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2024-144840水溶性導電性共重合体、その製造方法、及びその水溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144840
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水溶性導電性共重合体、その製造方法、及びその水溶液
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08G61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056983
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032BA03
4J032BA04
4J032BB04
4J032BC01
4J032BC02
4J032BC03
4J032BC12
4J032BC13
4J032BD07
4J032CG01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高導電性を有する新規な水溶性の共重合体、その水溶液、及びその用途の提供。
【解決手段】M1(チオフェンモノマー単位)及びM2(コモノマー単位)を含んでなり、M1及びM2は自己ドープされていてもよく、且つM1/M2のモル比が1~9999である共重合体(P)を用いる。

[M1において、Rは、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基を表す。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンを表す。M2において、qは、1から4の整数を表す。Meはメチル基を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(M1)で表される繰り返し単位(M1)、及び下記一般式(M2)で表される繰り返し単位(M2)を少なくともそれぞれ1つ以上含んでなり、繰り返し単位(M1)及び繰り返し単位(M2)は、各々独立に、自己ドープされていてもよく、且つ繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が1~9999である、ことを特徴とする共重合体(P)。
【化1】
[一般式(M1)において、Rは、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基を表す。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(M2)において、qは、1から4の整数を表す。Meはメチル基を表す。]
【請求項2】
繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が1~999である、請求項1に記載の共重合体(P)。
【請求項3】
繰り返し単位(M1)が、下記一般式(M3)で表される繰り返し単位(M3)である、請求項1に記載の共重合体(P)。
【化2】
[一般式(M3)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは独立して1~10の整数を表し、nは独立して0又は1を表す。Mは、一般式(M1)におけるMと同義である。]
【請求項4】
下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と下記一般式(2)で表されるチオフェン化合物を、水又は有機溶媒中、酸化反応により共重合させることを特徴とする、請求項1に記載の共重合体(P)の製造方法。
【化3】
[上記一般式(1)中のR、及びMは、それぞれ一般式(M1)のR、及びMと同義であり、上記一般式(2)中のqは、一般式(M2)のqと同義である。Meはメチル基を表す。]
【請求項5】
前記の一般式(1)で表されるチオフェン化合物が、下記一般式(3)で表されるチオフェン化合物である、請求項4に記載の共重合体(P)の製造方法。
【化4】
[一般式(3)中のR、m、n、及びMは、それぞれ一般式(M3)のR、m、n、及び一般式(M1)のMと同義である。]
【請求項6】
請求項1に記載の共重合体(P)を含む水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリチオフェン構造を有する水溶性導電性共重合体、その製造方法、及びその水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性導電性高分子は、タッチパネル、静電容量式センサー、又はヒーター等に使用される透明導電膜形成材料への応用が検討されている。
【0003】
これまでに水溶性導電性高分子として、例えば、分岐のアルキレンスルホン酸が置換したポリチオフェン等が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/007299号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術に記載した特許文献1に開示された透明導電膜形成材料については、高導電性でありながら、均一な水溶液であり、分散液として知られるPEDOT:PSS等と比較して塗布性や製膜性に優れるものの、依然として膜の均質性が十分ではないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い導電性を示しながら、塗膜形成時の膜均質性に優れた、新規なチオフェン共重合体及びその水溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記に示す発明が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
