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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144958
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】医療用成形体
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20241004BHJP
   A61J 1/06 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61J1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057154
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】草香 央
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047AA27
4C047BB19
4C047FF01
4C047FF02
4C047FF03
4C047GG09
(57)【要約】
【課題】植物由来原料から構成されており、タンパク質の吸着を抑制することができるとともに、衝撃強度、耐傷つき性、透明性に優れた医療用成形体を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂を含有する医療用成形体である。ポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含む。医療用成形体にタンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量が1.1μg/cm以下である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含有する医療用成形体であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含み、
タンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量が1.1μg/cm以下である、医療用成形体。
【化1】
【請求項2】
前記タンパク質が免疫グロブリンIgGである、請求項1に記載の医療用成形体。
【請求項3】
前記構造単位(A)の含有比率が、前記ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して55~95モル%である、請求項1又は2に記載の医療用成形体。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂の還元粘度が、0.30dL/g以上0.60dL/g未満である、請求項1又は2に記載の医療用成形体。
【請求項5】
形状がバイアル、アンプル、菅、注射器、又は瓶である、請求項1又は2に記載の医療用成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ産業の発展に伴い、タンパク質の産業利用は食品・医療・化成品産業などに大きく広まっている。一方、タンパク質は、樹脂やガラスなどの材料表面に吸着する性質を有しており、この吸着特性は多くの産業分野で問題を引き起こす原因となっていた。例えば医療用途では、血液、組織等の検体や、タンパク質を含む医薬(具体的にはタンパク医薬)等のタンパク質含有物を収容する容器にタンパク質が吸着してしまうと、検体成分の正確性が損なわれたり、医薬の薬効が低下するおそれを生じていた。そこで、タンパク質の吸着抑制に関する多くの手法が提案されている(特許文献1~4参照)。
【0003】
しかし、これらの手法では、成形体等の対象物に対するコーティング技術が用いられているため、コーティング膜の剥離というリスクや、コーティング工程の増加に伴うコストの上昇といった課題があった。そこで、タンパク質の吸着を抑制できる材料から構成された成形体の開発要求が高まっている。
【0004】
この要求に対し、例えば、環状オレフィンとオレフィンとの共重合体であるシクロオレフィン共重合体、シクロオレフィン類開環重合体、シクロオレフィン類開環重合体に水素添加した重合体から構成されるタンパク製剤容器が提案されている(特許文献5参照)。特許文献5によれば、このような材質の容器では、ガラスに比べタンパク質の吸着が少なくなり、安定性が向上するとしている。
【0005】
また、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位(A1)、及び、共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位(A2)を有するブロックコポリマーからなる環状ポリオレフィンから構成された医療用成形体が提案されている(特許文献6参照)。特許文献6によれば、このような材質の医療用成形体では、タンパク質の吸着が少なくなるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-063459号公報
【特許文献2】特開2007-185515号公報
【特許文献3】特開2016-112397号公報
【特許文献4】特開2021-091908号公報
【特許文献5】特開2006-116345号公報
【特許文献6】特開2020-180301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、石油資源の枯渇や二酸化炭素排出量の増加による地球温暖化が危惧されていることから、植物由来モノマーを原料とした材料が求められている。また、バイアル、アンプル、菅、注射器、医療用の瓶などの医療用成形体には、タンパク質の吸着が抑制されることが望まれるとともに、運搬の際の衝撃等によって傷が付いたり、割れたりする可能性があるため、優れた耐衝撃性、耐傷つき性が望まれている。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、植物由来原料から構成されており、タンパク質の吸着を抑制することができるとともに、衝撃強度、耐傷つき性、透明性に優れた医療用成形体をしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の態様を有するものである。
[1]ポリカーボネート樹脂を含有する医療用成形体であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含み、
タンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量が1.1μg/cm以下である、医療用成形体。
【0010】
【化1】
【0011】
[2]前記タンパク質が免疫グロブリンIgGである、[1]に記載の医療用成形体。
[3]前記構造単位(A)の含有比率が、前記ポリカーボネート樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して55~95モル%である、[1]又は[2]に記載の医療用成形体。
[4]前記ポリカーボネート樹脂の還元粘度が、0.30dL/g以上0.60dL/g未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の医療用成形体。
[5]形状がバイアル、アンプル、菅、注射器、又は瓶である、[1]~[4]のいずれかに記載の医療用成形体。
【発明の効果】
【0012】
前記医療用成形体は、植物由来原料から構成されており、タンパク質の吸着を抑制することができるとともに、衝撃強度、耐傷つき性、透明性に優れている。したがって、前記医療用成形体は、医療用のバイアル、アンプル、菅、注射器、瓶等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成の説明は、本発明の実施態様の一例(つまり、代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本明細書において「構造単位」とは、樹脂を構成する部分構造であって、繰り返し構造単位に含まれる特定の部分構造のことを意味する。例えば、樹脂中で隣り合う連結基に挟まれた部分構造や、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合性反応基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造を言う。より具体的には、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基が連結基であって、隣り合うカルボニル基に挟まれた部分構造のことを構造単位と呼称する。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。また、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」は、それぞれ実質的に同義である。
