(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145393
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】雄原細胞への物質導入方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20241004BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241004BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20241004BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241004BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20241004BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12N15/87 Z ZNA
C12N5/10
A01H1/00 A
C12N15/62
C12N15/29
C12N15/09 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057717
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム シーズ育成タイプ、花粉による新植物育種技術の開発、受託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 吉
(72)【発明者】
【氏名】田中 左恵子
(72)【発明者】
【氏名】栗原(水多) 陽子
(72)【発明者】
【氏名】和田 悠作
(72)【発明者】
【氏名】江面 浩
(72)【発明者】
【氏名】康 承源
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 公亮
(72)【発明者】
【氏名】ウォララッド カンジャナ
(72)【発明者】
【氏名】ミタロ オスカー ウィテレ
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030CA16
4B065AA88X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 雄原細胞に物質を導入する方法を提供すること。
【解決手段】 両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと物質とを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、雄原細胞に当該物質を導入する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄原細胞に物質を導入する方法であって、
両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、物質とを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記両親媒姓アミノ酸配列が、配列番号:1又は2に記載のアミノ酸配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物質が、ヌクレオチド及び/又はペプチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組み合わせての花粉への導入が、前記細胞膜透過性ペプチドと前記物質とを含む融合ペプチド、又は、当該融合ペプチドをコードするヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物の、花粉への導入である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記組み合わせての花粉への導入が、前記細胞膜透過性ペプチドと前記物質との混合物の、花粉への導入である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記導入が、パーティクルボンバードメント法を用いた導入である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
下記(a)~(c)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、請求項1又は2に記載の方法により、雄原細胞に物質を導入するためのキット
(a)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド
(b)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(c)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドをコードするヌクレオチドと、当該細胞膜透過性ペプチドと融合して発現されるように、前記物質をコードするヌクレオチドの挿入を可能にするクローニング部位とを含む、ヌクレオチド構築物。
【請求項8】
ゲノムが編集された雄原細胞の製造方法であって、
両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムとを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法。
【請求項9】
下記(A)~(F)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、請求項8に記載の方法により、ゲノムが編集された雄原細胞を製造するためのキット
(A)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド
(B)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(C)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システム
(D)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(E)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼとを含む、融合ペプチド
(F)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムとを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄原細胞への物質導入方法に関し、より詳しくは、細胞膜透過性ペプチドを用いた雄原細胞への物質導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオチド、ペプチド等の物質を、細胞内に導入することは、基礎研究のみならず、様々な産業用途においても非常に意義のあることである。特に、ゲノム編集によれば、特定の遺伝子の狙った部位に変異を導入して、そのコードするタンパク質の活性を修飾することにより、新たな細胞や品種の作製が可能となる。そのため、ゲノム編集システム(例えば、Casタンパク質とガイドRNA(gRNA)との複合体)を構成するような、ペプチド及びヌクレオチドを、細胞内に導入する方法は、近年益々重要な技術となっている。
【0003】
こと植物において新たな品種等を作製する上で、花粉等の生殖細胞を介して、後代となる種子をゲノム編集することが望ましい。この点に関し、本発明者らは、パーティクルボンバードメント法を用い、花粉にゲノム編集システム等を導入することに成功している(特許文献1、2)。また、種々の試みがなされている(特許文献3及び4、非特許文献1及び2)。しかしながら、種子のゲノム編集を可能とするためには、単に花粉内に導入するだけでは不十分であり、その中にあり二重膜に覆われた雄原細胞の内部までゲノム編集システムを導入できることが望ましい。前記パーティクルボンバードメント法によっても雄原細胞への物質導入は可能であったが、ゲノム編集効率をより向上させるという観点から、雄原細胞内部まで物質をより効率よく導入する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-171262号公報
