(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144270
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】汚染物質吸着シート及び当該シートの使用方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/04 20060101AFI20241003BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J20/04 A
C02F1/28 B
B01J20/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046170
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023055510
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】板谷 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】國西 健史
(72)【発明者】
【氏名】中村 丞吾
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA08
4D624AB17
4D624BA06
4D624BA11
4D624BB01
4D624BC02
4D624DA03
4G066AA16B
4G066AA17B
4G066AA43B
4G066AC13C
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA15
4G066FA37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】砒素を含む重金属等を有効に捕獲できる、汚染物質吸着シートを提供する。
【解決手段】汚染物質吸着シートは、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートと消石灰及び/又は生石灰添着シートとの積層構造体を有し、当該汚染物質吸着シートの透水係数は10
-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m
2で、吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m
2で担持され、前記消石灰及び/又は生石灰添着シートは、不織布に消石灰及び/又は生石灰が添着されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m
2で、消石灰及び/又は生石灰は、消石灰及び/又は生石灰添着シートあたり50~1000g/m
2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートと消石灰及び/又は生石灰添着シートとの積層構造体を有し、
当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持され、前記消石灰及び/又は生石灰添着シートは、不織布に消石灰及び/又は生石灰が添着されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、消石灰及び/又は生石灰は、消石灰及び/又は生石灰添着シートあたり50~1000g/m2であることを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項2】
請求項1記載の汚染物質吸着シートにおいて、重金属吸着シート及び消石灰及び/又は生石灰添着シートはそれぞれ1シート以上からなることを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の汚染物質吸着シートにおいて、積層構造体シートの最上部には、少なくとも1シートの消石灰及び/又は生石灰添着シートを備えることを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項4】
黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートに更に消石灰及び/又は生石灰を散布担持させたシートからなり、当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持され、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、該吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持されており、前記消石灰及び/又は生石灰は、当該重金属吸着シートに50~1000g/m2で散布担持されていることを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項5】
請求項1又は4記載の汚染物質吸着シートにおいて、当該汚染物質吸着シートを少なくとも1シート以上積層してなることを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項6】
請求項1又は4記載の汚染物質吸着シートにおいて、吸着材は、平均粒径が3~100μmの粉末状であって、ドロマイト系化合物を含むことを特徴とする、汚染物質吸着シート。
【請求項7】
請求項1又は4記載の汚染物質吸着シートを、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質を含有する岩石又は土壌と接触させて、五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲し、前記汚染物質吸着シートを通過した通過水のpHを弱アルカリ性とすることを特徴とする、汚染物質吸着シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質吸着シート及び当該シートの使用方法に関し、特に建築・土木工事で発生する掘削ずり等の掘り起こし残土や汚泥等の黄鉄鉱を含む岩石や土壌に含まれる重金属等である砒素等の汚染物質を有効に捕獲することができる、汚染物質吸着シート及び当該シートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は、火山国であるため、様々な鉱脈・鉱床が発達しており、自然の岩石や堆積物中に重金属等(土壌汚染対策法で定める第二種特定有害物質)が含まれている箇所が多数存在している。
このため、トンネル掘削工事においては、環境基準(環境省;土壌環境基準および地下水の水質汚濁に係る環境基準)を超える重金属等が溶出する岩石及び土壌が発生する場合があり、発生する岩石・土壌についてスクリーニング(重金属等の溶出量分析など)が実施されている。
【0003】
スクリーニングを実施するにあたり、岩石や土壌を、一旦、屋外の所定の土地に仮置きして、スクリーニング後に処分するが、当該廃棄物に、重金属類などの環境汚染物質が含まれている場合があり、雨水により廃棄物に水が染み込むと、その水は環境汚染物質を取り込んだ後、汚染水となって廃棄物から染み出し、原地盤を汚染する場合がある。
【0004】
原地盤への重金属等の浸透を防ぐ工法としては、吸着層工法がある。
この工法は、重金属含有土壌の下に、母材となる砂と吸着材の混合物の層を形成し、溶出する重金属等が原地盤の地下帯水層にまで浸透する事を防ぐ方法である。
かかる工法では、吸着材と母材との混合管理が必要となるため、施工するにあたり、特別な重機を必要とし、またその工程も煩雑な場合が多いという問題がある。
【0005】
