(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144217
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、それを含む組成物、塗料、インク及びトナー
(51)【国際特許分類】
C08G 63/16 20060101AFI20241003BHJP
C09D 167/02 20060101ALI20241003BHJP
C09D 11/104 20140101ALI20241003BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G63/16
C09D167/02
C09D11/104
G03G9/087 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040999
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023053062
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】金子 朝子
【テーマコード(参考)】
2H500
4J029
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500CA06
2H500CA44
2H500EA12B
2H500EA32B
2H500EA39B
2H500EA41B
4J029AA05
4J029AB01
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4J029AE11
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4J029CF19
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4J029JB131
4J029JF321
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4J038DD081
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4J038MA13
4J038MA14
4J038NA27
4J038PC08
4J039AE06
4J039EA48
(57)【要約】
【課題】保存安定性、乳化適性に優れたポリエステル樹脂を得ることができ、製造過程での副反応物の生成を抑制することができるポリエステル樹脂、それを含む組成物、塗料、インク及びトナーを提供することを目的とする。
【解決手段】単量体由来の構成単位が多価カルボン酸(a)由来の構成単位及び多価アルコール(b)由来の構成単位を有し、前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位がフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位及び脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位を有し、前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が30モル%よりも大きく70モル%以下であり、酸価が5~16mgKOH/gである、ポリエステル樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体由来の構成単位が多価カルボン酸(a)由来の構成単位及び多価アルコール(b)由来の構成単位を有し、
前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位がフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位及び脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位を有し、
前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が30モル%よりも大きく70モル%以下であり、
酸価が5~16mgKOH/gである、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する前記フランジカルボン酸(a1)由来の構成単位の割合が20~70モル%である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記脂肪族ジカルボン酸(a2)が、コハク酸、コハク酸無水物、及びセバシン酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記多価アルコール(b)が1,2-プロピレングリコール(b1)を含み、前記多価アルコール(b)由来の構成単位の総量に対する前記1,2-プロピレングリコール(b1)由来の構成単位の割合が20~80モル%である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記単量体由来の構成単位が、3官能以上の化合物由来の構成単位を含有する、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂が非晶質ポリエステル樹脂である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が40~80℃である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂を含む組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂を含む塗料。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂を含むインク。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、それを含む組成物、塗料、インク及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、コーティング材料、接着剤、フィルム、成型品等の用途に広く使用されている。
