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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145716
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】金属加工油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/00 20060101AFI20241004BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 159/22 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 159/24 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20241004BHJP
   B23H 1/08 20060101ALI20241004BHJP
   C10M 171/02 20060101ALI20241004BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M107/02
C10M101/02
C10M159/22
C10M159/24
C10M129/10
C10M129/54
C10M135/10
B23H1/08
C10M171/02
C10N20:02
C10N20:00 Z
C10N10:02
C10N30:00 Z
C10N20:00 A
C10N40:20 Z
C10N40:24 Z
C10N10:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058193
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】北村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃
【テーマコード(参考)】
3C059
4H104
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059EA03
3C059EA08
3C059EA09
3C059EA10
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB23A
4H104BB24A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EA02Z
4H104EA14Z
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA20
4H104PA22
4H104PA23
(57)【要約】
【課題】金属加工性に優れた、新規な金属加工油組成物が求められている。
【解決手段】基油(A)及び有機酸金属塩(B)を含有し、40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sであり、50℃における体積抵抗率が2.0×10-1TΩ・m未満である、金属加工油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)及び有機酸金属塩(B)を含有し、
40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sであり、
50℃における体積抵抗率が2.0×10-1TΩ・m未満である、
金属加工油組成物。
【請求項2】
前記金属加工油組成物の引火点が70℃以上である、請求項1に記載の金属加工油組成物。
【請求項3】
前記金属加工油組成物の40℃における動粘度が1.00~3.00mm/sである、請求項1又は2に記載の金属加工油組成物。
【請求項4】
基油(A)の40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項5】
基油(A)が、鉱油、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及びα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項6】
基油(A)が、炭素数10~30のノルマルパラフィン、及び、炭素数10~30のα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項7】
有機酸金属塩(B)を構成する金属が、Zn、Ba,Ca、Na、及びKから選ばれる1種以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項8】
有機酸金属塩(B)が、金属スルホネート、金属サリシレート、金属フェネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項9】
有機酸金属塩(B)が、金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネートから選ばれる1種以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項10】
有機酸金属塩(B)が、有機酸亜鉛塩を含み、
前記金属加工油組成物の40℃における動粘度が、1.10~2.70mm/sであり、
前記金属加工油組成物の50℃における体積抵抗率が、8.0×10-2TΩ・m以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項11】
有機酸金属塩(B)の金属原子換算での含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、60質量ppm以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項12】
基油(A)及び有機酸金属塩(B)の合計含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、70質量%以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項13】
水の含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%未満である、請求項1~12のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項14】
