IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人 関西大学の特許一覧

特開2024-14410エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、及びエポキシ接着剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014410
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、及びエポキシ接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20240125BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20240125BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240125BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08G59/30
C09J163/02
C09J163/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117216
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】野田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】入船 真治
(72)【発明者】
【氏名】原田 美由紀
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA05
4J036AD08
4J036AJ21
4J036CD16
4J036DC02
4J036FA01
4J036JA06
4J040EC061
4J040EC461
4J040HC08
4J040JA02
4J040JA13
4J040JB02
4J040KA16
4J040MA02
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させるという特性を発現する組成のエポキシ樹脂組成物、その硬化物、及びエポキシ接着剤を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基を示し、Xは、互いに独立して、炭素数1~10の2価のアルキレン基であり、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のエーテル結合を有してもよいアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、及び炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基であり、Zは、互いに独立して炭素数1~20のエーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、nは0~100の整数、mは1又は2である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、ポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が500~100,000であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、エポキシ当量が、300~5,000g/モルであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)成分が、アミン系硬化剤であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
さらに(D)充填剤を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物が硬化したものであることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物からなるものであることを特徴とする1液型エポキシ接着剤。
【請求項10】
第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分と前記(B)成分を含み、前記第2液が請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(C)成分を含むものであることを特徴とする2液型エポキシ接着剤。
【請求項11】
第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分を含み、前記第2液が請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(B)成分と前記(C)成分を含むものであることを特徴とする2液型エポキシ接着剤。
【請求項12】
前記(B)成分が、前記一般式(1)のmが1であるポリオルガノシロキサン化合物と前記一般式(1)のmが2であるポリオルガノシロキサン化合物との混合物であることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のエポキシ接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、その硬化物、及びエポキシ接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のエンジン自動車から電気自動車への移行が進むのと並行して、自動車構造体の作り方も大きく変化してきている。また、接着する部材に関しては、同種の材料接合だけでなく、車体の軽量化のために鉄とAl、Alと鉄鋼板、AlとCFRPなど異種材料接合のニーズが高まってきている。このような異種材料接合を行い自動車の剛性を高めるためのボディシェル接着剤として、主にエポキシ接着剤が使用されている。エポキシ接着剤は、その優れた機械的強度、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐水性、低収縮性、接着性により、自動車の接合用接着剤として非常に大きな役割を担っている。
【0003】
