(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144212
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J3/14 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039084
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2023056156
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 真由佳
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰広
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA26
4F070DA24
4F070DA25
4F070DC07
(57)【要約】
【課題】本発明は、回収率に優れ、かつ、微細なPVA系樹脂を析出させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法であって、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を撹拌下で混合し、混合開始から混合終了までをA時間としてA時間を60分割した場合に、混合開始時をA0、n/60時間目をAn、混合終了時をA60としたときに(ただし、0<n<60)、下記式(I)により算出される値が、A1において0.010~20であり、A60において0.05~0.75である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
(ポリビニルアルコール系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を撹拌下で混合し、
混合開始から混合終了までをA時間としてA時間を60分割した場合に、混合開始時をA0、n/60時間目をAn、混合終了時をA60としたときに(ただし、0<n<60)、
下記式(I)により算出される値が、A1において0.010~20であり、A60において0.05~0.75である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
(ポリビニルアルコール系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
【請求項2】
A2において、前記式(I)により算出される値が0.020~16である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項3】
A3において、前記式(I)により算出される値が0.030~12である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項4】
A20において、前記式(I)により算出される値が0.040~3である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂が、側鎖に1,2ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項6】
析出したポリビニルアルコール系樹脂の粒子径が0.1~50mmである、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項7】
下記式(II)により算出される値が100以上となるように撹拌を行う、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
(d/D)×N・・・式(II)
上記式(II)において、dは撹拌翼の翼径(m)、Dは撹拌槽の槽径(m)、Nは撹拌翼の回転数(rpm)である。
【請求項8】
撹拌翼としてエッジドタービン翼を使用する、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法により析出させたポリビニルアルコール系樹脂を回収する、ポリビニルアルコール系樹脂のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法に関し、具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からポリビニルアルコール系樹脂を析出させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂とも称する)は水溶性の合成高分子として工業的に広く用いられており、合成繊維あるいはフイルムの原料、繊維加工剤、紙加工剤、接着剤、無機物のバインダー、塩化ビニル樹脂の重合安定剤など広く利用されている。
【0003】
こうした用途の中でも、PVA系樹脂は、3Dプリンターで成形体を製造する際のサポート材や、中空部を有する成形体を製造する際の中子、非水溶性樹脂微粒子製造時の分散剤などの用途に好適に用いられている。これは、PVA系樹脂を用いてサポート材や中子を製造、微粒子を分散させることで、最終的にサポート材や中子、分散剤に水を接触させることにより成形体、微粒子から分離することが可能なためである。
【0004】
一方で、PVA系樹脂を最終的に水に接触させて分離させる場合、PVA系樹脂廃液が生じる。このようなPVA系樹脂廃液に対しては、環境への負荷を低減する観点から、廃液からPVA系樹脂を取り除くことが求められる。また、廃液からPVA系樹脂を回収することが可能となれば、回収したPVA系樹脂を再利用できるため、コストの面でも好ましい。
【0005】
PVA系樹脂が含まれる水溶液からPVA系樹脂を回収する方法として、例えば、特許文献1には、無機フィラーを含有するポリビニルアルコール系樹脂成形体を水に溶解し、次いで、炭素数3~6のアルコールを主成分とする析出液と接触させて、無機フィラーを含有するポリビニルアルコール系樹脂を析出させ、析出物を分離して回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、PVA系樹脂の回収率は高いものの、析出したPVA系樹脂が繊維状であるため、繊維状のPVA系樹脂同士が絡みついて塊状になってしまう。そのため、析出したPVA系樹脂を輸送する際にカッターポンプなどの切断機能を有する装置を使用する必要があり、回収容易性およびコストの面で改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、回収率に優れ、かつ、微細なPVA系樹脂を析出させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を混合し、混合溶液中のアルコールとPVA系樹脂と水の質量が特定の関係を満たすように混合することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