【特許文献2】特開2021-132547号公報
【特許文献3】国際公開第2019/113000号
【特許文献4】国際公開第2022/138507号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Andriy B.,et al.(2015) Intracellular delivery of fluorescent protein into viable wheat microspores using cationic peptides.Frontiers in Plant Science 6:666
【非特許文献2】Neelam G.,et al.(2022) Wheat pollen uptake of CRISPR/Cas9 RNP-PDMAEMA nanoassemblies results in targeted loss of gene function in progeny.(Preprint from bioRxiv,02 Jun 2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、花粉中の雄原細胞内への物質導入を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、様々な細胞膜透過性ペプチド(CPP)を用い、花粉中の雄原細胞内への物質導入を試みた。その結果、陽イオン性CPPを用いた場合には、雄原細胞内への物質導入率の向上はさして認められなかったものの、両親媒性CPPを用いた場合には、その導入率が顕著に向上することが明らかになった。また、両親媒性CPPと被導入物質とを含む融合タンパク質にて導入した場合でも、両親媒性CPPと被導入物質とを混合して導入した場合であっても、その導入形態に限定されることなく、雄原細胞導入率の向上が認められた。さらに、被導入物質をゲノム編集システム(Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体)とした場合も、両親媒性CPPを用いることによって、当該物質は雄原細胞内に導入され、当該細胞のゲノムが編集されることも明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0009】
[1] 雄原細胞に物質を導入する方法であって、両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、物質とを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法。
【0010】
[2] 前記両親媒姓アミノ酸配列が、配列番号:1又は2に記載のアミノ酸配列である、[1]に記載の方法。
【0011】
[3] 前記物質が、ヌクレオチド及び/又はペプチドである、[1]又は[2]に記載の方法。
【0012】
[4] 前記組み合わせての花粉への導入が、前記細胞膜透過性ペプチドと前記物質とを含む融合ペプチド、又は、当該融合ペプチドをコードするヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物の、花粉への導入である、[1]又は[2]に記載の方法。
【0013】
[5] 前記組み合わせての花粉への導入が、前記細胞膜透過性ペプチドと前記物質との混合物の、花粉への導入である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の方法。
【0014】
[6] 前記導入が、パーティクルボンバードメント法を用いた導入である、[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の方法。
【0015】
[7] 下記(a)~(c)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、[1]~[6]のうちのいずれか1項に記載の方法により、雄原細胞に物質を導入するためのキット
(a)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド
(b)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(c)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドをコードするヌクレオチドと、当該細胞膜透過性ペプチドと融合して発現されるように、前記物質をコードするヌクレオチドの挿入を可能にするクローニング部位とを含む、ヌクレオチド構築物。
【0016】
[8] ゲノムが編集された雄原細胞の製造方法であって、両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムとを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法。
【0017】
[9] 下記(A)~(F)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、[8]に記載の方法により、ゲノムが編集された雄原細胞を製造するためのキット
(A)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド
(B)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(C)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システム
(D)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(E)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼとを含む、融合ペプチド
(F)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムとを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、花粉中の雄原細胞内への物質導入が可能となる。また、被導入物質がゲノム編集システムである場合には、雄原細胞のゲノム編集も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】各種細胞膜透過性ペプチドと蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、ベンサミアナタバコの花粉に導入し、当該花粉中の雄原細胞における前記蛍光タンパク質の導入率を示す、グラフである。
【
図2】両親媒性の細胞膜透過性ペプチドと、蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAとの混合物を、パーティクルボンバードメント法にて、ベンサミアナタバコの花粉に導入し、当該花粉中の雄原細胞における前記蛍光タンパク質の導入率を示す、グラフである。
【
図3】両親媒性の細胞膜透過性ペプチド(BP100)とゲノム編集システムとをコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、ベンサミアナタバコの花粉に導入し、当該花粉において生じた遺伝子改変結果の一部の例を示す、図である。図中の「1」及び「2」は、花粉細胞核と雄原細胞内にある両方のゲノムが改変されたことを示し、「3」は、両方が異なる改変を受けたことを示す。
【
