(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144188
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、積層体、シート硬化物及び回路基板材料
(51)【国際特許分類】
C08L 25/02 20060101AFI20241003BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241003BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20241003BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20241003BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241003BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20241003BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L25/02
C08L53/02
C08L23/08
C08L45/00
B32B15/08 J
B32B25/14
B32B27/32 Z
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033314
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023051357
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛島 麻友香
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK02
4F100AK02A
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AK73
4F100AK73A
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA07C
4F100GB43
4F100JA02
4F100JB12
4F100JB12A
4F100JG01
4F100JG01B
4F100JG04
4F100JG04A
4F100JK07
4F100JL14
4F100JL14C
4J002BB04W
4J002BC01X
4J002BK00Y
4J002BP01W
4J002FD010
4J002FD140
4J002GF00
4J002GQ01
4J002HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低誘電特性と耐熱性を有するシート硬化物及び回路基板材料、並びに、低誘電特性と耐熱性を有する前記シート硬化物及び前記回路基板材料を製造可能な樹脂組成物、樹脂シート及び積層体を提供する。
【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びエチレン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A1)と、側鎖に下記一般式(2)で示される単位を有するポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物(B)とを含有する、樹脂組成物。
(環A1r
21は、芳香族炭化水素環を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びエチレン系
重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A1)と、下記一般式(
1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物(B)とを含有する、樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
11~R
13は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R
14
は、各々独立に、酸素原子、置換基を有していても良いアルキレン基、又は置換基を有し
ていても芳香族炭化水素環基を表し、Ar
11は、各々独立に、置換基を有していても良
い芳香族炭化水素環基を表し、Q
11は、各々独立に、置換基を有していても良い下記一
般式(2)で表される架橋基である。添字n
11は、0から10までの整数、n
12は、
0から5までの整数、n
13は、1から2までの整数である。)
【化2】
(式(2)中、環Ar
21は、芳香族炭化水素環を表し、記号*は、式(1)のAr
11
との結合手を表し、式(2)との結合手は、Ar
21に結合する。)
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A1)として、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項1
に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が10質量%以上70質量%以
下である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物(B)のR11~R13がいずれも水素原子である、請求項1に記載
の樹脂組成物。
【請求項5】
前記高分子化合物(B)のn11及びn12がいずれも0であり、n13が1である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
重合開始剤を実質的に含まない、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)が、ポリオレフィンの側鎖に脂環式構造
を有する共重合体である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂シートの一方又は両方の面に、離型フィルムを備える積層体。
【請求項11】
請求項9に記載の樹脂シートを硬化させてなるシート硬化物。
【請求項12】
請求項9に記載の樹脂シートからなる絶縁層と、導体とを積層してなる回路基板材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物、樹脂シート、積層体、シート硬化物及び回路基板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器の高性能・高機能化に伴い、通信速度及び情報伝達量の向上のた
めに、通信周波数の高周波化が進んでいる。
回路基板にデジタル信号を流すと、送信されたデジタル信号の一部が回路基板中で熱変
換され、伝送損失が発生する。伝送損失の量は比誘電率及び誘電正接の積で表されるため
、低損失通信を実現するには、比誘電率及び誘電正接の低い材料、すなわち低誘電特性を
有する部材が必要となる。特に高周波領域における伝送信号はより熱に変換されやすい特
徴があるため、より低誘電特性を有する材料が求められている。
一方、電気・電子機器内の回路の高集積化に伴い、電気・電子機器内部の発熱量も大き
くなっているため、回路基板材料は耐熱性を有することも求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、低吸湿性や耐熱性、機械的特性や電気的特性等に優れて電気
・電子部品の封止処理や固着処理などに好適な熱硬化性樹脂として、不飽和基含有のポリ
フェニレンエーテル系樹脂と、ベンゾシクロブテン基含有化合物を成分とすることを特徴
とする熱硬化性樹脂が開示されている。そのベンゾシクロブテン基含有化合物として、ジ
ビニルシロキサンビスベンゾシクロブテン(CYCLOTENE(登録商標)3022、
ダウケミカル社製)が開示されている。
特許文献2には、共重合形態の、アルキル、ヘテロ原子含有アルキル、アリール、ヘテ
ロ原子含有アリール、またはヘテロ原子含有アリールオキシから選択される1つ以上の基
をシクロブテン環置換基として有する1つ以上の付加重合性アリールシクロブテン含有モ
ノマーA、1つ以上の第2の芳香族付加重合性モノマー、及び第3の付加重合性窒素複素
環含有モノマー、第4の付加重合性モノマー、または前記1つ以上の第3のモノマー及び
前記1つ以上の第4のモノマーの両方から選択される1つ以上の他の付加重合性モノマー
のモノマー混合物を含む、ポリマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-194549号公報
【特許文献2】特開2019-085562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の熱硬化性樹脂は、高周波領域(GHzオーダー)で
の誘電正接が十分でなく、さらなる改善が必要であった。
また、特許文献2に記載のポリマー組成物は、硬化物の架橋密度が小さく、架橋時に網
目構造が形成されにくく、耐熱性向上には十分ではない場合があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、低誘電特性を有し、かつ耐熱性を有するシート硬化物及び回
路基板材料、並びに、低誘電特性を有し、かつ耐熱性を有する前記シート硬化物及び前記
回路基板材料を製造可能な樹脂組成物、樹脂シート及び積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂に特定の架橋剤を添
加することで、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1]スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びエチレ
ン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A1)と、下記一般
式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物(B)とを含有する、樹脂組成物
。
【0010】
【0011】
(式(1)中、R11~R13は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R14
は、各々独立に、酸素原子、置換基を有していても良いアルキレン基、又は置換基を有し
ていても芳香族炭化水素環基を表し、Ar11は、各々独立に、置換基を有していても良
い芳香族炭化水素環基を表し、Q11は、各々独立に、置換基を有していても良い下記一
般式(2)で表される架橋基である。添字n11は、0から10までの整数、n12は、
0から5までの整数、n13は、1から2までの整数である。)
【0012】
【0013】
(式(2)中、環Ar21は、芳香族炭化水素環を表し、記号*は、式(1)のAr11
との結合手を表し、式(2)との結合手は、Ar21に結合する。)
【0014】
[2]前記熱可塑性樹脂(A1)として、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む、上記
[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が10質量%以上70質量
%以下である、上記[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記高分子化合物(B)のR11~R13がいずれも水素原子である、上記[1]
~[3]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[5]前記高分子化合物(B)のn11及びn12がいずれも0であり、n13が1であ
る、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[6]重合開始剤を実質的に含まない、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の樹脂
組成物。
[7]環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)を含む、上記[1]~[6]のいずれか
1つに記載の樹脂組成物。
[8]前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)が、ポリオレフィンの側鎖に脂環式
