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特開2024-144903アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線
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  • 特開-アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線 図1
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  • 特開-アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144903
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20241004BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01R13/03 D
C25D7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057075
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】関谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
(72)【発明者】
【氏名】高澤 司
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA09
4K024AB02
4K024AB17
4K024BA06
4K024BB10
4K024DA07
4K024DA08
4K024DA10
4K024GA01
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】優れた導電性を有し、繰り返し通電後の温度上昇を抑制できる、アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を提供する。
【解決手段】アルミニウム系端子は、導線と接続する導線接続部と、第1主面および第2主面を有し、接続部材に接触する板状接続部と、前記第1主面および前記第2主面の少なくとも一方の主面上に設けられ、0.10μm以上10.00μm以下の厚さを有するCu層と、前記Cu層上に設けられ、0.50μm以上20.00μm以下の厚さを有するSn層とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線と接続する導線接続部と、
第1主面および第2主面を有し、接続部材に接触する板状接続部と、
前記第1主面および前記第2主面の少なくとも一方の主面上に設けられ、0.10μm以上10.00μm以下の厚さを有するCu層と、
前記Cu層上に設けられ、0.50μm以上20.00μm以下の厚さを有するSn層と
を備える、アルミニウム系端子。
【請求項2】
前記板状接続部と前記Cu層との間に設けられ、1.0μm以上10.0μm以下の厚さを有するNi含有層をさらに備える、請求項1に記載のアルミニウム系端子。
【請求項3】
前記板状接続部の長手方向に垂直な断面において、電子後方散乱回折法による結晶方位解析を行ったとき、前記Cu層の平均結晶粒径が3.0μm以下であり、前記Cu層の(100)面、(110)面、(111)面のそれぞれの集積率が33%以下である、請求項1に記載のアルミニウム系端子。
【請求項4】
前記板状接続部の長手方向に垂直な断面において、電子後方散乱回折法による結晶方位解析を行ったとき、前記Sn層の結晶粒に対する、前記Sn層における前記Cu層の平均結晶粒径以下の結晶粒の存在割合が6.0%以下である、請求項1に記載のアルミニウム系端子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム系端子の導線接続部にアルミニウム系電線が接続されてなる、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、配電用電線の導線には、高い導電性を有する銅や銅合金などの銅系材料が用いられているが、近年では、軽量化の観点からアルミニウムやアルミニウム合金などのアルミニウム系材料が用いられることがある。アルミニウム系導線の端末接続には、異種金属腐食を防止するために、アルミニウム系端子が用いられることがある。アルミニウム系導体と接続しているアルミニウム系端子の板状接続部をボルトなどで接続部材に締結することによって、電気回路を作り、電流を流す。
【0003】
但し、アルミニウム系端子の表面には、絶縁性の酸化被膜が存在している。そのため、アルミニウム系端子を接続部材に導通させるには、ある程度の圧力を与えてアルミニウム系端子の板状接続部表面に存在する酸化被膜を破壊し、板状接続部のアルミニウム新生面を接続部材に接触させる必要があるものの、その圧力制御が難しく十分な導通が確保できないことがある。
【0004】
そこで、アルミニウム系端子の表層にSn層を形成させて導電性を確保する方法がある。しかしながら、通常のジンケート処理で形成されるNi-P層上にSn層を形成させた場合、密着性不良によるSn層の剥がれによって、アルミニウム系端子の接続部材との接触面における抵抗上昇およびアルミニウム系端子の繰り返し通電後の温度上昇が生じ、最悪の場合には発火する恐れがある。
【0005】
また、特許文献1には、相手方端子と直接接触する接点部において、Al合金材上に形成され、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、NiおよびPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含む合金層と、合金層上に形成され、Sn(OH)を含む導電性皮膜層と、を有するアルミニウム端子が記載されている。しかしながら、特許文献1では、アルミニウム端子の繰り返し通電後の抵抗上昇について何ら検討されておらず、アルミニウム端子の繰り返し通電後の温度上昇を抑制することは十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-220212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、優れた導電性を有し、繰り返し通電後の温度上昇を抑制できる、アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 導線と接続する導線接続部と、第1主面および第2主面を有し、接続部材に接触する板状接続部と、前記第1主面および前記第2主面の少なくとも一方の主面上に設けられ、0.10μm以上10.00μm以下の厚さを有するCu層と、前記Cu層上に設けられ、0.50μm以上20.00μm以下の厚さを有するSn層とを備える、アルミニウム系端子。