本発明の態様1は、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を撹拌下で混合し、
混合開始から混合終了までをA時間としてA時間を60分割した場合に、混合開始時をA0、n/60時間目をAn、混合終了時をA60としたときに(ただし、0<n<60)、
下記式(I)により算出される値が、A1において0.010~20であり、A60において0.05~0.75である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
(ポリビニルアルコール系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
【0012】
本発明の態様2は、態様1のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
A2において、前記式(I)により算出される値が0.020~16である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
【0013】
本発明の態様3は、態様1または2のポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
A3において、前記式(I)により算出される値が0.030~12である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
【0014】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
A20において、前記式(I)により算出される値が0.040~3である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
【0015】
本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
前記ポリビニルアルコール系樹脂が、側鎖に1,2ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂である、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
【0016】
本発明の態様6は、態様1~5のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
析出したポリビニルアルコール系樹脂の粒子径が0.1~50mmである、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
【0017】
本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
下記式(II)により算出される値が100以上となるように撹拌を行う、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法である。
(d/D)×N・・・(II)
上記式(II)において、dは撹拌翼の翼径(m)、Dは撹拌槽の槽径(m)、Nは撹拌翼の回転数(rpm)である。
【0018】
本発明の態様8は、態様1~7のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法において、
撹拌翼としてエッジドタービン翼を使用する、ポリビニルアルコール系樹脂の析出方法。
【0019】
本発明の態様9は、
態様1~8のいずれか1つのポリビニルアルコール系樹脂の析出方法により析出させたポリビニルアルコール系樹脂を回収する、ポリビニルアルコール系樹脂のリサイクル方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の析出方法によると、析出するPVA系樹脂が微細であるため、カッターポンプなどの切断機能を有する装置を使用せずとも容易に回収が可能であり、かつ、高回収率でPVA系樹脂を析出できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書において「~」で表される記載は、その前後に記載された数字を含む数値を表すものとする。
【0022】
《ポリビニルアルコール系樹脂》
まず、本実施形態で用いられるPVA系樹脂について説明する。
PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
【0023】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0024】
本実施形態で用いられるPVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726:1994に準拠して測定)は、350~1000が好ましく、400~800がより好ましく、450~600がさらに好ましい。
かかる平均重合度が350以上であると樹脂の強度が十分に得られる。また、かかる平均重合度が1000以下であると射出成型時のせん断発熱発生による樹脂の分解を抑制できる。
【0025】
また、本実施形態で用いられるPVA系樹脂のケン化度(JIS K6726:1994に準拠して測定した平均ケン化度)は、60~99.9モル%が好ましく、80~99.5モル%がより好ましく、90~99.5モル%がさらに好ましい。
かかるケン化度が60モル%以上であれば、水溶性が向上し、また、99.9モル%以下であれば溶融成形が容易となる。
【0026】