構造を有する共重合体である、[7]に記載の樹脂組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
[10]上記[9]に記載の樹脂シートの一方又は両方の面に、離型フィルムを備える積
層体。
[11]上記[9]に記載の樹脂シートを硬化させてなるシート硬化物。
[12]上記[9]に記載の樹脂シートからなる絶縁層と、導体とを積層してなる回路基
板材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低誘電特性を有し、かつ耐熱性を有するシート硬化物及び回路基板材
料、並びに、低誘電特性を有し、かつ耐熱性を有する前記シート硬化物及び前記回路基板
材料を製造可能な樹脂組成物、樹脂シート及び積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例で
あり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
以下において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現と
して用いるものとする。
【0017】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、スチレン系熱可塑性エラス
トマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びエチレン系重合体からなる群から選ばれ
る少なくとも1種の熱可塑性樹脂(A1)と、特定の構造を有する高分子化合物(B)と
を含有する。
本組成物からなるシート硬化物及び回路基板材料の耐熱性が良好となる理由は定かでは
ないが、本組成物を硬化させると、熱可塑性樹脂(A1)に対して高分子化合物(B)の
反応点から架橋構造が形成される、もしくは、熱可塑性樹脂(A1)に対して高分子化合
物(B)の分子鎖が絡み合うことで疑似的に架橋密度が高くなるからであると考えられる
。特に、高分子化合物(B)は上記特許文献2に記載のベンゾシクロブテン化合物に比べ
て架橋点が多いため、より架橋密度が高くなり、高温領域での弾性率が向上して耐熱性が
良好となると考えられる。
以下、本組成物の各成分について説明する。
【0018】
1.熱可塑性樹脂(A1)
本組成物の熱可塑性樹脂(A1)は、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系
熱可塑性エラストマー及びエチレン系重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であ
る。
【0019】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチ
レンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(
SIS)及びこれらを水添したスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重
合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SE
PS)、スチレン-イソブチレン-スチレン-ブロック共重合体(SIBS)等が挙げら
れる。
【0020】
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてポリオレフィンを
含み、ソフトセグメントとしてゴム成分を含む。
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィンとゴム成分との混合物(ポ
リマーブレンド)であってもよく、ポリオレフィンとゴム成分とを架橋反応させた架橋物
であってもよく、ポリオレフィンとゴム成分とを重合させた重合体であってもよい。
上記ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
上記ゴム成分としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン-
ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-イソプレンゴ
ム等のジエン系ゴム、エチレン-プロピレン非共役ジエンゴム、エチレン-ブタジエン共
重合体ゴム等が挙げられる。
【0021】
上記エチレン系重合体としては、エチレンの単独重合体、及びエチレンと他の単量体と
の共重合体が挙げられる。
上記エチレンと他の単量体との共重合体は、エチレンを主成分とすることが好ましい。
ここで、「エチレンを主成分とする」とは、共重合体中にエチレン構造単位を50mol
%以上、好ましくは60mol%以上含有することをいう。
また、エチレンと共重合する他の単量体は、エチレンと共重合可能な単量体であれば特
に限定されない。
上記エチレン系重合体の好ましい例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状
低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン系触媒を用い重合して得られたポリエチ
レン等が挙げられる。その中でも特に、柔軟性が高い点から、線状低密度ポリエチレン(
LLDPE)を用いることが好ましい。
【0022】
上記で例示した熱可塑性樹脂(A1)の中でも、特に熱可塑性樹脂(A1)が高分子化
合物(B)と反応する組み合わせを選択した場合、熱可塑性樹脂(A1)と高分子化合物
(B)とが互いに架橋構造を形成し、耐熱性をさらに良好にできると考えられる。この観
点からは、上記の熱可塑性樹脂(A1)のうち、不飽和二重結合をより多く有するものが
好ましいが、低誘電特性とのバランスを考慮する必要がある。
【0023】
一方、上記で例示した熱可塑性樹脂(A1)の中でも、特に熱可塑性樹脂(A1)自体
が高分子化合物(B)と反応しにくいような組み合わせを選択した場合には、熱可塑性樹
脂(A1)と高分子化合物(B)とが相互侵入高分子網目構造(以下、「セミIPN構造
」ともいう。)を形成し、低誘電特性と耐熱性をより良好にできると考えられる。セミI
PN構造は、熱可塑性樹脂(A1)と高分子化合物(B)とが化学的結合を形成するので
はなく、熱可塑性樹脂(A1)と高分子化合物(B)の分子鎖同士が互いに部分的かつ物
理的に絡み合った構造である。このセミIPN構造を形成することで、熱可塑性樹脂(A
1)の低誘電特性を維持しながら、熱可塑性樹脂(A1)単体に比べて疑似的に架橋密度
が高くなる。そのため、弾性率が向上して耐熱性が良好となると考えられる。この観点か
らは、上記の熱可塑性樹脂(A1)の中でも、スチレン系熱可塑性エラストマーが好まし
く、スチレン-イソブチレン-スチレン-ブロック共重合体(SIBS)又はスチレン-
エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)がより好ましく、スチレ
ン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)がさらに好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂(A1)としてスチレン系熱可塑性エラストマーを用いる場合、該スチレ
ン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量は10質量%以上が好ましく、15質量%以
上がより好ましい。また、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、
50質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下がよりさらに好ましい。
スチレン含有量が上記範囲内であると、熱可塑性樹脂(A1)の誘電正接が低く、弾性
率も適度な値となるため、低誘電特性と耐熱性を両立でき、ハンドリング性も良好となる
。
【0025】
熱可塑性樹脂(A1)の重量平均分子量(Mw)は、得られる樹脂シートにタック性が
生じにくいようにする観点から、30,000以上が好ましく、40,000以上がより
好ましく、50,000以上がさらに好ましい。一方、製膜時のハンドリング性の観点か
ら、300,000以下が好ましく、250,000以下がより好ましく、200,00
0以下がさらに好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーにて測
定したポリスチレン換算の値である。
【0026】
熱可塑性樹脂(A1)は、公知の方法により変性されていてもよい。変性体としては、
例えば、上記例示した熱可塑性樹脂(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物と
の反応物が挙げられる。
熱可塑性樹脂(A1)を変性することによりポリマーの極性が大きくなるので、銅箔等
の金属層との接着性向上が期待できる。
【0027】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリ
ル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、メチル
テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジ
ック酸類等の不飽和カルボン酸、及びこれらの無水物が挙げられる。
また、酸無水物としては、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジ
ック酸類が挙げられる。
なお、ナジック酸類又はその無水物としては、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘ
プト-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸)、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.
1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(メチルナジック酸)等及びその無水物が
挙げられる。
【0028】
これらの不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の中では、アクリル酸、マレイン酸、
ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸が好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併
用してもよい。
【0029】
本組成物における熱可塑性樹脂(A1)の含有量は、低誘電特性の観点から、本組成物
の樹脂成分のうち60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量
%以上がさらに好ましく、85質量%以上がよりさらに好ましい。前記含有量の上限は特
に限定されず、本組成物の樹脂成分が熱可塑性樹脂(A1)のみ(100質量%)であっ
てもよい。
なお、本発明において「樹脂成分」とは、本組成物に含まれる熱可塑性樹脂(A1)、
環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)及び必要に応じて添加されるその他の樹脂をい
う(ただし、高分子化合物(B)を除く)。
【0030】
熱可塑性樹脂(A1)の24℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上が好ましく、
1MPa以上がより好ましい。また、2000MPa未満が好ましく、1500MPa未
満がより好ましく、1000MPa未満がさらに好ましく、500MPa未満がよりさら
に好ましく、300MPa未満が特に好ましく、100MPa未満がとりわけ好ましく、
50MPa未満が最も好ましい。
貯蔵弾性率を上記の上限値未満とすることで、得られるシート硬化物の柔軟性が良好と
なる。また、貯蔵弾性率を上記の下限値以上とすることで、得られるシート硬化物の耐熱
性やハンドリング性が良好となる。
なお、上記貯蔵弾性率は、熱可塑性樹脂(A1)からなる厚さ300μmの樹脂シート
を250℃、0.2MPaの条件で30分間熱プレスして得られたシート硬化物を試験片
とし、動的粘弾性を測定することによって求めた値である。
【0031】
水中置換法(ISO 1183)により測定される熱可塑性樹脂(A1)の密度は0.
