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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145870
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】溶射用粉末
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/11 20160101AFI20241004BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20241004BHJP
   C01F 17/34 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
C23C4/11
C04B41/87 K
C01F17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058418
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】関 康平
【テーマコード(参考)】
4G076
4K031
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB02
4G076BA24
4G076BA47
4G076BC08
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA30
4K031CB02
4K031CB05
4K031CB18
4K031CB49
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】溶射皮膜において、緻密性を高め、かつ、表面粗さを低下させるとともに、分相の割合を低下させる技術を提供する。
【解決手段】ここで開示される溶射用粉末は、複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する溶射用粉末である。溶射用粉末について、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において、小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10が10μm以上であり、かつ、小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50が40μm以下である。1気圧の条件下において、複数の金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である。かかる構成の溶射用粉末を用いることによって、溶射皮膜において、緻密性を高め、かつ、表面粗さを低下させるとともに、分相の割合を低下させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する溶射用粉末であって、
レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10が10μm以上であり、かつ、
レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50が40μm以下であり、
1気圧の条件下において、複数の前記金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である、溶射用粉末。
【請求項2】
前記複酸化物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなるランタノイド元素、Si、およびGeからなる半金属元素、Al、およびGaからなる典型元素、並びにSc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、およびWからなる遷移元素から少なくとも2以上を含有する、請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
Al、Si、Y、Zr、およびYbの群から少なくとも2以上を含有する、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
複数の前記金属酸化物は、Al、SiO、Y、ZrO、および、Ybのうちの少なくとも2つを含む、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
とAlとの複酸化物、YbとSiOとの複酸化物、または、SiOとAlとの複酸化物を含む、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項6】
YAlO、YAl、YAl12、YbSi、または、3Al・2SiOを含む、請求項5に記載の溶射用粉末。
【請求項7】
前記粒子径D50が23μm以上38μm以下である、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項8】
前記粒子径D10が12μm以上21μm以下である、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項9】
前記複酸化物の一次粒子が相互に結合された二次粒子で構成されている、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項10】
前記二次粒子は、造粒焼結粒子である、請求項9に記載の溶射用粉末。
【請求項11】
前記複酸化物の溶融粉砕粉で構成されている、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶射用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている溶射用粉末は、イットリウムとアルミニウムとを含む複酸化物の造粒焼結粉末を含有している。造粒焼結粉末は、一次粒子を造粒および焼結して得られる二次粒子からなる。また、二次粒子の圧壊強度は、15MPa以上である。溶射用粉末の10%粒子径は、6μm以上である。また、溶射用粉末のX線回折を測定したとき、複酸化物中のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピークと、複酸化物中のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピークと、複酸化物中の単斜晶相の(-122)面に由来するX線回折ピークと、のうちの最大ピークの強度に対するイットリアの(222)面に由来するX線回折ピークの強度の比率が、20%以下である。同公報には、かかる溶射用粉末を用いることによって、イットリウムとアルミニウムとを含む複酸化物の溶射皮膜を良好に形成することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4560387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複酸化物を含有する溶射用粉末を用いる場合に、緻密性が高く、かつ、表面粗さが低い溶射皮膜を得るとともに、溶射皮膜における分相の割合を低下させることが求められている。