前記金属加工油組成物が、金属加工対象物とワイヤ電極との間に当該金属加工油組成物を介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する、ワイヤ放電加工油組成物である、請求項1~13のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の金属加工油組成物を、金属加工対象物とワイヤ電極との間に介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する工程を有する、放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油組成物、及び当該金属加工油組成物を用いた放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、各種装置内の摺動部の潤滑用途や、エンジン等の発熱機器の冷却用途、金属加工時の加工性向上のための金属加工用途等の様々な場面で使用されている。
例えば、特許文献1には、放電により生じた放電痕の累積により被加工物を加工するための放電加工液として、40℃での動粘度が1.0~3.0mm/sの低粘度油と、40℃で固体の数平均分子量400~1200のテルペン樹脂及び/又は石油樹脂とからなり、樹脂成分が0.5~20重量%含まれてなる放電加工液に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-155165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、金属加工性に優れた、新規な金属加工油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様において、基油及び有機酸金属塩を含有し、動粘度及び体積抵抗率を所定の範囲に調整した金属加工油組成物を提供する。具体的には、本発明の一態様として、例えば、下記態様[1]~[15]を提供する。
[1]基油(A)及び有機酸金属塩(B)を含有し、
40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sであり、
50℃における体積抵抗率が2.0×10-1TΩ・m未満である、
金属加工油組成物。
[2]前記金属加工油組成物の引火点が70℃以上である、上記[1]に記載の金属加工油組成物。
[3]前記金属加工油組成物の40℃における動粘度が1.00~3.00mm/sである、上記[1]又は[2]に記載の金属加工油組成物。
[4]基油(A)の40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sである、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[5]基油(A)が、鉱油、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及びα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[6]基油(A)が、炭素数10~30のノルマルパラフィン、及び、炭素数10~30のα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[7]有機酸金属塩(B)を構成する金属が、Zn、Ba,Ca、Na、及びKから選ばれる1種以上である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[8]有機酸金属塩(B)が、金属スルホネート、金属サリシレート、金属フェネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[9]有機酸金属塩(B)が、金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネートから選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[10]有機酸金属塩(B)が、有機酸亜鉛塩を含み、
前記金属加工油組成物の40℃における動粘度が、1.10~2.70mm/sであり、
前記金属加工油組成物の50℃における体積抵抗率が、8.0×10-2TΩ・m以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[11]有機酸金属塩(B)の金属原子換算での含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、60質量ppm以上である、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[12]基油(A)及び有機酸金属塩(B)の合計含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、70質量%以上である、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[13]水の含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%未満である、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[14]前記金属加工油組成物が、金属加工対象物とワイヤ電極との間に当該金属加工油組成物を介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する、ワイヤ放電加工油組成物である、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物。
[15]上記[1]~[14]のいずれか一項に記載の金属加工油組成物を、金属加工対象物とワイヤ電極との間に介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する工程を有する、放電加工方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の金属加工油組成物は、優れた金属加工性を有し、特に、放電加工における加工速度を向上させ、加工面を平滑にし得る。そのため、本発明の一態様の金属加工油組成物は、金属加工に適用されることが好ましく、放電加工(特にワイヤ放電加工)にも好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上(60又は60超)、100以下(100又は100未満)」という範囲であることを意味する。