かかる問題を解決するため、例えば特開2018-192449号公報(特許文献1)には、重金属を含有する汚染土を、2枚以上の重金属イオン吸着シートを含む積層構造体の一方面上に載置する方法であり、前記重金属イオン吸着シートが、繊維基材と、前記繊維基材内に形成され、バインダー樹脂から構成されるバインダー樹脂層と、前記バインダー樹脂を介して前記繊維基材に固定される重金属イオン吸着材とを有する方法が開示されており、前記重金属吸着性能を有するシートを用い、同シート上に掘削ずりや建設廃材を積載し、汚染物質を吸着させる工法が提案されている。
【0006】
具体的には、かかる特許文献1では、重金属イオン吸着材として、個数平均粒子径が0.2μm以上5μm以下であって、一般式:[Mg2+
1-xAl3+x(OH)2]x+[(An-)x/n・mH2O]x-(An-はn価のアニオン、0.20≦x≦0.33)で表される合成ハイドロタルサイト様物質を含む吸着シートを用いた、重金属を含有する汚染土を、2枚以上、好ましくは3枚以上の重金属イオン吸着シートを含む積層構造体の一方面上に載置し、汚染土内を浸透する水により、重金属を溶出させ、溶出させた重金属イオンを、重金属イオン吸着シートを含む積層構造体と接触させ、重金属イオンを吸着シートに吸着して、汚染土から重金属イオンを除く工法である。
【0007】
更に、特開2014-166621号公報(特許文献2)には、汚染水から環境汚染物質を除去する機能を備え、汚染水による土壌汚染を効果的に防止できる環境汚染物質除去シートとして、ゼオライト吸着材を含む透水性層と、該透水性層の一方の面に積層した透水性調節層とを少なくとも有する環境汚染物質除去シートで、特定の方法で測定する200mL通水時間が10分以上である、環境汚染物質除去シートが開示されている。
【0008】
一方、黄鉄鉱(FeS2)は、鉄を含む鉱物の中で地球上において最も多く存在し、自然界の岩石や土壌においても広く分布する。
例えば、トンネル掘削に伴い発生する岩石・土壌の中で黄鉄鉱等を含み硫酸酸性水を発生するものも存在し、溶出する酸性水についての処理が必要となるが、上記従来技術におけるシートには、pH緩衝作用は提案されていない。
【0009】
更に、砒素は、黄鉄鉱を含む土壌中において、FeAsS(硫砒鉄鉱、アルセノ黄鉄鉱)およびその他の粘土鉱物やオキシ水酸化鉄にAs(III)及びAs(V)として固定されていることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0010】
また、非特許文献3には、中性領域におけるアルセノ黄鉄鉱の酸素による酸化分解について記載されており、以下の反応式(1)~(4)より、アルセノ黄鉄鉱から三価の亜砒酸As(III)が溶出し、五価の砒酸As(V)に空気酸化されることが記載され、硫砒鉄鉱から溶出した直後の砒素の形態は、As(III)であるものと想定される。
4FeAsS + 11O2 + 6H2O = 4Fe2+ + 4H3AsO3 + 4SO4
2- (1)
4Fe2+ + O2 + 10H2O = 4Fe(OH)3 + 8H+ (2)
2H3AsO3 + O2 = 2HAsO4
2- + 4H+ (3)
2H3AsO3 + O2 = 2H2AsO4
- + 2H+ (4)
【0011】
更に、非特許文献4には、Mg-Al系層状複水酸化物(ハイドロタルサイト)による砒素の吸着について記載されており、Mg-Al系層状複水酸化物は、As(V)を吸着性能と比較するとAs(III)に対する吸着性能が劣ることが示されている。
【0012】
従って、黄鉄鉱を含み砒素が溶出する岩石・土壌の処理や仮置きした岩石・土壌の処理には、砒素の流出を抑制するために、As(III)からAs(V)への酸化を促す効果を有する処理が可能となることが期待されているが、上記従来技術においてはこのような有効な処理シートは提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-192449号公報
【特許文献2】特開2014-166621号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Savage、K.S.、T.N. Tingle、P.A. O’Day、G.A. Waychunas、and D.K. Bird. 2000. Arsenic speciation in pyrite and secondary weathering phases、Mother Lode Gold district、Tuolumne County、California. J. Appl. Geochem. 15:1219-1244.
【非特許文献2】Igarashi、T.、S.P. Herrera、H. Uchiyama、H. Miyamae、N. Iyatomi、K. Hashimoto、and C.B. Tabelin. 2020. The two-step neutralization ferrite-formation process for sustainable acid mine drainage treatment: Removal of copper、zinc and arsenic、and the influence of coexisting ions on ferritization. Sci. Total Environ. 715:136877.
【非特許文献3】Walker、F.P.、M.E. Schreiber、and J.D. Rimstidt. 2006. Kinetics of arsenopyrite oxidative dissolution by oxygen. Geochim. Cosmochim. Acta 70:1668-1676.
【非特許文献4】平原英俊、曾澤純雄、佐藤寛恵、高橋諭、梅津芳生、成田榮一.2005.Mg-Al系層状複水酸化物による水溶液からのヒ素の除去.粘土科学.45:6-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、建築・土木工事で発生する掘削ずり等の掘り起こし残土、及び汚泥等の黄鉄鉱を含む岩石や土壌中に含有される砒素を含む重金属等の汚染物質を有効に捕獲することができ、溶出液のpHを弱アルカリ性に調整することができる、汚染物質吸着シート及びその使用方法を提供することである。
【0016】
特に、黄鉄鉱を含む岩石や土壌中に含有される、価数がAs(III)からAs(V)への酸化を促進して、岩石や土壌中の砒素を有効に吸着することができ、更にかかる黄鉄鉱を含む岩石や土壌から発生する硫酸酸性水である溶出液を処理して、pHを弱アルカリ性にすることができる、汚染物質吸着シート及びその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明者らは、重金属吸着材とカルシウム(消石灰及び/又は生石灰)とを併用して、特定のシートとすることで解決できることを見出し、本発明に至ったものであり、以下の技術的特徴を有する。
(I)本発明の汚染物質吸着シートは、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートと消石灰及び/又は生石灰添着シートとの積層構造体を有し、
当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持され、前記消石灰及び/又は生石灰添着シートは、不織布に消石灰及び/又は生石灰が添着されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、消石灰及び/又は生石灰は、消石灰及び/又は生石灰添着シートあたり50~1000g/m2であることを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0018】
