(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144378
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】評価用試験片及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/04 20060101AFI20241003BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N19/04 Z
G01N3/32 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053974
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023054116
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】束田 拓平
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061BA03
2G061CA05
(57)【要約】
【課題】射出成形接合体であっても、接合界面の破壊靭性値を評価することができる評価用試験片を提供する。
【解決手段】射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価するための評価用試験片であって、射出成形により成形された、板状の第1接合片と、板状の第2接合片とが接合されてなり、第1接合片と第2接合片との接合界面は、平面視において、耐熱テープが存在する予亀裂領域と、予亀裂領域に隣接し、亀裂が進展する亀裂進展領域とを含む、評価用試験片である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価するための評価用試験片であって、
板状の第1接合片と、射出成形により成形された板状の第2接合片とが接合されてなり、
前記第1接合片と前記第2接合片との接合界面は、平面視において、耐熱テープが存在する予亀裂領域と、前記予亀裂領域に隣接し、亀裂が進展する亀裂進展領域とを含む、評価用試験片。
【請求項2】
さらに、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面に引張用部材が接合されている、請求項1に記載の評価用試験片。
【請求項3】
前記亀裂進展領域における前記接合界面内の予亀裂領域側の端部に、亀裂が導入されている、請求項1又は2に記載の評価用試験片。
【請求項4】
前記第1接合片及び前記第2接合片の前記亀裂進展領域側の側面の少なくとも一方に、前記予亀裂領域と前記亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を有する、請求項1又は2に記載の評価用試験片。
【請求項5】
請求項1に記載の評価用試験片の作製方法であって、
評価用試験片の接合界面となる接合予定面を含む、板状の第1接合片を準備する工程A、
前記第1接合片の前記接合予定面において、予め亀裂を生じさせる予亀裂領域と、亀裂が進展する亀裂進展領域とを決定する工程B、
前記第1接合片の前記予亀裂領域に耐熱テープを貼付する工程C、及び
前記第1接合片の耐熱テープを貼付した予亀裂領域及び亀裂進展領域の全体にわたり、前記第1接合片と同一又は異種の樹脂材料を射出成形して第2接合片を形成する工程D、
を順次含む、評価用試験片の作製方法。
【請求項6】
さらに、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面に引張用部材を接合する工程Eを含む、請求項5に記載の評価用試験片の作製方法。
【請求項7】
前記工程Dと工程Eとの間に、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面の前記引張用部材を接合する領域に表面処理を行う、請求項6に記載の評価用試験片の作製方法。
【請求項8】
さらに、前記亀裂進展領域における前記接合界面内の前記予亀裂領域側の端部に亀裂を導入する工程Fを工程Dの後に含む、請求項5又は6に記載の評価用試験片の作製方法。
【請求項9】
前記第1接合片及び前記第2接合片の前記亀裂進展領域側の側面の少なくとも一方に、前記予亀裂領域と前記亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を付与する工程Gを含む、請求項5又は6に記載の評価用試験片の作製方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の評価用試験片を用いて、引張試験により、前記第1接合片と前記第2接合片の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法。
【請求項11】
