(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144370
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】結晶性ゲル及びその製造方法、高分子体、並びに物品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241003BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20241003BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J9/00 A CEZ
B29C67/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053626
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023052928
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業「量子散乱による超高均一ゲル形成の学理解明とその展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】リ シャン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ジンウン
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA76E
4F074AB01
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4J002AA00W
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4J002GB01
4J002GD05
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】結晶化したゲルでありながら、高秩序の構造を有する結晶性ゲルの提供。
【解決手段】官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、前記架橋ポリマーの一部が結晶化しており、小角X線散乱を検出した二次元画像において、延伸方向を赤道方向とするとき、散乱ベクトルの大きさが0.001~0.5Å
-1の範囲に、ビーム中心から子午線方向に伸びるストリークが存在するとともに、赤道上に前記子午線に対して対称な位置にピークを有する1対以上の散乱像が存在しており、結晶ドメインが周期的に存在する、結晶性ゲル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、
前記架橋ポリマーの一部が結晶化しており、結晶ドメインが周期的に存在する、結晶性ゲル。
【請求項2】
前記架橋ポリマーが、下記P1の1種以上が架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記P2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、及び下記P2の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマーからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の結晶性ゲル。
P1:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有する多分岐ポリマー。
P2:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有する直鎖状ポリマー。
Q1:官能基を3個以上有する分岐モノマー。
Q2:官能基を2個有する2官能モノマー。
【請求項3】
前記結晶性ゲルにおける前記架橋ポリマーの濃度は、架橋した前記多官能ポリマーのうち隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合う濃度以上である、請求項1に記載の結晶性ゲル。
【請求項4】
前記多官能ポリマーが、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有し、かつ1分岐鎖当たりの重量平均分子量が500~100,000である多分岐ポリマー、及び3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有し、かつ重量平均分子量が500~100,000である直鎖状ポリマーの、一方又は両方である、請求項1に記載の結晶性ゲル。
【請求項5】
前記溶媒が、前記多官能ポリマーに対する良溶媒である、請求項1に記載の結晶性ゲル。
【請求項6】
官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、延伸により結晶化した結晶性ゲルであって、
小角X線散乱を検出した二次元画像において、延伸方向を赤道方向とするとき、散乱ベクトルの大きさが0.001~0.5Å-1の範囲に、ビーム中心から子午線方向に伸びるストリークが存在するとともに、赤道上に、前記子午線に対して対称な位置にピークを有する1対以上の散乱像が存在する、結晶性ゲル。
【請求項7】
官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、延伸により結晶化した結晶性ゲルであって、
広角X線散乱を検出した二次元画像において、散乱ベクトルの大きさが0.5~3.0Å-1の範囲に、散乱スポットが20個以上存在する、結晶性ゲル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の結晶性ゲルから、前記溶媒を低減又は除去した高分子体。
【請求項9】
結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルを製造する方法であって、官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、前記架橋ポリマーの濃度が、架橋した前記多官能ポリマーのうち隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合う濃度以上である未延伸ゲルを、前記架橋ポリマーの一部が結晶化するように延伸する、結晶性ゲルの製造方法。
【請求項10】
前記架橋ポリマーが、下記P1の1種以上が架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記P2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、及び下記P2の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマーからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項9に記載の結晶性ゲルの製造方法。
P1:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有する多分岐ポリマー。
P2:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有する直鎖状ポリマー。
Q1:官能基を3個以上有する分岐モノマー。
Q2:官能基を2個有する2官能モノマー。
【請求項11】
前記多官能ポリマーが、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有し、かつ1分岐鎖当たりの重量平均分子量が500~100,000である多分岐ポリマー、及び3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有し、かつ重量平均分子量が500~100,000である直鎖状ポリマーの、一方又は両方である、請求項9に記載の結晶性ゲルの製造方法。
【請求項12】
前記溶媒が、前記多官能ポリマーに対する良溶媒である、請求項9に記載の結晶性ゲルの製造方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の結晶性ゲルを含む、物品。
