(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144359
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シランコーティング組成物及び医療用容器
(51)【国際特許分類】
C09D 183/12 20060101AFI20241003BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20241003BHJP
A61J 1/05 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C09D183/12
C09D171/02
A61J1/05 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052347
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023055110
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智子
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 祐子
【テーマコード(参考)】
4C047
4J038
【Fターム(参考)】
4C047AA02
4C047AA05
4C047BB01
4C047BB35
4C047CC01
4C047CC04
4J038DF021
4J038DL151
4J038JA17
4J038JC32
4J038KA06
4J038NA05
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タンパク質の吸着性が低く、耐膜性の高い膜を形成し得るシランコーティング組成物及び該組成物でコーティングした医療用容器を提供すること。
【解決手段】下記の式(1)で示されるポリエチレングリコール骨格を有するシランと、下記の式(2)で示されるダイポーダルシランを含む、シランコーティング組成物、及び該組成物でコーティングされたことを特徴とする医療用容器である。
[ここで、R
1は、水素、-OH、-O-CH
3から選択され、Xは、加水分解性基であり、R
2は有機基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示されるポリエチレングリコール骨格を有するシランと、下記の式(2)で示されるダイポーダルシランを含む、シランコーティング組成物。
【化1】
【化2】
[ここで、R
1は、水素、-OH、-O-CH
3から選択され、Xは、加水分解性基であり、R
2は有機基である。]
【請求項2】
全シラン濃度に対する前記ダイポーダルシラン濃度が0体積%より大きく100体積%未満である、請求項1に記載のシランコーティング組成物。
【請求項3】
下記の式(1)で示されるポリエチレングリコール骨格を有するシランと、下記の式(2)で示されるダイポーダルシランを含むシランコーティング組成物でコーティングされたことを特徴とする医療用容器。
【化3】
【化4】
[ここで、R
1は、水素、-OH、-O-CH
3から選択され、Xは、加水分解性基であり、R
2は有機基である。]
【請求項4】
全シラン濃度に対する前記ダイポーダルシラン濃度が0体積%より大きく100体積%未満である、請求項3に記載の医療用容器。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のシランコーティング組成物が、内壁にコーティングされた医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランコーティング組成物及び該組成物をコーティングした医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品包装のための好ましい材料として、内容物を視認するための透明性、酸素及び水蒸気バリア性及び化学的及び熱的耐久性の観点から、ガラスが使用されてきた。
特に注射剤用の密閉容器であるバイアルやあらかじめ薬剤が充填されたプレフィルドシリンジでは、コストや上記の観点から、主にガラスが使用されている。
【0003】
近年、医薬品市場において、抗体医薬品や核酸医薬品等のバイオ医薬品が飛躍的に成長している。バイオ医薬品は高い治療効果と副作用の軽減が期待される一方で、非常に高価であり、その薬効成分であるタンパク質や核酸の濃度が低い場合がある。それらの薬効成分が医療用容器に吸着することにより、薬効低下のリスクが高いという懸念点が指摘されている。
また、医薬品包装等の固体表面にタンパク質が吸着すると、凝集体が形成され、振とうなどによりその凝集体が固体表面から剥離することで、バイオ医薬品中にタンパク質凝集体が生成することも知られている。バイオ医薬品中のタンパク質凝集体は免疫原性を持つことが指摘されており、薬効の著しい低下を引き起こすだけでなく、アナフィラキシーショックのような重篤な副作用を引き起こす可能性がある。
【0004】
医療用容器への医薬品の吸着を抑制するために、特許文献1では、シランカップリング剤及び/又はその部分加水分解物と非晶性フッ素系樹脂で処理した医療用ガラス容器が報告されている。しかし、一般的にフッ素系樹脂は、環境残留性や蓄積性、長期毒性などの点から自然環境や人体への影響が懸念され、国際的にその製造や使用の規制が強化されている。
【0005】
