(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145889
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】石英ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/06 20060101AFI20241004BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241004BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C03C3/06
H01L21/302 101Z
C03B20/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058456
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】掛本 博文
(72)【発明者】
【氏名】宗平 雅己
【テーマコード(参考)】
4G014
4G062
5F004
【Fターム(参考)】
4G014AH04
4G014AH06
4G062AA18
4G062BB02
4G062DA08
4G062DB01
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4G062HH01
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4G062HH13
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4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
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4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM35
4G062NN34
5F004AA16
5F004CA02
5F004CA03
5F004DA16
(57)【要約】
【課題】エッチング処理に伴うパーティクルの発生を抑制するエッチング耐性に優れた石英ガラスを提供する。
【解決手段】ガス種CHF3、ICPパワー200W、圧力1.8Pa、流量30sccmの条件で4時間エッチングした時に発生するパーティクルをEDS法により分析した際、測定領域が0.96mm2の範囲での、Al及びClの検出信号強度がいずれも30cps/eV以下である、石英ガラス。前記石英ガラス中の金属不純物量が0.1ppm以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス種CHF3、ICPパワー200W、圧力1.8Pa、流量30sccmの条件で4時間エッチングした時に発生するパーティクルをEDS法により分析した際、測定領域が0.96mm2の範囲での、Al及びClの検出信号強度がいずれも30cps/eV以下である、石英ガラス。
【請求項2】
前記石英ガラス中の金属不純物量が0.1ppm以下である、請求項1に記載の石英ガラス。
【請求項3】
前記石英ガラスが非晶質である、請求項1に記載の石英ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造のドライエッチングプロセスには、耐熱、耐食性の観点から石英ガラス部材が用いられているが、エッチング対象と同じように、石英ガラス部材自体も、フルオロカーボン系エッチングガスの作用を受けてエッチングされる。石英ガラス部材がエッチングを受けると、その際に発生するパーティクルが処理対象の半導体チップ上に付着したり装置内の汚染を引き起こしたりして、半導体製造プロセスの歩留まりを下げる要因となっている。
【0003】
パーティクルに対しては、「装置・プロセス条件による発生パーティクル量の制御」と「石英ガラス部材への耐エッチング特性の付与」の2種類の対応が知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような対応をとっても、パーティクルは発生し続け、歩留まり向上の妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-045699号公報
【特許文献2】特開2004-142996号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Particle reduction and control in plasma etching equipment, T. Moriya, H. Nakayama, H. Nagaike, Y. Kobayashi, M. Shimada and K. Okuyama, IEEE Trans. Semicond. Manufact., 18, 477 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エッチング処理に伴うパーティクルの発生を抑制するエッチング耐性に優れた石英ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フルオロカーボン系エッチングガスによるシリカのエッチングメカニズムの理解のもと、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エッチング時に発生するパーティクルの組成が特定の範囲内であることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1] ガス種CHF3、ICPパワー200W、圧力1.8Pa、流量30sccmの条件で4時間エッチングした時に発生するパーティクルをEDS法により分析した際、測定領域が0.96mm2の範囲での、Al及びClの検出信号強度がいずれも30cps/eV以下である、石英ガラス。
