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特開2024-144292水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144292
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048348
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023053279
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関根 仁美
(72)【発明者】
【氏名】福田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】辻 直樹
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B025LB21
4B025LG14
4B025LG19
4B025LG26
4B025LG36
4B025LG42
4B025LG53
4B025LK01
4B025LK07
4B025LP10
4B025LP11
4B025LT09
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG01
4B026DK00
4B026DL03
4B026DL05
4B026DL08
4B026DL09
4B026DL10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法を提供する。
【解決手段】無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ5℃における粘度が140cP以下である、水中油型乳化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、
ココアバターの含有量が3~8質量%であり、
前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、
前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ
5℃における粘度が140cP以下である、水中油型乳化物。
【請求項2】
無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、
ココアバターの含有量が3~8質量%であり、
前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、
前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ
7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、水中油型乳化物。
【請求項3】
15℃で14日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化物。
【請求項4】
5℃におけるホイップ時のオーバーランが130%以上である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化物。
【請求項5】
7℃で30日間保存後の5℃におけるホイップ時のオーバーランが130%以上である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化物。
【請求項6】
前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径が0.5~2.5μmである、請求項1又は2に記載の水中油型乳化物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水中油型乳化物を含む、食品。
【請求項8】
無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、
前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、
前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、
前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、
を含み、
前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、
得られる水中油型乳化物の5℃における粘度が140cP以下である、前記方法。
【請求項9】
無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、
前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、
前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、
前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、
を含み、
前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、
得られる水中油型乳化物の7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、前記方法。
【請求項10】
前記第1均質化工程にローター・ステーター式乳化装置を用いる、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2均質化工程にキャビテーターを用いる、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第3均質化工程に高圧ホモジナイザーを用いる、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項8又は9に記載の製造方法により得られた水中油型乳化物を用いて食品を製造することを含む、食品の製造方法。
【請求項14】
前記水中油型乳化物を冷凍すること、及び、前記水中油型乳化物を解凍することのいずれか一方又は両方を含む、請求項13に記載の食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法に関する。
具体的には、本発明は、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップして使用される洋菓子用クリームとして、チョコレート成分を含有するものが市販されている。しかしながら、チョコレート成分を含有することによって、クリームが増粘する問題があった。
