IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図1
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図2
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図3
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図4
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図5
  • 特開-硫化物固体電解質の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144750
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130602
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2022180806の分割
【原出願日】2017-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2016177844
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016248018
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017091745
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】寺井 恒太
(72)【発明者】
【氏名】梅木 孝
(72)【発明者】
【氏名】中川 將
(72)【発明者】
【氏名】山口 展史
(57)【要約】
【課題】より高いイオン伝導度を有する、新規な硫化物固体電解質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムと、リンと、硫黄と、塩素と、臭素と、を含む原料を、粉砕機で粉砕混合して中間体を作製する工程と、中間体を350~480℃で熱処理する工程を含み、原料の、前記塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(1)を満たす、アルジロダイト型結晶を含む、硫化物固体電解質の製造方法。
1.2<c+d<1.9・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと、リンと、硫黄と、塩素と、臭素と、を含む原料を、粉砕機で粉砕混合して中間体を作製する工程と、
前記中間体を350~480℃で熱処理する工程を含み、
前記原料の、前記塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(1)を満たす、アルジロダイト型結晶を含む、硫化物固体電解質の製造方法。
1.2<c+d<1.9・・・(1)
【請求項2】
前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)が0.15以上1.6以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(2)を満たす請求項1又は2に記載の製造方法。
0.08<d/(c+d)<0.8・・・(2)
【請求項4】
前記リチウムのリンに対するモル比a(Li/P)と、前記硫黄のリンに対するモル比b(S/P)と、前記塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(3)~(5)を満たす請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
5.0≦a≦7.5 ・・・(3)
6.5≦a+c+d≦7.5 ・・・(4)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(5)
(式中、b>0且つc>0且つd>0を満たす。)
【請求項5】
前記式(1)のc+dが1.4以上1.8以下である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理の温度が360~460℃である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理の雰囲気が不活性ガス雰囲気下である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質の結晶構造としては種々のものが知られているが、その1つとしてアルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造がある。特許文献1~5や非特許文献1~3等には1種のハロゲンを含むアルジロダイト型結晶構造が開示されている。また、非特許文献4及び5ではLiPSCl1-xBrの組成を有する固体電解質が報告されており、ハロゲンを2種含むアルジロダイト型結晶構造が開示されている。アルジロダイト型結晶構造には、リチウムイオン伝導度の高いものが存在する。しかしながら、イオン伝導度のさらなる改善が求められている。また、一般的に硫化物系固体電解質は、大気中の水分と反応して硫化水素を発生する可能性があるという課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-540396号公報
【特許文献2】国際公開WO2015/011937
【特許文献3】国際公開WO2015/012042
【特許文献4】特開2016-24874号公報
【特許文献5】国際公開WO2016/104702
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Angew.chem Vol.47(2008),No.4,P.755-758
【非特許文献2】Phys.Status.Solidi Vol.208(2011),No.8,P.1804-1807
【非特許文献3】Solid State Ionics Vol.221(2012)P.1-5
【非特許文献4】電気化学会第82回講演要旨集(2015),2H08
【非特許文献5】日本化学会第94春季年会2014年講演予稿集II,P.474,1 H2-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、より高いイオン伝導度を有し、新規な硫化物固体電解質を提供することである。
また、本発明の目的の1つは、大気中の水分との反応による硫化水素の発生量を抑制した新規な硫化物固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、リチウムと、リンと、硫黄と、塩素と、臭素と、を含み、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、2θ=29.7±0.5degに回折ピークBを有し、前記回折ピークA及び前記回折ピークBが、下記式(A)を満たし、前記塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、前記臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(1)を満たす、新規な硫化物固体電解質が提供される。
1.2<c+d<1.9・・・(1)
0.845<S/S<1.200・・・(A)
(式中、Sは前記回折ピークAの面積を示し、Sは前記回折ピークBの面積を示す。)
また、本発明の一実施形態によれば、上記硫化物固体電解質と、活物質を含む電極合材が提供される。
また、本発明の一実施形態によれば、上記硫化物固体電解質及び上記電極合材のうち少なくとも1つを含むリチウムイオン電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質を提供することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、大気中の水分との反応による硫化水素の発生量を抑制した硫化物固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】硫化物固体電解質の製造に用いる多軸混練機の一例の、回転軸の中心で破断した平面図である。
図2】硫化物固体電解質の製造に用いる多軸混練機の一例の、回転軸のパドルが設けられる部分の、該回転軸に対して垂直に破断した平面図である。
図3】実施例1で得た硫化物固体電解質のX線回折パターンである。
図4】比較例2で得た硫化物固体電解質のX線回折パターンである。
図5】硫化物固体電解質の硫化水素発生量評価に用いた装置の説明図である。
