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特開2024-145412樹脂組成物、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145412
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20241004BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241004BHJP
   C08K 9/08 20060101ALI20241004BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20241004BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241004BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/04
C08K9/08
C08L25/04
B29C45/00
B29C65/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057741
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
【テーマコード(参考)】
4F206
4F211
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA13
4F206AA24
4F206AA25
4F206AB12
4F206AB18
4F206AR15
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF02
4F206JL02
4F211AA13
4F211AA24
4F211AA25
4F211AA45
4F211AB18
4F211AG07
4F211AH33
4F211AR08
4F211AR19
4F211AR20
4F211TA01
4F211TC08
4F211TD11
4F211TN27
4J002AA012
4J002AC003
4J002BB063
4J002BB073
4J002BC032
4J002BC062
4J002BN123
4J002BN143
4J002BN163
4J002BN173
4J002BN223
4J002CD193
4J002CF001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG002
4J002CH072
4J002CN012
4J002DA036
4J002FB242
4J002FB276
4J002FD096
4J002GC00
4J002GG01
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な新規樹脂組成物、ならびに、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法の提供。
【解決手段】 ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来する、樹脂組成物。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記非晶性樹脂のSP値(SP2)の差の絶対値(|SP1-SP2|)が0~3.0である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記非晶性樹脂がスチレン系樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記非晶性樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、エラストマーを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられる、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含み、
前記非晶性樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂を含み、
さらに、エラストマーを含み、
レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
ポリエステル樹脂と、前記ポリエステル樹脂以外の第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記第2の熱可塑性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来し、前記ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記第2の熱可塑性樹脂のSP値(SP22)の差の絶対値(|SP1-SP22|)が0~3.0である、樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含み、
レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1、2、9、10および11のいずれか1項に記載の樹脂組成物のペレット。
【請求項13】
請求項1、2、9、10および11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項14】
ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を添加して溶融混練することを含み、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチとして添加することを含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂組成物が、請求項1、2、9、10および11のいずれか1項に記載の樹脂組成物である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
レーザー透過性樹脂組成物と、請求項1、2、9、10および11のいずれか1項に記載の樹脂組成物を有するキット。
【請求項17】
レーザー透過性樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材と、請求項1、2、9、10および11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とのレーザー溶着品。
【請求項18】
レーザー吸収樹脂部材に、レーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、
レーザー透過樹脂部材と、前記レーザー吸収樹脂部材とを、レーザー溶着することを含む、請求項17に記載のレーザー溶着品の製造方法。
【請求項19】
前記レーザー溶着をガルバノスキャニング式レーザー溶着によって行う、請求項18に記載のレーザー溶着品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法に関する。特に、ポリエステル樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を始めとするポリエステル樹脂は、機械的強度、耐薬品性および電気絶縁性等に優れており、また、優れた耐熱性、成形性、リサイクル性を有していることから、各種の機器部品に広く用いられている。
【0003】
最近では、生産性効率化のため溶着加工を行う例が増加してきており、なかでも電子部品への影響が少ないレーザー溶着が多用されてきている。
レーザー溶着は、レーザー透過性の材料からなるレーザー透過樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光吸収性の材料からなるレーザー吸収樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」ということがある)を重ねて、透過樹脂部材側からレーザー光を照射し、吸収樹脂部材との界面を発熱させて溶着する技術である。そして、そのような用途の成形品に適用される樹脂組成物としては、レーザー光の照射によって溶着することが可能な性能(レーザー溶着性)を有することが要求される。
【0004】
一方、成形品において、完成時の意匠性、情報の表示や組立時の部品識別性等の点で、成形品表面に製品情報等の印字、描画を施す場合も多い。そして、それらが長期間にわたって視認性を維持することが求められる場合は、信頼性の観点からレーザーマーキングが用いられることがある。
さらに、近年、レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な樹脂組成物も検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-050822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な樹脂組成物については、検討されているが、かかる性能を有する樹脂組成物の需要拡大に伴い、新規な樹脂組成物が求められている。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な新規樹脂組成物、ならびに、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリエステル樹脂に加え、カーボンブラックを所定の樹脂でマスターバッチ化したものを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来する、樹脂組成物。
<2>前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記非晶性樹脂のSP値(SP2)の差の絶対値(|SP1-SP2|)が0~3.0である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記非晶性樹脂がスチレン系樹脂を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記非晶性樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>さらに、エラストマーを含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられる、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含み、前記非晶性樹脂がアクリロニトリル-スチレン樹脂を含み、さらに、エラストマーを含み、レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>ポリエステル樹脂と、前記ポリエステル樹脂以外の第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記第2の熱可塑性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来し、前記ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記第2の熱可塑性樹脂のSP値(SP22)の差の絶対値(|SP1-SP22|)が0~3.0である、樹脂組成物。
<11>前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含み、レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である、<10>に記載の樹脂組成物。
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
<13><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<14>ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を添加して溶融混練することを含み、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチとして添加することを含む、樹脂組成物の製造方法。
