(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144949
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体とその製造方法およびそれを用いたメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/36 20060101AFI20241004BHJP
C07C 29/151 20060101ALI20241004BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20241004BHJP
C07C 29/76 20060101ALI20241004BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241004BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241004BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C01B39/36
C07C29/151
C07C31/04
C07C29/76
B01D53/22
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057143
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】堀田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】林 幹夫
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006KA31
4D006KA33
4D006KB30
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4D006NA45
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4D006PC80
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA57
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4G073BA75
4G073BD06
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4H006AD19
4H006BA61
4H039CA60
4H039CB20
4H039CL35
(57)【要約】
【課題】メタノールガス/水素ガスのパーミエンス比の高いゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体の製造方法、該ゼオライト膜複合体を用いたメタノールの製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質支持体上にゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜中にナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位を有することを特徴とするゼオライト膜複合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜中にナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位を有することを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項2】
前記ナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位が、ゼオライト膜厚のうち多孔質支持体の上端から80%以内に存在する請求項1に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項3】
前記多孔質支持体の上端からゼオライト膜厚の0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差が0.5以上である請求項1又は2に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項4】
前記ゼオライトが、CHA型、FAU型、MFI型、LTA型又はRHO型のいずれかである請求項1又は2に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項5】
前記ナトリウム/アルミニウム(モル比)が1.2以上である請求項1又は2に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項6】
前記ゼオライトの膜厚が0.5μm以上30μm以下である請求項1又は2に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項7】
多孔質支持体上に、ゼオライト膜を形成するゼオライト膜複合体の製造方法であって、種晶を多孔質支持体の表面に0.011g/cm2以上担持するゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項8】
少なくとも水素と、一酸化炭素及び/または二酸化炭素と、を含む原料ガスを、反応器内において触媒の存在下、反応させてメタノールを得る、メタノールの製造方法であって、
反応により生じたメタノールが請求項1又は2に記載のゼオライト膜複合体を透過して取り出される、メタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体とこれをメタノール分離に用いたメタノールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素と一酸化炭素を含むガス(以下、「合成ガス」と記載することがある。)からメタノールを製造する方法は古くから知られており、例えば銅系触媒(銅-亜鉛系触媒、銅-クロム系触媒)を用いる方法が挙げられる。