【0014】
[ポリカーボネート樹脂]
(ジヒドロキシ化合物)
前記ポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含む。つまり、ポリカーボネート樹脂は、共重合ポリカーボネートであり、少なくとも式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物とが共重合された共重合体である。ポリカーボネート樹脂としては、例えば、(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物との共重合体が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂において、構造単位(A)と構造単位(B)は異なるものである。構造単位(A)を形成するジヒドロキシ化合物のことを適宜「第1化合物」と称し、構造単位(B)を構成するジヒドロキシ化合物のことを適宜「第2化合物」と称する。ポリカーボネート樹脂が式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)を有しているため、ポリカーボネート樹脂から構成された成形体は、タンパク質の吸着性が低く、耐衝撃性に優れ、さらに透明性にも優れる。
【化2】
【0015】
第1化合物としては、イソソルビド、イソマンニド、イソイジトが挙げられ、これらは、立体異性体の関係にある。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら第1化合物の中でも、入手及び製造のし易さ、成形性の観点からイソソルビドが最も好ましい。イソソルビドは、ソルビトールを脱水縮合して得られ、ソルビトールは、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造される。
【0016】
構造単位(B)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位であり、第2化合物由来の構造単位である。構造単位(B)は、好ましくは脂肪族ジヒドロキシ化合物又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位であり、より好ましくは脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位である。
【0017】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0018】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、シクロヘキサンジメタノール等の炭素数3~8の環状構造の炭素骨格(具体的には、炭素数3~8シクロアルカン構造)を有する化合物、トリシクロデカンジメタノール等のトリシクロデカン骨格を有する化合物、ノルボルナンジメタノール等のノルボルナン骨格を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭素数3~8の環状構造の炭素骨格(具体的には、炭素数3~8シクロアルカン構造)を有する化合物、及び/又はトリシクロデカン骨格を有する化合物であることがより好ましい。また、シクロアルカン構造を有するジヒドロキシ化合物(具体的には、ジヒドロキシシクロアルカン)におけるシクロアルカンの炭素数は4~6であることがより好ましい。
【0019】
タンパク質吸着抑制効果及び耐衝撃性がより向上するという観点から、第2化合物は、シクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。これらの化合物は分子構造が似ており、シクロブタンジオール及び/又はシクロヘキサンジメタノールと、第1化合物との共重合ポリカーボネートは、同様の物性や特性を示す。
【0020】
成形体にタンパク質を吸着させたときにおけるタンパク質吸着量がより低下する観点、透明性がより向上する観点から、ポリカーボネート樹脂における構造単位(A)の含有比率は、ポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、55モル%~95モル%であることが好ましく、60モル%~95モル%であることがより好ましく、65モル%~90モル%であることがさらに好ましい。また、構造単位(A)の含有比率を上記範囲内で高くすると、植物由来原料からの構成比率が増大するため、カーボンニュートラルの観点から有利である。
【0021】
ポリカーボネート樹脂における構造単位(B)の含有比率は、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、5モル%~45モル%であることが好ましく、7モル%~40モル%であることがより好ましく、10モル%g~35モル%であることがさらに好ましい。
【0022】
(その他のジヒドロキシ化合物)
ポリカーボネート樹脂においては、構造単位(A)及び構造単位(B)に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいても良い。その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば芳香族系ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、置換若しくは無置換のビスフェノール化合物が挙げられる。具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェ・BR>Jル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(sec-ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシ-3,6-ジメチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,6-ジメチルフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,6-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等が挙げられる。その他のジヒドロキシ化合物(具体的には、芳香族系ジヒドロキシ化合物)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
透明性を高いレベルに維持しつつ、耐熱性、耐衝撃性、成形加工性等がより向上する観点から、ポリカーボネート樹脂を構成する芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は、ポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、0モル%以上かつ1モル%未満が好ましく、0モル%以上かつ0.8モル%未満がより好ましく、0モル%以上かつ0.5モル%未満がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂が芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、耐熱性、耐衝撃性、成形加工性等の改良が期待できる。透明性がより向上する観点からは、ポリカーボネート樹脂において、上述の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は0(モル%)であることがさらにより好ましく、ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位として、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)のみを有することが特に好ましい。医療用成形体の透明性、耐衝撃性がより向上する観点から、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、脂環式ジヒドロキシ化合物との共重合体であることが最も好ましい。
【0024】
(炭酸ジエステル)
ポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(2)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
【化3】
【0026】
