(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145463
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電解液及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20241004BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241004BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241004BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241004BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20241004BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241004BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/133
H01G11/60
H01G11/64
H01M6/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057825
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米丸 裕之
【テーマコード(参考)】
5E078
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078DA03
5E078DA14
5H024BB07
5H024BB08
5H024CC04
5H024FF14
5H024FF15
5H024FF17
5H024FF19
5H024HH01
5H024HH11
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ14
5H050AA06
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】低温でも高いイオン伝導度を示しながら、且つ安全性の高い電気化学デバイス用電解液;並びにそのような利点を享受する電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】塩及び溶媒を含む電気化学デバイス用の電解液であって、前記溶媒が、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)、及び残部の溶媒成分(SR)からなり、前記電解液100重量%中の前記溶媒成分(SF)の割合が15重量%以上であり、前記溶媒成分(SR)は、引火点80℃超の溶媒成分(SR80)を含み、前記溶媒成分(SR80)は、溶媒成分(SR80A)を含み、前記溶媒成分(SR80A)は、1種類以上の特定の化合物群であり、前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80)の割合、及び前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80A)の割合が特定範囲である、電解液、並びにそれを含む電気化学デバイス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩及び溶媒を含む電気化学デバイス用の電解液であって、
前記溶媒が、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)、及び残部の溶媒成分(SR)からなり、
前記電解液100重量%中の前記溶媒成分(SF)の割合が15重量%以上であり、
前記溶媒成分(SR)は、引火点80℃超の溶媒成分(SR80)を含み、
前記溶媒成分(SR80)は、溶媒成分(SR80A)を含み、
前記溶媒成分(SR80A)は、1種類以上の、炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物であって、且つ、炭素数4以上の環状炭酸エステル、フルオロエチレンカーボネート、炭素数4以上の、分子内にエステル結合を1つ以上有する環状化合物、炭素数3以上のジニトリル、炭素数2以上のスルホン、炭素数4以上のオキサゾリドン誘導体、炭素数5以上のイミダゾリジノン誘導体、炭素数9以上の炭酸エステル、炭素数5以上のラクタム誘導体、及びこれらの混合物からなる群より選択され、
前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80)の割合が90重量%以上であり、
前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80A)の割合が20重量%以上である、電解液。
【請求項2】
前記溶媒成分(SR80)が、エチレンカーボネートを含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記溶媒が、前記溶媒成分(SF)、又は前記溶媒成分(SR80)として、添加剤(B)を含み、
前記添加剤(B)は、環状硫酸エステル化合物、ビニルエチレンカーボネート化合物、及び不飽和結合を有するフッ素化合物からなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の電解液。
【請求項4】
スルトンをさらに含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
前記電解液100重量%中の、前記塩としてのClO4
-、ClO3
-、及びNO3
-の合計の割合が3重量%以下である、請求項1に記載の電解液。
【請求項6】
引火点が80℃超である、請求項1に記載の電解液。
【請求項7】
正極、負極及び電解液を備える電気化学デバイスであって、
前記電解液が、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解液であり、
前記負極が、炭素材料を含む、電気化学デバイス。
【請求項8】
前記負極が、前記炭素材料として黒鉛質を含む負極である、請求項7に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
イオン電池である、請求項7に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
リチウムイオン電池である、請求項9に記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
3Ah以上の蓄電容量を有する、請求項7に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン一次電池、リチウムイオン二次電池及びキャパシタ等の電気化学デバイスに用いうる電解液、並びに当該電解液を含む電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、一次電池、二次電池、及びキャパシタ等の電気化学デバイスは、外装体と、その内部に封入される電解液、電極及びセパレーター等の、デバイスの機能を発現するための内容物とを備える。
一般的に電解液は、所謂電解質として機能する塩成分と、溶媒成分とを含む。溶媒成分としては、従来から種々のものが知られている(例えば特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-348762号公報
【特許文献2】特開2000-223151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学デバイスの電解液には、引火点の低い有機溶媒が用いられることが多い。引火点の低い有機溶媒の例としては、炭酸ジメチル及び炭酸ジエチル等の鎖状カーボネート並びに酢酸メチル及びプロピオン酸エチル等の鎖状エステルが挙げられる。かかる有機溶媒は、電解液が液体の状態を保つことを助け、電解液の低温での性能を改良し、電解液がデバイスの他の構成要素に浸透する浸透性を向上させることに関して有用である。
【0005】
しかしながら、引火点の低い溶媒は即ち引火性が高いものであるために、火災の原因となりやすい。このような引火性の有機溶媒を含まない電解液を採用すれば、デバイスがより安全になると考えられる。
【0006】