合成ガスからメタノールを製造する反応は平衡反応であり、低温・高圧ほど有利である。しかしながら、低温にすると反応速度が低下するため、一般的なメタノール製造プロセスは200~300℃、5~10MPaG(もしくはそれ以上の圧力)という過酷な条件で実施されるため、メタノール製造時に多大なエネルギーを消費する上に、設備上の制約が多いプロセスである。
【0003】
メタノールを効率的に製造する方法として、反応系内からメタノールを取り除くことにより、反応器内のガス組成を平衡組成からずらし、平衡転化率を超える転化率で反応を実施する方法が複数提案されている
【0004】
また、特許文献1~4にはメタノール合成反応器に分離膜を設置し、反応系内から分離膜を用いてメタノールや水を除去することで、平衡転化率以上に転化率を上げる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平9-511509号公報
【特許文献2】特開2016-117726号公報
【特許文献3】特開2016-174996号公報
【特許文献4】特開2007-55970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、メタノールを分離膜として、リチウムイオンをドープさせた過フッ化ポリスルホン酸膜が記載されている。また特許文献2には、多孔質グラファイト膜が記載され、特許文献3には、MFI型ゼオライトであってSi/Alが、50以上であるゼオライト分離膜が記載されている。また特許文献4では、水を選択的に除去することにより触媒劣化を防ぐことが記載されている。
しかしながらこれらの方法では、二酸化炭素とメタノールの分離には十分でも、水素とメタノールの分離は困難であり、メタノールガス/水素ガスのパーミエンス比は低く、さらなる改善が課題になっていた。
本発明者らは緻密で隙間のない膜を形成することにより、かかる課題を解決することを検討したが、十分緻密な膜を作成しても、パーミエンス比は不十分であることがわかった。
このような状況下、本発明者らはさらに検討を重ねた結果、~400℃における多孔質アルミナの熱膨張係数が約7×10-6/℃であるのに対して、MFI型ゼオライトは約2.4×10-6/℃と低く熱膨張率に差があるため、通常200~300℃の高温で行われる分離は時には、熱膨張率差によって多孔質アルミナ支持体とゼオライト膜の間で剥離が生じ、メタノールガス以外のガスが透過しやすくなりパーミエンス比が低下していることを見出した。
そこで、本発明は、メタノールガス/水素ガスのパーミエンス比の高いゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体の製造方法、該ゼオライト膜複合体を用いたメタノールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記したような、例えば、多孔質アルミナとMFI型ゼオライトの複合体等では熱膨張係数の差が生じて剥がれが生じる場合がある。ゼオライトのような、規則構造を有した材料だけでは、かかる熱膨張差を緩和できないため、敢えて不規則な構造を有する非晶質を導入すること、そのような部分はナトリウムアルミニウム比により確認できることを見出し、これにより、剥がれを防止し、メタノールガス/水素ガスのパーミエンス比を向上させることができることと、このようなゼオライト膜を得る方法を見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、以下に存する。
[1]多孔質支持体上にゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜中にナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位を有することを特徴とするゼオライト膜複合体。
[2]前記ナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位が、ゼオライト膜厚のうち多孔質支持体の上端から80%以内に存在する上記[1]に記載のゼオライト膜複合体。
[3]前記多孔質支持体の上端からゼオライト膜厚の0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差が0.5以上である上記[1]または[2]のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
[4]前記ゼオライトが、CHA型、FAU型、MFI型、LTA型又はRHO型のいずれかである上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
[5]前記ナトリウム/アルミニウム(モル比)が1.2以上である上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
[6]前記ゼオライトの膜厚が0.5μm以上30μm以下である上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
[7]多孔質支持体上に、ゼオライト膜を形成するゼオライト膜複合体の製造方法であって、種晶を多孔質支持体の表面に0.011g/cm2以上担持するゼオライト膜複合体の製造方法。
[8]少なくとも水素と、一酸化炭素及び/または二酸化炭素と、を含む原料ガスを、反応器内において触媒の存在下、反応させてメタノールを得る、メタノールの製造方法であって、反応により生じたメタノールが上記[1]乃至[6]のいずれかに記載のゼオライト膜複合体を透過して取り出される、メタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタノールガス/水素ガスのパーミエンス比の高いゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体の製造方法、該ゼオライト膜複合体を用いたメタノールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ナトリウム/アルミニウム(モル比)とゼオライトの膜厚などの測定方法を説明する図である。
