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特開2024-14574アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びアクチュエータの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014574
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びアクチュエータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117508
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】青山 伝
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF65
2C057AF93
2C057AG07
2C057AG29
2C057AG44
2C057AG55
2C057AG84
2C057AG91
2C057AK07
2C057AN01
2C057AN05
2C057AP32
2C057AP52
2C057AP60
2C057AQ02
2C057AQ03
2C057BA05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧電素子の振動変位の低下を抑制できるアクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びアクチュエータの製造方法を提供する。
【解決手段】液室が形成された基板に積層され、液室の壁面の一部を構成する振動膜103と、振動膜103の液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された圧電素子5と、圧電素子5から引き出され、圧電素子5に電力を供給する引き出し配線9a,9bと、引き出し配線9a,9bを覆う防湿膜11とを有するアクチュエータにおいて、圧電素子5は、防湿膜11に一部のみ覆われている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液室が形成された基板に積層され、前記液室の壁面の一部を構成する振動膜と、
前記振動膜の液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された圧電素子と、
前記圧電素子から引き出され、前記圧電素子に電力を供給する引き出し配線と、
前記引き出し配線を覆う防湿膜とを有するアクチュエータにおいて、
前記圧電素子は、前記防湿膜に一部のみ覆われていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記圧電素子は、前記引き出し配線の周囲および前記引き出し配線との接続箇所の周囲のみ前記防湿膜で覆われていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記圧電素子は、前記振動膜の前記液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された第一電極と、前記第一電極に積層された圧電部と、前記圧電部に積層された第二電極とを有し、
少なくとも前記第二電極については、一部のみ前記防湿膜に覆われていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記振動膜の少なくとも前記圧電素子により振動する振動領域については、前記引き出し配線の周囲のみ前記防湿膜で覆われていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記防湿膜がケイ素(Si)の窒化物、または、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物であることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
アクチュエータを備え、
前記アクチュエータにより液室の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータとして、請求項1に記載のアクチュエータを用いたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータに前記ノズルが設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、及び、主走査移動機構の少なくとも一つと、液体吐出ヘッドとを備えた液体吐出ユニットにおいて、
前記液体吐出ヘッドとして、請求項6に記載の液体吐出ヘッドを用いることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項9】
液体を吐出する装置において、
請求項6に記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項8に記載の液体吐出ユニットを有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項10】
基板に振動膜を積層する工程と、
前記振動膜に圧電素子を形成する工程と、
前記振動膜に前記圧電素子に電力を供給する引き出し配線を形成する工程と、
前記引き出し配線と前記圧電素子の一部とに防湿膜を形成する工程とを有するアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びアクチュエータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液室が形成された基板に積層され、液室の壁面の一部を構成する振動膜と、振動膜の液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された圧電素子と、圧電素子から引き出され、圧電素子に電力を供給する引き出し配線と、引き出し配線を覆う防湿膜とを有するアクチュエータが知られている。
【0003】
