(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144115
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガス測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20241003BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010427
(22)【出願日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2023052302
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鵜篭 直也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直也
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047BA04
2G047BC15
2G047CA04
2G047EA10
2G047GD02
2G047GF11
(57)【要約】
【課題】高精度に被検出ガスを検出可能なガスセンサ及びガス測定方法が提供される。
【解決手段】ガスセンサ(1)は、基板の上に設けられた光源(11)と、基板の上に設けられて光源から出射された光に基づく信号を検出する検出部(41)と、気体が通る孔が設けられたガス検出空間(42)と、を有するガス測定部(40)を備え、ガス測定部の共鳴モードの固有周波数をfとして、光源の駆動周波数は、0.9f以上1.1f以下であり、ガス検出空間は、光源の駆動により、音圧の分布が生じ、光源及び検出部は、それぞれ音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に設けられた光源と、前記基板の上に設けられて前記光源から出射された光に基づく信号を検出する検出部と、気体が通る孔が設けられたガス検出空間と、を有するガス測定部を備え、
前記ガス測定部の共鳴モードの固有周波数をfとして、前記光源の駆動周波数は、0.9f以上1.1f以下であり、
前記ガス検出空間は、前記光源の駆動により、音圧の分布が生じ、
前記光源及び検出部は、それぞれ前記音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置される、ガスセンサ。
【請求項2】
前記基板の主面を正面に見る平面視で、
前記ガス測定部の中心に対して点対称の位置、又は、前記ガス測定部の中心を通る直線に対して線対称の位置にそれぞれ前記光源及び前記検出部が配置され、
前記光源及び前記検出部は、前記平面視における前記ガス測定部の最大長さの3分の1以上離隔されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記基板の主面を正面に見る平面視で、
前記光源及び前記検出部の一方は、前記ガス測定部の中心に配置され、
前記光源及び前記検出部の他方は、前記ガス測定部の中心から前記平面視における前記ガス測定部の最大長さの4分の1以上離隔して配置されている、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記光源は駆動周波数を200Hz以上とする発光素子である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の各辺の長さをL
x、L
y、L
z、音速をc、0から3のいずれかの整数をn
x、n
y、n
zとし、n
x、n
y、n
zのいずれかは0より大きい場合に、以下の式(1)で与えられる、請求項1に記載のガスセンサ。
【数1】
【請求項6】
前記ガス測定部の一辺の長さであるL
x、L
y、L
zは、前記ガス検出空間の体積をVとする場合に、以下の式(2)で与えられる、請求項5に記載のガスセンサ。
【数2】
【請求項7】
前記ガス測定部は直方体であって、直交する2辺の長さが同じである、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記ガス測定部は立方体である、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記ガス測定部は円筒形又は半球形である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記ガス測定部は円筒形であり、前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の高さをL
cz、半径をR、音速をc、τ
miは0又はm次の第一種Bessel関数の0から数えてi番目の微分値が0になる点の座標値であり、m、i、n
