(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145682
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法、塩化ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20241004BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20241004BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241004BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058137
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】服部 和樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA02
4K001BA06
4K001BA10
4K001BA19
4K001DB04
4K001DB16
4K001DB21
4K001DB22
4K001DB24
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から効率的に銅イオンを除去する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法であって、塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、塩化ニッケル水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、第1のセメンテーション工程で得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、第1のスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を含むセメンテーション処理を行い、第2のセメンテーション工程では、硫化物原料Bと共に、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cを第1のスラリーに添加する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法であって、
前記塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、該塩化ニッケル水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、
前記第1のセメンテーション工程で得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、該第1のスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を含むセメンテーション処理を行い、
前記第2のセメンテーション工程では、前記硫化物原料Bと共に、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cを前記第1のスラリーに添加する、
塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項2】
前記硫化物原料Cの添加量を、前記硫化物原料Bと該硫化物原料Cの合計添加量に対してニッケル量比で5~30%の割合とする、
請求項1に記載の塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項3】
前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、
前記銅イオン除去装置において、
最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記硫化物原料Aを装入し、
最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、
前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入する、
請求項1又は2に記載の塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項4】
処理対象の前記塩化ニッケル水溶液として、銅イオン濃度が20~80g/L、該銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が60~100%である塩化ニッケル水溶液aと、銅イオン濃度が1~20g/L、該銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が0~40%である塩化ニッケル水溶液bと、の2種類が存在し、
前記第1のセメンテーション工程では、前記塩化ニッケル水溶液として前記塩化ニッケル水溶液aを用いて処理に供し、
前記第2のセメンテーション工程では、前記塩化ニッケル水溶液aに加えて、さらに前記塩化ニッケル水溶液bを添加して処理に供する、
請求項1に記載の塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項5】
前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、
前記銅イオン除去装置において、
最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記塩化ニッケル水溶液aを供給するとともに、前記硫化物原料Aを装入し、
最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、
前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入し、
中央に位置する反応槽(ただし、nが偶数の場合にはn/2+1段目の反応槽)に、前記塩化ニッケル水溶液bを供給する、
請求項4に記載の塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項6】
前記硫化物原料Aは、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物であり、
前記硫化物原料B及び前記硫化物原料Cは、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマットである、
請求項1、2、4、5のいずれかに記載の塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法。
【請求項7】
ニッケルを含有する原料から銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得る方法であって、
ニッケル含有物スラリーに塩素ガスを吹き込むことによって塩素浸出し、塩素浸出液と塩素浸出残渣とを得る塩素浸出工程と、
前記塩素浸出液である銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液に対して、請求項1に記載の銅イオンの除去方法を行うための前記セメンテーション処理を実行し、銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得るセメンテーション工程と、を含み、
前記セメンテーション工程で生成したスラリーを固液分離することでセメンテーション残渣を得て、該セメンテーション残渣のスラリー(残渣スラリー)を前記塩素浸出工程に移送し、
前記塩素浸出工程では、前記残渣スラリーを含む前記ニッケル含有物スラリーに対して塩素ガスを吹込むことによって塩素浸出する、
塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記硫化物原料Cの添加量を、前記硫化物原料Bと該硫化物原料Cの合計添加量に対してニッケル量比で5~30%の割合とする、
請求項7に記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、
前記銅イオン除去装置において、
最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記硫化物原料Aを装入し、
最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、
前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入する、
請求項7又は8に記載の塩化ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ニッケル水溶液中に含まれる銅を除去する技術に関する。詳しくは、例えばニッケルの湿式製錬プロセスのセメンテーション工程における塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法、並びに銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル硫化物等の原料から電気ニッケルを製造するプロセスにおいて、塩化ニッケル水溶液中から不純物である銅イオンを除去する工程は、重要な工程である。
【0003】
具体的に、電気ニッケルの製造プロセスでは、ニッケル硫化物等のニッケル原料を塩素浸出して得られた塩素浸出液から高純度の電気ニッケルを電解採取するが、塩素浸出して得られた塩素浸出液には、通常、銅イオンが数十g/L程度の割合で含まれている。そのため、得られた塩素浸出液である含銅塩化ニッケル水溶液から数十mg/L以下の濃度域にまで銅イオンを除去する処理(粗脱銅)を行った後、鉄、コバルト等の残留する他の不純物元素を除去する浄液処理を経てさらに低濃度にまで低減させることで、電解処理に供する電解液を得ている(例えば特許文献1)。
【0004】
含銅塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法として、セメンテーション反応を用いた除去方法がある。セメンテーション反応とは、異種の金属元素の標準電極電位の差を利用して化合物とイオンの交換反応を行うものであり、排水処理や金属精製等の分野において広く利用されている。
【0005】
ここで、電気ニッケルの製造プロセスにおいて、硫化ニッケルを含む硫化物原料A、及び二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを原料として用いる場合、塩素浸出して得られた含銅塩化ニッケル水溶液にそれら原料を添加して銅イオンを除去すれば、銅イオンの除去と原料中のニッケルの浸出を同時に行うことができ、効率的である。この方法は、特許文献1に示すようなニッケルの湿式製錬プラント等において工業化されている。
【0006】
このようなセメンテーション反応を利用した電気ニッケルの製造プロセスは、ニッケル硫化物等の原料を塩素浸出する塩素浸出工程と、塩素浸出液(含銅塩化ニッケル水溶液)から銅イオンを除去するセメンテーション工程と、を含む。
【0007】
塩素浸出工程では、ニッケル硫化物等の原料や、セメンテーション工程で固定化された銅の硫化物及びセメンテーション反応に寄与しなかった未反応の硫化物原料A,Bを含むセメンテーション残渣に対して塩素ガスを吹き込むことによってニッケルを浸出する。塩素浸出工程における反応は、Cuイオンの1価と2価の酸化還元反応を媒介に進行する、言い換えればCuイオンが塩素ガスを吸収するイオンキャリアとして機能するため、塩素浸出残渣中のニッケル品位は、塩素浸出液中の銅濃度が高いほど低下する。
【0008】
したがって、塩素浸出工程での処理を経て得られる塩素浸出液中の銅濃度を高くし、セメンテーション工程を経てセメンテーション残渣の形態で循環する銅の量を多くするほど、塩素浸出率を高めることができ、塩素浸出残渣中のニッケル品位は低くなってニッケルロスを低減することが可能となる。
【0009】
ところが、ニッケルロスを低減させるために塩素浸出液中の銅濃度を高くすると、セメンテーション工程において十分に反応(セメンテーション反応)が進行せず、脱銅不良となるおそれが高まる。電気ニッケルの製造プロセスにおいて、セメンテーション工程で脱銅不良が生じると、電気ニッケルの電解採取に用いる電解液中に不純物元素の銅が残存することとなり、電気ニッケルの品質を悪化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から効率的に銅イオンを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた。その結果、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液に対するセメンテーション処理において、塩化ニッケル水溶液に対して、金属ニッケル及び金属鉄の含有量の比較的多い硫化物原料を添加して、不純物としての銅を硫化物として固定化する処理を行うことで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1の発明は、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法であって、前記塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、該塩化ニッケル水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、前記第1のセメンテーション工程で得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、該第1のスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を含むセメンテーション処理を行い、前記第2のセメンテーション工程では、前記硫化物原料Bと共に、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cを前記第1のスラリーに添加する、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0014】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記硫化物原料Cの添加量を、前記硫化物原料Bと該硫化物原料Cの合計添加量に対してニッケル量比で5~30%の割合とする、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0015】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、前記銅イオン除去装置において、最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記硫化物原料Aを装入し、最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入する、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0016】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、処理対象の前記塩化ニッケル水溶液として、銅イオン濃度が20~80g/L、該銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が60~100%である塩化ニッケル水溶液aと、銅イオン濃度が1~20g/L、該銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が0~40