【0005】
このような状況に鑑み、本発明は、溶射皮膜において、緻密性を高め、かつ、表面粗さを低下させるとともに、分相の割合を低下させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示される溶射用粉末は、複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する溶射用粉末である。溶射用粉末について、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径(以下、「粒子径D10」と称することがある)が10μm以上であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径(以下、「粒子径D50」と称することがある)が40μm以下である。1気圧の条件下において、複数の金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である。かかる構成の溶射用粉末を用いることによって、溶射皮膜において、緻密性を高め、かつ、表面粗さを低下させるとともに、分相の割合を低下させることができる。
【0007】
ここで開示される溶射用粉末の好ましい一態様では、複酸化物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなるランタノイド元素、Si、およびGeからなる半金属元素、Al、およびGaからなる典型元素、並びにSc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、およびWからなる遷移元素から少なくとも2以上を含有する。かかる構成によると、上述の元素のうちの少なくとも2つを含む溶射用粉末を用いることによって、ここで開示される技術の効果を適切に実現することができる。
【0008】
好ましい一態様では、ここで開示される溶射用粉末は、Al、Si、Y、Zr、およびYbの群から少なくとも2以上を含有する。かかる構成によると、上述の元素のうちの少なくとも2つを含む溶射用粉末を用いることによって、ここで開示される技術の効果を適切に実現することができる。
【0009】
ここで開示される溶射用粉末の好ましい一態様では、複数の金属酸化物は、Al、SiO、Y、ZrO、および、Ybのうちの少なくとも2つを含む。かかる構成によると、上記金属酸化物のうちの少なくとも2つを含む複酸化物の溶射用粉末を用いることによって、ここで開示される技術の効果を適切に実現することができる。
【0010】
また、好ましい他の一態様では、ここで開示される溶射用粉末は、YとAlとの複酸化物、YbとSiOとの複酸化物、または、SiOとAlとの複酸化物を含む。上記複酸化物を含む複酸化物の溶射用粉末を用いることによって、ここで開示される技術の効果を適切に実現することができる。
【0011】
好ましくは、ここで開示される溶射用粉末は、YAlO、YAl、YAl12、YbSi、または、3Al・2SiOを含む。上記複酸化物を含む複酸化物の溶射用粉末を用いることによって、ここで開示される技術の効果を適切に実現することができる。
【0012】
また、好ましい他の一態様では、ここで開示される溶射用粉末の粒子径D50は、23μm以上38m以下である。かかる構成によると、溶射皮膜における分相の割合を低下させる効果をより高めることができる。これに加えて、溶射皮膜の表面粗さが増大するのを抑制することができる。
【0013】
また、好ましい他の一態様では、ここで開示される溶射用粉末の粒子径D10は、12μm以上21μm以下である。かかる構成によると、溶射皮膜の表面粗さの増加を抑制することができる。これに加えて、溶射皮膜の表面粗さが増大するのを抑制することができる。
【0014】
また、好ましい他の一態様では、ここで開示される溶射用粉末は、複酸化物の一次粒子が相互に結合された二次粒子で構成されている。かかる構成によると、溶射皮膜における分相の発生がより抑制される傾向にある。
【0015】
好ましくは、二次粒子は、造粒焼結粒子である。かかる構成によると、溶射皮膜における分相の発生がより一層抑制される傾向にある。
【0016】
また、好ましい他の一態様では、ここで開示される溶射用粉末は、複酸化物の溶融粉砕粉で構成されている。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果が適切に実現される。また、より簡便に溶射用粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、例1の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図2図2は、例2の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図3図3は、例3の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図4図4は、例4の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図5図5は、例5の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図6図6は、例6の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図7図7は、例7の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図8図8は、例8の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図9図9は、例9の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図10図10は、例10の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図11図11は、例11の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図12図12は、例12の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図13図13は、例13の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
図14図14は、例14の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握されうる。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施されうる。なお、明細書において数値範囲を示す「X~Y」との表記は、特筆しない限り「X以上Y以下」を意味するとともに、「Xを上回り、Yを下回る」範囲、「Xを上回り、Y以下である」範囲、および、「X以上であり、Yを下回る」範囲をも意味するものとする。
【0019】
<定義>