図4】両親媒性の細胞膜透過性ペプチド(CyLop-1)とCas9タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAと、赤色蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAとの混合物を、パーティクルボンバードメント法にて、タバコの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図5】BP100と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAと、栄養核でのみ発現誘導可能なプロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAとを、パーティクルボンバードメント法にて、タバコの花粉に導入し、当該花粉における蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図6】BP100と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、トウガラシの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図7】BP100と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、ピーマンの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図8】CyLop-1と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、タバコの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図9】CyLop-1と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、トルコギキョウの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図10】CyLop-1と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、トウガラシの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【
図11】CyLop-1と赤色蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、ピーマンの花粉に導入し、当該花粉における赤色蛍光の局在を観察した結果を示す、顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[雄原細胞への物質導入方法]
本発明は、雄原細胞に物質を導入する方法であって、両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと、物質とを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法に関する。
【0021】
「雄原細胞」とは、精細胞の前駆細胞であり、花粉においては、エンドサイトーシスで栄養細胞(花粉管細胞)に取り込まれ、二重膜の状態で存在する細胞である。本発明において「花粉」とは、雄原細胞を含む限り、成熟花粉のみならず、未成熟花粉も含まれる。また、花粉の由来となる「植物」については特に制限はなく、例えば、双子葉植物及び単子葉植物を含む被子植物、裸子植物、草本植物、並びに木本植物が挙げられる。植物のより具体的な例としては、ベンサミアナタバコ、タバコ、ピーマン、トウガラシ、トマト、ナス等のナス類;キュウリ、カボチャ、スイカ等のウリ類;キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、シロイヌナズナ等の菜類;セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類;ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類;ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ、リョクトウ、ササゲ、ソラマメ等の豆類;イチゴ、メロン等のその他果菜類;ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類;サトイモ、キャッサバ、ジャガイモ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類;イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ライムギ、ミナトカモジグサ、ソバ等の穀類;アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類;ユリ、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花弁類;ベントグラス、コウライシバ等の芝類;ナタネ、ラッカセイ、セイヨウアブラナ、ナンヨウアブラギリ等の油料作物類;ワ夕、イグサ等の繊維料作物類;クローバー、デントコーン、タルウマゴヤシ等の飼料作物類;リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ、キウイフルーツ等の落葉性果樹類;ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類;サツキ、ツツジ、スギ、ポプラ、パラゴムノキ、イチョウ、マツ等の木本類等が挙げられる。
【0022】
本発明において、前記花粉内、更には雄原細胞内に導入される「物質」としては特に制限はなく、例えば、ヌクレオチド(DNA、RNA)、ペプチド、糖、脂質等の生体高分子、蛍光色素等の低分子化合物が挙げられる。なお、本明細書等において、本発明にかかる物質を、単に「物質」と表記する一方で、その意図が明確になるよう「被導入物質」とも適宜明記する。
【0023】
「ヌクレオチド」には、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド及び核酸が含まれ、「ペプチド」には、オリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質が含まれ、「糖」には、オリゴ糖及び糖鎖が含まれる。また、本発明に係る「生体高分子」には、天然に存在するもののみならず、それらの誘導体(例えば、架橋型ヌクレオチド、非天然型アミノ酸)も含まれ、さらにそれらの複合体(例えば、糖タンパク質、糖脂質、ペプチドとヌクレオチドとの複合体)も含まれる。「ペプチドとヌクレオチドとの複合体」としては特に制限はなく、例えば、RNAタンパク質複合体、DNAタンパク質複合体が挙げられ、より具体的には、Casタンパク質とガイドRNAとの複合体といった後述のゲノム編集システム、リボソーム、スプライソソーム、クロマチンが挙げられる。なお、これら物質の少なくともいずれか一方には標識物質が結合していてもよい。かかる標識物質としては、蛍光化合物(フルオレセイン、FITC、インドシアニングリーン、蛍光放出金属(152Eu、ランタン系列等)等、IRDye800シリーズ)、マーカータンパク質(例えば、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の発光酵素タンパク質)、タグタンパク質(Hisタグペプチド、GSTタンパク質等)が挙げられる。また、かかる標識物質とペプチド又はヌクレオチドとの間にはプロテアーゼ認識部位を介在させることにより、当該プロテアーゼによる切断によって分離し得る態様であってもよい。
【0024】
「細胞膜透過性ペプチド」(Cell Penetrating Peptide:CPP)とは、細胞膜を通過し細胞内に移行可能なペプチドを意味し、本発明においては、両親媒性アミノ酸配列を含むCPPを対象とする。
【0025】