98g/cm3以下が好ましく、0.95g/cm3以下がより好ましく、0.91g/
cm3以下がさらに好ましい。一方、下限は特に限定されないが、0.80g/cm3以
上が好ましい。
密度が上記の値以下であることで、得られるシート硬化物の柔軟性が良好となる。
【0032】
熱可塑性樹脂(A1)の誘電正接は10GHzにおいて0.003未満が好ましく、0
.002未満がより好ましく、0.0015未満がさらに好ましい。一方、下限は特に限
定されず、0以上であればよい。
誘電正接が小さければ小さいほど誘電損失が小さいので、本組成物を回路基板材料とし
た際の電気信号の伝達効率、高速化が得られる。
なお、上記誘電正接は、熱可塑性樹脂(A1)からなる厚さ300μmの樹脂シートを
250℃、0.2MPaの条件で30分間熱プレスして得られたシート硬化物を試験片と
し、シート硬化物の面内方向の比誘電率及び誘電正接を、空洞共振器(AET社製)とネ
ットワークアナライザMS46 122B(アンリツ社製)を用いてTEモードで測定し
て求めた値である。
【0033】
2.環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)
本組成物は、耐熱性の向上、線熱膨張率の低減やタック性の低減などを目的として、環
状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)を含有してもよい。
耐熱性の向上、線熱膨張率やタック性などが良好となる理由は定かではないが、熱可塑
性樹脂(A1)とともに環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)を含有することで、分
子内に剛直な骨格が取り入れられるためと考えられる。
上記環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)は、脂環式構造を有する共重合体であり
、具体的には、ポリオレフィンの側鎖に脂環式構造を有する共重合体である。当該脂環式
構造の好適な例としては、シクロアルカン、ビシクロアルカン、多環式化合物等が挙げら
れる。これらのなかでも、シクロアルカンが好ましく、シクロヘキサンがより好ましい。
また、当該脂環式構造は、後述する水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する
、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造であることがより好ましい。
【0034】
環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)は、結晶融解ピーク温度が100℃未満であ
るのが好ましい。
環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)の結晶融解ピーク温度は、50℃以上が好ま
しく、60℃以上がより好ましく、65℃以上がさらに好ましい。また、環状ポリオレフ
ィン樹脂共重合体の結晶融解ピーク温度は、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好
ましい。
本発明における結晶融解ピーク温度とは、加熱速度10℃/分で測定される示差走査熱
量測定(DSC)において、結晶融解ピークが検出されたときの温度である。本樹脂組成
物に用いる環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)は、結晶融解ピークが100℃未満
に存在するものであればよく、例えば、100℃未満と、100℃以上の2点に結晶融解
ピークが存在する場合も含まれる。
【0035】
なお、公知の環状ポリオレフィンとしては、単環式ノルボルネン系単量体又は多環式ノ
ルボルネン系単量体由来の繰り返し単位を有する開環重合体の水素添加物(例えば、国際
公開第2012/046443号、国際公開第2012/033076号等)が挙げられ
る。この環状ポリオレフィンは、重合体の主鎖に脂環式構造を有するものであり、結晶融
解ピーク温度が100℃未満に存在しないか、あるいは非晶性である。
重合体の結晶性は通常、分子の構造の規則性や立体障害により変化するものであり、側
鎖や主鎖に脂環式構造を有する重合体は立体障害が大きいため結晶化しにくく、非晶性と
なりやすい。
一方、本樹脂組成物の環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)は、後述する水素化共
役ジエンポリマーブロック単位の構造を有することによって結晶性を呈するとともに、ポ
リオレフィンの側鎖に脂環式構造を有することにより、結晶融解ピーク温度を100℃未
満に存在させることができる。
【0036】
前記環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)のメルトフローレート(MFR)は特に
限定されないが、通常、0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点か
ら、好ましくは0.5g/10分以上である。また、前記メルトフローレート(MFR)
は、通常、200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/1
0分以下、より好ましくは90.0g/10分以下である。前記MFRを上記範囲内にす
ることによって、熱可塑性樹脂との相溶性が良好となる。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの
条件で測定することで求められる。
【0037】
本樹脂組成物に用いる環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)としては、低誘電特性
の観点から、少なくとも1種の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び少なくとも
1種の水素化共役ジエンポリマーブロック単位を含む環状ポリオレフィン(以下、「環状
ポリオレフィン(a)」ともいう)、又は当該環状ポリオレフィン(a)の不飽和カルボ
ン酸及びその無水物の少なくとも一方による変性体が好ましい。
【0038】
本発明において「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグ
メントからのミクロ相分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。ミクロ相分離は、
ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
なお、ミクロ相分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999
年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer So
ft Materials”で広範に議論されている。
【0039】
環状ポリオレフィン(a)は、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(以下「ブロ
ックA」ともいう)及び水素化共役ジエンポリマーブロック単位(以下「ブロックB」と
もいう)からなるジブロックコポリマー、ブロックA及びブロックBの少なくとも一方を
2以上含むトリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、ペンタブロックコポリ
マー等が挙げられる。
環状ポリオレフィン(a)は、ブロックAを少なくとも2個含むことが好ましく、例え
ば、A-B-A型、A-B-A-B型、A-B-A-B-A型などが好適に挙げられる。
【0040】
また、環状ポリオレフィン(a)は、それぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなる
セグメントを含むことが好ましい。このため、本樹脂組成物の水素化ブロックコポリマー
は、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)を有し、
この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)の間には、少なくと
も1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブロックB)を有することが好ましい
。これらの観点から、環状ポリオレフィン(a)は、A-B-A型又はA-B-A-B-
A型がより好ましい。
【0041】
環状ポリオレフィン(a)における水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロッ
クA)の含有率は、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~90モル%であ
る。なかでも、さらに好ましくは50モル%以上、よりさらに好ましくは60モル%以上
である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(ブロックA)の比率が上記下限以上であれ
ば剛性が低下することがなく、耐熱性や線熱膨張率も良好となる。一方、前記の比率が上
記上限以下であれば柔軟性が良好となる。
【0042】
また、環状ポリオレフィン(a)における水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブ
ロックB)の含有率は、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%で
ある。なかでも、さらに好ましくは50モル%以下、よりさらに好ましくは40モル%以
下である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位(ブロックB)の比率が上記下限以上であれば
柔軟性が良好となる。一方、前記の比率が上記上限以下であれば剛性が低下することがな
く、耐熱性や線熱膨張率も良好となる。
【0043】
環状ポリオレフィン(a)を構成する水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位及び水
素化共役ジエンポリマーブロック単位はそれぞれ、後に詳述する芳香族ビニルモノマー及
び1,3-ブタジエンなどの共役ジエンモノマーから構成されるポリマーブロックを水素
化することで得ることができる。
また、環状ポリオレフィン(a)は官能基のないブロックコポリマーであることが好ま
しい。「官能基のない」とは、ブロックコポリマー中に如何なる官能基も存在しない、即
ち、炭素原子と水素原子以外の原子を含む基が存在しないことを意味する。
【0044】
以下、水素化する前の芳香族ビニルポリマーブロック単位及び共役ジエンポリマーブロ
ック単位を形成するためのモノマーについて説明する。
【0045】
(芳香族ビニルモノマー)
水素化前の芳香族ビニルポリマーブロック単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、
下記一般式(1)で示されるモノマーである。
【0046】
【0047】