本実施形態のPVA系樹脂は、未変性PVA系樹脂の他に、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種モノマーを共重合させ、これをケン化して得られる変性PVA系樹脂や、未変性PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した各種の後変性PVA系樹脂等を用いることができる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができる。また、場合によっては、変性PVA系樹脂を更に後変性させてもよい。
【0027】
ビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0028】
また、後反応によって官能基が導入された変性PVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVAと反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0029】
PVA系樹脂が変性PVA系樹脂である場合、かかる変性PVA系樹脂中の変性種、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量(変性量)は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、0.1~20モル%が好ましく、0.5~12モル%の範囲がより好ましい。
【0030】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、本実施形態においては、親水性の変性基を有するPVA系樹脂が好ましく用いられる。親水性変性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシル基)、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。
特に水溶性の観点から、1,2ジオール変性基を有する構造単位を含有するPVA系樹脂が好ましい。
【0031】
このような1,2ジオール変性基を有する構造単位を含有するPVA系樹脂の中でも、下記一般式(1)で表される、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂(以下、「側鎖1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂」と称することがある。)を用いることが好ましい。PVA系樹脂が、側鎖1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂であることで、融点を低くできるため、溶融成形時の温度範囲を広げることができる。
なお、1,2-ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0032】
【0033】
(式(1)中、R1~R6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0034】
上記一般式(1)中、R1~R6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。R1~R6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1~5のアルキル基であってもよい。当該アルキル基としては特に限定しないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等が好ましく、当該アルキル基は必要に応じてハロゲノ基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0035】
また、一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよい)の他、-O-、-(CH2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは1~5の整数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
【0036】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における特に好ましい構造は、R1~R6がすべて水素原子であり、Xが単結合である下記式(1a)で示される構造単位である。
【0037】
【0038】
PVA系樹脂が側鎖1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂である場合、側鎖1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂に含まれる、一般式(1)で表される構造単位の含有量(変性量)は、0.1~10モル%が好ましく、0.5~9モル%がより好ましく、1~8モル%がさらに好ましい。かかる含有量が0.1モル%以上であると、側鎖1,2-ジオール構造の効果が十分に得られる。また、かかる含有量が10モル%以下であれば、溶融成型性が向上する。
【0039】
なお、PVA系樹脂中の1,2-ジオール構造単位の含有量(変性量)は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの1H-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2-ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0040】
また、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いる場合の好ましいケン化度は、80~99.9モル%が好ましく、98.5~99.5モル%がより好ましい。かかるケン化度が80モル%以上であれば、分解しづらく、高温での変形を抑制できる。
【0041】
側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂の製造方法としては、公知の製造方法により製造することができる。例えば、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0042】
【0043】
(式(2)中、R1~R6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子又はR9-CO-(式中、R9は炭素数1~6のアルキル基である。)を表す。)
【0044】
【0045】
