(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145755
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】澱粉性食品用酸臭マスキング剤とその製造方法および澱粉性食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241004BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20241004BHJP
A21D 2/08 20060101ALI20241004BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241004BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20241004BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20241004BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20241004BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L7/10 A
A21D2/08
A23L7/109 A
A23D9/00 504
A23D7/005
A21D13/80
A23L5/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058240
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】市田 日和
(72)【発明者】
【氏名】矢内 千春
【テーマコード(参考)】
4B023
4B026
4B032
4B035
4B046
4B047
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】pH調整剤を添加して保存性を向上させる米飯類、麺類、ベーカリー製品、フライ食品の衣等の澱粉性食品において、pH調整剤に含まれる酸臭をマスキングできる剤を提供する。
【解決手段】本発明の澱粉性食品の酸臭マスキング剤は、海藻類、キノコ類、または魚介類から選ばれる1種以上を、食用油脂に浸漬することで得られる、食用油脂中にそれらの油溶性成分が抽出された食用油脂組成物からなる。これをそのまま、あるいは食用油脂で希釈等して澱粉性食品の製造時に使用することにより、酸臭がマスキングされたpH調整剤を添加して保存性を向上させた澱粉性食品を製造できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻類、キノコ類、または魚介類の油溶性成分のうち1種以上を含む食用油脂を含有する、澱粉性食品のための酸臭マスキング剤。
【請求項2】
前記食用油脂がキャノーラ油、ヒマワリ油、米油、コーン油から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の酸臭マスキング剤。
【請求項3】
前記海藻類が褐藻類であり、前記キノコ類がシイタケ若しくはエノキタケであり、または前記魚介類が魚節若しくは煮干しである、請求項1に記載の酸臭マスキング剤。
【請求項4】
食用油脂100質量部に対して、海藻類、キノコ類、および魚介類から選ばれる1種以上を、乾燥質量換算で0.1~70質量部浸漬する工程を含む、澱粉性食品のための酸臭マスキング剤の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬する工程が、40~200℃で1分以上である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を含む、澱粉性食品用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を含む、pH調整剤を添加して保存性を向上させた澱粉性食品。
【請求項8】
前記澱粉性食品が米飯類、麺類、またはベーカリー製品のいずれかである、請求項7に記載の澱粉性食品。
【請求項9】
pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品に、調理前または後に、請求項1ないし3のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を添加する、pH調整剤由来の酸臭をマスキングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品において、pH調整剤に含まれる酸の酸臭をマスキングするための剤およびその製造方法と、酸臭がマスキングされた澱粉性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売されるおにぎりなどの米飯類や、うどん、そば、パスタ、ラーメンなどの麺類やベーカリー製品に代表される澱粉性食品には、消費期限を延長し、保存、販売時における菌の増殖を抑えて保存性を確保するために、醸造酢等の酸を含むpH調整剤を添加することが広く行われている。