[2] 前記板状接続部と前記Cu層との間に設けられ、1.0μm以上10.0μm以下の厚さを有するNi含有層をさらに備える、上記[1]に記載のアルミニウム系端子。
[3] 前記板状接続部の長手方向に垂直な断面において、電子後方散乱回折法による結晶方位解析を行ったとき、前記Cu層の平均結晶粒径が3.0μm以下であり、前記Cu層の(100)面、(110)面、(111)面のそれぞれの集積率が33%以下である、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム系端子。
[4] 前記板状接続部の長手方向に垂直な断面において、電子後方散乱回折法による結晶方位解析を行ったとき、前記Sn層の結晶粒に対する、前記Sn層における前記Cu層の平均結晶粒径以下の結晶粒の存在割合が6.0%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のアルミニウム系端子。
[5] 上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のアルミニウム系端子の導線接続部にアルミニウム系電線が接続されてなる、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた導電性を有し、繰り返し通電後の温度上昇を抑制できる、アルミニウム系端子およびアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態のアルミニウム系端子の要部構成の一例を示す斜視図である。
図2図2は、実施形態のアルミニウム系端子を構成する板状接続部の一例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態のアルミニウム系端子を構成する板状接続部の他例を示す断面図である。
図4図4は、実施形態のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線の要部構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム系端子を構成する板状接続部の主面の表層を所定の層構造にすることによって、所定の層構造を有する主面を接触面として接続部材に接続する場合、優れた導電性を有し、繰り返し通電後の温度上昇を抑制できることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0013】
実施形態のアルミニウム系端子は、導線と接続する導線接続部と、第1主面および第2主面を有し、接続部材に接触する板状接続部と、第1主面および第2主面の少なくとも一方の主面上に設けられ、0.10μm以上10.00μm以下の厚さを有するCu層と、Cu層上に設けられ、0.50μm以上20.00μm以下の厚さを有するSn層とを備える。
【0014】
図1は、実施形態のアルミニウム系端子の要部構成の一例を示す斜視図である。図2は、実施形態のアルミニウム系端子を構成する板状接続部の一例を示す断面図である。なお、図1では、便宜上、Cu層13およびSn層14を省略する。
【0015】
図1~2に示すように、アルミニウム系端子1は、板状接続部10と導線接続部20とCu層13とSn層14とを備える。板状接続部10および導線接続部20を含むアルミニウム系端子1の基体は、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含むアルミニウム系材料から形成され、例えばA1070から形成される。
【0016】
アルミニウム系端子1を構成する板状接続部10は、第1主面11aおよび第2主面11bを有し、不図示の接続部材に接触する。例えば、板状接続部10は、アルミニウム系端子1の一端側に設けられる。また、導線接続部20は、後述のようにアルミニウム系電線3の導線31と接続する部分である。例えば、導線接続部20は、アルミニウム系端子1の他端側に設けられる。
【0017】
アルミニウム系端子1の板状接続部10には、互いに対向する第1主面11aから第2主面11bまで貫通する貫通穴12が設けられてもよい。貫通穴12にボルトなどの締結部材(不図示)を挿通して、アルミニウム系端子1の板状接続部10を不図示の接続部材に機械的かつ電気的に接続する。
【0018】
板状接続部10における第1主面11aおよび第2主面11bの少なくとも一方の主面上には、Cu層13が設けられる。Cu層13は、例えばめっき層である。Cu層13が設けられる板状接続部10の主面は、不図示の接続部材に接触する側の面であり、ここでは図2に示すように第1主面11aとする。例えば、Cu層13が設けられる主面(ここでは第1主面11a)は、後述の図4に示すように、導線接続部20の圧着部21とは反対側に位置する。また、Cu層13は、第1主面11aに加えて、第2主面11bに設けられてもよい。
【0019】
Cu層13の厚さは、0.10μm以上であり、好ましくは0.50μm以上、より好ましくは1.00μm以上である。Cu層13の厚さが0.10μm以上であると、板状接続部10に対するCu層13の密着力不足によるCu層13およびSn層14の剥がれを抑制し、板状接続部10と不図示の接続部材との間の抵抗の上昇を抑制できる。
【0020】
また、Cu層13の厚さは、10.00μm以下であり、好ましくは6.00μm以下、より好ましくは4.00μm以下である。Cu層13の厚さが10.00μm以下であると、化合物を作り易いCuSn合金層の形成を抑制し、板状接続部10と接続部材との間の抵抗の上昇を抑制できる。さらに、生産性の低下を抑制できる。
【0021】