[1]
下記一般式(M1)で表される繰り返し単位(M1)、及び下記一般式(M2)で表される繰り返し単位(M2)を少なくともそれぞれ1つ以上含んでなり、繰り返し単位(M1)及び繰り返し単位(M2)は、各々独立に、自己ドープされていてもよく、且つ繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(1/999)~(999/1)である、ことを特徴とする共重合体(P)。
【0009】
【化1】
【0010】
[一般式(M1)において、Rは、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基を表す。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(M2)において、qは、1から4の整数を表す。Meはメチル基を表す。]
[2]
繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(1/9)~(999/1)である、前記[1]に記載の共重合体(P)。
【0011】
[3]
繰り返し単位(M1)が、下記一般式(M3)で表される繰り返し単位(M3)である、前記[1]又は[2]に記載の共重合体(P)。
【0012】
【化2】
【0013】
[一般式(M3)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは独立して1~10の整数を表し、nは独立して0又は1を表す。Mは、一般式(M1)におけるMと同義である。]
[4]
下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と下記一般式(2)で表されるチオフェン化合物を、水又は有機溶媒中、酸化反応により共重合させることを特徴とする、前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の共重合体(P)の製造方法。
【0014】
【化3】
【0015】
[上記一般式(1)中のR、及びMは、それぞれ一般式(M1)のR、及びMと同義であり、上記一般式(2)中のqは、一般式(M2)のqと同義である。Meはメチル基を表す。]
[5]
前記の一般式(1)で表されるチオフェン化合物が、下記一般式(3)で表されるチオフェン化合物である、前記[4]に記載の共重合体(P)の製造方法。
【0016】
【化4】
【0017】
[一般式(3)中のR、m、n及びMは、それぞれ、一般式(M3)のR、m、n、及び一般式(M1)のMと同義である。]
[6]
前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の共重合体(P)を含む水溶液。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるポリチオフェン構造を有する共重合体(P)は、高い導電性を保持しつつ、従来の水溶性導電性高分子と比較して優れた膜均質性を有する。このため、タッチパネル、静電容量式センサーやヒーターに使用される透明導電膜形成材料としての使用に適しており、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の一態様は、下記の共重合体(P)に係る。
【0021】
透明導電膜形成材料としては、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の水溶性高分子ドーパントの存在下に、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させた導電性ポリチオフェンであるPEDOT:PSSの適用が検討されている。しかし、当該PEDOT:PSSは高導電性を示すものの、粒子径が数十nm~数百nmの分散溶液であるため、凝集を起こしやすい。従って、薄膜形成時に凝集を起こし、結果として導電率、製膜性等の点で十分な性能が発揮されないという課題があった。
【0022】
一方、上述の外部ドープ型であるPEDOT:PSSとは異なる、従来公知の自己ドープ型のポリチオフェン(例えば、PEDT-S、又は分岐のアルキレンスルホン酸が置換したポリチオフェン)は、高導電性でありながら粒子径が0.8nm以下の均一溶液であり、PEDOT:PSSと比較して塗布性や製膜性に優れるものの、依然として膜の均質性が十分ではないという課題があった。
【0023】
本発明に係る共重合体(P)は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い導電性を示しながら、塗膜形成時の膜均質性に優れた、新規なチオフェン共重合体及びその水溶液を提供することである。
【0024】
本願の共重合体(P)は、下記一般式(M1)で表される繰り返し単位(M1)、及び下記一般式(M2)で表される繰り返し単位(M2)を少なくともそれぞれ1つ以上含んでなり、繰り返し単位(M1)及び繰り返し単位(M2)は、各々独立に、自己ドープされていてもよく、且つ繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(1/999)~(999/1)である、ことを特徴とする。
【0025】
【化5】
【0026】
[一般式(M1)において、Rは、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基を表す。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(M2)において、qは、1から4の整数を表す。Meはメチル基を表す。]
