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特開2024-145785紡績用カーボンナノチューブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145785
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】紡績用カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/162 20170101AFI20241004BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20241004BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01B32/162
B01J23/745 M
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058282
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 竜也
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146BA12
4G146BA48
4G146BB22
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC27
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146BC38B
4G146BC44
4G146DA03
4G146DA23
4G146DA25
4G146DA47
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB04B
4G169BC66B
4G169CB81
4G169DA05
4G169EB15Y
4G169FA03
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB37
4G169FB57
4G169FB77
4G169FC06
4G169FC07
(57)【要約】
【課題】紡績性が良好なCNTを合成可能な、紡績用CNTの製造方法を提供する。
【解決手段】減圧化学気相合成法により紡績用カーボンナノチューブを製造する方法であって、基材の表面の少なくとも一部に、金属酸化物からなる触媒層を形成することと、前記基材を、101Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化することと、前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層の表面にカーボンナノチューブを合成することと、を含む、紡績用CNTの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧化学気相合成法により紡績用カーボンナノチューブを製造する方法であって、
基材の表面の少なくとも一部に、金属酸化物からなる触媒層を形成することと、
前記基材を、101Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化することと、
前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層の表面にカーボンナノチューブを合成することと、を含み、
前記基材を加熱及び冷却する方法が、
まず、25℃/分~75℃/分の昇温速度で、常温から前記金属酸化物が粒子化する650℃以上の所定温度まで加熱し、前記所定温度にて静置した後、
つぎに第一段階の降温として35℃/分~85℃/分の降温速度で、前記所定温度から650℃まで降温し、
その後さらに第二段階の降温として145℃/分~305℃/分の降温速度で、650℃から100℃以下まで急冷する方法であり、
前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層を備える前記基材を反応炉内に置き、
500℃以下の所定温度から、前記カーボンナノチューブを合成可能な600℃以上の所定温度まで昇温する際に、
前記反応炉内の圧力を大気圧から所定の反応圧力まで、25~305Pa/秒の減圧速度で減圧する、紡績用CNTの製造方法。
【請求項2】
前記触媒層が形成された前記基材を、10000Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化する、請求項1に記載の紡績用CNTの製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層を備える前記基材を反応炉内に置き、
原料ガスとキャリアガスが混合された供給ガスを前記反応炉内に供給し、前記カーボンナノチューブを合成する際、
前記反応炉内に置いた前記基材の位置における前記供給ガスの線速度が2.50~6.50cm/秒であり、かつ、
前記供給ガス中の前記原料ガスの分圧を前記キャリアガスの分圧で除した値で表されるC/N比が0.40~0.65である、請求項1又は2に記載の紡績用CNTの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績用カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は一般的に粉末状であるが、紡績性を有するCNTを乾式で紡績する研究が報告されている。この「紡績性」とは、基板上で上向きに配向し、互いに隣接した状態で合成された多数のCNTのうち、一端のCNTをピンセット等で引っ張り出すと、芋づる式に連続してCNTを引き出すことが可能な性質をいう。引き出したCNTを撚り合わせるとCNTからなる糸を作製することができる。この糸は、導電性があり、軽くてフレキシブルであることから、ウェアラブルデバイス用途等での研究が進んでいる。
【0003】