しかしながら、引火性が低い溶媒の割合を低減させ、且つ電解液としてのその他の性能(液体の状態の維持、低温での十分なイオン伝導度の発現、浸透性の向上、及び充放電の効率の向上等)を維持することは困難である。具体的には、既知の高引火点溶媒の例としてはプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。プロピレンカーボネート及びγブチロラクトンは、室温で液体であるため液状の電解液を得やすく、低温でのイオン伝導度が比較的高い一方、炭素質、特に黒鉛質材料負極との相性が悪く、充放電効率が低くなりやすい。エチレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネートは、黒鉛を含む炭素質材料負極との相性が良好で、充放電の効率が高いが、室温で固体であるため、液状の電解液を得ることが困難である。特にエチレンカーボネートを主な成分とした溶媒は室温で固化しやすく、低温性能が特に低い。
【0007】
したがって本発明の目的は、低温でも高いイオン伝導度を示しながら、且つ安全性の高い電気化学デバイス用電解液;並びにそのような利点を享受する電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を行った。その結果、電解液を構成する溶媒成分として特定のものを採用し、それらを特定割合で配合することにより、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
(1) 塩及び溶媒を含む電気化学デバイス用の電解液であって、
前記溶媒が、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)、及び残部の溶媒成分(SR)からなり、
前記電解液100重量%中の前記溶媒成分(SF)の割合が15重量%以上であり、
前記溶媒成分(SR)は、引火点80℃超の溶媒成分(SR80)を含み、
前記溶媒成分(SR80)は、溶媒成分(SR80A)を含み、
前記溶媒成分(SR80A)は、1種類以上の、炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物であって、且つ、炭素数4以上の環状炭酸エステル、フルオロエチレンカーボネート、炭素数4以上の、分子内にエステル結合を1つ以上有する環状化合物、炭素数3以上のジニトリル、炭素数2以上のスルホン、炭素数4以上のオキサゾリドン誘導体、炭素数5以上のイミダゾリジノン誘導体、炭素数9以上の炭酸エステル、炭素数5以上のラクタム誘導体、及びこれらの混合物からなる群より選択され、
前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80)の割合が90重量%以上であり、
前記溶媒成分(SR)100重量%中の前記溶媒成分(SR80A)の割合が20重量%以上である、電解液。
(2) 前記溶媒成分(SR80)が、エチレンカーボネートを含む、(1)に記載の電解液。
(3) 前記溶媒が、前記溶媒成分(SF)、又は前記溶媒成分(SR80)として、添加剤(B)を含み、
前記添加剤(B)は、環状硫酸エステル化合物、ビニルエチレンカーボネート化合物、及び不飽和結合を有するフッ素化合物からなる群より選択される一種以上である、(1)又は(2)に記載の電解液。
(4) スルトンをさらに含む、(3)に記載の電解液。
(5) 前記電解液100重量%中の、前記塩としてのClO4
-、ClO3
-、及びNO3
-の合計の割合が3重量%以下である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の電解液。
(6) 引火点が80℃超である、(1)~(5)のいずれか1高に記載の電解液。
(7) 正極、負極及び電解液を備える電気化学デバイスであって、
前記電解液が、(1)~(6)のいずれか1項に記載の電解液であり、
前記負極が、炭素材料を含む、電気化学デバイス。
(8) 前記電極が、前記炭素材料として黒鉛質を含む負極である、(7)に記載の電気化学デバイス。
(9) イオン電池である、(7)又は(8)に記載の電気化学デバイス。
(10) リチウムイオン電池である、(9)に記載の電気化学デバイス。
(11) 3Ah以上の蓄電容量を有する、(7)~(10)のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温でも高いイオン伝導度を示しながら、且つ安全性の高い電気化学デバイス用電解液;並びにそのような利点を享受する電気化学デバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、「溶媒」の文言は広義に解され、分散媒の意味をも包含する。即ち、「溶媒」は、溶液(即ち、液体である媒体の物質と、その中に溶解して存在している溶質である物質との混合物)における媒体のみならず、分散液(即ち、液体である媒体の物質と、その中に固形の粒子又はエマルションの粒子として分散して存在している分散物である物質との混合物)における媒体、及び溶質及び分散物の両方を含んだ混合物における媒体をも包含する。
【0013】
(電解液)
本発明の電解液は、塩及び溶媒を含む。
【0014】
(塩)
塩は、電解液において電解質として機能する成分である。塩は、一般的に、アニオン及びカチオンの組み合わせとして表される。アニオンの例及びカチオンの例としては、電解質を構成するものとして既知の各種のものが挙げられる。
【0015】
アニオンの具体例としては、F-、Cl-、Br-、I-、PF6
-、AsF6
-、BF4
-、B(C2O4)F2
-、B(C2O4)2
-、SbF6
-、AlCl4
-、ClO4
-、CF3SO3
-、C4F9SO3
-、CF3COO-、(CF3CO)2N-、(CF3SO2)3C-、CF2(CF2SO2)2N-(シクロヘキサフルオロプロパン-1,3-ビス(スルホニル)イミド)、(FSO2)2N-(FSI、ビスフルオロスルホニルイミド)、(CF3SO2)2N-(TFSI、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、及び(C2F5SO2)2N-が挙げられる。
塩は、アニオンとしてイミドアニオンを含むことが、液状を呈する温度範囲が広くなる等の効果が得られる観点から好ましい。さらに、イミドアニオンとしては、ビスフルオロスルホニルイミド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド等のフッ素含有スルホニルイミドが、上記観点から特に好ましい。特に、ビスフルオロスルホニルイミドが好ましい。
一方、安全性の観点から、塩は、酸化性のアニオンを含まないか、又は酸化性のアニオンの含有割合が少ないことが好ましい。具体的には、酸化性のアニオンであるClO4
-、ClO3
-、及びNO3
-については、これらを含まないか、又はこれらの含有割合が少ないことが好ましい。より具体的には、電解液100重量%中の、ClO4
-、ClO3
-、及びNO3
-の合計の割合は、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは2重量%以下であり、さらにより好ましくは1重量%以下である。
【0016】
カチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、有機カチオン等の既知のカチオンを使用しうる。それらの具体例としては、Li+、Na+、Mg2+、TEA(トリエチルアンモニウムカチオン)、TBA(トリブチルアンモニウムカチオン)、及びEMI(エチルメチルイミダゾリウムカチオン)が挙げられる。塩は、カチオンとしてアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、またはこれらの組み合わせを含むことが、燃焼性が抑制されるため好ましい。当該好ましい特性を発現する観点から、塩が複数種類のカチオンを含む場合は、塩を構成するカチオンに占めるアルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンのカチオン量の割合は50モル%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の電解液における塩の割合は、特に限定されないが、電解液としての性能を発揮しうる範囲に適宜調整しうる。具体的には、電解液における塩の割合は、好ましくは0.1mol/kg以上、より好ましくは0.3mol/kg以上であり、一方好ましくは10mol/kg以下、より好ましくは6mol/kg以下である。本願において、電解液における塩の割合の単位「mol/kg」は、電解液における塩以外の成分1kgに対する、塩のモル数を示す。一方、塩の割合を単位「mol/L」で表現する場合、電解液全体1リットルに含まれる塩のモル数を示す。