請求項10に記載の評価方法により得られる破壊靭性値を用いて、CAEにより、射出成形接合体の寿命を予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価用試験片及びその作製方法、並びに接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法、射出成形接合体の寿命を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単一の素材ではなく、複数の素材を組合せて最適配置することにより、コストを抑えながら製品の重量削減(軽量化)を実現するマルチマテリアル手法又はボルトレス接合を用いた高機能構造の需要が拡大している。そして、それに伴う接合・接着技術開発が進められている。マルチマテリアル手法の重要課題の一つである異種材料の接合・接着において、軽量かつ信頼性の高い接合構造の普及には、最弱部となりやすい「接合界面における破壊(亀裂)」を想定することが重要となる。接合体のみならず、樹脂材料単体についても、亀裂が段階的に進展する疲労やヒートショックによる破壊といった長期耐久特性の考慮・予測が可能な力学特性の抽出と定量化が求められている。
【0003】
ここで、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の層間破壊靱性試験方法としては、「モードI(開口型)破壊靭性評価手法;双片持ち梁(DCB:Double Cantilever Beam)試験_JIS K 7086」が採用される(特許文献1参照)。DCB試験法は、従来の引張せん断試験や押抜試験等の「強度」での評価ではなく、実際の接合体の破壊モードについて考慮した「エネルギー的な指標=破壊靭性」を用いた接合界面破壊靭性値(GIC)の評価手法である。そのため、従来手法で課題となっていた実際の接合体の破壊モードについての考慮が可能となる。すなわち、CFRPにおいては、実際の接合体の破壊モードについて考慮した接合界面破壊靭性値の評価方法が確立されている。
【0004】
接合体の接合界面破壊靭性値を評価するためには、試験片に初期亀裂を導入する必要がある。CFRPの場合、複数積層して成形されているため、積層板の層間に樹脂と接着しないフィルムを挿入することで、層間に模擬亀裂を導入した試験片を引き裂くように引っ張り、荷重の変化と亀裂の進展長さから層間の靱性を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接合体の少なくとも一方が射出成形により得られた複合接合体(以下、「射出成形接合体」と呼ぶ。)の場合は成形前の積層工程が存在しないため、フィルムの挿入による初期亀裂の導入が不可能であり、CFRPと同様に接合界面破壊靭性値について評価することができなかった。また、DCB試験のモードIにおいては、剥離亀裂面に垂直な引張荷重を負荷する必要があり、そのため、接合体の外面に蝶番(引張用部材)を接合する必要がある。さらにDCB試験成立のためには「(樹脂と蝶番との)接合耐荷重>試験時の最大荷重」となる必要があるところ、難接着材料では「接合耐荷重<最大荷重」となり、DCB試験の実施自体が不可能であった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、射出成形接合体であっても、接合界面の破壊靭性値を評価することができる評価用試験片及びその作製方法、並びに射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法、及び射出成形接合体の寿命を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価するための評価用試験片であって、
板状の第1接合片と、射出成形により成形された板状の第2接合片とが接合されてなり、
前記第1接合片と前記第2接合片との接合界面は、平面視において、耐熱テープが存在する予亀裂領域と、前記予亀裂領域に隣接し、亀裂が進展する亀裂進展領域とを含む、評価用試験片。
【0009】
(2)さらに、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面に引張用部材が接合されている、前記(1)に記載の評価用試験片。
【0010】
(3)前記亀裂進展領域における前記接合界面内の予亀裂領域側の端部に、亀裂が導入されている、前記(1)又は(2)に記載の評価用試験片。
【0011】
(4)前記第1接合片及び前記第2接合片の前記亀裂進展領域側の側面の少なくとも一方に、前記予亀裂領域と前記亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を有する、前記(1)~(3)のいずれかに記載の評価用試験片。
【0012】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の評価用試験片の作製方法であって、