【0003】
チョコレート成分を含有するクリームの粘度を低下させる技術として、チョコレート成分をα-アミラーゼで処理する技術(特許文献1)や、クリームに含有される油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合を25~70重量%にする技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-058052号公報
【特許文献2】特開平11-196802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、チョコレート成分を含有するクリームの初期粘度を低下させる上ではある程度有効であるが、保存に伴う増粘を抑制することは困難である。また、特許文献2の技術は、油脂におけるSUS型トリグリセリドに起因して、保存中の安定性の維持(低粘性の維持)や、オーバーランの維持が困難である。さらに、いずれの技術においても、ホイップ性の観点でさらなる改善の余地が見出された。
【0006】
本発明の目的の1つは、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の水中油型乳化物が、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の水中油型乳化物等を提供できる。
1.無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、
ココアバターの含有量が3~8質量%であり、
前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、
前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ
5℃における粘度が140cP以下である、水中油型乳化物。
2.無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、
ココアバターの含有量が3~8質量%であり、
前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、
前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ
7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、水中油型乳化物。
3.15℃で14日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、1又は2に記載の水中油型乳化物。
4.5℃におけるホイップ時のオーバーランが130%以上である、1~3のいずれかに記載の水中油型乳化物。
5.7℃で30日間保存後の5℃におけるホイップ時のオーバーランが130%以上である、1~4のいずれかに記載の水中油型乳化物。
6.前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径が0.5~2.5μmである、1~5のいずれかに記載の水中油型乳化物。
7.1~6のいずれかに記載の水中油型乳化物を含む、食品。
8.無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、
前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、
前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、
前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、
を含み、
前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、
得られる水中油型乳化物の5℃における粘度が140cP以下である、前記方法。
9.無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、
前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、
前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、
前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、
を含み、
前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、
得られる水中油型乳化物の7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である、前記方法。
10.前記第1均質化工程にローター・ステーター式乳化装置を用いる、8又は9に記載の製造方法。
11.前記第2均質化工程にキャビテーターを用いる、8~10のいずれかに記載の製造方法。
12.前記第3均質化工程に高圧ホモジナイザーを用いる、8~11のいずれかに記載の製造方法。
13.8~12のいずれかに記載の製造方法により得られた水中油型乳化物を用いて食品を製造することを含む、食品の製造方法。
14.前記水中油型乳化物を冷凍すること、及び、前記水中油型乳化物を解凍することのいずれか一方又は両方を含む、13に記載の食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1及び比較例1のサンプルを7℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例1のサンプルを10℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
図3】実施例1のサンプルを7℃、10℃又は15℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例2のサンプルを7℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
図5】実施例2及び比較例2のサンプルを10℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
図6】実施例2のサンプルを7℃、10℃又は15℃で保存したときの粘度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水中油型乳化物、食品、水中油型乳化物の製造方法及び食品の製造方法について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