上記一般式(1)において、Rは水素又はアルキル基であり、Arはフェニル基、ハロ
フェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基
又はアントラセニル基である。
【0048】
上記Rがアルキル基である場合、炭素数は好ましくは1~6であり、上記アルキル基は
ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基及びカルボキシル
基のような官能基で単置換若しくは多重置換されていてもよい。
また、上記Arは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより
好ましい。
【0049】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトル
エン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエンが好ましい)、エチルスチレン、プ
ロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアント
ラセン(全ての異性体を含む)、及びこれらの混合物が挙げられる。これらのなかでも、
スチレンが好ましい。
【0050】
(共役ジエンモノマー)
水素化前の共役ジエンポリマーブロック単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個
の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブ
タジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3-ペンタジエンとその類似化合物、及びこ
れらの混合物が挙げられる。これらのなかでも、構造の規則性が高く結晶化しやすいブロ
ックを得る観点から、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0051】
なお、共役ジエンモノマーとして1,3-ブタジエンを用いる場合、その重合体である
ポリブタジエンは、1,4-結合単位([-CH2-CH=CH-CH2-])と1,2
-結合単位([-CH2-CH(CH=CH2)-])とが存在するため、水素化により
、前者はポリエチレンの繰り返し単位と同様の構造(エチレン構造)を与え、後者は1-
ブテンを重合した際の繰り返し単位と同様の構造(1-ブテン構造)を与える。したがっ
て、本樹脂組成物における水素化共役ジエンポリマーブロックは、エチレン構造及び1-
ブテン構造の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
また、共役ジエンモノマーとしてイソプレンを用いる場合、その重合体であるポリイソ
プレンは、1,4-結合単位([-CH2-C(CH3)=CH-CH2-])、3,4
-結合単位([-CH2-CH(C(CH3)=CH2)-])及び1,2-結合単位(
[-CH2-C(CH3)(CH=CH2)-])が存在し、水素化により得られる3種
の繰り返し単位の少なくともいずれかを含むものとなる。
【0052】
(ブロック構造)
環状ポリオレフィン(a)は、SBS、SBSB、SBSBS、SBSBSB、SIS
、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iは
ポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロックコポリマー、テトラブロックコポリ
マー、ペンタブロックコポリマー等のマルチブロックコポリマーの水素化によって製造さ
れることが好ましい。ブロックは、線状ブロックでもよく、分岐していてもよい。分岐し
ている場合の重合連鎖は、コポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。ま
た、ブロックは、線状ブロックのほかに、テーパードブロック、又はスターブロックであ
ってもよい。
【0053】
環状ポリオレフィン(a)を構成する水素化前のブロックコポリマーは、芳香族ビニル
ポリマーブロック単位及び共役ジエンポリマーブロック単位以外の1又は複数の追加ブロ
ック単位を含んでいてもよい。例えば、トリブロックコポリマーの場合には、これらの追
加ブロック単位はトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。
【0054】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチ
レンを挙げることができ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例とし
ては、水素化ポリブタジエン又は水素化ポリイソプレンを挙げることができ、水素化ポリ
ブタジエンがより好ましい。
そして、環状ポリオレフィン(a)の好ましい一態様としては、スチレンとブタジエン
の水素化トリブロック又は水素化ペンタブロックコポリマーを挙げることができ、水素化
トリブロックコポリマーがより好ましい。
【0055】
(水素化レベル)
環状ポリオレフィン(a)は、ブタジエンなどの共役ジエンに由来する二重結合に加え
て、スチレンなどに由来する芳香族環も水素化されるものであり、実質的に完全に水素化
されている。具体的には、以下に示す水素化レベルを達成しているものをいう。
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルは、好ましくは90%以
上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは99.5%
以上である。
前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、好ましくは95%以上
、より好ましくは99%以上、更に好ましくは99.5%以上である。
このように高レベルの水素化をすることによって、誘電損失を低減することができ、剛
性と耐熱性も良好となる。
なお、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポ
リマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。水素化共役ジエンポリマー
ブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽
和される割合を示す。
なお、各ブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0056】
環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を
併用してもよい。
本樹脂組成物における環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)としては、市販のもの
を用いることができ、具体的には三菱ケミカル社製:テファブロック(商標登録)が挙げ
られる。
【0057】
本組成物が環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)を含む場合、その含有量は、線熱
膨張率の低減やタック性の低減の観点から、本組成物の樹脂成分のうち10質量%以上が
好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方上限
は柔軟性や基材への密着性の観点から、40質量%以下が好ましく、38質量%以下がよ
り好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
3.高分子化合物(B)
本組成物の高分子化合物(B)は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する
化合物である。
【0059】
【0060】
(式(1)中、R11~R13は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R14
は、各々独立に、酸素原子、置換基を有していても良いアルキレン基、又は置換基を有し
ていても芳香族炭化水素環基を表し、Ar11は、各々独立に、置換基を有していても良
い芳香族炭化水素環基を表し、Q11は、各々独立に、置換基を有していても良い下記一
般式(2)で表される架橋基である。添字n11は、0から10までの整数、n12は、
0から5までの整数、n13は、1から2までの整数である。)
【0061】
【0062】
(式(2)中、環Ar21は、芳香族炭化水素環を表し、記号*は、式(1)のAr11
との結合手を表し、式(2)との結合手は、Ar21に結合する。)
【0063】
なお、一般式(1)中のn11が2以上であり、R14、Ar11、Q11、n12及
びn13が2つ以上存在する場合、R14、Ar11、Q11、n12及びn13はそれ
ぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。n12及びn13が2以上である場合も
同様である。
【0064】
<定義>
以下、本発明に係る高分子化合物(B)を詳細に説明するにあたり、共通する部分構造
は特段の断りが無い限り、以下の構造であるとする。
【0065】
(芳香族炭化水素環基)
芳香族炭化水素環基とは、高分子化合物(B)の構造の中での結合状態に応じて、芳香
族炭化水素環構造の1価、2価、又は3価以上の構造を指す。
芳香族炭化水素環の構造において、通常、炭素数は制限されるものではないが、好まし
くは炭素数6以上、60以下であり、炭素数の上限としてさらに好ましくは炭素数48以
下、より好ましくは炭素数30以下である。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、ア
ントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン
環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環
等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の基、又はこれらから選択される複数の基が複
数連結した構造が挙げられる。芳香族炭化水素環が複数個連結する場合は、通常、2~1
0連結した構造が挙げられ、2~5個連結した構造であることが好ましい。芳香族炭化水
素環が複数個連結する場合、同一の構造が連結してもよく、異なる構造が連結してもよい
。
芳香族炭化水素環構造として好ましくは、ベンゼン環、ビフェニル環すなわちベンゼン
環が2連結した構造、ターフェニル環すなわちベンゼン環が3連結した構造、クォーター
フェニレン環すなわちベンゼン環が4連結した構造、ナフタレン環、フルオレン環である
。
【0066】
(芳香族複素環基)
芳香族複素環基とは、高分子化合物(B)の構造の中での結合状態に応じて、芳香族複
素環構造の1価、2価、又は3価以上の構造を指す。
芳香族複素環の構造において、通常、炭素数は制限されるものではないが、好ましくは
、炭素数3以上、60以下であり、炭素数の上限としてさらに好ましくは炭素数48以下
、より好ましくは炭素数30以下である。具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオ
フェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジ
アゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール
環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロ
フラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベン
ゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン
環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環
、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等
の、5~6員環の単環若しくは2~4縮合環の2価の基又はこれらが複数連結した基が挙
げられる。芳香族複素環が複数個連結する場合、同一の構造が連結してもよく、異なる構
造が連結してもよい。芳香族複素環が複数個連結される場合は、通常、2~10連結した
構造が挙げられ、2~5個連結した構造であることが好ましい。
芳香族複素環構造として好ましくは、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリミジン
環、トリアジン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環である。
【0067】
(置換基)
以下、高分子化合物(B)の構造の説明において、特に断りの無い場合、置換基とは任
意の基であり、架橋基も含まれる。好ましくは、下記置換基群Zから選択される基である
。また、本発明の高分子化合物(B)の構造の説明において、有してよい置換基が置換基
群Zから選択される、又は、有してよい置換基が置換基群Zから選択されることが好まし
い、と記されている場合、好ましい置換基も下記置換基群Zに記されている通りである。
【0068】
(置換基群Z)
置換基群Zは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオ
キシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジア
リールアミノ基、アリールアルキルアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基
、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素
環基、及び芳香族複素環基よりなる群である。これらの置換基は直鎖、分岐及び環状のい
ずれの構造を含んでいてもよい。
【0069】
置換基群Zは、以下の構造が好ましい。
炭素数1以上24以下のアルキル基、炭素数2以上24以下のアルケニル基、炭素数2
以上24以下のアルキニル基、炭素数1以上24以下のアルコキシ基、炭素数4以上36
以下のアリールオキシ基又はヘテロアリールオキシ基、炭素数2以上24以下のアルコキ
シカルボニル基、炭素数2以上24以下のジアルキルアミノ基、炭素数10以上36以下
のジアリールアミノ基、炭素数7以上36以下のアリールアルキルアミノ基、炭素数2以
上24以下のアシル基、ハロゲン原子、炭素数1以上12以下のハロアルキル基、炭素数
1以上24以下のアルキルチオ基、炭素数4以上36以下のアリールチオ基、炭素数2以
上36以下のシリル基、炭素数2以上36以下のシロキシ基、シアノ基、炭素数6以上3
0以下の芳香族炭化水素環基、炭素数4以上30以下の芳香族複素環基。
【0070】
上記置換基は、直鎖、分岐又は環状のいずれの構造を含んでいてもよく、上記置換基が
隣接する場合、隣接した置換基同士が結合して環を形成してもよい。
【0071】
置換基群Zとして、より具体的には、以下の構造が挙げられる。
【0072】
アルキル基としては、直鎖、分岐、又は環状であり、炭素数は1以上であり、24以下
、好ましくは12以下であり、さらに好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下で
ある。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブ
チル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シク
ロヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0073】
アルケニル基としては、直鎖、分岐、又は環状であり、炭素数は2以上であり、通常2
4以下、好ましくは12以下である。具体例としては、ビニル基等が挙げられる。
【0074】
アルキニル基としては、直鎖又は分岐であり、炭素数は2以上であり、24以下、好ま
しくは12以下である。具体例としては、エチニル基等が挙げられる。
【0075】
アルコキシ基としては、炭素数1以上、24以下、好ましくは12以下である。具体例
としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0076】
アリールオキシ基及びヘテロアリールオキシ基としては、炭素数4以上、好ましくは5
以上であり、36以下、好ましくは24以下である。具体例としては、フェノキシ基、ナ
フトキシ基、ピリジルオキシ基等が挙げられる。
【0077】
アルコキシカルボニル基としては、炭素数2以上、24以下、好ましくは12以下であ
る。具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0078】
ジアルキルアミノ基としては、炭素数2以上、24以下、好ましくは12以下である。
具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0079】
ジアリールアミノ基としては、炭素数10以上、好ましくは12以上であり、36以下
、好ましくは24以下である。具体例としては、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基
、N-カルバゾリル基等が挙げられる。
【0080】
アリールアルキルアミノ基としては、炭素数7以上、36以下、好ましくは24以下で
ある。具体例としては、フェニルメチルアミノ基が挙げられる。
【0081】
アシル基としては、炭素数2以上、24以下、好ましくは12以下である。具体例とし
ては、アセチル基、ベンゾイル基が挙げられる。
【0082】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等である。好ましくはフッ素原子である
。
【0083】
ハロアルキル基としては、炭素数1以上、12以下、好ましくは6以下である。具体例
としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ノナ
フルオロブチル基等が挙げられ、特に好ましくは、フッ素が置換したアルキル基であり、
最も好ましくは、トリフルオロメチル基である。
【0084】
アルキルチオ基としては、炭素数1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下で
ある。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
【0085】
アリールチオ基としては、炭素数4以上、好ましくは5以上であり、36以下、好まし
くは24以下である。具体的には、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等
が挙げられる。
【0086】
シリル基としては、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好
ましくは24以下である。具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基
等が挙げられる。
【0087】
シロキシ基としては、炭素数2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好まし
くは24以下である。具体例としては、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基
等が挙げられる。
【0088】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上、36以下、好ましくは24以下である。具
体例としては、フェニル基、ナフチル基、複数のフェニル基が連結した基、等が挙げられ
る。
【0089】
芳香族複素環基としては、炭素数3以上、好ましくは4以上であり、36以下、好まし
くは24以下である。具体例としては、チエニル基、ピリジル基等が挙げられる。
【0090】
上記置換基は、直鎖、分岐又は環状のいずれの構造を含んでいてもよい。
上記置換基が隣接する場合、隣接した置換基同士が結合して環を形成してもよい。好ま
しい環の大きさは、4員環、5員環、6員環であり、具体例としては、シクロブタン環、
シクロペンタン環、シクロヘキサン環である。
【0091】
上記の置換基群Zの中でも、誘電正接を低減させるために好ましくは、アルキル基、ア
ルコキシ基、ハロゲン原子、芳香族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基、ハロ
ゲン原子、芳香族炭化水素基であり、特に好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素基、
フッ素原子であり、最も好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素基である。
【0092】
また、上記置換基群Zの各置換基は更に置換基を有していてもよい。それら置換基とし
ては、上記置換基群Zと同じのもの又は架橋基が挙げられる。好ましくは、更なる置換基
は有さないか、炭素数8以下のアルキル基、又はハロゲン原子である。
【0093】
<R11~R13>
一般式(1)におけるR11~R13は、各々独立に、水素原子又はアルキル基である
。
アルキル基の具体例としては、前述の置換基群Zとして例示したアルキル基が挙げられ
、好ましくは炭素数1から10までのアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である
。
架橋性及びフィルムのハンドリング性を向上させる為に、R11は、水素原子又は炭素
数1から10までのアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基がより好ま
しく、特に好ましくは水素原子である。同様の理由により、R12及びR13は、水素原
子であることが好ましい。
【0094】
<R14>
一般式(1)におけるR14は、各々独立に、酸素原子、アルキレン基、又は芳香族炭
化水素環基を表し、これらは置換基を有していても良い。
架橋基であるQ11を主鎖から遠ざけるために、R14は存在し、主鎖から遠ざける方
が、架橋密度は増加し、硬化後のフィルムのハンドリング性を増加できると考えられる。