式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1~18の脂肪族基、又は、置換若しくは無置換の芳香族基である。
式(2)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等が例示される。好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、より好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合がある。含まれる不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色調を悪化させたりする場合がある。そのため、必要に応じて、炭酸ジエステルを蒸留などにより精製した後に使用することが好ましい。炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂が黄色味を帯びるおそれがあり、色相が悪化する場合がある。そのため、必要に応じて、蒸留などにより精製した炭酸ジエステルを使用することが好ましい。
【0027】
炭酸ジエステルは、溶融重合に使用した全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90~1.20のモル比率で用いることが好ましく、0.95~1.10のモル比率で用いることがより好ましく、0.96~1.10のモル比率で用いることがさらに好ましく、0.98~1.04のモル比率で用いることがさらにより好ましい。モル比率を前記範囲内の下限以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシル基の増加を抑制し、ポリマーの熱安定性が向上し、ポリカーボネート樹脂の成形時に着色をより防止したり、エステル交換反応速度が向上したり、所望の高分子量体が得られやすくなる。また、このモル比率が前記範囲内の上限以下とすることにより、同一条件下でのエステル交換反応の速度が向上し、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が容易となる。さらに、製造されるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量を低減することができる。残存炭酸ジエステルは、成形時、或いは成形体の臭気の原因となり好ましくない場合があり、さらに重合反応時の熱履歴を増大させ、ポリカーボネート樹脂の耐候性等の特性を悪化させるおそれがある。
【0028】
ポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、さらに好ましくは60重量ppm以下、さらにより好ましくは30重量ppm以下である。この場合には、残存炭酸ジエステルによる紫外線吸収が抑制され、ポリカーボネート樹脂の耐光性がより向上する。ポリカーボネート樹脂から完全に炭酸ジエステルを除くことは困難であり、ポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがある。ポリカーボネート樹脂中の未反応の炭酸ジエステル濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0029】
(エステル交換反応触媒)
ポリカーボネート樹脂は、第1ジヒドロキシ化合物及び第2ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、式(2)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させて製造される。より詳細には、ポリカーボネート樹脂は、エステル交換反応により副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。エステル交換反応では、通常、エステル交換反応触媒の存在下で溶融重合が行われる。
【0030】
エステル交換反応触媒(以下、適宜「触媒」と表記する。)としては、例えば長周期型周期表における第I属又は第II族(以下、それぞれ「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0031】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。好ましくは、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することがよい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、ポリカーボネート樹脂の色相の悪化を防止する観点、重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0032】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。これらの中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
【0033】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらの中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物がより好ましい。
【0034】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。
【0035】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0036】
アミン系化合物としては、例えば、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0037】
前記の中でも、第2族金属化合物及び/リチウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性等の種々の物性をより向上させることができる。
また、ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性をさらに向上させる観点からは、触媒は、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であることがより好ましい。
【0038】
触媒が1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の場合、触媒の使用量は、金属換算量として、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.1~300μmolが好ましく、0.1~100μmolがより好ましく、0.5~50μmolがさらに好ましく、1~25μmolがさらにより好ましい。
触媒がリチウム及び2族金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物の場合、特に触媒がマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物である場合には、触媒の使用量の下限は、金属換算量として、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.1μmolが好ましく、0.5μmolがより好ましく、0.7μmolがさらに好ましい。また、上限は、金属換算量として、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、20μmolが好ましく、10μmolがより好ましく、3μmolがさらに好ましく、2μmolがさらにより好ましい。
【0039】
触媒の使用量を前記範囲内の下限以上とすることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られ、充分な破壊エネルギーが得られる。一方、触媒の使用量を前記範囲内の上限以下とすることにより、得られるポリカーボネート樹脂の色相が向上し、副生成物の発生を抑制することができる。さらに、流動性が向上し、ゲルの発生を抑制し、脆性破壊がより起こり難くなる。これにより、目標とする高品質のポリカーボネート樹脂の製造が容易になる。
【0040】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
ポリカーボネート樹脂は、エステル交換反応により、第1ジヒドロキシ化合物及び第2ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融重合させることによって得られる。ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0041】