しかしながら、高強度接着が実現可能なエポキシ接着剤にも靭性が低いという課題がある。すなわち、衝撃剥離強度が低いという問題がある。それを解決するため、特許文献1のように耐衝撃改良剤としてエポキシ基を末端に有するポリウレタンポリマーを含むエポキシ接着剤の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-521570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような構成のエポキシ接着剤では、ウレタンポリマーの混合により、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させることは非常に困難であるという課題があった。さらに、異種材料接合においては、伸び特性と引張剪断強度の両方を高める必要がある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させるという特性を発現する組成のエポキシ樹脂組成物、その硬化物、及びエポキシ接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【化1】
(一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基を示し、Xは、互いに独立して、炭素数1~10の2価のアルキレン基であり、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のエーテル結合を有してもよいアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、及び炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基であり、Zは、互いに独立して炭素数1~20のエーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、nは0~100の整数、mは1又は2である。)
【0008】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、(B)成分のオルガノシロキサン部分と(A)成分のエポキシ樹脂との相溶性が良くないため、(B)成分が島、(A)成分が海となる海島構造が形成される。(B)成分にウレタン基が存在するため、島の成分中で部分的に結晶化が生じることによって、シロキサンのみでは発現しえない高強度のシロキサンウレタンポリマーを形成できる。また、(B)成分のウレタン結合部及び末端のエポキシ基は(A)成分であるエポキシ樹脂との親和性が良いため、島部と海部の界面において適度な相溶性が生まれる。さらに本発明のエポキシ樹脂組成物の構成要素である(B)成分は両末端がエポキシ基であるため、そのエポキシ末端は(C)成分を介して(A)成分であるエポキシ樹脂とも結合する。それにより、海島構造を形成した状態で(B)成分を中心とする島構造体は海構造体の(A)成分と連結されたエポキシ樹脂構造となる。それ故、(B)成分がない場合と比較し、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させ得るエポキシ樹脂組成物となる。
また、m=1又は2にして、一般式(1)の分子鎖長を短くすることにより、形成される島構造の分散性が良好で、島成分が合一して分離するようなことなく、エポキシ樹脂が得られる。前記シロキサンウレタンポリマーの強度をより高くすることができる。さらに、m=1又は2にして、一般式(1)の分子鎖長を短くすることにより、(B)成分の両末端エポキシ間の距離が短くなるためエポキシ樹脂構造そのものの強化につながる。
【0009】
また、本発明では、前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、ポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が500~100,000であることが好ましい。
【0010】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、海島構造の島構造を構成する構造体の大きさが大きくなりすぎず、ミクロ相分離を形成することができる。また、この範囲内で数平均分子量を選ぶことで、島構造体の大きさを制御できる。
【0011】
また、本発明では、前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、エポキシ当量が、300~5,000g/モルであることが好ましい。
【0012】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、海島構造の島構造を構成する構造体の大きさが大きくなりすぎず、ミクロ相分離を形成することができる。また、この範囲内でエポキシ当量を選ぶことで、島構造体の大きさを制御できる。
【0013】
また、本発明では、前記(B)成分が、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることが好ましい。
【0014】
これら環状低分子シロキサンを低減することで、低分子成分が硬化物表面にブリードアウトすることによる接着性の低下や、低分子成分の揮発による周辺環境の汚染などを回避することができる。
【0015】
また、本発明では、前記(A)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0016】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、各種選択されて使用されているビスフェノール型エポキシ樹脂の特性を強化でき、ビスフェノール型エポキシ樹脂単体で用いる場合よりも、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させることができるエポキシ樹脂組成物にできる。
【0017】
また、本発明では、前記(C)成分が、アミン系硬化剤であることが好ましい。
【0018】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、良好な硬化特性が得られる。
【0019】
また、本発明では、さらに(D)充填剤を含むものであることが好ましい。
【0020】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、機械強度を補強することができる。
【0021】
また、本発明では、上記に記載のエポキシ樹脂組成物が硬化したものであるエポキシ樹脂硬化物を提供する。
【0022】
このようなエポキシ樹脂硬化物であれば、従来のエポキシ樹脂硬化物よりも伸びと引張強度を向上させることができ、硬化物を強靭化できる。
【0023】
また、本発明では、上記に記載のエポキシ樹脂組成物からなるものである1液型エポキシ接着剤を提供する。
【0024】
このような1液型エポキシ接着剤であれば、所望の特性を安定に提供することができ、事前の混合が不要となるため作業性が向上する。