<15>前記樹脂組成物が、<1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物である、<14>に記載の製造方法。
<16>レーザー透過性樹脂組成物と、<1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を有するキット。
<17>レーザー透過性樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材と、<1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とのレーザー溶着品。
<18>レーザー吸収樹脂部材に、レーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、レーザー透過樹脂部材と、前記レーザー吸収樹脂部材とを、レーザー溶着することを含む、<17>に記載のレーザー溶着品の製造方法。
<19>前記レーザー溶着をガルバノスキャニング式レーザー溶着によって行う、<18>に記載のレーザー溶着品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な新規樹脂組成物、ならびに、ペレット、成形品、樹脂組成物の製造方法、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(透過樹脂部材I)を示す概略図である。
図2】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(吸収樹脂部材II)を示す概略図である。
図3】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(透過樹脂部材Iと吸収樹脂部材IIの組み合わせ)を示す概略図である。
図4】実施例のレーザー溶着強度の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、重量平均分子量は、特に述べない限り、東ソー社製HLC-8320GPC EcoSECを使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてShodex KF-G,KF-805L×3,KF-800Dを使用し、カラム温度40℃で流量1.2mL/minでGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定し、検出波長254nmにて検出したポリスチレン換算値である。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1~4は、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、非晶性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記非晶性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来することを特徴とする。このような構成とすることにより、レーザー溶着時においてレーザー吸収樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な樹脂組成物を提供可能になる。
ここで、「非晶性樹脂の少なくとも一部は、カーボンブラックのマスターバッチに由来する」とは、非晶性樹脂の少なくとも一部がカーボンブラックのマスターバッチのための樹脂として用いられ、樹脂組成物に添加される成分であることを意味する。
【0012】
本実施形態においては、ポリエステル樹脂に加え、非晶性樹脂を含み、かつ、カーボンブラックは、非晶性樹脂によってマスターバッチ化された状態で添加される。このような構成とすることにより、樹脂組成物中のポリエステル樹脂の海に、非晶性樹脂の島ができ、前記島中にカーボンブラックが凝集しやすい傾向にあると推測される。この結果、凝集したカーボンブラックが集中して発熱し、レーザー溶着強度を高めると推測される。
【0013】
別の実施形態においては、ポリエステル樹脂50質量部超90質量部以下、および、前記ポリエステル樹脂以外の第2の熱可塑性樹脂10質量部以上50質量部以下の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を含み、かつ、前記第2の熱可塑性樹脂の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチに由来し、前記ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記第2の熱可塑性樹脂のSP値(SP22)の差の絶対値(|SP1-SP22|)が0~3.0である、樹脂組成物が開示される。
本実施形態においては、カーボンブラックが、ポリエステル樹脂のSP値(SP1)とSP値(SP22)の差の絶対値(|SP1-SP22|)が0~3.0である第2の熱可塑性樹脂によってマスターバッチ化された状態で添加される。このような構成とすることにより、樹脂組成物中のポリエステル樹脂の海に、第2の熱可塑性樹脂の島ができ、前記島中にカーボンブラックが凝集しやすい傾向にあると推測される。この結果、凝集したカーボンブラックが集中して発熱し、レーザー溶着強度を高めると推測される。
以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0014】
<ポリエステル樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を含む。
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
本実施形態で用いるポリエステル樹脂は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリブチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることがさらに好ましい。
本実施形態で用いるポリエステル樹脂は結晶性樹脂である。
【0015】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-tert-フェニレン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0016】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0017】
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0018】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、すなわち、ポリエステル樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0019】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレート樹脂である。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分および1,4-ブタンジオールまたはエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂は、また、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されているものも好ましい。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリアルキレンテレフタレートの全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものが例示される。
【0021】
本実施形態で用いるポリエステル樹脂は、リサイクル品を含んでいてもよい。
リサイクルポリエステル樹脂としては、成形品の端材や不合格品、回収された使用済ポリエステル樹脂成形体を粉砕、洗浄して再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたもの等が挙げられる。
【0022】
本実施形態のポリエステル樹脂のブレンド形態の一例は、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことである。本ブレンド形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の質量比率は、ポリエステル樹脂100質量%中、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、52質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることがさらに一層好ましく、95質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の荷重たわみ温度がより高くなり、また、樹脂組成物の成形性がより良好になる傾向にある。第一の実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の質量比率は、樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂100質量%中、100質量%であってもよいし、用途等に応じては、90質量%以下、70質量%以下、60質量%以下であってもよい。
上記ブレンド形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
上記ブレンド形態において、特に好ましくは、ポリエステル樹脂100質量%中、ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量%以上(好ましくは50質量%以上)含み、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量は0質量%であってもよい)の合計がポリエステル樹脂100質量%中、90質量%以上(好ましくは95質量%以上)を占めることである。ポリエチレンテレフタレート樹脂を配合することにより、得られる成形品の反りをより効果的に抑制できる傾向にある。
【0023】
また、本実施形態で用いるポリエステル樹脂のSP値は、18.5以上であることが好ましく、19.0以上であることがより好ましく、20.0以上であることがさらに好ましく、また、23.0以下であることが好ましく、22.0以下であることがより好ましく、21.5以下であってもよい。
SP値は既知のSP値をもつ溶媒に対する溶解度を求め、それを元にHansen Solubility Parameter in Practice ver.5.0 を用いて計算することができる。
本実施形態の樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂を含む場合、SP値は、各ポリエステル樹脂のSP値に質量分率をかけた値の和とする。
【0024】
ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、1~23eq/tonであることが好ましく、7~22eq/tonであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂を含む場合、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、混合物の末端カルボキシル基濃度とする。
末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求めることができる。
【0025】
本実施形態で用いるポリエステル樹脂は、固有粘度が0.40~2.00dL/gであることが好ましい。固有粘度を前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の成形性がより向上する傾向にある。また、固有粘度を前記下限値以上とすることにより、引張強度、曲げ強度等の機械物性がより向上する傾向にある。