【0008】
〔金属加工油組成物の構成〕
本発明の一態様の金属加工油組成物は、基油(A)(以下「成分(A)」ともいう)及び有機酸金属塩(B)(以下「成分(B)」ともいう)を含有し、40℃における動粘度が0.90~4.00mm/sである、50℃における体積抵抗率が2.0×10-1TΩ・m未満である。
本発明の一態様の金属加工油組成物は、基油(A)と共に、有機酸金属塩(B)を含有しているため、放電加工の際の仕事関数を低くでき、広い加工間隙を形成することができる。このため、放電加工で発生した加工屑やガスの排出が容易となり、短絡や異常放電が発生しにくく、加工速度が上がると共に、安定した加工を行うことができ、被加工物の加工面を平滑に加工することができる。したがって、本発明の一態様の金属加工油組成物は、形彫放電加工、ワイヤカット放電加工等のいわゆる放電系と呼ばれる電気加工に好適に用いることができる。
このような構成を有する本発明の一態様の金属加工油組成物は、優れた金属加工性を有し、特に、放電加工における加工速度を向上させ、被加工物の加工面を平滑にし得るため、放電加工での金属加工性も向上させることができる。
【0009】
本発明の一態様の金属加工油組成物の40℃における動粘度は、金属加工性を向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度を向上させ、加工面を平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、0.90mm/s以上、0.95mm/s以上、1.00mm/s以上、1.05mm/s以上、1.10mm/s以上、1.15mm/s以上、又は1.20mm/s以上とすることが好ましく、さらに、1.50mm/s以上、1.60mm/s以上、1.70mm/s超、1.72mm/s以上、1.75mm/s以上、1.77mm/s以上、1.80mm/s以上、1.82mm/s以上、1.85mm/s以上、又は1.87mm/s以上としてもよく、また、4.00mm/s以下、3.70mm/s以下、3.50mm/s以下、3.20mm/s以下、3.00mm/s以下、2.70mm/s以下、2.50mm/s未満、2.40mm/s以下、2.30mm/s以下、2.20mm/s以下、2.10mm/s以下、又は2.00mm/s以下とすることが好ましく、また、1.97mm/s以下、1.95mm/s以下、1.92mm/s以下、又は、1.90mm/s以下としてもよい。
なお、本明細書において、動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された値を意味する。
【0010】
本発明の一態様の金属加工油組成物の50℃における体積抵抗率は、金属加工性を向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度を向上させ、加工面を平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、2.0×10-1TΩ・m未満、1.0×10-1TΩ・m以下、8.0×10-2TΩ・m以下、6.0×10-2TΩ・m以下、4.0×10-2TΩ・m以下、2.0×10-2TΩ・m以下、1.0×10-2TΩ・m以下、8.0×10-3TΩ・m以下、6.0×10-3TΩ・m以下、4.0×10-3TΩ・m以下、2.0×10-3TΩ・m以下、1.0×10-3TΩ・m以下、8.0×10-4TΩ・m以下、6.0×10-4TΩ・m以下、4.0×10-4TΩ・m以下、2.0×10-4TΩ・m以下、1.0×10-4TΩ・m以下、8.0×10-5TΩ・m以下、6.0×10-5TΩ・m以下、4.0×10-5TΩ・m以下、2.0×10-5TΩ・m未満、又は1.0×10-5TΩ・m以下とすることが好ましく、また、1.0×10-10TΩ・m以上、1.0×10-9TΩ・m以上、1.0×10-8TΩ・m以上、又は1.0×10-7TΩ・m以上としてもよい。
なお、本明細書において、体積抵抗率は、JIS C2101に準拠して、油温50℃で250V/mmの電圧を印加し、印加してから1分経過後の電流値より求めた値を意味する。
【0011】
なお、本発明の一態様の金属加工油組成物は、成分(A)の種類、動粘度、及び含有量、並びに、成分(B)の種類、塩基価、及び含有量を調整することで、金属加工油組成物の動粘度及び体積抵抗率を上記範囲となるように調整し、金属加工性を向上させ、特に、放電加工に用いた際の加工速度を向上させ、加工面を平滑にし得る金属加工油組成物としている。
【0012】
本発明の一態様の金属加工油組成物の引火点は、取扱性に優れた金属加工油組成物とする観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、より更に好ましくは116℃以上、特に好ましくは120℃以上である。
なお、本明細書において、引火点は、JIS K2265-4に準拠して測定された値を意味する。
【0013】
本発明の一態様の金属加工油組成物は、成分(A)及び(B)以外の他の添加剤を含有してもよい。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、成分(A)及び(B)の合計含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は99質量%としてもよい。
以下、本発明の一態様の金属加工油組成物に含まれる各成分について説明する。
【0014】
<成分(A):基油>
本発明の一態様で用いる成分(A)は、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
