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特開2024-144335樹脂組成物、成形体、シート、フィルム、ボトル、チューブ、容器、多層構造体、及び樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144335
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、シート、フィルム、ボトル、チューブ、容器、多層構造体、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L23/10
C08K5/09
B32B27/28 102
B32B27/32
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051184
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023051682
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】山本 信行
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA02A
4F100AK07A
4F100AK69A
4F100AL01A
4F100AT00
4F100EH17
4F100GB15
4F100GB16
4F100GB17
4F100GB23
4F100JA06A
4F100JJ03
4F100YY00A
4J002BB11X
4J002BB22W
4J002DE226
4J002DG046
4J002DH046
4J002DK006
4J002EF016
4J002EF066
4J002FD206
4J002GF00
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】エチレン-ビニルアルコール共重合体とポリプロピレン樹脂を含有し、熱安定性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を含有する樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と前記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の質量比[(A)/(B)]が、10/90~99/1である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物全体に対する前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の含有量が、10~99質量%である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物全体に対する前記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の含有量が、1~90質量%である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物全体に対する前記アルカリ金属化合物(C)の金属換算含有量が、質量基準で1~10000ppmである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、シート。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、フィルム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、ボトル。
【請求項10】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を含む、チューブ。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、容器。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む層を有する、多層構造体。
【請求項13】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を混合する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及び炭素14を含むポリプロピレン樹脂を含有する樹脂組成物に関する。また、前記樹脂組成物を含む成形体、シート、フィルム、ボトル、チューブ、容器、前記樹脂組成物を含む層を有する多層構造体、前記樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と称する)は、優れたガスバリア性と透明性を有することから、食品包装材料として主に用いられている。上記食品包装材料として用いられるシート、フィルム等は、上記EVOH単独で作製することも可能であるが、物性等を改良するために、他の熱可塑性樹脂を配合したり、他の機能を付与するために、ポリオレフィン樹脂等からなる層を積層した多層構造体にしたりして用いられている。
【0003】
例えば、EVOHからなるフィルム等の柔軟性を高めるために、EVOH樹脂組成物に、物性の異なる2種類のポリプロピレンをそれぞれ特定の割合で含有させることが提案されている(下記の特許文献1を参照)。
また、EVOHからなるフィルム等のガスバリア性を高めるために、ポリプロピレン中にEVOHを特定形状の層として分散含有させることが提案されている(下記の特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-34771号公報
【特許文献2】特開2016-150949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような、改質のためにポリプロピレンを含有するEVOH樹脂組成物は、EVOHのみからなる樹脂組成物に比べて熱安定性に劣る傾向がみられるため、さらなる改善が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、熱安定性に優れる、ポリプロピレンを含有するEVOHの樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、ポリプロピレンに代えて、炭素14を含むポリプロピレン樹脂を用い、更にアルカリ金属化合物を含有させることにより、前記課題が解決することを見いだした。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] EVOH(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を含有する樹脂組成物。
[2] 前記EVOH(A)と前記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の質量比[(A)/(B)]が、10/90~99/1である、[1]記載の樹脂組成物。
[3] 前記樹脂組成物全体に対する前記EVOH(A)の含有量が、10~99質量%である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記樹脂組成物全体に対する前記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の含有量が、1~90質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記樹脂組成物全体に対する前記アルカリ金属化合物(C)の金属換算含有量が、質量基準で1~10000ppmである、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、成形体。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、シート。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、フィルム。
[9] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、ボトル。
[10] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、チューブ。
[11] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、容器。
[12] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む層を有する、多層構造体。