「両親媒性アミノ酸配列」とは、塩基性アミノ酸と疎水性アミノ酸とを含むアミノ酸配列(ペプチド)を意味する。ここで「塩基性アミノ酸」としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンが挙げられる。また「疎水性アミノ酸」としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンが挙げられる。本発明にかかる「両親媒性アミノ酸配列」の鎖長としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、好ましくは5~30アミノ酸であり、好ましくは10~20アミノ酸、より好ましくは10~15アミノ酸である。本発明にかかる「両親媒性アミノ酸配列」における塩基性アミノ酸の含有率(両親媒性アミノ酸配列を構成する全アミノ酸に対する塩基性アミノ酸の割合)としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、好ましくは30~60%であり、より好ましくは40~50%である。一方、疎水性アミノ酸の比率(両親媒性アミノ酸配列を構成する全アミノ酸に対する疎水性アミノ酸の割合)としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、好ましくは20~50%である。なお、本発明にかかる「両親媒性アミノ酸配列」は、物質を雄原細胞に導入し得る限り、塩基性アミノ酸及び疎水性アミノ酸以外の他のアミノ酸(極性アミノ酸等)を含むものであってもよい。他のアミノ酸の比率としては、特に制限はなく、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0026】
本発明にかかる「両親媒性アミノ酸配列」として、具体的には下記表に示すペプチドを構成するアミノ酸配列が挙げられる(Keiji N.,et al.(2018) Scientific Report 8(1):10966 参照)。
【0027】
【0028】
これら両親媒性アミノ酸配列に関し、後述の実施例に示すとおり、雄原細胞への物質導入率がより高いという観点から、本発明にかかるCPPは、BP100(配列番号:2に記載のアミノ酸配列)を含むペプチドが好ましい。また雄原細胞膜表面・内部での物質局在がほとんど無く、雄原細胞内部への物質導入率がより高いという観点から、本発明にかかるCPPは、CyLoP-1(配列番号:1に記載のアミノ酸配列)を含むペプチドが好ましい。
【0029】
本発明にかかる「CPP」の鎖長としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、通常5~50アミノ酸であり、好ましくは5~40アミノ酸であり、より好ましくは5~30アミノ酸であり、さらに好ましくは10~30アミノ酸であり、より好ましくは10~20アミノ酸、さらに好ましくは10~15アミノ酸である。本発明にかかる「CPP」における塩基性アミノ酸の含有率(CPPを構成する全アミノ酸に対する塩基性アミノ酸の割合)としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、好ましくは30~90%であり、より好ましくは30~60%であり、さらに好ましくは40~50%である。一方、疎水性アミノ酸の比率(CPPを構成する全アミノ酸に対する疎水性アミノ酸の割合)としては、物質を雄原細胞に導入し得る限り、特に制限はないが、好ましくは10~70%であり、より好ましくは20~50%である。
【0030】
また、本発明において用いられる「CPP」は、少なくとも1つの両親媒性アミノ酸配列からなるものであれば良いが、複数の両親媒性アミノ酸配列を含むものであってもよい(例えば、1~5個、1~3個、又は1個若しくは2個の両親媒性アミノ酸配列を含むものであってもよい)。この場合、複数の両親媒性アミノ酸配列は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらにまた、本発明にかかる「CPP」において、物質を雄原細胞に導入し得る限り、両親媒性アミノ酸配列には他のペプチドが付加されていてもよい。付加される「他のペプチド」としては、例えば、陽イオン性CPP、疎水性CPPが挙げられる。他のペプチドの比率(CPPを構成する全アミノ酸に対する、他のペプチドのアミノ酸の割合)としては、特に制限はなく、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。なお、かかる複数の両親媒性アミノ酸配列を含むCPP、両親媒性アミノ酸配列に他のペプチドが付加されているCPPとしては、例えば、2BP100、2xppTG1、KH9-BP100,(BP100)2-K8が挙げられる。
【0031】
本発明においては、両親媒姓アミノ酸配列を含むCPP(本発明にかかるCPP)と物質とを組み合わせて、花粉に導入する。ここで「組み合わせて」とは、後述の実施例に示すように、本発明にかかるCPPと物質との混合物の態様であってもよく、また本発明にかかるCPPと物質とを含む融合ペプチドの態様であってもよい。本発明にかかる混合物は、特に制限はなく、後述の導入方法によって適した形態(液体(溶液)、個体等)が適宜選択される。
【0032】
「両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチドと物質とを含む融合ペプチド」は、前記物質に本発明にかかるCPPが、直接又は間接的に付加しているペプチドを意味する。「付加」は、前記物質を雄原細胞に導入し得る限り、前記細胞膜透過性ペプチドのアミノ末端、カルボキシル末端及び内部のうちの少なくとも1の部位への前記物質の付加であればよい。また、かかる付加は、化学的な付加であってもよく、遺伝子レベルでの付加であってもよい。
【0033】
「化学的な付加」は、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。「共有結合」としては特に制限はなく、例えば、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、アミノ基とアルキルハライド基とのアルキルアミン結合、チオールどうし間のジスルフィド結合、チオール基とマレイミド基又はアルキルハライド基とのチオエーテル結合が挙げられる。「非共有結合」としては、例えば、ビオチン-アビジン間結合が挙げられる。前記物質がペプチド以外の化合物(例えば、ヌクレオチド、糖、脂質等の生体高分子、蛍光色素等の低分子化合物)である場合に、かかる化学的な付加は、本発明において好適である。
【0034】
一方、前記物質がペプチドである場合に、遺伝子レベルでの付加が好適である。「遺伝子レベルでの付加」は、本発明にかかるCPPをコードするヌクレオチドに、前記物質をコードするDNAの読み枠を合わせて付加させたものを用いることにより達成される。また、遺伝子レベルでの間接的な付加は、リンカーを介した連結によって達成される。「リンカー」としては、前記物質を雄原細胞に導入し得る限り、その長さは特に制限されないが、通常、アミノ酸数が2~50個のリンカーを用いることができる。リンカーの長さは好ましくは5~30アミノ酸、さらに好ましくは10~20アミノ酸である。ペプチドリンカーの好適な例として、グリシン又はグリシン及びセリンを含むペプチドリンカー(SGGGGSGGGGリンカー、SGGGGリンカー、GGSリンカー、GSリンカー、GGGリンカー、Whitlow/218リンカー等)が挙げられる。これらリンカーを構成するアミノ酸であるグリシンとセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくいという利点を有する。
【0035】
本発明において、かかる融合ペプチド、本発明にかかるCPP、ペプチドである被導入物質は、遺伝子工学的手法により調製され得る。例えば、このようなペプチドをコードするヌクレオチドを、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等の宿主細胞内で、あるいは大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液、昆虫細胞抽出液等の無細胞発現系で発現させることによって調製することが出来る。また、当業者であれば、市販のペプチド合成機等を用い、各種ペプチドを化学的に合成することもできる。