また、本発明の電解液における塩の量は、溶媒成分(SR80)に対してある程度以上多い値であることが、溶媒の揮発性を低減し、燃焼性を抑える観点から好ましい。具体的には、溶媒成分(SR80)/塩のカチオンのモル比は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらにより好ましくは3以下である。
【0018】
(溶媒)
溶媒は、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)、及び残部の溶媒成分(SR)からなる。
【0019】
(溶媒成分(SF))
不燃性のフッ素溶媒成分(SF)とは、溶媒の成分であって、フッ素を含有する分子構造を有し、且つ不燃性の物質である。ここで不燃性の溶媒成分とは、自身の沸点より低い温度において引火点を持たない溶媒成分をいう。
【0020】
電解液が溶媒成分(SF)を含むものであると、容易に、電解液全体も、引火点が高いもの、又は引火点を有しないものとしうる。その結果、何らかの原因で電気化学デバイスが過熱して電解液がデバイス外に放出された場合における、火災の発生等の危険性を低減することができる。
【0021】
本願において、溶媒、その成分、及び電解液等の液体の引火点は、タグ密閉式試験(JIS K 2265-1)、及びクリーブランド開放試験(JIS K 2265-4)に定める引火点測定により評価した値である。79℃までの引火点についてはタグ密閉式試験で評価し、79℃以下の引火点が観測されなかった場合はさらにクリーブランド開放試験で評価する。クリーブランド開放試験でも引火せず、引火点が観測されなかった物質は、引火点80℃以上の物質の範疇に入る。
【0022】
本発明の電解液は、溶媒成分(SF)として、1種類のみの物質を含んでもよく、2種類以上の物質を含んでもよい。2種類以上の物質を含む場合、それらの種類及び割合を適宜調整することにより、所望の沸点及び粘度等の物性を得ることができる。
【0023】
溶媒成分(SF)は、その分子内のフッ素原子の割合が、好ましくは50重量%以上である。フッ素原子の割合が50重量%以上であることにより、電解液の酸化安定性が増し、燃焼性が低下する。
【0024】
溶媒成分(SF)は、-CFH-、-CF2H、-CH2-CF2-、-CH2CF3、及び環構造からなる群より選択される構造の1つ以上を、1つの分子内に1つ以上有することが好ましく、2つ以上有することがより好ましい。これらの構造を有することにより、溶媒成分(SF)分子の極性が高くなり、その結果、塩を溶解する性能をより高めることができる。環構造としては、炭素五員環が特に好ましい。
【0025】
溶媒成分(SF)の具体例としては、環状又は鎖状の炭化水素分子おける水素原子の1以上をフッ素原子により置換した構造を有する化合物、環状又は鎖状の炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる分子おける水素原子の1以上をフッ素原子により置換した構造を有する化合物、及び前記化合物にさらに置換基を加えた構造を有する置換基含有化合物が挙げられる。但し、本願において、溶媒成分及びその他の電解液を構成する物質は、その製造の工程によっては限定されない。
【0026】
環状の炭化水素分子の好ましい例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、及びシクロペンテンが挙げられる。環状の炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる分子の好ましい例としては、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピランが挙げられる。鎖状の炭化水素分子は、直鎖又は分枝鎖のものとしうる。鎖状の炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる分子の好ましい例としては、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテルが挙げられる。置換基含有化合物における置換基の例としては、フッ素原子以外のハロゲン原子、アルキル基、フッ化アルキル基、エーテル基、エステル基、アルコキシ基、及び水酸基が挙げられる。
【0027】
より具体的な、溶媒成分(SF)の好ましい例としては、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(HFCP)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(商品名「アサヒクリンAE-3000」、AGC社製)(HFE1)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル 2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFE2)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(HFE3)、及び3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(P-C1)が挙げられる。
【0028】
電気化学デバイスの発熱、及び高温の環境下での保存及び使用に対応する観点から、溶媒成分(SF)の沸点の下限は、ある程度以上高い温度とすることが好ましい。具体的には、溶媒成分(SF)の沸点は、好ましくは好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらにより好ましくは80℃以上である。
【0029】
溶媒成分(SF)は、沸点の高い物質と沸点の低い物質との混合物とすることが可能である。その場合、上記の観点から、沸点の低い物質の割合は少ないことが好ましい。具体的には、溶媒成分(SF)全体の100重量%における沸点50℃以下の溶媒成分(SF)の割合が50重量%以下であることが好ましく、沸点60℃以下の溶媒成分(SF)の割合が50重量%以下であることがより好ましく、沸点70℃以下の溶媒成分(SF)の割合が50重量%以下であることがさらにより好ましい。
【0030】
一方、電気化学デバイスの動作中に異常が発生し外装内部の圧力が特定の閾値以上に上昇した際に、外装による密封を開放し動作を停止させる機構を構成することを可能とする観点、及びそのような動作停止に際してセパレーター、シーラント等のデバイス構成要素の溶融及び大きな変形が発生することを抑制する観点からは、溶媒成分(SF)の沸点の上限は、ある程度以上低い温度とすることが好ましい。具体的には、溶媒成分(SF)の沸点は、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、さらにより好ましくは150℃以下である。
【0031】
加えて、密封が開放された際に噴き出す蒸気中の、可燃性蒸気の割合を低減し不燃性蒸気の割合を高める観点から、溶媒成分(SF)の沸点は、溶媒成分(SR80A)よりも低いことが好ましい。またこの観点から、溶媒成分(SF)の沸点は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらにより好ましくは90℃以下である。
【0032】
溶媒成分(SF)の誘電率は、大きい値であることが好ましい。誘電率(測定周波数1kHz)は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらにより好ましくは10以上である。誘電率が高い溶媒成分(SF)は、他の溶媒成分との混和性に優れ、幅広い条件で相溶することができる。かかる誘電率の上限は、特に限定されないが、例えば50以下としうる。
【0033】
本発明の電解液は、溶媒成分(SF)を特定の値以上の大きな割合で含む。本願では、電解液100重量%中の溶媒成分(SF)の重量百分率を「(SF)%」と略記することがある。(SF)%は、15重量%以上、好ましくは17重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。溶媒成分の割合の上限は、特に限定されないが例えば50重量%以下としうる。(SF)%が15重量%以上であることにより、電解液の引火点を引き上げ、引火性を低減することができる。さらに、溶媒成分(SF)の割合を30重量%以上といった大きな値とすることにより、電解液全体を非危険物とすることもできる。
【0034】
また、溶媒全体における、溶媒成分(SF)の割合は、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、一方好ましくは90重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。溶媒中の溶媒成分(SF)の割合が前記下限以上であることにより、電解液の引火性を弱めて、電解液の安全性を高めることができる。一方溶媒中の溶媒成分(SF)の割合が前記上限以下であることにより、弱い引火性と、良好な相溶性と、低温での高いイオン電導度を両立することができる。