%である塩化ニッケル水溶液bと、の2種類が存在し、前記第1のセメンテーション工程では、前記塩化ニッケル水溶液として前記塩化ニッケル水溶液aを用いて処理に供し、前記第2のセメンテーション工程では、前記塩化ニッケル水溶液aに加えて、さらに前記塩化ニッケル水溶液bを添加して処理に供する、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0017】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、前記銅イオン除去装置において、最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記塩化ニッケル水溶液aを供給するとともに、前記硫化物原料Aを装入し、最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入し、中央に位置する反応槽(ただし、nが偶数の場合にはn/2+1段目の反応槽)に、前記塩化ニッケル水溶液bを供給する、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0018】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記硫化物原料Aは、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物であり、前記硫化物原料B及び前記硫化物原料Cは、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマットである、塩化ニッケル水溶液からの銅イオンの除去方法である。
【0019】
(7)本発明の第7の発明は、ニッケルを含有する原料から銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得る方法であって、ニッケル含有物スラリーに塩素ガスを吹き込むことによって塩素浸出し、塩素浸出液と塩素浸出残渣とを得る塩素浸出工程と、前記塩素浸出液である銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液に対して、請求項1に記載の銅イオンの除去方法を行うための前記セメンテーション処理を実行し、銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得るセメンテーション工程と、を含み、前記セメンテーション工程で生成したスラリーを固液分離することでセメンテーション残渣を得て、該セメンテーション残渣のスラリー(残渣スラリー)を前記塩素浸出工程に移送し、前記塩素浸出工程では、前記残渣スラリーを含む前記ニッケル含有物スラリーに対して塩素ガスを吹込むことによって塩素浸出する、塩化ニッケル水溶液の製造方法である。
【0020】
(8)本発明の第8の発明は、第7の発明において、前記硫化物原料Cの添加量を、前記硫化物原料Bと該硫化物原料Cの合計添加量に対してニッケル量比で5~30%の割合とする、塩化ニッケル水溶液の製造方法である。
【0021】
(9)本発明の第9の発明は、第7又は第8の発明において、前記セメンテーション処理を、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行し、前記銅イオン除去装置において、最も上流に位置する第1段目の反応槽に、前記硫化物原料Aを装入し、最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及び該最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Bを装入し、前記第n-1段目の反応槽に、前記硫化物原料Cを装入する、塩化ニッケル水溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液から効率的に銅イオンを除去する方法を提供することができる。
【0023】
そしてこれにより、ニッケルの湿式製錬プロセスに適用したとき、原料比率や合計処理量を大きく変えることなく、塩化ニッケル水溶液(塩素浸出液)中の銅濃度を上昇させることができ、その結果、塩素浸出残渣中のニッケル品位を低下させて系外に払い出されるニッケルロスを有効に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)の流れを概略的に示す工程図である。
【
図2】セメンテーション処理の流れの一例を示す工程図である。
【
図3】銅イオン除去装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】原料のニッケル硫化物から電気ニッケルを製造するMCLEプロセスの流れを説明する工程図である。
【
図5】試験例1の試験結果を示すグラフ図であり、硫化物原料Cの添加位置の違いによる、第2のセメンテーション工程で添加する硫化物原料B及び硫化物原料Cの合計添加量の関係を示すグラフ図である。
【
図6】試験例2の試験結果を示すグラフ図であり、硫化物原料Cの添加量に対する、第2のセメンテーション工程における銅の還元効率の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
≪1.塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法≫
本実施の形態に係る銅イオンの除去方法は、銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液からその銅イオンを除去する方法である。
【0027】
例えば、処理対象の含銅塩化ニッケル水溶液としては、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)において、原料のニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル水溶液(塩素浸出液)が挙げられる。そして、MCLEプロセスにおけるセメンテーション工程における処理に、当該銅イオンの除去方法を適用することができる。
【0028】
図2は、この方法を実行するためのセメンテーション処理の流れの一例を示す工程図である。具体的に、この方法では、含銅塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、塩化ニッケル水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程S21と、第1のセメンテーション工程S21で得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、第1のスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程S22と、を含むセメンテーション処理を行う。
【0029】
第1のセメンテーション工程S21における処理を「還元処理」ともいい、第2のセメンテーション工程S22における処理を「硫化処理」ともいう。第1のセメンテーション工程S21と、第2のセメンテーション工程S22とのそれぞれの処理の概要を以下に説明する。
【0030】
<1-1.セメンテーション工程について>
[第1のセメンテーション工程S21]
まず、第1のセメンテーション工程S21では、処理対象の含銅塩化ニッケル水溶液(塩素浸出液)に、硫化ニッケル(NiS)を含む硫化物原料Aを添加することによって、水溶液中の銅イオンを還元する。硫化物原料Aとしては、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物等を用いることができる。
【0031】
第1のセメンテーション工程S21では、例えば下記の[1]~[2]式に示す銅イオンの還元反応が生じると推定される。
4NiS+2Cu2+ → Ni2++Ni3S4+2Cu+ ・・・[1]