上記の一般式(M1)において、Rは、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基を表す。
【0027】
スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有していない状態における、総炭素数が1~18の有機基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロプル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基、tert-ブトキシメチル基、ヘキシルオキシメチル基、イソヘキシルオキシメチル基、ヘプチルオキシメチル基、又はオクチルオキシメチル基等が挙げられる。
【0028】
上記の一般式(M1)において、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有する総炭素数が1~18の有機基としては、特に限定するものではないが、例えば、スルホン酸メチル基、ホスホン酸メチル基、2-スルホン酸エチル基、2-ホスホン酸エチル基、3-スルホン酸プロプル基、3-ホスホン酸プロプル基、2-スルホン酸プロプル基、2-ホスホン酸プロプル基、4-スルホン酸ブチル基、4-ホスホン酸ブチル基、3-スルホン酸ブチル基、3-ホスホン酸ブチル基、6-スルホン酸ヘキシル基、6-ホスホン酸ヘキシル基、5-スルホン酸ヘキシル基、5-ホスホン酸ヘキシル基、スルホン酸メトキシメチル基、ホスホン酸メトキシメチル基、2-スルホン酸エトキシメチル基、2-ホスホン酸エトキシメチル基、3-スルホン酸プロポキシメチル基、3-ホスホン酸プロポキシメチル基、2-スルホン酸プロポキシメチル基、2-ホスホン酸プロポキシメチル基、4-スルホン酸ブトキシメチル基、4-ホスホン酸ブトキシメチル基、3-スルホン酸ブトキシメチル基、3-ホスホン酸ブトキシメチル基、6-スルホン酸ヘキシルオキシメチル基、6-ホスホン酸ヘキシルオキシメチル基、5-スルホン酸ヘキシルオキシメチル基、又は5-ホスホン酸ヘキシルオキシメチル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(M1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンを表す。
【0030】
前記のアルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はセシウムイオンが挙げられる。
【0031】
前記のアミン化合物の共役酸とは、アミン化合物にヒドロン(H+)が付加してカチオン種になったものを示す。
【0032】
前記アミン化合物はスルホン酸基又はホスホン酸基と反応して共役酸を形成するアミン化合物であればよく、sp3混成軌道を有するN(Rで表されるアミン化合物[共役酸としては[NH(Rで表される。]、又はsp2混成軌道を有するピリジン類化合物、若しくはイミダゾール類化合物等が挙げられる。
【0033】
置換基Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、又は置換基を有する総炭素数1~18のアルキル基を表す。
【0034】
炭素数1~18のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、又はオクタデシル基等が挙げられる。
【0035】
置換基を有する総炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~18のアルキル基、アミノ基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基が挙げられ、具体的には、トリフルオロメチル基、又は2-ヒドロキシエチル基等が例示される。
【0036】
これらのうち、置換基Rとしては、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、又は2-ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0037】
アミン化合物の共役酸を形成するN(Rで表されるアミン化合物としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、エタノールアミン化合物(例えば、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、N-イソプロピル-N,N-ジメチルアミン、又はN-エチル-N,N-ジメチルアミン等が挙げられる。
【0038】
N(Rで表されるアミン化合物以外の化合物としては、イミダゾール化合物(例えば、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール)、ピリジン、ピコリン、又はルチジン等が例示される。
【0039】
前記の4級アンモニウムカチオンとは、窒素に置換基が4つ導入されることによりカチオン種になったものを示す。
【0040】
前記の4級アンモニウムカチオンは、スルホン酸基又はホスホン酸基のアニオンとイオンペアを形成する4級アンモニウムカチオンであればよく、例えば、sp3混成軌道を有する[N(Rで表されるアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、又はピリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0041】
置換基Rは、各々独立して、炭素数1~18のアルキル基、又は置換基を有する総炭素数1~18のアルキル基を表す。
【0042】
炭素数1~18のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0043】
