(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145217
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】樹脂構造体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057475
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩剛
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 崇
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA14
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE07
4F071AH12
4F071AH19
4F071BC03
4F071BC07
4F071BC08
4F071BC17
(57)【要約】
【課題】
少なくとも一方の面に溝部を有する樹脂構造体において、反りの発生を抑制し、かつ、剛性に優れた樹脂構造体を提供すること。
【解決手段】
第1の面と第1の面の反対側の第2の面を有する平板構造を備えた樹脂構造体であって、前記平板構造の第1の面と第2の面のいずれにも溝部を有し、前記第1の面の溝部の表面積の合計(S1)と前記第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下であり、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)と前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下である、樹脂構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と第1の面の反対側の第2の面を有する平板構造を備えた樹脂構造体であって、
前記平板構造の第1の面と第2の面のいずれにも溝部を有し、
前記第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下であり、
前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下である、樹脂構造体。
【請求項2】
前記第1の面は、前記平板構造の最短辺の長さの90%以上の長さの溝部を少なくとも1つ有し、
前記第2の面は、前記平板構造の最短辺の長さの90%以上の長さの溝部を有さない、請求項1に記載の樹脂構造体。
【請求項3】
前記第1の面は、曲線部と直線部を備えた溝部を有する、請求項1又は2に記載の樹脂構造体。
【請求項4】
前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み、
該樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含む、請求項1又は2に記載の樹脂構造体。
【請求項5】
前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み
該樹脂組成物が、繊維状物質を含む、請求項1又は2に記載の樹脂構造体。
【請求項6】
前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み、
該樹脂組成物が、イントメッセント系難燃剤を含む、請求項1又は2に記載の樹脂構造体。
【請求項7】
前記イントメッセント系難燃剤が、メラミン構造またはピベラジン構造を有する化合物を含む、請求項6に記載の樹脂構造体。
【請求項8】
前記樹脂構造体が、無機繊維からなるマットが前記樹脂組成物で含浸されたものである、請求項4に記載の樹脂構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面側に複数の凹部が形成された板状のプラスチックプレートが開示されている。このようなプラスチックプレートは、表面側と裏面側で形状が異なるため反りが生じる。特許文献1には、裏面側に肉盗み部を形成し、前記複数の凹部の合計容積と前記肉盗み部の容積とがほぼ同じ容積になるようにすることで、反りの発生を抑制し得るとある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1に開示された方法では、樹脂構造体の裏面側の肉盗み部の容積分だけ体積が減少するために、樹脂構造体の剛性が損なわれるという問題があることが見いだされた。これは、樹脂構造体に所定の機械的強度が要求される場合には、特に問題となる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、少なくとも一方の面に溝部を有する樹脂構造体において、反りの発生を抑制し、かつ、剛性に優れた樹脂構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、表側の面と裏側の面の両面に溝部を有する樹脂構造体において、樹脂構造体の表側の面の溝部の表面積と裏側の面の溝部の表面積との比と、表側の面の溝部の容積と裏側の面の溝部の容積との比を、それぞれ所定の範囲内とすることで、上記の課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]第1の面と第1の面の反対側の第2の面を有する平板構造を備えた樹脂構造体であって、前記平板構造の第1の面と第2の面のいずれにも溝部を有し、前記第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下であり、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下である、樹脂構造体。
[2]前記第1の面は、前記平板構造の最短辺の長さの90%以上の長さの溝部を少なくとも1つ有し、前記第2の面は、前記平板構造の最短辺の長さの90%以上の長さの溝部を有さない、上記[1]に記載の樹脂構造体。
[3]前記第1の面は、曲線部と直線部を備えた溝部を有する、上記[1]又は[2]に記載の樹脂構造体。
[4]前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み、該樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂構造体。
[5]前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み、該樹脂組成物が、繊維状物質を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂構造体。