【
図2】
図2は本発明のゼオライト膜複合体を用いてメタノールを製造する方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の実施形態は、多孔質支持体上にゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜中にナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位を有することを特徴とするゼオライト膜複合体である。通常ゼオライトは骨格を構成するT原子すべてがSiであれば電気的に中性となるが、例えばアンモニア分離に使用されるゼオライトは、Siの一部がAlに置換されている。そのため負の電荷を帯びており、電荷補償のためNaイオンが吸着している。この時骨格中のAlと吸着したNaの比はゼオライトであれば1:1となり、ナトリウム/アルミニウム(モル比)が理論上1を超えることはない。
しかしながら、結晶化されていないアモルファス部分があると、その部位のナトリウム/アルミニウム(モル比)は1を超える部位が得られる。
このことはSEM-EDSにより確認でき、結晶化していない非晶質部位の特徴である。
【0013】
かかるナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位は、熱膨張による応力を緩和し、多孔質基材とゼオライト膜の剥がれを防止するものであるから、ゼオライト膜の表面より、多孔質支持体側にあることが好ましく、好ましくはゼオライト膜厚のうち多孔質支持体上端から80%以内に存在することが好ましく、より好ましくは50%以内に存在することである。
そしてナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位は、好ましくはナトリウム/アルミニウム(モル比)が1.2以上であり、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2以上である。
【0014】
また、十分なアモルファス層が存在することを示す指標として、多孔質支持体側の部位、具体的には多孔質支持体上端からゼオライト膜厚の0~30%(以下「T0~30」と記載することがある。ゼオライト膜と多孔質支持体の界面側を代表する。)におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と、ゼオライト膜厚の50~80%(以下「T50~80」と記載することがある。ゼオライト膜の中心から表面側を代表する。)におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差が0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.7以上である。
すなわち、T0~30の方が、T50~80よりもアルミニウムに対するナトリウムの存在比が大きいことを意味し、これも支持体表面側にアモルファスの層が存在していることを表す指標である。
【0015】
ナトリウム/アルミニウム(モル比)の測定は、SEM-EDSを用いて行うことができる。測定は少なくとも5か所の測定点で実施する。
なお、5か所の測定点すべてが1を超えている状態ではないことが好ましい。5か所の測定点すべてがアモルファスになっている場合には、測定点に偏りがあるか分離膜として不適当であるかの両方の可能性があるため、測定点を変えて再度測定するか、XRDにて構造を確認するとよい。
【0016】
かかる組成の分析は、標準的な測定方法として実施例の分析に用いた方法を以下に示す。
(前処理)
ゼオライト膜複合体をトリミング後研磨により剥片化した後、多孔質支持体側からイオンミリングにより平滑断面加工、導電性付与のためPt蒸着を行った。
(装置)
以下の装置を用いてSEM-EDS分析を行った。
電界放出型走査電子顕微鏡:JSM-7900F(日本電子社製)
検出器:二次電子検出器
EDS:Ultim Max 170(Oxford社製)
(測定条件)
加速電圧:6kV
倍率:5000倍程度
CPS:3000程度以上
積算:100秒
取得範囲:2~5μm×0.5~2μm
【0017】
[ゼオライト膜複合体]
本発明のゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライト膜を有する。
【0018】
<多孔質支持体>
本発明に用いられる多孔質支持体は、種々の材料を使用し得るが、好ましくは無機質の多孔体である。その具体的な材質としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカなどが使用できるが、好ましくはアルミナである。
多孔質支持体の孔に関しては、マクロ孔が存在して、ゼオライト膜がうまく形成できなくならない限り特に限定されず、通常使用されるものを使用すればよい。
【0019】
<ゼオライト膜>
本発明に用いられるゼオライト膜を構成するゼオライトとしては、アルミニウムを含むものであれば特に限定されないが、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0020】
酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトとしては、International Zeolite Association (IZA)が定めるコードで、例えば、AEI、AEL、AFI、AFG、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FAU、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTW、MWW、NON、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、OD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどがあげられる。これらの中から選ばれるいずれかであるのが好ましい。
