(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144926
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】正孔輸送材料、正孔輸送層、発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241004BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241004BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241004BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241004BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20241004BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/86
H10K85/60
H10K30/40
H10K101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057106
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
(72)【発明者】
【氏名】原田 千寛
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 英里
(72)【発明者】
【氏名】上野 友徳
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107DD73
3K107DD78
3K107EE68
3K107FF04
3K107FF14
3K107FF19
5F251AA11
5F251AA20
5F251FA04
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA43
5F251XA55
(57)【要約】
【課題】有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層を有する発電デバイスにおいて、光照射下、特に低照度環境下での発電効率を向上させること。
【解決手段】スピンコート膜の導電率が5×10-6S/cm以上5×10-4S/cm以下であり、かつ、スピンコート膜のイオン化ポテンシャルが-5.80eV以上-5.30eV未満である、正孔輸送材料。好適例において正孔輸送材料は少なくとも2種以上の化合物を含み、第1の化合物がカルバゾール骨格を有する化合物であり、第2の化合物がフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正孔輸送材料であって、
前記正孔輸送材料のスピンコート膜の導電率が、5×10-6S/cm以上5×10-4S/cm以下であり、かつ、
前記正孔輸送材料のスピンコート膜のイオン化ポテンシャルが、-5.80eV以上-5.30eV未満である、正孔輸送材料。
【請求項2】
少なくとも2種以上の化合物を含む、請求項1に記載の正孔輸送材料。
【請求項3】
少なくとも2種以上の化合物を含み、
第1の化合物のイオン化ポテンシャルが、-5.60~-5.40eVであり、
第2の化合物のイオン化ポテンシャルが、-5.25~-5.05eVである、請求項1に記載の正孔輸送材料。
【請求項4】
少なくとも2種以上の化合物を含み、
第1の化合物が、カルバゾール骨格を有する化合物であり、
第2の化合物が、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物である、請求項1に記載の正孔輸送材料。
【請求項5】
少なくとも2種以上の化合物を含み、
第1の化合物が、下記式(I)で表されるカルバゾール骨格を有する化合物であり、
第2の化合物が、下記式(II)で表されるフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物である、正孔輸送材料。
【化1】
式(I)中、Ar
1とAr
2は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、またはチオアルキル基であってもよい。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基である。
式(II)中、Ar
3は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、またはチオアルキル基であってもよい。
【請求項6】
第3の化合物をさらに含み、
前記第3の化合物は、化学反応または電子の授受によって電荷を付与できる化合物である、請求項2~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料。
【請求項7】
前記第3の化合物の割合が、前記第1の化合物および前記第2の化合物の合計100質量部に対して0.001~70質量部である、請求項6に記載の正孔輸送材料。
【請求項8】
第3の化合物をさらに含み、
前記第3の化合物が、下記式(Q1)で表されるジアリールヨードニウム塩である、請求項2~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料。
【化2】
式(Q1)中、Ar
4、Ar
5、Ar
6は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい、炭素数6~20の芳香族炭化水素基または炭素数2~20の複素芳香族炭化水素基である。
【請求項9】
第3の化合物をさらに含み、
前記第3の化合物が、下記式(Q2)で表される化合物および下記式(Q3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料。
【化3】
式(Q3)中、R
7、R
8、R
9、R
10は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基であり、nは、0~5の整数である。
【請求項10】
溶媒をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料を含む、正孔輸送層。
【請求項12】
発電デバイスであって、
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、
前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層と、
前記一対の電極間に位置する正孔輸送層と、を有し、
前記正孔輸送層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の正孔輸送材料を含む、光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正孔輸送材料、正孔輸送層、発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発電デバイス(光電変換素子)として、一対の電極の間に活性層およびバッファ層等が配置されたものがある。この活性層の材料として、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の開発が進んでおり、なかでもペロブスカイト構造を有する化合物(ペロブスカイト半導体化合物)は有用である。
ところで、バッファ層の一つである正孔輸送層の材料として、フタロシアニン系の有機半導体化合物等が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の正孔輸送層を備えた発電デバイスを特にエネルギーハーベスティング用途で重要な蛍光灯やLED等のような光源に適用したとき、室内等の低照度環境下での発電効率が低下することがあった。
【0005】
本発明は、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層を有する発電デバイスにおいて、光照射下、特に低照度環境下での発電効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層と特定の正孔輸送材料を用いて形成した正孔輸送層とを組み合わせることによって、光照射下、特に屋内等の低照度環境下でも優れた発電効率を有する発電デバイスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]正孔輸送材料であって、前記正孔輸送材料のスピンコート膜の導電率が、5×10-6S/cm以上5×10-4S/cm以下であり、かつ、前記正孔輸送材料のスピンコート膜のイオン化ポテンシャルが、-5.80eV以上-5.30eV未満である、正孔輸送材料。
[2]少なくとも2種以上の化合物を含む、[1]に記載の正孔輸送材料。
[3]少なくとも2種以上の化合物を含み、第1の化合物のイオン化ポテンシャルが、-5.60~-5.40eVであり、第2の化合物のイオン化ポテンシャルが、-5.25~-5.05eVである、[1]または[2]に記載の正孔輸送材料。
[4]少なくとも2種以上の化合物を含み、第1の化合物が、カルバゾール骨格を有する化合物であり、第2の化合物が、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
[5]少なくとも2種以上の化合物を含み、第1の化合物が、下記式(I)で表されるカルバゾール骨格を有する化合物であり、第2の化合物が、下記式(II)で表されるフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物である、正孔輸送材料。
【0008】
【0009】
式(I)中、Ar1とAr2は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、またはチオアルキル基であってもよい。R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基である。