(II)好適には、上記(I)の本発明の汚染物質吸着シートにおいて、重金属吸着シート及び消石灰及び/又は生石灰添着シートはそれぞれ1シート以上からなることを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0019】
(III)更に好適には、上記(I)又は(II)の本発明の汚染物質吸着シートにおいて、積層構造体シートの最上部には、少なくとも1シートの消石灰及び/又は生石灰添着シートを備えることを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0020】
(IV)本発明の他の汚染物質吸着シートは、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートに更に消石灰及び/又は生石灰を散布担持させたシートからなり、当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持され、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、該吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持されており、前記消石灰及び/又は生石灰は、当該重金属吸着シートに50~1000g/m2で散布担持されていることを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0021】
(V)好適には、上記(I)又は(IV)の本発明の汚染物質吸着シートにおいて、当該汚染物質吸着シートを少なくとも1シート以上積層してなることを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0022】
(VI)好適には、上記(I)又は(IV)の本発明の汚染物質吸着シートにおいて、吸着材は、平均粒径が3~100μmの粉末状であって、ドロマイト系化合物を含むことを特徴とする、汚染物質吸着シートである。
【0023】
(VII)本発明の汚染物質吸着シートの使用方法は、上記(I)又は(IV)の本発明の汚染物質吸着シートを、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質を含有する岩石又は土壌と接触させて、五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲し、前記汚染物質吸着シートを通過した通過水のpHを弱アルカリ性とすることを特徴とする、汚染物質吸着シートの使用方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の汚染物質吸着シートは、重金属吸着材および消石灰及び/又は生石灰が不織布に担持されている2層構造からなる特定のシートもしくは、重金属吸着材が不織布に担持されているシートに更に消石灰及び/又は生石灰粉末を添着させて併用するシートとすることにより、黄鉄鉱及び砒素を含み硫酸酸性水を発生する岩石や土壌中に含有される砒素を、その価数にかかわらず有効に吸着することができ、更に当該岩石や土壌から溶出する酸性水の処理を適正に行って弱アルカリ性とすることが可能となる。
更に、使用後の汚染物質吸着シートは、例えばセメント工場の燃料として利用することが可能である。
【0025】
また、本発明の汚染物質吸着シートの使用方法は、上記本発明の汚染物質吸着シートを、黄鉄鉱及び砒素を含む岩石や土壌、例えば残土、建設発生土、汚泥等と接触させること、例えば当該岩石や土壌の下部に設置することで、雨水等により当該岩石や土壌から溶出する砒素を、その価数にかかわらず有効に吸着して、汚染物質の原地盤への流出を防止することができるとともに、酸性水である溶出液のpHを弱アルカリ性とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の汚染物質吸着シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の汚染物質吸着シート用いて残土処理を実験的に実施するための実験装置の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
ここで、本発明において、岩石や土壌とは、汚染物質を含有する残土、建設発生土、汚泥等の、砒素等の重金属等が含まれ、その除去処置が必要な岩石や土壌を意味するものである。
【0028】
本発明の第1の汚染物質吸着シートは、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートと消石灰及び/又は生石灰添着シートとの積層構造体を有し、
当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持され、前記消石灰及び/又は生石灰添着シートは、不織布に消石灰及び/又は生石灰が添着されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、消石灰及び/又は生石灰は、消石灰及び/又は生石灰添着シートあたり50~1000g/m2である、汚染物質吸着シートである。
【0029】
本発明の第2の汚染物質吸着シートは、黄鉄鉱及び砒素を含む汚染物質含有岩石又は土壌から浸出する五価及び三価の砒素を含む汚染物質を捕獲する汚染物質吸着シートであって、
該汚染物質吸着シートは、重金属吸着シートに更に消石灰及び/又は生石灰を散布担持させたシートからなり、当該汚染物質吸着シートの透水係数は10-5cm/s以上であって、前記重金属吸着シートは、不織布に重金属吸着材が担持されており、不織布は単位面積あたり10~650g/m2で、該吸着材は重金属吸着シートあたり10~5000g/m2で担持され、前記消石灰及び/又は生石灰は、当該重金属吸着シートに50~1000g/m2で散布担持されている、汚染物質吸着シートである。
【0030】
上記本発明の汚染物質吸着シートを構成する重金属吸着シートは、不織布に重金属等を吸着する吸着材が担持されてなるものである。
かかる重金属吸着シートを構成する不織布は、砒素等の重金属等を吸着する吸着材を担持できれば特に限定されるものではなく、市場で入手できる任意の不織布を用いることができる。
【0031】
不織布としては、その繊度、繊維長等は特に限定されず、適宜決定することができる。
また、不織布は、通常不織布を製造する際に用いられる有機繊維で構成されることができ、かかる有機繊維としては、親水性有機繊維や疎水性有機繊維が挙げられ、好ましくは疎水性有機繊維からなることが長期に強度を保持して有効な耐久性を備える点から望ましい。
これらの不織布繊維としては、例えば、パルプ、古紙パルプ、リンター、麻、綿、ケナフ等から調製される天然セルロース繊維や、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド、ポリイミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、スチレン-エチレン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(PVA)等のポリビニルアルコール系樹脂等を例示することができる。
【0032】
また、不織布の製造方法は特に限定されず、通常の製造方法を適用して、本発明に用いる不織布を製造することができる。
不織布の一般的な製造工程としては、原料繊維からウェブを形成するウェブ形成工程と、ウェブ中の原料繊維を結合させる繊維結合工程とを有する方法があり、ウェブ形成工程としてエアレイド法が採用された不織布(エアレイド不織布)や、ウェブ形成工程としてカーディング法が採用された不織布がある。また、不織布の形態としては、例えばウェブ形成工程の違いに基づいて、乾式不織布、湿式不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などがあり、いずれのものも使用することが可能である。