そしてより好ましくは、CHA型、FAU型、MFI型、LTA型又はRHO型のいずれかであり、さらに好ましくはCHA型、MFI型、LTA型又はRHO型、さらに好ましくはMFI型又はRHO型、最も好ましくはMFI型である。
【0021】
ゼオライト膜の膜厚は、特に限定されないが、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。かかる下限以上にすることにより、分離膜としての性能を十分に発揮しやすい。また膜厚の上限としては30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下、最も好ましくは10μm以下である。かかる上限とすることにより、ゼオライト膜の熱膨張などによる損傷を防ぐと同時に、十分な透過率を得ることができる。
膜厚はSEMによりゼオライト部分と支持体部分の緻密さの違いにより、容易に区別できるため、SEM観察により、平均的な部分を数か所測定することにより、測定可能である。平均的な場所を5か所測定して平均値をとればよく、好ましくは5か所のいずれもが上述の範囲にあることである。
【0022】
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
次に本発明のゼオライト膜複合体の製造方法について説明する。
本発明のゼオライト膜複合体の製造方法は、その一部がアモルファスになるようにする以外は、通常使用される一般的な多孔質体の上にゼオライト膜を製造する方法を用いればよく、ゼオライト膜を担持する方法は、ディップ法、ラビング法、吸引法、含浸法等を用いることができる。この時種結晶と呼ぶ微結晶を用いることが好ましい。この種結晶は、ゼオライト膜を構成する結晶を成長させるときの核の役割を果たす。
【0023】
本発明の多孔質支持体側にナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位を設ける典型的な製造方法としては、膜形成時の種晶を、通常使用される範囲より多く使用することである。具体的には多孔質支持体の表面積当たり0.011g/cm2以上、好ましくは0.013g/cm2以上、さらに好ましくは0.015g/cm2以上担持するとよい。これにより、多孔質支持体表面近傍に種結晶が高密度に充填され、原料混合物中のナトリウムを取り込みアモルファスになった部分が生じ、この部分の存在を、ナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超えていることで、確認することができる。
【0024】
本発明のゼオライト膜複合体は、熱膨張による応力を緩和し、ゼオライト膜の剥がれやひび割れの発生を抑えるものであるから、用途を限定することなくその効果を発揮するが、室温より高い温度で使用する際に、特に有効であり、好ましくは70℃以上で使用されるものに適用することが好ましい。
以下、メタノールの製造方法に適用した場合を例として説明するが、アンモニアやそのほかの分離にも好適に使用することができる。
【0025】
<メタノールの製造方法>
メタノールの製造は、合成ガスを原料として、触媒の存在下、反応させてメタノールを製造する。
原料ガスには、H2とCOx以外のガスを含んでいてもよい。H2とCOx以外のガスとしては、CH4、C2H4、C2H6、C3H6、C3H8、C4H8、C4H10、H2Oなどがあげられるが、H2とCOx以外のガスの含有量は通常50体積%以下である。
【0026】
原料ガスからメタノールを製造する際に用いられる触媒は、既知の触媒を用いることができ、例えば銅系触媒(銅-亜鉛系触媒、銅-クロム系触媒)、亜鉛系触媒、クロム系触媒、アルミニウム系触媒、などが挙げられる。
【0027】
図2は、本発明が実施される反応器の一形態を示す断面模式図である。
反応器10は、原料フィード入口a、透過ガス出口b、非透過ガス出口cを有しており、メタノール生成反応が高温高圧で行われるため、そのような環境に耐え得る材料からなる。入口a、出口b及び出口cは図中1つのみ存在するが、複数存在してもよい。
例えば反応器10内には、本発明のメタノール選択透過膜であるゼオライト膜複合体1が設置される。
【0028】
ゼオライト膜複合体1は、多孔質支持体上にゼオライト膜が形成されることで複合体となる。多孔質支持体の形状は管状のみに限定されず、柱状、中空の柱状であってもよく、中空のハニカム形状であってもよい。ゼオライト膜複合体1の一端はキャップ2により密封される。そして別の一端は配管3と接続される。配管3とゼオライト膜複合体1との接続、及びキャップ2とゼオライト膜複合体1との接続は、接合材により行われる。ゼオライト膜複合体の接続法は上記に限定されず、例えば両端を配管と接続し、内側にガスを流通できるようにしてもよい。
【0029】
管状であるゼオライト膜複合体1の周囲には、触媒13が配置される。フィード入口aからフィードされた原料ガスは、触媒13との接触によりメタノール生成が促進される。そして生成されたメタノールがゼオライト膜複合体1のゼオライト膜を透過することで、より純度の高いメタノールを得ることができる。さらに、メタノールがゼオライト複合体1を選択的に透過することで、触媒13と接触するガス中のメタノール濃度が低下し、メタノールの生成が促進される。
【0030】
配管3の別の端部は、反応器の透過ガス出口bに接続され、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜を透過したメタノールを透過ガス出口bへと移送する。なお、ゼオライト膜複合体1は、配管3を介さずに、直接反応器の透過ガス出口bと接続してもよい。