合成油としては、例えば、ノルマルパラフィン;イソパラフィン;α-オレフィン;α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる成分(A)は、鉱油、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、及びα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上であることが好ましく、鉱油、炭素数10~30のイソパラフィン、炭素数10~30のノルマルパラフィン、及び炭素数10~30のα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上であることがより好ましく、低粘度、且つ、高引火点とし、安全性に優れた金属加工油組成物とする観点から、炭素数10~30のノルマルパラフィン、及び、炭素数10~30のα-オレフィンを主成分として含有するα-オレフィン系合成油から選ばれる1種以上であることが更に好ましく、炭素数10~30のノルマルパラフィンであることがより更に好ましい。
なお、本明細書において、主成分とは、成分(A)を構成する成分のうち、最も含有量が多い成分を意味し、成分(A)の全量(100質量%)基準で、例えば、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上を占める成分を意味する。
上記観点から、前記ノルマルパラフィンの炭素数、及び、前記α-オレフィン系合成油に主成分として含まれるα-オレフィンの炭素数は、それぞれ独立して、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは13以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは17以下、より更に好ましくは15以下である。
【0016】
本発明の一態様で用いる成分(A)の40℃における動粘度は、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、0.90mm/s以上、1.00mm/s以上、1.10mm/s以上、1.20mm/s超、1.22mm/s以上、1.25mm/s以上、1.27mm/s以上、1.30mm/s以上、1.32mm/s以上又は1.35mm/s以上とすることが好ましく、また、4.00mm/s以下、3.50mm/s以下、3.20mm/s以下、3.00mm/s以下、2.70mm/s以下、2.50mm/s未満、2.20mm/s以下、2.00mm/s以下、1.90mm/s以下、1.80mm/s以下、1.70mm/s以下、又は1.60mm/s以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様の金属加工油組成物において、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、成分(A)の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、又は96質量%以上とすることが好ましく、また、99.99質量%以下、99.95質量%以下、99.90質量%以下、99.80質量%以下、99.70質量%以下、99.60質量%以下、又は99.50質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
<成分(B):有機酸金属塩>
本発明の一態様で用いる成分(B)としては、有機スルホン酸のスルホ基(-SOH)や有機カルボン酸のカルボキシ基(-COOH)の水素原子を金属原子に置換された金属塩が挙げられる。
なお、成分(B)は、ポーリングの電気陰性度が2以下の有機酸金属塩であってもよく、ポーリングの電気陰性度が2超の有機酸金属塩であってもよい。
【0019】
成分(B)を構成する金属原子は、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、Zn、Ba、Ca、Na、及びKから選ばれる1種以上であることが好ましく、Zn、Ca、及びNaから選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0020】
成分(B)を構成する有機酸としては、例えば、カルボン酸やスルホン酸等が挙げられる。
カルボン酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキン酸、ベヘン酸、メリシン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、イソステアリン酸等のモノカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシアクリル酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、サリチル酸等のヒドロキシカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等の多価カルボン酸;等が挙げられる。
【0021】
スルホン酸としては、例えば、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、2,7-ナフタレンジスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸、3,6-ジヒドロキシナフタレン-2,7-ジスルホン酸、6-メチル-2-ナフタレンスルホン酸、4-エチル-1-ナフタレンスルホン酸、5-イソプロピル-1-ナフタレンスルホン酸、5-ブチル-2-ナフタレンスルホン酸等のナフタレンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、p-エチルベンゼンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-クメンスルホン酸等のベンゼンスルホン酸類;1-アズレンスルホン酸、グアイアズレンスルホン酸、3-メチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸、7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸、3-フェニル-6-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸、1,4-ジメチル-7-イソプロピル-2-アズレンスルホン酸、1,3-アズレンジスルホン酸、4,6,8-トリメチル-1,3-アズレンジスルホン酸、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-5,7-アズレンジスルホン酸、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-5-アズレンスルホン酸等のアズレンスルホン酸類等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる成分(B)は、金属スルホネート、金属サリシレート、金属フェネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、金属スルホネート及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
