(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144298
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子含有ナノファイバー、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20241003BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241003BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K9/51
A61K47/32
A61K47/24
A61K9/70 401
A61K47/69
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048905
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023051356
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】田原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】原 幸嗣
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA72
4C076AA95
4C076CC47
4C076DD63H
4C076EE06H
4C076FF21
4C076FF36
4C076FF63
(57)【要約】
【課題】 胃酸等で分解されやすい薬剤や、単独では消化管壁透過や細胞内導入が困難な薬剤を、リポソーム、脂質ナノ粒子の状態で、ナノファイバー化した製剤、これを用いた不織布、粘膜付着製剤、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶性樹脂及び脂質ナノ粒子を含有する脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。前記水溶性樹脂中のポリビニルアルコール系樹脂の含有率が50重量%以上であることが好ましく、前記脂質ナノ粒子は代表的にはリポソームである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶性樹脂及び脂質ナノ粒子を含有する脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項2】
前記水溶性樹脂中のポリビニルアルコール系樹脂の含有率が50重量%以上である請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項3】
脂質ナノ粒子がリポソームである請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項4】
さらに薬物を含有し、前記薬物は、前記脂質ナノ粒子内に保持されている請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項5】
さらに薬物を含有し、前記薬物は、前記リポソーム内に封入されている請求項3に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項6】
前記脂質ナノ粒子がリン脂質またはカチオン性脂質から構成されている請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項7】
前記脂質ナノ粒子は、親水性高分子修飾基を有している請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール系樹脂と前記脂質ナノ粒子を構成する脂質の含有比率が、質量比で、99.5:0.5~60:40である請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~94モル%である請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項10】
前記脂質ナノ粒子の平均粒子径が10~1000nmである請求項1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーが積層されてなる脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布。
【請求項12】
請求項11に記載のナノファイバー不織布を含む粘膜付着製剤。
【請求項13】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液と、脂質ナノ粒子および薬物を含む溶液との混合液を、エレクトロスピニングする工程を含む脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質ナノ粒子を安定的に保持して、薬剤を送達できる脂質ナノ粒子含有ナノファイバー、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与製剤や経皮投与製剤をはじめとした各種製剤の設計において、薬物の生物学的利用能(Bioavailability)を高めるための薬剤放出コントロールの方法として、消化管上皮細胞などの粘膜や皮膚に付着できるように製剤化した粘膜付着製剤が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、紡糸可能な基材として、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、ゼラチンなどを用いて、これに薬剤を分散させて紡糸した薬物含有超極細ファイバー、及び当該薬物含有極細ファイバーを積層した積層体が提案されている。ここでは、薬物として、経皮的に吸収される薬物を使用し、当該フィルム状の積層体は、経皮吸収製剤として用いられる。
【0004】
特許文献2では、非晶状態の難溶性薬物を用いた、薬物含有ナノファイバー、及び当該ナノファイバー不織布が提案されている。難溶性薬物を非晶状態で含有させることにより、薬物溶出率が優れていたことが開示されている。
【0005】
一方、ペプチド医薬や核酸医薬のように、胃酸等により分解されやすい薬剤や、単独では消化管壁透過や細胞内導入が困難な薬剤では、DDS(drug delivery system)用のキャリアとしてリポソームを利用した製剤(リポソーム製剤)が知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-55119号公報
【特許文献2】特開2021-88552号公報
【特許文献3】特開平5-194191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、特許文献2で提案されている薬物含有ナノファイバーは、いずれもナノファイバーの基材となる溶液に、薬物を含有させた紡糸溶液を調製し、これを紡糸することで薬物含有ナノファイバー、及び当該ナノファイバーの不織布を作製して得られるナノファイバー製剤である。
【0008】
特許文献1で提案されているナノファイバー積層体は、経皮吸収性を上げるために、経皮吸収促進剤が、薬剤とともにナノファイバーに含有されている。
【0009】
特許文献2で提案されているナノファイバー積層体は、難溶性薬物の溶出率を高めた経口投与剤であり、非晶質の薬剤を用いている。
【0010】
タンパク質のような高分子医薬の膜透過性向上や、易水溶性薬剤の放出持続時間を延長できるリポソームのDDS試薬を、ナノファイバー化することで、標的まで到達できる薬剤の割合を高めることが期待できる。
【0011】
しかしながら、リポソームは、外部刺激によって崩壊しやすいため、紡糸工程を伴うナノファイバー化は、困難と考えられていて、現状では、薬剤として、リポソーム製剤を含有したナノファイバーは見当たらない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、胃酸等により分解されやすい薬剤や、単独では消化管壁透過や細胞内導入が困難な薬剤を、リポソーム、脂質ナノ粒子の状態で、ナノファイバー化した製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、以下の態様を有する。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶性樹脂及び脂質ナノ粒子を含有する脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[2] 前記水溶性樹脂中のポリビニルアルコール系樹脂の含有率が50重量%以上である態様1に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[3] 脂質ナノ粒子がリポソームである上記態様[1]又は[2]に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【0014】