【0031】
本実施形態では、ゼオライト膜として支持体上に形成されたゼオライト膜複合体を用いることができる。ゼオライト膜複合体は、例えば円筒形の支持体を準備し、まずゼオライトの微結晶を細孔内に担持する。ゼオライトの成長には、ゼオライト合成時と同様に、水熱合成を用いることができる。
【0032】
本実施形態では、少なくとも水素と、一酸化炭素及び/または二酸化炭素と、を含む原料ガスを、反応器内において触媒の存在下、反応させ、メタノールを得る。その反応条件は特段限定されないが、反応温度は200℃以上、300℃以下であることが好ましい。なお、反応温度は反応器内部の温度を意味する。反応温度を200℃以上とすることにより反応速度が高まり、生産性が上がる。反応温度を300℃以下にすることにより、反応の化学平衡が、メタノールを得るために有利になるため、膜の性能が多少劣っても転化率を高くすることができる。また、接合材に要求される耐熱性の許容範囲も広がる。
【0033】
上記反応により得られたメタノールは、反応器内のメタノール選択透過膜を透過し、反応器の透過ガス出口からメタノールは回収される。
生成したメタノールを、メタノール選択透過膜に透過させる際の反応器内の圧力、即ち反応器内におけるメタノール選択透過膜のガス供給側の圧力(ゲージ圧)は、1MPaG以上であることが好ましく、2MPaG以上であることがより好ましく、8MPaG以下であることが好ましく、5MPaG以下であることがより好ましい。圧力を適当な範囲にすることで、反応の平衡制約が減り、また反応速度も向上してより高い生産性を達成しやすい。また圧力が高すぎることによる反応器の製造コストや原料ガスの昇圧コストの上昇を抑えられる。
また、反応容器内において、メタノール選択透過膜のガス供給側におけるメタノール分圧(絶対圧)は、0.1MPaA以上であることが好ましく、0.2MPaA以上であることがより好ましく、6MPaA以下であることが好ましく、5MPaA以下であることがより好ましい。メタノール分圧をこの範囲にすることにより、膜を透過するメタノール量が十分得られ、膜の効果が良く発揮される。一方、この範囲であれば、接合部に要求される耐久性やシール性が必要以上に高くなることなく、簡便かつ大量に接合することができる。
上記反応器内のゲージ圧は、反応器に備えた圧力計から測定できる。また、上記反応器内のメタノールの絶対圧は、反応器の上流から下流にかけて変化するが、ここではガスクロマトグラフィーによる反応器出口ガス組成の分析結果及びゲージ圧から計算した値を反応器内のメタノール絶対圧とする。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲が、以下の実施例で示す態様に限定されないことは言うまでもない。
【0035】
(SEM―EDXの測定位置について)
SEM-EDXの測定条件については前述のとおりであるが、膜厚や測定位置の決め方について
図1を用いて説明する。
図1は5000倍のSEM画像であるが、多孔質支持体は大きな粒子(この場合はアルミナ粒子)が見えるため、ゼオライト膜の下端は容易に判別できる。そしてその上端までの厚さが膜厚である。平均的な膜厚を有する部分を5か所程度測定することにより、膜厚を求めることができる。また、ナトリウムとアルミニウムの比は、任意に5か所程度測定することにより、この比が1を超える部位があるかを確認することができる。
そしてナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位が、ゼオライト膜厚のうち多孔質支持体上端から80%以内に存在するかどうかも同様に5か所程度測定してみるとよい。なお測定部位の決め方について以下に説明する。
【0036】
測定部位は、例えば
図1中の白い四角の範囲であるが、相対的な位置をSEM写真を撮って決めることができる。
図1の白い四角の部分のゼオライトの上端と下端の距離を測定すると、3.6μmであった。一方下端から白い四角の上端までは2.3μm、下端までは1.8μmであった。
上端:(2.3/3.6)*100=63%
下端:(1.8/3.6)*100=50%
したがって、膜中の50~63%の位置を測定したことになる。同様の測定を5か所で行い、その中で最もナトリウム/アルミニウムの比が高い部分とそれぞれで、多孔質支持体上端から0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差を求めることができる。
【0037】
<実施例1>
(水熱合成用原料混合物)
97質量%水酸化ナトリウム(林純薬工業社製、顆粒状)2.8g、脱塩水154.3gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(キシダ化学社製、Al2O3-62.2質量%含有)0.17gを加えて50℃で30分間撹拌した。これにコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックス40)19.4gを加えて、50℃で4時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この水熱合成用原料混合物の組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/H2O=1/0.008/0.54/70であった。
【0038】
(多孔質支持体)
多孔質支持体としては、8cmの岩尾磁器工業社製のアルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を脱塩水で流通洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。
【0039】
(種結晶分散液)
MFI型ゼオライトを乳鉢ですりつぶしたものを用意し、この種結晶濃度が0.15質量%となるように種結晶を分散させて、種結晶分散液を調製した。
【0040】
(ゼオライト膜複合体の製造)