zは0から3のいずれかの整数とし、τ
mi又はn
zのいずれかは0より大きい場合に、以下の式(3)で与えられる、請求項9に記載のガスセンサ。
【数3】
【請求項11】
前記ガス測定部は半球形であり、前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の半径をR、音速をc、μ
liをl次の球Bessel関数の0から数えてi番目の勾配が0になる点の座標値とする場合に、lとiは0から3のいずれかの整数とする場合に、以下の式(4)で与えられる、請求項9に記載のガスセンサ。
【数4】
【請求項12】
前記駆動周波数が1kHz以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項13】
前記駆動周波数が10kHz以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項14】
前記検出部は振動膜を有するマイクであって、共振周波数が前記駆動周波数と略同じであり、光音響方式で被検出ガスの存在又は濃度を測定する、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項15】
前記光源は量子型の発光素子である、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項16】
前記光源又は前記検出部が、前記ガス測定部に対して近似的に画定される直方体又は立方体の中心部又は端部に存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項17】
前記光源又は前記検出部が、前記ガス測定部に対して近似的に画定される円筒形又は半球の中心部又は端部に存在する、請求項9から11のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項18】
基板の上に設けられた光源と、前記基板の上に設けられて前記光源から出射された光に基づく信号を検出する検出部と、気体が通る孔が設けられたガス検出空間と、を有するガス測定部を備えるガスセンサが実行するガス測定方法であって、
前記ガス測定部の共鳴モードの固有周波数をfとして、前記光源の駆動周波数が、0.9f以上1.1f以下であるように設定するステップを含み、
前記ガスセンサにおいて、
前記ガス検出空間は、前記光源の駆動により、音圧の分布が生じ、
前記光源及び検出部は、それぞれ前記音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置される、ガス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガスセンサ及びガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線を発光する光源を備え、赤外線が被検出ガスを含むガスを透過するように構成され、被検出ガスによる赤外線の吸収特性を利用して被検出ガスの濃度を検出するガスセンサ(ガス測定装置)の開発が進められている。被検出ガスは、例えばアルコール又は二酸化炭素などである。例えば特許文献1は、光を吸収したガス分子の振動を高性能なマイクで音として拾うことでガス濃度を測定する光音響方式のガスセンサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/212481号
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0349057号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、光音響方式のガスセンサではマイクで音を拾うため、使用環境におけるノイズが検出精度に影響する。例えば特許文献2は、ハウジング構造を有する光音響センサにおいて、5Hzから25kHzの周波数範囲でMEMSマイクによって音響情報を検出することを開示する。例えばガスセンサの使用環境にエアコンなどの機器がある場合に、一例として100Hz付近にピークを有するノイズを発することがある。そのため、高精度に被検出ガスを検出するために、ノイズの影響を避けることが可能なガスセンサが求められている。しかし、特許文献2はガスセンサの構造設計とノイズの影響について検討していない。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、高精度に被検出ガスを検出可能なガスセンサ及びガス測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示の一実施形態に係るガスセンサは、
基板の上に設けられた光源と、前記基板の上に設けられて前記光源から出射された光に基づく信号を検出する検出部と、気体が通る孔が設けられたガス検出空間と、を有するガス測定部を備え、
