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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145617
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】エレクトレットフィルム捲回体
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/857 20230101AFI20241004BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20241004BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20241004BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20241004BHJP
   H01G 7/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/88
H10N30/20
H10N30/30
H01G7/02 A
H01G7/02 C
H01G7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058053
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 至
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕人
(57)【要約】
【課題】連続的に製造しても極性が部分的に反転することがなく、面内での圧電特性のばらつきが小さいエレクトレットフィルム捲回体を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るエレクトレットフィルム捲回体は、エレクトレットフィルムがコアに捲回されてなる、エレクトレットフィルム捲回体であって、前記エレクトレットフィルム捲回体から巻き出したエレクトレットフィルムの極性反転割合が1%未満である。
<極性反転割合>
エレクトレットフィルムを幅200mm×長さ200mmに切り出し、幅方向及び長さ方向に等間隔で、合計50点以上について圧電定数d33を測定する。極性が反転している測定点の数を求め、下記式により極性反転割合を算出する。
(極性反転割合)=(極性反転数÷全測定点数)×100
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレットフィルムがコアに捲回されてなる、エレクトレットフィルム捲回体であって、
前記エレクトレットフィルム捲回体から巻き出したエレクトレットフィルムの極性反転割合が1%未満である、エレクトレットフィルム捲回体。
<極性反転割合>
エレクトレットフィルムを幅200mm×長さ200mmに切り出し、幅方向及び長さ方向に等間隔で、合計50点以上について圧電定数d33を測定する。極性が反転している測定点の数を求め、下記式により極性反転割合を算出する。
(極性反転割合)=(極性反転数÷全測定点数)×100
【請求項2】
前記エレクトレットフィルムが多孔質フィルムである、請求項1に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【請求項3】
前記エレクトレットフィルムの空孔率が0%超50%以下である、請求項1に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【請求項4】
前記エレクトレットフィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する、請求項1に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂が、80%以上のβ晶生成能を有するポリプロピレン系樹脂である、請求項4に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【請求項6】
エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体が積層され、コアに捲回されてなる、請求項1に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【請求項7】
前記導体が金属箔である、請求項6に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットフィルム捲回体に関し、特にアクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサー等に好適に用いることができるエレクトレットフィルム捲回体に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットとは、電気を通しにくい高分子材料や無機質材料等を熱的又は電気的に処理することで、その材料の一部を半永久的に分極させたものである。
例えば、多孔性樹脂フィルムを用いた多孔エレクトレットは、優れた圧電効果を示すことが知られており、アクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサー等に広く用いられている。優れた圧電性を有するエレクトレットとするためには、電荷注入の際により高い電圧でフィルムを分極処理し、より多くの電荷を注入することが必要になる。
多孔エレクトレットの一例として、特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂のβ晶を利用した微多孔膜を用いた圧縮性ポリオレフィンフィルムが提案されている。
【0003】
樹脂フィルムをエレクトレット化するためには、樹脂フィルムに高電圧を印加する必要があるため、従来はバッチ式による帯電処理(ポーリング処理)が主流であった。
