(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144302
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】金属成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20241003BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20241003BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20241003BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20241003BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241003BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20241003BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241003BHJP
C22C 38/24 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B22F10/38
B22F10/14
B22F10/64
B22F9/08 A
B33Y10/00
B33Y40/20
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302E
C22C38/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048993
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023055155
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友也
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB07
4K017BB08
4K017BB16
4K017FA14
4K017FA17
4K018AA24
4K018BA13
(57)【要約】
【課題】高硬度を備える金属成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間工具鋼の組成を有する金属粉末をバインダージェット法により積層造形し、焼結前駆体を得る、バインダージェット工程と、焼結前駆体を焼結して、焼結体内の気孔が閉気孔主体である第1焼結体を得る、第1焼結工程と、第1焼結体をHIP処理して第2焼結体を得る、第2焼結工程と、第2焼結体に焼入れ及び焼戻しを行い、金属成形体を得る、焼入れ工程と、を備える、金属成形体の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間工具鋼の組成を有する金属粉末をバインダージェット法により積層造形し、焼結前駆体を得る、バインダージェット工程と、
前記焼結前駆体を焼結して、焼結体内の気孔が閉気孔主体である第1焼結体を得る、第1焼結工程と、
前記第1焼結体をHIP処理して第2焼結体を得る、第2焼結工程と、
前記第2焼結体に焼入れ及び焼戻しを行い、金属成形体を得る、焼入れ工程と、
を備える、金属成形体の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末は、ガスアトマイズ粉末であり、前記金属成形体の炭素濃度が、0.5%未満になるような炭素及び酸素を含有している、請求項1に記載の金属成形体の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末は、水アトマイズ粉末であり、炭素濃度が0.5%未満である、請求項1に記載の金属成形体の製造方法。
【請求項4】
