(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144306
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】塗装されたCFRP物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/18 20060101AFI20241003BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C43/18
B29C43/20
B29C70/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049158
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023050982
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AB03
4F204AC03
4F204AD11
4F204AG03
4F204AM28
4F204AR11
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4F205AA36
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4F205AD11
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4F205AR11
4F205AR12
4F205HA11
4F205HA24
4F205HA33
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB13
4F205HT04
(57)【要約】
【課題】本発明は、プライマー塗装されたCFRP物品の製造に好適に用い得る、CFRP物品の粉体インモールド塗装技法を提供することを主たる目的とする。
【解決手段】一態様に係る炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法は、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを真空脱気下で粉体塗料の層を介して非鏡面表面に押し付けながら熱硬化させることを含む。他の態様に係る塗装されたCFRP物品の製造方法は、上型20Uと下型20Lとからなり成形面28Uに非鏡面部29が設けられた成形型を閉じることにより形成される閉空間を真空脱気しながら、上型20Uと下型20Lを互いに近づけ合わせて、その中に置かれた炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層と共に加圧することを少なくとも含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法であって、
真空脱気により前記炭素繊維プリプレグと前記粉体塗料の層との間にある気体を脱気し、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層を介して成形型に押し付けながら熱硬化させることを含む、塗装されたCFRP物品の製造方法。
【請求項2】
前記真空脱気する時間が7秒以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
成形型の表面が鏡面表面である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグを真空脱気下で粉体塗料の層を介して押し付けながら熱硬化させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法であって、
上型と下型とからなり成形面を有する成形型を準備することと、
前記成形型を成形温度に保持することと、
前記成形面の少なくとも一部に熱硬化性の粉体塗料の層を形成することと、
前記成形型を閉じることにより形成される閉空間の中に熱硬化性の炭素繊維プリプレグを配置することと、
熱硬化性の粉体塗料の層と熱硬化性の炭素繊維プリプレグとの間にある気体を脱気すること、
前記閉空間を真空脱気しながら前記上型と前記下型を互いに近づけ合わせて、その中に置かれた前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層と共に加圧すること、
を含む、塗装されたCFRP物品の製造方法。
【請求項6】
加圧する前に7秒以上真空脱気する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
粉体塗料の層を形成する前記成形面が鏡面である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層に重ねて配置する、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記真空脱気が、成形型の上型と下型により、前記粉体塗料と前記炭素繊維プリプレグとが配置されている空間を閉空間として真空脱気し、その後上型のエッジ部側面と下型のエッジ部側面とを向かい合う位置とする、請求項1または6に記載の製造方法。
【請求項10】
上型のエッジ部側面と下型のエッジ部側面を向い合う位置になった後も真空脱気を継続する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
熱硬化後に膨れができないように真空脱気する、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項12】
前記真空脱気の真空度が-0.1Pa以下である、請求項2または6に記載の製造方法。