また特許文献2では、ガラス等の無機材料や有機材料へのタンパク質の吸着を抑制するために、ホスホリルコリン基を有する表面修飾用ポリマーが報告されている。しかしホスホリルコリン基を有するポリマーは表面修飾後、例えば高圧蒸気滅菌等で処理した場合に、その機能が損なわれる可能性があることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2013/179514号
【特許文献2】特開2015-63577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献1に開示されるガラス容器では、環境残留性等の問題があり、特許文献2に開示される表面修飾用ポリマーでは、耐熱性に問題がある。
このような状況下、本発明では、タンパク質の吸着性が低く、耐膜性の高い膜を形成し得るシランコーティング組成物及び該組成物をコーティングした医療用容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造を有する2種類のシランを組み合わせて使用することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下を要旨とする。
[1]下記の式(1)で示されるポリエチレングリコール骨格を有するシランと、下記の式(2)で示されるダイポーダルシランを含むシランコーティング組成物。
【0009】
【0010】
【0011】
[ここで、R1は、水素、-OH、-O-CH3から選択され、Xは、加水分解性基であり、R2は有機基である。]
【0012】
[2]全シラン濃度に対する前記ダイポーダルシランの濃度が0体積%より大きく100体積%未満である、上記[1]に記載のシランコーティング組成物。
[3]下記の式(1)で示されるポリエチレングリコール骨格を有するシランと、下記の式(2)で示されるダイポーダルシランを含むシランコーティング組成物でコーティングされたことを特徴とする医療用容器。
【0013】
【0014】
【0015】
[ここで、R1は、水素、-OH、-O-CH3から選択され、Xは、加水分解性基であり、R2は有機基である。]
【0016】
[4]全シラン濃度に対する前記ダイポーダルシランの濃度が0体積%より大きく100体積%未満である、上記[3]に記載の医療用容器。
[5]上記[1]又は[2]に記載のシランコーティング組成物が、内壁にコーティングされた医療用容器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タンパク質の吸着性が低く、耐膜性の高い膜を形成し得るシランコーティング組成物及び該組成物をコーティングした医療用容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の態様に限定されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後の数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0019】
[シランコーティング組成物]
本発明のシランコーティング組成物(以下、単に「本組成物」と記載することがある。)は、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と記載することがある。)骨格を有するシランとダイポーダルシランを含むことを特徴とする。
【0020】
<PEG骨格を有するシラン>
本発明のシランコーティング組成物を構成するPEG骨格を有するシランは、下記(1)に記載する構造を有する。
【0021】
【0022】
ここで、R1は、水素、-OH、-O-CH3から選択され、Xは、加水分解性基である。タンパク質吸着性の観点から、R1が-OH、-O-CH3であることが特に好ましい。該加水分解性基としては、加水分解し得る基であれば、特に限定されないが、アルコキシ基、アクリロキシ基、ハロゲン、アミンからなる群から選択されることが好ましい。これらのうち、副生成物のアルコールが非腐食性、揮発性であり、扱いやすいという観点から、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基など、炭素数が1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
nは、PEG骨格の繰り返し数であり、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、例えば、1より大きく180000以下の範囲であり、4~5000の範囲であることがより好ましく、4~1000の範囲であることがさらに好ましく、とりわけ、4~100の範囲が特に好ましい。
nが1より大きいことで、タンパク吸着量が十分となる。
【0023】
本発明のPEG骨格を有するシラン化合物は特に限定されない。Xがアルコキシ基である、アルコキシシランの例としては、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)6-9]プロピルトリメトキシシラン、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)21-24]プロピルトリメトキシシラン、メトキシトリエチレンオキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルプロポキシポリエチレンオキシド,メチルエーテル、[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン(8-12EO)等が挙げられる。特に好ましくは、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシランである。