NiS+2Cu+ → Ni2++Cu2S ・・・[2]
【0032】
上記[1]式に示すように、第1のセメンテーション工程S21における還元処理では、塩化ニッケル水溶液に対して硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加することで、その硫化ニッケルが水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する。このようにして還元された銅イオンは、次工程の第2のセメンテーション工程S22にて添加する硫化物原料Bによって、銅の硫化物として固定されるようになる。
【0033】
第1のセメンテーション工程S21における還元処理の温度条件としては、特に限定されず、80~110℃程度の範囲とすることができ、80~90℃の範囲とすることが好ましい。なお、このような温度条件で処理することで、処理を経て得られる第1のスラリーの酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を350~420mV程度とすることができる。また、反応温度を上げるためには、蒸気等を用いて昇温操作することができる。
【0034】
[第2のセメンテーション工程S22]
(硫化処理について)
次に、第2のセメンテーション工程S22では、第1のセメンテーション工程S21を経て得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケル(亜硫化ニッケル,Ni3S2)を含む硫化物原料Bを添加し、スラリー中の1価銅イオンを硫化銅として沈澱除去する。硫化物原料Bとしては、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマット等を用いることができる。なお、ニッケルマットは、二硫化三ニッケルを含有するとともに、ニッケルメタルを含有する。
【0035】
第2のセメンテーション工程S22では、例えば、下記の[3]~[5]式で示される硫化反応が生じると推定される。なお、下記の反応式は、硫化物原料Bとしてニッケルマットを用いたときの反応式である。
Ni0+Cu2+→Ni2++Cu+ ・・・[3]
Ni3S4+6Cu+→3Ni2++S+3Cu2S ・・・[4]
Ni3S2+6Cu++S→3Ni2++3Cu2S ・・・[5]
【0036】
上記[3]~[5]式に示すように、添加したニッケルマットに含まれる二硫化三ニッケル(Ni3S2)やニッケルメタル(Ni)により、1価銅イオンを固体として沈澱除去する反応(硫化処理)が生じる。これにより、含銅塩化ニッケル水溶液中に含まれていた銅イオンを主に硫化銅として固定化して除去する。
【0037】
(硫化物原料Cの併用について)
ここで、本実施の形態に係る銅イオンの除去方法では、第2のセメンテーション工程S22において、第1のスラリーに対して、上述した硫化物原料Bを添加するとともに、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cをさらに添加して、処理を施すことを特徴としている。
【0038】
このように、金属ニッケルと金属鉄の含有率の高いニッケルマット等の硫化物原料Cを併用することで、下記の[6]、[7]式に示されるように、第1のスラリー中に残存する2価の銅イオンの還元を促進させることができる。
Fe0+2Cu2+ → Fe2++2Cu+ ・・・[6]
Ni0+2Cu2+ → Ni2++2Cu+ ・・・[7]
【0039】
このように銅イオンの還元が促進されることで、還元して得られた1価銅イオンに対する硫化反応(上記の反応式[4]、[5])に付される銅イオン量が増加して、より十分なセメンテーション処理を実行することができる。
【0040】
そして、このような除去方法を適用して得られた塩化ニッケル水溶液(セメンテーション終液)を用いて電気ニッケルの製造工程に付すことで、水溶液中の銅イオンの含有量が有効に低減されていることから、純度の高い電気ニッケルを得ることが可能となる。
【0041】
また、処理対象の含銅塩化ニッケル水溶液として、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)における塩素浸出工程S1を経て得られる塩素浸出液を用いる場合、その塩化ニッケル水溶液の銅イオン濃度を低下させる等の措置を採ることなく、有効に銅イオンを除去することができる。換言すると、原料比率や合計処理量を大きく変えることなく、塩素浸出液中の銅濃度を上昇させることができ、その結果、塩素浸出残渣中のニッケル品位を低下させて系外に払い出されるニッケルロスを有効に低減することが可能となる。すなわち、ニッケルの湿式製錬プロセスの循環サイクルを考えたとき、塩素ガス吸収のイオンキャリアとして機能する銅イオンが不十分となって塩素浸出工程S1での塩素浸出率が悪化するといった事態を効果的に防ぐことができる。
【0042】
さらに、効率よく銅イオンを除去することができるため、意図的に塩素浸出液の銅濃度を上昇させて、塩素浸出工程S1での浸出率、すなわちニッケルの実収率を向上させることもできる。
【0043】
硫化物原料Cに関して、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60質量%未満であると、その硫化物原料C中においてメタル(Ni0、Fe0)の形態ではなく、硫化物(NiS,Ni3S2、FeS、Fe3S2等)の形態として存在するニッケルや鉄の比率が増加するため、銅イオンに対する還元効率の向上が期待できない。一方で、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が85質量%を超えると、銅イオンに対する還元効率の向上は期待できるものの、例えばニッケルマットを生成する乾式製錬プロセス上、鉄品位の高いマットが得られることになり、後工程での鉄の除去処理にコストや手間を要することになり、全体の操業効率が低下する可能性がある。すなわち、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が増えることは、不純物としての鉄のインプット量増加につながる可能性が高い。ましてや、硫化物原料Cの製造に当たって、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量を増やすために還元度を上昇させると、ニッケルと鉄の還元され易さを考慮すれば、金属鉄だけが増えることになり、好ましいとは言えない。
【0044】
また、硫化物原料Cの添加量は、特に限定されないが、硫化物原料Bと当該硫化物原料Cの合計添加量に対して、ニッケル量比で5~30質量%の割合とすることが好ましく、ニッケル量比で10~25質量%の割合とすることがより好ましい。好ましくはこのような添加量で硫化物原料Cを添加することで、より効果的に銅イオンの還元効率を高めることができる。
【0045】
また、硫化物原料Cとしては、硫化物原料Bと同様にニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマット等を用いることができ、ニッケルマット等の中でも金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が比較的高いものを用いることができる。
【0046】
なお、第2のセメンテーション工程S22では、より効率的に1価銅イオンを硫化物として固定化するために、塩素浸出残渣を硫黄源として添加してもよい。塩素浸出残渣は、MCLEプロセスにおける塩素浸出工程S1にて固相に残存した残渣であり、主成分は硫黄である。これを硫黄源として添加することにより、ニッケルマットと共に、1価銅イオンを硫化銅として固定化できる。
【0047】
[固液分離工程S23]
