(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144892
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】改質フライアッシュの製造方法及び改質フライアッシュ製造装置
(51)【国際特許分類】
C04B 18/08 20060101AFI20241004BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20241004BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B18/08 Z ZAB
F27D19/00 A
B09B3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057061
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】大村 昂平
【テーマコード(参考)】
4D004
4K056
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB10
4D004BA02
4D004CA22
4D004CB34
4D004DA06
4D004DA10
4K056AA09
4K056AA12
4K056BA01
4K056BA02
4K056BB01
4K056BC01
4K056CA08
4K056FA03
(57)【要約】
【課題】 原料フライアッシュの供給量が一定であって、かつ加熱炉内の温度が一定であり、改質フライアッシュの安定的な生産が可能であって、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを安定的に得る製造方法を提供すること。
【解決手段】 原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定しておき、原料フライアッシュを定量供給しつつ、該測定値に応じて、燃料の加熱炉への供給量を決定することで、加熱炉の温度が一定となるよう制御する改質フライアッシュの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料フライアッシュを加熱炉へ供給して加熱することにより、原料フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための方法であって、原料フライアッシュを定量供給しつつ、原料フライアッシュの未燃カーボン量に応じて加熱炉に供給する燃料の供給量を決定することで、加熱炉の温度を一定に制御することを特徴とする改質フライアッシュの製造方法。
【請求項2】
加熱炉が流動層式加熱炉である請求項1記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項3】
定量供給が、定容量の定量供給であり、原料フライアッシュの未燃カーボン量が単位体積あたりの未燃カーボン量である請求項1又は2記載の改質フライアッシュの製造方法。
【請求項4】
原料フライアッシュを加熱することにより、原料フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための装置であって、加熱炉に供給する原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定するための未燃カーボン量測定装置と、原料フライアッシュを加熱炉に供給するための定量供給装置と、燃料の供給手段を備えた加熱炉と、未燃カーボン量の測定値に対して燃料の加熱炉への供給量を調整するための制御装置とを備えることを特徴とする改質フライアッシュ製造装置。
【請求項5】
加熱炉が流動層式加熱炉である請求項4記載の改質フライアッシュ製造装置。
【請求項6】
定量供給装置が、容積式定量供給装置であり、未燃カーボン量測定装置が単位体積あたりの未燃カーボン量を測定する未燃カーボン量測定装置である請求項4又は5記載の改質フライアッシュ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未燃カーボン量が低減された改質フライアッシュの製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
セメント混合材、コンクリート混合材、モルタル混合材等としてフライアッシュが使用されているが、このフライアッシュは、一般に炭素分の燃え残りとされる未燃カーボン量が少ないものが好適とされている。例えば、フライアッシュ中の未燃カーボン量が多いと、モルタルやコンクリートの表面に未燃カーボンが浮き出し、黒色部が発生することがある。また、モルタルやコンクリートに添加される化学混和剤などの薬剤が、未燃カーボンに吸着されるといった問題がある。
【0003】
しかしながら、一般に、火力発電所から発生するフライアッシュは、その未燃カーボン量が一様ではなく、多いもので15質量%ほど存在するものもあり、セメント混合材等として好適なものは、一部に限られているのが現状である。
【0004】
このような状況下、フライアッシュに含まれる未燃カーボンを低減する方法が種々提案されおり、例えば、燃焼法、分級法、浮遊選鉱法などが提案されている。