醸造酢に含まれる酢酸は、大腸菌などの他にも、食品中のサルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌などの食中毒菌の増殖を抑制する効果を有することが知られており、この菌増殖抑制効果は酢酸の濃度に依存する。
【0003】
酢酸は、防腐力は高いものの揮発酸であるため、炊飯米や麺類に独特の刺激臭である酸臭や酸味を付与することがあり、この酸臭や酸味をマスキングするための研究開発がなされている。たとえば、酸を添加して炊飯する際に焙煎油を生米に少量添加して、酸味または酸臭をマスキングする(特許文献1)、米に香り米または香り米抽出物を添加して米飯酢臭をマスキングする(特許文献2)、または、発酵乳酸及びグルコン酸を含有させてpHを3.0~5.5に調整した低pH茹で麺に、カテキン含有液状油をまぶしてカテキン類を0.03~1000ppm含有させて、酸味・酸臭をマスキングする(特許文献3)技術が報告されている。
【0004】
一方、業務用のような大きなスケールで炊飯する米飯の製造においては、炊飯後の米飯の釜はがれを向上させ、ほぐれ性を改良することを目的として、炊飯油と称される食用油脂を、炊飯前の生米と水が入った炊飯釜に添加して炊飯することが行われている。また、麺類の製造においても、麺類の調理器具への付着抑制や攪拌時の混ぜやすさの向上を目的として、麺生地に油を練り込むことや茹でた麺類に食用油脂を添加することが行われているが、いずれも、食用油脂特有の風味が付与されることがあるという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-55750号公報
【特許文献2】特開2005-333915号公報
【特許文献3】特開2007-20525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品において、炊飯油、練り込み油、ほぐし油等としてだけでなく、pH調整剤に含まれる酸の臭いのマスキング剤としても機能する食用油脂組成物を含む、酸臭マスキング剤とその製造方法を提供すること、および酸臭がマスキングされた、pH調整剤を添加して保存性を向上させた澱粉性食品を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、出汁の素材である海藻類、キノコ類、または魚介類から選ばれる1種以上を、食用油脂に浸漬することで得られ、食用油脂中にそれらの油溶性成分が抽出された食用油脂組成物である風味オイルが、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品の酸臭をマスキングすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、下記(1)~(3)の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤に関する。
(1)海藻類、キノコ類、または魚介類の油溶性成分のうち1種以上を含む食用油脂を含有する、澱粉性食品のための酸臭マスキング剤。
(2)前記食用油脂がキャノーラ油、ヒマワリ油、米油、コーン油から選ばれる1種以上である、上記(1)に記載の酸臭マスキング剤。
(3)前記海藻類が褐藻類であり、前記キノコ類がシイタケ若しくはエノキタケ、または前記魚介類が魚節若しくは煮干しである、上記(1)に記載の酸臭マスキング剤。
【0009】
また、本発明は、以下(4)、(5)の酸臭マスキング剤の製造方法、または(6)の澱粉性食品用油脂組成物に関する。
(4)食用油脂100質量部に対して、海藻類、キノコ類、および魚介類から選ばれる1種以上を、乾燥質量換算で0.1~70質量部浸漬する工程を含む、澱粉性食品のための酸臭マスキング剤の製造方法。
(5)前記浸漬する工程が、40~200℃で1分以上である、上記(4)に記載の製造方法。
(6)請求項1ないし3のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を含む、澱粉性食品用油脂組成物。
【0010】
さらに、本発明は、以下(7)、(8)の澱粉性食品、または(9)の酸臭をマスキングする方法に関する。
(7)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を含む、pH調整剤を添加して保存性を向上させた澱粉性食品。