特許文献1には、上記アクチュエータを備える液体吐出ヘッドが記載されている。そして、アクチュエータの引き出し配線を覆う絶縁膜の材料を、防湿性を有するSiN(窒化ケイ素)とし、圧電素子たる駆動素子の表面の全体を上記絶縁膜で覆っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電素子の振動変位が低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、液室が形成された基板に積層され、前記液室の壁面の一部を構成する振動膜と、前記振動膜の液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された圧電素子と、前記圧電素子から引き出され、前記圧電素子に電力を供給する引き出し配線と、前記引き出し配線を覆う防湿膜とを有するアクチュエータにおいて、前記圧電素子は、前記防湿膜に一部のみ覆われていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、圧電素子の振動変位の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
図2】同液体吐出ヘッドを模式的に示す斜視図。
図3図1のX部分の拡大断面図。
図4】防湿膜の形成領域の一例を示す図。
図5】防湿膜の形成領域の他の例を示す図。
図6】防湿膜の形成領域のさらに他の例を示す図。
図7】流路基板に駆動回路、配線部および振動膜を形成する工程について説明する図。
図8】振動膜の上に第一電極層、圧電層、および第二電極層を成膜する工程について説明する図。
図9】絶縁膜を成膜する工程について説明する図。
図10】複数のコンタクトを形成する工程について説明する図。
図11】引き出し配線を形成する工程について説明する図。
図12】防湿層を形成する工程について説明する図。
図13】各引き出し配線と圧電素子の一部に防湿膜を形成する工程について説明する図。
図14】ノズル形成部を成膜する工程について説明する図。
図15】ノズルとパッド開口を形成する工程について説明する図。
図16】加圧液室を形成する工程について説明する図。
図17】液体吐出ヘッドの側面に電気接続パッドを設けた一例を示す図。
図18】液体吐出ヘッドの変形例を示す図。
図19】変形例の液体吐出ヘッドの側面に電気接続パッドを設けた一例を示す図。
図20】本実施形態における液体を吐出する装置としてのインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図。
図21】本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
図22】本例の印刷装置の要部平面説明図。
図23】本例の印刷装置の要部側面説明図。
図24】本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図。
図25】本例の液体吐出ユニットの正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズルを有するアクチュエータ部により加圧液室の圧力を変動させることにより加圧液室内の液体をノズルから吐出するノズル振動方式の液体吐出ヘッドである。ノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(加圧液室のノズルを有する面に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、アクチュエータの省電力化を図ることができる。
【0010】
ノズル密度を高くすると電圧印加のための配線をレイアウトするスペースが限られ、基板表面での配線構築が困難となる。基板内に配線や駆動回路を構築することで、ノズル密度が高い構成でも、配線をレイアウトすることができる。一般的に圧電素子の材料としてはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が、その圧電特性の高さから広く利用されているが、PZTの成膜・結晶化温度は600℃以上を要する。圧電素子の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路とその配線が高温に耐えられないため、圧電材料として、PZTよりも成膜温度が低い圧電材料が求められる。その場合、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択することを余儀なくされる。しかし、上述したようにノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(加圧液室のノズルに連通する連通口を有する面に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があるため、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択しても良好に液滴を飛ばすことができる。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーは小さい圧電材料でも良好に液滴を飛ばすことができる。これにより、基板内に配線や駆動回路を構築することができ、高密度化が可能となる。
さらに、ノズル振動方式は、加圧液室の容積を小さくできることから、ヘッドの小型化も可能となる。
【0011】
図1は、本実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図であり、図2は、液体吐出ヘッドを模式的に示す斜視図である。
液体吐出ヘッド1は、アクチュエータ110と、流路基板100と、フレーム部材120とを有している。
【0012】
アクチュエータ110は、薄膜状であり、振動膜103と、液体を吐出する複数のノズル2と、ノズル2の周囲に配置された環状の圧電素子5とを有している。流路基板100は、複数のノズル2に各々連通する複数の加圧液室(個別液室ともいう)4を有している。フレーム部材120は、複数の加圧液室4に通じる共通液室3を有している。
【0013】
液体吐出ヘッド1の両端には、外部の電源等の電気部品と接続するための電気接続パッド6が設けられている。
【0014】
図3は、図1のX部分の拡大断面図である。