【0010】
式(II)中、Ar3は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、またはチオアルキル基であってもよい。
【0011】
[6]第3の化合物をさらに含み、前記第3の化合物は、化学反応または電子の授受によって電荷を付与できる化合物である、[2]~[5]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
[7]前記第3の化合物の割合が、前記第1の化合物および前記第2の化合物の合計100質量部に対して0.001~70質量部である、[6]に記載の正孔輸送材料。
[8]第3の化合物をさらに含み、前記第3の化合物が、下記式(Q1)で表されるジアリールヨードニウム塩である、[2]~[7]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
【0012】
【0013】
式(Q1)中、Ar4、Ar5、Ar6は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい、炭素数6~20の芳香族炭化水素基または炭素数2~20の複素芳香族炭化水素基である。
【0014】
[9]第3の化合物をさらに含み、前記第3の化合物が、下記式(Q2)で表される化合物および下記式(Q3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[2]~[8]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
【0015】
【0016】
式(Q3)中、R7、R8、R9、R10は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基であり、nは、0~5の整数である。
【0017】
[10]溶媒をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の正孔輸送材料。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の正孔輸送材料を含む、正孔輸送層。
[12]発電デバイスであって、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層と、前記一対の電極間に位置する正孔輸送層と、を有し、前記正孔輸送層が、[1]~[10]のいずれかに記載の正孔輸送材料を含む、光電変換素子。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層を有する発電デバイスにおいて、光照射下、特に低照度環境下での発電効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】発電デバイスの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】発電デバイスを備えた太陽電池の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】発電デバイスを備えた太陽電池モジュールの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
用語の意味は以下の通りである。
本明細書においては、式(I)で表される化合物を化合物(I)と記す。他の式で表される化合物についても同様に記す。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0021】
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことをいう。半導体特性は、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度は、電荷(電子または正孔)がどれだけ速く(または多く)移動され得るかを示す指標となる。半導体の室温(25℃)におけるキャリア移動度は、好ましくは1.0×10-6cm2/V・s以上、より好ましくは1.0×10-5cm2/V・s以上、さらに好ましくは5.0×10-5cm2/V・s以上、特に好ましくは1.0×10-4cm2/V・s以上である。
キャリア移動度は電界効果トランジスタのI-V特性の測定、タイムオブフライト法等により測定できる。
【0022】
以下に、いくつかの実施形態を詳細に説明する。以下の説明は、実施形態の一例に関するものであり、本発明はその趣旨が損なわれない限り、以下の開示内容に限定されない。
【0023】
[正孔輸送材料]
一態様に係る正孔輸送材料は、下記の2点を満たす。
・正孔輸送材料のスピンコート膜の導電率が、5×10-6S/cm以上5×10-4S/cm以下であること。
・正孔輸送材料のスピンコート膜のイオン化ポテンシャルが、-5.80eV以上-5.30eV未満であること。
【0024】
正孔輸送材料のスピンコート膜の導電率は、7×10-6~5×10-4S/cmがより好ましく、1×10-5~5×10-4S/cmがさらに好ましい。
該導電率が前記数値範囲内の下限値以上であると、光照射時に正孔輸送層にもたらされる正電荷を効率よく電極に輸送しやすい。該導電率が前記数値範囲内の上限値以下であると、極低照度照射条件において、リーク電流を生じにくい。
【0025】
正孔輸送材料のスピンコート膜の導電率は、薄膜に対するソースメータによるIV測定により算出される値である。該導電率は、より詳細には実施例に記載の方法によって求められる。
【0026】
正孔輸送材料のスピンコート膜のイオン化ポテンシャルは、-5.80~-5.35eVが好ましく、-5.80~-5.40eVがより好ましい。
該イオン化ポテンシャルが前記数値範囲内の下限値以上であると、対応する活性層のイオン化ポテンシャルが、室内などにおける白色光源を与える可視光領域の光源に対し、長波長領域の吸収可能息が十分満たされ、かつ、発電効率が高くなりやすい。低値が好適であるという条件において、-5.7eV以下であることが好ましいが、その活性層において得られる電荷を授受するうえでマッチングが良好となる。該イオン化ポテンシャルが前記数値範囲内の上限値以下であると、上記活性層に対し、エネルギーロスを低減しやすい。
【0027】
正孔輸送材料のスピンコート膜のイオン化ポテンシャルは、薄膜に対して光照射したとき、照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)測定から算出する。該イオン化ポテンシャルは、より詳細には実施例に記載の方法によって求められる。
【0028】
一態様に係る正孔輸送材料は、導電率およびイオン化ポテンシャルの制御のために少なくとも2種以上の化合物を含むことが好ましい。少なくとも2種以上の化合物の使用によれば、導電率およびイオン化ポテンシャルが所望の数値範囲を満たす正孔輸送材料が得られやすい。このとき、第1の化合物のイオン化ポテンシャルは-5.60~-5.40eVが好ましく、-5.60~-5.45eVがより好ましく、-5.60~-5.50eVがさらに好ましい。
また、第2の化合物のイオン化ポテンシャルは-5.25~-5.05eVが好ましく、-5.25~-5.10eVがより好ましく、-5.25~-5.15eVがさらに好ましい。
【0029】
一態様に係る正孔輸送材料は、導電率およびイオン化ポテンシャルの制御のために少なくとも2種以上の化合物を含むことが好ましい。このとき、第1の化合物はカルバゾール骨格を有する化合物であり、かつ、第2の化合物はフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物であることが好ましい。
以下、正孔輸送材料の構成成分となり得るいくつかの化合物の代表例について説明するが、正孔輸送材料の構成成分となり得る化合物は以下の説明に限定されるものではない。
【0030】
(カルバゾール骨格を有する化合物)
正孔輸送材料におけるカルバゾール骨格を有する化合物は、カルバゾール骨格を有する有機半導体化合物であれば特に限定されない。カルバゾール骨格を有する化合物において、カルバゾール構造の数は正孔輸送能、堅牢性の観点から1つ以上であることが好ましく、2つ以上であることがより好ましい。
【0031】
一態様に係る正孔輸送材料は、カルバゾール骨格を有する化合物として下記の化合物(I)を含み得る。化合物(I)はカルバゾール構造を2つ有し、2つのカルバゾール構造が点対称に位置するため、正孔輸送能、堅牢性、合成容易性の観点から好適である。
化合物(I)は、ポリトリアリールアミン等の高分子化合物に比べ、分子量分布がなく、高純度化しやすく、安価に製造しやすい点でも好ましい。
【0032】
【0033】
式(I)中、Ar1とAr2は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基またはチオアルキル基であってもよい。
【0034】
Ar1とAr2を構成する芳香族基は、単環構造または多環構造のいずれを有していてもよいし、縮合環構造を有していてもよいし、これらが任意の2価の連結基または単結合(直接結合)によって連結された構造を有していてもよい。
芳香族基は、芳香族炭化水素基であってもよいし、芳香族複素環式基であってもよい。
【0035】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基(terphenyl)等の炭素-炭素単結合を介してベンゼン環が結合した多環式芳香族炭化水素基;
ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の6員環の単環または2~5縮合環由来の基;
等が挙げられる。
【0036】
芳香族複素環式基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の5員環または6員環の単環または2~4縮合環由来の基が挙げられる。
【0037】