また、上記観点から、本発明の一態様で用いる成分(B)は、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、ナトリウムスルホネート、ナトリウムサリシレート、ナトリウムフェネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、カルシウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
【0023】
本発明の一態様において、成分(B)として、金属スルホネート、金属サリシレート、金属フェネート、及び有機酸亜鉛塩から選ばれる1種以上を含む金属加工油組成物が挙げられる。
本発明の一態様において、成分(B)として用いる、金属スルホネートとしては、下記一般式(b-1)で表される化合物が挙げられ、金属サリシレートとしては、下記一般式(b-2)で表される化合物が挙げられ、金属フェネートとしては、下記一般式(b-3)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0024】
上記一般式(b-1)及び(b-2)中、Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子であり、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、ナトリウム又はカルシウムがより好ましい。
上記一般式(b-3)中、M’は、アルカリ土類金属であり、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。yは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
上記一般式(b-1)~(b-3)中、pはMの価数であり、1又は2である。Rは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0025】
金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネートは、100mgKOH/g以上の過塩基性金属塩であってもよく、100mgKOH/g未満の中性金属塩であってもよい。
前記過塩基性金属塩の塩基価としては、100mgKOH/g以上、120mgKOH/g以上、150mgKOH/g以上、170mgKOH/g以上、又は200mgKOH/g以上としてもよく、また、600mgKOH/g以下、550mgKOH/g以下、500mgKOH/g以下、450mgKOH/g以下、又は400mgKOH/g以下としてもよい。
前記中性金属塩の塩基価としては、100mgKOH/g未満、0~90mgKOH/g、0~70mgKOH/g、0~50mgKOH/g、0~40mgKOH/g、0~30mgKOH/g、0~20mgKOH/g、又は0~10mgKOH/gとしてもよい。
本明細書において、塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「9.電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)」に準拠して測定された値を意味する。
【0026】
本発明の一態様において、成分(B)として、有機酸亜鉛塩を含む金属加工油組成物が挙げられる。
有機酸亜鉛塩を含む金属加工油組成物の40℃における動粘度は、1.10mm/s以上、1.20mm/s以上、1.30mm/s以上、1.40mm/s以上、1.50mm/s以上、1.60mm/s以上、1.70mm/s以上、1.75mm/s以上、1.77mm/s以上、1.80mm/s以上、1.82mm/s以上、1.85mm/s以上、又は1.87mm/s以上とすることが好ましく、また、4.00mm/s以下、3.50mm/s以下、3.20mm/s以下、3.00mm/s以下、2.70mm/s以下、2.50mm/s未満、2.40mm/s以下、2.30mm/s以下、2.20mm/s以下、2.10mm/s以下、2.00mm/s以下、又は1.98mm/s以下とすることが好ましい。
また、有機酸亜鉛塩を含む金属加工油組成物の50℃における体積抵抗率は、8.0×10-2TΩ・m以下、6.0×10-2TΩ・m以下、4.0×10-2TΩ・m以下、2.0×10-2TΩ・m以下、又は1.0×10-2TΩ・m以下とすることが好ましく、1.0×10-10TΩ・m以上、1.0×10-9TΩ・m以上、1.0×10-8TΩ・m以上、1.0×10-7TΩ・m以上、1.0×10-6TΩ・m以上、1.0×10-5TΩ・m以上、又は1.0×10-4TΩ・m以上としてもよい。
【0027】
本発明の一態様の金属加工油組成物において、金属加工性をより向上させた金属加工油組成物とする観点、特に、放電加工に用いた際の加工速度をより向上させ、加工面をより平滑にし得る金属加工油組成物とする観点から、成分(B)の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、0.20質量%以上、0.25質量%以上、又は0.30質量%以上とすることが好ましく、また、10.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、又は2.5質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
また、本発明の一態様の金属加工油組成物において、上記観点から、成分(B)の金属原子換算での含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、60質量ppm以上、70質量ppm以上、80質量ppm以上、100質量ppm以上、120質量ppm以上、140質量ppm以上、160質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、又は700質量ppm以上とすることが好ましく、また、10000質量ppm以下、8000質量ppm以下、6000質量ppm以下、5000質量ppm以下、4000質量ppm以下、3500質量ppm以下、3000質量ppm以下、2500質量ppm以下、2000質量ppm以下、又は1500質量ppm以下とすることが好ましい。