また、以下において記載される本発明に係る態様の個々の実施形態のうち、互いに相反しないもの同士を2つ以上組み合わせることが可能であり、2つ以上の実施形態を組み合わせた実施形態もまた、本発明に係る態様の実施形態である。
【0011】
1.水中油型乳化物
本発明の第1態様に係る水中油型乳化物は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ5℃における粘度が140cP以下である。
【0012】
第1態様に係る水中油型乳化物によれば、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる効果が得られる。増粘の抑制については、特にホイップ前の保存に伴う乳化の破壊や分離による増粘も好適に抑制できる。
即ち、第1態様に係る水中油型乳化物は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、かつココアバターの含有量が3~8質量%であるため、チョコレート成分に由来する良好な風味を有する。言い換えれば、第1態様に係る水中油型乳化物は、風味付与のために十分な量の無脂カカオ固形分及びココアバターを含有するにもかかわらず、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる。
また、第1態様に係る水中油型乳化物は、ホイップ時のオーバーランが高く、ホイップ性に優れる。そのため、クリームとチョコレート成分を混合する手間や技術を必要とせず、簡便に作業性良く良好なチョコレート風味を有するホイップクリームを調製できる。また、特にオーバーランが高いことによって、ホイップクリームを使用して製造される最終製品の歩留まりを向上することもできる(例えば、ホイップクリーム単位容積あたりから作成できるケーキの台数が増える。)。また、ホイップによって容積を大きくできるため、ホイップクリーム単位容積あたりのカロリーや油分量を抑えることもできる。さらに、ホイップ時間を短縮でき、即ち、短時間のホイップでも多くの空気を取り込むことができる。
さらに、第1態様に係る水中油型乳化物は、特にホイップ前の保存に伴う乳化の破壊や分離による増粘が抑制されるため、容器(例えば箱型紙容器や袋等)からの取り出しに際して、ヘラでかき出すなどの手間をかけずに歩留まり良く取り出すことができる。また、増粘が抑制されることと、ホイップ性に優れることとが相乗的に作用して、食感が重くなることも抑制できる。
【0013】
第1態様の一実施形態において、水中油型乳化物の5℃における粘度は、140cP以下、135cP以下、130cP以下又は125cP以下である。下限は格別限定されず、例えば30cP以上である。
水中油型乳化物の粘度は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0014】
本発明の第2態様に係る水中油型乳化物は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であり、かつ7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である。
【0015】
第2態様に係る水中油型乳化物によっても、第2態様に係る水中油型乳化物と同様の効果が得られる。
【0016】
第2態様の一実施形態において、水中油型乳化物の、7℃で30日間保存後の5℃における粘度は、250cP以下、240cP以下、230cP以下、220cP以下、210cP以下又は200cP以下である。下限は格別限定されず、例えば50cP以上である。
【0017】
尚、水中油型乳化物は、第1態様の条件と第2態様の条件を共に満たすものであってもよい。即ち、第1態様の一実施形態において、水中油型乳化物は、7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である。また、第2態様の一実施形態において、水中油型乳化物は、5℃における粘度が250cP以下である。
【0018】
以下に、上述した第1態様及び第2態様の水中油型乳化物に共通の事項について説明する。
【0019】
「無脂カカオ固形分」とは、カカオ豆由来の固形分のうちカカオバターと水分を除いた部分を指す。
一実施形態において、水中油型乳化物における無脂カカオ固形分の含有量は、2.0質量%以上、2.2質量%以上、2.4質量%以上又は2.6質量%以上であり、また、10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下又は6.0質量%以下である。
水中油型乳化物における無脂カカオ固形分の含有量が多いほど、水中油型乳化物の風味がチョコレートらしさを増す。
【0020】
「ココアバター」は、カカオマスやココア等のようなカカオ原料由来の脂肪分である。
一実施形態において、水中油型乳化物におけるココアバターの含有量は、3.0質量%以上、3.1質量%以上又は3.2質量%以上であり、また、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下又は5.5質量%以下である。
水中油型乳化物におけるココアバターの含有量が多いほど、水中油型乳化物の風味がチョコレートらしさを増す。水中油型乳化物におけるココアバターの含有量が8.0質量%を超えると、乳化が破壊され易くなり、保存中に増粘し易くなる。
【0021】
一実施形態において、水中油型乳化物における、ココアバターを含む油脂(「全油脂」又は「総脂肪分」ともいう。)の総含有量は、25質量%以上、26質量%以上、27質量%以上、28質量%以上又は29質量%以上であり、また、35質量%以下、34質量%以下、33質量%以下又は32質量%以下である。
水中油型乳化物における、ココアバターを含む油脂の総含有量が35質量%を超えると、乳化が維持され難くなる。
【0022】
水中油型乳化物が含有する、ココアバター以外の油脂として、例えば、乳原料由来の乳脂肪分、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。
一実施形態において、水中油型乳化物は、ココアバター以外の油脂として、乳脂肪分及び植物油脂からなる群からなる1種以上を含有する。
植物油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、米油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、これらの分別油、水素添加油及びエステル交換油等の植物性油脂等が挙げられる。
