(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145840
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂組成物及びこれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08L29/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058370
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】井久保 智史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅彦
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BE01W
4J002BE01X
4J002BE02W
4J002BE02X
4J002BE03W
4J002BE03X
4J002FD020
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】溶融成形性に優れたPVA系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】融点の異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物であって、前記2種以上のポリビニルアルコール系樹脂のうちの低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)と高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点差が30~70℃であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物の融点が160~200℃であるポリビニルアルコール系樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物であって、
前記2種以上のポリビニルアルコール系樹脂のうちの低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)と高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点差が30~70℃であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物の融点が160~200℃であるポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項2】
前記低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)の融点が160~195℃であり、前記高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点が200~230℃である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物を40℃/minで250℃から-50℃まで冷却処理をした後、5℃/minで昇温した際に発生する冷結晶化の熱量が14J/g以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項4】
前記低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、側鎖に一級水酸基を含有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物からなるフィルム又はシート。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルム又はシートを少なくとも1層含む多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形性に優れたポリビニルアルコール系樹脂組成物(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」ともいう。)及び当該樹脂組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、成形性、強度、耐水性、透明性等に優れることから、包装材料として広く使用されている。かかる包装材料に用いられるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂が挙げられる。しかしながら、これらのプラスチックは生分解性に乏しく、使用後に自然界に投棄されると、長期間残存して景観を損ねたり、環境破壊の原因となる場合がある。
【0003】
これに対し、近年、土中や水中で生分解、あるいは加水分解され、環境汚染の防止に有用である生分解性樹脂が注目され、実用化が進められている。かかる生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース、変性でんぷん等が知られている。包装材料としては、透明性、耐熱性、強度に優れることから、ポリ乳酸、アジピン酸/テレフタル酸/1,4-ブタンジオールの縮重合物、コハク酸/1,4-ブタンジオール/乳酸の縮重合物等が用いられている。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂は酸素ガスバリア性が不充分であるため、単独では、食品や薬品等の酸化劣化のおそれがある内容物の包装材料として用いることはできない。そこで、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂とPVA系樹脂とを共押出成形等によって積層して積層体とすることがなされている。
【0005】