【0005】
燃焼法は、フライアッシュ中の未燃カーボンを効率的に除去できる方法の一つであり、加熱炉内にて未燃カーボンが燃焼・ガス化することにより、フライアッシュから除去される。この燃焼法においては、加熱炉の温度を一定に制御することが、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを安定的に得るために重要である。なぜなら、加熱炉内の温度変動が大きい場合、加熱炉の温度が低すぎると未燃カーボンが効率的に燃焼せず、加熱炉の温度が高すぎるとフライアッシュが溶融して付着しあうことで粒状化したり、高温で結晶化したりして、フライアッシュの反応性が低下する問題を生じ、一定の品質の改質フライアッシュを得られないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃焼法において加熱炉の温度を一定に保つには、加熱炉内の熱バランスを一定に制御することが重要である。ここで問題となるのが、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量の変動である。前述の通り、フライアッシュ中の未燃カーボン量は一様ではない。即ち、原料フライアッシュの供給速度が一定であると、未燃カーボン量が変動した際に加熱炉内での発熱量も変動してしまうため、熱バランスが一定に保てない。
【0008】
特許文献1には未燃カーボンを確実かつ効率的に燃焼除去する技術として、フライアッシュに含まれる未燃カーボン量をCとし、外熱式ロータリーキルンに供給する大気又は/及び酸素濃度調整ガス中の酸素量をO2とした場合に、O2/Cをモル比で1以上7以下に調整して、フライアッシュを効率よく改質することが記載されている。また、O2/Cを制御するために、フライアッシュの供給量、大気又は/及び酸素濃度調整ガスの供給量、あるいはこれら両供給量を制御することが記載されている。
【0009】
しかしながら、原料フライアッシュの供給量を制御しながらO2/Cを制御する場合、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量が多い時は原料フライアッシュ供給量を減らし、未燃カーボン量が少ない時には原料フライアッシュ供給量を増やす必要があるため、未燃カーボン量の変動に連動して生産量が変動してしまい、安定的な生産ができなくなるという問題がある。さらには、加熱炉の規模が一定であるのに対して、原料の供給量が大きく変動することは、品質変動を生じるリスクが高い。例えば、ロータリーキルンには加熱炉の内容積に占める原料体積の割合を示す充填率という指標がある。充填率は加熱炉において品質を左右する重要な指標である。
【0010】
また、大気又は/及び酸素濃度調整ガスの供給量を変えてO2/Cを制御する方法は、未燃カーボンが十分に燃焼するだけの酸素量を常時供給するために有効であるが、原料フライアッシュ由来の発熱量は一定とならないので、加熱炉内の温度変動が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
従って本発明の課題は、原料フライアッシュの供給量が一定であって、かつ加熱炉内の温度が一定であり、改質フライアッシュの安定的な生産が可能であって、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを安定的に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、事前に原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定しておき、該測定値に応じて燃料の供給量を変更することで、原料フライアッシュの供給量を一定、かつ加熱炉の温度を一定に制御することが可能となり、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、原料フライアッシュを加熱炉へ供給して加熱することにより、原料フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための方法であって、原料フライアッシュを定量供給しつつ、原料フライアッシュの未燃カーボン量に応じて加熱炉に供給する燃料の供給量を決定することで、加熱炉の温度を一定に制御することを特徴とする改質フライアッシュの製造方法である。
【0014】
加熱炉は流動層式加熱炉であることが好ましい。また、定量供給が、定容量の定量供給であり、原料フライアッシュの未燃カーボン量が単位体積あたりの未燃カーボン量であることが好ましい。
【0015】
第二の本発明は、原料フライアッシュを加熱することにより、原料フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための装置であって、加熱炉に供給する原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定するための未燃カーボン量測定装置と、原料フライアッシュを加熱炉に供給するための定量供給装置と、燃料の供給手段を備えた加熱炉と、未燃カーボン量の測定値に対して燃料の加熱炉への供給量を調整するための制御装置とを備えることを特徴とする改質フライアッシュ製造装置である。