(8)前記澱粉性食品が米飯類、麺類、またはベーカリー製品のいずれかである、上記(7)に記載の澱粉性食品。
(9)pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品に、調理前または後に、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤を添加する、pH調整剤由来の酸臭をマスキングする方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸臭マスキング剤を、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品に用いることにより、pH調整剤に含まれる酸からの酸臭をマスキングすることができるので、風味の良い澱粉性食品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においてマスキングするとは、澱粉性食品の喫食前や喫食中に感じる酢酸等の酸臭を、軽減するか消失することを意味する。酸の臭い成分自体を減少させるか消失させることは、必ずしも意味しない。
【0013】
本発明の澱粉性食品のための酸臭マスキング剤は、海藻類、キノコ類、または魚介類の油溶性成分のうち1種以上を含有する食用油脂を含む食用油脂組成物(風味オイル)からなる。
海藻類、キノコ類、または魚介類は出汁を得る素材であり、食用油脂にこれら海藻類、キノコ類、または魚介類を浸漬して加熱することにより、それらの油溶性成分が抽出されて風味や香りのついた風味油が得られる。本発明は、これらを炊飯油や練り込み油、ほぐし油等としても使用して、澱粉性食品の酸臭をマスキングできるものである。
【0014】
本発明の酸臭マスキング剤に用いられる食用油脂としては特に限定されず、例えば、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、キャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、小麦胚芽油、オリーブ油、落花生油、カボック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別、エステル交換等の処理を施した加工油脂等、合成油等が挙げられる。また、食用油脂は、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物から抽出したものであってもよく、例えば、キャノーラ油、ヒマワリ油、サフラワー油、大豆油等では、オレイン酸含量を高めたハイオレイックタイプの品種から得られた油脂を使用することができる。作業性の点から、25℃において液状の油脂であることが好ましい。例えば、大豆油、キャノーラ油、コーン油、綿実油、パームオレイン、米油、ヒマワリ油が好ましく、特にキャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、米油、コーン油、ハイオレイックヒマワリ油の酸臭マスキング効果が高い。
【0015】
食用油脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の食用油脂に用いられる添加剤が含まれていても良い。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、アスコルビン酸脂肪酸エステル、レシチン、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、シリコーン、トコフェロール等が挙げられる。
【0016】
本発明の酸臭マスキング剤は、出汁を得る素材である海藻類、キノコ類、または魚介類由来の油溶性成分が含有されている食用油脂を含む食用油脂組成物である。
海藻類は、出汁を得る素材であれば特に限定されないが、例えば、昆布、わかめ、ひじき、もずく等の褐藻類、アオノリ、アオサ、カサノリ等の緑藻類、テングサ、アサクサノリ、フノリ、オゴノリ等の紅藻類等が挙げられ、褐藻類を使用すると、マスキング効果がより高く、好ましい。中でも、昆布、わかめを使用すると、得られる風味オイル自体には海藻類の香りがするが、澱粉性食品にはその香りがつかないという利点があるため、炊き込みご飯や混ぜ込みご飯等の味付けをする食品に使用できるのはもちろん、味付けをしない、または味付けが薄いご飯や麺等の食品にも好適に使用でき、より好ましい。
昆布の種類は限定されずに一般に入手可能なものであればよく、例えば、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布、長昆布、厚葉昆布、細布昆布、ガゴメ昆布等が挙げられる。
【0017】