【0025】
また、本発明では、第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分と前記(B)成分を含み、前記第2液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(C)成分を含むものである2液型エポキシ接着剤を提供する。
【0026】
また、本発明では、第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分を含み、前記第2液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(B)成分と前記(C)成分を含むものである2液型エポキシ接着剤を提供する。
【0027】
このような2液型エポキシ接着剤であれば、良好な保存安定性を確保でき、使用時には安定してエポキシ接着剤としての特性を発現することができる。
【0028】
この時、前記(B)成分が、前記一般式(1)のmが1であるポリオルガノシロキサン化合物と前記一般式(1)のmが2であるポリオルガノシロキサン化合物との混合物であることが好ましい。
【0029】
このようなエポキシ接着剤であれば、平均重合度mを1~2の間で任意に調整することができる。その結果、前記(B)成分の硬化度合いを制御することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いると、(B)成分のオルガノシロキサン部分と(A)成分のエポキシ樹脂との相溶性が良くないため、(B)成分が島、(A)成分が海となる海島構造が形成される。(B)成分にウレタン基が存在するため、島の成分中で部分的に結晶化が生じることによって、シロキサンのみでは発現しえない高強度のシロキサンウレタンポリマーを形成できる。また、(B)成分のウレタン結合部及び末端のエポキシ基は言うまでもなく(A)成分であるエポキシ樹脂との親和性が良いため、島部と海部の界面において適度な相溶性が生まれる。さらに本発明のエポキシ樹脂組成物の構成要素である(B)成分は両末端がエポキシ基であるため、そのエポキシ末端は(C)成分を介して(A)成分であるエポキシ樹脂とも結合する。それにより、海島構造を形成した状態で(B)成分を中心とする島構造体は海構造体の(A)成分と連結されたエポキシ樹脂構造となる。それ故、(B)成分がない場合と比較し、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させ得るエポキシ樹脂組成物となる。
【0031】
このように、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いると、(B)成分であるポリオルガノシロキサン化合物を含まない組成物の場合よりも、硬化物の伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させることができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、上記のエポキシ樹脂組成物が硬化したものであり、上述のように、従来のエポキシ樹脂硬化物よりも伸び特性と引張剪断強度の両方が増大した硬化物を得ることができる。
【0033】
(A)成分~(C)成分を含む本発明のエポキシ樹脂組成物を1液型のエポキシ接着剤とすることができる。1液型のエポキシ接着剤の場合、2液型のように使用前に混合する必要がなく効率よく使用できる。一方(A)成分を含む第1液と(C)成分を含む第2液の構成をとり、第1液側か第2液側のいずれかに(B)成分を含む2液型の接着剤も構成できる。このようにすると、接着剤としての保存安定性が著しく向上する。いずれの場合も、従来のエポキシ樹脂硬化物よりも伸び特性と引張剪断強度の両方が増大した硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述のように、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させるという特性を発現する組成のエポキシ樹脂組成物、その硬化物、及びエポキシ接着剤の開発が求められていた。
【0035】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、(A)エポキシ樹脂、(B)特定構造のポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであるエポキシ樹脂組成物であれば、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0036】
即ち、本発明は、エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであるエポキシ樹脂組成物である。
【化2】
(一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基を示し、Xは、互いに独立して、炭素数1~10の2価のアルキレン基であり、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のエーテル結合を有してもよいアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、及び炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基であり、Zは、互いに独立して炭素数1~20のエーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、nは0~100の整数、mは1又は2である。)
【0037】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明の第1の実施形態であるエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)ポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、(A)成分100質量部に対して(B)成分を1~40質量部含む。また、この他に(D)充填剤などを含んでもよい。以下、各成分について詳細に説明する。
【0039】
[(A)エポキシ樹脂]
本発明のエポキシ樹脂組成物における(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂は、公知のエポキシ樹脂を用いることができ、後述する(B)成分以外のものであれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂;レゾルシノール型エポキシ樹脂などの多官能フェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物、等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0040】