[13] EVOH(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を混合する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、熱安定性に優れている。そのため、本発明の樹脂組成物は、成形体や多層構造体の原料として好適に用いることができる。
なお、本発明の樹脂組成物が、熱安定性に優れているのは、炭素14を含むポリプロピレン樹脂の方が、炭素14を含まない石油由来のポリプロピレン樹脂に比べて、一次の同位体効果によって結合エネルギーが強くなるため、分解が遅くなって熱安定性が高まることと、熱安定化作用を有するアルカリ金属化合物(C)との相乗効果によるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0011】
なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
更に、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味するものである。
本明細書において段階的に記載されている数値範囲については、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値を、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。
【0012】
また、本明細書において「フィルム」とは、「テープ」や「シート」をも含めた意味である。
本明細書において「主成分」とは、その対象物の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、対象物中の50質量%以上であり、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0013】
本発明の実施形態の一例にかかる樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と称する)は、EVOH(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)を含有する。
以下、各成分について説明する。
【0014】
<EVOH(A)>
上記EVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステルモノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0015】
エチレンとビニルエステルモノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができ、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0016】
このようにして製造されるEVOH(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0017】
上記ビニルエステルモノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。上記酢酸ビニル以外の他のビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0018】
上記EVOH(A)におけるエチレン含有量は、ビニルエステルモノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、20~60モル%である。好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0019】
また、EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH(A)のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0020】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。かかるMFRは、EVOHの重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステルモノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0021】
また、EVOH(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOHの10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、更に含まれていてもよい。
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18であるモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数1~18であるN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18であるN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18であるアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH、すなわち、側鎖に1級水酸基を有するEVOHは、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましい。
そして、側鎖に1級水酸基を有するEVOHである場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、通常0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、特に好ましくは1~10モル%である。
【0023】
また、本実施形態で用いるEVOH(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0024】
更に、本実施形態で使用されるEVOH(A)は、2種以上のEVOH(A)、例えば、エチレン含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等の混合物であってもよい。
【0025】
本樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量は、樹脂組成物全体に対して、通常1質量%以上であり、好ましくは10~99質量%、より好ましくは30~95質量%、更に好ましくは50~90質量%である。かかる値が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
なお、上記EVOH(A)の含有量の基準となる「樹脂組成物全体」における「樹脂組成物」とは、EVOH樹脂(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、アルカリ金属化合物(C)、必要に応じて配合される各種の添加剤等を含有する、最終製品としてのEVOH樹脂組成物をいう。以下の説明においても同様である。
【0026】
<炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)>
本樹脂組成物に用いられる炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)とは、再生可能なバイオマス資源を原料に、化学的又は生物学的に合成することで得られるポリプロピレン樹脂を意味する。炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、これを焼却処分した場合でも、バイオマスのもつカーボンニュートラル性から、大気中の二酸化炭素濃度を上昇させないという特徴がある。
【0027】
上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、植物原料から得られるバイオプロパノールから誘導されるバイオプロピレンを用いることが好ましい。すなわち、上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、植物由来ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0028】