評価用試験片の接合界面となる接合予定面を含む、板状の第1接合片を準備する工程A、
前記第1接合片の前記接合予定面において、予め亀裂を生じさせる予亀裂領域と、亀裂が進展する亀裂進展領域とを決定する工程B、
前記第1接合片の前記予亀裂領域に耐熱テープを貼付する工程C、及び
前記第1接合片の耐熱テープを貼付した予亀裂領域及び亀裂進展領域の全体にわたり、前記第1接合片と同一又は異種の樹脂材料を射出成形して第2接合片を形成する工程D、を順次含む、評価用試験片の作製方法。
【0013】
(6)さらに、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面に引張用部材を接合する工程Eを含む、前記(5)に記載の評価用試験片の作製方法。
【0014】
(7)前記工程Dと工程Eとの間に、前記第1接合片及び前記第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面の前記引張用部材を接合する領域に表面処理を行う、前記(6)に記載の評価用試験片の作製方法。
【0015】
(8)さらに、前記亀裂進展領域における前記接合界面内の前記予亀裂領域側の端部に亀裂を導入する工程Fを工程Dの後に含む、前記(5)又は(6)に記載の評価用試験片の作製方法。
【0016】
(9)前記第1接合片及び前記第2接合片の前記亀裂進展領域側の側面の少なくとも一方に、前記予亀裂領域と前記亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を付与する工程Gを含む、前記(5)又は(6)に記載の評価用試験片の作製方法。
【0017】
(10)前記(1)又は(2)に記載の評価用試験片を用いて、引張試験により、前記第1接合片と前記第2接合片の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法。
【0018】
(11)前記(10)に記載の評価方法により得られる破壊靭性値を用いて、CAEにより、射出成形接合体の寿命を予測する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、射出成形接合体であっても、接合界面の破壊靭性値を評価することができる評価用試験片及びその作製方法、並びに射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法、及び射出成形接合体の寿命を予測する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の評価用試験片の一例を示す斜視図である。
【
図2A】本実施形態の評価用試験片に引張用部材を接合した状態を示す側面図である。
【
図2B】
図2Aに示す評価用試験片に引張荷重を印加したときの状態を示す側面図である。
【
図3】本実施形態の評価用試験片の一例を示す上面図である。
【
図4】本実施形態の評価用試験片の接合界面に亀裂を生じさせた状態を示す側面図である。
【
図5】
図4に示す評価用試験片において、さらに予亀裂領域と亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を付与した状態を示す側面図である。
【
図6A】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Aについて説明する図である。
【
図6B】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Bについて説明する図である。
【
図6C】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Cについて説明する図である。
【
図6D】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Dについて説明する図である。
【
図6E】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Eについて説明する図である。
【
図6F】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Fについて説明する図である。
【
図6G】本実施形態の評価用試験片の作製方法における工程Gについて説明する図である。
【
図7】引張用部材を板状体に接合し、引張用部材と板状体との接合耐荷重値を評価する様子を示す側面図である。
【
図8】破壊靭性試験(モードII)で使用する評価用試験片の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<評価用試験片>
本実施形態の評価用試験片は、射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価するための評価用試験片である。そして、板状の第1接合片と、射出成形により成形された板状の第2接合片とが接合されてなり、第1接合片と第2接合片との接合界面は、平面視において、耐熱テープが存在する予亀裂領域と、予亀裂領域に隣接し、亀裂が進展する亀裂進展領域とを含む。