[4] さらに薬物を含有し、前記薬物は、前記脂質ナノ粒子内に保持されている上記態様[1]~[3]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[5] さらに薬物を含有し、前記薬物は、前記リポソーム内に封入されている上記態様[3]に記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【0015】
[6] 前記脂質ナノ粒子がリン脂質またはカチオン性脂質から構成されている前記態様[1]~[5]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[7] 前記脂質ナノ粒子は、親水性高分子修飾基を有している前記態様[1]~[6]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【0016】
[8] 前記ポリビニルアルコール系樹脂と前記脂質ナノ粒子を構成する脂質の含有比率が、質量比で、99.5:0.5~60:40である前記態様[1]~[7]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[9] 前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~94モル%である前記態様[1]~[8]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
[10] 前記脂質ナノ粒子の平均粒子径が10~1000nmである前記態様[1]~[9]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー。
【0017】
本発明は、上記態様[1]~[10]のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーが積層されてなる脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布も包含する。
また、本発明は、本発明のナノファイバー不織布を含む粘膜付着製剤も包含する。
【0018】
別の見地の本発明は、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの製造方法である。ポリビニルアルコール系樹脂を含む水溶液と、脂質ナノ粒子および薬物を含む溶液との混合液を、エレクトロスピニングする工程を含む脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの製造方法である。
【0019】
本明細書において、脂質ナノ粒子とは、脂質膜で囲まれた内部空間(内相)を有するナノ粒子をいい、リポソームを含む概念である。
リポソームとは、特に、リン脂質膜により構成される二重膜を有する脂質ナノ粒子である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維径が均一で、粘膜付着性が高いナノファイバーであり、内部に含有させた脂質ナノ粒子が、ナノ粒子としての構造を安定的に保持されているので、粘膜付着性製剤用ナノファイバーとして、安定的に薬物を維持、送達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】実施例で行ったナノファイバーの均一性評価で得られた、LNP-NFS1の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図1B】実施例で行ったナノファイバーの均一性評価で得られた、LNP-NFS2の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】実施例で行ったリポソーム滞留性試験の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例で行ったリポソームの分布評価試験の結果を示す蛍光顕微鏡写真であり、(A)はF-PVA、(B)はナイルレッドを観察した画像であり、(C)は(A)と(B)合成画像である。
【
図4】実施例で行ったリポソームの分布評価試験の結果を示す蛍光顕微鏡写真であり、(A)はF-PVA、(B)はナイルレッドを観察した画像であり、(C)は(A)と(B)合成画像である。
【
図5】実施例で行った消化管内におけるリポソーム挙動試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0023】
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、ポリビニルアルコール系樹脂を主体とする水溶性樹脂を基材とするナノファイバー中に、脂質ナノ粒子が含有されたものである。
【0024】
〔水溶性樹脂〕
まず、ナノファイバーの基材である水溶性樹脂、及び当該水溶性樹脂の主成分となるポリビニルアルコール系樹脂(以下「PVA系樹脂」ともいう。)について説明する。
【0025】
1.PVA系樹脂
【0026】
本発明のPVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系重合体をケン化して得られる樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残ったビニルエステル構造単位から構成される。
【0027】
本発明に使用されるPVA系樹脂のケン化度は、好ましくは80~94モル%であり、より好ましくは82~92モル%であり、さらに好ましくは84~90モル%であり、特に好ましくは85~89モル%である。PVA系樹脂のケン化度が好ましい範囲であることで、本発明の効果が得られ易くなる傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値であり、平均値として求められる平均ケン化度である。
【0028】
本発明に使用されるPVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは200~4000であり、より好ましくは1000~3500、さらに好ましくは1500~3000、特に好ましくは2000~2800である。
PVA系樹脂の平均重合度が200以上であることで、ナノファイバーの強度が良好となり使用時の安定性が向上する傾向があり、平均重合度が4000以下であることで、水溶液粘度が好適な粘度となりナノファイバーが形成しやすい傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。
【0029】
PVA系樹脂は、たとえば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。
かかるビニルエステル系モノマーとしては、たとえば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、実用的に酢酸ビニルが好適である。
【0030】
また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーを共重合させることもできる。このような共重合モノマーとしては、たとえば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類及びその塩;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類及びその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等;3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-クロロエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-クロロプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等とポリビニルアルコール系樹脂を反応させたもの、またはN-アクリルアミドトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-メチルジメチルアミノアクリルアミド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、ジメチルメタアクリルアミン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド、エチルジアリルアミン、メチルジアリルアミン等のカチオン基を有する化合物、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテートが挙げられる。
