(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145069
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スラグの評価装置及びスラグの評価方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C22B15/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057312
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優子
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001DA03
4K001GA04
4K001GB12
(57)【要約】
【課題】自熔炉に設けられた反応塔内で生成するスラグの性状を精度良く評価できるスラグの評価装置を提供する。
【解決手段】本発明のスラグの評価装置は、反応塔の頂部から供給された製錬原料がセトラーに向かって落下しながら反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるスラグを評価するスラグの評価装置であって、塔内の領域において、銅精鉱及び珪砂、又はマット及びスラグを含む液滴の反応により生成する反応後粒子の質量を計算する領域内計算部を備え、領域内計算部は、銅精鉱及び珪砂、又はマット及びスラグを含む液滴の反応に寄与する反応量を算出する反応量計算部と、反応量を用いて平衡反応計算を行う平衡反応計算部と、平衡反応計算で得られた反応後生成物から生成ガスを除く生成ガス分離部と、生成ガス分離部で得られる固体又は液体物質と、反応量計算部で算出した未反応分を合算する混合量計算部とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグのうち前記スラグの組成及び性状を評価するスラグの評価装置であって、
前記反応塔内の領域において、銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応により生成する反応後粒子の質量を計算する領域内計算部を備え、
前記領域内計算部は、
銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応に寄与する反応量を算出する反応量計算部と、
前記反応量計算部で算出された前記反応量を用いて平衡反応計算を行う平衡反応計算部と、
前記平衡反応計算で得られた反応後生成物から生成ガスを除く生成ガス分離部と、
前記生成ガス分離部で得られる固体又は液体物質と、前記反応量計算部で算出した未反応分を合算する混合量計算部と、
を有するスラグの評価装置。
【請求項2】
前記反応塔内を前記反応塔の高さ方向に沿って複数の領域に分割する領域分割部と、
分割された複数の前記領域を計算領域として設定する設定部と、
を備え、
前記領域内計算部が、前記反応塔の前記頂部側から前記セトラー側に向かってそれぞれの前記計算領域毎に行われる請求項1に記載のスラグの評価装置。
【請求項3】
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグのうち前記スラグの組成及び性状を評価するスラグの評価方法であって、
前記反応塔内の領域において、銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応により生成する反応後粒子の質量を計算する領域内計算工程を含み、
前記領域内計算工程は、
銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応に寄与する反応量を算出する反応量計算工程と、
前記反応量計算工程で算出された前記反応量を用いて平衡反応計算を行う平衡反応計算工程と、
前記平衡反応計算で得られた反応後生成物から生成ガスを除く生成ガス分離工程と、
前記生成ガス分離工程で得られる固体又は液体物質と、前記反応量計算工程で算出した未反応分を合算する混合量計算工程と、
を有するスラグの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグの評価装置及びスラグの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化銅精鉱(銅精鉱)は、粉状の固体硫化物等であり、製錬炉の一つである自熔製錬炉(以下、自熔炉)に製錬原料として供給されることで、主にマット及びスラグの2種類の溶体を生成して分離される。
【0003】
自熔炉では、銅精鉱と、珪砂と、重油等の補助燃料が、反応塔(反応シャフト)の頂部に設けられた精鉱バーナーより別途配送される酸素富化空気等の反応用気体と共に反応シャフト内に吹き込まれる。反応シャフト内では、銅精鉱が反応シャフト内で反応用気体と反応して2種類の溶体(マット及びスラグ)を生成し、マット及びスラグは液滴の状態で反応シャフト内を落下してセトラーで回収される。セトラー内では、マット及びスラグがこれらの比重差によって層状に分離してマット層及びスラグ層がセトラーの底部側からこの順に形成される。
【0004】
セトラーでのスラグ中に含まれるマットの残存量を低減し、十分なマットを回収するためには、形成されるスラグの流動性を高くして、マットとスラグの比重分離を良好にすることが必要である。
【0005】