前記ガス測定部の共鳴モードの固有周波数をfとして、前記光源の駆動周波数は、0.9f以上1.1f以下であり、
前記ガス検出空間は、前記光源の駆動により、音圧の分布が生じ、
前記光源及び検出部は、それぞれ前記音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置される。
【0007】
[2]本開示の一実施形態として、[1]において、
前記基板の主面を正面に見る平面視で、
前記ガス測定部の中心に対して点対称の位置、又は、前記ガス測定部の中心を通る直線に対して線対称の位置にそれぞれ前記光源及び前記検出部が配置され、
前記光源及び前記検出部は、前記平面視における前記ガス測定部の最大長さの3分の1以上離隔されている。
【0008】
[3]本開示の一実施形態として、[1]において、
前記基板の主面を正面に見る平面視で、
前記光源及び前記検出部の一方は、前記ガス測定部の中心に配置され、
前記光源及び前記検出部の他方は、前記ガス測定部の中心から前記平面視における前記ガス測定部の最大長さの4分の1以上離隔して配置されている。
【0009】
[4]本開示の一実施形態として、[1]において、
前記光源は駆動周波数を200Hz以上とする発光素子である。
【0010】
[5]本開示の一実施形態として、[1]において、
前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の各辺の長さをL
x、L
y、L
z、音速をc、0から3のいずれかの整数をn
x、n
y、n
zとし、n
x、n
y、n
zのいずれかは0より大きい場合に、以下の式(1)で与えられる。
【数1】
【0011】
[6]本開示の一実施形態として、[5]において、
前記ガス測定部の一辺の長さであるL
x、L
y、L
zは、前記ガス検出空間の体積をVとする場合に、以下の式(2)で与えられる。
【数2】
【0012】
[7]本開示の一実施形態として、[1]から[6]のいずれかにおいて、
前記ガス測定部は直方体であって、直交する2辺の長さが同じである。
【0013】
[8]本開示の一実施形態として、[1]から[6]のいずれかにおいて、
前記ガス測定部は立方体である。
【0014】
[9]本開示の一実施形態として、[1]において、
前記ガス測定部は円筒形又は半球形である。
【0015】
[10]本開示の一実施形態として、[9]において、
前記ガス測定部は円筒形であり、前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の高さをL
cz、半径をR、音速をc、τ
miは0又はm次の第一種Bessel関数の0から数えてi番目の微分値が0になる点の座標値であり、m、i、n
zは0から3のいずれかの整数とし、τ
mi又はn
zのいずれかは0より大きい場合に、以下の式(3)で与えられる。
【数3】
【0016】
[11]本開示の一実施形態として、[9]において、
前記ガス測定部は半球形であり、前記共鳴モードの固有周波数であるfは、前記ガス測定部の半径をR、音速をc、μ
liをl次の球Bessel関数の0から数えてi番目の勾配が0になる点の座標値とする場合に、lとiは0から3のいずれかの整数とする場合に、以下の式(4)で与えられる。
【数4】
【0017】
[12]本開示の一実施形態として、[1]から[11]のいずれかにおいて、
前記駆動周波数が1kHz以上である。
【0018】
[13]本開示の一実施形態として、[1]から[12]のいずれかにおいて、
前記駆動周波数が10kHz以上である。
【0019】
[14]本開示の一実施形態として、[1]から[13]のいずれかにおいて、
前記検出部は振動膜を有するマイクであって、共振周波数が前記駆動周波数と略同じであり、光音響方式で被検出ガスの存在又は濃度を測定する。
【0020】
[15]本開示の一実施形態として、[1]から[14]のいずれかにおいて、
前記光源は量子型の発光素子である。
【0021】
[16]本開示の一実施形態として、[1]から[8]のいずれかにおいて、
前記光源又は前記検出部が、前記ガス測定部に対して近似的に画定される直方体又は立方体の中心部又は端部に存在する。
【0022】
[17]本開示の一実施形態として、[9]から[11]のいずれかにおいて、
前記光源又は前記検出部が、前記ガス測定部に対して近似的に画定される円筒形又は半球の中心部又は端部に存在する。
【0023】
[18]本開示の一実施形態に係るガス測定方法は、
基板の上に設けられた光源と、前記基板の上に設けられて前記光源から出射された光に基づく信号を検出する検出部と、気体が通る孔が設けられたガス検出空間と、を有するガス測定部を備えるガスセンサが実行するガス測定方法であって、
前記ガス測定部の共鳴モードの固有周波数をfとして、前記光源の駆動周波数が、0.9f以上1.1f以下であるように設定するステップを含み、