なお、植物(バイオマス資源)由来ポリプロピレン樹脂と石油由来のポリプロピレン樹脂は、分子量や機械的性質のような物性に差を生じない。そこで、これらを区別するためには、一般的にバイオベース度が用いられている。上記バイオベース度とは、石油由来のポリプロピレン樹脂の炭素には、14C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていないことから、この14Cの濃度を加速器質量分析により測定し、植物由来バイオポリプロピレン樹脂の含有割合の指標にするものである。従って、植物由来のポリプロピレン樹脂を用いたフィルムであれば、そのフィルムのバイオベース度を測定すると、植物由来ポリプロピレン樹脂の含有量に応じたバイオベース度となる。すなわち、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、放射性炭素(14C)を含むことを意味している。
【0029】
上記バイオベース度は、例えば、本樹脂組成物を水/メタノールの混合溶媒中で加熱撹拌してEVOH(A)を溶解させ、残ったポリプロピレン樹脂の炭素14(14C)含有量を以下の方法で測定することにより求めることができる。測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトを、タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出し、ASTM D6866に準拠してバイオベース度を求める。
また、植物(バイオマス資源)由来のポリプロピレン樹脂と石油由来のポリプロピレン樹脂とを区別するために、前述のバイオベース度が用いられており、測定方法も前述のとおりである。
【0030】
炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)に含まれる炭素14の含有量は特に限定されないが、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の全炭素に対する炭素14の比は、通常1.0×10-14以上であり、1.0×10-13以上であることが好ましい。上限値は通常1.2×10-12である。
【0031】
本樹脂組成物は、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)を含有することから、従来の石油由来のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂組成物に比べ熱安定性に優れる。この理由としては、炭素14を含むポリプロピレン樹脂は、一次の同位体効果により、結合エネルギーが強くなるため、分解が遅くなり、熱安定性が高まるためと推測される。
【0032】
本樹脂組成物に用いられる炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)のバイオベース度は、通常1~99%であり、好ましくは5~95%、特に好ましくは10~90%である。上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)のバイオベース度を前記範囲とすることにより、より熱安定性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0033】
上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)における「ポリプロピレン」の種類は、特に限定されず、ホモポリプロピレンの他、プロピレンと少量のコモノマーとの共重合体であってもよい。共重合体の形態は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。例えば、プロピレンと質量分率50%未満の他のα-オレフィンモノマー、又は質量分率3%以下の官能基を持つ非オレフィンモノマーからなるものを用いることができる。
【0034】
上記他のα-オレフィンとしては、エチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0035】
また、上記非オレフィンモノマーとしては、例えば、スチレンモノマー、ジエンモノマー、環状モノマー、酸素原子含有モノマー等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0036】
上記スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレン等が挙げられる。
【0037】
上記ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン等が挙げられる。
【0038】
上記環状モノマーとしては、例えば、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、シクロペンテン等が挙げられる。
【0039】
上記酸素原子含有モノマーとしては、例えば、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等が挙げられる。
【0040】
上記他のα-オレフィン及び非オレフィンモノマーは、再生可能なバイオマス資源を原料としたものであってもよく、石油を原料としたものであってもよい。再生可能なバイオマス資源を原料としたものを用いる場合は、最終製品のバイオベース度をより一層高めることができる。また、石油を原料としたものを用いる場合は、多種多様なものが入手可能であるため、これらを用いて製造することにより、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の物性等を容易に調整することができる。
【0041】
上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、上述のとおり、プロピレンの単独重合、又はプロピレンとコモノマーとの共重合により得られるものであり、上記重合又は共重合は、メタロセン触媒、チーグラー・ナッター触媒を用い、常法に従い行うことができる。なかでもメタロセン触媒を用いることが好ましい。
【0042】
上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)は、単独でもしくは2種以上併せて用いてもよいが、なかでも、バイオプロピレンに由来するホモポリプロピレン、あるいはバイオプロピレンに由来するエチレン-プロピレンブロック共重合体、同じくエチレン-プロピレンランダム共重合体、インパクトコポリマーを用いることが、成形性や取り扱い性、熱安定性の点で好適である。
【0043】
上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2160g)は、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは0.5~90/10分、特に好ましくは2~80g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなって溶融押出しが難しくなる傾向がある。
【0044】
本実施形態において好適に使用される炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の市販品としては、ライオンデルバセル(Lyondellbasell)社製のHP640J等が挙げられる。
【0045】
本樹脂組成物における上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物全体に対して、通常0.5質量%以上、好ましくは1~90質量%、より好ましくは5~70質量%、特に好ましくは10~50質量%である。炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の含有量を前記範囲とすることにより、より熱安定性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0046】
本樹脂組成物における、EVOH(A)と上記炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の質量比[(A)/(B)]は、通常10/90~99/1であり、30/70~95/5が好ましく、50/50~90/10がより好ましい。EVOH(A)と炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の質量比が上記範囲内であると、より熱安定性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0047】
また、本樹脂組成物において、樹脂組成物全体に占める、EVOH(A)と炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)の合計含有量の割合は、特に限定されないが、通常70質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0048】