【0022】
本実施形態の評価用試験片は、板状の第1接合片と板状の第2接合片とが接合されてなり、これら第1接合片と第2接合片との接合界面における破壊靭性値を評価するための試験片である。上述の通り、従来の射出成形接合体の場合は成形前の積層工程が存在しないため、フィルムの挿入による初期亀裂の導入が不可能であったが、本実施形態の評価用試験片は、第1接合片と第2接合片との接合界面の一部の領域(予亀裂領域)に耐熱テープが存在する。耐熱テープは第1接合片にのみ接着されており、第2接合片には接着されていない。そのため、第1接合片と第2接合片とに、上下方向に引張荷重を与えると、耐熱テープと第2接合片との界面において離隔する。ひいては、第1接合片と第2接合片との接合界面に初期亀裂の導入が可能となる。従って、本実施形態の評価用試験片は、射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価するための試験片として有用である。さらには、上述したDCB試験に準じた試験により、射出成形接合体の接合界面における破壊靭性の評価をすることができる。
【0023】
図1は、本実施形態の一例としての評価用試験片10の斜視図である。評価用試験片10においては、板状の第1接合片12の上側に、第1接合片12と同じ形状を有する板状の第2接合片14が接合されている。
図1において、上下方向に引張荷重を与えた状態を示しており、第1接合片12と第2接合片14の左側端部が離隔している。そのような状態でさらに引張荷重を与えることで、第1接合片12及び第2接合片14の接合界面における亀裂が進展し、破壊靭性を評価することができる。
図1は、評価用試験片10を概念的に示したものであり、評価用試験片10の詳細については以下に説明する。
【0024】
図2Aは、評価用試験片10の初期状態を示し、
図2Bは引張荷重を与えて、第1接合片12及び第2接合片14それぞれの端部が離隔した状態を示している。評価用試験片10は、第1接合片12と第2接合片14との間の界面において、第1接合片12の一部の領域に耐熱テープ16が貼付されている。第1接合片12において、耐熱テープ16が貼付される領域は、
図3に示す予亀裂領域12Aである。
図3において、耐熱テープ16が貼付される領域が予亀裂領域12Aであり、第1接合片12の耐熱テープ16が貼付されない領域が亀裂進展領域12Bである。予亀裂領域12Aにおいて、耐熱テープ16は第1接合片12に接着しているが、その上に位置する第2接合片14とは接着していない。
また、第1接合片12の端部近傍には蝶番(引張用部材)18が、第2接合片14の端部近傍には蝶番(引張用部材)20が接合されている。
図2Bに示すように、不図示の引張試験機等により蝶番18、20を上下方向に引張荷重を与えることにより、第1接合片12と第2接合片14とが離隔する。そして、予亀裂領域12Aの亀裂進展領域12Bと隣接する部位から亀裂が発生し、引張荷重に応じて亀裂進展領域12Bにおいて亀裂が進展する。そして、評価用試験片10を用い、例えば、JIS K 7086に準じて引張試験を実施することで亀裂の進展量を測定することができる。測定した亀裂の進展量は、破壊靭性評価に利用される。なお、JIS K 7086は、CFRPの層間破壊靱性試験方法であるが、本実施形態の評価用試験片は、耐熱テープにより積層構造としているため、当該試験方法を採用することができる。
【0025】
本実施形態の評価用試験片10において、第1接合片12と第2接合片14との接合界面において、亀裂進展領域12Bにおける予亀裂領域12A側の端部に、予め亀裂を導入することが好ましい。換言すると、
図4に示すように、耐熱テープ16の端部から亀裂進展領域12Bに向けて予め亀裂22を導入することが好ましい。なお、
図4において、亀裂22を明確に示すため、第1接合片12と第2接合片14との接合界面を示す線を省略している。
図4に示すように、亀裂22を予め導入することで、亀裂先端のRサイズを小さくでき、応力集中箇所となる事で、亀裂進展経路を接合界面へと誘導する事が容易になる。また、予め導入される亀裂は、例えば、3~5mmとすることができる。
【0026】
本実施形態の評価用試験片10は、上述の通り、引張試験を実施して接合界面における亀裂の進展量を測定することから、第1接合片12及び第2接合片14の亀裂進展領域12B側の側面の少なくとも一方に、予亀裂領域12Aと亀裂進展領域12Bとの境界からの距離を示す指標を有することが好ましい。当該指標を有することで、亀裂の進展量を容易に測定することができる。指標としては、例えば、
図5に示すように、目盛り24等が挙げられる。目盛り24は、一定間隔(例えば5mm)おきに付与されることが好ましい。また、予亀裂領域12Aと亀裂進展領域12Bとの境界からの距離が、例えば何mmかを示す数字を付与してもよい。