セトラー内におけるスラグの流動性を評価する方法として、例えば、スラグの化学成分と温度とに基づいて熱力学平衡計算を行ってスラグ中の液相の比率を算出することで、スラグの流動性の評価に活用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、熱力学平衡計算を行う際に反応シャフト内に吹き込まれる反応用気体を含めていない。スラグの組成及び性状は、反応シャフト内のガス雰囲気によって変化し易い。そのため、特許文献1の方法では、反応シャフト内で生成するスラグの組成及び性状を正確に把握できないため、スラグの流動性を詳細に評価できないという問題があった。
【0008】
本発明の一態様は、自熔炉に設けられた反応塔内で生成するスラグの性状を精度良く評価できるスラグの評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るスラグの評価装置の一態様は、
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグのうち前記スラグの組成及び性状を評価するスラグの評価装置であって、
前記反応塔内の領域において、銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応により生成する反応後粒子の質量を計算する領域内計算部を備え、
前記領域内計算部は、
銅精鉱及び珪砂、又は前記マット及び前記スラグを含む液滴の反応に寄与する反応量を算出する反応量計算部と、
前記反応量計算部で算出された前記反応量を用いて平衡反応計算を行う平衡反応計算部と、
前記平衡反応計算で得られた反応後生成物から生成ガスを除く生成ガス分離部と、
前記生成ガス分離部で得られる固体又は液体物質と、前記反応量計算部で算出した未反応分を合算する混合量計算部と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスラグの評価装置の一態様は、自熔炉に設けられた反応塔内で生成するスラグの性状を精度良く評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るスラグの評価装置が適用される自熔炉の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスラグの評価装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】反応シャフト内の領域を分割する状態を示す説明図である。
【
図4】領域内計算部の機能を示すブロック図である。
【
図5】スラグの評価装置のハードウェア構成図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るスラグの評価方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0013】
本発明の実施形態に係るスラグの評価装置について説明するに当たり、本実施形態に係るスラグの評価装置が適用される自熔製錬炉(自熔炉)の構成について説明する。
【0014】
<自熔炉>
図1は、本実施形態に係るスラグの評価装置が適用される自熔炉の概略構成を示す図である。
図1に示すように、自熔炉1は、反応塔(反応シャフト)10、セトラー20、排煙道30を備える。自熔炉1は、反応シャフト10内で反応シャフト10内に供給される製錬原料SPである銅精鉱(銅品位20%~30%)からスラグとマット(銅品位60%~65%)の2種類の溶体を生成し、セトラー20において、スラグとマットとを層状に分離して、銅品位が高いマットを回収する。
【0015】
なお、製錬原料とは、抽出される目的金属を含む有価鉱物、無用鉱物(脈石)等をいい、銅精鉱、珪砂等が挙げられる。本実施形態では、製錬原料が銅精鉱及び珪砂を含む場合について説明する。
【0016】
銅精鉱とは、粒径が例えば1μm~300μmの銅の鉱石であり、銅と鉄と硫黄を含む粉状の固体硫化物(Cu-Fe-S)である。珪砂とは、SiO2を主成分とする鉱物である。
【0017】
マットは、硫化銅(Cu2S)及び硫化鉄(FeS)を主成分として含む混合物であり、Cu成分を多く含む溶体である。スラグは、酸化鉄の珪酸塩(2FeO・SiO2)を主成分として含み、Fe成分を多く含む溶体である。
【0018】
反応シャフト10は、頂部が有底筒状に形成され、内部が中空な構造体である。反応シャフト10は、頂部10aに精鉱バーナー11を備える。なお、精鉱バーナー11の数は1つ以上であればよい。
【0019】
反応シャフト10では、その内部の平均温度は、例えば、1300℃程度に設定される。反応シャフト10は、銅精鉱が反応シャフト10内を落下しながら燃焼して溶解及び酸化が進行することで、2種類の溶体(マット及びスラグ)と亜硫酸ガスを生成する。
【0020】
セトラー20は、反応シャフト10の下方に設けられ、セトラー20の一端側(
図1中、左側)で反応シャフト10の下部に接続されている。セトラー20は、その内部に反応シャフト10で生成されるマット及びスラグを回収する。セトラー20内でマット及びスラグはマット及びスラグの比重差により層状に分離されており、セトラー20内では、マット層とスラグ層がセトラー20の底部側からこの順に形成される。セトラー20は、その側面に、スラグの抜き口である1つ以上のスラグホール21と、マットの抜き口である1つ以上のマットホール22を有する。
【0021】
排煙道30は、筒状に形成され、一端がセトラー20の他端側(
図1中、右側)の頂部に接続され、他端がボイラー31に接続され、反応シャフト10内で発生する高温の亜硫酸ガスをボイラー31に供給する。
【0022】
電気錬かん炉40は、セトラー20からスラグホール21を介して排出されるスラグを回収し、スラグ中に含まれる微量のマットを分離して回収する。
