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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145973
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】化学蓄熱器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20241004BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F28D20/00 G
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058613
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】渡部 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 安奈
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 宏太
(72)【発明者】
【氏名】神谷 啓志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸夫
(57)【要約】
【課題】蓄熱密度が高い化学蓄熱器およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】化学蓄熱器1は、化学蓄熱材製の蓄熱材粒子を含む蓄熱体2と、蓄熱体2の少なくとも一部が拘束された状態で収容される収容部30を内部に区画する容器3と、を備える。収容部30に充填された蓄熱体2が未だ一度も反応媒体と反応していない状態を初期状態、収容部30における蓄熱体2の蓄熱密度(GJ/m)をρ、初期状態の蓄熱体2を反応媒体と反応させ膨張させる際の蓄熱体2の膨張圧(MPa)をP1、として、以下の(式1)が成立することを特徴とする。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蓄熱材製の蓄熱材粒子を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される収容部を内部に区画する容器と、を備え、
前記収容部に充填された前記蓄熱体が未だ一度も反応媒体と反応していない状態を初期状態、
前記収容部における前記蓄熱体の蓄熱密度(GJ/m)をρ、
前記初期状態の前記蓄熱体を前記反応媒体と反応させ膨張させる際の前記蓄熱体の膨張圧(MPa)をP1、
として、
以下の(式1)が成立する化学蓄熱器。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
【請求項2】
前記容器の構造が耐えうる下限強度(MPa)をP2として、
以下の(式2)が成立する請求項1に記載の化学蓄熱器。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
【請求項3】
前記収容部における前記蓄熱体の充填密度(g/cm)をX1、
前記初期状態の前記収容部における前記蓄熱体の充填高さ(mm)をX2、
複数の前記蓄熱材粒子を含む造粒体を蓄熱材顆粒、
前記初期状態における前記蓄熱材顆粒の平均粒子径(mm)をX3、
として、
前記P1は、以下の(式3)により予測される請求項1または請求項2に記載の化学蓄熱器。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
【請求項4】
化学蓄熱材製の蓄熱材粒子を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される収容部を内部に区画する容器と、を備える化学蓄熱器の製造方法であって、
前記蓄熱材粒子を含む混合物を作製する混合工程と、
前記混合物を顆粒状に成形する造粒工程と、
顆粒状に成形された前記混合物を焼成し、蓄熱材顆粒を作製する焼成工程と、
前記蓄熱材顆粒を含む前記蓄熱体を前記収容部に充填する充填工程と、
前記収容部において前記蓄熱体を反応媒体と反応させ膨張させることにより、前記蓄熱材粒子を前記収容部の全体に行き渡らせ、前記収容部の形状に倣って前記蓄熱体を成形する蓄熱体成形工程と、
を有し、
前記充填工程後かつ前記蓄熱体成形工程前の状態であって、前記収容部に充填された前記蓄熱体が未だ一度も前記反応媒体と反応していない状態を初期状態、
前記収容部における前記蓄熱体の蓄熱密度(GJ/m)をρ、
前記蓄熱体成形工程において、前記初期状態の前記蓄熱体を前記反応媒体と反応させ膨張させる際の前記蓄熱体の膨張圧(MPa)をP1、
として、
以下の(式1)が成立することを特徴とする化学蓄熱器の製造方法。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
【請求項5】
前記容器の構造が耐えうる下限強度(MPa)をP2として、
以下の(式2)が成立する請求項4に記載の化学蓄熱器の製造方法。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
