IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特開2024-145588表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145588
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20241004BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20241004BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20241004BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20241004BHJP
   H05K 3/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/14
C25D5/16
C25D7/00 J
C25D5/50
H05K3/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058012
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片平 周介
【テーマコード(参考)】
4K024
5E343
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA09
4K024AA14
4K024AB02
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB11
4K024BC02
4K024CA01
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA07
4K024DA05
4K024DB01
4K024EA01
4K024GA16
5E343AA03
5E343BB22
5E343BB24
5E343BB38
5E343BB39
5E343BB40
5E343BB43
5E343BB44
5E343BB45
5E343BB52
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制でき、優れた伝送特性及び耐熱性を発揮し得る表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板を提供する。
【解決手段】銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔であって、300℃で2時間熱処理された後の状態における、飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である、表面処理銅箔。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔であって、
300℃で2時間熱処理された後の状態における、飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である、表面処理銅箔。
【請求項2】
300℃で2時間熱処理された後の状態における、残留磁束密度(Br300)が5.0×10-4T以下である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
下記の要件(I)及び(II)を満たす、請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
要件(I):300℃で2時間の熱処理後の飽和磁束密度Bsの増加率[{(Bs300-Bs)/Bs}×100]が300%以下である。
要件(II):300℃で2時間の熱処理後の残留磁束密度Brの増加率[{(Br300-Br)/Br}×100]が300%以下である。
上記要件(I)及び(II)において、Bs300は300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度、Bsは前記熱処理前の状態における飽和磁束密度、Br300は300℃で2時間熱処理された後の状態における残留磁束密度、Brは前記熱処理前の状態における残留磁束密度である。
【請求項4】
前記表面処理皮膜を有する面において、ニッケル付着量が0.02mg/dm以上3.0mg/dm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記表面処理皮膜が、前記銅箔基体側から順に、粗化処理層と、前記ニッケルを含む表面処理層と、を含み、
前記表面処理皮膜の表面において、ISO25178に準拠して光学式で測定した算術平均高さSaが0.02μm以上0.35μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記ニッケルを含む表面処理層が、亜鉛、リン、モリブデン、タングステン、クロム、鉄、コバルト及びニオブからなる群から選択される1種以上の元素を含むニッケル合金で構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理銅箔を備える、銅張積層板。
【請求項8】
請求項7に記載の銅張積層板を備える、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理銅箔は、プリント配線板の回路用銅箔や、リチウムイオン二次電池の負極集電体等の様々な用途で用いられている。
【0003】
特にプリント配線板の分野では、近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して優れた高周波対応が求められている。
【0004】
このようなプリント配線板に用いられる回路用銅箔は、高周波帯域になるほど、表皮効果の影響で、回路導体の表面状態、つまりは表面に処理されている異種金属も重要になる。
特に、異種金属で広く用いられているニッケル(Ni)は、常温で強磁性を示す金属である。そのため、回路用銅箔の表面にニッケルが存在する場合、磁性の影響により導体内の電流分布及び磁界分布が影響を受け、表面処理銅箔の伝送特性が悪化する問題がある。
【0005】
一方で、プリント配線板を作製するにあたっては、回路用銅箔と樹脂基材とを貼り合わせる必要があり、その際、銅箔-樹脂基材間において、良好な密着性が求められ、特に耐熱密着性(以下、単に「耐熱性」ということがある。)が求められる。このような耐熱性に対し、回路用銅箔の表面におけるニッケルは、重要な役割を担う。
すなわち、回路用銅箔の表面におけるニッケルの存在は、伝送特性と、耐熱性とでトレードオフの関係にある。
【0006】
上記両特性を改善することを目的とした公知例としては、特許文献1及び2の技術が挙げられる。特許文献1では、伝送特性に与える強磁性金属の影響を抑制するために、銅箔の表面処理層におけるCo,Ni,Moの合計付着量を所定量以下に制御し、且つ、表面処理層に所定形状の粒子を形成することが提案されている。また、特許文献2では、表面処理銅箔の元箔(銅箔基体)の製造工程を制御することで、磁性を所定の条件に制御(非磁性化)した表面処理銅箔が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第7055049号公報
【特許文献2】特許第7174869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び2のいずれにおいても、製造後のまま、熱履歴を持たない表面処理銅箔の磁性のみが検討されており、プリント配線板の製造過程における、樹脂基材との熱圧着や、はんだリフロー時の熱負荷による影響は、何ら考慮されていなかった。