【0003】
近年、地球温暖化抑制等の環境保護の観点から、カーボンニュートラルを実現するために様々な検討が行われている。例えば、従来の石油原料由来のプラスチックから、環境負荷の少ない植物原料由来のプラスチックへの転換が図られおり、ポリエステル樹脂についても植物由来の化合物を使用したポリエステル樹脂の検討が進められている。
【0004】
ポリエステル樹脂を各種用途に適用する際には、それぞれの用途に合わせた配合物を配合し、組成物とした際に組成物全体の植物由来の化合物の使用割合(バイオマス度)を担保するために、バイオマス度の高いポリエステル樹脂が求められている。また、バイオマスマークなどの各種認証を得るためにも、植物由来の原料を用いたバイオマス度の高いポリエステル樹脂の要望が高まっている。
【0005】
近年では、植物由来のポリエステル樹脂の原料として、テレフタル酸に替えて2,5-フランジカルボン酸(FDCA)を活用したポリエステル樹脂が種々検討されている。
例えば、引用文献1には、溶剤溶解性、ガスバリア性に優れるコーティング材料として、FDCAを用いたポリエステル樹脂が開示されている。
また、特許文献2には、バイオマス原料とリサイクル原料を用いた、インキ・塗料向けのポリエステル樹脂が開示されている。
しかしながら、これらのポリエステル樹脂は、植物由来ではない原料も多く含むポリエステル樹脂であり、バイオマス度では満足いくものではなかった。
【0006】
さらに重合触媒についても、スズ触媒に替えて、安定性の高いチタン化合物の使用が広がっている。
特許文献3、特許文献4、特許文献5には、FDCAを用いた、植物由来原料を多く含むトナー用樹脂が提案されている。特許文献3にはFDCAを用いることで得られるトナーの低温定着性と保存性が良好となること、特許文献4にはFDCAに加えてさらにグリセリンを用いることで得られるトナーの耐久性が良好となること、引用文献5にはFDCAに加えてさらにイソソルビドを用いることで得られるトナーの生産性(粉砕性)が良好となることが開示されている。
しかしながら、これらの開示技術においてはスズ触媒を用いており、さらなる化合物の安定性への配慮が求められている。また、トナーバインダー以外の用途に適応できるポリエステル樹脂が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2019/244797号
【特許文献2】国際公開2022/202672号
【特許文献3】特開2012-107228号公報
【特許文献4】特開2013-97059号公報
【特許文献5】特開2013-231148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、保存安定性、乳化適性に優れたポリエステル樹脂を得ることができ、製造過程での副反応物の生成を抑制することができるポリエステル樹脂、それを含む組成物、塗料、インク及びトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を含む。
[1]単量体由来の構成単位が多価カルボン酸(a)由来の構成単位及び多価アルコール(b)由来の構成単位を有し、前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位がフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位及び脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位を有し、前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が30モル%よりも大きく70モル%以下であり、酸価が5~16mgKOH/gである、ポリエステル樹脂。
[2]前記多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する前記フランジカルボン酸(a1)由来の構成単位の割合が20~70モル%である、[1]に記載のポリエステル樹脂。
[3]前記脂肪族ジカルボン酸(a2)が、コハク酸、コハク酸無水物、及びセバシン酸から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂。
[4]前記多価アルコール(b)が1,2-プロピレングリコール(b1)を含み、前記多価アルコール(b)由来の構成単位の総量に対する前記1,2-プロピレングリコール(b1)由来の構成単位の割合が20~80モル%である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[5]前記単量体由来の構成単位が、3官能以上の化合物由来の構成単位を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[6]前記ポリエステル樹脂が非晶質ポリエステル樹脂である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[7]前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が40~80℃である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む組成物。
[9][1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含む塗料。
[10][1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むインク。
[11][1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むトナー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存安定性、乳化適性に優れたポリエステル樹脂を得ることができ、製造工程での副反応物の生成を抑制することができるポリエステル樹脂、それを含む組成物、塗料、インク及びトナーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリエステル樹脂]