かかる共重合モノマーの含有量は、重合体全量を基準として、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下含んでもよい。
【0031】
本発明においては、PVA系樹脂として未変性PVAを用いることが好ましい。
未変性PVAは、ビニルエステル系モノマーを重合、ケン化して得られるケン化度相当のビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位を有するビニルアルコールポリマーである。
【0032】
PVA系樹脂は、2種以上を併用することも可能である。併用する際には、ケン化度や平均重合度、ブロック性の異なるPVA系樹脂や、変性PVA系樹脂を併用することができる。
【0033】
PVA系樹脂は、水との接触によりゲル状となり、粘膜に対する付着性を発揮できるようになる。
【0034】
2.その他の水溶性樹脂
ナノファイバー基材を構成する水溶性樹脂は、上記PVA系樹脂に加えて、ポリエチレングリコールデンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体;ゼラチン、カゼイン等の天然系たんぱく質類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体;アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸等の天然高分子多糖類;ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩等の水溶性樹脂;スチレン・ブタジエンゴム(SBR)ラテックス、ニトリルゴム(NBR)ラテックスのラテックス類;酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン等のエマルジョン類等が含まれていてもよい。
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0035】
本発明の水溶性樹脂に含まれるPVA系樹脂の含有比率としては、水溶性樹脂全量に対して、50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、92重量%以上、93重量%以上、94重量%以上、95重量%以上である。
PVA系樹脂の含有量が前記範囲であることで、繊維径の均一なナノファイバーが得られやすく、脂質ナノ粒子の分散性が良好なナノファイバーが得られやすい。
【0036】
〔脂質ナノ粒子〕
本明細書にいう脂質ナノ粒子とは、脂質膜で囲まれた内部空間(内相)を有するナノ粒子をいい、リポソームを含む概念である。
脂質膜を構成する脂質としては、中性脂質、カチオン性脂質が挙げられる。中性脂質としては、リン脂質、アミノ脂質、スフィンゴ脂質、コレステロール又はその誘導体が挙げられ、これらのうち、特にリン脂質、又はリン脂質とコレステロールの混合物、もしくはその誘導体が好ましく用いられる。
【0037】
脂質ナノ粒子のうち、特にリン脂質により構成される脂質二重膜を有する脂質ナノ粒子をリポソームと称し、カチオン性脂質からなるリポソームと核酸の複合体を特にリポプレックスと称する。
【0038】
脂質ナノ粒子、リポソームのいずれであっても、内相に、薬剤を封入することが可能であり、これらは、薬剤キャリアとして作用することができる。
【0039】
リン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン及び水素添加リン脂質等の天然又合成のリン脂質が挙げられる。
【0040】
ホスファチジルコリンとしては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリン等が挙げられる。
ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
ホスファチジルセリンとしては、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジステアロイルホスファチジルセリン等が挙げられる。
ホスファチジン酸としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、及びジオレオイルホスファチジン酸が挙げられる。
ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及びジステアロイルホスファチジルグリセロール等が挙げられる。
ホスファチジルイノシトールとしては、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール及びジステアロイルホスファチジルイノシトール等が挙げられる。
リポソームの脂質二重膜構造の形成、崩壊が起こる相転移温度が比較的高く(室温以上)、安定なリポソームが形成できる観点から、ホスファチジルコリンが好ましく、特にジステアロイルホスファチジルコリンが好ましい。
【0041】
上記のようなリン脂質は、リン脂質に修飾を加えたリン脂質誘導体としてもよい。
リン脂質誘導体の修飾基としては、親水性高分子が挙げられる。親水性高分子は、たとえばポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール(PEG)類、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン及び合成ポリアミノ酸が挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なかでも、消化管中の粘液(ムチン)との相互作用の影響を受けにくくなり、粘膜透過性が高まるという観点から、特にポリエチレングリコール類で修飾したポリエチレングリコール修飾リン脂質が好ましい。
【0042】
前記ポリエチレングリコール類の分子量は、特に限定されないが、500~10000が好ましく、より好ましくは1000~5000、さらに好ましくは1200~3000である。
修飾に用いられるポリエチレングリコール類としては、日本油脂社製の1,2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-PEG2000、1,2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-PEG5000、ジステアロイルグリセロール-PEG2000等の1,2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール、1.2‐ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]、1.2‐ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000]、1.2‐ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]、1.2‐ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000]、1.2‐ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]が挙げられる。
特に粘膜透過性の観点から、1.2‐ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]が好ましい。
【0043】
カチオン性脂質は、正味の正電荷を有する脂質をいう。カチオン性脂質は、静電相互作用によって負に帯電したRNAを脂質マトリックスに結合することができる。一般に、カチオン性脂質は、ステロール、アシル鎖、ジアシル鎖またはそれ以上のアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、特定のpH、特に酸性pHでのみ正味の正電荷を有するが、異なる、好ましくは生理学的pHなどのより高いpHでは、好ましくは正味の正電荷を有さず、好ましくは電荷を有さず、すなわち中性である。本開示の目的のために、そのような「カチオンにイオン化可能な」脂質は、状況と矛盾しない限り、「カチオン性脂質」という用語に含まれる。