【0033】
また、不織布のウェブ繊維結合方法としては、公知の任意の方法を適用することができ、例えば、ケミカルボンド法(浸漬法・スプレー法)、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等を用いることができる。
【0034】
また、不織布の単位面積あたりの質量(目付)は、特に限定されないが、好ましくは10~650g/m2が望ましく、より好ましくは10~600g/m2、さらに好ましくは200~600g/m2であることが望ましい。目付が上記範囲であると、施工性がよく、砒素等の汚染物質を良好に捕獲することができ、透水性能にも優れる重金属吸着シートを得ることができる。
【0035】
本発明の汚染物質吸着シートに用いる重金属吸着シートを構成する不織布に担持される、重金属を吸着する吸着材としては、特に限定されず、公知の重金属吸着材を用いることができる。
好ましくは、当該吸着材は、粉末状であることが、不織布繊維に広く分散されて担持されることができるため望ましい。また、粉末形態とすることで汚染水と速やかに反応することが可能であり、汚染物質である重金属等を効率的に吸着して捕獲することができる。
かかる粉末の平均粒径は、好ましくは3~100μm、より好ましくは30~100μmであることが、汚染水の透水性を良好に保持するために望ましい。
【0036】
また、重金属等を吸着できる吸着材としては、公知の任意の吸着材を用いることができるが、特に、ドロマイト系化合物を含む吸着材が、汚染物質である砒素を含む重金属等を有効に捕獲して固定することができることから望ましい。
【0037】
ここで、重金属等としては、重金属、半金属及びハロゲンを意味し、重金属としては、例えば、マンガン、クロム、銅、カドミウム、水銀、鉛等の1種若しくは2種以上のもので、かつ重金属単体及びその化合物が例示でき、半金属としては砒素、セレン等の1種以上のもので、かつ半金属単体及びその化合物が例示でき、またハロゲンとしてはフッ素、塩素等の単体及びその化合物が例示できる。さらにこれらに加え土壌汚染対策法に規定される第2種特定有害物質に含まれるホウ素単体及びその化合物を例示することができるが、これらの重金属、半金属及びハロゲンに限定されるものではない。特に、本発明の対象となる土壌には、砒素は含まれるものである。
【0038】
重金属等を吸着する吸着材としてはドロマイト系化合物が好適に用いられ、かかるドロマイト系化合物は、MgO、CaMg(CO3)2及びCaCO3を必須含有成分とするものである。
当該成分を含有するドロマイト系化合物としては、例えば、MgO、CaCO3及びCaMg(CO3)2を主成分とする半焼成ドロマイトが挙げられる。
前記ドロマイトは、市場で入手し得る任意のものを用いることができ、産地は問わない。
また、半焼成ドロマイトも市場で入手し得る任意の半焼成ドロマイトや、市場で入手し得る任意のドロマイトを焼成して得られた半焼成ドロマイトを用いることができ、産地や原料ドロマイトの組成等は問わない。半焼成ドロマイトは、分解反応が完全に完了するまでドロマイトを焼成して得られるものではなく、MgO、CaMg(CO3)2及びCaCO3を必須成分として含むものである。
【0039】
ドロマイトは、石灰石CaCO3とマグネサイトMgCO3のモル比が1:1となる複塩構造を有しており、CO3
2-基を挟んでCa2+イオンとMg2+イオンが交互に層を成して、一般に、MgCO3の割合が10~45質量%のものをいう。ドロマイトは、国内に多量に存在しており、ドロマイトを使用した吸着材は、コストや環境負荷の点からも有利である。
【0040】
上記半焼成ドロマイトとしては、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したドロマイト焼成物中の残留CaMg(CO3)2相の含有量xが、0.4≦x≦35.4(質量%)となる半焼成ドロマイトを好適に用いることができる。
半焼成ドロマイト中に含まれるCaMg(CO3)2相を定量して、上記範囲内のCaMg(CO3)2相残留量の半焼成ドロマイトを好適に用いることで、原料となるドロマイト鉱石の産地による組成の相違や、焼成温度等の焼成条件の設定などに関係なく、ドロマイトが最大に優れた重金属等吸着性能を有することが可能となる。
【0041】
ドロマイトは焼成することで、CaMg(CO3)2→MgO+CaCO3+CO2で表わされる分解反応を示す。また、ドロマイトの焼成による上記熱分解により、細孔が形成されて重金属等捕獲性能を発揮しているものと考えられる。本発明においては、ドロマイトを焼成した半焼成ドロマイト中のドロマイト相(CaMg(CO3)2相)の残留量を粉末X線回折によるリートベルト法により解析して、残留CaMg(CO3)2相の含有量xが、0.4≦x≦35.4(質量%)、好ましくは1.8≦x≦17.4(質量%)とすることで、特に好適に、重金属等を、より良好に捕獲することを実現することが可能となる。
【0042】
例えば、かかる好適な半焼成ドロマイトは、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したドロマイト焼成物中の残留CaMg(CO3)2相の含有量xが、好ましくは0.4≦x≦35.4(質量%)、より好ましくは1.8≦x≦17.4(質量%)となるように焼成することで製造することができる。
ドロマイトを焼成する温度は、特に限定されず、通常ドロマイトを焼成して半焼成ドロマイトを製造する温度、例えば650~1000℃で焼成することができる。残留CaMg(CO3)2相の含有量が、0.4≦x≦35.4(質量%)となるように焼成すれば焼成時間も制限されるものではない。
【0043】
本発明に用いる吸着材に含まれるドロマイト系化合物は、必須含有成分MgO、CaMg(CO3)2及びCaCO3が含まれるように1種類及び/または2種類以上の材料を任意に混合することができる。
一例として約23.33質量%のMgOを含有する半焼成ドロマイトを使用した場合においては、吸着材中の半焼成ドロマイト配合比を60~99質量%とすることにより、本発明に用いる吸着材中のMgOの含有量を14~23質量%とすることができるが、使用するドロマイト系材料に応じて、上記配合比率の制約を受けるものではない。
【0044】
更に、本発明に用いる吸着材には、望ましくは酸性硫酸塩を含む。
酸性硫酸塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム等が例示でき、好ましくは硫酸第一鉄を含有する。
酸性硫酸塩を含有することにより、硫酸第一鉄のようにその高い共沈作用によって、砒素や六価クロム等の重金属等に対して、より有効に捕獲することができる。
【0045】
また、本発明に用いる吸着材に含まれる酸性硫酸塩は、ドロマイト系化合物及び酸性硫酸塩の合量中、内割で、酸性硫酸塩を1~40質量%、好ましくは14~21質量%の割合で含む。
かかる割合で吸着材中にドロマイト系化合物と酸性硫酸塩とを含むことが望ましく、ドロマイト系化合物及び酸性硫酸塩の合量中、内割で、酸性硫酸塩を40質量%を超えて、特に50質量%を超えて含むと、吸着シートの製造時に、吸着材が凝集してしまい、シートに添着することができなくなり望ましくない。
【0046】
吸着材の一例としては、上記したように、ドロマイト系化合物、酸性硫酸塩を含み、ドロマイト系化合物及び酸性硫酸塩の合量中、酸性硫酸塩は1~40質量%の割合で含有され、且つ、吸着材中にMgOを14~23質量%含む吸着材が望ましい。
【0047】
本発明に用いる重金属吸着シートに用いる重金属吸着材の含量は、吸着シートあたり10~5000g/m2、好ましくは、50~3000g/m2である。