前記ガスセンサにおいて、
前記ガス検出空間は、前記光源の駆動により、音圧の分布が生じ、
前記光源及び検出部は、それぞれ前記音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置される。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、高精度に被検出ガスを検出可能なガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るガスセンサの一構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、光源の駆動周波数の設定例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、駆動周波数を変化させた場合のマイクの出力の変化を例示する図である。
【
図4】
図4は、ガス測定部の中心部及び端部を説明するための図である。
【
図5】
図5は、直方体の場合の音圧分布を例示する図である。
【
図6】
図6は、円筒形の場合の音圧分布を例示する図である。
【
図7】
図7は、半球形の場合の音圧分布を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るガスセンサが説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0027】
(ガスセンサ)
図1は、本実施形態に係るガスセンサ1の構成を示す図である。ガスセンサ1は、筐体10と、筐体10の内部に配置されるガス測定部40と、を備える。本実施形態のように、ガスセンサ1は基板30を備えてよい。また、ガスセンサ1は回路50を備えてよい。ガス測定部40は、光源11と、検出部41と、ガス検出空間42と、を有する。ガスセンサ1の構成要素の詳細については後述する。ガス測定部40には、気体(例えば周囲の空気)が通る孔43が設けられており、ガス検出空間42に気体が導入される。ガスセンサ1は、導入された気体における被検出ガスの存在又は濃度を測定する。被検出ガスは、検出対象である特定のガスであって、例えば二酸化炭素、水蒸気、一酸化炭素、一酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、アルコール、ホルムアルデヒド、メタン、プロパンなどであり得る。
【0028】
本実施形態において、筐体10の内部にガス測定部40が配置されている。ただし、筐体10が無い構成であってよい。ガスセンサ1は、基板30の上にガス測定部40と回路50とを備えて構成される。本実施形態において、ガス測定部40は、基板30の上に設けられた光源11及び検出部41と、ガス検出空間42と、を含んで構成される。また、孔43は、ガス測定部40のガス検出空間42を区画する外壁(側壁及び天井)の一部に設けられてよい。本実施形態において、孔43は、ガス検出空間42を区画する外壁のうちの天井に設けられている。
【0029】
(筐体)
筐体10はガスセンサ1の外装である。筐体10は基板30を保持してよい。筐体10に基板30が取り付けられることによって、ガス測定部40の位置が固定される。筐体10は、金属、ガラス、樹脂、それらの複合材料であり得る。樹脂は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂などである。
【0030】
(基板)
基板30は、ガス測定部40を保持する機能を有する。本実施形態において、基板30は回路50も保持する。基板30の材質は、例えば紙、ガラスクロス、ポリイミドフィルム、PETフィルム、セラミックスなどである。
【0031】
(ガス測定部)
ガス測定部40は被検出ガスを検出する。詳細に述べると、ガス測定部40は、ガス検出空間42に導入された気体中の被検出ガスの存在又は濃度を測定し、測定結果を示す電気信号を出力する。本実施形態において、ガス測定部40は、光音響方式で被検出ガスの存在又は濃度を測定する。光音響方式は、光を吸収したガス分子の振動を高性能なマイクで音(圧力変化)として拾うことによって被検出ガスを測定する。
【0032】
(光源)
光源11は、被検出ガスによって吸収される波長を含む光を出射する。光源11は、所定の駆動周波数を有する発光素子で構成されてよい。発光素子は、例えばLED(Light Emitting Diode)、ランプ、レーザ(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)、有機発光素子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータ、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)などであってよい。本実施形態において、光源11は、駆動周波数を200Hz以上とし、赤外線を出射するLED(赤外線LED)である。また、高い周波数で駆動できるように、光源11は半導体の電子又は正孔を利用して赤外線を発光する量子型の赤外線LEDである。