混合温度は通常80℃以上である。溶解速度が向上し、溶解度が十分にたかめ、固化等の不具合を回避する観点からは、混合温度は好ましくは90℃以上である。一方、混合温度は通常250℃以下である。ジヒドロキシ化合物の熱劣化をより確実に回避し、得られるポリカーボネート樹脂の色相をより良好にし、耐光性を向上させる観点から、混合温度は好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。混合の温度は、100℃以上120℃以下がさらに好ましい。
【0042】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを溶融又は混合は、所定範囲内の酸素濃度雰囲気下で行われる。この酸素濃度は、10体積%以下が好ましい。より好ましくは0.0001体積%~10体積%であり、さらに好ましくは0.0001体積%~5体積%、さらにより好ましくは0.0001体積%~1体積%がよい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色相がより良好になる。
【0043】
ポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で溶融重合させて製造することが好ましい。溶融重合を複数の反応器で実施する理由は、溶融重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、溶融重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。前記反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上が好ましく、より好ましくは3~5つ、さらに好ましくは、4つである。
【0044】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
留出するモノマーの量を抑制するためには、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45~180℃であり、好ましくは80~150℃、より好ましくは100~130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下する。冷媒の温度が低すぎると、モノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0045】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
ポリカーボネート樹脂の製造にあたっては、前記反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていく、などしてもよい。
【0046】
ポリカーボネート樹脂の製造において、触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、溶融重合の制御の観点からは、反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で供給することが好ましい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得ることが好ましい。重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐光性の観点から、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが好ましい。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりする可能性がある。
【0047】
エステル交換反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
ポリカーボネート樹脂の製造において、第1ジヒドロキシ化合物と第2ジヒドロキシ化合物とを含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを触媒の存在下でエステル交換反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。
ポリカーボネート樹脂の分子量がより高くなり、分子量分布がより狭くなり、成形体の衝撃強度がより高くなる観点から、第1段目のエステル交換反応温度(以下、「内温」と称する場合がある)は、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、さらにより好ましくは200℃以上であることがよい。また、成形体の色相がより良好になり、成形体の脆性破壊がより起こり難くなるという観点から、第1段目のエステル交換反応温度は、好ましくは270℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下、さらにより好ましくは220℃以下であることがよい。第1段目のエステル交換反応における滞留時間は通常0.1~10時間である。ポリカーボネート樹脂の分子量がより高くなり、成形体の衝撃強度がより高くなる観点、成形体の脆性破壊がより起こり難くなる観点から、第1段目のエステル交換反応における滞留時間は、好ましくは0.5~3時間である。第1段目のエステル交換反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
第2段目以降ではエステル交換反応温度を上げていき、第2段目以降のエステル交換反応は、通常210~270℃で行われる。ポリカーボネート樹脂の分子量がより高くなり、成形体の衝撃強度がより高くなる観点、成形体の色相がより良好になり、成形体の脆性破壊がより起こり難くなる観点から、第2段目以降のエステル交換の反応温度は、好ましくは220~250℃である。第2段目以降のエステル交換反応では、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、最終的には反応系の圧力が200Pa以下となるように、通常0.1~10時間重縮合反応が行われる。第1段目の滞留時間と同様の観点から、第2段目以降の重縮合反応時間は、好ましくは0.5~6時間、より好ましくは1~3時間である。
【0048】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジエステルや、各種ビスフェノール化合物の原料として再利用することが好ましい。
ポリカーボネート樹脂の着色、熱劣化、ヤケがより抑制され、衝撃強度がより向上する観点から、全ての反応段階において反応器内の最高温度(内温)は255℃未満であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、225~245℃であることがさらに好ましい。
【0049】
また、ポリカーボネート樹脂の分子量をより高め、衝撃強度をより高める観点からは、可能な限り重合温度を高め、重合時間を長くすることが好ましい。一方、重合温度を高くしたり、重合時間を長くすると、異物やヤケが発生しやすくなり、脆性破壊の観点からも不利となる傾向にある。衝撃強度のさらなる向上と脆性破壊のさらなる抑制を両立させるためには、重合温度を低く抑え、重合時間短縮のための高活性触媒を使用し、適正な反応系の圧力設定等の調整を行なうことが好ましい。更に、反応の途中あるいは反応の最終段階において、フィルター等により反応系で発生した異物やヤケ等を除去することも脆性破壊のさらなる抑制のために好ましい。
【0050】
なお、前記式(2)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いてポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中への残存を完全に回避することは困難である。フェノール、置換フェノールは、芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。通常のバッチ反応後は、ポリカーボネート樹脂中には1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を低下させることが好ましい。ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量は、好ましくは700重量ppm以下、より好ましくは500重量ppm以下、さらに好ましくは300重量ppm以下であることがよい。芳香族モノヒドロキシ化合物を工業的に完全に除去することは困難であり、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料に置換基を有することがあるため、芳香族モノヒドロキシ化合物は、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基等を有していてもよい。