置換基を有する総炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~18のアルキル基、アミノ基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基が挙げられ、具体的には、トリフルオロメチル基、又は2-ヒドロキシエチル基等が例示される。
【0044】
これらのうち、置換基Rとしては、独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、又は2-ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0045】
[N(Rで表される4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルデシルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルテトラデシルアンモニウム、又はトリメチルオクタデシルアンモニウム等が例示される。
【0046】
なお、一般式(M1)のRにおけるスルホン酸基又はホスホン酸基については、前記のM+とイオン対を形成している。
【0047】
すなわち、一般式(M1)において、そのスルホン酸基又はホスホン酸基については、酸型であってもよいし、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンをカウンターカチオンにもつ中和塩型であってもよい。
【0048】
上記の一般式(M2)において、qは、1~4の整数を表す。
【0049】
本願の共重合体(P)は、繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(1/999)~(999/1)であることを特徴とする。
【0050】
繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(1/999)より大きい場合は、共重合体(P)は水溶性が向上する傾向があり、本願特有の発明の効果を奏しやすくなる点で好ましい。また、繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比が(999/1)より小さい場合は、塗布性が向上する傾向があり、本願特有の発明の効果を奏しやすくなる点で好ましい。
【0051】
なお、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、繰り返し単位(M1)/繰り返し単位(M2)(モル/モル)の比は、(1/99)~(999/1)であることがより好ましく、(2/1)~(99/1)であることがより好ましい。
【0052】
本願の共重合体(P)において、qは、1~4の整数を表す。なお、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、qは2、3、又は4であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0053】
前記の繰り返し単位(M1)については、均質性の高い膜が得られる点で、下記一般式(M3)で表される繰り返し単位(M3)、又は下記一般式(M4)で表される繰り返し単位(M4)であることが好ましく、一般式(M3)で表される繰り返し単位(M3)であることがより好ましい。
【0054】
【化6】
【0055】
[一般式(M3)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは独立して1~10の整数を表し、nは独立して0又は1を表す。一般式(M3)及び(M4)において、Mは、一般式(M1)におけるMと同義である。]
上記の炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0056】
前記のRについては、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることがより好ましい。
【0057】
前記のmについては、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、2、3、4、5、又は6であることが好ましく、2、又は3であることがより好ましい。
【0058】
前記のnについては、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、1であることが好ましい。
【0059】
一般式(M3)及び(M4)において、Mは、一般式(M1)におけるMと同義である。
【0060】
なお、一般式(M3)におけるスルホン酸基、又は一般式(M4)におけるホスホン酸基については、前記のMとイオン対を形成している。
【0061】
すなわち、一般式(M3)におけるスルホン酸基、及び一般式(M4)におけるホスホン酸基については、それぞれ、酸型であってもよいし、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンをカウンターカチオンにもつ中和塩型であってもよい。
【0062】
本発明の共重合体(P)の重量平均分子量は、特に限定するものではないが、均質性の高い膜が得られる点で、ポリスチレンスルホン酸換算で通常1千~100万の範囲であることが好ましく、水溶性導電性ポリマー用途として好ましくは1千~20万の範囲である。ポリマーから未反応のモノマーや低分子不純物及び無機塩を除去する観点から、より好ましくは1.5千~10万の範囲である。
【0063】
前記の重量平均分子量については、サイズ排除液体クロマトグラフィー法によって測定される。
本願の共重合体(P)は、更に具体的には、上記一般式(M1)で表されるチオフェン化合物の側鎖のスルホン酸基又はホスホン酸基がp型ドーパントとして作用した自己ドープ型の導電性共重合体であり、例えば、下記一般式(5)のように表すことができる。