【請求項13】
前記押し付け始める時点または加圧始める時点は、成形圧がかかった時点である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項14】
前記炭素繊維プリプレグの面積が1500cm2以上である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項15】
成形面に対する前記炭素繊維プリプレグのチャージ率が80~90%である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項16】
前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層を介して鏡面表面に押し付ける型締め速度が、2mm/秒以下である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項17】
熱硬化性の粉体塗料が半硬化状態になった状態で、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層を介して鏡面表面に押し付ける、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項18】
鏡面表面に前記粉体塗料の層を形成後、200秒以内に押し付けを開始する、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項19】
粉体塗料の層の厚さを中央に向かって厚くするように配置する、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項20】
前記塗装が、インモールド塗装である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項21】
前記粉体塗料がプライマー塗料である、請求項1または5に記載の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の製造方法を用いてプライマー塗装されたCFRP物品を製造することと、
前記プライマー塗装されたCFRP物品に上塗り塗装することと、
を含む、多層塗装されたCFRP物品の製造方法。
【請求項23】
前記上塗り塗装が焼付塗装を含む、請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記焼付塗装では、塗布された塗料が100℃以上の温度で乾燥される、請求項22に記載の製造方法。
【請求項25】
前記上塗り塗装の前に、前記プライマー塗装されたCFRP物品のプライマー塗膜を研磨してその表面を平坦化する、請求項22に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、塗装されたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維入り不飽和ポリエステル樹脂シートから樹脂物品をプレス成形するときに、粉体塗料を用いたインモールド塗装によって成形と同時にプライマー塗装を行った後、プライマー塗装された樹脂物品に仕上げ塗装を施した例がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プライマー塗装されたCFRP物品の製造に好適に用い得る、CFRP物品の粉体インモールド塗装技法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法であって、真空脱気により前記炭素繊維プリプレグと前記粉体塗料の層との間にある気体を脱気し、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層を介して押し付けながら熱硬化させることを含む、製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の一態様によれば、塗装されたCFRP物品の製造方法であって、上型と下型とからなり成形面に鏡面部が設けられた成形型を準備することと、前記成形型を成形温度に保持することと、前記鏡面部の少なくとも一部に熱硬化性の粉体塗料の層を形成することと、前記成形型を閉じることにより形成される閉空間の中に熱硬化性の炭素繊維プリプレグを置くことと、熱硬化性の粉体塗料の層と熱硬化性の炭素繊維プリプレグとの間にある空気を脱気すること、前記閉空間を真空脱気しながら前記上型と前記下型を互いに近づけ合わせて、その中に置かれた前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層と共に加圧することと、を含む製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
プライマー塗装されたCFRP物品の製造に好適に用い得る、CFRP物品の粉体インモールド塗装技法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】
図5は、塗装されたCFRP物品の製造工程を説明するための断面図である。
【
図6】
図6は、塗装されたCFRP物品の製造工程を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、塗装されたCFRP物品の製造工程を説明するための断面図である。
【
図8】