一般的に生分解性ポリエステルは140~170℃の温度域で成形するが、一方でPVA系樹脂は185℃~220℃の温度域で成形を行うことが知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2などに記載されている。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-312313号公報
【特許文献2】特開2009-196287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低融点のPVA系樹脂を用いれば低温溶融成形は可能である。しかし、低融点のPVA系樹脂は冷却過程の結晶化速度が遅く、結晶化度が低くなるため、昇温過程で冷結晶化が発生してしまう。冷結晶化とは昇温時にガラス転移温度以上の過冷却液体状態から結晶が生成する現象である。冷結晶化の発生により、溶融成形時において押出機の温度プロファイルの最適化が困難となり、ペレットのフィード不良や成形不良が発生するという課題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶融成形性に優れたPVA系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは、低融点のポリビニルアルコール系樹脂に該ポリビニルアルコール系樹脂よりも融点の高い高融点のポリビニルアルコール系樹脂を添加することで、融点上昇を抑制し、且つ冷却過程の結晶化速度が速くなり、昇温過程の冷結晶化を抑制できるという知見を得た。そしてこのようなポリビニルアルコール系樹脂組成物は、低温溶融成形時において押出機の温度プロファイルの最適化が容易となり、ペレットのフィード性や成形性を改善できることを見い出した。
【0010】
すなわち、本発明者らは、融点の異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物であって、この2種以上のポリビニルアルコール系樹脂のうちの低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)と高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点差が30~70℃であり、融点が160~200℃であるポリビニルアルコール系樹脂組成物が、溶融成形性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の態様1は、融点の異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物であって、前記2種以上のポリビニルアルコール系樹脂のうちの低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)と高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点差が30~70℃であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物の融点が160~200℃であるポリビニルアルコール系樹脂組成物である。
【0012】
本発明の態様2は、態様1のポリビニルアルコール系樹脂組成物において、前記低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)の融点が160~195℃であり、前記高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点が200~230℃であるポリビニルアルコール系樹脂組成物である。
【0013】
本発明の態様3は、態様1又は態様2のポリビニルアルコール系樹脂組成物において、前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物を40℃/minで250℃から-50℃まで冷却処理をした後、5℃/minで昇温した際に発生する冷結晶化の熱量が14J/g以下であるポリビニルアルコール系樹脂組成物である。
【0014】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つのポリビニルアルコール系樹脂組成物において、前記低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、側鎖に一級水酸基を含有するポリビニルアルコール系樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂組成物である。
【0015】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つのポリビニルアルコール系樹脂組成物からなるフィルム又はシートである。
【0016】
本発明の態様6は、態様5のフィルム又はシートを少なくとも1層含む多層構造体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂組成物は、溶融成形性が向上している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ポリビニルアルコール系樹脂組成物〕
本発明のポリビニルアルコール(PVA)系樹脂組成物は、融点の異なる2種以上のポリビニルアルコール系樹脂を含み、前記2種以上のPVA系樹脂のうちの融点の低い低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)(以下、低融点PVA系樹脂(A)ともいう。)と低融点ポリビニルアルコール系樹脂(A)よりも融点の高い高融点ポリビニルアルコール系樹脂(B)(以下、高融点PVA系樹脂(B)ともいう。)の融点差が30~70℃であり、PVA系樹脂組成物の融点が160~200℃である。以下、本発明のPVA系樹脂組成物の各成分について順に説明する。
【0019】
<低融点PVA系樹脂(A)及び高融点PVA系樹脂(B)>