(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ当量については、特に限定されるものではないが、混合後における可使時間や硬化物の強度などの観点から、固形分当りの換算で、50~5,000g/eqが好ましく、75~2,500g/eqがより好ましい。
【0041】
(A)成分のエポキシ樹脂の性状については、特に限定されるものではないが、25℃で液状であることが好ましく、より好ましくは粘度が10~100,000mPa・s、さらに好ましくは20~50,000mPa・sである。なお、前記粘度はJIS K 7117-1:1999に記載のB型粘度計を用いた方法で測定される。
【0042】
[(B)ポリオルガノシロキサン化合物]
本発明のエポキシ樹脂組成物における(B)成分であるポリオルガノシロキサン化合物は、下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物である。
【化3】
(一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基を示し、Xは、互いに独立して、炭素数1~10の2価のアルキレン基であり、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のエーテル結合を有してもよいアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、及び炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基であり、Zは、互いに独立して炭素数1~20のエーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、nは0~100の整数、mは1又は2である。)
【0043】
一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12、好ましくは6~9のアリール基、及び炭素数7~12、好ましくは7~10のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基が挙げられる。その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。中でも、メチル基又はフェニル基が好ましい。
【0044】
一般式(1)において、Xは、互いに独立して炭素数1~10、好ましくは1~8の2価のアルキレン基である。
【0045】
炭素数1~10の2価のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ヘキシレン基、n-オクチレン基等が挙げられる。好ましくはメチレン基である。
【0046】
一般式(1)において、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基である。
【0047】
炭素数5~30のアルキレン基としては、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでもよく、その具体例としては、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基、n-トリデシレン基、n-テトラデシレン基、n-ペンタデシレン基、n-ヘキサデシレン基、n-ヘプタデシレン基、n-オクタデシレン基、n-ノナデシレン基、n-エイコサニレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基が挙げられる。
【0048】
また、前記アルキレン基は、分子鎖の途中に1個以上のエーテル結合を有してもよい。具体的には、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基等のエーテル結合を含む基であり、エーテル結合が複数あってもよい。
【0049】
炭素数6~30のアリーレン基としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、3,5-トリレン基、2,4-トリレン基、2,6-トリレン基、1,2-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-メチレンビスフェニル基等が挙げられる。
【0050】
炭素数7~30のアラルキレン基としては、o-キシリレン基、m-キシリレン基、p-キシリレン基、1,3-フェニレンビス(2-プロピル)基等が挙げられる。
【0051】
前記Yとして、好ましくは以下の基が挙げられる。点線は一般式(1)におけるウレタン結合の窒素原子との結合箇所を示し、慣例により水素原子は省略する。
【化4】
【0052】
一般式(1)において、Zは、互いに独立して炭素数1~20、好ましくは3~10のアルキレン基である。なお、炭素数1~20のアルキレン鎖中に1個以上のエーテル結合が介在していてもよい。好ましくはプロピレン基(-CHCHCH-)、エチレンオキシプロピレン基(*-CHCHOCHCHCH-)である。ただし、*は前記一般式(1)におけるウレタン結合の酸素原子との結合を示す。
【0053】
一般式(1)において、nは、0~100の整数を示す。好ましくは、nは0~60の整数である。
【0054】
一般式(1)において、mは、平均重合度を示しており、mは1または2であり、好ましくは1である。mが3以上であると、均一な硬化物が得られないため好ましくない。
【0055】
本発明における前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物は、数平均分子量が500~100,000であることが好ましく、より好ましくは500~50,000であり、500~20,000がさらに好ましい。この範囲であれば、両末端のエポキシ基が硬化剤と反応し、硬化物を得るのに十分な分子量となる。また、海島構造の島構造を構成する構造体の大きさが大きくなりすぎず、ミクロ相分離を形成することができる。また、この範囲内で数平均分子量を選ぶことで、島構造体の大きさを制御できる。なお、前記数平均分子量とは、以下の測定条件によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定においてポリスチレン標準物質換算における数平均分子量を指すものとする。