【請求項6】
前記収容部における前記蓄熱体の充填密度(g/cm)をX1、
前記初期状態の前記収容部における前記蓄熱体の充填高さ(mm)をX2、
前記初期状態における前記蓄熱材顆粒の平均粒子径(mm)をX3、
として、
前記P1は、以下の(式3)により予測される請求項4または請求項5に記載の化学蓄熱器の製造方法。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学反応熱を利用して可逆的に蓄熱、放熱を行うことができる化学蓄熱器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学蓄熱器は、容器と蓄熱体とを備えている。蓄熱体は、容器の内部に充填されている。蓄熱体は、反応媒体との反応により膨張する。このため、容器には、蓄熱体から膨張圧が作用する。特許文献1の化学蓄熱反応器は、蓄熱体からの膨張圧に耐えるための、耐圧構造を備えている。具体的には、同文献の化学蓄熱反応器の容器は、側壁と天板と底板とを備えている。容器の内部には、連結部材が配置されている。膨張圧に耐えるために、側壁の板厚は厚く設定されている。容器の内部において、連結部材は天板と底板とを連結している。膨張圧は、容器を膨張させる方向、つまり天板と底板とを離間させる方向に作用する。この際、連結部材には、膨張圧に起因する張力が作用する。連結部材が張力を負担することにより、容器の膨張を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-100661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、同文献の化学蓄熱反応器は、板厚の厚い側壁を備えている。また、容器の内部に連結部材を備えている。すなわち、同文献の化学蓄熱反応器は、蓄熱体の膨張圧に対抗するための、耐圧構造を有している。このため、側壁の板厚が薄い場合や、容器の内部に連結部材が収容されていない場合と比較して、蓄熱体の充填量が少なくなってしまう。つまり、蓄熱密度が小さくなってしまう。そこで、本開示は、蓄熱密度が高い化学蓄熱器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決するため、本開示の化学蓄熱器は、化学蓄熱材製の蓄熱材粒子を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される収容部を内部に区画する容器と、を備え、前記収容部に充填された前記蓄熱体が未だ一度も反応媒体と反応していない状態を初期状態、前記収容部における前記蓄熱体の蓄熱密度(GJ/m)をρ、前記初期状態の前記蓄熱体を前記反応媒体と反応させ膨張させる際の前記蓄熱体の膨張圧(MPa)をP1、として、以下の(式1)が成立することを特徴とする。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
ここで、「拘束」とは、蓄熱、放熱時の化学反応に伴う蓄熱体の過度の体積変化を、抑制することをいう。例えば、収容部を区画する容器の内面を蓄熱体の外面の少なくとも一部に当接させることにより、蓄熱体を拘束し、蓄熱体の過度の膨張、収縮を抑制することをいう。
【0006】
本構成によると、(式1)が成立している。このため、ρ/P1が41未満の場合と比較して、単位膨張圧P1あたりの蓄熱密度ρが大きい。したがって、蓄熱体の膨張圧を小さくしつつ、蓄熱密度を高くすることができる。よって、例えば、従来と同等の膨張圧を確保しつつ、蓄熱密度を高くすることができる。言い換えると、従来と同等の蓄熱密度を確保しつつ、膨張圧を小さくすることができる。なお、(式1)において、ρ/P1≧41としたのは、ρ/P1が41未満の場合、単位膨張圧P1あたりの蓄熱密度ρが小さくなるからである。
【0007】
(2)上記(1)の構成において、前記容器の構造が耐えうる下限強度(MPa)をP2として、以下の(式2)が成立する構成とする方がよい。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
ここで、下限強度P2とは、容器構造体が受け止められる応力で、容器に用いられる構造体の材料の引張許容応力と容器構造から算出される値のことをいう。これを超えた場合には収容部が塑性変形して蓄熱体の体積変化を拘束できなくなる。
【0008】
P1/P2を、以下、「容器強度係数」と称する。容器強度係数を0.5以上としたのは、0.5未満の場合、膨張圧が下限強度を過剰に下回り、言い換えると下限強度が膨張圧を過剰に上回り、容器の耐圧構造が過剰になってしまうからである。容器強度係数を1以下としたのは、1超過の場合、膨張圧が下限強度を上回り、容器に不具合が生じる可能性があるからである。
【0009】
(3)上記いずれかの構成において、前記収容部における前記蓄熱体の充填密度(g/cm)をX1、前記初期状態の前記収容部における前記蓄熱体の充填高さ(mm)をX2、複数の前記蓄熱材粒子を含む造粒体を蓄熱材顆粒、前記初期状態における前記蓄熱材顆粒の平均粒子径(mm)をX3、として、前記P1は、以下の(式3)により予測される構成とする方がよい。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