本明細書において、「溶射用粉末」とは、溶射に用いられる粉末状の材料をいう。また、本明細書において、「複合粒子」とは、相互に異なる複数の材料によって構成された粒子であって、該複数の材料が相互に結合されて一体となって一つの粒子として振る舞う粒子状物(粒子の形態をなしたもの)をいう。複合粒子としては、例えば、少なくとも2種類以上の材料で構成された造粒粒子、造粒焼結粒子等が挙げられる。また、本明細書において、「一次粒子」とは、溶射用粉末を構成している形態的な構成要素のうち、外観から粒状物として識別できる最小単位を意味する。したがって、ここで開示される溶射用粉末を構成する複合粒子が二次粒子を含む場合は、例えば、該二次粒子を構成する粒子が一次粒子と呼称される。ここで、「二次粒子」とは、一次粒子が三次元的に結合され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物をいう。ここでいう「二次粒子」としては、例えば、造粒粒子、造粒後に焼結された粒子(造粒焼結粒子)が挙げられる。
【0020】
なお、ここでいう「結合」は、直接的または間接的に、2つ以上の一次粒子が結びつくことをいう。「結合」には、例えば、化学反応による一次粒子同士の結合、単純吸着によって一次粒子同士が引き合う結合、一次粒子表面の凹凸に接着材等を入り込ませるアンカー効果を利用した結合、静電気により引き合う効果を利用した一次粒子同士の結合、一次粒子の表面が溶融して一体化した結合等が含まれる。また、2つ以上の材料から構成された二次粒子に関して、「結合」には、一方の材料が一次粒子を構成し、他方の材料が溶融して一次粒子同士を一体化した結合が含まれる。また、本明細書において、「原料粒子」という場合は、ここで開示される溶射用粉末を作製するために用いられる原料段階の粉末を構成する粒子をいう。
【0021】
<粒子径の測定方法>
本明細書において、「粒子径D10」とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径をいう。また、「粒子径D50」とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径をいう。粒子径の測定には、例えば、市販の測定装置が用いられる。
【0022】
複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する溶射用粉末を溶射すると、例えば、スプラット(溶融して扁平化した粒子)間において組成に差が生じ、組成が不均質な溶射皮膜が形成されることがある。例えば、複酸化物に含まれる複数の金属酸化物において、相対的に沸点の低い金属酸化物が溶射中に気化することによって、溶射皮膜中には、複酸化物からなる主相の他に、変質相が局所的に形成されることがある。変質相は、相対的に沸点の高い金属酸化物からなる相、あるいは、相対的に沸点の高い金属酸化物がより多く含まれる相でありうる。本発明者は、かかる複酸化物を溶射して溶射皮膜を作製するときに、溶射皮膜における分相の割合(すなわち、変質相の割合)を低下させたい、と考えた。このため、本発明者は、溶射用粉末の構成を検討した。
【0023】
<溶射用粉末の構成>
ここで開示される溶射用粉末は、例えば、複酸化物を含有する。溶射用粉末は、複酸化物粉末からなることが好ましいが、複酸化物粉末の製造過程等に由来する不可避的不純物を含みうる。溶射用粉末全体に対する不可避的不純物の含有割合は、概ね5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下が特に好ましく、0質量%に近いほどよい。
【0024】
複酸化物は、例えば、複数の金属酸化物を含む。ここでは、1気圧の条件下において、複数の金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差が、500℃以上である。複酸化物に含まれる複数の金属酸化物について、沸点の最大値と最小値との差が大きくなるほど、形成される溶射皮膜において、分相が生じやすくなるといえる。このため、ここで開示される技術の効果をよりよく実現する観点から、上述の沸点の最大値と最小値との差は、例えば700℃以上がよく、1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましく、1200℃以上あるいは1300℃以上がさらに好ましい。一方で、同様の観点から、上述の沸点の最大値と最小値との差は、概ね3000℃以下がよく、例えば2500℃以下、あるいは2300℃以下であってもよい。
【0025】
複数の金属酸化物は、種々の金属酸化物のうちから選ばれた、1気圧の条件下における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上となる少なくとも2つの金属酸化物を含むとよい。金属酸化物としては、例えば、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等の半金属元素;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等の典型元素;スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の遷移元素;ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ユウロピウム(Er)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等のランタノイド元素;の酸化物が挙げられる。
【0026】
金属酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、イットリア、クロミア、チタニア、酸化コバルト、マグネシア、シリカ、カルシア、セリア、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ルテチウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化タンタル、酸化テルビウム、酸化ユーロピウム、酸化ガドリニウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化プラセオジム、酸化イッテルビウム、酸化ネオジム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0027】
なお、金属酸化物の沸点としては、例えば、以下の文献1~文献3等を参照することができる。
・文献1:
ゲ・ヴェサムソノフ. 最新酸化物便覧-物理的化学的性質-, 第2改訂増補版. 日・ソ通信社, 1979, 209.
・文献2:
足立吟也. 希土類の科学. 化学同人, 1999, 198.(引用元:HAIRE, R. G., et al. Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earth, vol. 18: Lanthanide/Actinide Chemistry. 1994.)
・文献3:
日本化学会. 化学便覧基礎編(改訂6版).2021.