【請求項14】
請求項8に記載の高分子体を含む、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性ゲル、結晶性ゲルの製造方法、結晶性ゲルから得られる高分子体、結晶性ゲル又は高分子体を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ細孔を持つ秩序のある3次元ネットワーク構造は、濾過、センシング、薬物放出、エレクトロニクス、オプティックスなどの広範な用途で重要である。
ナノメートル解像度の精密な構造体を形成する方法としては、ナノリソグラフィー、金属有機構造体などが挙げられるが、出来上がる構造体全体のサイズは数μm3に限られており、現在の技術でさえ製造できるスケールがいまだ制限されているので、手で扱える大きさ(例えば1cm3程度)の3次元構造体を構築するのは極めて困難である。
【0003】
ゲルは、溶媒中でポリマーを架橋して3次元網目状の高分子を形成し、その内部に水等の溶媒を保持したものであり、ナノ細孔を持つ材料でありながら、簡単な化学合成で、全体のサイズを手で扱えるほどまで成長させることができるという特徴を有する。
ゲルを延伸すると、ゲル内で高分子鎖が配向し、伸長誘起結晶化が生じることは報告されている。例えば非特許文献1には、3分岐ポリマーを架橋した3分岐ゲルを延伸すると、4分岐ゲルを延伸するときよりも破断するまでの延伸倍率が高く、小角X線散乱(SAXS)及び広角X線散乱(WAXS)を用いた測定において、延伸による微結晶の形成が確認されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takeshi Fujiyabu et al., ‘Tri-branched gels: Rubbery materials with the lowest branching factor approach the ideal elastic limit’, Science Advances, 8, DOI:10.1126/sciadv.abk0010, 2022年4月6日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載されている結晶化したゲルは、小角X線散乱測定において、単に高分子ゲルが伸長して高分子鎖が配向するときに見られるストリークが観察されるだけであり、結晶ドメイン間の周期性を示す散乱スポットは観測されていない。また広角X線散乱測定において観察される散乱スポットは2つであり、数ナノサイズの微小な結晶ドメインであることがわかる。
ゲルは高分子鎖が乱雑な架橋構造を取っており、構造欠陥も相当量存在するため、延伸によって形成される結晶ドメインは小さく、そして結晶ドメインは周期性なく配置されるものと考えられており、結晶化したゲルの利点は破壊強度の向上に限られていた。
本発明は、結晶化したゲルでありながら、高秩序の構造を有する結晶性ゲルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、前記架橋ポリマーの一部が結晶化しており、結晶ドメインが周期的に存在する、結晶性ゲル。
[2] 前記架橋ポリマーが、下記P1の1種以上が架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記P2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、及び下記P2の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマーからなる群から選ばれる1種以上を含む、[1]に記載の結晶性ゲル。
P1:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有する多分岐ポリマー。
P2:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有する直鎖状ポリマー。
Q1:官能基を3個以上有する分岐モノマー。
Q2:官能基を2個有する2官能モノマー。
[3] 前記結晶性ゲルにおける前記架橋ポリマーの濃度は、架橋した前記多官能ポリマーのうち隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合う濃度以上である、[1]又は[2]に記載の結晶性ゲル。
[4] 前記多官能ポリマーが、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有し、かつ1分岐鎖当たりの重量平均分子量が500~100,000である多分岐ポリマー、及び3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有し、かつ重量平均分子量が500~100,000である直鎖状ポリマーの、一方又は両方である、[1]~[3]のいずれかに記載の結晶性ゲル。
[5] 前記溶媒が、前記多官能ポリマーに対する良溶媒である、[1]~[4]のいずれかに記載の結晶性ゲル。
[6] 官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、延伸により結晶化した結晶性ゲルであって、小角X線散乱を検出した二次元画像において、延伸方向を赤道方向とするとき、散乱ベクトルの大きさが0.001~0.5Å-1の範囲に、ビーム中心から子午線方向に伸びるストリークが存在するとともに、赤道上に、前記子午線に対して対称な位置にピークを有する1対以上の散乱像が存在する、結晶性ゲル。
[7] 官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、延伸により結晶化した結晶性ゲルであって、広角X線散乱を検出した二次元画像において、散乱ベクトルの大きさが0.5~3.0Å-1の範囲に、散乱スポットが20個以上存在する、結晶性ゲル。
[8] 前記[1]~[7]のいずれかに記載の結晶性ゲルから、前記溶媒を低減又は除去した高分子体。
[9] 結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルを製造する方法であって、官能基を2個以上有する多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、前記架橋ポリマーの濃度が、架橋した前記多官能ポリマーのうち隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合う濃度以上である未延伸ゲルを、前記架橋ポリマーの一部が結晶化するように延伸する、結晶性ゲルの製造方法。
[10] 前記架橋ポリマーが、下記P1の1種以上が架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記P2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、下記P1の1種以上と下記Q2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー、及び下記P2の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマーからなる群から選ばれる1種以上を含む、[9]に記載の結晶性ゲルの製造方法。
P1:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有する多分岐ポリマー。
P2:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有する直鎖状ポリマー。
Q1:官能基を3個以上有する分岐モノマー。
Q2:官能基を2個有する2官能モノマー。
[11] 前記多官能ポリマーが、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有し、かつ1分岐鎖当たりの重量平均分子量が500~100,000である多分岐ポリマー、及び3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有し、かつ重量平均分子量が500~100,000である直鎖状ポリマーの、一方又は両方である、[9]又は[10]に記載の結晶性ゲルの製造方法。