図6】実施例1で得た硫化物固体電解質の放射光による構造解析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、リチウム(Li)と、リン(P)と、硫黄(S)と、塩素(Cl)と、臭素(Br)と、を構成元素として含む。そして、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.2±0.5degに回折ピークAを、29.7±0.5degに回折ピークBを有し、回折ピークA及び回折ピークBが、下記式(A)を満たすことを特徴とする。
0.845<S/S<1.200・・・(A)
(式中、Sは回折ピークAの面積を示し、Sは回折ピークBの面積を示す。)
【0012】
回折ピークA及び回折ピークBは、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークである。回折ピークA及び回折ピークBの他に、アルジロダイト型結晶構造の回折ピークは、例えば、2θ=15.3±0.5deg、17.7±0.5deg、31.1±0.5deg、44.9±0.5deg又は47.7±0.5degにも現れることがある。本実施形態の硫化物固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。
【0013】
なお、本願において回折ピークの位置は、中央値をAとした場合、A±0.5degで判定しているが、A±0.3degであることが好ましい。例えば、上述した2θ=25.2±0.5degの回折ピークの場合、中央値Aは25.2degであり、2θ=25.2±0.3degの範囲に存在することが好ましい。本願における他のすべての回折ピーク位置の判定についても同様である。
【0014】
本実施形態の硫化物固体電解質は、上記式(A)を満たすことにより、従来のアルジロダイト型結晶構造含有固体電解質よりも、イオン伝導度が高くなる。上記式(A)は、回折ピークの面積比(S/S)が、従来のアルジロダイト型結晶構造含有固体電解質よりも大きいことを意味する。回折ピークの面積比(S/S)は0.850以上1.150以下であることが好ましく、0.860以上1.100以下であることがより好ましい。
【0015】
面積比(S/S)が大きいことは、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有しているハロゲン(Cl及びBrの合計)の比率が高いことを意味していると考えられる。なかでも、Brのサイト占有率が従来技術と比較して高くなったものと推定している。一般に硫化物固体電解質中には、多種の結晶成分及び非晶質成分が混在している。硫化物固体電解質の構成元素として投入したClとBrの一部は、アルジロダイト型結晶構造を形成し、他のClとBrはアルジロダイト型結晶構造以外の結晶構造及び非晶質成分を形成している。また、残留原料に含まれている場合も考えられる。本実施形態は、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有するハロゲンの比率、なかでも、Brのサイト占有率を従来技術より高くすることにより、面積比(S/S)が大きくなり、硫化物固体電解質のイオン伝導度が高くなることを見出したものである。
【0016】
アルジロダイト型結晶構造は、PS 3-構造を骨格の主たる単位構造とし、その周辺にあるサイトを、Liで囲まれたS及びハロゲン(Cl,Br)が占有している構造である。
結晶構造の各元素座標から、該結晶構造のX線回折ピークの面積比が算出できる(XRD回折ハンドブック第三版、理学電機(株)、2000、p14-15参照。)。一般的なアルジロダイト型結晶構造は、空間群F-43Mで示され、International Tables for Crystallography Volume G: Definition and exchange of crystallographic data(ISBN: 978-1-4020-3138-0)のデータベースにあるNo.216で示される結晶構造である。No.216に示される結晶構造には、PS 3-構造の周辺に4aサイトと4dサイトが存在し、イオン半径の大きい元素は4aサイトを占有し易く、イオン半径の小さい元素は4dサイトを占有し易い。
【0017】
アルジロダイト型結晶構造の単位格子には、4aサイト及び4dサイトが合わせて8個ある。これらのサイトに、Clを4個とSを4個配置した場合(ケース1)、及び、Clを4個とBrを2個とSを2個配置した場合(ケース2)について、X線回折ピークの面積比を算出した。その結果、ケース2の方がケース1よりも、回折ピークA(2θ=25degにある回折ピーク)の面積が広くなる一方、回折ピークB(2θ=30degにある回折ピーク)の面積は変化が小さいことがわかった。上記計算結果から、Brがサイトを占有することで、面積比(S/S)が大きくなると考えられる。
【0018】
一般的に、X線回折ピークの面積比や強度比は、元素の電子数に比例する(「X線結晶解析の手引き」、裳華房(1983)参照。)。ClやSは概ね電子数が同じであり、Brの方が電子数は多いため、回折ピークAに相当する結晶回折面においてBrのサイト占有率が高くなったものと考えられる。なお、イオン半径の大きさから考えると、なかでも、4aサイトにおける占有率が高くなったと推定できる。
【0019】
アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有するハロゲンの量が増加することは、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有するSの量が相対的に減少することを意味する。価数が-1であるハロゲンは、価数が-2であるSより、Liを引き付ける力が弱い。また、引き付けるLiの数が少ない。そのため、サイト周辺のLiの密度が低下し、また、Liが動きやすくなることから、アルジロダイト型結晶構造のイオン伝導度が高くなると考えられる。
【0020】
なお、ハロゲンがClのみである場合、4aサイトではSの占有率が高くなる。Sとイオン半径が同等であるBrをClとともに使用することで、4aサイトのBr占有率が高くなり、結果的に全体のハロゲン占有率は向上する。また、Clが一部の4aサイトを占有している場合であっても、4aサイトのClは不安定であり、熱処理の過程で脱離する可能性がある。したがって、単にハロゲン占有率を高めるだけでなく、適したイオン半径のハロゲンが、適したサイトを占有することが好ましいと考えられる。本実施形態では、2種のハロゲン(ClとBr)が多量且つ適切にアルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有しているためにイオン伝導度が高くなるものと推定している。
【0021】
また、本実施形態では塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
1.2<c+d<1.9・・・(1)
c+dは塩素及び臭素のリンに対するモル比である。上記範囲とすることにより、硫化物固体電解質のイオン伝導度の向上効果が高くなる。c+dは、好ましくは、1.4以上1.8以下であり、より好ましくは、1.5以上1.7以下である。
【0022】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、臭素のリンに対するモル比d(Br/P)は0.15以上1.6以下であることが好ましい。モル比dは0.2以上1.2以下であることがさらに好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。
【0023】
また、塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
0.08<d/(c+d)<0.8・・・(2)
d/(c+d)は、より好ましくは、0.15以上0.6以下であり、さらに好ましくは、0.2以上0.5以下である。
【0024】
リチウムのリンに対するモル比a(Li/P)と、硫黄のリンに対するモル比b(S/P)と、塩素のリンに対するモル比c(Cl/P)と、臭素のリンに対するモル比d(Br/P)とが、下記式(3)~(5)を満たすことが好ましい。
5.0≦a≦7.5 ・・・(3)
6.5≦a+c+d≦7.5 ・・・(4)
0.5≦a-b≦1.5 ・・・(5)
(式中、b>0且つc>0且つd>0を満たす。)
上記式(3)~(5)を満たすことにより、アルジロダイト型結晶構造が形成されやすくなる。
【0025】
上記式(3)は、5.0≦a≦6.8であることが好ましく、5.2≦a≦6.6であることがより好ましい。
上記式(4)は、6.6≦a+c+d≦7.4であることが好ましく、6.7≦a+c+d≦7.3であることがより好ましい。
上記式(5)は、0.6≦a-b≦1.3であることが好ましく、0.7≦a-b≦1.3であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る硫化物固体電解質は、上記Li、P、S、Cl及びBrの他に、本発明の効果を損なわない範囲でSi、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb、Bi、O、Se、Te等を含んでいてもよい。また、実質的にLi、P、S、Cl及びBrのみからなっていてもよい。実質的にLi、P、S、Cl及びBrのみからなるとは、硫化物固体電解質が、不可避不純物を除き、Li、P、S、Cl及びBrのみを構成元素とすることを意味する。