水中油型乳化物における、乳脂肪分、植物油脂及び動物油脂の各含有量やそれらの割合は、最終的に得たい風味、食感、物性等に応じて適宜調整できる。
【0023】
一実施形態において、水中油型乳化物に含有される油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合は、25質量%未満、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下又は15質量%以下である。下限は格別限定されず、例えば8質量%以上である。
従来技術では、油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であると、通常はホイップに長時間を要するが、本態様においては短時間でホイップできる効果が得られる。また、本態様においては、油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満であることにより、オーバーランが上昇し、乳化安定性も向上する。
尚、油脂におけるSUS型トリグリセリドの「割合」は、(SUS型トリグリセリドの質量/油脂の質量)×100によって求められる。SUS型トリグリセリドとは、2-不飽和-1,3-ジ飽和トリグリセリドのことであり、脂肪酸残基の炭素原子数は22個以下である(前記脂肪酸残基の炭素原子数は主に8個以上である)である。2位の不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が例示できる。
【0024】
一実施形態において、水中油型乳化物には酵素が添加されていてもよい。酵素としては、例えばアミラーゼが挙げられる。アミラーゼとしては、例えばα-アミラーゼが挙げられる。酵素の添加量は、格別限定されず、例えば、水中油型乳化物の総量に対して0~0.5質量%であり得る。
【0025】
水中油型乳化物には、以上に説明した成分の他に、例えば、乳原料(乳製品)、粉あめ、乳化剤、リン酸塩、pH調整剤、加工助剤等を必要に応じて適宜配合できる。また、水中油型乳化物には、ここに例示した以外の成分も、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合できる。
水中油型乳化物の原料として用いられる乳化剤は、一般に食用の水中油型乳化物の製造に用いられる乳化剤であれば、いずれの乳化剤でも使用できる。
【0026】
一実施形態において、水中油型乳化物は、5℃におけるホイップ時のオーバーランが130%以上、135%以上又は140%以上である。上限は格別限定されず、例えば250%以下である。
尚、ホイップ時のオーバーランは実施例に記載の方法により測定される値である。
【0027】
一実施形態において、水中油型乳化物は、7℃、10℃又は15℃で、14日間、20日間、30日間又は40日間保存後の5℃におけるホイップ時のオーバーランが、130%以上、135%以上又は140%以上である。上限は格別限定されず、例えば250%以下である。
【0028】
一実施形態において、水中油型乳化物は、前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径が0.5~2.5μmである。
一実施形態において、水中油型乳化物は、前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径が、0.5μm以上、0.7μm以上、1.0μm以上、又は1.2μm以上であり、また、2.5μm以下、2.3μm以下、2.0μm以下又は1.8μm以下である。
脂肪球のメディアン径が小さいほど(好ましくは2.5μm以下で小さいほど)、乳化が安定し易くなる。一方で、脂肪球のメディアン径が大きいほど、(好ましくは0.5μm以上で大きいほど)チョコレートの風味を感じ易くなる。
尚、脂肪球のメディアン径は実施例に記載の方法により測定される値である。
【0029】
一実施形態において、水中油型乳化物は、前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径の標準偏差が0.1~0.5である。
一実施形態において、水中油型乳化物は、前記水中油型乳化物に含まれる脂肪球のメディアン径の標準偏差が、0.1以上又は0.2以上であり、また、0.5以下、0.4以下又は0.3以下である。
脂肪球のメディアン径の標準偏差が小さいほど(好ましくは0.5以下で小さいほど)、乳化の安定性とホイップ性とが両立され易くなる。
尚、脂肪球のメディアン径の標準偏差は実施例に記載の方法により測定される値である。
【0030】
第1態様及び第2態様の水中油型乳化物の用途は格別限定されず、各種食品、特に各種スイーツ商品等に広く使用できる。具体的には、例えば、デコレーションケーキ、シュークリーム、エクレア、パフェ、クレープ、ドーナツ、チョコプリン、チョコドリンク、フローズンドリンク等に好適に使用できる。
【0031】
2.食品
本発明の一態様に係る食品は、第1態様の水中油型乳化物又は第2態様の水中油型乳化物を含む。
本態様に係る食品は、水中油型乳化物を含むためチョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ後の水中油型乳化物の食感も良好である。
【0032】
3.水中油型乳化物の製造方法
本発明の第1態様に係る、水中油型乳化物を製造する方法は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、を含み、前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、得られる水中油型乳化物の5℃における粘度が140cP以下である。
【0033】
第1態様に係る方法によれば、上述した第1態様に係る水中油型乳化物を好適に製造できる。第1態様に係る方法により得られる水中油型乳化物については、第1態様に係る水中油型乳化物についてした説明が援用される。
【0034】
本発明の第2態様に係る、水中油型乳化物を製造する方法は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である水中油型乳化物を製造する方法であって、前駆体組成物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとする第1均質化工程と、前記第1均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μmとする第2均質化工程と、前記第2均質化工程に次いで、前記脂肪球のメディアン径を0.5~2.5μmとする第3均質化工程と、を含み、前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程前の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、前記第3均質化工程後の脂肪球のメディアン径が前記第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径より小さく、得られる水中油型乳化物の7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である。