本明細書において、金属原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
【0029】
<他の各種添加剤>
本発明の一態様の金属加工油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(A)及び(B)以外の他の添加剤をさらに含有してもよい。
そのような他の各種添加剤としては、例えば、増粘剤、油溶性樹脂、防錆剤、消泡剤、酸化防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
なお、これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の一態様で用いる増粘剤としては、例えば、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、及びポリアルキレングリコール等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、増粘剤の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上としてもよく、15質量%以下、5.0質量%以下、又は2.0質量%以下としてもよい。
【0031】
本発明の一態様で用いる油溶性樹脂としては、例えば、ジペンテン、テトラテルペンおよびポリテルペンなどの重合物、またはこれらの水添物;シクロペンタジエン-ジシクロペンタジエン共重合系石油樹脂またはこれらの水添物;ロジンのエステル;クマロン樹脂;クマロン・インデン樹脂などが挙げられる。
本発明の一態様で用いる油溶性樹脂の数平均分子量は、200以上、300以上、400以上、又は500以上であってもよく、また、5000以下、4000以下、3000以下、又は2000以下であってもよい。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、油溶性樹脂の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上としてもよく、15質量%以下、5.0質量%以下、又は2.0質量%以下としてもよい。
【0032】
本発明の一態様で用いる防錆剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、防錆剤の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.10質量%以上としてもよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、又は2.0質量%以下としてもよい。
【0033】
本発明の一態様で用いる消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン系消泡剤、フルオロアルキルエーテル系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、消泡剤の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.001質量%以上、0.005質量%以上、又は0.01質量%以上としてもよく、3.0質量%以下、1.0質量%以下、又は0.50質量%以下としてもよい。
【0034】
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6ージーtーブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、酸化防止剤の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.10質量%以上としてもよく、7.0質量%以下、5.0質量%以下、又は3.0質量%以下としてもよい。
【0035】
本発明の一態様で用いる金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、金属不活性化剤の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.10質量%以上としてもよく、2.0質量%以下、1.0質量%以下、又は0.50質量%以下としてもよい。
【0036】
本発明の一態様の金属加工油組成物において、金属加工性を良好とする観点から、水の含有量は少ないほど好ましい。
本発明の一態様の金属加工油組成物において、水の含有量は、当該金属加工油組成物の全量(100質量%)基準で、5.0質量%未満、4.0質量%未満、3.0質量%未満、2.5質量%以下、2.0質量%未満、1.5質量%未満、1.0質量%未満、0.50質量%未満、又は0.25質量%未満であることが好ましい。なお、前記水の含有量は、金属加工油組成物中に溶解している水の量を意味する。
【0037】
〔金属加工油組成物の製造方法〕
本発明の一態様の金属加工油組成物の製造方法としては、特に制限はなく、上述の成分(A)に、成分(B)と共に、必要に応じて、他の添加剤を配合する工程を有する方法であることが好ましい。各成分の配合の順序は適宜設定することができる。
【0038】
〔金属加工油組成物の用途〕
本発明の一態様の金属加工油組成物は、優れた金属加工性を有する。
このため、本発明の一態様の金属加工油組成物は、例えば、切削加工、プレス加工、引抜き加工、しごき加工、曲げ加工、転造加工、及び冷間鍛造加工等の各種金属加工用途に好適に用いることができる。
【0039】
本発明の一態様の金属加工油組成物を用いて金属加工を行う対象となる金属加工対象物としては、特に制限は無いが、工具鋼、超硬、鉄、チタン、アルミニウム、チタン合金、合金鋼、ニッケル基合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金、及び高マンガン鋼からなる群より選ばれる金属からなる金属材料が挙げられる。
【0040】