【0056】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.3質量%のTHF溶液)
【0057】
本発明における前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物は、エポキシ当量(g/モル)が、300~5,000g/モルが好ましく、500~2,500g/モルがより好ましい。この範囲であれば、両末端のエポキシ基が硬化剤と反応し、良好な物性の硬化物を得るのに十分な量となる。また、海島構造の島構造を構成する構造体の大きさが大きくなりすぎず、ミクロ相分離を形成することができる。また、この範囲内でエポキシ当量を選ぶことで、島構造体の大きさを制御できる。なお、本発明におけるエポキシ当量(g/モル)は、1,4-ジオキサンに溶解させた所定質量の試料に塩酸を加え、水酸化ナトリウム水溶液を用いて逆滴定することで算出できる。
【0058】
低分子環状シロキサン類については、国際公開第2016/111104号等に記載されているように、様々な不具合が生じる可能性があり、低減することが好ましい。(B)成分において、好ましくは、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で0ppmを超え、3,000ppm以下含むもの、より好ましくは0.1~2,000ppm、さらに好ましくは0.1~1,000ppm含むものが使用できる。
【0059】
上記低分子環状シロキサン類(D3~D6)の量は、(B)成分を有機溶媒によって抽出及び希釈した試料を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって定量した値である。また、前記「0ppmを超え」とは、前記方法で定量した際に、わずかでもピークとして検出された場合「0ppmを超え」とみなす。
【0060】
本発明において、(A)成分を100質量部とした場合、(B)成分は1~40質量部、好ましくは10~30質量部、より好ましくは10~20質量部である。(B)成分の質量部が40質量部を超えると、エポキシ樹脂の硬化物としての強度が低下し、接着力が十分に得られなくなる。また、Tgが低下するため、耐熱性も低下する。一方1質量部未満であると、所望の(B)成分添加効果が小さくなる。
【0061】
(B)成分であるポリオルガノシロキサン化合物に加えて、オルガノシロキサン部分が環状構造を有するオルガノシロキサン化合物(B’)を用いることもできる。このようにすると、さらに硬化物の強度を上げることができる。なお、(B)成分と(B’)成分の比率を調整することで、伸びと強度のバランスを調整することができる。
【0062】
[(C)エポキシ樹脂硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物における(C)エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂と反応し硬化させることが可能な公知の硬化剤を用いることができる。この硬化剤は、硬化剤の分子中の反応性官能基(アミノ基、フェノール性水酸基、酸無水物基、メルカプト基など)と、(A)成分及び(B)成分中のエポキシ基とを反応させ、三次元架橋構造の硬化物とするために添加される。
【0063】
(C)成分としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、アミン系硬化剤が好ましく、アミン系硬化剤としては、一般に市販されているものが使用できる。例えば、芳香族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、ポリアミドアミン、ポリエーテルポリアミンなどが挙げられる。さらに好ましくは、芳香族ポリアミンである。
【0065】
芳香族ポリアミンとしては、下記一般式(I)~(IV)の化合物が挙げられる。
【化5】
(一般式(I)~(IV)中、Rは、互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~6の1価のアルキル基、R’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~12の1価のアルキル基、フェニル基、又はアミノフェニル基であり、2つのR’が結合してそれらが結合する炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0066】
芳香族ポリアミンの具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミノジフェニルメタン化合物、2,4-ジアミノトルエン、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン等が挙げられる。これらを1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0067】
[(D)充填剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに(D)充填剤を含んでもよい。充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物類などが挙げられ、1種単独でも2種以上を併用してもよい。中でも、入手容易性や品質の安定性の観点から、好ましくはシリカ類である。
【0068】
平均粒径は、好ましくは0.1~50μmであり、用途に応じて選択することができる。なお、平均粒径は、レーザー回折法で測定される体積平均粒径である。
【0069】
上記充填剤は、シランカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理されることが好ましい。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0070】
[その他の成分]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を添加することができる。添加剤としては、反応性希釈剤、硬化促進剤、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着助剤、着色剤、及びカップリング剤等が挙げられる。
【0071】