紡績可能なCNTを基材上に合成する場合、基材上に鉄などの金属触媒からなる触媒層が形成される。例えば特許文献1では、基材上に鉄をスパッタリングして触媒層を形成した後、不活性雰囲気、大気圧下で触媒層中の鉄を粒子化させ、大気圧CVDで紡績用CNTを合成している。また、特許文献2では、基材上に鉄をスパッタリングして触媒層を形成した後、不活性雰囲気、減圧下で触媒層中の鉄を粒子化させ、減圧CVDで紡績用CNTを合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4512750号公報
【特許文献2】特許第5636337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが特許文献1,2の方法に従ってCVDを実施したところ、紡績性が良好なCNTを得ることが困難であった。この原因を追究したところ、触媒層中の鉄の粒子の形状が不均一であることが分かった。本発明者らは、基板上に合成する紡績用CNTの性状は、触媒層の性状に左右されると考え、紡績性を改善する観点から、触媒層中の金属粒子の粒径や分布はなるべく均一であることが望ましいと考えた。
【0006】
本発明は、紡績性が良好なCNTを合成可能な、紡績用CNTの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 減圧化学気相合成法により紡績用カーボンナノチューブを製造する方法であって、
基材の表面の少なくとも一部に、金属酸化物からなる触媒層を形成することと、
前記基材を、101Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化することと、
前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層の表面にカーボンナノチューブを合成することと、を含み、
前記基材を加熱及び冷却する方法が、
まず、25℃/分~75℃/分の昇温速度で、常温から前記金属酸化物が粒子化する650℃以上の所定温度まで加熱し、前記所定温度にて静置した後、
つぎに第一段階の降温として35℃/分~85℃/分の降温速度で、前記所定温度から650℃まで降温し、
その後さらに第二段階の降温として145℃/分~305℃/分の降温速度で、650℃から100℃以下まで急冷する方法であり、
前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層を備える前記基材を反応炉内に置き、
500℃以下の所定温度から、前記カーボンナノチューブを合成可能な600℃以上の所定温度まで昇温する際に、
前記反応炉内の圧力を大気圧から所定の反応圧力まで、25~305Pa/秒の減圧速度で減圧する、紡績用CNTの製造方法。
[2] 前記触媒層が形成された前記基材を、10000Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化する、[1]に記載の紡績用CNTの製造方法。
[3] 前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層を備える前記基材を反応炉内に置き、原料ガスとキャリアガスが混合された供給ガスを前記反応炉内に供給し、前記カーボンナノチューブを合成する際、前記反応炉内に置いた前記基材の位置における前記供給ガスの線速度が2.50~6.50cm/秒であり、かつ、前記供給ガス中の前記原料ガスの分圧を前記キャリアガスの分圧で除した値で表されるC/N比が0.40~0.65である、[1]又は[2]に記載の紡績用CNTの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、CNTを合成する触媒層中の金属酸化物の粒子の粒径や分布を従来よりも均一にできるので、減圧CVD法によって紡績性が良好な紡績用CNTを製造することができる。ここで「紡績性」は、後述の実施例で示す通り、引き出し性と再現性とが両立された場合に良好といえる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】カーボンナノチューブ製造装置の構成の一例を示す断面図である。
図2図1中に示す領域Aを拡大して示す拡大断面図である。
図3】実施例1-1で粒子化した触媒層のSEM画像である。
図4】比較例1-1で粒子化した触媒層のSEM画像である。
図5】比較例1-2で粒子化した触媒層のSEM画像である。
図6】比較例1-3で粒子化した触媒層のSEM画像である。
図7】供給ガスの線速度とC/N比の好適な範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、「~」で表される数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を示す。
【0011】
<カーボンナノチューブ製造装置>
先ず、本発明のカーボンナノチューブの製造方法に適用可能な製造装置(合成装置)の一例として、図1及び図2に示すカーボンナノチューブ製造装置について説明する。
なお、図1は、カーボンナノチューブ製造装置の構成を示す断面図である。図2は、図1中に示す領域Aを拡大して示す拡大断面図である。
【0012】
図1中、符号1はカーボンナノチューブ製造装置(以下、単に「製造装置」という)、符号2は上端が閉塞された筒状のヒータ、符号3はヒータ2に同軸となるように設けられ上端が閉塞された筒状の外部反応管、符号4は外部反応管3の内側に同軸となるように位置し、上部が開放された筒状の内部反応管である。
【0013】
外部反応管3と内部反応管4との間には、下端が閉塞された筒状の空間5が位置する。
すなわち、製造装置1は、外部反応管3及び内部反応管4からなる二重管構造の反応炉を備える。なお、反応炉内とは、空間5を含む外部反応管3の内側を意味する場合と、内部反応管4の内側を意味する場合とがある。
【0014】
空間5の下端には、排気管6が位置し、空間5と排気管6とが連通している。
排気管6には、真空計7と真空ポンプ8とが位置する。
真空計7は、真空ポンプ8の一次側に位置し、外部反応管3及び内部反応管4内の圧力を測定する。真空計7としては、特に限定されるものではないが、例えばバラトロン式の真空計を適用できる。