カチオン性脂質の例には、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシプロピルアミン(DODMA)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3-(N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、l,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(cis,cis-9’,12’-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、2,3-ジリノレオイルオキシ-N,N-ジメチルプロピルアミン(DLinDAP)、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinCDAP)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-XTC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(DMRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(cis-9-テトラデセニルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMORIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DLRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(βAE-DMRIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、2-({8-[(3β)-コレスト-5-エン-3-イルオキシ]オクチル}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]プロパン-1-アミン(オクチル-CLinDMA)、1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DMDAP)、1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DPDAP)、N1-[2-((1S)-1-[(3-アミノプロピル)アミノ]-4-[ジ(3-アミノ-プロピル)アミノ]ブチルカルボキサミド)エチル]-3,4-ジ[オレイルオキシ]-ベンズアミド(MVL5)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、2,3-ビス(ドデシルオキシ)-N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチルプロパン-1-アモニウムブロミド(DLRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミニウムブロミド(DMORIE)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)8,8’-((((2(ジメチルアミノ)エチル)チオ)カルボニル)アザンジイル)ジオクタノエート(ATX)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DLDMA)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DMDMA)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)-9-((4-(ジメチルアミノブタノイル)オキシ)ヘプタデカンジオエート(L319)、N-ドデシル-3-((2-ドデシルカルバモイル-エチル)-{2-[(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-2-{(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-[2-(2-ドデシルカルバモイル-エチルアミノ)エチル]-アミノ}-エチルアミノ)プロピオンアミド(リピドイド98N12-5)、1-[2-[ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル-[2-[4-[2-[ビス(2ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル]ピペラジン-1-イル]エチル]アミノ]ドデカン-2-オール(リピドイドC12-200)が含まれるが、これらに限定されない。DODMA、DOTMA、DOTAP、DODAC、およびDOSPAが好ましい。
【0044】
コレステロール誘導体としては、例えば、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテル、トコフェロールおよびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
脂質ナノ粒子の脂質膜の一部に、コレステロールなどの他の疎水性部分を含むことによって、脂質ナノ粒子の安定性を増強し、薬物送達の効率を高めることができる。
【0045】
本発明で用いる脂質ナノ粒子は、特に制限されないが、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法といったの公知の方法を用いて形成することができる。例えば水和法の場合、脂質を有機溶剤に溶解し、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得た後、水性溶媒で水和させることで得ることができる。
前記有機溶剤としては、エタノール、クロロホルム、エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0046】
脂質ナノ粒子は、凍結乾燥処理をしてもよい。脂質ナノ粒子は、凍結乾燥により、粉末状とすることができる。粉末状の脂質ナノ粒子を用いることで、紡糸液中の脂質ナノ粒子の含有率を高めることができ、ひいては、ナノファイバー中に含有される脂質ナノ粒子量を増大することができる。
【0047】
凍結乾燥の方法としては、脂質ナノ粒子を冷却、凍結させた後、凍結状態の脂質ナノ粒子を真空下におき水分を昇華除去し、乾燥させる方法や、噴霧凍結乾燥がある。
凍結乾燥時には必要に応じて凍結乾燥保護剤を添加してもよい。凍結乾燥保護剤としては、マンニトール、トレハロース、スクロース、乳糖、シクロデキストリン、デキストラン等が挙げられる。
【0048】
脂質ナノ粒子の平均粒子径は、10~1000nmが好ましく、10~500nmがより好ましく、10~200nmがさらに好ましい。
平均粒子径が1000nm以下であることで、ナノファイバー製造時の混合液中での脂質ナノ粒子の分散性が良好となるため好ましく、平均粒子径が10nm以上であることで、高分子医薬であっても必要量含有させることが可能となる。
本発明における粒子径は、動的光散乱法を原理としたZETASIZER Nano ZS(MALVERN INSTRUMENT)を用いて測定される。
【0049】
ナノファイバー中に含有されている脂質ナノ粒子のサイズは、ばらつきが小さいことが好ましい。具体的には、粒子径分布の多分散度の指標としての多分散指数が、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2以下が特に好ましい。
本発明における多分散指数は、動的光散乱法を原理としたZETASIZER Nano ZS(MALVERN INSTRUMENT)を用いて測定される。
【0050】
本発明の脂質ナノ粒子は、その他添加剤を含んでも良い。添加剤としては、たとえば、脂質添加剤、賦形剤を含んでもよい。
【0051】
〔薬物〕
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーに含まれる薬物は、主として、脂質ナノ粒子中に封入される薬剤である。リポソームのように脂質膜が二重層となっている場合には、脂質膜中に含まれていてもよいが、好ましくは脂質ナノ粒子の内相に封入される。
【0052】
