(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145888
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】プロセスチーズ類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 19/08 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A23C19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058453
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 和喜
(72)【発明者】
【氏名】岸田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】平櫛 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 成彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智幸
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001BC01
4B001BC02
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC12
4B001EC04
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】凍結している原料チーズを使用して、熟度のばらつきの発生を抑制でき、需給への応答性も良く、解凍室等の設備を不要にできる、プロセスチーズ類の製造方法を提供する。
【解決手段】プロセスチーズ類の製造方法は、凍結している原料チーズを粉砕して第1原料を得るステップ、第1原料および副原料を混合して混合物を得る混合ステップ、及び混合ステップで得られた混合物を乳化させる乳化ステップを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の凍結している原料チーズを粉砕して第1原料を得るステップ、
前記第1原料および副原料を混合して混合物を得る混合ステップ、及び
前記混合物を乳化させる乳化ステップを含む、
プロセスチーズ類の製造方法。
【請求項2】
凍結していない原料チーズを粉砕して第2原料を得るステップをさらに含み、
前記混合ステップにおいて前記第1原料、前記第2原料および前記副原料を混合して混合物を得る、請求項1に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項3】
凍結していない原料チーズを微細化して第2原料を得るステップをさらに含み、
前記混合ステップにおいて前記第1原料、前記第2原料および前記副原料を混合して混合物を得る、請求項1に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項4】
前記混合ステップの前に前記第1原料を微細化させる微細化ステップを含む、請求項1に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項5】
前記混合ステップの前に前記第1原料を温めて解凍する解凍ステップを含む、請求項1に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項6】
前記微細化ステップの後、前記混合ステップの前に微細化した前記第1原料を温めて解凍する解凍ステップを含む、請求項4に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項7】
前記混合ステップが前記混合物を混練する混練ステップを含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項8】