【0036】
また、本発明において、本発明にかかるCPP、前記融合ペプチド、ペプチド又はRNAである被導入物質は、これらをコードするヌクレオチド構築物の形態で、花粉に導入してもよい。
【0037】
本発明にかかる「ヌクレオチド構築物」は、DNA及び/又はRNAで構成される構築物であればよいが、通常DNA構築物である。本発明の「DNA構築物」においては、本発明にかかるCPP等をコードするDNAが配置されていればよいが、さらに他のDNAを含んでいてもよい。「他のDNA」としては特に制限はなく、例えば、本発明のDNA構築物を、植物細胞以外の宿主(例えば、大腸菌)にて、複製できるようにするための複製起点(Riプラスミド由来の変異型複製起点(Ri-ori)等)や、前記宿主において機能するマーカー遺伝子(NPTIII遺伝子等)が挙げられる。また、雄原細胞等への導入の有無を確認するためのマーカー遺伝子が挙げられる。例えば、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子が挙げられる。蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、RFP遺伝子、fRFP遺伝子、tdTomato遺伝子、DsRed遺伝子等の赤色蛍光タンパク質遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、YFP(黄色蛍光タンパク質)遺伝子、エクオリン遺伝子が挙げられる。発光酵素遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が挙げられる。発色酵素遺伝子としては、例えば、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、SEAP遺伝子が挙げられる。
【0038】
本発明のDNA構築物がコードする各DNAには、ペプチド又はRNAのコード領域のみならず、その発現を制御する領域(プロモーター、エンハンサー、インシュレーター、ターミネーター、ポリA付加シグナル等)が適宜付加されていてもよい。「プロモーター」としては、花粉内における発現を導くことのできるDNAであればよい。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、シロイヌナズナ由来ユビキチン10プロモーター、El2―35Sオメガプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター、ADHプロモーター、RuBiscoプロモーターが挙げられる。「ターミネーター」としては、前記プロモーターによる転写転写を終結でき、ポリA付加シグナルを有する配列であればよく、例えば、熱ショックタンパク質(HSP)遺伝子のターミネーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーターが挙げられる。
【0039】
本発明の「DNA構築物」の形態としては、コードするDNAを導入された花粉内で発現できるものであれば特に制限はなく、例えば、pUC系(pUC57、pUC18、pUC19、pUC9等)、pAL系(pAL51、pAL156等)、pBI系(pBI121、pBI101、pBI221、pBI2113、pBI101.2等)、pPZP系、pGreen系、pSMA系、中間ベクター系(pLGV23Neo、pNCAT等)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)が挙げられる。本発明のDNA構築物を、アグロバクテリウム法により植物細胞に導入する場合には、当該構築物は、アグロバクテリウムT-DNA配列由来の右境界配列(RB)及び左境界配列(LB)を更に含んでいることが望ましい。
【0040】
また、本発明のDNA構築物は、当業者であれば適宜公知の手法を用いて作製することができる。例えば、精製された遺伝子カセットを適当な制限酵素で切断し、骨格となる適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイト等に連結することにより作製することができる。また、In-Fusionクローニング、TAクローニング、二重交叉組換え(double cross-over)等の手法を用いても、本発明のDNA構築物は作製できる。さらに、本発明のDNA構築物においてコードされるDNAのヌクレオチド配列は、導入される植物種においてそれらの翻訳産物を効率良く発現させるため、当該植物種に合わせたコドンに最適化されていてもよい。
【0041】
本発明において、本発明にかかるCPPと物質とを組み合わせての導入は、導入する物質の種類等に応じ、当業者であれば適宜公知の手法を用いて行なうことができ、例えば、パーティクルボンバードメント法、エレクトロポレーション法、プラズマ法、レーザーインジェクション法、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法が挙げられるが、好ましくはパーティクルボンバードメント法であり、より好ましくは、特開2020-171262号公報に開示のパーティクルボンバードメント法であり、より具体的には、パーティクルボンバードメント法により、本発明にかかるCPP及び物質で被覆した微粒子を支持体に載せた花粉に撃ち込む工程を含み、かつ前記支持体が、親水性ポリテトラフルオロエチレン及び親水性混合セルロースエステルのうちの少なくとも1の高分子を含む支持体である、花粉に前記物質を導入する方法である。
【0042】
また被導入物質がペプチドとヌクレオチドとの複合体である場合には、特開2021-132547号公報に開示の担体を、パーティクルボンバードメント法に用いることが望ましい。かかる担体は、より具体的には、パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体であって、前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、かつ、前記微粒子が担持された表面において、中心から10mm以内の領域における析出物が100μm未満である、担体である。なお、かかる担体は、特開2021-132547号公報に開示の方法によって製造し得る。かかる方法は、より具体的には、パーティクルボンバードメント法において用いられる、物質で被覆された微粒子が担持された担体を、製造する方法であって、前記物質は、パーティクルボンバードメント法によって細胞に導入される、ペプチドとヌクレオチドとの複合体であり、(1)前記ペプチド及び前記ヌクレオチドを、無機塩及び/又は糖を含有する中性緩衝液に溶解させる工程、(2)工程(1)にて得られた溶解液から、緩衝液交換により、前記無機塩及び前記糖を除去する工程、(3)工程(2)にて得られた溶解液と微粒子とを混合する工程、(4)工程(3)にて得られた混合液を、担体の表面上に塗布する工程、並びに、(5)工程(4)にて前記混合液が塗布された担体を、脱気乾燥法により乾燥させる工程を、含む方法である。
【0043】
[雄原細胞に物質を導入するためのキット]
本発明は、雄原細胞に物質を導入するためのキットに関し、より具体的に、下記(a)~(c)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、上述の本発明の方法により、雄原細胞に物質を導入するためのキットに、関する。
(a)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド(本発明にかかるCPP)
(b)本発明にかかるCPPをコードするヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物