これにより、砒素を含む重金属等を吸着する性能を有効に発揮することができるとともに、上記不織布に効果的に吸着材を担持させることが可能となる。
【0048】
上記吸着材を不織布に担持させる方法としては、不織布上に吸着材が均一に散布して担持できれば、その方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができ、例えば、上記した不織布のウェブ繊維結合方法としての公知の任意の方法、例えば、ケミカルボンド法(浸漬法・スプレー法)、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等をおいて、使用する液体である水中に前記吸着材を分散させて、不織布中に吸着材を均一に担持させることが可能である。
【0049】
具体的な一例としは、例えば、任意量の吸着材を汚染物質吸着シート上に広げ、グラウンドレーキなどで平坦にならすことにより均一に散布することができる。
次いで、不織布上に散布された吸着材に、水又はバインダー液を散布する。
水又はバインダー液は、吸着材が、不織布の繊維と繊維との間隙内に装填されるように十分に散布する。
例えば、不織布の表面が湿潤する程度に散布することが望ましい。
散布する方法は、均一に水又はバインダー液を散布できれば散布方法は特に限定されず、例えば、任意の噴霧器や散水器等を用いて散布することができ、これにより不織布の繊維と繊維との間隙内に吸着材を装填することができる。
【0050】
また、他の例としては、水又はバインダー液に、吸着材を混合して、吸着材含有液を調製し、次いで、均質性を保持しながら又は保持した吸着材含有液を、上記不織布に散布する方法がある。
吸着材含有液を散布する方法は、不織布上に吸着材含有液が均一に散布できれば、その方法は特に限定されず、例えば、じょうろやコンクリート吹付機等により散布し、粉状吸着材含有液中に含まれる吸着材を、不織布の繊維と繊維との間隙内に装填する。
粉状吸着材含有液は、含有される粉状吸着材が、不織布の繊維と繊維との間隙内に十分に装填されるように散布し、例えば、不織布の表面が湿潤する程度に散布することが望ましい。
【0051】
バインダー液としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ウレタン等の液を用いることができる。
【0052】
次いで、必要に応じて、不織布の繊維と繊維との間隙内に吸着材が装填された湿潤状態の不織布シートを乾燥させて、重金属吸着シートを製造する。
このようにして、粉状の吸着材を汚染物質吸着シートの繊維と繊維との間隙内部に装填することができ、傾斜状態で使用しても、粉状の吸着材が流出したり、偏在する状態になることなく、重金属等の汚染物質を有効に吸着除去することが可能となる。
【0053】
本発明の第1の汚染物質吸着シートは、上記重金属吸着シートに消石灰及び/又は生石灰添着シートを積層してなる積層構造体シートである。
かかる本発明の第1の汚染物質吸着シートを構成する消石灰及び/又は生石灰添着シートは、不織布に消石灰及び/又は生石灰が添着担持されてなるものである。
なお、生石灰は吸湿して消石灰へ変質するため、本発明においては、生石灰と消石灰とを同義の意味で用いることとする。
【0054】
上記消石灰及び/又は生石灰添着シートを構成する不織布は、消石灰及び/又は生石灰を担持できれば特に限定されるものではなく、市場で入手できる任意の不織布を用いることができ、上記重金属吸着シートを構成する不織布と同様の不織布を用いることができる。
その不織布の単位面積あたりの質量(目付)についても、上記重金属吸着シートと同様に特に限定されず任意であるが、好ましくは10~650g/m2が望ましく、より好ましくは10~600g/m2、さらに好ましくは200~600g/m2であることが望ましい。目付が当該範囲であると、施工性がよく、透水性能にも優れる、消石灰及び/又は生石灰シートを得ることができる。
【0055】
また、消石灰及び/又は生石灰は、粉末状であることが、不織布繊維に広く分散されて添着担持されることができるため望ましい。また、粉末形態とすることで汚染水と十分に接触することが可能である。
かかる消石灰及び/又は生石灰粉末の平均粒径は、好ましくは30μm~1cm、より好ましくは50~500μmであることが、また、その添着量は、消石灰及び/又は生石灰粉末添着シートあたり50~1000g/m2、好ましくは、100~500g/m2でとすることで、上記不織布に効果的に消石灰及び/又は生石灰粉末を担持させることが可能となり、汚染水の透水性を良好に保持することが可能となる。
【0056】
上記不織布に、前記消石灰及び/又は生石灰粉末を添着担持する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができ、例えば、上記した不織布のウェブ繊維結合方法としての公知の任意の方法、例えば、ケミカルボンド法(浸漬法・スプレー法)、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等を用いて、不織布中に消石灰及び/又は生石灰粉末を均一に担持させることが可能である。また、例えば、上記不織布上に前記消石灰及び/又は生石灰粉末を振りかけて振動させて不織布内部に消石灰及び/又は生石灰粉末を添着させてもよい。消石灰及び/又は生石灰粉末を散布する方法は、不織布上に消石灰及び/又は生石灰粉末が均一に散布できれば、その方法は特に限定されず、例えば、任意量の消石灰及び/又は生石灰粉末を不織布上に広げ、グラウンドレーキなどで平坦にならすことにより均一に散布することができる。
【0057】
次いで、不織布上に散布された消石灰及び/又は生石灰粉末に、例えばバインダー液を散布する。
バインダー液は、消石灰及び/又は生石灰粉末が、不織布の繊維と繊維との間隙内に装填されるように十分に散布する。
例えば、不織布の表面が湿潤する程度に散布することが望ましい。
散布する方法は、均一に水又はバインダー液を散布できれば散布方法は特に限定されず、例えば、任意の噴霧器や散水器等を用いて散布することができ、これにより不織布の繊維と繊維との間隙内に消石灰及び/又は生石灰粉末を装填することができる。
【0058】
また、バインダー液に、消石灰及び/又は生石灰粉末を混合して、消石灰及び/又は生石灰粉末含有液を調製する。
次いで、均質性を保持しながら又は保持した当該消石灰及び/又は生石灰粉末含有液を、上記不織布に散布する。
【0059】
消石灰及び/又は生石灰粉末含有液を散布する方法は、不織布上に消石灰及び/又は生石灰粉末含有液が均一に散布できれば、その方法は特に限定されず、例えば、じょうろやコンクリート吹付機等により散布し、消石灰及び/又は生石灰粉末含有液中に含まれる消石灰及び/又は生石灰粉末を、不織布の繊維と繊維との間隙内に装填する。
消石灰及び/又は生石灰粉末含有液は、含有される消石灰及び/又は生石灰粉末が、不織布の繊維と繊維との間隙内に十分に装填されるように散布し、例えば、不織布の表面が湿潤する程度に散布することが望ましい。
【0060】
バインダー液としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ウレタン等の液を用いることができる。
【0061】
次いで、必要に応じて、不織布の繊維と繊維との間隙内に消石灰及び/又は生石灰粉末が装填された湿潤状態の不織布シートを乾燥させて、汚染物質吸着シートを製造する。
このように、消石灰及び/又は生石灰粉末を汚染物質吸着シートの繊維と繊維との間隙内部に装填することができ、傾斜状態で使用しても、消石灰及び/又は生石灰粉末が流出したり、偏在する状態になることなく用いることができる。
【0062】