Cu層13上に設けられるSn層14の厚さは、0.50μm以上であり、好ましくは3.00μm以上、より好ましくは5.00μm以上である。Sn層14の厚さが0.50μm以上であると、Cu層13上におけるSn層14の部分的な欠如や過度な不均一によるアルミニウム系端子1の導電性不足を抑制できる。
【0022】
また、Sn層14の厚さは、20.00μm以下であり、好ましくは16.00μm以下、より好ましくは12.00μm以下である。Sn層14の厚さが20.00μm以下であると、Sn層14の凹凸ムラによる接圧変化や抵抗値のばらつきを抑制できる。さらに、Sn層14の剥がれを抑制し、板状接続部10と不図示の接続部材との間の抵抗の上昇を抑制できる。さらに、生産性の低下を抑制できる。
【0023】
図3は、実施形態のアルミニウム系端子を構成する板状接続部の他例を示す断面図である。図3に示すように、アルミニウム系端子1は、板状接続部10とCu層13との間に設けられるNi含有層15をさらに備えてもよい。
【0024】
アルミニウム系端子1がNi含有層15を備えると、板状接続部10とCu層13との密着性が向上するため、板状接続部10と接続部材との間の抵抗の上昇を抑制できる。さらには、繰り返し通電後の温度上昇を抑制できる。一方、Ni含有層15が厚すぎると、貫通穴12へのボルト締め時のトルク負荷により、Ni含有層15に大きなクラック(割れ)が生じる恐れがあり、アルミニウム系端子1を屋外で使用する場合には、風雨に晒されるため、腐食が発生し、抵抗が上昇する可能性がある。例えば断面積250mm等の太い電線を接続するアルミニウム系端子1では、推奨締付トルクが大きくなるため、クラックが生じやすくなる傾向にある。また、板状接続部10の上記層構造と同様の層構造がアルミニウム系端子1の導線接続部20にも設けられている場合、後述の図4に示すアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5を製造するために導線接続部20を圧着して圧着部21を形成することによって、導線接続部20の圧着部21に大きなクラックが生じる恐れがある。そのため、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5を屋外で使用すると、腐食が発生し、抵抗が上昇する可能性がある。
【0025】
上記の理由から、Ni含有層15の厚さについて、下限値は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上であり、上限値は、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは6.0μm以下である。また、Ni含有層15は、Ni-P層またはNi層であることが好ましい。
【0026】
<アルミニウム系端子の金属組織>
次に、アルミニウム系端子の金属組織について説明する。板状接続部10の長手方向に垂直な板状接続部10の断面において、電子後方散乱回折(EBSD)法による結晶方位解析を行ったとき、Cu層13の平均結晶粒径が3.0μm以下であり、Cu層13の(100)面、(110)面、(111)面のそれぞれの集積率が33%以下であることが好ましい。板状接続部10の長手方向は、アルミニウム系端子1の長手方向と同じ方向である。
【0027】
ここで、「EBSD」とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査型電子顕微鏡(SEM)内で測定試料であるアルミニウム系端子に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。
【0028】
このような構成のアルミニウム系端子1であれば、Cu層13上に形成されるSn層14の結晶成長が特定の結晶粒に偏りなく均等になされるため、Cu層13とSn層14との密着性がさらに向上し、めっき剥離しにくくなる。さらには、後述のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5として仕上げ通電した際の抵抗を下げ、ヒートサイクル試験における温度上昇を抑制することができる。Sn層14の結晶成長について、Sn層14の下地であるCu層13の平均結晶粒径は小さい方が、Sn層14が特定の結晶に依存することを抑制できるため好ましく、Cu層の平均結晶粒径は、2.0μm以下がより好ましく、1.1μm以下がさらに好ましい。
【0029】
また、板状接続部10の長手方向に垂直な板状接続部10の断面において、EBSD法による結晶方位解析を行ったとき、Sn層14の結晶粒に対する、Sn層14におけるCu層13の平均結晶粒径以下の結晶粒の存在割合が6.0%以下であることが、Cu層13とSn層14との密着性をさらに向上させる観点で好ましい。このような構成により、Sn層14における結晶成長は、Cu層13の特定の結晶に依存しにくくなるため、Sn層14が均等に成長しやすく、密着性が向上する。このような理由から、上記Sn層14の結晶粒に対する、Sn層14におけるCu層13の平均結晶粒径以下の結晶粒の存在割合は、6.0%以下が好ましく、2.0%以下がより好ましい。
【0030】
このようなアルミニウム系端子1は、配電盤やデータセンタなどの機器に使用される電線やケーブルの端子として好適に用いられる。
【0031】
次に、アルミニウム系端子1の製造方法について説明する。
【0032】
まず、第1鍛造工程では、アルミニウム系材料で構成される丸棒の中心部を鍛造で圧縮し、導線接続部20を成形する。
【0033】
第1鍛造工程の後に実施される第1熱処理工程は、導線接続部20と後述のアルミニウム系電線3の導線31との圧着時の変形抵抗を低くする目的で行われる。第1熱処理工程は、特に限定はないが、300℃以上450℃以下、1時間以上3時間以内の範囲が工業的に安定的に熱処理されるためよい。
【0034】
第1熱処理工程の後に実施される第2鍛造工程では、導線接続部20と反対側の端部を鍛造で金型に入れて圧縮する。こうして、板状接続部10を形成する。
【0035】
また、第2鍛造工程の後に第3鍛造工程を実施してもよい。第3鍛造工程では、板状接続部10の主面に転写パターンを付与するため、パターン形状加工が施されている内面を有し、第2鍛造工程で使用した金型とは別の金型を用いて、板状接続部10を鍛造する。板状接続部10を挟み込むように2枚の金型を設置し、板状接続部10をプレスして、板状接続部10の主面にパターンを形成する。