【0027】
上述した各元素のモル比や組成は、製造に使用した投入原料におけるモル比や組成ではなく、生成物である硫化物固体電解質におけるものである。各元素のモル比は、例えば原料における各元素の含有量を調製することにより制御できる。
【0028】
本願において、硫化物固体電解質における各元素のモル比や組成は、分析困難である等の特別な事情を除いて、ICP発光分析法で測定した値を用いるものとする。ICP発光分析法の測定方法は、実施例に記載する。
【0029】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、CuKα線を使用した粉末X線回折において、ハロゲン化リチウムの回折ピークを有しないか、有する場合には下記式(B)を満たすことが好ましい。
0<I/I<0.08・・・(B)
(式中、Iはハロゲン化リチウムの回折ピークの強度を表し、Iは2θ=25.2±0.5degの回折ピークの強度を表す。)
【0030】
上記式(B)は、アルジロダイト型結晶構造に比して、ハロゲン化リチウムの量が相対的に少ないことを表す。ハロゲン化リチウムが存在することは、硫化物固体電解質中の全ハロゲンのうち、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有していないハロゲンが存在していることを示している。
ハロゲン化リチウムの回折ピークの強度Iは、ハロゲン化リチウムがLiClである場合、34.0deg≦2θ≦35.5degの範囲に現れる回折ピークの強度とする。ただし、当該範囲に回折ピークが2つ以上存在する場合には、最も高角側に現れる回折ピークの強度とする。LiBrである場合、Iは32.5deg≦2θ≦33.9degの範囲に現れる回折ピークの強度とする。ただし、当該範囲に回折ピークが2つ以上存在する場合には、最も低角側に現れる回折ピークの強度とする。このように定義する理由は、後述するハロゲンを含む新規な結晶構造が存在する場合には、14.4±0.5deg及び33.8±0.5degに回折ピークが出現するためである。ここで、14.4±0.5degに回折ピークが観測されているにもかかわらず、32.5deg≦2θ≦35.5degの範囲に1つだけしか回折ピークが観測されなかった場合は、これらの回折ピークは後述するハロゲンを含む新規な結晶構造に由来するものと考えられる。この場合は、ハロゲン化リチウムの回折ピークは現れなかったものとする。なお、LiCl及びLiBrの回折ピークが観測された場合、Iは、これら回折ピークの強度の合計とする。
式(B)は、0<I/I<0.07であることがより好ましく、0<I/I<0.06であることがさらに好ましい。
【0031】
また、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=14.4±0.5deg及び33.8±0.5degに回折ピークを有しないか、有する場合には下記式(C)を満たすことが好ましい。
0<I/I<0.09・・・(C)
(式中、Iは2θ=14.4±0.5degの回折ピークの強度を表し、Iは2θ=25.2±0.5degの回折ピークの強度を表す。)
【0032】
2θ=14.4±0.5deg及び33.8±0.5degに回折ピークを有する結晶は新規であるが、一部にハロゲンを含む構造であると推定している。上記式(C)は、アルジロダイト型結晶構造に比して、当該新規の結晶構造が相対的に少ないことを表す。当該新規の結晶構造が存在することは、硫化物固体電解質中の全ハロゲンのうち、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有していないハロゲンが存在していることを示している。
式(C)は、0<I/I<0.06であることがより好ましく、さらに、0<I/I<0.05であることが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、アルジロダイト型結晶構造の格子定数が9.800Å以上9.920Å以下であることが好ましい。
アルジロダイト型結晶構造の格子定数が小さいことは、該結晶構造に含まれている塩素と臭素の量が多いことを意味していると考えられる。9.800Å未満になると、該結晶構造に臭素が取り込まれにくくなると考えられる。
【0034】
アルジロダイト型結晶構造の格子定数は、X線回折測定(XRD)で得られるXRDパターンから、結晶構造解析ソフトにて全パターンフィッティング(WPF)解析することにより算出する。測定の詳細は実施例に示す。
【0035】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質では、固体31P-NMR測定において、81.5~82.5ppm(以下、第1領域という。)、83.2~84.7ppm(以下、第2領域という。)、85.2~86.7ppm(以下、第3領域という。)及び87.2~89.4ppm(以下、第4領域という。)のそれぞれにピークを有し、78~92ppmにある全ピークの合計面積に対する81.5~82.5ppmにあるピークと83.2~84.7ppmにあるピークの面積の和との比率が60%以上であることが好ましい。第1ピークと第2ピークの面積の和の比率が高いことは、アルジロダイト型結晶構造中に取り込まれている塩素量と臭素量の和が多いことを示していると推定する。その結果、固体電解質のイオン伝導度が高くなる。
なお、第1領域にあるピークを第1ピーク(P)と、第2領域にあるピークを第2ピーク(P)と、第3領域にあるピークを第3ピーク(P)と、第4領域にあるピークを第4ピーク(P)という。
領域にピークがあるとは、領域内にピークトップを有するピークがあるか、又は、非線形最少二乗法による分離時にこの領域のピークがあることを意味する。
【0036】
ハロゲンが塩素であるアジロダイト型結晶構造(LiPSCl)には、結晶中のPS 3-構造周囲の遊離塩素(Cl)と遊離硫黄(S)の分布状態の違いにより、その固体31P-NMRスペクトルには化学シフトの異なる複数のリンの共鳴線が重なって観察されることが報告されている(非特許文献1)。本発明者らは、これらの知見に基づき、遊離ハロゲンと遊離Sの比率が異なるアジロダイト結晶の固体31P-NMRスペクトルを検討した。その結果、78~92ppmの領域に観察されるNMR信号は、周囲の遊離Sと遊離ハロゲンの分布状態が異なる4種類のPS 3-構造のピークに分離できることを見出した。また、4種類のピークのうち、高磁場側のピーク(上記第1ピークと第2ピークの和)の面積比が高い場合、固体電解質のイオン伝導度が高いことを見出した。上記第1ピークと第2ピークは周囲の遊離元素の多くがClやBrであるPS 3-構造に由来すると推定している。一方、第3ピークと第4ピークは周囲の遊離元素の多くがSであるPS 3-構造に由来すると推定している。
【0037】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質は、例えば、原料の混合物に、機械的応力を加えて反応させることにより、中間体を作製する工程と、中間体を熱処理して結晶化する工程を有する製造方法により作製できる。
【0038】
使用する原料は、製造する硫化物固体電解質が必須として含む元素、すなわち、リチウム、リン、硫黄、塩素及び臭素を全体として含む2種以上の化合物又は単体を組み合わせて使用する。
【0039】
リチウムを含む原料としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等が挙げられる。中でも、リチウム化合物が好ましく、硫化リチウムがより好ましい。
上記硫化リチウムは、特に制限なく使用できるが、高純度のものが好ましい。硫化リチウムは、例えば、特開平7-330312号公報、特開平9-283156号公報、特開2010-163356号公報、特開2011-84438号公報に記載の方法により製造することができる。
具体的には、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを70℃~300℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成できる(特開2010-163356号公報)。
また、水溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを10℃~100℃で反応させて、水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を脱硫化水素化することにより硫化リチウムを合成できる(特開2011-84438号公報)。
【0040】