【0016】
加熱炉は流動層式加熱炉であることが好ましい。また、定量供給装置が、容積式定量供給装置であり、未燃カーボン量測定装置が単位体積あたりの未燃カーボン量を測定する未燃カーボン量測定装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原料フライアッシュの供給量を一定にすることで安定的な生産を可能とし、かつ加熱炉内の温度を一定に制御することで、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを安定的に得るための製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】単位体積あたりの未燃カーボン量と単位質量あたりの未燃カーボン量との相関を示した図である。
【
図2】原料フライアッシュの質量あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量との相関を示した図である。
【
図3】原料フライアッシュの体積あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量との相関を示した図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の改質フライアッシュの製造方法は、原料フライアッシュを加熱することにより、フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための方法に適用される。以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明で使用する原料フライアッシュは、石炭火力発電所などの石炭を燃焼する設備において発生する一般的なフライアッシュの他、石炭と共に、石炭以外の燃料(バイオマス系燃料等)や可燃系廃棄物が混焼され発生したフライアッシュなどの多様なフライアッシュを用いることができる。なお、原料フライアッシュ中の未燃カーボン量は特に制限されない。そして、燃焼法によるフライアッシュの処理においては、未燃カーボン量を3.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下に低減することができる。
【0021】
原料フライアッシュの未燃カーボン量に応じて加熱炉に供給する燃料の供給量を決定し、加熱炉の温度を一定に制御するためには、原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定する。測定箇所は原料フライアッシュが加熱炉に供給される前、すなわち貯蔵設備に原料フライアッシュを受け入れ、加熱炉に供給されるまでの間であれば特に限定されない。未燃カーボン量が測定された原料フライアッシュが実際に加熱炉に供給されるタイミングを把握するために、原料フライアッシュを貯蔵設備で受け入れてから加熱炉に供給するまでにおいての各経路や貯蔵部おける滞在時間を把握しておくことが好ましい。加熱炉に供給される原料フライアッシュの全量について測定する必要は無く、一部の原料フライアッシュをサンプリングして測定すれば十分である。
【0022】
未燃カーボン量を測定する方法は、特に限定されず公知の手法が使用可能である。例えば、フライアッシュの未燃カーボン量を測定する方法として最も一般的なJIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法を使用することができる。また、そのほかの測定方法として、燃焼させて発生したCO2・COガスを赤外線検出する方法、メチレンブルー吸着量に基づいて算出する方法、マイクロ波を照射して未燃カーボン量を推定する方法等が挙げられる。中でも特に推奨される方法は、マイクロ波を照射して未燃カーボン量を推定する方法である。マイクロ波を照射する方法は測定に要する時間が短いことから、未燃カーボン量を随時監視するうえで有用である。例えば、貯蔵設備から取り出され加熱炉に供給されるまでの原料フライアッシュの流路において、必要量を自動的に取出し、測定装置に導入して測定することで、数分~数十分間隔で未燃カーボン量の測定値を得ることができる。
【0023】
一般に、フライアッシュの未燃カーボン量と言えば、単位質量あたりの未燃カーボン量のことを指す。例えば、コンクリート用フライアッシュの評価方法として上述したJIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法は単位質量あたりの未燃カーボン量を測定する方法である。よって、原料フライアッシュを加熱炉へ供給する際に用いる供給装置が質量式の定量供給装置である場合には、得られた未燃カーボン量(単位質量当たりの未燃カーボン量)の測定値を加熱炉の温度制御にそのまま使用できる。
【0024】
しかし、一般に、粉体の定量供給には容積式定量供給装置が使用される。供給装置として容積式定量供給装置を用いる場合には、供給される原料フライアッシュが体積基準で一定のため、単位体積あたりの未燃カーボン量を指標とすることが、加熱炉に供給される未燃カーボン量をより正確に捉えることが可能となることから好ましい。原料フライアッシュの嵩比重が一定であれば単位質量当たりの未燃カーボン量に所定の嵩比重を乗じて算出しても問題はないが、発明者らによれば原料フライアッシュの嵩比重は未燃カーボンの含有量によって、0.7~1.1kg/Lの範囲で変動することが分かった。