【0033】
ここで、赤外線の波長は2μm~12μmであってよい。2μm~12μmの領域は、各種ガスに固有の吸収帯が数多く存在し、ガスセンサ1に用いるのに特に適した波長帯である。例えば3.3μmの波長にメタン、4.3μmの波長に二酸化炭素、9.5μmの波長にアルコール(エタノール)の吸収帯が存在する。
【0034】
(検出部)
検出部41は、ガス検出空間42の気体(空気)中に存在する被検出ガスの濃度測定において、被検出ガスの存在量に応じた変化を検出する。光源11から出射された光は、ガス検出空間42を通り、被検出ガスの存在量に応じて吸収される。検出部41は、光源11から出射された光に基づく信号を検出する。本実施形態において、検出部41はマイク(microphone)である。光音響方式のガスセンサ1において、光を吸収した被検出ガスのガス分子の振動音が光に基づく信号に対応する。
【0035】
(ガス検出空間)
ガス検出空間42は、外壁により空間が分離され、その内部空間に空気などの気体を収容する機能を備えている。ガス検出空間42に収容された気体は、孔43を通して置換される。ガス検出空間42の外壁は金属又は樹脂などで形成される。
【0036】
(孔)
孔43は、ガス検出空間42の外壁に備えられた穴である。気体が孔43を通り、ガス検出空間42内の気体が置換される。孔43は、複数存在する場合もある。ここで、孔43は防塵用の防塵フィルタを備えてよい。また、孔43は付加的に管状の通気管を備えてよい。通気管は気体が通気する空間を制限し、気体をガス検出空間42へ導く機能を有する。
【0037】
(回路)
回路50はガスセンサ1の全体を制御してよい。例えば回路50は被検出ガスの濃度を得るために、ガス測定部40からの出力信号に対する演算処理を実行してよい。回路50は光源11を駆動してよい。回路50は1つ以上のプロセッサを含んで構成されてよい。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。
【0038】
(ガスセンサ設計)
ここで、一般に光音響方式のガスセンサ1ではマイクで音を拾うため、使用環境におけるノイズが検出精度に影響する。例えばガスセンサ1の使用環境にエアコンなどの機器がある場合に、一例として100Hz付近にピークを有するノイズを発することがある。そのため、高精度に被検出ガスを検出するために、ノイズの影響を避けることが必要である。また、ガス検出空間42は外壁で区画され、例えば直方体に近い構造体(セル)の内部空間として設けられる。そのため、セルの共鳴モードを利用することによって、マイクで拾う音を大きくして、測定精度を高めることが可能である。以下に、ノイズの影響の回避及び共鳴モードの利用が順に説明される。
【0039】
図2は、光源11の駆動周波数の設定を説明するための図である。
図2の左図の点線は、ガスセンサ1の使用環境におけるノイズエネルギー強度の数値計算結果を示す。振動源から発せられる音(ノイズ)のモデルとして、日立ルームエアコン「RAS-AJ36D(W)」室内ユニットの暖房運転時の送風部からの騒音の計測データが使用された。縦軸は最大値で規格化されたノイズエネルギー強度を示す。横軸は周波数であって、周波数成分毎のノイズエネルギー強度が示されている。光源11の駆動周波数を、ノイズエネルギー強度のピークから離れた周波数帯域に設定することによって、使用環境におけるノイズの影響を避けることが可能である。
図2の例において100Hz付近に鋭い強度のピークがある。そのため、光源11の駆動周波数は200Hz以上に設定されてよい。また、ノイズエネルギー強度のピークからさらに離すために、光源11の駆動周波数は1kHz以上であってよく、10kHz以上であってよい。
【0040】
光源11の発光状態について、発光している状態をON、発光していない状態をOFFとすると、光源11の駆動周波数はONの間隔によって定められる。本実施形態において、赤外線LEDである光源11に駆動電流が定期的に印加されて、光源11はONとOFFとを定期的に繰り返す。
図2の右図において、ONの間隔は周期tで示されている。光源11の駆動周波数は周期tの逆数として与えられる。ここで、デューティー比(周期tに対するONである時間)は限定されないが、一例として30%であってよい。
【0041】
ここで、ガス測定部40の形状は、特定の形に限定されないが、一部に孔43を有する直方体、立方体、円筒形、球、半球、楕円体又は半楕円体(楕円体を半分に切断した形状)などであり得る。例えば
図1又は