前記第2原料が微細化された熟成チーズである、請求項3に記載のプロセスチーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスチーズ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ナチュラルチーズ類を粉砕又は磨砕したものを微生物及び酵素作用の少なくとも一部を排除する条件の加熱処理を行い、そのまま又は水を分散媒とした乳化チーズの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロセスチーズ類の原料として凍結チーズを使用する場合、解凍してから使用すれば冷蔵チーズと同じ製造工程で扱うことができる。冷蔵温度帯で凍結チーズを解凍すればチーズ品質のダメージを抑えられるが、この場合には長時間の解凍時間および解凍室等の設備が必要となる。また、この場合、解凍期間を要することが需給への応答性を悪化させることにもつながる。解凍方法として大型の解凍室等で大量に原料チーズを解凍する場合、すべてのチーズを同じ条件で解凍することは難しく、ナチュラルチーズの場合、熟度にばらつきが生じ、結果的にプロセスチーズ類の品質に原料の熟度差由来によるばらつきが生じるおそれがある。特に凍結チーズを用いる場合は、熟成していないグリーンチーズとして使用したい場合が多く、熟度差が生ずることは製品特性上好ましくない。
【0005】
本発明は、凍結している原料チーズを使用して、熟度のばらつきの発生を抑制でき、需給への応答性も良く、解凍室等の設備を不要にできる、プロセスチーズ類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができる本発明のプロセスチーズ類の製造方法は、
1種類以上の凍結している原料チーズを粉砕して第1原料を得るステップ、
前記第1原料および副原料を混合して混合物を得る混練ステップ、及び
前記混合物を乳化させる乳化ステップを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、凍結している原料チーズを使用して、熟度のばらつきの発生を抑制でき、需給への応答性も良く、解凍室等の設備を不要にできる、プロセスチーズ類の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係るプロセスチーズ類の製造方法を説明する。プロセスチーズ類の製造方法は、1種類以上の凍結している原料チーズを粉砕して第1原料を得るステップと、第1原料および副原料を混合して混合物を得る混合ステップ、及び混合物を乳化させる乳化ステップを含む。
【0009】
実施形態におけるプロセスチーズ類は、「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日厚生省令第52号)別表2の成分規格、および「ナチュラルチーズ、プロセスチーズおよびチーズフードの表示に関する公正競争規約」において規定されたプロセスチーズやチーズフード等の他、乳または乳製品を主要原料とする食品の当該技術分野における通常の意味を有する範囲のものを全て包含するものとする。
【0010】
実施形態における原料チーズは、ナチュラルチーズ、プロセスチーズおよびチーズフードから選択される任意の原料である。
【0011】
実施形態におけるナチュラルチーズは、特に限定はなく、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、ブルーチーズ、クリームチーズ、クワルクチーズ、カッテージチーズなどが例示される。これらを1種類もしくは複数種類組み合わせて使用することができるし、最終的に得られるプロセスチーズ類に必要な風味に合わせて配合比を決定することができる。
【0012】
実施形態における第1原料は、凍結している原料チーズを粉砕して得られた原料である。ここで「凍結している」とは、0℃以下の温度状態であることを指す。
第1原料は、詳細には、グラインダー、ローラー、チョッパー、カッター、フレーカーなどの粉砕用の機械によって、凍結している原料チーズを粉砕することで得られた原料である。ここで「粉砕」とは、例えば、原料チーズの平均粒子径を25mm以下にすることをいう。例えば、第1原料は、平均粒子径が25mm以下のフレーク状に粉砕されたものであると好ましい。第1原料の「平均粒子径」は、ランダムに取り出した粉砕されたチーズ100gを黒画用紙上に広げて写真撮影した後、画像処理プログラムにより、粒子の投影面積と等しい面積を持つ円の直径(面積相当径)を算出し、面積相当径の平均値を求めることで判定できる。
【0013】
第1原料に用いる原料チーズは、ナチュラルチーズであることが好ましい。第1原料の少なくとも1種類は、凍結しているグリーンチーズを粉砕して得られた原料であることが好ましい。プロセスチーズに糸曳き性を付与する方法の1つとして、グリーンチーズを使用することがある。グリーンチーズを凍結保管することで熟度の進行を抑制し、糸曳き性を付与する能力を維持することができる。ここで、グリーンチーズは、以下の式(1)によって計算される熟度指数が15以下のナチュラルチーズを指す。
熟度指数(%)=(可溶性窒素量/全窒素量)×100 式(1)