Ar1、Ar2の各炭素数は、正孔輸送層の成膜性が高く、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルを所定の範囲としやすい観点から、それぞれ独立に30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0038】
好ましいAr1、Ar2としては、それぞれ独立に、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、テトラフェニル等が挙げられる。Ar1およびAr2共にフェニル基が最も好ましい。フェニル基が有する水素原子は置換基によって置換されていないことが好ましい。
【0039】
Ar1、Ar2は互いに異なるフェニル基をそれぞれ置換する置換基である。Ar1、Ar2は、各カルバゾール構造の窒素原子に対してそれぞれ独立にオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。化合物の立体構造的な安定性や合成の容易さ等を考慮して、メタ位、パラ位が好ましく、メタ位がより好ましい。
【0040】
Ar1、Ar2の式量は、堅牢性、耐熱性の点ではより高いことが好ましく、一方で、溶媒への溶解性の点ではより低いことが好ましい。Ar1、Ar2の式量は、置換基を有する場合はこれも含めて72以上であることが好ましく、144以上であることがより好ましく、また、1000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。
【0041】
芳香族基が有してもよい1価の置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6の鎖状)、芳香族基(1価の芳香族炭化水素基、芳香族複素環式基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~12)、チオアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基(好ましくは炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、炭素数12~30のジアリールアミノ基)、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルケニル基、アルキニル基、チオ基、セレノ基等が挙げられる。これらのうち、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、チオアルキル基が好ましい。
【0042】
置換基は、下記の置換基群Zから選択される1種または2種以上であってもよい。
置換基群Z:
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~12のアルキル基;
ビニル基等の好ましくは炭素数2~24、さらに好ましくは炭素数2~12のアルケニル基;
エチニル基等の好ましくは炭素数2~24、さらに好ましくは炭素数2~12のアルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基等の好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~12のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4~36、さらに好ましくは炭素数5~24のアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2~24、さらに好ましくは炭素数2~12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2~24、さらに好ましくは炭素数2~12のジアルキルアミノ基;
ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N-カルバゾリル基等の好ましくは炭素数10~36、さらに好ましくは炭素数12~24のジアリールアミノ基;
フェニルメチルアミノ基等の好ましくは炭素数6~36、さらに好ましくは炭素数7~24のアリールアルキルアミノ基;
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2~24 、好ましくは炭素数2~12のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1~2、さらに好ましくは炭素数1~6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4~36、さらに好ましくは炭素数5~24のアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の好ましくは炭素数2~36、さらに好ましくは炭素数3~24のシリル基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2~36、さらに好ましくは炭素数3~24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6~36、さらに好ましくは炭素数6~24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3~36、さらに好ましくは炭素数4~24の芳香族複素環基;
【0043】
置換基群Zの各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては、例えば、上述の置換基群Zに例示した基と同じ基を挙げることができる。
各置換基の式量は、化合物(I)の溶解性や成膜性の観点から、置換基がさらに別の置換基で置換された場合も含めて、500以下であることが好ましく、250以下であることがより好ましい。
【0044】
式(I)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基である。該芳香族基は1価の芳香族炭化水素基であってもよく、芳香族複素環基であってもよい。該置換基としては、置換基群Zと同じものが挙げられ、その詳細も上述した置換基群Zと同じである。
【0045】
R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基および炭素数1~3のアルコキシ基からなる群から選択される1種以上が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0046】
化合物(I)の分子量は堅牢性、耐熱性の点ではより高いことが好ましく、一方で、溶媒への溶解性の点ではより低いことが好ましい。化合物(I)の分子量は、200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、また、3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましい。
【0047】
化合物(I)は、後述する実施例のように公知の方法で合成できる。正孔輸送材料に化合物(I)が含まれることは、1H-NMR、13C-NMR、単結晶を用いたX線結晶構造解析、LC-MS等の分析法により確認できる。
【0048】
(フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物)
一態様に係る正孔輸送材料は、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物として下記の化合物(II)を含み得る。
【0049】
【0050】
式(II)中、Ar3は、それぞれ独立に1価の置換基を有していてもよい芳香族基であり、前記芳香族基は縮合環構造を有していてもよい。前記1価の置換基は、前記芳香族基が有する任意の水素原子を置換する任意の置換基であり、アルキル基、芳香族基、アルコキシ基、またはチオアルキル基であってもよい。
【0051】
Ar3の芳香族基、縮合環構造としては、Ar1、Ar2と同じものが挙げられ、その詳細はAr1、Ar2について説明した内容と同じである。
【0052】
Ar3の各炭素数は、正孔輸送層の成膜性が高く、イオン化ポテンシャルを後述する好適な範囲としやすい観点から、それぞれ独立に30以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0053】
Ar3の式量は、堅牢性、耐熱性の点ではより高いことが好ましく、一方で、溶媒への溶解性の点ではより低いことが好ましい。Ar3の式量は、置換基を有する場合はこれも含めて72以上であることが好ましく、144以上であることがより好ましく、また、1000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。
【0054】
Ar3の芳香族基が有してもよい1価の置換基の詳細は、Ar1、Ar2や置換基群Zについて説明した内容と同じである。
【0055】
好ましいAr3としては、それぞれ独立に、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、テトラフェニル等が挙げられる。8個のAr3がすべてフェニル基であることが最も好ましい。該フェニル基が有する水素原子は置換基によって置換されていてもよく、置換基によって置換されていなくてもよい。
【0056】
化合物(II)の分子量は、堅牢性、耐熱性の点ではより高いことが好ましく、一方で、溶媒への溶解性の点ではより低いことが好ましい。化合物(II)の分子量は、200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、また、3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましい。
【0057】
化合物(II)としては、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン](Spiro-OMeTAD)が好ましい。
【0058】