流路基板100は、SOI(Silicon on Insulator)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、第一電極51にバイアスを印加するための配線部と、第二電極53にバイアスを印加するための配線部と有している。また、配線部102は、振動膜103に開けられた第三コンタクト7cを介して電気接続パッド6に電気的に接続されている。
【0015】
アクチュエータ110は、複数のノズル2が形成され、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有している。このノズル形成部111のノズル面に撥水膜を設けてもよい。ノズル面に撥液膜を形成することで、ノズル面への液体の付着を抑制することができ、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けるのを抑制することができる。液体の溶剤が水性の場合は、撥液膜の材料として、パーフルオロデシルトリクロロシランやパーフルオロオクチルトリクロロシランを用いることができる。
【0016】
アクチュエータ110の圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう)と、圧電膜52と、第二電極53(上部電極ともいう)とを有している。圧電素子5は絶縁膜8に覆われている。
【0017】
絶縁膜8は、第一電極51に電気的に接続するための孔状の第四コンタクト7dと、第二電極53に電気的に接続するための孔状の第五コンタクト7eとが形成されている。この絶縁膜8には、圧電素子の第一電極と流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引き出し配線9aと、圧電素子の第二電極53と流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第二引き出し配線9bとが形成されている。
【0018】
第一引き出し配線9aは、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電極的に接続され、第一コンタクト7aを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引き出し配線9bは、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電極的に接続され、第二コンタクト7bを介して配線部102に電極的に接続されている。
【0019】
第一引き出し配線9aおよび第二引き出し配線9bは、防湿膜11に覆われている。これにより、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が第一引き出し配線9aおよび第二引き出し配線9bへ侵入するのを防止して各引き出し配線の腐食を抑制することができる。
【0020】
また、防湿膜11としては、電気絶縁性を有するのが好ましい。防湿膜11として、絶縁性と防湿性の2つの機能を有することで、防湿膜11の下に絶縁膜を形成する場合に比べて、アクチュエータ110を薄くすることができる。これにより、振動膜103が変形しやすくなり、振動効率を高めることができる。
【0021】
防湿膜11としては、半導体の防湿膜として広く用いられているSiN(窒化ケイ素)を用いることで、防湿膜11として、絶縁性と防湿性の2つの機能を有することができ、好ましい。また、防湿膜11の材質としては、他にもALDにて緻密な膜を形成しやすいAl(アルミ)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、W(タングステン)の酸化物を用いることができる。
【0022】
図4は、防湿膜11の形成領域の一例を示す図である。
図4に示すように、防湿膜11は、第一引き出し配線9a、第二引き出し配線9b、第四コンタクト7d、第五コンタクト7eと、これらの周囲とを覆っている。そのため、圧電素子5は、第一引き出し配線9aの圧電素子5に重なっている部分の周囲、第二引き出し配線9bの圧電素子に重なっている部分の周囲、第四コンタクト7dの周囲および第五コンタクト7eの周囲にのみ防湿膜11に覆われている。つまり、電気的な回路部分を防湿膜11で覆う構成としている。
【0023】
防湿膜11は、基本的に緻密で硬い膜であることから、圧電素子全体が防湿膜11で覆われてしまうと、圧電素子5の剛性が高まり振動変位の低下が発生する。特に、本実施形態では、上述したように非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーは小さい圧電材料を用いているため、防湿膜11による振動変位の低下の影響が大きい。
【0024】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、圧電素子5の一部分のみ防湿膜11で覆われる構成とした。具体的には、圧電素子5の第一引き出し配線9a、第二引き出し配線9b、第四コンタクト7d、第五コンタクト7eの周囲のみ防湿膜11で覆われる構成とした。これにより、圧電素子全体が防湿膜11で覆われる場合に比べて、圧電素子5の振動変位の低下を抑制でき、良好に振動膜103を振動させることができる。
【0025】
なお、後述するように、圧電素子5の第一電極、第二電極は、イリジウム(Ir)やモリブデン(Mo)などの耐腐食性の高い金属で構成される。そのため、圧電素子の第一電極や第二電極がノズル形成部111に侵入した湿気により腐食することはほぼない。
【0026】
図5は、防湿膜11の形成領域の他の例を示す図である。
図5に示す例では、圧電素子の第一電極51の圧電膜52が積層されていない部分、圧電膜52の第二電極53が積層されていない部分および、第二電極53の第五コンタクト7eの周囲と縁部とを防湿膜11で覆っている。つまりノズルを中心にした圧電素子の備わる領域のうち第四コンタクト7dと第五コンタクト7eとの間の領域を環状に防湿膜11で覆う。
圧電素子5の第一電極51の圧電膜52が積層されていない部分、圧電膜52の第二電極53が積層されていない部分は、駆動時にほとんど変位しない部分である。そのため、図5に示すように、圧電素子5の第一電極51の圧電膜52が積層されていない部分、圧電膜52の第二電極53が積層されていない部分が防湿膜11に覆われて、これらの部分の剛性が高まっても、圧電素子5の振動変位の低下がほとんどない。よって、図5に示すように、第二電極53のみ防湿膜11で覆われる部分を一部とすることでも、圧電素子5の振動変位の低下を抑制でき、良好に振動膜103を振動させることができる。
