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特開2024-144247水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、硬化体の製造方法、及び圧縮強さの変動を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144247
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、硬化体の製造方法、及び圧縮強さの変動を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/153 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/16 20230101ALI20241003BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20241003BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B7/153
C04B22/14 B
C04B22/06 Z
C04B18/14 F
C04B18/16
C04B22/08 B
C04B22/12
C04B24/04
C04B28/08
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044527
(22)【出願日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2023055248
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 奏也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
(72)【発明者】
【氏名】山下 牧生
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB27
4G112MA00
4G112MB04
4G112MB08
4G112MB23
4G112PA29
4G112PA30
4G112PB07
4G112PB09
4G112PB11
4G112PB16
4G112PC04
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】高炉スラグの分量が極めて大きい領域において、水硬性組成物の配合精度が低く各成分の組成が設計組成とずれる場合であっても、硬化によって、安定して優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】本開示によれば、混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材と、促進剤と、を含み、上記混和材はCaOを20質量%以上含有し、上記結合材100質量%を基準として、上記混和材の含有量が0.5~20.0質量%、且つ上記高炉水砕スラグの含有量が70.0~95.5質量%であり、上記石膏の含有量がSO換算で4~10.0質量%であり、上記促進剤の含有量が、上記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部である、水硬性組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材と、促進剤と、を含み、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記結合材100質量%を基準として、前記混和材の含有量が0.5~20.0質量%、且つ前記高炉水砕スラグの含有量が70.0~95.5質量%であり、前記石膏の含有量がSO換算で4.0~10.0質量%であり、
前記促進剤の含有量が、前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部である、水硬性組成物。
【請求項2】
前記混和材における遊離石灰の含有量が0.2~5.0質量%である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記混和材が、電気炉還元スラグ、転炉スラグ、生コンスラッジ、及び廃コンクリートからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記促進剤が、亜硝酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、ギ酸イオン、及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも一種の一価の陰イオンを含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記促進剤が、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記促進剤がカルシウム塩を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
前記石膏が、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
前記高炉水砕スラグの塩基度が1.60~1.95である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
前記高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量が10.0質量%以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、
前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を有し、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記第一工程は、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記混和材の配合量が0.5~20.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、
を含む、水硬性組成物の製造方法。
【請求項11】
混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、
前記結合材の100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、
前記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を有し、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記第一工程は、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記混和材の配合量が0.5~20.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、
を含む、硬化体の製造方法。
【請求項12】
混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材を含む組成物に対して、
石膏の含有量を、前記結合材の全量を100質量%として、SO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、及び、