(c)本発明にかかるCPPをコードするヌクレオチドと、当該CPPと融合して発現されるように、前記物質をコードするヌクレオチドの挿入を可能にするクローニング部位とを含む、ヌクレオチド構築物。
【0044】
構成品(a)及び(b)については、上述のとおりであるが、被導入物質がペプチド又はRNAである場合には、後述の実施例に示すように、(b)に記載のヌクレオチド構築物に、当該物質をコードするヌクレオチドを更に含んでもよい。その場合、本発明にかかるCPPと、前記物質との、発現を制御する領域は異なっていてもよく、同一であってもよい。後者の場合、例えば、IRES、2Aペプチド配列をコードするヌクレオチド等を用いることにより、これら複数のペプチド等をポリシストロニックに発現させることが可能となる。
【0045】
(c)に記載のヌクレオチド構築物においては、クローニング部位を設けることによって、本発明にかかるCPPを、前記部位に挿入されるヌクレオチドがコードする物質に、遺伝子レベルにて付加させることが可能となる。クローニング部位としては、例えば、制限酵素認識部位、LR反応におけるクローニングサイト、BP反応におけるクローニングサイト、TAクローニングにおけるクローニングサイト、In-Fusionにおけるクローニングサイトが挙げられる。また、かかる部位は、ヌクレオチド構築物において複数配置されていてもよい(マルチクローニングサイト)。
【0046】
また、本発明の雄原細胞に物質を導入するためのキットには、(a)~(c)に記載のうちの少なくとも1の構成品のみならず、他の構成品を含んでいてもよい。かかる他の構成品としては、例えば、物質導入をパーティクルボンバードメント法によって行う場合には、当該方法において用いられる微粒子が挙げられる。微粒子の素材は、特に制限されず、例えば、金、タングステン、磁性粒子(四酸化三鉄等)等の金属からなる微粒子(金属微粒子)が挙げられる。これらの中でも、金からなる微粒子(金粒子)が好ましい。微粒子の粒子径は、特に制限されないが、例えば0.05~5μmであり、好ましくは0.1~3μmであり、より好ましくは0.2~l.5μmであり、さらに好ましくは0.4~0.8μmである。より具体的には、G.S.(0.6μm径の金粒子(BIO-RAD社、#165-2262))が挙げられる。さらに、本発明のキットには、本発明の導入方法を示した説明書が含まれる。
【0047】
[ゲノムが編集された雄原細胞の製造方法]
本発明は、ゲノムが編集された雄原細胞の製造方法であって、両親媒姓の細胞膜透過性ペプチドとゲノム編集システムとを組み合わせて、花粉に導入する工程を含む、方法に関する。
【0048】
「ゲノム編集」は、部位特異的なヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALENs)、CRISPR-Cas酵素等のDNA二本鎖切断酵素)を利用し、標的遺伝子における標的部位にて切断し、当該遺伝子を改変する方法である。それに用いられる「ゲノム編集システム」とは、標的部位を切断して改変を生じさせ得る人工制限酵素システムである限り特に制限されない。人工制限酵素システムとしては、例えば、CRISPR/Casシステム、TALENsシステム、ZFNsシステム、PPRシステムが挙げられる。
【0049】
CRISPR/Casシステムは、ヌクレアーゼ(RGN;RNA-guided nuclease)であるCasタンパク質とガイドRNA(gRNA、Single-guide RNA(SgRNA))を使用する。該システムを細胞内に導入することにより、ガイドRNAが標的部位に結合し、該結合部位に誘導されたCasタンパク質によってDNAを切断することができる(例えば、CRISPR-Cas9(米国特許8697359号、国際公開2013/176772号)、CRISPR-Cpf1(Zetsche B.et al.,Cell,163(3):759-71,(2015))。
【0050】
また、CRISPR/Casシステムから、ヌクレアーゼ活性を除去したものに、脱アミノ化酵素であるデアミナーゼを付加した人工酵素複合体も、本発明に係るゲノム編集系として用いることができる(Target-AID(K.Nishida et al.,Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems, Science,DOI:10.1126/science.aaf8729,(2016)))。
【0051】
TALENsシステムは、DNA切断ドメイン(例えば、FokIドメイン)に加えて転写活性化因子様(TAL)エフェクターのDNA結合ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(TALENs)を使用する(例えば、米国特許8470973号、米国特許8586363号)。該システムを細胞内に導入することにより、TALENsがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキーム(例えば、Zhang, Feng et. al. (2011) Nature Biotechnology 29 (2)に従って設計することができる。
【0052】
ZFNsシステムは、ジンクフィンガーアレイを含むDNA結合ドメインにコンジュゲートした核酸切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(ZFNs)を使用する(例えば、米国特許6265196号、8524500号、7888121号、欧州特許1720995号)。該システムを細胞内に導入することにより、ZFNsがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキームに従って設計することができる。
【0053】
PPRシステムとしては、例えば、ヌクレアーゼドメインが融合されたPPR(pentatricopeptiderepeat)を使用することができる(Nakamura et al., Plant Cell Physiol 53:1171-1179(2012))。
【0054】
これらゲノム編集系の中でも、標的部位の認識に核酸(ガイドRNA)を用いるため、標的部位をより自由に選択でき、その調製も簡便であるという観点から、CRISPR/Casシステムが好ましい。なお、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるガイドRNAの長さは、少なくとも15、16、17、18、19、20ヌクレオチドである。好ましいヌクレオチド長の上限としては、30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは22以下、最も好ましくは20以下である。Casタンパク質は、1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を含んでいてもよい。また、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素が好ましく、例えば、Cas9タンパク質である。Cas9タンパク質は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9、S.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得、また、Cas9ホモログ又はオルソログであり得る。
【0055】
[ゲノムが編集された雄原細胞を製造するためのキット]
本発明は、下記(A)~(F)に記載のうちの少なくとも1の構成品を含む、[8]に記載の方法により、ゲノムが編集された雄原細胞を製造するためのキットに関する。
(A)両親媒姓アミノ酸配列を含む細胞膜透過性ペプチド(本発明にかかるCPP)
(B)本発明にかかるCPPをコードするヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物
(C)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システム