【0009】
これに対し、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、ニッケルを含む表面処理層(以下、単に「ニッケル層(Ni層)」ということがある。)を含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔が、製造後に熱履歴を持たない状態で非磁性化されていても、上記のようなプリント配線板を製造する過程で、回路導体としての表面処理銅箔に熱処理が施された場合、該表面処理銅箔の表面処理皮膜におけるニッケル層が事後的に磁性を発現(磁化)する場合があることが分かった。
上述のように、プリント配線板の製造過程で受ける熱処理により、回路導体としての表面処理銅箔の表面処理皮膜において、ニッケル層が磁化した場合には、伝送特性が悪化する問題を招来する。
そのため、所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制でき、優れた伝送特性及び耐熱性を発揮し得る、表面処理銅箔が求められている。
【0010】
そこで本発明は、所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制でき、優れた伝送特性及び耐熱性を発揮し得る表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] 銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔であって、
300℃で2時間熱処理された後の状態における、飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である、表面処理銅箔。
[2] 300℃で2時間熱処理された後の状態における、残留磁束密度(Br300)が5.0×10-4T以下である、上記[1]に記載の表面処理銅箔。
[3] 下記の要件(I)及び(II)を満たす、上記[1]又は[2]に記載の表面処理銅箔。
要件(I):300℃で2時間の熱処理後の飽和磁束密度Bsの増加率[{(Bs300-Bs)/Bs}×100]が300%以下である。
要件(II):300℃で2時間の熱処理後の残留磁束密度Brの増加率[{(Br300-Br)/Br}×100]が300%以下である。
上記要件(I)及び(II)において、Bs300は300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度、Bsは前記熱処理前の状態における飽和磁束密度、Br300は300℃で2時間熱処理された後の状態における残留磁束密度、Brは前記熱処理前の状態における残留磁束密度である。
[4] 前記表面処理皮膜を有する面において、ニッケル付着量が0.02mg/dm以上3.0mg/dm以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
[5] 前記表面処理皮膜が、前記銅箔基体側から順に、粗化処理層と、前記ニッケルを含む表面処理層と、を含み、
前記表面処理皮膜の表面において、ISO25178に準拠して光学式で測定した算術平均高さSaが0.02μm以上0.35μm以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
[6] 前記ニッケルを含む表面処理層が、亜鉛、リン、モリブデン、タングステン、クロム、鉄、コバルト及びニオブからなる群から選択される1種以上の元素を含むニッケル合金で構成される、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
[7] 上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の表面処理銅箔を備える、銅張積層板。
[8] 上記[7]に記載の銅張積層板を備える、プリント配線板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制でき、優れた伝送特性及び耐熱性を発揮し得る表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に従う表面処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板の実施形態について、以下で詳細に説明する。
なお、本明細書において、数値の記載に関する「A~B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
[表面処理銅箔]
本発明の表面処理銅箔は、銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有し、300℃で2時間熱処理された後の状態における、飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である。
【0015】
本発明の表面処理銅箔は上記構成であることにより、所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制でき、優れた伝送特性及び耐熱性を発揮し得る。
このような効果が得られる詳しい理由は明らかではないが、一つには以下の理由が考えられる。
【0016】
まず、本発明者は、上記課題を解決するにあたり、熱処理後のニッケル層における磁化の抑制に着目し、鋭意研究を行った。
研究の結果、本発明者は、従来のニッケル層を含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔では、(1)所定の熱処理を経ることで磁束密度が増大すること、及び(2)その増大幅が大きい銅箔種において、高周波帯域の伝送損失が顕著に大きくなることを突き止めた。
所定の熱処理後の表面処理銅箔において、磁束密度が増大する理由は明らかではないが、一つの理由として、熱処理によって、ニッケル層において、結晶化及び/又は結晶粒径の増大が進行することで、熱処理後のニッケル層が磁化したものと考えられる。
【0017】
そこで、本発明者は更に検討を重ね、ニッケル層の改善を行うことで、熱処理によってニッケル層が磁化することを抑制でき、300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である表面処理銅箔が得られ、このような表面処理銅箔によれば、伝送損失を低減でき、更に、優れた耐熱性も発揮し得ることを見出した。
ここで、飽和磁束密度と伝送損失との関係は必ずしも明らかではないが、高周波帯域になるほど回路導体の表面状態の影響が大きくなり、回路導体に強磁性を示す金属が付着することで、渦電流の発生による損失(渦電流の発生により回路導体の電気抵抗が上昇することで生じる損失)や磁性のヒステリシス損等により、高周波信号の伝送損失が大きくなることが考えられる。
そのため、本発明では、ニッケル層の飽和磁束密度を所定値以下に制御することで、回路導体の磁性を高周波帯域において伝送損失に影響を与えない程度とすることができ、これにより、伝送損失を優位に低減できるものと考えられる。
また、本発明の表面処理銅箔は、表面処理皮膜としてニッケル層を含むことで、優れた耐熱性も発揮し得ると考えられる。
このような本発明の表面処理銅箔は、例えばプリント配線板用途に好適に用いられる。本発明の表面処理銅箔を用いた場合には、伝送損失の低減と優れた耐熱性とを両立し得る。
【0018】
以下、本発明の表面処理銅箔について詳しく説明する。
【0019】
本発明の表面処理銅箔は、銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有する。
【0020】
<銅箔基体>
銅箔基体は、表面処理銅箔の基材層としての役割を担う。