しかし、エレクトレットフィルムを量産化するためには、大面積かつ連続的にエレクトレットフィルムを製造することが求められる。例えば、特許文献2では、帯電処理工程と、除電処理工程と、巻き取り工程とを経て、連続的にエレクトレットフィルムを製造する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-055114号公報
【特許文献2】特開2022-133991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エレクトレットフィルムを連続的に製造することで得られる捲回体は、フィルム同士の接触によって、フィルム面内の極性が部分的に変わってしまうことがわかってきた。フィルム面内の極性が部分的に異なるエレクトレットフィルムは、圧電特性のばらつきが大きくなってしまう場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、連続的に製造しても極性が部分的に反転することがなく、面内での圧電特性のばらつきが小さいエレクトレットフィルム捲回体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、かかる課題を解決することに着目し本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[7]を要旨とする。
【0008】
[1]エレクトレットフィルムがコアに捲回されてなる、エレクトレットフィルム捲回体であって、
前記エレクトレットフィルム捲回体から巻き出したエレクトレットフィルムの極性反転割合が1%未満である、エレクトレットフィルム捲回体。
<極性反転割合>
エレクトレットフィルムを幅200mm×長さ200mmに切り出し、幅方向及び長さ方向に等間隔で、合計50点以上について圧電定数d33を測定する。極性が反転している測定点の数を求め、下記式により極性反転割合を算出する。
(極性反転割合)=(極性反転数÷全測定点数)×100
[2]前記エレクトレットフィルムが多孔質フィルムである、上記[1]に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
[3]前記エレクトレットフィルムの空孔率が0%超50%以下である、上記[1]又は[2]に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
[4]前記エレクトレットフィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のエレクトレットフィルム捲回体。
[5]前記ポリオレフィン系樹脂が、80%以上のβ晶生成能を有するポリプロピレン系樹脂である、上記[4]に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
[6]エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体が積層され、コアに捲回されてなる、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のエレクトレットフィルム捲回体。
[7]前記導体が金属箔である、上記[6]に記載のエレクトレットフィルム捲回体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エレクトレットフィルム捲回体を連続的に製造しても極性が部分的に反転することがなく、面内での圧電特性のばらつきが小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<エレクトレットフィルム捲回体>
本発明のエレクトレットフィルム捲回体(以下、「本捲回体」ともいう)は、エレクトレットフィルムがコアに捲回されてなり、当該エレクトレットフィルム捲回体から巻き出したエレクトレットフィルムの極性反転割合が1%未満であることを特徴とする。
本捲回体から巻き出したエレクトレットフィルムの極性反転割合が1%未満であることで、面内での圧電特性のばらつきが小さくなる。
極性反転割合は小さいほど好ましく、0.5%未満が好ましく、0.1%未満がより好ましく、0%が特に好ましい。
なお、極性反転割合は以下の方法で求められる。
<極性反転割合>
エレクトレットフィルムを幅200mm×長さ200mmに切り出し、幅方向及び長さ方向に等間隔で、合計50点以上について圧電定数d33を測定する。極性が反転している測定点の数を求め、下記式により極性反転割合を算出する。
(極性反転割合)=(極性反転数÷全測定点数)×100
【0012】
1.エレクトレットフィルム
本捲回体のエレクトレットフィルムは、樹脂フィルムを帯電させたものを好適に用いることができる。樹脂フィルムは、帯電処理することで圧電特性を発現するものであれば特に限定されないが、圧電特性をより高める点から、多孔質フィルムであることが好ましい。エレクトレットフィルムが多孔質フィルムである場合、その多孔化方法は特に限定されないが、例えば、化学的又は物理的な発泡、延伸による多孔化が挙げられる。中でも、緻密な多孔構造が得られ、孔の形状も制御しやすい点から、延伸によって多孔化されたフィルムが好ましい。
なお、以下の説明において帯電処理を行う前のフィルムを「フィルム」といい、帯電処理及び除電処理を行った後のフィルムを「エレクトレットフィルム」という場合がある。
【0013】
フィルムの材料としては、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられるが、環境負荷が小さく、帯電処理を行いやすいという点で、ポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。
【0014】
(1)ポリオレフィン系樹脂
本発明のフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましく、中でもポリプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。
フィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する場合、フィルムにおけるポリオレフィン樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