【0023】
自熔炉1では、銅精鉱が、珪砂と、重油等の補助燃料と、別途配送される酸素富化空気等の反応用気体と共に、精鉱バーナー11より反応シャフト10の頂部10aから反応シャフト10内に吹き込まれる。反応シャフト10内に吹き込まれた銅精鉱は、燃料の燃焼熱、反応用気体の顕熱及び反応シャフト10の炉壁内の輻射熱等によって昇温し、製練原料中の硫黄分が瞬時に反応用気体と反応して燃焼する。製練原料中の硫黄分が燃焼することで生じる燃焼熱等によって、製練原料中の銅精鉱の粒子(精鉱粒子)の溶解及び酸化が進行することで、主に、下記式(1)及び(2)に示す反応により、2種類の溶体(マット(Cu2S-FeS)及びスラグ(FeO-SiO2))と亜硫酸ガスが生成する。
CuFeS2+O2→Cu2S-FeS+FeO+SO2・・・(1)
FeO+SiO2→FeO-SiO2 ・・・(2)
【0024】
反応シャフト10内で生成されるマット及びスラグは、セトラー20に液滴の状態で落下してセトラー20内に回収される。このとき、マット及びスラグからなる液滴(マット及びスラグ液滴)は、反応シャフト10内で衝突を繰り返し、これらの粒子径を大きくしながら落下する。セトラー20内では、マット及びスラグはこれらの比重差によって層状に分離して、マット層及びスラグ層がセトラー20の底部にこの順に形成される。
【0025】
セトラー20内のマットは、搬送先である不図示の転炉からの要求に応じて、マットホール22から適量抜き出され、セトラー20内のスラグは、スラグホール21から適宜排出される。スラグホール21より排出したスラグは、電気錬かん炉40に導入され、電極41の通電による伝熱によって加熱維持される。自熔炉スラグ層中の一部のマットはセトラー20の底部に沈殿せずにスラグと共に排出され、電気錬かん炉40での滞留時間中にさらに炉底に沈殿して、電気錬かん炉40内においてもマット層とスラグ層が形成される。電気錬かん炉40内のマットは回収され、わずかに銅分を含んだスラグのみが抜き口42から炉外に排出される。
【0026】
このようにして、自熔炉1では、銅精鉱が、スラグとマットに分けられ、回収されるマット中の銅成分を60~65%とする。
【0027】
また、反応シャフト10内で発生する高温の亜硫酸ガスは、セトラー20及び排煙道30を通って排出され、ボイラー31で冷却される。
【0028】
<スラグの評価装置>
次に、本実施形態に係るスラグの評価装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るスラグの評価装置の機能を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係るスラグの評価装置100は、入力部110、領域分割部120、設定部130、領域内計算部140、判定部150、移行部160及び出力部170を備える。スラグの評価装置100は、反応シャフト10の頂部から供給された製錬原料がセトラー20に向かって落下しながら反応シャフト10内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグのうちスラグの組成及び性状を評価する。
【0029】
本願発明者は、セトラー20からマットを回収するに当たり、スラグの流動性を高めるためには、反応シャフト10内のマット及びスラグの他に、反応シャフト10内に存在するガス相も考慮して、これらの平衡状態を判断することが重要であることに着目した。そこで、本願発明者は、マット、スラグ及びガス相の平衡状態を基にして熱力学平衡反応計算を行うことで、反応シャフト10内で生成するスラグの組成及び質量を詳細に算出できるため、スラグの性状を精度良く評価できることを見出した。
【0030】
入力部110は、入力条件として、反応シャフト10内に供給される銅精鉱及び珪砂からなる粒子(銅精鉱及び珪砂含有粒子)の質量m0及び組成と、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtと、反応シャフト10内に供給される反応性気体のガス組成Ω及び流量等を入力する。
【0031】
なお、入力部110は、反応シャフト10内に供給される銅精鉱及び珪砂含有粒子を、銅精鉱及び珪砂が均一に混合した粒子の状態で存在すると仮定して、これらの供給量の総和を銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量m0とする。
【0032】
銅精鉱の組成は、例えば、Cu、Fe、S、CaO、MgO、SiO2、Al2O3等の銅精鉱の品位であり、化学分析及び蛍光X線分析等によって求められる。
【0033】
珪砂の組成は、例えば、SiO2等であり、化学分析及び蛍光X線分析等によって求められる。
【0034】
銅精鉱及び珪砂の供給量は、自熔炉1に供給する銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量流量である。銅精鉱及び珪砂含有粒子の供給量は、反応シャフト10に銅精鉱及び珪砂含有粒子を供給する不図示の供給手段に設けられる不図示の流量計等から把握できる。
【0035】
銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量m0は、自熔炉1に供給する銅精鉱及び珪砂含有粒子の供給量の総和である。
【0036】
粒子温度Tは、反応シャフト10内に設けられた不図示の点検口から差し込まれた温度計等で実測した値を用いてもよいし、熱流体シミュレーションにより得られる値を用いてもよい。
【0037】