【0036】
その後、打ち抜きによって板状接続部10に貫通穴12を開け、貫通穴12周辺のバリを取り、板状接続部10および導線接続部20を備える試料を得る。
【0037】
続いて、試料をアルカリ洗浄剤の水溶液に浸漬して試料の表面を脱脂するアルカリ脱脂工程を行う。アルカリ脱脂工程の条件としては、水溶液中のアルカリ洗浄剤濃度が400ml/L以上500ml/L以下、液温が35℃以上55℃以下、浸漬時間が1分以上5分以内である。
【0038】
アルカリ脱脂工程の後に実施される酸化被膜除去工程では、試料をエッチング液に浸漬して、試料の表面に存在する絶縁性の酸化被膜を除去する。酸化被膜除去工程の条件としては、エッチング液の濃度が60ml/L以上100ml/L以下、液温が50℃以上70℃以下、浸漬時間が1分以上5分以内である。
【0039】
酸化被膜除去工程の後に実施される第1硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬して、試料の硝酸洗浄を行う。第1硝酸洗浄工程の条件としては、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が10秒以上50秒以内である。
【0040】
第1硝酸洗浄工程の後に実施される第1ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬して、試料のジンケート処理を行う。第1ジンケート処理工程の条件としては、水溶液中の亜鉛置換剤濃度が230ml/L以上330ml/L以下、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が10秒以上50秒以内である。
【0041】
第1ジンケート処理工程の後に実施される第2硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬して、試料の硝酸洗浄を行う。第2硝酸洗浄工程の条件としては、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が30秒以上70秒以内である。
【0042】
第2硝酸洗浄工程の後に実施される第2ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬して、試料のジンケート処理を行う。第2ジンケート処理工程の条件としては、水溶液中の亜鉛置換剤濃度が230ml/L以上330ml/L以下、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が30秒以上70秒以内である。
【0043】
アルミニウム系端子1がNi含有層15を具備しない場合には、第2ジンケート処理工程の後に無電解Cuめっき工程を実施する。無電解Cuめっき工程では、試料をめっき液に浸漬し無電解めっきにより、試料の表面にCu層を形成する。無電解Cuめっき工程の条件としては、液温が35℃以上55℃以下、浸漬時間が1分以上120分以内である。また、めっき液としては、硫酸銅5水和物の濃度が0.30mol/dm以上0.35mol/dm以下、クエン酸三ナトリウム2水和物の濃度が0.06mol/dm以上0.10mol/dm以下、次亜リン酸ナトリウムの濃度が0.15mol/dm以上0.20mol/dm以下、ホウ酸の濃度が0.25mol/dm以上0.30mol/dm以下である。
【0044】
無電解Cuめっき工程の後に実施される電解Snめっき工程では、試料をめっき液に浸漬して電流を流すことにより、Cu層の表面にSn層を形成する。電解Snめっき工程の条件としては、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が20秒以上30分以内、電流密度が1A/dm以上3A/dm以下である。また、めっき液としては、硫酸錫の濃度が80g/L以上100g/L以下、硫酸の濃度が50ml/L以上60ml/L以下である。また、Sn層の光沢性を向上するため、めっき液に半光沢剤を加えてもよい。例えば、半光沢剤の濃度は5ml/L程度である。
【0045】
アルミニウム系端子1がNi含有層15を具備する場合には、第2ジンケート処理工程の後に無電解Niめっき工程を実施する。無電解Niめっき工程では、試料をめっき液に浸漬し無電解めっきにより、試料の表面にNi含有層を形成する。無電解Niめっき工程の条件としては、液温が85℃以上97℃以下、浸漬時間が1分以上120分以内である。また、めっき液としては、硫酸ニッケルの濃度が25g/L以上30g/L以下、次亜リン酸ナトリウムの濃度が20g/L以上25g/L以下、酢酸ナトリウムの濃度が5g/L以上15g/L以下、クエン酸ナトリウムの濃度が5g/L以上15g/L以下である。
【0046】
無電解Niめっき工程の後に実施される電解Cuめっき工程では、試料をめっき液に浸漬して電流を流すことにより、Ni含有層の表面にCu層を形成する。電解Cuめっき工程の条件としては、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が5秒以上60分以内、電流密度が0.4A/dm以上3.0A/dm以下である。また、めっき液としては、硫酸銅の濃度が150g/L以上200g/L以下、硫酸の濃度が40g/L以上50g/L以下、濃塩酸の濃度が0.150ml/L以上0.175ml/L以下である。
【0047】
電解Cuめっき工程の後に実施される電解Snめっき工程では、試料をめっき液に浸漬して電流を流すことにより、Cu層の表面にSn層を形成する。電解Snめっき工程の条件としては、液温が10℃以上30℃以下、浸漬時間が5秒以上30分以内、電流密度が1A/dm以上3A/dm以下である。また、めっき液としては、硫酸錫の濃度が80g/L以上100g/L以下、硫酸の濃度が50ml/L以上60ml/L以下である。また、Sn層の光沢性を向上するため、めっき液に半光沢剤を加えてもよい。例えば、半光沢剤の濃度は5ml/L程度である。
【0048】
なお、上記の各工程の後には、水洗いを行う。
【0049】
こうして、アルミニウム系端子1を得ることができる。
【0050】
次に、実施形態のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線について説明する。実施形態のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線は、上記のアルミニウム系端子の導線接続部にアルミニウム系電線が接続されてなる。