<アルカリ金属化合物(C)>
本樹脂組成物に用いられるアルカリ金属化合物(C)のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのうち、好ましくはナトリウム及びカリウムであり、特に好ましくはナトリウムである。
【0049】
上記のアルカリ金属化合物(C)としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物、単体のアルカリ金属等が挙げられる。これらは水溶性であることが好ましい。なかでも、分散性の点からアルカリ金属塩が好ましい。
また、本発明に用いるアルカリ金属化合物(C)は、経済性と分散性の点から、無機層状化合物や複塩を除くことが好ましい。
【0050】
上記アルカリ金属化合物(C)は、例えばアルカリ金属塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
【0051】
上記アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の無機塩;酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩等の炭素数2~11のモノカルボン酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩等の炭素数2~11のジカルボン酸塩;ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12-ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩等の炭素数12以上のモノカルボン酸塩、EVOH樹脂の重合末端カルボキシル基とのカルボン酸塩等のカルボン酸塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。アルカリ金属化合物(C)の分子量としては、通常20~10000、好ましくは20~1000、特に好ましくは20~500である。
これらのなかでも、好ましくはカルボン酸塩であり、特に好ましくは炭素数2~11のモノカルボン酸塩であり、更に好ましくは酢酸塩である。
【0052】
上記アルカリ金属化合物(C)の含有量は、EVOH樹脂組成物全体に対し、金属換算した質量基準で通常1~10000ppm、好ましくは10~5000ppm、より好ましくは50~2500ppm、更に好ましくは100~1500ppmである。多すぎる場合は生産性が損なわれる傾向があり、少なすぎる場合は熱安定性が低下する傾向がある。
【0053】
なお、上記アルカリ金属化合物(C)を2種以上併せて用いた時の含有量は、全アルカリ金属化合物(C)の金属換算量を合計した値である。
【0054】
上記アルカリ金属化合物(C)の含有量は、例えば、本樹脂組成物を、加熱灰化したものを塩酸等にて酸処理して得られる溶液に、純水を加えて定容したものを検液とし、原子吸光光度計にて測定することができる。
【0055】
<その他の成分>
本樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じて、EVOH(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)以外の樹脂(例えば、石油由来のポリプロピレン樹脂、他の種類の樹脂)や、アルカリ金属化合物(C)以外の任意の添加剤等(以下、これらを「その他の成分」と称す)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0056】
上記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤、帯電防止剤を挙げることができる。
【0057】
本樹脂組成物が上記「その他の成分」を含む場合、その合計含有量は、本樹脂組成物に対して、通常30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0058】
[樹脂組成物の製造方法]
本樹脂組成物は、前記必須成分であるEVOH(A)、炭素14を含むポリプロピレン樹脂(B)、及びアルカリ金属化合物(C)、並びに必要に応じて前記その他の成分を混合することにより製造することができる。前記混合方法としては、例えば、ドライブレンド法、単軸押出機もしくは二軸押出機を用いてコンパウンドを得る溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法が挙げられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
【0059】
[樹脂組成物]
このようにして得られる本樹脂組成物は、従来の、EVOHと石油由来のポリプロピレンとを組み合わせて得られる樹脂組成物に比べて、高温加熱下で分解しにくく、熱安定性に優れたものとなる。
【0060】
本樹脂組成物のバイオベース度は、例えば、本樹脂組成物の炭素14(14C)含有量を以下の方法で測定することにより求めることができる。測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトを、タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出し、ASTM D6866に準拠してバイオベース度を求める。
【0061】
本樹脂組成物に含まれる炭素14の含有量は特に限定されないが、樹脂組成物の全炭素に対する炭素14の比は、通常1.0×10-16以上であり、1.0×10-14以上であることが好ましい。上限値は通常1.2×10-12である。
【0062】
本樹脂組成物のバイオベース度は、通常0.01~99.99%であり、好ましくは0.1~99.9%、より好ましくは1~99%、さらに好ましくは1~90%、特に好ましくは10~90%、2~70%、4~50%である。樹脂組成物のバイオベース度を前記範囲とすることにより、より熱安定性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0063】
本樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは0.5~90g/10分、特に好ましくは2~80g/10分である。
【0064】
本樹脂組成物の含水率は、通常0.01~0.5質量%であり、好ましくは0.02~0.35質量%、特に好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0065】
なお、本樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
樹脂組成物の乾燥前質量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の質量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0066】
本樹脂組成物の減少温度差は、通常10℃以上であり、好ましくは11℃以上、より好ましくは12℃以上、更に好ましくは13℃以上である。
かかる減少温度差は、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、温度を10℃/minで上昇させていった時の各質量減少率を測定し、その後、樹脂組成物の10%質量減少時の温度から5%質量減少時の温度を引いた値(減少温度差)を求めることで算出できる。かかる値が高いほど、樹脂組成物の分解が遅いことを意味しており、樹脂組成物が熱安定性に優れることを意味する。
【0067】
本樹脂組成物は、ペレットや粉末状といった、さまざまな形態の樹脂組成物として調製され、各種の成形体や多層構造体用の材料として提供される。そして、前述のとおり、本樹脂組成物が熱安定性に優れたものであることから、本樹脂組成物を用いた成形体、あるいは本樹脂組成物を用いた層を有する多層構造体は、優れた品質のものとなる。特に、本実施形態においては、本樹脂組成物を溶融成形用の材料として提供した場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。
【0068】
[成形体]
本発明の実施形態の一例にかかる成形体(以下、「本成形体」と称する)は、本樹脂組成物を成形してなるものである。
【0069】
本成形体の形状としては、例えば、フィルム、シート、テープ、カップ、トレイ、チューブ、ボトル、容器、パイプ、フィラメント、異型断面押出物、各種不定形成形物等が挙げられる。