[エポキシ樹脂組成物の製造方法]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の製造方法は、例えば、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、加熱処理を行いながら、同時に混合、撹拌、溶解及び分散させることによりエポキシ樹脂組成物を得ることができる。また、(A)成分、(B)成分、または(C)成分を、別々に加熱処理を行いながら、混合、撹拌、溶解及び分散させることにより、エポキシ樹脂組成物を得ることができる。好ましくは、(B)成分と(C)成分を加熱処理しながら、混合、撹拌、溶解及び分散させ、その後(A)成分を加えることにより(B)成分がよく分散したエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
また、必要に応じて、(D)成分及び/またはその他添加剤を加えてもよい。(A)成分、(B)成分、及び(C)成分に追加して、同時にまたは別々に加熱処理を行いながら、混合、撹拌、溶解及び分散してもよい。または、(B)成分と(C)成分を加熱処理しながら、混合、撹拌、溶解及び分散させ、その後(A)成分と同時に(D)成分及び/またはその他添加剤を加えてもよい。
【0073】
[エポキシ樹脂硬化物]
本発明の第2の実施形態は、上記に記載のエポキシ樹脂組成物が硬化したエポキシ樹脂硬化物である。用途に応じた型に入れて硬化成型することにより、さまざまな用途に高強靭な硬化物部材として提供することができる。
【0074】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の硬化条件は特に制限されないが、例えば60~200℃、好ましくは80~180℃の温度で、30分~10時間、好ましくは1~5時間加熱すればよい。また、反応を効率的に行うために、例えば、2~5段階に分けて低い温度から高い温度で上記の時間加熱してもよい。
【0075】
[エポキシ接着剤]
本発明の第3の実施形態は、上記に記載のエポキシ樹脂組成物からなるものである1液型エポキシ接着剤である。なお、(C)成分がアミノ基を有する場合、(A)成分と(B)成分のエポキシ基の合計価数と(C)成分のアミノ基の価数が等量になるように混合することが好ましい。
【0076】
この場合は、常温で硬化反応が起こらない(C)エポキシ樹脂硬化剤を選べば、常温保存が可能となる。さらに、室温~100℃で硬化する、好ましくは室温からおよそ80℃程度の低温硬化可能な(C)エポキシ樹脂硬化剤を使用する場合は、反応が進行しない低い温度で保存すればよい。
【0077】
本発明の第4の実施形態は、第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分と前記(B)成分を含み、前記第2液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(C)成分を含むものである2液型エポキシ接着剤である。
【0078】
このようにすると、良好な保存安定性を確保でき、使用時には安定してエポキシ接着剤としての特性を発現することができる。
【0079】
(C)成分がアミノ基を有する場合、使用時には、第1液の(A)成分と(B)成分のエポキシ基の合計価数と第2液の(C)成分のアミノ基の価数が等量になるように混合して用いることが好ましい。実用的には、使用時にエポキシ基とアミノ基の価数が等量となるように射出されるように調整されたグルーガン等の治具を用いて用いればよい。
【0080】
本発明の第5の実施形態は、第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分を含み、前記第2液が上記に記載のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(B)成分と前記(C)成分を含むものである2液型エポキシ接着剤である。
【0081】
(C)成分がアミノ基を有する場合、使用時に第1液と第2液を混合する時点で、混合物が(A)成分と(B)成分のエポキシ基の合計価数と第2液の(C)成分のアミノ基の価数が等量になるように混合することが好ましい。その際同時に、(A)成分に対して(B)成分が1~40質量部となるように第2液中の(B)成分と(C)成分の比率を調製しておけばよい。すなわち、所望の特性に適した比率として、(A)成分100質量部に対する(B)成分を質量部の値を決めれば、第2液中の(B)成分と(C)成分の比率も決まる。
【0082】
このようにすると、良好な保存安定性を確保でき、使用時には安定してエポキシ接着剤としての特性を発現することができる。実用的には、使用時にエポキシ基とアミノ基の価数が等量となるように射出されるように調整されたグルーガン等の治具を用いて用いればよい。
【0083】
上記第3~第5の実施形態において、前記(B)成分が、前記一般式(1)のmが1であるポリオルガノシロキサン化合物と前記一般式(1)のmが2であるポリオルガノシロキサン化合物との混合物であることが好ましい。
【0084】
このようなエポキシ接着剤であれば、平均重合度mを1~2の間で任意に調整することができる。その結果、前記(B)成分の硬化度合いを制御することができる。
【実施例0085】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
以下に示す実施例において、(A)エポキシ樹脂として、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂:三菱ケミカル社製 jER828EL
(エポキシ当量 186g/mol)
(以下、DGEBAと表記する。)
(C)エポキシ樹脂硬化剤として、
アミン系硬化剤:東京化成工業社製 4、4’-ジアミノジフェニルメタン
(N-H当量 49.6g/mol)
(以下、DDMと表記する。)
を用いた。
【0087】
[合成例1]
500mLのセパラブルフラスコに、イソホロンジイソシアネート91.95g(0.827モル NCO)を仕込み、メカニカルスターラー、撹拌翼、ジムロート還流管、窒素ガス導入口及び温度計を取り付けて、窒素ガスを流した。次に、触媒となるK-KAT XK-640(楠本化成社製 カルボン酸ビスマス、18%ビスマス含有)0.32g(0.1質量%)を加え、内温が60℃になるまで昇温した。そこに、300mL滴下漏斗を用いて、D3が64ppm、D4が59ppm、D5が23ppm、D6が226ppmの3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン(n=8、OH価 116mgKOH/g)200.00g(0.413モル OH、NCO/OH=2.0)を30分掛けて加えたのちに、70℃で3時間熟成した。その後、グリシドール30.80g(0.415モル)を加えて、70℃で2時間熟成することで、無色微濁の粘性液体を319.17g得た。NCO/OH=2.0より、mは1である。