【0051】
図4は、実施形態のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線の要部構成の一例を示す斜視図である。なお、図4では、便宜上、Cu層13およびSn層14を省略する。
【0052】
図4に示すように、実施形態のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5は、アルミニウム系端子1とアルミニウム系電線3とを備え、アルミニウム系端子1の導線接続部20がアルミニウム系電線3の導線31と接続されてなる。アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5の長手方向は、アルミニウム系端子1の長手方向と同じ方向である。導線31は、例えば図4に示すように、少なくとも1つ以上の素線31aから構成される。導線31は、図4に示すような複数の素線31aを撚り合わせた撚線でもよいし、複数の素線31aを束ねた束線でもよいし、1本の素線31aでもよい。アルミニウム系電線3の導線31、すなわち複数の素線31aは、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含むアルミニウム系材料から形成される。
【0053】
また、導線31の外周には、絶縁被覆部32が設けられてもよい。また、絶縁被覆部32の外周には、シース33が設けられてもよい。
【0054】
図4では、導線31、絶縁被覆部32およびシース33を備えるアルミニウム系電線3の一端側において、導線31の外周を覆う絶縁被覆部32と絶縁被覆部32の外周を覆うシース33とがアルミニウム系電線3から剥ぎ取られて、導線31が露出している。
【0055】
アルミニウム系端子1の他端側には、アルミニウム系電線3の一端側で露出している導線31を挿入する管状の導線接続部20が設けられている。アルミニウム系電線3の導線31がアルミニウム系端子1の導線接続部20に挿入している状態で、アルミニウム系端子1の導線接続部20がかしめられると、圧着部21が導線接続部20に形成され、アルミニウム系端子付き電線5が得られる。圧着部21では、アルミニウム系電線3の導線31がアルミニウム系端子1の導線接続部20に圧着されている。アルミニウム系端子1は圧着部21を介してアルミニウム系電線3と電気的に接続される。
【0056】
ここでは、アルミニウム系端子1の導線接続部20がクローズ型の管状形状である例について示しているが、導線接続部20をかしめてアルミニウム系電線3の導線31に圧着できれば、導線接続部20の形状は限定されるものではない。導線接続部20は、例えばオープン型の管状形状であってもよい。
【0057】
このようなアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5は、配電盤やデータセンタなどで使用される接続部材として好適に用いられる。
【0058】
次に、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5の製造方法について説明する。
【0059】
まず、コンパウンド挿入工程では、アルミニウム系端子1の導線接続部20とアルミニウム系電線3の導線31との密着性を向上するために、導線接続部20の内側に不図示のコンパウンド材を塗布する。コンパウンド材は、主に鉱油および亜鉛粉末で構成され、導線接続部20と導線31とを良好に接続するために用いられる。コンパウンド材が導線接続部20内に設けられると、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5の良好な導電性の確保、導線接続部20の酸化被膜および導線31の酸化被膜の破壊、圧着部21の防水などの役割を果たす。
【0060】
コンパウンド挿入工程の後に実施される圧着工程では、導線接続部20に導線31を挿入し、圧着工具を用いて導線接続部20に一方向から力をかけて、導線接続部20と導線31とを圧着し、圧着部21を形成する。圧着部21の窪み量が大きいほど、換言すると圧着時の押込み力が大きいほど、アルミニウム系端子1の導線接続部20とアルミニウム系電線3の導線31とを強固に接合できる。こうして、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線5を得ることができる。
【0061】
以上説明した実施形態によれば、アルミニウム系端子を構成する板状接続部の主面の表層を所定の層構造にすることによって、所定の層構造を有する主面を接触面として接続部材に接続する場合、優れた導電性を有し、繰り返し通電後の温度上昇を抑制することができる。このように、アルミニウム系端子やアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線に対して繰り返し通電を行っても、発熱を抑制できるため、発火することなく、安心かつ安全に使用することができる。
【0062】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0063】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1~9、比較例2~5)
実施例1~6、9および比較例2~5では、以下のようにして板状接続部および導線接続部を備える試料を製造した。まず、第1鍛造工程として、純アルミニウムで構成される丸棒の中心部を鍛造で圧縮し、導線接続部を成形した。続いて、導線接続部とアルミニウム系電線の導線との圧着時の変形抵抗を低くするため、第1熱処理工程として、300℃、1時間の熱処理を行った。続いて、第2鍛造工程として、導線接続部と反対側の端部を鍛造で金型に入れて圧縮し、板状接続部を形成した。続いて、板状接続部に貫通穴を開けた後、貫通穴周辺のバリを取った。こうして、板状接続部および導線接続部を備える試料を得た。
【0065】
