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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144241
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水溶性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20241003BHJP
   D21H 17/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/14
C08K5/13
C08K5/36
C08K3/011
D21H17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043902
(22)【出願日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2023051840
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 敬太
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 元晴
【テーマコード(参考)】
4J002
4L055
【Fターム(参考)】
4J002AB031
4J002BE021
4J002BG011
4J002BG131
4J002CH021
4J002CL021
4J002DD058
4J002DD088
4J002DE208
4J002DE228
4J002DE238
4J002DF038
4J002DG028
4J002DG038
4J002DG048
4J002DH048
4J002DJ008
4J002EJ026
4J002EJ036
4J002EJ066
4J002EL096
4J002EV076
4J002EV087
4J002EV127
4J002EV147
4J002EV167
4J002EV347
4J002FD076
4J002GK00
4J002GK04
4L055AG04
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG36
4L055AG56
4L055AG71
4L055AG72
4L055AG88
4L055AG89
4L055AH36
4L055EA32
4L055FA08
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生も抑制できる水溶性ポリマー水溶液を調製することができる水溶性ポリマー組成物、抄紙用粘剤、水溶液およびその製造方法、工業用薬品、キット、紙の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩とを含む。本発明の水溶性ポリマー組成物によれば、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生が抑制される水溶性ポリマー水溶液を調製することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩とを含む、水溶性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記無機塩の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、
前記硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーは、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記無機塩は、その水溶液状態において、中性またはアルカリ性を示す、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~5質量部である、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記無機塩は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれる、請求項1記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記硫黄含有アミン化合物は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれる、請求項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、水とを含む、水溶液。
【請求項9】
鉄イオンと、酸化性の薬剤を含む、請求項8に記載の水溶液。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含有する、工業用薬品。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含有する、抄紙用粘剤。
【請求項12】
請求項9に記載の水溶液の製造方法であって、
前記水溶性ポリマー組成物と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合する工程を備える、製造方法。
【請求項13】
水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤とを含む第1剤と、
遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、
硫黄含有アミン化合物を含む第3剤を備え、
前記第2剤の前記無機塩の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、前記第3剤の硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である、キット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットを用いた水溶液の製造方法であって、
前記第2剤と、前記第3剤と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液と前記第1剤とを混合する工程と、
を備える、水溶液の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載のキットを用いた水溶液の製造方法であって、
鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水と、前記第1剤とを混合して混合液を得る工程と、前記混合液と、前記第2剤と、前記第3剤とを混合する工程と、
を備える、水溶液の製造方法。
【請求項16】
請求項8に記載の水溶液と、紙料とを混合することで前記紙料の水分散体を調製する工程と、
前記紙料の水分散体を抄紙する工程と
を備える、紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマー組成物、抄紙用粘剤、水溶液およびその製造方法、工業用薬品、キット、紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンオキシドなどの水溶性ポリマーは、製紙用途、マイニング用途、セメント用途、染色用途などの各種工業用途における工業用薬品(例えば、抄紙用粘剤、凝集剤、分散剤、沈降促進剤等)として幅広く使用されている(特許文献1参照)。これらの分野において、水溶性ポリマーは、例えば、1ppm~15%程度の水溶液として使用されることが多い。
【0003】
一般に、上記の水溶性ポリマー水溶液の調製に使用される水には、鉄イオンが含まれることがある。斯かる鉄イオンは、例えば、配管の鉄さび等が原因で水に混入し得る。水溶性ポリマー水溶液に鉄イオンが含まれると、粘度が経時的に低下するという問題がある。このような水溶性ポリマー水溶液の粘度の低下は、水溶性ポリマーの機能の発現に弊害をもたらし得る場合がある。例えば、抄紙用途においては、紙料の抄紙用粘剤として水溶性ポリマー水溶液が用いられるところ、当該水溶液の粘度の低下は、紙料の均一分散の阻害、及び、沈降の発生をもたらすことになり、均一な製紙の妨げになり得る。
【0004】