[6]前記樹脂構造体が、樹脂組成物を含み、該樹脂組成物が、イントメッセント系難燃剤を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂構造体。
[7]前記イントメッセント系難燃剤が、メラミン構造またはピベラジン構造を有する化合物を含む、上記[6]に記載の樹脂構造体。
[8]前記樹脂構造体が、無機繊維からなるマットが前記樹脂組成物で含浸されたものである、上記[4]~[7]のいずれかに記載の樹脂構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反りの発生を抑制し、かつ、剛性に優れた樹脂構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る樹脂構造体の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る樹脂構造体の一例における溝部周辺の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る樹脂構造体の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、計算例1-1及び計算例1-2に係る樹脂構造体の一例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、計算例2-1及び計算例2-2に係る樹脂構造体の一例を示す斜視図である。
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。
【0011】
[樹脂構造体]
本発明の樹脂構造体は、第1の面と第1の面の反対側の第2の面を有する平板構造を備えており、前記平板構造の第1の面と第2の面のいずれにも溝部を有し、前記第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下であり、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下であることを特徴とする。
【0012】
以下、適宜図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る樹脂構造体10の一例を示すものである。また、
図2は、本発明の実施の形態に係る樹脂構造体10の一例における溝部周辺の拡大断面図である。
樹脂構造体10は、第1の面110と、第1の面110の反対側の第2の面120とを有する平板構造100を備える。平板構造100は、第1の面110と第2の面120のいずれにも、溝部(第1の面110における溝部111と、第2の面120における溝部121)を有する。
【0013】
樹脂構造体10は、前記第1の面110の溝部111の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面120の溝部121の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下である。溝部の表面積の合計の比(S2/S1)が前記範囲内であると、樹脂構造体の反りの発生を抑制できる。この理由として、本発明者らは以下のように考えている。
すなわち、樹脂構造体の表側の面と裏側の面の表面積が異なる場合、表側の面と裏側の面とで成形時の樹脂の冷却速度に差が生じ、これが収縮量の差となって反りが発生すると考えられる。このため、樹脂構造体の表側の面の溝部の表面積の合計と裏側の面の溝部の表面積の合計の比を所定の範囲とすることで樹脂構造体の反りの発生が抑制される。
なお、ここで溝部の表面積とは、溝の底部と側部を合わせた表面積をいう。
前記第1の面110の溝部111の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面120の溝部121の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)は、前述と同様の観点から、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上がよりさらに好ましい。また、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下がよりさらに好ましい。
【0014】
樹脂構造体10は、前記第1の面110の溝部111の容積の合計(V1)に対する前記第2の面120の溝部121の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下である。溝部の容積の合計の比(V2/V1)が前記範囲内であると、樹脂構造体の剛性の低下を抑制できる。
前述した通り、本発明者らは樹脂構造体の反りの発生の要因の1つとして、樹脂構造体の表側の面と裏側の面の表面積が異なることで表側の面と裏側の面とで成形時の樹脂の冷却速度に差が生じるためと考察している。このことから、本発明者らは、例えば樹脂構造体の表側の面と裏側の面にまったく同じ溝部を形成すれば、両者の表面積は等しくなり、反りの発生を抑制し得ると考えた。しかし、更に検討を進めたところ、樹脂構造体の表側の面と裏側の面の両面に同じ溝部を形成すると、溝部の容積の分だけ樹脂構造体の体積が減少し、これによって樹脂構造体全体の剛性が損なわれることが見いだされた。また、樹脂構造体の剛性は、反りの大きさに影響する要因でもある。したがって、反りの発生を抑制し、かつ、剛性が損なわれない樹脂構造体とするためには、樹脂構造体の表側の面と裏側の面の表面積の比だけでなく、同時に容積の比にも着目することが重要である。
後述するように、本発明者らの検討の結果、前記第1の面110の溝部111の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面120の溝部121の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が前述の所定の範囲内である場合において、前記第1の面110の溝部111の容積の合計(V1)に対する前記第2の面120の溝部121の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下であると、反りの発生の抑制と剛性の低下の抑制の両方を達成しうることを確認している。
前記第1の面110の溝部111の容積の合計(V1)に対する前記第2の面120の溝部121の容積の合計(V2)の比(V2/V1)は、前述と同様の観点から、0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。また、0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。
【0015】