脂質ナノ粒子の内相に薬物を封入する方法としては、脂質ナノ粒子含有溶液に、薬物を混合水和して加熱混錬する方法や、リモートローディング法(pH勾配法)、リピドフィルム法(ボルテックス法)、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、凍結融解法、等が挙げられるが、これらに限定されず、任意の公知の方法を適宜選択することができる。
薬物が負に帯電したRNAの場合、カチオン性脂質から形成されるリポソームとの組合せが好ましい。また、帯電していない高分子薬剤や低分子薬剤の場合、リン脂質から形成されるリポソームとの組合せが好ましい。
脂質ナノ粒子の内相に封入された薬物は、投与後、脂質ナノ粒子としてナノファイバーから放出される。ナノファイバーが粘膜付着製剤の場合、ナノファイバーから放出された脂質ナノ粒子が、粘膜を透過後、粘膜上の粘液中で脂質二重膜構造が崩壊され、封入薬物を放出する。
【0053】
本発明で使用される薬剤は、脂質ナノ粒子製剤として好適な薬剤、粘膜付着製剤に好適な薬剤である。すなわち、胃酸等により分解されやすい薬剤、難膜透過性薬剤、易水溶性薬剤、高分子薬剤などである。
具体的には、ペプチド医薬やタンパク質医薬等の高分子薬物、核酸医薬などが挙げられる。高分子薬物としては、たとえば、オキシトシン、デスモプレシン、ロイプロリド、ゴセレリン、オクトレオチドや、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗原、成長因子、増殖因子、サイトカイン、インターフェロン、ホルモン、血液凝固線溶系因子、酵素、コンジュゲートタンパク質、タンパクワクチン、抗体様タンパク質、細胞、核酸等が挙げられる。
核酸医薬としては、たとえば、ワクチン、デコイ核酸、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマーなどが挙げられる。
【0054】
脂質ナノ粒子と薬物の含有比率は、薬物の物性により異なるが、リン脂質:薬物(質量比)が好ましくは99.9:0.1~50:50であり、より好ましく99.5:0.5~75:25、さらに好ましくは99:1~80:20である。
上記比率とすることで、薬物を脂質二重膜構造内に封入することが容易である。
【0055】
〔脂質ナノ粒子含有ナノファイバー〕
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、上記脂質ナノ粒子と、ナノファイバー基材である水溶性樹脂を含有する材料を紡糸することで得られる。
【0056】
脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの直径(繊維径)は、好ましくは1nm~10μm、より好ましくは1~2000nm、特に好ましくは5~1000nmであり、さらに好ましくは10~700nmである。
ナノファイバーの繊維径が大きくなりすぎると、ナノファイバー紡糸時に液だれがおきやすくなり、またナノファイバーが凝集しやすい傾向にある。一方、ナノファイバーの繊維径が小さすぎると、強度、ハンドリング性が低下する傾向にある。
なお、ナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡を用いて測定される。
【0057】
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーに含まれる脂質ナノ粒子の含有量は、ナノファイバー全量に対して0.1~50重量%が好ましく、より好ましくは、0.5~45重量%であり、さらに好ましくは1.0~40重量%であり、特に好ましくは5~35重量%である。
【0058】
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーにおけるPVA系樹脂と脂質ナノ粒子の脂質膜(リン脂質)の含有比率は、PVA系樹脂:リン脂質(質量比)が、99.5:0.5~60:40となるような範囲で混合するのが好ましい。より好ましくは99:1~55:45、さらに好ましくは98:2~50:50である。
【0059】
薬物が、負に帯電したRNAの場合、アミノ基とリン酸基の比であるN/P比が、0.01~30であることが好ましく、0.5~20がより好ましく、5~10がさらに好ましい。
N/P比が小さすぎると脂質ナノ粒子へのRNA含有量が低下する傾向にあるため好ましくなく、N/P比が大きすぎると細胞毒性の観点から好ましくない。
【0060】
〔ナノファイバーの製造方法〕
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、PVA系樹脂と脂質ナノ粒子を含む混合液を原料(紡糸液)として、この混合液をエレクトロスピニング法(静電紡糸法)またはメルトブロー法に適用することにより得られる。
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、ファイバー中に脂質ナノ粒子が位置するため、脂質ナノ粒子の安定性に優れる。
【0061】
紡糸液として用いられる混合液は、溶媒中にPVA系樹脂と脂質ナノ粒子及び薬物とを混合して調製しても良いし、それぞれを別々の溶液として調製した後、溶液同士を混合しても良いし、PVA系樹脂、脂質ナノ粒子、及び薬物のうち2成分を混合した溶液と、残りの1成分を含む溶液を調製した後、各溶解液同士を混合して調製してもよい。
これらのうち、予め脂質ナノ粒子と薬物の混合液(薬剤含有脂質ナノ粒子溶液)を調製し、この薬剤含有脂質ナノ粒子溶液を、PVA系樹脂を溶解したPVA系樹脂溶解液と混合することが好ましい。当該方法によれば、薬物を含有した脂質ナノ粒子が得られやすく、薬物含有脂質ナノ粒子の状態で含有されたナノファイバーが得られやすい。
【0062】
1.脂質ナノ粒子含有液
脂質ナノ粒子含有液の調製に用いられる溶媒としては、たとえば、アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等)やエステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、クロロホルム、ジクロロメタン等の有機溶媒や水等が挙げられ、環境負荷の低減の観点から、水が好ましい。水を含む溶媒は、他の溶媒(メタノール、エタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、DMSO等の前記例示の有機溶媒)を含んでいてもよい。
脂質ナノ粒子含有液は、紡糸の観点から、25℃における粘度を1~10000mPa・sに調整することが好ましい。
なお、本明細書における溶液の粘度はブルックフィールド粘度計により測定される(以下、同様)。
【0063】
2.PVA系樹脂溶液
PVA系樹脂溶液の溶媒としては、脂質ナノ粒子含有液で用いるような溶媒を用いることができ、好ましくは水である。
PVA系樹脂溶液の25℃における粘度は、より好ましくは10~5000mPa・s、特に好ましくは100~3000mPa・sである。
【0064】
PVA系樹脂溶液には、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が含有されていてもよい。アルカリ金属塩としては、たとえば、有機酸や無機酸のカリウム塩やナトリウム塩等が挙げられ、有機酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、無機酸としては、たとえば、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等が挙げられる。またアルカリ土類金属塩としては、たとえば、有機酸や無機酸のカルシウム塩やマグネシウム等が挙げられ、有機酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、無機酸としては、たとえば、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等が挙げられる。
【0065】
3.紡糸液
紡糸液中のPVA系樹脂の濃度は、1~40重量%であるのが好ましく、2~30重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。
PVA系樹脂濃度が前記範囲であることで、混合液が好適な粘度となるため得られるナノファイバーの繊維径が均一となり、ナノファイバー中にナノ粒子が均一に分散し易くなるため好ましい。
【0066】
紡糸液中の脂質ナノ粒子の濃度は、0.5~50重量%であるのが好ましく、1~40重量%がより好ましく、1.5~35重量%がさらに好ましい。