【0025】
図1は単位体積あたりの未燃カーボン量と単位質量あたりの未燃カーボン量の相関を示した図である。未燃カーボン量が少ない領域では体積基準でも質量基準でもほぼ同じ数値を示すことがわかる。しかしながら、未燃カーボン量が多くなるにつれて、質量基準の未燃カーボン量の方が多くなる傾向がわかる。これは、未燃カーボン粒子の嵩密度が小さいためであると考えられる。即ち、単位質量あたりの未燃カーボン量を基に温度制御を行うと、未燃カーボン量が多いときほど、その制御に差異が生じることとなってしまう。このような理由から、本発明においては供給装置として容積式定量供給装置を用いる場合には単位体積あたりの未燃カーボン量を基に温度制御を行うことが好ましく、そうすることで温度制御をより正確に行うことを可能とする。
【0026】
例えばJIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法を用いる場合、単位体積あたりの未燃カーボン量は、原料フライアッシュの嵩密度と単位質量あたり強熱減量を別々に測定することで、単位体積あたりの未燃カーボン量として算出することができる。
【0027】
また、単位体積あたりの未燃カーボン量をより簡易的に測定する方法として、一定容積の容器に原料フライアッシュを仕込み、上記した各種の方法で未燃カーボン量を測定することも可能である。
【0028】
未燃カーボン量が測定された後、定量供給装置を使用して、原料フライアッシュが加熱炉に定量供給される。また、加熱炉に接続される定量供給装置としては、例えば、テーブルフィーダーやサークルフィーダー、スクリューフィーダーなどの一般的な容積式の定量供給装置が使用可能である。
【0029】
加熱炉には原料フライアッシュのほか、空気や酸素などの燃焼用ガスが常時供給される。さらに、加熱炉内の温度を一定に保つために燃料が供給可能となっている。
【0030】
加熱炉へ供給した原料フライアッシュを加熱する際の加熱炉内の温度は700~1000℃の範囲であることが好ましい。700~1000℃の範囲内とすることにより、未燃カーボンを十分に燃焼することができ、未燃カーボン量の低い良質な改質フライアッシュを得ることができ、原料フライアッシュが溶融して付着しあうことで粒状化したり、フライアッシュの反応性が低下してしまったりすることを抑制することができる。
【0031】
使用する加熱炉は特に限定されず、例えば流動層式加熱炉やロータリーキルンなどが使用可能である。
【0032】
本発明の改質フライアッシュの製造方法においては、加熱炉へ供給した原料フライアッシュを、原料フライアッシュの未燃カーボン量に応じて加熱炉に供給する燃料の供給量を変更することで、加熱炉の温度を一定に制御して加熱する。
【0033】
本発明の改質フライアッシュの製造方法においては、加熱炉の温度を一定に制御するために、原料フライアッシュの未燃カーボン量に応じて、加熱炉で使用する燃料の供給量が決定される。燃料の供給量は、燃料の発熱量、原料フライアッシュに含まれる未燃カーボンの発熱量、原料フライアッシュや燃料、空気や酸素などの燃焼用ガスなど加熱炉に導入される物質の加熱に必要な熱量、その他には設備からの放熱など様々な影響を考慮して、加熱炉内の温度が一定となるように決定される。
【0034】
使用する燃料は特に限定されず、重油や灯油などの一般的な化石燃料の他、廃プラスチックや廃油、バイオマス系燃料など、公知の燃料が使用可能である。燃料の供給方法は特に限定されず、使用する熱量の種類や形態に応じて最適なものを設定することが可能である。一般に、未燃カーボン量が多いときは燃料を少なく、未燃カーボン量が少ないときには燃料を多くすることで炉内の温度が一定となるよう制御する。
【0035】
加熱炉の温度制御には別途、炉内冷却水を使用することも可能である。炉内冷却水を加熱炉内に供給することで、水の持つ蒸発潜熱により炉内の温度を低下させることが可能である。未燃カーボン量が極めて多い原料フライアッシュが加熱炉に供給されると、加熱炉への燃料の供給を停止するか燃料の供給量を最低限にしても、加熱炉内の温度が設定値以上となってしまう場合がある。このような場合は、炉内冷却水を使用することが好ましい。冷却水には上水や工水などが一般的に使用可能であり、冷却水の温度は特に限定されない。冷却水の使用量は水の蒸発潜熱と、供給する水の温度等から算出して決定することができる。
【0036】
そして、加熱炉内に供給された原料フライアッシュは加熱されて、未燃カーボンが燃焼する。事前に燃料供給量を推定・決定し、制御に反映しておくことで、加熱炉内の温度変動は最小限に抑えられるが、それでも設定温度と実際の温度で乖離がある場合は、燃焼炉内の温度に基づき燃料の供給量を変化させて微調整を行う。また、必要に応じて、炉内冷却水を供給してもよい。設定温度は目的とする未燃カーボンの低減度に応じて、700~1000℃の温度範囲内で都度設定すればよいが、設定温度からの乖離は±100℃以内とすることが好ましく±50℃以内とすることがより好ましい。±100℃以内であれば、設備の運転安定性と改質フライアッシュの品質の均一性が失われることなく、実施することが可能であり、±50℃以内であればさらに安定性、均一性を確保することが可能である。