銅箔基体は、電解銅箔であっても、圧延銅箔であってもよく、好ましくは電解銅箔である。
銅箔基体の厚さは、例えば5~210μm、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~40μmである。
また、銅箔基体が電解銅箔である場合、表面処理皮膜を有する面は、電解銅箔の回転ドラム状カソード(以下、単に「ドラム状カソード」という。)からの剥離面に由来する面(以下、「ドラム面」という)であってもよいし、ドラム面とは反対側の面(以下、「非ドラム面」という。)であってもよいが、好ましくは非ドラム面である。なお、一般的に、ドラム面は光沢面(S面)と、非ドラム面は析出面又はマット面(M面)と、それぞれ呼称される場合もある。
【0021】
<表面処理皮膜>
表面処理皮膜は、銅箔基体の少なくとも一方の面に形成される層であり、表面処理銅箔に所望の機能を付与する役割を担う。
表面処理皮膜は、銅箔基体の表裏面のいずれか一方の面に形成されていてもよいし、両方の面に形成されていてもよい。
また、表面処理皮膜は、ニッケル層を含む。具体的には、ニッケル層のみで構成されていてもよいし、その他の表面処理層を1層以上含んでいてもよい。
その他の表面処理層としては、例えば、銅箔基体上に形成される粗化処理層や、ニッケル層上に形成される亜鉛(Zn)を含有する表面処理層(以下、「亜鉛層(Zn層)」ということがある。)及びクロム(Cr)を含有する表面処理層(以下、「クロム層(Cr層)」ということがある。)等の中間層、並びにシランカップリング剤等による化学密着層等が挙げられる。
【0022】
表面処理皮膜の表面は、表面処理銅箔の表裏面のうち、少なくとも一方の面であり、銅箔基体の表面に、ニッケル層を含む表面処理皮膜を有する面である。
このような表面処理皮膜の表面は、銅箔基体上に形成されたニッケル層の表面であってもよいし、ニッケル層上に直接又は間接的に形成されたその他の表面処理層(例えば、シランカップリング剤による化学密着層)の表面であってもよい。
また、本発明の表面処理銅箔がプリント配線板の導体回路に用いられる場合には、上記表面処理皮膜の表面、好ましくは更に粗化処理層を含む上記表面処理皮膜の表面が、樹脂基材を貼着積層するための表面(貼着面)となる。
【0023】
(ニッケルを含む表面処理層)
表面処理皮膜は、ニッケルを含む表面処理層(ニッケル層)を含む。ニッケル層は、表面処理銅箔の下地層としての役割を担う。
【0024】
ニッケル層は、ニッケルを含む層であればよく、単層であっても、異なる組成の層が2層以上積層した複層であってもよいが、製造容易性の観点から単層であることが好ましい。
【0025】
ニッケル層は、ニッケル単体で構成されていてもよいし、ニッケルと、その他の元素との合金(以下、「ニッケル合金」ともいう)で構成されていてもよいが、伝送損失を低減しつつ、優れた耐熱性を発揮し得る観点からは、ニッケル合金で構成されることが好ましい。
ニッケル合金としては、好ましくは亜鉛(Zn)、リン(P)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニオブ(Nb)からなる群から選択される1種以上の元素を含むニッケル合金、より好ましくはZn、P、Mo、W、Cr及びCoからなる群から選択される1種以上の元素を含むニッケル合金である。
より具体的には、ニッケル合金は、好ましくはNi-P、Ni-Zn、Ni-Mo、Ni-W、Ni-Cr、Ni-Co、Ni-Zn-P、Ni-Zn-Mo及びNi-Zn-Crからなる群から選択される1種以上である。
なお、ニッケル層を構成する金属又は合金組成は、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0026】
表面処理皮膜を有する面において、ニッケル付着量は、好ましくは0.02mg/dm以上3.5mg/dm以下、より好ましくは0.02mg/dm以上3.0mg/dm以下、更に好ましくは0.02mg/dm以上2.0mg/dm以下、より更に好ましくは0.02mg/dm以上1.0mg/dm以下である。上記範囲内とすることにより、伝送損失を低減しつつ、優れた耐熱性を発揮し得る。
なお、表面処理皮膜を有する面における、ニッケル付着量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
(その他の表面処理層)
表面処理皮膜は、必要に応じて、ニッケル層の他に、その他の表面処理層を更に含んでいてもよい。
その他の表面処理層としては、例えば、銅箔基体上に形成される粗化処理層や、Ni層上に形成されるZn層及びCr層等の中間層、並びにシランカップリング剤による化学密着層等が挙げられる。
【0028】
<表面処理銅箔の磁気特性>
本発明の表面処理銅箔は、300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度(Bs300)が、5.0×10-3T以下であり、好ましくは2.0×10-3T以下、より好ましくは7.0×10-4T以下である。上記範囲内とすることにより、加熱による磁性発現を低減して、伝送損失を低減でき、更に、優れた耐熱性も発揮し得る。なお、飽和磁束密度(Bs300)の下限は、例えば生産性等の観点から、好ましくは1.0×10-6T以上、より好ましくは5.0×10-6T以上、更に好ましくは2.0×10-5T以上である。
【0029】
本発明の表面処理銅箔は、300℃で2時間熱処理された後の状態における、残留磁束密度(Br300)が、好ましくは6.0×10-4T以下、より好ましくは5.0×10-4T以下、更に好ましくは4.0×10-4T以下である。上記範囲内とすることにより、熱処理による磁性発現を効果的に低減でき、伝送損失を更に低減できる。特に、残留磁束密度が大きい程、渦電流の発生による損失や、磁性のヒステリシス損が大きくなり、高周波信号の伝送損失が大きくなると考えられる。そのため、上記所定の残留磁束密度を低減することにより、伝送損失を更に優位に低減することが出来ると考えられる。なお、残留磁束密度(Br300)の下限は、例えば生産性等の観点から、好ましくは1.0×10-7T以上、より好ましくは5.0×10-7T以上、更に好ましくは3.0×10-6T以上である。
【0030】
また本発明の表面処理銅箔は、好ましくは下記の要件(I)及び(II)を満たす。
要件(I):300℃で2時間の熱処理後の飽和磁束密度Bsの増加率[{(Bs300-Bs)/Bs}×100]が、好ましくは310%以下、より好ましくは300%以下、更に好ましくは200%以下、より更に好ましくは100%以下である。
要件(II):300℃で2時間の熱処理後の残留磁束密度Brの増加率[{(Br300-Br)/Br}×100]が、好ましくは310%以下、より好ましくは300%以下、更に好ましくは200%以下、より更に好ましくは100%以下である。
上記要件(I)及び(II)において、Bs300は300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度、Bsは前記熱処理前の状態における飽和磁束密度、Br300は300℃で2時間熱処理された後の状態における残留磁束密度、Brは前記熱処理前の状態における残留磁束密度である。
本発明の表面処理銅箔が上記要件を満たすことで、熱処理後の各磁束密度の増加幅を所定の範囲内とすることができ、これにより伝送損失を更に低減できる。特に、熱処理後の磁束密度の増加率が大きい表面処理銅箔では、伝送損失を測定する際の高周波信号の波形が不安定になる傾向がある。このような現象が起こる原因として、プリント配線板の製造過程において熱負荷が面内分布を伴う際、プリント配線板の面内における磁化の分布の変化が発生することによるものと推察する。そのため、熱処理後における磁束密度の増加率を一定範囲内に制御することにより、高周波信号の品質を向上できると考えられる。