本発明の樹脂構造体10について、以下更に詳述する。
【0016】
樹脂構造体10は、平板構造100を備える。樹脂構造体10は、少なくとも一部分に平板構造100を備えていればよく、樹脂構造体10の全体が平板構造100である必要はない。例えば、
図3に示されるように、1つの平板構造を底部とする箱型状であってもよい。
図3(a)は第1の面側から見た斜視像であり、
図3(b)は第2の面側から見た斜視像である。また、複数の平板構造を立体的に組み合わせた箱型状であってもよい。一方、
図1に示されるように、樹脂構造体10の全体が平板構造100であってもよい。この場合、樹脂構造体10の形状は平板状になる。
平板構造100は、第1の面110と第1の面の反対側の第2の面120を有する。第1の面110と第2の面120の面積は、通常ほぼ等しい。また、第1の面110と第2の面120は、ほぼ平行に配置されていることが好ましい。「平板構造」とは、第1の面110と第2の面120以外の面の面積が、第1の面110又は第2の面120の面積よりも小さい構造であり、例えば第1の面110と第2の面120以外の面の面積は、第1の面110又は第2の面120の面積の50%以下、または40%以下、または30%以下でありうる。
平板構造100の形状は特に限定されず、正方形、長方形、台形、楕円形、円形などでありうる。
【0017】
前記平板構造100の厚みは、特に限定はないが、成形加工が容易であるという観点から、0.1cm以上が好ましく、0.2cm以上がより好ましく、0.3cm以上がさらに好ましく、1cm以下が好ましく、0.9cm以下がより好ましく、0.8cm以下がさらに好ましい。
【0018】
前記第1の面110又は前記第2の面120の面積は、特に限定はないが、成形加工が容易であるという観点から、100cm2以上が好ましく、400cm2以上がより好ましく、900cm2以上がさらに好ましく、9m2以下が好ましく、6m2以下がより好ましく、4m2以下がさらに好ましい。
【0019】
前記平板構造100は、前記第1の面110と前記第2の面120のいずれにも溝部を有する。
溝部の幅は、特に限定はないが、成形加工が容易であるという観点から、0.3cm以上が好ましく、0.5cm以上がより好ましく、1cm以上がさらに好ましく、10cm以下が好ましく、7cm以下がより好ましく、5cm以下がさらに好ましい。
【0020】
前記溝部の形状は、特に限定はなく、直線状、環状などでありうるが、実用上の観点から曲線部と直線部を備えた溝部を有することが好ましい。
【0021】
樹脂構造体10において、溝部の深さは、平板構造100の厚みの1/2未満であることが好ましい。仮に溝部の深さが平板構造100の厚みの1/2以上である場合、第1の面110の溝部111と第2の面120の溝部121は、表と裏で溝部同士が重なるように配置することはできないが、溝部の深さが平板構造100の厚みの1/2未満であるとは、このように表裏で溝部同士が自由に重なるように配置することができることを意味する。
【0022】
前記平板構造100は、前記第1の面110が、前記平板構造の最短辺の長さLの90%以上の長さの溝部を少なくとも1つ有し、前記第2の面120が、前記平板構造の最短辺の長さの90%以上の長さの溝部を有さないものであることが好ましい。「平板構造の最短辺の長さL」とは、平板構造100の形状において、外周の辺のうち最も長さが短いものをいう。平板構造100が楕円形または円形である場合には、短直径または直径を平板構造の最短辺の長さLとする。
前記第1の面110は、平板構造の最短辺の長さLの100%以上の長さの溝部を有することがより好ましく、溝部の長さは、平板構造の最短辺の長さLの120%以上、150%以上、200%以上でありうる。
前記第2の面120は、前記平板構造の最短辺の長さLの80%以上の長さの溝部を有さないことがより好ましく、前記平板構造の最短辺の長さLの70%以上の長さの溝部を有さないことがさらに好ましい。
【0023】
本発明の樹脂構造体10は、前記平板構造100の前記第1の面110と第2の面120とが、両面とも同一の形状パターンの溝部を有し、前記第2の面120における溝部は、前記第1の面の溝部の形状パターンに対して、さらに複数の衝立部が形成されたものであることが好ましい。前記衝立部を備えることで、衝立部の容積分だけ、前記第2の面の溝部の容積の合計が小さくなり、樹脂構造体10の剛性が損なわれることがなくなる。前記衝立部を形成する場合、衝立部を形成した後の前記第2の面の溝部の表面積の合計は、前記第1の面の溝部の表面積の合計と一致しなくなる場合があるが、衝立部の長さを調整することで、前記第2の面の溝部の表面積の合計(S2)と前記第1の面の溝部の表面積の合計(S1)の比率を、前述した所定の範囲内に調整することができる。
【0024】
本発明の樹脂構造体10は、樹脂組成物を含むことができる。
【0025】
[樹脂組成物]
本発明に係る組成物は熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂(a)と記載する。)を含むことが好ましい。
【0026】
<熱可塑性樹脂(a)>
熱可塑性樹脂(a)としては、特段の制限はなく、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド等が挙げられる。これらのうち、本発明においては、ポリオレフィン樹脂が好ましい。なお、これらは1種を使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。例えば熱可塑性樹脂(a)が、上記のうち2種以上の熱可塑性樹脂の複合樹脂であってもよい。
【0027】
ポリオレフィン樹脂としては、特段の制限はなく、後述の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ナイロン66、ナイロン6が挙げられる。
なかでも、本発明は特に、熱可塑性樹脂(a)として少なくともポリオレフィン樹脂を含む場合に特に有用である。なお、本発明において「ポリオレフィン樹脂」とは、樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合が90mol%以上である樹脂を意味する。
ポリオレフィン樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合は、95mol%以上が好ましく、98mol%以上が特に好ましい。
【0028】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のα-オレフィン重合体;エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体;ポリシクロヘキセン、ポリシクロペンテン等のシクロオレフィン重合体等が挙げられる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記オレフィン樹脂のうち、特にポリプロピレン系樹脂(以下「PP樹脂」と記載することがある。)が好ましい。