(式(3)中、R1~R6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0046】
【0047】
(式(4)中、R1~R6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【0048】
上記一般式(2)~(4)中のR1~R6およびXの具体例、好ましい例示は、上記式(1)の場合と同様である。また、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9-CO-(式中、R9は炭素数1~6のアルキル基である)である。R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、炭素数1~5のアルキル基の具体例、好ましい例示は式(1)の場合と同様である。
【0049】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006-95825号公報に説明されている方法を用いることができる。
上記方法の中でも、共重合反応性および工業的な取扱い性に優れるという点から、(i)の方法が好ましく、特に、上記一般式(2)で表わされる化合物としてR1~R6が水素原子、Xが単結合、R7、R8がR9-CO-であり、R9が炭素数1~4のアルキル基である3,4-ジアシロキシ-1-ブテンを用いることが好ましく、その中でも特に、R9がメチル基である3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましく用いられる。
【0050】
本実施形態で用いられるPVA系樹脂は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、その場合は、上述の未変性PVA同士、未変性PVAと一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂、ケン化度、平均重合度、変性量などが異なる一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂同士、未変性PVA、あるいは一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂と他の変性PVA系樹脂、などの組み合わせを用いることができる。
【0051】
〔その他の成分〕
PVA系樹脂は、本発明の効果を損なわない程度であれば、添加剤としてステアリン酸マグネシウムや12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム等の滑剤を添加してもよい。さらにグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸等の可塑剤を必要に応じて含有させてもよい。
【0052】
《析出方法》
次に、本実施形態に係るPVA系樹脂の析出方法について説明する。
本実施形態に係る析出方法は、PVA系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を撹拌下で混合し、混合開始から混合終了までをA時間として、A時間を60分割した場合に、混合開始時をA0、n/60時間目をAn、混合終了時をA60としたときに(ただし、0<n<60)、下記式(I)により算出される値が、A1において0.010~20であり、A60において0.05~0.75であることを特徴とする。
(PVA系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
【0053】
本実施形態に係るPVA系樹脂の析出方法では、PVA系樹脂水溶液と、アルコールを主成分とする析出液とを、撹拌下で混合して得られる混合液において、析出液の割合が徐々に増加する。本明細書において、「混合終了時」とは、混合すべき析出液の全量のPVA系樹脂水溶液への接触が完了した時をいう。例えば、析出液をPVA系樹脂水溶液に滴下する場合には、混合すべき析出液の全量の滴下が完了した時が「混合終了時」である。
【0054】
ここで、PVA系樹脂水溶液は、上記PVA系樹脂を含有する水溶液である。PVA系樹脂水溶液は、PVA系樹脂を水に接触させて、PVA系樹脂を溶解すること(溶解工程)によって得られる。
【0055】
PVA系樹脂を水に接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧常温溶解法、高圧常温溶解法、常圧熱水溶解法、高圧熱水溶解法などが挙げられ、装置としては、超音波ホモジナイザー、スリーワンモーター、ホモミキサーなどを使用することができる。
接触させる水の水温は、0~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、80~120℃がより好ましい。水温が0℃以上であればPVA系樹脂の溶解が可能となり、また、200℃以下であればPVA系樹脂が分解することを抑制できる。
また溶解時間、すなわちPVA系樹脂と水の接触時間は、0.5~50時間が好ましく、より好ましくは1~25時間、さらに好ましくは1.5~5時間である。かかる溶解時間が0.5時間以上であれば未溶解分が残ることを抑制でき、また、50時間以下であれば経済的に好ましい。
【0056】
溶解工程によって得られるPVA系樹脂水溶液の濃度としては、その種類や溶解装置等によって多少異なるが、1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。
PVA系樹脂水溶液の濃度が1質量%以上であると、後述する回収工程の繰り返し回数を少なくできるため、効率的である。また、該濃度が40質量%以下であれば、溶解性が高くなり溶解工程の効率を十分に高め得る。
【0057】
本実施形態で用いられる析出液は、アルコールを主成分とするものであり、析出液中のアルコールの含有量は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは100質量%である。かかる含有量が50%以上であれば、十分な析出効果が得られる。
アルコール以外の成分としては、析出性を阻害しないものであれば、特に限定されないが、通常は酢酸メチル、酢酸エチル又は水を使用することができ、特に水が好適に用いられる。
【0058】
アルコールとしては、回収率の観点から、炭素数が1~6のアルコールを用いることが好ましい。