【0035】
第2態様に係る方法によれば、上述した第2態様に係る水中油型乳化物を好適に製造できる。第2態様に係る方法により得られる水中油型乳化物については、第2態様に係る水中油型乳化物についてした説明が援用される。
【0036】
尚、水中油型乳化物を製造する方法は、第1態様の条件と第2態様の条件を共に満たすものであってもよい。即ち、第1態様の一実施形態において、得られる水中油型乳化物は、7℃で30日間保存後の5℃における粘度が250cP以下である。また、第2態様の一実施形態において、得られる水中油型乳化物は、5℃における粘度が250cP以下である。
【0037】
以下に、上述した第1態様及び第2態様の方法に共通の事項について説明する。
【0038】
「前駆体組成物」は、水中油型乳化物の原料成分を混合した、均質化工程に供する前の組成物(混合物)である。
一実施形態において、前駆体組成物は、無脂カカオ固形分の含有量が2~10質量%であり、ココアバターの含有量が3~8質量%であり、前記ココアバターを含む油脂の総含有量が25~35質量%であり、かつ前記油脂におけるSUS型トリグリセリドの割合が25質量%未満である。
前駆体組成物の組成については、第1態様及び第2態様に係る水中油型乳化物についてした説明が援用される。
【0039】
前駆体組成物に第1均質化工程~第3均質化工程を施すことによって、得られる水中油型乳化物は、チョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ性に優れ、かつ保存に伴う増粘を抑制できる。同様の配合であっても、これらの工程を経ない場合は、これらの効果を発揮することができない。
【0040】
第1均質化工程~第3均質化工程のそれぞれにおいて用いる装置(均質化のための装置)は、互いに異なる装置であることが好ましい。
【0041】
一実施形態において、第1均質化工程にローター・ステーター式乳化装置、ホモミキサー又は断続ジェット発生乳化装置を用いる。
【0042】
ローター・ステーター式乳化装置は、高速回転する回転体(ローター)と固定環(ステーター)により構成される。通常ステーターの内側にローターが配置されており、ローターが回転することにより被処理物がローターとステーターの間の間隙において内側から外側へ通過する際にせん断力を受け、スリット部のずれによる圧力変動からキャビテーションを生ずる。
【0043】
ローター・ステーター式乳化装置のローター及びステーターはそれぞれ櫛歯型であってよい。
ローター・ステーターのセットの数は特に制限されないが、1~5組であってよく、1~4組であってよく、1~3組であってよい。1組のローター・ステーターを有するローター・ステーター式乳化装置としては、例えばキャビトロン(太平洋機工(株)製)が挙げられる。3組のローター・ステーターを有するローター・ステーター式乳化装置としては、例えばIKAインラインミキサー(IKA社製)が挙げられる。ローター・ステーターのセットが複数である場合、各ローターの周径は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、各ステーターの周径も同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
均質化工程におけるローター・ステーター式乳化装置の周速としては、例えば、15~50m/sであってよく、17~45m/sであってよく、19~40m/sであってよい。ローター及びステーターが内蔵されるケーシングの直径は、例えば、50~800mmであってよく、100~600mmであってよく、200~400mmであってよい。
【0045】
ローターの直径は、例えば、45~740mmであってよく、80~560mmであってよく、160~380mmであってよい。ローターの回転数は、例えば、1000~26000rpmであってよく、2000~20000rpmであってよい。
【0046】
ローターは複数枚の撹拌翼を備えていてもよい。撹拌翼は、ローターの回転中心から放射状に延びるように設けられていてもよい。さらに、各撹拌翼の径方向で外側の壁面と、ステーターの内周壁面との間に所定の隙間が形成されていてもよい。上記のような撹拌翼を備えたローター・ステーター式乳化装置としては、例えばハイエストV(小松川化工機(株)製)が挙げられる。撹拌翼の数は、例えば4~10であってよく、6~8であってもよい。撹拌翼の形状は、例えば、スクリュー型又はプロペラ型であってよい。撹拌翼の高さは、ローターの中心から径方向に対して垂直方向に延びる回転軸の軸方向の長さ以内であってよい。
【0047】
ステーターは、開口部(孔)又はスリットを有していてもよい。ステーターの孔数は、例えば、30~3000であってよく、60~2500であってよく、120~2500であってよく、400~2500であってよく、400~2000であってよい。ステーターの孔の直径は、1~6mmであってよく、2~4mmであってよい。ステーターのスリット幅は、例えば、1~20mmであってよく、2~15mmであってよく、4~10mmであってよい。スリット幅とは、間隙(穴)が長方形や楕円形では短辺や短径を意味し、円形では直径を意味する。
【0048】
ステーターの開口部は略円形状の貫通孔であってよい。このような開口部を備えたローター・ステーター式乳化装置としては、例えばハイエストV(小松川化工機(株)製)が挙げられる。ステーターにおける開口部の面積の割合は、15%以上、20%以上、30%以上、又は40%以上であってよい。ステーターにおける開口部2の面積の割合は、50%以下であってよい。
【0049】
ローターとステーターの間の間隙は、例えば、0.1~5mmであってよく、0.5~3mmであってよく、1~2mmであってよい。ステーターと、ローターとが、ローターの回転軸が延びている方向で相互に近付く、又は離れることができるように構成されていてもよい。このような特徴を備えたローター・ステーター式乳化装置としては、例えばハイエストV(小松川化工機(株)製)が挙げられる。
【0050】