多孔質支持体を上述の種結晶分散液中に60秒間浸した後、室温で30分間、70℃で30分間乾燥させ、多孔質支持体に種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.0045gであり、多孔質支持体表面積当たり0.015g/cm2であった。このような手法により、種結晶が付着した多孔質支持体を3本用意した。
種結晶を付着させた3本の多孔質支持体を、それぞれ上述の水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、恒温槽内で180℃まで5時間で昇温後、15時間静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、再度脱塩水を加えオートクレーブで120℃、20時間加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を脱塩水から取り出し、100℃で3時間乾燥させて、MFI型ゼオライト膜複合体1を得た。
なお、多孔質支持体上にゼオライト膜の質量は0.11gであった。また、ゼオライト膜複合体1の50Torrにおける空気透過量は0cm3/分であった。この結果を表1に示す。
またこのゼオライト膜複合体について、SEM―EDXの分析を行った結果を表2に示す。
【0041】
<比較例1>
(水熱合成用原料混合物)
97質量%水酸化ナトリウム(林純薬工業社製、顆粒状)2.8g、脱塩水154.3gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(キシダ化学社製、Al2O3-62.2質量%含有)0.17gを加えて50℃で30分間撹拌した。これにコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックス40)19.4gを加えて、50℃で4時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この水熱合成用原料混合物の組成(モル比)はSiO2/Al2O3/NaOH/H2O=1/0.008/0.54/70であった。
【0042】
(多孔質支持体)
多孔質支持体としては、8cmの岩尾磁器工業社製のアルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を脱塩水で流通洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。
【0043】
(種結晶分散液)
MFI型ゼオライトを乳鉢ですりつぶしたものを用意し、この種結晶濃度が0.15質量%となるように種結晶を分散させて、種結晶分散液を調製した。
【0044】
(ゼオライト膜複合体の製造)
多孔質支持体を上述の種結晶分散液中に10秒間浸した後、室温で30分間、70℃で30分間乾燥させ、多孔質支持体に種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は約0.0030gであり、多孔質支持体表面積当たり0.010g/cm2であった。このような手法により、種結晶が付着した多孔質支持体を3本用意した。
種結晶を付着させた3本の多孔質支持体を、それぞれ上述の水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、恒温槽内で180℃まで5時間で昇温後、15時間静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、再度脱塩水を加えオートクレーブで120℃、20時間加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を脱塩水から取り出し、100℃で3時間乾燥させて、MFI型ゼオライト膜複合体2を得た。なお、多孔質支持体上にゼオライト膜の質量は0.12gであった。また、ゼオライト膜複合体2の50Torrにおける空気透過量は0cm3/分であった。この結果を表1に示す。
またこのゼオライト膜複合体について、SEM―EDXの分析を行った結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
以上のように、Na/Alが1を超える部位を有する実施例1のゼオライト複合体は、メタノールと水素のパーミエンス比が3倍程度向上する著しい効果を得ることができた。そしてそのナトリウム/アルミニウム(モル比)が1を超える部位は、下端から50%の範囲にあることがわかる。また、多孔質支持体上端から0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差が0.5以上あることも確認できる。この0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)と50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の差に関しては、それぞれ5か所測定して0~30%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の最大値から50~80%におけるナトリウム/アルミニウム(モル比)の最小値を引くことによって求めることができるが、本実施例のように5か所測定するまでもない場合には省略してもよい。このナトリウム/アルミニウム比の差が大きいところがあることは、アモルファスになっている、熱膨張に対する緩衝部が存在していることを示し、実施例1のスペクトル3~5の部位は規則正しいゼオライトの膜の部分も存在していることを意味している。
本発明のゼオライト膜複合体を用いることで、メタノールを製造するに際し、高温・高圧、かつメタノール蒸気の存在下において、高いメタノールガス/水素ガスのパーミエンス比が得られることが明らかとなった。そしてその高いパーミエンスが得られる原理は、他の反応においても、共通であることから、分離が必要な種々の反応に適用が可能であり、高いパーミエンスが得られるゼオライト分離膜として、工業的価値の高い技術である。