【0031】
なお、上記所定の熱処理前後の飽和磁束密度Bs及び残留磁束密度Brは、以下の方法により測定することができる。
まず、所定の熱処理後の表面処理銅箔とは、表面処理銅箔を300℃、2時間で加熱して得られたものである。
上記熱処理前後の表面処理銅箔を、それぞれ10mm×10mmの大きさに裁断して測定対象とし、振動試料型磁力計(VSM)を用いて、以下の条件下で、飽和磁束密度Bs及び残留磁束密度Brを測定する。
印加磁場範囲 :±10000[Oe]
掃引速度 :50[Oe/s]
より具体的には、上記磁気特性は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
<表面処理銅箔の表面粗さ>
本発明の表面処理銅箔は、表面処理皮膜が、前記銅箔基体側から順に、粗化処理層と、前記ニッケル層と、を含む場合、表面処理皮膜の表面において、ISO25178に準拠して光学式で測定した算術平均高さSaは、好ましくは0.02μm以上0.50μm以下、より好ましくは0.02μm以上0.35μm以下、更に好ましくは0.02μm以上0.30μm以下、より更に好ましくは0.02μm以上0.20μm以下である。上記構成とすることにより、伝送損失を低減しつつ、優れた耐熱性を発揮し得る。特に、表面処理銅箔において、表面処理皮膜がニッケル層の下部(銅箔基体側)に粗化処理層を含むことにより、樹脂基材との密着性を高めることができる。その際、表面処理皮膜の表面において、凹凸形状が上記所定の範囲内であることにより、伝送損失に悪影響を与えることなく、樹脂基材との密着性を高めることができる。
なお、上記算術平均高さSaは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
<表面処理銅箔の製造方法>
次に、本発明の表面処理銅箔の好ましい製造方法について、その一例を説明する。
本発明の表面処理銅箔の好ましい製造方法は、銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケル層を含む表面処理皮膜を形成する工程を含み、より具体的には、銅箔基体の少なくとも一方の面に直接又は間接的に、ニッケル層を形成する工程を含む。
【0034】
(銅箔基体)
銅箔基体としては、粗大な凹凸が存在しない平滑で光沢のある表面を持つ、電解銅箔や圧延銅箔を用いることが好ましい。中でも、生産性やコストの観点で電解銅箔を用いることが好ましく、特に表面処理皮膜を形成する面としては、電解銅箔の非ドラム面を用いることが好ましい。また、電解銅箔製造に使用するドラム状カソード表面は、#1000番~#2500番のバフで研磨されていることが好ましい。
【0035】
銅箔基体は、少なくとも表面処理皮膜を形成する面において、十点平均粗さRzjisが、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。上記範囲内とすることにより、樹脂基材との密着性を高めることができ、また伝送損失を悪化させることもない。
また、銅箔基体は、その両面において、十点平均粗さRzjisが、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。
なお、銅箔基体の各表面における十点平均粗さRzjisの下限は、製造又は入手の容易性の観点で、例えば0.1μm以上である。
なお、十点平均粗さRzjisは、JIS B0601:2001に規定された方法に従って、接触式表面粗さ測定機を用いて測定することができる。具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
銅箔基体の厚さは、例えば5~210μm、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~40μmである。
【0037】
(ニッケル処理)
本発明の表面処理銅箔は、ニッケル処理により、ニッケル層を形成する。ニッケル処理は、銅箔基体の少なくとも一方の面に直接又は間接的に、ニッケル層を形成する処理である。
本発明では、所定の熱処理後であっても、ニッケル層が磁化することを抑制できる表面処理銅箔を得ることを目的とする。
これに対し、本発明者は、鋭意研究を重ね、所定の熱処理後の表面処理銅箔において磁束密度が増大する要因として、熱処理によってニッケル層の結晶化及び/又は結晶粒径の増大が進行していると考え、この現象に着目し、これを抑制し得るニッケル処理を検討した。
以下、本発明者が検討したニッケル処理の好適な一例として、下記のニッケル処理(A)及びニッケル処理(B)について詳しく説明する。
【0038】
・ニッケル処理(A)
ニッケル処理(A)は、所定の熱処理後のニッケル層において結晶粒径の増大を抑制できるようなニッケル処理の一例であり、流量コントロールを行ったパルス電解により行う。
【0039】
一般に、パルス電解は、通常の直流電解よりも、瞬間的に高い電流密度で通電することが可能であることから、緻密な微結晶組織のめっき膜を形成することが可能である。
一方で、瞬間的な高電密印加によって電極近傍の反応種は失われるため、パルス電解では電流印加時間と休止時間とを交互に挟む必要があり、緻密な結晶組織を得るためには、Duty比(電流印加時間/[電流印加時間+電流休止時間])を小さくする必要がある。しかし、Duty比を小さくすると、電流印加しない時間が多くを占めることになり、生産性の悪化が懸念される。また、不連続な多段階めっきになることから、不純物がニッケル層に取り込まれ易くなるため、耐熱性が悪化することも懸念され、製造面での課題がある。
【0040】
そこで、本発明者は、鋭意研究を行った結果、槽内の液流量を制御することにより、液中の撹拌速度を高め、反応場となる電極近傍に十分な反応種を供給することで、上記課題の解決を図った。すなわち、液流量を制御した反応場でパルス電解を行うことにより、電流印加直後の電極近傍に、すぐさま反応種を供給でき、従来のDuty比より大きい条件で、ニッケルを効率よく付着させることが可能となった。これにより、ニッケル層間への不純物の取り込み量も低減でき、且つ、微細な結晶粒径を持つニッケル層を電解めっきすることが可能となった。
【0041】
このようなパルス電解において、Duty比は、好ましくは0.1~0.9、より好ましくは0.1~0.8であり、液流量は、好ましくは15~110L/分、より好ましくは20~100L/分である。Duty比及び液流量が上記範囲内であることにより、微結晶化したニッケルを効率的に付着させることが可能となり、得られるニッケル層は微結晶化されている。そのため、所定の熱処理後であっても、結晶粒径が増大し切らず、ニッケル層が磁化することを抑制できると考えられる。一方、Duty比が小さ過ぎる場合には、生産性が悪化する傾向があり、Duty比が大き過ぎる場合には、電極表面に反応種が十分に供給されず、電極表面におけるめっき外観不良が生じる傾向がある。また、流量が小さ過ぎる場合には、電極表面に反応種が十分に供給されないため、また流量が大き過ぎる場合には、液中に気泡が含まれる等の理由から、電極表面におけるめっき外観不良が生じる傾向がある。
【0042】
以下、ニッケル処理(A)に適した、めっき浴の組成及び電解条件の一例を示す。なお、下記条件は好ましい一例であり、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて添加剤の種類や量、電解条件等を適宜変更、調整することができる。
<めっき浴の組成>
硫酸ニッケル六水和物 :ニッケル(原子)換算で、10~80g/L
ホウ酸 :5~40g/L
pH :3.0~5.0
<パルス電解の条件>
浴温 :10~60℃