【0037】
このように原料フライアッシュの未燃カーボン量に基づいて温度変動を事前に推定して制御を行うことで、原料フライアッシュの供給量を一定にしても実際の加熱炉内の温度変動を最小限に抑えることができ、運転安定性の確保による安定的な生産を可能とし、かつ加熱炉内の温度を一定に制御することで、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを安定的に得ることができる。
【0038】
そして、このようにして得られた改質フライアッシュは、単独で又は他の成分と併用して、セメント混合材、モルタル混合材(モルタル混和剤)、コンクリート混合材(コンクリート混和剤)等として使用することができる。
【0039】
本発明の改質フライアッシュ製造装置は、原料フライアッシュを加熱することにより、フライアッシュ中の未燃カーボンを低減して、未燃カーボン量の少ない改質フライアッシュを製造するための装置であって、加熱炉に供給する原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定するための未燃カーボン量測定装置と、原料フライアッシュを加熱炉に供給するための定量供給装置と、燃料の供給手段を備えた加熱炉と、燃料の加熱炉への供給量を調整するための制御装置とを備える。
【0040】
未燃カーボン量測定装置は、原料フライアッシュの未燃カーボン量を測定し、測定結果を出力する。未燃カーボン量測定装置の仕様や構造は特に限定されないが、例えば、加熱炉に供給される前の原料フライアッシュについて、貯蔵設備から加熱炉に供給されるまでの直前の配管や、後述するようにバッファータンクが設けられている場合には該バッファータンク等、原料フライアッシュの流路の任意の箇所から原料フライアッシュを必要量自動的に取り出して、未燃カーボン量を測定することが可能な装置である。測定方法には前述したように強熱減量の測定方法のように加熱した際の減量を測定する方法や、燃焼させて発生したCO2・COガスを赤外線検出する方法、メチレンブルー吸着量に基づいて算出する方法、マイクロ波を照射して未燃カーボン量を推定する方法等が挙げられる。中でも特にマイクロ波を照射して未燃カーボン量を推定する方法を用いた装置が、測定に要する時間が短く、未燃カーボン量を随時監視するうえで有用であることから、好ましい。さらに、マイクロ波による方法は一定容積の測定セルに原料フライアッシュを充填し、その測定セル内の原料フライアッシュに対してマイクロ波を照射することで体積あたりの未燃カーボン量が測定可能である。質量あたりの未燃カーボン量を算出する場合には、測定セルに充填した原料フライアッシュの嵩密度を別途測定して補正する必要があるが、容積式の定量供給装置を用いる場合には体積あたりの未燃カーボン量の方が有用であるため、嵩密度測定の必要はない。
【0041】
原料フライアッシュを加熱炉に供給するための定量供給装置は、貯蔵設備から取り出された原料フライアッシュを一定質量又は一定体積で加熱炉に供給する。定量供給装置は加熱炉に接続される。一つの加熱炉に対して複数の定量供給装置を設置し、原料フライアッシュを分散して供給することも可能である。こうすることにより、原料フライアッシュが燃焼炉内に均一に分散し、効率的に未燃カーボンを燃焼させることができる。また、貯蔵設備と加熱炉との間にバッファータンクを設けてもよい。貯蔵設備から取り出した原料フライアッシュを、加熱炉近傍に設置したバッファータンクに一旦貯蔵した後に加熱炉に定量供給することで、原料フライアッシュをより高い精度で加熱炉へ供給することができる。
【0042】
定量供給装置は公知の装置を使用可能であり、例えば、テーブルフィーダーやサークルフィーダー、スクリューフィーダーなどの一般的な供給機が使用可能である。なお、本発明において容積式定量供給装置を用いる場合には単位体積あたりの未燃カーボン量を基に加熱炉の温度制御を行うことが好ましく、そうすることで温度制御をより正確に行うことが可能となる。
【0043】
燃料の供給手段を備えた加熱炉は、定量供給装置により供給された原料フライアッシュを加熱して、原料フライアッシュ中の未燃カーボンを低減する。加熱炉の型式は特に限定されず公知の炉が使用可能である。例えば、流動層式加熱炉やロータリーキルンが挙げられる。加熱方法は直接加熱でも間接加熱でも良い。燃料は重油や灯油などの一般的な化石燃料の他、廃プラスチックや廃油、バイオマス系燃料など、公知の燃料が使用可能である。使用する燃料は、加熱炉の仕様に応じて適宜設定することが可能である。
【0044】
また、加熱炉は温度測定手段、炉内冷却水の供給手段を備えていることが好ましい。温度測定手段は、加熱炉の温度を測定し、測定結果を出力する。温度測定手段を備えることにより、原料フライアッシュの未燃カーボン量の測定結果に基づく加熱炉の温度の制御に加え、加熱炉の温度の測定結果に基づく温度の制御を行うことも可能となり、温度変動を最小限に抑えることが可能となる。炉内冷却水の供給手段は、炉内の温度を低下させるのに用いられる。炉内冷却水の供給手段を備えることにより、燃料の供給による加熱に加え、炉内冷却水の供給により冷却も可能となるため、加熱炉の温度制御をきめ細やかに行うことが可能となる。冷却水の吹込み口は加熱炉の任意の場所に設定することが可能であり、冷却方法は直接冷却でも間接冷却でも良い。