【0028】
例えば、Ga、GeO、およびTaの沸点に関しては、上記文献1(ゲ・ヴェサムソノフ. 最新酸化物便覧-物理的化学的性質-, 第2改訂増補版. 日・ソ通信社, 1979, 209.)に記載の沸点を参照することができる。Yb、CeO、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、およびPrの沸点に関しては、上記文献2(足立吟也. 希土類の科学. 化学同人, 1999, 198.(引用元:HAIRE, R. G., et al. Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earth, vol. 18: Lanthanide/Actinide Chemistry. 1994.))に記載の沸点を参照することができる。Y、Al、SiO、ZrO、WO、およびLaの沸点に関しては、上記文献3(日本化学会. 化学便覧基礎編(改訂6版).2021.)に記載の沸点を参照することができる。なお、SiOの沸点に関しては、トリジマイトの沸点(2230℃)を参照する。
【0029】
ここで開示される技術の効果を好ましく実現する観点から、複酸化物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等のランタノイド元素;Si、Ge等の半金属元素;Al、Ga等の典型元素;Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W等の遷移元素;のうちの少なくとも2以上を含有することが好ましい。
【0030】
ここで開示される技術の効果を好ましく実現する観点から、溶射用粉末は、Al、Si、Y、Zr、およびYbの群から少なくとも2以上を含有するとよい。溶射用粉末は、かかる5種類の元素のうちの少なくとも2つの元素を含む複酸化物を含有するとよい。かかる複酸化物に含まれる金属酸化物は、例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、イットリア(Y)、ジルコニア(ZrO)、および、酸化イッテルビウム(Yb)のうちの少なくとも1つまたは2つを含むとよい。複酸化物は、例えば、イットリア(Y)とアルミナ(Al)との複酸化物、酸化イッテルビウム(Yb)とシリカ(SiO)との複酸化物、または、シリカ(SiO)とアルミナ(Al)との複酸化物であることが好ましい。
【0031】
このとき、複酸化物は、例えば、YAlO(イットリウムアルミニウムペロブスカイト;YAP)、YAl(イットリウムアルミニウムモノクリニック;YAM)、YAl12(イットリウムアルミニウムガーネット;YAG)、YbSi(イッテルビウムジシリケート;YbDS)、または、3Al・2SiO(ムライト)を含有しうる。複酸化物がかかる化合物を含有することによって、溶射皮膜における分相の割合をよりよく低下させることができる。あるいは、複酸化物は、例えば、ジルコニア(ZrO)とアルミナ(Al)との複酸化物、ジルコニア(ZrO)とシリカ(SiO)との複酸化物、酸化イッテルビウム(Yb)とアルミナ(Al)との複酸化物、あるいは、イットリア(Y)とシリカ(SiO)との複酸化物を含有してもよい。あるいは、複酸化物は、例えばイットリア(Y)とアルミナ(Al)とシリカ(SiO)との複酸化物等、三成分またはそれ以上の成分を含む複酸化物を含有してもよい。
【0032】
複酸化物は、上記のものに限定されない。複酸化物は、例えば、酸化ハフニウム(HfO)とアルミナ(Al)との複酸化物、酸化ハフニウム(HfO)とシリカ(SiO)との複酸化物、チタニア(TiO)とシリカ(SiO)との複酸化物、酸化ランタン(La)とシリカ(SiO)との複酸化物、酸化ランタン(La)とアルミナ(Al)との複酸化物を含有してもよい。
【0033】
ところで、本発明者の検討により、複酸化物を含有する溶射用粉末における小粒子の割合が増加すると、溶射中に相対的に沸点の低い金属酸化物が気化して、溶射皮膜に分相が生じやすくなることがわかった。また、本発明者は、溶射用粉末における大粒子の割合が増加すると、溶射皮膜の気孔率が高くなったり、表面粗さが増加したりする傾向を見出した。そして、本発明者の鋭意検討の結果、所定の粒度分布を有する溶射用粉末を用いることによって、複酸化物を含有する溶射用粉末の溶射皮膜において、緻密性を高め、かつ、表面粗さを低下させるとともに、分相の割合を低下させることができるとわかった。
【0034】
ここで開示される溶射用粉末は、例えば、粒子径D10が10μm以上であるとよい。粒子径D10が大きくなるほど、例えば、溶射用粉末全体の粒度分布において、小粒子の割合が減少する。また、粒子径D10が大きくなるほど、溶射皮膜における分相の割合が低下する傾向がある。かかる観点から、粒子径D10は、11μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。一方で、溶射皮膜の表面粗さの増大を抑制する観点から、粒子径D10は、例えば40μm以下であり、35μm以下が好ましく、33μm以下がより好ましく、30μm以下がより好ましく、27.5μm以下がより好ましく、21μm以下がさらに好ましい。好ましい一態様では、粒子径D10は、12μm~21μmである。
【0035】
また、ここで開示される溶射用粉末は、粒子径D50が40μm以下であるとよい。粒子径D50が小さくなるほど、溶射皮膜の緻密性が高くなり、表面粗さが減少する傾向がある。かかる観点から、粒子径D50は、38μm以下がよく、33μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。一方で、溶射皮膜における分相の割合が増加するのを抑制する観点から、粒子径D50は、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、23μm以上がさらに好ましい。好ましい一態様では、粒子径D50は、23μm~38μmである。