【0015】
また、フィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分とする場合、フィルムにおけるポリプロピレン樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80%以上99%以下であることが好ましく、より好ましくは83%以上98%以下、さらに好ましくは85%以上97%以下である。
アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0017】
また、ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5以上10.0以下であることが好ましい。より好ましくは2.0以上8.0以下、さらに好ましくは2.0以上6.0以下である。
Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。
Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算値として測定される。
【0018】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましい。
MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。
なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0019】
なお、ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0020】
本発明に好適に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル)など市販されている商品を使用できる。
【0021】
[β晶活性]
本発明のフィルムは、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることが好ましい。β晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる無孔膜状物はそのものでも帯電処理後に優れた圧電性を示すが、延伸し多孔構造とすることでも、より優れた圧電性が得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてポリプロピレン系樹脂中のβ晶がα晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調製に有利である。
β晶を利用して多孔化されたフィルムは、多孔構造が緻密であり、空孔の表面積が大きくなるため、帯電処理においてより多くの電荷がトラップされやすくなる。多孔質エレクトレットフィルムは空孔とマトリクスとの界面にトラップされた電荷によって圧電性を発現するため、フィルムの多孔構造が緻密であると圧電特性も良好になりやすい。また、多孔構造が緻密であると、空孔同士の距離が非常に短くなり、トラップされた電荷が相互のクーロン力によって固定されやすくなる。これにより、トラップされた電荷が放電しにくくなり、エレクトレットフィルムとしての特性も低下しにくくなる。
【0022】
本発明のフィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、微細かつ均一な孔形成により優れた耐電圧性を得ることができる。
【0023】
フィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、得られたエレクトレットフィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。
具体的には、示差走査型熱量計でエレクトレットフィルムを40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に200℃から40℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
【0024】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施したエレクトレットフィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させたフィルムについてX線回折測定を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0025】
前述したポリプロピレン系樹脂のβ晶活性を得る方法としては、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及びβ晶核剤を添加する方法などが挙げられるが、本発明においては、β晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有するフィルムを得ることができる。
【0026】
フィルムに含まれるポリプロピレン系樹脂の前記β晶活性の程度については、β晶生成能を測定することで定量化ができる。β晶生成能は、例えばエレクトレットフィルムにおいて測定するとよい。具体的なポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。
β晶生成能が80%以上であることで、エレクトレットフィルムとした際に好適な圧電性を発揮することができる。上限については特に制限はないが100%以下であることが好ましい。
なお、β晶生成能は後述の方法により算出される。
【0027】
(2)β晶核剤
本発明のフィルムは、圧電性に優れるエレクトレットフィルムとするために、β晶核剤が含まれていることが好ましい。β晶核剤が含まれていることによって、β晶活性を有することができる。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられる。また必要に応じて、2種類以上のβ晶核剤を混合して用いてもよい。