促進剤を、前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部となるように配合すること、を含み、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有する、圧縮強さの変動を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、硬化体の製造方法、及び圧縮強さの変動を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造においては、燃料の燃焼におけるCO発生量、原料の脱炭酸などによるCO発生量が大きく、地球温暖化対策の要求が高まりに応じて、セメント製造における上述のようなCO発生量の低減が求められている。原料であるセメントクリンカの調製の際のCO発生量が大きいことから、CO発生量低減の観点から、セメントクリンカの一部を混合材に置き換えたセメントが広く検討されている。
【0003】
混合材の増量した場合、セメントの硬化によって得られる硬化体の圧縮強さは一般的に低下するとされており、混合材を配合しつつ、実用に供し得る圧縮強さ等の所望の性能を発揮させることも重要である。混合材の中でも、高炉スラグ等の鉄鋼スラグは、コンクリートの長期強度増進、及び塩分遮蔽効果の向上を期待できる。そのため、混合材として鉄鋼スラグを用い、その混合比率を高めたセメントの研究が進められている。
【0004】
セメントクリンカの一部を、高炉水砕スラグ(BFS)に置き換えた高炉セメントは、その置き換え割合に応じて分類されている。JIS R 5211:2019では、高炉スラグの分量が30質量%を超え60質量%以下である高炉セメントB種、及び高炉スラグの分量が60質量%を超え70質量%以下である高炉セメントC種が規定されている。しかし、高炉スラグの分量が70質量%を超えるセメントについては規定がない。現状、セメント配合量が30%未満では硬化し硬化体としたときに発揮される圧縮強さが不安定であり、実用上の使用が難しいとされている(非特許文献1)。
【0005】
一方で、上述のCO発生量低減の観点から、高炉スラグの分量を高炉セメントC種よりも更に高めたセメント組成物の研究も行われている(例えば、非特許文献1)。非特許文献1では、セメントクリンカの配合量が1質量%以下と少なく、高炉スラグの分量が極めて大きくなるような配合においても、セメント組成物が硬化することが確認されている。しかし、硬化体の強度発現の観点から、上記配合量は厳密に制御される必要があることが知られている。例えば、セメントクリンカの配合量が1質量%を超え、3~5質量%程度となると、非特許文献1に記載の例ではセメント組成物の硬化反応が進まず、得られる硬化体の圧縮強さが極端に低下することが確認されている。すなわち、高炉スラグの分量が極めて大きい領域においては、セメント組成物の組成がわずかにでも変更になると発現強度の変動幅が大きい。具体的には、セメントクリンカの配合量が1質量%である場合の55N/mm程度の強度から、セメントクリンカの配合量が1質量%から前後することによって10N/mm未満の強度になるまで著しく圧縮強さが低下することが確認されている。
【0006】
一般に、工業レベルでのセメント組成物の調製における計量精度はせいぜい1~2質量%といわれており、上述のようにセメントクリンカの配合量を1質量%に制御することは現実的ではない。この点も、高炉スラグの分量が極めて大きいセメント組成物の製品化が進まない一因となっている。このような観点から、実用上、JISに規定されるように、セメントクリンカの分量が少なくとも30質量%以上となるように高炉セメントの組成を調整することが適正であり、これが当業界の常識となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】東京工業大学他、“エネルギー消費とCO2排出量を6割以上削減できる低炭素型セメント「ECMセメント」”、図6、[online]、2017年5月、NEDO実用化ドキュメント、[令和4年1月4日検索]、インターネット<URL:https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201705ecm/index.html>
【非特許文献2】米澤敏男他、“エネルギー・CO2ミニマム(ECM)セメント・コンクリートシステム”、コンクリート工学、日本コンクリート工学会、2010、Vol.48、No.9、pp.69-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高炉スラグの分量が極めて大きい領域(例えば、高炉スラグ70質量%以上の領域)において、水硬性組成物の配合量の微量な違いによって水硬性組成物を硬化させた際の圧縮強さが期待値から大きく変動し、また期待値を大幅に下回ることを抑制でき、工業レベルの計量精度の下でも安定した品質を発揮し得る水硬性組成物を製造できる技術があれば、有用である。
【0009】
本開示は、高炉スラグの分量が極めて大きい領域において、水硬性組成物の配合精度が低く各成分の組成が設計組成とずれる場合であっても、硬化によって、安定して優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた高炉水砕スラグを多量に含む場合においても、圧縮強さの変動を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面は、以下の[1]~[12]を提供する。
【0011】
[1] 混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材と、促進剤と、を含み、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記結合材100質量%を基準として、前記混和材の含有量が0.5~20.0質量%、且つ前記高炉水砕スラグの含有量が70.0~95.5質量%であり、前記石膏の含有量がSO換算で4.0~10.0質量%であり、
前記促進剤の含有量が、前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部である、水硬性組成物。
[2] 前記混和材における遊離石灰の含有量が0.2~5.0質量%である、[1]に記載の水硬性組成物。
[3] 前記混和材が、電気炉還元スラグ、転炉スラグ、生コンスラッジ、及び廃コンクリートからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]又は[2]に記載の水硬性組成物。
[4] 前記促進剤が、亜硝酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、ギ酸イオン、及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも一種の一価の陰イオンを含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[5] 前記促進剤が、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]~[4]のいずれかにに記載の水硬性組成物。
[6] 前記促進剤がカルシウム塩を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[7] 前記石膏が、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[8] 前記高炉水砕スラグの塩基度が1.60~1.95である、[1]~[7]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[9] 前記高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量が10.0質量%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[10] 混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、
前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を有し、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記第一工程は、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記混和材の配合量が0.5~20.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、