【0051】
また、1族金属は、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。1族金属の中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムは混入が起こりやすく、特にナトリウム、カリウム、セシウムの混入が起こりやすい。これらの1族金属は、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。これを十分に回避する観点から、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属を含む化合物の合計の含有量は、金属量換算で、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
【0052】
なお、ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化等の方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することができる。
ポリカーボネート樹脂は、上述の通り溶融重合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
【0053】
ペレット化の方法は限定されるものではない。例えば、最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法が採用される。また、最終重合反応器から溶融状態で一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法を採用することもできる。また、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法を採用することもできる。
【0054】
押出機中では、残存モノマーの減圧脱揮を行ったり、樹脂中に熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加し、混練することもできる。
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、押出機中での溶融混練温度は、好ましくは150~300℃、より好ましくは200~270℃、更に好ましくは230~260℃である。溶融混練温度を前記範囲内で下限以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度がより低くなり、押出機への負荷がより抑制され、生産性がより向上する。一方、前記範囲内で上限以下とすることにより、ポリカーボネートの熱劣化がより抑制され、分子量がより向上して機械的強度がより向上する。さらに、着色、ガスの発生、異物の発生、更にはヤケの発生をより防止することができる。押出機中あるいは押出機出口には、異物やヤケの除去のためのフィルターを設置することが好ましい。
【0055】
99%以上の異物を除去するという濾過精度を目標とした場合、フィルターの目開きは、400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0056】
また、溶融押出されたポリカーボネート樹脂を冷却してペレット化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用することが好ましい。
【0057】
ポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際には、着色をより一層防止する目的で、リン酸化合物、亜リン酸化合物を重合時に添加することができる。リン酸化合物、亜リン酸化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルが用いられる。リン酸化合物の添加量は、反応に供する全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下であることが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。
【0058】
また、亜リン酸化合物としては、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。亜リン酸化合物の添加量は、反応に供する全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下であることが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下であることがより好ましい。
【0059】
リン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することもできるが、その場合の添加量は、リン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、反応に供する全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下であることが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下であることがより好ましい。
【0060】
また、このようにして製造されたポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下を抑制したり、色相をより良好にする観点から、熱安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、及びこれらのエステル等が挙げられる。具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。各種熱安定剤のなかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0061】
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、更に亜リン酸化合物を配合することができる。これにより、透明性や耐熱性がさらに向上する。
【0062】
これらの熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.0001~1重量部が好ましく、0.0005~0.5重量部がより好ましく、0.001~0.2重量部が更に好ましい。
<ポリカーボネート樹脂の物性>
ポリカーボネート樹脂の好ましい物性について、以下に示す。
【0063】
(還元粘度)
ポリカーボネート樹脂の重合度(数平均分子量)は、還元粘度で表される。還元粘度が高いほど分子量が大きいことを意味する。機械的強度がより向上する観点から、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、0.30dl/g以上が好ましく、0.35dl/g以上がより好ましく、0.40dl/g以上がさらに好ましい。成形時の流動性が向上し、生産性が向上する観点、成形体の歪みや熱変形を防止する観点から、還元粘度は、0.60dl/g未満が好ましく、0.55dl/g以下がより好ましく、0.52dl/g以下がさらに好ましい。還元粘度は、例えば触媒の種類を変更したり、重合条件を調整することにより制御できる。たとえば、上述の製造条件を調整して分子量が高くなると還元粘度は高くなる傾向があり、分子量が低くなると還元粘度は低くなる傾向がある。還元粘度の測定方法については後述する。
【0064】
(その他の添加剤)
ポリカーボネート樹脂は、前記の添加剤の他、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、滑材、酸化防止剤、衝撃改質剤、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤、充填剤、染顔料(つまり、着色剤)等が挙げられる。
【0065】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物があり、ポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいという観点から、有機化合物が好ましい。紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また、分子量は、通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等が挙げられる。これらのなかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独で用いても、2種以上で用いてもよい。
紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製のアデカスタブ(登録商標)LA-29、アデカスタブ(登録商標)LA-31等が挙げられる。
【0066】
ベンゾトリアゾール系化合物の具体的な例としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’-メチル-5’-ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-メチル-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-メチル-5’-t-ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル-3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0067】
ヒドロキシベンゾフェノン系化合物としては、2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0068】
マロン酸エステル系化合物としては、2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル-2,2’-(1,4-フェニレン-ジメチリデン)-ビスマロネートなどが挙げられる。
【0069】
トリアジン系化合物としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-イソオクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin(登録商標)1577FF)などが挙げられる。
【0070】
シアノアクリレート系化合物としては、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2’-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
シュウ酸アニリド系化合物としては、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(より具体的には、例えばクラリアントジャパン社製SanduvorVSU)等が挙げられる。
【0071】
ベンゾエート系化合物としては、ケミプロ化成社製KEMISORB112、KEMISORB113、KEMISORB114、BASF社製Tinuvin120等が挙げられる。
サリチル酸フェニルエステル系化合物としては、メルク社製EUSOLEX OS等が挙げられる。
【0072】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上が更に好ましい。この場合には、紫外線吸収剤を含有することによる耐候性向上効果がより十分に得られる。また、紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、1重量部以下が更に好ましい。この場合には、紫外線吸収剤のブリードアウトによる外観不良の発生がより十分に抑制される。
【0073】
(光安定剤)
光安定剤としては、光による酸化劣化防止能を有する化合物であれば特に限定されない。ポリカーボネート樹脂に用いられる光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1、-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヘキサノイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-オクタノイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ジフェニルメタン-p,p’-ジカーバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3-ジスルホネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)フェニルホスファイト、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)=1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチルー4-ピペリジル)=1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート等のヒンダードアミン類があげられる。これらの剤は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。光安定剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製のアデカスタブ(登録商標)LA-52、LA-57、LA-63、LA-68、LA-72、LA-77G、LA―81、LA-87、BASF社製TinuvinPA123、TinuvinPA144、Uvinul4050FF等が挙げられる。
【0074】
光安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の耐候性がより向上する。また、光安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して3重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましく、0.5重量部がさらに好ましい。この場合には、射出成型時における金型への付着物の発生を防ぎ、成形体の表面外観がより良好になる。
【0075】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、樹脂に使用される一般的な酸化防止剤が使用できる。
酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.002重量部以上がより好ましく、0.005重量部以上がさらに好ましい。この場合には、酸化防止剤による酸化防止効果がより十分に得られる。また、酸化防止剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、2重量部以下がさらに好ましい。この場合には、成形時の金型を汚染が抑制され、成形体の表面外観がより良好になる。
酸化や熱に対する安定性の観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0076】
(ホスファイト系酸化防止剤)
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。これらの化合物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
(イオウ系酸化防止剤)
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール-3-ステアリルチオプロピオネート、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。これらの化合物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-te
rt-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール等が挙げられる。これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基からなる1つ以上の置換基を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましい。具体的には、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等がより好ましく、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が更に好ましい。これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
(衝撃改質剤)