真空ポンプ8は、真空計7の二次側に位置し、外部反応管3及び内部反応管4内の雰囲気を排出して圧力を下げる。
内部反応管3の下端には、供給ガス導入管9が位置し、内部反応管3の内側と供給ガス導入管9とが連通している。
【0015】
ヒータ2は、鉛直方向上下に4つの加熱エリア2A~2Dに分割されており、外部反応管3及び内部反応管4の高さ方向で個別に温度を調整可能となっている。
4つの加熱エリア2A~2Dには、高さ方向の中央に温度計10A~10Dがそれぞれ設けられている。なお、各温度計10A~10Dの先端は、外部反応管3と各加熱エリア2A~2Dとの間の空間に位置する。各温度計10A~10Dにより、外部反応管3及び内部反応管4の高さ方向でそれぞれ温度を測定可能となっている。
ヒータ2の外側には、ヒータ2の周囲を覆うように断熱材11が位置する。
【0016】
内部反応管4の内側には、縦型ウェハボート12が挿入可能となっている。
縦型ウェハボート12は、昇降フランジ13に立設される。また、昇降フランジ13には炉口蓋14が設けられ、炉口蓋14により外部反応管4の下端が気密に閉塞される。
【0017】
縦型ウェハボート12は、図2に示すように、複数本の支柱15を有する。また、支柱15には、鉛直方向上下にわたって所定の間隔(ピッチ)で溝16がそれぞれ設けられている。縦型ウェハボート12は、同じ高さに位置する2以上の溝16に基材17をそれぞれ挿入することで、複数の基材17を水平に保持できる。
複数の基材17を装填した状態で縦型ウェハボート12を内部反応管4の内側に装入して基材の処理を行う。
【0018】
本発明に適用可能な製造装置は、減圧化学気相合成(LPCVD)法を用いてカーボンナノチューブを製造可能であれば、上述した製造装置1の構成に限定されない。本発明には、市販の製造装置を適用してもよい。このような製造装置としては、例えば、東京エレクトロン社製;TELINDYシリーズ、KOKUSAI ELECTRIC社製;VERTEXシリーズ、ASM社製;ADVANCE VERTICAL FURNACEシリーズが挙げられる。これらの装置は制御用の熱電対を備えた抵抗加熱式のヒーター、反応場となる石英反応炉、ガス導入のための石英ノズル、ウェハを収納するための石英ボート、石英ボートを石英反応炉に移送するエレベーター機構、石英ボートに基板を搬送するロボット機構、排気ポンプ、供給ガスを供給するためのガス配管、排気ガスを排気するための排気ガス配管を備える。
【0019】
≪紡績用CNTの製造方法≫
本発明の第一態様は、減圧化学気相合成法(LPCVD法)により紡績用カーボンナノチューブを製造する方法である。
本態様は、触媒層形成工程と、粒子化工程と、合成工程とを含むことが好ましい。
以下、各工程の好ましい実施形態例を、図1~2の符号を参照しながら説明する。
【0020】
[触媒層形成工程]
触媒層形成工程は、基材の表面の少なくとも一部に、金属酸化物からなる触媒層を形成する工程である。
【0021】
(基材)
基材17は、表面の少なくとも一部に触媒層を有する。
基材17としては、特に限定されるものではないが、複数の触媒粒子から構成される触媒層を支持可能であり、触媒が流動化・粒子化する際にその動きを妨げない平滑度を有する、平板状の基板であることが好ましく、互いに平行且つ平坦な一対の表面を有する基板であることがより好ましい。さらに、平板状の基板の一対の表面のうち、一方の表面上に触媒層が形成されていることが好ましい。
【0022】
基材17の材質としては、特に限定されるものではないが、触媒金属に対する反応性が低い材料であることが好ましい。このような基材17としては、平滑性や価格の面、耐熱性の面で優れた単結晶シリコン基板が挙げられる。具体例として、以下の仕様のものが挙げられる。
【0023】
【表1】
【0024】
基材17として単結晶シリコン基板を用いる場合、基板の表面に意図しない化合物が形成されることを防止するために、基板の表面を酸化処理、又は窒化処理することが好ましい。これにより、単結晶シリコン基板の表面には、シリコン酸化膜(SiO膜)、又はシリコン窒化膜(Si膜)が形成される。また、単結晶シリコン基板の表面に、反応性の低いアルミナ等の金属酸化物及び金属窒化物からなる被膜を形成した後、この被膜上に触媒層を形成してもよい。被膜の膜厚は、10nm~1000nmが好適である。
【0025】
(触媒層)
触媒層を構成する材料としては、例えばニッケル、コバルト、鉄等の金属が挙げられる。また、触媒としては、一種の金属からなる単一触媒(金属触媒)を用いることが好ましく、鉄一元系の触媒を用いることがより好ましい。これにより、触媒を核としてCNTを容易に形成できる。
後段の粒子化工程において触媒層中に粒径及び分布が均一な触媒粒子を形成する観点から、触媒を構成する材料は金属酸化物が好ましく、ニッケル、コバルト又は鉄の酸化物がより好ましく、鉄の酸化物がさらに好ましい。
【0026】
触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.5~100nmの範囲とすることが好ましく、1.5~15nmの範囲とすることがより好ましい。ここで、触媒層の厚さが0.5nm以上であれば、基材の表面に均一な厚さの触媒層を容易に形成できる。また、触媒層の厚さが15nm以下であれば、CVD反応前に800℃以下で予熱することで容易に粒子化することができる。ここで、触媒層の厚さは、任意の10箇所の断面について測定した平均値とする。
本工程における触媒層は、後段の粒子化工程で均一な触媒粒子を形成する観点から、基材の表面を全体的に均一に被覆する膜であることが好ましい。
【0027】
触媒層の形成方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、スパッタ法や真空蒸着法等によって基材の表面上に触媒材料を堆積させる方法や、基材の表面上に触媒材料を含む溶液(触媒溶液)を塗布して塗膜を形成し、その後に加熱して乾燥させる方法が挙げられる。金属酸化物からなる触媒層を容易に形成できることから、触媒溶液を塗布する塗布法が好ましい。