【0027】
なお、図5では、防湿膜11は、第四コンタクト7dから第二電極53の縁部まで環状に覆い、第二電極53の縁部よりもノズル側(内側)に位置する第五コンタクト7eを覆う部分がノズル側に突出するような形状となっている。そのため、圧電素子の振動に対し負荷が均等にならないおそれがある。よって、圧電素子5の第四コンタクト7dから第五コンタクト7eまでの間を防湿膜11で環状に覆うようにし、圧電素子を覆う防湿膜11にノズル側に突出するような形状部分を設けないようにしてもよい。これにより、圧電素子5がノズル2を中心に均等に防湿膜11で覆われ、防湿膜11による振動に対する負荷を均等にできる。
【0028】
図6は、防湿膜11の形成領域のさらに他の例を示す図である。
図6に示す例では、振動膜103の振動領域103a以外を、防湿膜11で覆った例である。なお、振動膜103の振動領域103aは、振動膜103の加圧液室4の底面を構成する部分である。なお、上記振動領域103aは、この振動領域を横切る第一引き出し配線9aおよび第二引き出し配線9bの周囲のみ防湿膜11で覆われている。このように、振動膜103の振動領域103aは、一部(第一引き出し配線9aおよび第二引き出し配線9bの周囲)のみ、防湿膜11で覆われる構成とすることで、振動領域103aの全体が防湿膜11で覆われる構成に比べて、振動領域103aのヤング率を下げることができる。これにより、振動領域103aを圧電素子5の変位で容易に振動させることができ、振動領域103aの全体が防湿膜11で覆われる構成に比べて、振動効率を高めることができる。
【0029】
なお、この図6に示す構成においても、防湿膜11による振動に対する負荷を均等にするため、圧電素子5の第四コンタクト7dから第五コンタクト7eまでの間の領域を防湿膜11で環状に覆うようにしてもよい。
【0030】
なお、第一電極51、第二電極53にそれぞれ、引き出し配線部を設けて、振動膜に開けられたコンタクトを介して配線部102に直接、電極的に接続してもよい。
また、防湿膜11上にノズル形成部111との密着性を確保するための密着改善膜を形成してもよい。
【0031】
また、液体により、加圧液室4およびノズル2の内周面が浸食される場合は、加圧液室4およびノズル2の内周面に耐液性の保護膜を設けてもよい。保護膜としては、不動体を形成する金属酸化物が挙げられる。金属酸化物の金属としては、酸化数への対応性が高いタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hr)、タングステン(W)などが挙げられる。特にSiOと似た価数を持つZrやHr、あるいはその前後の価数を持つTaなどが特に望ましい。
【0032】
また、保護膜が、親液性を有するのが好ましい。保護膜が親液性を有することで、液体の充填時に液体が、加圧液室4およびノズル2の内周面に濡れ広がやすくなる。その結果、液体の充填性を向上できる。液体の溶剤が水性の場合は、金属酸化物に二酸化ケイ素(SiO)を分子レベルで混ぜたものを用いることができる。保護膜の表面のSiOのOが置換され親水性を有するOH基を持つことで、保護膜に親水性を付与することができる。
【0033】
液体吐出ヘッド内に満たされた液体は、ノズル2に入り込み、ノズル内でメニスカスを形成している。圧電素子5の各電極に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が図3中上下方向に振動する。振動膜103が振動することで加圧液室室内の液体に圧力変化が発生し、ノズル2から液体が吐出される。
【0034】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。
図7図16は、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程を説明するためのノズル2の並び方向に対して直交する断面を示す断面図である。
【0035】
まず、図7に示すように、SOI(Silicon on Insulator)基板としての流路基板100のシリコン膜にトランジスタや抵抗などを含んだ駆動回路101および配線部102を形成する。上記駆動回路101を流路基板100に内蔵しない場合は、流路基板100として、SI基板を用いてもよい。
【0036】
次に、流路基板100の駆動回路101および配線部102が形成された面に振動膜103を成膜する。振動膜103の材質としては、SiOやSiN、金属酸化物や樹脂など少なくとも絶縁性を持つ材質であれば良い。しかし、変位を大きくするためにはヤング率が低い材料が望ましく、かつ流路基板100との線膨張係数の差を考えるとその差が比較的小さいSiO(二酸化ケイ素)が、振動膜103の材質として最も望ましい。
【0037】
次に、図8に示すように、振動膜103の上に第一電極層151、圧電層152、および第二電極層153を成膜する。第一電極層151と第二電極層153は電気抵抗が小さく反応性の低い金属が望ましく、Ir、Moなどの金属が望ましい。
【0038】
圧電層152を構成する圧電材料としては、本実施形態のように、密度向上のために流路基板100に駆動回路101と配線部102を内蔵する場合は、それらを破壊しないために、その成膜温度が450℃以下である圧電材料が望ましい。成膜温度が450℃以下である圧電材料としては、AlNが挙げられる。
【0039】
また、圧電材料としてAlNを用いることで、次の利点も得ることができる。すなわち、圧電膜52の結晶配向を揃えることで圧電特性を向上することができるが、その配向制御のために振動膜103と第一電極51の間に配向制御層を設ける必要がある。圧電膜52の圧電材料がAlNのときは、配向制御層としてもAlNを用いることで、Moからなる第一電極51の格子定数をAlNに近づけることができる。その結果、圧電膜52の結晶配向が揃い、圧電特性の向上が可能となる。
【0040】