図8は、塗装されたCFRP物品の製造工程を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、塗装されたCFRP物品の製造工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のいくつかの実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図面における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる場合がある。また、図面において同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0010】
1.プレス成形装置
実施形態に係る製造方法による、塗装されたCFRP物品の製造は、好ましくはプレス成形装置を用いて行うことができる。
図1は典型的なプレス成形装置の構成を示す模式図である。
図1を参照すると、プレス成形装置1は、プレス機10と、成形型20と、真空ポンプ30とを有している。
プレス機10は、メインフレーム11と、メインフレーム11の下部に固定されたボルスター12と、垂直方向に昇降可能なスライド13と、スライド13を昇降させる昇降機構14とからなる。
成形型20は、ボルスター12の上面に固定された下型20Lと、スライド13の下面に固定された上型20Uとからなる。
【0011】
図2に示すように、下型20Lは、垂直な外周面を有する凸部21を有し、更に、凸部21の外周に沿って配置され、外周面を凸部21と共有する環状凸部22を有している。凸部21には、その外周面を一周するシールリング23が設けられている。上型20Uは、下型20Lの凸部21とシールリング23を介して篏合可能な凹部24を有し、更に、凹部24の外周に沿って配置され、外周面を凹部24と共有する環状凹部25を有している。下型20Lの環状凸部22と上型20Uの環状凹部25は篏合可能である。
【0012】
スライド13を下降させて下型20Lの凸部21と上型20Uの凹部24を篏合させたとき、
図3に示すように、上型20Uと下型20Lの間に閉空間26が形成される。
閉空間26はシールリング23の作用によって気密となるので、上型20Uに設けられた孔を通して閉空間26に接続された真空ポンプ30を作動させることにより、真空脱気することができる。
【0013】
スライド13を更に下降させて、環状凸部22と環状凹部25を篏合させたとき、
図4に示すように、環状凸部22の内側壁面と環状凹部25の内側壁面との間で形成されるシアエッジ31を有する成形キャビティ27が形成される。
成形キャビティ27の内部に露出する下型20Lと上型20Uの各表面28L、28Uが成形面である。
【0014】
上型20Uと下型20Lのそれぞれには、例えば蒸気ヒーター、オイルヒーターまたは電熱ヒーターであってもよいヒーター(図示せず)が内蔵され、成形型20の温度を熱硬化性の炭素繊維プリプレグを硬化させるのに適した温度範囲(例えば120~180℃)内の任意の温度に保持することが可能とされる。
【0015】
2.塗装されたCFRP物品の製造方法
好適な実施形態に係る、塗装されたCFRP物品の製造方法は、次のステップを含む。
上型と下型とからなり成形面が設けられた成形型を準備する第一ステップ。
前記成形型を成形温度に保持する第二ステップ。
前記成形面の少なくとも一部に熱硬化性の粉体塗料の層を形成する第三ステップ。
前記成形型を閉じることにより形成される閉空間の中に熱硬化性の炭素繊維プリプレグを置く第四ステップ。
前記閉空間を真空脱気しながら、前記炭素繊維プリプレグと前記熱硬化性の粉体塗料の層との間にある気体を脱気する第五ステップ。
前記上型と前記下型を互いに近づけ合わせて、その中に置かれた前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層と共に加圧する第六ステップ。
【0016】
上記の好適な実施形態に係る方法を、
図1~
図4に示すプレス成形装置を用いる場合を例に説明すると次の通りである。
(1)第一ステップ
第一ステップで準備される成形型の一例を
図4に示す。成形型20は上型20Uと下型20Lとからなる。成形面は28U、28Lである。
成形面28は鏡面であってもよく、非鏡面であってもよい。
【0017】
成形面28に非鏡面部を設ける場合、非鏡面の算術平均粗さRaは好ましくは2.5μm以上、より好ましくは2.8μm以上である。
【0018】
成形面の算術平均粗さRaは、接触式粗さ測定機を用いて下記条件にて測定される値である。
算出規格:ISO-97規格、測定種別:粗さ測定、測定長さ:8.0mm、カットオフ波長:0.8mm、測定レンジ:±64.0μm、測定速度:0.6mm/s、カットオフ種別:ガウシアン、傾斜補正:最小二乗直線補正、移動速度および戻り速度:3.0mm/s。
【0019】
成形面に非鏡面部を設ける方法に限定はなく、金型製造において従来から用いられている艶消し仕上げまたはシボ加工の技法を適宜用いることができる。具体的な方法の例には、エッチング、ブラスト、粗研磨およびヘアライン加工が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
(2)第二ステップ
第二ステップでは、成形型20が成形温度に保持される。
第二ステップは、通常、第三ステップ以降のステップより前に開始され、少なくとも第六ステップにおいて熱硬化性の炭素繊維プリプレグの硬化が完了するまで継続される。言い換えれば、第三ステップ以降のステップが行われる前に、成形型20は成形温度まで加熱され、かつ、少なくとも第六ステップが終了するまでの間、成形型20は成形温度に保持される。
【0021】
成形温度は、熱硬化性のプリプレグを所望する時間内に硬化させることが可能な温度に設定される。成形温度が高い程、熱硬化性のプリプレグを十分に硬化させるのに必要な時間は短くなるため、連続成形する場合の成形サイクルは短縮される。ただし、脱型時に硬化物(CFRP物品)が変形しないためには、成形温度は、プリプレグが硬化した後におけるマトリックス樹脂のガラス転移点より低いことが好ましい。