【0028】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
【0029】
これらのβ晶核剤の中でも、アミド化合物が好ましい。アミド化合物を使用することでエレクトレットフィルムの圧電特性を高めることができる。アミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’-ジフェニルヘキサンジアミド等が挙げられ、中でもN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミドが好ましい。アミド化合物は極性が高いアミド基を有するため、結晶構造中に電荷を局在化させることができ、高い圧電特性を有すると考えられる。
一方で、アミド化合物のように極性が高い化合物は、極性が低いポリプロピレン系樹脂とは静電的な相互作用により分散性が悪く、凝集しやすいという問題がある。しかしながら、一般的なβ晶核剤は、一定の温度域ではポリプロピレン系樹脂に溶解するという特性を有している。この特性により、ポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤が均一に分散され、β晶核剤由来の結晶が均一に析出されやすくなる。よって、極性が低いポリプロピレン系樹脂中に極性の高いアミド化合物の結晶が均一に分散され、高い圧電特性を有することができると考えられる。
【0030】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
【0031】
フィルム中のβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.001質量部以上3.0質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、多孔質フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保できる。そのため、多孔質フィルムに帯電処理することで所望の圧電性を有する多孔エレクトレットフィルムが得られる。一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0032】
(3)その他の成分
本発明のフィルムが多孔質フィルムである場合、上記β晶核剤に替えて、又はβ晶核剤に加えて、発泡剤又は充填剤等を含んでいてもよい。
例えば、本発明のフィルムとして、化学的又は物理的な発泡によって多孔化されたフィルムを用いる場合は、主成分となる樹脂に対して、化学発泡剤、物理発泡剤、超臨界流体、熱膨張性マイクロカプセルなどを添加することが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明のフィルムとして、延伸によって多孔化されたフィルムを用いる場合は、主成分となる樹脂に対して非相溶である樹脂、又は無機充填剤を添加することも好ましい。無機充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、クレイ、カオリナイト、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0033】
また、本発明のフィルムには、その性質を損なわない程度に添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、滑剤、難燃剤、導電剤、エラストマーなどの各種添加剤が適宜含まれていてもよい。
【0034】
(4)エレクトレットフィルムの物性
本発明のエレクトレットフィルムの空孔率は、0%超50%以下が好ましく、5%以上40%以下がより好ましく、10%以上35%以下がさらに好ましく、10%以上30%以下がよりさらに好ましい。
エレクトレットフィルムの空孔率を上記範囲内とすることで、エレクトレットフィルムの耐圧性が良好となる。
【0035】
本発明のエレクトレットフィルムの厚さは10μm以上200μm以下が好ましく、15μm以上150μm以下がより好ましく、20μm以上120μm以下がさらに好ましい。
エレクトレットフィルムの厚さを上記範囲内とすることで、圧電特性を良好にでき、ロールtoロールでの搬送及び捲回も容易となる。
【0036】
2.コア
コアとは、フィルムの巻き取りに用いられる円柱形状の巻芯をいう。コアの材料は特に限定されないが、例えば、紙、樹脂含浸紙、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、FRP、フェノール樹脂、無機物含有樹脂が挙げられる。中でも、熱膨張係数が小さく、剛性が高く、湿度に対する膨潤性が低く、かつ捲回性に優れるという観点から、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、FRP、フェノール樹脂、無機物含有樹脂などの樹脂からなることが好ましい。
コアの素材が紙である場合は、特に樹脂等でその表面をコートすることで、所望の特性が得られやすい。さらに、コアは、表面平滑性の観点から、樹脂含浸紙の管であることも好ましい。
【0037】
3.導体
本捲回体は、エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体が積層されたものであるのが好ましい。導体を積層することで、エレクトレットフィルムを巻き取ったときに外部電界がかかりにくくなるため、極性反転が起こりにくくなる。
【0038】
導体は、導電性を有していればよく、例えば、金属箔、カーボンシート、又は導電性粒子及び樹脂からなるシートが挙げられる。
金属箔としては、アルミニウム箔、銅箔、銀箔、金箔、ニッケル箔、スズ箔等が挙げられる。
導電性粒子としては、炭素粒子、銀粒子、金粒子、銅粒子、ニッケル粒子、アルミニウム粒子、スズ粒子、亜鉛粒子等が挙げられる。
導電性粒子と併用する樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0039】
導体の厚みは2μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上50μm以下がより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。