反応シャフト10内の銅精鉱及び珪砂含有粒子の滞留時間Δtは、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子速度と、後述する反応シャフト10の分割される各領域の高さ方向における長さから算出される値である。
【0038】
ガス組成Ωは、反応シャフト10内に存在するガスの組成であり、酸素等の反応用気体に含まれるガス成分の種類である。ガス組成Ωは、予め、後述する反応シャフト10の分割される各領域内のガス組成を設定してもよいし、後述する生成ガス分離部143において除かれるガス成分を反映させて設定してもよい。
【0039】
領域分割部120は、反応シャフト10内を、反応シャフト10の高さ方向に沿って、反応シャフト10内の頂部からセトラー20側に向かって複数の領域に分割する。領域分割部120は、銅精鉱及び珪砂含有粒子、又はマット及びスラグ液滴の落下距離等に基づいて、反応シャフト10内をN個(Nは、2以上の整数)の領域に分割してよい。
【0040】
反応シャフト10内の複数の領域は、
図3に示すように、銅精鉱及び珪砂含有粒子、並びにマット及びスラグ液滴の落下方向に沿うように、反応シャフト10内の頂部から反応シャフト10の高さ方向に沿って、セトラー20内のスラグ層の上面まで、順に、1番目の領域・・・N番目の領域とする。
【0041】
なお、反応シャフト10内を複数の領域に分割する必要がない時は、領域分割部120は、反応シャフト10内を複数の領域に分割しなくてもよい。
【0042】
設定部130は、分割された複数の領域を計算領域として設定する。設定部130は、それぞれの計算領域内での、粒子温度T、滞留時間Δt及びガス組成Ωを設定する。即ち、設定部130は、
図3に示すように、入力部110により入力された、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtと、反応性気体のガス組成Ωとを、分割されたN個(Nは、整数である。)の計算領域毎に、それぞれの計算領域内での、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T
N及び滞留時間Δt
Nと、反応性気体のガス組成Ω
Nを設定する。
【0043】
銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtは、1番目の計算領域(第1計算領域)では、粒子温度T1、滞留時間Δt1、ガス組成Ω1と設定され、N番目の計算領域(第N計算領域)では、粒子温度TN、滞留時間ΔtN、ガス組成ΩNと設定される。
【0044】
粒子温度TN、滞留時間ΔtN、ガス組成ΩNの値は、それぞれの計算領域において、適宜に任意の位置における値を用いてもよい。粒子温度TN、滞留時間ΔtN、ガス組成ΩNの値は、例えば、それぞれの計算領域における反応シャフト10の高さ方向の中間位置の値を用いてよい。また、粒子温度TN、滞留時間ΔtN、ガス組成ΩNの値は、それぞれの計算領域における最大値、最小値又は平均値のいずれを用いてもよい。
【0045】
計算領域は、
図3に示すように、矩形状を有する解析領域としてよいし、中空円筒状を有する解析領域としてよい。計算領域の大きさは、特に限定されず、反応シャフト10の大きさ、銅精鉱及び珪砂含有粒子、並びにマット及びスラグ液滴の種類、落下速度等に応じて適宜任意の大きさとしてよい。計算領域の大きさは、後述する平衡反応計算を十分な解像度で行うために、昇温・反応による変化が大きい箇所では十分小さな計算領域とすることが好ましい。例えば、計算領域の大きさは、反応が急激に進行する箇所等は、1辺が数mm(例えば、1mm)の矩形としてよい。
【0046】
領域内計算部140は、反応シャフト10内のそれぞれの領域において、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応により生成する反応後粒子の質量を計算する。
【0047】
図4は、領域内計算部140の機能を示すブロック図である。
図4に示すように、領域内計算部140は、反応量計算部141、平衡反応計算部142、生成ガス分離部143及び混合量計算部144を有する。反応量計算部141は、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応に寄与する反応量を算出することで、生成物の質量を計算してよい。
【0048】
反応量計算部141は、上記の入力条件のうち、銅精鉱及び珪砂の組成と、マット及びスラグ液滴に含まれるマット及びスラグの量とから、第1計算領域・・・第n計算領域の各計算領域における、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応に寄与する反応量を算出する。なお、反応量計算部141は、銅精鉱及び珪砂含有粒子、又はマット及びスラグ液滴の反応に寄与する反応量を算出してもよい。
【0049】
反応量は、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応速度を計算することで、算出できる。具体的には、第1計算領域における反応量Δm1は、反応速度パラメータである頻度因子A0及び活性化エネルギーEaと、第1計算領域A1の粒子温度T1及び滞留時間Δt1とを用いて、以下の式(I)より、算出できる。なお、Rは気体定数8.314J/(mol・K)である。第n計算領域における反応量Δmnも、反応量Δm1と同様に計算できる。
【0050】
【0051】