キノコ類としては、例えば、シイタケ、シメジ、マツタケ、マイタケ、マッシュルームおよびエノキタケ等を使用することができ、シイタケ、エノキタケが好ましい。キノコ類を用いると酸臭マスキング効果は得られるものの、米飯にキノコの風味がつきやすいので、キノコを使用するような炊き込みご飯や混ぜ込みご飯が好ましい。
魚介類としては、例えば、魚節、煮干し、干し貝柱等を使用することができ、魚節、煮干しが好ましい。魚節は、鮮魚または冷凍魚の解凍品の煮熟工程後に、焙乾工程とあん蒸工程を繰り返し、節としたものであり、例えば、鰹節、宗田鰹節、鯖節、鰯節、鯵節、鮪節等が挙げられる。煮干しは、鮮魚または冷凍魚の解凍品を煮てから乾燥させたものであり、鰯、鯵、あごの煮干し等が挙げられる。中でも鰹、鰯が好ましく、高い酸臭マスキング効果が得られるが、米飯に鰹や鰯の風味がつきやすいことから、炊き込みご飯や混ぜ込みご飯等に使用するのが好ましい。
食用油脂に浸漬する海藻類、キノコ類、または魚介類は、水で出汁をとったあとの残渣(だしがら)でもよい。だしがらを原料とすることで、廃棄処分されることもあるだしがらを有効活用することができる。また、だしがらを使用することで、澱粉性食品にその香りがつきにくくなるため、好ましい。
【0018】
食用油脂に浸漬する海藻類、キノコ類、または魚介類には、乾燥物を用いるとよい。乾燥物とは、加熱や減圧等の処理により水分含量を20質量%以下にした物をいい、風味が凝縮されているため、食用油脂により強い風味が付与される。
乾燥方法は限定されず、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥法、ドラム乾燥、低温乾燥、凍結乾燥、加圧乾燥、粉末化スプレー乾燥などが挙げられる。
また、食用油脂に浸漬する海藻類、キノコ類、または魚介類は、破砕物や粉砕物を用いてもよい。破砕や粉砕することにより表面積が増え、風味が出やすくなる。細断、破砕、または粉砕した後に乾燥したり、乾燥した後に細断、破砕、または粉砕したりしてもよい。
【0019】
海藻類、キノコ類、または魚介類を食用油脂に浸漬する工程は、公知の方法で行うことができる。海藻類、キノコ類、または魚介類の量や大きさ、または種類、食用油脂の量または種類などに応じて、浸漬時間、浸漬温度、撹拌の有無などの条件を適宜決めることができる。浸漬は静置して行ってもよく、適宜撹拌して行ってもよい。
海藻類、キノコ類、または魚介類の量は、食用油脂100質量部に対して、海藻類、キノコ類、および魚介類から選ばれる1種以上を0.1~70質量部(乾燥質量換算)が好ましく、1~60質量部(乾燥質量換算)がより好ましく、3~50質量部(乾燥質量換算)がさらに好ましく、5~40質量部がよりさらに好ましい。所定の量を用いることで、酸臭マスキング効果を充分に付与できる。海藻類、キノコ類、または魚介類の量や大きさ、種類によって、食用油脂に対する好適な量は異なるが、一般に食用油脂に抽出される油溶性成分の風味は、海藻類、キノコ類、または魚介類の量に比例し、粉末化するとより強くなる。
【0020】
浸漬温度は、海藻類、キノコ類、または魚介類中の成分が十分に油中に移行する温度であればよく、例えば40~200℃であり、60~180℃が好ましく、80~170℃がより好ましく、100~150℃がさらに好ましい。抽出温度が低すぎると酸臭マスキング効果が得られにくく、高すぎると別の風味がつくことがある。
浸漬時間は、海藻類、キノコ類、または魚介類中の成分が油中に十分に移行する時間であればよく、温度にも依存する。例えば10秒~2週間であり、好ましくは20秒~24時間であり、より好ましくは40秒~12時間であり、さらに好ましくは1分~6時間であり、2分~4時間、3分~2時間とすることもできる。
【0021】
浸漬抽出処理した後、ろ過、遠心分離等の分離手段によって添加した海藻類、キノコ類、または魚介類を分離除去し、油溶性成分を含有する酸臭マスキング剤を得ることができる。得られた本発明の酸臭マスキング剤は、そのまま使用してもよいし、食用油脂で希釈して用いてもよく、このようにして酸臭マスキング剤を含む澱粉性食品用油脂組成物が適宜得られる。
【0022】
本発明の酸臭マスキング剤は、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品に添加して使用する。
澱粉性食品とは、澱粉を多く含有する食品をいい、例えば、米飯類、餅類、麺類、ベーカリー製品、フライ食品の衣、イモ類などが挙げられる。本発明で提供される澱粉性食品はこのうち、pH調整剤を添加して保存性を向上させる澱粉性食品であり、好ましくは米飯類、麺類、ベーカリー製品、フライ食品の衣である。
【0023】
米飯類とは、白米や玄米等を炊飯等して得られる米飯加工食品であり、例えば、白飯、赤飯、酢飯、茶飯、おこわ、おにぎり、炊き込み御飯、釜めし、混ぜ込みご飯などが挙げられ、炊飯後にさらに炒め調理等を行った炒飯等も含まれる。また、米には、粳米、もち米や、精米度の異なる無洗米や、玄米等が挙げられる。