【0040】
<エレクトレットフィルム捲回体の製造方法>
以下、本発明のエレクトレットフィルム捲回体の製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明のエレクトレットフィルム捲回体を製造する方法の一例であり、ほん発明のエレクトレットフィルム捲回体は以下に説明する製造方法により製造されるエレクトレットフィルム捲回体に限定されるものではない。
【0041】
本発明のエレクトレットフィルム捲回体は、エレクトレットフィルムを作製し、これと導体を積層することで製造されることが好ましい。なお、他の工程や処理をさらに備えていてもよい。
【0042】
1.フィルムの製造方法
帯電処理を行う前のフィルムの製造方法は特に限定されないが、製膜工程(a)及び延伸工程(b)を経て製造されることが好ましい。ただし、延伸工程(b)は省略してもよい。
上記製膜工程(a)によって得られたフィルム、又は製膜工程(a)及び延伸工程(b)によって得られたフィルムは、巻き取り工程(c)に搬送されて一度ロール状に巻き取られてもよい。
以下、製膜工程(a)、延伸工程(b)、及び巻き取り工程(c)について順次説明する。
【0043】
(1)製膜工程(a)
製膜工程(a)では、フィルムを構成する材料よりなる無孔膜状物が製膜される。製膜方法は特に限定されないが、例えば、フィルムを構成する樹脂(材料樹脂)を加熱溶融してフィルム状に製膜する方法が挙げられる。具体的には、Tダイ法、インフレーション法などを挙げることができ、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。実用的には、Tダイから材料樹脂を溶融押出してキャストロール(チルロール、キャストドラム等)によりキャスト成形するのが好ましい。
また、材料樹脂は、適宜添加剤が配合され、また2種以上の樹脂成分が混合され、2以上の成分を含む樹脂組成物として製膜されてもよい。
【0044】
フィルムを構成する材料は、混練装置において混練された後に製膜されてもよい。混練を行う際、用いる混練装置を特に限定するものではない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。
また、押出機には、設備構造及び必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、フィルムを構成する材料より水分や低分子量物質を除去してもよい。
【0045】
フィルム状に製膜する具体的方法として、Tダイ法を採用する場合、Tダイから押出されたシート状の溶融樹脂をキャストロール上に押し出し、回転するキャストロール上に密着させながら引き取りフィルム状物に成形する方法を挙げることができる。
キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
【0046】
また、溶融樹脂(樹脂組成物)を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は100℃以上が好ましい。より好ましくは110℃以上で、更に好ましくは120℃以上である。本発明ではポリプロピレン系樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の増加が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが好ましい。
また、キャストロール温度の上限は140℃以下が好ましい。より好ましくは135℃以下で、更に好ましくは130℃以下である。キャストロールの温度を140℃以下とすることで、フィルム製膜時にキャストロールからの剥離が容易となる。
【0047】
得られる無孔膜状物において、両端部を除いた有効部分の厚みは30μm以上500μm以下であるのが好ましく、40μm以上300μm以下であるのがより好ましく、50μm以上200μm以下であるのがさらに好ましい。
無孔膜状物の厚みが30μm以上であれば、延伸時に破断を防ぐことができ、無孔膜状物の厚みが500μm以下であれば、無孔膜状物の延伸を行いやすくすることができる。
なお、フィルムの無孔膜状物での層構成に関しては、上記の単層構成のみに限られず、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0048】
(2)延伸工程(b)
得られた無孔膜状物はそのまま帯電処理又は巻き取りを行ってもよいが、無孔膜状物に対して延伸処理を行ってもよい。無孔膜状物に対して延伸処理を行うことで、無孔膜状物を容易に多孔質フィルムにすることができる。
延伸工程では、無孔膜状物に対して一軸延伸あるいは二軸延伸を行うとよいが、フィルムの空孔率を0%超50%以下として、フィルムの耐圧性を高める観点からは、一軸延伸とすることが好ましい。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。
なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0049】
延伸温度は、用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適宜選択する必要があるが、縦延伸温度は、好ましくは60℃以上140℃以下であり、より好ましくは80℃以上120℃以下である。
縦延伸温度を140℃以下とすることで、好適な主成分であるポリプロピレン系樹脂の融点以下で破断なく延伸が可能となるため好ましい。一方で、縦延伸温度を60℃以上とすることで、延伸時の破断が抑制できるため、好ましい。
横延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、破断なく延伸することが可能になる。また、縦延伸の後に横延伸を行う場合には、縦延伸時に生じた空孔が拡大されて空孔率が増加し、十分な圧電特性を有することができる。