【0036】
ここで開示される溶射用粉末は、例えば、複酸化物に含まれる複数種類の金属酸化物粒子(金属酸化物粉末)を混合することによって作製された複合粒子で構成されうる。複合粒子は、複数種類の金属酸化物粒子という相互に異なる材料を含む粒子であるが、それぞれが相互に一体化されており、1つの粒子として振る舞う。溶射用粉末は、例えば、複酸化物の一次粒子が相互に結合された二次粒子(複合粒子)で構成されているとよい。溶射用粉末が複酸化物の二次粒子(複合粒子)で構成されることによって、溶射中に相対的に沸点の低い金属酸化物が気化するリスクを低減することができる。これによって、溶射皮膜における分相の割合を低減させることができる。
【0037】
二次粒子(複合粒子)の形態は、例えば、複酸化物の一次粒子が一体化されており、ここで開示される技術の効果を実現することができる限りは、限定されない。ここで開示される溶射用粉末は、例えば、造粒焼結粒子を含むことが好ましい。換言すれば、上記二次粒子は、好ましくは、造粒焼結粒子である。この場合において、まず、造粒粒子が作製されるとよい。この場合、造粒粒子は、例えば、複酸化物に含まれる複数種類の金属酸化物粒子(一次粒子)と、他の任意の成分(例えばバインダ、溶媒等)とを合わせて混合して造粒することによって、作製されうる。あるいは、造粒粒子は、複酸化物の一次粒子と、他の任意の成分(例えばバインダ、溶媒等)とを合わせて混合して造粒することによっても、作製されうる。
【0038】
造粒焼結粒子では、複酸化物の一次粒子が、焼結によって一体化されている。かかる結合は、例えば複酸化物の一次粒子の少なくとも一部が焼結することによって実現されている。このため、造粒焼結粒子では、焼結によって、一次粒子どうしがより強固に結合されており、溶射の過程において、二次粒子がより壊れにくくなっている。これによって、相対的に沸点の低い金属酸化物が気化しにくくなるため、溶射皮膜における分相の割合を低下させることができる。また、各複酸化物に含まれる酸化物の沸点差が所定の値以上であることで、相対的に沸点の低い金属酸化物の気化を抑制することができ、延いては、溶射皮膜における分相の割合を低下させることができる。
【0039】
<溶射用粉末の製造方法>
ここで開示される溶射用粉末は、例えば、原料粒子(原料粉末)として、溶射用粉末の材料たる複酸化物に含まれる複数種類の金属酸化物粒子(金属酸化物粉末)が、他の任意成分と合わせて混合され、かつ、複合化され、さらに焼結されることによって調製されうる。溶射用粉末は、例えば、各原料粒子(一次粒子)が混合され、かつ、造粒され、さらに焼結されることによって形成された、各一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子としての造粒焼結粒子によって構成された溶射用粉末であるとよい。
【0040】
ここで開示される溶射用粉末が造粒焼結粒子で構成されている場合、溶射用粉末を製造する方法は、例えば、造粒工程と、焼成工程と、解砕工程と、分級工程と、を含みうる。
【0041】
造粒工程は、例えば、原料粒子を造粒する工程である。この工程では、例えば、溶射用粉末に含まれる複酸化物について所望の組成比を実現することができるように、複数種類の金属酸化物粒子を用意し、必要に応じてその表面を保護剤等により安定化させる。次いで、かかる安定化された原料粒子と、必要に応じて添加された任意成分としてのバインダ、種々の添加剤(例えば分散剤)等とともに適切な溶媒に分散させて、分散液を用意する。原料粒子の溶媒への分散には、例えば、ホモジナイザー、翼式撹拌機等の混合機、分散機等が用いられる。次いで、例えば、湿式造粒等の造粒方法を用いることによって、得られた分散液を用いて、造粒粒子を作製する。
【0042】
造粒方法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹枠造粒法、破砕造粒法、溶融造粒法、噴霧造粒法、マイクロエマルション造粒法等が挙げられる。なかでも好適な造粒方法として、噴霧造粒法が挙げられる。噴霧造粒法によると、上述のように得られた分散液(噴霧液)から液滴が形成される。液滴が気流に載せられて噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)を通過されることによって、造粒粒子が作製される。
【0043】
また、噴霧液における原料粒子の濃度は、例えば、10質量%~80質量%であることが好ましい。また、添加されるバインダとしては、例えば結合剤(例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂等が挙げられる。溶媒としては、例えば、水が用いられうる。バインダの添加量は、原料粒子の質量に対して0.05質量%~10質量%(例えば1質量%~5質量%)の割合で調整されることが好ましい。
【0044】
焼成工程は、例えば、造粒粒子を焼成する工程である。焼成工程では、造粒粒子は、大気雰囲気;窒素雰囲気、希ガス雰囲気等の不活性雰囲気;真空中;において、所定の温度(概ね1000℃~2000℃)にて、1時間~10時間焼成される。かかる所定の温度は、例えば、焼成炉の設定温度であるとよい。造粒粒子を焼成する際の温度と時間とは、溶射用粉末に所望する組成等を実現できるように適宜設定されうる。
【0045】
解砕工程は、例えば、焼成工程で得られた焼成物を解砕する工程である。焼成物は、例えば、粉砕機によって解砕されるとよい。粉砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、石臼式粉砕機等が好ましく用いられる。解砕工程によって、一次粒子が間隙をもって結合(焼結)された二次粒子の形態の造粒焼結粒子が作製されうる。なお、この工程において焼成物が解砕される際の程度は、例えば、所望する二次粒子の粒度分布を実現できるように適宜設定されうる。