【0027】
上記のような指標を視認しやすくするため、指標が付与される側面を白色などに着色し、指標を黒色とするなど、側面の色相に対して、指標は視認性が良好な色相とすることが好ましい。換言すると、第1接合片12及び第2接合片14の亀裂進展領域12B側の側面の色相と指標の色相とが補色の関係となるように設定することが好ましい。
【0028】
本実施形態の評価用試験片の対象となる第1接合片としては、特に限定はなく、通常使用される金属、ガラス、セラミック等の無機成形体や樹脂成形体を使用することができる。金属としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、銅、チタン等を挙げることができる。金属は、金属合金から構成されてもよい。また、金属材料の表面には、陽極酸化処理等の表面処理がされていてもよい。
樹脂成形体の場合の樹脂は、熱可塑性樹脂でもよいし、熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂であれば、特に限定されず、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。樹脂に、無機充填剤であるガラス繊維等を混合した強化樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
一方、第2接合片は、熱可塑性樹脂を挙げることができ、射出成形によって成形される樹脂成形体である。なお、第1接合片と第2接合片との密着性が高い場合、耐熱テープによる予亀裂領域を設けることが接合界面の正しい破壊靭性値を評価する上で有用である。
また、第1接合片が樹脂成形体である場合、第2接合片は第1接合片と同じ樹脂からなる樹脂成形体であってもよい。
【0029】
第1接合片12に貼付される耐熱テープ16としては、ポリイミド製テープ、PTFE製テープ等が挙げられる。また、耐熱テープ16上に第2接合片14を形成する際に射出成形をすることから耐熱性が必要であり、そのため耐熱テープとしている。
【0030】
本実施形態の評価用試験片により、上述の通り、射出成形接合体の接合界面における破壊靭性値を評価することができる。その評価方法については後述する。
【0031】
<評価用試験片の作製方法>
本実施形態の評価用試験片の作製方法は、以上の本実施形態の評価用試験片の作製方法である。そして、以下の工程を順次含む。
評価用試験片の接合界面となる接合予定面を含む、板状の第1接合片を準備する工程A 第1接合片の接合予定面において、予め亀裂を生じさせる予亀裂領域と、亀裂が進展する亀裂進展領域とを決定する工程B
第1接合片の予亀裂領域に耐熱テープを貼付する工程C
第1接合片の耐熱テープを貼付した予亀裂領域及び亀裂進展領域の全体にわたり、第1接合片と同一又は異種の樹脂材料を射出成形して第2接合片を形成する工程D
以下、各工程について説明する。
【0032】
[工程A]
工程Aは、板状の第1接合片12を準備する工程である(
図6A)。第1接合片12は、評価用試験片としたときの接合界面となる接合予定面を含む。第1接合片12は、上述の通り、通常使用される金属、ガラス、セラミック等の無機成形体や樹脂成形体を使用することができる。第1接合片12の樹脂としては、本実施形態の評価用試験片において説明した内容がそのまま当てはまるためここでは説明を省略する。
【0033】
[工程B]
工程Bは、第1接合片の接合予定面において、予め亀裂を生じさせる予亀裂領域と、亀裂が進展する亀裂進展領域とを決定する工程である(
図6B)。すなわち、第1接合片12の一面において、後の工程において第2接合片14を接合する接合予定面において、予め亀裂を生じさせる予亀裂領域12Aと、亀裂が進展する亀裂進展領域12Bとを決定する。予亀裂領域12Aは、工程Cにおいて耐熱テープ16を貼付する領域であるため、耐熱テープ16のサイズを考慮して決定することができる。また、亀裂進展領域12Bは、亀裂を進展させて亀裂の進展量を評価するための領域であることから、予想される亀裂進展量が確保されるサイズとすることが好ましい。
【0034】
[工程C]
工程Cは、第1接合片の予亀裂領域に耐熱テープを貼付する工程である(
図6C)。すなわち、工程Bにおいて決定した、第1接合片12の予亀裂領域12Aに耐熱テープ16を貼付する。耐熱テープ16の貼付の仕方には制限なく、予亀裂領域12Aの面積よりも大きい耐熱テープ16を貼付した後、予亀裂領域12Aの大きさとなるように切断してもよい。また、耐熱テープに保護フィルムが貼付されている場合、耐熱テープの両面に、テフロン(登録商標)テープ等のテープを貼付することで、保護フィルムを簡単に剥がすことができ、かつ、耐熱テープへの傷を防止することができる。
なお、耐熱テープ16の素材等については、本実施形態の評価用試験片において説明した内容がそのまま当てはまるのでここでは説明を省略する。