また、反応量計算部141は、各計算領域における、銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量の総和から、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応に寄与する反応分の反応量を除した値を未反応分の反応量として算出する。
【0052】
第1計算領域A1では、反応量計算部141は、銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量の総和m0から、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応に寄与する反応分の質量Δm1を除した値(m0-Δm1)を未反応分の質量として算出する。
【0053】
平衡反応計算部142は、反応量計算部141で算出された反応量Δm1を用いて平衡反応計算を行う。
【0054】
平衡反応計算部142は、反応量計算部141で算出した反応量Δm1と組成を入力値として、平衡反応計算を行う。なお、以下、平衡反応計算により、得られる、マット、スラグ、固体酸化物及びガス等を含む反応生成物の質量m1'が求められる。
【0055】
生成ガス分離部143は、平衡反応計算で得られた反応生成物からガス成分である生成ガスを除する。生成ガス分離部143は、平衡反応計算部142において得られた反応生成物の質量m1'からガス成分である生成ガスの質量m1gを除去することで、固体又は液体物質(以下、反応後液滴と称す)の質量m1''を求める。
【0056】
混合量計算部144は、生成ガス分離部143で得られる反応後液滴の質量と、反応量計算部141で算出した未反応分の質量を合算することで、計算領域反応後粒子の質量を算出する。
【0057】
第1計算領域A1では、混合量計算部144は、生成ガス分離部143で得られる反応後液滴の質量m1''と、反応量計算部141で算出した未反応分の質量(m0-Δm1)とを合算することで、第1計算領域反応後粒子の質量m1(=m1''+(m0-Δm1))が算出される。この算出された第1計算領域反応後粒子の質量m1は、次の第2計算領域A2に用いられる。
【0058】
図2に示すように、判定部150は、領域内計算部140において計算される次の領域があるか否かを判定する。
【0059】
移行部160は、領域内計算部140において計算される次の領域に移行する。
【0060】
出力部170は、領域内計算部140で出力された、反応シャフト10内の最後の領域において計算された、銅精鉱及び珪砂と、マット及びスラグを含む液滴との反応により生成する生成物の質量に関する情報を表示等より出力する。
【0061】
出力部170としては、例えば、モニタ等を用いる。
【0062】
(スラグの評価装置のハードウェア構成)
次に、スラグの評価装置のハードウェア構成の一例について説明する。
図5は、スラグの評価装置のハードウェア構成図である。
図5に示すように、スラグの評価装置100は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)101と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102及びROM(Read Only Memory)103と、補助記憶装置104と、入出力インタフェース105と、出力装置106等を含むコンピュータシステムとして構成できる。これらは、バス107で相互に接続されている。なお、補助記憶装置104及び出力装置106は、外部に設けられていてもよい。
【0063】
CPU101は、スラグの評価装置100の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU101は、ROM103又は補助記憶装置104に格納された、例えば後述するスラグの評価プログラムを実行して、スラグを評価する。
【0064】
RAM102は、CPU101のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0065】
ROM103は、基本入出力プログラム等を記憶する。スラグの評価プログラムはROM103に保存されてもよい。
【0066】
補助記憶装置104は、SSD(Solid State Drive)、及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、例えば、粒径分布計算プログラムやスラグの評価装置100の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0067】
入出力インタフェース105は、キーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル、表示画面等の入力デバイスと、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとの双方を含む。
【0068】
出力装置106は、モニタディスプレイ等の表示装置、スピーカー、プリンタ等の印刷装置等である。出力装置106では、例えば、モニタディスプレイ等の表示装置に測定収録画面と解析画面等の情報が表示され、入出力インタフェース105を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0069】
スラグの評価装置100の各機能は、RAM102やROM103等の主記憶装置又は補助記憶装置104に所定のコンピュータソフトウェア(スラグの評価プログラムを含む)等を読み込ませ、CPU101により実行することで、RAM102等の主記憶装置又は及び補助記憶装置104等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うと共に、入出力インタフェース105及び出力装置106を動作させることで実現される。