電流密度 :1~15A/dm
電流印加時間 :5~100ミリ秒
Duty比 :0.1~0.9
総電荷量 :0.5~30A・S/dm
液流量 :15~110L/分
【0043】
・ニッケル処理(B)
ニッケル処理(B)は、所定の熱処理後のニッケル層において結晶粒径の増大を抑制できるようなニッケル処理の一例であり、水酸化ニッケルの電気化学的な還元反応によりを行う。具体的には以下のとおりである。
【0044】
まず、銅箔基体の表面に、ニッケル層を形成する。その後、アルカリ浸漬や、アノードでの酸化、pHがアルカリ性の状態でのニッケルめっき等の手法(以下、「水酸化物処理」ということがある。)により、銅箔基体の表面に水酸化ニッケルを付着させる。その後、水酸化ニッケルを電気化学的な還元反応によりニッケルに還元し(以下、「還元処理」ということがある。)、ニッケル層を再形成する。この時、還元処理を適切な条件で行うことにより、ニッケル層において、水酸化ニッケルと金属ニッケルの混合物のような状態を形成でき、結晶性がランダムとなり、ニッケル層を非晶質化できると考えられる。更に、水酸化物中に取り込まれる酸素原子が粒界に一部存在することにより、加熱時の結晶粒径の増大を抑制する効果もあると考えられる。
【0045】
このような水酸化ニッケルの電気化学的な還元反応において、電流密度は、好ましくは0.1~2.7A/dm、より好ましくは0.2~2.5A/dmである。電流密度が上記範囲内であることにより、上述のような効果が得られると考えられる。一方、電流密度が小さ過ぎる場合には、水酸化ニッケルの還元が不十分となる傾向があり、電流密度が大き過ぎる場合には、結晶粒径が増大し易く、磁性が発現する傾向がある。
【0046】
以下、ニッケル処理(B)に適した、電解めっきの条件、水酸化物処理の条件及び還元処理の条件の一例を示す。なお、下記条件は好ましい一例であり、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて添加剤の種類や量、電解条件等を適宜変更、調整することができる。
(1)まず、以下の条件で電気めっきを行うことが好ましい。
<めっき液の組成>
硫酸ニッケル六水和物 :ニッケル(原子)換算で、20~60g/L
ホウ酸 :5~40g/L
pH :3.0~5.0
<電解条件>
浴温 :20~60℃
電流密度 :0.1~2.7A/dm
通電時間 :1.5~30秒
【0047】
(2)次に、上記(1)で得られたニッケル層の面に対し、以下の条件で水酸化物処理及び還元処理を順に行うことが好ましい。
<水酸化物処理の条件>
水酸化ナトリウム水溶液 :水酸化ナトリウム濃度5~50g/L
浸漬時間 :10~60秒
<還元処理の条件>
電流密度 :0.1~2.7A/dm
電流印加時間 :10~60秒
【0048】
またニッケル層は、Zn、P、Mo、W、Cr、Fe、Co、Nb等に代表される異種金属と合金化することで、更に磁化の増大抑制や耐熱性の向上を図ることが可能となる。
上述のようなニッケルの磁性を抑制させるための反応機構は、異種金属を含むめっき浴でも同じような効果を持つ。例えば、ニッケル処理(A)では、パルス電解で使用するニッケルめっき浴に、Zn源や、P源などの元素を添加することで、微細結晶化したニッケル層を形成することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、所定の熱処理後の表面処理銅箔において磁束密度が増大する要因として、熱処理によってニッケル層の結晶化及び/又は結晶粒径の増大が進行すると考え、これを改善する一手段として、上記ニッケル処理(A)及び(B)を好ましく例示したが、上記以外の手段によって、所定の熱処理後の表面処理銅箔における磁束密度が増大を抑制してもよい。
【0050】
(粗化処理)
本発明の表面処理銅箔は、ニッケル処理を施す前の銅箔基体表面に対して粗化処理を施して、銅箔基体の表面に粗化処理層を形成しても良い。この場合、銅粒子の電析による粗化処理層の形成や、過酸化水素水等を用いたエッチングによる粗化処理層の形成などの手法が一例として挙げられる。
【0051】
また、粗化処理層を形成する場合、該粗化処理層及びニッケル層を含む表面処理皮膜の表面において、ISO25178に準拠して光学式で測定した算術平均高さSaが、好ましくは0.02μm以上0.50μm以下、より好ましくは0.02μm以上0.35μm以下、更に好ましくは0.02μm以上0.30μm以下、より更に好ましくは0.02μm以上0.20μm以下となるように、処理条件を制御して行うことが望ましい。得られる表面処理銅箔の表面状態を上記のように制御することにより、伝送損失を低減しながら、樹脂基材の表面への密着性を更に向上することができる。
なお、処理条件の制御方法は、例えば、銅の電析による粗化粒子形成であれば通電時間や通電量等を調整する方法や、また、エッチングによる粗化形成であれば処理時間等を調整する方法等が挙げられる。
【0052】
粗化処理としては、ニッケル処理を施す前の銅箔基体表面に対して、例えば下記に示すような粗化めっき処理(1)を行うことが好ましい。なお、必要に応じて固定めっき処理(2)を組み合せてもよい。
・粗化めっき処理(1)
<めっき浴の組成>
硫酸銅五水和物 :銅(原子)換算で、3~20g/L
硫酸 :100~250g/L
モリブデン酸アンモニウム :モリブデン(原子)換算で400~1200mg/L
<電気めっき処理の条件>
浴温 :5~20℃
電流密度 :5~55A/dm
通電時間 :0.5~15秒
・固定めっき処理(2)
<めっき浴の組成>
硫酸銅五水和物 :銅(原子)換算で、40~70g/L
硫酸 :100~250g/L
<電気めっき処理の条件>
浴温 :15~30℃
電流密度 :2~10A/dm
通電時間 :0.5~5秒
【0053】
(その他の処理)
また、本発明の表面処理銅箔は、ニッケル層上に、直接又は、亜鉛(Zn)を含有する耐熱処理層及びクロム(Cr)を含有する防錆処理層等の中間層を介して、シランカップリング剤層等の化学密着層を更に形成してもよい。なお、上記中間層及び化学密着層はその厚みが非常に薄いため、表面処理面の粗さに影響を与えるものではなく、磁性に与え得る影響も小さい。
【0054】
耐熱処理層は、表面処理皮膜の耐熱性を更に向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。耐熱処理層は、例えば、亜鉛又は亜鉛を含有する合金で形成することが好ましい。亜鉛を含有する合金としては、亜鉛-錫(Sn)合金、亜鉛-コバルト(Co)合金、亜鉛-銅(Cu)合金、亜鉛-モリブデン(Mo)合金、亜鉛-クロム(Cr)合金、亜鉛-バナジウム(V)合金が挙げられる。
【0055】
防錆処理層は、表面処理皮膜の耐食性を更に向上させる必要がある場合に形成することが好ましい。防錆処理層としては、例えば、クロムめっきにより形成されるクロム層、クロメート処理により形成されるクロメート層が挙げられる。
【0056】
耐熱処理層、及び防錆処理層を全て形成する場合には、この順序で表面処理層の上に形成することが好ましい。すなわち、全てを備える場合は、銅箔基体-粗化処理層-ニッケル層-耐熱処理層-防錆処理層となる。また、用途や目的とする特性に応じて、耐熱処理層、及び防錆処理層のうちいずれか一層又は二層のみを形成してもよい。
【0057】
化学密着層の形成方法としては、例えば、表面処理銅箔のニッケル層の表面上に、直接又は中間層を介してシランカップリング剤溶液を塗布した後に、風乾(自然乾燥)又は加熱乾燥して形成する方法が挙げられる。塗布されたカップリング剤溶液中の水が蒸発すれば、シランカップリング剤層が形成される。特に、シランカップリング剤の脱水反応をより促進させる観点から、乾燥は100~220℃の加熱乾燥とすることが好ましい。