実施形態に係るポリエステル樹脂は、以下の要件(i)~(iv)を満たす。
(i)単量体由来の構成単位が多価カルボン酸(a)由来の構成単位及び多価アルコール(b)由来の構成単位を有する。
(ii)多価カルボン酸(a)由来の構成単位がフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位及び脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位を有する。
(iii)多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が30モル%よりも大きく70モル%以下である。
(iv)ポリエステル樹脂の酸価が5~16mgKOH/gである。
【0012】
実施形態に係るポリエステル樹脂は、前記(i)~(iv)を満たすことにより、保存安定性、乳化適性に優れるうえ、副反応物の生成を抑制しつつ効率良く製造することができる。
【0013】
(単量体混合物)
実施形態に係るポリエステル樹脂の製造に用いる単量体混合物は、植物由来の化合物を85質量%以上含有することが好ましい。植物由来の化合物の割合が85質量%以上であれば、バイオマス度が高く、環境適性に優れる。単量体混合物は、石油由来の化合物を含んでもよい。
単量体混合物中の植物由来の化合物の割合は、単量体混合物の総質量に対し、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0014】
実施形態に係るポリエステル樹脂の製造に用いる単量体混合物は、多価カルボン酸(a)及び多価アルコール(b)を含む。多価カルボン酸(a)及び多価アルコール(b)の少なくとも一方は植物(バイオマス)由来であることが好ましく、多価カルボン酸(a)及び多価アルコール(b)の両方が植物(バイオマス)由来であることがより好ましい。
【0015】
(多価カルボン酸(a))
多価カルボン酸(a)は、フランジカルボン酸(a1)及び脂肪族ジカルボン酸(a2)を含む。
【0016】
フランジカルボン酸(a1)としては、例えば2,5-フランジカルボン酸が挙げられる。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸(a2)は、フランジカルボン酸(a1)以外の脂肪族ジカルボン酸成分であって、例えば、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、ジグリコール酸、又はこれらの低級アルキルエステルもしくは酸無水物が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、植物由来物質、石油由来物質のいずれでもよいが、植物由来であると、環境負荷を低減することができるため好ましい。植物由来のセバシン酸、コハク酸及びその無水物が特に好ましい。
2,5-フランジカルボン酸とともに、脂肪族ジカルボン酸(a2)としてジグリコール酸及びアジピン酸の少なくとも一方を用いると、生分解性の向上が期待できる。
【0018】
多価カルボン酸(a)は、フランジカルボン酸(a1)及び脂肪族ジカルボン酸(a2)に加えて、芳香族ジカルボン酸(a3)を含んでもよい。
芳香族ジカルボン酸(a3)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸の異性体(具体的には1,4-、1,5-、1,6-、1,7-、2,5-、2,6-、2,7-、2,8-)、及びこれらの低級アルキルエステル若しくは酸無水物等が挙げられる。テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えばテレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル及びイソフタル酸ジブチル等が挙げられる。これらは植物由来物質、石油由来物質のいずれでもよいが、植物由来であることが好ましい。
【0019】
芳香族ジカルボン酸(a3)としては、ハンドリング性及びコストに優れる点では、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸(a3)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
多価カルボン酸(a)の総量(100モル%)に対する芳香族ジカルボン酸(a3)の割合は、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。下限値は通常、0モル%である。
【0021】
多価カルボン酸(a)は、3価以上のカルボン酸を含んでもよい。
3価以上のカルボン酸としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、及びこれらの酸無水物や低級アルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、3価以上のカルボン酸としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物が好ましく、トリメリット酸及びその無水物が特に好ましい。
3価以上のカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
実施形態に係るポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸(a)由来の構成単位はフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位を有する。フランジカルボン酸(a1)由来の構成単位を有することで、得られるポリエステル樹脂のTgを高めやすく、塗膜にした際のタック性を抑えることができる。また、フランジカルボン酸(a1)は、植物由来物質、石油由来物質のいずれでもよいが、植物由来物質であると、環境負荷を低減することができるため好ましい。