リンを含む原料としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物、及びリン単体等が挙げられる。これらの中でも、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。リン化合物及びリン単体は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0041】
塩素及び/又は臭素を含む原料としては、例えば、下記式(6)で表される、ハロゲン化合物を含むことが好ましい。
-X・・・(6)
【0042】
式(6)中、Mは、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、又はこれらの元素に酸素元素、硫黄元素が結合したものを示し、リチウム(Li)又はリン(P)が好ましく、リチウム(Li)がより好ましい。
Xは、塩素(Cl)又は臭素(Br)である。
また、lは1又は2の整数であり、mは1~10の整数である。mが2~10の整数の場合、すなわち、Xが複数存在する場合は、Xは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、後述するSiBrClは、mが4であって、XはBrとClという異なる元素からなるものである。
【0043】
上記式(6)で表されるハロゲン化合物としては、NaCl、NaBr、LiCl、LiBr、BCl、BBr、AlBr、AlCl、SiCl、SiCl、SiCl、SiBr、SiBrCl、SiBrCl、PCl、PCl、POCl、PBr、POBr、PCl、SCl、SCl、SBr、GeCl、GeBr、GeCl、GeBr、AsCl、AsBr、SeCl、SeCl、SeBr、SeBr、SnCl、SnBr、SnCl、SnBr、SbCl、SbBr、SbCl、TeCl、TeCl、TeBr、TeBr、PbCl、PbCl、PbBr、BiCl、BiBr等が挙げられる。
【0044】
中でも、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、五塩化リン(PCl)、三塩化リン(PCl)、五臭化リン(PBr)又は三臭化リン(PBr)が好ましく挙げられる。中でも、LiCl、LiBr又はPBrが好ましく、LiClとLiBrがより好ましい。
ハロゲン化合物は、上記の化合物の中から一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち上記の化合物の少なくとも1つを用いることができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、原料がリチウム化合物、リン化合物及びハロゲン化合物を含み、該リチウム化合物、及びリン化合物の少なくとも一方が硫黄元素を含むことが好ましく、LiSと硫化リンとLiClとLiBrとの組合せであることがより好ましく、LiSとPとLiClとLiBrの組合せであることが更に好ましい。
例えば、硫化物固体電解質の原料として、LiS、P、LiClとLiBrを使用する場合には、投入原料のモル比を、LiS:P:LiClとLiBrの合計=30~60:10~25:15~50とすることができる。
【0046】
本発明の一実施形態においては、上記の原料に機械的応力を加えて反応させ、中間体とする。ここで、「機械的応力を加える」とは、機械的にせん断力や衝撃力等を加えることである。機械的応力を加える手段としては、例えば、遊星型ボールミル、振動ミル、転動ミル等の粉砕機や、混練機等を挙げることができる。
従来技術(例えば、特許文献2等)では、原料粉末の結晶性を維持できる程度に粉砕混合している。一方、本実施形態では原料に機械的応力を加えて反応させ、ガラス成分を含む中間体とすることが好ましい。すなわち、従来技術よりも強い機械的応力により、原料粉末の少なくとも一部が結晶性を維持できない状態まで粉砕混合する。これにより、中間体の段階でアルジロダイト型結晶構造の基本骨格であるPS構造を生じさせ、かつ、ハロゲンを高分散させることができる。中間体内で高分散したハロゲンが、熱処理により効率よくアルジロダイト型結晶構造中のサイトに導入されると推定している。これにより、本実施形態の硫化物固体電解質は高いイオン伝導度を発現すると推定している。
尚、中間体がガラス(非晶質)成分を含むことは、XRD測定において非晶質成分に起因するブロードなピーク(ハローパターン)の存在により確認できる。
【0047】
粉砕混合の条件としては、例えば、粉砕機として遊星型ボールミルを使用した場合、回転速度を数十~数百回転/分とし、0.5時間~100時間処理すればよい。より具体的に、本願実施例で使用した遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)の場合、遊星型ボールミルの回転数は350rpm以上400rpm以下が好ましく、360rpm以上380rpm以下がより好ましい。
粉砕メディアであるボールは、例えば、ジルコニア製ボールを使用した場合、その直径は0.2~20mmが好ましい。
【0048】
粉砕混合で作製した中間体を熱処理する。熱処理温度は350~480℃が好ましく、360~460℃がさらに好ましく、380~450℃がより好ましい。熱処理温度は従来と比べて若干低くした方が、アルジロダイト型結晶構造に含まれるハロゲンは増加する傾向がある。これは熱処理温度が高いとハロゲンがアルジロダイト型結晶構造中のサイトから離脱しやすくなるためと推定している。
熱処理の雰囲気は特に限定しないが、好ましくは硫化水素気流下ではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。結晶構造中の遊離ハロゲンが硫黄で置換されることを抑制することにより、結晶構造中のハロゲン量を高めることができ、その結果、得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度が向上すると推定される。
【0049】
上記機械的応力を加える手段として混練機を用いる場合、当該混練機は、特に限定されないが、簡易に製造できる観点から2本以上の軸を具備する多軸混練機が好ましい。
【0050】
多軸混練機としては、例えば、ケーシングと、該ケーシングを長手方向に貫通するように配され、軸方向に沿ってパドル(スクリュー)が設けられた2本以上の回転軸とを備え、該ケーシングの長手方向の一端に原料の供給口、他端に排出口を備えたもので、2以上の回転運動が相互に作用して機械的応力を生じるものであれば、他の構成は特に制限はない。このような多軸混練機のパドルが設けられた2本以上の回転軸を回転させることにより、2以上の回転運動が相互に作用して機械的応力を生じることができ、該回転軸に沿って供給口から排出口の方向に向かって移動する原料に対して該機械的応力を加えて反応させることが可能となる。
【0051】
本発明の一実施形態で用い得る多軸混練機の好ましい一例について、図1及び2を用いて説明する。図1は、多軸混練機の回転軸の中心で破断した平面図であり、図2は回転軸のパドルが設けられる部分の、該回転軸に対して垂直に破断した平面図である。
図1に示される多軸混練機は、一端に供給口2、他端に排出口3を備えるケーシング1、該ケーシング1の長手方向に貫通するように2つの回転軸4a、及び4bを備える二軸混練機である。該回転軸4a及び4bには、各々パドル5a及び5bが設けられている。原料は、供給口2からケーシング1内に入り、パドル5a及び5bにおいて機械的応力が加えられて反応させ、得られた反応物は排出口3から排出される。
【0052】
回転軸4は、2本以上あれば特に制限はなく、汎用性を考慮すると、2~4本であることが好ましく、2本であることがより好ましい。また、回転軸4は互いに平行である平行軸が好ましい。
パドル5は原料を混練させるために回転軸に備えられるものであり、スクリューとも称されるものである。その断面形状は特に制限なく、図2に示されるような、正三角形の各辺が一様に凸円弧状となった略三角形の他、円形、楕円形、略四角形等が挙げられ、これらの形状をベースとして、一部に切欠け部を有した形状であってもよい。
【0053】
パドルを複数備える場合、図2に示されるように、各々のパドルは異なる角度で回転軸に備えられていてもよい。また、より混練の効果を得ようとする場合には、パドルは、かみ合い型を選択すればよい。
なお、パドルの回転数は特に限定されないが、40~300rpmが好ましく、40~250rpmがより好ましく、40~200rpmがさらに好ましい。
【0054】
多軸混練機は、原料を滞りなく混練機内に供給させるため、図1に示されるように供給口2側にスクリュー6を備えていてもよく、またパドル5を経て得られた反応物がケーシング内に滞留しないようにするため、図1に示されるように排出口3側にリバーススクリュー7を備えていてもよい。
多軸混練機としては、市販される混練機を用いることもできる。市販される多軸混練機としては、例えば、KRCニーダー((株)栗本鐡工所製)等が挙げられる。
【0055】
