酸0.20部と蒸留水2部との混合物を投入した。温度80℃に加熱した状態を6時間維持して重合反応させた後、室温(25℃)に冷却し、得られた反応液を室温で7時間保持した。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応液をpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(A-9)を得た。
【0196】
このラテックスの屈折率は1.485であり、固形分は24.1%であり、吸光度は0.740であった。表1に原料と評価結果を示す。
【0197】
表1における略語は、以下の化合物を表す。
・DMODPS:ジメトキシジフェニルシラン、東京化成社製
・DMOMPS:ジメトキシメチルフェニルシラン、東京化成社製
・DMC:3~6員環の環状オルガノシロキサンの混合物、信越シリコーン社製、製品名:DMC
・KBM502:3-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、信越シリコーン社製、製品名:KBM-502
・TEOS:テトラエトキシシラン、ダウ・東レ社製、製品名:DOWSIL Z-6697
・ネオペレックスG15:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、花王社製、製品名:ネオペレックス G-15、表中の値は固形分換算した値である。
・ネオペレックスGS:ドデシルベンゼンスルホン酸、花王社製、製品名:ネオペレックス GS、表中の値は固形分換算した値である。
また、ジメトキシジフェニルシラン(DMODPS)の粘度は11.1mPa・s、ジメトキシメチルフェニルシラン(DMOMPS)の粘度は1.9mPa・sであった。
【0198】
【表1】
【0199】
[製造例2-1]
製造例1-1において得たポリオルガノシロキサンゴムのラテックス(A-1)をポリマー換算で7部、容量5リットルのセパラブルフラスコ内に採取し、脱イオン水155部を添加混合した。次いでこのセパラブルフラスコ内に、スチレン(St)13.4部、n-ブチルアクリレート(n-BA)58.9部、アリルメタクリレート(AMA)0.7部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスG15、花王社製、製品名:ネオペレックス G-15、固形分換算)0.3部を添加し、フラスコ内に窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、液温を45℃まで昇温させ、90分撹拌した。過硫酸カリウム(KPS、ナカライテスク社製)0.08部を脱イオン水2部に溶解させた水溶液を添加しラジカル重合を開始した。その後、液温80℃に昇温し、1時間保持して重合を完結させ、ビニル重合体(A2-1)を含有する複合ゴムラテックスを得た。
【0200】
上記複合ゴムのラテックスの温度を80℃に維持した状態で、メチルメタクリレート(MMA)20部を、30分間にわたって、このラテックス中に滴下して重合した。滴下終了後、液温80℃で1時間維持したのち25℃に冷却して、重合体(A1-1)として、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G-1)のラテックスを得た。
【0201】
ラテックスの屈折率は1.488であり、固形分は32%であり、重合率は99%であった。また、吸光度は0.025であり、吸光度より求めた粒子径は76nmであった。
【0202】
次いで、酢酸カルシウムの濃度が1質量%の水溶液500部を、温度60℃に維持して、攪拌しながら、この中にグラフト共重合体(G-1)のラテックス300部を徐々に滴下し凝固した。得られたグラフト共重合体(G-1)をろ過、脱水した。更に、グラフト共重合体100部に対して10倍量の水を加えた後、攪拌機の付いたフラスコ内にて10分間洗浄を行い、ろ過、脱水した。この操作を2回繰り返した後、乾燥させてポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G-1)の粉体を得た。
表2に原料と評価結果を示す。
【0203】
[製造例2-2~2-13]
製造例2-1において用いた各原料の種類及び量を表に示す条件に変更したこと以外は製造例2-1と同様にして、重合体(A1-2)~(A1-10)として、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(G-2)~(G-13)を製造し、更にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の粉体を得た。表2に原料と評価結果を示す。
【0204】
表2における略語は、以下の化合物を表す。
・BA:n-ブチルアクリレート
・St:スチレン
・AMA:アリルメタクリレート
・ネオペレックスG15:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、製品名:ネオペレックス G-15、花王社製、表中の値は固形分換算した値である。
・KPS:過硫酸カリウム(KPS、ナカライテスク社製)
・MMA:メチルメタクリレート
【0205】
【表2】
【0206】
[実施例1~8、及び比較例1~3]
製造例2-1~2-8、及び2-10~2-12で得られたポリオルガノシロキサン含有グラフト重合体(G-1)~(G-8)、及び(G-10)~(G-12)を30質量部、ポリメチルメタクリレート(三菱ケミカル社製、「VH5―001」(商品名))を70質量部配合し、混合物を得た。この混合物を、バレル温度250℃に加熱した脱揮式二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM-30(商品名))に供給して混練し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト重合体が30質量%配合された樹脂組成物のペレットを作製した。
各ペレットを別個に、住友射出成形機SE100DU(商品名)(住友重機械工業(株)製)に供給し、シリンダー温度250℃、金型温度60℃にて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの成形体(衝撃試験用試験片)および長さ100mm、幅50mm、厚み2mmの成形体(外観特性評価用試験片)を得た。シャルピー衝撃試験およびヘイズの測定結果を表3に示す。
【0207】
[実施例9、及び比較例4]
実施例1において用いた各原料の種類及び量を表に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9および比較例4の製造、評価を行った。結果を表3に示す。
【0208】
[参考例1及び2]
ポリオルガノシロキサン含有グラフト重合体を30質量%添加しないこと以外は、実施例1又は9と同様にして製造、評価を行った。結果を表3に示す。
【0209】
表3における略語は、以下の化合物を表す。
・VH5―001:ポリメチルメタクリレート、三菱ケミカル社製、「VH5―001」(商品名)
・INGEO-4032D:ポリ乳酸、ネイチャーワークス社製、「INGEOバイオポリマー 4032D」(商品名)
【0210】
【表3】
【0211】
実施例1~9のポリオルガノシロキサン含有重合体(G-1)~(G-9)は、アリール基を含有するシロキサン単位を含有し、平均粒子径が200nm以下であるため、これらを含有する成形体は、耐衝撃性及び透明性に優れており、工業的利用価値が高いものであった。
一方、比較例1のポリオルガノシロキサン含有重合体(G-10)は、アリール基を含有するシロキサン単位を含有していないため、これを含有する成形体は、衝撃強度に優れているものの、透明性が低位であった。また、比較例2~4のポリオルガノシロキサン含有重合体(G-11)~(G-13)は、平均粒子径が200nmを超えていたため、これを含有する成形体は、衝撃強度に優れていたが、透明性が低位であった。