実施例7~8では、以下のようにして板状接続部および導線接続部を備える試料を得た。まず、第1鍛造工程として、純アルミニウムで構成される丸棒の中心部を鍛造で圧縮し、導線接続部を成形した。続いて、導線接続部とアルミニウム系電線の導線との圧着時の変形抵抗を低くするため、第1熱処理工程として、300℃、1時間の熱処理を行った。続いて、第2鍛造工程として、導線接続部と反対側の端部を鍛造で金型に入れて圧縮し、板状接続部を形成した。続いて、第3鍛造工程として、板状接続部を挟み込むように2枚の金型を設置し、板状接続部をプレスして、板状接続部の主面にパターンを形成した。形成したパターンは、1.3mm角の正方形の4つの角を中心とする直径φ0.8mmの4つの円柱と、その4つの円柱のさらに中心に直径φ0.8mmのもう1つの円柱が位置するようにし、5つの円柱の高さは100μmとした。続いて、板状接続部に貫通穴を開けた後、貫通穴周辺のバリを取った。こうして、板状接続部および導線接続部を備える試料を得た。
【0066】
次に、表1に示す厚さおよび物性を有するCu層およびSn層を試料の表面に形成した。各工程の条件は以下の通りとした。
【0067】
まず、アルカリ洗浄剤の水溶液を用いたアルカリ脱脂工程では、試料をアルカリ洗浄剤の水溶液に浸漬し、水溶液中のアルカリ洗浄剤(上村工業株式会社製、AD-68F)の濃度を400ml/L以上500ml/L以下、液温を35℃以上55℃以下、浸漬時間を1分以上5分以内とした。続いて、エッチング液を用いた酸化被膜除去工程では、試料をエッチング液に浸漬し、エッチング液(上村工業株式会社製、AD-101F)の濃度を60ml/L以上100ml/L以下、液温を50℃以上70℃以下、浸漬時間を1分以上5分以内とした。続いて、硝酸水溶液を用いた第1硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬し、硝酸水溶液(硝酸67.5%、濃度250ml/L以上350ml/L以下)の温度を10℃以上30℃以下、浸漬時間を10秒以上50秒以内とした。続いて、亜鉛置換剤の水溶液を用いた第1ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬し、水溶液中の亜鉛置換剤(上村工業株式会社製、AZ-301-3X)の濃度を230ml/L以上330ml/L以下、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を10秒以上50秒以内とした。続いて、硝酸水溶液を用いた第2硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬し、硝酸水溶液(硝酸67.5%、濃度250ml/L以上350ml/L以下)の温度を10℃以上30℃以下、浸漬時間を30秒以上70秒以内とした。続いて、亜鉛置換剤の水溶液を用いた第2ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬し、水溶液中の亜鉛置換剤(上村工業株式会社製、AZ-301-3X)の濃度を230ml/L以上330ml/L以下、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を30秒以上70秒以内とした。
【0068】
続いて、無電解Cuめっき工程では、硫酸銅5水和物の濃度が0.30mol/dm以上0.35mol/dm以下、クエン酸三ナトリウム2水和物の濃度が0.06mol/dm以上0.10mol/dm以下、次亜リン酸ナトリウムの濃度が0.15mol/dm以上0.20mol/dm以下、ホウ酸の濃度が0.25mol/dm以上0.30mol/dm以下であるめっき液に試料を浸漬し、液温を35℃以上55℃以下、浸漬時間を1分以上120分以内とした。続いて、電解Snめっき工程では、硫酸錫の濃度が80g/L以上100g/L以下、硫酸の濃度が50ml/L以上60ml/L以下、半光沢剤(石原ケミカル株式会社製、UTB 513Y)の濃度が5ml/Lであるめっき液に試料を浸漬し、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を20秒以上30分以内、電流密度を1A/dm以上3A/dm以下とした。
【0069】
なお、上記の各工程の後には、水洗いを行った。こうして、Cu層とSn層とを備えるアルミニウム系端子を得た。
【0070】
続いて、導線接続部の内側にコンパウンド材(コンパウンドA、古河パワーシステムズ(株)社製)を塗布した。続いて、導線接続部にアルミニウム系電線(断面積250mm)の導線を挿入し、圧着工具を用いて導線接続部に一方向から力をかけて、導線接続部とアルミニウム系導線とを圧着し、圧着部を形成した。こうして、アルミニウム系端子の導線接続部とアルミニウム系電線の導線とを電気的に接続したアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を得た。
【0071】
(実施例10~13、比較例1および6)
実施例1と同様に、板状接続部および導線接続部を備える試料を得た。
【0072】
次に、表1に示す厚さおよび物性を有するNi含有層、Cu層およびSn層を試料の表面に形成した。各工程の条件は以下の通りとした。
【0073】
まず、アルカリ洗浄剤の水溶液を用いたアルカリ脱脂工程では、試料をアルカリ洗浄剤の水溶液に浸漬し、水溶液中のアルカリ洗浄剤(上村工業株式会社製、AD-68F)の濃度を400ml/L以上500ml/L以下、液温を35℃以上55℃以下、浸漬時間を1分以上5分以内とした。続いて、エッチング液を用いた酸化被膜除去工程では、試料をエッチング液に浸漬し、エッチング液(上村工業株式会社製、AD-101F)の濃度を60ml/L以上100ml/L以下、液温を50℃以上70℃以下、浸漬時間を1分以上5分以内とした。続いて、硝酸水溶液を用いた第1硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬し、硝酸水溶液(硝酸67.5%、濃度250ml/L以上350ml/L以下)の温度を10℃以上30℃以下、浸漬時間を10秒以上50秒以内とした。続いて、亜鉛置換剤の水溶液を用いた第1ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬し、水溶液中の亜鉛置換剤(上村工業株式会社製、AZ-301-3X)の濃度を230ml/L以上330ml/L以下、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を10秒以上50秒以内とした。続いて、硝酸水溶液を用いた第2硝酸洗浄工程では、試料を硝酸水溶液に浸漬し、硝酸水溶液(硝酸67.5%、濃度250ml/L以上350ml/L以下)の温度を10℃以上30℃以下、浸漬時間を30秒以上70秒以内とした。続いて、亜鉛置換剤の水溶液を用いた第2ジンケート処理工程では、試料を亜鉛置換剤の水溶液に浸漬し、水溶液中の亜鉛置換剤(上村工業株式会社製、AZ-301-3X)の濃度を230ml/L以上330ml/L以下、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を30秒以上70秒以内とした。