本発明のPVA系樹脂組成物で用いられる低融点PVA系樹脂(A)及び高融点PVA系樹脂(B)は、溶融成形に供されるPVA系樹脂であり、未変性PVA系樹脂の他、所望の特性(例えば高いバリア性性)を付与するために、変性用モノマーを共重合した共重合体をケン化して得られる共重合変性PVA系樹脂や、PVA系樹脂を後変性させることで得られる後変性PVA系樹脂も含まれる。
【0020】
本明細書において、特に限定しない場合には、「PVA系樹脂」は、未変性PVA系樹脂、共重合変性PVA系樹脂、後変性PVA系樹脂の総称である。共重合変性PVA系樹脂及び後変性PVA系樹脂を総称する場合、「変性PVA系樹脂」という。
【0021】
1.未変性PVA系樹脂
未変性PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステルをケン化して得られるポリビニルアルコールであり、下記(1)式で表されるビニルアルコール単位、及び未ケン化部分であるビニルエステル単位(下記(2)式)が含まれる。ビニルエステル単位は、ケン化度100%未満の場合に含まれる。
【0022】
【0023】
【0024】
(2)式中、Raは、使用したビニルエステル系モノマーの種類に依存し、例えば酢酸ビニルモノマーを用いた場合は、メチル基となる。
【0025】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0026】
未変性PVA系樹脂の数平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、150~4000であるのが好ましく、より好ましくは200~2000であり、さらに好ましくは250~800であり、特に好ましくは300~600である。
【0027】
未変性PVA系樹脂の平均重合度の指標として、水溶液とした時の粘度を用いてもよい。JIS K6726に準拠して測定した20℃における4質量%水溶液の粘度として、1.5~20mPa・sであるのが好ましく、より好ましくは2~12mPa・sであり、特に好ましくは2.5~8mPa・sである。
【0028】
未変性PVA系樹脂のケン化度は、68~99.9モル%であるのが好ましく、より好ましくは70~99.7モル%であり、特に好ましくは72~99.5モル%である。ケン化度が低すぎると柔軟性が高くなり過ぎて、積層時の形状安定性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K6726に準拠して測定された平均ケン化度である。
【0029】
未変性PVA系樹脂の融点は、重合度、ケン化度にもよるが、融点が160~230℃であるのが好ましく、分解温度が250~350℃であるのが好ましい。
【0030】
なお、通常のPVA系樹脂の場合、主鎖の結合様式は1,3-ジオール結合が主であり、1,2-ジオール結合の含有量は1.5~1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって、1,2-ジオール結合の含有量を増やすことができる。
【0031】
2.変性PVA系樹脂
上記共重合変性PVA系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等が挙げられる。
【0032】
後変性PVA系樹脂としては、例えば、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVA系樹脂と反応させて得られたもの等を挙げることができる。
【0033】
変性PVA系樹脂中の変性量、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、0.1~20モル%の範囲であるのが好ましく、特に0.5~15モル%の範囲が好ましい。
【0034】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、本実施形態においては、親水性の変性基を有するPVA系樹脂が好ましく用いられる。親水性変性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシル基)、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。特に水溶性の観点から、1,2ジオール変性基を有する構造単位を含有するPVA系樹脂が好ましい。
【0035】
1,2ジオール変性基を有する構造単位を含有する変性PVA系樹脂は、ポリビニルアルコールを構成する、下記(1)式で表されるビニルアルコール単位、及び未ケン化部分であるビニルエステル単位(下記(2)式)の他に、側鎖に1,2ジオール変性基を有する構造単位を含む。ビニルエステル単位は、ケン化度100%未満の場合に含まれる。
【0036】
【0037】
【0038】
(2)式中、Raは、使用したビニルエステル系モノマーの種類に依存し、例えば酢酸ビニルモノマーを用いた場合は、メチル基となる。
【0039】
側鎖に1,2ジオール変性基を有する構造単位としては、下記(3)式で表される側鎖1,2-ジオール含有単位が好ましい。
【0040】
【0041】
式(3)中、R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。
【0042】
一般式(3)において、R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等であり、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。より好ましくは水素原子である。R1~R6は、全て同一であっても異なっていてもよいが、好ましくはすべてが水素原子である。すべてが水素原子の場合、側鎖の末端が一級水酸基となることから、酸変性ポリオレフィン系樹脂等の接着性樹脂との反応性が向上し、積層体の形成が容易になるという点から好ましい。
【0043】
式(3)中、Xは単結合又は結合鎖であり、結合鎖(X)としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素基(これらの炭化水素基はフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよい。)、-O-、-(CH2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは1~5の整数である。)が挙げられる。