第2のセメンテーション工程S22における硫化処理を経て得られる第2のスラリーは、硫化固定された銅の硫化物を含むセメンテーション残渣と、銅を除去した塩化ニッケル水溶液であるセメンテーション終液とからなるものである。したがって、その第2のスラリーに対して固液分離処理(固液分離工程S23)を施すことで、セメンテーション終液とセメンテーション残渣とを分離して回収することができる。
【0048】
<1-2.処理始液である塩化ニッケル水溶液について>
セメンテーション工程S2における反応始液である含銅塩化ニッケル水溶液の銅濃度については、硫化物原料A、B、及びCの添加比率に応じて調整することが好ましい。例えば、硫化ニッケル(NiS)を主成分とする硫化物原料Aは、硫化物原料B、Cよりも銅イオンの還元力が小さい。よって、例えば、同一のニッケル処理量とする条件において、硫化物原料Aの添加比率を多くする場合には、第2のセメンテーション工程S22においてより少ない硫化物原料B,Cで銅イオンを還元する必要があり、そのため、反応始液である塩化ニッケル水溶液の銅濃度を低くする必要がある。また、還元力の強さは、硫化物原料C(Fe0、Ni0)>硫化物原料B(Ni3S2)>硫化物原料A(NiS)であることから、主に2価銅イオンの還元を硫化物原料Aに担わせ、主に1価銅イオンの還元を硫化物原料B、Cに担わせた方が効率的である。
【0049】
そこで、本実施の形態に係る方法においては、好ましくは、銅イオンにおける2価銅イオンの比率の異なる2種類の塩化ニッケル水溶液を分けて用いる。
【0050】
すなわち、セメンテーション処理に供する(処理対象の)塩化ニッケル水溶液として、銅イオン濃度が20~80g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が60~100%である「塩化ニッケル水溶液a」と、銅イオン濃度が1~20g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が0~40%である「塩化ニッケル水溶液b」と、の2種類の塩化ニッケル水溶液を、別々に最適な位置に添加することが好ましい。
【0051】
具体的には、第1のセメンテーション工程S21において、塩化ニッケル水溶液として「塩化ニッケル水溶液a」を用いて処理に供し、第2のセメンテーション工程S22において、塩化ニッケル水溶液aに加えて、さらに「塩化ニッケル水溶液b」を添加して処理に供するようにする。
【0052】
「塩化ニッケル水溶液a」としては、特に限定されないが、例えば、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)における塩素浸出工程S1を経て得られる塩素浸出液を用いることができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る方法では、第1のセメンテーション工程S21を経て得られた第1のスラリーの一部を始液として、電解採取法により銅粉を回収するとともに電解廃液を得る脱銅電解工程をさらに含むものとすることができる。このとき、「塩化ニッケル水溶液b」としては、その脱銅電解工程から得られる電解廃液(脱銅電解廃液)を用いることができる。
【0054】
下記表1に、「塩化ニッケル水溶液a」として用いる“塩素浸出液”と、「塩化ニッケル水溶液b」として用いる“脱銅電解廃液”のそれぞれの液組成の一例を示す。
【0055】
【0056】
表1の組成例に示すとおり、塩素浸出液(塩化ニッケル水溶液a)は、ニッケル濃度、銅濃度がともに高く、温度も比較的に高い。また、酸化還元電位(ORP)が高いため、溶液中の銅イオンはそのほぼ全量が2価銅イオンの形態で存在している。一方で、脱銅電解廃液(塩化ニッケル水溶液b)は、ニッケル濃度、銅濃度がともに低く、温度も比較的に低い。また、ORPも低いため、溶液中の銅イオンはそのほぼ全量が1価銅イオンの形態で存在している。
【0057】
したがって、脱銅電解廃液(塩化ニッケル水溶液b)を第1のセメンテーション工程S21での処理に供しても、硫化物原料Aとはほとんど反応しない。そして、第1のセメンテーション工程S21での処理を行うにあたり、処理対象の塩化ニッケル水溶液として、塩化ニッケル水溶液bのような1価銅イオンの比率が多い水溶液が含まれていると、塩素浸出液(塩化ニッケル水溶液a)中の2価銅イオンが1価銅イオンで希釈されてしまって2価銅イオンの比率が低下するため、硫化物原料Aによる2価銅イオンの1価銅イオンへの還元効率が低下することになる。
【0058】
そこで、上述したように、第1のセメンテーション工程S21において、塩化ニッケル水溶液として「塩化ニッケル水溶液a」を用いて処理に供し、第2のセメンテーション工程S22において、第1のスラリーに対して塩化ニッケル水溶液aに加えて、さらに「塩化ニッケル水溶液b」を添加して処理に供するようする。好ましくはこのような方法で処理することで、第1のセメンテーション工程S21において処理対象の塩化ニッケル水溶液(塩化ニッケル水溶液a)に含まれる2価銅イオンの1価銅イオンへの還元を効率的に行うことができ、第2のセメンテーション工程S22での1価銅イオンの硫化物としての固定化を経て、塩化ニッケル水溶液から銅イオンをより効果的に除去することができる。
【0059】
また、第1のセメンテーション工程S21において2価銅イオンのできるだけ多くを1価銅イオンに還元するための最も有効な手段が、反応時間、すなわち反応槽における滞留時間の延長になる。よって、脱銅電解廃液(塩化ニッケル水溶液b)を第1のセメンテーション工程S21での処理に供しない、もしくは第1のセメンテーション工程S21のより下流側に添加することで、第1のセメンテーション工程S21における処理流量が低下して、その分、塩化ニッケル水溶液(塩化ニッケル水溶液a)の滞留時間が延長される。これにより、第1のセメンテーション工程S21において処理対象の塩化ニッケル水溶液(塩化ニッケル水溶液a)に含まれる2価銅イオンの1価銅イオンへの還元を効率的に行うことができる。
【0060】
(塩化ニッケル水溶液aについて)
塩化ニッケル水溶液aは、セメンテーション処理の始液となるものである。塩化ニッケル水溶液aは、上述したように、銅イオン濃度が20~80g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が60~100%である。また、その温度は、特に限定されず、70~100℃程度のものを用いることができる。
【0061】
このような塩化ニッケル水溶液aとしては、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)における塩素浸出工程S1を経て得られる塩素浸出液を用いることができる。
【0062】
MCLEプロセスにおける塩素浸出工程S1について概略を説明する。塩素浸出工程S1では、例えば、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマット等のニッケル硫化物を原料として、セメンテーション工程後のセメンテーション残渣と共に、塩素ガスによってニッケル等の金属を浸出させ、塩素浸出液としての含銅塩化ニッケル水溶液を生成させる。
【0063】
塩素浸出工程S1では、例えば、下記[6]~[8]式に示す反応が生じる。
Cl2+2Cu+ → 2Cl-+2Cu2+ ・・・[6]
NiS+2Cu2+ → Ni2++S0+2Cu+ ・・・[7]
Cu2S+2Cu2+ → 4Cu++S0 ・・・[8]
【0064】
すなわち、塩素浸出工程S1では、原料のニッケル硫化物が送液されると、ニッケル硫化物中に含まれる硫化ニッケル(NiS)及び硫化銅(Cu2S)等の金属成分が、塩素ガスにより酸化された「2価銅イオン」によって酸化浸出される。これにより、塩素浸出液である、銅イオンを含有する塩化ニッケル水溶液(含銅塩化ニッケル水溶液)が生成する。なお、[6]式に示す通り、塩素浸出工程S1では、2価銅イオンを電子キャリアとした酸化浸出が行われていると推定される。また、[7]式のNiSはMSの主成分を、[8]式のCu2Sはセメンテーション残渣の主成分を表す。
【0065】