【0028】
(触媒溶液)
触媒溶液の溶質としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属のうちの1種、またはニッケル、コバルト、鉄等の金属錯体の化合物のうちの1種を含んだ触媒溶液を用いることができる。例えば、触媒溶液として硝酸鉄九水和物等を使用することができる。
【0029】
触媒溶液の溶媒としては、水との相溶性を有し、且つ沸点が水より高い性質を有する特性溶媒、又は特性溶媒を含有するエタノールとの混合溶媒が挙げられる。
特性溶媒は、アルコール、グリコールエーテル、エステル、ケトン、及び非プロトン性極性溶媒のうち1種類以上からなる。
触媒溶液の総質量に対する前記溶質の濃度は、例えば0.2~8.0質量%の範囲で調整することができ、特性溶媒の配合濃度は例えば5.0~99.8質量%の範囲で調整することができる。
前記溶質と溶媒とを混合することで触媒溶液が得られる。
【0030】
前記アルコールは、1-ブタノール、2-ブタノール及びジアセトンアルコールのうち1種類以上からなることが好ましい。
前記グリコールエーテルは、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルのうち1種類以上からなることが好ましい。
前記グリコールエーテルは、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルのうち1種類以上からなることが好ましい。
ケトンは、アセチルアセトンからなることが好ましい。
非プロトン性極性溶媒は、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン及びN,N-ジメチルホルムアミドのうち1種類以上からなることが好ましい。
【0031】
(触媒塗布方法)
触媒溶液を基材の表面上に塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、スピンコート法、スプレーコート法、バーコーター法、インクジェット法、スリットコータ法等が挙げられる。
【0032】
スピンコートは、クリーンベンチ等でクリーンな作業環境を構築し、その中で実施することが望ましい。スピンコーターの回転速度は1rpmから5000rpmに任意に設定することができ、回転速度は1段階以上に分けて設定することができる。回転時間は各回転速度で1secから600secに任意に設定することができる。
【0033】
スピンコート法の手順としては、基材をスピンコーターのスピンステージの中央に静置し、その後基材の表面上に0.1ml~10mlの触媒溶液を滴下し、既定の回転速度でスピンステージを回転すればよい。ここで、スピンステージの回転を始めてから触媒溶液を滴下することもできる。既定の回転時間が経過したら、スピンステージの回転を止め、基材を回収する。
【0034】
スピンコート法を終えた基材は、溶媒の除去や触媒層に含まれる金属を大気中の酸素で酸化して金属酸化物とするために、ホットプレート上で静置するかあるいは炉に入れて加熱してもよい。この加熱処理は、例えば、空気中大気圧下、減圧下または非酸化雰囲気下で100~300℃の温度の範囲で行うことが好ましく、120~300℃の温度範囲で行うことがより好ましい。これにより、比較的沸点が高い溶媒でも確実に除去することができる。なお、300℃以下の加熱であれば、触媒層中の金属酸化物は粒子化しない。
【0035】
スピンコート手順は、市販の枚様式スピン塗布装置あるいはスピン洗浄装置で実施可能である。これらの装置は、複数枚の基材を収納する基材キャリアを設置するステージ、基材を搬送する搬送ロボット、センタリング機構、スピンステージ、シリンジ付の塗布アーム、ホットプレートもしくは炉からなるベーク機構のいずれか、あるいは全てをもつ。
【0036】
[粒子化工程]
粒子化工程は、前記触媒層が表面に形成された前記基材を、101Pa以上大気圧以下、かつ不活性ガス雰囲気下に置き、加熱及び冷却することにより、前記触媒層中の前記金属酸化物を粒子化する工程である。以下では、触媒層中の金属酸化物を粒子化することを、単に「触媒層を粒子化する」と表現することがある。
【0037】
前記基材の加熱及び冷却は、温度制御および雰囲気制御が可能な加熱炉内に前記基材を置いて行う方法が好ましい。前記加熱炉はさらに減圧制御が可能であることが好ましい。このような加熱炉を備える装置としては、後段の合成工程でも用いることが可能な、前述のカーボンナノチューブ製造装置が好ましい。例えばカーボンナノチューブ製造装置1の反応炉(内部反応管4)内において、本工程を実施することができる。
【0038】
本工程において触媒層を粒子化する際の圧力は、101Pa以上であり、1500Pa以上が好ましく、10000Pa以上がより好ましく、大気圧(0.10MPa)がさらに好ましい。前記圧力が大気圧に近いほど、後段の合成工程で得られるCNTの紡績性が優れる。
【0039】
本工程において触媒層を粒子化するための加熱温度は、不活性ガス雰囲気下で、金属酸化物が粒子化する温度以上であればよい。触媒層中の金属酸化物は加熱される粒子化する詳細なメカニズムは未解明であるが、金属酸化物同士の凝集力や表面張力が複雑に影響しあって粒子化すると考えられる。なお、金属酸化物を粒子化するために、金属酸化物が溶融する融点まで加熱する必要はない。一般的な金属酸化物であれば、500~1000℃の加熱で粒子化させることができる。また、触媒層が酸化鉄からなる場合、700~750℃程度まで加熱すれば充分に粒子化させることができる。
【0040】
本工程において触媒層を粒子化する加熱及び冷却の方法は、均一な粒子化が容易であるので次の方法が好ましい。すなわち、まず、25℃/分~75℃/分の昇温速度で、常温(15~35℃)から前記金属酸化物が粒子化する650℃以上の所定温度(任意の温度)まで加熱し、前記所定温度にて静置した後、つぎに第一段階の降温として35℃/分~85℃/分の降温速度で、前記所定温度から650℃まで降温し、その後さらに第二段階の降温として145℃/分~305℃/分の降温速度で、650℃から100℃以下まで急冷する方法が好ましい。