なお、上記で説明した温度は一軸延伸又は逐次二軸延伸の場合の温度であるが、同時二軸延伸の場合の延伸温度は、上記観点から、好ましくは90℃以上140℃以下、より好ましくは100℃以上120℃以下の範囲内で調整すればよい。
【0050】
延伸倍率は、所望する空孔率に合わせて任意に選択すればよいが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以上9.0倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上8.0倍以下である。
一軸延伸あたりの延伸倍率を1.1倍以上とすることで、白化が進行し、延伸による多孔化が十分となる。また、一軸延伸あたりの延伸倍率を10倍以下とすることで、空孔率が高くなりすぎず、耐圧性に優れるフィルムを得ることができる。
また、逐次二軸延伸の場合には、各軸当たり上記で規定した延伸倍率で延伸することによって、先の延伸時に生じた空孔が後の延伸時に変形することもない。
【0051】
(3)巻き取り工程(c)
上記製膜工程(a)及び延伸工程(b)により得られたフィルムは、コアに捲回することでロール状に巻き取られてもよい。
フィルムの長さは特に限定されないが、後述する帯電処理などを連続的に行いやすくする観点から、5m以上が好ましく、10m以上がより好ましく、20m以上がさらに好ましく、50m以上がよりさらに好ましい。また、フィルムの長さは10000m以下が好ましい。
【0052】
2.エレクトレットフィルム捲回体の製造方法
本捲回体は、上記フィルムを帯電処理してエレクトレットフィルムを得る、帯電処理工程(A)と、前記エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体を積層し、積層体を得る、導体積層工程(B)と、前記積層体をコアに巻き取り、捲回体を得る、巻き取り工程(C)と、を経て製造されることが好ましい。
本製造方法は、複数のガイドロールで、フィルムを搬送しながら、帯電処理工程(A)及び導体積層工程(B)を連続的に導入し、かつロール状に巻き取ることによって、連続的にエレクトレットフィルムを製造でき、非常に効率的である。
なお、本製造方法におけるフィルムの搬送速度は1m/分以上10m/分以下が好ましい。
搬送速度を上記範囲とすることで、生産性を良好にしつつ、帯電処理工程(A)において十分にフィルムをエレクトレット化できる。
以下、本製造方法の好ましい形態について説明する。
【0053】
(1)第一の実施形態に係る製造方法
本発明の第一の実施形態に係る製造方法(以下、「第一の製造方法」ともいう)は、帯電処理前のフィルムがロール状に巻き取られている場合に適用され、フィルムの巻き出しから捲回体の製造までを連続的に行うものである。
第一の製造方法は、ロール状に巻き取られた状態のフィルムを巻き出す巻き出し工程(X)と、フィルムを帯電処理してエレクトレットフィルムを得る、帯電処理工程(A)と、前記エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体を積層し、積層体を得る、導体積層工程(B)と、前記積層体をコアに巻き取り、捲回体を得る、巻き取り工程(C)と、を有する。本製造方法においては、導体をアースに接続しながら巻き取るか、もしくは、捲回体を得た後に導体をアースに接続することで、表面電位をより下げることができる。
以下、巻き出し工程(X)、帯電処理工程(A)、導体積層工程(B)及び巻き取り工程(C)について説明する。
【0054】
(1-1)巻き出し工程(X)
巻き出し工程(X)では、ロール状に巻き取られた状態のフィルムの巻き出しを行う。巻き出したフィルムは搬送されてそのまま帯電処理工程(A)が行われてもよいが、後の工程に適した幅にスリットしたり、長さを短くしたりしてもよい。
フィルムの長さを短くする場合、後述する帯電処理などを連続的に行いやすくする観点から、5m以上1000m以下とすることが好ましく、10m以上500m以下がより好ましく、50m以上がさらに好ましい。
【0055】
(1-2)帯電処理工程(A)
帯電処理工程(A)では、上記巻き出し工程(X)によりロールから巻き出されたフィルムをガイドロールによって搬送しながら、電圧を印加してエレクトレット化する。
【0056】
帯電処理は、針状電極、ワイヤー電極、ロール状電極、板状電極(例えば、平板電極)などの電極間にフィルムを通し、電極間に電界を印加する方式でもよいし、フィルムの表裏に直接、塗布や蒸着により電極を形成した後に、電界を印加する方式でもよい。
帯電処理工程(A)における印加電圧の絶対値は、6kV以上20kV以下が好ましい。印加電圧の絶対値を6kV以上とすることで、十分にフィルムをエレクトレット化でき、圧電特性を良好にできる。また、印加電圧の絶対値を20kV以下とすることで、絶縁破壊や火花放電が生じにくくなり、圧電特性の低下やフィルムの外観悪化を防ぐことができる。
また、帯電処理工程(A)における印加電圧は、極性がマイナスであることが好ましい。極性をマイナスとすることで放電が生じにくくなり、エレクトレットフィルムに電荷が保持されやすくなり、圧電特性が良好となる。
【0057】
帯電処理工程(A)における環境温度は、10℃以上100℃以下が好ましい。温度が10℃以上であることで、温度管理が容易となり、生産性が良好となる。また、温度が100℃以下であることで、絶縁破壊が生じにくくなる。
また、帯電処理工程(A)における環境湿度は、20%以上100%以下が好ましく、40%以上80%以下がより好ましい。湿度が20%以上であることで、放電が生じにくくなり、圧電特性の低下やフィルムの外観悪化を防ぐことができる。また、湿度が80%以下であると、湿度管理が容易となり、生産性が良好となる。なお、本明細書において湿度は、相対湿度を意味する。
【0058】
帯電処理工程(A)における電極と、フィルムを搬送するガイドロールとの距離(ギャップ)は、15mm以上25mm以下が好ましい。ギャップが15mm以上であることで、フィルムに高電界がかかりすぎないため、絶縁破壊や火花放電が生じにくくなる。また、ギャップが25mm以下であることで、フィルムに十分な電界をかけることができ、十分にフィルムをエレクトレット化できる。なお、ここでいうガイドロールは、上記のとおり、アースロールを構成するものである。すなわち、帯電処理工程(A)では、フィルムが一対の電極の間を通されるとき、電極間のギャップは15mm以上25mm以下が好ましい。