効果を十分に発揮させるため、多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量(100モル%)に対するフランジカルボン酸(a1)由来の構成単位の割合は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上である。また、樹脂を得る際の反応性や、得られる樹脂の物性調整の面から、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下である。前記フランジカルボン酸(a1)由来の構成単位の割合の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、20~70モル%が好ましく、30~60モル%がより好ましい。
【0023】
多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量(100モル%)に対する脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合は、30モル%よりも大きく、40モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が前記下限値以上であれば、反応性を高めることができる。多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合は、70モル%以下であり、60モル%以下がさらに好ましい。前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が前記上限値以下であれば、得られるポリエステル樹脂のTgを高めやすく、塗膜にした際のタック性を抑えることができる。前記脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、30モル%よりも大きく70モル%以下であり、30モル%よりも大きく60モル%以下が好ましい。
【0024】
(多価アルコール(b))
多価アルコール(b)は、例えば、1,2-プロピレングリコール(b1)、エチレングリコール、1,2-プロパンジオールネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイド、イソマンニド、エリスリタン、及び1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン等の脂肪族ジオール、また、例えば、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン及びポリオキシプロピレン(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオール、等の2価のアルコールが挙げられる。なお、「エチレン」の後のカッコ内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数であり、「プロピレン」の後のカッコ内の数値は、プロピレンオキサイドの平均付加モル数である。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらは植物由来物質、石油由来物質のいずれでもよいが、植物由来であることが好ましい。植物由来の多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオールが好ましく、最も好ましくは1,2-プロピレングリコール(b1)である。
【0025】
1,2-プロピレングリコール(b1)由来の構成単位の割合は、多価アルコール(b)由来の構成単位の総量(100モル%)に対し20~80モル%であることが好ましく、特に40~75モル%が好ましい。1,2-プロピレングリコール(b1)由来の構成単位の割合が下限値以上であると、非晶質のポリエステルが得られやすく、得られるポリエステル樹脂の溶剤溶解性が良好となったり、Tgを高めることができる。
本発明においては、フランジカルボン酸(a1)を必須成分としており、1,2-プロピレングリコール(b1)を併用するとエステル化反応中に1,2-プロピレングリコール(b1)が副反応して留去する場合がある。1,2-プロピレングリコール(b1)を上記の上限値以下とすることで、副反応を抑制しやすくなる。
また、1,2-プロピレングリコール(b1)以外の多価アルコール(b2)由来の構成単位の割合は、多価アルコール(b)由来の構成単位の総量(100モル%)に対し20~80モル%であることが好ましく、特に25~60モル%が好ましい。
【0026】
本発明においては、単量体混合物に3官能以上の化合物を含むこと、すなわちポリエステル樹脂が三価以上の酸成分由来の構造単位及び三価以上のアルコール成分由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも一つを有することが好ましい。三価以上の酸成分由来の構造単位及び三価以上のアルコール成分由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも一つを有することで、重合時の反応性が良好となったり、非晶質のポリエステルが得られやすくなったりする傾向がある。
【0027】
本発明において使用できる三価以上の酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸又はこれらのエステルもしくは酸無水物等が挙げられる。
本発明において使用できる三価以上のアルコール成分としては、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサテトラロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。これらは植物由来物質、石油由来物質のいずれでも良いが、植物由来であることが好ましい。特に、グリセロールを用いると、得られる樹脂のTgを高めやすくなり好ましい。
【0028】
単量体混合物が3官能以上の化合物を含む場合、単量体混合物の総量(100モル%)に対する3官能以上の化合物の割合は、2モル%以上が好ましく、5モル%以上が特に好ましい。前記3官能以上の化合物の割合が前記下限値以上であれば、重合時の反応性が良好となったり、非晶質のポリエステルが得られやすくなったりする。単量体混合物の総量(100モル%)に対する3官能以上の化合物の割合は、30モル%以下が好ましく、20モル%以下が特に好ましい。前記3官能以上の化合物の割合が前記上限値以下であれば、ゲルが生成し難くなり、得られる樹脂の溶剤溶解性を良好にすることができる。前記3官能以上の化合物の割合の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、2~30モル%が好ましく、3~20モル%がより好ましい。