(塩化ニッケル水溶液bについて)
塩化ニッケル水溶液bは、塩化ニッケル水溶液aと同様に、セメンテーション処理の始液となるものである。塩化ニッケル水溶液bは、上述したように、銅イオン濃度が1~20g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が0~40%である。すなわち、塩化ニッケル水溶液bは、塩化ニッケル水溶液aよりも2価銅イオンの含有比率が小さい、換言すると1価銅イオンの含有比率が大きい水溶液である。
【0066】
なお、塩化ニッケル水溶液bの温度としては、特に限定されず、40~60℃程度のものを用いることができる。
【0067】
このような塩化ニッケル水溶液bとしては、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)における脱銅電解工程を経て得られる脱銅電解廃液を用いることができる。
【0068】
MCLEプロセスにおける脱銅電解工程について概略を説明する。塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造するMCLEプロセスでは、原料(ニッケル硫化物)に由来する銅がある所定の濃度を保った状態でプロセス系内を循環する。銅は、塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)に際して、原料中のニッケルを効率的にかつ安定的に浸出させるための浸出剤として重要な役割を果たしている。MCLEプロセスでは、原料に含有される銅をプロセス系内に貯め込んで、大量の銅を塩素浸出液及びセメンテーション残渣として循環させているが、一方で、系内を循環させる銅量を適正に保つために、原料から新たに供給される銅見合いの銅量を系内から抜き出す必要がある。そのため、MCLEプロセスでは、系内を循環する銅の一部を電解採取して除去する処理(脱銅電解処理)が行われる。
【0069】
脱銅電解処理では、セメンテーション工程S2における第1のセメンテーション工程S21を経て得られた第1のスラリーの一部を始液として、電解採取法により銅粉を回収するとともに電解廃液を得る。電解給液としては、好ましくは、その第1のスラリーを固液分離して固形分を除去した溶液(第1のセメンテーション工程S21での処理の反応終液)を用いる。具体的に、脱銅電解処理では、電解給液が正極と負極とからなる電極対を備える電解槽に給液され、電解処理が施される。このような電解処理により、負極の表面にデンドライト状の銅粉が析出し、正極では塩素ガスが発生する。
【0070】
一方で、脱銅電解処理後には、銅が分離回収され除去された溶液(脱銅電解廃液)が得られる。この脱銅電解廃液は、上述したように、第1のセメンテーション工程S21での処理(還元処理)の反応終液、つまり1価銅イオンを多く含む溶液に対して電解処理を施して銅粉を回収した後の溶液である。したがって、脱銅電解廃液は、銅イオン濃度が比較的低く、2価銅イオンの比率が小さい溶液である。
【0071】
<1-3.銅イオン除去装置について>
さて、第1のセメンテーション工程S21と、第2のセメンテーション工程S22とから構成されるセメンテーション処理は、直列に連結された合計n槽(nは4以上の整数)の反応槽を備えた銅イオン除去装置を用いて実行することができる。
【0072】
このような、直列にn槽の反応槽が連結された銅イオン除去装置を用いたセメンテーション処理では、最も上流に位置する第1段目の反応槽から最終段目の反応槽の2段手前に位置する第n-2段目の反応槽において、第1のセメンテーション工程S21での処理(還元処理)が行われる。また、最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽から最も下流に位置する最終段(n段)目の反応槽において、第2のセメンテーション工程S22での処理(硫化処理)が行われる。
【0073】
そして、本実施の形態に係る方法においては、最も上流に位置する第1段目の反応槽に、処理対象の含銅塩化ニッケル水溶液を供給するとともに、硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを装入する。また、最も下流に位置する最終段目(第n段目)の反応槽、及びその最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを装入する。そして、最終段目の反応槽の1段手前に位置する第n-1段目の反応槽に、上述した硫化物原料C、すなわち金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cを装入して処理する。
【0074】
このように、硫化物原料Cを第n-1段目の反応槽に装入して処理を施すことで、銅イオンに対する還元反応に、その硫化物原料Cを十分に寄与させることができ、還元効率をより一層効果的に向上させることができる。なお、例えば、その硫化物原料Cを最終段目(第n段目)の反応槽に装入した場合、硫化物原料Cと銅イオンとの反応時間が短くなり、還元反応に十分に寄与しない可能性がある。
【0075】
また、この銅イオン除去装置を用いたセメンテーション処理において、処理対象の塩化ニッケル水溶液として、上述したような、銅イオンにおける2価銅イオンの比率の異なる2種類の塩化ニッケル水溶液a,bを分けて用いる場合には、以下のとおりに、塩化ニッケル水溶液を供給する。すなわち、最も上流に位置する第1段目の反応槽に、塩化ニッケル水溶液aを供給し、また、中央に位置する反応槽(ただし、nが偶数の場合にはn/2+1段目の反応槽)に、塩化ニッケル水溶液bを供給する。
【0076】
このように、第1のセメンテーション工程S21での還元処理に塩化ニッケル水溶液a(2価銅イオンの比率が60~100%)を、また、第2のセメンテーション工程S22での硫化処理に、塩化ニッケル水溶液aに加えて塩化ニッケル水溶液b(2価銅イオンの比率が0~40%)を供することができるように、組成の異なる塩化ニッケル水溶液a,bの装入口を変えるようする。
【0077】
より具体的に、
図3は、銅イオン除去装置の構成の一例を示す模式図である。
図3に例示する銅イオン除去装置1では、直列に連結された合計8槽(n=8)の反応槽(No.1~No.8)を備えるものである。
【0078】
銅イオン除去装置1では、最も上流に位置する第1段目の反応槽(No.1)から第6段目の反応槽(No.6)の計6槽において、塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加して銅イオンを還元する還元処理が行われるように構成されている(第1のセメンテーション工程S21)。また、第7段目の反応槽(No.7)から最も下流に位置する最終段目(第8段目)の反応槽(No.8)の計2槽において、還元処理により得られたスラリー(第1のスラリー)に二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加するとともに硫化物原料Cを添加して、1価銅イオンを硫化銅として固定化する硫化処理が行われるように構成されている。
【0079】
銅イオン除去装置1においては、合計8槽の反応槽のうち、最も上流に位置する第1段目の反応槽(No.1)に、還元処理の始液である塩化ニッケル水溶液(塩化ニッケル水溶液a)を供給する始液装入口と、硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを投入する硫化物原料A装入口とが設けられている。また、最も下流に位置する最終段目(第8段目)の反応槽(No.8)には、硫化処理を経て得られる反応終液を排出する終液排出口と、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを投入する硫化物原料B装入口とが設けられている。また、最終段目の反応槽の1段手前に位置する第7段目の反応槽(No.7)には、硫化物原料Bを投入する硫化物原料B装入口と、硫化物原料Cを投入する硫化物原料C装入口が設けられている。