原料の混練時間は、得ようとする硫化物固体電解質を構成する元素の種類、組成比、反応時の温度によって異なるため、適宜調整すればよく、好ましくは5分~50時間、より好ましくは10分~15時間、さらに好ましくは1~12時間である。
原料の混練温度は、得ようとする硫化物固体電解質を構成する元素の種類、組成比、反応時の時間によって異なるため、適宜調整すればよく、好ましくは0℃以上、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは100℃以上、最も好ましくは250℃以上である。高温である程、混練時点でアルジロダイト型結晶構造を析出させることが可能となる。350℃以上であればアルジロダイト型結晶構造がより析出し易くなると考えられる。なお、混練温度の上限は、生じたアルジロダイト型結晶構造が分解しない程度、即ち、500℃未満であればよい。
【0056】
多軸混練機の排出口から出てきた中間体をその反応の進行の度合いに応じて、再び供給口から供給し、さらに反応を進行させてもよい。反応の進行の度合いは、得られた中間体の原料由来のピークの増減により把握することができる。
【0057】
混練で得られた中間体を熱処理することで硫化物固体電解質が得られる。熱処理温度は350~480℃が好ましく、360~460℃がさらに好ましく、380~450℃がより好ましい。熱処理の雰囲気は特に限定しないが、好ましくは硫化水素気流下ではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。
【0058】
本発明の硫化物固体電解質は、リチウムイオン二次電池等の固体電解質層、正極、負極等に用いることができる。
【0059】
[電極合材]
本発明の一実施形態の電極合材は、上述した本発明の硫化物固体電解質と、活物質を含む。又は、本発明の硫化物固体電解質により製造される。活物質として負極活物質を使用すると負極合材となる。一方、正極活物質を使用すると正極合材となる。
【0060】
・負極合材
本発明の硫化物固体電解質に負極活物質を配合することにより負極合材が得られる。
負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料等を使用することができる。これらのうち2種以上からなる複合体も使用できる。また、今後開発される負極活物質も使用することができる。
また、負極活物質は電子伝導性を有していることが好ましい。
炭素材料としては、グラファイト(例えば、人造黒鉛)、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等が挙げられる。
金属材料としては、金属単体、合金、金属化合物が挙げられる。当該金属単体としては、金属ケイ素、金属スズ、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミニウムが挙げられる。当該合金としては、ケイ素、スズ、リチウム、インジウム及びアルミニウムのうち少なくとも1つを含む合金が挙げられる。当該金属化合物としては、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、例えば酸化ケイ素、酸化スズ、酸化アルミニウムである。
【0061】
負極活物質と固体電解質の配合割合は、負極活物質:固体電解質=95重量%:5重量%~5重量%:95重量%が好ましく、90重量%:10重量%~10重量%:90重量%がより好ましく、85重量%:15重量%~15重量%:85重量%がさらに好ましい。
負極合材における負極活物質の含有量が少なすぎると電気容量が小さくなる。また、負極活物質が電子伝導性を有し、導電助剤を含まないか、又は少量の導電助剤しか含まない場合には、負極内の電子伝導性(電子伝導パス)が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。一方、負極合材における負極活物質の含有量が多すぎると、負極内のイオン伝導性(イオン伝導パス)が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。
【0062】
負極合材は導電助剤をさらに含有することができる。
負極活物質の電子伝導性が低い場合には、導電助剤を添加することが好ましい。導電助剤は、導電性を有していればよく、その電子伝導度は、好ましくは1×10S/cm以上であり、より好ましくは1×10S/cm以上である。
導電助剤の具体例としては、好ましくは炭素材料、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含む物質であり、より好ましくは導電性が高い炭素単体、炭素単体以外の炭素材料;ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。
なお、炭素材料の具体例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック;黒鉛、炭素繊維、活性炭等が挙げられ、これらは単独でも2種以上でも併用可能である。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラック、デンカブラック、ケッチェンブラックが好適である。
【0063】
負極合材が導電助剤を含む場合の導電助剤の合材中の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~20質量%である。導電助剤の含有量が少なすぎると、負極の電子伝導性が低下してレート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。一方、導電助剤の含有量が多すぎると、負極活物質の量及び/又は固体電解質の量が少なくなる。負極活物質の量が少なくなると電気容量が低下すると推測する。また、固体電解質の量が少なくなると負極のイオン伝導性が低下し、レート特性が低くなるおそれや、負極活物質の利用率が下がり、電気容量が低下するおそれがあると考える。
【0064】
負極活物質と固体電解質を互いに密に結着させるため、さらに結着剤を含んでもよい。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、あるいはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0065】
負極合材は、固体電解質と負極活物質、並びに任意の導電助剤及び/又は結着剤を混合することで製造できる。
混合方法は特に限定されないが、例えば、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、遊星型ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、カッターミルを用いて混合する乾式混合;及び有機溶媒中に原料を分散させた後に、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、フィルミックスを用いて混合し、その後溶媒を除去する湿式混合を適用することができる。これらのうち、負極活物質粒子を破壊しないために湿式混合が好ましい。
【0066】
・正極合材
本発明の固体電解質に正極活物質を配合することにより正極合材が得られる。
正極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質であり、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。また、今後開発される正極活物質も使用することができる。
【0067】
正極活物質としては、例えば、金属酸化物、硫化物等が挙げられる。硫化物には、金属硫化物、非金属硫化物が含まれる。
金属酸化物は、例えば遷移金属酸化物である。具体的には、V、V13、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1-YCo、LiCo1-YMn、LiNi1-YMn(ここで、0≦Y<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2-ZNi、LiMn2-ZCo(ここで、0<Z<2)、LiCoPO、LiFePO、CuO、Li(NiCoAl)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)等が挙げられる。
金属硫化物としては、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等が挙げられる。
その他、金属酸化物としては、酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)等が挙げられる。
非金属硫化物としては、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物等が挙げられる。
上記の他、セレン化ニオブ(NbSe)、金属インジウム、硫黄も正極活物質として使用できる。
【0068】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでいてもよい。