均質化熱処理と、焼鈍工程を備えない、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧紛体強度が高く、3次元物体を迅速に低コストで製造できる装置及び方法が記載されている。特許文献1の3次元金属物体の立体造形法は、限定された領域に、複数の金属または金属合金粒子および過酸化物を含む粒子混合物を堆積させるステップを含む。立体造形法は、未加工部を形成するために、バインダー系を粒子混合物の所定のエリアに噴出するステップを含む。水相バインダーは、水溶性単官能性アクリレート系モノマー、水溶性二官能性アクリレート系モノマー、アミン、および水を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、いわゆるバインダージェット法による金属物体を製造する方法が開示されているが、熱間工具鋼として使用できる高硬度な金属成形体を製造するまでには至っていなかった。そこで本開示の目的は、例えば熱間工具鋼として使用できるような高硬度、場合によってはさらに高靭性を備える金属成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の金属成形体の製造方法は、
熱間工具鋼の組成を有する金属粉末をバインダージェット法により積層造形し、焼結前駆体を得る、バインダージェット工程と、
前記焼結前駆体を焼結して、焼結体内の気孔が閉気孔主体である第1焼結体を得る、第1焼結工程と、
前記第1焼結体をHIP(Hot Isostatic Pressing)処理して第2焼結体を得る、第2焼結工程と、
前記第2焼結体に焼入れ及び焼戻しを行い、金属成形体を得る、焼入れ工程と、を備える、金属成形体の製造方法である。
【0006】
上記構成により、高硬度を備える金属成形体の製造方法を提供することができる。
【0007】
本開示の金属成形体の製造方法は、
前記金属粉末は、ガスアトマイズ粉末であり、前記金属成形体の炭素濃度が、0.5%未満になるような炭素及び酸素を含有している、ことを特徴とする。
【0008】
上記構成により、高硬度及び高靭性を備える金属成形体が得られる。
【0009】
本開示の金属成形体の製造方法は、
前記金属粉末は、水アトマイズ粉末であり、炭素濃度が0.5%未満である、ことを特徴とする。
【0010】
上記構成により、金属成形体の炭素濃度が0.5%未満になり、高硬度及び高靭性の金属成形体を得ることができる。
【0011】
本開示の金属成形体の製造方法は、
均質化熱処理と、焼鈍工程を備えない、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成により、通常の金属冶金で必要になる、均質化熱処理と焼鈍工程を省略できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示により、高硬度を備える金属成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態にかかる金属成形体の製造方法のフローチャートである。
【
図2】実施例にかかる金属成形体と比較例の光学顕微鏡写真である。
【
図3】実施例にかかる金属粉末と金属成形体の炭素と酸素量と、金属成形体の硬度と靭性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施の形態に限定するものではない。また、実施の形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0016】
(実施の形態にかかる金属成形体の製造方法の説明)
図1は、実施の形態にかかる金属成形体の製造方法のフローチャートである。
図1を参照しながら、実施の形態にかかる金属成形体の製造方法を説明する。
【0017】
図1に示されるように、まず熱間工具鋼の組成を有する金属粉末をバインダージェット法により積層造形し、焼結前駆体を得る、バインダージェット工程を行う(ステップS101)。熱間工具鋼は、ハンマ鍛造金型、熱間押出金型、及びダイカスト金型など、長時間高温にさらされる金型に用いられる。このような金型は、高温の金属と直接接触するため、高い熱強度、熱疲労、靭性、耐摩耗性が必要である。ここでの熱間工具鋼とはJISG4404に記載される熱間金型用鋼を示し、質量%で0.3%から0.6%の炭素を含む、中炭素の素材である(以下、質量%を単に%とも記載する)。好ましい熱間工具鋼は、例えば0.3%から0.6%のC、4.80%から5.50%のCr、0.25%から0.50%のMn、0.80%から1.2%のSi、1.00%から1.50%のMo、0.80%から1.15%のVの他、Ni、Wなどの合金金属を含み、残部がFeおよび不純物である。
【0018】
バインダージェット法は、結合剤噴射法とも呼ばれる。バインダージェット法は、粉末状のモデル材に対してバインダーと呼ばれる結合剤をインクジェットノズルから固化させたい場所のみに噴射し、熱反応または化学反応を利用して固める造形法である。バインダージェット法は、バインダーを繰り返し積層していく積層造形法である。バインダージェット法で得られたものをグリーン体と呼ぶ。このグリーン体が焼結前駆体である。