【0029】
(メルトフローレート(MFR))
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(a)のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、40~500g/10分であることが好ましい。MFRが40g/10分以上であると、樹脂構造体を成形した際に欠損が生じず、加工性が低下することがない。また、500g/10分以下であると、樹脂構造体の製造において、バリを生じることがない。以上の観点から、MFRは、好ましくは50~400g/10分、より好ましくは60~400g/10分、より好ましくは70~300g/10分である。
熱可塑性樹脂(a)は、例えば、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFRを調整することができる。
なお、MFRは、JIS K7210に準拠して測定した値である。
【0030】
(熱可塑性樹脂(a)の含有量)
本発明の樹脂構造体における熱可塑性樹脂(a)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、15~80質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が15質量%以上であると成形加工性が特に良好となり、樹脂構造体の成形が容易となる。一方、80質量%以下であると、後述する難燃剤、分散剤としての機能を有するα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体及び無機繊維を十分な量含有でき、良好な遮炎性を得ることができる。以上の観点から、樹脂構造体における熱可塑性樹脂の含有量は35~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0031】
<ポリプロピレン系樹脂(a-1)>
本発明の樹脂構造体に用いられる熱可塑性樹脂(a)として、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、又はプロピレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここでプロピレン-α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0032】
(ポリプロピレン系樹脂(a-1)の含有量)
本発明の樹脂構造体におけるポリプロピレン系樹脂(a-1)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、15~80質量%である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が15質量%以上であると成形加工性が十分となり、樹脂構造体の成形が容易となる。一方、80質量%以下であると、難燃剤、分散剤及び無機繊維の含有量が十分となり、十分な遮炎性が得られる。以上の観点から、樹脂構造体におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は35~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらにより好ましい。
【0033】
<イントメッセント系難燃剤(b1)>
本発明に係る樹脂組成物は、イントメッセント系難燃剤(b1)を含有することが好ましい。
イントメッセント系難燃剤とは、燃焼源からの輻射熱や、燃焼物から外部へ燃焼ガスや煙などの拡散を防ぐ表面膨張層(Intumescent)を形成することにより、材料の燃焼を抑制させる難燃剤である。
イントメッセント系難燃剤の中でも、リン系難燃剤が好ましく、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩が挙げられる。具体的には、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン等の、(ポリ)リン酸のアンモニウム塩やアミン塩が挙げられる。
これらのうち、メラミン構造またはピペラジン構造を有する化合物を含むことが特に好ましい。
また、窒素化合物としては、アンモニア、メラミン、ピペラジン、その他の窒素化合物等が挙げられ、他の窒素化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレ-ト、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。
【0034】
(イントメッセント系難燃剤(b1)の含有量)
本発明の樹脂構造体におけるイントメッセント系難燃剤(b1)の含有量は特に限定されないが、樹脂組成物中の含有量として、好ましくは1~30質量%の範囲である。1質量%以上であると、樹脂構造体に良好な難燃性を付与でき、良好な遮炎性が得られる。一方、難燃剤が30質量%以下であると、熱可塑性樹脂を十分な含有比で含むことができるので、成形加工性がより良好となる。以上の観点から、樹脂組成物中の難燃剤の含有量は1~25質量%の範囲がより好ましく、3~20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物は、金属酸化物を含むことが好ましい。金属酸化物は難燃助剤としての役割を有する。具体的には、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどが挙げられ、これらのうち、効果の高い酸化亜鉛が特に好ましい。
金属酸化物の含有量としては、上記イントメッセント系難燃剤(b1)を含む難燃剤100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.5~10質量部の範囲であることがより好ましく、1~5質量部の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲であると、難燃助剤としての効果を十分に発揮することができる。
【0036】
<α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体>
本発明に係る樹脂組成物はα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体を含むことが好ましい。