【0035】
[工程D]
工程Dは、第1接合片の耐熱テープを貼付した予亀裂領域及び亀裂進展領域の全体にわたり、第1接合片と同一又は異種の樹脂材料を射出成形して第2接合片を形成する工程である。ここで、第1接合片12上に第2接合片14を形成しても、第2接合片14と耐熱テープ16とは接合しない。従って、
図6Dにおいて、第1接合片12の左端及び第2接合片14の左端は上下方向に引張荷重を与えると容易に離隔する。なお、耐熱テープ16の素材と第2接合片14を構成する樹脂とが接合し得る場合、何らかの処理を施して両者が接合しないようにする必要がある。
【0036】
工程Dにおける射出成形は、一般にインサート成形や二色成形と呼ばれる射出成形方法であり、公知の手法を採用することができる。
【0037】
第1接合片12と第2接合片14との接合強度を高めるには、例えば、国際公開第2014/125999号に記載されている表面処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等、第1接合片12及び第2接合片14の材質を考慮して、公知の方法を適宜選択することが好ましい。国際公開第2014/125999号に記載されている表面処理は、無機充填剤を含有する樹脂成形品の樹脂を一部除去し、無機充填剤が露出されている複数の溝を形成する処理である。第1接合片12に対してそのような処理をした後、第2接合片14を形成すると、第1接合片12の複数の溝内で露出する無機充填剤がアンカーの役割を果たし、第1接合片12と第2接合片14との接合強度を高めることができる。ただし、このような処理をするには無機充填剤が必要である。
なお、複数の溝はレーザー光照射により形成することができる。
【0038】
[工程E]
以上の工程A~工程Dにより、評価用試験片を作製することができる。さらに、引張試験をするためには、第1接合片12及び第2接合片14の予亀裂領域の両外側面に引張用部材18、20を接合する工程Eを含むことが好ましい(
図6E)。上述の通り、第1接合片12及び第2接合片14に引張用部材18、20を接合することで、上下方向への引張荷重の付与が容易となる。
ただし、第1接合片12及び第2接合片14と、引張用部材18、20との接合強度が十分でないと、評価試験に支障をきたす。第1接合片12及び第2接合片14の接合界面における破壊靭性値の評価する際、接合界面における亀裂が進展する前に引張用部材18、20が離脱する可能性があるためである。従って、(第1接合片12及び第2接合片14と引張用部材18、20との)接合耐荷重が、試験時の最大荷重よりも大きくなるように設定する必要がある。そのため、第1接合片12及び第2接合片14と、引張用部材18、20とにおいて十分な接合強度を確保する必要がある。
そこで、工程Dと工程Eとの間に、第1接合片12及び第2接合片14それぞれの予亀裂領域12Aの外側面の引張用部材18、20を接合する領域に表面処理を行うことが好ましい。ここで、表面処理とは、第1接合片12及び第2接合片14と、引張用部材18、20とが十分な接合強度で接合されるために、引張用部材を接合する面に施す処理である。
【0039】
表面処理としては、第1接合片12及び第2接合片14と、引張用部材18、20とに対して十分な接合強度が得られる処理であればよい。例えば、第1接合片12及び第2接合片14の接合強度を高めるための手法として上述した、国際公開第2014/125999号に記載されている表面処理が挙げられる。当該表面処理は、無機充填剤を含有する樹脂成形品の樹脂を一部除去し、無機充填剤が露出されている複数の溝を形成する処理である。第1接合片12及び第2接合片14に対してそのような処理をした後、引張用部材と接合した際に、第1接合片12及び第2接合片14の複数の溝内で露出する無機充填剤がアンカーの役割を果たし、引張用部材との接合強度を高めることができる。ただし、この処理をするには無機充填剤が必要である。
【0040】
第1接合片12及び第2接合片14と、引張用部材18、20との接合強度を評価するには、第1接合片12及び第2接合片14を使用するのではなく、例えば、
図7に示すように、単一の板状体26を用いることが好ましい。そして、板状体26の外側面のそれぞれに、工程Eと同じ接合方法により引張用部材18、20を接合し、引張試験により接合耐荷重値を評価することができる。このとき、引張用部材18、20が完全に剥がれるまで引張荷重を与えることで、接合耐荷重値の最大値が得られる。
なお、第1接合片12と第2接合片14の材質が異なる場合は、それぞれの材質の単一板状体26を用意し、それぞれの板状体26について接合耐荷重値を確認することが好ましい。
【0041】
[工程F]
さらに、亀裂進展領域における接合界面内の予亀裂領域側の端部に亀裂を導入する工程Fを工程Dの後に設けることができる(