前記所定温度は700~800℃が好ましい。前記所定温度において静置する時間は、1分~5分が好ましい。
昇温速度および降温速度の制御は、PID制御によって行うことができる。
【0041】
本工程によれば、直径が0.5nm~50nm程度の、複数の触媒粒子から構成される触媒層を形成することができる。
このような触媒層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、例えば1μm×1μmの視野に観察される触媒粒子の80%以上において、各粒子の中心から半径50nmの円内に、4つ以上の他の触媒粒子の一部又は全部が存在する場合、その触媒層において、触媒粒子同士が高密度で隣接しており、粒子分布が均一である、と判断することができる。
【0042】
触媒層における触媒粒子の平均粒径は、当該触媒層の代表的な箇所(例えば基材の中央付近)の1μm×1μmのSEM観察視野内に存在する触媒粒子から無作為に選択される40個以上の粒子の粒径(最長径)の平均値として求められる。
触媒層における触媒粒子の平均粒径は、紡績性に優れたCNTを合成する観点から、0.5nm~50nmが好ましい。
【0043】
[合成工程]
合成工程は、前記金属酸化物の粒子化を経た前記触媒層(粒子化した触媒層)の表面にカーボンナノチューブを合成する工程である。
【0044】
例えば図1~2に示すように、粒子化した触媒層を有する1以上の基材17が装填された縦型ウェハボート12を反応炉内(内部反応管4内)に挿入し、真空ポンプ8により反応炉内の圧力を所定の圧力となるように真空引きし、ヒータ2によって反応炉内(外部反応管3内)の温度を所定の反応温度まで加熱した後、供給ガス導入管9から供給ガスを反応炉内に供給して減圧化学気相合成法により各基材17の粒子化した触媒層の表面にカーボンナノチューブを合成し、排気管6から排気ガスを排出する。
以下、さらに詳しく説明する。
【0045】
高温雰囲気の反応炉に触媒層が形成された基材17を設置し、原料ガスとキャリアガスとを含む供給ガスを反応炉内の基材17に供給し、触媒粒子を核としてカーボンナノチューブを成長させる。この際、原料ガスによって、触媒粒子の金属酸化物が還元され、金属になり、複数のカーボンナノチューブが、基材17の表面に対して垂直配向するように形成される。
【0046】
垂直に配向した個々のカーボンナノチューブ1本の長さは、原料ガスの供給量、反応圧力(反応炉内圧力)、反応炉内での反応時間によって調整できる。反応炉内での反応時間を長くすることにより、カーボンナノチューブの長さを数mm程度まで伸ばすことができる。
【0047】
(原料ガス)
カーボンナノチューブの合成・成長に使用する原料ガスとしては、例えば、アセチレン、メタン、エチレン等の脂肪族炭化水素のガスを用いることができる。これらのうち、アセチレンガスは溶接加工に適用される一般工業用のアセチレンであってもよいし、アセチレン濃度が99.9999%以上の超高純度のアセチレンガスであってもよい。
【0048】
原料ガスとしてアセチレンガスを用いると、核となる触媒粒子の粒子径を反映した、多層構造の直径が0.5~50nmの複数のカーボンナノチューブが、基板に対して垂直、かつ一定方向に配向成長する。また、原料ガスとして超高純度のアセチレンガスを用いることで、品質の良いカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0049】
(キャリアガス)
原料ガスを搬送させるキャリアガスとしては、例えば、He、Ne、Ar、N、Hなどが挙げられる。これらのうち、He,N,Arが好ましく、Nがより好ましい。
【0050】
(挿入温度)
基材17を装填した縦型ウェハボート12を反応炉内へ挿入する際の反応炉内の温度(挿入温度)は、室温(20℃)以上、反応温度よりも100℃低い温度(反応温度-100℃)以下とすることが好ましく、反応温度よりも300℃低い温度以下とすることがより好ましい。例えば、後述するように、反応温度が730℃である場合には、反応炉内の温度が室温~650℃であるときに基材を反応炉内へ挿入することが好ましく、反応炉内の温度が室温~450℃であるときに基材を反応炉内へ挿入することがより好ましい。
上記の好適な温度の反応炉内に粒子化した触媒層を挿入することにより、触媒層中の粒子の粒径や分布が、挿入時の急速な加熱によって変化することを防止できる。
【0051】
図1~2に示した例では、縦型ウェハボート12に複数枚の基材17を挿入することで、同時に反応処理を行う構造を持つ。
本態様において、反応炉内に挿入する基材17の個数は特に制限されず、1個であってもよいし、図示例のように複数個であってもよい。
【0052】
(反応圧力)
反応炉内の圧力(反応圧力)は4000~10000Paが好ましく、5000~8000Paがより好ましい。例えば8000Paに設定できる。
反応圧力が4000Pa以上であると、触媒による原料ガスの反応率が高まり、紡績用CNTの合成量が増加する。
反応圧力が10000Pa以下であると、原料ガスの拡散性が良好となり、紡績性が優れた紡績用CNTが容易に得られる。
【0053】
粒子化した触媒層を備えた基材を反応炉内に置き、例えば500℃以下の所定温度から、前記カーボンナノチューブを合成可能な例えば600℃以上の所定の反応温度まで昇温する際に、反応炉内の圧力を大気圧から所定の反応圧力まで、25~305Pa/秒の減圧速度で減圧することが好ましい。この範囲の減圧速度であると、紡績性が優れたCNTが容易に得られる。例えば100Pa/秒の減圧速度とすることができる。
【0054】
(反応温度)
粒子化した触媒層の表面にカーボンナノチューブを合成する際の反応炉内の温度(反応温度)は、特に限定されず、例えば、500℃~1000℃の範囲とすることができ、700~800℃の範囲とすることが好ましい。例えば730℃に設定できる。
700℃以上の反応温度であると、触媒による原料ガスの反応が高まり、紡績用CNTを容易に合成することができる。