化合物(II)は、後述する実施例のように公知の方法で合成できる。正孔輸送材料に化合物(II)が含まれることは、1H-NMR、13C-NMR、単結晶を用いたX線結晶構造解析、LC-MS等の分析法により確認できる。
【0059】
(その他の半導体化合物)
正孔輸送材料は、本発明の効果が損なわれない限り、カルバゾール骨格を有する化合物およびフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物以外の半導体化合物をさらに含んでもよい。その他の半導体化合物は、任意の半導体化合物であってよい。
その他の有機半導体化合物としては、種々の低分子化合物、高分子化合物が挙げられる。
【0060】
低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられる。例えば、テトラセン、ペンタセン等のアセン類化合物;オリゴチオフェン類化合物;フタロシアニン類化合物;ペリレン類化合物;ルブレン類化合物;トリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物(フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物を除く。)が挙げられる。
【0061】
高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー等の共役ポリマー;トリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0062】
(ドーパント)
一態様に係る正孔輸送材料は、ドーパントをさらに含み得る。ドーパントとは化学反応または電子の授受によって化合物に電荷を付与できる化合物を意味する。
ドーパントの使用によれば、正孔輸送材料の導電性や正孔輸送能力等の特性を制御できるため、活性層に対する正孔輸送層の導電性、正孔輸送能力をより最適化することができる。
【0063】
ドーパントとしては、例えば、超原子価ヨウ素化合物、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB)等のホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデン等のモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物が挙げられる。
【0064】
ドーパントは、正孔輸送層の成膜前または成膜後に、少なくともいずれかの有機半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機能する電子受容活性部位を産生しやすい点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0065】
超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての機能)を示す。また、電子受容性のドーパントは、有機半導体化合物から電子を奪うことにより、有機半導体化合物の導電性、正孔輸送能力を向上させることができる。
【0066】
超原子価ヨウ素化合物は、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が3価以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物、ヨウ素(V)化合物が好ましい。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物が挙げられる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、ジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0067】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I+-Ar]X1-構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれ芳香族基を表す。芳香族基は特に限定されず、例えば、Ar1、Ar2として例示したような芳香族基等が挙げられる。X1-は、任意のアニオンを表す。X1-としては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等が挙げられる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行し得る点で、X-はフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0068】
ドーパントの好ましい例としては、下記の化合物(Q)が挙げられる。式(Q)において、X1-は、任意のアニオンを表し、その詳細は上述の通りである。
[R11-I+-R12]X1- 式(Q)
【0069】
式(Q)において、R11およびR12は、それぞれ独立に1価の有機基である。1価の有機基としては、例えば、脂肪族基、芳香族基が挙げられる。
【0070】
脂肪族基としては、例えば炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。より詳細には例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、テトラヒドロフリル基が挙げられる。
【0071】
芳香族基としては、例えば、炭素数6~20の芳香族炭化水素基、炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。より詳細には例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、ピリジル基等が挙げられる。
【0072】
R11およびR12の脂肪族基、芳香族基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0073】
R11およびR12は、好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さないこと、または炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R11およびR12は、特に、パラ位にアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0074】
化合物(Q)の中でも、下記の化合物(Q1)が好ましい。
【0075】
【0076】
式(Q1)中、Ar4、Ar5、Ar6は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい、炭素数6~20の芳香族炭化水素基または炭素数2~20の複素芳香族炭化水素基である。
【0077】
さらに化合物(Q)としては、下記の化合物(Q2)および下記の化合物(Q3)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【化7】
【0078】
式(Q3)中、R7、R8、R9、R10は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基もしくは芳香族基であり、nは、0~5の整数である。
【0079】
(正孔輸送材料の組成)
カルバゾール骨格を有する化合物の含有量は、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルを所定の範囲にすることが容易である点から多いことが好ましい。一例に係る正孔輸送材料においてカルバゾール骨格を有する化合物の含有量の割合は、正孔輸送材料の総質量の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。ここで、カルバゾール骨格を有する化合物の含有量の割合の上限は100質量%であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0080】
フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の含有量は、正孔輸送材料の導電率を所定の範囲にすることが容易である点から多いことが好ましい。一例に係る正孔輸送材料においてフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の割合は、正孔輸送材料の総質量の40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。ここで、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の割合の上限は100質量%であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0081】
ドーパントの量は、正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力が向上しやすいことから多いことが好ましい。一例に係る正孔輸送材料において、ドーパントの割合は、カルバゾール骨格を有する化合物およびフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の合計100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。
【0082】
一方でドーパントの量は、発電デバイスのリーク電流の発生を抑制し、特に低照度環境下における発電効率が向上しやすいことから少ないことが好ましい。一例に係る正孔輸送材料において、ドーパントの割合は、カルバゾール骨格を有する化合物およびフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の合計100質量部に対し、75質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0083】