【0019】
次に、焼結前駆体を焼結して焼結体内の気孔が閉気孔である第1焼結体を得る、第1焼結工程を行う(ステップS102)。グリーン体である焼結前駆体はそのままでは熱間工具鋼として使用できない。そのため、第1焼結工程によって、バインダーを取り除く脱脂・焼結を行う。高温の固相焼結または液相焼結を行うことで、焼結体の気孔を閉気孔主体としつつ気孔の数を低減させることができ、後述する第2焼結工程にて気孔を消失させ易くすることができる。ここで高温の固相焼結または液相焼結の温度は特に限定せず、各鋼種の固相線温度付近から液相線温度以下、かつ焼結体の形状が劣化しない程度の温度で焼結すればよい。グリーン体中に液相が発現する温度であることが好ましい。例えばSKD61相当材であれば、第1焼結工程は、例えば1300℃から1450℃で熱処理を行うこともできる。好ましくは1370℃以上であり、より好ましくは1380℃以上である。ここで本発明では焼結体内に孤立したものを閉気孔といい、焼結体の外部と通じている気孔(空げき)を開気孔といい、閉気孔主体とは、開気孔よりも閉気孔が多く存在することを示す。閉気孔の観察方法としては、簡易的には焼結体の気孔率からも判断することができる。例えば、試料の断面写真から画像解析ソフトを用いて、気孔の面積率を導出し、その気孔率を10%以下とすれば、焼結体の気孔が閉気孔主体となる傾向にある。また、JISR1634に規定する開気孔率の導出方法から、閉気孔の存在比率を導出することもできる。なお気孔率の下限は特に限定しないが、第1焼結工程において気孔を無くすことは困難であることから、気孔率の下限を1%(好ましくは3%)と設定することができる。
【0020】
次に、第1焼結体をHIP処理して第2焼結体を得る、第2焼結工程を行う(ステップS103)。HIP処理とは、熱間等方圧加圧法で数百℃から2000℃の高温と数十から200MPaの等方的な圧力を第1焼結体に同時に加える処理である。上述したように第1焼結工程により、第1焼結体は気孔数が低減し、さらに閉気孔主体の構成となっていることから、この第2焼結工程で大幅に気孔数を低減させることができる。
【0021】
そして、第2焼結体に焼入れ及び焼戻しを行い、金属成形体を得る、焼入れ工程を行い(ステップS104)、工程を終了する。焼入工程において、焼入れは、鋼を、母相の組織がフェライトからオーステナイトへ変態が完了する変態点(A3点)以上の温度まで上昇させ、一定時間保持後、急速に冷却して母相の組織がマルテンサイトやベイナイトへ変態し始める温度以下に冷やし込む熱処理である。焼入れは、鋼を硬化させるために行う。焼入れ工程において、焼戻しは、上記の焼入れで硬化された鋼を再加熱して硬さを調整しながら粘りや靭性を高める熱処理である。
【0022】
熱間工具鋼は、通常、焼入れ工程の前などに、加工工程で材料内部に発生した残留応力及び加工硬化を取り除く焼鈍工程が行われる。しかしながら、第2焼結体に対し均質化熱処理及び焼鈍しを行ってみたところ、靭性に影響が少なかった。すなわち、本開示の金属成形体の製造方法は、均質化熱処理及び焼鈍工程を備えなくてもよい。
【0023】
上記構成により、高硬度及び高靭性を備える金属成形体が得られる。また、通常の金属冶金で必要になる、均質化熱処理と焼鈍工程を省略できる。
【実施例0024】
(金属成形体の製造方法について)
図2は、実施例にかかる金属成形体と比較例の光学顕微鏡写真である。
図2を参照しながら、実施例にかかる金属成形体の製造方法について説明する。熱間工具鋼の組成を有する金属粉末を用いて、バインダージェット法により焼結前駆体(グリーン体)を準備した。そのグリーン体に第1焼結を施し、シャルピー衝撃値を測定した。なおシャルピー衝撃値はJISZ2242に準拠し、2mmUノッチにて評価した。
図2(A)は、第1焼結工程で十分に閉気孔とならないよう、1360℃でバインダーを取り除いたものである。
図2(A)に示される成形体は、気孔が多い。また、シャルピー衝撃値は、7.4(J/cm
2)であり、靭性が低かった。このまま成形体をHIP処理しても低密度で靭性不足であり、不適当であると判断した。
【0025】
図2(B)は、第1焼結を1380℃で行い、閉気孔主体の第1焼結体を得たものである。そして、第1焼結体にHIP処理を行わなかったものである。
図2(B)に示される第1焼結体は、かつ気孔が多い。また、シャルピー衝撃値は9.7(J/cm