【0064】
【化7】
【0065】
[一般式(5)中、一般式(A)及び一般式(B)において、R、及びMは、一般式(M1)におけるR、及びMと同義である。一般式(C)及び一般式(D)において、qは、一般式(M2)におけるqと同義である。m、nは繰り返し単位の存在比率を表し、(1/999)≦m/n≦(999/1)を満たす実数である。]
上記一般式(5)において、上記一般式(C)は、上記一般式(2M)に由来するものであり、上記一般式(D)は、上記一般式(1M)の側鎖のスルホン酸基又はホスホン酸基によるp型ドーパントの作用によって上記一般式(C)が酸化された状態を表す。また、上記一般式(A)は、上記一般式(1M)に由来するものであり、上記一般式(B)は、一般式(1M)の側鎖のスルホン酸基又はホスホン酸基によるp型ドーパントの作用によって上記一般式(A)が酸化された状態を表す。
【0066】
すなわち、上記一般式(5)は、上記一般式(A)又は一般式(B)で表される繰り返し単位(所謂、チオフェンモノマー単位)と、一般式(C)又は一般式(D)で表される繰り返し単位(所謂、コモノマー単位)とを含む共重合体(P)を表し、必ずしもその単位を連続して含む共重合体に限定されず、所望の導電性を有する限りにおいては、ランダム共重合体のようにπ共役系主鎖に不連続に繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。
【0067】
本願の共重合体(P)は、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と下記一般式(2)で表されるチオフェン化合物とを、水又は有機溶媒中、酸化反応により共重合させることによって製造することができる。
【0068】
【化8】
【0069】
[上記一般式(1)中のR、及びMは、一般式(M1)のR、及びMと同義であり、上記一般式(2)中のqは、一般式(M2)のqと同義である。Meはメチル基を表す。]
以下、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物を「チオフェンモノマー」と、下記一般式(2)で表されるチオフェン化合物を「コモノマー」とも称する。
【0070】
なお、共重合に用いるチオフェンモノマーにおいて、そのスルホン酸基又はホスホン酸基については、酸型であってもよいし、アルカリ金属イオン、アミンの共役酸、又は4級アンモニウムカチオンをカウンターカチオンにもつ中和塩型であってもよい。
【0071】
また、本発明の共重合体(P)の製造方法において、上記一般式(1)、及び(2)で表されるチオフェン化合物の混合比率は、特に限定されないが、均質性の高い膜が得られる点で、前記チオフェンモノマー/前記コモノマー(モル/モル)の比が、(1/999)~(999/1)であることが好ましく、(1/9)~(999/1)であることがより好ましい。
【0072】
上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物としては、具体的に、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、又は3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0073】
なお、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物は、公知の方法(例えば、国際公開第2014/007299号明細書に記載の方法)に従い、チエノ[3,4-b]-1,4-ジオキシン-2-メタノールとスルトン化合物から容易に合成できる。
【0074】
上記一般式(2)で表されるチオフェン化合物は、公知の方法(例えば、特開2017-171746明細書に記載の方法)に従い合成することができる。
【0075】
上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物については、共重合体(P)の水溶性と塗布性の観点から、下記一般式(3)で表されるチオフェン化合物、又は下記一般式(4)で表されるチオフェン化合物であることが好ましく、下記一般式(3)で表されるチオフェン化合物であることがより好ましい。
【0076】
【化9】
【0077】
[一般式(3)中のR、m、及びnは、一般式(M3)のR、m、及びnと同義である。一般式(3)及び(4)中のMは、一般式(M1)中のMと同義である。]
なお、一般式(3)におけるスルホン酸基、又は一般式(4)におけるホスホン酸基については、前記のMとイオン対を形成している。
【0078】
すなわち、一般式(3)におけるスルホン酸基、及び一般式(4)におけるホスホン酸基については、それぞれ、酸型であってもよいし、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は4級アンモニウムカチオンアンをカウンターカチオンにもつ中和塩型であってもよい。
【0079】
前記の共重合に用いる溶媒は、水又は有機溶媒である。水としては、例えば、純水が挙げられ、蒸留水、イオン交換水でもよい。有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、又はクロロホルム等の有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でも使用しても、水と併用してもよい。これらの溶媒のうち、好ましくは水又はジメチルスルホキシドであり、より好ましくは水である。また、溶媒を脱気や窒素等の不活性ガスで置換していてもよい。
【0080】