(D)部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物
(E)本発明にかかるCPPと、部位特異的なヌクレアーゼとを含む、融合ペプチド
(F)本発明にかかるCPPと、部位特異的なヌクレアーゼを含むゲノム編集システムとを、コードするヌクレオチドを含む、ヌクレオチド構築物。
【0056】
かかるキット及び各種構成品については、上述の説明に準ずる。また、当該キットには、(A)~(F)に記載のうちの少なくとも1の構成品のみならず、他の構成品を含んでいてもよい。かかる他の構成品としては、例えば、物質導入をパーティクルボンバードメント法によって行う場合には、当該方法において用いられる、上述の微粒子が挙げられる。さらに、本発明のキットには、本発明の導入方法、及びゲノム編集方法を示した説明書が含まれる。
【実施例0057】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
雄原細胞への物質導入において細胞膜透過性ペプチド(CPP)が有用であるかを検証するため、各種CPPについて、Nicotiana benthamiana(ベンサミアナタバコ)の雄原細胞における膜透過性を、以下に示す2種類の方法にて評価した。
【0059】
方法[1] CPPと蛍光タンパク質との融合タンパク質を、コードするプラスミドDNAを、パーティクルボンバードメント法にて、花粉に導入する方法
方法[2] CPPと、蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAとの混合物を、パーティクルボンバードメント法にて、花粉に導入する方法
なお、本実施例においては、下記表2に示すCPPを用いて前記評価を行った。
【0060】
【0061】
(実施例1)
Nicotiana benthamiana(ベンサミアナタバコ)の未熟花粉を対象とし、方法[1]による、雄原細胞への物質導入を試みた。CPPと蛍光タンパク質との融合タンパク質をコードするプラスミドDNA(以下、単に「CPPプラスミド」とも称する)として、CPP-YMv251;35Sp::H2B-CPP-fresnoRFP+UBQ10p::Cas9-CPP-NbPDS3_sgRNA-1を用いた。
【0062】
CPP-YMv251においては、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーター(35Sp)の下流に、核移行シグナル(H2B)、CPP及び赤色蛍光タンパク質(fresnoRFP)が各々SGGGGSGGGGリンカーを介して融合されたタンパク質をコードする。また、当該プラスミドDNAにおいては、Arabidopsis thaliana由来のユビキチン10プロモーター(UBQ10p)の下流に、Cas9タンパク質及びCPPがリンカーを介して融合されたタンパク質と、ベンサミアナタバコのNbPDS3遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA)とをコードする。このCPP-YMv251から発現したCPP-Cas9タンパク質とgRNAとが複合体を形成し、CPP-RNPとなる。
【0063】
なお、CPP-YMv251におけるCPPとして、Cylop-1、K9、R12、DPV3又はBP100を用いた。また、ネガティブコントロール用プラスミドとして、YMv251;35Sp::H2B-FresnoRFP+UBQ10p::Cas9-NbPDS3_sgRNA-1を用いた。
【0064】
そして、各種プラスミドDNAを用い、パーティクルボンバードメント法の導入用キャリアを調製した。先ず、1500ngの各種プラスミドDNAを、金粒子含有エタノール液(G.S.(0.6μm径の金粒子(BIO-RAD社、#165-2262))を30mg/mlにて含有)10μlに加え、撹拌しながら、更に0.1M スペルミジンを4μL、2.5M CaCl2を10μL添加した。卓上遠心機で軽く遠心して上清を除いた後、エタノールで溶液置換し、マクロキャリア中央に作製した金粒子液を添加して導入用キャリアを調製した。次いで、各種プラスミドDNAの花粉への導入を、特開2020-171262号公報の実施例に記載のパーティクルボンバードメント法と同様にして行った。具体的には、下記方法にて行った。
【0065】
(2) パーティクルボンバードメント法
先ず、蕾4個から葯を採取し、花粉を700μlのM1培地(組成については下記表3を参照)に回収した。遠心(1300rpm、3分)後に上清を捨て、新たにM1培地を400μl加えることで洗浄を、2回行った。M1培地を160μl加え、うち10μlを用いて細胞数を計測した。花粉数1.0x10
5cells/60μlになるよう、花粉懸濁液を調整し、支持体(1/4に切断したオムニポア(Merck社 JCWP04700))上に60μlを塗布した。そして、上記キャリアを用いて、パーティクルボンバードメント法にて、CPP及びプラスミドDNA混合物を花粉に導入した。導入機器は、Bio-Rad社製、PDS-1000/Heを用いた。撃ち込み圧は1100psiとした。導入後、支持体上に静置した花粉を1mlのM1培地で洗浄・回収し、細胞培養プレート(6well)にて培養した(室温,暗所,16-24時間)。赤色蛍光タンパク質の発現を確認し、それを指標として導入物質の局在を観察した。その観察結果に基づき、雄原細胞にて赤色蛍光が検出された花粉数と、栄養核にて赤色蛍光が検出された花粉数とを計測し、後者の数に対する前者の数の比率を、雄原細胞導入率として算出した。得られた結果を
図1に示す。なお、
図1においては、YMv251(コントロール)における雄原細胞導入率を1とした場合の、各種プラスミドDNA導入例におけるそれの比率を表す。
【0066】
【0067】
(実施例2)
タバコの未熟花粉を対象とし、方法[2]による、雄原細胞への物質導入を試みた。CPPとして、CyLop-1を用いた。また、プラスミドDNAとして、DKv744 35Sp::H2B-linker-tdTomatoを用いた。なお、当該プラスミドDNAは、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーター(35Sp)の下流に、核移行シグナル(H2B)と赤色蛍光タンパク質(tdTomato)とがリンカーを介して融合されたタンパク質をコードする。
【0068】
(1) キャリアの作製方法
先ず、パーティクルボンバードメント法で使用する導入用キャリアを調製した。具体的には、pDNAとCPPとを重量比40:1(1μg:25ng)で混合し、25℃、30分静置した。次いで、得られたpDNA/CPP混合溶液へG.S.(0.6μm径の金粒子(BIO-RAD社、#165-2262))300μgと純水を加えて15μlとし、40mM Tris15μlとを混合して、30μlのCPP/Plasmid/G.S.混合液を調製した。マクロキャリアを70%エタノールで洗浄し、ホルダにセットした。次いで、ホルダを60mmシャーレにセットし、マクロキャリア中央に十分撹拌したCPP/Plasmid/G.S.混合液を載せ、特開2021-132547号公報に記載のとおり、脱気乾燥により乾燥させ、導入用キャリアを調製した。
【0069】
次いで、上記の方法[1]における「(2) パーティクルボンバードメント法」と同様にして、CPP及びプラスミドDNAを花粉に撃ち込んだ後、培養し、赤色蛍光タンパク質の発現を確認し、それを指標として導入物質の局在を観察した。その観察結果に基づき、実施例1同様に、雄原細胞導入率を算出した。得られた結果を
図2に示す。なお、
図2においては、CPPを混合しなかった場合(コントロール)における雄原細胞導入率を1とした場合の、各種プラスミドDNA導入例におけるそれの比率を表す。
【0070】