【0067】
紡糸液には、薬物含有脂質ナノ粒子、PVA系樹脂、これらの溶液調製に用いた溶媒の他、たとえば、可塑剤、滑剤、顔料分散剤、増粘剤、膠着防止剤、流動性改良剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、紙力増強剤、架橋剤等の周知の添加剤を適宜配合することができる。
【0068】
紡糸液の25℃における粘度は、1~10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、より好ましくは10~5000mPa・s、特に好ましくは100~3000mPa・sとなるように調整することが好ましい。
粘度が1mPa・s以上であれば、ナノファイバーを紡糸する際のファイバー形成が良好となる傾向があり、粘度が10000mPa・s以下であれば、ナノファイバー化した際にナノファイバーに凝集部位(ビーズ)ができることがなく、ナノファイバーの繊維径が安定になるため好ましい。
【0069】
4.紡糸方法
上記のようにして調製された紡糸液を紡糸し、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーを得る。
ナノファイバーの紡糸方法としては、紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法や、紡糸ノズルを使用しないエレクトロスピニング法、メルトブロー法等が挙げられる。好ましくは紡糸ノズルを使用するエレクトロスピニング法である。
【0070】
〔ナノファイバー不織布〕
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布は、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーが、ランダム方向に敷設され、積層されて、シート状物となったものである。ランダムに積層されたナノファイバーは、適宜絡み合った不織布となっている。
【0071】
本発明に係る脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布の厚みは、好ましくは0.1~500μm、より好ましくは0.3~300μm、さらに好ましくは0.5~100μmである。また、得られたナノファイバー不織布の目付けは、その用途に応じて適宜設定されるが、好ましくは0.1~40g/m2、より好ましくは0.5~20g/m2、さらに好ましくは1~10g/m2である。
【0072】
〔用途〕
以上のような脂質ナノ粒子含有ナノファイバー及びこれを用いたナノファイバー不織布は、適宜賦形剤と組み合わせて、製剤化してもよい。例えば、においや味のマスキングや目的の部位へ送達させるためにカプセル等に内包してカプセル剤としてもよい。また、単独で、製剤として用いることができる。特にナノファイバー不織布は、粘膜付着製剤として用いることができる。
【0073】
製剤としては、経口投与、経皮投与用製剤である。特にナノファイバー不織布は、経口剤や、貼付剤、テープ剤として利用することができる。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
〔使用した成分〕
1.水溶性樹脂
三菱ケミカル社製のポリビニルアルコール系樹脂(PVA)〔未変性PVA系樹脂、ケン化度88モル%、平均重合度2400〕を蒸留水に添加し、80℃の温度下、撹拌することで得られたPVA系樹脂水溶液(5.5重量%)として用いた。
【0076】
2.脂質ナノ粒子の構成材料
(1)リン脂質
日油社製のジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)である「COATSOME MC-8080」
(2)コレステロール(CHOL)
Sigma-Aldrich社のコレステロール
(3)リン脂質修飾剤
油化産業社の1.2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000である「DSPE-020CN」(DSPE-PEG)
【0077】
3.モデル薬物
Sigma-Aldrich社製のフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(FD-4)〔Mw:3000-5000〕
【0078】
4.標識用物質
(1)PVA系樹脂の蛍光標識物質
Sigma-Aldrich社製のイソチオシアン酸フルオレセインイソマーI型(FITC)
(2)リポソーム用蛍光標識物質
(2-1)東京化成工業社製のナイルレッド
(2-2)MP Biomedicals社製のインドシアニングリーン(ICG)
【0079】
5.その他
(1)リポソーム凍結乾燥保護剤
純正化学社製のヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)を用いた。
【0080】
〔リポソームの調製〕
1.PEG修飾リポソーム(LNP1)
リン脂質であるDSPCを28.05mg/mL、及びCHOLを1.934mg/mLの濃度となるようにクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーター(東京理科機器社製 N-1110)を用いて40℃の水浴上で溶媒を減圧留去して薄膜を調製した。
この薄膜を一晩以上減圧乾燥した後、60℃の水浴中で蒸留水を用いて水和し、エクストルーダー(AVESTIN社製のLiposoFastTM-Pneumatic)を用いて300kPa-400kPaの圧力で細孔径100nmのフィルター(Whatman社製のNucleporo Track-Etoch Membrane)に41回通過させることにより、リポソーム1(LNP1)得た。
リン脂質修飾剤であるDSPE-PEG水溶液へ、前記リポソーム1を、DSPC:DSPE-PEG=1:2.2(質量比)となるように添加調整した。60℃で1時間インキュベートすることで、PEG修飾リポソーム1(PEG-LNP1)を得た。
PEG修飾リポソーム1(PEG-LNP1)の特性:粒子径109.4nm、多分散指数0.183。
【0081】
2.PEG修飾リポソーム(LNP2)
凍結乾燥保護剤として、21.3mg/mLのHPβCD水溶液を用いた。このHPβCD水溶液と上記で調製したPEG修飾リポソーム1を混合し(PEG-LNP1(DSPC+DSPE-PEG):HPβCD=20.3:21.3(質量比))、冷却トラップ装置(東京理化器械 UT-4000)にて-100℃で予備凍結を行った。その後凍結乾燥機(東京理化器械 FDU-2200)を使用して、10Pa以下で48時間凍結乾燥して、PEG修飾リポソーム1の凍結乾燥品を、PEG修飾リポソーム2(PEG-LNP2)と称する。
PEG修飾リポソーム2(凍結乾燥品)の特性は以下のとおりであり、粒子径、多分散指数は、凍結乾燥前とほぼ同程度であり、凍結乾燥による、PEG修飾リポソームの変性は認められないことが確認できた。
平均粒子径106.0nm、多分散指数0.131。
【0082】
〔薬物含有脂質ナノ粒子及びその凍結乾燥品の調製〕
リン脂質であるDSPCを28.05mg/mL、及びCHOLを1.934mg/mLの濃度となるようにクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーター(東京理科機器社製 N-1110)を用いて40℃の水浴上で溶媒を減圧留去して薄膜を調製した。
これを、モデル薬物として用いた16mg/mLのFD-4水溶液と混合し(FD-4:DSPC=1:1.75(質量比))、エクストルーダー処理することで、薬物含有リポソーム1を得た。
得られた薬物含有リポソーム1の溶液を、PEG化溶液と混合して、濃度12.62mg/mLとなるように調整した(混合物中のDSPC:DSPE-PEG=1:2.2(質量比))。かかる状態で、60℃で1時間インキュベートすることでPEG修飾LNP1に薬物が封入された脂質ナノ粒子(薬物含有PEG-LNP1)を得た。
【0083】
調製した薬物含有PEG-LNP1を、21.3mg/mLの凍結乾燥用溶液(HPβCD 水溶液)と混合し(リン脂質:HPβCD=1.9:1(質量比))、冷却トラップ装置(東京理化器械 UT-4000)にて-100℃で予備凍結を行った。その後凍結乾燥機 (東京理化器械 FDU-2200)を使用して、10Pa以下で48時間凍結乾燥して、薬物含有PEG-LNP1の凍結乾燥品を得た。
【0084】
〔脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布(LNP-NFS)の製造〕