この観点から、例えば、特許文献2には、フェノール系酸化防止剤および無機塩を所定の割合で併用することで、水溶性ポリマー水溶液の経時的な粘度低下を抑制させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/104496号
【特許文献2】国際公開第2021/241662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水溶性ポリマー水溶液の調製に使用される工業用水には、上記のような鉄イオンのみならず、水質改善を目的に殺菌剤およびスライムコントロール剤等の酸化性の薬剤を含むことも多い。この点、本発明者らが検討したところ、鉄イオンが含まれる水を用いた水溶性ポリマー水溶液の粘度低下を抑制できたとしても、鉄イオンに加えて、酸化性の薬剤が存在する水を用いた水溶性ポリマー水溶液の粘度低下は、必ずしも抑制できないことがわかった。工業用水には鉄イオンに加えて酸化性の薬剤が存在しやすいため、鉄イオンと酸化性の薬剤の両方が存在する水を用いて得られた水溶性ポリマー水溶液の粘度低下の発生を抑制することは、各種工業薬品用途において重要であり、とりわけ、上述の抄紙用途にあっては均一な製紙を行う上で極めて重要である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いたとしても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生も抑制できる水溶性ポリマー水溶液を調製することができる水溶性ポリマー組成物、抄紙用粘剤、水溶液、工業用薬品、およびキット、並びに、そのような水溶液の製造方法、および紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
【0009】
項1
水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩とを含む、水溶性ポリマー組成物。
項2
前記無機塩の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、
前記硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部である、項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
項3
前記水溶性ポリマーは、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体である、項1又は2に記載の水溶性ポリマー組成物。
項4
前記無機塩は、その水溶液状態において、中性またはアルカリ性を示す、項1~3のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
項5
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~5質量部である、項1~4のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
項6
前記無機塩は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれる、項1~5のいずれか1項の水溶性ポリマー組成物。
項7
前記硫黄含有アミン化合物は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれる、項1~6のいずれか1項の水溶性ポリマー組成物。
項8
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、水とを含む、水溶液。
項9
鉄イオンと、酸化性の薬剤を含む、項8に記載の水溶液。
項10
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含有する、工業用薬品。
項10´
項8に記載の水溶液を含有する、工業用薬品。
項11
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含有する、抄紙用粘剤。
項11´
項8に記載の水溶液を含有する、抄紙用粘剤。
項12
項8又は9に記載の水溶液の製造方法であって、
前記水溶性ポリマー組成物と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合する工程を備える、製造方法。
項13
水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤とを含む第1剤と、
遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、
硫黄含有アミン化合物を含む第3剤を備え、
前記第2剤の前記無機塩の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、前記第3剤の硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である、キット。
項14
項13に記載のキットを用いた水溶液の製造方法であって、
前記第2剤と、前記第3剤と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液と前記第1剤とを混合する工程と、
を備える、水溶液の製造方法。
項15
項13に記載のキットを用いた水溶液の製造方法であって、
鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水と、前記第1剤とを混合して混合液を得る工程と、前記混合液と、前記第2剤と、前記第3剤とを混合する工程と、
を備える、水溶液の製造方法。
項16
項8又は9に記載の水溶液と、紙料とを混合することで前記紙料の水分散体を調製する工程と、
前記紙料の水分散体を抄紙する工程と
を備える、紙の製造方法。
項17
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含有する、粘度低下抑制剤。
項18
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物の水溶液を調製する工程を備える、水溶液の粘度低下抑制方法。
項19
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物の水溶液への使用。
項20
項1~7のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物の抄紙用粘剤への使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性ポリマー組成物によれば、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いたとしても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生も抑制できる水溶性ポリマー水溶液を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値または下限値は、実施例に示されている値または実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値および上限値として含む数値範囲を意味する。
【0013】
1.水溶性ポリマー組成物
本発明の水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、無機塩とを含む。ここで、当該無機塩としては、遷移金属塩を除く。斯かる水溶性ポリマー組成物によれば、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いたとしても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生も抑制できる水溶性ポリマー水溶液を調製することができる。従って、本発明のポリマー組成物は、各種工業薬品に好適に使用することができ、例えば、製紙などにおける抄紙工程において紙料の均一分散と沈降を防止し安定した紙の生産に寄与できる。
【0014】
(水溶性ポリマー)
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる水溶性ポリマーは特に限定されず、例えば、公知の水溶性を有するポリマーを広く挙げることができる。