を含む、水硬性組成物の製造方法。
[11] 混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、
前記結合材の100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、
前記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を有し、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有し、
前記第一工程は、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記混和材の配合量が0.5~20.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、
前記結合材の合計100質量%を基準として、前記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、
を含む、硬化体の製造方法。
[12] 混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材を含む組成物に対して、
石膏の含有量を、前記結合材の全量を100質量%として、SO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、及び、
促進剤を、前記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部となるように配合すること、を含み、
前記混和材はCaOを20質量%以上含有する、圧縮強さの変動を抑制する方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、高炉スラグの分量が極めて大きい領域において、水硬性組成物の配合精度が低く各成分の組成が設計組成とずれる場合であっても、硬化によって、安定して優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供できる。本開示によればまた高炉水砕スラグを多量に含む場合においても、圧縮強さの変動を抑制する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
[水硬性組成物]
本開示の水硬性組成物は、高炉水砕スラグ及び石膏からなる結合材の一部を所定の混和材に置き換え、促進剤を配合したものである。
【0016】
本開示の水硬性組成物は、従前の水硬性組成物において使用されるアルカリ刺激材を含まない。上記アルカリ刺激材とは、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰等が挙げられる。
【0017】
水硬性組成物の一実施形態は、混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材と、促進剤と、を含む。当該水硬性組成物における上記混和材はCaOを20質量以上%含有する。上記水硬性組成物において、上記結合材100質量%を基準として、上記混和材の含有量は0.5~20質量%であり、且つ上記高炉水砕スラグの含有量は70.0~95.5質量%である。上記石膏の含有量がSO換算で4.0~10.0質量%である。上記促進剤の含有量が、上記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部である。
【0018】
上記水硬性組成物は、酸化カルシウムを所定量含む混和材によって高炉水砕スラグの一部を置換し、石膏量及び促進剤の含有量、並びに各成分の配合量が調整されたものとなっている。これによって、セメントクリンカのようなアルカリ刺激材が配合されない組成物であっても、硬化し、十分な圧縮強さを発現することが可能となっている。さらには、高炉水砕スラグの配合量が極めて大きな領域において、上記水硬性組成物を調製する際の計量によって、混和材等の含有量が設計組成からずれた場合であっても、圧縮強さが期待値から極端に変動するといったことが抑制されている。上述のような効果が得られる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推定する。
【0019】
まず、セメントクリンカのようなアルカリ刺激材を含む従前の水硬性組成物では、アルカリ刺激材から溶出する水酸化カルシウム(Ca(OH))等のアルカリ刺激物質が高炉水砕スラグの硬化反応の開始に寄与していると考えられる。アルカリ刺激材を配合した水硬性組成物では、水和初期に生成されるアルカリ刺激物質の生成速度が速いため、高炉水砕スラグとの急速な反応が引き起こされる。この急速な反応によって高炉水砕スラグの表面に緻密な硬化膜が形成され、その後の反応の進行が阻害されると考えられる(例えば、非特許文献2)。高炉水砕スラグの分量が極めて大きい水硬性組成物においては、上述のような高炉水砕スラグの急速な反応が生じる場合、水硬性組成物を構成する高炉水砕スラグの中で部分的な反応の進行と抑制とが生じ、未反応の高炉スラグの残存が生じ、安定した圧縮強さを発揮しない場合が生じ得ているものと推定される。
【0020】
一方、本開示に係る水硬性組成物では、酸化カルシウムを所定量含む混和材がアルカリ刺激物質の供給源となるところ、アルカリ刺激物質の生成速度が従前のアルカリ刺激材に比べて遅い。これによって、本開示に係る水硬性組成物においては、高炉水砕スラグの硬化反応を比較的緩やかに進行させることが可能となっており、硬化反応を抑制するような高炉水砕スラグの表面における緻密な硬化膜形成を抑制することによって系内の高炉水砕スラグの硬化反応をより均一に進行させ得ると考えられる。
【0021】
さらに、本開示に係る水硬性組成物では促進剤が配合されている。促進剤が配合される場合、水硬性組成物の硬化反応が促進される。そうすると、促進剤を含まず穏やかに反応が進む水硬性組成物の場合に比べると、促進剤が配合されている方が反応の制御が難しく圧縮強さに変動が生じると考えるのが一般的である。このような当業者の技術常識に照らすと、高炉水砕スラグの配合量の極めて大きな領域において、促進剤を更に配合することで、上述のような効果が得られることは、想定が困難な新たな知見である。本開示に係る水硬性組成物ではアルカリ刺激材を配合せずに、アルカリ刺激物質の生成速度が比較的遅い混和材を用い、促進剤を含む各成分の配合量を調整して用いることで、上述のような効果が得られたものと推定される。
【0022】
本明細書における結合材とは、水と反応し、コンクリートやモルタルの強度発現に寄与する物質を生成するものであり、高炉水砕スラグを主成分とし、これに混和材等を含有させた粉体(場合によって、石膏を更に含有させた粉体)を意味する。
【0023】
(酸化カルシウムを含む混和材)
本開示における混和材は、酸化カルシウム(CaO)を20質量%以上含有する。上記混和材におけるCaOの含有量の下限値は、例えば、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上であってよい。上記混和材におけるCaOの含有量の下限値が上記範囲内であることで、圧縮強さのより安定した強度増進効果を得ることができる。上記混和材におけるCaOの含有量の上限値は、例えば、65質量%以下、60質量%以下、又は55質量%以下であってよい。上記混和材におけるCaOの含有量の上限値が上記範囲内であることで、圧縮強さの著しい低下をより十分に抑制できる。
【0024】
本明細書における酸化カルシウム含有量とは、カルシウム化合物の存在の形態に係わらず、混和材を対象とした蛍光X線分析によって検出されるカルシウムの存在量を酸化物換算値で示した数値である。
【0025】