【0058】
また、シランカップリング剤層は、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、アゾール系シランカップリング剤、スチリル系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤及びイソシアネート系シランカップリング剤からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0059】
[用途]
本発明の表面処理銅箔は、銅張積層板の製造、更にはプリント配線板の製造に好適に用いられる。すなわち、本発明の銅張積層板は、本発明の表面処理銅箔を備え、好ましくは該表面処理銅箔の表面処理層上に貼り合わされた樹脂基材を更に備える。また、本発明プリント配線板は、本発明の銅張積層板を備える。
このような表面処理銅箔を用いて銅張積層板やプリント配線板を製造すれば、所定の熱処理を経た場合であっても、ニッケル層が磁化することを抑制できるため、得られる銅張積層板やプリント配線板は、伝送損失を低減でき、ニッケル層による良好な耐熱性も発揮される。
【0060】
ところで、次世代型の無線伝送用途において、回路基板が磁性を持つことは、それ自体が大きな問題となることがある。
例えば、次世代5G、6Gに期待される技術として、遠隔医療等が挙げられるが、MRIといった磁気を利用した検査装置へのプリント配線板の利用を考えた際、プリント配線板自体が磁化を持つことにより、正確な検査結果が得られない等の問題が発生する可能性が考えられる。
また、その他の技術としては、スマートウォッチといったウェアラブルの端末等が挙げられるが、更なる高機能化に伴い、これらも磁気不良により、正常な動作が得られない等の問題が発生する可能性が考えられる。
今後、高周波信号の周波数が増大するに伴い、磁性金属による磁場への影響は大きくなることが考えられることから、伝送損失の低減という要素に限らず、磁性の無い表面処理銅箔をプリント配線板の回路導体として使用することが求められている。
このような観点からも、本発明の表面処理銅箔は非常に有用である。
【0061】
すなわち、本発明の表面処理銅箔を備えるプリント配線板は、高周波帯域(特に1~100GHzの高周波帯域)で使用される高周波帯域用プリント配線板及び磁場の影響が懸念されるプリント配線板として好適である。
【0062】
本発明の表面処理銅箔を備える銅張積層板は、公知の方法により形成することができる。具体的には、銅張積層板は、通常、表面処理銅箔と樹脂基材(絶縁基板)とを、表面処理銅箔の粗化面(貼着面)と樹脂基材とが向かい合うように、積層貼着することにより製造されるのが一般的である。特に、本発明の表面処理銅箔を用いて銅張積層板を作製する場合、所定の表面処理皮膜を有する面を、樹脂基材との貼り付け面とすることが好ましい。これにより伝送損失を低減でき、ニッケル層による良好な耐熱性も発揮される。
【0063】
なお、樹脂基材としては、例えば、フレキシブル樹脂基板又はリジット樹脂基板等が挙げられるが、本発明の表面処理銅箔は、高周波帯域での伝送特性及び高い密着性が要求されるリジット樹脂基板との組み合わせにおいて特に好適である。
樹脂基材を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、ビス(フェノキシフェノキシ)ベンゼン、ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。
【0064】
また、プリント配線板用銅張積層板を製造する場合には、シランカップリング剤層を有する表面処理銅箔と、樹脂基材とを加熱プレスによって貼り合わせることにより製造すればよい。なお、樹脂基材上にシランカップリング剤を塗布し、シランカップリング剤が塗布された樹脂基材と、最表面に防錆処理層を有する表面処理銅箔とを加熱プレスによって貼り合わせることにより作製されたプリント配線板用銅張積層板も、上記シランカップリング剤層を有する表面処理銅箔を用いた場合と同等の効果を有する。
【0065】
また、本発明の表面処理銅箔を含むプリント配線板は、公知の方法により形成することができる。具体的には、上記プリント配線板用銅張積層板を用いて形成すればよい。そのようなプリント配線板は、上記プリント配線板用銅張積層板を備えることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係るプリント配線板は、例えば、銅張積層板の表面処理銅箔をエッチングして回路を形成した後に、回路を覆うように別の樹脂製基材を貼り合わせれば、プリント配線板を得ることができる。回路を覆うように貼り合わる樹脂製基材は、銅張積層板の樹脂製基材と同種のものでもよいし、異種のものでもよい。
【0067】
また、本発明の表面処理銅箔は、リチウムイオン二次電池等の負極集電体としても好適に用いることができる。
本発明の表面処理銅箔を含む負極集電体は、公知の方法により形成することができる。具体的には、銅箔の表面に、負極活物質層としてカーボン粒子等を塗布し、乾燥し、更にプレスすることで、形成される。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の一例に過ぎない。本発明は、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0069】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、以下は本発明の一例である。
【0070】
(製造例1:銅箔基体の準備)
表面処理皮膜を形成するための基材となる銅箔基体として、下記カソード及びアノードを用い、下記組成の硫酸銅電解液を使用して下記電解条件により、M面における十点平均粗さRzjisが0.8μmであり、厚さ18μmである、ロール状の電解銅箔(両面光沢箔)を作製した。なお、M面における十点平均粗さRzjisは、以下の測定条件で測定された値である。
【0071】
<カソード及びアノード>
カソード:#1000~#2000のバフ研磨により、表面の粗さを調整されたチタン製の回転ドラム
アノード:寸法安定性陽極DSA(登録商標)
<電解液組成>
硫酸銅五水和物 :銅(原子)換算で75g/L
硫酸 :65g/L
塩素濃度 :20mg/L
(添加剤)
・3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム :2mg/L
・ヒドロキシエチルセルロース :10mg/L
・低分子量膠(分子量3000) :50mg/L
<電解条件>
液温 :55℃
電流密度 :45A/dm
【0072】
<十点平均粗さRzjis>
電解銅箔のM面において、接触式表面粗さ測定機(株式会社小坂研究所製、「サーフコーダーSE1700」)用いて、JIS B 0601:2001で定義される十点平均粗さRzjis(μm)を、電解銅箔の長手方向(搬送方向、MD方向)に対して直交方向(TD方向)で、すなわち、TDの十点平均粗さRzjis(μm)を測定した。
【0073】
(実施例1~10及び48~51並びに比較例4及び5)
実施例1~10及び48~51並びに比較例4及び5では、製造例1で作製した電解銅箔を銅箔基体として用い、該銅箔基体に対して以下の工程[1]~[3]を行い、表面処理銅箔を得た。以下詳しく説明する。
【0074】
[1]ニッケル層の形成
パルス電解装置を用いた電気めっき処理(ニッケル処理(A))により、上記電解銅箔のM面にニッケル層を形成した。この時、浴槽にはめっき液を循環させることが可能な浴槽を用いて、流量をコントロールしながらめっきを行った。めっき浴の組成及びパルス電解の条件は下記の通りとした。
<めっき浴の組成>
硫酸ニッケル六水和物 :ニッケル(原子)換算で、50g/L