【0070】
よって、
図5に示す、スラグの評価装置100の各部は、スラグの評価装置100を備えたコンピュータにおいて、プロセッサが予め記憶されている所定のコンピュータソフトウェア(スラグの評価プログラムを含む)を実行することで、ソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0071】
スラグの評価プログラムは、例えばコンピュータが備える主記憶装置又は補助記憶装置104内に格納させておくことができる。また、スラグの評価プログラムは、インターネット等の通信回線に接続されたコンピュータ上に格納し、スラグの評価プログラムの一部又は全部を通信回線を介してダウンロードさせることで提供してもよい。さらに、スラグの評価プログラムは、通信回線を介して提供又は配布するように構成してもよい。
【0072】
スラグの評価プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM及びDVD-ROM等の光ディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ等、持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)してもよい。
【0073】
<スラグの評価方法>
次に、本実施形態に係るスラグの評価方法について説明する。本実施形態に係るスラグの評価方法は、上述の本実施形態に係るスラグの評価装置を用いて行うことができる。
【0074】
本実施形態に係るスラグの評価方法は、
図1に示すような構成を有する自熔炉1において、反応シャフト10の頂部10aに設けた精鉱バーナー11から供給された銅精鉱がセトラー20に向かって落下しながら反応シャフト10内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグのうちスラグの組成及び性状を評価する。
【0075】
図6は、本実施形態に係るスラグの評価方法を説明するフローチャートである。
図6に示すように、スラグの評価装置100は、入力部110により、入力条件として、反応シャフト10内に製錬原料として供給される銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量m
0及び組成と、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtと、反応シャフト10内に供給される反応性気体のガス組成Ω及び流量等を入力する(入力工程:ステップS11)。
【0076】
なお、銅精鉱及び珪砂含有粒子は、銅精鉱及び珪砂が均一に混合した粒子の状態で存在すると仮定して、これらの供給量の総和を銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量m0とする。
【0077】
次に、スラグの評価装置100は、領域分割部120により、反応シャフト10内を、反応シャフト10内の頂部からセトラー20側に向かって複数の領域に分割する(領域分割工程:ステップS12)。
【0078】
スラグの評価装置100は、領域分割部120により、銅精鉱及び珪砂含有粒子、又はマット及びスラグ液滴の落下距離等に基づいて、反応シャフト10内をN個(Nは、2以上の整数)の領域に分割してよい。
【0079】
なお、上記の反応シャフト10内を複数の領域に分割する必要がない時は、領域分割工程(ステップS12)は行わず、反応シャフト10内を複数の領域に分割しなくてもよい。
【0080】
次に、スラグの評価装置100は、設定部130により、分割された複数の領域を計算領域として設定する(設定工程:ステップS13)。
【0081】
スラグの評価装置100は、設定部130により、入力工程(ステップS11)により入力された、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtと、反応性気体のガス組成Ωとを、
図3に示すように、分割されたn個(nは整数)の計算領域毎に、それぞれの計算領域(第1計算領域A1・・・第N計算領域AN)内での、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T
1・・・T
N及び滞留時間Δt
1・・・Δt
Nと、反応性気体のガス組成Ω
1・・・Ω
Nを設定する。
【0082】
粒子温度T
N、滞留時間Δt
N、ガス組成Ω
Nの値は、
図3に示すように、それぞれの計算領域における反応シャフト10の高さ方向の中間位置の値を用いてよい。なお、粒子温度T
N、滞留時間Δt
N、ガス組成Ω
Nの値は、それぞれの計算領域において、適宜に任意の位置における値を用いてもよく、粒子温度T
N、滞留時間Δt
N、ガス組成Ω
Nの値は、それぞれの計算領域における最大値、最小値又は平均値のいずれを用いてもよい。
【0083】
次に、スラグの評価装置100は、領域内計算部140により、反応シャフト10内の第1計算領域A1において、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応により生成する反応後粒子の質量を計算する(領域内計算工程:ステップS14)。
【0084】
領域内計算工程(ステップS14)の詳細を説明する。
図7は、領域内計算工程(ステップS14)のフローチャートである。