【0046】
分級工程は、例えば、解砕工程で得られた二次粒子の分級処理を実施する工程である。これによって、二次粒子の粒度分布が所望するもの調整されうる。分級処理には、例えば、篩による分級の他、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機等の分級機が用いられる。
【0047】
溶射用粉末の製造方法としては、上述のとおり、溶射用粉末が造粒焼結粒子で構成される場合について説明した。しかし、溶射用粉末は、必ずしも造粒焼結粒子で構成されなくてもよい。溶射用粉末は、他の形態において、複酸化物の溶融粉砕粉で構成されてもよい。溶融粉砕粉の製造では、例えば、まず、原料として複酸化物粉末を用意する。次いで、複酸化物粉末を電気炉等で加熱溶融し、複酸化物の融液を得る。次いで、複酸化物の融液を急冷凝固させ、凝固物を得る。次いで、凝固物を解砕して分級することによって、溶射用粉末としての複酸化物の溶融粉砕粉を作製することができる。溶射用粉末を複酸化物の溶融粉砕粉で構成することによって、より簡便に溶射用粉末を得ることができる。
【0048】
<溶射用粉末の用途>
ここで開示される溶射用粉末を各種の溶射法により溶射することによって、各種の基材に溶射皮膜を作製することができる。溶射用粉末は、大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)、減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等のプラズマ溶射法によって溶射皮膜を作製するのに、特に好ましく用いられうる。また、溶射用粉末は、その他、酸素支燃型高速フレーム(High Velocity Oxygen Flame:HVOF)溶射法、ウォームスプレー溶射法、空気支燃型(High Velocity Air flame:HVAF)高速フレーム溶射法等の高速フレーム溶射にも好適に用いられうる。溶射用粉末は、粉末状態で溶射装置に供給されてもよく、適切な分散媒に分散したスラリーの状態で溶射装置に供給されてもよい。
【0049】
溶射皮膜を作製するために使用される基材の種類は、特に制限されない。基材としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、ビスマス、マンガン、亜鉛、亜鉛合金等が挙げられる。なかでも、汎用されている金属材料のうち、耐食性構造用鋼として使用されている、各種SUS材(いわゆるステンレス鋼であり得る。)等に代表される鉄鋼、軽量構造材等として有用な1000シリーズ~7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金、ハステロイ,インコネル,ステライト,インバー等に代表されるNi基、Co基、Fe基の耐食性合金等からなる基材は、好適例である。
【0050】
上述のように、ここで開示される溶射用粉末は、複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する。溶射用粉末は、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10が10μm以上であり、かつ、レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50が40μm以下である。1気圧の条件下において、複数の前記金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差は、500℃以上である。
【0051】
溶射用粉末は、複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有することによって、複酸化物で構成された溶射皮膜の作製を可能としている。溶射用粉末は、レーザ回折散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、10μm以上の粒子径D10を有している。これによって、小粒子の割合が減少する。このため、相対的に沸点の低い金属酸化物を溶射の過程で気化しにくくすることができ、溶射皮膜における分相の割合を低下させることができる。また、溶射用粉末は、40μm以下の粒子径D50を有している。これによって、溶射用粉末の粒度分布が、全体としてシャープな粒度分布になっている。このため、溶射皮膜における気孔率を低下させることができる。また、溶射皮膜の表面粗さを低下させることができる。
【0052】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0053】
<製造例1.YとAlとの複酸化物を含有する溶射用粉末>
(例1)
原料粉末として、平均粒子径D50が1μmの酸化イットリウム粉末(一次粒子)と、平均粒子径D50が0.5μmの酸化アルミニウム粉末(一次粒子)とを混合し、2質量%のバインダ(PVA)を含む水溶液に分散させて、スラリーを調製した。このスラリーを、噴霧造粒機を用いて気流中に噴霧し、乾燥させることで、造粒粒子を作製した。得られた造粒粒子に、大気雰囲気にて6時間、1600℃の焼成処理を行って、一次粒子を焼結し、焼成物を作製した。得られた焼成物を解砕した。その後、篩分級と気流分級処理とを実施することによって、粒度の整った造粒焼結粒子(二次粒子)により構成された溶射用粉末を得た。かかる溶射用粉末を本例に係る溶射用粉末とした。本例の粒子径D10は11.4μmであり、粒子径D50は22.4μmであった。なお、本例の溶射用粉末の組成と粒度分布とを表1の該当欄に示す。
【0054】
(例2~例11)