【0029】
(他の成分)
単量体混合物は、多価カルボン酸(a)及び多価アルコール(b)以外の他の成分を含んでいてもよい。すなわち、ポリエステル樹脂は、他の成分由来の構成単位を有していてもよい。他の成分としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
他の成分としては、1価のカルボン酸、1価のアルコール及び一価のカルボン酸と一価のアルコールのモノエステル、BHET(ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEF(ポリエチレンフラノエート)などのエステル化物等が挙げられる。
【0030】
1価のカルボン酸としては、例えば、安息香酸、p-メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸、桂皮酸、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸等の二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸等が挙げられる。
【0031】
1価のアルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0032】
一価のアルコールと一価のカルボン酸のモノエステルとしては、カルナバワックス、ライスワックス等の天然エステルワックスなどが挙げられる。
他の成分としては、石油由来であってもバイオマス由来であってもよいが、バイオマス由来であることがより好ましい。
【0033】
実施形態に係るポリエステル樹脂は、前記の単量体混合物の反応生成物であって、全構成単位に対する85質量%以上が、植物(バイオマス)由来の化合物(単量体)に由来する構成単位である。
溶剤系のインク、コーティング材、塗料など、溶剤に溶解させる工程を含む用途に好適であることから、ポリエステル樹脂は、非晶質ポリエステル樹脂であることが好ましい。本発明において非晶質とは、ガラス転移点を持ち融点が存在しないことをいう。得られる樹脂を非晶質とするためには、分子内に屈曲部位等の結晶性を乱しやすい構造を持つ単量体等の共重合量を調節するなどの手法がある。
【0034】
ポリエステル樹脂のハンドリング性や得られる塗膜のタック性が良好となる傾向があるため、ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましい。また、塗膜の平滑性や基材密着性が良好となる傾向にあるため、ポリエステル樹脂のTgは、80℃以下が好ましい。ポリエステル樹脂のTgの好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、40~80℃が好ましい。
【0035】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、以下のようにして求める。すなわち、示差走差熱量計(例えば、株式会社島津製作所製、「DSC60 Plus」)を用い、昇温速度5℃/分で測定したときのチャートの低温側のベースラインと、ガラス転移温度近傍にある吸熱カーブの接線との交点の温度を求め、これをガラス転移温度とする。
【0036】
樹脂の保存安定性の観点から、ポリエステル樹脂の軟化温度は、90℃以上が好ましく、100℃以上がさらに好ましい。また、溶剤溶解性、塗膜の平滑性、基材接着性が良好となるため、140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。ポリエステル樹脂の軟化温度の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、90~140℃が好ましく、100~130℃がさらに好ましい。
【0037】
ポリエステル樹脂の軟化温度は、以下のようにして求める。すなわち、フローテスター(例えば、株式会社島津製作所製、「CFT-500D」)を用い、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下で測定し、ポリエステル樹脂1.0g中の1/2量が流出したときの温度を測定し、これを軟化温度とする。
【0038】
ポリエステル樹脂の酸価(AV)は、5mgKOH/g以上であり、7mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは8mgKOH/gである。ポリエステル樹脂の酸価が前記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上し、また乳化加工への適性が向上する。ポリエステル樹脂の酸価は、16mgKOH/g以下であり、14mgKOH/g以下が好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が前記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の耐湿性が向上し、使用環境の影響を受けにくくなる。また乳化加工への適性が向上する。ポリエステル樹脂の酸価の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、5~14mgKOH/gが好ましい。
【0039】
ポリエステル樹脂の酸価とは、試料1g当たりのカルボキシル基を中和するのに必要な水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、単位:mgKOH/gで示される。
ポリエステル樹脂の酸価は、ポリエステル樹脂をベンジルアルコールに溶解し、クレゾールレッドを指示薬として、0.02規定のKOH溶液を用いて滴定して求めた値である。
【0040】