図4の例において、ガス測定部40に対して近似的に画定される直方体又は立方体を定めることができる。ガス測定部40は、ガス検出空間42を有しており、特定の周波数(固有周波数)の音波を大きく増幅させる共鳴モードを有する。共鳴モードの固有周波数であるfは、ガス測定部40の各辺の長さをL
x、L
y、L
z、音速をc、0から3のいずれかの整数をn
x、n
y、n
zとする場合に、以下の式(1)で与えられる。ここで、ガス測定部40の内部に波が存在するために、n
x、n
y、n
zのいずれかは0より大きい。
【0042】
【0043】
ここで、nx、ny、nzは4以上の自然数を含んでよいが、主に共鳴の基底モード(nx+ny+nz=1)、1次モード(nx+ny+nz=2)及び2次モード(nx+ny+nz=3)が考慮される。また、ガス測定部40は立方体であってよく、この場合に一辺の長さであるL(=Lx=Ly=Lz)を用いて式(1)に従って共鳴モードの固有周波数が計算される。また、一辺の長さをLは実効長であってよい。ガス測定部40が立方体でない場合に、Lはガス検出空間42の体積Vを用いて以下の式(1)で与えられてよい。すなわち、LはVの三乗根として与えられてよい。
【0044】
【0045】
図3は光源11の駆動周波数を変化させた場合のマイク(検出部41)の出力の変化を例示する図である。
図3の実験で用いられたガス測定部40は1.06×0.96×0.85cm
3のサイズであって、直径1mmの孔43を有する。赤外線LEDである光源11に350mAの駆動電流が定期的に印加されて、デューティー比は30%である。駆動周波数を16~23kHzの範囲で1kHzずつ変化させたところ、他に比べて21kHzでマイクの出力が大きくなった。これは、駆動周波数がガス測定部40の共鳴モードの固有周波数と略等しくなったためと考えられる。つまり、駆動周波数をガス測定部40の共鳴モードの固有周波数に基づいて決定することによって、光を吸収したガス分子の振動に基づく大きな音をマイクで拾うことができる。そのため、ノイズの影響を更に低減することができ、高精度に被検出ガスを検出することが可能になる。ここで、駆動周波数を共鳴モードの固有周波数と完全に一致させる必要はなく、例えば共鳴モードの固有周波数と-1kHz~+1kHz程度のずれがあっても十分に精度を高められると考えられる。本実施形態において、ガス測定部40の共鳴モードの固有周波数をfとして、光源11の駆動周波数は、0.9f以上1.1f以下である。また同様に、光源11の駆動周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域と共鳴モードの固有周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域とが重なっていればよい。ピーク半値幅は、ピークの高さ(大きさ)を半分にしたときの波長の幅である。
【0046】
また、光音響方式で被検出ガスの存在又は濃度を測定する場合に、検出部41は振動膜を有するマイクであり得る。この場合に、マイクの出力がさらに大きくなるように、振動膜の共振周波数を光源11の駆動周波数と略同じであるようにしてよい。ここで、略同じとは、振動膜の共振周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域と光源11の駆動周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域とが重なっていること、振動膜の共振周波数をFとして光源11の駆動周波数が0.9F以上かつ1.1F以下であること、のいずれかを満たしていればよい。
【0047】
ここで、光源11又は検出部41は、ガス測定部40に対して近似的に画定される直方体又は立方体の中心部又は端部に存在することが好ましい。以下に説明するように、ガス検出空間42は、光源11の駆動により、音圧の分布が生じる。光源11及び検出部41は、それぞれ音圧の絶対値の最大値に対して7割以上の領域に配置されることが好ましく、8割以上の領域に配置されることがさらに好ましい。基板30の主面を正面に見る平面視で、ガス測定部40の中心に対して点対称の位置、又は、ガス測定部40の中心を通る直線に対して線対称の位置にそれぞれ光源11及び検出部41が配置されてよい。このとき、光源11及び検出部41は、平面視におけるガス測定部40の最大長さの3分の1以上、より好ましくは半分以上離隔されていてよい。また、基板30の主面を正面に見る平面視で、光源11及び検出部41の一方は、ガス測定部40の中心に配置されてよい。そして、光源11及び検出部41の他方は、ガス測定部40の中心から離隔して配置されてよい。光源11及び検出部41の他方について、ガス測定部40の中心から離隔される長さは、平面視におけるガス測定部40の最大長さの4分の1以上であることが好ましく、3分の1以上であることがさらに好ましい。ここで、ガス測定部40の最大長さは、平面視で最大になる長さであって、ガス測定部40が長方形又は正方形であれば対角線、円であれば直径、楕円であれば長軸の長さで定められる。また、光源11の位置は、光源11がLEDであれば発光領域のどこかの位置で定められてよい。検出部41の位置は、検出部41がマイクであれば取り込み穴のどこかの位置で定められてよい。例えばLEDの発光領域のどこかの位置とマイクの取り込み穴のどこかの位置とが、平面視におけるガス測定部40の最大長さの3分の1以上、より好ましくは半分以上離隔されていれば、上記の条件が満たされるとしてよい。