【0015】
水溶性ポリマーの具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの水溶性のポリアルキレンオキシド;(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物;(メタ)アクリルアミドの単重合体;ポリビニルアルコール;ポリアミノ酸;カルボキシメチルセルロース又はその塩等のセルロース類;等が挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0016】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」または「メタクリレート」を、「(メタ)アリル」とは「アリル」または「メタリル」を意味する。
【0017】
中でも水溶性ポリマーは、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、より粘度低下が起こりにくい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になる。
【0018】
水溶性のポリアルキレンオキシドの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。具体例として、アルカリ又は金属触媒の存在下でアルキレンオキシドを重合させる方法により、水溶性のポリアルキレンオキシドを製造する方法が挙げられる。水溶性のポリアルキレンオキシドは、市販品等からも入手することができ、例えば、住友精化株式会社の製品名「PEO」シリーズ、ダウ・ケミカル社の製品名「POLYOX」シリーズ、明成化学工業株式会社の製品名「Alkox」シリーズまたは日本ゼオン株式会社の製品名「ゼオスパン」シリーズ等が挙げられる。
【0019】
なお、水溶性のポリアルキレンオキシドがポリプロピレンオキシドである場合、斯かるポリプロピレンオキシドを構成するプロピレンオキシドとしては、通常、1,2-プロピレンオキシドまたは1,3-プロピレンオキシド由来の単位を有することができ、また、両者を有することもできる。
【0020】
水溶性ポリマーが(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物である場合、中和度は特に限定されず、好ましくは20~100%であり、より好ましくは40~100%である。
【0021】
水溶性ポリマーの分子量は特に限定されず、使用目的に応じて適宜の範囲を選択することができる。例えば、水溶性ポリマーの粘度平均分子量は、10万~2200万が好ましく、20万~1500万がより好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、より粘度低下が起こりにくい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になり、例えば、抄紙用途における抄紙用粘剤等に好適に使用できる。
【0022】
本発明において、水溶性ポリマー(ただし、(メタ)アクリルアミドの単重合体および(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物以外の水溶性ポリマー)の粘度平均分子量は、オストワルド粘度計を用いた極限粘度の値からStaudinger式を用いて算出する。具体的には、水溶性ポリマーの粘度平均分子量[M]は、オストワルド粘度計を用いた極限粘度[η]の値から下記のStaudinger式を用いて算出する。
[η]=6.4×10-5×M0.82
上記式で算出するにあたっては、溶媒は純水、測定温度は35℃に設定する。
【0023】
水溶性ポリマーが(メタ)アクリルアミドの単重合体または(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物である場合、その粘度平均分子量(Mw)は、それぞれ、(メタ)アクリルアミドの単重合体または(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物を1Nの硝酸ナトリウム水溶液に溶解し、30℃で極限粘度〔η〕を求め、下記の換算式
極限粘度式:[η]=3.73×10-4×(Mw)×0.66
を用いて算出する。
【0024】
水溶性ポリマー水溶液の粘度は特に限定されず、使用目的に応じて適宜の範囲を選択することができる。例えば、水溶性ポリマーの25℃における0.5質量%濃度の水溶液粘度は、10~4000mPa・sとすることができ、また、25℃における5質量%濃度の水溶液粘度は、50~80,000mPa.sとすることができる。これらの場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、より粘度低下が起こりにくい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になり、例えば、抄紙用途における抄紙用粘剤等に好適に使用できる。
【0025】
本発明において、所定濃度の水溶性ポリマー水溶液の粘度は、B型回転粘度計により測定する。測定は所定濃度の水溶性ポリマー水溶液が収容されたビーカーを25℃の恒温槽に30分以上浸した後、粘度計の回転数を12r/min、測定時間を3分として行う。使用するローターは、測定対象の粘度が500mPa・s未満の場合はローターNo.1、測定対象の粘度が500mPa・s以上2,500mPa・s未満の場合はローターNo.2、測定対象の粘度が2,500mPa・s以上10,000mPa・s未満の場合はローターNo.3とする。
【0026】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる水溶性ポリマーは、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0027】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤の種類は特に限定されず、例えば、公知のフェノール系酸化防止剤を広く採用することができる。
【0028】
フェノール系酸化防止剤としては、具体的に、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール(ビタミンE)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が例示される。その他、フェノール系酸化防止剤としては、株式会社ADEKAより製品名「アデカスタブAO」シリーズとして市販されている各種のフェノール系化合物およびBASF社より製品名「IRGANOX」シリーズとして市販されている各種化合物のうちフェノール系化合物に該当する化合物等も例示される。
【0029】
中でもフェノール系酸化防止剤は、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール(ビタミンE)等が好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、より粘度低下が起こりにくい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になる。
【0030】
フェノール系酸化防止剤は、例えば、公知の製造方法で得ることができ、また、市販品等から入手することもできる。
【0031】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれるフェノール系酸化防止剤は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
(硫黄含有アミン化合物)
硫黄含有アミン化合物は、分子内に1以上の硫黄(S)を含有するアミン化合物である限りは特に限定されず、例えば、公知の硫黄含有アミン化合物を広く採用することができる。
【0033】
硫黄含有アミン化合物としては、具体的に、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール、4-メルカプトメチルベンゾイミダゾール、5-メルカプトメチルベンゾイミダゾールおよびこれらの塩(例えば、亜鉛塩等)等のメルカプトベンゾイミダゾール類;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェナミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェナミド、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩および2-(4-モルフォリニルジチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール類;エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、ジラウリルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素およびトリメチルチオ尿素等のチオ尿素類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドおよびテトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム類;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルおよびN,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物等のジチオカルバミン酸塩類;、イソチアゾール類、チアミン、メルカプトベンゾオキサゾールおよび1-フェニル-5-メルカプト-1H-テトラゾール等が例示される。
【0034】
中でも硫黄含有アミン化合物は、メルカプトベンゾイミダゾール類、チオ尿素類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類およびチアゾール類が好ましく、メルカプトベンゾイミダゾール類、チオ尿素類およびチアゾール類がさらに好ましく、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールがさらに好ましい。これらの場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、より粘度低下が起こりにくい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になり、例えば、抄紙用途における抄紙用粘剤等に好適に使用できる。
【0035】
硫黄含有アミン化合物は、例えば、公知の製造方法で得ることができ、また、市販品等から入手することもできる。市販品としては、例えば、大内新興化学株式会社の製品名「ノクセラー」および「ノクラック」の各シリーズ、川口化学工業株式会社の製品名「アクセル」および「アンテージ」の各シリーズ並びに三新化学工業株式会社の製品名「サンセラー」シリーズ等が挙げられる。
【0036】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる硫黄含有アミン化合物は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
(無機塩)
無機塩は、遷移金属塩以外の無機塩である限りは特に限定されず、例えば、公知の無機塩を広く採用することができる。また、無機塩は、次亜塩素酸塩以外の無機塩であることも好ましい。
【0038】
無機塩は、その水溶液状態において、中性またはアルカリ性を示すことが好ましい。具体的には、無機塩の4mg/L水溶液とした場合、その水溶液はpHが7以上(例えば7~13)を示すことが好ましい。pHの測定方法は、ガラス電極法である。
【0039】
無機塩としては、具体的には、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩;ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩;リン酸三ナトリウムなどのリン酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなどの硫酸塩;亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩;塩化カルシウム、塩化リチウムなどの塩化物;臭化リチウムなどの臭化物;ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物;硫化ナトリウムなどの硫化物;硫化水素ナトリウムなどの硫化水素塩;硝酸ナトリウムなどの硝酸塩;亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩;等が例示される。
【0040】
中でも、無機塩は炭酸塩であることが好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、経時的な粘度低下の発生が特に抑制されやすい水溶性ポリマー水溶液の調製がより容易になる。
【0041】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる無機塩は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0042】
(水溶性ポリマー組成物)
本発明の水溶性ポリマー組成物は、上述のように、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩(単に「無機塩」と表記することがある)とを少なくとも含む。特に本発明の水溶性ポリマー組成物は、硫黄含有アミン化合物および無機塩の両方を含むことで、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、粘度低下がさらに起こりにくく、しかも、経時的な粘度低下の発生が特に抑制されやすい水溶性ポリマー水溶液の調製が可能になる。
【0043】
本発明の水溶性ポリマー組成物において、水溶性ポリマー、フェノール系酸化防止剤、硫黄含有アミン化合物および無機塩の含有割合は、水溶性ポリマー組成物の使用目的に応じて適宜の範囲を選択することができる。
【0044】
中でも、本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記無機塩の含有量は、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であることが好ましく、かつ、前記硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であることが好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、粘度低下が特に起こりにくく、しかも、経時的な粘度低下の発生が特に抑制されやすい水溶性ポリマー水溶液の調製が容易になる。
【0045】
本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記無機塩の含有量は、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.15質量部以上であり、特に好ましくは0.2質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以下である。
【0046】
本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記硫黄含有アミン化合物の含有量は、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.08質量部以上であり、特に好ましくは0.09質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以下である。
【0047】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~5質量部であることが好ましい。本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記フェノール系酸化防止剤の含有量は、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.08質量部以上であり、特に好ましくは0.09質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以下である。