1.リポソーム含有不織布No.1、2:
PVA系樹脂水溶液に、上記で調製したPEG-LNP1、PEG-LNP2を、表1に示す混合比率となるように添加した後、撹拌し、リポソーム含有PVA溶液(紡糸液)を得た。
シリンジポンプ(ユタカ電子製作所)、高電圧発生装置(メック社製 HVU-30P100)を用いて、リポソーム含有PVA溶液を、プラスチック製の5mLシリンジに充填し、シリンジポンプに設置した。ノズルの直径を22G、電極間の電圧を11kV、ノズル先端から捕集板までの距離を12cm、リポソーム含有PVA溶液の吐出速度を0.5ml/時として、10時間のナノファイバー化を行い、捕集板上に不織布を形成して、リポソーム含有ナノファイバー不織布(LNP-NFS1、LNP-NFS2)を作製した。
【0085】
【0086】
2.薬物含有リポソーム含有ナノファイバー不織布(薬物含有LNP-NFS)
リポソーム含有ナノファイバー不織布の製造において、PEG-LNPに代えて、薬物含有PEG-LNPの凍結乾燥品を用いて同様にして、ナノファイバー不織布を製造した。得られた薬物含有LNP-NFS3と称する。
薬物含有LNP-NFS3に用いた紡糸液の組成は、下記表2に示すとおりである。
【0087】
【0088】
〔評価方法及び評価〕
1.脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの均一性〕
上記で作製した脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布(LNP-NFS)No.1、No.2の形態をSEM(日本電子社製 JCM-7000)で観察することにより、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーの均一性を評価した。
試料台にSEM用カーボン両面テープ(日新EM社製 Cat.No.7321)を貼りつけ、その上にナノファイバー試料を付着させた。その後、イオンコーティング装置(日本電子社製のDII-29010SCTR SmartCoater)にてプラチナコーティングを施し、15kV-20kV加速電圧下、真空状態でSEM(走査型電子顕微鏡)による観察を行い、撮像したナノファイバー不織布No.1、No.2のSEM写真を、それぞれ
図1A、
図1Bに示す。
【0089】
PEG-LNP1を含有したナノファイバー不織布(LNP-NFS)No1では、凝集部(ビーズ)のない均一なナノファイバーであることが確認できた。ナノファイバー不織布(LNP-NFS)No2では、大部分が繊維径の均一なファイバーが得られたものの、一部に凝集部(ビーズ)が認められた。
【0090】
2.脂質ナノ粒子の構造安定性
上記で作製したナノファイバー不織布(LNP-NFS)No.1、2を、8gを蒸留水9.9gと混合することで、ナノファイバー不織布に含有されていたそれぞれのPEG-LNPを水中に再分散させた。再分散した脂質ナノ粒子の粒子径、多分散指数を、ZETASIZER Nanoを用いて測定した。
参考のために、紡糸液の調製に用いた、PEG-LNP1及びその凍結乾燥品の状態で測定した平均粒子径、多分散指数の測定結果を、あわせて表3に示す。
【0091】
【0092】
ナノファイバー不織布から取り出した脂質ナノ粒子は、凍結の有無にかかわらず、いずれも紡糸液調製前の脂質ナノ粒子としての平均粒子径を維持しており、多分散指数も0.5以下(0.2以下)を維持していることが確認できた。特にLNP-NFS2では、リポソームの含有率が60%以上と高含有率であるにもかかわらず、リポソームの平均粒子径が150nm以下であり、凝集が抑制できていることが確認できた。水溶性樹脂として使用したポリビニルアルコール系樹脂が分散安定化剤として作用しているのではないかと考えられる。
【0093】
3.粘膜付着性評価
フロースルー法(Eliyahu,S., Aharon,A. & Bianco‐Peled, H.Acrylated chitosan nanoparticles with enhanced mucoadhesion. Polymers(Basel).10,1-17(2018).))を用いて評価した。
薬剤含有リポソーム(薬物含有PEG-LNP1)を用いて作製したナノファイバー不織布(薬物含有LNP-NFS3)を、ブタの胃組織切片上に設置し、溶出試験第2液(ナカライテスク社製)を滴下することで粘液クリアランスを模倣し、溶出する薬物量を定量した。参考のための比較例として、薬物含有PEG-LNP1の懸濁液を用いた場合についても、溶出する薬物量を定量した。
【0094】
ブタの胃組織(中間部、粘膜部、ダード株式会社)としては、一辺1.5cmの正方形に切り出した胃組織切片を用いた。この胃組織切片を、底部に貫通孔を有する50mLの遠沈管の内部に、両面テープを用いて貼りつけた。FD-4を封入したリポソーム懸濁液200μL(20mM)又はリポソーム含有ナノファイバー16mgを胃切片上に添加し、加湿器をセットした37℃の暗所(小型恒温恒湿器、ヤマト科学)で10分間インキュベートを行った。遠沈管を水平に対して45度傾けて配置し、底部にあけた穴からペリスタポンプ(MasterflexTM L/S, Cole Parmer)と溶剤耐性のチューブ(MasterflexTM Chem-DuranceTM Bio L/STM Precision Pump Tubing、内径×外径:0.8×4.1mm)を用いて溶出試験第2液を2mL/分の速度で滴下した。滴下開始後、0.25分、0.5分、1分、2分、3分、4分、5分、10分の時点で溶出液を回収し、FD-4の蛍光強度を測定した。
【0095】
結果を
図2に示す。
図2中、横軸は溶出試験開始後の経過時間、縦軸は、各時間で回収した溶出液の薬物濃度を示した。黒色バーは、薬物含有PEG-LNPの懸濁液(比較例)の薬物濃度であり、白色バーは、薬物含有LNP-NFS3の薬物濃度を示している。
【0096】
図2より、ナノファイバー化されていない薬物含有PEG-LNP1の懸濁液では、溶出液滴下開始0.25分後の溶出液の薬物濃度が著しく高く、その後大幅に低下していた。このことは、ナノファイバー化されていない薬物含有PEG-LNPでは、粘膜到達後、0.25分以内に多くのリポソームが洗い流されてしまっていることを意味する。
一方、薬物含有PEG-LNP1のナノファイバーシート(LNP-NFS3)では、溶出液滴下開始0.25分後での溶出液の薬物濃度はリポソーム懸濁液の10分の1以下であり、1.5分後から10分後までの溶出液の薬物濃度はほぼ一定の値を示した。これにより、ナノファイバーが粘膜に付着することで、持続的に薬物含有PEG-LNPが放出されていることを確認できた。
【0097】
4.ナノファイバー不織布中のリボソーム分布
以下のように、PVA系樹脂、リポソームを蛍光標識し、蛍光標識されたナノファイバー及びナノファイバー不織布を作製した。
【0098】
(1)蛍光標識ポリビニルアルコール(F-PVA)の調製
DMSO8mL及びピリジン50μLにPVA300mgを添加し、100℃で溶解させた。溶解後、FITC50mg及びジラウリン酸ジブチルスズ20mgを添加し、100℃で2時間反応させた。反応液に無水ブタノール50mLを加えて沈殿させ、3500rpmで5分間遠心分離した。ブタノールを加えて遠心分離する前記操作を5回繰り返して未反応のFITCを除去し、一晩減圧乾燥を行った。乾燥後、80℃の蒸留水に溶解させ、-100℃で予備凍結を行った。その後凍結乾燥機 (東京理化器械 FDU-2200)を使用して、10Pa以下で48時間凍結乾燥を行うことで、蛍光標識ポリビニルアルコール(F-PVA)を得た。
【0099】
(2)蛍光標識リポソームの作製
以下のようにして、ナイルレッドをリポソーム1の脂質膜に封入することで、蛍光標識リポソームを調製した。
DSPC28.05mg/mL及びCHOL1.934mg/mLに、ナイルレッドを0.064mg/mLの濃度となるように添加し(DSPC:CHOL:ナイルレッド=14.5:1.0:0.03(質量比))、クロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーター(東京理科機器社製 N-1110)を用いて40℃の水浴上で溶媒を減圧留去して薄膜を調製した。これを一晩以上減圧乾燥した後、60℃の水浴中で蒸留水を用いて水和し、エクストルーダー(AVESTIN社製 LiposoFastTM-Pneumatic)を用いて300kPa-400kPaの圧力で細孔径100nmのフィルター(Whatman社製Nucleporo Track-Etoch Membrane)に41回通過させることにより、ナイルレッドを封入した蛍光標識リポソーム1(F-LNP1)を得た。