実施形態に係るポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、500~10000が好ましく、より好ましくは800~6000、特に好ましくは1000~4000である。
数平均分子量(Mn)が低すぎると、得られる樹脂の保存性が不充分となる傾向がある。また、数平均分子量(Mn)が高すぎると、接着力が不充分となったり、塗布時の溶液粘度が高すぎて、均一な塗膜が得られ難くなったりする傾向がある。
【0041】
数平均分子量(Mn)は例えば以下の方法で測定できる。
0.2質量%の濃度にてテトラヒドロフラン(THF)に溶解させたサンプル溶液を、東ソー社製HLC-8220GPCを使用して、以下の条件で測定し、10点の標準ポリスチレンにて作成した検量線より分子量値を換算する。
カラム:東ソー社製 TSK guard column HXL-H、TSK gel GMHXL×3
温調:40℃
流量:1.0mL/min
サンプル量:100μL
検出器:RI
【0042】
(製造方法)
実施形態に係るポリエステル樹脂の製造方法としては、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方と重縮合反応において、チタン触媒を用いる方法が好ましい。
チタン触媒としては、例えばアルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物、カルボン酸チタン化合物、カルボン酸チタニル、カルボン酸チタニル塩、チタンキレート化合物等が挙げられる。
【0043】
アルコキシ基を有するチタンアルコキシド化合物としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラペントキシチタン及びテトラオクトキシチタン等が挙げられる。
カルボン酸チタン化合物としては、例えば、蟻酸チタン、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、オクタン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタン、安息香酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタン、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタン、2,5-トルエンジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタン、トリメリット酸チタン、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタン、ピロメリット酸チタン、2,3,4,6-ナフタレンテトラカルボン酸チタン等が挙げられる。これらの中でも、入手しやすさから、テトラブトキシチタンが特に好ましい。
チタン触媒(B)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
チタン触媒の使用量は、全酸成分100質量部に対し、0.005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましい。また、チタン触媒の使用量は、単量体混合物100質量部に対し、0.2質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。前記チタン触媒の使用量の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、0.005~0.2質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましい。
【0045】
(反応工程)
単量体混合物を反応させる工程は、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を実施後、重縮合反応を行うことが好ましい。具体的には、単量体混合物とチタン触媒を反応容器に投入し、加熱昇温して、常圧若しくは窒素による400kPa以下の加圧下にて、エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方を行い、反応で生じた水又はアルコールを除去する。その後、引き続き重縮合反応を実施するが、このとき反応装置内を徐々に減圧し、20kPa以下、好ましくは2kPa以下の圧力下で多価アルコール成分を留出除去させながら重縮合を行うことで、ポリエステル樹脂を製造することができる。
【0046】
エステル化反応及びエステル交換反応の少なくとも一方における重合温度は、反応時間短縮化の観点から、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。また、前記重合温度は、280℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましい。前記重合温度の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、180~280℃が好ましく、200~270℃がより好ましい。
【0047】
重縮合反応時の重合温度は、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましい。重縮合反応時の重合温度が前記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂の生産性が向上する。重縮合反応時の重合温度は、280℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましい。重縮合反応時の重合温度が前記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制でき、TVOC(Total Volatile Organic Compounds)を低減できる。前記重合温度の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、200~280℃が好ましく、220~270℃がより好ましい。
【0048】