ポリエステル樹脂の固有粘度は、0.50dL/g以上であることが好ましく、0.65dL/g以上であることがより好ましく、0.70dL/g以上であることがさらに好ましい。前記固有粘度は、1.50dL/g以下であることが好ましく、1.00dL/g以下であることがより好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂の固有粘度は以下の方法で測定される。
フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中に、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを、濃度が1.00g/dLとなるように110℃で1時間攪拌して溶解させる。その後、30℃まで冷却する。全自動溶液粘度計にて、30℃で試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、式により固有粘度を算出する。
固有粘度=((1+4KHηsp0.5-1)/(2KHC)
ここで、ηsp=η/η0-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
本実施形態における樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂を含む場合、ポリエステル樹脂の固有粘度は、混合物の固有粘度とする。
【0027】
本実施形態における樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を樹脂組成物100質量%中、20質量%以上の割合で含むことが好ましく、25質量%以上の割合で含むことがより好ましく、30質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、42質量%以上の割合で含むことが一層好ましく、また、55質量%以下の割合で含むことが好ましく、50質量%以下で含むことがより好ましく、45質量%以下の割合で含むことがさらに好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0028】
<非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂を含む。これらの樹脂を含むことにより、樹脂組成物中に非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂によって海島構造が形成され、カーボンブラックが島の部分に凝集しやくなり、凝集したカーボンブラックが集中して発熱し、レーザー溶着強度を高めると推測される。
本実施形態の樹脂組成物は、通常、カーボンブラックのマスターバッチに由来する非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂と、マスターバッチとは別に配合される非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の両方を含む。本実施形態においては、樹脂組成物に含まれる非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の総量100質量%中、カーボンブラックのマスターバッチに由来する非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の量が0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
カーボンブラックのマスターバッチに由来する非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂と、マスターバッチとは別に配合される非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂は、同一の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。本実施形態においては、カーボンブラックのマスターバッチに由来する非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂と、マスターバッチとは別に配合される非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂が、それぞれ、スチレン系樹脂を含むことが好ましい。これらの樹脂の詳細は後述する。
【0029】
本実施形態の一形態は、ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と非晶性樹脂のSP値(SP2)の差の絶対値|SP1-SP2|が0~3.0であることである。
また、本実施形態の他の形態は、ポリエステル樹脂のSP値(SP1)と前記第2の熱可塑性樹脂のSP値(SP22)の差の絶対値|SP1-SP22|が0~3.0である。
本実施形態における前記SP値の差の絶対値(|SP1-SP2|、|SP1-SP22|)は、0超であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、1.0以上であることが一層好ましく、1.5以上であることがより一層好ましく、2.0以上であることがさらに一層好ましく、また、2.8以下であることが好ましい。
本実施形態においては、ポリエステル樹脂のSP値(SP1)≧非晶性樹脂のSP値(SP2)であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が2種以上の非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂を含む場合、SP値は、各ポリエステル樹脂のSP値に質量分率をかけた値の和とする。
【0030】
本実施形態においては、非晶性樹脂のSP値(SP2)および/または第2の熱可塑性樹脂のSP値(SP22)は、それぞれ独立に、21.5以下であることが好ましく、21.0以下であることがより好ましく、20.0未満であることがさらに好ましく、19.5以下であることがより好ましく、19.0未満であることが一層好ましく、18.5未満であってもよく、また、17.0以上であることが好ましく、17.5以上であってもよい。
【0031】
非晶性樹脂としては、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂が例示され、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましい。本実施形態で用いる樹脂組成物は、非晶性樹脂の90質量%以上がスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0032】
<<スチレン系樹脂>>
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂が例示される。
【0033】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα、β-不飽和カルボン酸及びその無水物;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリロニトリル等が挙げられる。
【0035】
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体とアクリロニトリル単量体の共重合体(アクリロニトリル-スチレン樹脂)が好ましい。
アクリロニトリル-スチレン樹脂は、前記樹脂を構成する単量体の合計100質量%中、スチレン系単量体の割合が、好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
アクリロニトリル-スチレン樹脂は、スチレン系単量体及びアクリロニトリルと、これらのうちのいずれかと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。前記他の単量体の割合は、アクリロニトリル-スチレン樹脂を構成する単量体の合計100質量%中、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、中でも5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、特に1質量%以下であることが好ましい。
アクリロニトリル-スチレン樹脂を製造する方法は、制限はなく、公知の方法が採用でき、例えば、塊状重合、乳化重合、溶液重合、懸濁重合等の方法が用いられる。
【0036】
<<ポリカーボネート樹脂>>
本実施形態で用いられるポリカーボネート樹脂は、公知のポリカーボネート樹脂を用いることができる。ポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体または共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができるが、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂が、レーザー透過性、レーザー溶着性の点から好ましい。
【0037】
原料のジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ちビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0038】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、または、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーとの共重合体等の共重合体であってもよい。さらには、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、5,000~30,000であることが好ましく、10,000~28,000であることがより好ましく、14,000~24,000であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が5,000以上のものを用いることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、粘度平均分子量が30,000以下のものを用いることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、成形性やレーザー溶着性がより向上する傾向にある。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算される粘度平均分子量[Mv]である。
【0040】
一方、本実施形態における第2の熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂であり、本実施形態の樹脂組成物に用いるポリエステル樹脂のSP値(SP1)との関係で、適宜定められる。第2の熱可塑性樹脂の好適な例としては、上述の非晶性樹脂の例と同様である。
【0041】
本実施形態においては、ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂として、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)が例示される。また、ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である場合、非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂として、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が例示される。
【0042】