導電助剤は、負極合材と同様である。
【0069】
正極合材の固体電解質及び正極活物質の配合割合、導電助剤の含有量、並びに正極合材の製造方法は、上述した負極合材と同様である。
【0070】
[リチウムイオン電池]
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、上述した本発明の硫化物固体電解質及び電極合材のうち少なくとも1つを含む。又は、本発明の硫化物固体電解質及び電極合材のうち少なくとも1つにより製造される。
リチウムイオン電池の構成は特に限定されないが、一般に、負極層、電解質層及び正極層をこの順に積層した構造を有する。以下、リチウムイオン電池の各層について説明する。
【0071】
(1)負極層
負極層は、好ましくは本発明の負極合材から製造される層である。
又は、負極層は、好ましくは本発明の負極合材を含む層である。
負極層の厚さは、100nm以上5mm以下が好ましく、1μm以上3mm以下がより好ましく、5μm以上1mm以下がさらに好ましい。
負極層は公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0072】
(2)電解質層
電解質層は、固体電解質を含む層又は固体電解質から製造された層である。当該固体電解質は特に限定されないが、好ましくは本発明の硫化物固体電解質である。
電解質層は、固体電解質のみからなってもよく、さらにバインダーを含んでもよい。当該バインダーとしては、本発明の負極合材の結着剤と同じものが使用できる。
【0073】
電解質層の厚さは、0.001mm以上1mm以下であることが好ましい。
電解質層の固体電解質は、融着していてもよい。融着とは、固体電解質粒子の一部が溶解し、溶解した部分が他の固体電解質粒子と一体化することを意味する。また、電解質層は、固体電解質の板状体であってもよく、当該板状体は、固体電解質粒子の一部又は全部が溶解し、板状体になっている場合も含む。
電解質層は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0074】
(3)正極層
正極層は、正極活物質を含む層であり、好ましくは本発明の正極合材を含む層又は本発明の正極合材から製造された層である。
正極層の厚さは、0.01mm以上10mm以下であることが好ましい。
正極層は、公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【0075】
(4)集電体
本実施形態のリチウムイオン電池は、好ましくは集電体をさらに備える。例えば負極集電体は負極層の電解質層側とは反対側に、正極集電体は正極層の電解質層側とは反対側に設ける。
集電体として、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム、又はこれらの合金等からなる板状体や箔状体等が使用できる。
【0076】
本実施形態のリチウムイオン電池は、上述した各部材を貼り合せ、接合することで製造できる。接合する方法としては、各部材を積層し、加圧・圧着する方法や、2つのロール間を通して加圧する方法(roll to roll)等がある。
また、接合面にイオン伝導性を有する活物質や、イオン伝導性を阻害しない接着物質を介して接合してもよい。
接合においては、固体電解質の結晶構造が変化しない範囲で加熱融着してもよい。
また、本実施形態のリチウムイオン電池は、上述した各部材を順次形成することでも製造できる。公知の方法により製造することができ、例えば、塗布法、静電法(静電スプレー法、静電スクリーン法等)により製造することができる。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
なお、評価方法は以下のとおりである。
(1)イオン伝導度測定と電子伝導性測定
各例で製造した硫化物固体電解質を、錠剤成形機に充填し、ミニプレス機を用いて407MPa(プレス表示値22MPa)の圧力を加え成形体とした。電極としてカーボンを成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、測定用の成形体(直径約10mm、厚み0.1~0.2cm)を作製した。この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の値は25℃における数値を採用した。
なお、本実施例で用いたイオン伝導度の測定方法では、イオン伝導度が1.0×10-6S/cm未満の場合には、イオン伝導度を正確に測ることができないため、測定不能とした。
また、この成形体について直流電気測定により電子伝導度を測定した。電子伝導度の値は25℃における数値を採用した。なお、5Vの電圧を印加したときの電子伝導度が1.0×10-6S/cm未満の場合、電子伝導性は測定不能とした。
【0078】
(2)X線回折(XRD)測定
各例で製造した硫化物固体電解質の粉末から、直径10mm、高さ0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。この試料を、XRD用気密ホルダーを用いて空気に触れさせずに測定した。回折ピークの2θ位置は、XRD解析プログラムJADEを用いて重心法にて決定した。
株式会社リガクの粉末X線回折測定装置SmartLabを用いて以下の条件にて実施した。
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:平行ビーム法
スリット構成:ソーラースリット5°、入射スリット1mm、受光スリット1mm
検出器:シンチレーションカウンター
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.02deg、1deg/分
【0079】
測定結果より結晶構造の存在を確認するためのピーク位置の解析では、XRD解析プログラムJADEを用い、3次式近似によりベースラインを引いて、ピーク位置を求めた。
【0080】
2θ=25.2±0.5deg(回折ピークA)と2θ=29.7±0.5deg(回折ピークB)の回折ピークの強度及び面積を、次の手順で解析し、面積比を計算した。
XRDパターンにおいて、2θ=23~27degの最大ピーク位置を求め、そのピークトップの強度(高さ)を回折ピークの強度Iとした。その最大ピーク位置から±0.4degにある実測強度41点の積算値を回折ピークAの面積Sとした。同様に、2θ=28~32degの最大ピーク位置を求め、その最大ピーク位置から±0.4degにある41点の実測強度の積算値を回折ピークBの面積Sとした。S及びSから、面積比(S/S)を計算した。
ハロゲン化リチウムの回折ピークの強度Iは、ハロゲン化リチウムがLiClである場合、2θ=34.0~35.5degにあるピークを特定し、ピークトップの強度を回折ピークの強度Iとした。なお、当該範囲にピークが2つ以上ある場合には、最も高角側にて特定したピークの強度を用いる。LiBrである場合、2θ=32.5~33.9degにあるピークを特定し、ピークトップの強度を回折ピークの強度Iとした。なお、当該範囲にピークが2つ以上ある場合には、最も低角側にて特定したピークの強度を用いる。
また、2θ=14.0~15.0degにあるピークを特定し、ピークトップの強度を回折ピークの強度Iとした。
【0081】
(3)ICP測定
各例で製造した硫化物固体電解質の粉末を秤量し、アルゴン雰囲気中で、バイアル瓶に採取した。バイアル瓶にKOHアルカリ水溶液を入れ、硫黄分の捕集に注意しながらサンプルを溶解し、適宜希釈、測定溶液とした。これを、パッシェンルンゲ型ICP-OES装置(SPECTRO社製SPECTRO ARCOS)にて測定し、組成を決定した。
検量線溶液は、Li、P、SはICP測定用1000mg/L標準溶液を、Cl、Brはイオンクロマトグラフ用1000mg/L標準溶液を用いて調製した。
各試料で2つの測定溶液を調整し、各測定溶液で5回の測定を行い、平均値を算出した。その2つの測定溶液の測定値の平均で組成を決定した。
【0082】
(4)アルジロダイト型結晶構造の格子定数
XRDを上記(2)と同様の条件で測定した。得られたXRDパターンを、MDI社製の結晶構造解析ソフトJADE ver6を用いて全パターンフィッティング(WPF)解析し、XRDパターンに含まれる各結晶成分を特定し、各成分の格子定数を算出した。
【0083】
・XRDパターンのバックグラウンド除去
測定後のXRDパターンには、装置由来の散乱光や気密ホルダー由来の信号が低角側に存在する。このような信号を除去するため、XRDパターンにあわせて、低角側から減衰するベースラインを、3次元近似により算出した。
【0084】
・ピーク成分の同定
試料中に含まれる各成分について、XRDパターンに無機結晶構造データベース(ICSD)上の構造情報より計算したパターンを重ねあわせることにより、ピーク成分を同定した。表1に使用した構造情報を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