【0048】
本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記無機塩と前記フェノール系酸化防止剤との含有割合は特に制限されない。例えば、前記無機塩は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれることが好ましく、40~1000質量部含まれることがより好ましく、60~500質量部含まれることがさらに好ましく、80~300質量部含まれることが特に好ましい。
【0049】
また、本発明の水溶性ポリマー組成物において、前記硫黄含有アミン化合物と前記フェノール系酸化防止剤との含有割合は特に制限されない。例えば、前記硫黄含有アミン化合物は、前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対して20~10000質量部含まれることが好ましく、40~1000質量部含まれることがより好ましく、60~500質量部含まれることがさらに好ましく、80~300質量部含まれることが特に好ましい。
【0050】
本発明の水溶性ポリマー組成物において、水溶性ポリマーの含有割合(配合割合)は、例えば、70質量%以上とすることができ、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、本発明の水溶性ポリマー組成物において、水溶性ポリマーの含有割合(配合割合)は、例えば、99.99質量%以下とすることができる。
【0051】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、無機塩とを含む限り、他の成分を含むこともできる。
【0052】
他の成分としては、水溶性ポリマー組成物の使用目的に応じて適宜の範囲を選択することができ、例えば、フェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤(例えば、顔料および染料等)、防腐剤、防錆剤、界面活性剤、溶剤(例えば、有機溶剤)、流動性向上剤(例えば、シリカ等)、粘度調整剤(例えば、親水性のシリカおよび水溶性高分子等)および電解質等を挙げることができる。他の成分は、遷移金属を含まないことが好ましく、また、次亜塩素酸塩を含まないことが好ましい。水溶性ポリマー組成物に含まれる他の成分は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0053】
水溶性ポリマー組成物が他の成分を含有する場合、他の成分(後記する水系溶媒を除く)の含有割合は、特に制限されない。例えば、水溶性ポリマー、フェノール系酸化防止剤、硫黄含有アミン化合物および前記無機塩の全質量に対して、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0054】
水溶性ポリマー組成物は、固体状態であってもよいし、液体状態であってもよい。水溶性ポリマー組成物が固体状態である場合、例えば、粉末状、塊状、顆粒状、繊維状等が挙げられ、液体状態である場合、例えば、後記する水溶液の他、分散液、ペースト状等の形態が挙げられる。水溶性ポリマー組成物は水溶液以外の液体状態である場合、例えば、溶解または分散させるための溶媒の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜の溶媒を選択することができる。
【0055】
本発明の水溶性ポリマー組成物を調製する方法は特に限定されず、水溶性ポリマー、フェノール系酸化防止剤、硫黄含有アミン化合物および前記無機塩ならびに必要に応じて添加されるその他成分を所定量混合することで得ることができる。混合方法は特に限定されず、例えば、ドライブレンドを採用することができる。また、後記するように、水溶性ポリマー組成物が水溶液である場合は、所定のキットを用いることによっても、本発明の水溶性ポリマー組成物を調製することができる。
【0056】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、少なくとも水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩を含むことで、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いても、粘度低下がさらに起こりにくく、しかも、経時的な粘度低下の発生が抑制されやすい水溶性ポリマー水溶液の調製が可能になる。例えば、工業用水には、配管等の鉄さびに起因する鉄イオンが含まれ、また、水質改善を目的に殺菌剤およびスライムコントロール剤等の酸化性の薬剤が含まれ得る。そのような工業用水を媒体として、本発明の水溶性ポリマー組成物の水溶液を調製したとしても、水溶液の粘度の低下が起こりにくく、また、経時的な粘度低下も抑制されるものである。
【0057】
従って、本発明の水溶性ポリマー組成物は、水溶性ポリマー水溶液への使用に適しており、特に水溶性ポリマー水溶液を調製するための原料として適している。
【0058】
その他、本発明の水溶性ポリマー組成物は、経時的な粘度低下が抑制された水溶性ポリマー水溶液が求められる種々の用途に好適に使用することができ、具体的には製紙用途、マイニング用途、セメント用途、染色用途などの各種工業用途における工業用薬品に使用することができる。工業用薬品は、例えば、抄紙用粘剤、凝集剤、分散剤、沈降促進剤等が挙げられ、中でも、本発明の水溶性ポリマー組成物は、抄紙用粘剤への使用に特に好適である。前記抄紙用粘剤、あるいは、工業用薬品は、本発明の水溶性ポリマー組成物を含有するので、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いて調製しても、粘度低下がさらに起こりにくい。
【0059】
本発明の水溶性ポリマー組成物を含有する抄紙用粘剤を用いて、紙を製造する場合、例えば、本発明の水溶性ポリマー組成物を粉粒状とし、用時に水と混合して水溶性ポリマー水溶液とし、さらに濃度を調整して、紙料を抄紙に供する際、紙料を含む水分散体中の水溶性ポリマーの濃度が例えば1~5000質量ppm程度となるようにして使用することができる。
【0060】
2.水溶液
本発明の水溶性ポリマー組成物を用いて水溶液を調製することができる。斯かる水溶液は、本発明の水溶性ポリマー組成物と、水とを含むので、水溶性ポリマー組成物と、水とを混合した直後の粘度低下が起こりにくく、しかも、経時的な粘度低下の発生も抑制されたものである。以下、本発明の水溶性ポリマー組成物と、水とを含む水溶液を「本発明の水溶液」と表記する。
【0061】
本発明の水溶液において、媒体としては各種の水系溶媒を使用することができ、水、及び水と低級アルコール化合物との混合溶媒が挙げられる。低級アルコール化合物は、例えば、炭素数1~3のアルコール化合物である。水は、工業用水が使用できる他、蒸留水、水道水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることもできる。
【0062】
本発明の水溶液中の水溶性ポリマーの濃度は特に限定されない。例えば、水溶液の全質量を基準とした水溶性ポリマーの濃度は1質量ppm以上、20質量%以下とすることができる。
【0063】
本発明の水溶液の一態様として、例えば、本発明の水溶液は、鉄イオンと、酸化性の薬剤をさらに含むことができる。すなわち、本発明の水溶液の一態様としては、水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、酸化性の薬剤と、水とを含む水溶液を挙げることができる。斯かる水溶液中の鉄イオンの含有割合は、例えば、水溶液の全質量に対して、10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、2質量ppm以下であることがさらに好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。鉄イオンの含有割合の下限は特に限定されず、例えば、0.1質量ppmとすることができる。
【0064】
前記酸化性の薬剤としては、特に限定されず、例えば次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸塩、二酸化塩素、塩素化イソシアヌル酸、結合塩素型化合物等を挙げることができる。