【0035】
(残部の溶媒成分(SR))
溶媒成分(SR)は、溶媒のうちの、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)以外の成分である。溶媒成分(SR)は、引火点80℃超の溶媒成分(SR80)を含む。溶媒成分(SR80)は、溶媒成分(SR80A)を含む。
【0036】
本願において、説明の便宜のため、溶媒成分(SR)のうちの、溶媒成分(SR80)以外の成分を溶媒成分(SRL)という。また、溶媒成分(SR80)のうちの、溶媒成分(SR80A)以外の成分を溶媒成分(SR80R)という。
【0037】
(溶媒成分(SR80A))
溶媒成分(SR80A)は、1種類以上の、炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物であって、且つ、下記の化合物(i)~(ix)及びこれらの混合物からなる群より選択される。分子又は基の構造に関する記述における「炭素数」は、1分子あたり又は1の基あたりの炭素原子数を意味する。炭素以外の原子及び置換基等の数の表現も同様である。
化合物(i):炭素数4以上の環状炭酸エステル
化合物(ii):フルオロエチレンカーボネート
化合物(iii):炭素数4以上の、分子内にエステル結合を1つ以上有する環状化合物
化合物(iv):炭素数3以上のジニトリル
化合物(v):炭素数2以上のスルホン
化合物(vi):炭素数4以上のオキサゾリドン誘導体
化合物(vii):炭素数5以上のイミダゾリジノン誘導体
化合物(viii):炭素数9以上の炭酸エステル
化合物(ix):炭素数5以上のラクタム誘導体
【0038】
化合物(i)(炭素数4以上の環状炭酸エステル)は、下記式(i)で表される構造を有する、炭素数4以上の化合物である。化合物(i)の炭素数の上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらにより好ましくは6以下としうる。
【0039】
【化1】
式(i)中、R
1は、炭素数3以上の基である。R
1は、好ましくは炭素数3~5の炭化水素基であり、より好ましくは-(CH
2)n1-(n1は3~5の整数)である。化合物(i)の具体例としては、炭酸プロピレン(n1=3)及び炭酸ブチレン(n1=4)が挙げられる。
【0040】
化合物(ii)(フルオロエチレンカーボネート)は、エチレンカーボネートの水素原子の1つがフッ素に置換された構造を有する。
【0041】
化合物(iii)(炭素数4以上の、分子内にエステル結合を1つ以上有する環状化合物)の例としては、炭素数4以上のラクトン、及び炭素数4以上の分子内にエステル結合を2つ有する環状化合物が挙げられる。化合物(iii)の炭素数の上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらにより好ましくは6以下としうる。炭素数4以上のラクトンは、下記式(iii)で表される構造を有する、炭素数4以上の化合物である。
【0042】
【0043】
式(iii)中、R2は、炭素数3以上の基である。R2は、好ましくは炭素数3~5の炭化水素基であり、より好ましくは-(CH2)n2-(n2は3~5の整数)である。化合物(iii)の具体例としては、γ-ブチロラクトン(n2=3)及びδ-バレロラクトン(n2=4)が挙げられる。一方、化合物(iii)のうち分子内にエステル結合を2つ有するものの例としては、グリコリド及びラクチドが挙げられる。
【0044】
化合物(iv)(炭素数3以上のジニトリル)の例としては、式NC-R3-CNで表される構造を有する化合物が挙げられる。化合物(iv)の炭素数の上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下としうる。R3は、炭素数1以上の基であり、より好ましくは、炭素数1~6の炭化水素基、又は炭素数1~6の炭化水素基の鎖中に酸素原子が介在しエーテル構造を有する基である。化合物(iv)の具体例としては、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、及び3,3’-オキシジプロピオニトリルが挙げられる。
【0045】
化合物(v)(炭素数2以上のスルホン)の炭素数の上限は、好ましくは10以下、より好ましくは7以下としうる。化合物(v)の例としては、R4-SO2-R5で表される構造を有する化合物が挙げられる。R4及びR5は、水素原子または炭素数1以上の基、好ましくはいずれも炭素数1以上の基であり、R4の炭素数及びR5の炭素数の合計は2以上である。R4及びR5は結合して環を形成してもよい。R4の炭素数及びR5の炭素数の合計(R4及びR5が結合して環を形成する場合、R4及びR5が結合してなる部分の炭素数)は、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。化合物(v)の具体例としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン及びスルホランが挙げられる。
【0046】
化合物(vi)(炭素数4以上のオキサゾリドン誘導体)は、2-オキサゾリドンの炭素原子または窒素原子に結合する水素原子を、1以上の置換基で置換した構造を有する、炭素数4以上の化合物である。化合物(vi)の炭素数の上限は、15以下としうる。かかる置換基は、炭素数1~6の炭化水素基としうる。化合物(vi)の具体例としては、N-メチル-2-オキサゾリドンが挙げられる。
【0047】
化合物(vii)(炭素数5以上のイミダゾリジノン誘導体)は、2-イミダゾリジノンの炭素原子または窒素原子に結合する水素原子を、1以上の置換基で置換した構造を有する、炭素数5以上の化合物である。化合物(vii)の炭素数の上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらにより好ましくは6以下としうる。かかる置換基は、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3の炭化水素基としうる。化合物(vii)の具体例としては、N,N-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
【0048】
化合物(viii)(炭素数9以上の炭酸エステル)の炭素数の上限は、好ましくは20以下、より好ましくは16以下としうる。化合物(viii)の例としては、R6-OC(=O)O-R7で表される構造を有する化合物が挙げられる。R6及びR7は、水素原子または炭素数1以上の基、好ましくはいずれも炭素数1以上の基であり、R6の炭素数及びR7の炭素数の合計は8以上である。R6及びR7は結合して環を形成してもよい。R6の炭素数及びR7の炭素数の合計(R6及びR7が結合して環を形成する場合、R6及びR7が結合してなる部分の炭素数)は、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。化合物(viii)の具体例としては、炭酸ジブチルが挙げられる。
【0049】
化合物(ix)(炭素数5以上のラクタム誘導体)は、ラクタムの炭素原子または窒素原子に結合する水素原子を、1以上の置換基で置換した構造を有する、炭素数5以上の化合物である。化合物(ix)の炭素数の上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下としうる。かかる置換基は、炭素数1~6の炭化水素基としうる。化合物(ix)の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0050】
電解液が溶媒成分(SR80A)を含むことにより、電解液のイオン電導度が高くなり、電気化学デバイスを駆動する性能が高くなる。加えて、電解液が溶媒成分(SR80A)を含むことにより、電解液が液状を呈する温度範囲が広くなる。また、電解液が溶媒成分(SR80A)を含むことにより、溶媒成分(SR80A)と、電解液の他の成分とが良好に相溶する。
【0051】
溶媒成分(SR80A)は、それ自体が、電解液の構成要素である塩を良好に溶解しうるものであることが好ましい。具体的には、溶媒成分(SR80A)は、塩を1M以上溶解しうるものであることが好ましい。
【0052】