図6F)。ここで、工程Fを工程Dの後に設けるとは、工程Dが完了した後、直ちに工程Fを実行する、又は工程D完了した後、一定時間経過後に工程Fを実行するということを示す。当該「一定時間経過後」の一定時間は特に制限はなく、数時間~数日、あるいはそれ以上でもよい。
【0042】
工程Fにおいては、亀裂進展領域における接合界面内の予亀裂領域側の端部に亀裂を導入するのであるが、亀裂の導入は、引張試験機を用いて予備的な荷重を負荷する、刃物を用いて切り込みを入れる等によって行うことができる。
【0043】
[工程G]
上述の通り、亀裂の進展量の測定を容易にするため、予亀裂領域12Aと亀裂進展領域12Bとの境界からの距離を示す指標を有することが好ましい(
図6G)。そのため、工程Gにおいては、第1接合片及び第2接合片の亀裂進展領域側の側面の少なくとも一方に、予亀裂領域と亀裂進展領域との境界からの距離を示す指標を付与することが好ましい。
指標は、例えば5mm間隔など、一定間隔おきに付与することが好ましい。また、指標は、ペン等の筆記具を用いて付与することもできるし、刃物により線状の傷を付与することもできる。
【0044】
以上は、DCB試験におけるモードIで使用される形態の評価用試験片について説明したが、本実施形態はそれに限定されることはない。
図8に示す、DCB試験におけるモードIIで使用される形態の評価用試験片30にも適用することができる。
図8に示す評価用試験片30においては、第1接合片32と第2接合片34が接合されているが、それらの接合界面においても、
図2~5で説明した態様とすることができる。ひいては、評価用試験片30は、DCB試験におけるモードIIの層間せん断強度の試験に使用することができる。
【0045】
<接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法>
本実施形態の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法は、上述の本実施形態の評価用試験片を用いて、引張試験により、第1接合片と第2接合片の接合界面における破壊靭性値を評価する評価方法である。すなわち、当該評価方法は、本実施形態の評価用試験片を用いる。
【0046】
本実施形態の評価方法においては、CFRPの層間破壊靱性試験方法として採用されている、モードI(開口型)破壊靭性評価手法;双片持ち梁(DCB)試験_JIS K7086に準じて評価することができる。すなわち、当該DCB試験におけるCFRP積層板による評価用試験片を、本実施形態の評価用試験片に置き換えることで、射出成形接合体の接合界面の破壊靭性値の評価を実現することができる。
【0047】
<射出成形接合体の寿命を予測する方法>
本実施形態の射出成形接合体の寿命を予測する方法は、上述の本実施形態の評価方法により得られる破壊靭性値を用いて、CAEにより、射出成形接合体の寿命を予測する方法である。例えば、CAE(計算機支援工学)による構造解析用計算モデルを作成し、本実施形態の評価方法により得られる破壊靭性値から、射出成形接合体の接合界面の亀裂の進展を考慮して寿命を予測することができる。
【実施例0048】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1~10]
各実施例において、第1接合片として、表1に記載の樹脂製の板状樹脂片(幅:20mm、全長:200mm、厚み:3mm)を準備した。なお、PBT樹脂は、ポリプラスチックス(株)製、ガラス繊維入りジュラネックス(登録商標)3300であり、PPS樹脂は、ガラス繊維入りジュラファイド(登録商標)1130A6である。
【0050】
次いで、各実施例において、第1接合片の接合予定面において、予亀裂領域と、亀裂進展領域とを決定した。すなわち、一端から84mmまでの領域を予亀裂領域とし、残りの116mmの領域を亀裂進展領域とした。決定した予亀裂領域に、ポリイミド製テープ(3M社製、耐熱ポリイミドテープ(7416Y(厚み:30μm))を貼付した。
【0051】
次いで、実施例2~5及び7~10においては、第1接合片の亀裂進展領域に表面処理を施した。当該表面処理は、レーザー光の照射により多数の溝を形成する処理である。具体的には、レーザーを溝の幅が約100μm、隣り合う溝の間隔が250μmになるように、斜格子状に照射した。レーザー光は、発振波長:1.064μm、最大定格出力:25W(平均)を用い、出力80%、周波数50kHz、走査速度2500mm/sとした。
そして、実施例2及び7における表面処理は、レーザー光の照射回数を2回とし、実施例3及び8における表面処理は、レーザー光の照射回数を10回とし、実施例4及び9における表面処理は、レーザー光の照射回数を20回とし、実施例5及び10における表面処理は、レーザー光の照射回数を30回とした。なお、実施例1及び6においては表面処理を施していない。また、表1において、「表面処理」の欄に記載された数値はレーザー光の照射回数を示す。
【0052】