結合塩素型化合物はとしては、特に限定されず、薬剤持続性および強殺菌性を付与するクリキラーシリーズ、ファジサイドシリーズ、クリノックスシリーズ(栗田工業株式会社)、ソマサイドシリーズ、キュアサイドシリーズ(ソマール株式会社)、タワークリアシリーズ(環境工研株式会社)、モルノンシリーズ、SLCシリーズ(片山ナルコ株式会社)、スタテクトシリーズ、ハイクリーンシリーズ(株式会社日新化学研究所)、バイオホープシリーズ、バイオダンシリーズ、バイオエースシリーズ(ケイアイ化成株式会社)、ネオシントールシリーズ(住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社)、アモルデンシリーズ(大和化学工業株式会社)、ファインサイドシリーズ(東京ファインケミカル株式会社)、スラクリンシリーズ(伯東株式会社)、パーマケムシリーズ、トップサイドシリーズ(株式会社パーマケム・アジア)、パワーサイドシリーズ(フジ産業株式会社)等のスライムコントロール剤を挙げることができる。
酸化性の薬剤は、単独で使用してもよく、また、本発明の効果を損なわない限り、2種以上を併用することができる。また、酸化性の薬剤の添加を1度に行ってもよく、複数回に分けて行うことができ、さらには連続的に添加してもよい。
【0065】
本発明の水溶液が前記酸化性の薬剤を含む場合、斯かる水溶液中の酸化性の薬剤の含有割合は、例えば、水溶液の全質量に対して、10000質量ppm以下であることが好ましく、1000質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることがさらに好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。酸化性の薬剤の含有割合の下限は特に限定されず、例えば、1質量ppmとすることができる。
【0066】
水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、酸化性の薬剤と、水とを含む水溶液は、例えば、前述の本発明の水溶性ポリマー組成物と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合する工程を備える製造方法によって製造することができる。混合方法は特に限定されず、例えば、公知の混合手段を広く採用することができる。
【0067】
また、水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、酸化性の薬剤と、水とを含む水溶液は、キットを用いて製造することもできる。斯かるキットは、例えば、水溶性ポリマーを含む第1剤と、遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、硫黄含有アミン化合物を含む第3剤を備えることができ、前記第2剤の前記無機塩の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、前記第3剤の硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である。
【0068】
フェノール系酸化防止剤は、第1剤、第2剤および第3剤のいずれに含まれていてもよく、例えば、第1剤に含むことができる。この場合のキット(以下、「キットA」と表記する)は、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤とを含む第1剤と、遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、硫黄含有アミン化合物を含む第3剤を備えるものである。このキットAにおいても、前記第2剤の前記無機塩の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部であり、前記第3剤の硫黄含有アミン化合物の含有量が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である。
【0069】
前記キットAを用いて、前述の「水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、酸化性の薬剤と、水とを含む水溶液」を製造することができる。例えば、前記第2剤と、前記第3剤と、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水とを混合して混合液を得る工程と、前記混合液と前記第1剤とを混合する工程とを備える製造方法(以下、製造方法1と表記する)によって、水溶液を製造することができる。
【0070】
製造方法1では、各工程における混合条件は特に限定されず、また、混合手段も特に限定されず、例えば、公知の混合手段を広く採用することができる。
【0071】
あるいは、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水と、前記第1剤とを混合して混合液を得る工程と、前記混合液と、前記第2剤と、前記第3剤とを混合する工程とを備える製造方法(以下、製造方法2と表記する)によって、水溶液を製造することができる。
【0072】
製造方法2では、鉄イオン及び酸化性の薬剤を含む水と、前記第1剤との混合を開始してから、前記第2剤および/または前記第3剤を加えるまでの時間は、0~120分とすることが好ましく、0~30分とすることがより好ましい。この場合、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いていても、粘度低下がさらに起こりにくく、しかも、経時的な粘度低下の発生が特に抑制されやすい水溶性ポリマー水溶液が得られやすい。製造方法2において、その他の混合条件は特に限定されず、また、混合手段も特に限定されず、例えば、公知の混合手段を広く採用することができる。
【0073】
本発明の水溶液を用いて、例えば、紙を製造することもできる。具体的には、本発明の水溶液と、紙料とを混合することで前記紙料の水分散体を調製する工程と、前記紙料の水分散体を抄紙する工程とを備える製造方法により、紙を製造することが可能である。紙料の種類は特に限定されず、例えば、公知の紙料を広く例示することができる。また、抄紙の方法も特に限定されず、例えば、公知の抄紙手段を広く採用することができる。
【0074】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0076】
(調製例1)
1000mLプラスチックビーカーにイオン交換水999.976g及び塩化鉄(II)(シュトレームケミカルズ製、純度98%)23.2mgを入れ、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。これにより、鉄(II)イオン濃度が10質量ppmである水溶液1000gが得られた。
【0077】
(調製例2)
100mLのメスフラスコにイオン交換水99.047g及び酸化性の薬剤として有効塩素濃度10.39質量%の次亜塩素酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.953gを入れ、よく振り混ぜた。これにより、次亜塩素酸イオン濃度が1000質量ppmである水溶液100gが得られた。
【0078】
(参考例1)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.999gと、フェノール系酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.001gとをドライブレンドし、ポリマー原料(1)を得た。次に、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水499.000gを入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、前記ポリマー原料(1)1.000gを投入し、同攪拌条件で3時間継続して攪拌を行った。これにより、試験水溶液(1)を製造した。
【0079】
(参考例2)
ポリアクリルアミド0.999gと、BHT0.001gとをドライブレンドし、ポリマー原料(2)を得た。次に、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水499.000gを入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、ポリマー原料(2)1.000gを投入し、同攪拌条件で3時間継続して攪拌を行った。これにより、試験水溶液(2)を製造した。