ホウ酸 :20g/L
pH :4.3
<パルス電解の条件>
浴温 :20℃
電流密度 :10A/dm
電流印加時間 :10ミリ秒
Duty比 :表1及び2に示す。
総電荷量 :4A・S/dm
液流量 :表1及び2に示す。
【0075】
[2]中間層の形成
続いて、上記[1]で形成したニッケル層の表面に、下記の条件で、亜鉛めっき処理及びクロムめっき処理を該順序で施し、中間層を形成した。亜鉛めっき処理及びクロムめっき処理について、各めっき浴の組成及び電解条件は下記の通りとした。
【0076】
・亜鉛めっき処理
<めっき浴の組成>
硫酸亜鉛七水和物 :亜鉛(原子)換算で、2.5g/L
水酸化ナトリウム) :25g/L
pH :10~12
<電解条件>
浴温 :20℃
電流密度 :0.7A/dm
処理時間 :4秒
【0077】
・クロムめっき処理
<めっき浴の組成>
酸化クロム(VI) :クロム(原子)換算で、8g/L
pH :2.4
<電解条件>
浴温 :30℃
電流密度 :5A/dm
処理時間 :4秒
【0078】
[3]化学密着層の形成
最後に、上記[2]にて形成した中間層(特に、最表面のクロムめっき層)の上に、濃度0.8質量%の3-アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液を塗布し、200℃で乾燥させ、シランカップリング剤による化学密着層を形成した。
【0079】
(実施例11~17及び比較例6)
実施例11~17及び比較例6は、上記[1]において、ニッケル処理(A)に替えて、下記に示す条件で、水酸化ニッケルの電気化学的な還元反応(ニッケル処理(B))を行った以外は、実施例1と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
具体的には、以下の手順で行った。
【0080】
(1)まず、以下の電解めっきにより、上記電解銅箔のM面にニッケル層を形成した。めっき浴の組成及び電解条件は下記の通りとした。
<めっき浴の組成>
硫酸ニッケル六水和物 :ニッケル(原子)換算で、40g/L
ホウ酸 :20g/L
pH :4.2
<電解条件>
浴温 :30℃
電流密度 :0.5A/dm
通電時間 :5秒
【0081】
(2)次に、上記(1)で得られたニッケル層の面を、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:30g/L)に30秒間浸漬し、ニッケル層の水酸化物処理を行った。
その後、水酸化ナトリウム水溶液中で、下記の条件で水酸化ニッケルの電気化学的な還元反応を行うことで、ニッケル層を得た。
<還元処理の条件>
電流密度 :表1及び2に示す。
電流印加時間 :30秒
【0082】
(実施例18~35)
実施例18~35は、Niを含む表面処理層の組成が表1に示す合金組成となるように、上記[1]におけるめっき浴に下記濃度で各成分を添加した以外は、実施例3と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
・Ni-Pの場合
次亜リン酸ナトリウム一水和物 :リン(原子)換算で、15g/L
・Ni-Znの場合
硫酸亜鉛七水和物 :亜鉛(原子)換算で、5g/L
・Ni-Moの場合
モリブデン酸ナトリウム二水和物 :モリブデン(原子)換算で、5g/L
・Ni-Wの場合
タングステン酸ナトリウム二水和物 :タングステン(原子)換算で、5g/L
・Ni-Crの場合
酸化クロム(VI) :クロム(原子)換算で、4g/L
・Ni-Coの場合
塩化コバルト六水和物 :コバルト(原子)換算で、4g/L
・Ni-Zn-Pの場合
硫酸亜鉛七水和物 :亜鉛(原子)換算で、5g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 :リン(原子)換算で、15g/L
・Ni-Zn-Moの場合
硫酸亜鉛七水和物 :亜鉛(原子)換算で、5g/L
モリブデン酸ナトリウム二水和物 :モリブデン(原子)換算で、5g/L
・Ni-Zn-Crの場合
硫酸亜鉛七水和物 :亜鉛(原子)換算で、5g/L
酸化クロム(VI) :クロム(原子)換算で、4g/L
【0083】
(実施例36~40)
実施例36~40は、銅箔基体上に予め下記の条件で粗化処理層を形成し、該粗化処理層上にNiを含む表面処理層を形成した以外は、実施例3と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
【0084】
[粗化処理層の形成]
上記[1]のニッケル処理を施す前に、粗化めっき処理により、上記電解銅箔のM面に粗化処理層を形成した。この時、通電時間を変更することによって、銅箔基体の表面に、異なる形状の粗化粒子を形成した。めっき浴の組成及びめっき条件は下記の通りとした。
<めっき浴の組成>
硫酸銅五水和物 :銅(原子)換算で、10g/L
硫酸 :150g/L
モリブデン酸アンモニウム :モリブデン(原子)換算で600mg/L
<電気めっき処理の条件>
浴温 :12℃
電流密度 :20A/dm
通電時間 :2~8秒
【0085】
(実施例41~47)
実施例41~47は、表2に示すNi付着量となるようにNiめっきの総電荷量を1~20A・S/dmの範囲で変更した以外は、実施例3と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
【0086】
(比較例1~3)
比較例1~3は、上記[1]において、ニッケル処理(A)に替えて、一般的なニッケルめっき手法として下記の条件でニッケル処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で表面処理銅箔を得た。めっき浴の組成及び電解条件は下記の通りとした。
<めっき浴の組成>
硫酸ニッケル六水和物 :ニッケル(原子)換算で、45g/L
ホウ酸 :20g/L
pH :3.5
<電解条件>
浴温 :20℃
電流密度 :0.5A/dm
通電時間 :9秒
【0087】
(比較例7)
比較例7は、Niめっきを行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
【0088】
(比較例8)
比較例8は、特許文献1の実施例4のNi-Co処理条件と同様の方法で、Niを含む表面処理層を形成した以外は、実施例1と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
【0089】
(比較例9)
比較例9は、特許文献2の実施例1と同様の方法で表面処理銅箔を得た。
【0090】
(評価)
上記実施例及び比較例に係る表面処理銅箔を用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記の通りであり、特に断らない限り、各測定は室温(20℃±5℃)にて行った。結果を表1及び2に示す。
【0091】
[Niを含む表面処理層の組成]
表面処理銅箔のニッケル層の組成については、X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、「PHI Quants」)を用いて、X線光電子分光法(XPS)により分析を行った。
入射X線については、単色化Al-Kα線(hν=1486.6eV)を用い、脱出角は45°とした。
表面処理銅箔のニッケル層を含む表面処理皮膜の表面を、分析領域100μmφで測定し、Arスパッタによる深さ方向分析を行った。この時、ニッケルが検出される深さ領域と同じ深さ領域に、Zn、P、Mo、W、Cr及びCoからなる群から選択される1種以上の元素が検出された場合、ニッケルが合金化されていると判断し、合金組成としては、ニッケルと、検出された元素との合金であると推定した。
【0092】
[Ni付着量]