よって、正孔輸送材料がドーパントを含む場合、ドーパントの割合はカルバゾール骨格を有する化合物およびフルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物の合計100質量部に対し、0.1~50質量部が最も好ましい。
【0084】
(溶媒)
正孔輸送材料は、溶媒をさらに含んでもよい。例えば、カルバゾール骨格を有する化合物、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物およびドーパントからなる群から選ばれる少なくとも1種と、溶媒とを含む正孔輸送材料は、発電デバイスの正孔輸送層を形成するための塗布液として有用である。
【0085】
溶媒としては、所望の正孔輸送層を得るための構成成分となる化合物を溶解可能であれば特に限定されるものではないが、例えば以下の極性溶媒が挙げられる。
極性溶媒として、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;安息香酸エチル、エチルピコリン酸等の芳香族エステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のエーテルアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。また、クロロホルム、ジクロロメタン等のポリハロ脂肪族炭化水素、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のポリハロ芳香族化合物も好ましい有機溶媒として挙げられる。
有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
[発電デバイス]
本発明の発電デバイスは、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、該一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む活性層と、該一対の電極間に位置する正孔輸送層と、を有する光電変換素子である。
本発明の発電デバイスにおいては、正孔輸送層が上述した本発明の正孔輸送材料を含む。そのため、発電デバイスを低照度環境下で使用することができる。低照度環境とは、通常10~5000ルクスの環境を意味し、100~300ルクスの環境が好適であり、200ルクスの環境がより好適である。
【0087】
図1に示す発電デバイス100においては、下部電極101、活性層103および上部電極105がこの順に配置されている。
【0088】
下部電極101と活性層103との間にバッファ層102が配置されているが、他の例においてバッファ層102は必須ではなく、バッファ層102は任意の構成要素である。また、上部電極105と活性層103との間にもバッファ層104が配置されているが、他の例においてバッファ層104は必須ではなく、バッファ層104は任意の構成要素である。例えば、バッファ層102は正孔輸送層とすることができ、バッファ層104は電子輸送層とすることができる。逆に、バッファ層102とバッファ層104が、それぞれ電子輸送層と正孔輸送層であっても構わない。
【0089】
発電デバイス100は基材106を有しているが、他の例において基材106は必須ではなく、基材106は任意の構成要素である。発電デバイス100は、絶縁体層、仕事関数チューニング層のような図示しないその他の構成要素をさらに有していてもよい。
【0090】
(電極)
発電デバイス100において、電極は活性層103における光吸収により生じた正孔および電子を捕集する機能を有する。発電デバイス100のように、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。発電デバイス100が基材を有する場合や発電デバイス100が基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と呼び、基材からより遠い電極を上部電極と呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と呼び、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と呼ぶこともできる。
図1に示す発電デバイス100は、下部電極101および上部電極105を有している。
【0091】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、発電デバイス100は、下部電極101がアノードであり、上部電極105がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり、上部電極105がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0092】
一対の電極においては、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であってもよい。透光性があるとは、通常、可視光(波長350~700nm)の透過率が40%以上であることをいう。電極の可視光の透過率は、より多くの光が透明電極を透過して活性層に到達することから高いことが好ましく、70%以上であることが特に好ましい。可視光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0093】
下部電極101、上部電極105、アノード、カソードの構成部材およびその製造方法について特段の制限はなく、種々の技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号、特開2012-191194号公報等の各文献に記載された部材およびその製造方法を用いることができる。
【0094】
(活性層)
発電デバイス100において、活性層103は光電変換が行われる層である。発電デバイス100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101および上部電極105から取り出される。
【0095】
活性層は有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含む。有機無機ハイブリッド型半導体化合物とは、有機成分と無機成分とが分子レベルまたはナノレベルで組み合わせられた化合物であって、半導体特性を示す化合物のことをいう。
【0096】
有機無機ハイブリッド型半導体化合物は、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)であることが好ましい。
ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物をいう。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids,Chapter 7- Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。また、例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMX2
3で表されるAMX2
3型のもの、一般式A2MX2
4で表されるA2MX2
4型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、X2は1価のアニオンをさす。
【0097】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。例えば、周期表第1族および第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン、置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。
置換基を有していてもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、1級アンモニウムイオン、2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、アルキルアンモニウムイオン、アリールアンモニウムイオンが挙げられる。立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンを組み合わせて用いてもよい。
【0098】
1価のカチオンAとしては、例えば、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン、イミダゾリウムイオンが挙げられる。
【0099】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン、半金属カチオンが好ましい。例えば、周期表第14族元素のカチオンが挙げられる。より詳細には、例えば、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンを組み合わせて用いてもよい。安定な発電デバイスを得る観点からは、鉛カチオン、鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0100】
1価のアニオンX2としては、例えば、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン、ケイフッ素イオン等が挙げられる。X2としてはハロゲン化物イオン、ハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせも挙げられる。X2は、1種類でも任意の組み合わせと比率で2種類以上を用いてもよい。ここで、上述の活性層のバンドギャップは、X2の種類や組み合わせにより調整することができる。活性層のバンドギャップが適度に狭くなりやすいことから、X2は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが好ましく、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等がより好ましい。
【0101】