図7に示すように、スラグの評価装置100は、反応量計算部141により、上記の入力工程(ステップS11)における入力条件のうち、銅精鉱及び珪砂の組成と、マット及びスラグ液滴に含まれるマット及びスラグの量とから、第1計算領域A1における、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応速度を算出する。そして、スラグの評価装置100は、反応量計算部141により、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応に寄与する反応量Δm
1を算出する(反応量の計算工程:ステップS141)。
【0085】
第1計算領域A1における反応量Δm1は、反応速度パラメータである頻度因子A0及び活性化エネルギーEaと、第1計算領域A1の粒子温度T1及び滞留時間Δt1とを用いて、以下の式(I)より、算出する。
【0086】
【0087】
また、スラグの評価装置100は、反応量計算部141により、第1計算領域A1における、銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量の総和m0から、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応に寄与する反応分の質量Δm1を除した値(m0-Δm1)を未反応分の質量として算出する。
【0088】
次に、スラグの評価装置100は、平衡反応計算部142により、反応量の計算工程(ステップS141)で算出された反応量Δm1を用いて平衡反応計算を行う(平衡反応の計算工程:ステップS142)。
【0089】
即ち、平衡反応の計算工程(ステップS142)では、スラグの評価装置100は、平衡反応計算部142により、反応量の計算工程(ステップS141)で算出した反応量Δm1と組成を入力値として、平衡反応計算を行う。
【0090】
平衡反応計算により、得られる、マット、スラグ、固体酸化物及びガス等を含む反応生成物の質量m1'が求められる。
【0091】
次に、スラグの評価装置100は、生成ガス分離部143により、平衡反応の計算工程(ステップS142)で得られた反応生成物からガス成分である生成ガスを除して、反応後液滴の質量m''を求める(生成ガス分離工程:ステップS143)。
【0092】
即ち、スラグの評価装置100は、生成ガス分離部143により、平衡反応計算部142において得られた反応生成物の質量m1'からガス成分である生成ガスの質量m1gを除去することで、固体又は液体物質(反応後液滴)の質量m1''を求める。
【0093】
次に、スラグの評価装置100は、混合量計算部144により、第1計算領域A1において、生成ガス分離工程(ステップS143)で得られる反応後液滴の質量m1''と、反応量の計算工程(ステップS141)で算出した未反応分の質量(m0-Δm1)とを合算することで、第1計算領域反応後粒子の質量m1(m1''+(m0-Δm1))を算出する(混合量の計算工程:ステップS144)。
【0094】
第1計算領域反応後粒子の質量m1は、次の第2計算領域A2において、第2計算領域A2に流入する銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量の総和の入力情報として用いる。
【0095】
次に、
図6に示すように、スラグの評価装置100は、判定部150により、領域内計算部140において計算される次の領域がないかを判定する(判定工程:ステップS15)。
【0096】
次に計算される領域がある場合(ステップS15:No)には、移行部160により、計算領域は、次の領域に移行する(移行工程:ステップS16)。
【0097】
本実施形態では、領域内計算部140により、第1計算領域A1において第1計算領域反応後粒子の質量m1を算出しているため、次に計算される領域である第2計算領域A2がある(ステップS15:No)。そのため、スラグの評価装置100は、移行部160により、計算領域は、第1計算領域A1から次に計算される領域である第2計算領域A2に移行する。
【0098】
スラグの評価装置100は、領域内計算部140により、設定部130により設定された、第2計算領域A2における、銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T2及び滞留時間Δt2と、ガス組成Ω2とに基づいて、反応シャフト10内の第2計算領域A2において、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応により生成する反応後粒子の質量を計算する。
【0099】
スラグの評価装置100は、反応量計算部141により、第1計算領域A1において用いた、銅精鉱及び珪砂含有粒子の質量の総和m0を、第1計算領域A1において算出された第1計算領域反応後粒子の質量m1(=m1''+(m0-Δm1))に置き換えて、領域内計算工程(ステップS14)を行う。これにより、第2計算領域反応後粒子の質量m2が算出される。
【0100】
第(N-1)計算領域A(N-1)まで次に計算される領域があるため、スラグの評価装置100は、移行部160により、計算される領域が第(N-1)計算領域A(N-1)になるまで、次に計算される領域に移行して、領域内計算工程(ステップS15)を行い、第12計算領域反応後粒子の質量m2~第(N-1)計算領域反応後粒子の質量m(N-1)を算出する。
【0101】