重合終点は、例えばポリエステル樹脂の軟化温度により決定される。例えば、撹拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで重縮合反応を行った後、重合を終了させればよい。ここで、「重合を終了させる」とは、反応容器の撹拌を停止し、反応容器の内部に窒素を導入して容器内を常圧とすることをいう。
冷却した後、得られたポリエステル樹脂は所望の大きさに粉砕してもよい。
【0049】
[組成物、塗料、インク、トナー]
本発明のポリエステル樹脂は溶剤に溶解して各種基材に塗布し、コーティング材、インキ、塗料等として活用することができる。また、本発明のポリエステル樹脂は酸価が5~16(mgKOH/g)であるため、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジエチルアミノエタノールなどのアルカリ性物質にて酸末端を中和することで樹脂を塩にし、自己乳化処理することができ、水系溶液として同様に活用することができる。
【0050】
本発明の組成物は溶剤溶解性、保存安定性を保持しつつバイオマス比率を高められる点から前記ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【0051】
本発明の塗料は溶剤溶解性を保持しつつバイオマス比率を高められる点から前記ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【0052】
本発明のインクは溶剤溶解性を保持しつつバイオマス比率を高められる点から前記ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【0053】
本発明のトナーは保存安定性を保持しつつバイオマス比率を高められる点から前記ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【実施例0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0055】
[略号]
実施例における略号は以下の意味を示す。Bioと記載のあるものは、いずれも植物由来の化合物である。
・Bio-FDCA:バイオマス由来2,5-フランジカルボン酸
・Bio-ScA:バイオマス由来コハク酸
・IPA:イソフタル酸
・Bio-PG:バイオマス由来1,2-プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)
・Bio-EG:バイオマス由来エチレングリコール
・Bio-1,3PDO:バイオマス由来1,3プロパンジオール
・Bio-ISB:バイオマス由来イソソルバイド
・Bio-GLY:バイオマス由来グリセリン
・TBT:テトラ-n-ブトキシチタン
【0056】
[測定・評価方法]
本実施例で得られたポリエステル樹脂の測定及び評価方法は、以下の通りである。
【0057】
(ガラス転移温度の測定)
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走差熱量計(株式会社島津製作所製、「DSC-60Plus」)を用いて、昇温速度5℃/分におけるチャートのベースラインと吸熱カーブの接線との交点から測定した。測定試料は、10mg±0.5mgをアルミパン内に計量し、100℃で10分融解後、ドライアイスを用いて急冷却処理したサンプルを用いた。
【0058】
(軟化温度の測定)
ポリエステル樹脂の軟化温度は、フローテスター(株式会社島津製作所製、「CFT-500D」)を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/分の等速昇温下で、樹脂サンプル1.0g中の1/2量が流出したときの温度を測定し、これを軟化温度とした。
【0059】
(酸価の測定)
ポリエステル樹脂の酸価(AV)は、以下のようにして測定した。
測定サンプル約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(a(g))、ベンジルアルコール20mLを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱し、測定サンプルを溶解した。室温まで放冷後、クロロホルム20mL、クレゾールレッド溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=b(mL)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=c(mL))、以下の式に従って酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)={(b-c)×0.02×56.11×p}/a
【0060】
(数平均分子量(Mn)の測定)
ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、以下のようにして測定した。
サンプル瓶内にサンプル0.02g精秤し、テトラヒドロフランを加えて10gとして、0.2質量%の濃度に調整した。密栓して一晩放置し溶解させた後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターを通過させてサンプル溶液とした。
東ソー社製HLC-8220GPCを使用し、以下の条件で測定し、10点の標準ポリスチレンにて作成した検量線より分子量値を換算した。
温調:40℃
カラム:東ソー社製 TSK guard column HXL-H、TSK gel GMHXL×3
流量:1.0mL/min
サンプル量:100μL
検出器:RI
【0061】
(エステル化時の副反応物の測定)
エステル化時の副反応物の理論水量比(%)を以下の方法で測定した。
エステル化反応の際の留出物をメスシリンダーに受け、留出水の上部に浮いた油層の量を読みとり、エステル化反応における水の理論留出量100%としたときの油層の量を算出した。
【0062】
(環境適性の評価)
各サンプルを得る際に用いた原料のうち、植物由来の原料割合(バイオマス度)を算出し以下の基準で評価した。
A:(良好)植物由来の原料を85質量%以上使用している。
D:(不良)植物由来の原料の使用量が85質量%未満。
【0063】
(保存安定性の評価)