【0010】
[2] 前記石英ガラス中の金属不純物量が0.1ppm以下である、[1]の石英ガラス。
【0011】
[3] 前記石英ガラスが非晶質である、[1]又は[2]の石英ガラス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、エッチング処理に伴うパーティクルの発生を抑制するエッチング耐性に優れた石英ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0014】
半導体プロセス石英部材の約9割は天然石英由来の石英ガラスであるが、天然石英には、元来微量の金属不純物がppmオーダーで含まれており、アルミニウム(Al)はその最たる例である。Alなどの金属不純物はSiO2に比べてフルオロカーボン系ガスのエッチング耐性が高いため、エッチング処理において、金属が偏在する箇所とそうでない箇所とでエッチング進行速度に差が生じ、石英ガラスの表面に凹凸が生じる。石英ガラス表面の凹凸が大きくなると、シャープエッジと呼ばれる比較的尖った領域が発生し、この尖った部分が不定期に石英ガラス本体から欠ける形でシリカパーティクルが発生する。
【0015】
Alはフルオロカーボン系ガス中のフッ素(F)と結合し、揮発性の低い固形物となって残留する。この固形物もパーティクルの原因となる。
【0016】
エッチング進行速度に差を与える要因として、結晶の違いも挙げられる。天然石英は元来結晶質であるが、ガラス化される工程で部分的にその結晶性は失われるが、完全に結晶性がなくなるわけではない。一般的に、結晶性シリカの方が非結晶性シリカよりエッチング耐性が大きいため、石英ガラス中の結晶性の部分と非結晶性(非晶質)の部分とでエッチング進行速度に差が生じ、表面に凹凸が見られるようになる。
【0017】
このように、金属不純物を含む石英ガラスをフルオロカーボン系ガスでエッチングすると、シャープエッジ由来のシリカパーティクル、及びAlとFの結合物のパーティクルが一定数発生し、その状態はSEM-EDS(エネルギー分散型X線検出器を搭載した走査電子顕微鏡)でAl検出することで確認できる。
【0018】
一方、SiCl4ガスからシリカフュームをつくり、それを焼成する、いわゆる気相合成による合成石英ガラスは、金属不純物は含まないものの、原料ガスのClがppmオーダーで一定量残存することになる。この合成石英ガラスは、その製法上非常に細かな気孔を有しているが、通常の製品化された石英部材の状態においては、その気孔を顕微鏡等で捉えることは難しい。
【0019】
しかし、この合成石英ガラスの気孔部分は、フルオロカーボン系ガスを用いたエッチング処理により強調され、10μmオーダーまで成長する。このとき、合成石英ガラスの表面には凹凸が生じ、上述と同様のシャープエッジ由来のパーティクルが発生する。Clが偏在している箇所に気孔は存在しているため、このパーティクルからはClが検出される。したがって、その状態はSEM-EDSでCl検出することで確認できる。
【0020】
金属不純物、Cl、気泡等がない石英ガラスは、フルオロカーボン系ガスでエッチングした際に、シリカはSiF4の形でガスとして抜けていき、かつ石英ガラス表面もエッチングレートの差がなく均一にエッチングされていくため、石英ガラス由来のパーティクルが発生しない。
【0021】
エッチング環境には僅かながらコンタミ要因となる成分も含まれる場合があり、その成分がパーティクルとして発生する可能性はあるが、本発明者らが鋭意検討した結果、上記Al及びClの元素がパーティクル成分に含まれていない場合、エッチング後の石英ガラス表面の凹凸は極めて小さいことを確認した。
【0022】
本実施形態による石英ガラスは非晶質であり、合成シリカ粉を焼結して焼結体を作製し、その後、研磨を行うことで得られる。
【0023】
合成シリカ粉の粒径は、通常40~300μmであり、好ましくは80~200μmである。
【0024】
合成シリカ粉の粒径が40μm以上であれば、焼結時のヒュームの発生を抑制できる。シリカ粉の粒径が300μm以下であれば、焼結時の粒界の発生を抑制できる。
【0025】
合成シリカ粉は、天然シリカ粉と比較して、金属不純物の含有量が少ない。合成シリカ粉は、例えばアルコキシシランを原料とする、いわゆるゾル-ゲル法と呼ばれる方法により得ることができる。
【0026】
焼結方法は、緻密な焼結体が得られる加圧焼結が好ましく、例えば、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)が挙げられる。
【0027】
焼結する温度は、1200~1500℃が好ましく、1300~1400℃がより好ましい。1200℃以上であれば、十分な焼結体が得られる。1500℃以下であれば、ヒュームの発生や結晶化の進行を抑制できる。焼結時の圧力は、15~100MPaが好ましく、20~50MPaがより好ましい。15MPa以上であれば、焼結体に気泡が残留することを抑制できる。100MPa以下であれば、装置のコストを抑えることができる。
【0028】
焼結時に合成シリカ粉をカーボン鋳型に充填した場合は、焼結後、焼結体にアニール処理を施し、表面のカーボンを除去することが好ましい。
【0029】
焼結体のアニール処理の温度は、600~1000℃が好ましく、700~800℃がより好ましい。600℃以上であれば、残留応力を十分に除去できる。1000℃以下であれば、焼結体に泡が生じることを抑制できる。
【0030】
アニール処理の時間は2~10時間が好ましく、4~6時間がより好ましい。2時間以上であれば、残留応力を十分に除去できる。10時間以下であれば、所望の生産性を得られる。
【0031】
研磨方法は特に限定されず、例えば、遊離砥粒による研磨加工が挙げられる。石英ガラスの表面粗さRaが0.3μm以下となるように研磨することが好ましい。
【0032】
石英ガラスの密度は2.15~2.25g/cm3程度である。石英ガラス中の金属不純物量は0.1ppm以下である。石英ガラスの水酸基含有量は100ppm以下である。