本実施形態における非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の総含有量は、ポリエステル樹脂と非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、10質量部以上であり、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、23質量部以上であることがさらに好ましく、30質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の反りが低減する傾向にある。また、本実施形態における非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の総含有量は、ポリエステル樹脂と非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、50質量部以下であり、45質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、38質量部以下であることがさらに好ましく、32質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の耐熱性、引張強度や曲げ強度等の機械物性、レーザー溶着性がより向上する傾向にある。
【0043】
<カーボンブラック>
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンブラックを含有する。カーボンブラックを含むことにより、レーザー溶着およびレーザーマーキングが可能になる。
本実施形態においては、カーボンブラックは、非晶性樹脂によってマスターバッチ化された状態で添加される。あるいは、カーボンブラックは、ポリエステル樹脂のSP値(SP1)のSP値(SP22)の差の絶対値|SP1-SP22|が0~3.0である第2の熱可塑性樹脂によってマスターバッチ化された状態で添加される。このような構成とすることにより、樹脂組成物中に、ポリエステル樹脂と非晶性樹脂等とによって、海島構造が形成され、カーボンブラックが島の部分に凝集しやくなり、凝集したカーボンブラックが集中して発熱し、レーザー溶着強度を高めると推測される。
また、本実施形態の樹脂組成物は、非晶性樹脂によってマスターバッチ化されたカーボンブラックと、上記SP値の差の絶対値を満たす第2の熱可塑性樹脂によってマスターバッチ化されたカーボンブラックの両方を含んでいてもよい。
【0044】
本実施形態において、カーボンブラックマスターバッチにおけるカーボンブラックの割合は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが一層好ましく、30質量%以上であることがより一層好ましく、35質量%以上であることがさらに一層好ましく、さらには、40質量%以上、45質量%以上であってもよく、また、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態で用いるカーボンブラックマスターバッチは、カーボンブラックと、非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計量がカーボンブラックマスターバッチ全体の99~100質量%を占めることが好ましい。
【0045】
カーボンブラックは、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。中でも、ファーネスブラックが好ましい。
カーボンブラックの数平均粒子径は、5~60nmであることが好ましい。上限値は、60nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、25nm以下であることがより一層好ましい。下限値は10nm以上であることが好ましく、13nm以上であることがより好ましく、16nm以上であることがさらに好ましく、19nm以上であることがより一層好ましい。前記上下限値以内とすることにより、成形品の外観、レーザー溶着性、レーザーマーキング性が向上する傾向にある。数平均粒子径は、ASTM D3849規格(カーボンブラックの標準試験法-電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりアグリゲート拡大画像を取得し、このアグリゲート画像から単位構成粒子として3,000個の粒子径を測定し、算術平均して求めることができる。
【0046】
カーボンブラックのDBP吸油量(単位:cm3/100g)は40~300cm3/100gであることが好ましい。上限値は、300cm3/100g以下であることが好ましく、200cm3/100g以下であることがより好ましく、150cm3/100g以下であることがさらに好ましく、100cm3/100g以下であってもよい。また、下限値は40cm3/100g以上が好ましく、50cm3/100g以上がより好ましく、60cm3/100g以上がさらに好ましい。前記上下限値以内とすることにより、成形品の外観、レーザー溶着強度、レーザーマーキング性が向上する傾向にある。なお、DBP吸油量(単位:cm3/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物におけるカーボンブラックの含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.15質量部以上であることが一層好ましく、0.20質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、着色効果、レーザー溶着強度、レーザーマーキング性がより効果的に発揮される。また、前記カーボンブラックの含有量の上限値は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、0.4質量部以下であり、0.35質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度、レーザー溶着強度がより向上する傾向にある。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物におけるカーボンブラックマスターバッチの含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、0.02質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましく、0.25質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、着色効果がより効果的に発揮され、レーザー溶着性が向上する傾向にある。また、前記カーボンブラックマスターバッチの含有量の上限値は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、1.0質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以下であることがより好ましく、0.7質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンブラックを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0049】
<エラストマー>
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーを含むことにより、得られる吸収樹脂部材の耐衝撃性を向上させることができる。但し、エラストマーは常温(例えば23℃)でゴム特性を有するものであり、上記非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂には該当しない。常温でゴム特性を有することは、具体的には常温で曲げ弾性率が300MPa以下であるものをいう。は。
エラストマーは、ポリエステル樹脂に配合して、耐衝撃性を改良するのに用いられるエラストマーを広く採用できる。
【0050】
エラストマーの一例は、エポキシ基を含むエラストマーである。エポキシ基を含むエラストマーを含むことにより、より耐衝撃性の高い吸収樹脂部材が得られる傾向にある。
【0051】
エポキシ基を含むエラストマーの第一の実施形態は、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルおよび必要に応じてこれらと共重合可能な不飽和モノマーを共重合することにより得られる共重合体である。全共重合成分中、α-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを60質量%以上用いることが好ましい。
【0052】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1等を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。上記成分と共重合可能なビニル系モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレンなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。
【0053】
第一の実施形態のエポキシ基を含むエラストマーの好ましい例としては、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/酢酸ビニル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/アルキルアクリレート共重合体、エチレン/アルキルアクリレート/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。特に、靭性に優れ、吸収樹脂部材の耐湿熱性および耐衝撃性をより向上させる観点から、エチレン/グリシジルメタクリレート/アルキルアクリレート(好ましくはブチルアクリレート)共重合体が好ましい。第一の実施形態のエポキシ基を含むエラストマーの具体例としては、アルケマ製の“ロタダー”(登録商標)AX8900、AX8700という商品名で入手できる。
【0054】
エポキシ基を含むエラストマーの第二の実施形態は、コアシェル型エラストマーである。コアシェル型エラストマーを用いることにより、分子粒径が小さいためポリブチレンテレフタレート樹脂中で分散しやすく、反応性基の反応によって溶着強度が高まる傾向にある。コアシェル型エラストマーとは、コアの重合体に、単量体成分をグラフト共重合したものが例示される。
コアは、ゴム質重合体であることが好ましく、アクリロニトリル・アクリル系ゴム質重合体・スチレングラフト共重合体(ASA樹脂)、メチルメタクリレート・アクリル系ゴム質重合体・スチレングラフト共重合体(MSA樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・アクリル系ゴム質重合体・スチレングラフト共重合体(MASA樹脂)、ポリオルガノシロキサン含有ゴム質重合体等が例示され、ポリオルガノシロキサン含有ゴム質重合体が好ましい。
ポリオルガノシロキサン含有ゴム質重合体は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、さらには-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリオルガノシロキサンゴムを含有していれば特に制限はなく、例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとの(IPN型)複合ゴム等が挙げられる。
【0055】
コアとグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。
【0056】
ゴム質重合体、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、特開2019-059813号公報の段落0042~0046の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0057】
第二の実施形態のエポキシ基を含むエラストマーは、ポリオルガノシロキサン含有ゴム質重合体(好ましくは、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとの複合ゴム)に、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合した化合物であることが好ましい。