成形温度は、通常120~180℃の範囲内で、上記事項を考慮して設定すればよい。
【0022】
(3)第三ステップ
第三ステップでは、
図5に示すように、成形型20の成形面28Uに、熱硬化性の粉体塗料の層2が形成される。
熱硬化性の粉体塗料の層2を形成するのは成形面28の片側だけでも両面でも良い。
好ましい熱硬化性の粉体塗料は、PIMC(粉体インモールド塗装)用の粉体塗料である。PIMC用の粉体塗料については、例えば、特開昭59-91157号公報、特開平1-158080号公報などを参照することができ、一般的にエポキシ樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などに増粘剤、反応性希釈剤、低収縮剤、脱泡剤、粒子状フィラー、着色剤、顔料などが含まれる。
密度としては1.3~2.0g/cm
3、粒径は長手方向に20~150μmの範囲となることが多い。
市販のPIMC用粉体塗料は、例えば、Tiger Coatings GmbH&Co.KG.から入手することができる。
【0023】
図5に示す例のように、上型の成形面28Uに粉体塗料の層2を形成するときは、静電粉体塗装法が好ましく用いられる。この方法は、均一塗布の観点からも好ましいので、他の例において、下型の成形面に熱硬化性の粉体塗料の層を形成する場合にも、好ましく用い得る。また上型及び下型の両成形面へ粉体塗料の層を形成する場合もある。
成形面に熱硬化性の粉体塗料の層を形成する方法は静電粉体塗装法に限定されるものではなく、他の例において、下型の成形面にこの層を形成するときには、篩を用いて手作業で粉体塗料を該成形面にふりかける方法も採用し得る。
粉体塗料の層の厚さは、中央に向かって厚くすることで、加圧の際に気体が外側に押し出されやすい。
粉体塗料を成形面に塗布した後、一定時間熱履歴を加え増粘させても良い。増粘により過度な流動を抑制することができる。時間としては30~600秒が好ましく、さらに120~180秒が好ましい。短すぎると増粘せず、長すぎると熱劣化により粉体塗料の層が割れ外観性を損なう。
【0024】
(4)第四ステップ
第四ステップでは、
図6、
図7に示すように、前記成形型20を閉じることにより形成される閉空間26の中に熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3を置く。
図6に示すように、熱硬化性の粉体塗料の層2と反対側の成形面に置くことができる。
より詳しく言えば、成形型20を開いた状態で下型20Lの成形面28L上に熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3を置き、その後で成形型20を閉じることにより閉空間26を形成する。
または、
図7に示すように炭素繊維プリプレグ3を熱硬化性の粉体塗料の層2に重ねておいても良い。
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3は、正味形状や略正味形状にプリフォームされていてもよい。
【0025】
成形面に対する前記炭素繊維プリプレグ3のチャージ率が80~90%であることが好ましい。
チャージ率とは成形面の面積に対する、前記炭素繊維プリプレグ3の面積の比率である。
前記チャージ率が80%以上であれば、材料流動が小さくなり、材料流動起因による粉体塗料の層が裂ける欠陥を抑制できる。
一般的に、プレス成形におけるチャージ率は30~50%である。これは、炭素繊維プリプレグ中にある気体を除去しやすくできるためである。チャージ率が大きいと、前記気体がCFRP物品中にボイドとして残りやすく、外観を悪化させることがある。
本発明では、炭素繊維プリプレグ中にある気体を真空脱気しており、インモールド塗装を行っているので、前記ボイドによる外観悪化をなくすことができる。
【0026】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)物品の製造に用いられる中間材料であり、炭素繊維からなる繊維補強材を熱硬化性樹脂マトリックスで含浸させたものである。
【0027】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3の例は、UDプリプレグ、織物プリプレグ、トウプリプレグおよびシートモールディングコンパウンド(SMC)を含む。
UDプリプレグの繊維補強材は、UDシートである。織物プリプレグの繊維補強材である織物の組織の例は平織、綾織および朱子織を含む。織物プリプレグの繊維補強材はノンクリンプ織物であってもよい。SMCの繊維補強材は、チョップド繊維束をばら撒くことにより形成されるランダムマットである。
【0028】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3に含まれる熱硬化性樹脂マトリックスは、熱硬化性樹脂と硬化剤を含む組成物であり、必要に応じて硬化剤の他にも様々な添加剤が配合され得る。かかる添加剤の例には、限定するものではないが、増粘剤、反応性希釈剤、低収縮剤、難燃剤、消泡剤、脱泡剤、離型剤、粒子状フィラー、着色剤およびシランカップリング剤が含まれる。
熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂[エポキシ(メタ)アクリレート樹脂とも呼ばれる]、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂およびフェノール樹脂が含まれるが、これらに限定されるものではない。2種以上の熱硬化性を混合して用いることも可能である。
【0029】