[12] 前記溶媒が、前記多官能ポリマーに対する良溶媒である、[9]~[11]のいずれかに記載の結晶性ゲルの製造方法。
[13] 前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の結晶性ゲルを含む、物品。
[14] 前記[8]に記載の高分子体を含む、物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶化したゲルでありながら、結晶ドメインが周期的に存在するという、高秩序の構造を有する結晶性ゲルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で結晶性ゲルを製造する過程において、小角X線散乱(SAXS)及び広角X線散乱(WAXS)を測定した結果を示す二次元画像である。
【
図2】
図1の各画像の
図2(A)で示す領域を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。
【
図3】
図1と同じ結晶性ゲルを製造する過程において、広角X線散乱(WAXS)を測定した結果を示す二次元画像である。
【
図4】
図3から選択した二次元画像を座標変換して示した加工画像である。
【
図5】他の実施例で結晶性ゲルを製造する過程において、小角X線散乱(SAXS)及び広角X線散乱(WAXS)を測定した結果を示す二次元画像である。
【
図6】
図5の各画像を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。
【
図7】他の実施例で結晶性ゲルを製造する過程において、小角X線散乱(SAXS)及び広角X線散乱(WAXS)を測定した結果を示す二次元画像である。
【
図8】
図7の各画像を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。
【
図9】未延伸ゲルの例の引張試験結果を示すグラフである。
【
図10】結晶性ゲル及び高分子体の例の引張試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「モノマー」とは、反応によって化学結合を形成する化合物であれば制限なく用いることができ、たとえば、縮合反応、付加反応又は重合反応をおこなうことができる化合物をいう。
「ポリマー」は、モノマーに基づく単位の2個以上からなる重合鎖を有する化合物である。
「モノマーに基づく単位」は、モノマーが重合することによって直接形成された原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。
「(メタ)アクリル」はアクリル、メタクリル、またはその両方を指す。
「重量%」は「質量%」と互換的に使用することができる。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
【0010】
<結晶性ゲル>
本実施形態の結晶性ゲルは、一部が結晶化した架橋ポリマーと、溶媒とを含み、結晶ドメインが周期的に存在するゲルである。架橋ポリマーの分子鎖には結晶化した部分とアモルファスの部分とが交互に存在する。
【0011】
<架橋ポリマー>
架橋ポリマーは多官能ポリマーが3次元網目構造を形成するように架橋したものである。架橋ポリマーは3次元網目構造を有する。
多官能ポリマーは、下記P1及びP2の一方又は両方を含むことが好ましい。
P1:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有する多分岐ポリマー。
P2:3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さず、官能基を2個有する直鎖状ポリマー。
【0012】
架橋ポリマーは多官能ポリマーどうしが架橋反応したものでもよく、多官能ポリマーと多官能モノマー(架橋剤)とが架橋反応したものでもよい。
3次元網目構造を有する架橋ポリマーの好ましい態様として、例えば下記の態様1~5が挙げられる。
架橋ポリマーが、下記態様1~5の架橋ポリマーからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
態様1:前記P1の1種以上が架橋した架橋ポリマー。
態様2:前記P1の1種以上と前記P2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー。
態様3:前記P1の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー。
態様4:前記P1の1種以上と下記Q2の1種以上とが架橋した架橋ポリマー。
態様5:前記P2の1種以上と下記Q1の1種以上とが架橋した架橋ポリマー。
Q1:官能基を3個以上有する分岐モノマー。
Q2:官能基を2個有する2官能モノマー。
【0013】
P1、P2、Q1、Q2の官能基は、架橋反応し得る反応性基である。公知の反応性基を用いることができる。
架橋反応は、1種の官能基どうしの反応でもよく、2種の官能基の反応でもよい。これらは公知の架橋反応を用いることができる。
2種の官能基の架橋反応の例として、求核官能基と求電子官能基が共有結合を形成する架橋反応はAB型クロスエンドカップリング反応として知られる(Matsunaga et all,Macromolecules,Vol.42,No.4,pp.1344-1351,2009)。
求核官能基と求電子官能基の組み合わせは、公知の組み合わせを採用できる。
求核官能基としては、チオール基(-SH)、アミノ基、又は-COOPhNO2(Phは、o-、m-、又はp-フェニレン基を示す)等が例示できる。
求電子官能基としては、活性エステル基を用いることができる。活性エステル基としては、マレイミジル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、フタルイミジル基、イミダゾイル基、アクリロイル基又はニトロフェニル基等が例示できる。その他の公知の活性エステル基を適宜用いてもよい。
1種の官能基の架橋反応の例として、チオール基どうしの反応、マレイミド基どうしの反応が挙げられる。
【0014】
[P1:多分岐ポリマー]
前記P1である多分岐ポリマーは、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有し、官能基を3個以上有するポリマーである。
1個の分岐点から延びる分岐鎖の数は3~8が好ましく、3~6がより好ましく、4が特に好ましい。
分岐鎖は、1種以上のモノマーに基づく単位からなる重合鎖を有する。前記重合鎖を構成するモノマーは、多分岐ポリマーを構成できるモノマーであればよく、特に限定されない。公知のモノマーを用いることができる。例えば、エチレングリコール、ビニル化合物が例示できる。ビニル化合物としては(メタ)アクリル酸又はその誘導体、スチレン又はその誘導体が例示できる。
多分岐ポリマーの官能基は、分岐鎖の末端に存在してもよく、分岐鎖のペンダント基(重合鎖を含まない基)に存在してもよい。分岐鎖の末端に存在することが好ましい。
1分子の多分岐ポリマーを構成する各分岐鎖の構造は互いに同じであることが好ましい。
多分岐ポリマーの1分岐鎖当たりの重量平均分子量は500~500,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましく、5,000~50,000がさらに好ましい。
架橋ポリマーを構成する多分岐ポリマーとして、分岐鎖が、エチレングリコールの重合鎖であるポリエチレングリコール骨格を有する多分岐ポリマー(以下、「PEGポリマー」ともいう。)が好ましい。
【0015】
[P2:直鎖状ポリマー]
前記P2である直鎖状ポリマーは、官能基を2個有するポリマーである。
直鎖状ポリマーは、1種以上のモノマーに基づく単位からなる重合鎖を有する。
直鎖状ポリマーは、3以上の分岐鎖が出ている分岐点を有さない。すなわち直鎖状ポリマーは前記多分岐ポリマーを含まない。