【0058】
第二の実施形態のエポキシ基を含むエラストマーの具体例としては、例えば、三菱レイヨン社製「メタブレン(登録商標、以下同じ)S-2002」、「メタブレンS-2200」等が挙げられる。
【0059】
エラストマーの他の一例は、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が挙げられる。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0060】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、更には-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0061】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、エポキシ基を含むエラストマーの第二の実施形態で述べたゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例と同様である。
【0062】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。尚、本実施形態におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0063】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。このようなゴム質重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0064】
このようなエラストマーとしては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標、以下同じ)EXL2602」、「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2655」、「パラロイドEXL2311」、「パラロイドEXL2313」、「パラロイドEXL2315」、「パラロイドKM330」、「パラロイドKM336P」、「パラロイドKCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標、以下同じ)C-223A」、「メタブレンE-901」、「メタブレンS-2001」、「メタブレンSRK-200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標、以下同じ)M-511」、「カネエースM-600」、「カネエースM-400」、「カネエースM-580」、「カネエースM-711」、「カネエースMR-01」、宇部興産製の「UBESTA XPA」等が挙げられる。
【0065】
エラストマー(特に、エポキシ基を含むエラストマー)は、JIS K7210に従い、190℃、荷重2.16kgfで測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.1~50g/10分であることが好ましく、0.5~30g/10分であることがより好ましい。MFRを上記範囲とすることにより、外観不良をより効果的に抑制しつつ、耐衝撃性が向上する傾向にある。
【0066】
本実施形態の樹脂組成物がエラストマーを含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、9質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐衝撃性がより向上し、レーザー溶着強度も向上する傾向にある。また、前記エラストマーの含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが一層好ましく、15質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、レーザー溶着強度低下を抑制する効果がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物はエラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0067】
<反応性化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、反応性化合物(好ましくは、エポキシ化合物)を含んでいてもよい。反応性化合物を含むことにより、溶着強度が高くなる傾向にある。ただし、反応性化合物がエラストマーにも該当する場合、本明細書においては、エラストマーに分類されるものとする。
反応性化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端に存在するカルボキシ基やヒドロキシ基と化学反応し、架橋反応や鎖長延長が生じ得る化合物が好ましい。反応性化合物としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基(環)を有する化合物、オキサジン基(環)を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物、およびアミド基を有する化合物からなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましく、エポキシ化合物およびカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、エポキシ化合物を含むことがさらに好ましい。特に、本実施形態の樹脂組成物は、反応性化合物の90質量%以上、さらには95質量%以上、特には99質量%以上がエポキシ化合物であることが好ましい。
エポキシ化合物は、一分子中に一個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に定めるものではなく、公知のエポキシ化合物を広く採用することができる。エポキシ化合物を含むことにより、レーザー照射条件幅が広がる傾向にある。
【0068】
エポキシ化合物としては、グリシジル化合物、芳香族環を有するエポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物が挙げられ、芳香族環を有するエポキシ化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0069】
エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテルを含む)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(ビスフェノールFジグリシジルエーテルを含む)、ビフェニル型エポキシ化合物(ビス(グリシジルオキシ)ビフェニルを含む)、レゾルシン型エポキシ化合物(レゾルシノールジグリシジルエーテルを含む)、ノボラック型エポキシ化合物、安息香酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステルなどの芳香族環を有するエポキシ化合物、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルなどの(ジ)グリシジルエーテル類、ソルビン酸グリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油などのパラフィン系(例えば飽和脂肪酸系)またはオレフィン系(例えば不飽和脂肪酸系)の(ジ)グリシジルエステル類、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環式エポキシ化合物類が挙げられる。
中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物等が好ましく、特にオルソクレゾール/ノボラック型エポキシ樹脂(O-クレゾール・ホルムアルデヒド重縮合物のポリグリシジルエーテル化合物)がより好ましい。
市販のものとしては、「Joncryl ADR4368C」(商品名:BASF社製)、エピコート1003(商品名:三菱ケミカル社製)、新日鉄住金化学社製(商品名:YDCN704)などが挙げられる。
【0070】
エポキシ化合物は、重量平均分子量が15000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。下限値については、特に定めるものではないが、重量平均分子量が100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本実施形態の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0071】
エポキシ化合物は、エポキシ当量が100g/eq以上または100g/mol以上であることが好ましく、より好ましくは150g/eq以上または150g/mol以上である。また、エポキシ化合物は、エポキシ当量が1500g/eqまたは1500g/mol以下であることが好ましく、800g/eq以下または800g/mol以下であることがより好ましく、200g/eq以下または200g/mol以下であることがさらに好ましい。
エポキシ当量を上記下限値以上とすることにより、流動性が高くなり成形しやすくなる傾向にある。上記上限値以下とすることにより、溶着強度や溶着体の耐加水分解性がより高くなる傾向にある。
【0072】
本実施形態の樹脂組成物が、反応性化合物(好ましくは、エポキシ化合物)を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.2質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、溶着強度が高くなり、樹脂組成物の耐加水分解性が向上する傾向にある。また、前記反応性化合物の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、18質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが一層好ましく、3質量部以下であることがより一層好ましく、1質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、流動性がより高くなり成形性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、反応性化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0073】
<無機充填剤>
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤を含むことにより、得られる吸収樹脂部材の機械的強度を高くすることができる。
無機充填剤は、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の無機充填剤を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填剤;ガラスフレーク、グラファイト等の鱗片状の充填剤を用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の充填剤、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Dガラス、Mガラス、Rガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)がポリブチレンテレフタレート樹脂に悪影響を及ぼさないので好ましい。
繊維とは、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状、楕円状、または、多角形状等であって、断面に比して長さが十分に長い、繊維状外観を呈するものが例示される。
【0074】
本実施形態の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよいが、チョップドストランドが好ましい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0075】