【0080】
(参考例3)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.4995g及びポリアクリルアミド0.4995gの混合物と、BHT0.001gとをドライブレンドし、ポリマー原料(3)を得た。次に、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水499.000gを入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、前記ポリマー原料(3)1.000gを投入し、同攪拌条件で3時間継続して攪拌を行った。これにより、試験水溶液(3)を製造した。
【0081】
(実施例1)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸リチウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(1)を製造した。
別途、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水447.000gと、調製例1で得た水溶液50.000g及び調製例2で得た水溶液2.000gとを混合した水性媒体を調製した。この水性媒体を、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、前記水溶性ポリマー組成物(1)1.000gを投入し、同攪拌条件で3時間にわたって攪拌を継続した。これにより、水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(1)とした。
【0082】
(実施例2)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸ナトリウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾチアゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(2)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(2)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(2)とした。
【0083】
(実施例3)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸リチウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾチアゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(3)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(3)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(3)とした。
【0084】
(実施例4)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸ナトリウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(4)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(4)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(4)とした。
【0085】
(実施例5)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gとをドライブレンドして混合物(5)を製造した。
別途、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水447.000gと、調製例1で得た水溶液50.000g及び調製例2で得た水溶液2.000gとを混合して水性媒体を調製した。この水性媒体を、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、無機塩として炭酸リチウム0.002gと硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとを入れ30分攪拌し、さらに上記で得た混合物(5)0.997gを投入し、同攪拌条件で3時間にわたって攪拌を継続することにより、水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(5)とした。
【0086】
(実施例6)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてトコフェロール0.001gと、無機塩として炭酸リチウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(6)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(6)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(6)とした。
【0087】
(実施例7)
ポリアクリルアミド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸リチウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(7)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(7)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(7)とした。
【0088】
(実施例8)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.498g及びポリアクリルアミド0.498gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gと、無機塩として炭酸リチウム0.002gと、硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾチアゾール0.001gとをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(8)を製造した。
この水溶性ポリマー組成物(8)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(8)とした。
【0089】
(実施例9)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.996gと、フェノール系酸化防止剤としてBHT0.001gとをドライブレンドして混合物(9)を製造した。
別途、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水447.000gと、調製例1で得た水溶液50.000g及び調製例2で得た水溶液2.000gとを混合して水性媒体を調製した。この水性媒体を、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、上記で得た混合物(9)0.997gを投入し、同攪拌条件で30分間にわたって攪拌を継続した。その後、無機塩として炭酸リチウム0.002gと硫黄含有アミン化合物として2-メルカプトベンゾチアゾール0.001gとを加えて1時間攪拌することにより、水溶性ポリマー水溶液を製造した。斯かる水溶性ポリマー水溶液を水溶性ポリマー水溶液(9)とした。
【0090】
(比較例1)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.999gと、BHT0.001gとをドライブレンドし、混合物(1a)を製造した。
この混合物(1a)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0091】