【0045】
燃料の供給量を調整するための制御装置は、原料フライアッシュの未燃カーボン量測定装置から出力された未燃カーボン量の測定結果に応じて、燃料の加熱炉への供給量を調整する。一般に加熱炉に供給される原料フライアッシュの未燃カーボン量が多い場合には燃料を少なく、未燃カーボン量が少ない場合には燃料を多く供給して、炉内の温度が一定となるように制御する。
【0046】
制御装置は、加熱炉が温度測定手段を備えている場合、さらに、加熱炉の温度測定手段から出力された測定結果に応じて加熱炉の燃料の供給手段へ供給する燃料の供給量を調整する機能を有していることが好ましい。原料フライアッシュの未燃カーボン量に基づき炉内の温度を制御しても設定温度との乖離がある場合には、加熱炉の温度測定手段から出力された測定結果に応じて燃料の供給量を調整することで炉内の温度を微調整することができる。
【0047】
加熱炉が炉内冷却水の供給手段を備えている場合、未燃カーボン量が多い場合には、燃料の供給を少なくするとともに炉内冷却水の供給を行って炉内の温度が一定となるように制御してもよい。そして、上記したように加熱炉が温度測定手段を備えている場合、加熱炉の温度に応じて、燃料の供給量に加えて炉内冷却水の供給量も調整することにより炉内の温度を微調整することが好ましい。
【実施例0048】
(実施例1)
流動層式加熱炉を使用して原料フライアッシュを900℃で加熱処理し、改質フライアッシュを得た。原料フライアッシュは嵩比重や未燃カーボン量の異なるA~Dの4種類を使用した。各原料について、体積あたり未燃カーボン量、質量あたり未燃カーボン量を事前に測定した。質量あたり未燃カーボン量の測定方法はJIS A 6201に記載される強熱減量の測定方法にて行った。体積あたり未燃カーボン量は別途測定した嵩比重から換算した。使用した換算式を以下に示す。
体積あたり未燃カーボン量(%)=質量あたり未燃カーボン量(%)×嵩比重(kg/L)
【0049】
流動層加熱炉は内径400mm、高さ4500mmのものを使用し、内部に流動媒体として珪砂を充填した。珪砂は静止時の高さが1000mmとなるよう充填した。そして、下部から空気を供給し、珪砂を流動させ、900℃まで昇温した後、各原料フライアッシュを炉内に供給した。各原料フライアッシュの供給開始後に生じる温度変化に対して、燃料供給量を変更しながら炉内温度が900℃で安定するよう調整した。原料供給装置には容積式定量供給装置を使用し、各原料フライアッシュを個別に96L/hで供給した。また、燃料にはプロパンガスとA重油を併用した。24時間連続運転にて加熱処理したが、原料フライアッシュ供給開始後、10分ほど燃料供給量を変更して炉内温度を900℃で安定するよう調整した後は、炉内温度を維持するために燃料供給量を変更する必要はなかった。また、供給した原料フライアッシュに対して、回収された改質フライアッシュは、未燃カーボンの燃焼による減量分を差し引いて、99.2%であり、ほぼ全量を回収可能であった。
【0050】
表1に各原料フライアッシュの嵩比重、体積あたり未燃カーボン量、原料フライアッシュの供給量を示す。また、流動層式加熱炉へ一定容積で原料フライアッシュを供給して改質した際、炉内温度を900℃に保持するために必要となった燃料供給量を、熱量換算した数値を表1に示す。
【0051】
図2には各原料フライアッシュの質量あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量の相関を示す。
図2より、質量あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量との相関が確認できる。線形回帰によるR
2値は0.9532であり、燃料使用量を未燃カーボン量から高い精度で予測可能であることがわかる。
【0052】
次いで、
図3には各原料フライアッシュの体積あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量の相関を示す。
図3より、体積あたり未燃カーボン量と燃料由来熱量供給量とのさらに高い相関が確認できる。線形回帰によるR
2値は0.9916であり、燃料供給量を未燃カーボン量からより高い精度で予測可能であることがわかる。
【0053】
【0054】
(実施例2)
新たに原料フライアッシュを2種類(E、F)準備し、実施例1に示す体積あたり未燃カーボン量と燃料由来供給熱量の関係から燃料由来供給熱量が予測可能であるかを検証した。
図3中に示す回帰式から必要な燃料由来供給熱量を計算し、実際に供給して24時間加熱処理したところ、炉内温度は900℃に非常に近い値で安定していた。
【0055】
表2に原料フライアッシュE、Fの嵩比重、体積あたり未燃カーボン量、原料フライアッシュの供給量を示す。また、
図3中に示す回帰式から計算した必要な燃料由来供給熱量、加熱処理中の炉内温度を表2に示す。
【0056】