麺類とは、小麦粉、米粉、そば粉、豆等の穀類の粉や澱粉類を主原料とし、麺状、紐状、板状等に成形加工された生地を、茹でたり、煮たり、蒸煮して得られる食品である。例えば、うどん、きしめん、ひやむぎ、そうめん、そば、中華麺、麺皮類(餃子、焼売、春巻き、ワンタンの皮等)、マカロニ、スパゲッティ等のパスタ、フォー、ビーフン、冷麺、春雨などが挙げられる。商品形態としては、生麺、茹で麺、蒸し麺、生タイプ即席麺、即席麺、乾麺、半乾麺、レトルト麺、冷蔵麺、冷凍麺、ロングライフ麺、揚げ麺、調理麺等のいずれの形態も含む概念である。
ベーカリー製品とは、小麦粉や澱粉類を主成分として調製された生地を加熱することで製造される製品であれば、特に制限はない。例えば、パン、イーストドーナツ、ピザ、中華まんじゅう等のパン類、クッキー、サブレ、ビスケット、スポンジケーキ、マフィン、パイ、シュー、ホットケーキ、ケーキドーナツ等の菓子類、お好み焼、たこ焼等が挙げられる。
フライ食品とは、小麦粉や澱粉類を主成分として調製された生地を、野菜や畜肉類等に付着させてフライしたり、そのままフライすることで得られる食品であり、天ぷら、揚げ玉、唐揚げ、トンカツ、フリッター等が挙げられる。
【0024】
米飯類、麺類、ベーカリー製品、フライ食品(の衣)等の澱粉性食品をスーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売する場合には、保存、販売時における微生物の増殖を防止し、食品の日持ちを良くして保存性を向上させる必要がある。
澱粉性食品の保存性とは、該食品の微生物増殖抑制能、または該食品の防腐性を意味する。保存剤として、食品のpHを下げるためpH調整剤を添加することが一般に行われている。
【0025】
本発明のpH調整剤とは、食品のpHを調整して食品の保存性を高める目的で使用される、食品または食品添加物である。pH調整剤には、クエン酸、乳酸、酢酸、グルコン酸等の有機酸等が使用されており、多くはクエン酸、乳酸及び酢酸が使用される。これらの酸は遊離体であっても、塩の形態であってもよい。塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。これらの有機酸又はその塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
pH調整剤を添加して、例えば、pHを5.5~6.5程度に下げることにより、澱粉性食品の保存性を高めることができる。本発明の酸臭マスキング剤を添加しても、澱粉性食品のpHはほとんど変わらず保存性が維持される。
【0026】
本発明の酸臭マスキング剤は、澱粉性食品に0.003~25質量%含まれるように添加することが好ましい。より好ましくは、0.01~10質量%、さらに好ましくは0.02~5質量%、よりさらに好ましくは、0.03~2.5質量%である。また、本発明の酸臭マスキング剤は、pH調整剤100質量部に対して、0.1~4000質量部添加することが好ましい。より好ましくは、0.3~1000質量部、0.5~500質量部、さらに好ましくは、1~200質量部、よりさらに好ましくは、2~100質量部である。
【0027】
本発明の酸臭マスキング剤は、澱粉性食品の調理前または後に添加され得る。
澱粉性食品が米飯類の場合には、炊飯油と同様に、炊飯調理前に生米に添加するのが好ましい。生米と水と酸臭マスキング剤の添加順序は特に限定されず、また添加後には撹拌してもよい。
本発明の酸臭マスキング剤は、炊飯前の生米100質量部に対して0.008~10質量%添加することが好ましい。より好ましくは、0.03~7質量%であり、さらに好ましくは、0.04~5質量%であり、よりさらに好ましくは、0.07~3質量%である。所定の添加量とすることで、風味が良好で、かつ酸臭がマスキングされた米飯類を得ることができる。
また、澱粉性食品が麺類、ベーカリー製品、フライ食品の衣の場合には、適量を生地に練り込むのが好ましい。
本発明の酸臭マスキング剤は、生地中に0.008~10質量%となるように添加することが好ましい。より好ましくは、0.03~7質量%であり、さらに好ましくは、0.05~5質量%である。麺類の場合は、0.05~7質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.2~3質量%がさらに好ましい。ベーカリー製品の場合は、生地中に0.008~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましく、0.03~0.5質量%が特に好ましい。フライ食品の衣の場合は、0.1~8質量%が好ましく、0.2~7質量%がより好ましく、0.4~5質量%がさらに好ましい。