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3は、複数枚の炭素繊維プリプレグを含むプリプレグ集合体であってもよく、その場合、プリプレグ集合体は同種の炭素繊維プリプレグのみを含んでもよいし、2種以上の炭素プリプレグを含んでもよい。
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3は、同種または異種のプリプレグの積層体を含んでもよい。複数枚のUDプリプレグを積層するときは、要求に応じて、クロスプライまたはアングルプライを採用してもよい。
熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3がプリプレグの積層体を含むときは、閉空間26の中に置く前に、真空バギングによって脱気することが望ましい。
また炭素繊維プリプレグ3又はプリプレグの積層体を、オーブンなど温度管理可能な空間で一定時間保温してもよい。特に金型投入前の炭素繊維プリプレグ3又はプリプレグの積層体が低温であると樹脂フローが少なくなってしまうなど成形中の挙動が不安定になるため20~60℃に調整することが可能である。その他炭素繊維プリプレグ3又はプリプレグの積層体が揮発成分を含む場合などは熱履歴を加えることで予め揮発成分を除去することも可能である。
【0030】
(5)第五ステップ
第五ステップでは、前記閉空間を真空脱気しながら、前記炭素繊維プリプレグと前記熱硬化性の粉体塗料の層との間にある気体を脱気する。
炭素繊維プリプレグが熱硬化性の粉体塗料の層と重なった時に、炭素繊維プリプレグと熱硬化性の粉体塗料の層との間に気体が入る場合がある。また、熱硬化性の粉体塗料の層の中に気体が入ってしまう場合がある。このように気体がある状態で、炭素繊維プリプレグと熱硬化性の粉体塗料とを加圧して硬化させると、気体は圧縮された状態で塗装されたCFRP物品の中に残ってしまう。その後、成形型を開けて加圧状態でなくなると、塗装されたCFRP物品の中に残っていた圧縮されていた気体が膨張し、塗装されたCFRP物品に穴が開いたり、膨らんだりして、塗装されたCFRP物品外観を悪化させる。
炭素繊維プリプレグの面積が大きくなるほど、炭素繊維プリプレグと熱硬化性の粉体塗料の層との間に気体が入りやすくなるので、本発明の塗装されたCFRP物品の製造方法においては、炭素繊維プリプレグの面積が1500cm2以上のものに効果的である。炭素繊維プリプレグの面積は、好ましくは1600cm2以上、より好ましくは1800cm2以上である。
【0031】
真空脱気する方法は、
図3に示す通り、シールリング23により、上型20Uと下型2
0Lとで閉空間になった時点で真空脱気を開始する。
真空ポンプへ粉体塗料が入り込むことを防ぐため型から真空ポンプまでの間にフィルターなど設置しても良い。
【0032】
図4に示すように、上型20Uと下型20Lとが互いに近づいて下型20Lの環状凸部22と上型20Uの環状凹部25が篏合すると、シアエッジを有する成形キャビティ27が形成される。シアエッジで大きな圧力損失が発生するために、成形キャビティ27の脱気効率は低くなる。
ただし脱気効率が低くなる半面シアエッジは、成形中低粘度となる炭素繊維プリプレグ3又はプリプレグの積層体の樹脂、溶融した粉体塗料を成形面外へ過度な流出を抑制することが可能であり、成形品厚み安定化および表面品質の改善に効果がある。
【0033】
そこで、好ましくは、シアエッジが形成される前に閉空間26が十分に真空脱気されるように、上型20Uの下降速度を小さくしてもよいし、それに代えて、あるいはそれに加えて、シアエッジが形成される前に上型20Uの下降を一時的に停止させて閉空間26を真空脱気することができる。
シアエッジが形成されないタイプの成形型を用いる場合には、これらの配慮は不要である。
真空脱気したときの閉空間26の真空圧は好ましくは-0.1MPa以下である。
上型20Uの型締め速度は、真空脱気時間が長くできるので、2mm/秒以下が好ましく、1mm/秒以下がさらに好ましく、0.7mm/秒がさらに好ましい。
【0034】
真空脱気装置により、到達する真空度は異なるが、閉空間となった時点から、炭素繊維プリプレグと熱硬化性の粉体塗料とを加圧開始されるまでの真空時間は、7秒以上が好ましく、15秒以上がより好ましく、20秒以上がさらに好ましい。
真空脱気する前記時間は、装置の規定真空度に達してから、シェアエッジの状態になるまでの時間とするのが好ましい。
【0035】
(5)第六ステップ
第六ステップでは、
図8に示すように、熱硬化性の炭素繊維プリプレグが置かれた閉空間を真空脱気しながら上型と下型を互いに近づけ合わせて、炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層と共に加圧する。
図6の様に、上型20Uと下型20Lが離れている場合、圧力は0MPaであり、
図8の様に、上型20Uが粉体塗料の層2を介して炭素繊維プリプレグ3を押し付け始めると、圧力が突然立ち上がって、一瞬で成形圧まで上昇する。
加圧している間も、真空脱気することが好ましい。加熱、圧縮によって発生する気体や、炭素繊維プリプレグや粉体塗料の層から押し出された気体を取り除くことができるためである。
成形温度に保持された成形型内で加圧されることによって、熱硬化性の炭素繊維プリプレグが硬化する。加圧時間は、硬化が完了するのに十分な時間に設定される。加圧が継続される間、成形型の温度は成形温度に保持される。
【0036】
第六ステップにおける成形圧は、好ましくは3~10MPaの範囲内である。成形圧は、プレス機の押圧力を成形キャビティの垂直投影面積で除算することにより得られる値として定義される。
【0037】
第六ステップの終了後、
図9に示すように成形型20が開かれ、インモールド塗装されたCFRP物品4が取り出される。