第一電極層151と第二電極層153の成膜は、スパッタリング法を用いることが一般的である。圧電層152の成膜についてはスパッタリング法やゾルゲル法などが挙げられるが、後者は成膜温度が高温となるため、駆動回路101と配線部102を有する流路基板100への成膜には適していない。そのため、圧電層152もスパッタリング法を用いて成膜するのが望ましい。
【0041】
第一電極層151、圧電層152および第二電極層153を成膜したら、図9に示すように、それらを適した形状に成形して第一電極51と圧電膜52と第二電極53とからなる圧電素子5を得る。第一電極層151、圧電層152および第二電極層153をフォトリソグラフィとエッチングにより加工することで容易に所望の形状の第一電極51,圧電膜52および第二電極53を得ることができる。エッチングにはウェットエッチングとドライエッチングがあるが、後者は電極51,53と圧電膜52の腐蝕を抑えることができため、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングの後はその加工による残渣が残りやすいことから、残渣除去のため成形後に洗浄工程を入れてもよい。
【0042】
第一電極51、圧電膜52、第二電極53の成形後、図9に示すように絶縁膜8を成膜およびエッチングにより形成する。絶縁膜8は、振動膜103と同様に絶縁性を持ち、ヤング率が小さく、線膨張係数が構成材料に近いものが望ましいことから、振動膜103と同一のSiO2を用いるのが好ましい。
【0043】
絶縁膜8を形成したら、図10に示すように、フォトリソグラフィとエッチングにより振動膜103と絶縁膜8に孔形状の第一~第五コンタクト7a~7eを形成する。また、振動膜103には、第一~第三コンタクト7a~7cを形成するとともに、ノズル2を形成するためのノズル形成穴103bも成形する。第一~第三コンタクト7a~7cと同時にノズル形成穴103bの加工を行っておくことで、その後の加工を容易に行うことができ好ましい。
【0044】
次に、図11に示すように、第一引き出し配線9a、第二引き出し配線9bおよび、電気接続パッド6を形成する。各引き出し配線9a,9bと電気接続パッド6の材料はAlやAlCu合金が一般的である。この工程により、第一引き出し配線9aが、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電気的に接続し、第一コンタクト7aを介して配線部102に電気的に接続する。また、第二引き出し配線9bが、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電気的に接続し、第二コンタクト7bを介して配線部102に電気的に接続する。さらに、電気接続パッド6が、第三コンタクト7cを介して電気的に接続する。
【0045】
次に、図12に示すように、防湿膜11を成膜した後、フォトリソグラフィとエッチングにより加工し、図13に示すように、第一引き出し配線9a、第二引き出し配線9b、第四コンタクト7dおよび第五コンタクト7eを覆う防湿膜11を成形する。
以上の工程で、圧電素子5を駆動することが可能となる。
【0046】
次に、図14に示すように、ノズル形成のためのノズル形成部111を成膜する。ノズル形成部111は、スピンコートで成膜する。ノズル形成部111の材料としては、スピンコートで塗れる樹脂を用いることが望ましく、耐薬品性の観点から、SU8やBCBなどが望ましい。次に、図15に示すように、ノズル2とパッド開口10をエッチングにより形成する。ノズル2とパッド開口10のエッチングはドライエッチングである。
【0047】
次に、図16に示すように、Siエッチングにて流路基板100を加工して、丸穴状の複数の加圧液室4を形成する。加圧液室4は、吐出効率やクロストークの低減等のために、断面のアスペクト比を高く(液室の直径に対して、液室の深さを深く)する必要がある。そのため、本実施形態では、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)により加圧液室4を形成している。このDRIEでは、エッチングガスとして、CF4やC4F8などのCF系ガス、SF6などのSF系ガスを用いる。
【0048】
その後は、流路基板100の裏面に共通液室3が形成されたフレーム部材120を接合するなどして、液体吐出ヘッド1が形成される。
【0049】
ノズル振動方式の液体吐出ヘッドは、ノズルを有するアクチュエータ110と、流路基板100との位置精度が大きく吐出特性に影響するため、製造時に高い寸法精度が必要となる。そのため、ノズルを有するアクチュエータ110を、加圧液室4を有する流路基板100に接合することで、液体吐出ヘッドを形成する場合では、高精度接合の工程が必要となる。これに対し、本実施形態では、流路基板100にアクチュエータ110を構成する材料を順次成膜して、所定の加工を施すことで、流路基板100に直接、アクチュエータ110を形成している。これにより、高精度接合工程が不要となり、容易に液体吐出ヘッドを形成することができる。
【0050】
なお、図17に示すように、流路基板100の配線部102を液体吐出ヘッド1の側面の端部まで延設し、この配線部102の端部に外部の電源等の電気部品と接続するための電気接続パッド6を電気的に接続する構成としてもよい。また、図18図19に示すように、流路基板100に配線部102や駆動回路101がない構成でもよい。図18は、第一引き出し配線9aと第二引き出し配線9bの一端を外部に露出し、電気接続パッド6を形成した例である。また、図19は、引き出し配線を液体吐出ヘッド1の側面の端部まで延設し、この引き出し配線の端部に電気接続パッド6を電気的に接続した例である。
【0051】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、図20及び図21を参照して説明する。
図20は、本実施形態における液体を吐出する装置としてのインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図21は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0052】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503とを備えている。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509なども備えている。