【0033】
[石英ガラスの評価方法]
石英ガラスが非晶質であることは、X線回折法(XRD)による結晶質の検出有無により確認できる。
【0034】
上述したように、石英ガラスが天然シリカ粉を用いて製造されたものである場合、フルオロカーボン系ガスを用いたエッチングにより、石英ガラス由来のAlを含むパーティクルが発生し、石英ガラス表面に凹凸が生じる。
【0035】
また、気相合成による石英ガラスは、フルオロカーボン系ガスを用いたエッチングにより、石英ガラス由来のClを含むパーティクルが発生し、石英ガラス表面に凹凸が生じる。
【0036】
一方、上記の合成シリカ粉の焼結を含む方法で製造した石英ガラスは、フルオロカーボン系ガスを用いたエッチングを行っても、石英ガラス由来のパーティクルが発生せず(パーティクル発生量は極めて少なく)、石英ガラス表面に凹凸が発生することを抑制できる。
【0037】
つまり、石英ガラスのエッチングにより生じるパーティクルに含まれるAl及びClが所定値以下となる場合、評価対象の石英ガラスは天然シリカを原料としたものでも気相合成シリカを原料としたものでもなく、エッチング後の石英ガラス表面の凹凸は極めて小さいものとなる。
【0038】
石英ガラスのエッチングにより発生するパーティクルの捕集方法は特に限定されないが、例えばエッチング装置にシリコンウェハを設置し、シリコンウェハの中央部に評価対象の石英ガラスを載置する。また、石英ガラスを挟むように、石英ガラスの左右に2~3mm程度の間隔を空けてパーティクル捕集用基板を載置する。パーティクル捕集用基板には、例えばGaN基板を用いることができる。
【0039】
エッチングに使用するエッチングガスとしては、特に限定されないが、例えばCF4、CHF3、CH2F2等を使用できる。
【0040】
本発明に記載の石英ガラスは、ガス種CHF3、ICPパワー200W、圧力1.8Pa、流量30sccmの条件で4時間エッチングした時に発生するパーティクルをEDS法により分析した際、測定領域が0.96mm2の範囲での、Al及びClの検出信号強度がいずれも30cps/eV以下である。
上記の通り、エッチング後、パーティクル捕集用基板上に存在するパーティクルをSEM-EDSで分析する。所定サイズの測定領域における、Al及びClの検出信号強度がいずれも所定値以下であれば、評価対象の石英ガラスは、エッチング後の表面に凹凸はほとんど生じないエッチング耐性に優れたものであると判断できる。
【0041】
また、本発明に記載の石英ガラスの一形態は、石英ガラス中の金属不純物量が0.1ppm以下である。
尚、本発明における金属不純物量は、ICP-massによって測定され、石英ガラス由来の元素(Si、O)の量に対する金属元素の量によって算出される。
【実施例0042】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
直径20mmのカーボン鋳型に、合成シリカ粉(PS400、三菱ケミカル(株)、D50:180μm)を充填し、SPS装置を用いて、焼結温度1300℃、圧力100MPaでペレット型の厚み7mmの焼結体を得た。その後、電気炉中にて800℃でアニールして焼結体表面のカーボンを除去し、研磨によりRa:0.03μmとした透明ガラス体をエッチング試験サンプルとした。このエッチング試験サンプルは、XRD測定により、結晶質の存在を示す2θが26~27°に生じるピークは観察されず、完全に非晶質であることを確認した。また、密度は2.2g/cm3であり、一般の石英ガラスと大きな差がないことを確認した。
【0044】
平行平板型反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)装置中にシリコンウェハを設置し、中央部にエッチング試験サンプルと、パーティクル捕集用GaN基板を並べて設置した。ガス種CHF3、ICPパワー200W、圧力1.8Pa、流量30sccmの条件で4時間エッチングを実施した。
【0045】
エッチング後にGaN基板上に存在するパーティクルをSEM-EDSで分析し、測定領域0.96mm2の範囲で測定した。表1では、いずれの実施例・比較例でも検出され、エッチングガス及びシリカ粉由来であるSi、F及びOを除いたAl及びClの検出信号強度を示す。また、エッチング後のエッチング試験サンプルの表面粗さを測定した。測定結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2]
合成シリカ粉の焼結により製造されたガラス体(型式GE012、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を10×10×3mmtの大きさに加工し、両面火加工仕上げを行い、Ra:0.03μmとした透明ガラス体をエッチング試験サンプルとしたこと以外は実施例1と同様にしてエッチングを行い、パーティクル分析及び表面粗さ測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
天然シリカを原料として製造されたガラス体(型式N、東ソー(株))を10×10×3mmtの大きさに加工し、両面火加工仕上げを行い、Ra:0.03μmとした透明ガラス体をエッチング試験サンプルとしたこと以外は実施例1と同様にしてエッチングを行い、パーティクル分析及び表面粗さ測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
気相合成シリカを原料として製造されたガラス体(型式SH110、信越石英(株))を10×10×3mmtの大きさに加工し、両面火加工仕上げを行い、Ra:0.03μmとした透明ガラス体をエッチング試験サンプルとしたこと以外は実施例1と同様にしてエッチングを行い、パーティクル分析及び表面粗さ測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0049】