上記混和材における遊離石灰(f-CaO)の含有量は、0.2~5.0質量%であることが好ましい。上記混和材における遊離石灰の含有量の下限値は、例えば、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は2.0質量%以上であってよい。上記混和材における遊離石灰の含有量の下限値が上記範囲内であることで、初期材齢における十分な圧縮強さをより十分に確保できる。上記混和材における遊離石灰の含有量の上限値は、例えば、4.5質量%以下、4.0質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。上記混和材における遊離石灰の含有量の上限値が上記範囲内であることで、初期の急激な反応を抑制し、高炉水砕スラグの反応性をより持続させることができる。
【0026】
本明細書における遊離石灰の含有量とは、カルシウムの存在形態が遊離の状態であるもの(他の物質と結合していない単体の化合物として、酸化カルシウムの状態であるもの)に限った量を意味する。遊離石灰量(f-CaO量)はJCAS I-01-1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」の記載に準拠して測定される値である。
【0027】
上記混和材は、例えば、電気炉還元スラグ、転炉スラグ、生コンスラッジ、及び廃コンクリートからなる群より選択される少なくとも一種を含有してよく、電気炉還元スラグ、転炉スラグ、生コンスラッジ、及び廃コンクリートからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。上述の混和材の中でも、長期の圧縮強さをより向上させる観点からは、生コンスラッジ、又は廃コンクリートを含むことがより好ましい。また、六価クロムの混入が少なく、水硬性組成物の製造に際して六価クロムの除去等の工程を設ける必要もないことから、環境配慮の観点からは、上記混和材が、生コンスラッジ及び廃コンクリートの少なくとも一方であることが好ましい。
【0028】
電気炉還元スラグは、鉄スクラップを電気炉で溶解・精錬する際に生成するスラグのうち、還元精錬で生成するスラグである。電気炉還元スラグの形態は、水硬性組成物を調製する観点から、粉末状であることが好ましい。電気炉還元スラグとしては、CaOの含有量が20.0~55.0質量%であり、且つf-CaOの含有量が0.2~5.0質量%であるものがより好ましい。なお、粉末状の電気炉還元スラグの粒径は、90μm以下であることが好ましい。電気炉還元スラグの粒径はJIS Z 8815-1994「ふるい分け試験方法通則」に記載の乾式の手動ふるい分け法に基づいて特定される値であり、上記90μm以下の粉末とは、90μmの目開きを有する篩を全通した粉末のことを意味する。
【0029】
転炉スラグは、高炉から出銑された溶銑を溶銑予備処理工程で処理する際に発生するスラグ、及び溶銑予備処理工程の後転炉に注入される際に発生するスラグである。転炉スラグとしては、CaOの含有量が20.0~55.0質量%であり、且つf-CaOの含有量が0.2~5.0質量%であるものがより好ましい。なお、粉末状の転炉スラグの粒径は、90μm以下であることが好ましい。転炉スラグの粒径はJIS Z 8815-1994「ふるい分け試験方法通則」に記載の乾式の手動ふるい分け法に基づいて特定される値であり、上記90μm以下の粉末とは、90μmの目開きを有する篩を全通した粉末のことを意味する。
【0030】
生コンスラッジは、生コン工場のミキサー設備及びミキサー車の洗浄液、並びに、コンクリート敷設現場からの残コン及び戻りコン等からなる粉状汚泥であり、強アルカリ性を示す。生コンスラッジとしては、CaOの含有量が20.0~55.0質量%であり、且つf-CaOの含有量が0.2~5.0質量%であるものがより好ましい。なお、粉末状の生コンスラッジの粒径は、90μm以下であることが好ましい。生コンスラッジの粒径はJIS Z 8815-1994「ふるい分け試験方法通則」に記載の乾式の手動ふるい分け法に基づいて特定される値であり、上記90μm以下の粉末とは、90μmの目開きを有する篩を全通した粉末のことを意味する。
【0031】
廃コンクリートは、建築や解体工事の際に排出されるコンクリートの瓦礫である。廃コンクリートとしては、廃コンクリート塊を破砕して調製されたものが好ましい。廃コンクリートとしては、CaOの含有量が20.0~55.0質量%であり、且つf-CaOの含有量が0.2~5.0質量%であるものがより好ましい。なお、粉末状の廃コンクリートの粒径は、90μm以下であることが好ましい。廃コンクリートの粒径はJIS Z 8815-1994「ふるい分け試験方法通則」に記載の乾式の手動ふるい分け法に基づいて特定される値であり、上記90μm以下の粉末とは、90μmの目開きを有する篩を全通した粉末のことを意味する。
【0032】
上記混和材の含有量は、上記結合材100質量%を基準として、0.5~20.0質量%である。上記混和材の含有量の上限値は、上記結合材100質量%を基準として、例えば、20.0質量%以下、17.0質量%以下、16.0質量%以下、15.0質量%以下、14.0質量%以下、13.0質量%以下、12.0質量%以下、11.0質量%以下、又は10.0質量%以下であってよい。上記混和材の含有量の上限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの反応を主体とした強度増進効果をより十分に得ることができる。上記混和材の含有量の下限値は、上記結合材100質量%を基準として、例えば、1.0質量%以上、2.5質量%以上、5.0質量%以上、又は10.0質量%以上であってよい。上記混和材の含有量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの反応をより十分なものとすることができる。
【0033】
本明細書における上記混和材の含有量は、後述する方法で特定される値を意味する。まず、高炉水砕スラグ及び石膏については、下記の方法で特定する。水硬性組成物を900℃で1時間加熱して高炉水砕スラグ(ガラス)を結晶化させ、石膏を無水石膏化させた測定サンプルを調製する。その後、上記測定サンプルに対するX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、上記測定サンプル中の各結晶相(ゲーレナイト、オケルマナイト、マイエナイト及びアンハイドライト)を定量することによって高炉水砕スラグ及び石膏の含有量を特定する。続いて、上述の各結晶相以外のピーク残差が混合材となるため、そのピーク残差をICSD(無機結晶構造データベース)、又はICDD PDF(国際回折データセンター 粉末回折データベース)を用いて同定操作を行うことによって鉱物を特定する。特定された鉱物について、リートベルト解析法を行うことによって、同定された鉱物を定量し、上記ゲーレナイト、オケルマナイト、マイエナイト及びアンハイドライト以外の同定された鉱物の定量値を混合材の含有量を決定する。なお、水硬性組成物を自ら調製する場合には、混和材の含有量は配合量と一致するため、上述のような分析を要しない。
【0034】
(高炉水砕スラグ)
高炉水砕スラグは、ガラス化率の高いスラグであり、高炉から生成する溶融スラグに、多量の圧力水を噴射し急冷することによって、粉砕した砂状のスラグである。
【0035】
高炉水砕スラグは、例えば、市販のものを使用してもよく、高炉水砕スラグに相当するスラグを自ら調製して使用してもよい。
【0036】
高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量(Al量とも表記する)の上限値は、例えば、14.5質量%以下、又は14.3質量%以下であってよい。高炉水砕スラグにおけるAl量が上記範囲内であることで、得られる水硬性組成物の長期の強度発現性が低下することをより抑制できる。高炉水砕スラグにおけるAl量の下限値は、例えば、10.0質量%以上、11.0質量%以上、12.0質量%以上、又は13.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグにおけるAl量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの有する潜在水硬性をより十分に発揮できる。なお、潜在水硬性とは、アルカリ刺激材を添加することで水和反応を開始する特性のことを意味する。高炉水砕スラグにおけるAl量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10.0~14.5質量%、12.0~14.5質量%、又は13.0~14.5質量%であってよい。