【0100】
上記で調製した蛍光標識リポソーム(F-LNP1)に、DSPE-PEG水溶液を12.62mg/mL(DSPE:DSPE-PEG=1:2.2(質量比))となるように混合し、60℃で1時間インキュベートすることで、蛍光標識されたPEG修飾リポソーム(F-PEG-LNP1)を得た。
この蛍光標識されたPEG修飾リポソーム(F-PEG-LNP1)を、-100℃で予備凍結を行った。その後凍結乾燥機(東京理化器械 FDU-2200)を使用して、10Pa以下で48時間凍結乾燥して、蛍光標識されたPEG修飾リポソームの凍結乾燥品を得た。
【0101】
(3)蛍光標識不織布の作製
F-PVAとPVAを1:9の比率(質量比)で含む5.5%水溶液(蛍光標識PVA系樹脂水溶液)を調製した。
蛍光標識リポソーム(F-PEG-LNP1)の凍結乾燥品を用いて、LNP-NFS1又はLNP-NFS2と同様の混合比率で、紡糸液No.3、No.4を調製した。この紡糸液を用いて、LNP-NFSのNo.1と同様にしてナノファイバー化を行い、捕集板上に蛍光標識ナノファイバー不織布No.3、No.4(F-LNP-NFS3、F-LNP-NFS4)を作製した。
【0102】
(4)ナノファイバー不織布中でのリポソーム分布の測定
上記で作製した蛍光標識ナノファイバー不織布(F-LNP-NFS)をスライドガラス上に載置し、カバーグラスを重ねてセロハンテープで固定することで測定用サンプル準備をした。
CLSM(カールツァイス社製 LSM 700)により観察した。蛍光標識された脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布No.3、No.4を撮像した写真を、それぞれ
図3、
図4に示す。なお、PVA系樹脂の蛍光標識、リポソームの蛍光標識(ナイルレッド)の観察は、下記の条件に設定して、撮像した。
図3、
図4において、AはPVA系樹脂の蛍光標識を撮像した写真、Bはナイルレッドを撮像した写真、Cは、写真AとBの合成である。
【0103】
・PVA系樹脂の蛍光標識の観察
EGFP 488nm
Gain 750
ピンホール 68.3
レーザー強度 10.0
【0104】
・リポソーム標識(ナイルレッド)の観察
Rhoda 555nm
Gain 730
ピンホール 68.3
レーザー強度 10.0
【0105】
図3、
図4のいずれにおいても、ナイルレッドを撮像した写真Bにおいて、ナノファイバー状態を観察することができた。このことから、脂質ナノ粒子が、ナノファイバー中に含有されていること、さらには、ナノファイバー内に均一に分布していたことが確認できた。
【0106】
5.消化管内におけるリポソーム挙動
(1)ICG標識LNPの調製
以下のようにして、蛍光試薬であるICGを封入した脂質ナノ粒子を調製し、消化管内におけるリポソーム挙動を評価した。
DSPCを28.05mg/mL、CHOLを1.934mg/mL、インドシアニングリーン(ICG)を40μg/mLの濃度となるようにクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーター(東京理科機器社製 N-1110)を用いて40℃の水浴上で溶媒を減圧留去して薄膜を調製した。これを一晩以上減圧乾燥した後、60℃の水浴中で蒸留水を用いて水和し、エクストルーダー(AVESTIN社製LiposoFastTM-Pneumatic)を用いて200kPa-300kPaの圧力で細孔径100nmのフィルター(Whatman社製Nucleporo Track-Etoch Membrane)に41回通過させることにより、ICG標識リポソームを得た。
ICG標識リポソームに、DSPE-PEG水溶液を12.62mg/mLの濃度になるように(DSPC:DSPE-PEG=1:2.2(質量比))混合し、60℃で1時間インキュベートすることでICG標識PEG修飾リポソームを調製した。
HPβCDを21.3mg/mLの濃度となるように、前記ICG標識PEG修飾リポソームと混合(リン脂質(DSPC+DSPE-PEG):HPβCD=20.3:21.3(質量比))し、-100℃で予備凍結を行った。その後凍結乾燥機(東京理化器械 FDU-2200)を使用して、10Pa以下で48時間凍結乾燥することにより、ICG標識PEG修飾リポソームの凍結乾燥品を得た。
【0107】
(2)紡糸液の調製及びナノファイバー不織布の作製
PVA水溶液(5.5%)5mLに、上記で調製したICG標識PEG修飾リポソームの凍結品を溶解させて、紡糸液を得た。紡糸液におけるPVA系樹脂とPEG修飾リポソームとの混合割合は、脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布(LNP-NFS)No.1と同じである。
【0108】
この紡糸液を用いて、LNP-NFSのNo.1と同様にして、ナノファイバー化を行い、ナノファイバー不織布No.5を得た。
【0109】
(3)消化管内における薬物動態の測定
投与24時間前から絶食したWistar系雄性ラット(日本エスエルシー 8週齢)に、イソフルラン吸入麻酔下、上記で作製したナノファイバー不織布16mgを充填した9号ゼラチンカプセルをミニカプセル投与器(夏目製作所社製 投与針;1.8×100mm,カップ;3.4×7mm)により胃内投与した。
【0110】
比較のために、上記紡糸液の調製に用いたICG標識PEG修飾リポソームの凍結品の懸濁液を、1mLシリンジに装着した経口ゾンデ(フチガミ機器社製 先玉径;2.3mm,外径;1.2×80mm,)により胃内投与した。
【0111】
投与4時間後にイソフルランによる過麻酔でラットを安楽死させて小腸を摘出し、ICG由来の蛍光を以下に示す条件でIVIS(IVIS Lumina2, Caliper Life Sciences)により観察した。
【0112】
摘出した小腸を3つの区画(小腸上部、小腸中央部、小腸下部)に分け、Living image Softwareを用いて蛍光強度(Total radiant efficiency)比に基づき、消化管における滞留性を測定した。各区画における測定結果を、
図5に示す。
図5中、縦軸は、蛍光強度である。
図5中、黒色バーは、ICG標識PEG修飾リポソームの懸濁液(比較例)であり、白色バーが脂質ナノ粒子含有ナノファイバー不織布の測定結果である。
【0113】
(4)測定条件
Ex filter:745nm
Em filter:820nm
Binning:Medium
Exposure time:1sec
F/stop:2
【0114】
Total Radiant Efficiency[p/s]/[μW/cm2]=
放射された皮膚表面における輝度(photon/sec)/励起光硬度(μW/cm2)
【0115】
(5)評価結果
小腸中央部及び小腸下部における蛍光強度は、ナノファイバー化していないリポソーム懸濁液を用いた場合と比べて、ナノファイバー化したナノファイバー不織布の方が高い値を示した。また、検出された蛍光強度の総量もリポソーム懸濁液の方が高かった。
以上の結果から、ナノファイバー化していないリポソーム懸濁液では、小腸粘液のクリアランスによりリポソームの一部がすでに盲腸まで到達しており、小腸に残存しているリポソーム量が少なくなったためだと考えられる。
【0116】
一方、脂質ナノ粒子含有ナノファイバーを用いたナノファイバー不織布では、ナノファイバー化により消化管における滞留性が向上し、投与4時間後においてリポソームがより消化管内に残存していることが確認できた。このことより、本発明のナノファイバーは消化管における滞留性が向上しリポソーム内の薬物を効率的に送達できることが確認できた。
本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーは、繊維径が均一で、粘膜付着性が高く、ナノファイバー中に、リポソーム構造を保持した状態で、均一に分布している。したがって、ナノファイバー基材として用いた水溶性樹脂により粘膜付着性が高いナノファイバー不織布を利用したリポソーム製剤は、リポソーム構造を保持したままで、所定の粘膜に送達され、且つ粘膜を通じて、脂質ナノ粒子が透過した後、脂質ナノ粒子に封入された薬物を放出することができる。
よって、本発明の脂質ナノ粒子含有ナノファイバーを利用したDDS製剤は、消化管にて長時間滞留することができるので、経口剤や、貼付剤、テープ剤として利用することで、投与頻度を減少することができる。