低分子環状シロキサンは、サンプル1gに対してテトラデカンを内部標準としたヘキサン10mLにて抽出して、GCによる測定を行った。その結果、D3~D6の総量は305ppmであった。(D3:54ppm、D4:52ppm、D5:16ppm、D6:183ppm)
【0088】
[合成例2]
500mLのセパラブルフラスコに、イソホロンジイソシアネート70.15g(0.631モル NCO)を仕込み、メカニカルスターラー、撹拌翼、ジムロート還流管、窒素ガス導入口及び温度計を取り付けて、窒素ガスを流した。次に、触媒となるK-KAT XK-640(楠本化成社製 カルボン酸ビスマス、18%ビスマス含有)0.25g(0.1質量%)を加え、内温が60℃になるまで昇温した。そこに、300mL滴下漏斗を用いて、D3が64ppm、D4が59ppm、D5が23ppm、D6が226ppmの3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン(n=8、OH価 116mgKOH/g)200.00g(0.413モル OH、NCO/OH=1.5)を30分掛けて加えたのちに、70℃で3時間熟成した。その後、グリシドール15.72g(0.212モル)を加えて、70℃で2時間熟成することで、無色微濁の粘性液体を277.05g得た。NCO/OH=1.5より、mは2である。
低分子環状シロキサンは、サンプル1gに対してテトラデカンを内部標準としたヘキサン10mLにて抽出して、GCによる測定を行った。その結果、D3~D6の総量は339ppmであった。(D3:60ppm、D4:55ppm、D5:18ppm、D6:206ppm)
【0089】
[比較合成例1]
500mLのセパラブルフラスコに、イソホロンジイソシアネート61.25g(0.551モル NCO)を仕込み、メカニカルスターラー、撹拌翼、ジムロート還流管、窒素ガス導入口及び温度計を取り付けて、窒素ガスを流した。次に、触媒となるK-KAT XK-640(楠本化成社製 カルボン酸ビスマス、18%ビスマス含有)0.26g(0.1質量%)を加え、内温が60℃になるまで昇温した。そこに、300mL滴下漏斗を用いて、D3が64ppm、D4が59ppm、D5が23ppm、D6が226ppmの3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン(n=8、OH価 116mgKOH/g)200.00g(0.413モル OH、NCO/OH=1.33)を30分掛けて加えたのちに、70℃で3時間熟成した。その後、グリシドール10.46g(0.141モル)を加えて、70℃で2時間熟成することで、無色微濁の粘性液体を266.50g得た。NCO/OH=1.33より、mは3である。
低分子環状シロキサンは、サンプル1gに対してテトラデカンを内部標準としたヘキサン10mLにて抽出して、GCによる測定を行った。その結果、D3~D6の総量は305ppmであった。(D3:62ppm、D4:58ppm、D5:18ppm、D6:210ppm)
【0090】
[実施例1~3]
脱泡処理したDGEBA及び合成例1のポリオルガノシロキサン化合物をアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として130℃のホットプレート上で加熱した。続いて、別のアルミカップに化学当量のDDMを入れ、同温度のホットプレート上で攪拌しながら完全融解した。このDDMをDGEBAと合成例1のポリオルガノシロキサン化合物が入ったアルミカップに加え、5分間撹拌して組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを120℃で2時間、150℃で2時間、さらに180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0091】
[実施例4、5]
合成例1のポリオルガノシロキサン化合物、及び配合するエポキシ基含有化合物の全エポキシ基量に対して化学当量のDDMを、別途加熱融解した上でアルミカップに加え、140℃のホットプレート上で15分間撹拌した。続いて、脱泡処理したDGEBAを別のアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として、140℃のホットプレート上で加熱した。このDGEBAを前記ポリオルガノシロキサン化合物及びDDMの入ったアルミカップに加え、2分間加熱撹拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0092】
[比較例1]
脱泡処理したDGEBAをアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として130℃のホットプレート上で加熱した。続いて、別のアルミカップに化学当量のDDMを入れ、130℃のホットプレート上で攪拌しながら完全融解した。その後、融解させたDDMをDGEBAの入ったアルミカップに加え、5分間撹拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0093】
[比較例2]
比較合成例1のポリオルガノシロキサン化合物及び脱泡処理したDGEBAをアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として130℃のホットプレート上で加熱した。続いて、配合するエポキシ基含有化合物の全エポキシ基量に対して化学当量のDDMを別のアルミカップに入れ、130℃のホットプレート上で完全融解するまで攪拌した。その後、別途加熱融解したDDMを、DGEBAの入ったアルミカップに加え、5分間撹拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。
その結果、得られた硬化物は、海島構造の島成分が外観で確認できるほどのサイズに分離し、均一な硬化物が得られなかった。そのため、以降の評価は実施しなかった。
【0094】
[比較例3]
比較合成例1のポリオルガノシロキサン化合物及び配合するエポキシ基含有化合物の全エポキシ基量に対して化学当量のDDMを、別途融解した上でアルミカップに加え、140℃のホットプレート上で15分間撹拌した。続いて、脱泡処理したDGEBAを別のアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として、140℃のホットプレート上で加熱した。このDGEBAを比較合成例1のポリオルガノシロキサン化合物及び別途加熱融解したDDMの入ったアルミカップに加え、2分間加熱撹拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。
その結果、得られた硬化物は、海島構造の島成分が外観で確認できるほどのサイズに分離し、均一な硬化物が得られなかった。そのため、以降の評価は実施しなかった。