Xは、製造時あるいは使用時の安定性の点で、単結合、炭素数6以下のアルキレン基(特にメチレン基)、あるいは-CH2OCH2-が好ましく、中でも、熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合が最も好ましい。
【0044】
上記(3)式で表される構造単位としては、R5及びR6が水素原子である側鎖に一級水酸基を有する構成単位が特に好ましく、最も好ましい構造単位は、R1~R6がすべて水素原子であり、Xが単結合である下記(3a)式に示す構造単位である。
【0045】
【0046】
変性PVA系樹脂の変性度(含有量)は、0.1~20モル%であるのが好ましく、より好ましくは0.5~15モル%であり、更に好ましくは1~10モル%であり、特に好ましくは2~8モル%である。かかる変性率が低すぎると酸変性ポリオレフィン系樹脂などの接着性樹脂との反応性が低下する傾向があり、高すぎると結晶化速度が遅くなりすぎて、他の樹脂との積層体を形成する場合に積層体が変形するなど、外観が低下する傾向がある。
【0047】
変性PVA系樹脂の数平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、150~4000であるのが好ましく、より好ましくは200~2000であり、さらに好ましくは250~800であり、特に好ましくは300~600である。かかる平均重合度が低すぎると溶融成形の際に安定した形状を形成することが困難になる傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて成形が困難になる傾向がある。
【0048】
JIS K6726に準拠して測定した20℃における変性PVA系樹脂の4質量%水溶液の粘度は、1.5~20mPa・sであるのが好ましく、より好ましくは2~12mPa・sであり、特に好ましくは2.5~8mPa・sである。当該粘度が低すぎると溶融成形の際に安定した形状を形成することが困難となる傾向があり、高すぎると成形が困難になる傾向がある。
【0049】
変性PVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠して測定した平均ケン化度)は、70~100モル%であるのが好ましく、より好ましくは80~99.9モル%、特に好ましくは85~99.7モル%である。かかるケン化度が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0050】
変性PVA系樹脂の融点は、重合度、ケン化度にもよるが、融点が160~230℃であるのが好ましく、分解温度が250~350℃であるのが好ましい。
【0051】
3.低融点PVA系樹脂(A)及び高融点PVA系樹脂(B)
本発明のPVA系樹脂組成物には、2種類以上のPVA系樹脂を含む。2種類以上のPVA系樹脂は、上述の未変性PVA系樹脂同士、未変性PVA系樹脂と各種変性PVA系樹脂、異なる種類の変性PVA系樹脂の組み合わせ等を挙げることができる。また、同種の変性PVA系樹脂で、ケン化度、重合度、変性率等が異なる変性PVA系樹脂同士の組み合せ等も挙げることができる。
【0052】
PVA系樹脂組成物に含まれるPVA系樹脂のうちの少なくとも2種は、低融点PVA系樹脂(A)と該低融点PVA系樹脂(A)よりも融点の高い高融点PVA系樹脂(B)であり、これらの融点差は30~70℃とする。低融点PVA系樹脂(A)と高融点PVA系樹脂(B)の融点に前記範囲の差があると、冷却過程の結晶化速度が速くなり、昇温過程の冷結晶化を抑制できる。
低融点PVA系樹脂(A)と高融点PVA系樹脂(B)の融点差は、32~66℃であるのが好ましく、より好ましくは35~63℃である。
【0053】
本発明において、低融点PVA系樹脂(A)の融点は160~195℃であるのが好ましく、より好ましくは163~194℃、さらに好ましくは165~193℃である。低融点PVA系樹脂(A)の融点が前記範囲であると、低温域、具体的に160℃から195℃までの温度域で溶融成形ができる。
【0054】
また、高融点PVA系樹脂(B)の融点は200~230℃であるのが好ましく、より好ましくは205~229℃、さらに好ましくは210~228℃である。高融点PVA系樹脂(B)の融点が前記範囲であると、低温成形時の加工性が改善できる。
【0055】
低融点PVA系樹脂(A)及び高融点PVA系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、それぞれ、1~100g/10分であるのが好ましく、より好ましくは2~50g/10分、特に好ましくは3~30g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、成形物の機械強度が低下する傾向があり、小さすぎる場合には押出加工性が低下する傾向がある。
【0056】
なお、低融点PVA系樹脂(A)と高融点PVA系樹脂(B)との組み合わせについては、溶融成形時の樹脂流れ性が同程度となるように、MFR(210℃、荷重2160g)の差(ΔMFR)が5g/10分以下とすることが好ましく、より好ましくは3g/10分以下となるように調整することが好ましい。
【0057】
本発明のPVA系樹脂組成物は、低融点PVA系樹脂(A)を主成分とするのが好ましい。すなわち、PVA系樹脂組成物における低融点PVA系樹脂(A)含有量は、70質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。低融点PVA系樹脂(A)の含有量が70質量%以上であると低温溶融成形ができる。
低融点PVA系樹脂(A)の含有量は、低温成形時の加工性の観点から、99.995質量%以下であるのが好ましく、99.99質量%以下がより好ましく、99.95質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