炭素数1~6のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、析出物の粘着性を低下させて塊状になることを抑制する観点から、メタノール、2-プロパノール、エタノール、1-プロパノール、tert-ブチルアルコールが好ましく、メタノール、IPAがより好ましく用いられる。なお、アルコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
炭素数が上記範囲であることで、PVA系樹脂の析出量を増加できる。
【0059】
本実施形態に係る析出方法は、PVA系樹脂水溶液とアルコールを主成分とする析出液を撹拌下で混合し、混合開始から混合終了までをA時間として、A時間を60分割した場合に、混合開始時をA0、n/60時間目をAn、混合終了時をA60としたときに(ただし、0<n<60)、下記式(I)により算出される値が、A1において0.010~20となるようにする。
(PVA系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
【0060】
式(I)により算出される値が、A1において0.010以上となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状ではなく、粒子径の小さなPVA系樹脂となる。これにより、カッターポンプ等の切断機能を有する装置を用いずとも容易に回収できる。A1において、式(I)により算出される値0.012以上が好ましく、0.015以上がより好ましく、0.020以上がさらに好ましく、0.025以上が特に好ましい。
また、式(I)により算出される値が、A1において20以下となるようにすることで、析出が容易となる。A1において、式(I)により算出される値は19以下が好ましく、18以下がより好ましく、17以下がさらに好ましく、16以下が特に好ましく、15以下が最も好ましい。
【0061】
また、本実施形態においては、上記式(I)により算出される値が、A60において0.05~0.75となるようにする。式(I)により算出される値が、A60において0.05以上となるようにすることで析出液に対するPVA系樹脂の回収量を多くできる。A60において、式(I)により算出される値は0.06以上とすることが好ましく、0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、0.15以上が特に好ましい。
また、式(I)により算出される値が、A60において0.75以下となるようにすることで、回収率を高められる。A60において、式(I)により算出される値は0.7以下とすることが好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が特に好ましい。
【0062】
また、A2において、上記式(I)により算出される値が0.020~16となるようにすることが好ましい。A2において、式(I)により算出される値が0.020以上となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状となることを抑制し、より微細な粒子径のPVA系樹脂を析出できる。A2において、式(I)により算出される値は0.030以上とすることがより好ましく、0.035以上がさらに好ましく、0.040以上が特に好ましく、0.045以上が最も好ましい。
また、式(I)により算出される値が、A2において16以下となるようにすることで、回収率を高められる。A2において、式(I)により算出される値は14以下とすることがより好ましく、12以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましく、9以下が最も好ましい。
【0063】
また、上記式(I)により算出される値が、A3において0.030~12となるようにすることが好ましい。A3において、式(I)により算出される値が0.030以上となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状になることを抑制し、より微細な粒子径のPVA系樹脂を析出できる。A3において、式(I)により算出される値は0.040以上とすることがより好ましく、0.050以上がさらに好ましく、0.060以上が特に好ましい。
また、式(I)により算出される値が、A3において12以下となるようにすることで、回収率を高められる。A3において、式(I)により算出される値は10以下とすることがより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が特に好ましい。
【0064】
また、A10において、上記式(I)により算出される値が、0.035~7となるようにすることが好ましい。A10において式(I)により算出される値が上記範囲内となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状になることを抑制し、より微細な粒子径のPVA系樹脂を析出できる。A10において式(I)により算出される値は、0.040~6がより好ましく、0.050~5がさらに好ましく、0.070~4が特に好ましく、0.10~3が最も好ましい。
【0065】
また、A20において、上記式(I)により算出される値が、0.040~3となるようにすることが好ましい。A20において式(I)により算出される値が0.040以上となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状になることを抑制し、粒子径のPVA系樹脂を析出できる。A20において式(I)により算出される値は、0.045以上とすることがより好ましく、0.060以上がさらに好ましく、0.080以上が特に好ましく、0.120以上が最も好ましい。
また、式(I)により算出される値が、A20において3以下となるようにすることで、高効率にPVA系樹脂を回収できる。A20において式(I)により算出される値は、2以下とすることがより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1以下が特に好ましく、0.9以下が最も好ましい。
【0066】