衝撃改質剤としては衝撃強度を向上させるエラストマー成分であれば特に限定されない。透明性に優れるという観点から、コア・シェル構造を有するエラストマーが好ましい。「コア・シェル構造を有するエラストマー」とは最内層(コア層)とそれを覆う1層以上の外層(シェル層)から構成され、コア層に共重合可能な単量体成分をグラフト共重合させることにより、コア層の周囲にシェル層を形成してなるコア・シェル型グラフト共重合体である。コア・シェル構造を有するエラストマーは、通常、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコア層とし、これと共重合可能な単量体成分をシェル層形成用のモノマーとして用いてグラフト共重合させたコア・シェル型グラフト共重合体であることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標)EXL2602」、「パラロイド(登録商標)EXL2603」、「パラロイド(登録商標)EXL2655」、「パラロイド(登録商標)EXL2311」、「パラロイド(登録商標)EXL2313」、「パラロイド(登録商標)EXL2315」、「パラロイド(登録商標)KM330」、「パラロイド(登録商標)KM336P」、「パラロイド(登録商標)KCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)C-223A」、「メタブレン(登録商標)E-901」、「メタブレン(登録商標)S-2001」、「メタブレン(登録商標)W-450A」「メタブレン(登録商標)SRK-200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標)M-511」、「カネエース(登録商標)M-600」、「カネエース(登録商標)M-400」、「カネエース(登録商標)M-580」、「カネエース(登録商標)M-590」「カネエース(登録商標)M-591」「カネエース(登録商標)MR-01」等が挙げられる。
【0080】
(着色剤)
着色剤としては、有機顔料、有機染料等の有機染顔料、無機顔料が挙げられる。着色剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料、カーボンブラックが挙げられる。
有機染顔料としては、例えば、アゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;アンスラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、メチン系、キノリン系、複素環系、メチル系の染顔料;フタロシアニン系染顔料等が挙げられる。
成形体を屋外等で使用した場合でも着色剤による鮮映性を長期間保持することができるという観点からは、着色剤は無機顔料であることが好ましい。
鮮映性のある原着成形体を得る観点から、着色剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下が好ましく、0.05質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上2質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
(無機充填材)
補強効果を得るために、ポリカーボネート樹脂には、無機充填材を添加することができる。補強効果を十分に得るとともに添加による外観劣化を防止する観点から、無機充填材の添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して1重量部以上100重量部以下であることが好ましく、3重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。
【0082】
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウムの他、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填材、ガラスの粉状充填材、ガラスのフレーク状充填材、炭素の繊維状充填材、炭素の粉状充填材、炭素のフレーク状充填材、各種ウィスカー、ワラストナイト、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、ワラストナイト、マイカ、タルクがよい。
【0083】
[成形体]
<成形方法>
ポリカーボネート樹脂は、例えば、射出成形法(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法等)、押出成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法等の成形法により種々の成形体に加工される。これらの成形法の中でも射出成形が好ましい。成形体は、医療用として用いられる。
【0084】
医療用成形体は、ポリカーボネート樹脂を含有し、例えばポリカーボネート樹脂から構成される成形体である。医療用成形体は、例えばタンパク質含有物を収容することができ、タンパク質含有物との接触面を有するように構成されている。医療用成形体は、その使用時にタンパク質含有物との接触面を有する。医療用成形体に収容されるタンパク質含有物の性状としては、固体(粉体)、液体が挙げられる。成形体のタンパク質吸着抑制効果がより顕著になるという観点から、タンパク質含有物は液体であることが好ましい。
【0085】
<成形体の物性>
成形体は以下の物性を有することが好ましい。
【0086】
(全光線透過率)
医療用途において内容物の視認性が向上するという観点から、成形体の全光線透過率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。全光線透過率の測定方法については後述する。全光線透過率は、エステル交換触媒の種類、使用量、エステル交換反応温度を調整することにより制御される。
【0087】
(タンパク質の吸着性)
薬液のロスが少なく、薬剤の投与が正確に行え、また検査においてもサンプルロスが少なく正確な分析が行えるという観点から、成形体にタンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量は1.1μg/cm以下である。また、医療用成形体としての有用性がより高くなるという観点から、タンパク質吸着量は1.0μg/cm以下であることが好ましく、0.95μg/cm以下であることがさらに好ましい。成形体のタンパク質吸着量は、ポリカーボネート樹脂を構成するポリマー組成を調整することにより制御される。具体的には、前期式(1)で表される構造単位(A)の含有比率を高くすることにより、タンパク質吸着量は低くなる傾向にあり、前期式(1)で表される構造単位(A)の含有比率を低くすることにより、タンパク質吸着量は高くなる傾向にある。タンパク質吸着量の測定方法については後述する。
【0088】
タンパク質吸着量の測定は、免疫グロブリンIgGにて行われることが好ましい。つまり、タンパク質は免疫グロブリンIgGであることが好ましい。免疫グロブリンIgGは、ヒトIgGであることが好ましく、より具体的には、ヒトポリクローナル抗体であることがより好ましい。IgGは、タンパク質の中でも樹脂等に吸着しやすい性質を有するため、IgGを吸着させたときにおけるIgG吸着量が前記のように1.1μg/cm以下である成形体は、多様なタンパク質の吸着性が低いものとなる。そのため、IgG吸着量が1.1μg/cm以下である場合には、成形体は、タンパク質の吸着抑制効果が高く、タンパク質含有物の収容により好適になり、医療用成形体としてさらに好適になる。また、IgGはヒト等の動物の血液、体液、細胞、組織等に広く含まれており、IgG吸着量が1.1μg/cm以下の成形体は、例えば人体から採取される検体の収容に好適になる。タンパク質全般に対する吸着量も低くなるという観点から、成形体はタンパク医薬の収容にも好適になる。同様の観点から、成形体に免疫グロブリンIgGを吸着させたときにおけるIgG吸着量は、1.0μg/cm以下であることがより好ましく、0.9μg/cm以下であることがさらに好ましい。
【0089】
(用途)
成形体は、タンパク質の吸着を抑制することができ、かつ耐衝撃性、耐傷つき性、透明性にも優れていることから、医療用に好適である。医療用成形体の形状は、バイアル、アンプル、管、注射器、又は瓶であることが好ましい。注射器は、具体的には、針を除くシリンジである。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。以下において、ポリカーボネート樹脂の物性、成形体の評価は次の方法により行った。
【0091】
「還元粘度の測定」