本願では、記載の便宜のため、溶媒成分(SR)100重量%中の溶媒成分(SR80)の重量百分率を、「(SR80)/(SR)%」、溶媒成分(SR)100重量%中の溶媒成分(SR80A)の重量百分率を、「(SR80A)/(SR)%」と略記する場合がある。(SR80)/(SR)%は、90重量%以上であり、好ましくは95重量%以上であり、上限は100重量%としうる。(SR80A)/(SR)%は、20重量%以上であり、好ましくは30重量%以上であり、上限は100重量%としうる。(SR80)/(SR)%及び(SR80A)/(SR)%が前記下限以上であることにより、電解液の引火性を弱めて、電解液の安全性を高めることができ、且つ、低温でも高いイオン伝導度を発現することができる。
【0053】
溶媒全体における、溶媒成分(SR)の割合は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは40重量%以上であり、一方好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。溶媒中の溶媒成分(SR)の割合が前記上限以下であることにより、電解液の引火性を弱めて、電解液の安全性を高めることができる。一方溶媒中の溶媒成分(SR)の割合が前記下限以上であることにより、弱い引火性と、良好な相溶性と、低温での高いイオン電導度を両立することができる。
【0054】
(溶媒成分(SR80R))
本発明の電解液の溶媒は、溶媒成分(SR80)として、溶媒成分(SR80A)のみを含んでいてもよいが、それ以外の成分である溶媒成分(SR80R)を含みうる。即ち溶媒成分(SR80R)は、溶媒のうちの、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)以外の成分である溶媒成分(SR)のうちの、引火点80℃超の成分である溶媒成分(SR80)であって、溶媒成分(SR80A)以外のものである。
【0055】
溶媒成分(SR80R)としては、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)以外の、電解液の溶媒成分として用いうることが既知の物質を適宜選択して用いうる。溶媒成分(SR80R)の例としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート(VC)、及び1,3-プロパンスルトン(PS)が挙げられる。
【0056】
溶媒成分(SR80R)の他の例としては、下記の難燃性の溶媒成分(R)が挙げられる。即ち、難燃性溶媒成分(R)は、リン酸エステル又は亜リン酸エステルであって一分子当たり炭素数が1以上6以下の化合物(R1)、化合物(R1)の水素を部分的にフッ素化した化合物(R2)、及びホスファゼン環を持つ化合物(R3)からなる群より選択される一種以上である。
【0057】
化合物(R1)の具体例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、及びリン酸トリスブトキシエチル、並びにこれらに対応する亜リン酸エステルが挙げられる。化合物(R3)の例としては、日本化学工業製、商品名「ヒシコーリン-E」、「ヒシコーリン-O」、及び「ヒシコーリン-D」が挙げられる。溶媒100重量%中の難燃性溶媒成分(R)の割合は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、一方好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。難燃性溶媒成分(R)の割合を前記下限以上とすることにより、非水電解液の難燃性を高め、電気化学デバイスの安全性を高めることができる。一方、難燃性溶媒成分(R)の割合を前記上限以下とすることにより、デバイスの抵抗の増大を避けることができる。
【0058】
また上記のものの他の溶媒成分(SR80R)の例としては、添加剤(B)(後述)の具体例として挙げる物質のうちの、溶媒成分(SR80R)に該当するものが挙げられる。
【0059】
溶媒成分(SR80R)として用いられる物質のうち、エチレンカーボネートは、引火点が高く、炭素質材料負極との相性が良好で、充放電の効率が高い一方、低温性能が低い。しかしながら、本発明の電解液において、溶媒成分(SF)及び(SR80A)と組み合わせて用いた場合、低温性能を向上させながら、エチレンカーボネートの利点をも享受することができるので、特に好ましい。
【0060】
(溶媒成分(SRL))
溶媒は、溶媒成分(SR80)のみを含んでいてもよいが、それ以外の溶媒成分(SRL)を含みうる。即ち溶媒成分(SRL)は、溶媒のうちの、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)以外の成分である溶媒成分(SR)のうちの、引火点80℃以下の成分である。
但し電解液の引火性を弱める観点からは、溶媒中の溶媒成分(SRL)の割合は少ないことが好ましく、溶媒が溶媒成分(SRL)を含まないことがより好ましい。溶媒成分(SRL)の例としては、エチルメチルカーボネート(EMC)が挙げられる。
【0061】
(添加剤(B))
ある態様において、溶媒は、溶媒成分(SF)、溶媒成分(SR)(溶媒成分(SR80A)、溶媒成分(SR80R)又は溶媒成分(SRL))として、添加剤(B)を含みうる。添加剤(B)は、環状硫酸エステル化合物(B1)、ビニルエチレンカーボネート化合物(B2)、及び不飽和結合を有するフッ素化合物(B3)からなる群より選択される一種以上としうる。
【0062】
環状硫酸エステル化合物(B1)の例としては、1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド(エチレンスルファート)、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド、及び1,3,2-ジオキサチアン2,2-ジオキシドが挙げられる。
【0063】
ビニルエチレンカーボネート化合物(B2)の例としては、3-ビニルエチレンカーボネート、及び3,4-ジビニルエチレンカーボネート、3-エチニルエチレンカーボネート等の、ビニルエチレンカーボネートの骨格を有する化合物が挙げられる。
【0064】
不飽和結合を有するフッ素化合物(B3)の例としては、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン及び1-メトキシ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテン等の環状のフッ素化合物が挙げられる。
【0065】
添加剤(B)は、いわゆる負極保護剤として用いられうるものである。溶媒が添加剤(B)を含むことにより、充放電の効率が向上する効果と、充放電のサイクルによる劣化を抑える効果とが得られる。負極保護剤としては炭酸ビニレンがよく知られているが、本発明者が見出したところによれば、炭酸ビニレンは、鎖状カーボネートを主体としない電解液においては、効果が低い。一方、上に述べた添加剤(B)は、不燃性のフッ素溶媒成分(SF)と組み合わせて用いることにより、負極保護剤として高い効果を得ることができる。
溶媒が添加剤(B)を含む場合、それと組み合わせて用いる溶媒成分として、炭酸ビニレン類、スルトン類、アセチレン基含有化合物、ビニル基含有化合物、フッ化カーボネート類、フッ化アニソール類、酸無水物類、ベンゼンスルホン酸基含有化合物、フッ化環状炭酸エステル類、アミン類、フッ化ベンゼン、フェニルシクロヘキサン、スピロジラクトン、又はこれらの組み合わせを用いることが好ましい。特に、1,3-プロパンスルトン等のスルトンを用いることが好ましい。抵抗が過大となることを抑制する観点から、溶媒100重量%中のこれらの割合は好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、さらにより好ましくは7重量%以下である。また、添加量の下限は、好ましくは0.1重量%以上である。
【0066】
添加剤(B)は、溶媒成分(SF)の一部に該当する場合もあり、溶媒成分(SR)(溶媒成分(SR80A)、溶媒成分(SR80R)又は溶媒成分(SRL))の一部に該当する場合もある。例えば、環状硫酸エステル化合物(B1)及びビニルエチレンカーボネート化合物(B2)は溶媒成分(SR80R)に該当し、不飽和結合を有する環状フッ素化合物(B3)のうち3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテンは不燃性であり溶媒成分(SF)に該当し、1-メトキシ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテンは80℃超の引火点を有し溶媒成分SR80Rに該当する。
【0067】
上記の効果を有効に得る観点から、添加剤(B)の添加量は、電解液100重量%中、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、一方好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。