【0080】
さらに、上述したように、銅イオン除去装置1においては、第5段目の反応槽(No.5)に、塩化ニッケル水溶液bを供給する水溶液b装入口が設けられている。また、その第5段目の反応槽には、硫化物原料Bを投入する硫化物原料B装入口を設けることができる。
【0081】
第1のセメンテーション工程S21で添加される硫化ニッケルを含む硫化物原料Aの還元力は、第2のセメンテーション工程S22で添加される二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bよりも弱い。すなわち、硫化物原料Aによる還元反応は比較的緩やかに進行し、硫化物原料Bによる硫化反応は比較的速やかに進行する。したがって、硫化物原料Aによる還元処理、硫化物原料Bによる硫化処理を効率的に行うためには、硫化処理を行わせる反応槽数を必要最低限に絞り、残りの反応槽は還元処理に充当させることが得策である。
【0082】
一方で、外部要因により、硫化物原料Aと硫化物原料Bの処理比率を変えざるを得ない事態も生じるため、第5段目の反応槽に硫化物原料Bを投入する硫化物原料B装入口を設けることで、臨機応変な対応ができるようにすればよい。そのときは、還元処理を行う第1のセメンテーション工程S21に4槽を振り分け、硫化処理を行う第2のセメンテーション工程S22に4槽を振り分けることになる。
【0083】
上述した構成を備える銅イオン除去装置1を用いたセメンテーション処理では、2価銅イオンの比率が60~100%である塩化ニッケル水溶液aを第1段目の反応槽(No.1)に設けられた始液装入口から供給して、還元処理に供するようにしている。また、2価銅イオンの比率が0~40%である塩化ニッケル水溶液bを中央に位置する反応槽(第5段目(nが偶数の場合にはn/2+1段目)の反応槽)に設けられた水溶液b装入口から供給して、硫化処理に供するようにしている。
【0084】
このように、銅イオン除去装置1を用いてセメンテーション処理を行うことで、第2のセメンテーション工程S22での硫化物原料Cの添加タイミングを適切化することができ、その硫化物原料Cを銅イオンの還元反応に十分に寄与させることができる。また、銅イオン除去装置1を用いてセメンテーション処理を行うことで、特に好ましくは2価銅イオン比率の点で組成の異なる塩化ニッケル水溶液a,bを、別々の段階から適切なタイミングで供給して反応に供することができる。
【0085】
これにより、第1のセメンテーション工程S21において塩化ニッケル水溶液a中の2価銅イオンの1価銅イオンへの還元を効率的に行うことができ、また、第2のセメンテーション工程S22での1価銅イオンの硫化物としての固定化を経て、含銅塩化ニッケル水溶液から銅イオンをより効果的に除去することができる。
【0086】
なお、銅イオン除去装置1に関して、セメンテーション処理が還元処理(第1のセメンテーション工程S21)と硫化処理(第2のセメンテーション工程S22)との2段階の処理で構成されるため、装置を構成する反応槽の数としては少なくとも2槽を必要とする。ところが、例えば合計2槽の反応槽からなる銅イオン除去装置では、処理量が多くなって、反応の規模が大きくなればなるほど反応槽の容量を大きくする必要が生じ、設備コストが膨大となるだけでなく、メンテナンス性の観点からもあまり好ましくない。このことから、銅イオン除去装置を構成する反応槽の総数としては、その規模に応じて4槽以上とし、還元処理と硫化処理とのそれぞれの処理が複数の反応槽で実行されるように構成することが好ましい。
【0087】
また、反応槽に連続的に溶液を供給する場合、その滞留時間は一定のバラツキを持つ。よって、バッチ反応では反応槽の容量を大きくする方がコスト等の面で有利に働くが、連続反応では反応槽の容量を大きくするよりも反応槽の数を増やす方が、反応の安定性、均一性の観点で、圧倒的に有利に働く。
【0088】
[第2のセメンテーション工程から得られるスラリーのORP制御について]
また、必須の態様ではないが、本実施の形態に係る方法では、第2のセメンテーション工程S22を経て得られる第2のスラリーの酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)が、特定の範囲となるように制御することが好ましい。具体的に、第2のスラリーのORPが-100mV以上、0mV未満となるように制御することが好ましく、ORPが-50mV以上、0mV未満となるように制御することがより好ましい。
【0089】
このように、得られる第2のスラリーのORPが上述した特定の範囲となるように制御して処理することで、銅イオンだけではなく、含銅塩化ニッケル水溶液(塩素浸出液)から不純物である銀を効率的に除去することができ、銀濃度を効果的に低減した溶液を得ることができる。なお、不純物の銀は、第2のセメンテーション工程S22を経て、硫化物として固定化された銅と共に、セメンテーション残渣に分配され除去される。
【0090】
第2のスラリーのORPの制御方法としては、特に限定されない。例えば、セメンテーション工程S2に付す含銅塩化ニッケル水溶液の銅濃度を調整することによって行うことができる。また、ORPは、酸化還元電位計を反応槽に設けて連続的にモニターすることによって測定することができる。
【0091】
≪2.銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を製造する方法≫
上述した塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去する方法については、MCLEプロセスにおけるセメンテーション工程S2での処理に適用することができる。したがって、ニッケルを含有する原料から銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得る方法(製造方法)と定義することができる。また、製造した塩化ニッケル水溶液(銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液)から、電解工程での電解処理を経て純度の高い電気ニッケルが得られることから、電気ニッケルの製造方法と定義することもできる。
【0092】
具体的に、塩化ニッケル水溶液を製造する方法は、ニッケル含有物スラリーに塩素ガスを吹き込むことによって塩素浸出し、塩素浸出液と塩素浸出残渣とを得る塩素浸出工程S1と、塩素浸出液である塩化ニッケル水溶液に対してセメンテーション処理を実行し、銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を得るセメンテーション工程S2と、を含む。
【0093】
なお、
図4に、原料のニッケル硫化物から電気ニッケルを製造するMCLEプロセスの流れを説明する工程図を示す。
図4に示すプロセスの流れにあるように、ニッケル硫化物原料を塩素浸出する塩素浸出工程S1と、得られた塩素浸出液に対してセメンテーション処理を施すことによって銅イオンを固定除去するセメンテーション工程S2と、を経ることで、銅イオンを除去した塩化ニッケル水溶液を効果的に製造することができる。なお、
図1と
図4は表記方法が異なるもののいずれも電気ニッケル製造プロセス(MCLEプロセス)のフロー図であり、
図1の「脱鉄工程」、「コバルト溶媒抽出工程」、「浄液工程」の全てが、
図4の「浄液工程S3」に含まれている。また、
図1に表記された「脱銅電解工程」は、
図4では省略している。
【0094】
(塩素浸出工程)
塩素浸出工程S1では、例えば、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマット等のニッケル硫化物を原料として、塩素でニッケル等の金属を浸出する。具体的には、セメンテーション工程S2後のセメンテーション残渣と共に、例えば電解工程S4で回収された塩素ガスによって、ニッケル硫化物中のニッケルを浸出させ、塩素浸出液としての含銅塩化ニッケル水溶液を生成させる。