インモールド塗装されたCFRP物品4は、熱硬化性の炭素繊維プリプレグ3が硬化してなるCFRP部3Cと、その表面に固着した塗膜2Cとからなる。塗膜2Cは、熱硬化性の粉体塗料の層2がゲル化を経て硬化することにより形成される。
CFRP物品4を取り出すときに成形型20の温度を変更する必要はない。通常、成形型20の温度は、次の成形サイクルが開始されるまで成形温度に保持される。
また取り出したCFRP物品4を徐々に常温へ戻すことで表面ひび割れなど抑制することもできる。例えば、予め40~70℃に温調されたオーブンへ取り出したCFRP物品4素早く入れることで成形温度から常温へ戻すまで段階などが考えられる。
【0038】
3.上塗り塗装
実施形態に係る製造方法で使用される熱硬化性の粉体塗料は、好ましくはプライマー塗料である。すなわち、実施形態に係る方法で製造される塗装されたCFRP物品は、好ましくは、プライマー塗装されたCFRP物品である。
プライマー塗装されたCFRP物品は、多層塗装されたCFRP物品の製造における中間製品であり、更に上塗り塗装することにより完成品となる。
プライマー塗装されたCFRP物品を実施形態に係る製造方法で製造する場合、通常は、上塗り塗装工程に進む前に、プライマー塗膜を研磨して表面を平坦化する。上塗り工程では、プライマー塗膜の上に着色塗膜を含む少なくともひとつの塗膜が形成される。
【0039】
上塗り工程で形成される塗膜は、好ましくは焼付塗膜であり、塗布した塗料を80℃以上、典型的には100℃以上の温度で乾燥させることにより形成される。
上塗り工程で形成される塗膜は、着色塗膜と、その上に形成されるクリヤ塗膜を含み得る。クリヤ塗膜は、トップコートとして形成され得る。
上塗り工程で形成される塗膜は、着色塗膜と、その下に形成される下塗り塗膜を含み得る。
上塗り工程で複数の塗膜を重ねて形成する場合、好ましくは、複数の塗料がウェットオンウェットで重ね塗りされた後、1工程で同時に焼付けられる。
【0040】
4.実験結果
本発明者等が行った実験の結果を以下に記す。
【0041】
(1)実験1-1で使用した材料は次の通りである。
離型剤:CFRP成形用に市販されている、フッ素化合物とワックスを含有する水ベースの外部離型剤(株式会社ネオス製 フリリース65)。
粉体プライマー塗料:Tiger Coatings GmbH&Co.KG.製 Tiger Drylac 261/10013 PIMC Epoxy Primer。
シートモールディングコンパウンド:熱硬化性で厚さ2.0mmのシートモールディングコンパウンド(三菱ケミカル株式会社製STR120)
【0042】
以下に記す手順で、厚さ0.84~6.00mmの偏肉厚で投影面積が1810mm
2、湾曲した表面を有し、該表面の一方がプライマー塗装されたCFRP板を成形した。
図10に示す構造を有する成形型40を油圧プレス機に装着してなるプレス成形装置を準備した。
成形型40はシールリング43を介して篏合可能な下型40Lと上型40Uを有しており、下型40Lにはその外周面を一周するシールリング43が設けられた。下型40Lには外周に沿って環状凸部42が設けられ、その環状凸部42と篏合し得る環状凹部45が上型40Uに設けられた。
【0043】
下型40Lと上型40Uを篏合させると閉空間が形成され、その内部を真空脱気できるように環状凹部45内に孔が設けられ、真空ポンプ50に接続された。
下型40Lの環状凸部42と上型40Uの環状凹部45を篏合させると、シアエッジを有する板状の成形キャビティが形成された。シアエッジは環状凸部42の内側壁面と環状凹部45の内側壁面との間で形成され、ギャップは0.05~0.1mmであった。成形キャビティは、それぞれ表面積1810mm2、湾曲した表面である底面と上面を有し、その高さは1mmから6mmの間で可変であった。
成形型の母材は炭素鋼S55Cで、成形面は硬質クロムメッキ処理された鏡面であった。
【0044】
成形型を加熱し、その温度が140±4℃の範囲内で安定化したことを確認した。次いで、下型40Lの環状凸部42の内側壁面の、成形時にシアエッジの形成に与る部分を耐熱テープでマスキング、型周辺に粉体防止措置を講じるとともに、下型40Lの成形面48Lと上型40Uの成形面48Uに離型剤を塗布した。
次いで、下型40Lの鏡面の成形面48L上に258gの粉体プライマー塗料を、篩を用いて手早く散布した。散布が終了したら直ちに、下型40Lの環状凸部42に貼った耐熱テープのマスキングを全て剥がした。
【0045】
粉体プライマー塗料が散布された下型40Lの成形面48L上にシートモールディングコンパウンド積層体を載置し、成形型40を閉じてプレス成形を行った。シートモールディングコンパウンド積層体は、成形面48Lのシアエッジから全周20mm離れるように裁断し、3枚を積層したものであり、厚みが6mm、表面積が1480cm2(チャージ率約82%)、質量が1540gの積層体を使用した。
プレス成形条件は、既定の成形圧力は8MPa、加圧時間600秒とした。
成形型を閉じることで形成される閉空間の真空脱気は、シアエッジが形成される前に開始した。型閉じ速度を0.3mm/秒としたところ、シアエッジが形成される前に閉空間内の真空圧は-0.1MPaに到達した。真空ポンプの動作は、成形圧力が8MPaに達するまで継続させた。
閉空間が形成されてから真空脱気を開始し、加圧を開始するまでの真空時間は28.7秒であった。
【0046】
成形したCFRP板の中央部から、縦横が150mm×70mmの試験片を切り出し、そのプライマー塗装面側に以下の手順で上塗り塗装を施した。
(i)試験片のプライマー塗装面全体を#600サンドペーパーで手研磨した後、イソプロピルアルコールを染み込ませた布でプライマー塗膜表面を擦って研磨カスを除去した。