【0095】
[動的粘弾性測定]
実施例1~5及び比較例1の硬化物を、長さ30mm×幅4.0mm×厚み0.40mmの試験片サイズにカットし、UBM社製Rheogel-E40000にて、温度範囲-150~250℃、正弦波、昇温速度2.5℃/min、引張モード、周波数10Hzの条件で測定した。得られた結果に対して、損失弾性率(G”)/貯蔵弾性率(G’)である損失正接(tanδ)のピークトップをTgとした。
【0096】
[引張せん断接着試験]
軟鋼板をアセトンに浸して、30分間超音波洗浄した。次に、軟鋼板を#240の研磨紙を取り付けた電動サンダで研磨して表面の酸化膜を取り除き、アセトンに浸して30分間の超音波洗浄を2回行った。その後、軟鋼板の端から62.5mmの部分にあて板(長さ25mm×幅25mm×厚さ1.6mm)を張り付けた。そして、各実施例にて調整した組成物を軟鋼板の端から12.5mmまで塗布し、もう1枚の軟鋼板を重ね合わせて、ホットプレスを用いて5MPaで120℃、2時間加熱した。その後、恒温槽にて試験片に重り(重さ:1700g、圧力:960Pa)を乗せ、150℃、2時間加熱し、その後さらに180℃で2時間加熱し試験片を調製した。なお、昇温速度は5℃/minとした。徐冷後、試験片を取り出し、接合部からはみ出た樹脂をカッターナイフで取り除いた。
得られた試験片は、島津製作所社製AGS-Xにて、ヘッドスピード50mm/minの条件で引張せん断接着試験を行った。破断強度及び破断伸びは、N=5の平均値とした。破壊形態は目視によって確認した。
【0097】
実施例1~5及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0098】
実施例1~5の全ての実施例において、(B)成分を含まない比較例1に対して、引張せん断接着試験による強度と伸びが増加し、本発明の効果が確認された。
【0099】
本明細書は以下の態様を包含する。
[1]:エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含み、前記(A)成分100質量部に対し前記(B)成分を1~40質量部含むものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化6】
(一般式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基を示し、Xは、互いに独立して、炭素数1~10の2価のアルキレン基であり、Yは、互いに独立して、炭素数5~30のエーテル結合を有してもよいアルキレン基、炭素数6~30のアリーレン基、及び炭素数7~30のアラルキレン基から選ばれる基であり、Zは、互いに独立して炭素数1~20のエーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、nは0~100の整数、mは1又は2である。)
[2]:前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、ポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が500~100,000であることを特徴とする上記[1]のエポキシ樹脂組成物。
[3]:前記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン化合物において、エポキシ当量が、300~5,000g/モルであることを特徴とする上記[1]又は上記[2]のエポキシ樹脂組成物。
[4]:前記(B)成分が、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]又は上記[3]のエポキシ樹脂組成物。
[5]:前記(A)成分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]又は上記[4]のエポキシ樹脂組成物。
[6]:前記(C)成分が、アミン系硬化剤であることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]又は上記[5]のエポキシ樹脂組成物。
[7]:さらに(D)充填剤を含むものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]又は上記[6]のエポキシ樹脂組成物。
[8]:上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物が硬化したものであることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
[9]:上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物からなるものであることを特徴とする1液型エポキシ接着剤。
[10]:第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分と前記(B)成分を含み、前記第2液が上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(C)成分を含むものであることを特徴とする2液型エポキシ接着剤。
[11]:第1液と第2液からなる2液型エポキシ接着剤であって、前記第1液が上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(A)成分を含み、前記第2液が上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]のエポキシ樹脂組成物のうち、前記(B)成分と前記(C)成分を含むものであることを特徴とする2液型エポキシ接着剤。
[12]:前記(B)成分が、前記一般式(1)のmが1であるポリオルガノシロキサン化合物と前記一般式(1)のmが2であるポリオルガノシロキサン化合物との混合物であることを特徴とする上記[9]、上記[10]又は上記[11]のエポキシ接着剤。
【0100】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
(C)成分がアミノ基を有する場合、使用時に第1液と第2液を混合する時点で、混合物が(A)成分と(B)成分のエポキシ基の合計価数と第2液の(C)成分のアミノ基の価数が等量になるように混合することが好ましい。その際同時に、(A)成分に対して(B)成分が1~40質量部となるように第2液中の(B)成分と(C)成分の比率を調しておけばよい。すなわち、所望の特性に適した比率として、(A)成分100質量部に対する(B)成分を質量部の値を決めれば、第2液中の(B)成分と(C)成分の比率も決まる。