【0068】
(電解液の性質)
本発明の電解液は、25℃において全体として相分離することなく、塩が均一に溶解した性状を示すことが好ましい。かかる性状を有することにより、液体の状態を維持する能力が高く、低温での十分なイオン伝導度を発現することができ、浸透性が良好で、且つ充放電の効率が高いといった電解液としての性能を良好に発揮することができる。相分離の有無は、電解液を25℃において目視にて観察し、固形の物質の存在又は液相の分離のいずれも認められないことをいう。このような電解液は、塩及び溶媒の種類及びその割合を、上に述べた範囲で適宜調整することにより得ることができる。
【0069】
本発明の電解液は、引火点が80℃超であることが好ましい。かかる高い引火点を有することにより、電解液を含む電気化学デバイスの安全性を高めることができる。引火点が80℃超である電解液は、溶媒成分として、上に例示した成分から非引火性又は燃焼性が低いものを適宜選択することにより得うる。
【0070】
(電解液の製造方法)
本発明の電解液の製造方法は、特に限定されず、上に述べた成分を、電解液の製造に適した適切な環境下で混合することにより、製造を行うことができる。
【0071】
(電解液の用途:電気化学デバイス)
本発明の電気化学デバイスは、正極、負極及び電解液を備える電気化学デバイスであって、かかる電解液として上に述べた本発明の電解液を含み、且つ負極が、炭素材料を含む。本発明の電気化学デバイスは、電解液として本発明の電解液を含む、それを特に炭素材料含有電極と組み合わせて用いるので、高い容量維持率及び低温での高い動作性能、並びに高い安全性等の利点を享受することができる。
【0072】
本発明の電気化学デバイスは、デバイス外装と、その内部の密閉された空間内に封入されて存在する、炭素材料含有電極及び本発明の電解液等の内容物を含みうる。デバイスはさらに、必要に応じて炭素材料含有電極以外の電極、及びセパレーター等の任意の構成要素を含みうる。
炭素材料含有電極は、炭素材料として黒鉛質を含む負極としうる。かかる負極は、一般的に高引火点で且つ扱い易い性状の電解液との相性が悪く充放電効率が低くなる傾向があるところ、本発明の電解液との組み合わせにおいては、充放電効率の低下が抑制され、特に良好に用いることができる。また、炭素材料に比べて比較的高い充放電電位を有することから電解液を還元分解しにくい負極材料として、シリコン、酸化シリコン、アルミニウム、チタン酸リチウム、チタンニオブ複合酸化物なども好適に用いることができる。
炭素材料含有電極以外の電極、及びセパレーターとしては、特に限定されず、デバイスの用途に適合した既知のものを適宜採用しうる。
【0073】
デバイス外装を構成する材料は、特に限定されず、電池等のデバイスのための外装として用いられる既知の材料を適宜選択して用いうる。特に、デバイス外装を構成する材料のうち、電解液が接触する最内層の部分が、ポリオレフィン、フッ素樹脂、及びゴムからなる群より選択される樹脂材料であることが好ましい。かかる材料を最内層として採用することにより、気化した溶媒成分が外装を透過して揮散することを抑制することができる。
【0074】
本発明の電解液は、何らかの原因でデバイス外に漏出した場合における危険性が低いものとしうるので、本発明の電気化学デバイスは、動作中に異常が発生し外装内部の温度が上昇し、電解液が気化することで圧力が特定の閾値以上に上昇した際に、外装による密封を開放する機構を有するものとし、それにより、異常の発生をデバイス外部から検知することができ、異常発生時に動作を停止しうるものとしうる。かかる閾値は、2気圧~10気圧としうる。密封を開放する機構の例としては、所定の圧力で密封が開放される圧力ベント、及びヒートシール部が挙げられる。
【0075】
本発明の電気化学デバイスの具体的な種類の例としては、各種の非水系の一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、電気二重層トランジスタ、エレクトロクロミック表示材、電気化学発光素子、電気化学アクチュエータ、及び色素増感太陽電池が挙げられる。電池の例としては、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、アルミニウムイオン電池、フッ化物イオン電池、及び空気電池が挙げられる。電池は、特に好ましくは、リチウムイオン一次電池又はリチウムイオン二次電池である。好ましい例において、本発明の電気化学デバイスは電池であり、特に大容量のリチウムイオン二次電池であっても、電気化学反応を円滑に発生させることができ、安全性と大容量とを両立することができる。具体的には、本発明の電気化学デバイスは、3Ah以上の蓄電容量を有する電池であることが好ましい。
【0076】
本発明の電気化学デバイスは、任意の製造方法により製造しうる。一般的には、電気化学デバイスは、外装の内部に、電極及びセパレーター等の構成要素を配置し、その後電解液を外装の内部に注入し、外装を密封することにより製造しうる。本発明の電気化学デバイスを製造する方法は、このような一般的な方法であってもよいが、これに限られない。例えば、デバイスの内部に、電解液の各成分の一部が固体である状態等とする等して、異なる組成の電解液が別途存在する状態で各成分を封入し、その後デバイスの内部で当該固体を溶解させ混合させる等の手法により、異なる組成の電解液を電気化学デバイス内で混合して電解液とし、デバイスを完成させることが可能である。
【実施例0077】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0078】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り質量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、室温及び常圧の条件において行った。
【0079】
以下の実施例及び比較例のうち、セパレーターへの電解液の浸透性の試験において、実施例と比較例とを対比する場合、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルター(メルク社製、オムニポアJMWP04700)、または、紙(ニッポン高度紙工業製、TF4535)を使用した。これは、より浸透性が低いポリオレフィンセパレーターを用いて予備的な実験を行った際に、本発明の電解液は浸透することができる一方、比較例の電解液は浸透することができず、したがって両者を比較する場合には、対比が可能な程度の浸透性が発現するセパレーターを使用する必要があることが判明していたためである。
【0080】
以下において使用する略号の意味は、それぞれ下記の通りである。
HFCP:1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン
P-C1:3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン
P-C2:1-メトキシ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテン
HFE1:1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(商品名「アサヒクリンAE-3000」、AGC社製)
HFE2:1,1,2,2-テトラフルオロエチル 2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル
HFE3:ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル
DMC:ジメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
PC:プロピレンカーボネート
EC:エチレンカーボネート
LiFSI:リチウムビスフルオロスルホニルイミド(Li+(FSO2)2N-)
LiTFSI:リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(Li+(CF3SO2)2N-)
LiBF4:テトラフルオロホウ酸リチウム
TEABF4:テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート
LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム
DMS:ジメチルスルホン
FEC:フルオロエチレンカーボネート
SN:スクシノニトリル
SL:スルホラン
GBL:γ-ブチロラクトン
VEC:ビニルエチレンカーボネート
DTD:1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド(エチレンスルファート)