・WPF解析
WPF解析の主なパラメータ設定を以下に示す。
X線波長:Cukα線(λ=1.54184Å)
フィッティングパラメータ:ピーク形状は対称ピークとして近似した。温度因子はフィッティングから除外した。LiS等の結晶が微細なピークとして残留している場合は、フィッティングが収束しない場合がある。そのような場合は、アルジロダイト型結晶とハロゲン化リチウム結晶以外の構造をフィッティング対象から外して半値幅と強度を手入力して、フィッティングを行いアルジロダイト型結晶の格子定数を算出した。
格子定数については、評価する結晶構造のピーク位置がフィッティング結果とよく一致しているかを確認した。面積比については、R値が10%以下になることが結果の妥当性の目安とした。フィッティングの精度の目安となるR値は、不明ピークが多かったり、非晶ピークが残っている場合にR値が高くなる場合がある。
【0087】
(5)固体31P-NMR測定
粉末試料約60mgをNMR試料管へ充填し、下記の装置及び条件にて固体31P-NMRスペクトルを得た。
装置:ECZ400R装置(日本電子株式会社製)
観測核:31
観測周波数:161.944MHz
測定温度:室温
パルス系列:シングルパルス(90°パルスを使用)
90°パルス幅:3.8μ
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:300s
マジックアングル回転の回転数:12kHz
積算回数:16回
測定範囲:250ppm~-150ppm
固体31P-NMRスペクトルの測定において、化学シフトは、外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用いることで得た。
【0088】
固体31P-NMRスペクトルの78~92ppmの範囲にあるNMR信号を、非線形最少二乗法によりガウス関数又はPseudo-Voigt関数(ガウス関数とローレンツ関数の線形和)に分離した。上記範囲には塩素及び臭素を含むアジロダイト型結晶構造によるピークの他に、88.5~90.5ppmにLiPSによるピークが、86~87.6ppmにLiPSのβ晶によるピークが重なって観察されることがある。従って、この2つのピークが観察されない場合と、観察される場合とで、異なる手法で波形分離した。
【0089】
(5-1)LiPS及びLiPSのβ晶によるピークが観察されない場合
78~92ppmの範囲にあるNMR信号を非線形最少二乗法により表2に示した位置と半値幅の範囲の4本のガウス関数又はPseudo-Voigt関数(ガウス関数とローレンツ関数の線形和)に分離した。得られたA~Cのピークの各面積S~S及びその合計Sall(=S+S+S+S)から、各ピークの面積比(%)を算出した。
【0090】
【表2】
【0091】
(5-2)LiPS又はLiPSのβ晶によるピークが観察される場合
表3に示すように、塩素を含むアジロダイト型結晶構造による4本のピークに加えて、LiPS(ピークI)又はLiPS(ピークII)によるピークを用いて、78~92ppmのNMR信号を、非線形最小二乗法を用いて分離し、得られたピークA~Cの面積S~Sと、ピークI及びIIの面積b及びbと、それらの合計Sall+b(=S+S+S+S+b+b)から、各ピークの面積比(%)を算出した。
【0092】
【表3】
【0093】
製造例1
(硫化リチウム(LiS)の製造)
撹拌機付きの500mLセパラブルフラスコに、不活性ガス下で乾燥したLiOH無水物(本荘ケミカル社製)を200g仕込んだ。窒素気流下にて昇温し、内部温度を200℃に保持した。窒素ガスを硫化水素ガス(住友精化)に切り替え、500mL/minの流量にし、LiOH無水物と硫化水素を反応させた。
反応により発生する水分はコンデンサーにより凝縮して回収した。反応を6時間行った時点で水が144mL回収された。さらに3時間反応を継続したが、水の発生は見られなかった。
生成物粉末を回収して、純度及びXRDを測定した。その結果、純度は98.5%であり、XRDではLiSのピークパターンが確認できた。
【0094】
実施例1
製造例1で製造したLiS(純度98.5%)、五硫化二リン(P:サーモフォス社製、純度99.9%以上)、塩化リチウム(LiCl:シグマアルドリッチ社製、純度99%)及び臭化リチウム(LiBr:シグマアルドリッチ社製、純度99%)を出発原料に用いた(以下、全ての実施例において、各出発原料の純度は同様である)。LiS、P、LiCl及びLiBrのmol比(LiS:P:LiCl:LiBr)が1.9:0.5:1.0:0.6となるように、各原料を混合した。具体的には、硫化リチウム0.447g、0.569g、0.217g、0.267gを混合し、原料混合物とした。
【0095】
原料混合物と、直径10mmのジルコニア製ボール30gとを遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内はアルゴン雰囲気とした。遊星型ボールミルで回転数を370rpmにして15時間処理(メカニカルミリング)し、ガラス状の粉末(中間体)を得た。
【0096】
上記中間体の粉末約1.5gをAr雰囲気下のグローブボックス内で、タンマン管(PT2,東京硝子機器株式会社製)内に詰め、石英ウールでタンマン管の口を塞ぎ、さらにSUS製の密閉容器で大気が入らないよう封をした。その後、密閉容器を電気炉(FUW243PA、アドバンテック社製)内に入れ熱処理した。具体的には、室温から430℃まで2.5℃/minで昇温し(約3時間で430℃に昇温)、430℃で8時間保持した。その後、徐冷し、硫化物固体電解質を得た。
【0097】
硫化物固体電解質のイオン伝導度(σ)は、13.0mS/cmであった。
硫化物固体電解質のXRDパターンを図3に示す。2θ=15.5、17.9、25.4、29.9、31.3、44.9、47.8、52.4、59.1degにアルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
硫化物固体電解質をICP分析し、各元素のモル比を測定した。その結果、モル比a(Li/P)は5.35、モル比b(S/P)は4.33、モル比c(Cl/P)は1.102、モル比d(Br/P)は0.62であった。
原料の配合及び製造条件を表4に示す。原料における各元素のモル比及び硫化物固体電解質における各元素のモル比を表5に示す。硫化物固体電解質のXRDパターンにおける回折ピークA及びBの面積、面積比及びイオン伝導度σを表6に示す。硫化物固体電解質のXRDパターンにおける回折ピークの強度及び強度比を表7に示す。硫化物固体電解質の格子定数及び31P-NMRのピークの面積比を表8に示す。
【表4】
【0098】
【表5】
*XはClとBrの合計である。
【0099】
【表6】
表中、Sは回折ピークA(2θ=25.2±0.5deg)の面積であり、Sは回折ピークB(29.7±0.5deg)の面積である。
【0100】
【表7】
表中、Iは回折ピークA(2θ=25.2±0.5deg)の強度であり、Iはハロゲン化リチウムの回折ピークの強度の合計であり、Iは回折ピークD(2θ=14.4±0.5deg)の強度である。
【0101】
【表8】
【0102】
比較例1
実施例1と同じ原料を、シュレンク瓶に入れ、手で振盪させて混合した。得られた原料混合物を、実施例1と同様にして430℃で8時間熱処理して、硫化物固体電解質を得た。
硫化物固体電解質を実施例1と同様にして評価した。結果を表5~8に示す。
比較例1では、熱処理前の原料混合が不十分であるため、熱処理してもハロゲンが分散せず、結果として、アルジロダイト型結晶構造中のサイトへのハロゲンの導入が不十分になったと推定される。
【0103】
実施例2
実施例2では、中間体の作製に実施例1の遊星型ボールミルの代わりに二軸混練機を用いた。二軸混練機を用いた混練は、具体的には以下の様に実施した。
グローブボックスにフィーダー((株)アイシンナノテクノロジーズ製、マイクロフィーダー)及び二軸混練押出機((株)栗本鉄工所製、KRCニーダー、バドル径φ8mm)を設置した。LiClを3.76g、LiBrを4.63g、LiSを7.75g及びPを9.87gの混合物をフィーダーにより供給部から一定速度で供給し、回転数150rpm、温度250℃(二軸混練押出機のケーシングの外面を温度計で測定)にて混練を行った。約120分で粉末がニーダー出口より排出された。排出された粉末を再び供給部に戻し混練する操作を5回繰り返した。反応時間は合計約10時間であった。
得られた中間体を実施例1と同様に430℃で8時間熱処理し、硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質を実施例1と同様に評価した。結果を表5~8に示す。
原料の混合に使用した二軸混練押出機は、混合度が非常に高い装置であるため、中間体において構成元素が高度に分散したと考えられる。その結果、イオン伝導度が向上したものと推定できる。
【0104】
実施例3~7、比較例2~4