該共重合体を用いることで、イントメッセント系難燃剤(b1)を含む難燃剤の分散性を向上させることができ、イントメッセント系難燃剤等の含有量を低減させることができる。
【0037】
本発明に係る「α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体」(以下、「共重合体(c1)」と記載する。)における、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位は、その合計100mol%のうちα-オレフィン単位の割合が20mol%以上80mol%以下であることが好ましい。
共重合体(c1)において、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計量に対するα-オレフィン単位の割合は、30mol%以上であることがより好ましく、一方、70mol%以下であることがより好ましい。α-オレフィンの割合が前記下限値以上であれば、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂(a)との相溶性がより優れたものとなり、前記上限値以下であれば、イントメッセント系難燃剤(b1)との相溶性がより優れたものとなる。
【0038】
共重合体(c1)において、α-オレフィンとしては、炭素原子数5以上80以下のα-オレフィンが好ましい。α-オレフィンの炭素原子数が5以上であれば、(a)熱可塑性樹脂との相溶性がより良好となる傾向があり、80以下であれば、原料コストの点で有利である。以上の観点から、α-オレフィンの炭素原子数は、10以上80以下であることがより好ましく、12以上70以下であることがさらにより好ましく、18以上60以下であることが特に好ましい。
【0039】
また、共重合体(c1)において、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、グルタコン酸、ノルボルナン-5-エン-2,3-ジカルボン酸、及びこれらの不飽和カルボン酸のエステル、無水物、イミド等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を示すものである。
不飽和カルボン酸のエステル、無水物又はイミドの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物;マレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中では、共重合反応性の点から、エステルやジカルボン酸無水物が好ましい。中でも、難燃剤として好適なリン系難燃剤との相溶性の点から、ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0040】
共重合体(c1)の重量平均分子量は、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、一方、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。共重合体(c1)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、イントメッセント系難燃剤(b1)の分散性がより優れたものとなる。
なお、共重合体(c1)の重量平均分子量は、共重合体(c1)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0041】
共重合体(c1)の市販品としては、リコルブCE2(クラリアントジャパン(株)製)、ダイヤカルナ30M(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0042】
本樹脂構造体のイントメッセント系難燃剤(b1)を含む難燃剤100質量部に対する(c1)共重合体の含有量は、0を超え、25質量部以下の範囲であり、好適には0.01~10質量部の範囲である。
(c1)共重合体の含有量が0超であると、イントメッセント系難燃剤(b1)の分散性が十分となり、樹脂構造体に十分な遮炎性を付与することができる。一方、25質量部以下であると樹脂構造体の物性が十分となる。同様の観点から、(c1)共重合体の含有量は、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、2質量部以上が特に好ましい。一方、上限値については、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がさらにより好ましく、5質量部以下がさらに好ましく、3質量部以下が特に好ましい。
【0043】
また、以下に詳述する無機繊維に対しては、無機繊維100質量部に対する(c1)共重合体の割合が、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。(c1)共重合体の割合が前記下限値以上であれば、得られる樹脂構造体の遮炎性や物性、得られる成形体の外観がより良好となる。(c1)共重合体の割合が前記上限値以下であれば、(c1)共重合体による樹脂構造体の遮炎性への影響をより抑制できる。
【0044】
<繊維状物質>
本発明に係る樹脂組成物は、繊維状物質を含有することが好ましい。繊維状物質としては、種々の繊維を用いることができ、好適な繊維状物質としては、無機繊維が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等の金属酸化物繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、セラミックファイバー等のセラミック繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記無機繊維のうち、遮炎性、加工性の観点から、ガラス繊維及びアルミナ繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
無機繊維の平均繊維径としては、3~25μmであることが好ましい。また、平均繊維長としては、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。
なお、平均繊維径及び平均繊維長については、無機繊維を構成する無機材料の種類によって、好適範囲が異なるため、具体的な好適範囲については、後述する。
また、繊維径は走査型電子顕微鏡などを用いて測定することができ、平均繊維径は、例えばランダムに10本の繊維の繊維径を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。また、繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