MDTD:4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド
PCS:1,3,2-ジオキサチアン2,2-ジオキシド
VC:ビニレンカーボネート
PS:1,3-プロパンスルトン
EMC:エチルメチルカーボネート
【0081】
(参考例)
電気化学デバイスの外装として一般的な、アルミラミネート包材を用いて、溶媒物質のそれぞれが、包材外へ散逸する程度を評価した。
【0082】
10cm×20cmの矩形のアルミラミネート包材を二つに折り、開放している3つの辺の内の2辺をヒートシールして、10cm×10cmの容器を形成した。ここへ、表1に示す溶媒物質のそれぞれを500mg計り入れ、残った1辺をヒートシールして、完全に密閉し、試験体とした。この試験体を、秤量し、温度60℃に設定した雰囲気循環式のオーブン内に放置して、60日後に再び秤量し、重量の変化量を求めた。
【0083】
電解液溶媒として一般的な、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)では比較的大きな重量減少が認められたので、これらの溶媒物質は、デバイスの使用中に包材外へ散逸しやすいことが明らかとなった。かかる散逸の発生は、電解液の組成の変化及びデバイス使用者への電解液の暴露等の、好ましくない現象をもたらしうる。
散逸量が沸点とは相関がみられなかった。このことから、包材のヒートシール部の材料であるポリエチレンと溶媒物質との親和性の多少により散逸量が増減すると考えられる。
【0084】
【0085】
※1:試験環境が、溶媒物質の沸点を超えていたので、試験体が膨張したが、溶媒物質の漏出は観察されなかった。
【0086】
(実施例1及び比較例1)
下記表2~表3に示す組成にて各成分を混合し、実施例の電解液(1-01)~(1-14)及び比較例の電解液(C1-01)~(C1-02)を調製した。それぞれの電解液の0℃におけるイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定は交流インピーダンス法により行った。さらに、それぞれの電解液の、25℃における性状を裸眼目視にて観察した。結果を表2~表3に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表2以降の表において、塩濃度の単位(mol/kg)は、電解液の総量(単位kg)に占める塩の割合(単位mol)である。
「(SF)%」は、電解液100重量%中の溶媒成分(SF)の重量%である。
「(SR80)/(SR)%」は、残部溶媒成分(SR)100重量%中の、溶媒成分(SR80)の重量%である。
「(SR80A)/(SR)%」は、残部溶媒成分(SR)100重量%中の、A群溶媒成分(SR80A)の重量%である。
【0090】
(実施例2及び比較例2)
(2-1.電解液の調製)
下記表4に示す組成にて各成分を混合し、実施例の電解液(2-01)~(2-04)及び比較例の電解液(C2-01)~(C2-04)を調製した。
【0091】
(2-2.引火点の測定)
(2-1)で調製した電解液について、タグ密閉法(JIS K2265-1(2007))及びクリーブランド開放法(JIS K2265-4(2007))のそれぞれに準拠した引火点測定法により、引火点を測定した。結果を表4に示す。
【0092】
電解液中のフッ素溶媒成分(SF)の割合が15重量%以上である範囲では、PCの引火点132℃よりも高い引火点を得ることができ、25重量%を超える範囲では引火点が消失した。しかし、7.13重量%の添加では引火点がむしろ低下する傾向が見られた。このことから、燃焼性を低く保つためにはフッ素溶媒成分(SF)の割合を15重量%以上とすることが必須であることが分かった。
また、低引火点溶媒であるEMCの添加は、引火点を引き下げることが分かった。残部溶媒成分(SR)のうちの、引火点80℃超の溶媒成分(SR80)の割合は、90重量%以上であることが必要であり、好ましくは92重量%以上としうることが分かった。
【0093】
【0094】
(実施例3、比較例3及び参考例1)
溶媒成分としての添加剤(B)を含む電解液と、その他の成分を含む電解液とを調製し、それらによる、負極の充放電効率改善の効果を評価した。
【0095】
基材として、厚み10μmの銅箔を用意した。基材の上に、黒鉛、CMC(カルボキシメチルセルロース)及びSBR(スチレン-ブタジエンゴム)バインダをそれぞれ重量比で97、1、及び2%含む層を設け、当該層をプレスすることにより、負極合材層を形成し、基材及び負極合材層からなる、リチウムイオン電池用の負極を調製した。負極合材層の目付は12mg/cm2、密度は1.5g/cm3であった。この負極を3×4cmのサイズに切り出して試験極とした。
【0096】
厚み10μmの銅箔の上に厚み200μmのリチウム金属を積層し、対向極を調製した。
試験極及び対向極のそれぞれの端部にニッケル製のタブを超音波溶接により取り付けた。タブ付きの試験極及び対向極の対の間に、セパレーターとして厚み100μmのPTFEメンブレンフィルター(メルク社製、オムニポアJMWP04700)を1枚配置し、(基材)/(負極合材層)/(セパレーター)/(リチウム金属)/(基材)の層構成を有する積層物を得た。積層物を、アルミラミネート外装内に配置した。
【0097】
イオン性物質としてのLiBF4を0.8mol/kgと、表5~表6に示す成分とを混合し、実施例の電解液(3-01)~(3-11)、比較例の電解液(C3-01)及び参考例の電解液(R1-01)~(R1-11)を調製した。得られた電解液は、いずれも25℃において均一な液状であった。電解液のそれぞれを、アルミラミネート外装内に、マイクロピペットで600μl注入して、ヒートシールで封止した。これにより、リチウムイオン負極への適合性を評価するための試験セルを得た。
【0098】
得られた試験セルを、0.1Cの電流値で25℃において充電と放電を行い、初回充放電効率(初回クーロン効率)を求めた。電流値は、黒鉛の放電容量を360mAh/gとして計算した。
本発明の電解液のいずれでも負極は動作した。最もよく知られた負極用の添加剤であるVCを添加したものでは効果が低く、試験した中で最も低い効率となった。次いで一般的なPSを添加したものでも効果は十分でなかった。それに対して、VEC、DTD、MDTD、PCS及び不飽和環状フッ素化合物のいずれかを添加した電解液において高い効率が得られることが分かった。特に、電解液中に占めるフッ素溶媒成分(SF)が15重量%以上含まれる場合に高い効率が得られた。
【0099】
【0100】
【0101】
表中の各成分(HFCP、EC、DMS、PC、DTD、MDTD、PCS、VEC、P-C1、P-C2、VC、及びPS)についての数値は、それぞれの添加量(単位:重量部)を示す。表5~表6の例において、(SR80)/(SR)%はすべて100%である。
【0102】
(実施例4)
イオン性物質としてのLiPF6を0.8mol/kgと、表7に示す成分とを混合し、実施例の電解液(4-01)~(4-03)を調製した。
電解液として、実施例3で使用したものに代えて、これらの電解液(4-01)~(4-03)を用いた他は、実施例3と同じ操作により、試験セルを得た。当該試験セルについて、0.1Cの電流値で25℃において充電と放電を行い、初回充放電容量を求めた。結果を表7に示す。
添加剤(B)であるVECと、PSとを併用した実施例4-02は、それらの一方のみを使用した実施例に比べて初回放電容量が増加する結果が得られた。
【0103】
【0104】
表中の各成分についての数値は、それぞれの添加量(単位:重量部)を示す。
【0105】
(実施例5及び比較例5)
基材として厚み20μmのアルミ箔を用意した。アルミ箔基材の上に、コバルト酸リチウム、アセチレンブラック、及びPVDF(ポリビニリデンフルオリド)バインダをそれぞれ重量比で94%、3%及び3%含む層を設け、当該層をプレスすることにより、合材層を形成し、基材層及び合材層からなるリチウムイオン正極を調製した。合材層の目付は22mg/cm2、密度は3.0g/cm3であった。
【0106】
一方、基材として厚み10μmの銅箔を用意した。銅箔基材の上に、黒鉛(日立化成社製、商品名「MAG-E」)、アセチレンブラック、SBRバインダ及びCMCをそれぞれ重量比で97%、0.5%、1%及び1.5%含む層を設け、当該層をプレスすることにより合材層を形成し、基材層及び合材層からなるリチウムイオン負極を調製した。合材層の目付は11mg/cm2、密度は1.4g/cm3であった。
【0107】