前記重合鎖を構成するモノマーは、直鎖状ポリマーを構成できるモノマーであればよく、特に限定されない。公知のモノマーを用いることができる。例えば、エチレングリコール、ビニル化合物が例示できる。ビニル化合物としては(メタ)アクリル酸又はその誘導体、スチレン又はその誘導体が例示できる。
直鎖状ポリマーの官能基は、重合鎖の末端に直接またはリンカー介して結合してもよく、重合鎖のペンダント基に存在してもよい。重合鎖の末端に直接またはリンカー介して結合していることが好ましい。
直鎖状ポリマーの重量平均分子量は500~500,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましく、5,000~50,000がさらに好ましい。
架橋ポリマーを構成する直鎖状ポリマーとして、例えば、エチレングリコールの重合鎖であるポリエチレングリコール骨格を有し、両末端に官能基を有するポリマーが挙げられる。
【0016】
[Q1:分岐モノマー]
前記Q1である分岐モノマーは、官能基を3個以上有するモノマー(架橋剤)である。
分岐モノマーは、通常、炭素を含む骨格部分と、骨格部分に結合された3個以上の官能基とを有する。分岐モノマーは重合鎖を含まない。
分岐モノマーの官能基は、分子末端に存在してもよく、骨格部分のペンダント基に存在してもよい。
分岐モノマーは、3個以上の反応性基が互いに同じであるホモ多官能性架橋剤であってもよいし、互いに異なるヘテロ多官能性架橋剤であってもよい。
分岐モノマーの分子量は、30以上500未満が好ましく、40~400がより好ましく、50~300がさらに好ましい。
分岐モノマーとしては、官能基を3個以上有する公知の架橋剤を用いることができる。例えば、メタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、2,2’-ジエチル-2,2’-[[2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス(プロパン-1,3-ジオール)、ビス-トリスプロパン、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン、アスパラギンなどが挙げられる。
【0017】
[Q2:2官能モノマー]
前記Q2である2官能モノマーは、官能基を2個有するモノマー(架橋剤)である。
2官能モノマーは、通常、炭素を含む骨格部分と、骨格部分に結合された2個の官能基とを有する。骨格部分は重合鎖を含まない。すなわち、2官能モノマーは前記直鎖状ポリマーを含まない。
2官能モノマーの官能基は、分子末端に存在してもよく、骨格部分のペンダント基に存在してもよい。
2官能モノマーは、2個以上の反応性基が互いに同じであるホモ2官能性架橋剤であってもよいし、互いに異なるヘテロ2官能性架橋剤であってもよい。
2官能モノマーの分子量は、30以上500未満が好ましく、40~400がより好ましく、50~300がさらに好ましい。
2官能モノマーとしては、官能基を2個有する公知の架橋剤を用いることができる。例えばメタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレンジアミン、シュウ酸、マレイン酸、アジピン酸、乳酸、アラニンなどが挙げられる。
【0018】
[態様1]
本態様の架橋ポリマーは、前記P1である多分岐ポリマーの1種以上が架橋した架橋ポリマーである。
1種以上の多分岐ポリマーが架橋してなる架橋ポリマーは、多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基(官能基)どうしが架橋反応して形成された高分子体である。
2種以上の多分岐ポリマーが架橋してなる架橋ポリマーの場合、各多分岐ポリマーの1分岐鎖当たりの重量平均分子量は、互いに同一でもよく、異なってもよい。互いに同一であることが好ましい。
【0019】
架橋反応する多分岐ポリマーは2種であってもよい。2種の多分岐ポリマーの分岐鎖の数は、互いに同一でもよく、異なってもよい。互いに同一であることが好ましい。
第1の多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基と、第2の多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基との共有結合による架橋反応は、前記AB型クロスエンドカップリング反応として知られる。
例えば、第1の多分岐ポリマーとして4つの分岐鎖の末端にそれぞれ求核官能基を有する四分岐型ポリマーを用い、第2の多分岐ポリマーとして4つの分岐鎖の末端にそれぞれ求電子官能基を有する四分岐型ポリマーを用い、これらを架橋反応させることにより3次元網目構造を有する高分子体が形成される。
1分子中に存在する複数の求核官能基は、互いに同一でもよく、異なってもよい。周期的な結晶構造が得られやすい点で同一が好ましい。
1分子中に存在する複数の求電子官能基は、互いに同一でもよく、異なってもよい。周期的な結晶構造が得られやすい点で同一が好ましい。
第1の多分岐ポリマーと第2の多分岐ポリマーの好ましい組み合わせは特開2018-116043号公報にも記載されている。
【0020】
求核官能基を有する第1の多分岐ポリマーの好ましい非限定的な具体例としては、例えば、下記式(I)で表される4分岐型のPEGポリマーが挙げられる。
【0021】
【0022】
式(I)中、n11~n14は、それぞれ同一でも又は異なってもよい。n11~n14の値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。このため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。n11~n14の値が大きすぎるとゲルの強度が弱くなり、n11~n14の値が小さすぎると化合物の立体障害によりゲルが形成されにくい。そのため、n11~n14は、25~250の整数値が挙げられ、35~180が好ましく、50~115がさらに好ましく、50~60が特に好ましい。
【0023】
式(I)中、Bは求核官能基であり、チオール基(-SH)、アミノ基、又は-COOPhNO2(Phは、o-、m-、又はp-フェニレン基を示す)である。
式(I)中、R11~R14は、求核官能基とコア部分をつなぐリンカー部位である。
R11~R14は、それぞれ同一でも異なってもよいが、均一な立体構造を有する高強度なゲルを製造するためには同一であることが好ましい。R11~R14は、C1-C7アルキレン基、C2-C7アルケニレン基、-NH-R15-、-CO-R15-、-R16-O-R17-、-R16-NH-R17-、-R16-COO-R17-、-R16-COO-NH-R17-、-R16-CO-R17-、R16-NH-CO-R17-又は-R16-CO-NH-R17-を示す。ここで、R15はC1-C7アルキレン基を示す。R16はC1-C3アルキレン基を示す。R17はC1-C5アルキレン基を示す。
【0024】
ここで、「C1-C7アルキレン基」とは、分岐を有してもよい炭素数が1以上7以下のアルキレン基を意味し、直鎖C1-C7アルキレン基又は1つ又は2つ以上の分岐を有するC2-C7アルキレン基(分岐を含めた炭素数が2以上7以下)を意味する。C1-C7アルキレン基の例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。
C1-C7アルキレン基の例は、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)-、-(CH2)3-、-(CH(CH3))2-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-(CH2)3-CH(CH3)-、-(CH2)2-CH(C2H5)-、-(CH2)6-、-(CH2)2-C(C2H5)2-、及び-(CH2)3C(CH3)2CH2-などが挙げられる。
【0025】
「C2-C7アルケニレン基」とは、鎖中に1個若しくは2個以上の二重結合を有する状又は分枝鎖状の炭素原子数2~7個のアルケニレン基であり、例えば、前記アルキレン基から隣り合った炭素原子の水素原子の2~5個を除いてできる二重結合を有する2価基が挙げられる。
【0026】