また、A30において、上記式(I)により算出される値が、0.045~1となるようにすることが好ましい。A30において式(I)により算出される値が、上記範囲内となるようにすることで、析出するPVA系樹脂が繊維状になることを抑制し、より微細な粒子径のPVA系樹脂を析出できる。A30において式(I)により算出される値は、0.050~0.9がより好ましく、0.065~0.8がさらに好ましく、0.085~0.7が特に好ましく、0.13~0.6が最も好ましい。
【0067】
PVA系樹脂水溶液と析出液とを混合する際の液温は、室温でもよく、好ましくは5~40℃、より好ましくは10~35℃となるように調整するのが好ましい。混合時の温度を上記範囲内とすることで、アルコールの蒸発を抑制できる。
【0068】
上記析出液とPVA系樹脂水溶液を混合する方法は、特に限定されないが、混合性の観点から、槽内循環用の撹拌翼を有する撹拌槽の中で析出液とPVA系樹脂水溶液を撹拌下で混合することが好ましい。
【0069】
PVA系樹脂水溶液と析出液とを撹拌下で混合する場合、下記の式(II)により算出される値が100以上となるように撹拌を行うことが好ましい。
(d/D)×N・・・式(II)
ここで、式(II)中、dは撹拌翼の翼径(m)、Dは撹拌槽の槽径(m)、Nは撹拌翼の回転数(rpm)である。なお、撹拌槽の槽径は、撹拌槽の内側の直径(内径)を意味する。
【0070】
上記式(II)により算出される値が100以上であることにより、析出するPVA系樹脂が繊維状とならず粒子化する。上記式(II)により算出される値は、110以上がより好ましく、120以上がさらに好ましく、130以上が特に好ましい。また、撹拌力の観点から、上記式(II)により算出される値は、3000以下が好ましく、1000以下がより好ましく、500以下がさらに好ましく、300以下が特に好ましい。
【0071】
撹拌翼の翼径dと撹拌槽の槽径Dの比率(d/D)は、0.1~0.95が好ましく、0.2~0.9がより好ましく、0.25~0.8が特に好ましい。d/Dが上記範囲内であることで、より効率的に撹拌できるため好ましい。
なお、翼径dとは、撹拌軸から翼の先端までの長さの2倍の値である。
【0072】
また、撹拌翼の回転数Nは、撹拌力の観点から、50~5000rpmが好ましく、100~4000rpmがより好ましく、150~3000rpmがさらに好ましい。
【0073】
撹拌翼としては、例えば、エッジドタービン翼(ディスパとも呼ばれる)、パドル翼、等が挙げられる。これらの中でも、攪拌の際のせん断力が大きくなりやすい観点から、エッジドタービン翼を用いて撹拌を行うことが好ましい。
撹拌翼は、撹拌軸に対して一段でも、多段で設置してもよく、多段で設置する場合、同一でも、異なっていてもよい。なお、撹拌軸に対して多段で撹拌翼を設置する場合、撹拌翼の翼径が最も大きいものが、上記式(II)およびd/Dを満たすことが好ましい。
【0074】
撹拌槽の形状は特に限定されないが、例えば、円筒縦型、半楕円型、半円型、円錐型を挙げることができる。
【0075】
混合時間の合計は、混合性の観点から、0.2~48時間であることが好ましく、0.5~24時間であることがより好ましく、1~12時間であることがさらに好ましい。
混合すべき析出液の全量のPVA系樹脂水溶液への接触が完了した後、例えば、析出液をPVA系樹脂水溶液に滴下する場合には、混合すべき析出液の全量の滴下完了後、任意の時間において、撹拌を続けてもよい。
【0076】
PVA系樹脂水溶液と析出液を混合することにより、PVA系樹脂が析出し、混合溶液と析出したPVA系樹脂が得られる。
【0077】
本実施形態に係る析出方法により析出されるPVA系樹脂は、その粒子径が0.1~50mmであることが好ましい。本発明の方法によりPVA系樹脂が微細な粒子状で析出し、析出したPVA系樹脂の粒子径が上記範囲内であることで、析出したPVA系樹脂を輸送する際にカッターポンプ等を用いずとも配管を通して輸送が可能であり、回収が容易かつコストの面で好ましい。
析出したPVA系樹脂の粒子径は、0.1~30mmがより好ましく、0.1~10mmがさらに好ましく0.5~5mmが特に好ましい。
なお、粒子径は、析出したPVA系樹脂から任意の10個採取し、ノギスで計測した最大径の値の平均値とする。
【0078】
PVA系樹脂水溶液中のPVA系樹脂の質量に対して、上記析出方法により析出したPVA系樹脂の質量の割合(回収率)は、50%以上であることが好ましい。回収率が50%以上であれば、溶液中のPVA系樹脂を十分に回収できる。回収率は高いほど好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましく、上限は100%である。
ここで、回収率は、以下の方法によって算出できる。
上記析出方法により析出したPVA系樹脂を、乾燥機(例えば、ESPEC社製SPH-102)を用いて140℃で3時間乾燥する。乾燥させたPVA系樹脂の質量を測定し、下記の式に基づいて、回収率を算出する。
回収率(%)={乾燥後のPVA系樹脂の質量(g)/仕込みのPVA系樹脂の質量(g)}×100
【0079】
《リサイクル方法》
本実施形態に係るリサイクル方法は、上記本実施形態に係る析出方法により析出させたPVA系樹脂を回収すること(回収工程)を含む。
【0080】
本実施形態に係るPVA系樹脂の析出方法により析出したPVA系樹脂を回収する方法については、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。具体的には例えば、析出したPVA系樹脂を混合溶液から濾過し、遠心分離機にかけ、その後、振動流動乾燥機や真空乾燥機等によって乾燥させ、PVA系樹脂を得ることができる。
乾燥時間は2~130時間が好ましく、10~80時間がより好ましい。また、乾燥温度は、特に制限されないが、150℃以下が好ましい。
【実施例0081】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0082】
(実施例1)
<PVA系樹脂の作製>
一般式(1a)で表わされる1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(a)(ケン化度99.2モル%、重合度350、1,2-ジオール構造単位含有量 6モル%)を二軸押出機にて、溶融押出にてペレット化した。かかるペレットは全長3mm、外径2mmの円筒状である。
【0083】
(A)溶解工程