ペロブスカイト半導体化合物としては、例えば、有機無機ペロブスカイト半導体化合物が好ましく、ハライド系有機無機ペロブスカイト半導体化合物が特に好ましい。ペロブスカイト半導体化合物としては、例えば、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI3、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clxが挙げられる。
加えて、上記の化合物においてCH3NH3の代わりにCFH2NH3、CF2HNH3、CF3NH3、NH2CH=NH3、Cs、Rbを用いた化合物が挙げられる。ここで、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。好ましくは、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clx並びに、上記の化合物においてCH3NH3の代わりにNH2CH=NH3、Cs、Rbを用いた化合物が挙げられる。より好ましくは、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、並びに、上記の化合物においてCH3NH3の代わりにNH2CH=NH3、Cs、Rbを用いた化合物、等が挙げられる。
【0102】
活性層は、2種類以上の有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含んでもよい。例えば、A、BおよびX2のうちの少なくとも1つが異なる2種類以上の有機無機ハイブリッド型半導体化合物が活性層に含まれていてもよい。また、活性層は、異なる材料または異なる成分を含む複数の層で形成される積層構造であってもよい。
【0103】
活性層に含まれる有機無機ハイブリッド型半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、活性層の総質量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層には、有機無機ハイブリッド型半導体化合物以外の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、ハロゲン化物、酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等の無機塩のような無機化合物、有機化合物が挙げられる。
【0104】
活性層のイオン化ポテンシャルは、白色光を与える可視光領域の光源に対し、長波長領域の吸収可能域が充分に満たされ、発電効率が高くなりやすい点では、高いことが好ましい。一例においては-6.0eV以上が好ましく、-5.95eV以上がより好ましく、-5.9eV以上がさらに好ましい。
一方で活性層のイオン化ポテンシャルは、可視光領域の光源に対し、得られる電圧のロスを低減でき、発電効率が高くなりやすい点では、低いことが好ましい。一例においては-5.7eV以下が好ましく、-5.75eV以下がより好ましく、-5.9eV以下がさらに好ましい。
【0105】
活性層のバンドギャップは、屋内光等の低照度光によって半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離する際に必要なエネルギーが充分に満たされ、発電効率が高くなりやすい点では、大きいことが好ましい。一例においては1.6eV以上が好ましく、1.65eV以上がより好ましく、1.7eV以上がさらに好ましく、1.75eV以上が最も好ましい。
一方で、活性層のバンドギャップは、屋内光等によって生成する励起子に対し適度なエネルギーとなり(エネルギー過剰とならず)、発電効率が高くなりやすい点では、小さいことが好ましい。一例においては2.3eV以下が好ましく、2.25eV以下がより好ましく、2.2eV以下がさらに好ましく、2.15eV以下が最も好ましい。
【0106】
屋内や室内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯等の低照度光源下での発電効率を特に向上させやすいことから、活性層のイオン化ポテンシャルとバンドギャップが共に上述の好ましい範囲であることが特に好ましい。一例において、活性層のイオン化ポテンシャルの範囲が-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、そのバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であることが特に好ましい。
【0107】
活性層のイオン化ポテンシャルを上記所望の範囲に調整する方法としては、例えば、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の種類により調整することができる。例えば、上述のペロブスカイト半導体化合物を用いる場合、そのカチオンの種類により調整することができる。より詳細には、後述するペロブスカイト半導体化合物形成のために用いる前駆体である有機アンモニウム塩、無機アンモニウム塩の組成を、所望の組成比率で混合し、処理することなどによって適宜調整することが挙げられる。
【0108】
活性層のバンドギャップを上記所望の範囲に調整する方法としては、例えば、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の種類により調整することができる。例えば、上述のペロブスカイト半導体化合物を用いる場合、そのアニオンの種類や比率により調整することができる。より詳細には、後述するペロブスカイト半導体化合物形成のために前駆体として用いる金属ハロゲン化合物のハロゲン種類比率の選択、前駆体として用いる有機アンモニウム塩、無機アンモニウム塩の組成を、対応するハロゲン組成を、所望の組成比率で混合し、処理することなどが挙げられる。
【0109】
活性層の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点では、活性層103の厚さはより厚いことが好ましい。一例において10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましく、150nm以上が特に好ましく、200nm以上が最も好ましい。一方で、直列抵抗が下がり、電荷の取出し効率が高くなりやすい点ではより薄いことが好ましい。一例において1500nm以下が好ましく、1200nm以下がより好ましく、800nm以下がさらに好ましい。よって、活性層103の厚さは、200nm以上800nm以下が最も好ましい。
【0110】
活性層の形成方法は、特に限定されず、任意の方法により形成することができる。例えば、塗布法、蒸着法、共蒸着法が挙げられる。簡易に活性層を形成できる点で、塗布法が好ましい。例えば、有機無機ハイブリッド型半導体化合物またはその前駆体を含む塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層を形成する方法が挙げられる。また、塗布液を塗布した後で、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を析出させることもできる。
【0111】
有機無機ハイブリッド型半導体化合物の前駆体とは、塗布液として塗布した後に有機無機ハイブリッド型半導体化合物となる化合物のことをいう。例えば、加熱することにより有機無機ハイブリッド型半導体化合物となる有機無機ハイブリッド型半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、一般式AX2で表される化合物と、一般式MX2
2で表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱攪拌することにより、塗布液を調製できる。該塗布液を塗布した後に加熱乾燥を行うことにより、一般式AMX2
3で表されるペロブスカイト半導体化合物を含む活性層を作製できる。溶媒としては、有機無機ハイブリッド型半導体化合物および任意成分の添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0112】
塗布液の塗布方法としては任意の方法により行うことができる。例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸法、コート法、カーテンコート法が挙げられる。
【0113】
(バッファ層)
発電デバイス100において、バッファ層は活性層103と一対の電極101、105の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101または上部電極105へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。バッファ層は単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。バッファ層としては、正孔輸送層であってもよく、電子輸送層であってもよい。正孔輸送層がより好ましい。
【0114】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、上述した本発明の正孔輸送材料を含む。
本発明の発電デバイスは、正孔輸送層が本発明に係る正孔輸送材料を含む。そのため、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルおよび導電率を好適な範囲とすることができ、低照度下で高い発電効率を発現することができる。
【0115】
正孔輸送層の導電率は、光照射時に発生する電荷を効率よく電極に輸送し、かつ、ごく低照度の光によって発生する電荷であってもリークを抑制可能であるという観点から、5×10-6~5×10-4S/cmであることが好ましく、7×10-6~5×10-4S/cmがより好ましく、1×10-5~5×10-4S/cmがさらに好ましい。
正孔輸送層の導電率は、上述のとおり、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物を用いることにより調整することができる。