また、本実施形態ではガラス繊維として、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、更には2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。かかる扁平ガラスについては、特開2011-195820号公報の段落番号0065~0072の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物が無機充填剤(好ましくはガラス繊維)を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、35質量部以上であることがさらに好ましく、40質量部以上であることが一層好ましく、45質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる吸収樹脂部材の機械的硬度がより向上する傾向にある。前記無機充填剤の含有量の上限はポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましく、60質量部以下であることが一層好ましく、55質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、引張伸び低下を抑制する効果がより向上する傾向にある。
【0077】
また、本実施形態の樹脂組成物が無機充填剤(好ましくはガラス繊維)を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる吸収樹脂部材の機械的硬度がより向上する傾向にある。前記無機充填剤の含有量の上限は、樹脂組成物中、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、引張伸び低下を抑制する効果がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は無機充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0078】
<安定剤>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、フェノール系安定剤(好ましくは、ヒンダードフェノール系安定剤)、ヒンダードアミン系安定剤、リン系安定剤、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、フェノール系安定剤、リン系安定剤および硫黄系安定剤が好ましい。
安定剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載、特開2020-147662号公報の段落0051~0060を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0079】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.10質量部以上含むことがより好ましい。また、前記安定剤の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0080】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ワックス、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
これらの詳細は、国際公開第2020/013127号の段落0112~0121の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0081】
離型剤の含有量は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることにより離型性の効果が十分に得られやすく、離型剤の含有量が前記範囲の上限値以下とすることにより、十分な耐加水分解性が得られ、また射出成形時の金型汚染などが生じにくくなる。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0082】
<その他の成分>
樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
具体的には、難燃剤、難燃助剤、核剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂、カーボンブラック、ならびに、必要に応じ配合される成分の合計が100質量%であり、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂、カーボンブラック、反応性化合物、エラストマー、無機充填剤、安定剤および離型剤の合計が90~100質量%を占めることが好ましく、95~100質量%を占めることがさらに好ましく、99~100質量%を占めることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂とのSP値の差の絶対値(|SP1-SP2|)が0~3.0である熱可塑性樹脂)以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、前記他の熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の総量の10質量%以下であることを意味し、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
【0083】
<<物性>>
次に、本実施形態の樹脂組成物の好ましい値について述べる。
本実施形態の樹脂組成物は、機械的強度に優れていることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、4mm厚さのISO試験片に成形し、ISO178に従った曲げ強さが、100MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがより好ましい。また、上限値については、特に定めるものではないが、例えば、300MPa以下が実際的であり、250MPa以下でも十分に性能要求を満たすものである。
【0084】
本実施形態の樹脂組成物は、4mm厚さのISO試験片に成形し、ISO179に従ったノッチ付きシャルピー衝撃強さが、5kJ/m2以上であることが好ましく、7kJ/m2以上であることがより好ましい。また、上限値については、特に定めるものではないが、例えば、50kJ/m2以下が実際的であり、30kJ/m2以下でも十分に性能要求を満たすものである。
【0085】
本実施形態の樹脂組成物は、流動性に優れていることが好ましい。具体的には、JIS K7210に従い、温度250℃、荷重5.0kgfの条件で単位時間当たりのメルトボリュームレイト(MVR)が13.0cm3/10分以上であることが好ましく、15.0cm3/10分以上であることがより好ましい。前記MVRの上限値としては、例えば、20cm3/10分以下であってもよい。
【0086】
<樹脂組成物の用途>
本実施形態の樹脂組成物は、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【0087】
より具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、好ましくはレーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物の用途の一例は、レーザー溶着時の吸収樹脂部材である。
吸収樹脂部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。レーザー溶着では、透過樹脂部材を透過したレーザー光が、吸収樹脂部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。
【0088】
本実施形態の樹脂組成物は、また、レーザーマーキング用に用いられる。特に、レーザー溶着時のレーザー光吸収側に用いられ、かつ、レーザーマーキング用である樹脂組成物として好適である。
【0089】
一方、レーザー溶着の際に用いられるレーザー透過樹脂部材(透過樹脂部材)は、ポリエステル樹脂と光透過性染料を含むレーザー透過性樹脂組成物であって、レーザー透過性樹脂組成物を1.5mmの厚さに成形したときの波長1064nmにおける光線透過率が5%以上(上限は例えば50%以下)である樹脂組成物から形成されることが好ましい。
ポリエステル樹脂の詳細は、上記樹脂組成物の項で述べたポリエステル樹脂と同様であり、好ましい範囲も同様である。
光透過性色素の詳細は後述する。
【0090】
透過樹脂部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。レーザー溶着では、透過樹脂部材を透過したレーザー光が、吸収樹脂部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。ここで、レーザー光が透過する透過樹脂部材の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。下限値は、例えば、100μm以上である。
【0091】
レーザー透過性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ポリカーボネート樹脂の詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物の項で述べたポリカーボネート樹脂と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0092】
レーザー透過性樹脂組成物は、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーの詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物の項で述べたエラストマーと同様であり、好ましい範囲も同様である。
レーザー透過性樹脂組成物は、反応性化合物を含んでいてもよい。反応性化合物の詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物の項で述べた反応性化合物と同様であり、好ましい範囲も同様である。
レーザー透過性樹脂組成物は、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤の詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物の項で述べた無機充填剤と同様であり、好ましい範囲も同様である。
レーザー透過性樹脂組成物は、離型剤および/または安定剤を含んでいてもよい。離型剤および/または安定剤の詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物の項で述べた離型剤および/または安定剤と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0093】
<<光透過性色素>>
次に、レーザー透過性樹脂組成物に含まれる光透過性色素について説明する。
光透過性色素は、レーザー溶着のためのレーザーを一定割合以上透過する色素であれば、特に定めるものではなく、公知の色素を用いることができる。
光透過性色素とは、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(例えば、ノバデュラン(登録商標)5008)と、ガラス繊維(例えば、日本電気硝子社製、商品名:T-127)30質量%と、色素(光透過性色素と思われる色素)0.2質量%を合計100質量%となるように配合し、光線透過率を測定したときに、透過率が5%以上となる色素を含む。また、本実施形態における透過性色素を配合することにより、例えば、レーザー透過性樹脂組成物を1.5mmの厚さに成形したときの波長1064nmにおける透過率を5%以上とことができる。
光透過性色素は通常染料である。