本発明の第1の汚染物質吸着シートは、上記重金属吸着シートに消石灰及び/又は生石灰添着シートを積層してなる積層構造体シートであり、当該重金属吸着シート及び消石灰及び/又は生石灰添着シートは、それぞれ1シートであっても、それぞれ2シート以上を積層する積層構造体として用いてもよく、また、その積層の順番は任意であり特に限定されない。例えば、積層構造体の下側に重金属吸着シートを1シート以上積層し、更にその上部に消石灰及び/又は生石灰添着シートを1シート以上積層して積層構造体シートとしても、重金属吸着シートと消石灰及び/又は生石灰添着シートとを交互に積層した積層構造体シートとしてもよい。
好ましくは、積層構造体シートの最上部のシートは、消石灰及び/又は生石灰添着シートとすることが、酸性の溶出水のpHをより有効に処置できる点から望ましい。
さらに、必要に応じて、本発明の汚染物質吸着シートを、不織布からなる保護シートで挟持して用いてもよい。
【0063】
また、本発明の第1の汚染物質吸着シートである積層構造体シートとするための、重金属吸着シート及び消石灰及び/又は生石灰添着シートの接合方法としては、公知の任意の方法、例えば、ケミカルボンド法(浸漬法・スプレー法)、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等の公知の任意の方法を用いて接合することができる。
【0064】
本発明の第2の汚染物質吸着シートは、上記重金属吸着シートに更に前記消石灰及び/又は生石灰を添着担持させたシートである。
当該重金属吸着シートに更に消石灰及び/又は生石灰を添着させて得られたシートは、1シートであっても、2シート以上を積層して用いてもよい。
さらに必要に応じて、本発明の汚染物質吸着シートを、不織布からなる保護シートで挟持して用いてもよい。
【0065】
第2の汚染物質吸着シートである重金属吸着シートに添着する消石灰及び/又は生石灰の添着量及び平均粒径は、前記第1の汚染物質吸着シートを構成する消石灰及び/又は生石灰の添着量及び平均粒径と同様である。
また、上記重金属吸着シートに消石灰及び/又は生石灰を添着する方法は、消石灰及び/又は生石灰を添着できれば任意の方法を用いることができ、例えば、上記重金属吸着シートを製造する際の不織布に重金属吸着材とともに一緒に消石灰及び/又は生石灰を担持させる方法や、重金属吸着シートの上部に消石灰及び/又は生石灰粉末を散布して振動させることにより、若しくは消石灰及び/又は生石灰粉末を散布し、次いで、バインダー液を散布することで、不織布の繊維と繊維との間隙内に消石灰及び/又は生石灰粉末を装着する方法を適用することが可能である。
具体的には、上記第1の汚染物質吸着シートを構成する消石灰及び/又は生石灰シートを製造する際と同様の方法を利用することができる。
【0066】
本発明の上記第1及び第2の汚染物質吸着シートの透水係数は、10-5cm/s以上とするものであり、好ましくは10-4cm/s以上とすることが望ましい。
砒素等の汚染物質を含む汚染水が汚染物質吸着シート上に滞留すると、汚染水が汚染物質吸着シートと十分に接触することなく、当該シートの周囲にあふれてしまい、汚染物質を有効に除去することができなくなるため、本発明の汚染物質吸着シートの透水係数を上記範囲として当該シートが高い透水性を有することとし、建設・土木工事等から発生する掘り起こし残土等から浸出する砒素等の汚染物質を含む汚染水を汚染物質吸着シートに通過させやすくして、有効に掘り起こし残土等に含まれる砒素等の汚染物質を含む汚染水等と汚染物質吸着シートとを効率的に接触させて、汚染物質を有効に捕獲除去することを可能とする。
また、一方、汚染水が汚染物質シート中の汚染物質吸着材と十分に接触する時間なく直ちに通過してしまうと、砒素等の汚染物質を有効に吸着除去することができない場合もあるため、好ましくは透水係数が10-1cm/s以下であることが望ましい。
【0067】
本発明においては、重金属吸着材と消石灰及び/又は生石灰を併用するため、特に、砒素を含む重金属等を有効に捕獲することができるとともに、強度を向上させることができ、汚染物質含有岩石や土壌からの溶出液が本発明のシートを通過することで溶出液のpHが弱アルカリ性となり、特に、吸着されにくい三価の亜砒酸(As(III))から五価の砒酸(As(V))へ酸化を促すことができるとともに、処理後の通過水のpHを弱アルカリ性とする上記効果を同時に奏することが可能となる。
【0068】
本発明の汚染物質吸着シートは、建築・土木工事で発生する掘削ずり等の掘り起こし残土や汚泥等の黄鉄鉱を含む岩石や土壌に適用して、砒素等の上記汚染物質と、当該汚染物質吸着シートとを接触させて、砒素等の汚染物質を当該シートに吸着させることにより除去することができるとともに、通過水のpHを弱アルカリ性にすることができる。
一例として、掘削ずりの残土を、盛り土とする際に、原土と残土の盛り土の間に、本発明の汚染物質吸着シートを敷設する。これにより、雨水等により、黄鉄鉱の存在により、三価の亜砒酸が五価の砒酸へ酸化促進されることとなり、盛り土中に含まれる砒素を含む汚染物質が雨水等に溶け出し、この汚染水が下降して、下部に敷設されている本発明の吸着シートを透過する際に、当該吸着シート中の吸着材に汚染水中の砒素等の汚染物質が接触して、吸着除去されることとなる。
汚染物質吸着シートを敷設する際には、例えば、盛り土の下部よりシートが広くなるように敷設することが望ましく、またシートの大きさが盛り土の下部より小さい場合には、シート同士が一部重なるように敷設することが望ましい、例えば、シートの両端から5分の1以上を重ねて敷設し、重なった部分が保持できるように、例えば留め具で固定することがよい。
【実施例0069】
本発明を次の実施例及び比較例により説明する。
(実施例1~24、比較例1~12)
汚染物質吸着シートに用いる材料を下記に示す。
(ドロマイト系吸着材)
汚染物質吸着材として、ドロマイト系吸着材を以下の材料により調製した。
・半焼成ドロマイト(粉末):栃木県葛生産のドロマイトを焼成
・酸性硫酸塩:硫酸第一鉄一水和物粉末
【0070】
上記半焼成ドロマイト(粉末)について、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて各成分の含有量を測定した。
その結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
(吸着材)
1)上記半焼成ドロマイトと硫酸第一鉄とを質量比で、下記表2に示す割合で混合して、各吸着材を調製した。
実施例1~24並びに、比較例1~2、4~5、7~8及び10~11の汚染物質吸着シートに用いる吸着材の各平均粒径も、表2に示す。
2)上記非特許文献4に記載のMg-Al系層状複水酸化物(LDH)を、比較例3、6、9、12の吸着剤として用いた。
【0073】
(不織布・重金属吸着シート)
不織布として、ポリプロピレン繊維からなり、目付けが表2に示すものをそれぞれ不織布として用いた(10g/m2、100g/m2、300g/m2、600g/m2)。
【0074】
上記各不織布を、ケミカルボンド法にて製造する際に、バインダー液体に浸漬するが、当該バインダー液体内に上記吸着材を均一に含有させておき、かかる吸着材含有バインダー液体中に各不織布を浸漬することで、各不織布中に吸着材を均一に分散させて担持させ、各重金属吸着シートを製造した。
当該各重金属吸着シート中の吸着材の担持量を、下記表2に示す。
【0075】
得られた各重金属吸着シートの透水係数を、下記表2に示す。
なお、不織布の目付、吸着材の担持量、平均粒径、透水係数は以下の方法により測定した値である。
・不織布の目付:JIS L 1913:2010 一般不織布試験方法の「6.2単位面積当たりの質量(ISO法)」に準拠した値である。
・吸着材の担持量:吸着材の担持量は、下記試験例で用いる試験対象土壌中の砒素量を予め測定して、化学量論式を用いて算出した担持量を、担持する量としたものであり、実際には、電子天秤にて、前記算出した量の吸着材を担持させた不織布シートの質量から、不織布の質量を減じて、吸着材の担持量を計算した値が、前記算出した担持量となっていることを確認した量である。