撹拌翼を設置した反応缶に水を入れ、500rpmで攪拌しながら上記ペレットを添加し、85℃に昇温後、上記ペレットを水に完全に溶解し約27質量%のPVA系樹脂(a)水溶液を得た。次いで、揮発分法{(乾燥後固体の質量/水溶液質量)×100}により固形分を算出し、加水により25質量%PVA樹脂(a)水溶液を調整した。
【0084】
(B)析出工程
2Lの撹拌槽(槽径D:0.13m)にメタノール100gを入れた。
スリーワンモーター(EYELA製)でエッジドタービン翼(翼径d:0.1m)を撹拌翼として使用し、回転数N:200rpmで撹拌しながら、メタノールからなる析出液900gを900g/時間、200gのPVA系樹脂(a)25質量%水溶液を200g/時間の滴下速度で滴下ロートを使用して滴下した。
混合開始から混合終了までをA時間としてA時間を60分割し、A0、A1、A2、A3、A20およびA60のときにおける下記式(I)の値を、表1および表2に示した。
(ポリビニルアルコール系樹脂の質量+水の質量)/アルコールの質量・・・式(I)
なお、実施例1において、A時間は1時間であった。
【0085】
また、撹拌翼の翼径d(m)、撹拌槽の槽径D(m)、および撹拌の回転数N(rpm)を用いて、下記式(II)を算出し、得られた値を表3に示した。
(d/D)×N・・・(II)
【0086】
(C)回収工程
上記析出工程で析出したPVA系樹脂(a’)をメッシュでろ過し、140℃で3時間乾燥させてPVA系樹脂(a’)を得た。
【0087】
《評価方法》
<析出したPVA系樹脂の粒子径>
上記析出工程にて得られたPVA系樹脂(a’)から任意の10個のPVA系樹脂を採取し、ノギスで測定した最大径の値の平均値とした。結果を表1に示す。なお、析出したPVA系樹脂が塊状(繊維状樹脂が絡まった状態)となった場合は、表1において×とした。
【0088】
<回収率>
上記回収工程にて得られたPVA系樹脂(a’)の質量を測定し、下記の式に基づいて、回収率を算出した。結果を表1に示す。
回収率(%)={乾燥後のPVA系樹脂(a’)の質量(g)/仕込みのPVA系樹脂(a)の質量(g)}×100
【0089】
(実施例2)
実施例1において、撹拌翼の回転速度N、および撹拌翼の翼径dを表3に記載のものに変更した以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3)
実施例1において、アルコールをIPAに変更した以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例4)
実施例1において、PVA系樹脂(a)水溶液の濃度を10質量%に変更した以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例5)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にメタノールを入れず、PVA系樹脂(a)25質量%水溶液200gを入れ、さらに、混合開始からは1000gのメタノールを1000g/時間の滴下速度で滴下し、PVA系樹脂(a)25質量%水溶液は滴下しなかったこと以外は、実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例6)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にメタノール42gとPVA系樹脂(a)25質量%水溶液55gを入れ、さらに、混合開始からは958gのメタノールを958g/時間、145gのPVA系樹脂(a)25質量%水溶液を145g/時間の滴下速度で滴下したこと以外は、実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にメタノール1000gを入れ、さらに、混合開始からはアルコールの滴下は行わなかったこと以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例2)
比較例1において、撹拌速度を50rpmに変更した以外は比較例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例3)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にメタノール400gを入れ、さらに、混合開始からは、600gのメタノールを600g/時間の滴下速度で滴下したこと以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例4)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にメタノール1000gを入れ、さらに、混合開始からは、アルコールの滴下は行わず、また、撹拌翼としてパドル翼を用いたこと以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例5)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にIPA1000gを入れ、さらに、混合開始からは、アルコールの滴下はしなかったこと以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例6)
実施例1において、メタノール100gを100g/時間の滴下速度で滴下した以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例7)
実施例1において、混合開始時(A0)に撹拌槽にIPA800gを入れ、さらに、混合開始からは、350gのPVA系樹脂(a)20質量%水溶液を3.9g/分(234g/時間)で滴下し、アルコールの滴下は行わなかったこと以外は実施例1と同様にし、評価した。結果を表1に示す。なお、比較例7ではA時間は1.5時間であった。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実施例1~6は、粒子径が10mm以下の微細なPVA系樹脂が得られた。また、回収率も75%以上と高かった。
一方、式(I)で算出される値が、A1において0.010未満である比較例1~5、7は、回収率は高いものの、析出したPVA系樹脂は塊状であった。また、式(I)で算出される値が、A60において0.75超である比較例6は、析出したPVA系樹脂の粒子径が小さいものの、回収率が5%と低かった。