【0037】
高炉水砕スラグにおける二酸化ケイ素の含有量(SiO量とも表記する)の下限値は、例えば、30.0質量%以上、33.0質量%以上、34.0質量%以上、34.5質量%以上、又は35.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのSiO量の下限値が上記範囲内であることで、初期及び長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのSiO量の上限値は、例えば、40.0質量%以下、38.0質量%以下、36.5質量%以下、又は35.5質量%以下であってよい。高炉水砕スラグのSiO量の上限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのSiO量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、33.0~40.0質量%、又は34.0~35.5質量%であってよい。
【0038】
高炉水砕スラグにおける酸化カルシウムの含有量(CaO量とも表記する)の下限値は、例えば、35.0質量%以上、38.5質量%以上、又は40.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのCaO量の下限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性をより向上させることができる。高炉水砕スラグのCaO量の上限値は、例えば、45.0質量%以下、43.5質量%以下、43.0質量%以下、42.5質量%以下、42.0質量%以下、又は41.5質量%以下であってよい。高炉水砕スラグのCaO量の上限値が上記範囲内であることで、長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのCaO量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、38.5~45.0質量%、又は40.0~42.5質量%であってよい。
【0039】
高炉水砕スラグにおける酸化マグネシウムの含有量(MgO量とも表記する)の下限値は、例えば、4.0質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、又は7.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのMgO量の下限値が上記範囲内であることで、初期及び長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのMgO量の上限値は、例えば、10.0質量%以下、9.0質量%以下、7.5質量%未満、7.4質量%未満、7.2質量%未満、又は7.1質量%未満であってよい。高炉水砕スラグのMgO量の上限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのMgO量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、4.0~10.0質量%、又は6.0質量%以上7.4質量%未満であってよい。
【0040】
高炉水砕スラグは、その他の成分として、例えば、三酸化硫黄(SO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、及び酸化チタン(TiO)等を含んでよい。
【0041】
本明細書における高炉水砕スラグの化学組成は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した値を意味する。
【0042】
高炉水砕スラグの反応性は、(CaO+MgO+Al)/SiOの値(高炉水砕スラグにおける二酸化ケイ素の含有量に対する、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化アルミニウムの合計含有量の比)で表される塩基度という指標で評価される。高炉水砕スラグとしては、塩基度が高いものを使用してもよく、塩基度が低いものを使用することもできる。
【0043】
高炉水砕スラグとしては、例えば、塩基度が1.60~1.95となるようなものを幅広く使用できる。塩基度の1.75未満の高炉水砕スラグは、塩基度が低く、一般に反応性の低い低品位スラグと考えられるが、本開示の水硬性組成物の成分としては使用可能である。
【0044】
高炉水砕スラグの塩基度の上限値は、例えば、1.95以下、1.95未満、1.90未満、1.85未満、又は1.80未満であってよい。比較的反応性に優れる高炉水砕スラグの塩基度の下限値は、例えば、1.75超、又は1.78以上であってよい。塩基度の下限値が上記範囲内であることで、水硬性組成物の初期強度の向上をより容易なものとし得る。高炉水砕スラグの塩基度は上述の範囲内で調整でき、例えば、1.75~1.95、又は1.75以上1.80未満等であってよい。
【0045】
本開示に係る水硬性組成物においては、高炉水砕スラグとして塩基度が低いものも使用できる。塩基度の低い高炉水砕スラグは、通常、十分な圧縮強さを得難いことから、低品位のスラグとして使用が控えられることが多いが、本開示に係る水硬性組成物においては、比較的多くの石膏を配合し、促進剤の含有量も調整することによって硬化反応が十分に促進することが可能であることから、上記低品位のスラグであっても使用できる。このような低品位の高炉水砕スラグとしては、塩基度の上限値が、例えば、1.75未満、1.70未満、又は1.65未満であってよい。低品位の高炉水砕スラグの塩基度の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、1.60以上、又は1.65以上であってよい。低品位の高炉水砕スラグの塩基度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.60以上1.75未満であってよい。
【0046】
本明細書における塩基度(JIS塩基度)は、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」の記載に準拠して測定される値であり、具体的には、(CaO+MgO+Al)/SiOの値(二酸化ケイ素の含有量に対する、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムの合計含有量の比)を意味する。
【0047】
高炉水砕スラグのブレーン比表面積は、例えば、2500~10000cm/g、2500~8000cm/g、2500~6000cm/g、2500~5000cm/g、3000~5000cm/g、4000~5000cm/g、又は4000~4500cm/gであってよい。
【0048】
本明細書における「ブレーン比表面積」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0049】
上記高炉水砕スラグの含有量は、上記結合材100質量%を基準として、70.0~95.5質量%である。上記高炉水砕スラグの含有量の上限値は、上記結合材100質量%を基準として、例えば、95.0質量%以下、90.0質量%以下、85.0質量%以下、又は80.0質量%以下であってよい。上記高炉水砕スラグの含有量の上限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの反応性をより十分なものとできる。上記高炉水砕スラグの含有量の下限値は、上記結合材100質量%を基準として、例えば、71.0質量%以上、72.5質量%以上、75.0質量%以上、又は77.5質量%以上であってよい。上記高炉水砕スラグの含有量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの潜在水硬性をより十分に発揮できる。