【0024】
また、Xがハロゲン、アミンであるアルコキシシランの例としては、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)6-9]プロピルトリクロロシラン、メトキシ(トリエチレンオキシ)プロピルトリクロロシラン等のクロロシランや、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)6-9]プロピルトリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシランが挙げられる。
【0025】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、本発明のシランコーティング組成物には、その他のシラン化合物を含んでもよい。その他のシラン化合物としては、メトキシ(トリエチレンオキシ)ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデカン酸2-[メトキシ(トリエチレンオキシ)]-(11-トリエトキシシリル)、[メトキシトリ(エチレンオキシ)プロピル]ヘキサメチルトリシロキサニルエチルトリエトキシシラン、メトキシ(トリエチレンオキシ)ウンデシルトリクロロシラン等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0026】
<ダイポーダルシラン>
ダイポーダルシランとは、加水分解性基と結合するケイ素原子を、1分子内に2個以上有するシラン化合物であり、下記式(2)で表される。
【0027】
【0028】
ここで、Xは、加水分解性基であり、アルコキシ基、アクリロキシ基、ハロゲン、アミンからなる群から選択される。これらのうち、副生成物のアルコールが非腐食性、揮発性であり、扱いやすいという観点から、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基など、炭素数が1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
R2は特に限定されず、有機基であれば特に制限はない。タンパク質低吸着性の観点から、炭素および酸素、水素原子からなる有機基が好ましく、炭素数は0以上100以下が好ましい。とりわけ、炭素数が70以下であることが特に好ましい。
【0029】
本発明のコーティング組成物における、ダイポーダル骨格を有するシラン化合物は特に限定されないが、アルコキシ基を有するダイポーダルシランの例として、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)アセチレン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’-ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル、ビス[4-(トリエトキシシリル)ブチル]アミン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エチレン、1,3-ビス(トリエトキシシリルエチル)テトラメチルジシロキサン、ビス[m-(2-トリエトキシシリルエチル)トリル]ポリスルフィド、ビス(トリエトキシシリルエチル)ビニルシラン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,8-ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス-[3-(トリエトキシシリルプロポキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ]ポリエチレンオキシド、2,2-ビス(3-トリエトキシシリルプロポキシメチル)ブタノール、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)カーボネート、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジエチレングリコールジカーボネート、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド、1,7-ビス(4-トリエトキシシリルプロポキシ-3-メトキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン、N,N’-ビス-[(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノカルボニル]ポリエチレンオキシド(7-10EO)、N,N’-ビス-[(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノカルボニル]ポリエチレンオキシド(10-15EO)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリエチレンオキシド(25-30EO)、1,3-[ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリエチレン]-2-メチレンプロパン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド、N,N’-ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]チオウレア、N,N’-ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、3,5-ビス(トリエトキシシリル)-1,1,4,4-テトラエトキシ-1,4―ジシラシクロヘキサン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)デカン、1,10-ビス(トリメトキシシリル)デカン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)-2,5-ジメチルヘキサン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,4-ビス(トリメトキシシリルメチル)ベンゼン、1,1-ビス(トリメトキシシリルメチル)エチレン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,11-ビス(トリメトキシシリル)-4-オキサ-8-アザウンデカン-6-オール、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、1,3-ビス(トリメトキシシリルプロピル)ベンゼン、N,N′-ビス[(3-トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)フマレート、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)チオウレア、N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ウレア、ヘキサエトキシジシラン、ヘキサメトキシジシラン、N-(ヒドロキシエチル)-N、N-ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、オクタデシルビス(トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、オクタエトキシ-1,3,5-トリシラペンタン、(スチリルメチル)ビス(トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、1,3,5-トリメチルペンタメトキシトリシロキサン、ヘキサエトキシジシラン、ヘキサメトキシジシラン等が挙げられる。これらの中でも、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンが好ましい。
【0030】
ハロゲンを有するダイポーダルシランの例として、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、1,2―ビス(トリクロロシリル)デカン、1,10-ビス(トリクロロシリル)デカン、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン、ビス(トリクロロシリルエチル)ベンゼン、1,6-ビス(トリクロロシリルエチル)ドデカフルオロヘキサン、1,8-ビス(トリクロロシリルエチル)ヘキサデカフルオロオクタン、ビス(トリクロロシリルエチル)フェニルスルホニルクロリド、1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン、ビス(トリクロロシリル)メタン、1,1-ビス(トリクロロシリルメチル)エチレン、1,2-ビス(トリクロロシリル)オクタデカン、1,8-ビス(トリクロロシリル)オクタン、1,3-ビス(トリクロロシリル)プロパン、1,3-ビス(3-トリクロロシリルプロポキシ)-2-デシルオキシプロパン、3,3-ビス(3-トリクロロシリルプロポキシメチル)-5-オキサ-トリデカン、ビス(トリクロロシリルウンデシル)エーテル、ヘキサクロロジシラン、ヘキサクロロジシロキサン等が挙げられる。
【0031】
本発明のコーティング組成物は、物性や性能が損なわれない範囲において、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、1,2-ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(メチルジエトキシシリル)エチレン、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、1,2-ビス(メチルジメトキシシリル)エタン、ビス(メチルジメトキシシリル)メタン、ビス(メチルジメトキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、ビス[(3-メチルジメトキシシリル)プロピル]ポリプロピレンオキシド、1,3-ジメチルテトラメトキシジシロキサン、1,3-ジビニルテトラエトキシジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサン、1,1,3,3-テトラエトキシ-1,3-ジメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジエトキシジシロキサン、1-(トリエトキシシリル)-2-(ジエトキシメチルシリル)エタン、トリス[(3-ジエトキシメチルシリル)プロピル]アミン、メチルトリメトキシシランのオリゴマー加水分解物、トリス(トリエトキシシリル)アミン、1,1,2-トリス(トリエトキシシリル)エタン、トリス(トリエトキシシリルエチル)メチルシラン、トリス(トリエトキシシリルメチル)アミン、トリス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,1,3,3,5,5-ヘキサエトキシ-1,3,5-トリシラシクロヘキサン、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランの部分加水分解オリゴマーや、1、4-ビス(メチルジクロロシリル)ブタン、1,2-ビス(メチルジフルオロシリル)エタン、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-2,4,6-トリシラヘプタン、トリス(トリクロロシリルエチル)メチルシラン、トリス(トリクロロシリル)シラン等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明のシランコーティング組成物中の、全シラン濃度(PEG骨格を有するシランとダイポーダルシランの総量)は、特に制限されないが0.02~7体積%であることが好ましく、0.05~5体積%であることがより好ましい。
【0033】
本発明の組成物における全シラン濃度に対するPEG骨格シランの濃度としては、0体積%より大きく100体積%未満であることが好ましい。タンパク質の低吸着性に対する効果を奏するという点からは、50体積%より大きく100体積%未満であることが好ましく、70体積%より大きく100体積%未満であることがより好ましい。
【0034】
本発明の組成物におけるダイポーダルシランは含まれていれば効果を示すことから、全シラン濃度に対するダイポーダルシランの濃度としては、0体積%より大きく100体積%未満であることが好ましい。より効果を奏するという点からは、0体積%より大きく70体積%以下であることがさらに好ましく、0体積%より大きく50体積%以下であることが特に好ましく、0体積%より大きく30体積%以下であることが最も好ましい。
【0035】
本発明のシランコーティング組成物は、必要に応じて1種類またはそれ以上の溶媒を含んでいてもよい。溶媒は特に制限はないが、アルコールが好ましい。溶媒の例として、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられるが、エタノールが好ましい。コーティング組成物中の溶媒の割合は、特に制限されないが、60~99体積%が好ましく、70~95体積%であることがより好ましい。
【0036】
本発明のシランコーティング組成物は、必要に応じて水を含んでいてもよい。水は精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水等のいずれを用いてもよい。シランコーティング組成物中の水の割合は、特に制限はないが0.1~30体積%が好ましく、1~20体積%がより好ましい。
【0037】
シランコーティング組成物のpHは特に制限されない。シランコーティングを処理する際のpHとシランコーティング組成物を製造、保管する時のpHは同じでも異なっていてもよい。約4~10のpHが好ましく、そしてpHは1種類またはそれ以上の酸の添加により調整することができる。酸の例としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、リン酸等が挙げられる。水酸化ナトリウムは、処理溶液のpHを上げるために必要に応じて用いられる。
【0038】
本発明のコーティング組成物は、医療用容器の内壁等の医薬品及び生体分子又は生体分子を含む組成物と接触する面にコーティングして使用されることが好ましい。内壁にコーティングされることで、タンパク質、核酸等の薬効成分が医療用容器に吸着することが抑制されるため、薬効が低下することがない。なお、コーティング組成物は、医薬品と接触する面にコーティングされていればよく、医薬品との非接触面にも同時にコーティングされていてもよい。
【0039】
<医療用容器>
医療用容器としては、通常、医療機関や研究機関で使用されるものであれば、特に制限はなく、例えばガラス製のもの、プラスチック製のもの、金属製のものなど、その材料にも制限はないが、内容物を視認するための透明性、酸素及び水蒸気バリア性、化学的、熱的耐久性、コスト等の点から、ガラスが好ましい。汎用性のあるガラス製医療用容器に用いられるガラスとしては、例えば、石英ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、クリスタルガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。これらのうち、化学的耐久性が高く、急激な温度変化に強い、硼珪酸ガラスが最も好ましい。
【0040】
プラスチック製の医療用容器として、その材質に特に制限はないが、例えばポリメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、PEやPP、COPなどのポリオレフィン樹脂、PETやPEFなどのポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は共重合体であってもよい。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上をブレンドして用いてもよい。タンパク質吸着性が低いという観点からCOPなどのポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。また透明性という観点からはアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0041】