【0116】
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、活性層のイオン化ポテンシャルとのマッチングの観点から、-5.80eV以上-5.30eV未満が好ましく、-5.80~-5.35eVがより好ましく、-5.80~-5.40eVがさらに好ましい。
【0117】
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、上述のとおり、カルバゾール骨格を有する化合物を用いることにより調整することができる。イオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするためのより詳細な方法としては、例えば、カルバゾール骨格を有する化合物において、芳香族化合物の置換基の種類や位置を適切に配置することにより、化合物の電子状態を制御することが挙げられる。また、正孔輸送層に後述するドーパントなどを併用することなどによって、正孔輸送層の化合物の電子状態を調整すること、すなわち化合物の全体または一部を酸化または還元することなどが挙げられる。
【0118】
本発明に係る発電デバイスの正孔輸送層の厚みは、上下の電極間に位置する活性層が高い電荷輸送能を有する場合に、上下の電極と活性層とを介した導通パスの形成による電流のリークが起こり難い点ではより厚いことが好ましい。一例において、20nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、60nm以上がさらに好ましい。一方で、正孔輸送層による電荷輸送における抵抗が起こり難く、正孔輸送層の化合物量の節約による低コスト化の点では、薄いことが好ましい。一例において、1000nm以下が好ましく、750nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0119】
(電子輸送層)
本発明に係る発電デバイスは、電子輸送層を有していてもよい。電子輸送層の材料としては、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号、特開2012-191194号公報等の各文献に記載の無機化合物、有機化合物、有機無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。
【0120】
電子輸送層の無機化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。
電子輸送層の有機化合物としては、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0121】
発電デバイスが電子輸送層を備える場合、その厚みは、上下の電極間に位置する活性層が高い電荷輸送能を有する場合に、上下の電極と活性層とを介した導通パスの形成による電流のリークが起こり難く、下部電極の凹凸の影響をカバーでき、かつ、活性層の塗れ性を制御しやすいことから、厚いことが好ましい。一例において、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。一方で、電子輸送層による電荷輸送における抵抗が起こり難く、電子輸送層の化合物量の節約による低コスト化の点では、薄いことが好ましい。一例において、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0122】
(基材)
発電デバイスは、基材を有していてもよい。
図1において、発電デバイス100は支持体となる基材106を有しているが、本発明に係る発電デバイスは基材106を有さなくてもよい。基材の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号、特開2012-191194号公報等の各文献に記載の材料を制限なく使用することができる。
【0123】
(光電変換特性)
発電デバイス100の光電変換特性は、次のようにして求めることができる。発電デバイス100に適当なスペクトルの光をある照射強度で照射し、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。一例として、発電デバイス100に色温度5000Kの白色LED光を適当な照射強度(照度)で照射することで、各照度における電流-電圧特性を測定することができる。
【0124】
本発明に係る発電デバイスの一実施形態は、低照度(10~5000ルクス)における発電効率に優れ、例えば、色温度5000Kの白色LED光等の白色光源を用いて、光電変換効率を20%以上とすることが可能である。さらに、色温度5000Kの白色LED光が照射され、受光面の照度が200ルクスであるときの光電変換効率を25%以上とすることが可能である。
この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、発電デバイスの電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量で除した値(%)である。
上記の総エネルギー量として、例えば、強度AM1.5Gの太陽光であれば100mW/cm2であり、色温度5000Kの白色LED光が照射され、受光面の照度が200ルクスであれば100μW/cm2である。
色温度5000Kとは、JIS Z8725:2015の規格で定められたものである。
【0125】
(発電デバイスの製造方法)
発電デバイスの製造方法としては、本発明の正孔輸送材料を正孔輸送層に含ませることができる方法であれば特に制限されず、ペロブスカイト半導体化合物を用いた発電デバイスの種々の製造方法を適用することができる。
例えば、上述のカルバゾール骨格を有する化合物、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物、ドーパントおよび溶媒を含む塗布液を調製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、正孔輸送層を形成できる。同様の塗布方法により電子輸送層を形成することもできる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、これらのバッファ層を形成することもできる。
【0126】
正孔輸送層は塗布法により形成することが好ましい。上述したカルバゾール骨格を有する化合物、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物、およびドーパントを含む液を塗布することがより好ましい。
よって、好適な発電デバイスの製造方法は、上述したカルバゾール骨格を有する化合物、フルオレン骨格を有するスピロトリアリールアミン化合物、およびドーパントを含む液を用いて正孔輸送層を形成する工程を有する。正孔輸送層は、該液を用いた塗布法により形成され得る。
【0127】
図1において、発電デバイス100を構成する各層を積層することにより、発電デバイス100を製造することができる。例えば、シートツゥーシート(枚葉)方式、ロールツゥーロール方式等の種々の方法を適用することができる。
【0128】
発電デバイス100を製造する際、上部電極105を積層した後に、発電デバイス100を例えば、下限値が50℃~80℃で上限値が280℃~300℃の温度範囲にて加熱してもよい(この加熱工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程は、発電デバイス100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られやすい点では高温で行うことが好ましい。例えば、50℃以上で行うことが好ましい。各層間の密着性が向上することにより、発電デバイスの熱安定性や耐久性等が向上し得る。一方で、アニーリング処理工程の温度は、発電デバイス100に含まれる有機化合物が熱分解し難い点では低温で行うことが好ましい。例えば、300℃以下で行うことが好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0129】
上記の好適な温度範囲における加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させやすい点では、1~3分以上で、60~180分以下とすることが好ましい。
アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流およびフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に発電デバイスを載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に発電デバイスを入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0130】
[太陽電池]
本発明に係る発電デバイスは、低照度下における光電変換効率に優れるため、屋内用の太陽電池として好適である。
図2は本発明の発電デバイスを備えた太陽電池の一例を示す。
図2に示す薄膜太陽電池14は、発電デバイス100(不図示)を備える。薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、発電デバイス100(不図示)を有する太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。薄膜太陽電池14の保護フィルム1が形成された側(
図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するように構成されている。ただし、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0131】
薄膜太陽電池14は単独で使用されてもよいし、複数の薄膜太陽電池14が連結されて使用されたり、さらに他の構成部材と組み合わせた太陽電池モジュールの構成要素として用いられたりしてもよい。例えば、