【0050】
本明細書における高炉水砕スラグの含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。具体的には、まず、水硬性成物を900℃で1時間加熱して高炉水砕スラグ(ガラス)を結晶化させた測定サンプルを調製する。その後、上記測定サンプルに対するX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、上記測定サンプル中の各結晶相を定量することによって、ゲーレナイト、オケルマナイト及びメルビナイトを高炉水砕スラグが結晶化してできた結晶相として定量し、これらの合計量を高炉水砕スラグの含有量とする。なお、自身で水硬性組成物を製造する場合には、製造過程で投入する高炉水砕スラグの配合量(計量値)が、上記含有量に相当する。
【0051】
(石膏)
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよく、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される一種であってもよい。石膏は廃石膏ボードを再生して得られた石膏であってもよい。
【0052】
上記結合材中の石膏の含有量は、水硬性組成物に優れた圧縮強さを発揮させる観点から、比較的多くなっている。上記結合材における上記石膏の含有量がSO換算で4.0~10.0質量%である。石膏の含有量が上記範囲内であることによって、高炉スラグの分量が極めて大きい水硬性組成物において、石膏による水硬性組成物の硬化に伴う圧縮強さの向上効果を発揮させることが可能であり、促進剤等の配合によって水硬性組成物の組成に変化が生じた場合であっても、極端な圧縮強さの変動を抑制することができる。
【0053】
上記石膏の含有量の上限値は、上記結合材100質量%を基準として、SO換算で、例えば、9.5質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、又は7.0質量%以下であってよい。石膏の含有量の上限値が上記範囲内であることで、初期及び長期における強度発現性をより向上できる。結合材における石膏の含有量の下限値は、上記結合材100質量%を基準として、SO換算で、例えば、4.2質量%以上、4.5質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、又は6.0質量%以上であってよい。石膏の含有量の下限値を上記範囲内とすることで、高炉水砕スラグの水和反応をより好適なものとし、水と練り混ぜた後の水硬性組成物の硬化を促進し、初期強度発現性をより向上できる。結合材における石膏の含有量は上述の範囲内で調整してよく、上記結合材100質量%を基準として、SO換算で、例えば、4.2~9.5質量%、又は6.0~7.0質量%であってよい。
【0054】
本明細書における石膏の含有量は、高炉水砕スラグに含まれ得る石膏成分に加えて、結合材に対して配合される石膏成分等の合計量を意味する。本明細書における石膏の含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。石膏の含有量は、具体的には、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に規定されるSOの分析方法に準拠して測定するものとする。
【0055】
(促進剤)
促進剤は、高炉水砕スラグの反応を促進し、初期強度を向上させる化合物である。
【0056】
促進剤は、一価の陰イオンを含有していてもよく、一価の陰イオンを有する塩を含有していてもよい。一価の陰イオンは、例えば、亜硝酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、ギ酸イオン、及び酢酸イオンからなる群より選択される少なくとも一種の一かの陰イオンであってよい。例えば、促進剤が亜硝酸塩を含むことによって、水硬性組成物の硬化の際の初期強度をより向上させることができる。促進剤が亜硝酸塩を含むことによってまた、水硬性組成物の硬化の際の水和に伴う発熱量を低減することもできる。
【0057】
促進剤は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。促進剤が、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を含むことによって、高炉水砕スラグの反応性をより向上させることができる。
【0058】
上記アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、及びカリウム等であってよく、上記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、及びカルシウム等であってよい。水和物の生成促進、及び圧縮強さの向上の観点から、上記アルカリ土類金属は、カルシウムを含むことが好ましく、カルシウムであることがより好ましい。促進剤は、例えば、カルシウム塩を含有してよい。
【0059】
セメントクリンカのようなアルカリ刺激材を含む従前の水硬性組成物では、アルカリ刺激材から溶出する水酸化カルシウム(Ca(OH))等のアルカリ刺激物質が高炉水砕スラグの硬化反応の開始に寄与していると考えられる。本開示に係る水硬性組成物でも同様に、水酸化カルシウム等のアルカリ刺激物質が高炉水砕スラグの硬化反応の開始に寄与していると考えられ、酸化カルシウムを含む混和材又は促進剤からカルシウムを含む溶出成分が生じることによって、高炉水砕スラグの硬化を促進することが期待され得る。上記混和材の種類に応じてアルカリ刺激物の溶出速度の差があると思われるものの、硬化反応の時間を調整することで対応できる。したがって、促進剤がカルシウム塩を含む場合、アルカリ刺激材を含まない場合であっても、高炉水砕スラグの十分な硬化反応を期待することができる。このような作用によって、水硬性組成物における各成分の配合量の揺らぎをより許容することができ、本開示に係る水硬性組成物の実用をより容易なものとすることができる。
【0060】
促進剤は、例えば、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等が挙げられる。促進剤は、上述の化合物の中でも、好ましくはアルカリ金属の亜硝酸塩を含有し、より好ましくは亜硝酸カルシウムを含有し、更に好ましくは亜硝酸カルシウムである。
【0061】
促進剤の含有量の上限値は、上記結合材100質量部に対して、8.0質量部以下であるが、例えば、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、又は4.0質量部以下であってよい。促進剤の含有量の上限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグ等の反応が過度に促進された場合の異常凝結の発生をより確実に抑制できる。促進剤の含有量の下限値は、上記結合材100質量部に対して、0.5質量部以上であるが、例えば、0.8質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、又は2.0質量部以上であってよい。促進剤の含有量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの反応をより促進することができる。促進剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、上記セメント100質量部に対して、例えば、0.5~8.0質量部、又は2.0~4.0質量部であってよい。
【0062】