金属製の医療用容器として、その材質に制限はないが、例えば、金、銀、銅、鋼、鉄、アルミニウム、チタン、コバルト、クロム、白金、ニッケル、タンタル及びステンレスなど、及びこれらの合金などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。生体適合性を有するという観点からステンレス合金やチタン、コバルトクロム合金を用いることが好ましい。
【0042】
また、本発明の医療用容器は特に限定されず、検査用の検体や医薬品及び再生医療製品の製造や輸送、保管、分析、検査、研究等に使用される容器でもよい。より具体的には、例えば、採血管、広口容器、狭口容器、液剤用容器、点眼剤用容器、点滴薬用容器、ジャー容器、スプレー容器、アンプル、バイアル、シリンジ、フラスコ、ビーカー、バット、カラフェ、シャーレ、ボトル、バッグなどの医療用容器やピペット、パスツール、ディッシュなどの医療用理化学製品や、その他、カートリッジ、マイクロ流路チップやバイオチップ等のチップなどが挙げられる。
【0043】
本発明の医療用容器は医薬品及び生体分子又は生体分子を含む組成物と接触することを特徴とする。ここで、医薬品の種類に関しては、特に制限されないが、例えば、低分子医薬品、抗体医薬品、核酸医薬品、中分子医薬品、タンパク質製剤やワクチン等の生物学的製剤や細胞等を用いる細胞治療製品や再生医療製品等が挙げられる。医薬品の製剤形態は特に制限はなく、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル状製剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等のいずれであってもよい。また、処方薬、一般医薬品のいずれであってもよい。
前記生体分子は、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、ホルモン、糖、アミノ酸、細胞、及び組織からなる群から選択される少なくとも1種を含む。前記生体分子は、生体由来のもののほか、人工的に調製されたものも含む。
【0044】
上記生体分子のうち、核酸の具体例としては、DNA、RNA、miRNA、siRNA、mRNA(以下、RNA類と言うことがある。)、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、等が挙げられる。
前記生体分子の人工的に調製されたものとは、例えば、抗体医薬品、抗体薬物複合体、核酸医薬品、部分修飾された核酸医薬品、これらのうち1種以上を担持する薬物送達キャリアからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0045】
生体分子を含む組成物の具体例としては、前記の生体分子を含む血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、組織間液(細胞間液)、間質液、体腔液(腹水、胸水、心嚢液などの漿膜腔液、脳脊髄液、関節液(滑液)、眼房水(房水))、消化液(唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液など)、汗、涙、鼻水、尿、精液、膣液、羊水、乳汁などが挙げられる。
【0046】
<医療用容器への処理方法>
本発明のコーティング組成物を用いた医療用容器の製造方法については、特に制限はないが、例えば、前処理工程(1)、溶媒と水を混合する工程(2)、溶媒と水の混合溶液に酸を添加して酸性にする工程(3)、酸性の混合溶液を攪拌しながらシランを添加して処理液を作製する工程(4)、処理液を容器にコーティングする工程(5)、コーティングした容器を乾燥または焼成する工程(6)等が挙げられる。
【0047】
前記、前処理工程(1)において、本発明のガラス製医療用容器は、本発明のコーティング組成物でコーティング処理する前に、必要に応じて洗浄や下地処理や加熱処理がされていてもよい。例えば、界面活性剤を用いた水系洗浄、炭化水素系洗浄剤を用いる非水系洗浄、超音波洗浄などの湿式洗浄やUVオゾン洗浄、光励起洗浄、フッ化水素ベーパ洗浄、ブラスト洗浄などの乾式洗浄などが挙げられる。また下地処理の例としては、アルカリ処理、酸処理などが挙げられる。
【0048】
前記、溶媒と水を混合する工程(2)において、溶媒中の水の割合は特に制限はないが、0.5~10体積%が好ましく、1.0~8.0体積%がより好ましい。
【0049】
溶媒と水の混合溶液に酸を添加して酸性にする工程(3)において、pHは特に制限されない。シランコーティングを処理する際のpHとシランコーティング組成物を製造、保管する時のpHは同じでも異なっていてもよい。約4~10のpHが好ましく、そしてpHは1種類またはそれ以上の酸の添加により調整することができる。酸の例としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、クエン酸、リン酸等が挙げられる。水酸化ナトリウムは、処理溶液のpHを上げるために必要に応じて用いられる。
【0050】
酸性の混合溶液を攪拌しながらシランを添加して処理液を作製する工程(4)において、シランコーティング組成物中の好ましい全シランの割合は、特に制限されないが0.02~7体積%であることが好ましく、0.05~5体積%であることがより好ましい。
攪拌方法は特に制限されない。攪拌時間は特に制限はないが、3分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましい。
【0051】