サンプル4.0gをメチルエチルケトン(MEK)6.0gに溶解し、40質量%のMEK溶液を調製した。#20のバーコーターを用いて、厚さ100μmのPETフィルムのコロナ処理面上に前記MEK溶液を塗工して、室温で一昼夜以上乾燥させた。得られた塗膜は10μmであった。
次いで塗面にPETフィルムのコロナ処理なしの面を被せ、20℃で2kgの重りを載せて24時間放置した後、以下の基準で保存性を評価した。
A:(良好)被せたPET膜は全く貼りつかない。タック性無し。
B:(やや良好)被せたPET膜は貼りつくが、軽い力で剥がすことができ、塗膜は被せたPET膜に移行しない。
D:(不良)被せたPET膜が塗膜に貼りつき、容易に剥がすことができない。
【0064】
(乳化適性の評価)
各例で得られたポリエステル樹脂について、乳化物の製造を行った。
サンプル25gを2~4倍量のMEK75gに溶解し、ポリエステル樹脂のカルボン酸を100%中和可能な量の5%NH3水をビーカー内に添加して十分になじませてMEK溶液を得た。次いで、サンプルの4倍量の純水中に前記MEK溶液を投入してホモジナイザーにて8000rpmで10分処理した。
次いで、フラスコカバー、撹拌翼及び冷却管を取り付け、ウォーターバス内にて70℃に加温しながらアスピレーターで減圧してMEKを留去し、水及び樹脂のみからなる乳化物を得た。得られた乳化物について、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-960)を用いて粒度分布を測定し、メジアン径を基に以下の基準で評価した。
<評価基準>
A:(良好)200nm以下の乳化物が得られ、乳化適性良好。
B:(やや良好)200nm~300nmの、やや粗い粒径の乳化物が得られた。
C:(不良)300nm超の粗い粒子となった、またはMEKに溶けない、または脱溶剤時に固化し乳化液を得られない。
【0065】
(塗膜の評価)
サンプル4.0gをメチルエチルケトン(MEK)6.0gに溶解し、40質量%のMEK溶液を調製した。#20のバーコーターを用いて、厚さ100μmのPETフィルムのコロナ処理面上に前記MEK溶液を塗工して、室温で一昼夜以上乾燥させた。得られた塗膜は10μmであった。
次いで、前記塗膜の表面にセロテープ(登録商標)を貼り、貼り付け面に1.2kgのローラーを10回通過させた後、セロテープ(登録商標)を直角に剥がし、以下の基準で密着性を評価した。
<評価基準>
A:(良好)塗膜のダメージは無く、PET密着性良好。
B:(やや良好)塗膜はわずかにダメージがある程度。
C:(不良)塗膜のダメージが大きく、PET密着性不良。
【0066】
[実施例1]
<ポリエステル樹脂の製造>
酸成分100モル部に対して、2,5-フランジカルボン酸50モル部(186.2g)、コハク酸50モル部(140.9g)、1,2-プロピレングリコール65モル部(118.0g)、グリセリン10モル部(21.97g)、イソソルバイド35モル部(122.0g)からなる単量体、及び重合触媒として全酸成分の合計量に対して500ppmのテトラ-n-ブトキシチタン(0.164g)を、蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。すべての単量体は植物由来の化合物である。
次いで、反応容器中の撹拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持してエステル化反応を行った。反応系からの水の留出がなくなった時点で、エステル化反応を終了した。
次いで、反応系内の温度を下げて235℃に保ち、反応容器内を約20分間かけて減圧し、真空度を133Paとして重縮合反応を行った。反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに真空度を上昇させ、撹拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで縮合反応を実施した。そして、所定のトルクを示した時点で撹拌を停止し、反応系を常圧に戻し、窒素により加圧して反応物を反応容器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0067】
[実施例2~9、比較例1~7]
酸成分とアルコール成分とからなる単量体混合物の仕込み組成を表1及び表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造した。
【0068】
各例の酸成分とアルコール成分の仕込み組成、得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)、軟化温度、酸価(AV)、エステル化時の副反応物の理論水量比の測定結果、環境適性、保存安定性及び乳化適性の評価結果を表1及び表2に示す。得られた樹脂はすべて非晶質であった。表中の単量体組成の欄の空欄は、その成分が配合されていないことを意味する。
なお、フランジカルボン酸(a1)由来の構成単位及び脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位のモル比を変えた場合の代表例として実施例2、6、7について塗膜の評価を行った。
【0069】
【0070】
【0071】
表1及び表2に示すように、フランジカルボン酸(a1)及び脂肪族ジカルボン酸(a2)を特定の比率で含む多価カルボン酸(a)を用いた実施例1~9は、環境適性に優れるうえ、保存安定性及び乳化適性に優れたポリエステル樹脂が得られた。
一方、脂肪族ジカルボン酸(a2)を用いなかった比較例1は、エステル化反応時の副反応物が多く生じ、エステル化反応が完結せず、樹脂を得ることができなかった。脂肪族ジカルボン酸(a2)の使用量が少ない比較例2は、得られたポリエステル樹脂の乳化適性が劣っていた。脂肪族ジカルボン酸(a2)の使用量が多い比較例3は、得られたポリエステル樹脂の保存安定性が劣っていた。酸価が本願規定の範囲外である比較例4及び比較例5は、得られたポリエステル樹脂の乳化適性が劣っていた。多価カルボン酸(a)由来の構成単位の総量に対する脂肪族ジカルボン酸(a2)由来の構成単位の割合が本願規定の範囲外である比較例6及び比較例7は、得られたポリエステル樹脂の保存安定性又は乳化適性が劣っていた。