図1に示した結果から明らかなように、塩基性アミノ酸のみからなるCPP(K9、R12)を用いた場合は、雄原細胞導入率において、CPPを混合しなかった場合と大して変わらなかった。また、極性アミノ酸からなるCPP(DPV3)を用いた場合は、CPPを混合しなかった場合と比較して約3倍には雄原細胞導入率の向上が認められた。一方、CPPとしてCyLop-1を用いた場合は10倍弱も、BP100を用いた場合に至っては40倍弱も、雄原細胞導入率が向上することが明らかになった。このように、CPPとして、陽イオン性CPP(K9、R12、DPV3)を用いた場合には効果があまり奏されなかったが、両親媒姓CPP(BP100、CyLop-1)を用いた場合には、雄原細胞導入率が顕著に向上することが明らかになった。すなわち、両親媒姓CPPと被導入物質との融合ペプチドをコードするプラスミドDNAを花粉に導入した場合には、当該融合ペプチドは細胞質内で発現した(翻訳された)後、顕著に雄原細胞内に局在移行することが明らかになった。
【0071】
さらに、
図2に示した結果から明らかなように、前者のように被導入物質と融合せずに、被導入物質と混合して花粉に導入した場合でも、両親媒姓CPP(CyLop-1)を用いた場合には、雄原細胞導入率が向上することも明らかになった。
【0072】
(実施例3)
上記実施例1に記載の方法にて、BP100-YMv251をベンサミアナタバコの未熟花粉に導入し、その未熟花粉におけるゲノム編集を、PCR及びシーケンスにて解析した。具体的には先ず、上記にて赤色蛍光タンパク質の発現が検出された花粉を1つ単離し、細胞溶解用試薬2μlに添加した。65℃で5分、次いで98℃で2分反応させた後、-20℃にて保存した。なお、細胞溶解用試薬は、Lysis buffer for PCR(TAKARA Cat#:9170A-1)100μlに、付属のProteinaseK(20mg/ml)を1μl添加したものを用いた。
【0073】
そして、前記花粉溶解液(鋳型DNA)2μlに対し、Tks Gflex DNA Pol Low DNA(2×) 10μl、フォワードプライマー(gctttgcttgagaaaagctctc、配列番号:33)及びリバースプライマー(cagcatcacactttcgcatt、配列番号:34)を1μlずつ加え、更にDDWを計20μlになるよう加え、PCR反応液を調製した。次いで、当該反応液を、94℃で1分間、更に98℃で10秒、60℃で15秒及び68℃で1分のサイクルを50回繰り返し、最後に68℃で3分という条件にて、PCRを行った。当該反応後、各反応液8μlを電気泳動に供し、所望のPCR産物の増幅が確認されたものについては、標的遺伝子領域についてのシーケンス解析を行った。得られた結果を
図3に示す。
【0074】
図3に示すとおり、両親媒姓CPP(BP100)を用いることによって、ゲノム編集システムを雄原細胞内に導入し、当該細胞のゲノムを編集できることが確認された。なお、採取した花粉(84個)において、うち変異導入が検出された花粉数は21個であり、ゲノム編集率は25%であった。
【0075】
(実施例4)
Nicotiana tabacum(タバコ)の未熟花粉を対象とし、方法[1]及び[2]を組み合わせて、雄原細胞への物質導入を試みた。
【0076】
CPPとして、CyLop-1融合型Cas9タンパク質を用いた。当該融合タンパク質の調製には、大腸菌の異種タンパク質発現系を利用した。簡潔に説明すると、Cas9の遺伝子を、大腸菌用タンパク質発現プラスミドpET22にクローニングした後、Cas9のN末端側にタンパク質精製用の6×ヒスチジン(His)タグ及び核移行シグナル(SV40ラージT抗原由来)をPCRによって導入した。次に、Cas9のC末端側に、CPP(Cylop-1)をPCRによって導入した。このようにして作製した発現コンストラクト(pET22-Cas9-Cylop-1)をRosettagami2(DE3)に導入し、形質転換体を得た。そして、当該形質転換体を培養し、その大腸菌破砕液からTALON樹脂等によるHisタグ精製によって、CyLop-1融合型Cas9タンパク質(Cas9-Cylop-1)を調製した。
【0077】
蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAとしては、YMv251;35Sp::H2B-FresnoRFP+UBQ10p::Cas9-NbPDS3_sgRNA-1を用いた。
【0078】
そして、Cas9-Cylop-1及びYMv251を用い、特開2021-132547号公報の実施例に記載の方法と同様にして、パーティクルボンバードメント法の導入用キャリアを調製した。なお、本実施例において、キャリア上にRNP(Cas9-Cylop-1)を載せ脱気乾燥する際、YMv251を1.0μg混合して乾燥させた。次いで、上記方法[1]における「(2) パーティクルボンバードメント法」と同様にして、各Cas9-Cylop-1及びYMv251を花粉に撃ち込んだ後、培養し、赤色蛍光タンパク質の発現を確認し、それを指標として導入物質の局在を観察した。観察した結果の代表例を
図4に示す。
【0079】
その結果、CyLop-1融合型Cas9タンパク質(Cas9-Cylop-1)を導入した場合、共に導入したプラスミド由来の赤色蛍光タンパク質が、栄養核及び雄原細胞に共局在する割合が増えた。このことから、実施例2にて示したように両親媒姓CPPだけを用いた場合同様、他のタンパク質(ここではCas9)と融合させ、その分子量が大きくなった場合でも、混合した物質(ここではプラスミドDNA)を雄原細胞内へ導入する効果は維持されていることが確認された。
【0080】
(実施例5)
タバコ、ピーマン(カリフォルニアワンダー)、トウガラシ(紫トウガラシ)又はトルコギキョウの未熟花粉を対象とし、方法[1]を用い(実施例1に記載の方法と同様にして)、パーティクルボンバードメント法により、各種CPPプラスミドをこれら花粉に撃ち込んだ後、培養し、赤色蛍光タンパク質の発現を確認し、それを指標として導入物質の局在を観察した。なお、当該方法において、培養等に用いた培地は、タバコ、ピーマン、トウガラシについては上記M1培地を用いたが、トルコギキョウについては下記組成にて培地を調製し、フィルター滅菌をして用いた。
【0081】
【0082】
また、タバコについては、各種CPPプラスミドと共に、YMv410;LAT52::H2B-mCloverを、パーティクルボンバードメント法によって花粉に導入した。なお、YMv410において、栄養核でのみ働くプロモーター(LAT52プロモーター)の下流に、緑色蛍光タンパク質(mClover)遺伝子がコードされており、当該プラスミドを導入することによって、栄養核の場所を緑色で示すことが可能となる。また、トルコギキョウについては、撃ち込み後、前記組成の培地にて18~20時間培養した後、共焦点レーザー顕微鏡下にて、赤色蛍光タンパク質の局在を観察した。各植物種に関し、得られた代表的な結果を、
図5~11に各々示す。
【0083】
BP100_YMv251をタバコ花粉に導入した場合、
図5に示すように、当該プラスミドDNAがコードする赤色蛍光タンパク質の雄原細胞における局在が認められた。また、
図6及び7に各々示すように、トウガラシ及びピーマンにおいても、BP100による赤色蛍光タンパク質の雄原細胞への導入が認められた。
【0084】
一方、CyLop-1_YMv251を各種植物の花粉に導入した場合、
図8~11に示すとおり、当該プラスミドDNAがコードする赤色蛍光タンパク質の雄原細胞及び栄養核での共局在が20%の割合で認められ、残りの80%の花粉については栄養核のみでの赤色蛍光タンパク質の発現が認められた。
【0085】
以上のとおり、両親媒姓CPPを用いることによって、様々な植物種の雄原細胞内に物質を導入出来ることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、物質を雄原細胞内に効率良く導入することが可能となる。特に、ゲノム編集システムを雄原細胞内に導入することにより、当該細胞のゲノム編集を介して、後代となる種子の遺伝子を改変することも可能となる。このため、バイオマス、機能性食材、医薬品材料等の生産・開発の場としても非常に有用であり、本発明は、様々な産業用途においても多大な貢献をもたらすものである。