【0028】
また、澱粉性食品の調理後に、酸臭マスキング剤を添加する場合には、酸臭マスキング剤を澱粉性食品に和えたり、噴霧または塗布して、食品の表面に付着させるのが好ましい。
加熱調理後の澱粉性食品に対する酸臭マスキング剤の付着量は、付着させる前の調理後の澱粉性食品に対して0.02~10質量%、好ましくは0.1~5質量%であり、食品表面に付着させるため、調理前の米飯類や麺類に添加する量より多く必要となる。
【0029】
本発明により製造される澱粉性食品は、通常の保存手段、例えば常温、冷蔵、チルド、冷凍等で保存され、そのまま喫食したり、電子レンジ等で加熱して喫食することができる。特に、常温保存される澱粉性食品は、保存性を高めるためにpH調整剤を多く含むため、酸臭マスキング剤の効果をより感じやすい。また、電子レンジ等で温めて喫食する場合に、pH調整剤由来の酸臭を感じやすいため、酸臭マスキング剤の効果をより感じやすい。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
酸臭マスキング剤の材料
(油脂)
キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックヒマワリ油、コーン油、大豆油は昭和産業株式会社製、米油はボーソー油脂株式会社製のものを使用した。
(海藻類)
昆布:切り出し昆布、株式会社東昆
昆布粉末:昆布をフードブレンダー(7011S、株式会社エフ・エム・アイ)で粉砕したもの。
昆布のだしがら:昆布を70℃の水で10分煮出した後、だしがらを105℃の恒温槽で2時間乾燥させたもの。
わかめ:カットわかめ、イオントップバリュ株式会社
ひじき:乾燥芽ひじき、イオントップバリュ株式会社
のり:きざみのり、イオントップバリュ株式会社
(キノコ類)
シイタケ:国産シイタケスライス、株式会社八社会
エノキタケ:乾燥えのきだけ、有限会社渋田産業
(魚介類)
鰹節:花かつお、ヤマキ株式会社
煮干し:元気一番にぼしだけよ、ヤマキ株式会社
【0031】
〔試験1:海藻類、キノコ類、魚介類の種類、食用油脂の種類の比較〕
(酸臭マスキング剤の製造)
表1に示す配合で材料を混合し、表1に示す製造条件で加熱処理を行った。その後、クッキングペーパーを用いて濾過し、固形資材(海藻類、キノコ類、魚介類)を取り除いたものを酸臭マスキング剤とした。
【0032】
(評価方法)
生米(無洗米)100質量部を25℃の水145質量部に40分間浸漬した。そこに、pH調整剤(ライスプラス-2、キューピー醸造株式会社)1質量部、酸臭マスキング剤0.1質量部を添加して撹拌し、IH炊飯器にて炊飯した。生米100質量部から得られた米飯は220質量部であった。炊飯後の米飯を蓋つきの容器に100g入れて、20℃で24時間保管した。保管後の米飯を、電子レンジで1500w10秒間加熱し、喫食した。
なお、試験例1-17においては、炊飯前に酸臭マスキング剤を添加せずに炊飯し、炊飯後の米飯220質量部に酸臭マスキング剤を0.1質量部添加し、混合した。
10名のパネルが、下記評価基準で米飯の風味評価をおこない、平均点を算出した。
【0033】
<酸臭マスキング効果>
3:酸臭がまったく感じられず、非常に良好
2:酸臭がわずかに感じられるが、良好
1:酸臭が感じられ、悪い
<酸臭マスキング剤由来の風味>
3:酸臭マスキング剤由来の風味がまったく感じられない
2:酸臭マスキング剤由来の風味がわずかに感じられる
1:酸臭マスキング剤由来の風味が強く感じられる
【0034】
【0035】
酸臭マスキング剤を使用しない比較例(試験例1-1)においては、酸臭が強く感じられ、海藻類、キノコ類、または魚介類の油溶性成分を含む実施例(試験例1-2~1-17)では、酸臭がマスキングされた。また、昆布を水で煮出した昆布出汁(試験例1-18)では酸臭マスキング効果が見られなかった。食用油脂としてキャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックヒマワリ油、米油、コーン油を使用すると、酸臭マスキング効果が高く、キノコ類または魚介類を使用すると、米飯にそれらの風味が少し付いた。また、試験例1-2と試験例1-17と比較したところ、炊飯前に酸臭マスキング剤を添加した方が、炊飯後の米飯に添加するよりも、マスキング効果がより高いことがわかった。
【0036】
〔試験2:抽出条件(温度、時間、資材の量)の比較〕
(酸臭マスキング剤の製造)
表2に示す配合で材料を混合し、表2に示す製造条件で加熱処理を行った。その後、クッキングペーパーを用いて濾過し、昆布を取り除いたものを酸臭マスキング剤とした。試験1の試験例1-1~1-16と同様の方法で炊飯し、米飯の風味評価を行った。
【0037】
【0038】