光透過性色素は、その用途に応じて適宜選択することができ、その色も特に定めるものではない。本実施形態で用いる光透過性色素は、黒色色素および/または2種以上の有彩色色素を含む黒色色素組成物であることが好ましい。黒色色素組成物とは、赤、青、緑等の有彩色色素が2種以上組み合わさって、黒色を呈する組成物を意味する。
黒色色素組成物の第一の実施形態は、緑色色素と赤色色素を含む形態である。黒色色素組成物の第二の実施形態は、赤色色素と青色色素と黄色色素を含む形態である。
光透過性色素の具体例としては、ニグロシン、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリノン、クオテリレン、アゾ、アゾメチン、アントラキノン、ピラゾロン、スクエア酸誘導体、ペリレン、クロム錯体、およびインモニウム等が挙げられ、アゾメチン、アントラキノン、ペリノンが好ましく、その中でもアントラキノン、ペリノンがより好ましい。
【0094】
市販品としては、オリエント化学工業社製の着色剤であるe-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701H、有本化学社製の着色剤であるPlast Yellow 8000、Plast Red M 8315、Plast Red 8370、Oil Green 5602、LANXESS社製の着色剤であるMacrolex Yellow 3G、Macrolex Red EG、Macrolex Green 5B、 紀和化学工業社製のKP Plast HK、KP Plast Red HG、KP Plast Red H2G、KP Plast Blue R、KP Plast Blue GR、KP Plast Green G等が例示される。
また、特許第4157300号公報に記載の色素、特許第4040460号公報に記載の色素も採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0095】
本実施形態で用いるレーザー透過性樹脂組成物は、光透過性色素を、ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.001~5質量部含むことが好ましい。前記含有量の下限値は、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.2質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、透過樹脂部材が着色され、レーザー溶着品の意匠性が高まる。また、前記含有量の上限値は、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、0.8質量部以下であることが一層好ましく、0.5質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、光透過性色素のブリードアウトを効果的に抑制することができる。
レーザー透過性樹脂組成物は、光透過性色素を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0096】
レーザー透過性樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
具体的には、難燃剤、難燃助剤、核剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
本実施形態で用いるレーザー透過性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂および光透過性色素、ならびに、必要に応じ配合される成分の合計が100質量%であり、ポリエステル樹脂および光透過性色素、ならびに、必要に応じ配合されるポリカーボネート樹脂、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、反応性化合物、エラストマー、無機充填剤、安定剤および離型剤の合計が90~100質量%を占めることが好ましく、95~100質量%を占めることがさらに好ましく、99~100質量%を占めることが一層好ましい。
【0097】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物およびレーザー透過性樹脂組成物は、樹脂組成物の調製の常法によって製造できる。通常は各成分および所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、樹脂組成物を調製することもできる。
本実施形態の樹脂組成物は、特に、ポリエステル樹脂ならびに非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、カーボンブラック0.01質量部以上0.4質量部以下を添加して溶融混練することを含み、前記非晶性樹脂および/または第2の熱可塑性樹脂)の少なくとも一部は、前記カーボンブラックのマスターバッチとして添加することを含むことが好ましい。
なお、ガラス繊維等の繊維状の無機充填剤を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0098】
<吸収樹脂部材および透過樹脂部材の製造方法>
吸収樹脂部材および透過樹脂部材の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
射出成形の詳細は、特許第6183822号公報の段落0113~0116の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0099】
<レーザー溶着品の製造方法>
次に、レーザー溶着方法について説明する。本実施形態では、透過樹脂部材と吸収樹脂部材をレーザー溶着させてレーザー溶着品とすることができる。レーザー溶着することによって透過樹脂部材と吸収樹脂部材を、接着剤を用いずに、強固に溶着することができる。
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とは、公知のいずれのレーザー溶着法によって、レーザー溶着されてもよいが、ガルバノスキャニング式レーザー溶着に適している。ガルバノスキャニング式レーザー溶着とは、準同時溶着(Quasi-simultaneous welding)とも呼ばれ、内蔵のガルバノミラーでレーザー光を走査する方式である。ガルバノスキャニング式レーザー溶着を用いることにより、溶着部全体がほぼ同時に加熱されるため、得られるレーザー溶着品の残留応力が小さくなる傾向にある。
すなわち、本実施形態のレーザー溶着品の製造方法は、本実施形態のキット、または、本実施形態の樹脂組成物と、1.5mmの厚さに成形したときの波長1064nmにおける光線透過率が5%以上25%未満であるレーザー透過性樹脂組成物とを用い、ガルバノスキャニング式レーザー溶着によって行うことが好ましい例として挙げられる。
【0100】
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、光吸収性色素の光の吸収波長に応じて定めることができ、波長800~1100nmの範囲のレーザーが好ましい。照射するレーザー光の種類としては、例えば固体レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザー等を挙げることができる。例えばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)レーザー(波長1064nm、1070nm)、LD(レーザーダイオード)レーザー(波長808nm、840nm、940nm、980nm)等を好ましく用いることができる。中でも、波長940nm、980nm、1070nmのレーザー光が好ましい。
【0101】
レーザー焦点径は、直径0.1mm以上であることが好ましく、直径0.2mm以上がより好ましく、直径0.5mm以上が一層好ましい。前記上限値以下にすることによって、レーザー溶着部の溶着強度をより高めることができる。また、レーザー照射径は直径30mm以下であることが好ましく、10mm以下がより好ましく、3.0mm以下が一層好ましい。前記下限値以上にすることによって、溶着幅をより効果的に制御することができる。
なお、溶着面の幅、高さに合わせて、レーザー光の焦点径を選択することができる。
また、レーザー光は、接合面にフォーカスしてもよいしデフォーカスしてもよく、求める溶着体に応じて適宜選択することが好ましい。
【0102】
レーザー出力は、1W以上であることが好ましく、10W以上がより好ましく、30W以上がさらに好ましく、100W以上が一層好ましい。前記下限値以上にすることによって、溶着時間が短くてもより十分な溶着強度を得ることができる。また、レーザー出力は1000W以下が好ましく、500W以下がより好ましく、400W以下が更に好ましく、300W以下が一層好ましい。前記上限値以下にすることによってレーザー溶着設備費用を効果的に抑えることができる。
レーザー照射速度は、10mm/s以上が好ましく、30mm/s以上がより好ましく、50mm/s以上が更に好ましく、500mm/s以上が一層好ましい。前記下限値以上にすることによって、レーザー溶着品の残留応力をより効果的に低減することができる。また、レーザー照射速度は20000mm/s以下が好ましく、10000mm/s以下がより好ましく、5000mm/s以下が更に好ましく、3000mm/s以下がより一層好ましい。前記上限値以下にすることによって、溶着体についてより十分な溶着強度を得ることができる。また、レーザー走査方法に関しては、溶着効率、溶着強度、溶着外観および装置負荷の観点から、接合面の形状に合わせて、レーザーの出力、溶着予定ライン、走査速度、および/または走査方法を調整することが好ましい。
【0103】
より具体的には、例えば、透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。重ね合わされた状態を維持する際、透過樹脂部材の上、つまりレーザー照射側にガラス板、石英板、アクリル板などの透明板材を配置して加圧してもよい。特にガラス板、または石英板を配置する場合は、レーザー溶着時に発生する熱の放熱を促進し、良好な外観を得るのに適している。また、透過樹脂部材の溶着予定部周辺を囲う金属板で加圧してもよい。
次いで、透過樹脂部材側からレーザー光を照射する。この時、必要によりレンズを利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、透過樹脂部材中を透過し、吸収樹脂部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって透過樹脂部材にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして透過樹脂部材と吸収樹脂部材のレーザー溶着品は、高い溶着強度を有する。なお、本実施形態におけるレーザー溶着品とは、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0104】
上記レーザー透過性樹脂組成物から形成された透過樹脂部材と、樹脂組成物から形成された吸収樹脂部材とのレーザー溶着品は、そのレーザー溶着強度を800N以上とすることができ、1000N以上とすることができ、1100N以上とすることができ、1200N以上とすることもできる。レーザー溶着強度の上限値は、特に定めるものではないが、4000N以下が実際的である。レーザー溶着強度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0105】
<キット、および、レーザー溶着品>
本実施形態のキットは、本実施形態の樹脂組成物とレーザー透過性樹脂組成物とを有する。前記キットにおいては、本実施形態の樹脂組成物が、レーザー光吸収性樹脂組成物としての役割を果たす。このようなキットはレーザー溶着性に優れたものとなり、レーザー溶着による成形品(レーザー溶着品)の製造のためのキットとして好ましく用いられる。さらに、レーザーマーキングも行うことができる。
すなわち、キットに含まれる本実施形態の樹脂組成物は、レーザー光吸収性樹脂組成物としての役割を果たし、かかるレーザー光吸収性樹脂組成物から形成された成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する吸収樹脂部材となる。また、本実施形態のキットは、本実施形態の樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とポリエステル樹脂と光透過性色素とを含むレーザー透過性樹脂組成物とを有するキットであってもよい。