(比較例2)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.997gと、BHT0.001gと、炭酸リチウム0.002gとをドライブレンドし、混合物(2a)を製造した。
別途、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水497.000g及び調製例2で水溶液2.000gを混合して水性媒体を調製した。この水性媒体を、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの攪拌条件で攪拌しながら、混合物(2a)1.000gを投入し、同攪拌条件で3時間にわたって攪拌を継続した。これにより、水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0092】
(比較例3)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.997gと、BHT0.001gと、炭酸ナトリウム0.002gとをドライブレンドし、混合物(3a)を製造した。
この混合物(3a)を混合物(2a)に代えて用いたこと以外は比較例2と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0093】
(比較例4)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.997gと、BHT0.001gと、炭酸リチウム0.002gとをドライブレンドし、混合物(4a)を製造した。
この混合物(4a)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0094】
(比較例5)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.997gと、BHT0.001gと、炭酸ナトリウム0.002gとをドライブレンドし、混合物(5a)を製造した。
この混合物(5a)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0095】
(比較例6)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.998gと、BHT0.001gと、2-メルカプトベンゾイミダゾール0.001gとをドライブレンドし、混合物(6a)を製造した。
この混合物(6a)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0096】
(比較例7)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド0.998gと、BHT0.001gと、2-メルカプトベンゾチアゾール0.001gとをドライブレンドし、混合物(7a)を製造した。
この混合物(7a)を水溶性ポリマー組成物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1と同様の条件で水溶性ポリマー水溶液を製造した。
【0097】
(製造直後の水溶液粘度の測定方法)
各実施例および比較例ならびに参考例で得られた水溶液の製造直後の粘度を、B型回転粘度計(TOKIMEC社製、ローターNo.1、測定条件:回転数30rpm、3分)を用いて測定した(ただし、参考例2、3および実施例7,9はローターNo.2を用いた)。具体的には、製造直後の水溶液150gを200mL容のガラス製容器に入れて密閉した状態で、恒温水槽(トーマス化学器械製、T-23Z)中、25℃の環境下で15分保持した後、水溶液の粘度の測定を行った。
【0098】
(3時間経過後の水溶液粘度の測定方法)
各実施例および比較例ならびに参考例で得られた製造直後の水溶液150gを、25℃の条件下にて密閉状態で3時間保管した。この3時間保管後の水溶液を用いたこと以外は、製造直後の水溶液粘度の測定方法と同様の測定方法で、水溶液の粘度の測定を行った。
【0099】
(24時間経過後の水溶液粘度の測定方法)
各実施例および比較例ならびに参考例で得られた製造直後の水溶液150gを、25℃の条件下にて密閉状態で24時間保管した。この24時間保管後の水溶液を用いたこと以外は、製造直後の水溶液粘度の測定方法と同様の測定方法で、水溶液の粘度の測定を行った。
【0100】
(粘度保持率の算出方法1)
水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキシドを用いた実施例1~6及び9並びに比較例1~7については、参考例1で製造された試験水溶液(1)の粘度を基準として、粘度保持率(%)を算出した。すなわち、当該粘度保持率(%)は、下記の式(A1)
S(%)=(X/Ya)×100 (A1)
(ここで、Sは粘度保持率であり、Yaは参考例1で得られた試験水溶液(1)の粘度[mPa・s]であり、Xは実施例および比較例で得られた製造直後、3時間保管後または24時間保管後の水溶液の粘度[mPa・s]である)
により算出した。
【0101】
(粘度保持率の算出方法2)
水溶性ポリマーとしてポリアクリルアミドを用いた実施例7については、参考例2で製造された試験水溶液(2)の粘度を基準として、粘度保持率(%)を算出した。すなわち、当該粘度保持率(%)は、下記の式(A2)
S(%)=(X/Yb)×100 (A2)
(ここで、Sは粘度保持率であり、Ybは参考例2で得られた試験水溶液(2)の粘度[mPa・s]であり、Xは実施例で得られた製造直後、3時間保管後または24時間保管後の水溶液の粘度[mPa・s]である)
により算出した。
【0102】
(粘度保持率の算出方法3)
水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキシドとポリアクリルアミドとの混合物を用いた実施例8については、参考例3で製造された試験水溶液(3)の粘度を基準として、粘度保持率(%)を算出した。すなわち、当該粘度保持率(%)は、下記の式(A3)
S(%)=(X/Yc)×100 (A3)
(ここで、Sは粘度保持率であり、Ycは参考例3で得られた試験水溶液(3)の粘度[mPa・s]であり、Xは実施例で得られた製造直後、3時間保管後または24時間保管後の水溶液の粘度[mPa・s]である)
により算出した。
【0103】
なお、上記粘度保持率の算出方法1~3における式(A1)、(A2)及び(A3)からわかるように、粘度保持率の値が大きいほど、粘度の低下が起こりにくいものであり、また、3時間保管後または24時間保管後の粘度保持率の値が大きいほど、経時的な粘度の低下が起こりにくいものである。
【0104】
【表1】
【0105】
表1には、各実施例および比較例ならびに参考例で得られた水溶液の製造直後、3時間保管後または24時間保管後の水溶液粘度ならびに粘度保持率の結果を示している。なお、表1中、「0h」なる表記は製造直後を意味し、「3h」なる表記は3時間保管後を意味し、「24h」なる表記は24時間保管後を意味する。
【0106】
表1から、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、硫黄含有アミン化合物と、遷移金属塩を除く無機塩とを含む水溶性ポリマー組成物は、鉄イオン及び次亜塩素酸イオンが存在する水を用いても、粘度の低下が抑制されており、しかも、経時的な粘度低下の発生も抑制されていたことが実証された。
【0107】
なお、参考例1~3からわかるように、鉄イオン及び/または次亜塩素酸イオンが存在しない水を用いても水溶性ポリマー水溶液の粘度低下が起こらないことから、比較例の水溶性ポリマー水溶液で見られる粘度低下は鉄イオン及び/又は次亜塩素酸イオンによって引き起こされるものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の水溶性ポリマー組成物によれば、鉄イオン及び酸化性の薬剤が存在する水を用いたとしても、粘度低下が起こりにくく、しかも経時的な粘度低下の発生も抑制できる水溶性ポリマー水溶液を調製することができる。そのようにして得られた水溶性ポリマー水溶液は、抄紙用途において容易に均一な製紙を行うことができるなど、各種工業薬品用途において製造工程効率化や環境負荷低減に貢献できると考えられる。