2)であり、靭性が低かった。この第1焼結体に均質化熱処理及び焼鈍を行っても靭性が不足し、不適当であると判断した。
【0026】
図2(C)は、第1焼結工程で1380℃の第1焼結を行い、閉気孔主体の第1焼結体とした後、本発明の第2焼結工程(HIP処理)を行った第2焼結体を示す。硬度が44.4(HRC、ロックウェル硬さ)、シャルピー衝撃値が31.9と、高硬度かつ高靭性の第2焼結体ができた。
No.1の焼結材は、ロックウェル硬度が44.4(HRC)である。No.2の焼結材は、ロックウェル硬度が42.8(HRC)である。No.3の焼結材は、ロックウェル硬度が44.1(HRC)である。No.4の焼結材は、ロックウェル硬度が44.5(HRC)である。
シャルピー衝撃値は靭性を表すが、No.3の粉末は、シャルピー衝撃値が他より低く、靭性が低いことがわかる。ここで、No.1の焼結材は、炭素濃度が質量%で(以下、質量%を単に%とも記載する)0.32%である。No.2の焼結材は、炭素濃度が0.33%である。No.3の焼結材は、炭素濃度が0.50%である。No.4の焼結材は、炭素濃度が0.48%である。
上記のように炭素濃度を比較すると、No.3の焼結材は、炭素濃度が0.5%以上であり、それ以外は0.5%未満であることがわかる。すなわち、金属成形体である焼結材の炭素濃度が0.5%以上であると靭性が低くなることがわかる。
ここで、金属粉末の炭素濃度と、焼結材の炭素濃度について考察する。金属粉末を水アトマイズ粉末とした場合、作製された焼結材の炭素濃度は、いずれも上昇しなかったか、あるいは、焼結前と同水準であったことがわかる。すなわち、No.1の水アトマイズ粉末の炭素濃度0.36%に対し、No.1の焼結材は、炭素濃度0.32%である。No.2の水アトマイズ粉末の炭素濃度0.36%に対し、No.2の焼結材は、炭素濃度0.33%である。No.3の水アトマイズ粉末の炭素濃度0.51%に対し、No.3の焼結材は、炭素濃度0.50%である。
一方、No.4のガスアトマイズ粉末の炭素濃度が0.36%であるのに対し、No.4の焼結材の炭素濃度が0.48%と、金属粉末をガスアトマイズ粉末にした場合、作製された焼結材の炭素濃度は上昇した。
そして、金属粉末の酸素濃度と焼結材の酸素濃度を比較すると、いずれも焼結材になると酸素濃度が下がっている。No.1の水アトマイズ粉末の酸素濃度が質量%で0.185%(以下、質量%を単に%とも記載する)に対し、No.1の焼結材は、酸素濃度0.0002%である。No.2の水アトマイズ粉末の酸素濃度0.274%に対し、No.2の焼結材は、酸素濃度0.0001%である。No.3の水アトマイズ粉末の酸素濃度0.31%に対し、No.3の焼結材は、酸素濃度0.0003%である。No.4のガスアトマイズ粉末の酸素濃度0.066%に対し、No.4の焼結材は、酸素濃度0.0006%である。
これらから、金属粉末の酸素濃度は、焼結材の炭素濃度に影響を与えることがわかる。脱脂中に反応が進まなかったバインダーは残留炭素として焼結材中に存在したまま焼結温度まで加熱される。金属粉末の焼結は通常,真空中や不活性ガスなどの無酸素雰囲気で加熱するため,上記の残留炭素が焼結温度でも未反応のままであり,金属粉末の炭素濃度が低かったとしても、焼結材の炭素濃度を上げるリスクがある。金属粉末の酸素濃度が高いと、バインダーに由来する炭素が脱酸剤として粉末中の酸素と反応してガス化するため、金属粉末の炭素濃度の水準は維持されて、焼結材の炭素濃度の上昇を抑えることが可能となる。一方で、金属粉末の酸素濃度が低いと、バインダー由来する炭素は脱酸剤として十分にガス化されないので、金属粉末の炭素濃度と比較して、焼結材の炭素濃度が上昇することがわかる。
金属粉末がガスアトマイズ粉末であった場合は、酸素濃度に依存して焼結材の炭素濃度が上昇する。したがって、金属成形体の炭素濃度が0.5%未満になるように金属粉末の酸素濃度と炭素濃度を制御すると、金属成形体の靭性を高くすることができる。このときの金属粉末の酸素濃度と炭素濃度について、例えば、酸素濃度が0.10%未満で、炭素濃度が0.40%未満とすることができる。
金属粉末の酸素濃度は、製法に由来して、水アトマイズ粉末は、十分な酸素濃度を含む。金属粉末が水アトマイズ粉末であった場合は、焼結材の炭素濃度が上昇しないか、あるいは、金属粉末のときと同水準である。したがって、水アトマイズ粉末の金属粉末の炭素濃度は、0.5%未満であることが好ましい。炭素濃度が0.5%未満の水アトマイズ粉末を用いると、金属成形体の靭性を高くすることができる。