ローター・ステーター式乳化装置は、ローター及びステーターを有するインラインミキサーであってよい。ローター・ステーター式インラインミキサーとしては、例えばキャビトロン(太平洋機工(株)製)、IKAインラインミキサー(IKA社製)及びインライン式ハイシアー(Silverson社製)が挙げられる。
【0051】
これらローター・ステーター式インラインミキサーは、ケーシング内にローター及び0.1~10mmのスリット幅で構成されたステーターを有している。
【0052】
均質化工程におけるローター・ステーター式乳化装置の周速としては、例えば、15~50m/sであってよく、17~45m/sであってよく、19~40m/sであってよい。
ローター・ステーター式インラインミキサーのローターとしては、ケーシングの直径が50~800mmであってよく、100~600mmであってよく、200~400mmであってよいのに対して、例えば、45~740mmであってよく、80~560mmであってよく、160~380mmであってよい。半径は22.5~370mm、回転数が3000~26000rpmであってよい。
【0053】
ローター・ステーター式インラインミキサーのステーターとしては、例えば、スリット幅が0.1~10mm、好ましくは0.2~8mmであり、より好ましくは0.3~6mmである。
【0054】
ローター・ステーター式乳化装置は、多機能タンクであってよい。多機能タンクとしては、例えば、ターボミキサー(スカニマ社製)、Dinex(FrymaKoruma社製)及びFlexMix(APV社製)が挙げられる。
【0055】
これらターボミキサーなどの多機能タンクは、ケーシング(タンク)内にローター及び1~7mmのスリット幅で構成されたステーターを有している。
【0056】
多機能タンクのローターとしては、タンクの直径が約580~2500mm、タンクの高さが約400~2300mmであるのに対して、例えば、直径が200~400mm(半径は100~200mmに相当)、回転数が1000~3000rpmである。
均質化工程における多機能タンクの周速としては、例えば、15~50m/sであってよく、17~45m/sであってよく、19~40m/sであってよい。
【0057】
多機能タンクのステーターとしては、例えば、スリット幅が1~7mm、好ましくは2~6mmであり、より好ましくは3~5mmである。
【0058】
多機能タンクのステーターは可動式であるものが撹拌や微粒化には効果的であり、具体的には、ダイナミックステーター(スカニマ社製)があり、ステーターが上下に動き、循環モードと高剪断モードを切り替えられるシステムとなっている。
【0059】
ホモミキサーは、高速回転する回転体(タービン)と、それを囲むように配置された固定環(ステーター)によって構成される。被処理物は、回転体と固定環間に存在する空隙を通過する際に、回転体外周の表面近傍で速度勾配により生じるせん断力を受ける。ホモミキサーとしては、例えば、TKホモミキサー(特殊機化工業(株)製)が挙げられる。
【0060】
断続ジェット発生乳化装置は、高速回転する回転体(ローター)と微小な間隔で配置された複数(例えば10以上、20以上又は30以上)のスリットを有するスクリーンによって構成される。高速回転するローターにより運動エネルギーを与えられた被処理物は、スリット部を通過することによる速度増加から、被処理物内で断続ジェット流を形成し、せん断力を生じさせる。断続ジェット流発生型乳化装置としては、例えば、クレアミックスW-モーション(エム・テクニック(株))が挙げられる。
【0061】
一実施形態において、第2均質化工程にキャビテーターを用いる。
キャビテーターは、高速回転する円板状の回転体(ローター)と回転体を囲んでいる固定体(インレット)により構成される。ローターは外周面に複数の穴を備えており、ローターの外周面とインレットの内周面との間に隙間をあけて回転すると、ローターが外周から回転中心に向かって有する穴に、流体力学的キャビテーションが生成される。ローターの外周面とインレットの内周面との間に隙間をあけて回転している状態で、被処理物がこの隙間を通過するように流動させることで、微細なキャビテーション気泡が生成され、それらが破壊すると衝撃波が被処理物中に放出され、被処理物はせん断力を受ける。
【0062】
キャビテーターのインレットの直径は、例えば、100~500mmであってよい。インレットの厚みは、例えば50~70mmであってよい。ローターの直径は、例えば、150~450mmであってよく、200~410mmであってよく、250~350mmであってよい。ローターの外周面とインレットの内周面との間に形成される隙間の半径方向の大きさは、1~5mmであってよく、1.5~3mmであってよい。
【0063】
ローターの外周面に形成されている複数個の穴は、ローターにおける円周方向の同じ位置に複数個形成されている構造、すなわち、円周方向に一列になって、複数個の穴が、円周方向で隣接する穴同士の間に所定間隔をあけて形成されている構造にすることができる。
【0064】
また、円板状のローターの外周面に形成されている複数個の穴は、ローターの被処理物が流動する方向で異なる複数の位置における円周方向の同じ位置にそれぞれ複数個形成されている構造にすることもできる。複数個の穴が、円周方向で隣接する穴同士の間に所定間隔をあけて円周方向に一列になっている構造が、ローターの被処理物が流動する方向で異なる複数の位置にそれぞれ形成されているので、複数個の穴が、円周方向で隣接する穴同士の間に所定間隔をあけて円周方向に一列になっている構造がローターの被処理物が流動する方向で複数列形成されているものである。
【0065】
複数個の穴が、円周方向で隣接する穴同士の間に所定間隔をあけて円周方向に一列になっている構造は、ローターの被処理物が流動する方向で、1~10列存在していてよく、2~8列存在していてよい。
【0066】
ローターが外周面に有する穴の数は、例えば、40~600であってよく、60~500であってよく、80~400であってよい。ローターの外周面の全面積に対するすべての穴の合計面積の割合は、例えば28%~56%であってよい。ローターの回転数は、例えば、2000~5000rpmであってよく、2500~4500rpmであってよく、3000~4000rpmであってよい。均質化工程におけるキャビテーターの周速としては、例えば、30~75m/sであってよく、35~72m/sであってよく、40~70m/sであってよい。被処理物は、例えば0.15~0.30MPaの圧力で、流量2000~8000L/hでインレット内に流入させることができる。キャビテーターとしては、例えば、APV(登録商標)キャビテーター(APV社製)が挙げられる。
【0067】