(ii)(i)に続いて、試験片のプライマー塗装面にポリウレタンブラック塗料とポリウレタンクリアー塗料を、スプレーガンを用いてこの順に塗布し、100℃のオーブン内で1時間乾燥させた。
上記手順で形成された上塗り塗膜の表面を観察した結果、目視で確認できる膨れはひとつも見つからなかった。
表1には、目視で確認できる膨れはひとつも見つからないものは○、1つ以上膨れが見つかったものは×とした。
【0047】
(2)実験1-2~8
表1に記載の条件に変更した以外は、実験1と同様にして実験を行った。
【0048】
【0049】
(3)実験2―1~4で使用した材料は次の通りである。
離型剤:CFRP成形用に市販されている、フッ素化合物とワックスを含有する水ベースの外部離型剤(株式会社ネオス製 フリリース65)。
粉体プライマー塗料:Tiger Coatings GmbH&Co.KG.製 Tiger Drylac 261/10013 PIMC Epoxy Primer。
シートモールディングコンパウンド:熱硬化性で厚さ2.0mmのシートモールディングコンパウンド(三菱ケミカル株式会社製STR120)
織物プリプレグ:熱硬化性で厚さ0.22mmの綾織プリプレグ(三菱ケミカル株式会社製TR3524 362GMP)、熱硬化性で厚さ0.44mmの綾織プリプレグ(三菱ケミカル株式会社製TRK501 362GMP)
【0050】
(4)実験2-1
以下に記す手順で、厚さ2.4mmの肉厚で投影面積が900cm
2、1辺が30cmの正方形の表面を有し、該表面の一方がプライマー塗装されたCFRP板を成形した。
図10に示す構造を有する成形型40を油圧プレス機に装着してなるプレス成形装置を準備した。
成形型40はシールリング43を介して篏合可能な下型40Lと上型40Uを有しており、下型40Lにはその外周面を一周するシールリング43が設けられた。下型40Lには外周に沿って環状凸部42が設けられ、その環状凸部42と篏合し得る環状凹部45が上型40Uに設けられた。
【0051】
下型40Lと上型40Uを篏合させると閉空間が形成され、その内部を真空脱気できるように環状凹部45内に孔が設けられ、真空ポンプ50に接続された。
下型40Lの環状凸部42と上型40Uの環状凹部45を篏合させると、シアエッジを有する板状の成形キャビティが形成された。シアエッジは環状凸部42の内側壁面と環状凹部45の内側壁面との間で形成され、ギャップは0.05~0.1mmであった。成形キャビティは、それぞれ表面積900cm2、湾曲した表面である底面と上面を有し、その高さは1mmから3mmの間で可変であった。
成形型の母材は炭素鋼S45Cで、成形面は硬質クロムメッキ処理された鏡面であった。
【0052】
成形型を加熱し、その温度が140±6℃の範囲内で安定化したことを確認した。次いで、上型40Uの環状凸部45の外側壁面の、成形時にシアエッジの形成に与る部分を耐熱テープでマスキング、型周辺に粉体防止措置を講じるとともに、下型40Lの成形面48Lと上型40Uの成形面48Uに離型剤を塗布した。
次いで、上型40Uの鏡面の成形面48U上に50gの粉体プライマー塗料を、静電粉体塗装装置を用いて粉体プライマー塗料が成形面全体均一になるように塗布。塗布が終了したら直ちに、粉体防止措置を除去し、上型40Uの環状凸部45に貼った耐熱テープのマスキングを全て剥がした。
塗布した粉体塗料のプレヒート時間として120秒を設けた。
【0053】
下型40Lの成形面48L上にシートモールディングコンパウンド積層体を載置し、成形型40を閉じてプレス成形を行った。シートモールディングコンパウンド積層体は、成形面48Lのシアエッジから全周45mm離れるように裁断し、2枚を積層したものであり、厚みが2mm、表面積が440cm2(チャージ率約49%)、質量が270gの積層体を使用した。
プレス成形条件は、既定の成形圧力は20MPa、加圧時間900秒とした。
成形型を閉じることで形成される閉空間の真空脱気は、シアエッジが形成される前に開始した。型閉じ速度を1.0mm/秒としたところ、シアエッジが形成される前に閉空間内の真空圧は-0.1MPaに到達した。真空ポンプの動作は、成形圧力が20MPaに達するまで継続させた。
閉空間が形成されてから真空脱気を開始し、加圧を開始するまでの真空時間は25秒以上であった。
上記手順での成形品プライマー塗膜の表面を観察した結果、目視で確認できる膨れはひとつも見つからなかった。
表2には、目視で確認できる膨れはひとつも見つからないものは○、1つ以上膨れが見つかったものは×とした。
【0054】
(2)実験2-2~4
表2に記載の条件に変更した以外は、実験2-1と同様にして実験を行った。
【0055】
【0056】
5.実施形態のまとめ
本発明の好ましい実施形態には以下が含まれるが、限定するものではない。
(実施形態1)炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法であって、真空脱気により前記炭素繊維プリプレグと前記粉体塗料の層との間にある気体を脱気し、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層を介して成形型に押し付けながら熱硬化させることを含む、塗装されたCFRP物品の製造方法。
(実施形態2)前記真空脱気する時間が7秒以上である、実施形態1に記載の製造方法。
(実施形態3)成形型の表面が鏡面表面である、実施形態1または2に記載の製造方法。