なお、本発明の一態様の金属加工油組成物は、特に、放電加工における加工速度を向上させ、加工面を平滑にし得るという効果を発現し得る。そのため、本発明の一態様の金属加工油組成物は、金属加工に適用されることが好ましく、放電加工(特にワイヤ放電加工)にも好適に使用し得る。
つまり、本発明の一態様の金属加工油組成物は、金属加工対象物とワイヤ電極との間に当該金属加工油組成物を介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する、ワイヤ放電加工油組成物として好適に使用し得る。
【0041】
以上のような特性によれば、本発明の一態様として、下記〔1〕及び〔2〕も提供し得る。
〔1〕上述の本発明の一態様の金属加工油組成物を、金属加工対象物とワイヤ電極との間に介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工するために適用する、金属加工油組成物の使用方法。
〔2〕上述の本発明の一態様の金属加工油組成物を、金属加工対象物とワイヤ電極との間に介在させ、金属加工対象物の金属とワイヤ電極との間で放電することで当該金属加工対象物を加工する工程を有する、放電加工方法。
【0042】
上記〔1〕及び〔2〕に記載の金属加工対象物は、上述のとおりである。上記〔1〕及び〔2〕に記載の方法によれば、放電加工における加工速度を向上させ、金属加工対象物の加工面を平滑に形成し得る。
【実施例0043】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、下記の物性値の測定方法及び算出方法は以下に示すとおりである。
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)塩基価(過塩素酸法)
JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「9.電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)」に準拠して測定した。
(3)金属原子(Ca、Na、Zn)の含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(4)引火点
JIS K2265-4に準拠して測定した。
(5)体積抵抗率
JIS C2101に準拠して、油温50℃で250V/mmの電圧を印加し、印加してから1分経過後の電流値から算出した。
【0044】
実施例1~5、比較例1~6
表1及び表2に示す種類の各種成分を、同表に示す配合量にて添加し、混合して、金属加工油組成物をそれぞれ調製した。なお、有機酸金属塩の配合量は、有効成分換算での配合量である。当該金属加工油組成物の調製に使用した各成分の詳細は以下のとおりである。
【0045】
<基油(A)>
・「α-オレフィン(1)」:主成分として炭素数14のα-オレフィン含むα-オレフィン系合成油、40℃動粘度=1.8mm/s。
・「α-オレフィン(2)」:主成分として炭素数10のα-オレフィン含むα-オレフィン系合成油、40℃動粘度=0.87mm/s。
・「α-オレフィン(3)」:主成分として炭素数12のα-オレフィン含むα-オレフィン系合成油、40℃動粘度=1.2mm/s。
・「α-オレフィン(4)」:主成分として炭素数16のα-オレフィン含むα-オレフィン系合成油、40℃動粘度=2.6mm/s。
・「PAO」:ポリα-オレフィン系合成油、40℃動粘度=5.1mm/s。
<有機酸金属塩(B)>
・「Caスルホネート」:塩基価495mgKOH/gのカルシウムスルホネート。
・「Naスルホネート」:塩基価3.85mgKOH/gのナトリウムスルホネート。
・「亜鉛塩」:塩基価0.25mgKOH/gの脂肪酸の亜鉛塩、亜鉛原子の含有量=10.6質量%。
【0046】
調製した金属加工油組成物について、40℃動粘度、有機酸金属塩に由来する金属原子(Ca、Na、Zn)の含有量、引火点、及び体積抵抗率の各性状について測定すると共に、以下の金属加工性の評価試験を行った。当該試験結果を表1~2に示す。
【0047】
(1)加工速度比による金属加工性の評価
調製した金属加工油組成物を用いて、以下の加工条件で鋼に対するワイヤー放電加工を行った際の加工速度を測定した。なお、加工速度は下記式より算出した。
・加工速度(mm/分)=L×T×W/t
(上記式中、Lは加工距離(mm)、Tは被加工材の厚さ(mm)、Wは平均溝幅(mm)、tは加工時間(粉)である。)
<被加工材(ワーク)>
・SKD11(厚さ2.0mm)
<加工条件>
・加工機:MAKINO UPV-3(製品名、株式会社牧野フライス製作所製)
・ワイヤ直径:0.20mm
・ワイヤ材質:真鍮
・最大切断速度:10mm/分
・ワイヤ走行速度:20m/分
また、下記式より、「比較例1の加工速度に対する加工速度比」(以下、「加工速度比」ともいう)を算出した。当該加工速度比の値が大きいほど、金属加工性に優れた金属加工油組成物であるといえる。
・加工速度比=[対象となる金属加工油組成物を用いた場合の加工速度(mm/分)]/[比較例2の金属加工油組成物を用いた場合の加工速度(mm/分)]
【0048】
(2)加工表面粗さRz比による金属加工性の評価
上記(1)で加工速度の測定後の被加工材の切断面の最大高さ粗さRz(以下、「加工表面粗さRz」ともいう)を、JIS B0633:2001に準拠し、接触式表面粗さ測定機Surfcom1400D/G(製品名、株式会社東京精密製)を用いて測定した。
そして、下記式より、「比較例1の加工表面粗さRzに対する加工表面粗さRz比」(以下、「加工表面粗さRz比」ともいう)を算出した。当該加工表面粗さRz比の値が小さいほど、金属加工性に優れた金属加工油組成物であるといえる。
・加工表面粗さRz比=[対象となる金属加工油組成物を用いた場合の加工表面粗さRz(μm)]/[比較例2の金属加工油組成物を用いた場合の加工表面粗さRz(μm)]
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1より、実施例1~5で調製した金属加工油組成物は、有機酸金属塩を含み、40℃動粘度及び体積抵抗率が所定の範囲に調整されているため、比較例1~6の金属加工油組成物に比べて、加工速度比が高く、且つ、加工面粗さRzが低く、金属加工性に優れた結果となった。なお、比較例1において、金属加工油組成物の引火点が低すぎたため、体積抵抗率の測定および金属加工性の評価試験は行わずに終了した。