一方、求電子官能基を有する第2の多分岐ポリマーの好ましい非限定的な具体例としては、下記式(II)で表される4分岐型のPEGポリマーが挙げられる。
【0027】
【0028】
式(II)中、n21~n24は、それぞれ同一でも又は異なってもよい。n21~n24の値は近いほど、ゲルは均一な立体構造をとることができ、高強度となるので好ましく、同一である方が好ましい。n21~n24の値が大きすぎるとゲルの強度が弱くなり、n21~n24の値が小さすぎると化合物の立体障害によりゲルが形成されにくい。そのため、n21~n24は、5~300の整数値が挙げられ、20~250が好ましく、30~180がより好ましく、45~115がさらに好ましく、45~55であればさらに好ましい。
【0029】
式(II)中、Dは求電性官能基であり、マレイミジル基、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル(NHS)基、スルホスクシンイミジル基、フタルイミジル基、イミダゾイル基、アクリロイル基又はニトロフェニル基である。
式(II)中、R21~R24は、求電子官能基とコア部分をつなぐリンカー部位である。R21~R24は、それぞれ同一でも異なってもよいが、均一な立体構造を有する高強度なゲルを製造するためには同一であることが好ましい。R21~R24は、それぞれ同一又は異なり、C1-C7アルキレン基、C2-C7アルケニレン基、-NH-R25-、-CO-R25-、-R26-O-R27-、-R26-NH-R27-、-R26-COO-R27-、-R26-COO-NH-R27-、-R26-CO-R27-、-R26-NH-CO-R27-、又は-R26-CO-NH-R27-を示す。ここで、R25はC1-C7アルキレン基を示す。R26はC1-C3アルキレン基を示す。R27はC1-C5アルキレン基を示す。
【0030】
本明細書において、アルキレン基及びアルケニレン基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、アシル基、又はアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルキルオキシ基やアラルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0031】
架橋反応する多分岐ポリマーが2種である場合、架橋ポリマーを構成する第1の多分岐ポリマーと第2の多分岐ポリマーのモル比(第1の多分岐ポリマー:第2の多分岐ポリマー)は0.5:1~1.5:1が好ましく、0.9:1~1.1:1がより好ましい。
【0032】
[態様2]
本態様の架橋ポリマーは、前記P1である多分岐ポリマーと、前記P2である直鎖状ポリマーとが架橋した架橋ポリマーである。
多分岐ポリマーは1種でもよく2種以上でもよい。直鎖状ポリマーは1種でもよく2種以上でもよい。
多分岐ポリマーと直鎖状ポリマーとが架橋してなる架橋ポリマーは、多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基(官能基)と直鎖状ポリマーの反応性基(官能基)とが架橋反応して形成された高分子体である。
【0033】
多分岐ポリマーの反応性基と、直鎖状ポリマーの反応性基の組み合わせとしては、公知の組み合わせを用いることができる。例えば、上記求核官能基と求電子官能基の組み合わせを採用できる。
多分岐ポリマーと直鎖状ポリマーとを架橋反応させる場合、多分岐ポリマーに存在する反応性基の合計数と、直鎖状ポリマーに存在する反応性基の合計数の比(モル比)は、0.8:1~1.2:1が好ましく、0.9:1~1.1:0.9がより好ましい。
【0034】
[態様3]
本態様の架橋ポリマーは、前記P1である多分岐ポリマーと、前記Q1である分岐モノマー(架橋剤)とが架橋した架橋ポリマーである。
多分岐ポリマーは1種でもよく2種以上でもよい。分岐モノマーは1種でもよく2種以上でもよい。
多分岐ポリマーと分岐モノマーとが架橋してなる架橋ポリマーは、多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基(官能基)と分岐モノマーの反応性基(官能基)とが架橋反応して形成された高分子体である。
【0035】
多分岐ポリマーの反応性基と、分岐モノマーの反応性基の組み合わせとしては、公知の組み合わせを用いることができる。例えば、上記求核官能基と求電子官能基の組み合わせを採用できる。
多分岐ポリマーと分岐モノマーとを架橋反応させる場合、多分岐ポリマーに存在する反応性基の合計数と、分岐モノマーに存在する反応性基の合計数の比(モル比)は、0.8:1~1.2:1が好ましく、0.9:1~1.1:0.9がより好ましい。
多分岐ポリマーと分岐モノマーの好ましい組合せとして、例えば国際公開第2021/106662号に記載の組合せが挙げられる。
【0036】
[態様4]
本態様の架橋ポリマーは、前記P1である多分岐ポリマーと、前記Q2である2官能モノマー(架橋剤)とが架橋した架橋ポリマーである。
多分岐ポリマーは1種でもよく2種以上でもよい。2官能モノマーは1種でもよく2種以上でもよい。
多分岐ポリマーと2官能モノマーとが架橋してなる架橋ポリマーは、多分岐ポリマーの分岐鎖に存在する反応性基(官能基)と2官能モノマーの反応性基(官能基)とが架橋反応して形成された高分子体である。
【0037】
多分岐ポリマーの反応性基と、2官能モノマーの反応性基の組み合わせとしては、公知の組み合わせを用いることができる。例えば、上記求核官能基と求電子官能基の組み合わせを採用できる。
多分岐ポリマーと2官能モノマーとを架橋反応させる場合、多分岐ポリマーに存在する反応性基の合計数と、2官能モノマーに存在する反応性基の合計数の比(モル比)は、0.8:1~1.2:1が好ましく、0.9:1~1.1:0.9がより好ましい。
【0038】
[態様5]
本態様の架橋ポリマーは、前記P2である直鎖状ポリマーと、前記Q1である分岐モノマー(架橋剤)とが架橋した架橋ポリマーである。
直鎖状ポリマーは1種でもよく2種以上でもよい。分岐モノマーは1種でもよく2種以上でもよい。
直鎖状ポリマーと分岐モノマーとが架橋してなる架橋ポリマーは、直鎖状ポリマーに存在する反応性基(官能基)と分岐モノマーの反応性基(官能基)とが架橋反応して形成された高分子体である。
【0039】
直鎖状ポリマーの反応性基と、分岐モノマーの反応性基の組み合わせとしては、公知の組み合わせを用いることができる。例えば、上記求核官能基と求電子官能基の組み合わせを採用できる。
直鎖状ポリマーと分岐モノマーとを架橋反応させる場合、直鎖状ポリマーに存在する反応性基の合計数と、分岐モノマーに存在する反応性基の合計数の比(モル比)は、0.8:1~1.2:1が好ましく、0.9:1~1.1:0.9がより好ましい。
直鎖状ポリマーと分岐モノマーの好ましい組合せとして、例えば国際公開第2021/106662号に記載の組合せが挙げられる。
【0040】
<溶媒>
結晶性ゲルは内部に溶媒を含む。
溶媒は、架橋ポリマーを構成する多官能ポリマーに対する良溶媒が好ましい。良溶媒は多官能ポリマーの溶解性が高い溶媒であれば特に限定されない。
架橋ポリマーを構成する多官能ポリマーが2種以上である場合、全ての多官能ポリマーに対する良溶媒が好ましい。
後述の未延伸ゲルにおいて、架橋ポリマーを構成する多官能ポリマー(架橋した多官能ポリマー)のうちの隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合うのを支援する溶媒であることが好ましい。
【0041】
良溶媒は水であっても有機溶媒であってもよい。有機溶媒としては、アセトニトリル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール等が挙げられる。
多官能ポリマーが水よりも有機溶媒への溶解性が高い場合、良溶媒は有機溶媒であることが好ましい。例えば多官能ポリマーが4分岐型のPEGポリマーである場合、良溶媒は無水アセトニトリル、N、N-ジメチルホルムアミドが好ましい。適切な良溶媒は多分岐ポリマーの種類に応じて適宜選択することができる。