また、第1原料として熟成チーズを使用してもよい。熟成チーズは、上記式(1)によって計算される熟度指数が15より高いナチュラルチーズを指す。
所望のプロセスチーズ類に必要な風味に合わせて、グリーンチーズと熟成チーズとを組み合わせて第1原料としてもよいし、ナチュラルチーズ、プロセスチーズおよびチーズフードを組み合わせて第1原料としてもよい。
【0014】
凍結している原料チーズである第1原料に加えて、凍結していない原料チーズを粉砕して得られる第2原料を用いてもよい。ここで「凍結していない」とは、0℃より高い温度状態であることを指す。第2原料は第1原料と同様に、詳細には、グラインダー、ローラー、チョッパー、カッター、フレーカーなどの粉砕用の機械によって、凍結していない原料チーズを粉砕することで得られた原料である。第2原料は、平均粒子径が25mm以下のフレーク状に粉砕されたものであると好ましい。ここで第2原料の「平均粒子径」は、第1原料で説明した方法と同様の方法で測定できる。
【0015】
また、第2原料は微細化されて、例えば平均粒子径が5mm以下の微細化原料であるとさらに好ましい。第2原料の微細化は例えば細孔径(目皿の口径)4mmのチョッパーを使用してミンチ状に押し出すことで実施できる。凍結していない原料チーズを微細化粉砕するため、ブロック状の原料チーズから直接、微細化された第2原料をと得ることができる。微細化された原料チーズである第2原料を用いることで、第1原料との乳化が促進され、品質の良いプロセスチーズ類を製造できる。
また、第2原料として熟成チーズを使用してもよい。所望のプロセスチーズ類に必要な風味に合わせて、グリーンチーズと熟成チーズとを組み合わせて第2原料としてもよいし、ナチュラルチーズ、プロセスチーズおよびチーズフードを組み合わせて第1原料としてもよい。
【0016】
実施形態における混合ステップは、乳化ステップで使用される乳化機に第1原料および副原料を混合して混合物を得るステップである。第2原料をさらに用いる場合、混合ステップは、第1原料、第2原料および副原料を混合して混合物を得るステップである。また、混合ステップは、乳化ステップで使用される乳化機とは別に、例えば2軸スクリュー型の混練機等を用いて混合物を混練する混練ステップを含んでもよい。
混合ステップにおいて、第1原料、第2原料の他に、その他の副原料を混合してもよい。その他の副原料としては、バター、クリーム、脱脂粉乳、ホエー粉、バターミルク粉、全脂粉乳などの乳製品;風味付けを目的として各種食品、香料、香辛料;グリセロール、プロピレングリコール、ソルビタン、ショ糖の各種脂肪酸エステル、レシチンなどの乳化剤;クエン酸塩、酒石酸塩、モノリン酸塩、ジリン酸塩、ポリリン酸塩などの溶融塩などの安定剤;水などが挙げられる。
混合ステップにおいて、混合物を混練する混練ステップを含むことが好ましい。乳化ステップの前に混合物を混練することで、プロセスチーズ類内の未溶融チーズ片の粒径を小さくすることや、未溶融チーズ片の数を減少させることができる。
【0017】
実施形態における乳化ステップは、混合ステップで得られた混合物を乳化させるステップである。乳化ステップは通常、チーズ類の乳化に用いられる乳化剤や安定剤を適宜使用して、乳化機、例えば低せん断乳化釜などを用いて50~200rpmの低速で撹拌すること、高速せん断乳化釜を用いて400~1500rpmの中速から高速で撹拌すること、連続式乳化機で撹拌することなどがあげられるが、特に限定されるものではない。乳化ステップにおいて通常、混合物は加熱乳化され、所望の容器に充填されることでプロセスチーズ類が製造される。
【0018】
加熱乳化の温度は、65℃以上120℃以下であればよいが、70℃以上110℃以下が好ましく、75℃以上100℃以下がさらに好ましい。
加熱乳化に用いる乳化機は、ケトル乳化釜、チーズクッカー、サーモシリンダー、高速せん断式乳化機等の通常のプロセスチーズ類の製造に用いられるものであればどのようなものでも使用可能であり、通常のプロセスチーズ類の製造と同様の操作で製造することができる。
加熱乳化後のプロセスチーズ類は、65℃以上で充填されるホットパック方式(ポーション、個別包装スライス、カルトン等)、15℃から35℃程度まで冷却しながら成型し、その後、さらに冷却して包装するコールドパック方式により充填・包装することができる。
【0019】