【0048】
図4に示すように、近似的に直方体又は立方体のガス測定部40は共鳴箱として扱うことができる。共鳴モードによって気体の振動が増加するが、共鳴モードの節の位置(変動が無い位置)に光源11又は検出部41があると、検出部41に振動が与えられず、結果として検出精度の劣化を招く。よって、被検出ガスの検出精度を高めるために、光源11又は検出部41を共鳴モードの節の位置から外して、好ましくは山谷の位置に置くことが好ましい。光源11と検出部41を共鳴モードの山谷の位置に置くことによって、発生し、検出する音圧が高まり、被検出ガスの検出精度が高まる。このような山谷の位置とは、音圧の極値として得られ、極値を含み、極値における音圧の絶対値の7割以上の近傍の領域であってよい。この位置に光源11又は検出部41を置くことで高精度に被検出ガスを検出可能な効果が得られる。より好ましくは山谷の位置は、絶対値の8割以上の近傍の領域であってよい。またこのような節の位置は、音圧が0である位置として得られ、音圧が0である位置を含み、音圧の絶対値の最大値に対して3割以下の近傍の領域であってよい。この位置以外に光源11又は検出部41を置くことで高精度に被検出ガスを検出可能な効果が得られる。節の位置は、より好ましくは絶対値の2割以下の近傍の領域であってよい。ここで、共鳴モードの低次数モードは形状が明確であるため、設計上、節の位置を決定することができる。以下、低次数モードとして、基底モード及び1次モードが検討される。具体的には、ガス測定部40の形状が直方体、立方体、円筒形、球又は楕円の場合に、対称面、対称軸又は中心部が音圧の共鳴モードの節となる。
図4の例では、ガス検出空間42を区画する側壁(対向する一対の面)のからL/4の位置が節となる。また、ガス検出空間42を区画する側壁の中心部も節となることがある。また、ガス検出空間42を区画する側壁は山谷の位置となることがある。また、共鳴モードの縮退が生じてさらに強く共鳴を生じさせるため、ガス測定部40は直方体であって、直交する2辺の長さが同じであることが好ましい。同様の理由から、ガス測定部40は立方体であることがさらに好ましい。ガス測定部40内部の音圧がヘルムホルツ方程式を満たし、さらに壁近傍のガスが壁方向に対して動かないことから音圧が壁面に垂直方向には勾配を持たない境界条件を満たす、すなわち式(3)を満たす。より具体的には、ガス測定部40の形状が各辺の長さがL
x、L
y、L
zである直方体である場合には、その内部に発生する音圧pは以下の式(4)で与えられ、壁の位置では音圧は余弦関数の山谷となる。またの固有周波数fは式(4)を式(3)に代入することにより、式(1)として得られる。ここでx、y、zは直交する座標の値である。zの方向は基板30に対し垂直方向のガス測定部40がある方向を正とする。xy方向は直方体のガス測定部40の各辺に対して平行な方向であり、右手系を構成するように選ばれる。原点は直方体であるガス測定部40の隅の点である。AとBは適当な定数であり、tは時刻である。この関数の山谷・節の位置により、光源11又は検出部41の好ましい位置が決定される。節の位置は式(5)で与えられる。山谷の位置は式(6)で与えられる。
図5は、ガス測定部40の形状が直方体の場合の内部における音圧分布の数値計算例を示す。ここで、
図5は、任意のzにおけるガス測定部40のxy平面に平行な面での断面を示す。
【0049】
【0050】
またガス測定部40が円筒形で与えられる場合には、式(4)の音圧pを円筒座標のラプラス演算子として解くことで、解析的に解を式(7)のように構成できる。ここでJ
mはm次の第一種Bessel関数である。Rは円筒の半径である。τ
miは、式(3)の境界条件を満たすように、m次の第一種Bessel関数の0から数えてi番目の勾配(微分値)が0になる点の座標値である。すなわちτ
miは、第一種Bessel関数の導関数の0から数えてi番目の零点の座標値である。ここで、導関数が零であっても原点0は含まない。m、n
zは自然数である。rは円筒の中心からの動径方向の座標値である。θは円筒の中心からの方位角である。L
czは円筒の高さである。A、Bは適当な定数である。
図6は、ガス測定部40の形状が円筒形の場合の内部における音圧分布の数値計算例を示す。ここで、