一方、判定工程(ステップS15)において、次の領域がない場合(ステップS15:Yes)、即ち、第N計算領域まで領域内計算工程(ステップS14)を行い、第N計算領域反応後粒子の質量mNを算出した場合には、スラグの評価装置100は、反応量計算部141により、第N計算領域における第N計算領域反応後粒子の質量mNを、反応シャフト10内において、反応シャフト10の出口での反応後粒子の質量とする。
【0102】
この反応シャフト10の出口での反応後粒子の質量は、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との反応により生成する反応後粒子の質量と見なせる。
【0103】
次に、スラグの評価装置100は、出力部170により、反応シャフト10の出口での反応後粒子の質量mNに関する情報を表示等より出力する(出力工程:ステップS19)。
【0104】
出力方法としては、モニタ等への表示等が挙げられる。
【0105】
本実施形態に係るスラグの評価方法は、スラグの評価装置100を用いることで、反応シャフト10内からセトラー20に排出されるスラグの組成及び質量を詳細に評価できる。
【0106】
このように、本実施形態に係るスラグの評価装置100は、領域内計算部140を備え、領域内計算部140は、反応量計算部141、平衡反応計算部142、生成ガス分離部143及び混合量計算部144を有する。スラグの評価装置100は、反応量計算部141で、反応シャフト10内を落下する、銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応速度からそれぞれの反応量を求め、平衡反応計算部142で、算出した反応量と、反応シャフト10内における銅精鉱及び珪砂含有粒子の粒子温度T及び滞留時間Δtと、ガス組成Ωとを用いて熱力学平衡計算することにより反応生成物の質量を算出する。スラグの評価装置100は、生成ガス分離部143で、反応生成物の質量から生成ガスの質量を除した反応後液滴の質量を算出し、混合量計算部144で、反応後液滴の質量と、反応量計算部141で算出した未反応分とを合わせて、計算領域反応後粒子を算出する。
【0107】
これにより、スラグの評価装置100は、反応シャフト10内を落下する銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴との温度履歴と、反応シャフト10内のガス組成を反映した、ガス相、マット相及びスラグ相のそれぞれの相関(ガス相-マット相-スラグ相間)での熱力学平衡計算を行うことができる。スラグの評価装置100は、熱力学平衡計算を行う際に、反応シャフト10内のマット相及びスラグ相の組成だけでなく、ガス相も考慮することで、反応シャフト10内のマット相及びスラグ相の周囲ガス雰囲気によりマット相及びスラグ相の変化も考慮して計算できる。よって、スラグの評価装置100は、反応シャフト10内で生成するスラグの組成及び質量を詳細に算出できるため、反応シャフト10内で生成するスラグの性状を詳細に評価できる。
【0108】
スラグの評価装置100は、反応シャフト10内で生成するスラグの組成及び質量を詳細に評価することで、セトラー20内のスラグの流動性を適切に評価できるため、マットの沈降性を精度良く評価できる。
【0109】
スラグの流動性は、銅精鉱及び珪砂等の製錬原料SPに含まれる成分の組成等により変動するため、低融点かつ低粘性のスラグが生成されるように、製錬原料SP等、反応シャフト10内に供給される供給物の組成等を予め設計することは重要である。本実施形態では、スラグの評価装置100は、反応シャフト10内で生成するスラグの質量だけでなく、組成も詳細に評価できるため、低融点かつ低粘性のスラグを生成して、マットの沈降性を高めてマットの回収量を高めるように、自熔炉1を稼働させることができる。
【0110】
スラグの評価装置100は、領域分割部120及び設定部130を備えることができる。これにより、スラグの評価装置100は、反応シャフト10内を複数の領域に分割して、マット及びスラグ液滴の落下の軌跡を複数に分割できる。そして、スラグの評価装置100は、分割した各領域における粒子滞留時間ΔtNと粒子温度TNとガス組成ΩNとから、反応シャフト10内を落下する銅精鉱及び珪砂含有粒子と、マット及びスラグ液滴の反応量を求めることができる。スラグの評価装置100は、それぞれの計算領域毎に、粒子滞留時間ΔtNと粒子温度TNとガス組成ΩNとを用いることで、ガス相-マット相-スラグ相間での平衡状態を考慮した平衡反応計算を行うことができる。スラグの評価装置100は、反応シャフト10内のガス相-マット相-スラグ相間での平衡状態を考慮した平衡反応計算を分割した全ての領域に対して逐次的に行うことで、反応シャフト10内で生成するスラグの質量を算出精度を向上できる。よって、スラグの評価装置100は、セトラー20への到達時のスラグの性状をより詳細に算出できるため、セトラー20内のスラグの流動性をより高精度に評価できる。
【0111】
スラグの評価装置100は、上記の通り、反応シャフト10内で生成するスラグの性状をより詳細に評価できるため、自熔炉1の設備改善の事前検討、自熔炉1の操業条件、自熔炉に供給される製錬原料の種類の変更による影響の調査等に有効に用いることができる。
【0112】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0113】
1 自熔炉
10 反応塔(反応シャフト)
11 精鉱バーナー
20 セトラー
30 排煙道
40 電気錬かん炉
100 スラグの評価装置
110 入力部
120 領域分割部
130 設定部
140 領域内計算部
150 判定部
160 移行部
141 反応量計算部
142 平衡反応計算部
143 生成ガス分離部
144 混合量計算部
170 出力部