800℃以下の反応温度であると、CNTの長さ方向への成長よりも、CNT密度が高まる方向へ合成が進み易くなり、紡績性に優れた紡績用CNTが得られ易い。
【0055】
(ガス流量)
原料ガス及びキャリアガスの流量は、それぞれ独立に、例えば1.0L/分~20L/分と設定できる。
原料ガスとキャリアガスを混合した供給ガスの総量は、1.0L/分~20L/分が好ましく、3.0L/分~10L/分がより好ましい。例えば、7.0L/分と設定できる。
原料ガスとキャリアガスを混合した供給ガスの総体積に対して、原料ガスの含有量は、5~90体積%が好ましく、10~60体積%がより好ましい。原料ガスの含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であると、合成するカーボンナノチューブのかさ密度を高めることができる。
【0056】
供給ガスについて、原料ガス:キャリアガスの混合比を体積比で例えば20:80~60:40の範囲で設定できる。具体的には例えば40:60と設定できる。
【0057】
反応炉内における原料ガスとキャリアガスの分圧は、原料ガスの分圧<キャリアガスの分圧の関係が好ましい。例えば全圧の20~40%が原料ガスの分圧であり、80~60%がキャリアガスの分圧であることが好ましい。具体的には、例えば全圧が8000Paである場合、原料ガスの分圧は2000~3900Paであり、キャリアガスの分圧は6000~4100Paであることが好ましい。より具体的には、例えば全圧が8000Paである場合、原料ガスの分圧:キャリアガスの分圧=3000Pa:5000Paと設定できる。
【0058】
反応炉内における(原料ガスの分圧/キャリアガスの分圧)で表されるC/N比は、0.35~0.70が好ましく、0.40~0.65がより好ましい。
上記範囲であると紡績性に優れた紡績用CNTが容易に得られる。
【0059】
反応炉内に供給する供給ガスの線速度(単位:cm/秒)は、下記式で算出される。
供給ガスの線速度=供給ガスの流量×(大気圧/反応圧力)/反応炉の断面積
ここで、反応炉の断面積は、供給ガスが流れる方向に対して垂直方向の断面積である。
図1~2に例示したカーボンナノチューブ製造装置1において、供給ガスは内部反応管4の下端から上方へ向けて上昇し、開放された上端から、排気管6へ続く空間5へ排気される。よって、供給ガスが流れる方向は反応炉の長さ方向であり、これに対する垂直方向は、平板状の基材17の平面方向と平行である。線速度の計算に適用される反応炉の断面積は、内部反応管4を基材17が設置された位置で輪切りにした反応空間の断面積である。
【0060】
紡績用CNTの合成時の供給ガスの線速度は、2.50~6.50cm/秒が好ましい。例えば、4.20cm/秒と設定できる。
【0061】
本工程において、反応炉内に置いた基材の位置における供給ガスの線速度が2.50~6.50cm/秒であり、かつ、供給ガス中の原料ガスの分圧をキャリアガスの分圧で除した値で表されるC/N比が0.40~0.65であることが好ましい。この条件で合成すると、紡績性に優れた紡績用CNTが容易に得られる。
【0062】
紡績用CNTの合成が完了した後、供給ガスの導入を停止し、不活性ガスを反応炉に導入してガスパージした後、反応炉内から縦型ウェハボート12を引き出して各基材17を取り出す。基材17の触媒層表面に形成されたCNT群の一端から、紡績用CNTを常法により芋づる式に引き出し、連続的に回収することができる。
【0063】
本発明の技術範囲は以上で説明した実施形態だけに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例0064】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1-1)
図1に示す製造装置1を用いて、カーボンナノチューブを合成した。
基材として、酸化膜付きシリコン基板(φ150mm、厚さ:625μm)を用いた。
触媒溶液は次の方法で得た。溶質として硝酸鉄九水和物を用い、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドと1-エトキシ-2-プロパノールを用い、これらを混合して触媒溶液とした。それぞれの含有量は、硝酸鉄九水和物 5.0wt%、N,N-ジメチルホルムアミド19.0wt%、1-エトキシ-2-プロパノール76.0wt%とした。
基材に2mlの触媒溶液を滴下し、スピンコート法(回転速度:750rpmと3500rpmの二段階)で塗布した。その後、ホットプレートにて300℃で10分間、基板を加熱し、塗膜を乾燥させることにより、5nmの厚みの酸化鉄(Fe)からなる触媒層が形成された基板を得た。
続いて、温度制御可能な反応炉内で、以下の手順で基板を加熱および冷却することにより、基板上の触媒層中の酸化鉄を粒子化した。
【0066】
(粒子化の手順)
窒素雰囲気下、大気圧にて粒子化した。まず、常温(約30℃)から70℃/分で昇温し、730℃に達した時点で2分間静置した。この期間に触媒層中の酸化鉄は粒子化した。その後、第一段階の降温として730℃から650℃まで80℃/分で降温し、次に第二段階の降温として650℃から100℃以下まで150℃/分で急速に冷却した。
以上の手順により、基板上の触媒層中に酸化鉄からなる多数の粒子が形成された。
【0067】
(CNT合成)
上記触媒層を備えた基板を、予め450℃に加熱された反応炉へ挿入し、窒素雰囲気下で730℃まで10℃/分で昇温した。この際、大気圧から反応圧力(8000Pa)まで100Pa/秒で減圧した。
原料ガスである一般工業用アセチレンガスと、キャリアガスである窒素ガスとをマスフローコントローラを用いてこの順に体積比37.5:62.5で混合した供給ガスを反応炉へ供給し、触媒層の表面から上方へ向けて配向した紡績用CNTを合成した。
供給ガスの各分圧はアセチレンガス:窒素ガス=3000Pa:5000Paであり、(アセチレンガスの分圧/窒素ガスの分圧)で表されるC/N比は0.60であった。