【0074】
続いて、無電解Niめっき工程では、硫酸ニッケルの濃度が25g/L以上30g/L以下、次亜リン酸ナトリウムの濃度が20g/L以上25g/L以下、酢酸ナトリウムの濃度が5g/L以上15g/L以下、クエン酸ナトリウムの濃度が5g/L以上15g/L以下であるめっき液に試料を浸漬し、液温を85℃以上97℃以下、浸漬時間を1分以上120分以内とした。続いて、実施例10~13、比較例6では、電解Cuめっき工程を行った。電解Cuめっき工程では、硫酸銅の濃度が150g/L以上200g/L以下、硫酸の濃度が40g/L以上50g/L以下、濃塩酸の濃度が0.150ml/L以上0.175ml/L以下であるめっき液に試料を浸漬し、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を5秒以上60分以内、電流密度を0.4A/dm以上3.0A/dm以下とした。続いて、電解Snめっき工程では、硫酸錫の濃度が80g/L以上100g/L以下、硫酸の濃度が50ml/L以上60ml/L以下、半光沢剤(石原ケミカル株式会社製、UTB 513Y)の濃度が5ml/Lであるめっき液に試料を浸漬し、液温を10℃以上30℃以下、浸漬時間を5秒以上30分以内、電流密度を1A/dm以上3A/dm以下とした。
【0075】
なお、上記の各工程の後には、水洗いを行った。こうして、実施例10~13および比較例6では、Ni含有層とCu層とSn層とを備えるアルミニウム系端子を得た。また、比較例1では、Ni含有層とSn層とを備えるアルミニウム系端子を得た。
【0076】
続いて、実施例1と同様にして、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を得た。
【0077】
[測定および評価]
上記実施例および比較例で得られたアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線について、下記の測定および評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0078】
[1] 各層の厚さ
JIS H 8501の9.顕微鏡断面試験方法を参照し、各層の厚さを測定した。まず、貫通穴の中心を通り、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線の長手方向に垂直な方向に沿って、板状接続部を切断した。続いて、切断した試料を樹脂に埋めて、湿式研磨およびバフ研磨を行い、試料の切断面を鏡面に仕上げた。この切断面において、1mm以上離れた3箇所を、光学顕微鏡を用いて500倍の倍率で観察し、各層の平均の厚さを算出した。また、同試料の切断面をWDX分析して、各層の定性分析を行った。
【0079】
[2] Cu層の平均結晶粒径
Cu層の平均結晶粒径は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器(TSL社製、OIM5.0 HIKARI)を用いて連続して結晶方位データを測定し、測定した結晶方位データを、解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis)で算出(処理)した結晶方位解析データから得た。測定対象は、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線の長手方向に対して垂直な板状接続部の断面をCP(Cross-Section Polisher)加工された表面であり、測定領域は、Cu層の厚さが5.0μm以上である場合には、5μm×50μmとし、Cu層の厚さが5.0μm未満である場合には、他の層や基材との境界を避け、Cu層の厚さの90%を測定領域とした。測定は、ステップサイズ0.1μmで行った。Cu層の平均結晶粒径は、得られたIPF画像上に膜面方向(第1主面や第2主面と平行な方向)に50μmの直線を引き、その線と結晶粒界が横切る数をカウントし、50μmをカウント数で割ることで結晶粒径を算出した。ただし、膜面が波打っていて50μmの直線が引けない場合は、第1主面や第2主面と平行な方向に複数の直線を引き、合計で50μmの長さになるように調整した。さらに、この測定を、観察領域を変えて3回(n=3)行い、それらの平均値を算出し、平均結晶粒径とした。なお、上記した測定は、隣接する測定点の方位差が15°以上である境界を結晶粒界面とみなして行った。
【0080】
[3] Cu層の各面の集積率
各集積率は、上記[2]Cu層の平均結晶粒径で得られた結晶方位解析データを用い、前記断面において、chart-crystal directionにて結晶面(100)、結晶面(110)、結晶面(111)から±15°の方位粒の面積が全方位粒の面積に占める割合を、それぞれ結晶面(100)の集積率、結晶面(110)の集積率、結晶面(111)の集積率とした。ここで、観察する面は前記断面であるが、それぞれの結晶面は第1主面から第2主面方向に観察した際の結晶面に解析ソフト上で変換して算出した。
【0081】
[4] 存在割合
Sn層の結晶粒径は、上述の断面において、Sn層における測定領域を5μm×50μm(Sn層の厚さが5.00μm以上の場合)またはSn層の厚さの90%×50μm(Sn層の厚さが5.00μm未満の場合)と設定し、得られたIPF画像上に膜面方向(第1主面や第2主面と平行な方向)に50μmの直線を引き、その線と結晶粒界とが交わる点の間の長さとして算出した。ただし、膜面が波打っていて50μmの直線が引けない場合は、第1主面や第2主面と平行な方向に複数の直線を引き(複数の直線の合計長さは50μm)、線と結晶粒界とが交わる点の間の長さを結晶粒径として算出した。そして、この測定を、観察範囲を変えて3回(n=3)行い、Sn層におけるCu層の平均結晶粒径以下の結晶粒径の合計長さを、測定したSn層の長さである150μm(Sn層内に引いた直線の長さ)で割ることで、Sn層の結晶粒に対する、Sn層におけるCu層の平均結晶粒径以下の結晶粒の存在割合とした。