一方、高融点PVA系樹脂(B)はPVA系樹脂組成物において副成分であり、PVA系樹脂組成物における高融点PVA系樹脂(B)含有量は、0.004~9質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01~7質量%であり、さらに好ましくは0.05~5%質量%である。高融点PVA系樹脂(B)の含有量が前記範囲であると低温成形時の加工性が改善できる。
【0059】
PVA系樹脂組成物中に含有される高融点PVA系樹脂(B)に対する低融点PVA系樹脂(A)の質量配合比率〔低融点PVA系樹脂(A)/高融点PVA系樹脂(B)〕は、99.995/0.005~91/9の範囲であるのが好ましく、より好ましくは99.99/0.01~93/7、さらに好ましくは99.95/0.05~95/5である。高融点PVA系樹脂(B)の比率が小さすぎる場合には、ペレットのフィード不良や成形不良が発生する傾向があり、一方で大きすぎる場合には、融点が高くなるため低温溶融成形時に未溶融物が発生し、成形不良が発生する傾向がある。
【0060】
<その他の成分>
【0061】
1.可塑剤
本発明のPVA系樹脂組成物において、本発明の効果(溶融成形性)を損なわない範囲内で可塑剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えば、脂肪族多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン等)、多価アルコールへエチレンオキサイドを付加した化合物、各種アルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの混合付加体等)、糖類(例えば、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール、キシロール、アラビノース、リブロース等)、ビスフェノールAやビスフェノールS等のフェノール誘導体、N-メチルピロリドン等のアミド化合物、α-メチル-D-グルコシド等のグルコシド類等が挙げられる。
【0062】
2.その他の樹脂
本発明のPVA系樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば組成物の30質量%未満)で他の重合体を含有していてもよい。含有しうる重合体としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0063】
3.その他の添加剤
また、本発明の効果を阻害しない範囲(組成物の10質量%以下)で、必要に応じて、補強剤、充填剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤などが含有されてもよい。
【0064】
以上のような組成を有する本発明のPVA系樹脂組成物は、PVA系樹脂の改善された特性を損なうことなく、溶融成形性が向上する。
【0065】
<PVA系樹脂組成物の製造方法>
本発明のPVA系樹脂組成物は、前記必須成分である低融点PVA系樹脂(A)および高融点PVA系樹脂(B)と必要に応じて配合される上記の各任意成分を用いて製造される。以上のような組成を有するPVA系樹脂組成物の製造方法として、(i)二軸押出機により混錬する方法、(ii)バッチニーダーにより混錬する方法などが挙げられる。好ましくは(i)の方法であり、安定的に且つ効率良くペレット形状の樹脂組成物を得ることができる。
【0066】
本発明のPVA系樹脂組成物は、融点が160~200℃である。PVA系樹脂組成物の融点が160℃以上であると冷却過程の結晶化速度が速くなり、昇温過程の冷結晶化を抑制でき、200℃以下であると低温溶融成形ができる。
PVA系樹脂組成物の融点は、163~194℃であるのが好ましく、より好ましくは165~193℃である。
【0067】
また、本発明のPVA系樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)の測定において、250℃から-50℃まで40℃/minの冷却速度で冷却処理をした後、5℃/minで昇温した際に発生する冷結晶化の熱量が14J/g以下であるのが好ましい。前記熱量が14J/g以下であると低温溶融成形時において押出機の温度プロファイルの最適化が容易となり、ペレットのフィード性や成形性を改善できる。冷結晶化の熱量は、より好ましくは12J/g以下であり、さらに好ましくは10J/g以下である。冷結晶化の熱量は小さいほど好ましいため下限は特に限定されない。
【0068】
〔PVA系樹脂組成物の溶融成形体及びその製造方法〕
本発明のPVA系樹脂組成物は、溶融成形可能であり、熱可塑性樹脂で一般に行われる溶融押出成形方法を採用することができる。
したがって、本発明のPVA系樹脂組成物は、ガスバリア性が求められる溶融成形体、特に溶融成形フィルム、延伸フィルム、シートからなる袋及びカップ、トレイ、チューブ、ボトルなどからなる容器や蓋材などの用途に用いることができる。
フィルム、容器は、本発明のPVA系樹脂組成物単独(単層)からなるフィルム、容器であってもよいが、本発明のPVA系樹脂組成物からなるフィルム又はシートを少なくとも1層含み、他の熱可塑性樹脂、紙類などとともに積層した2層以上の多層構造体として用いてもよい。多層構造体において、本発明のPVA系樹脂組成物層は、ガスバリア層としての役割を有する。
【0069】
本発明のPVA系樹脂組成物層をガスバリア層として含む多層構造体としては、例えば、コーヒーカプセル、シュリンクフィルムなどの食品包装材料、薬品包装材料、化粧水やファンデーションのケースなどの化粧品類の包装材料、金属部品類の包装材料、電子部品の包装材料、酸化や吸湿による特性低下を抑制すべき物品類の包装材料、匂い移り、匂い漏れが気になる物質の包装材料や、マルチシート、燻蒸用シート、育苗用トレイ、被覆用シートなどの各種農業用シートや農業用資材に用いられる多層構造体などが挙げられる。
【0070】