反応炉の基板を設置した空間の、供給ガスが流れる方向に対して垂直方向の断面積は346.2cmであった。供給ガスの大気圧(101kPa)下の総流量を7.0L/分としたので、炉内8000Pa下での体積流量は1466cm/秒{=7.0L/分×(101kPa/8kPa)}であり、供給ガスの線速度は4.2cm/秒であった。
なお、線速度とはガス流量をそのガスが流れる管の断面積で除した値である。
【0068】
上記方法により製造した実施例1-1の紡績用CNTについて、次の評価方法及び評価基準により、紡績性を評価した。その結果を後述の表に示す。
【0069】
(紡績性の評価方法)
触媒層の表面に形成された紡績用CNTは高密度であり、目視で観察すると、CNTからなる層が触媒層の表面に形成されているように見える。このCNT層の端をピンセットでつまみ、引き上げると、芋づる式に連続的に引き出すことが可能である。つまみだした紡績用CNTの先端を円柱ロールの表面(円柱体の側面)に付着させ、このロールを回転させ、後述の基準で紡績性を判断した。このとき、基板の紡績用CNTが合成された表面とロールの最上部とを同じ高さで配置し、基板の紡績用CNTがロールへ向かって水平方向に引き出されるようにした。つまり、紡績用CNTの引き出し角度は0度であった。
上記のロールの直径は165mmであり、ロール回転速度は200rpmであった。
紡績性を評価するサンプル数は2であった。
【0070】
(紡績性の評価基準)
紡績性の評価は、引き出し性と再現性に基づき、下記の表の基準で実施した。
引き出し性は、1回の引き出し試験で連続的に引き出される長さが長いほど優れていると評価した。具体的には、140mm以上引き出せた場合を「良」、140mm未満20mm以上引き出せた場合を「可」、20mm未満10mm以上引き出した場合を「不可」、10mm未満しか引き出せなかった場合を「劣悪」、の4段階で評価した。2つの評価サンプルのうち、引き出し長さが長い方の結果を採用した。
再現性は、各評価サンプルについて引き出し試験を1回実施し、第1の評価サンプルと、第2の評価サンプルで引き出される長さの差が、長い方を基準(100%)として、±20%以内を再現性「良」、±50%以内を再現性「可」、±50%超えを再現性「不可」とした。
【0071】
次の試験例では、実施例1-1の製造方法を基本として、一部を変更し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
(実施例1-2)
10000Paの減圧条件で触媒層中の酸化鉄を粒子化した。
(実施例1-3)
1000Paの減圧条件で触媒層中の酸化鉄を粒子化した。
(比較例1-1)
100Paの減圧条件で触媒層中の酸化鉄を粒子化した。
(比較例1-1)
空気雰囲気下で触媒層中の酸化鉄を粒子化した。
(比較例1-2)
スパッタ装置CFS-4ES(芝浦メカトロニクス社製)にて、スパッタガス:Ar、ガス圧:0.75Paとして、鉄からなる触媒層を形成し、大気圧条件で触媒層中の鉄を粒子化した。
(比較例1-3)
スパッタ装置CFS-4ES(芝浦メカトロニクス社製)にて、スパッタガス:Ar、ガス圧:0.75Paとして、鉄からなる触媒層を形成し、100Paの減圧条件で触媒層中の鉄を粒子化した。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1-1~実施例1-3のうち、実施例1-1で得た紡績用CNTの紡績性が最も優れていた。これらの結果から、触媒層を粒子化する圧力条件は大気圧が最も好ましいことが分かった。
実施例1-1の粒子化した触媒層の表面のSEM像を図3に示す。個々の粒子を明確に把握することができ、粒子の粒径(粒子の最長径)は10~50nm程度にそろっていた。また、1μm×1μmの視野に観察される粒子の80%以上において、各粒子の中心から半径50nmの円内に、4つ以上の他の粒子の一部又は全部が含まれていることから、粒子同士が密に隣接しており、粒子分布が均一であることが分かった。
【0074】
比較例1-1の粒子化した触媒層の表面のSEM像を図4に示す。全体的に個々の粒子を区別することが困難であった。粒子同士が融合して膜のような形状が見られた。
比較例1-2の粒子化した触媒層の表面のSEM像を図5に示す。個々の粒子を明確に把握することができ、粒子の粒径は5~20nm程度にそろっていた。しかし、1μm×1μmの観察視野において、各粒子の中心から半径50nmの円内に、1つも他の粒子の一部又は全部が含まれていない箇所が多数確認されることから、実施例1-1に比べて、粒子同士の密度が粗であり、粒子の分布は粗であった。
比較例1-3の粒子化した触媒層の表面のSEM像を図6に示す。個々の粒子を明確に区別することが難しい箇所が多数あり、粒子同士が融合して膜のような形状が一部で見られた。粒子の分布が部分的に不均一であった。
比較例1-4の粒子化した触媒層の表面のSEM像は、比較例1-3と同様であり、粒子の分布が部分的に不均一であった。
【0075】
(実施例2-1)
実施例1-1と全て同じ条件で実施し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
次の試験例では、実施例1-1の製造方法を基本として、粒子化の手順の一部を変更し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
(実施例2-2)
昇温速度を30℃/分とした。
(実施例2-3)
第一段階の降温速度を40℃/分とした。
(実施例2-4)
第二段階の降温速度を300℃/分とした。
(実施例2-5)
第一段階の降温速度を40℃/分とし、第二段階の降温速度を300℃/分とした。
(比較例2-1)
昇温速度を100℃/分とした。
(比較例2-2)
昇温速度を20℃/分とした。
(比較例2-3)
第二段階の降温速度を100℃/分とした。
(比較例2-4)
第一段階の降温速度を20℃/分とした。
(比較例2-5)
第一段階の降温速度を150℃/分とした。
(比較例2-6)
第一段階の降温速度を300℃/分とし、第二段階の降温速度を300℃/分とした。
【0076】
【表3】
【0077】