表面処理銅箔のニッケル層を含む表面処理皮膜を有する面について、走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、ZSX Primus IV)を使用し、蛍光X線分析法で分析することにより、Ni付着量(mg/dm)をそれぞれ測定した。なお、Ni付着量は、既知の標準試料を用いて得た検量線を使って定量した。
【0093】
[磁気特性]
表面処理銅箔について、下記所定の熱処理の前後における、磁気特性を下記の手法で測定した。
(熱処理)
表面処理銅箔を40mm×80mm大きさに裁断し、該裁断箔を、300℃のオーブンにて、不活性雰囲気下で、2時間熱処理して、熱処理後の表面処理銅箔を作製した。
【0094】
(磁気特性の測定)
上記熱処理を行う前の表面処理銅箔及び上記熱処理後の表面処理銅箔のそれぞれについて、以下の方法により、磁気特性の測定を行った。
(1)まず、測定対象の表面処理銅箔を裁断して、10mm×10mmの測定用サンプルを10枚切り出した。
(2)上記(1)で得た測定用サンプルに対し、以下の条件で磁気特性の測定を行った。
測定は、振動試料型磁力計(株式会社玉川製作所製、「TM-VSM211483-HGC型」)を使用した。
まず、上記測定用サンプルをサンプルホルダーにセットし、測定用サンプルを振動させながら、掃引速度50Oe/sで+10000Oeまで磁場を印加した後、掃引速度50Oe/sで-10000Oeまで磁場を掃引し、その後、掃引速度50Oe/sで+10000Oeまで磁場を掃引することで、縦軸:磁束密度と横軸:磁場のB-H曲線を得た。
(3)上記(2)で得たB-H曲線に基づき、磁場が+10000Oeの時の磁束密度及び磁場が0Oeの時の磁束密度をそれぞれ読み取り、飽和磁束密度Bs[T]及び残留磁束密度Br[T]とした。
なお、この方法では、磁場に対して磁束密度の値が2つ出てくることになる。通常、磁気特性の測定が正常に行えれば、B-H曲線は上下対称のグラフになるため、磁場に対して算出される2つの値の絶対値は、ほぼ同一の値になる。本実施例では、B-H曲線が上下対称であることを確認し、先に算出される値を採用した。
(4)上記測定は、測定用サンプル1枚につき1回ずつ行い、10枚の測定用サンプルの測定値を平均して、測定対象の表面処理銅箔の各磁束密度とした。
なお、上記熱処理を行う前の表面処理銅箔の飽和磁束密度Bs及び残留磁束密度Brを「Bs」及び「Br」と、上記熱処理後の表面処理銅箔の飽和磁束密度Bs及び残留磁束密度Brを「Bs300」及び「Br300」と、それぞれ表示する。
また、表中「A×10^-B」と表示されているのは、「A×10-B」を意味するものとする。
(5)更に、上記測定で求めた熱処理を行う前の表面処理銅箔の飽和磁束密度Bs及び残留磁束密度Brと、上記熱処理後の表面処理銅箔の飽和磁束密度Bs300及び残留磁束密度Br300の値に基づき、下記式(I)及び(II)により、熱処理後の飽和磁束密度Bsの増加率及び残留磁束密度Brの増加率をそれぞれ算出した。
熱処理後の飽和磁束密度Bsの増加率(%)=[{(Bs300-Bs)/Bs}×100] ・・・(I)
熱処理後の残留磁束密度Brの増加率(%)=[{(Br300-Br)/Br}×100] ・・・(II)
【0095】
[表面粗さ(算術平均高さSa)]
表面処理銅箔のニッケル層を含む表面処理皮膜を有する面において、共焦点レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、「VK-X1050」及び「VK-X1000」)を用いて、ISO25178に従って、算術平均高さSaを測定した。
共焦点レーザー顕微鏡の対物レンズ倍率は100倍、スキャンモードはレーザーコンフォーカル、測定サイズは2048×1536、測定品質はHigh Precision、ピッチは0.08μmである。
また、Vvc、Saの演算は、以下に示すフィルター処理及び演算条件で行った。
<フィルター処理及び演算条件>
画像処理 :平均化、3×3、メディアン
Sフィルター :無し
F-operation :平面傾き補正
Lフィルター :0.025μm
演算対象面積 :100μm×100μm
【0096】
[伝送特性]
高周波特性の評価として高周波帯域での伝送損失を測定した。詳細を以下に説明する。
低誘電ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム(パナソニック株式会社製の多層基板材料MEGTRON7、厚さ60μm)を2枚重ね合わせたものに対して、その両面から表面処理銅箔を貼り合わせて、銅張積層板を作製した。この時、樹脂フィルムの表面と、表面処理銅箔のニッケル層を含む表面処理皮膜の表面とが対向するように配置して、面圧3.5MPa、210℃の条件で2時間プレスすることにより貼り合わせて、両面銅張積層板を作製した。
得られた銅張積層板に回路加工を行い、伝送路幅140μm、回路長1000mmのストリップラインを形成したプリント配線板を作製した。このプリント配線板の伝送路に、ネットワークアナライザ(Keysight Technologies社製、「N5291A」)を用いて高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。特性インピーダンスは50Ωとした。1つの銅張積層板に対し、上記測定を3回実施し、その平均値を測定値とした。
伝送損失の測定値は、絶対値が小さいほど伝送損失が少なく、高周波特性が良好であることを意味する。得られた測定値を指標にして、以下の評価基準に従って、高周波特性を評価した。
S:40GHzにおける伝送損失の絶対値が41.5dB未満
A:40GHzにおける伝送損失の絶対値が41.5dB以上43.0dB未満
B:40GHzにおける伝送損失の絶対値が43.0dB以上45.0dB未満
C:40GHzにおける伝送損失の絶対値が45.0dB以上
【0097】
[耐熱性]
上記[高周波特性の評価]に記載の方法と同様の方法で両面銅張積層板を作製した。得られた両面銅張積層板を5cm×5cmの大きさに裁断し、試験片を10枚準備した。
得られた10枚の試験片を、290℃のオーブンにて、大気雰囲気化下で、1時間熱処理を行った。
その後、熱処理後の試験片を取り出し、銅箔-樹脂間に剥離が生じているか否かを、試験片ごとに目視にて判定した。試験片10枚の判定結果に基づき、以下の評価基準に従って、耐熱密着性を評価した。
<耐熱密着性の評価基準>
A:剥離が生じている試験片が0枚又は1枚
B:剥離が生じている試験片が2枚又は3枚
C:剥離が生じている試験片が4枚以上
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表1及び2に示されるように、銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有し、300℃で2時間熱処理された後の状態における、飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T以下である表面処理銅箔は、熱処理後であってもニッケル層が磁化することを抑制できるため、伝送特性及び耐熱性に優れていることが確認された(実施例1~51)。
【0101】
これに対し、300℃で2時間熱処理された後の状態における飽和磁束密度(Bs300)が5.0×10-3T超である表面処理銅箔(比較例1~6、8及び9)は、熱処理後にニッケル層が磁化するため、実施例1~51の表面処理銅箔に比べて、伝送特性が劣っていることが確認された。
また、銅箔基体の少なくとも一方の面に、ニッケルを含む表面処理層を含む表面処理皮膜を有していない表面処理銅箔(比較例7)は、伝送特性は良好であるものの、実施例1~51の表面処理銅箔に比べて、耐熱性が劣っていることが確認された。