酸臭マスキング剤の製造における抽出温度は、40℃~200℃が好ましく、その場合の抽出時間は好ましくは0.5分~12時間である。また、昆布を用いる場合には、食用油脂100質量部に対して乾燥質量換算で0.1~70質量部混合しても、酸臭マスキング効果と風味は良好であった。
【0039】
〔試験3:酸臭マスキング剤の添加量の比較〕
(炊飯油の製造)
表3に示す配合で、食用油脂、乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル、理研ビタミン株式会社)、試験例1-2で製造した酸臭マスキング剤を混合し、炊飯油を調整した。
(評価方法)
生米(無洗米)100質量部を25℃の水145質量部に40分間浸漬した。そこに、pH調整剤1質量部、表3に記載の量の炊飯油を添加して撹拌し、IH炊飯器にて炊飯した。生米100質量部から得られた米飯は220質量部であった。炊飯後の米飯を蓋つきの容器に100g入れて、20℃で24時間保管した。保管後の米飯を、電子レンジで1500w10秒間加熱し、喫食した。
【0040】
【0041】
生米100質量部に対して酸臭マスキング剤が0.01~10質量部の添加量となる範囲の炊飯油の添加により、良好な酸臭マスキング効果と風味が得られた。
【0042】
(米飯のpH測定方法)
表4に記載の材料を用いて、試験1の試験例1-1~1-16と同様の方法で炊飯し米飯を製造した。酸臭マスキング剤は、試験例1-2で製造したものを使用した。各米飯1質量部に対しイオン交換水を4質量部加え、ミキサー等で全体が均一となるように粉砕したうえで、1気圧、品温20℃とした時にpH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いて測定した。
【0043】
【0044】
酸臭マスキング剤を添加しても、米飯のpHはほとんど変化しなかった。本発明の酸臭マスキング剤を添加しても、pH調整剤の効果は維持されることが判明した。
【0045】
〔試験4:マフィンの製造試験〕
表5に記載の材料をミキサーに入れ、低速で3分間混合し、マフィン生地を調整した。pH調整剤はKS-TOP(酢酸ナトリウム、奥野製薬)、酸臭マスキング剤は試験例1-2で製造したものを使用した。得られたマフィン生地を120gずつ型(内径6cm、高さ3cm、グラシン)に分注し、オーブンで180℃30分間焼成し、マフィンを調製した。マフィン生地100質量部から得られたマフィンは92質量部であった。
10名のパネルが、試験1に記載の評価基準でマフィンの風味評価をおこない、平均点を算出した。
【0046】
【0047】
本発明の酸臭マスキング剤は、マフィンの風味に影響を与えずにしっかり酸臭をマスキングできることがわかった。
【0048】
〔試験5:うどんの製造試験〕
表6に記載の配合で、並塩、pH調整剤(ハイパープロトンDL匠味、奥野製薬)、キャノーラ油または酸臭マスキング剤を水に混合し、練り水を調製した。中力粉、加工澱粉、グルテンをピンミキサーに入れ、攪拌しながら練り水を添加して、そぼろ状になるまでミキシングして麺生地を調製した。次いで、ロール式製麺機を使用し、粗延1回、複合1回、圧延5回を経て、麺生地から厚さ2mmの麺帯を調製し、角10番の切刃を用いて麺線を切り出し、厚さ2.0mmの生麺(うどん)を調製した。調製した各うどんを、沸騰した水で約10分間茹で調理し、その後、氷水で冷却し、水切りした。麺生地100質量部から得られた茹で調理後のうどんは160質量部であった。なお、試験例6-4においては、麺生地調製時に酸臭マスキング剤を添加せず、茹で調理後のうどん100質量部に対して酸臭マスキング剤を2質量部添加し、表面に付着させた。
10名のパネルが、試験1に記載の評価基準でうどんの風味評価をおこない、平均点を算出した。
【0049】
【0050】
本発明の酸臭マスキング剤は、うどんの風味に影響を与えずにしっかり酸臭をマスキングできることがわかった。また、試験例6-3と試験例6-4と比較したところ、麺生地中に酸臭マスキング剤を添加した方が、茹で調理後のうどんに付着させるよりも、マスキング効果がより高いことがわかった。
【0051】
〔試験6:揚げ玉の製造試験〕
表7に記載した配合で、市販の天ぷら粉(昭和産業株式会社)、水、pH調整剤(プラスタイム(登録商標)、理研ビタミン株式会社)、試験例1-2で製造した酸臭マスキング剤を混合し、衣用生地を調製した。衣用生地を180℃の揚げ油に滴下し、1分間フライして揚げ玉を調製した。衣用生地100質量部から得られた揚げ玉は95質量部であった。得られた揚げ玉を室温で1時間放冷した後、10名のパネルが、試験1に記載の評価基準で揚げ玉の風味評価をおこない、平均点を算出した。
【0052】
【0053】
本発明の酸臭マスキング剤は、揚げ玉(天ぷらの衣)の風味に影響を与えずにしっかり酸臭をマスキングできることがわかった。