以上の結果から、触媒層を構成する金属酸化物の粒子化の手順において、25℃/分~75℃/分の昇温速度で、金属酸化物が粒子化する温度以上(少なくとも650℃超え)まで加熱して静置後、第一段階の降温として650℃までは35℃/分~85℃/分で降温し、その後の第二段階の降温として100℃以下まで145℃/分~305℃/分で急冷し、触媒層を粒子化させると、紡績性が優れたCNTが得られることが分かった。
【0078】
(実施例3-1)
実施例1-1と全て同じ条件で実施し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
次の試験例では、実施例1-1の製造方法を基本として、CNT合成の条件の一部を変更し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
(実施例3-2)
反応炉を昇温する際の減圧速度を300Pa/秒とした。
(実施例3-3)
反応炉を昇温する際の減圧速度を30Pa/秒とした。
(比較例3-1)
反応炉を昇温する際の減圧速度を400Pa/秒とした。
(比較例3-2)
反応炉を昇温する際の減圧速度を10Pa/秒とした。
【0079】
【表4】
【0080】
以上の結果から、反応炉に基板を挿入した後で、CNT合成温度まで反応炉を昇温する際に、大気圧から反応圧力まで25~305Pa/秒の減圧速度で減圧すると、紡績性が優れたCNTが得られることが分かった。
【0081】
(実施例4-1)
実施例1-1と全て同じ条件で実施し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
次の試験例では、実施例1-1の製造方法を基本として、CNT合成の条件の一部を変更し、紡績用CNTを得た。その紡績性の評価結果を後述の表に示す。
(実施例4-2)
アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.65とした。
(実施例4-3)
アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.40とした。
(実施例4-4)
供給ガスの総流量を変更し、供給ガスの線速度を6.50cm/秒とするとともに、アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.65とした。
(実施例4-5)
供給ガスの総流量を変更し、供給ガスの線速度を2.50cm/秒とするとともに、アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.40とした。
(実施例4-6)
アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.75とした。
(実施例4-7)
アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.30とした。
(実施例4-8)
供給ガスの総流量を変更し、供給ガスの線速度を6.50cm/秒とするとともに、アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.75とした。
(実施例4-9)
供給ガスの総流量を変更し、供給ガスの線速度を2.50cm/秒とするとともに、アセチレンガスと窒素ガスの混合比を変更し、反応炉内のC/N比を0.30とした。
【0082】
【表5】
【0083】
以上の結果から、図7に示す通り、CNT合成時の供給ガスの線速度が2.50~6.50cm/秒であり、かつ供給ガス中の原料ガスの分圧をキャリアガスの分圧で除した値(C/N比)が0.40~0.65であると、紡績性が優れたCNTが得られることが分かった。図7中、丸、三角、菱形の各プロットは実施例4-1~4-9に対応する。点線は特に好ましい領域を示す。
【0084】
<試験例全体に関する考察>
本発明者らは、触媒層を構成する材料とCNT合成時のガス供給条件について検討を行った。比較例1-3及び比較例1-4で例示した通り、触媒層を構成する金属材料として鉄を用いると、触媒層が不均一に形成されてしまうことを発見した。この原因として、触媒層に含まれていた酸素や水分と鉄が反応して部分的に酸化度の低い鉄酸化物となっていることが考えられた。そこで本発明者らは、触媒層の材料として、鉄ではなく鉄酸化物を用い、これを均一な粒子に成長させる方法を検討した。検討の結果、大気圧、不活性雰囲気で鉄酸化物層を粒子成長させ、その後、減圧CVDを実施することで、均一な鉄酸化物粒子が形成でき、この均一粒子を使用することで連続的で紡績可能なCNTを再現性よく合成することが可能となった(実施例1-1~実施例1-3)。
本発明者らは、検討を進め、触媒層を粒子化する工程において、触媒層を加熱・冷却する際の昇温速度と降温速度を調整することにより、より紡績性に優れたCNTを合成できることを見出した(実施例2-1~実施例2-5)。
本発明者らは、さらに鋭意検討を進め、反応炉の減圧速度、反応炉に供給する供給ガスの線速度と供給ガスの成分比率がCNTの合成に影響することを見出し、減圧CVDで連続的に紡績可能なCNTを再現性よく合成することが可能となった(実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1~実施例4-5等)。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、LPCVD法により紡績性に優れた紡績用CNTを製造可能であり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・カーボンナノチューブの製造装置(製造装置)
2・・・ヒータ
2A~2D・・・加熱エリア
3・・・外部反応管
4・・・内部反応管
5・・・空間
6・・・排気管
7・・・真空計
8・・・真空ポンプ
9・・・供給ガス導入管
10A~10D・・・温度計
11・・・断熱材
12・・・縦型ウェハボート
13・・・昇降フランジ
14・・・炉口蓋
15・・・支柱
16・・・溝
17・・・基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7