【0059】
(1-3)導体積層工程(B)
導体積層工程(B)では、帯電処理工程(A)により得られたエレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体を積層し、積層体を得る。
導体を積層する方法は特に限定されず、エレクトレットフィルムに直接積層してもよく、接着層などを介して積層してもよい。
エレクトレットフィルムの圧電特性を低下させないようにする観点からは、接着層を介さずに直接導体を積層することが好ましい。
【0060】
(1-4)巻き取り工程(C)
巻き取り工程(C)では、上記導体積層工程(B)によって得られた積層体をコアに巻き取ることにより、エレクトレットフィルム捲回体が得られる。
ロール状に巻き取られたフィルムの長さは、特に限定されないが、5m以上が好ましく、10m以上がより好ましく、20m以上がさらに好ましく、50m以上がよりさらに好ましい。また、フィルムの長さは10000m以下が好ましい。フィルムの長さが5m以上であることで、上記した帯電処理及び導体積層を連続的に行いやすくなる。
【0061】
2.第二の実施形態に係る製造方法
本発明の第二の実施形態に係る製造方法(以下、「第二の製造方法」ともいう)は、フィルムの製膜から捲回体の製造までを連続的に行うものである。
すなわち、第二の製造方法は、フィルムを製膜する、製膜工程(a)と、前記フィルムを帯電処理してエレクトレットフィルムを得る、帯電処理工程(A)と、前記エレクトレットフィルムの少なくとも片面に導体を積層し、積層体を得る、導体積層工程(B)と、前記積層体をコアに巻き取る、巻き取り工程(C)と、を有する。フィルムを延伸して多孔化すると圧電特性をより高めることができるため、製膜工程(a)と帯電処理工程(A)の間に、製膜されたフィルムを延伸する延伸工程(b)を有することが好ましい。
【0062】
製膜工程(a)及び延伸工程(b)は、上記1.フィルムの製造方法にて説明した製膜工程(a)及び延伸工程(b)と同じである。
また、帯電処理工程(A)、導体積層工程(B)及び巻き取り工程(C)は、第一の製造方法で説明した帯電処理工程(A)、導体積層工程(B)及び巻き取り工程(C)と同じである。ただし、第二の製造方法における帯電処理工程(A)は、製膜工程(a)後(延伸を行う場合は、延伸工程(b)後)のフィルムをガイドロールで搬送し、巻き取りをせずに行う。
【0063】
3.その他
本発明の製造方法は、エレクトレットフィルムに保護層などの機能層を積層する機能層積層工程(Y)を備えてもよい。その場合は、上記第一の製造方法及び第二の製造方法における導体積層工程(B)の後、又は巻き取り工程(C)の後に、機能層積層工程(Y)を行ってもよい。より具体的には、上記導体積層工程(B)を行った後に機能層を積層し、巻き取り工程(C)にて、機能層が積層されたエレクトレットフィルム(積層エレクトレットフィルム)を巻き取るとよい。また、上記導体積層工程(B)を行った後に一度巻き取り工程(C)にてエレクトレットフィルム捲回体を得た後、再度巻き出して、エレクトレットフィルムに機能層を積層してもよい。
【0064】
機能層としては、例えば、保護層、印刷層などが挙げられる。
保護層の材料は、エレクトレットフィルムを保護できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂などからなる樹脂フィルムが挙げられる。
印刷層の材料は、紙状物、フィルム状物、布状物等のいずれであってもよい。
【0065】
これらの機能層は、エレクトレットフィルムと重ね合わせて積層されてもよく、接着層を介して積層されてもよく、熱ラミネートなどの方法で積層されてもよい。
【0066】
<エレクトレットフィルムの用途>
本発明のエレクトレットフィルムは、例えばアクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサーなどに使用することができる。エレクトレットフィルムは、特に限定されないが、例えばリード線の実装や絶縁膜の形成を施して圧電素子とすることで、エレクトレットフィルムに作用された圧力を電圧に変換して、エレクトレットフィルムに作用される圧力を検知したり、発電したりすることができる。
【実施例0067】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の圧電フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0068】
実施例及び比較例で得られたエレクトレットフィルム捲回体に関して、厚さ、空孔率、β晶生成能、極性反転割合、圧電定数は以下の方法で評価した。
【0069】
(1)厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いてエレクトレットフィルムの厚さを無作為に10点測定して、その平均値を求めた。
【0070】
(2)空孔率
エレクトレットフィルムを幅100mm×長さ100mmに切り出し、測定用サンプルとした。
測定用サンプルの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0071】
(3)β晶生成能
以下に示す方法で、エレクトレットフィルムのDSC測定を行った。まず、窒素雰囲気下で40℃から200℃まで10℃/分で昇温し、1分間保持した後、40℃まで10℃/分で冷却した。1分保持後、再度10℃/分で昇温した際に観測される融解ピークについて、145~157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとし、以下の式により算出した。
β晶生成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)〕×100
【0072】
(4)極性反転割合