さらに、各実施例・比較例において、第1接合片の耐熱テープを貼付した予亀裂領域及び亀裂進展領域の全体にわたり、第1接合片と同じ樹脂を射出成形することにより第2接合片を形成した。
【0053】
次いで、第1接合片及び第2接合片それぞれの予亀裂領域の外側面に接合する一対の蝶番(引張用部材)を準備し、蝶番の接合面を粗い紙やすりをこすりつけて荒らした。そして、各実施例・比較例において、接着剤(セメダイン(株)製、メタルロック)を、第1接合片及び第2接合片の蝶番を接合する領域に塗布した。その後、第1接合片及び第2接合片のそれぞれの接着剤を塗布した領域に蝶番を載置して接合した。
【0054】
以上のようにして、実施例1~10の評価用試験片を得た。
【0055】
[評価]
JIS K 7086に準じて、DCB試験を実施した。DCB試験の条件を以下に示す。
(条件)
・評価モード :モードI破壊靭性評価(JIS K7087)
・引張試験機 :(株)島津製作所製、オートグラフAGX-5
・予亀裂導入方法:引張試験機でPmaxまで荷重を与える。
・試験速度 :(開始~Pmax到達後):0.5mm/min
(Pmax到達後~):1.0mm/min
・CCDカメラ :Point Grey Research社製、GRAS-50S5M
・評価領域 :70mm
【0056】
DCB試験は、引張荷重を与えたときに、第1接合片及び第2接合片の接合界面に生じる亀裂の進展状況をCCDカメラにより撮影して、デジタル画像相関法(DICM)により解析し、亀裂の進展位置を決定した。そして、以下の式(1)により、破壊靭性値(GIC)を算出した。結果を表1に示す。なお、本評価試験において、式(1)中のPcは、最大荷重Pmaxとした。また、a1の算出には、試験力(P)、開口変位(δ)、亀裂進展量(a)の同期が必要である。
【0057】
【数1】
[式(1)中、G
ICは亀裂進展開始点のモードI相関破壊靭性値(kJ/m
2)。P
cは初期限界荷重(N)、2Hは試験片の厚み(mm)、Bは試験片の幅(mm)、a
1は規格の別の式より算出される値(N
1/3/mm
2/3)、λ
0は荷重変位曲線における初期のコンプライアンス(mm/N)を表す。]
【0058】
【0059】
表1より、レーザー処理回数の増加に伴い、接合強度と関係しうる初期限界荷重が増加し、破壊靭性も増加することが分かる。すなわち、本実施形態の評価用試験片を用いることで、射出成形接合体の接合界面の破壊靭性値を評価できることが確認された。
【0060】
[参考例1~12]
参考例1~12においては、第1接合片及び第2接合片と蝶番(引張用部材)との接合強度を評価するため、
図7に示すように、単一の板状体26を用いて引張試験を実施した。
【0061】
各参考例において、表2に示す材質の単一の板状体を準備した。次いで、参考例1~8においては板状体に表2に示す表面処理を施した。表面処理1は、レーザー光の照射により多数の溝を形成する処理である。また、表面処理2は、コロナ放電処理である。なお、参考例9~12においては表面処理を施していない。また、PBT樹脂は、ポリプラスチックス(株)製、ガラス繊維入りジュラネックス(登録商標)3300であり、及びPPS樹脂は、ガラス繊維入りジュラファイド(登録商標)1130A6である。
【0062】
次いで、一対の蝶番(引張用部材)を準備し、蝶番の接合面を粗い紙やすりを擦りつけて荒らした。そして、各参考例において、表2に記載の接着剤を、板状体の両面の蝶番を接合する領域に塗布した。その後、板状体両面のそれぞれの接着剤を塗布した領域に蝶番を載置して接合した。接着剤1を用いた参考例は、室温23℃にて24時間かけて硬化させた。接着剤2を用いた参考例は、恒温槽150℃で1時間熱硬化させた後、恒温槽から取り出し、室温に戻るまで静置した。なお、接着剤1及び2は以下の通りである。
接着剤1:2液混合型アクリル系接着剤(セメダイン(株)製 メタルロック)
接着剤2:1液エポキシ接着剤(ナガセケムテックス(株)製、XNR3503)
【0063】
[評価]
各参考例で作製した試験片を用いて、DCB試験を実施して評価した。引張試験を行い、蝶番が完全に剥離するまで荷重を与え、そのときの荷重値を耐荷重(N)とした。また、蝶番が剥離したときの状態を目視観察し、以下の破壊モードのどれに該当するかを確認した。結果を表2に示す。
評価数:各接着条件 N=5
引張試験機:(株)島津製作所製オートグラフAGX-5(引張速度0.5mm/min、試験片保護有)
破壊モード:引張試験後、破面を目視観察し、破壊モードを確認
破壊モードA:界面剥離(接着剤が成形品側又は蝶番側の界面で剥離した場合)
破壊モードB:接着剤の凝集剥離(接着剤の内部で剥離した場合)
破壊モードD:材料の凝集剥離(成形品又は蝶番の一部が破壊されて剥離した場合) 破壊モードBD:BとDの混合状態
【0064】
【0065】
表2より、表面処理1を施し、かつ、接着剤1を用いた参考例1、3が最も耐荷重値が大きいことが分かる。