【0082】
[5] 導線接続部の外観観察
アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線におけるアルミニウム系電線と接続しているアルミニウム系端子の導線接続部の外観をマイクロスコープにて観察し、導線接続部のクラックの有無を調べ、以下のランク付けを行った。導線接続部にクラックが存在すると、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線を屋外で使用する場合には、風雨に晒されるため、腐食が発生し、抵抗が上昇する可能性がある。2mm以上の長さのクラックが導線接続部に存在すると、ボルト締め時のトルク負荷によって板状接続部にもクラックが生じやすく、結果として抵抗が上昇する可能性がある。そのため、2mm以上の長さのクラックが存在しないことが好ましく、クラックが存在しないことが最も好ましい。
【0083】
有り:2mm以上の長さのクラックを確認した
微小クラック:2mm未満の長さのクラックを確認した
無し:クラックを確認できなかった
【0084】
[6] 初期抵抗測定
各実施例および各比較例で得られた2本のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線(全長400mmのアルミニウム系電線の両端にアルミニウム系端子が接続している)の板状接続部とアルミニウム端子用端子台(不二電機工業製)とを65N・m程度のトルクにてボルト締結し、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線、端子台、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線が直線状の配置になるようにセッティングした。アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線における端子台と締結していない側のアルミニウム系端子をワニ口クリップで挟み、四端子法を用いて抵抗を測定した。抵抗測定では、抵抗の測定後、一旦ボルトを緩め再びボルト締結して抵抗の測定を行うことを3回実施し、その平均を算出した。
【0085】
[7] ヒートサイクル試験
繰り返し通電時における温度上昇量の評価として、「JIS C 2810 屋内配線用電線コネクタ通則-分離不能形」に記載のヒートサイクル試験を参考に、ヒートサイクル試験を実施した。各実施例および各比較例で得られた2本のアルミニウム系端子付きアルミニウム系電線(全長2mのアルミニウム系電線の両端にアルミニウム系端子が接続している)の板状接続部とアルミニウム端子用端子台(不二電機工業製)とを65N・m程度のトルクにてボルト締結し、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線、端子台、アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線が直線状の配置になるようにセッティングした。また、アルミニウム系電線の中央部分の絶縁被覆部に任意の切れ込みを入れ、アルミニウム系電線の導線に接触するように熱電対を挿入して、アルミニウム系電線の温度を測定し、アルミニウム系電線の温度が105℃になるような電流値を設定した。また、アルミニウム系端子の板状接続部に熱電対をはんだ付けして、アルミニウム系端子の温度を測定した。設定した電流値で1時間通電した後に1時間通電を停止する工程を1サイクルとし、25サイクル目の通電後1時間経過時のアルミニウム系端子の温度と比較して、500サイクル目の通電後1時間経過時のアルミニウム系端子の温度の上昇量(℃)を測定した。アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線の発熱を抑制するという点で、温度上昇量は小さいほど良好である。
【0086】
[8] テープ剥離試験
JIS H 8504のめっきの密着性試験方法に準拠して、テープ剥離試験を実施した。各層が形成されている板状接続部の主面に対して、カッターを用いて2mm間隔の碁盤目状に切れ込みを入れた。続いて、貼り付けない部分の長さが50mm程度となるように、試験用テープを切れ込み部分に貼り付けた。貼り付け時には、試験用テープと切れ込み表面との間に気泡ができないように注意しながら、指で約10秒間強く押し続けた。試験用テープには、JIS Z 1522のセロハン粘着テープに準拠した試験用テープ(ポリエステルフィルム、アクリル系粘着剤)を使用した。続いて、指により、切れ込み部分に貼り付けていない部分を摘まみ、板状接続部の主面に対して垂直になるように試験用テープを強く引っ張りながら瞬間に引き剥がした。引き剥がした試験用テープの粘着面にいずれかの層が付着していなければ、剥離無しとし、板状接続部表面に対する層の密着良好と判断した。引き剥がした試験用テープの粘着面にいずれかの層が付着していれば、剥離有りとし、板状接続部表面に対する層の密着不良と判断した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表1に示すように、上記実施例では、アルミニウム系端子を構成する板状接続部の主面の表層が所定の層構造であったため、所定の層構造を有する主面を接触面として接続部材に接続する場合、初期抵抗値が低く、ヒートサイクル試験後の温度上昇量を抑制することができた。さらには、テープ剥離試験の結果、剥離はなかった。一方、上記比較例では、アルミニウム系端子を構成する板状接続部の主面の表層が所定の層構造ではなかったため、低い初期抵抗値およびヒートサイクル試験後の温度上昇量の抑制の少なくとも一方を達成できなかった。
【符号の説明】
【0090】
1 アルミニウム系端子
3 アルミニウム系電線
5 アルミニウム系端子付きアルミニウム系電線
10 板状接続部
11a 第1主面
11b 第2主面
12 貫通穴
13 Cu層
14 Sn層
15 Ni含有層
20 導線接続部
21 圧着部
31 導線
31a 素線
32 絶縁被覆部
33 シース
図1
図2
図3
図4