・平均粒径:マイクロトラックMT3000II(日機装(株)製)にて測定した値である。
・透水係数:JIS A 1218に準じて測定した値である。
【0076】
【0077】
(汚染物質吸着シート)
実施例1~3及び比較例1においては、上記重金属吸着シート1に、カルシウム添着シートを積層して、実施例7~9及び比較例4においては、上記重金属吸着シート2に、カルシウム添着シートを積層して、実施例13~15及び比較例7においては、上記重金属吸着シート3に、カルシウム添着シートを積層して、また、実施例19~21及び比較例10においては、上記重金属吸着シート4に、カルシウム添着シートを積層して、各汚染物質吸着シートを製造した。
【0078】
上記各重金属吸着シートと組み合わされて積層されるカルシウム添着シートは、それぞれ、上記各重金属吸着シートを構成する上記各不織布と同じ不織布に、それぞれ下記表3~6に示す量のカルシウム(消石灰・生石灰)を添着した各不織布シートを用いた。上記重金属シート1と組み合わされるカルシウム添着シートは、不織布の目付が10g/m2の不織布にカルシウムを添着して得られたカルシウム添着シートが組み合わされ(表3)、上記重金属シート2と組み合わされるカルシウム添着シートは、不織布の目付が100g/m2の不織布にカルシウムを添着して得られたカルシウム添着シートが組み合わされ(表4)、上記重金属シート3と組み合わされるカルシウム添着シートは、不織布の目付が300g/m2の不織布にカルシウムを添着して得られたカルシウム添着シートが組み合わされ(表5)、上記重金属シート4と組み合わされるカルシウム添着シートは、不織布の目付が600g/m2の不織布にカルシウムを添着して得られたカルシウム添着シートが組み合わされ(表6)、それぞれ積層されて、汚染物質吸着シートとした。
【0079】
各不織布へのカルシウム粉末を添着する方法は、上記各不織布シートに吸着材を添着させる方法と同様に、ケミカルボンド法にて製造する際に、バインダー液体に浸漬するが、当該バインダー液体内にカルシウム粉末を均一に含有させておき、かかるカルシウム粉末含有バインダー液体中に各不織布を浸漬することで、各不織布中のカルシウム粉末を均一に分散させて担持させ、各カルシウム添着シートを製造した。
【0080】
このようにして得られた各カルシウム添着シートを、吸着材が含有されている上記各重金属吸着シートに、ケミカルボンド法を用いて積層して、
図1に示す各汚染物質吸着シートを製造した。
【0081】
また、実施例4~6及び比較例2においては、上記重金属吸着シート1に、下記表3に示す量の消石灰及び/又は生石灰を更に散布して、実施例10~12及び比較例5においては、上記重金属吸着シート2に、下記表4に示す量の消石灰及び/又は生石灰を更に散布して、実施例16~18及び比較例8においては、上記重金属吸着シート3に、下記表5に示す量の消石灰及び/又は生石灰を更に散布して、実施例22~24及び比較例11においては、上記重金属吸着シート4に、下記表6に示す量の消石灰及び/又は生石灰を更に散布して、各汚染物質吸着シートを製造した。
具体的には、上記各重金属吸着シートの上部に、スコップを用いてカルシウム粉末(消石灰・生石灰)を、それぞれ表3~6に示す散布量で散布し、次いで、水噴霧器を用いて、該シート表面上の前記カルシウム粉末がシートを構成する不織布の間隙に入り込むように、シートの表面全体が湿潤する程度に十分に散布し、当該シートの繊維と繊維との間隙にカルシウム粉末を装着させて、各汚染物質吸着シートを製造した。
【0082】
比較例3、6、9、12においては、それぞれ表2で示す不織布の目付が、10g/m2、100g/m2、300g/m2、600g/m2の各不織布に、前記非特許文献4に記載されている方法で合成したMg-Al系層状複水酸化物(LDH)を添着させた吸着シートを汚染物質吸着シートとするもので、本発明で用いる吸着材やカルシウム粉末を含有しないシートである。
具体的には、本発明で用いる吸着材やカルシウム粉末を含有していない前記各不織布を、ケミカルボンド法にて製造する際に、バインダー液体に浸漬するが、当該バインダー液体内に当該Mg-Al系層状複水酸化物を均一に含有させておき、かかるMg-Al系層状複水酸化物含有バインダー液体中に不織布を浸漬することで、不織布中にMg-Al系層状複水酸化物を均一に分散させて担持させて、各比較例3、6、9、12の汚染物質吸着シートを製造した。
当該各シート中のMg-Al系層状複水酸化物の担持量は、表2中の吸着材の担持量と同様である。
【0083】
各実施例1~24及び比較例1~12で得られた、各汚染物質吸着シートの透水係数を、それぞれ表3~6に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
(試験例)
上記実施例1~24及び比較例1~12の各汚染物質吸着シートを用いて下記の各試験を実施した。
(砒素及び黄鉄鉱含有土壌を用いたカラム試験)
汚染物質として、砒素及び黄鉄鉱含有土壌(試験対象土壌)を用いて、砒素の吸着試験を実施した。
具体的には、
図2に示すように、内径7.2cm、長さ23cmのアクリル製カラムに、高さ12cmで黄鉄鉱を含み砒素を溶出する土壌(試験対象土壌)を投入し、当該土壌を粒径3mmのガラスビーズとろ紙(ADVANTEC製、定量濾紙No.5B)で挟み込んで装着した。
【0089】
次いで、
図2に示すように、砒素及び黄鉄鉱含有土壌(試験対象土壌)を装着した前記アクリル製カラムの最上部に、それぞれ上記実施例1~24及び比較例1~12の汚染物質吸着シートを設置した。
【0090】
各汚染物質吸着シートを設置したアクリル製カラムに、イオン交換水を定量ポンプを用いて、上向流で、水を流速42mL/hで通水した。
通水開始後120分後に、各汚染物質吸着シートを設置した上記各カラムの上部より通水を採取して試料水とし、各試料水について、下記に示す方法で、砒素濃度、pHを分析した。
【0091】
また、ブランク(比較例13)として、汚染物質吸着シートを設置しない以外は、上記実施例1~24及び比較例1~12での試験例と同様の高さ12cmで黄鉄鉱を含み砒素を溶出する土壌(試験対象土壌)を上記アクリル製カラムに投入し、当該土壌を粒径3mmのガラスビーズとろ紙(ADVANTEC製、定量濾紙No.5B)で挟み込むだけの状態で、同様の試験を実施した。
その結果を下記表7~10に示す。
【0092】
(砒素濃度分析法)
砒素濃度は、JIS K0102-2016 61.2の水素化物発生原子吸光法に準拠して分析を実施して、上記各試験例で得られた各試料水中の残存する砒素濃度を測定した。
その結果を、下記表7~10に示す。
【0093】
(pHの測定)
pHは、pH計((株)堀場製作所製 P-72)により、上記各試験例で得られた各カラムを通過した試料水のpHを測定した。
その結果を、下記表7~10に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
上記表7~10の比較例13(ブランク:吸着シート設置無)より、試験対象土壌からは、環境基準値(環境省設置,土壌環境基準および地下水の水質汚濁に係る環境基準)の約5倍である0.054mg/Lの砒素が溶出することが確認された。
【0099】
上記表7より、実施例1、2、4、5においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、環境基準定量下限値である0.001mg/L未満となった。
また、実施例3及び6においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.008及び0.005mg/Lであり環境基準値を満足している。