本明細書における促進剤の含有量は、測定対象である粉体状の組成物に対してX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、促進剤の含有量を定量する。なお、水硬性組成物を自ら調整する場合には、促進剤の含有量は配合量と一致するため、上述のような分析を要しない。
【0063】
上記水硬性組成物は、結合材及び促進剤に加えて、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、硅石粉、カルシウムを含む無機粉末(上記混和材及び高炉水砕スラグを除く)、フライアッシュ、シリカフューム、並びにSiやAlを含む無機鉱物(骨材を除く)等が挙げられる。
【0064】
[水硬性組成物の製造方法]
水硬性組成物の製造方法の一実施形態は、混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、上記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を有する。上記混和材はCaOを20質量%以上含有する。結合材及び促進剤については、上述の水硬性組成物について説明した内容を適用できる。
【0065】
第一工程においては、原料を構成する各成分を破砕してもよい。第一工程において破砕を行う場合、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各種成分を混合した後に破砕を行ってもよく、各種成分を破砕した後に混合してもよく、また各種成分の混合と破砕とを同時に行ってもよい。第一工程における各種成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、及びリボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル、竪型ローラーミル、及びローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、又は各種成分のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0066】
上記第一工程は、上記結合材の合計100質量%を基準として、上記混和材の配合量が0.5~20質量%以下となり、上記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、上記結合材の合計100質量%を基準として、上記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、を含む。
【0067】
第二工程では、結合材と、促進剤とを混合する。混合の手段は第一工程と同一であっても、異なってもよい。第二工程、又は、第一工程及び第二工程以外の工程において、その他の成分を配合してもよい。その他の成分としては、例えば、硅石粉、カルシウムを含む無機粉末(上記混和材及び高炉水砕スラグをを除く)、フライアッシュ、シリカフューム、並びにSiやAlを含む無機鉱物(骨材を除く)等が挙げられる。
【0068】
水硬性組成物の製造方法は、第一工程及び第二工程に加えて、その他の工程を含んでもよい。その他の工程としては、例えば、塊状の混和材を粉砕する工程(粉砕工程)、混和材を加熱処理する工程(加熱処理工程)、及び混和材の粒度を調整する工程(粒度調整工程)等が挙げられる。粉砕工程における粉砕は、ボールミル等を使用できる。粉砕工程は、混和材の粒度が90μm以下となるように調整してよい。加熱処理工程では混和材表面に付着した付着水の量を低減する工程である。加熱処理工程では、乾燥機等を用いることができ、加熱温度は100℃以上とすることができ、130℃以下であってよい。粒度調整工程は、例えば、篩等を用いて混和材の粒度を調製する工程である。
【0069】
[硬化体の製造方法]
上述の水硬性組成物は、モルタル及びコンクリート等の硬化体を調製する原料として好適である。つまり、硬化体の製造方法の一実施形態は、上述の水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する工程を有する。上述の製造方法では、水の他に、例えば、細骨材、粗骨材、混和剤等と混合してモルタル硬化体を製造してもよい。上記硬化体の製造方法では、硬化時間を比較的長く確保することが好ましい。硬化時間は、例えば、72時間以上であってよい。上記硬化の際にはモルタル等の形状を目的の硬化体の形状に維持するように、例えば、型枠等に型詰めした状態に維持することが好ましい。
【0070】
水硬性組成物は、上述の水硬性組成物の製法と同様であってよい。すなわち、硬化体の製造方法の一実施形態は、混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏を含む原料を混合して結合材を調製する第一工程と、上記結合材の100質量部に対して、0.5~8.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、上記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を有する。上記混和材はCaOを20質量%以上含有する。
【0071】
上記第一工程は、上記結合材の合計100質量%を基準として、上記混和材の配合量が0.5~20質量%となり、上記高炉水砕スラグの配合量が70.0~95.5質量%となるように調整することと、上記結合材の合計100質量%を基準として、上記石膏の配合量がSO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、を含む。
【0072】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。水の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、20~100質量部、又は40~70質量部であってよい。
【0073】
細骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材を使用する場合、細骨材の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0074】
粗骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、及び砕石等が挙げられる。粗骨材を使用する場合、粗骨材の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0075】
細骨材及び粗骨材を併用することもできるが、この場合、細骨材及び粗骨材の合計の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0076】
混和剤は、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。混和剤の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、0.01~2質量部であってよい。
【0077】
[高炉スラグの分量が極めて大きい組成物(例えば、高炉スラグ70質量%以上の組成物)において圧縮強さの変動を抑制する方法]
上述の知見を応用することに寄って、高炉スラグの分量が極めて大きい領域(例えば、高炉スラグ70質量%以上の領域)で、水硬性組成物を調製するにあたって、厳密な計量を要さずに、組成から期待されるような圧縮強さを発現し得るように、期待し得る圧縮強さの変動を抑制する方法を提供することができる。本方法は、水硬性組成物の設計組成から各成分の含有量にずれが生じた場合であっても、このずれによる圧縮強さの低減を抑制する方法ということもできる。この方法は、高炉水砕スラグの分量が極めて大きい領域における水硬性組成物の組成変更があった場合でも、発現強度の変動を抑制する方法であるということもできる。
【0078】