セパレーターとして、厚み100μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルター(メルク社製、商品名「オムニポアJMWP04700」)を用意した。リチウムイオン正極及び負極のそれぞれの端部に、タブを超音波溶接により取り付けた。正極用のタブはアルミニウム製、負極用のタブはニッケル製とした。リチウムイオン正極及び負極の間にセパレーターを1枚配置し、(正極集電体)/(正極合材層)/(セパレーター)/(負極合材層)/(負極集電体)の層構成を有する積層物を得た。積層物をアルミラミネート外装内に配置した。
【0108】
塩としてのLiFSIを1.0mol/kgと、表8に示す成分とを混合し、実施例の電解液(5-01)~(5-03)及び比較例の電解液(C5-01)~(C5-02)を調製した。得られた電解液の25℃における性状を裸眼目視にて観察したところ、いずれも均一な溶液であった。電解液のそれぞれを、アルミラミネート外装内に注入して、外装を封止した。これにより、ごく標準的なリチウムイオン電池を構成した。
【0109】
得られたリチウムイオン電池の充放電を行った。充放電は、0.6Cの電流値で25℃において4.2V~3.0Vの間で繰り返し行った。電流値は、コバルト酸リチウムの放電容量を145mAh/gとして計算した。1回目のサイクルの放電容量に対する、200回目のサイクルの放電容量の比の百分率を、容量維持率として求めた。
【0110】
実施例の電解液を用いたリチウムイオン電池では、フッ素溶媒の含有量に関わらず充放電を行うことができ、フッ素溶媒を含まない電解液に対して、より良好なサイクル容量維持率を示すことが分かった。
【0111】
【0112】
表中の各成分についての数値は、それぞれの添加量(単位:重量部)を示す。
N.A.:初回充電が完遂できず測定を中止した。
【0113】
(実施例6)
塩としてのLiFSIを1.1mol/kgと、表9に示す成分とを混合し、実施例の電解液(6-01)を調製した。得られた電解液の25℃における性状を裸眼目視にて観察したところ、均一な溶液であった。
電解液として、実施例3で使用したものに代えて、この電解液(6-01)を用いた他は、実施例3と同じ操作により、試験セルを得て、初回充放電効率(初回クーロン効率)を求めた。
【0114】
さらに、実施例5で使用したものに代えて、この電解液(6-01)を用いたこと、及びサイクルを100サイクルに変更したことの他は、実施例5と同じ操作により、容量維持率を測定した。結果を表9に示す。
【0115】
【0116】
表中の各成分についての数値は、それぞれの添加量(単位:重量部)を示す。
FECを電解液の主成分とすると、添加剤(B)を使用しない場合でも高い充放電の効率を得ることができることが分かる。
【0117】
(実施例7及び比較例7)
(7-1.大容量電池の製造)
正極集電体として、厚み20μmのアルミ箔を用意した。正極集電体の両側に、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(Ni:Mn:Co=8:1:1、モル比)、アセチレンブラック、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)バインダをそれぞれ重量比で94%、3%、及び3%含む層を設け、当該層をプレスすることにより、正極合材層を形成し、正極集電体及び正極合材層からなるリチウムイオン正極を調製した。正極合材層の片側の目付は22mg/cm2、密度は3.0g/cm3であった。
【0118】
負極集電体として、厚み10μmの銅箔を用意した。負極集電体の両側に、黒鉛(日立化成社製 MAG-E)、アセチレンブラック、SBRバインダ、及びCMCをそれぞれ重量比で97%、0.5%、1%、及び1.5%含む層を設け、当該層をプレスすることにより、負極合材層を形成し、負極集電体及び負極合材層からなるリチウムイオン負極を調製した。負極合材層の、片側の目付は11mg/cm2、密度は1.4g/cm3であった。
【0119】
正極及び負極のそれぞれを切り出し、5.2cm×5.2cmの矩形の正極、及び5.4cm×5.4cmの矩形の負極を多数調製した。PET不織布(表面にセラミックコート層を有する、厚み25μm、商品名「NanoBaseX OZ-S25」、三菱製紙製)を切り出し、5.6cm×5.6cmの矩形のセパレーターを多数調製した。15枚の矩形の正極、30枚の矩形のセパレーター、及び16枚の矩形の負極を、(負極)/(セパレーター)/(正極)/(セパレーター)/(負極)/(セパレーター)/(正極)/(セパレーター)/・・・/(負極)の層構成で重ねた。これにより、セパレーターを介した正極と負極との対向を15組含む積層物を得た。正極及び負極のそれぞれの端部に、タブを超音波溶接により取り付けた。正極用のタブはアルミニウム製、負極用のタブはニッケル製とした。積層物をアルミラミネート外装内に配置した。
【0120】
塩としてのLiPF6を0.8mol/kgと、表10に示す成分とを混合し、実施例の電解液(7-01)~(7-02)及び比較例の電解液(C7-01)~(C7-02)を調製した。得られた電解液の25℃における性状を裸眼目視にて観察したところ、いずれも均一な溶液であった。電解液のそれぞれを、アルミラミネート外装内に10ml注入し、内部を減圧しながら開口部のヒートシールを行ない、外装を封止した。これにより、積層型のリチウムイオン電池(7-01)、(7-02)、(C7-01)及び(C7-02)(充放電容量3100mAh)を得た。
【0121】
(7-2.過充電試験)
得られたリチウムイオン電池のそれぞれについて、過充電試験を行った。
まず、予備充放電として、環境温度を25℃とし、電流310mA(0.1C)で4.2Vまで充電し、その後電流310mA(0.1C)で3Vまで放電した。溶媒がフッ素溶媒成分を含まない電池(C7-02)において、充電中にセルの膨れが確認された。さらに充電を進めたところ、電池(C7-02)はセルが内圧に耐えきれずに破裂した。溶媒がフッ素溶媒成分を15重量%以上含む電池(7-01)及び(7-02)と、電池(C7-01)に関しては問題なく予備充放電が可能であった。
【0122】
予備充放電を終えた電池を、25℃の環境下で、再度電流310mA(0.1C)で4.2Vまで充電し、その後電流を3100mA(1.0C)に上げ、上限電圧30Vとして定電流充電を行った。電池(7-01)、(7-02)及び(C7-01)の全てについて、5V到達以降で電池の膨れが確認された。内部でガスが発生しているものと考えられる。
【0123】
上限電圧である30Vに達した後、30Vの定電圧充電に移行した。全ての電池において膨れは大きくなっていき、最終的には破裂が起こった。溶媒がフッ素溶媒成分を含む電池(7-01)及び(7-02)については、破裂した瞬間には炎は認められず、白い煙を放出していた。いずれも2秒後に着火が認められた。一方電池(C7-01)については、破裂は炎を伴って発生した。この相違は、破裂時に外装の外に噴出するガスの組成によるものと考えられる。即ち、実施例の場合、噴出するガスは不燃性のフッ素溶媒成分を主成分とするものであり、一方比較例の場合、噴出するガスは引火点の低い溶媒成分を主成分とするものであることによると考えられる。
【0124】
電池(7-01)及び(7-02)と、電池(C7-01)の全てについて、破裂時に固形分が周囲に放出された。電池(C7-01)のみについて、放出された固形分が放出後もセル外で燃焼している様子が認められた。電池(7-01)及び(7-02)については、放出された固形分の量は電池(C7-01)に比べて少なく、燃焼している様子は認められなかった。すべての電池は発火後、約1分で鎮火した。
【0125】
【0126】
表中の各成分についての数値は、それぞれの添加量(単位:重量部)を示す。
【0127】
(7-3.コインセル電池)
予備充電中に破裂した電池(C7-02)で使用したものと同じ組成の電解液を用いて、コインセル電池を製造した。
正極及び負極としては、合材層を集電体の片面のみに形成し、円形に切り出した他は、(7-1)でと同じ操作により調製したものを1枚ずつ使用した。円形の正極の径は12mm、円形の負極の径は13mmとした。セパレーターとしては、(7-1)で使用したものと同じ材料を径16mmに切り出し、これを使用した。外装としては、2032コインセルを用い、電解液量を120μlとし、これらを組み合わせてコインセル形状のリチウムイオン電池を構成した。これを、(7-1)の予備充放電と同等の条件(環境温度25℃、0.1C定電流で4.2Vまで充電し、その後0.1C定電流で3Vまで放電)で充放電した。その結果問題なく充放電することができた。大容量電池との差異がある理由については不明であるが、容量の大きいデバイスにおいては、電解液がフッ素溶媒成分を含有することで電気化学反応が円滑になるものと考えられた。