一方、比較例1~3における砒素濃度は、0.047、0.048、0.044mg/Lであり、環境基準を超過していることがわかる。
【0100】
上記表8より、実施例7、8、10、11においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、環境基準定量下限値である0.001mg/L未満となった。
また、実施例9及び12においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.007及び0.005mg/Lであり環境基準値を満足している。一方、比較例4~6における砒素濃度は、0.046、0.047、0.044mg/Lであり、環境基準を超過していることがわかる。
【0101】
上記表9より、実施例13、14、16、17においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、環境基準定量下限値である0.001mg/L未満となった。
また、実施例15及び18においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.004及び0.007mg/Lであり環境基準値を満足している。一方、比較例7~9における砒素濃度は、0.045、0.047、0.044mg/Lであり、環境基準を超過していることがわかる。
【0102】
上記表10より、実施例19、20、23においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、環境基準定量下限値である0.001mg/L未満となった。
また、実施例21、22、24においては、カラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.009、0.002及び0.003mg/Lであり環境基準値を満足している。一方、比較例10~12における砒素濃度は、0.046、0.045、0.044mg/Lであり、環境基準を超過していることがわかる。
【0103】
(砒素価数分析法)
砒素の価数分析は、LC-ICP-MS(液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析法)により、75Asを分析対象として実施して、上記比較例13の試験例で得られた各試料水中の残存する砒素の価数を測定した。
なお、砒素の価数は、保持時間(RT)によって分離した。砒素価数分析はブランクの比較例13に対して実施し、試験対象土壌から溶出する砒素の価数に関する情報を得た。
【0104】
比較例13(ブランク:吸着シート設置無)について、試験対象土壌から溶出する全砒素中(三価の亜砒酸(As(III)+五価の砒酸(As(V)))のAs(V)の割合は、前記砒素価数分析法により測定して15.0%であった。
【0105】
表7より、比較例1~3におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.044~0.048mg/Lであった。この値と、亜砒酸から砒酸への酸化速度が向上し、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)がほぼ一致している。この理由から比較例1~3においては試験対象土壌から溶出するAs(V)のみ収着しているものと考えられる。
他方で、実施例1~6におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、<0.001~0.008mg/Lであり、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)と比較し著しく低い濃度となっている。
【0106】
表8より、比較例4~6におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.044~0.047mg/Lであった。この値と、亜砒酸から砒酸への酸化速度が向上し、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)がほぼ一致している。この理由から比較例4~6においては試験対象土壌から溶出するAs(V)のみ収着しているものと考えられる。
他方で、実施例7~12におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、<0.001~0.007mg/Lであり、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)と比較し著しく低い濃度となっている。
【0107】
表9より、比較例7~9におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.044~0.047mg/Lであった。この値と、亜砒酸から砒酸への酸化速度が向上し、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)がほぼ一致している。この理由から比較例7~9においては試験対象土壌から溶出するAs(V)のみ収着しているものと考えられる。
他方で、実施例13~18におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、<0.001~0.007mg/Lであり、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)と比較し著しく低い濃度となっている。
【0108】
表10より、比較例10~12におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、0.044~0.046mg/Lであった。この値と、亜砒酸から砒酸への酸化速度が向上し、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)がほぼ一致している。この理由から比較例10~12においては試験対象土壌から溶出するAs(V)のみ収着しているものと考えられる。
他方で、実施例19~24におけるカラムを通過した試料水に含まれる砒素濃度は、<0.001~0.009mg/Lであり、As(V)のみが汚染物質吸着シートに収着されたと想定した場合の砒素濃度(0.046mg/L)と比較し著しく低い濃度となっている。
【0109】
このことから、本発明では、As(V)のみならずAs(III)についても処理出来たものと考えられる。なお、文献「Pettine、M.、L. Campanella、 and F.J. Millero. 1999. Arsenite oxidation by H2O2 in aqueous solutions. Geochim. Cosmochim. Acta 63:2727-2735.」において三価の亜砒酸はアルカリ性領域、特に亜砒酸が電荷を持つ形態で存在する領域(pKa=9.23)において五価の砒酸への酸化速度が向上する事が知られている。実施例1~24においては、汚染物質吸着シートが、吸着材シートとカルシウムシートの2層構造又は吸着シートに生石灰・消石灰を添着する構造とすることで、カラム通過水のpHが上昇し、亜砒酸から砒酸への酸化速度が向上し、As(V)の形態で汚染物質吸着シートに吸着されたものと考えられる。
本発明の汚染物質吸着シートは、建築・土木工事で発生する掘削ずり等の掘り起こし残土や汚泥等の黄鉄鉱及び砒素を含む岩石や土壌から発生する砒素等の重金属等である汚染物質を効率よく捕獲できるとともに、施工性に優れ、通過水のpHを処理することができ、例えば、トンネルやダム等の掘削工事や建設工事等によって大量に発生する、砒素を含む重金属等が溶出する黄鉄鉱を含有する汚染土壌の掘削ずり等の処理に有効に適用することが可能となる。