前記の共重合に用いる溶媒量は、例えば、特に限定するものではないが、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と上記一般式(2)で表されるチオフェン化合物の総仕込質量に対して0.1~100質量倍の範囲が好ましく、1~20質量倍の範囲がより好ましい。
【0081】
前記の共重合反応は、酸化的脱水素化反応による酸化重合を進行させるものであり、特に限定するものではないが、例えば、過硫酸類、鉄塩(III)、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、硫酸セリウム(IV)、又は酸素等の酸化剤を使用する酸化反応であり、これらを単独で又は二種以上を混合して使用しても良い。また別の例として、電気分解による酸化が挙げられ、これらの手法を単独で又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0082】
ここで、過硫酸類としては、具体的には、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、又は過硫酸カリウム等が例示される。
【0083】
また、鉄塩(III)としては、具体的には、FeCl、Fe(SO、過塩素酸鉄、又はパラ-トルエンスルホン酸鉄(III)等が例示される。これらは無水物を使用しても、水和物を使用してもよい。
【0084】
また、過マンガン酸塩としては、具体的には、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、又は過マンガン酸マグネシウム等が例示される。
【0085】
また、重クロム酸塩としては、具体的には、重クロム酸アンモニウム、又は重クロム酸カリウム等が例示される。
【0086】
これらの酸化剤のうち、FeCl、Fe(SO、又は過硫酸塩が特に好ましい。
【0087】
前記の共重合に用いる酸化剤の量としては、特に限定するものではないが、上記チオフェンモノマーと上記コモノマーの仕込総モル数に対して、0.5~50倍モルが好ましい。より好ましくは、1~20倍モルである。更に好ましくは、1~10倍モルである。
【0088】
前記の共重合には、酸化剤による酸化的脱水素反応を促進する触媒として、鉄塩や銅塩が共存してもよい。特に限定するものではないが、例えば、FeCl、FeCl、FeSO、Fe(SO、CuCl、CuCl2、CuSO等が例示される。これらの塩のうち、3価の鉄塩は酸化剤としての役割を兼ねることもある。これら触媒の塩は無水物を使用しても水和物を使用してもよい。
【0089】
前期の共重合のpH条件は、例えば、上記一般式(1)及び(2)で表されるチオフェン化合物を酸化重合できるpHであり、特に限定するものではないが、pH7.0未満であるとより速い反応速度が得られるため好ましい。必要に応じてpHを低下する方法を講じてもよく、特に限定するものではないが、例えば硫酸、パラ-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硝酸、酢酸等の酸を添加する方法があげられる。
【0090】
前記の共重合の圧力は、常圧、減圧、又は加圧のいずれであってもよい。
【0091】
前記の共重合の反応雰囲気は、大気中であっても、窒素やアルゴン等の不活性ガス中であってもよい。より好ましくは不活性ガス中である。
【0092】
前記の共重合の反応温度は、例えば、上記一般式(1)及び(2)で表されるチオフェン化合物を酸化重合できる温度であり、特に限定するものではないが、-10~150℃の範囲が好ましく、0~100℃の範囲が更に好ましい。
【0093】
前記の共重合の反応時間は、例えば、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と、上記一般式(2)で表されるチオフェン化合物との酸化重合が十分進行する時間であり、特に限定するものではないが、0.5~200時間の範囲が好ましく、0.5~80時間の範囲が更に好ましい。
【0094】
前記の共重合の反応方法は、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と、上記一般式(2)で表されるチオフェン化合物をあらかじめ水に溶解させ、これに酸化剤を一度に又はゆっくりと滴下してもよく、逆に酸化剤の固体又は水溶液に上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物と、上記一般式(2)で表されるチオフェン化合物の水溶液を一度に又はゆっくりと滴下してもよい。また、2種以上の酸化剤を用いる場合には、各酸化剤を順次添加してもよい。
【0095】
前記の共重合で得られた本発明の共重合体(P)の精製法としては、特に限定するものではないが、例えば、溶媒洗浄、再沈殿、遠心沈降、限外ろ過、透析、又はイオン交換樹脂処理等が挙げられる。それぞれ単独で行っても又は組み合わせても良い。
【0096】
本発明の共重合体(P)の典型的な単離精製方法は、例えば、以下のとおりである。
【0097】
まず、前記の共重合反応後の溶液をアセトン等の貧溶媒に添加し、共重合体(P)を沈殿させた後、減圧ろ過で得た共重合体(P)を当該貧溶媒でろ液が無色透明になるまで洗浄する。この共重合体(P)にFe塩が含まれている場合、一度水酸化ナトリウム水溶液中に添加し、水に溶解し、カウンターカチオンがNaイオンであるNa塩型共重合体(P)に変換することが好ましい。
【0098】
次に、これをアルコール等の貧溶媒に添加して共重合体(P)を沈殿させるとともに、アルカリ分を除去し、減圧濾過により得た固体をアルコール等の貧溶媒で洗浄する。次いでアセトン等の貧溶媒で洗浄し、Na塩型共重合体(P)を得る。
【0099】