例1の溶射用粉末の作製における、原料粉末における酸化イットリウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合比(質量比)、焼成条件、分級条件を適宜変更した。これによって、表1の該当欄に示される組成と粒度分布とを有する複酸化物の造粒焼結粒子で構成された、各例に係る溶射用粉末を作製した。
【0055】
<製造例2.YbとSiOとの複酸化物を含有する溶射用粉末>
(例12~例14)
原料粉末として、溶融粉砕粉である、平均粒子径D50が23μmの珪酸イッテルビウム粉末を用意した。原料粉末に対し、篩分級と気流分級処理とを実施した。これによって、粒度分布の整った溶融粉砕粉により構成された溶射用粉末を製造した。分級条件を適宜変更して、各例に係る溶射用粉末を作製した。なお、各例の溶射用粉末の組成と粒度分布とを表2の該当欄に示す。
【0056】
<評価1.粒度分布>
各例の溶射用粉末について、レーザ回折式粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製,Mastersizer 3000)を用いて体積基準の粒度分布を測定した。この粒度分布において、微粒子側から積算値が3%。5%、10%、50%、および90%のそれぞれにおける粒子径を取得した。結果を、表1および表2の「Dx(3)」、「Dx(5)」、「Dx(10)」、「Dx(50)」、および「Dx(90)」のうちの対応する欄に示す。また、上記粒度分布において、25μm未満、20μm以下、15μm以下、10μm以下、および5μm以下のそれぞれの粒子径を有する粒子の割合(%)を取得した。結果を、表1および表2の、「%-下(25)μm」、「%-下(20)μm」、「%-下(15)μm」、「%-下(10)μm」、および「%-下(5)μm」のうちの対応する欄に示す。
【0057】
<溶射皮膜の作製>
各例の溶射用粉末を用いて、大気圧プラズマ溶射により、溶射皮膜を作製した。基材としては、アルミニウム合金(Al6061)からなる板材(70mm×50mm×2.3mm)の表面に褐色アルミナ研削材(A#40)を用いたブラスト処理を施すことにより粗面化加工したものを用いた。また、溶射条件は、以下のとおりであった。
溶射機:SG-100(Praxair社製)
粉末供給器:Model1264(Praxair社製)
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス(50psi(0.34MPa));および、
ヘリウム(He)ガス(50psi(0.34MPa))
プラズマ出力:36kW
プラズマ発生電圧:40V
プラズマ発生電流:900A
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離(溶射ガンから基材までの距離):120mm
【0058】
<評価2.表面粗さ(Ra)>
各例の溶射用粉末を用いて作製された溶射皮膜について、表面粗さ(算術平均粗さ)RaをJIS B0601:2013に準じて測定した。表面粗さRaは、表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、SV-3000S CNC)を用いて、それぞれの溶射皮膜上の任意の5点における表面粗さを測定し、これらの算術平均値を表面粗さRaとして得た。結果を表1および表2の「Ra」欄に示す。
【0059】
<評価3.溶射皮膜の断面構造>
各例の溶射用粉末を用いて作製された溶射皮膜について、皮膜を平面視したときの面に直交する面(溶射皮膜の断面)をSEMにて観察して得られた像を用いることによって、各溶射皮膜の気孔/変質相/主相の各割合を測定した。具体的には、まず、溶射皮膜を基材ごと基材表面に対して垂直に切断し、観察対象となる面(溶射皮膜の断面)を切り出した。かかる断面をSEMにて観察し、断面SEM観察像を得た。断面SEM観察像について、画像解析ソフト(株式会社日本ローパー製、Image-Pro Plus)を用いて解析することによって、全断面積に占める気孔/変質相/主相の各割合を算出した。ここでは、気孔とその他の部分(変質相と主相)とを分離する二値化処理を行い、全断面積に占める気孔の面積の割合として規定される気孔割合(気孔率)(%)を算出した。次いで、変質相とその他の部分(気孔と主相)とを分離する2値化処理を同様に行い、全断面積に占める変質相の面積の割合として規定される変質相割合(%)を算出した。そして、以下の式(A):
気孔割合(%)+変質相割合(%)+主相割合(%)=100(%) (A)
に基づいて、全断面積から気孔割合(気孔率)と変質相割合を差し引いて算出した割合を主相割合(%)として算出した。それぞれの結果を表1および表2の「気孔率(%)」、「変質相(%)」、「主相(%)」欄に示す。
【0060】
参考のため、各例の溶射皮膜の断面SEM観察像を図1図14に示す。各図中のスケールバーは、100μmを示している。図1は、例1の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図2は、例2の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図3は、例3の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図4は、例4の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図5は、例5の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図6は、例6の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図7は、例7の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図8は、例8の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図9は、例9の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図10は、例10の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図11は、例11の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図12は、例12の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図13は、例13の溶射皮膜の断面SEM観察像である。図14は、例14の溶射皮膜の断面SEM観察像である。