また、本実施形態のレーザー溶着品は、本実施形態の樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材にレーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、レーザー吸収樹脂部材と、ポリエステル樹脂と光透過性色素とを含むレーザー透過性樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材とをレーザー溶着することを含む製造方法によって製造できる。本実施形態のレーザー溶着品を製造する場合、レーザー溶着とレーザーマーキングはいずれを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。本実施形態の樹脂組成物から形成された吸収樹脂部材はレーザーマーキングが可能である。
【0106】
本実施形態でレーザー溶着して得られた成形品は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、車載用電子部品・センサー部品(ミリ波レーダー、LiDAR、ECUケース、ソナーセンサーなどの筐体)、電子制御スロットルボディ、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物およびキットは、車載カメラ部品および車載カメラ部品を含む車載カメラモジュールやミリ波レーダーモジュール、センサーモジュール、電動パーキングブレーキ(EPB)部品に適している。
【実施例0107】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0108】
1.原料
以下の原料を用いた。
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
2.実施例1、2、比較例1~6
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
表3または表4に示すように、ガラス繊維以外の成分をステンレス製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。表3または表4の各成分は質量部表記である。得られた混合物を、30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、ガラス繊維(GF)はホッパーから7番目のサイドフィーダーより供給し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0111】
<樹脂組成物のMVR>
上記で得られたペレットを、JIS K7210に従い、温度250℃、荷重5.0kgfの条件で単位時間当たりのメルトボリュームレイト(MVR、単位:cm3/10min)を測定した。
測定に際しては、タカラ工業(株)製メルトインデクサーを用いた。
MVRの値が高いほど流動性に優れていると言える。
【0112】
<曲げ特性>
上記で得られたペレットを、110℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、4mm厚のISO試験片を射出成形した。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0113】
<ノッチ付きシャルピー衝撃強さ>
上記で得られたペレットを、110℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、4mm厚のISO試験片を射出成形した。
ISO179に従い、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0114】
<円盤反り>
上記樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、直径100mm、厚み1.6mmの円盤をサイドゲート金型により充填時間0.5秒、保圧はピーク圧の5割で成形し、成形後23℃50%RH環境下で1晩放置後、キーエンス社製三次元測定機(VLシリーズ)を用いて円盤の反り量(単位:mm)を求めた。各試料について5回測定し、平均値を算出した。
【0115】
<レーザー溶着強度>
<<レーザー透過性樹脂組成物(ペレット)の製造>>
レーザー透過性樹脂組成物の原料として以下のものを用いた。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 5008-C):47質量部
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 H―4000FN):20質量部
核剤(林化成社製 ミクロンホワイト5000S):0.005質量部
安定剤(ADEKA社製 アデカスタブAX―71):0.1質量部
安定剤(ADEKA社製 アデカスタブAO-60):0.2質量部
反応性化合物(長春社製 CNE220):1.0質量部
離型剤(クラリアント社製 リコワックスE):0.4質量部
染料1(有本化学社製 Plast Red 8370):0.42質量部
染料2(紀和化学工業社製 KP Plast Blue R):0.45質量部
染料3(紀和化学工業社製 KP Plast Yellow HK):0.38質量部
無機顔料(東罐マテリアルテクノロジー社製 42-920A):0.1質量部
ガラス(日本電気硝子社製 T―127):30質量部
【0116】
上記のうち、ガラス繊維以外の成分をステンレス製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。得られた混合物を、30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、ガラス繊維(GF)はホッパーから7番目のサイドフィーダーより供給し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、レーザー透過性樹脂組成物(ペレット)を製造した。
【0117】
<<透過樹脂部材の透過率>>
レーザー透過性樹脂組成物ペレットを120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)を用いてシリンダー温度260℃、金型温度60℃、および、射出速度90mm/secの射出条件で、透過率測定用の60mm×60mm×厚さ1.5mmの透過率測定用(透過樹脂部材)プレートを射出成形し、ゲート側より45mmの地点から、かつ、試験プレートの幅の中心部に於いて、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長1064nmにおける透過率(%)を求めたところ、透過率は41%であった。
紫外可視近赤外分光光度計は、島津製作所社製「UV-3100PC」積分球付きを用いた。
【0118】
<<透過樹脂部材の作製>>
上記で得られたレーザー透過性樹脂組成物を120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で成形して、図1に示すような、厚さ1.5mmの成形品(透過樹脂部材I)を作製した。
【0119】
<<吸収樹脂部材の作製>>
上記で得られた光吸収性樹脂ペレットを120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で成形して、図2に示すような、リブ部の厚さが1.0mmの成形品(吸収樹脂部材II)を作製した。
【0120】
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とを、図3に示すように、箱状の吸収樹脂部材IIに蓋状の透過樹脂部材Iを重ね、透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIの重なり部分である鍔部の垂直上方位置にレーザー光源を配置し、ガラス板を用いて透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIの重なり部分に厚み方向両側から内側方向に4.92N/mmの押し力(溶着時押し出し力)を掛けつつ、下記条件にて、レーザーを照射してレーザー溶着品を得た。
溶着装置は以下の通りである。
【0121】
<<ガルバノスキャニング式レーザー溶着>>
レーザー装置:IPG社製 YLR-300-AC-Y14
波長:1070nm
コリメータ:7.5mm
レーザータイプ:ファイバー
レーザー出力:150W
ガルバノスキャナ:ARGES社製 Fiber Elephants21
アパーチャー:21mm
レーザー照射速度:900mm/s
レーザー照射周数:20周または25周
溶着部円周:137mm
溶着面に照射されるスポット径が直径2mmになるように、レーザー光をデフォーカスしてレーザースキャナの位置調整をした。
【0122】
<<レーザー溶着強度の測定>>
図4に示すように、それぞれ穴21、22をあけて、溶着力測定用の冶具23、24を内部に入れた状態で、上記で作製した透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIからなる箱体の上面および下面からそれぞれに測定用冶具25、26を挿入して、内部に収納した冶具23、24とそれぞれ結合させ、上下に引っ張って(引張速度:5mm/min)、透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIが離れる強度(溶着強度)を測定した。
尚、装置はORIENTEC社製、1tテンシロンの万能型試験機(ロードセル10kN)を使用した。
【0123】
<レーザーマーキング性>
上記で得られた吸収樹脂部材の中央部に、以下の条件で10mm×10mm四方のサイズでレーザーマーキングをした。以下に示すA~Dの4段階で評価した。
レーザーマーキング装置:Panasonic社製 LP-Z310
レーザーの種類:Ybファイバーレーザー(波長1064nm)
レーザーパワー:30W
スキャンスピード:600mm/s
印字パルス周期:50μs
<<評価>>
レーザーマーキング後、目視観察により、非マーキング部に対するマーキング部の視認性を確認し、以下評価基準で評価した。評価は5人の専門家が行い多数決で判断した。
A:目視によりマーキング部と非マーキング部が識別できる程度の視認性が得られている
B:目視によりマーキング部の視認性が悪かった
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
上記表3および表4において、「樹脂のSP値の差」とは、PBTのSP値とカーボンブラックのマスターバッチに用いた樹脂のSP値の絶対値の差(|SP1-SP2|)を示している。
上記表3および表4において、「CBそのものの量」とは、ポリエステル樹脂および非晶性樹脂を合わせて100質量部に対するカーボンブラックの量(質量部)を示している。すなわち、マスターバッチ化に用いた樹脂を含まないカーボンブラックそのものの量を示している。
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物から成形された成形品は、レーザー溶着強度が高く、レーザーマーキングが可能であった(実施例1、2)。
これに対し、カーボンブラックが非晶性樹脂、または、所定のSP値を満たす熱可塑性樹脂によってマスターバッチ化されていない場合(比較例1、比較例3~6)、レーザー溶着性が劣っていた。また、レーザーマーキング部の視認性が劣っていた。
一方、カーボンブラックが非晶性樹脂、または、所定のSP値を満たす熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されても、カーボンブラックの配合量が多い場合(比較例2)、レーザーマーキングは可能であったが、レーザー溶着性に劣っていた。
【符号の説明】
【0127】
21、22 穴
23、24 溶着力測定用の冶具
25、26 測定用冶具
図1
図2
図3
図4