例えば、動的光散乱測定において、多官能ポリマーと良溶媒とを含む組成物を散乱角90°の場所で測定した際に、多官能ポリマーの拡散モードあるいは協同拡散モードのいずれかのみが観測され、凝集体を示す緩和モードが観測されない場合に、好適な良溶媒であると判定することができる。
【0042】
結晶性ゲルは、架橋ポリマーと溶媒のほかに1種以上の添加剤を含んでもよい。
添加剤としては、医薬品又は化粧品の有効成分、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、賦形剤、担体、希釈剤、良溶媒以外の溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、粘剤、安定化剤、温感剤、香料、塩類、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤等が例示できる。
【0043】
<製造方法>
本実施形態の結晶性ゲルは、架橋ポリマーと溶媒とを含む未延伸ゲルを、架橋ポリマーの一部が結晶化するように延伸することで得られる。
架橋前の多官能ポリマーと溶媒とを含むプレゲル溶液を調製し、架橋反応させることにより前記未延伸ゲルが得られる。
例えば、プレゲル溶液を成形型内に充填して硬化させることにより、所望の形状の未延伸ゲルを製造できる。未延伸ゲルの形状は特に限定されない。例えば、シート状、球状等でもよい。シート状のゲルであるゲルシートの形は、さらに意図された目的に応じて任意の形状とすることができ、例えば平面視で略矩形、略円形等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
未延伸ゲル中の架橋ポリマーの濃度を、架橋ポリマーを構成する多官能ポリマー(架橋した多官能ポリマー)のうちの隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合うように調整することにより、延伸後に結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られる。
多官能ポリマーが多分岐ポリマーを含む場合、多分岐ポリマーの分岐鎖の部分(アーム)が隣り合う多官能ポリマーと互いに重なり合うように、前記架橋ポリマーの濃度を調整することが好ましい。
【0045】
高分子分野の当業者に周知のように、溶液において隣り合う多官能ポリマー同士が接触し始める(つまり高分子鎖が占める領域が重なる)臨界濃度を「重なり合い濃度」又は「重なり濃度」という。科学的には、重なり合い濃度において、多官能ポリマーの局所濃度(内部濃度)と、溶液全体における多官能ポリマーの平均濃度とが等しい。
重なり合い濃度は、小角X線散乱や静的光散乱で得られる小角へのゼロ外挿散乱強度が極大値を取る濃度、又はゼロ剪断粘度の濃度依存性が線形関係(粘度~濃度∧a,a=1)から非線形関係(粘度~濃度∧a,a>1)へと遷移する遷移点として定義され、これは実験により確認することができる。前記実験により確認できる重なり合い濃度を「以下、重なり合い濃度C*」という。
未延伸ゲル中の架橋ポリマーの濃度を、前記重なり合い濃度C*以上、好ましくは重なり合い濃度C*の1.5倍以上、より好ましくは2倍以上とすることにより、延伸後に結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られる。
【0046】
例えば、多官能ポリマーの1種以上が架橋してなる架橋ポリマーの場合、プレゲル溶液の総質量に対する多官能ポリマーの合計の含有量(合計濃度)が、未延伸ゲルの総質量に対する架橋ポリマーの含有量(濃度)と同じである。多官能ポリマーの合計濃度が前記重なり合い濃度C*以上となるように調整する。
多官能モノマーと多官能ポリマーとが架橋してなる架橋ポリマーの場合、プレゲル溶液の総質量に対する多官能モノマーと多官能ポリマーの合計の含有量(合計濃度)が、未延伸ゲルの総質量に対する架橋ポリマーの含有量(濃度)と同じである。多官能モノマーと多官能ポリマーの合計濃度が前記重なり合い濃度C*以上となるように調整する。
【0047】
このように、プレゲル溶液中に、架橋ポリマーを構成する分子鎖を緻密に充填することで、未延伸ゲルにおける架橋構造が極めて均一となり、延伸したときに結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルとなる。
【0048】
未延伸ゲルの延伸方向は特に限定されない。例えば、一方向(一軸延伸)でもよく、2方向(2軸延伸)でもよい。
後述の実施例に示されるように、未延伸ゲルを一軸延伸すると、分子鎖が延伸方向に配向し、延伸倍率が閾値に達すると一部が結晶化して、結晶ドメインが周期的に存在する構造が形成される。
結晶ドメインが周期的に存在することは、小角X線散乱(SAXS)を検出した二次元画像において、延伸方向を赤道方向とするとき、散乱ベクトルの大きさが0.001~0.5Å-1の範囲に、ビーム中心から子午線方向に伸びるストリークが存在するとともに、赤道上に、前記子午線に対して対称な位置にピークを有する1対以上の散乱像が存在することで確認できる。
本明細書において、小角X線散乱(SAXS)を検出した二次元画像の「赤道」は、ビーム中心を通り延伸方向に平行な仮想線を意味し、「子午線」はビーム中心を通り延伸方向に垂直な仮想線を意味する。
【0049】
また、後述の実施例に示されるように、未延伸ゲルを延伸する過程において、延伸倍率が変化しても隣り合う結晶ドメイン間の距離(以下、「結晶ドメイン間距離」ともいう)は変わらない。
このことは、小角X線散乱(SAXS)を検出した二次元画像の前記散乱像を一次元化した1Dパターンにおいて、延伸倍率が増大しても、散乱像の強度のピークを示す散乱ベクトルの大きさqが変わらないことで確認できる。
【0050】
また、後述の実施例に示されるように、未延伸ゲルを延伸することで、結晶ドメインの大きさ(以下「結晶サイズ」ともいう。)が大きい結晶性ゲルが得られる。
結晶サイズが大きいことは、広角X線散乱(WAXS)を検出した二次元画像において、散乱ベクトルの大きさが0.5~3.0Å-1の範囲に、散乱スポットが多く存在することで確認できる。前記散乱スポットの数は20個以上が好ましく、30個以上がより好ましい。前記散乱スポットの数が20個以上であると、結晶サイズが数10nmオーダー以上の結晶ドメインが存在すると見積もることができる。
【0051】
未延伸ゲルを延伸して得られた結晶性ゲル中の溶媒濃度は、未延伸ゲル中の溶媒濃度と同じであり、プレゲル溶液中の溶媒濃度と同じである。
延伸終了後に結晶性ゲル中の溶媒濃度を低減して、所望の溶媒濃度を有する結晶性ゲルとしてもよい。さらに溶媒を低減又は除去して、溶媒を実質的に含まない高分子体としてもよい。
溶媒を低減又は除去する方法は、加温乾燥、空気乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の当該技術分野の慣用的な方法により行うことができる。
本明細書において、結晶性ゲル又は高分子体を測定対象とし、下記の測定方法で得られる溶媒濃度が、10重量%以上のものを「結晶性ゲル」といい、10重量%未満のものを「高分子体」という。
<溶媒濃度の測定方法>
測定対象である結晶性ゲル又は高分子体を、常圧下で、恒量に達するまで加熱乾燥して、水分などの揮発性成分を除去する。加熱乾燥前の質量をWb、加熱乾燥後の質をWaとするとき、下記式により溶媒濃度(単位:質量%)を求める。
溶媒濃度=(Wa-Wb)/Wb×100
【0052】
結晶性ゲルの総質量に対する溶媒の含有量(溶媒濃度)は特に限定されないが、下限値は10重量%以上であり、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることが好ましい。上限値は、99.9重量%以下であることが好ましく、99重量%以下であることが好ましい。
【0053】
結晶性ゲルの総質量に対する架橋ポリマーの含有量(濃度)は特に限定されないが、下限値は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることが好ましい。
上限値は90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることが好ましい。