図6は、任意のzにおけるガス測定部40のxy平面に平行な面での断面を示す。ガス測定部40が円筒形の場合には、円筒の中心と円筒の壁の位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、この位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。また円筒の壁部の対向する位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、この対向する位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。また円筒の端部である円形の壁部に中心から見て90°毎の位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、このいずれかの位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。またの固有周波数fは式(7)を式(3)に代入することにより、式(8)として得られる。近似値としてτ
11が約1.84であり、τ
21が約3.05であり、τ
01が約3.83である。円筒動径方向に波が立たず、高さ方向のみ波が立つ共鳴モードの場合に、τ
miはゼロとし、J
mが一定値であり、n
zが1以上である。
【0051】
【0052】
またガス測定部40が半球形で与えられる場合には、式(3)の音圧pを球面座標によるラプラス演算子として式(9)のように解析的に解くことができ、音圧pはこれらの関数の実部又は虚部として構成される。ここでj
lは1次の球Bessel関数である。Rは半球底面の円の中心からの半球の半径である。μ
liは、式(3)の境界条件を満たすようにl次の球Bessel関数の0から数えてi番目の勾配が0になる点の座標値である。Y
lmはl、m次の球面調和関数である。l、mは整数である。rは半球底面の円の中心からの動径方向の座標値である。θは極角である。φは方位角である。またそれらの球面調和関数は半球の境界条件により半球底面に対して上下が対称であるものに限定される。A、Bは適当な定数である。
図7は、ガス測定部40の形状が半球形の場合の内部における音圧分布の数値計算例を示す。ガス測定部40が半球の場合に、半球底面の中心と半球底面の円端部の位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、この位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。また半球底面の円形の端部である壁部の対向する位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、この対向する位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。また半球底面の円の端部である円形の壁部に中心から見て90°毎の位置に音圧pの山谷の位置が来る共鳴モードがあり、このいずれかの位置に検出部41又は光源11を置くことによって強い音圧を検知し、高精度に被検出ガスを検出可能が可能である。またの固有周波数fは式(9)を式(3)に代入することにより、式(10)として得られる。近似値としてμ
11が約2.09であり、μ
21が約3.34であり、μ
01が約4.49である。
【0053】
【0054】
以上のように、本実施形態に係るガスセンサ1は、光源11の駆動周波数がノイズの影響を避けるように、ガス測定部40の共鳴モードの固有周波数に基づいて決定されることによって、高精度に被検出ガスを検出可能である。
【0055】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。上記の実施形態において、装置であるガスセンサ1が説明されたが、例えばガスセンサ1が実行するガス測定方法は本開示の範囲に包含される。例えばガスセンサ1が実行するガス測定方法は、ガス測定部40の共鳴モードの固有周波数をfとして、光源11の駆動周波数が、0.9f以上1.1f以下である、若しくは光源11の駆動周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域と共鳴モードの固有周波数のピークを中心としたピーク半値幅の領域とが重なっている、ように設定するステップを含んでよい。設定するステップは、ガスセンサ1が備える制御装置(例えばプロセッサ)又はガスセンサ1を制御可能な外部の装置(例えばコンピュータ)が、駆動周波数設定部として機能することによって、実行してよい。
【符号の説明】
【0056】
1 ガスセンサ
10 筐体
11 光源
30 基板
40 ガス測定部
41 検出部
42 ガス検出空間
43 孔
50 回路