第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径は、第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径よりも小さいことが好ましい。また、第2均質化工程後の脂肪球のメディアン径の標準偏差は、第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径の標準偏差より小さいことが好ましい。
脂肪球のメディアン径が小さく、かつ脂肪球のメディアン径の標準偏差が小さくなる(粒径の分布がシャープになる)ことによって、脂肪球の周囲に、乳化剤が薄く均一に付着した状態が形成される。これにより、得られる水中油型乳化物において、乳化の安定性とホイップ性とがより好適に両立される。
【0068】
一実施形態において、第3均質化工程に高圧ホモジナイザーを用いる。
高圧ホモジナイザーは、高圧力に加圧した被処理物を、微小間隙に通すことで、高圧力を運動エネルギーに変換し、被処理物を粉砕する。高圧ホモジナイザーとしては、例えば、ホモゲナイザーHV-A((株)イズミフードマシナリ製)、ホモゲナイザーH-20型(三和エンジニアリング(株)製)が挙げられる。
【0069】
第1~第3均質化工程から選択される1つ以上の工程の前又は後に、前駆体組成物を殺菌する殺菌工程を実施してもよい。
一実施形態において、第2均質化工程と第3均質化工程との間に、前駆体組成物を殺菌する殺菌工程を実施する。これにより、最終的に得られる水中油型乳化物の脂肪球のメディアン径に対する殺菌工程の影響を軽減できる。また、殺菌工程後に第3均質化工程が設けられることで、乳化がより安定化された品質のよい水中油型乳化物が得られる。さらに、殺菌工程後の均質化工程として第3均質化工程(1つの均質化工程)が設けられれば十分であるため、全体として無菌状態が求められる工程数を削減でき、設備を簡素化できる。
殺菌工程においては、前駆体組成物を、例えば110~150℃の範囲に加熱する。加熱時間は例えば1~10秒間である。
尚、以上に説明した殺菌工程は、滅菌工程であってもよい。
【0070】
第1均質化工程~3均質化工程のそれぞれにおける前駆体組成物の温度は格別限定されない。
一実施形態において、第1均質化工程における前駆体組成物の温度は、50~80℃である。
一実施形態において、第2均質化工程における前駆体組成物の温度は、50~80℃である。
一実施形態において、第3均質化工程における前駆体組成物の温度は、50~80℃である。
【0071】
4.食品の製造方法
本発明の一態様に係る食品の製造方法は、第1態様に係る水中油型乳化物の製造方法又は第2態様に係る水中油型乳化物の製造方法により得られた水中油型乳化物を用いて食品を製造することを含む。
本態様に係る方法により得られる食品は、水中油型乳化物を含むためチョコレート成分に由来する良好な風味を有し、ホイップ後の水中油型乳化物の食感も良好である。
一実施形態において、本態様に係る方法は、前記水中油型乳化物を冷凍すること、及び、前記水中油型乳化物を解凍することのいずれか一方又は両方を含む。
【実施例0072】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0073】
以下に示す実施例1及び比較例1では、表1の配合1に示す配合で、水中油型乳化物を製造した。また、実施例2及び比較例2では、表1の配合2に示す配合で、水中油型乳化物を製造した。具体的な製造方法は後述するとおりである。
【0074】
【表1】
【0075】
配合1、2において、チョコレート成分の組成は若干異なるが、チョコレート成分以外の原料は共通である。
【0076】
尚、配合1はチョコレート成分11質量%のうち、ココアバターが5.5質量%、無脂カカオ固形分が5.5質量%である。また、配合1の総脂肪分は32質量%、SNF(「Solids Not Fat」の略であり、無脂乳固形分ともいう。)は4質量%であり、全油脂中のSUS型トリグリセリドの割合は20質量%である。
配合2はチョコレート成分6質量%のうち、ココアバターが3.2質量%、無脂カカオ固形分が2.7質量%である。また、配合2の総脂肪分は29質量%、SNFは5質量%であり、全油脂中のSUS型トリグリセリドの割合は14質量%である。
【0077】
(実施例1)
65℃で、表1の配合1に記載の原料のうち、α-アミラーゼ製剤、pH調整剤及び加工助剤以外の原料を調合し、混合物を得た。
次いで、得られた混合物に、pH調整剤及び加工助剤を投入し、混合物のpHを中性域に調整した。
次いで、pHが調整された混合物に、α-アミラーゼ製剤を投入して反応させた。
次いで、ローター・ステーター式乳化装置(小松川化工機株式会社製「m-ハイエストV」)を用いて、混合物を均質化した(第1均質化工程)。第1均質化工程では、混合物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとした。脂肪球のメディアン径の標準偏差は0.5未満とした。
次いで、キャビテーター(APV社製「APV(登録商標)キャビテーター」)を用いて、混合物を均質化した(第2均質化工程)。第2均質化工程では、混合物の脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μm(第1均質化工程後のメディアン径より小さい)とした。脂肪球のメディアン径の標準偏差は0.4以下(第1均質化工程後のメディアン径の標準偏差より小さい)とした。
次いで、混合物を、UHT殺菌機にて130℃で3秒間殺菌した。
次いで、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング株式会社製「ホモゲナイザーH-20型」)を用いて、混合物を均質化した(第3均質化工程)。
次いで、混合物を3~7℃に冷却して、サンプル(水中油型乳化物)を得た。
【0078】
(比較例1)
65℃で、表1の配合1に記載の原料のうち、α-アミラーゼ製剤、pH調整剤及び加工助剤以外の原料を調合し、混合物を得た。
次いで、得られた混合物に、pH調整剤及び加工助剤を投入し、混合物のpHを中性域に調整した。
次いで、pHが調整された混合物に、α-アミラーゼ製剤を投入して反応させた。
次いで、ホモミキサーを用いて、混合物を10分間混合(予備乳化)した。
次いで、混合物を、UHT殺菌機にて130℃で3秒間殺菌した。
次いで、高圧ホモジナイザーを用いて、混合物を均質化した。
次いで、混合物を3~7℃に冷却して、サンプルを得た。
【0079】
実施例1及び比較例1で得られたサンプルを、以下の方法により評価した。
<評価方法>
(1)粘度測定