【0054】
本実施形態によれば、結晶化したゲルでありながら、結晶ドメインが周期的に存在するという、高秩序の構造を有する結晶性ゲルが得られる。
結晶性ゲル中の架橋ポリマーは、長周期結晶構造を有する結晶ドメインとアモルファス相が混ざり合った高次構造を有する。また、前記長周期結晶構造を有する巨大ドメインがたくさん存在することも特徴のひとつである。
結晶性ゲルを形成する前のゲルは、隣り合う多官能ポリマーが互いに重なり合う濃度以上で含まれているため、空間的な構造欠陥が少なく、均一性の高い構造を有する。
結晶性ゲル中の架橋ポリマーは延伸方向に配向して結晶化するため、異方性を発現することができる。例えば、熱伝導や電気伝導において異方性を示す結晶性ゲル又は高分子体が得られる。
未延伸ゲルを延伸する過程において、延伸倍率が変化しても結晶ドメインの周期は変わらないため、寸法安定性に優れ、再現性が良い。
未延伸ゲルを延伸する過程において、結晶化が生じる延伸倍率には閾値があるため、オン/オフのスイッチング機能を発現することができる。
プレゲル溶液を成形型内で架橋反応させるだけで未延伸ゲルを製造できるため、大面積で均質な結晶性ゲル又は高分子体を簡単に製造できる。
架橋性ポリマーを構成する多官能ポリマー及び多官能モノマーを目的に応じて選択することによって、結晶性ゲル又は高分子体の性能を簡単に変更することができ、設計の自由度が高い。
【0055】
本実施形態の結晶性ゲル又は高分子体は、各種物品を構成する材料として好適である。
本実施形態の結晶性ゲル又は高分子体の用途の例としては、濾過材料、薬物放出システム(DDS)、ナノポアセンサー、熱伝導材、電気伝導材、光学異方材料等が例示できるが、これらに限定されない広範な用途に使用することができる。
本実施形態の結晶性ゲル又は高分子体は、医学、薬学、化学、工学、電子工学などの幅広い分野への波及効果が期待される。
【実施例0056】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
<原料>
原料として用いた4分岐型のPEGポリマー(いずれも、SINOPEG社(中国)製)を表1に示す。
表1中の「平均分子量(Mw)」は商品に表示された平均分子量である。一般的には、サイズ排除クロマトグラフィー法、又はMALDI-TOF(飛行時間型質量分析計を用いたマトリックス支援レーザー脱離イオン化法)等の測定方法による重量平均分子量又はピークトップ分子量が用いられる。
ポリエチレングリコールの良溶媒として、DMF(N、N-ジメチルホルムアミド、比重:0.944g/mL)を超脱水状態に処理したものを用いた。
表2、3中の「重なり合い濃度C*」は、小角X線散乱で得られる小角へのゼロ外挿散乱強度が極大値を取る濃度、又はゼロ剪断粘度の濃度依存性が線形関係から非線形関係へと遷移する遷移点として定義される重なり合い濃度を、実験により求めた値である。
【0058】
[例1]
(1)未延伸ゲルの作製
表2に示す組成となるように、DMF中で、テトラ-PEG-NH2-40Kと、テトラ-PEG-NHS-40Kとを架橋反応させて、架橋ポリマーを含む未延伸ゲルを調製した。溶媒中に酢酸を添加して反応速度を調整し、ゲル化時間を30分未満に制御した。
具体的には、テトラ-PEG-NH2-40Kを、酢酸入りのDMFに溶解し、孔径が0.22μmのシリンジフィルタ(アドバンテック東洋株式会社(日本)社製、以下同様)で濾過し、第1の多分岐ポリマー溶液を得た。
これとは別に、テトラ-PEG-NHS-40Kを、酢酸入りのDMFに溶解し、孔径が0.22μmのシリンジフィルタで濾過し、第2の多分岐ポリマー溶液を得た。
第1の多分岐ポリマー溶液と第2の多分岐ポリマー溶液を混合し、プレゲル溶液を得た。
プレゲル溶液をダンベル形状(JIS K6251 8号形)の成型内に流し込んでゲル化させ、厚さ2mmの未延伸ゲルを作製した。
未延伸ゲルにおける架橋ポリマーの濃度は、プレゲル溶液における第1の多分岐ポリマーと第2の多分岐ポリマーとの合計濃度である。表2に示すように、本例における架橋ポリマーの濃度は、重なり合い濃度C*以上である。
【0059】
(2)結晶性ゲルの製造及びX線散乱測定
未延伸ゲルを、引張試験装置を用いて一軸延伸し、結晶性ゲルを製造した。
具体的には、ダンベル形状の長さ方向が水平方向、幅方向が鉛直方向となるように、サンプル(未延伸ゲル)を引張試験装置にセットし、100mm/分の引張速度で、水平方向に延伸した。延伸開始前の長さをL1、延伸後の長さをL2とすると、延伸倍率(単位:倍)はL2/L1である。
引張試験装置にセットしたサンプルを延伸しながら、サンプルの厚み方向手前からX線ビームを入射し、後方に散乱したX線を検出する方法でX線散乱測定を行った。
【0060】
X線散乱測定は、高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県、日本)のフォトンファクトリー、ビームラインBL-15A2を用い、室温(設定温度25℃)で実施した。
延伸中のサンプルを測定対象とし、二次元(2D)小角X線散乱(SAXS)および二次元(2D)広角X線散乱(WAXS)のin-situ測定を実施した。
入射X線の波長は0.092nmとし、露光時間は20秒とした。
検出器は、二次元ハイブリッドピクセル検出器(SAXSはPILATUS3-2M、WAXSはPILATUS3-300K、いずれもDECTRIS社、スイス)を使用して、二次元画像(2Dパターン)を取得した。サンプルから検出器までの距離は、SAXSが3.23m、WAXSが0.43mとした。
また、PILATUS3-2M検出器を使用してWAXS2Dパターン全体を取得するために、サンプルから検出器までの距離を0.33mとし、SAXS測定時と同様にサンプルを延伸しながらWAXS測定を実施した。
【0061】
本例では、測定用のサンプルを複数個用意し、まずサンプルの延伸開始と同時にX線散乱測定を開始し、露光時間を20秒として延伸倍率が1倍(未延伸)、2倍、4倍、6倍、8倍、10倍、12倍…のデータを連続的に取得した。次いで、同様の方法で、延伸倍率が9.25倍、9.5倍、9.75倍等の細かな延伸倍率のデータも取得した。
【0062】
図1は、PILATUS3-2MとPILATUS3-300Kで同時取得した、SAXSとWAXSの二次元画像である。同じ延伸倍率におけるSAXS(下側)とWAXS(上側)の二次元画像を並べて示す。各画像において赤道方向が水平方向(延伸方向)、子午線方向が鉛直方向である。
図2は、
図1の各画像において、赤道を基準とする±10°の領域(
図2中(A)で示す)を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。横軸は散乱ベクトルの大きさ(q、単位:Å
-1)、縦軸は散乱強度(相対値)を示す。
解析ソフトは、カスタムメイドのデータ処理パッケージRed2D(https://github.com/hurxl/Red2D)を、科学データ分析ソフトウェアパッケージ(Igor Pro9、WaveMetrics)内に格納して使用した。標準物質として、グラッシーカーボン(国立標準技術研究所(NIST),米国)、CeO
2、及びベヘン酸銀(長良化学工業株式会社,日本)を用いてキャリブレーションを行った。
【0063】
図3は、PILATUS3-2Mで取得したWAXSの二次元画像である。
図4は、
図3に示した延伸倍率13.5倍の二次元画像を座標変換したものであり、縦軸は方位角(単位:°)、横軸は散乱ベクトルの大きさ(q、単位:Å
-1)を示す。
【0064】
図1に示されるように、延伸倍率9.25倍において、延伸倍率9倍では見られなかった散乱が出現した。具体的に、延伸倍率9.25倍~13倍の二次元画像には、ビーム中心から子午線方向に伸びるストリークと、赤道上に、子午線に対して対称な位置にピークを有する複数対の散乱像が観察された。拡大して観察したところ5対の散乱像が認められた。子午線方向のストリークは高分子ゲルが伸長して分子鎖が配向するときに見られる散乱であり、これに加えて、赤道上(延伸方向)に強い散乱像が見られることから、結晶ドメインが周期的に存在していることがわかる。すなわち、未延伸ゲルを9.25倍以上、好ましくは9.5倍以上、より好ましくは10倍以上に一軸延伸することにより、ポリマーの一部が結晶化し、結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られた。