なお、平均繊維径及び平均繊維長については、無機繊維を構成する無機材料の種類によって、好適範囲が異なるため、具体的な好適範囲については、後述する。
【0046】
本発明の樹脂組成物における無機繊維の含有量は、1~80質量%であることが好ましい。無機繊維の含有量が1質量%未満であると、樹脂構造体の強度、剛性、及び耐衝撃性が低下する場合があり、80質量%を超えると、樹脂構造体の製造や加工が著しく困難になるおそれがある。また、無機繊維の含有量が80質量%を超えると樹脂構造体の比重が重くなるため、金属代替としての軽量化効果が小さくなり、好ましくない。
以上の観点から、本発明の樹脂組成物における無機繊維の含有量は3~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましく、30~45質量%であることが特に好ましい。
【0047】
(ガラス繊維)
本発明の樹脂組成物に好適な無機繊維の一つとして、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、平均繊維長が30mm以上の長い繊維であってもよいし、平均繊維長が短い繊維(チョップドストランド)であってもよいが、遮炎性、剛性、耐衝撃性等の観点から、平均繊維長が長いガラス繊維を用いることが好ましい。
より具体的には、平均繊維長としては、5mm以上であることが好ましい。平均繊維長が5mm以上であると、樹脂構造体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維長は5mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが最大繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなるが、樹脂構造体の大きさに合わせて、カットした場合は、カットした長さが最大繊維長となる。
【0048】
また、ガラス繊維の平均繊維径は、9~25μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径が9μm以上であると、樹脂構造体の剛性及び耐衝撃性が十分となり、一方、平均繊維径が25μm以下であると、樹脂構造体の強度が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、10~15μmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維径及び平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0049】
本発明に用いられるガラス繊維の材質については、特別な制限はなく、無アルカリガラス、低アルカリガラス、含アルカリガラスのいずれでもよく、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
【0050】
(炭素繊維)
本発明の樹脂組成物に好適な無機繊維の一つとして、炭素繊維が挙げられる。炭素繊維もガラス繊維と好適な範囲は同等である。
【0051】
<任意添加成分>
本発明の樹脂組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、発明の効果を一層向上させるなど、他の効果を付与する等の目的のため、任意の添加成分を配合することができる。
具体的には、顔料などの着色剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、非イオン系界面活性剤などの帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物やリグノフェノールなどの難燃剤・難燃助剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、前記ポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーなどのエラストマー(ゴム成分)等を挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよい。
【0052】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0053】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物等の樹脂組成物及び該樹脂組成物により形成される樹脂構造体の帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0054】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る樹脂組成物は、上述のように、(a)熱可塑性樹脂、必要に応じて加えられる変性ポリオレフィン系樹脂、イントメッセント系難燃剤(b1)を含む難燃剤、必要に応じて加えられる(c1)共重合体を含有するものである。また、さらに任意添加成分が配合されていてもよい。前記の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(a)がポリプロピレン系樹脂(a-1)である場合には、特にポリプロピレン系樹脂組成物(以下「PP組成物」と記載することがある。)と呼称する場合がある。
樹脂組成物、又はPP組成物の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、上記成分を配合して混合、溶融混練することにより製造することができる。
混合は、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー等の混合器を用いて行われ、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の機器を用い、溶融混練され、造粒される。
【0055】
<樹脂構造体の製造方法>
本発明の樹脂構造体は、その製造方法は特に限定されないが、好適には、繊維状物質からなるマット(以下「繊維マット」と記載することがある。)に上記樹脂組成物又はPP組成物を含浸させて製造することが好ましい。含浸の方法としては、繊維マットに樹脂組成物又はPP組成物を塗布する方法、樹脂組成物又はPP組成物のシート(以下「樹脂シート」又は「PPシート」と記載することがある。)を作製しておき、該樹脂シート又はPPシートを繊維マットに積層し、加熱、溶融させて含浸させる方法等がある。
本発明では、樹脂構造体の樹脂の繊維への含浸性の観点から、樹脂シート又はPPシートを繊維マットに積層し、加熱、溶融させる方法が好ましい。特に、繊維マットが2つの樹脂シート又はPPシートの間になるように積層し、その後、該積層体を加熱及び加圧し、ついで冷却固化することで得ることができる。