【0053】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0054】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0055】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0056】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、図22及び図23を参照して説明する。
図22は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図23は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0057】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0058】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0059】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0060】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0061】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0062】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、図24を参照して説明する。
図24は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0063】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0064】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0065】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、図25を参照して説明する。
図25は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0066】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0067】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0068】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0069】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0070】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0071】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0072】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0073】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0074】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0075】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0076】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0077】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0078】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0079】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0080】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0081】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0082】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0083】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0084】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0085】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0086】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がる。また、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などもある。
【0087】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0088】
また、上述では、本発明のアクチュエータを液体吐出ヘッドに適用した例について、説明したが、本発明のアクチュエータは、例えば、特開2012-253087号公報や、特開2014-030008号公報に記載のマイクロポンプにも適用可能である。
【0089】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
加圧液室4などの液室が形成された流路基板100などの基板に積層され、液室の壁面の一部を構成する振動膜103と、振動膜103の液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された圧電素子5と、圧電素子5から引き出され、圧電素子5に電力を供給する引き出し配線9a,9bと、引き出し配線9a,9bを覆う防湿膜11とを有するアクチュエータ110において、圧電素子5は、防湿膜11に一部のみ覆われている。
一般的に、窒化ケイ素等の材料で形成される防湿膜は、緻密で硬い膜であることから、防湿膜で圧電素子の表面全体を覆うと、圧電素子の振動変位の低下が発生するおそれがある。
これに対し、態様1では、防湿膜は、引き出し配線と、圧電素子の一部のみとを覆うようにしたので、圧電素子の全体を防湿膜で覆う場合に比べて、圧電素子の振動変位の低下を抑制することができる。
【0090】
(態様2)
態様1において、圧電素子5は、引き出し配線9a,9bの周囲およびコンタクト7d,7eなどの引き出し配線9a,9bとの接続箇所の周囲のみ防湿膜11で覆われている。
これによれば、図4を用いて説明したように、防湿膜11に覆われる圧電素子5の部分を必要最小限に留めることができ、防湿膜11による圧電素子5の振動変位の低下を抑制することができる。
【0091】
(態様3)
態様1において、圧電素子5は、振動膜103の加圧液室などの液室の壁面を構成する側とは反対側の面に積層された第一電極51と、第一電極51に積層された圧電膜52などの圧電部と、圧電部に積層された第二電極53とを有し、少なくとも第二電極53については、一部のみ防湿膜11に覆われている。
これによれば、図5を用いて説明したように、圧電素子5の第一電極51の圧電膜52など圧電部が積層されていない部分、圧電部の第二電極53が積層されていない部分は、駆動時にほとんど変位しない部分である。従って、第二電極53のみ防湿膜11で覆われる部分を一部とすることでも、圧電素子5の振動変位の低下を抑制でき、良好に振動膜103を振動させることができる。
【0092】
(態様4)
態様1乃至3いずれかにおいて、振動膜103の少なくとも圧電素子5により振動する振動領域103aについては、引き出し配線9a,9bの周囲のみ防湿膜11で覆われている。
これによれば、図6を用いて説明したように、振動領域103aの全体が防湿膜11で覆われる構成に比べて、振動領域103aのヤング率を下げることができる。これにより、振動領域103aを圧電素子5の変位で容易に振動させることができ、振動領域103aの全体が防湿膜11で覆われる構成に比べて、振動効率を高めることができる。
【0093】
(態様5)
態様1乃至4いずれかにおいて、防湿膜11がケイ素(Si)の窒化物、または、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)のいずれかの金属の酸化物である。
これによれば、良好な防湿性を得ることができる。
【0094】
(態様6)
アクチュエータ110を備え、アクチュエータ110により加圧液室4などの液室の液体をノズル2から吐出する液体吐出ヘッドにおいて、アクチュエータ110として、態様1乃至5いずれかのアクチュエータを用いた。
これによれば、良好にノズル2から液体を吐出することができる。
【0095】
(態様7)
態様6において、アクチュエータ110にノズルが設けられている。
これによれば、実施形態で説明したように、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(液室のノズルを有する面に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べ小さい力で液滴が飛ばせることができ、圧電素子5の省電力化を図ることができる。また、液室面積を小さくでき、ヘッドの小型化も可能となる。また、上記一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ、圧電素子5の選択を増やすことができ、ノズルの高密度化を容易に実現することが可能となる。
【0096】
(態様8)
ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、及び、主走査移動機構の少なくとも一つと、液体吐出ヘッドとを備えた液体吐出ユニットにおいて、液体吐出ヘッドとして、態様6または7いずれかの液体吐出ヘッドを用いる。
これによれば、良好にノズル2から液体を吐出することができる。
【0097】
(態様9)
液体を吐出する装置において、態様6または7の液体吐出ヘッド、又は、態様8の液体吐出ユニットを有する。
これによれば、良好にノズル2から液体を吐出することができる。
【0098】
(態様10)
アクチュエータの製造方法において、流路基板100に振動膜103を積層する工程と、振動膜103に圧電素子5を形成する工程と、振動膜103に圧電素子5に電力を供給する引き出し配線9a,9bを形成する工程と、引き出し配線9a,9bと圧電素子5の一部とに防湿膜11を形成する工程とを有する。
これによれば、圧電素子5の全体を防湿膜11で覆う場合に比べて、圧電素子5の振動変位の低下が抑制されたアクチュエータを製造することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 :液体吐出ヘッド
2 :ノズル
3 :共通液室
4 :加圧液室
5 :圧電素子
6 :電気接続パッド
7a :第一コンタクト
7b :第二コンタクト
7c :第三コンタクト
7d :第四コンタクト
7e :第五コンタクト
8 :絶縁膜
9a :第一引き出し配線
9b :第二引き出し配線
10 :パッド開口
11 :防湿膜
51 :第一電極
52 :圧電膜
53 :第二電極
100 :流路基板
101 :駆動回路
102 :配線部
103 :振動膜
103a :振動領域
103b :ノズル形成穴
110 :アクチュエータ
111 :ノズル形成部
120 :フレーム部材
403 :キャリッジ
405 :主走査モータ
406 :駆動プーリ
407 :従動プーリ
408 :タイミングベルト
440 :液体吐出ユニット
441 :ヘッドタンク
493 :主走査移動機構
500 :印刷装置
505 :印刷手段
550 :ヘッドユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0100】
【特許文献1】特許第6310824号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25