得られたNa塩型共重合体(P)を、引き続き、カウンターカチオンが水素イオンであるH型共重合体(P)に変換する場合には、陽イオン交換樹脂で処理する。処理方法としては、例えば、得られたNa塩型共重合体(P)の水溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる方法や、陽イオン交換樹脂を水溶液に添加するボディーフィード法等が挙げられる。更に、微量の陰イオンの除去を目的に陰イオン交換処理してもよい。
【0100】
このようにして得られた溶液を粗濃縮し、アセトン等の貧溶媒に添加して沈殿させ、減圧ろ過して得た固体を貧溶媒でよく洗い、減圧乾燥してH型共重合体(P)が得られる。
【0101】
重合後処理の各工程では必要に応じて、遠心沈降、ホモジナイズ処理を行ってもよい。これにより、ろ過効率の改善を図ることができる。更に、重合酸化剤として過硫酸塩を使用した場合には、無機塩の除去として限外ろ過や透析、陽・陰イオン交換樹脂混合処理を行う。
【0102】
本発明の共重合体(P)を含む導電性ポリマー水溶液にすることで、各種用途への成型加工が可能となる。
【0103】
前記の共重合体(P)を含む導電性ポリマー水溶液は、特に限定するものではないが、前記の共重合体(P)を室温や加温下(100℃以下が好ましい)で水と混合溶解させることで製造することができる。その際、スターラーチップや攪拌羽根による一般的な混合溶解操作を用いることもできるし、その他の方法として、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザ-、又は高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0104】
前記導電性ポリマー水溶液中の、共重合体(P)の濃度は、特に限定するものではないが、導電性ポリマー水溶液全体を100質量%として、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、粘性の観点からより好ましくは10質量%以下である。
【0105】
前記の導電性ポリマー水溶液については、バインダーや界面活性剤等に代表される一般公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0106】
前記導電性ポリマー水溶液を用いて導電性被膜を製造することができる。例えば、上記導電性ポリマー水溶液を、基材に塗布・乾燥することで導電性被膜が簡単に得られる。基材としては、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、レジスト基板、又はアルミニウム等が挙げられる。塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコード法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、又はインクジェット印刷法等が挙げられる。膜厚としては特に限定するものではないが、10-2~10μmの範囲が好ましい。得られる塗膜の表面抵抗値としては特に限定するものではないが、1~10Ω/□の範囲のものが好ましい。
【0107】
なお、本発明において、各種用途への成型加工に十分な水溶性とは、室温又は加温下で調製した10質量%以下のポリマー水溶液において、粒度分布測定装置で測定した粒子径(D50)が5nm以下であり、且つ0.02μmのフィルターを通液する程度の水溶性をいう。
【0108】
また、本発明において、良好な導電性とは、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が50S/cm以上の導電性をいう。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1】実施例1にて製造した導電性高分子膜の光学顕微鏡写真を表す。
図2】比較例1にて製造した導電性高分子膜の光学顕微鏡写真を表す。
【実施例0110】
以下に本発明の共重合体(P)に関する実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
[表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP-T600
[膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT
[粒子径測定]
装置:日機装社製 Microtrac Nanotrac UPA-UT151
[NMR測定]
装置:JEOL製JNM-ECZ400SVXR-300S
[粘度測定]
音叉振動式粘度計:A&D製 SV-1A
[導電率測定]
後述する導電性ポリマー水溶液 0.5mLを30mm角の無アルカリガラス板に塗布し、室温で一晩乾燥した後、ホットプレート上で150℃にて60分加熱して導電性高分子膜を得た。膜厚及び表面抵抗値から、以下の式に基づき算出した。
【0111】
導電率[S/cm]=10/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
表面抵抗値が安定し、作成した導電性高分子膜が平滑ならば塗布性良好とした。
合成例1 (2-(2-(2-((2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ)エトキシ)エトキシ)エタノールメチルエーテル(以下、TEG3OMeと略す)の合成[下記(6)式参照])