(実施形態4)熱硬化性の炭素繊維プリプレグを真空脱気下で粉体塗料の層を介して押し付けながら熱硬化させる、実施形態1~3のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態5)炭素繊維プリプレグの表面に粉体塗料の層が塗装されたCFRP物品の製造方法であって、上型と下型とからなり成形面を有する成形型を準備することと、前記成形型を成形温度に保持することと、前記成形面の少なくとも一部に熱硬化性の粉体塗料の層を形成することと、前記成形型を閉じることにより形成される閉空間の中に熱硬化性の炭素繊維プリプレグを配置することと、熱硬化性の粉体塗料の層と熱硬化性の炭素繊維プリプレグとの間にある気体を脱気すること、前記閉空間を真空脱気しながら前記上型と前記下型を互いに近づけ合わせて、その中に置かれた前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層と共に加圧すること、を含む、塗装されたCFRP物品の製造方法。
(実施形態6)加圧する前に7秒以上真空脱気する、実施形態5に記載の製造方法。
(実施形態7)粉体塗料の層を形成する前記成形面が鏡面である、実施形態5または6に記載の製造方法。
(実施形態8)熱硬化性の炭素繊維プリプレグを粉体塗料の層に重ねて配置する、実施形態1~7のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態9)前記真空脱気が、成形型の上型と下型により、前記粉体塗料と前記炭素繊維プリプレグとが配置されている空間を閉空間として真空脱気し、その後上型のエッジ部側面と下型のエッジ部側面とを向かい合う位置とする、実施形態1~8のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態10)上型のエッジ部側面と下型のエッジ部側面を向い合う位置になった後も真空脱気を継続する、実施形態9に記載の製造方法。
(実施形態11)熱硬化後に膨れができないように真空脱気する、実施形態1~10のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態12)前記真空脱気の真空度が-0.1Pa以下である、実施形態2または6に記載の製造方法。
(実施形態13)前記押し付け始める時点または加圧始める時点は、成形圧がかかった時点である、実施形態1~12のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態14)前記炭素繊維プリプレグの面積が1500cm2以上である、実施形態1~13のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態15)成形面に対する前記炭素繊維プリプレグのチャージ率が80~90%である、実施形態1~14のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態16)前記炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層を介して鏡面表面に押し付ける型締め速度が、2mm/秒以下である、実施形態1~15のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態17)熱硬化性の粉体塗料が半硬化状態になった状態で、熱硬化性の炭素繊維プリプレグを前記粉体塗料の層を介して鏡面表面に押し付ける、実施形態1~16のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態18)鏡面表面に前記粉体塗料の層を形成後、200秒以内に押し付けを開始する、実施形態1~17のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態19)粉体塗料の層の厚さを中央に向かって厚くするように配置する、実施形態1~18のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態20)前記塗装が、インモールド塗装である、実施形態1~19のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態21)前記粉体塗料がプライマー塗料である、実施形態1~20のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態22)実施形態21に記載の製造方法を用いてプライマー塗装されたCFRP物品を製造することと、前記プライマー塗装されたCFRP物品に上塗り塗装することと、を含む、多層塗装されたCFRP物品の製造方法。
(実施形態23)前記上塗り塗装が焼付塗装を含む、実施形態22に記載の製造方法。
(実施形態24)前記焼付塗装では、塗布された塗料が100℃以上の温度で乾燥される、実施形態22に記載の製造方法。
(実施形態25)前記上塗り塗装の前に、前記プライマー塗装されたCFRP物品のプライマー塗膜を研磨してその表面を平坦化する、実施形態22~24のいずれかに記載の製造方法。
【0057】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
インモールド塗装法を用いてプライマー塗装を行うことは、上塗り塗装されたCFRP物品を効率よく製造するうえで有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 プレス成形装置
2 粉体塗料の層
3 炭素繊維プリプレグ
10 プレス機
11 メインフレーム
12 ボルスター
13 スライド
20 成形型
20L 下型
20U 上型
21 凸部
22 環状凸部
23 シールリング
24 凹部
25 環状凹部
26 閉空間
27 成形キャビティ
28L、28U 成形面
29 非鏡面部
30 真空ポンプ
31 シェアエッジ
40 成形型
40L 下型
40U 上型
42 環状凸部
43 シールリング
45 環状凹部
48L、48U 成形面
50 真空ポンプ