好ましくは、芳香族炭化水素環基、アルキレン基である。
【0095】
アルキレン基としては、直鎖、分岐、又は環状であり、炭素数は1以上であり、好まし
くは4以上であり、24以下、好ましくは12以下であり、さらに好ましくは8以下であ
り、より好ましくは6以下である。具体例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン
、イソブタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ドデカンから誘導される2価の基等が挙げら
れる。好ましくは炭素数1から10までのアルキレン基であり、より好ましくはエチレン
基、プロピレン基であり、特に好ましくはエチレン基である。
アルキレン基の置換基としては、置換基群Zが好ましく、特に好ましくは、フッ素原子
である。
【0096】
芳香族炭化水素環基の具体例としては、前述の置換基群Zとして例示した芳香族炭化水
素環基が挙げられる。芳香族炭化水素環基の置換基としては、置換基群Zが好ましく、よ
り好ましくは、炭素数1から10までのアルキル基である。
【0097】
<Ar11>
一般式(1)におけるAr11は、各々独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化
水素環基を表す。
置換基を有していても良い芳香族炭化水素環基の具体例としては、前述の置換基群Zと
して例示した芳香族炭化水素環基が挙げられる。芳香族炭化水素環基の置換基としては、
フィルムの安定性の点から、置換基群Zが好ましく、誘電正接の低減の理由から、より好
ましくは、炭素数1から10までのアルキル基である。
【0098】
<n11、n12及びn13>
一般式(1)における添字n11は、0から10までの整数である。得られるシート硬
化物の耐熱性の点から好ましくは、0から4であり、特に好ましくは0である。
一般式(1)における添字n12は、0から5までの整数である。得られるシート硬化
物の耐熱性の点から好ましくは、0又は1であり、特に好ましくは0である。
一般式(1)における添字n13は、1から2までの整数である。得られるシート硬化
物の耐熱性の点から好ましくは、1である。
【0099】
<Q11>
一般式(1)におけるQ11は、置換基を有していても良い一般式(2)で表される構
造である。
Q11の置換基としては、置換基群Zが好ましく、より好ましくは、炭素数1から10
までのアルキル基である。
【0100】
一般式(2)は、シクロブタン環が縮合した芳香族炭化水素環基であり、下記式で示さ
れる。
【0101】
【0102】
(式(2)中、環Ar21は、芳香族炭化水素環を表し、記号*は、式(1)のAr11
との結合手を表し、式(2)との結合手は、Ar21に結合する。)
【0103】
<Ar21>
一般式(2)におけるAr21は、芳香族炭化水素環を表す。
芳香族炭化水素環の具体例としては、前述の置換基群Zとして例示した芳香族炭化水素
環基が挙げられ、好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナント
レン環、ピレン環、トリフェニレン環であり、塗布工程における溶解性の観点から、より
好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環である。
【0104】
<一般式(1)の具体例>
以下に本発明の高分子化合物(B)における、一般式(1)で示される繰り返し単位の
具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
【0106】
<共重合成分>
高分子化合物(B)は、上記一般式(1)で示される繰り返し単位以外に、任意の共重
合成分由来の繰り返し単位を有していてもよい。
共重合成分は特に限定されないが、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基を含
むことが好ましい。
高分子化合物(B)が任意の共重合成分を含む場合、その配列状態は、ランダム共重合
体、交互共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体等のいずれでもよいが、耐
熱性の観点からは、ランダム共重合体又は交互共重合体が好ましい。
【0107】
高分子化合物(B)が任意の共重合成分を含む場合、耐熱性の観点から、一般式(1)
で示される繰り返し単位と任意の共重合成分由来の繰り返し単位との比率が10:90~
97:3となるのが好ましく、20:80~95:5となるのがより好ましく、30:7
0~90:10となるのがさらに好ましい。
【0108】
<高分子化合物(B)の好ましい具体例>
以下に本発明の高分子化合物(B)のより好ましい具体例を示す。本発明はこれらに限
定されるものではない。
【0109】
【0110】
<高分子化合物(B)の製造方法>
高分子化合物(B)は、例えば、下記文献1-3に記載の、ビニル誘導体とビニルアリ
ールシクロブテン誘導体との触媒存在下での反応による一般的な合成方法により得ること
ができる。
文献1: Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 46, 2799-280
6 (2008)
文献2:J. Polymer Sci., 61,31 (1962)
文献3:J. Am.Chem. Soc., 84, 2508 (1962)
前記ビニル誘導体としては、スチレン、p-クロロスチレン、p-メチルスチレン、ジ
ビニルベンゼン等のスチレン誘導体、ブタジエン、ペンタジエン等のアルキルビニル誘導
体等が挙げられる。
ビニルアリールシクロブテン誘導体としては、4-ビニルベンゾシクロブテン、1,2
-ジヒドロ-4-ビニルシクロブタ[a]ナフタレン等が挙げられる。
触媒としては、ベンゾイルペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重
合触媒、メチルリチウム、フェニルリチウム、n-ブチルリチウム、ナフチルナフタレン
などのアニオン重合触媒、硫酸、塩化スズ等のカチオン重合触媒等が挙げられる。
これらの反応溶媒としては、無溶媒、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒
、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、シクロヘキサン、デカリンなどの炭化水素系
溶媒、テトラハイドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙
げられる。
【0111】
<高分子化合物(B)の含有量>
本組成物における高分子化合物(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A1)100質量部
に対して好ましくは1質量部以上500質量部未満であり、中でも3質量部以上450質
量部以下が好ましく、5質量部以上400質量部以下がより好ましく、7質量部以上30
0質量部以下がさらに好ましく、10質量部以上200質量部以下が特に好ましく、12
質量部以上100質量部以下が最も好ましい。
高分子化合物(B)の含有量が上記範囲内であると、低誘電特性を維持しながら、架橋
密度を高くでき、さらには銅接着性とのバランスが保持できる。
【0112】
<高分子化合物(B)の重量平均分子量>
高分子化合物(B)の重量平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは
5,000以上、さらに好ましくは10,000以上であり、好ましくは2、000,0
00以下、より好ましくは1,000,000以下、さらに好ましくは500,000以
下、特に好ましくは、200,000以下である。
重量平均分子量を上記の下限値以上とすることで、流動性が高くなりすぎないので、フ
ィルム成形性が良好となる。また、重量平均分子量を上記の上限値以下とすることで、熱
可塑性樹脂と均一に混合しやすくなる。
【0113】
本発明における高分子化合物(B)の重量平均分子量及び数平均分子量はSEC(サイ
ズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶
出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標
準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算
することによって、重量平均分子量及び数平均分子量、分子量分布(Mw/Mn)が算出
される。Mw/Mnは、好ましくは1.0以上であり、好ましくは10以下、より好まし
くは5以下、さらに好ましくは3以下である。
Mw/Mnを上記の下限値以上にすることで、熱可塑性樹脂(A1)との相溶性が良好
となる。またMw/Mnを上記の上限値以下とすることで、より均一な架橋構造が形成さ
れ、力学特性や機械特性が良好となる。
【0114】
4.溶剤(C)
本組成物から塗布工程を経て樹脂シートを製造する場合には、溶剤(C)を含有しても
よい。
溶剤(C)は、熱可塑性樹脂(A1)及び高分子化合物(B)が均一に溶解するもので
あれば特に限定されないが、トルエン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、キシレン
等が挙げられる。
【0115】
溶剤(C)は、樹脂シートの乾燥時に揮発するように、沸点が200℃以下であること
が好ましい。
【0116】
本組成物における溶剤(C)の含有量は、製膜性の観点から、熱可塑性樹脂(A1)1
00質量部に対して100質量部以上500質量部以下が好ましく、200質量部以上4
00質量部以下がより好ましい。
【0117】
5.その他の成分
本組成物は、上記以外の成分として、熱可塑性樹脂(A1)以外の熱可塑性エラストマ
ー、高分子化合物(B)以外の架橋剤、重合開始剤、架橋触媒、紫外線吸収剤、帯電防止
剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化
剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、増粘剤、レベリング剤、無機粒子、有機粒子等
を含有してもよい。
【0118】
高分子化合物(B)以外の架橋剤としては、例えば、ビスマレイミド化合物、エポキシ
化合物等が挙げられる。
【0119】
重合開始剤としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、
ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド等の有機過酸化
物が挙げられる。
より具体的には、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイ
ド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド
、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ビス(t
ert-ブチルパーオキシ)-2,5-ジメチル-3-ヘキシン等のジアルキルパーオキ
サイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイ
ド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチル
パーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオ
キサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。
【0120】
重合開始剤の含有量は、硬化反応の促進の点で、熱可塑性樹脂(A1)100質量部に
対して0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上
がさらに好ましい。一方、誘電特性を低く維持することができる点で、5質量部以下が好
ましく、1質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましく、実質的に含
まないことが最も好ましい。
なお、上記「実質的に含まない」とは、意図して含有しないという意味であり、具体的
には、重合開始剤の含有量が熱可塑性樹脂(A1)100質量部に対して0質量部以上0
.05質量部以下、より好ましくは0質量部以上0.01質量部以下であることをいう。
【0121】
無機粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸
マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カル
シウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルミナ、水酸化アルミニウム、ヒ
ドロキシアパタイト、シリカ、マグネシウムシリケート、マイカ、タルク、カオリン、ク
レー、ガラス粉、アスベスト粉、ゼオライト、珪酸白土等が挙げられる。
有機粒子としては、例えば、(メタ)アクリレート系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、
シリコーン系樹脂粒子、ナイロン系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、ベンゾグアナミ
ン系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子等が挙げられる。
無機粒子又は有機粒子を含有する場合、その含有量は、本組成物の樹脂成分100質量
部に対して1質量部以上500質量部以下が好ましく、5質量部以上350質量部以下が
より好ましく、10質量部以上200質量部以下がさらに好ましい。無機粒子又は有機粒
子の含有量が上記下限値以上であると、シート硬化物の誘電特性をさらに低くできるうえ
に、シート硬化物の線熱膨張係数を低減でき、回路基板材料として用いた場合に基板との
剥離が起こりにくくなる。一方、無機粒子又は有機粒子の含有量が上記上限値以下である
と、シート硬化物の成形性が良好となる。
【0122】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シート(以下、「本樹脂シート」ともいう。)は、本組成物を未硬化の状
態でシート状に成形したものである。
【0123】
本樹脂シートの硬化後における厚さは、1~300μmが好ましく、2~250μmが
より好ましく、5~200μmがさらに好ましい。
本樹脂シートの硬化後における厚さが上記下限値以上であると、ハンドリング性が良好
となる。また、厚さが上記上限値以下であると、本樹脂シートを回路基板材料として用い
る場合は、基板の段差への追従性が良好となる。
なお、上記厚さは、本樹脂シートを250℃、0.2MPaの条件で30分間熱プレス
して得られたシート硬化物をマイクロメータで測定した値である。
【0124】
本樹脂シートの硬化後における比誘電率は、4以下が好ましく、3以下がより好ましく
、2.5以下がよりさらに好ましい。一方、下限は特に限定されず、1以上であればよい
。
また、本樹脂シートの硬化後における誘電正接は、0.003以下が好ましく、0.0
02以下がより好ましく、0.0015以下がよりさらに好ましい。一方、下限は特に限
定されず、0以上であればよい。
なお、上記比誘電率及び誘電正接は、本樹脂シートを250℃、0.2MPaの条件で
30分間熱プレスして得られたシート硬化物を試験片とし、シート硬化物の面内方向の比
誘電率及び誘電正接を、空洞共振器(AET社製)とネットワークアナライザMS46
122B(アンリツ社製)を用いてTEモードで測定して求めた値である。
【0125】
本樹脂シートの硬化後における貯蔵弾性率(130℃)は、耐熱性の観点から、0.0
1MPa以上が好ましく、0.05MPa以上がより好ましく、0.1MPa以上がさら
に好ましい。上限は柔軟性の観点から、10000MPa以下が好ましく、1000MP
a以下がより好ましい。
なお、上記貯蔵弾性率は、本樹脂シートを250℃、0.2MPaの条件で30分間熱
プレスして得られたシート硬化物を試験片とし、動的粘弾性を測定することによって求め
た値である。
【0126】
本樹脂シートの硬化後における線熱膨張係数は、1000ppm/K以下が好ましく、
750ppm/K以下がより好ましく、500ppm/K以下がさらに好ましく、400
ppm/K以下がよりさらに好ましい。一方、線熱膨張係数の下限は特に限定されないが
、0ppm/K以上が好ましい。
線熱膨張係数が上記上限値以下であると、本樹脂シートを回路基板材料として用いる場
合、導体との張り合わせ時の反りを抑制し、高い信頼性を得ることができる。
なお、上記線熱膨張係数は、本樹脂シートを250℃、0.2MPaの条件で30分間
熱プレスして得られたシート硬化物を試験片とし、実施例に記載の方法で0~120℃の
平均として求めた値である。
【0127】
<積層体>
本樹脂シートは、ハンドリング性を良好にするため、一方又は両方の面に離型フィルム
を設けて積層体とすることが好ましい。
離型フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポ
リエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド;
ポリカーボネート等を主成分とする樹脂フィルムを用いることができる。これらの表面に
シリコーン樹脂離型剤等を塗布して剥離強度を調整してもよい。
離型フィルムの厚さは、1μm以上300μm以下が好ましく、5μm以上200μm
以下がより好ましく、10μm以上150μm以下がさらに好ましく、20μm以上12
0μm以下がよりさらに好ましい。
離型フィルムは、樹脂シートと接触する面にマット処理、コロナ処理、帯電防止処理を
施してあってもよい。
【0128】
上記積層体は、コアに捲回されて捲回体としてもよい。
この捲回体において、積層体の長さは、好ましくは10m以上であり、より好ましくは
20m以上である。積層体の長さが10m以上であることによって、例えば本樹脂シート
をフレキシブル積層板又はストレッチャブル積層板として用いる場合、電子部材を連続し
て生産することが可能であり、連続製膜性に優れる。なお、前記長さの上限は特に限定さ
れないが、1000m以下が好ましい。
コアの素材は特に限定されないが、例えば、紙、樹脂含浸紙、アクリロニトリル/ブタ
ジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、繊維強化プラスチック(FRP)、フェノー
ル樹脂、無機物含有樹脂等が挙げられる。コアには、接着剤を使用してもよい。
【0129】
<樹脂シートの製造方法>
以下、本樹脂シートの製造方法を説明するが、本樹脂シートの製造方法は下記の製造方
法に限定されるものではない。
【0130】
[第一の製造方法]
本樹脂シートの第一の製造方法は、本組成物からなる塗工液を調製する塗工液調製工程
と、該塗工液をシート状に成形する成形工程と、を含む。
第一の製造方法は、熱可塑性樹脂(A1)と高分子化合物(B)が適度に相溶し、硬化
後に最適なセミIPN構造を構築できるため、低誘電特性が良好になる点で好ましい。
【0131】
(1)塗工液調製工程
塗工液調製工程では、熱可塑性樹脂(A1)、高分子化合物(B)並びに必要に応じて
添加される環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)、溶剤(C)及びその他の成分を攪
拌して均一に混合することで、塗工液を得る。
混合には、例えば、ミキサー、ブレンダー、三本ロール混練装置、ボールミル、ニーダ
ー、単軸又は二軸混練機等の一般的な混合・攪拌装置を用いることができ、混合に際して
は、必要に応じて加熱してもよい。
【0132】
(2)成形工程
成形工程では、上記塗工液をシート状に成形して、樹脂シートを得る。
上記塗工液をシート状に成形する方法としては、公知の方法を用いることができる。例
えば、ドクターブレード法、溶剤キャスト法又は押出成膜法等の方法であってよい。好ま
しい成形方法としては、以下に示す(2-1)塗布工程及び(2-2)乾燥工程を含む方
法が挙げられる。
【0133】
(2-1)塗布工程
塗布工程では、離型フィルムの表面に塗工液を塗布して、塗膜を形成する。
塗布方法は、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレード法等の一般的
な方法であってよい。塗布には、スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブ
レードコーター等の塗布装置を用いることができ、これにより、離型フィルム上に所定の
膜厚の塗膜を均一に形成することが可能である。
【0134】
(2-2)乾燥工程
乾燥工程では、上記で形成された塗膜から溶剤が除去される。
乾燥温度は特に限定されないが、通常10℃以上150℃以下、好ましくは25℃以上
120℃以下、より好ましくは30℃以上110℃以下である。乾燥温度が上記上限値以
下であることで、塗膜中の高分子化合物(B)の架橋反応が抑制される。また、乾燥温度
が上記下限値以上であることで、樹脂シートの発泡を抑制し、効果的に溶剤を取り除くこ
とができ、生産性が向上する。
乾燥時間は、塗膜の状態、乾燥環境等によって適宜調整することができる。好ましくは
1分以上であり、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは5分以上、よりさらに好ま
しくは10分以上、特に好ましくは20分以上、最も好ましくは30分以上である。一方
、好ましくは4時間以下であり、より好ましくは3時間以下であり、さらに好ましくは2
時間以下である。
乾燥時間が上記下限以上であることで、十分に溶剤が除去できる。乾燥時間が上記上限
以下であることで、生産性が向上し、製造コストを抑制できる。
樹脂組成物中の溶剤は、ホットプレート、熱風炉、IR加熱炉、真空乾燥機、高周波加
熱機など公知の加熱方法で除去することができる。
【0135】
なお、樹脂シート表面の汚染防止や、ハンドリング性の観点から、上記乾燥工程後に、
樹脂シートの上に離型フィルムが積層されてもよい。
【0136】
[第二の製造方法]
本樹脂シートの第二の製造方法は、本組成物を溶融混練し、シート状に製膜する製膜工
程を含む。