【0061】
【表1】
【0062】
例1~例11に関して、Raが7μm未満であり、気孔率が7%未満であり、変質相が5%未満である例について、溶射皮膜における分相の割合が低下され、緻密性が向上され、かつ、表面粗さの増加が抑制されていると評価した。表1に示されているように、酸化イットリウムと酸化アルミニウムとを含む複酸化物(ここでは、YAG:YAl12、YAP:YAlO、またはYAM:YAl)を含有する溶射用粉末について、粒子径D10が10μm以上であり、かつ、粒子径D50が40μm以下であり、1気圧の条件下において、複数の金属酸化物(ここでは、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウム)間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である、例1~例7に係る溶射用粉末によると、分相が抑制され、緻密性が向上され、かつ、表面粗さの増加が抑制された溶射皮膜を形成することができるとわかった。
【0063】
【表2】
【0064】
例12~例14に関して、Raが7μm未満であり、気孔率が7%未満であり、変質相が8%未満である例について、溶射皮膜における分相の割合が低下され、緻密性が向上され、かつ、表面粗さの増加が抑制されていると評価した。表2に示されているように、酸化イッテルビウムとシリカとを含む複酸化物(ここでは、YbDS:YbSiを含有する溶射用粉末について、粒子径D10が10μm以上であり、かつ、粒子径D50が40μm以下であり、1気圧の条件下において、複数の金属酸化物(ここでは、酸化イッテルビウムおよびシリカ)間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である、例12に係る溶射用粉末によると、分相が抑制され、緻密性が向上され、かつ、表面粗さの増加が抑制された溶射皮膜を形成することができるとわかった。
【0065】
以上、ここに開示される技術の具体例を説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0066】
ここで開示される技術は、以下の項目1~項目11に係る発明を包含する。
[項目1]
複数の金属酸化物を含む複酸化物を含有する溶射用粉末であって、
レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径D10が10μm以上であり、かつ、
レーザ回折散乱式粒度分布測定法に基づく体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50が40μm以下であり、
1気圧の条件下において、複数の前記金属酸化物間における沸点の最大値と最小値との差が500℃以上である、溶射用粉末。
[項目2]
前記複酸化物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなるランタノイド元素、Si、およびGeからなる半金属元素、Al、およびGaからなる典型元素、並びにSc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、およびWからなる遷移元素から少なくとも2以上を含有する、項目1に記載の溶射用粉末。
[項目3]
Al、Si、Y、Zr、およびYbの群から少なくとも2以上を含有する、項目1または2に記載の溶射用粉末。
[項目4]
複数の前記金属酸化物は、Al、SiO、Y、ZrO、および、Ybのうちの少なくとも2つを含む、項目1~3のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目5]
とAlとの複酸化物、YbとSiOとの複酸化物、または、SiOとAlとの複酸化物を含む、項目1~4のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目6]
YAlO、YAl、YAl12、YbSi、または、3Al・2SiOを含む、項目1~5のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目7]
前記粒子径D50が23μm以上38μm以下である、項目1~6のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目8]
前記粒子径D10が12μm以上21μm以下である、項目1~7のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目9]
前記複酸化物の一次粒子が相互に結合された二次粒子で構成されている、項目1~8のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
[項目10]
前記二次粒子は、造粒焼結粒子である、項目9に記載の溶射用粉末。
[項目11]
前記複酸化物の溶融粉砕粉で構成されている、項目1~8のいずれか一つに記載の溶射用粉末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14