【0095】
なお、原料であるニッケル硫化物は、例えば、電解工程S4にて得られる塩化ニッケル水溶液(電解廃液)によってレパルプされてスラリー化したものが用いられる。
【0096】
(セメンテーション工程)
セメンテーション工程S2では、塩素浸出工程S1から得られた塩素浸出液である、銅イオンを含有する塩化ニッケル水溶液(含銅塩化ニッケル水溶液)に対して、還元処理と硫化処理を施すことにより、水溶液中の銅イオンを硫化物として固定除去し、銅イオンの含有量を低減した塩化ニッケル水溶液(セメンテーション終液)を得る。
【0097】
このセメンテーション工程S2での処理(セメンテーション処理)に、上述した銅イオンの除去方法を適用することができる。
【0098】
具体的に、セメンテーション工程S2では、含銅塩化ニッケル水溶液に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、塩化ニッケル水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程S21と、第1のセメンテーション工程S21で得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、第1のスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程S22と、を含むセメンテーション処理を行う。
【0099】
そして、第2のセメンテーション工程S22では、第1のスラリーに対して、硫化物原料Bと共に、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cをさらに添加して処理する。
【0100】
このような方法によれば、含銅塩化ニッケル水溶液に含まれる2価銅イオンの1価銅イオンへの還元をより効率的にかつ効果的に行うことができ、第2のセメンテーション工程S22での1価銅イオンの硫化物としての固定化を経て、含銅塩化ニッケル水溶液から銅イオンを効果的に除去することができる。
【0101】
また、このような方法によれば、例えば、セメンテーション工程S2での処理に供する含銅塩化ニッケル水溶液の銅イオン濃度を低下させる等の前処理を施すことなく、有効に銅イオンを除去することができる。そのため、ニッケルの湿式製錬プロセスの循環サイクルを考えたとき、塩素ガス吸収のイオンキャリアとして機能する銅イオンが不十分となって塩素浸出工程S1での塩素浸出率が悪化するといった事態を効果的に防ぐことができる。
【0102】
なお、第1のセメンテーション工程S21にて添加する硫化物原料Aとしては、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物を用いることができる。また、第2のセメンテーション工程S22にて添加する硫化物原料B及び硫化物原料Cとしては、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマットを用いることができる。
【0103】
また、好ましくは、セメンテーション工程S2では、セメンテーション処理に供する(処理対象の)塩化ニッケル水溶液として、銅イオン濃度が20~80g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が60~100%である「塩化ニッケル水溶液a」と、銅イオン濃度が1~20g/Lであり、その銅イオンにおける2価銅イオンの比率(Cu2+/(Cu2++Cu+))が0~40%である「塩化ニッケル水溶液b」と、の2種類の塩化ニッケル水溶液を、別々に最適な位置に添加する。具体的には、第1のセメンテーション工程S21において、塩化ニッケル水溶液として「塩化ニッケル水溶液a」を用いて処理に供し、第2のセメンテーション工程S22において、塩化ニッケル水溶液aに加えて、さらに「塩化ニッケル水溶液b」を添加して処理に供する。
【実施例0104】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
[試験例1]
8つの反応槽(各60m3)が直列に連結された銅イオン除去装置を用いて、MCLEプロセスにおけるセメンテーション工程の処理を行った。具体的に、セメンテーション工程では、処理対象である塩素浸出液(銅イオンを含む塩化ニッケル水溶液)に硫化ニッケルを含む硫化物原料Aを添加し、水溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程と、得られた第1のスラリーに、二硫化三ニッケルを含む硫化物原料Bを添加し、1価銅イオンを硫化物として固定化する第2のセメンテーション工程と、を含むセメンテーション処理を行った。また、その第2のセメンテーション工程では、硫化物原料Bと共に、金属ニッケルと金属鉄の合計含有量が60~85質量%である硫化物原料Cを第1のスラリーに添加して処理した。
【0106】
試験例1では、銅濃度が42~61g/Lの塩素浸出液を用い、8つの反応槽を連結させた銅イオン除去装置において、硫化物原料Cの添加位置を、最上流の第1段目の反応槽から数えて第6段目、第7段目、及び第8段目の反応槽としたときの試験をそれぞれ実施し、第2のセメンテーション工程では2価銅イオンの還元効率を確認した。また、比較として、硫化物原料Cを添加しない場合の試験も併せて行った。
【0107】
各試験において、硫化物原料Cの添加量は同一とした。また、第7段目の反応槽出口から得られるスラリーの酸化還元電位(ORP,銀/塩化銀電極基準)が220mV、第8段目の反応槽出口から得られるスラリーのORPが-30mVとなるように、すなわち各試験において還元条件が同じとなるように処理した。
【0108】
図5は、試験例1の試験結果を示すグラフであり、硫化物原料Cの添加位置の違いによる、第2のセメンテーション工程で添加する硫化物原料B及び硫化物原料Cの合計添加量の関係を示すグラフ図である。
図5からわかるように、硫化物原料Cを、第7段目の反応槽、すなわち最終段目(第8段目)の反応槽の1段手前に位置する反応槽に添加したときが、硫化物原料B及び硫化物原料Cの合計添加量が最も少なくなった。
【0109】
このことは、第2のセメンテーション工程において、硫化物原料Bと共に硫化物原料Cを併用し、その硫化物原料Cを最終段目(第8段目)の反応槽の1段手前に位置する反応槽に添加することで、銅イオンに対する還元効率を最も高めることができることを意味する。
【0110】
[試験例2]
試験例2では、硫化物原料Cを第7段目の反応槽に添加し、その硫化物原料Cの添加量を変化させた。なお、それ以外の条件は、試験例1と同様とした。
【0111】
図6は、試験例2の試験結果を示すグラフである。
図6に示す結果から、硫化物原料Cの添加量が増えるに従って、第2のセメンテーション工程での銅の還元効率が高められることがわかった。
【0112】
なお、銅の還元効率は、以下のようにして計算した。
銅の還元効率=
(塩化ニッケル水溶液のCu濃度)×((塩化ニッケル水溶液の流量)/((硫化物原料BのNi品位)×(硫化物原料Bの添加量)+(硫化物原料CのNi品位)×(硫化物原料Cの添加量))
【0113】
[試験例3(実施例1及び2、比較例1)]
試験例3では、試験例1及び2と同様に、8つの反応槽が直列に連結された銅イオン除去装置を用いてMCLEプロセスにおけるセメンテーション工程の処理を行った。そして、下記表2に示すように、硫化物原料A、B、及びCの添加構成比、並びに、第8段目の反応槽出口のスラリーのORPを設定して、処理した。なお、従来例として硫化物原料Cを添加しない比較例1及び2を併せて行った。
【0114】
【0115】
実施例1及び2では、第2のセメンテーション工程において硫化物原料Cを併用することで、銅イオンの還元効率を高めることができ、塩素浸出液中のCu濃度を45g/L以上にしても、効果的に脱銅処理を進行させることができた。