処理液を容器にコーティングする工程(5)において、容器にシランコーティング組成物をコーティングする方法は、特に制限はないが、具体例として、ディップコーティング、スプレーコーティング、スロットコーティング、スピンコーティング、カーテンコーティング、ローラーコーティング、蒸着、ハケ塗り、容器内に処理液を充填し回転塗布する方法、インクジェット印刷等の公知の方法が挙げられる。処理溶液の処理時間は特に制限はないが、3分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。
また処理液を容器にコーティングする前にろ過工程を含んでいてもよく、処理液を容器にコーティングした後、遠心処理等で余分な処理液を除去する工程やリンス等の洗浄工程を含んでもよい。
【0052】
処理した容器を乾燥または焼成する工程(6)において、特に制限はないが、自然乾燥であってもよく、ドライヤーや乾燥装置を用いてもよい。乾燥温度は室温でもよく、40℃以上に加熱してもよい。
【実施例0053】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下における各種物性等の評価方法は次の通りである。
【0054】
(評価方法)
[水滴接触角の評価]
接触角計FTA1000 Falcon(First Ten Angstroms社製)を用いて、大気中(25℃)で2μlの水滴をサンプルガラスに滴下して、水滴の静的接触角(以下、単に「接触角」と記載することがある。)を測定した。水は超純水を使用した。
測定は、オートクレーブ滅菌(以下、「AC滅菌」と記載する。)前の接触角とAC滅菌後の接触角をそれぞれ測定し、以下のような計算式で、接触角の変化率で評価した。当該変化率が小さいほど、コーティング膜がAC滅菌によってダメージを受けていないことを示し、耐膜性が高いと評価することができる。なお、AC滅菌の条件は、121℃、1時間であった。
接触角の変化率(%)=(AC滅菌前の接触角-AC滅菌後の接触角)/AC滅菌前の接触角
【0055】
[ガラス板のタンパク質(免疫グロブリン)吸着性評価]
超純水を入れた容器にガラス板を設置し、超音波にて5分間洗浄した。洗浄したガラス板を8mL平底滅菌チューブに3枚入れた。ガラス板を入れた平底滅菌チューブに1.0g/L Humanポリクロナール抗体(IgG、LEE社製)溶液を5.67mLずつ添加し、冷蔵庫にて2時間静置しIgGを吸着させた。IgG吸着後のガラス板を取り出し、20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を入れた容器内にて3回洗浄した。ガラス板洗浄用の緩衝液は、ガラス板の種類が変わるごとに変更した。5.26mLの5%ドデシル硫酸ナトリウム(以下「SDS」と記載する。)溶液を入れた25mLチューブに緩衝液で洗浄したガラス板を入れた。その後、室温にて15分超音波をかけ、ガラス板に吸着したIgGを脱離させた。続いてボルテックスミキサーで3秒間攪拌した。攪拌後の5%SDS溶液を100μL採取し、μBCA(Thermo Fisher Scientific社製)にて吸着IgGの定量を行った。定量した値に、IgGを回収したSDS溶液量を積算し、ガラス板の表面積にて除算して、単位面積あたりのIgG吸着量(ng/mm2)を算出した。
【0056】
[ガラスバイアル瓶のタンパク質(免疫グロブリン)吸着性評価]
処理されたガラスバイアルに0.2g/L Humanポリクロナール抗体(IgG、Medix Biochemica社製)溶液を2mLずつ添加し、冷蔵庫にて静置し、IgGを吸着させた。24時間後、ガラスバイアルから溶液を100μL採取し、μBCA(Thermo Fisher Scientific社製)にて吸着IgGの定量を行った。吸着前の値は、ガラスバイアル分注前のIgG溶液を採取し、μBCAで測定した値を採用した。吸着前のIgG量と吸着後のIgG量の差を、ガラスバイアルの表面積にて除算して、単位面積あたりのIgG吸着量(ng/mm2)を算出した。値はn=4の平均値を使用した。
【0057】
(ガラスの洗浄)
ガラス板は、Φ12mm、厚さ0.25~0.35mmの丸型のホウケイ酸ガラス(松浪硝子工業社製)を用いた。UVオゾン中で5分間洗浄した。
ガラスバイアル瓶はバイアレックスVRー30(ホウケイ酸ガラス、日本電子硝子製)を用いた。超純水を用いて室温で15分超音波洗浄した。
【0058】
[実施例1]
エタノールと超純水を混合した95%エタノール溶液に、酢酸を滴下してpH4.5~5.5の溶液を調整した。この溶液80mlに、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.44ml、1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(Gelest社製「SIB1817」(製品名))を0.16ml加えて、5分攪拌してコーティング溶液を得た。
室温で攪拌している状態のコーティング溶液に、前記ガラス板を10分間浸漬した。その後、コーティング溶液からガラス板を引き上げ、超純水でリンス後に、110℃で10分乾燥した。その後、25℃で10分間、超純水を用いて超音波洗浄して、評価用ガラス板サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.12ml、1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(Gelest社製「SIB1817」(製品名))を0.48ml加えた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、評価用ガラス板サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