エレクトレットフィルムを幅200mm×長さ200mmに切り出し、幅方向及び長さ方向に等間隔で圧電定数d33を準静的法により測定した。測定条件は、温度23℃、湿度50%RH、ピエゾメーターの端子はφ8mm平板状とし、クランプ荷重を0.4N、静荷重を1.0N、動荷重を1.3Nとし、幅方向に2cm間隔で9点、長さ方向に2cm間隔で9点、すなわち合計81点を測定した。
極性が反転している測定点の数を求め、下記式により極性反転割合を算出した。
(極性反転割合)=(極性反転数÷全測定点数)×100
【0073】
(5)圧電定数d33
実施例1及び比較例1で得られたエレクトレットフィルム捲回体から、エレクトレットフィルムを巻き出し、巻外から2m間隔で幅200mm×長さ200mmのサンプルを切り出し、測定用サンプルの表面と裏面をそれぞれ上にして各5箇所について厚み方向の圧電定数d33を準静的法により測定した。測定条件は、温度23℃、湿度50%RH、ピエゾメーターの端子はφ8mm平板状とし、クランプ荷重を0.4N、静荷重を1.0N、動荷重を1.3Nとした。
各測定点での測定値から、圧電定数d33の平均値、標準偏差を算出し、下記の式から変動係数を算出した。
変動係数=標準偏差/平均値
【0074】
実施例、比較例で使用する材料は以下のとおりである。
(ポリプロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
(β晶核剤)
・B-1:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU-100)
(酸化防止剤)
・C-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
【0075】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(B-1)0.2質量部、酸化防止剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで樹脂組成物1を得た。リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さ(両端部を除いた有効部分の厚み)が60μmの無孔膜状物1を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に5倍延伸し、厚さ60μm、幅25cm、長さ20mの多孔質フィルム1を得た。多孔質フィルム1は、コアに捲回することでロール状に巻き取った。得られた多孔質フィルムの空孔率は18%であり、β晶活性は70%であった。
得られた多孔質フィルム1を搬送速度2m/minに設定したロールtoロール式フィルム搬送装置で搬送した。その際、搬送工程中にワイヤー電極(Φ0.15mm、タングステン製)を備える高電圧印加装置を使用して-15kVの電圧をかけ帯電処理を行った。このとき、ワイヤー電極とアースロールのギャップは30mmであった。その後、アースに接続した厚さ12μmのアルミ箔を積層し、フィルムをコアに巻き取ることで、エレクトレットフィルム捲回体を得た。実施環境温度は27℃、湿度60%であり、アースロールの表面温度は20℃であった。
実施例1のエレクトレットフィルム捲回体から、エレクトレットフィルムを巻き出し、極性反転割合及び圧電定数d33を測定した結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(比較例1)
多孔質フィルム1を帯電した後、アルミ箔と積層しなかったこと以外は実施例1と同様の方法でエレクトレットフィルム捲回体を得た。
比較例1のエレクトレットフィルム捲回体から、エレクトレットフィルムを巻き出し、極性反転割合及び圧電定数d33を測定した結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例1及び比較例1より、本発明の捲回体は、いずれの地点においても極性反転割合が小さく、圧電定数d33の面内ばらつきも小さいことが確認できた。
【0080】
(参考製造例)
比較例1で得られたエレクトレットフィルム捲回体の4m地点でのサンプルは、極性反転が生じている部分αと、極性反転が生じていない部分βが存在したため、それぞれ幅100mm×長さ100mmで切り出し、センサーにしたときの圧電特性を以下の方法で確認した。
【0081】
電極として、導電性銅箔粘着テープ「E20CU」(DIC社製、電極厚み9μm、接着層厚み11μm)を加熱しながら一対のエンボスロール間に供給して、電極の表面に凹凸を形成した。
保護フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる基材層と、アクリル系粘着剤からなる粘着剤層を備えた厚み50μmのコールドラミネートフィルムを11cm角に切り出したものを2枚用意した。
上記保護フィルムの粘着面側に、上記電極を9cm角に切り出したものを貼り合わせた。このとき、上記電極は信号取出し電線と接続しやすいように電極タブを形成して保護フィルムから1cm程度はみ出すようにした。
その後、2つの電極間に、エレクトレットフィルムを電極からはみ出さないように挟み込み、保護フィルムの端部同士を接着することでセンサーを作製した。
【0082】
水平台上にセンサーを置き、その上に厚み2mmのポリカーボネート板を載せて、四辺をセロハンテープで固定した。この状態で、高さ30cmの地点から直径40mm、重量2.4gのピンポン玉を垂直落下させ、その際に発生する出力電圧のピーク値を、オシロスコープ(テクトロニクス社製「TBS1072B」)を用いることで測定した。測定は9回行い、出力電圧ピーク値の平均値、標準偏差を算出し、下記の式から変動係数を算出した。
変動係数=標準偏差/平均値
【0083】
部分αを切り出したフィルムは、極性反転割合が32%であり、センサーの出力電圧が34.7Vであり、標準偏差は11.6、変動係数は0.34となった。
一方、部分βを切り出したフィルムは、極性反転割合が0%であり、センサーの出力電圧が109.1Vであり、標準偏差は26.6、変動係数は0.24となった。
以上より、極性反転割合が小さいフィルムは、センサーに適用した場合の出力電圧が高くなり、出力電圧のばらつきも小さくなることが示唆された。