B型粘度計(東機産業株式会社製「TVB-10型粘度計」)を用いて、サンプルの5℃における粘度を測定した。計測時の回転数は60rpmとし、ローターは500cPまではNo.21、500~2000cPまではNo.22、2000~10000cPまではNo.23を使用して計測した。
【0080】
(2)脂防球粒径測定
レーザー回析式粒度分布計(株式会社島津製作所製「SALD-2200」)を用いて、5℃に調温されたサンプルに含まれる脂肪球の粒度分布を測定し、メディアン径(脂肪球粒度分布の中央値に対応する粒子径)と、メディアン径の標準偏差とを測定した。尚、粒度分布の測定は、体積基準で行った。
【0081】
(3)ホイップ方法及びオーバーラン測定
ステンレス製の専用ボウルにサンプルを900g、砂糖を63g計量し、5℃に調温してから卓上ミキサー(株式会社愛工舎製「ケンミックス」)にセットし、回転数を560rpmに設定してホイップした。このとき、サンプルの硬さを、針入度計(丸菱化学機械製作所社製)を用いて計測し、サンプルの硬さが針入度290になった時点でホイップ完了とした。ホイップ完了までに要した時間(ホイップ時間)を測定した。また、ホイップしたサンプルの一定容積あたりの質量をホイップ前後で測定し、次式によりオーバーランを求めた。
オーバーラン=((W-W)/W)×100(%)
:ホイップ前における一定容積あたり対象品質量(g)
:ホイップ後における一定容積あたり対象品質量(g)
【0082】
以上の結果を表2に示す。表2は、サンプルを5℃において24時間保存した後の結果である。また、サンプルを7℃で保存したときの粘度の変化を図1に、10℃で保存したときの粘度の変化を図2にそれぞれ示す。さらに、実施例1について、サンプルを7℃、10℃又は15℃で保存したときの粘度の変化を図3に示す。さらにまた、実施例1について、サンプルを7℃で保存したときのオーバーランの変化を表3に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表2より、実施例1は比較例1よりも粘度が低く、ホイップ時のオーバーランが高かった。また、ホイップ時間については、同等であった。図1及び図2より、比較例1は増粘したのに対し、実施例1は増粘が抑制され、250cP以下を維持していた。さらに、図3より、実施例1は15℃での増粘までも抑制され、14日後でも250cPを超えることはなかった。表3より、実施例1は40日保存後もオーバーランが140%以上を維持していた。
【0086】
(実施例2)
65℃で、表1の配合2に記載の原料のうち、リン酸塩及び加工助剤以外の原料を調合し、混合物を得た。
次いで、得られた混合物に加工助剤を投入し、混合物のpHを中性域に調整した。
次いで、ローター・ステーター式乳化装置(ハイエストV)を用いて、混合物を均質化した(第1均質化工程)。第1均質化工程では、混合物の脂肪球のメディアン径を1.0~10.0μmとした。その後、混合物にリン酸塩を投入した。脂肪球のメディアン径の標準偏差は0.5未満とした。
次いで、キャビテーターを用いて、混合物を均質化した(第2均質化工程)。第2均質化工程では、混合物の脂肪球のメディアン径を1.0~6.0μm(第1均質化工程後のメディアン径より小さい)とした。脂肪球のメディアン径の標準偏差は0.4以下(第1均質化工程後のメディアン径の標準偏差より小さい)とした。
次いで、混合物を、UHT殺菌機にて130℃で3秒間殺菌した。
次いで、高圧ホモジナイザーを用いて、混合物を均質化した(第3均質化工程)。
次いで、混合物を3~7℃に冷却して、サンプル(水中油型乳化物)を得た。
【0087】
(比較例2)
65℃で、表1の配合2に記載の原料のうち、リン酸塩及び加工助剤以外の原料を調合し、混合物を得た。
次いで、得られた混合物に加工助剤を投入し、混合物のpHを中性域に調整した。
次いで、ホモミキサーを用いて、混合物を10分間混合(予備乳化)した。その後、混合物にリン酸塩を投入した。
次いで、混合物を、UHT殺菌機にて130℃で3秒間殺菌した。
次いで、高圧ホモジナイザーを用いて、混合物を均質化した。
次いで、混合物を3~7℃に冷却して、サンプルを得た。
【0088】
実施例2及び比較例2で得られたサンプルを、実施例1と同様の方法により評価した。
結果を表4に示す。実施例2では、第1均質化工程後の脂肪球のメディアン径が比較例2より大きかったが、第2均質化工程後には脂肪球のメディアン径及び標準偏差が比較例2より小さくなった。表4は、サンプルを5℃において24時間保存した後の結果である。また、サンプルを7℃で保存したときの粘度の変化を図4に、10℃で保存したときの粘度の変化を図5にそれぞれ示す。さらに、実施例2について、サンプルを7℃、10℃又は15℃で保存したときの粘度の変化を図6に示す。さらにまた、実施例2について、サンプルを7℃で保存したときのオーバーランの変化を表5に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
表4より、実施例2は比較例2よりも粘度が低く、ホイップ時のオーバーランが高かった。また、ホイップ時間については、実施例2において延長はみられなかった。図4及び図5より、比較例2は増粘したのに対し、実施例2は実施例1(配合1)と同様に、増粘が抑制され、250cP以下を維持していた。さらに、図6より、実施例1は15℃での増粘までも抑制され、14日後でも250cPを超えることはなかった。表5より、実施例2は40日保存後もオーバーランが140%以上を維持していた。
【0092】
(参考例1~8)
チョコレート成分を含有するクリームの各種市販品(参考例1~8)について、実施例1と同様にして、粘度及びオーバーランを測定した。何れの参考例も賞味期限内のものをサンプルとした。尚、参考例2、3及び4については、購入時期が異なる2サンプル(参考例2-1、参考例2-2、参考例3-1、参考例3-2、参考例4-1、参考例4-2)を測定に供した。結果を表6に示す。
【0093】
【表6】
表6より、各種市販品の粘度は285cP~6650cPと高く、オーバーランも50~123%と低かった。
【0094】
実施例1の水中油型乳化物をホイップした後、予め焼成されたシューに入れて、シュークリームを製造した。得られたシュークリームは、チョコレートの香りが強く感じられ、滑らかさや、含気された食感(ホイップ後の食感)も良好であった。また、このシュークリームを、一晩冷凍庫で冷凍し、翌日冷蔵庫で解凍し、風味や食感を確認した。その結果、チョコレートの香りが強く感じられ、食感も良好であった。実施例2の水中油型乳化物についても、実施例1と同様にしてシュークリームを製造したところ、実施例1と同様の結果が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6