非特許文献1に示されるように、ポルトランドセメントのようなアルカリ刺激材を使用した従前の水硬性組成物においては、アルカリ刺激材の使用量が極めて低い領域においては、アルカリ刺激材の配合量を変更した際に、圧縮強さの急激な上昇又は低下が発生するといった発現強度の変動が生じる。本開示では、ポルトランドセメント等が占めていたアルカリ刺激材を含む水硬性組成物に変えて、本開示所定の組成を有する材料を用いることで、高炉水砕スラグの割合が極めて大きな領域において配合組成を変更した場合にも、発現強度のばらつきを抑制し、安定して高強度を発揮し得る。
【0079】
圧縮強さの変動を抑制する方法の一実施形態は、混和材、高炉水砕スラグ、及び石膏からなる結合材を含む組成物に対して、石膏の含有量を、上記結合材の全量を100質量%として、SO換算で4.0~10.0質量%となるように調整すること、及び、促進剤を、上記結合材100質量部に対して、0.5~8.0質量部となるように配合すること、を含む。上記混和材はCaOを20質量%以上含有する。本方法を用いることによって、従前では、実機レベルでの計量では到底使用できなかった高炉スラグの分量が極めて大きい水硬性組成物についても、十分に実用に耐えうる圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物を提供できる。本方法を適用することによって、上記条件を充足するような設計組成で水硬性組成物を複数調製した場合、例えば、軽量精度の限界によって、その組成が互いにわずかに異なるとしても、いずれの水硬性組成物も設計組成から期待し得る圧縮強さを発揮し得るものとなる。
【0080】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0081】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0082】
[水硬性組成物の原料]
水硬性組成物の原料として以下のものを用いた。
【0083】
(混和材)
混和材として、廃コンクリート、生コンスラッジ、転炉スラグ、電気炉還元スラグ、及び高炉徐冷スラグを用いた。各混和材は、ボールミルで粉砕し、付着水がなくなるまで100℃の乾燥機で乾燥させた後、90μm以下のものをふるいによって選別して使用した。廃コンクリート、転炉スラグ、電気炉還元スラグ、及び徐冷スラグの化学組成は、蛍光X線分析によるFP法(ファンダメンタルパラメータ法)にて測定した。結果を表1に示す。
【0084】
廃コンクリートとしては、小石、砂などの骨材成分とセメント成分とから構成される一般的な廃コンクリートを用いた。生コンスラッジとしては、スラッジ水、並びに、戻りコンクリート及び残りコンクリートから骨材を回収した残さの混合物から水分を揮発させた乾燥粉末を用いた。転炉スラグとしては、溶けた銑鉄を転炉に入れ、生石灰などの副材料を加えて酸素を吹きつけた際に取り除かれる銑鉄中の不純物として生成される転炉スラグを用いた。電気炉還元スラグとしては、鉄鋼製造時の取鍋精錬炉にて還元精錬時に生成される電気炉還元スラグを用いた。高炉徐冷スラグとしては、鉄鋼製造時の高炉で生成された溶融スラグを冷却ヤードに流し込み、自然放冷や適度の散水によって冷却された結晶質の高炉徐冷スラグを用いた。
【0085】
(高炉水砕スラグ)
高炉水砕スラグは、石膏無添加の高炉スラグ微粉末を用いた。高炉スラグ微粉末の化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0086】
(アルカリ刺激材)
アルカリ刺激材としては、普通ポルトランドセメントを調製する際に、一般に使用されるセメントクリンカを用いた。表1中、「OPC」とは、普通ポルトランドセメントクリンカを示す。普通ポルトランドセメントクリンカの化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1には、参考のため普通ポルトランドセメント(OPC)の化学組成を併記した。
【0089】
(石膏)
石膏は、石炭火力発電所で副生する排脱二水石膏、及び試薬の無水石膏を用いた。表1中、排脱二水石膏を二水石膏と記す。石膏の化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0090】
(促進剤)
促進剤としては、無機系促進剤を使用した。無機系促進剤として、キシダ化学株式会社製の亜硝酸カルシウム・1水和物(以下、場合によりCNと表記する)を使用した。
【0091】
[実施例1]
高炉水砕スラグが84.0質量%、本開示所定の混和材として廃コンクリートが1.0質量%、石膏として二水石膏が15質量%となるように、各成分を混合することで結合材を調製した。結合材中の石膏の含有量はSO換算で6.9%であった。
【0092】
次に、上記結合材100質量部に対して、促進剤が2.0質量部となるように、促進剤として亜硝酸カルシウム・1水和物を配合することによって、実施例1の水硬性組成物を調製した。
【0093】
[実施例2~14、比較例1]
成分及び配合量を表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を調製した。
【0094】
[参考例1,2]
上述のような混和材を使用せずに、表2に記載の成分及び配合量に基づいて、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、石膏及び促進剤を含む水硬性組成物を調製した。
【0095】
[水硬性組成物の評価:圧縮強さ]
実施例1~14、比較例1、及び参考例1,2で調製された水硬性組成物のそれぞれについて、後述する方法に沿って、材齢7日及び28日における圧縮強さを測定した。結果を表2に示す。圧縮強さの測定は、モルタル硬化体の脱型時間を変更した以外は、JIS R 5201:1992「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して行った。
【0096】
まず水硬性組成物、細骨材、及び水を配合して得られるモルタル組成物を用いて圧縮強さの評価を行った。具体的には、実施例、比較例及び参考例で調製した水硬性組成物のそれぞれについて、100質量部の水硬性組成物に対して、細骨材としての砂(標準砂/セメント協会製)を200質量部、及び、50質量部の水を配合することによって、評価用のモルタル組成物を調製した。上述の配合は、水硬性組成物:砂:水が100:300:50(質量比、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に沿って配合)となるように調整したものである。
【0097】
得られたモルタル組成物のそれぞれを用いて、モルタル硬化体を調製した。まず、上記モルタル組成物を20℃の恒温室においてモルタルとして練り混ぜ、4cm×4cm×16cm(JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に沿って調製)の型枠に型詰めした。型枠を湿気箱内に貯蔵して、72時間、養生した。72時間養生の後に脱型し、モルタル硬化体を得た。得られたモルタル硬化体を7日間(材齢7日)、20℃の恒温室で水中養生させた。水中養生後のモルタル硬化体を試験体として、材齢7日のモルタル硬化体の圧縮強さを測定した。同様にして、得られたモルタル硬化体を28日間(材齢28日)、20℃の恒温室で水中養生させ、材齢28日のモルタル硬化体の圧縮強さを測定した。
【0098】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示によれば、高炉スラグの分量が極めて大きい領域において、水硬性組成物の配合精度が低く各成分の組成が設計組成とずれる場合であっても、硬化によって、安定して優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供できる。本開示によればまた高炉水砕スラグを多量に含む場合においても、圧縮強さの変動を抑制する方法を提供できる。本開示に係る水硬性組成物によれば、調製の際のCO排出量の大きなセメントクリンカを用いずに、従来の水硬性組成物と同等以上の圧縮強さを発揮し得る硬化体を製造可能である。このような技術によって、硬化体製造に係る見かけのCO発生量を低減することができ、有用である。