エタノールと超純水を混合した95%エタノール溶液に、酢酸を滴下してpH4.5~5.5の溶液を調整した。この溶液80mlに、3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.44ml、1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(Gelest社製「SIB1817」(製品名))を0.16ml加えて、5分攪拌してコーティング溶液を得た。
ガラスバイアル瓶に、上記コーティング溶液を5mL入れ、10分間放置した。その後、ガラスバイアル瓶からコーティング溶液を除去し、エタノールでリンス後に、110℃で10分乾燥した。その後、室温で15分間、超純水を用いて超音波洗浄して、評価用ガラスバイアル瓶サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表2に示す。
【0061】
[実施例4]
3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.12ml、1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(Gelest社製「SIB1817」(製品名))を0.48ml加えた以外は、実施例3に記載した方法と同様にして、評価用ガラスバイアル瓶サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表2に示す。
【0062】
[比較例1]
前記ガラス板を、超純水を用いて室温で10分間超音波洗浄し、評価用ガラス板サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.60ml加えた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、評価用ガラス板サンプルを作製した。
【0064】
[比較例3]
1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(Gelest社製「SIB1817」(製品名))を1.6ml加えた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、評価用ガラス板サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0065】
[比較例4]
前記ガラスバイアル瓶を、超純水を用いて室温で15分間超音波洗浄し、評価用ガラスバイアル瓶サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表2に示す。
【0066】
[比較例5]
3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン(Gelest社製「SIM6492.72」(製品名))を1.6ml加えた以外は、実施例3に記載した方法と同様にして、評価用ガラスバイアル瓶サンプルを作製した。上記方法にて評価した結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
表1に示す結果から、本発明のコーティング組成物を用いた場合には、コーティングをしなかった比較例1との比較で、タンパク質の吸着を極めて良好に抑制できることがわかった。
また、比較例2の結果から、PEG骨格を有するシラン(3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン)を単独で用いた場合でも、ある程度、タンパク質の吸着を抑制し得ることがわかった。一方、比較例3の結果から、ダイポーダルシラン(1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン)を単独で用いた場合は、比較例1との比較、すなわちコーティング組成物を使用しない場合よりもタンパク質吸着性は悪化した。
これに対し、PEG骨格を有するシランとダイポーダルシランを併用した実施例のコーティング組成物は、極めて高いレベルでタンパク質の吸着を抑制することができ、AC滅菌後もその性能を損なわない耐膜性の高い膜を形成できる。
このような効果を示す作用機序については、明らかではないが、ダイポーダルシランの添加により、コーティング膜中のPEG密度が増大することによりタンパク質の吸着を抑制する効果が高まったと考えられる。また、ダイポーダルシランの添加により、ガラスとの結合力が高くなり、かつコーティング膜中の架橋密度が増加したため、耐膜性が向上すると推測される。
【0070】
表2に示す結果から、本発明のコーティング組成物で処理したガラスバイアル瓶は、コーティングをしなかった比較例4との比較で、タンパク質の吸着を極めて良好に抑制できることがわかった。
また、PEG骨格を有するシラン(3-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)9-12]プロピルトリメトキシシラン)を単独で用いた比較例5との比較で、本発明のコーティング組成物で処理したガラスバイアル瓶は良好にタンパク質の吸着を抑制し得ることがわかった。
本発明のシランコーティング組成物は、ガラス基板に対して、タンパク質の吸着を高いレベルで抑制する効果を有する。したがって、医療用容器のコーティングに用いることによって、タンパク質や核酸などからなる医薬品の成分を医療用容器の内壁に残存させることがないため、貴重な薬剤を効率的に使用することができる点で、本発明は工業的に価値ある発明である。