ここで樹脂シート又はPPシートの厚みとしては、繊維マットへの含浸が良好に行える範囲であれば特に制限はない。
【0056】
(繊維マット)
樹脂構造体の製造方法において用いられる繊維の形態としては、特に制限はなく、様々な形態のものを使用することができるが、マット状ないしはシート状に形成しているものが好ましい。
より具体的には、無機繊維マットであることが好ましく、具体的にはガラス繊維により形成されるマット(以下、「ガラス繊維マット」と記載する。)、アルミナ繊維に代表される金属酸化物繊維により形成されるマット(以下、「金属酸化物マット」と記載する。)がより好ましい。
【0057】
当該繊維マットの坪量(単位面積当りの質量)は、特段の制限はなく、用途に応じて適宜決定されるが、好ましくは300g/m2以上、より好ましくは800g/m2超、より好ましくは1500g/m2超である。また、当該繊維マットの坪量は、特段の制限はないが、好ましくは5000g/m2以下、より好ましくは4500g/m2以下、さらに好ましくは4000g/m2以下、特に好ましくは3500g/m2以下である。
【0058】
繊維マットの単位面積当りの坪量(目付)は、該繊維マットを構成する繊維集積体を折り畳み装置にて積層する際、単位面積当りの繊維量を調整することによって、上記の範囲とすることができる。また、本発明の繊維マットは、複数の繊維マットを接着した構成であっても、単一の構成であってもよいが、ハンドリング性や接着界面における剥離強度の点から、単一の構成であることが好ましい。
【0059】
(ガラス繊維マット)
本発明に用いられるガラス繊維マットの形態としては、短繊維ガラス綿で加工したフェルト及びブランケット、連続ガラス繊維を加工したチョップドストランドマット、連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マット、一方向引き揃えマットなどが挙げられる。これらの中でも、特に連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マットをニードルパンチしたガラス繊維マットを使用すると、樹脂構造体の強度、および、耐衝撃性が優れており、好ましい。
【0060】
樹脂シート又はPPシートを繊維マットに積層し、加熱、溶融させる方法において、加熱温度は170~300℃であることが好ましい。加熱温度が170℃以上であると、ポリプロピレン系樹脂の流動性が十分であり、繊維マットにPP組成物を十分に含浸させることができ、好適な樹脂構造体が得られる。一方、加熱温度が300℃以下であると、樹脂組成物又はPP組成物が劣化することがない。
さらに、加圧圧力としては0.1~1MPaであることが好ましい。加圧圧力が0.1MPa以上であると、繊維マットに樹脂組成物又はPP組成物を十分に含浸させることができ、好適な樹脂構造体が得られる。一方、1MPa以下とすることで、樹脂組成物又はPP組成物が流動し、バリが生じることがない。
また、冷却時の温度としては、樹脂組成物又はPP組成物中の熱可塑性樹脂の凝固点以下であれば、特に制限されないが、冷却温度が80℃以下であると、得られた樹脂構造体を取り出す際に変形することがない。以上の観点から、冷却温度は、室温~80℃であることが好ましい。
【0061】
上記の積層体を加熱及び加圧、冷却して、樹脂構造体を得る方法としては、加熱装置の付いた金型内で積層体をプレス成形する方法、および、積層体を加熱装置の付いた2対のローラーの間を通して加熱と加圧を行うラミネート加工などがあり、特に、ラミネート加工は、連続生産が行えるため、生産性が良く、好ましい。
【0062】
(用途)
本発明の樹脂構造体の用途としては、例えば、DNAを増幅させるポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)の反応器としても使用されることがあるプラスチックプレートや、家電機器の筐体等が挙げられる。
【0063】
(樹脂構造体の反り変形量)
以下の方法に基づいて、所定の形状を有する樹脂構造体の反り変形量を計算して推定した。
市販の成形解析ソフトを使用し、コンピュータシミュレーションにより反り変形量の計算を行った。また、コンピュータシミュレーションにおいて、対象となる形状の3Dデータ、及び下記成形条件を使用した。
成形条件は圧縮速度78mm/sec、圧縮時間60sec、型締力200ton、金型温度25℃として計算した。
【0064】
(計算例1-1)
図4で示すように、第1の面に直線状の形状パターンの複数の溝部を有し、第1の面の反対側の第2の面に、第1の面と同一の直線状の形状パターンに対して、さらに複数の衝立部を周期的に形成した溝部を有する平板状の樹脂構造体について、反り変形量を計算した。
図4(a)は第1の面側から見た斜視像であり、
図4(b)は第2の面側から見た斜視像である。計算に用いた条件は以下の通りである。
樹脂の物性は、密度1202kg/m
3、比熱1395J/(kg・℃)、熱伝導率0.27W/(m・℃)を使用した。成形体の寸法については、樹脂構造体は100mm角、厚みを3mm、第1の面の溝部および第2の面の溝部の幅を10mm、深さを1mmとした。
平板状の樹脂構造体について、第2の面の溝部に形成した衝立部の長さ及び個数を変更することで、第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する、第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を変化させ、それぞれの場合について反り変形量を計算した。また、参考例として、第1の面にのみ直線状の形状パターンの複数の溝部を有し、第2の面には溝部を有しないように変更した樹脂構造体、及び第1の面と第2の面の両面とも直線状の形状パターンの複数の溝部を形成し、第2の面の溝部に衝立部を形成しないように変更した樹脂構造体についても同様にして反り変形量を計算した。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1から、前記第1の面の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下の場合には、反り変形量が小さく、良好であることがわかる。
【0067】
(計算例1-2)
計算例1-1と同様に、第1の面に直線状の形状パターンの複数の溝部を有し、第1の面の反対側の第2の面に、第1の面と同一の直線状の形状パターンに対して、さらに複数の衝立部を周期的に形成した溝部を有する平板状の樹脂構造体について、反り変形量を計算した。計算に用いた条件は以下の通りである。樹脂の物性は、密度1202kg/m3、比熱1395J/(kg・℃)、熱伝導率0.27W/(m・℃)を使用した。成形体の寸法については、樹脂構造体は100mm角、厚みを3mm、第1の面の溝部および第2の面の溝部の幅を10mm、深さを1mm、とした。