赤道上(延伸方向)に、子午線に対して対称な位置にピークを有する散乱像が発現したときの延伸倍率を閾値として表に示す(以下、同様)。
図2に示されるように、延伸倍率が増大するとき、延伸方向に存在する散乱像のピークはq(散乱ベクトルの大きさ)が変わらずにピーク強度が増大した。このことから、延伸倍率を増大するとき、結晶ドメイン間距離を保ちながら結晶化が進むことがわかる。
図3、4に示されるように、延伸倍率が増大すると、WAXSの二次元画像に散乱スポットが多く出現した。散乱スポットが出現したときの延伸倍率を閾値として表に示す(以下、同様)。延伸倍率13.5倍の二次元画像のコントラストを変調しながら、散乱ベクトルの大きさqが0.5~3.0Å
-1の領域における散乱スポットの数を計測したところ90個以上であった。このように散乱スポットの数が多いことは、結晶ドメインが大きいことの目安となる。回折スポットの広がり(シェラーの式)から結晶ドメインの大きさ(結晶サイズ)を見積もると20~60nmの範囲内であった。
【0065】
延伸倍率10倍に延伸した後、延伸力を解除しても、しばらくは結晶性ゲルの構造が維持されることを確認した。結晶性ゲルの構造を保ちながら乾燥させて、溶媒濃度を10重量%未満に低減して高分子体を得る。
【0066】
[例2]
例1において、未延伸ゲルの組成を表2に示す通りに変更した。それ以外は例1と同様にして未延伸ゲルの作製、結晶性ゲルの製造及びX線散乱測定を行った。
図5は、PILATUS3-2MとPILATUS3-300Kで同時取得した、SAXSとWAXSの二次元画像である。
図6は、
図5の各画像を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。
図5に示されるように、延伸倍率10.25倍において、子午線方向のストリークに加えて、赤道上(延伸方向)の散乱像が出現した。すなわち、未延伸ゲルを10.25倍以上、好ましくは10.5倍以上、より好ましくは11倍以上一軸延伸することにより、ポリマーの一部が結晶化し、結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られた。
図6に示されるように、延伸倍率が増大するとき、延伸方向の散乱像のピークはqが変わらずにピーク強度が増大した。このことから、延伸倍率を増大するとき、結晶ドメインの相間距離を保ちながら結晶化が進むことがわかる。
図示していないが、PILATUS3-2Mで取得したWAXSの二次元画像も例1と同様の傾向を示した。例1と同様にして、WAXSの二次元画像のうち、散乱スポットが明確な延伸倍率を選んで、散乱スポットの数を計測した結果を表に示す(以下、同様)。
【0067】
[例3]
例1において、未延伸ゲルの組成を表2に示す通りに変更した。それ以外は例1と同様にして未延伸ゲルの作製、結晶性ゲルの製造及びX線散乱測定を行った。
図7は、PILATUS3-2MとPILATUS3-300Kで同時取得した、SAXSとWAXSの二次元画像である。
図8は、
図7の各画像を部分円環平均して一次元化した1Dパターンである。
図7に示されるように、延伸倍率9.5倍において、子午線方向のストリークに加えて、赤道上(延伸方向)に散乱像が出現した。すなわち、未延伸ゲルを9.5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは11倍以上一軸延伸することにより、ポリマーの一部が結晶化し、結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られた。
図8に示されるように、延伸倍率が増大するとき、延伸方向の散乱像のピークはqが変わらずにピーク強度が増大した。このことから、延伸倍率を増大するとき、結晶ドメインの周期を保ちながら結晶化が進むことがわかる。
図示していないが、PILATUS3-2Mで取得したWAXSの二次元画像も例1と同様の傾向を示した。
【0068】
[例4、5]
例1において、未延伸ゲルの組成を表3に示す通りに変更した。それ以外は例1と同様にして未延伸ゲルの作製、結晶性ゲルの製造及びX線散乱測定を行った。
【0069】
例4、5において、X線散乱測定結果は、例1と同様の傾向を示した。
例4、5では、未延伸ゲルを一軸延伸することにより、ポリマーの一部が結晶化し、結晶ドメインが周期的に存在する結晶性ゲルが得られた。また、WAXSの二次元画像において、qが0.5~3.0Å-1の領域に90個以上の散乱スポットが存在する結晶性ゲルが得られた。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[例6]
本例では、DMF中で、テトラ-PEG-NH2-40Kと、テトラ-PEG-NHS-40Kとを1対1のモル比で混合し、1週間かけて架橋反応させ、架橋ポリマーを含む未延伸ゲルを調製した。
架橋ポリマーの分岐点間分子量、及び未延伸ゲルにおけるポリマー濃度(架橋ポリマーの濃度、単位:g/L)を表4に示す。
【0074】
このように作製した未延伸ゲルを用いて下記の方法で力学特性を評価した。
具体的に、破断応力、破断伸長比、ヤング率、破壊エネルギー、引き裂きエネルギーを求めるために、引張試験機(製品名「AUTOGRAPH AG-X plus」、ロードセル容量50N、株式会社島津製作所製)を用い、室温下(23℃)、100mm/分の変形速度で、所定形状に成形した試料の引張応力-ひずみ測定を実施した。
未延伸ゲルの伸長試験では、未延伸ゲルを14mm(長さ)×2mm(幅)×1mm(厚さ)の短冊状に成形した試料を使用した。
未延伸ゲルの亀裂進展試験では、未延伸ゲルを14mm(長さ)×4mm(幅)×1mm(厚さ)の短冊状に成形し、長さ方向の中央部において、側面から中央へ向かう方向(幅方向)に、幅方向の深さが1mmの切欠きを入れた試料を使用した。
結晶化部分の力学特性を評価するために、前記未延伸ゲルの伸長試験に使用した短冊状の試料を、一軸延伸してポリマーの一部が結晶化した結晶性ゲルを作製した。また、結晶性ゲルの溶媒を低減した高分子体を作製した。具体的には、前記短冊状の試料を、前記引張試験機を用い、室温下(23℃)、100mm/分の変形速度で9倍に延伸し、28mm(長さ)×0.5mm(幅)×0.25mm(厚さ)の棒状に加工して、結晶性ゲルの試料(Wet fiber)とした。また、同様の方法で棒状に加工した試料(Wet fiber)を室温で乾燥させて、28mm(長さ)×0.3mm(幅)×0.1mm(厚さ)の大きさとして、高分子体の試料(Dried fiber)を作製した。得られたWet fiber及びDried fiberを試料として、引張試験を実施した。
【0075】
<試験結果>
(ゲルの力学特性)
本例で作製した未延伸ゲルの引張試験における挙動を
図9に示す。
図9のグラフにおいて、横軸は伸長比(Elongation Ratio)、縦軸は公称応力(Nominal Stress)を示す。伸長試験は2回(n=2)実施し、亀裂進展試験は3回(n=3)実施した。
表4に、ゲルの破断応力、破断伸長比、ヤング率、破壊エネルギー、引き裂きエネルギーの測定結果を示す。
これらの結果から、延伸性と破断応力が高く、引き裂きエネルギーにも優れた強靭なゲルであることがわかる。
【0076】
【0077】
(結晶化部分の力学特性)
本例で作製したWet fiber(結晶性ゲル)及びDried fiber(高分子体)の引張試験における挙動を
図10に示す。
図10のグラフにおいて、横軸は伸長比(Elongation Ratio)、縦軸は公称応力(Nominal Stress)を示す。
表5に、破断応力、破断伸長比、ヤング率の測定結果を示す。
図9、10、及び表4、5の結果から、Wet fiber(結晶性ゲル)及びDried fiber(高分子体)の力学特性は、未延伸ゲルの力学特性よりも向上しており、ヤング率で240~32000倍、破断応力で100~560倍ほど高くなった。特に、乾燥した高分子体(Dried fiber)は力学特性の向上が顕著である。
【0078】