図3に示すように、薄膜太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。
【0132】
上述の各構成部材の選定およびその製造方法には周知技術を適用できる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号、特開2012-191194号公報等の各文献に記載の技術が挙げられる。
【0133】
本発明の発電デバイスおよびこれを備えた太陽電池、太陽電池モジュールの用途に制限はなく、例えば、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池、玩具用太陽電池等の用途が挙げられる。
本発明の発電デバイスおよびこれを備えた太陽電池、太陽電池モジュールは、低照度環境下で優れた光電変換効率を示すことから、特にエネルギーハーベスティング用途に好適である。
【0134】
以上いくつかの実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【実施例0135】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0136】
[化合物および略称の説明]
(第1の化合物)
Yang,J.W.et.al.,Phys.Chem.Chem.Phys.2015,17,24468.に記載の方法にて、下記式(A)で示す化合物Aを合成した。化合物Aは化合物(I)の一例である。
【0137】
【0138】
(第2の化合物)
下記式(B)で示す、[2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン](Aldrich社製)を化合物Bとして用いた。化合物Bは化合物(II)の一例である。
【0139】
【0140】
(第3の化合物)
TPFB:4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TCI社製品)
【0141】
LiTFSI:ビストリフルオロメタンスルホンイミド酸リチウム(Sigma-Aldrich社製品)
【0142】
化合物1の化学構造を以下に示す。
【0143】
【0144】
[実施例1]
(正孔輸送層用塗布液の調製)
化合物A、化合物Bおよび化合物1を含むo-ジクロロベンゼン溶液を調製した。次に、この溶液を150℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔輸送層用塗布液を予め調製した。正孔輸送層用塗布液において、化合物Aの含有量は20mMとし、化合物Bの含有量は20mMとした。また、正孔輸送層用塗布液における化合物1の含有量は、化合物Aおよび化合物Bの合計100質量部に対して2.8質量部とした。
【0145】
(電子輸送層用塗布液の調製)
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加えることにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液を予め調製した。
【0146】
(活性層用塗布液1の調製)
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとり、これをグローブボックス内に導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱撹拌することにより活性層用塗布液1を予め調製した。
【0147】
(活性層用塗布液2Aの調製)
別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、およびメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックス内に導入した。これに溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr、およびMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2Aを予め調製した。
【0148】
(活性層用塗布液2Bの調製)
さらに、別のバイアル瓶にホルムアミジンヨウ化水素酸塩(FAI)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックス内に導入した。これに溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FAI、MABr、およびMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2Bを調製した。
【0149】
(発電デバイスの作製)
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、およびUV-オゾン処理を行った。
その後、予め調製した電子輸送層用塗布液を、室温で上記のガラス基板上に2000rpmの速度で厚さ約35nmとなるようにスピンコートした。その後、ホットプレート上150℃で10分間加熱することにより、電子輸送層を形成した。
【0150】
次いで、電子輸送層が形成されたガラス基板をグローブボックス内に導入した。100℃に加熱した活性層用塗布液1(150μL)を電子輸送層上に滴下し、2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。さらに、ヨウ化鉛層が形成されたガラス基板を室温に戻した後、ヨウ化鉛層上に活性層用塗布液2A(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上150℃で20分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、有機無機ペロブスカイト半導体化合物の活性層(厚さ650nm)を形成した。
【0151】
次いで活性層上に、正孔輸送層塗布液(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、正孔輸送層(厚さ100nm)を形成した。この正孔輸送層について、後述の手法により導電率およびイオン化ポテンシャルを測定した。
【0152】
次いで、正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により、厚さ10nmのMoO3、厚さ30nmのIZOおよび厚さ100nmの銀をこの順で蒸着させ、上部電極を形成した。
以上のようにして、発電デバイスを作製した。
【0153】
[実施例2~5、比較例1、2]
表1に示すように、活性層用塗布液2(2A、2B)、正孔輸送層用塗布液の組成、上部電極の構成を変更した以外は、実施例1と同じ手法により発電デバイスを作製した。
【0154】
[測定方法]
(導電率)
導電率は、くし形形状にパターニングされた電極を有するガラス基板上に、評価対象となる薄膜をスピンコート等で成膜し、ソースメータ等によりある範囲で電圧を印加した際の電流値の変化量を読み取り、定数である電極間距離と膜厚で除することで算出した。ジオマテック社等から市販されているくし型にパターニングされた金属電極つきガラス基板などを使用することができる。
【0155】
(イオン化ポテンシャル:Ip)
薄膜ITOが形成されたガラス基板上に、評価対象となる半導体化合物を含む正孔輸送層を成膜し、これに光を照射し、生成する光電子の数を酸素が必要なオープンカウンターで計測した。このオープンカウンターでは、大気下で光電子を酸素分子に捕捉させることにより、イオン化された酸素分子が計測される。照射する光のエネルギーを上げていくと光電子の放出が始まる閾値が観測されるが、この閾値、すなわち照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)が、イオン化ポテンシャル(eV)に相当する。このような光電子係数方式によるイオン化ポテンシャル測定を、理研計器(株)の「AC-2」、「AC-3」等のシリーズで行った。
測定に供する正孔輸送層の厚さは、測定値を実質的に左右することはなく、例えば、400nm~600nmの厚さで成膜された活性層、5nm~100nmの厚さで成膜された正孔輸送層を測定すればよい。また、測定に供する正孔輸送層は、大気に露出している状態であればよく、薄膜ITOの表面に接して成膜されている必要はなく、例えば、薄膜ITOに成膜された正孔輸送層の表面に積層された活性層を測定してもよい。この活性層の測定において正孔輸送層の種類や性能が測定値に実質的な影響を与えることはない。活性層および正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、積層環境(下層の有無や種類)に影響されない。
上記で使用する薄膜ITOを備えた導電性ガラスは市販品を使用することができ、薄膜ITOの抵抗値(表面抵抗率)は特に制限されず、例えば2Ω/sq.~1000Ω/sq.とすることができる。
【0156】
(光電変換特性)
色温度5000Kの白色LED光を照射し、受光面の照度が200ルクスであるときの光電変換効率を測定した。測定方法の詳細は以下の通りである。
まず、色温度5000Kの白色LED光を発電デバイスに照射した。この際、照度計を用いて発電デバイスの受光面が200ルクスの照度となるように照射強度を調整した。この環境下で、ソースメータを用いて電流-電圧曲線(I-V曲線)を測定し、その最大出力値を求めた。この値を上記の照射光が有する総エネルギー量で除し、発電デバイスの光電変換効率(%)を得た。色温度は、JIS Z8725:2015 に準拠して測定した。
【0157】
[結果]
発電デバイスにおける、正孔輸送層の導電率、イオン化ポテンシャル、光電変換効率の測定結果を表1に示す。
【0158】
【0159】
実施例1~3の発電デバイスにおいては、低照度環境下での発電効率が比較例1より向上していた。同様に、実施例4、55の発電デバイスにおいては、低照度環境下での発電効率が比較例2より向上していた。