ただし、計算例1-1の場合とは異なり、平板状の樹脂構造体について、第1の面の溝部の表面積の合計(S1)と、第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を1に固定しつつ、第2の面の溝部に形成した衝立部の長さ及び個数を変更することで、第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する、第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)を変化させ、それぞれの場合について反り変形量を計算した。結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
表1から、前記第1の面の表面積の合計(S1)と前記第2の面の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を1に固定した場合において、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)と前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下であると、反り変形量の増加が抑制されていることがわかる。また、溝部の容積が低減されており、剛性の低下も抑制されている。
【0070】
(計算例2-1)
図5で示すように、第1の面に真円状パターンの溝部を有し、第1の面の反対側の第2の面に、第1の面と同一の真円状の形状パターンに対して、さらに複数の衝立部を周期的に形成した溝部を有する平板状の樹脂構造体について、反り変形量を計算した。
図5(a)は第1の面側から見た斜視像であり、
図5(b)は第2の面側から見た斜視像である。計算に用いた条件は以下の通りである。
樹脂の物性は、密度1202kg/m
3、比熱1395J/(kg・℃)、熱伝導率0.27W/(m・℃)を使用した。成形体の寸法については、樹脂構造体10は100mm角、厚みを3mm、第1の面の溝部および第2の面の溝部は直径60mm、幅を5mm、深さを1mm、とした。
平板状の樹脂構造体について、第2の面の溝部に形成した衝立部の長さ及び個数を変更することで、第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する、第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を変化させ、それぞれの場合について反り変形量を計算した。また、参考例として、第1の面にのみ真円の形状パターンの溝部を有し、第2の面には溝部を有しないように変更した樹脂構造体、及び第1の面と第2の面の両面とも真円状の形状パターンの溝部を形成し、第2の面の溝部に衝立部を形成しないように変更した樹脂構造体についても同様にして反り変形量を計算した。結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
表3から、前記第1の面の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下の場合には、反り変形量が良好であることがわかる。
【0073】
(計算例2-2)
計算例2-1と同様に、第1の面に真円状の形状パターンの溝部を有し、第1の面の反対側の第2の面に、第1の面と同一の真円状の形状パターンに対して、さらに複数の衝立部を周期的に形成した溝部を有する平板状の樹脂構造体について、反り変形量を計算した。計算に用いた条件は以下の通りである。樹脂の物性は、密度1202kg/m3、比熱1395J/(kg・℃)、熱伝導率0.27W/(m・℃)を使用した。成形体の寸法については、樹脂構造体10は100mm角、厚みを3mm、第1の面の溝部および第2の面の溝部は直径60mm、幅を5mm、深さを1mm、とした。
ただし、計算例2-1の場合とは異なり、平板状の樹脂構造体について、第1の面の溝部の表面積の合計(S1)に対する、第2の面の溝部の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を1に固定しつつ、第2の面の溝部に形成した衝立部の長さ及び個数を変更することで、第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する、第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)を変化させ、それぞれの場合について反り変形量を計算した。結果を表4に示す。
【0074】
【0075】
表4から、前記第1の面の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)を1に固定した場合において、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下であると、反り変形量の増加が抑制されていることがわかる。また、溝部の容積が低減されており、剛性の低下も抑制されている。
【0076】
(考察)
前記計算例1-1及び計算例1-2では直線状の形状パターンの溝部を有する樹脂構造体について、前記計算例2-1及び計算例2-2では真円状の形状パターンの溝部を有する樹脂構造体について、それぞれ反り変形量を計算した。いずれのケースでも、前記第1の面の表面積の合計(S1)に対する前記第2の面の表面積の合計(S2)の比(S2/S1)が0.5以上2.5以下であり、前記第1の面の溝部の容積の合計(V1)に対する前記第2の面の溝部の容積の合計(V2)の比(V2/V1)が0.2以上0.9以下である場合に、樹脂構造体の反り変形量が良好で、かつ、剛性の低下も抑制されている。樹脂構造体の溝部の形状パターンについて、任意の形状パターンは、曲線部(円状)と直線部(直線状)の組合せにより指定することができるのであるから、どのような形状パターンの溝部を有する樹脂構造体についても、今回の計算結果により示された所定の範囲内においては、樹脂構造体の反り変形量が良好で、かつ、剛性の低下も抑制されるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の樹脂構造体は、反りの発生が抑制され、かつ剛性に優れたものであるから、DNAを増幅させるPCR法の反応器としても使用されることがあるプラスチックプレートや、家電機器の筐体などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
10 樹脂構造体
100 平板構造
110 第1の面
111 第1の面の有する溝部
120 第2の面
121 第2の面の有する溝部