適用できる溶融成形法としては、射出成型、押出成形などが挙げられる。押出成形は、特にフィルム、シートの成型方法として好適であり、Tダイ成形法、インフレーション成形法(tubular film法)などが挙げられる。単層押出だけでなく、多層押出であってもよい。フィルムを積層した多層構造体の製造には、多層押出(共押出成形)が好適である。
【0071】
得られたフィルム、シートは、1軸又は2軸延伸などの二次加工を施してもよい。本発明のPVA系樹脂組成物は延伸性に優れることから、フィルム強度アップ、ガスバリア性のさらなる向上のために、延伸処理を施すことは好ましい。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0073】
〔測定評価方法〕
1.ケン化度(モル%)
JIS K6726に準拠して測定した。
【0074】
2.数平均重合度
JIS K6726に準拠して測定した。
【0075】
3.変性度(モル%)
PVA系樹脂の合成時の共重合モノマーの仕込み量から求めた。
【0076】
4.融点の測定
低融点PVA系樹脂(A)、高融点PVA系樹脂(B)、及びPVA系樹脂組成物の融点は、示差走査熱量計(DSC、Q2000,TA instrument製)で測定した値である。測定条件は以下の通りである。
1strun:-50℃~250℃、5℃/min、温度変調の振幅±0.796℃、周期60sec、
Cooling:250℃~-50℃、40℃/min、
2ndrun:-50℃~250℃、5℃/min、温度変調の振幅±0.796℃、周期60sec、
2ndrunの可逆熱流(Reversing Heat Flow)の140~230℃の範囲で発生する吸熱ピークから融点を測定した。
【0077】
5.冷結晶化熱量測定
低融点PVA系樹脂(A)、高融点PVA系樹脂(B)、及びPVA系樹脂組成物の冷結晶化熱量は、示差走査熱量計(DSC)で測定した値である。測定条件は以下の通りである。
1strun:-50℃~250℃、5℃/min、温度変調の振幅±0.796℃、周期60sec、
Cooling:250℃~-50℃、40℃/min、
2ndrun:-50℃~250℃、5℃/min、温度変調の振幅±0.796℃、周期60sec、
2ndrunの不可逆熱流(Non―Reversing Heat Flow)のガラス転移温度から融解温度間の温度域で発生する発熱ピークから冷結晶化熱量を測定した。
【0078】
6.溶融成形評価
ストランドダイスを設置したφ40mm単軸押出機に、ペレットを30分間投入し、以下の成形温度で溶融成形を行った。その際、ペレットのフィード性、溶融樹脂温度、加工性を評価した。
成形温度:C1/C2/C3/C4/Head/Adapter/Die=170/190/190/180/180/180/180(℃)
【0079】
<フィード性>
1分間吐出量を測定し(N=5)、フィード性を評価した。
A(良):吐出量の標準偏差σが3以下
B(不良):ストランドダイスから樹脂が吐出されない、あるいは吐出量の標準偏差σが3超
【0080】
<溶融樹脂温度>
押出機Head部分にある熱電対温度計により樹脂温度を測定した。
【0081】
<加工性>
1分間吐出されたストランド中に、未溶融物が含まれるか評価した。
A(良):未溶融物が5つ以下
B(不良):未溶融物が6つ以上
【0082】
〔樹脂組成物の調製及び評価〕
(実施例1)
低融点PVA系樹脂(A)として、(3a)式に示す構造単位を有する側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂を用いた。使用した側鎖1,2-ジオール含有PVA系樹脂は、変性度(側鎖1,2-ジオール単位の含有率)8モル%、JIS K6726に準拠して測定したケン化度99モル%、JIS K6726に準拠して測定した重合度は450、上記測定方法により測定した融点は169℃であった。
【0083】
高融点PVA系樹脂(B)として、未変性PVA系樹脂を用いた。使用した未変性PVA系樹脂は、JIS K6726に準拠して測定したケン化度99モル%、JIS K6726に準拠して測定した重合度は450、上記測定方法により測定した融点は227℃であった。
【0084】
低融点PVA系樹脂(A)99.9質量%、高融点PVA系樹脂(B)0.1質量%を二軸押出機TEM-18DS(芝浦機械株式会社製)を用いて下記の条件で溶融混錬することにより、PVA系樹脂組成物ペレットを作製した。PVA系樹脂組成物の融点は169℃であった。
【0085】
直径(D)20mm
L/D=48
スクリュ回転数:300rpm
設定温度:
C1/C2/C3/C4/C5/C6/D=160/200/200/210/210/200/200(℃)
スクリューパターン:2箇所練りスクリュ
スクリーンメッシュ:90/120/90mesh
【0086】
作製した樹脂組成物ペレットについて、上記測定評価方法に基づき冷結晶化熱量測定及び溶融成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
(実施例2~6、比較例1~5)
表1の組成の通りにPVA系樹脂組成物を作製し、実施例1と同様に冷結晶化熱量測定及び溶融成形評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
表2に示すように、比較例1、3、4、5では、PVA系樹脂組成物の冷結晶化熱量が大きく、溶融成形時にフィード不良が発生したことから、溶融成形性が不良であることが分かる。また比較例2では、PVA系樹脂組成物の融点が高くなり、溶融成形時に未溶融物が発生したことから、溶融成形性が不良であった。一方で本発明のPVA系樹脂組成物を用いた実施例1~6では、PVA系樹脂組成物の冷結晶化熱量は小さく、且つ融点上昇は殆どないため、押出成形時のフィード性は良好であり、また未溶融物の発生は見られなかった。かかる結果より、本発明のPVA系樹脂組成物は溶融成形性が良好であることが分かる。
【0091】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。