200mL 3つ口フラスコに、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタン-1-オール 5.0g(30.5mmol)、4-メチルベンゼンスルホニルクロリド 8.71g(45.6mmol)、及びテトラヒドロフラン 100mLを加えたのち、窒素気流下、室温でピリジン 3.61g(45.7mmol)を滴下後、さらにNaOH 10質量%水溶液を 3.66g添加し、一晩反応液を還流した。冷却後、反応液を濃縮し、水100mLを添加後、トルエン 300mLで抽出した。得られた有機層を、1M塩酸水溶液 100mLで洗浄し、次いで硫酸ナトリウムを用いて脱水した。こうして得られた有機層を濃縮することで粗生成物を取得した。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:トルエン/エタノール=20:1(v/v))で精製することにより、中間体Aを褐色オイルとして7.86g取得した(収率81%)。
【0112】
次に、窒素雰囲気下、300mLセパラブルフラスコに60%水素化ナトリウム 1.69g(21.1mmol)、及びテトラヒドロフラン 20mLを仕込んだ後、室温下、4.00g(23.2mmol)の(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)メタノール[HMEDOTと略す]をテトラヒドロフラン 80mLに溶解させたものを撹拌しながら40分かけて添加した。その後、室温下で60分保持した。中間体A 6.72g(21.1mmol)をジメチルホルムアミド 100mLに溶解し、モレキュラーシーブ 4A 8gを用いて乾燥させた溶液を用意し、これを上記反応液に30分かけて滴下した。その後一晩反応液を室温で熟成したのち、水 3mLを滴下、混合して、反応をクエンチした。溶媒を留去したのち、水 100mL、ヘプタン 100mLを加え、分液した。水層をさらに100mLのヘプタンで洗浄したのち、得られた有機層をあわせて硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去することで粗生成物を取得した。この粗生成物をシリカゲルカラム(溶離液:トルエン/酢酸エチル=10:1~1:1(v/v))により精製することで、3.05g(9.58mmol)の3TEGOMe(上記のコモノマーに該当)を淡黄色油状物質として収率45%で取得した。H-NMRによりTEG3OMeであることを確認した。
【0113】
TEG3OMeは、30℃以下において、水100質量部に対して0.5質量部以上、溶解することがわかった。
H-NMR (400MHz, CDCl)δ3.37 (s, 3H), 3.53-3.56 (m, 2H), 3.63-3.69 (m,11H), 3.75-3.79 (m, 1H), 4.06 (dd,J=11.7,7.5Hz, 1H), 4.25 (dd,J=11.9,2.3Hz, 1H), 4.30-4.35 (m, 1H), 6.31-6.33 (m, 2H)
【0114】
【化10】
【0115】
実施例1 H型共重合体(P)の合成[下記(7)式参照]
国際公開第2014/007299号明細書記載の方法により合成した3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4,-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム 6.48g(18.8mmol)、上記記載のTEG3OMe 2.00g(6.28mmol)、及び水 451gを、メカニカルスターラーを装着した1000mL丸底フラスコに加えたのち、窒素雰囲気下、撹拌し全て溶解させた。この溶液に、塩化鉄(III)2.56g(15.8mmol)を水 50.9gに溶解した溶液を加えた。その後10℃まで冷却した。冷却完了後、過硫酸ナトリウム14.5g(60.8mmol)を水 46.6gに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。滴下後30分かけて20℃まで昇温し、そのまま3時間保持したのち、純水で希釈することで濃度1質量%の重合液を取得した。
【0116】
次に、前記ポリマー水溶液をアンバーライト IRA96SB 2000mL(オルガノ製)に空間速度=1hr-1の条件下通液して陰イオンを除去した。さらに事前に希塩酸にて酸型に変換済みのアンバーライト 120B 1000mL(オルガノ製)を用いて空間速度=1hr-1の条件下通液し、陽イオン類を除去することでH型ポリマー水溶液を得た。前記H型ポリマー水溶液から水を減圧留去することによって濃縮し、濃度1.5質量%のH型共重合体(P)水溶液を得た。
【0117】
前記H型共重合体(P)水溶液を希釈して濃度1.2質量%としたのち、無アルカリガラス板(50mm×50mm)にキャスト後、150℃、60分アニール処理して膜を作製した。得られた膜の表面抵抗、膜厚及び導電率は、それぞれ10.9Ω/□、6.19μm、141S/cmであった。又、H型共重合体(P)の粒子径D50は、1.0nmを示し、濃度1.0質量%水溶液の粘度は11mPa・s(20℃)であった。
【0118】
【化11】
【0119】
前記H型共重合体(P)水溶液について、ガラス基板上に塗布した。乾燥後の膜表面を光学顕微鏡で観察した結果、平滑性、及び均質性に優れる良質な塗布膜が形成されていることを確認した(図1参照)。
【0120】
比較例1
実施例1において、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4,-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを8.64g(25.1mmol)用い、TEG3OMeを使用しなかった以外は、実施例1に準じて重合体の水溶液の合成を試みた。結果、同様に単一の重合体である導電性ポリマー(H型ポリマーB)及び、濃度1.2質量%のH型ポリマーB水溶液を得た。
【0121】
前記H型ポリマーB水溶液について、ガラス基板上に塗布した。乾燥後の膜表面を光学顕微鏡で観察した結果、表面が粗く、細かい空隙が存在して均質性が低い塗布膜が形成されていることを確認した(図1参照)。
図1
図2