ポリカーボネート樹脂の試料を溶媒に溶解させ、精密に濃度1.00g/dLのポリカーボネート樹脂溶液を調製した。溶媒には、フェノールと1,1,2,2,-テトラクロロエタンとが重量比1:1で混合された混合溶媒を用いた。還元粘度の測定は、森友理化工業社製のウベローデ型粘度管を用いて、温度30.0℃±0.1℃で行った。溶媒の通過時間t及び溶液の通過時間tを測定し、t及びtの値から次式(i)により相対粘度ηrelを算出し、さらに、相対粘度ηrelから次式(ii)により比粘度ηspを算出した。なお、式(ii)中のηは溶媒の粘度である。比粘度ηspをポリカーボネート樹脂溶液の濃度c[g/dL]で除することにより、還元粘度η(η=ηsp/c)を算出した。還元粘度が高いほど、分子量が大きいことを意味する。
ηrel=t/t ・・・(i)
ηsp=(η-η)/η=ηrel-1 ・・・(ii)
【0092】
[成形体の評価]
成形体の評価は、以下の試験片を用いて行った。
【0093】
「試験片の作製方法」
ポリカーボネート樹脂のペレットを、窒素雰囲気下、90~100℃で10時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、成形サイクル40秒間の条件で射出成形し、試験片を作製した。試験片としては、幅100mm×長さ100mm×厚さ2mmのシート状試験片、容積2mlのチューブ形状試験片を作製した。
【0094】
「全光線透過率の測定」
JIS K7361に準拠し、日本電色工業社製NDH-7000IIを使用してD65光源にてシート状試験片の全光線透過率を測定した。
【0095】
「衝撃試験」
容積2.0mLのチューブ形状試験片に1.5mlの水を充填した。この試験片の底面を鉛直方向の下に向けた状態で、試験片を1.5mの高さかコンクリート床面に落下させた。落下後の試験片の外観を目視にて確認し、以下の基準により評価した。
〇:割れやヒビなし
×:割れやヒビが発生
なお、後述の比較例3では、容積2.0mLのチューブ形状試験片の代わりに容積5.0mLのバイアル瓶(ニプロ社製のバイアレックス(登録商標))を使用して衝撃試験を行った。
【0096】
「耐傷つき性」
耐傷つき性の評価は、新東科学社製の摩擦摩耗試験HEIDON Type-30を使用して行った。摩耗子(曲率R10、幅20mm)に3回折り畳んだガーゼを取り付けた。摩耗子に取り付けたガーゼ面をシート状試験片に押し当て、4.9Nの荷重をかけながら水平方向に100往復摺動させた(摺動試験)。その後、シート状試験片の表面を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
〇:傷が認識できない、または目立ちにくい
×:傷が目立つ
なお、後述の比較例3では、シート状試験片の代わりに容積5.0mLのバイアル瓶(ニプロ社製のバイアレックス(登録商標))を使用して耐傷つき性の評価を行った。
【0097】
「タンパク質(IgG)吸着性の評価」
1.0g/L Humanポリクロナール抗体を20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)に溶解させた後、0.22μmフィルターを用いてろ過した。このようにしてIgG溶液(つまり、タンパク質溶液)を調製した。次に、容積2.0mLのチューブ形状試験片に1.0mlのIgG溶液を注入し、4℃で24時間静置することにより、試験片にタンパク質を吸着させた(吸着試験)。その後、タンパク質溶液をピペットにて吸引除去し、チューブ形状試験片の内部を20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)1.1mlにて3回洗浄した。緩衝液での洗浄後、チューブ形状試験片内に5%ドデシル硫酸ナトリウム溶液1.1mlを入れた状態で室温にて15分間超音波洗浄を行った。超音波洗浄後の試験片に吸着しているタンパク質を採取し、micro-BCA法にてタンパク質量(つまり、吸着量)を測定した。
なお、後述の比較例3では、容積2.0mLのチューブ形状試験片の代わりに容積5.0mLのバイアル瓶(ニプロ社製のバイアレックス(登録商標))を使用してタンパク質吸着量の測定を行った。
【0098】
以下の実施例の記載の中で用いた略号は次の通りである。
(ポリカーボネート樹脂)
A-1:イソソルビド/1,4-シクロヘキサンジメタノール=70/30mol%共重合ポリカーボネート(具体的には、三菱化学社製デュラビオ(登録商標)D7340R)、還元粘度:0.420dL/g
A-2:イソソルビド/1,4-シクロヘキサンジメタノール=50/50mol%共重合ポリカーボネート(三菱化学社製:デュラビオ(登録商標)D5380R)、還元粘度:0.615dL/g
A-3:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製:ノバレックス(登録商標)7022J)
B-1:ニプロ社製のバイアレックス(登録商標)(バイアレックスの材質;日本電気硝子社製 硼珪酸ガラス)
C-1:紫外線吸収剤(ADEKA社製 アデカスタブ(登録商標)LA-29)
C-2:紫外線吸収剤(ADEKA社製 アデカスタブ(登録商標)LA-31)
D-1:ヒンダードアミン系光安定剤(ADEKA社製 アデカスタブ(登録商標)LA-77G)
D-2:ヒンダードアミン系光安定剤(ADEKA社製アデカスタブ(登録商標)LA-52)
【0099】
[実施例1]
下記表1に示した組成となるようにポリカーボネート樹脂(A-1)、紫外線吸収剤(C-1)、光安定剤(D-1)を混合し、1つのベント口を有する日本製鋼所社製の2軸押出機TEX-33を用いて、出口の樹脂温度が250℃になるようにストランド状に押し出した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。押し出された樹脂を水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。得られたポリカーボネート樹脂のペレットを用いて上述の各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0100】
[比較例1]
配合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様である。その結果を表1に示す。
【0101】
[比較例2]
配合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様である。その結果を表1に示す。
【0102】
[比較例3]
表1に示すようにポリカーボネート樹脂のかわりにガラス(B-1)を使用した以外は、実施例1と同様である。比較例1では、全光線透過率の測定は省略した。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例1のポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含んでおり、成形体にタンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量が1.1μg/cm以下である。表1より理解されるように、実施例1のポリカーボネート樹脂を含有する成形体は、タンパク質の吸着を十分に抑制することができるとともに、衝撃強度、耐傷つき性、及び透明性に優れていた。したがって、実施例1のポリカーボネート樹脂を含有する成形体は医療用として好適である。また、実施例1のポリカーボネート樹脂は、イソソルビド由来の構造単位を有し、植物由来原料から構成されている。
【0105】
一方、比較例1は、タンパク質吸着量が高く、タンパク質の吸着抑制効果が不十分であった。比較例2は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が用いられており、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含んでいない。そのため、比較例2の成形体は、耐傷つき性が不十分であり、透明性も不十分であった。比較例3は、ガラスを用いた例であり、タンパク質吸着量が高く、タンパク質の吸着抑制効果が不十分であった。また、比較例3は、耐衝撃性も不十分であった。
【0106】
以上の結果から、ポリカーボネート樹脂を含有する医療用成形体であって、ポリカーボネート樹脂が、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(A)と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/または脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(B)とを含み、タンパク質を吸着させたときのタンパク質吸着量が1.1μg/cm以下である医療用成形体によれば、植物由来原料から構成されており、タンパク質の吸着を抑制することができるとともに、衝撃強度、耐傷つき性、透明性に優れた医療用成形体を提供できることが理解される。