第二の製造方法は、溶剤を使用する必要がないため、コストの点や、多層化が容易であ
る点、及び残留溶剤に起因する不具合が発生しにくい点で好ましい。
【0137】
製膜工程では、熱可塑性樹脂(A1)、高分子化合物(B)及び必要に応じて添加され
る環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)やその他の成分を単軸又は二軸押出機で混練
し、熱可塑性樹脂(A1)の融点以上、かつ、高分子化合物(B)の架橋温度未満の温度
条件下で、押出機等を用いて離型フィルム上に押し出して製膜を行う。樹脂組成物の押出
法は特に限定されないが、より具体的にはTダイ成形が挙げられる。
【0138】
<シート硬化物>
本発明のシート硬化物(以下、「本硬化物」ともいう。)は、上記樹脂シートを硬化し
たものである。
【0139】
硬化温度は、熱可塑性樹脂(A1)が流動せず、かつ、高分子化合物(B)の架橋反応
が進行する温度であればよい。具体的には、通常80℃以上であり、より架橋速度が加速
するため、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは1
80℃以上である。
また、樹脂の分解を抑制できる観点から、通常350℃以下であり、好ましくは310
℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。
硬化時間は特に限定されないが、通常5分以上であり、より硬度を増加させる観点から
、10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上である。
また、樹脂の分解を抑制するために、通常3時間以下であり、好ましくは2時間以下、
より好ましくは1時間以下である。
【0140】
<樹脂組成物、樹脂シート及びシート硬化物の用途>
本発明の樹脂組成物、樹脂シート及びシート硬化物の用途の一例としては、銅箔積層板
、ストレッチャブル基板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線基板、キャパシ
タ等の電気・電子機器用回路基板材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチ
ップフィル、絶縁シート、制振材、接着剤、ソルダーレジスト、半導体封止材、穴埋め樹
脂、部品埋め込み樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0141】
<回路基板材料>
本発明の樹脂シートは、導体と積層することにより回路基板材料とすることができる。
【0142】
導体としては、銅、アルミニウム等の導電性金属や、これらの金属を含む合金等からな
る金属箔、あるいはメッキやスパッタリングで形成された金属層を用いることができる。
【0143】
電気・電子機器用の回路基板材料として用いる場合、樹脂シートの厚みは10μm以上
500μm以下が好ましい。また、導体の厚みは0.2μm以上70μm以下が好ましい
。
【0144】
<回路基板材料の製造方法>
本発明における回路基板材料は、例えば次のような方法で製造できる。
本発明の樹脂シートを導体に積層した後、樹脂シートを熱硬化し、絶縁層を形成する。
絶縁層の上にさらに導体を積層し、こうした層を必要数重ねる。
【0145】
樹脂シートの硬化温度は、熱可塑性樹脂(A1)が流動せず、かつ、高分子化合物(B
)の架橋反応が進行する温度であればよい。具体的には、通常80℃以上であり、より架
橋速度が加速するため、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに
好ましくは180℃以上である。
また、樹脂の分解を抑制できる観点から、通常350℃以下であり、好ましくは310
℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。
硬化時間は特に限定されないが、通常5分以上であり、より硬度を増加させる観点から
、10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上である。
また、樹脂の分解を抑制するために、通常3時間以下であり、好ましくは2時間以下、
より好ましくは1時間以下である。
【0146】
樹脂シートと導体との積層は、樹脂シートに導電性金属箔を直接重ね合わせる方法であ
ってもよく、接着剤を用いて樹脂シートと導電性金属箔とを接着する方法であってもよい
。また、メッキやスパッタリングにより導電性金属層を形成する方法であってもよく、こ
れらの方法を組み合わせて行ってもよい。
また、絶縁層に穴あけ加工してビアホールを形成する工程や、絶縁層の表面を粗化処理
する工程を含んでもよい。
【実施例0147】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら
限定されるものではない。
【0148】
<原料>
[熱可塑性樹脂(A1)]
・a1-1:スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS:
旭化成社製「タフテックH1052」、スチレン含有量=20質量%、貯蔵弾性率(24
℃)=6.2MPa、密度=890g/cm3、誘電正接(10GH2)=0.0004
)を用いた。
【0149】
[環状ポリオレフィン樹脂共重合体(A2)]
・a2-1:環状ポリオレフィン共重合体(HSEBS:三菱ケミカル社製、「テファブ
ロックCP CP402」、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率67モル
%、水素化レベル99%以上の水素化ポリスチレン、水素化共役ジエンポリマーブロック
単位:含有率33モル%、水素化レベル99%以上の水素化ポリブタジエン、ブロック構
造:ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99%以上、結晶融解ピー
ク温度:75℃、MFR(230℃、2.16kg):85g/10分)を用いた。
【0150】
[高分子化合物(B)]
・b-1:下記方法により作製した化合物b-1を用いた。
【0151】
[化合物b-1の合成]
窒素雰囲気下、スチレン(70g)と4-ビニルベンゾシクロブテン(30g)のトル
エン溶液(100mL)へベンゾイルパーオキシド(0.372g)を添加した。反応溶
液を84℃で7時間攪拌後、89℃で3時間攪拌した。室温まで放冷後、600mLのト
ルエンを添加した。トルエン溶液をメタノールに滴下後、析出したポリマーを濾過した。
ポリマーをメタノールで洗浄し、目的物(63g)を得た。収率63%、Mw=8.6万
、Mw/Mn=2.0であった。
【0152】
【0153】
・b-2:下記方法により作製した化合物b-2を用いた。
【0154】
[化合物b-2の合成]
窒素雰囲気下、スチレン(40g)と4-ビニルベンゾシクロブテン(40g)のトル
エン溶液(100mL)へベンゾイルパーオキシド(0.170g)を添加した。反応溶
液を84℃で7時間攪拌後、89℃で3時間攪拌した。室温まで放冷後、600mLのト
ルエンを添加した。トルエン溶液をメタノールに滴下後、析出したポリマーを濾過した。
ポリマーをメタノールで洗浄し、目的物(30g)を得た。収率=37%、Mw=11.
0万、Mw/Mn=1.79であった。
【0155】
【0156】
[架橋剤(B’)]
・b’-1:高分子量ではない架橋剤として、ジビニルベンゼン57%、エチルビニルベ
ンゼン40%、ジエチルベンゼン3%の混合物(日鉄ケミカル&マテリアル社製、「DV
B570」、質量平均分子量(Mw):131)を用いた。
【0157】
[実施例1]
表1に示した割合で原料を配合し、約80℃で加熱して原料を完全に溶解させて樹脂組
成物を調製した。調製した樹脂組成物をシリコーン離型処理された厚さ50μmの離型フ
ィルム(三菱ケミカル社製PETフィルム)の離型処理面上にシート状に展開し、樹脂シ
ートを得た。樹脂シートの厚さは、硬化後のシートの厚さが約300μmになるように調
整した。
離型フィルム上に展開した樹脂シートを100℃のオーブンで1時間乾燥した後、樹脂
シートの上から厚さ75μmの離型フィルム(中興化成工業社製チューコーフローGタイ
プ加工品)を積層し、上記のPETフィルムを取り去り、この面にも同じ離型フィルムを
積層して、両面に積層して積層体を形成した。この積層体を250℃の熱プレス機で約0
.2MPaの圧力をかけながら30分間保持し、樹脂シートを完全に硬化させた後、両面
の離型フィルムを剥がしてシート硬化物を得た。得られたシート硬化物について、以下に
示す測定方法で誘電特性、貯蔵弾性率及び線熱膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0158】
[実施例2~9、比較例1及び2]
表1に示した割合に従って原料を配合した以外は実施例1と同様の方法で、シート硬化
物を作製した。得られたシート硬化物について、以下に示す測定方法で誘電特性、貯蔵弾
性率及び線熱膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0159】
[測定方法]
(1)誘電特性
シート硬化物の面内方向の比誘電率及び誘電正接を、空洞共振器(AET社製)とネッ
トワークアナライザMS46 122B(アンリツ社製)を用いてTEモードで測定した
。測定周波数は10GHzとした。
【0160】
(2)貯蔵弾性率
シート硬化物の動的粘弾性を、粘弾性スペクトロメーターDVA-200(アイティー
計測制御(株)製)を用いて下記条件で測定した。測定結果から、130℃における貯蔵
弾性率の値を各シート硬化物の貯蔵弾性率とした。
<測定条件>
振動周波数:10Hz
歪み:0.1%
昇温速度:3℃/分
測定温度:-100℃~300℃
【0161】
(3)線熱膨張係数
シート硬化物の寸法変化を、熱機械分析装置TMA7100((株)日立ハイテクサイ
エンス製)を用いて下記条件で測定した。測定結果から、3rd stepの0~100
℃における寸法変化率の平均値を各シート硬化物の線熱膨張係数とした。
<測定条件>
測定モード:引張モード
雰囲気:200mL/分 窒素フロー
昇温速度:5℃/分
測定温度:1st step:0~100℃
2nd step:100~0℃
3rd step:0~120℃
【0162】
【0163】
実施例1~9及び比較例1より、熱可塑性樹脂(A1)に特定の構造を有する高分子化
合物(B)を添加することで、低誘電特性を維持しながら、熱可塑性樹脂(A1)単体で
は流動してしまう温度(130℃)でも樹脂組成物の変形(流動)を抑制でき、かつ熱線
膨張係数を抑え、耐熱性が向上することが示された。
比較例2では、架橋剤(B’)の分子内にベンゾシクロブテン架橋基がないため、架橋
密度が高くなりにくく、130℃での貯蔵弾性率が低く、線膨張係数が高く、耐熱性が向
上しなかったと考えられる。
【0164】
なお、上記実施例では熱可塑性樹脂(A1)としてオレフィン系熱可塑性エラストマー
又はエチレン系重合体を用いた例はないが、熱可塑性樹脂(A1)と構造を有する高分子
化合物(B)の架橋物の分子鎖同士が絡まり合うことで耐熱性を向上できるというメカニ
ズムからして、スチレン系熱可塑性エラストマーと同様の効果を期待することができる。