原料組成を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を作製し、評価した。結果を表5~8に示す。
比較例2では、熱処理温度が高いため、結晶構造中のサイトを占有していたハロゲンが離脱したものと考えられる。4aサイトに入っているClや4dサイトに入っているBrはサイトから離脱し易い。
比較例2で作製した硫化物固体電解質のXRDパターンを図4に示す。
ハロゲン化リチウムの結晶や、2θ=14.4±0.5deg及び33.8±0.5degに回折ピークを有する新規の結晶が存在していることから、アルジロダイト型結晶構造のサイトを占有していたClやBrの一部が離脱して、これらの結晶を形成したものと推定している。
なお、各例で得られた硫化物固体電解質のXRD測定の結果、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
【0105】
実施例8~12、比較例5
原料の配合及び製造条件を表9に示すように変更した他は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を作製し、評価した。結果を表10~12に示す。なお、各例で得られた硫化物固体電解質のXRD測定の結果、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
【0106】
【表9】
【0107】
【表10】
*XはClとBrの合計である。
【0108】
【表11】
表中、Sは回折ピークA(2θ=25.2±0.5deg)の面積であり、Sは回折ピークB(29.7±0.5deg)の面積である。
【0109】
【表12】
【0110】
実施例13
原料組成及び作製条件を表9に示すように変更した他は、実施例1と同様にして中間体を作製した。
Ar雰囲気下のグローブボックス内で、中間体の粉末約1.5gをシール機能付きガラス管内に詰め、大気が入らないように、ガラス管の先端を専用治具で封をした。その後、ガラス管を電気炉内にセットした。専用治具を電気炉内にある継手に差し入れて、ガス流通管へ繋ぎ、硫化水素を0.5L/minで流通しながら熱処理した。具体的には、室温から500℃まで3℃/minで昇温し、500℃で4時間保持した。その後、徐冷し、硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質を実施例1と同様にして評価した。結果を表10~12に示す。なお、実施例13で得られた硫化物固体電解質も電子伝導性は10-6S/cm未満であった。また、XRD測定の結果、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
【0111】
実施例14
実施例2と同様に、中間体の作製に二軸混練機を用いた混練を実施した。二軸混練機を用いた混練は、具体的には、LiClを1.447g、LiBrを1.779g、LiSを2.980g、及びPを3.794gの混合物をフィーダーにより供給部から一定速度で供給した他は、実施例2と同様にして中間体を得た。
得られた中間体を430℃で4時間熱処理して、硫化物固体電解質を得た。
【0112】
得られた硫化物固体電解質の評価結果を表10~12に示す。
なお、実施例14で得られた硫化物固体電解質は、電子伝導性は10-6S/cm未満であった。また、XRD測定の結果、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
【0113】
実施例15
作製条件を表9に示すように変更した他は、実施例14と同様にして硫化物固体電解質を作製し、評価した。結果を表10~12に示す。
なお、実施例15で得られた硫化物固体電解質は、電子伝導性は10-6S/cm未満であった。また、XRD測定の結果、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
【0114】
[硫化物固体電解質の硫化水素発生量]
実施例10及び比較例4で製造した硫化物固体電解質の硫化水素発生量について、図5に示す装置を用いて評価した。本装置は、空気を加湿するフラスコ1と、加湿された空気の温度及び湿度を測定するための温度・湿度計6を備えるフラスコ2と、測定試料4を投入するシュレンク瓶3と、空気中に含まれる硫化水素濃度を測定する硫化水素計測器7とを、この順に管を通して接続した構成としてある。評価の手順は以下のとおりである。
露点-80℃の環境の窒素グローボックス内で、試料を乳鉢でよく粉砕して作製した粉末試料を約0.1g秤量し、100mlシュレンク瓶3の内部に投入し密封した(図5の付番4)。
次に、空気を500mL/minでフラスコ1に流入させた。空気の流量は流量計5で測定した。フラスコ1にて空気を水中に通して加湿した。続いて、加湿空気をフラスコ2に流入させ、空気の温度及び湿度を測定した。流通開始直後の空気の温度は25℃、湿度は80~90%であった。その後、加湿空気をシュレンク瓶3内に流通させ、測定試料4に接触させた。シュレンク瓶3内を流通させた加湿空気を、硫化水素計測器7(AMI社製 Model3000RS)に通し、加湿空気に含まれる硫化水素量を測定した。測定時間は空気流通直後から流通後1時間までとした。なお、硫化水素量は15秒間隔で記録した。
2時間で観測された硫化水素量の総和から、試料1g当たりの硫化水素発生量(mg/g)を算出した。その結果、実施例10の硫化物固体電解質では26mg/gであり、比較例4の硫化物固体電解質では64mg/gであった。
【0115】
[リチウムイオン電池]
実施例13と比較例1で得た硫化物固体電解質をそれぞれ用いて、リチウムイオン電池を製造し、レート特性を評価した。
【0116】
(A)リチウムイオン電池の製造
実施例13又は比較例1で得た硫化物固体電解質50mgをそれぞれ直径10mmのステンレス製の金型に投入し、平らに均し、電解質層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機で電解質層の上面から185MPaの圧力を加えて加圧成型した。
正極活物質としてLiTi12コートLiNi0.8Co0.15Al0.05、固体電解質として実施例13又は比較例1で得た硫化物固体電解質を重量で70:30の比率で混合し正極材料とし、正極材料15mgを電解質層の上面に投入し平らに均し、正極層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機で正極層の上面から407MPaの圧力を加えて加圧成型した。
負極活物質である黒鉛粉末、及び実施例13又は比較例1で得た硫化物固体電解質を重量で60:40の比率で混合して負極材料とした。電解質層の正極層とは反対側の面に負極材料12mgを投入して平らに均し、負極層の層厚が均等になるようにした後、油圧プレス機で負極層の上面から555MPaの圧力を加えて加圧成型し、正極、固体電解質層及び負極の三層構造のリチウムイオン電池をそれぞれ作製した。
【0117】
(B)レート特性試験
上記(A)で製造したリチウムイオン電池を、25℃に設定した恒温槽内に12時間静置した後、評価した。1サイクル目に0.1C(0.189mA)で4.2Vまで充電、0.1C(0.189mA)3.1Vまで放電し、2サイクル~10サイクルに0.5C(0.945mA)で4.2Vまで充電、0.5C(0.945mA)3.1Vまで放電した。10サイクル目の容量を測定した。同サンプルを用いて別に製造した電池を用いて、0.1Cで1サイクル~10サイクルに充放電した時の10サイクル目の容量を測定した。0.5Cで充放電させた時の容量と0.1Cで充放電させた時の容量の比をレート特性の評価値とした。実施例13の硫化物固体電解質を用いたリチウムイオン電池のレート特性は73%であった。比較例1の硫化物固体電解質を用いたリチウムイオン電池では50%であった。
【0118】
[評価例]
実施例1で得た硫化物固体電解質について、放射光および中性子を用いた構造解析を実施した。具体的に、放射光を用いたX線回折はSPring-8のBL19B2で実施した。ガラスキャピラリ中に封入したサンプルを測定した。CeO標準試料による測定データの補正を行い、アルジロダイト結晶の構造モデルを元にリートベルド解析を行った。中性子回折はJ-PARCのBL20で測定を実施した。中性子回折ではリートベルド構造解析により4a、4dサイトのSとClの区別を行った各々のサイトの占有率が算出できる。放射光X線回折及び中性子回折データのどちらも満足するような構造モデルから、4a、4dサイトの占有率すなわち存在比を算出した。
図6は、放射光による構造解析の結果である。実測データと解析データの差が小さく、フィッティングの整合性が高いことが確認できる。解析結果から、ハロゲンのサイト選択性について、塩素(Cl)は4dサイトを占有しやすく、臭素(Br)は4aサイトに占有しやすいことが確認できる。
【0119】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6