実施形態におけるプロセスチーズ類の製造方法は、混合ステップの前に第1原料を微細化させる微細化ステップを含むと好ましい。当該微細化ステップは、凍結している原料チーズを一度粉砕して得られた原料である第1原料をさらに細かく粉砕するステップである。微細化ステップにおいて第1原料は、例えば平均粒子径が5mm以下に微細化される。例えば、第1原料は、平均粒子径が5mm以下の微細化原料とされるとさらに好ましい。第1原料の微細化は、例えば細孔径(目皿の口径)4mmのチョッパーを使用してミンチ状に押し出すことで実施できる。この態様では、第1原料をさらに微細化させることにより、第1原料以外の原料(副原料または第2原料)との乳化が促進され、乳化に要する時間を削減できる。また、プロセスチーズ類内の未溶融チーズ片の粒径を小さくすることや、未溶融チーズ片の数を減少させることができ、オイルオフ量を低減できる。
【0020】
実施形態におけるプロセスチーズ類の製造方法は、混合ステップの前に第1原料を温めて解凍する解凍ステップを含むと好ましい。解凍ステップは、第1原料の温度を例えば0℃より高い温度に温めるステップであり、本発明では乳化前温度とする。第1原料を微細化させる微細化ステップを含む場合は、混合ステップの前に微細化した第1原料を温めて解凍することが好ましい。凍結された原料チーズを粉砕した状態(第1原料)または微細化された状態で温めることで、ブロック状の原料チーズを解凍する場合に比べて短い時間で原料チーズを均一に解凍でき、解凍後の熟成が均一に進行するため、熟度のばらつきの発生を抑制できる。また、乳化時間の短縮やオイルオフ量を減らすことができる。この乳化前温度は、好ましくは0℃より高い温度で、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。
【0021】
上記のように、実施形態に係るプロセスチーズ類の製造方法は、凍結している原料チーズを粉砕して第1原料を得るステップ、第1原料と副原料とを混合して混合物を得る混合ステップ、及び混合物を乳化させる乳化ステップを含む。凍結している原料チーズを粉砕して第1原料とすることにより、解凍に要する時間を削減できる。そして第1原料を副原料と混合して乳化することで、第1原料を短時間で均一に解凍することができ、原料チーズの熟度のばらつきを抑えつつ短時間でプロセスチーズを製造できる。また、凍結している原料チーズを粉砕して使用することで、混合ステップまたは乳化ステップで原料チーズを解凍することができるため、予め原料チーズを冷蔵温度で解凍するための解凍室等の設備を不要にできる。
【0022】
なお、凍結した原料チーズのブロック(凍結原料チーズブロック)をフレーカーなどにより粗粉砕した凍結原料チーズをそのまま用いる場合、凍結原料チーズの溶け残りにより、製品の組織や食感が劣るおそれがある。ここで「粗粉砕」とは、例えば平均粒子径が25mmよりも大きい状態に粉砕することである。
十分に解凍されていない原料チーズが原料に混在した場合、乳化条件によっては、乳化むらを生じるおそれがある。これは加熱乳化しても微細な組織むらが残るためである。
乳化むらは製造されたプロセスチーズ類のオイルオフ量が増加するなどの品質上の懸念を生じさせるおそれがある。
乳化時間を延ばしたり、攪拌時のせん断条件を強化したりすることで凍結原料チーズの溶け残りや乳化むらの解消は可能だが、乳化の仕上がり条件の設定変更、加熱熱量や攪拌時間・条件の変化による製品特性への影響、加熱熱量や攪拌時間・条件の変化に伴う設備や生産能力への影響は無視できないものとなる。凍結原料チーズを微粉砕すれば溶け残りや乳化むらの回避につながるが、高硬度の凍結チーズブロックを直接微粉砕することは微粉砕機の処理能力上現実的ではない。微粉砕の能力確保には複数の微粉砕機による段階的な処理または並列処理が必要となり、設備の初期投資や設置スペースがかさむこととなる。
【0023】
このような観点において、上記実施形態の好ましい態様を採用することで、凍結原料チーズを乳化工程に利用するまでの期間短縮、これに伴う熟成度合い(熟度)のばらつきの抑制、解凍状態の均一化による乳化むらの解消、設備のコンパクト化を好適に実現できる。
【実施例0024】
以下の実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
〔プロセスチーズの製造〕
原料チーズとして、グリーンチーズ1.4kgと熟成チーズ1.6kgとを使用した。
実施例1~4では、第1原料として凍結状態のグリーンチーズおよび熟成チーズを使用した。実施例5~12では、第1原料として凍結状態のグリーンチーズを、第2原料として冷蔵状態の熟成チーズを使用した。比較例1では、冷蔵状態のグリーンチーズおよび熟成チーズを使用した。その他、副原料として、乳化剤、安定剤、水を添加した。
凍結している(温度:-20℃)グリーンチーズ1.4kgおよび熟成チーズ1.6kgを株式会社日本キャリア工業製のフレーカーでフレーク状に粉砕処理(粒径1~23mm相当)して第1原料を得た。