【0070】
また、本樹脂組成物の成形方法には特に制限はなく、一般的な樹脂組成物に適用可能な成形方法であればいずれも適用することができる。成形方法としては、例えば、押出成形、ブロー成形、射出成形、熱成形等を挙げることができる。
【0071】
[多層構造体]
本発明の実施形態の一例にかかる多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、前記本樹脂組成物を含む層を少なくとも一層有するものである。
本多層構造体は、本樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する。)と積層することで、更に強度を付与したり、他の機能を付与したりすることができる。
【0072】
前記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン樹脂(環状オレフィン構造を主鎖及び側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂等の変性オレフィン樹脂を含む広義のポリオレフィン樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
【0073】
これらのうち、経済性と生産性の点でポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂及びこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂である。
【0074】
本多層構造体の層構成は、樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層設けることが可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0075】
前記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン重合体を挙げることができる。上記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。そして、これらから選ばれた1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0076】
本多層構造体において、樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0077】
前記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0078】
本樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法が好ましい。
【0079】
本多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0080】
なお、寸法安定性を付与することを目的として、延伸処理後に熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態に保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0081】
また、場合によっては、上記多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0082】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層及び接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0083】
更に、多層構造体における樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0084】
前記により得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋、及びカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料や容器として有用である。
【実施例0085】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特にことわりのない限り、以下に「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
実施例に先立って、以下の成分を準備した。
【0086】
[EVOH]
・EVOH(A1):エチレン単位含有量29モル%、MFR(210℃、荷重2160g)3.8g/10分、ケン化度99.9モル%
[ポリプロピレン樹脂]
・炭素14を含むポリプロピレン(B1):炭素14を含むポリプロピレン(ライオンデルバセル社製、HP640J)、MFR(230℃、荷重2160g)3.2g/10分、バイオベース度40%
・石油由来ポリプロピレン(B'1):ポリプロピレン(日本ポリプロピレン社製、FY6)、MFR(230℃、荷重2160g)2.4g/10分
【0087】
<実施例1>
EVOH(A1)90部、炭素14を含むポリプロピレン(B1)10部と、所定量のアルカリ金属化合物(C)である酢酸ナトリウムとをドライブレンドで一括混合した後、質量式フィーダーを用いて、8kg/時間の速度で2軸混練機にフィードを行い、その後、ドラム式ペレタイザーでストランドカッティングをしてペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、混練条件は、以下の通りである。
[混練条件]
・2軸押出機:直径20mm、L/D=48 (東芝機械社製)
・押出機設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/H=170/200/210/210/210/210/210
・スクリュー回転数:250rpm
・引取速度:12m/min
【0088】
<実施例2、3、比較例1~3>
各成分の種類と配合量を、後記の表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2、3、比較例1~3の樹脂組成物を調製した。
【0089】
得られた実施例1~3、比較例1~3の樹脂組成物を用いて、下記の熱安定性評価を行った。その結果を後記の表1に併せて示す。
【0090】
〔熱安定性評価〕
[減少温度差]
得られたペレット状の樹脂組成物5mgを用い、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、温度を10℃/minで上昇させていった時の各質量減少率を測定した。その後、樹脂組成物の10%質量減少時の温度から5%質量減少時の温度を引いた値(減少温度差)を求めた。かかる値が高いほど、樹脂組成物の分解が遅いことを意味しており、樹脂組成物が熱安定性に優れることを意味する。
[熱安定性向上率]
各実施例に対応する比較例(例えば、実施例1に対応する比較例は、比較例1である)の減少温度差の値を100とした際の、熱安定性向上率を下記の式から求めた
熱安定性向上率(%)=(実施例の減少温度差/実施例に対応する比較例の減少温度差の値×100)-100
(熱安定性向上率(%)の小数点以下は四捨五入)
【0091】
【表1】
【0092】
表1の結果から、炭素14を含むポリプロピレン(B1)とアルカリ金属化合物(C)である酢酸ナトリウムを用いた実施例1の樹脂組成物は、石油由来のポリプロピレン(B'1)のみを用いた比較例2よりも、熱安定性が大幅に向上していることがわかる。この理由としては、炭素14を含むポリプロピレンの方が一次の同位体効果により結合エネルギーが強くなるため分解が遅く、またアルカリ金属化合物との相乗効果により、熱安定性が顕著に高まるものと考えられる。
また、実施例1、2と比較例1から、EVOH(A1)と炭素14を含むポリプロピレン(B1)を含む組成物において、アルカリ金属化合物を添加することで熱安定性が大きく向上することがわかる。
そして、上記実施例1~3及び比較例1~3から、本発明の熱安定性に優れているという効果は、各成分の配合比率が変化しても同様に得られることがわかる。
実施例1~3の樹脂組成物を含む成形体、シート、フィルム、ボトル、チューブ、容器、及び実施例1~3の樹脂組成物を含む層を有する多層構造体も熱安定性に優れるものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本樹脂組成物は、石油由来のポリプロピレンを用いた樹脂組成物よりも熱安定性を高くすることができる。そのため、本樹脂組成物からなる成形体や、本樹脂組成物を含む層を有する多層構造体は、各種の包装容器の材料として有用である。