ここで、充填密度とは、かさ密度をいう。収容部を区画する容器の壁部、収容部に収容される部材(熱媒体が流動する伝熱部材、反応媒体が流動する流路部材など)を、収容部構成部材と称す。充填高さX2とは、複数の収容部構成部材のうち、互いに対向する任意の二つの収容部構成部材間の距離のうち、最短距離をいう。充填高さX2とは、例えば、収容部の形状(空間形状)が直方体状を呈しており、当該収容部に部材(伝熱部材、流路部材など)が収容されていない場合は、直方体の三辺のうち、最も短い辺の長さをいう(後述の図4図8を参照)。また、充填高さX2とは、例えば、収容部に複数の管状の伝熱部材が互いに平行に収容されている場合は、互いに対向する任意の二つの伝熱部材間の距離のうち、最短距離をいう場合がある。また、平均粒子径X3とは、レーザ回折法により求められる蓄熱材顆粒の粒度分布(粒径分布)のメディアン径をいう。
【0010】
本構成によると、蓄熱体の充填密度X1、蓄熱体の充填高さX2、蓄熱材顆粒の平均粒子径X3から、蓄熱体の膨張圧を予測することができる。このため、容器の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。
【0011】
(4)上記課題を解決するため、本開示の化学蓄熱器の製造方法は、化学蓄熱材製の蓄熱材粒子を含む蓄熱体と、前記蓄熱体の少なくとも一部が拘束された状態で収容される収容部を内部に区画する容器と、を備える化学蓄熱器の製造方法であって、前記蓄熱材粒子を含む混合物を作製する混合工程と、前記混合物を顆粒状に成形する造粒工程と、顆粒状に成形された前記混合物を焼成し、蓄熱材顆粒を作製する焼成工程と、前記蓄熱材顆粒を含む前記蓄熱体を前記収容部に充填する充填工程と、前記収容部において前記蓄熱体を反応媒体と反応させ膨張させることにより、前記蓄熱材粒子を前記収容部の全体に行き渡らせ、前記収容部の形状に倣って前記蓄熱体を成形する蓄熱体成形工程と、を有し、前記充填工程後かつ前記蓄熱体成形工程前の状態であって、前記収容部に充填された前記蓄熱体が未だ一度も前記反応媒体と反応していない状態を初期状態、前記収容部における前記蓄熱体の蓄熱密度(GJ/m)をρ、前記蓄熱体成形工程において、前記初期状態の前記蓄熱体を前記反応媒体と反応させ膨張させる際の前記蓄熱体の膨張圧(MPa)をP1、として、以下の(式1)が成立することを特徴とする。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
「拘束」の語義は、上記(1)の構成における「拘束」の語義と同じである。上記(1)の構成と同様に、本構成によると、(式1)が成立している。このため、蓄熱体の膨張圧が小さく、蓄熱密度が高い化学蓄熱器を製造することができる。よって、例えば、従来と同等の膨張圧を確保しつつ、蓄熱密度が高い化学蓄熱器を製造することができる。言い換えると、従来と同等の蓄熱密度を確保しつつ、膨張圧が小さい化学蓄熱器を製造することができる。なお、(式1)において、ρ/P1≧41としたのは、ρ/P1が41未満の場合、単位膨張圧P1あたりの蓄熱密度ρが小さくなるからである。
【0012】
(5)上記(4)の構成において、前記容器の構造が耐えうる下限強度(MPa)をP2として、以下の(式2)が成立する構成とする方がよい。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
「下限強度」の語義は、上記(2)の構成における「下限強度」の語義と同じである。上記(2)の構成と同様に、本構成によると、(式2)が成立している。容器強度係数(=P1/P2)を0.5以上としたのは、0.5未満の場合、膨張圧が下限強度を過剰に下回り、言い換えると下限強度が膨張圧を過剰に上回り、容器の耐圧構造が過剰になってしまうからである。容器強度係数を1以下としたのは、1超過の場合、膨張圧が下限強度を上回り、容器に不具合が生じる可能性があるからである。
【0013】
(6)上記いずれかの構成において、前記収容部における前記蓄熱体の充填密度(g/cm)をX1、前記初期状態の前記収容部における前記蓄熱体の充填高さ(mm)をX2、 前記初期状態における前記蓄熱材顆粒の平均粒子径(mm)をX3、として、前記P1は、以下の(式3)により予測される構成とする方がよい。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
「充填高さ」、「平均粒子径」の語義は、上記(3)の構成における「充填高さ」、「平均粒子径」の語義と同じである。上記(3)の構成と同様に、本構成によると、(式3)が成立している。このため、蓄熱体の充填密度X1、蓄熱体の充填高さX2、蓄熱材顆粒の平均粒子径X3から、蓄熱体の膨張圧を予測することができる。したがって、容器の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の化学蓄熱器およびその製造方法によると、蓄熱体の膨張圧を小さくしつつ、蓄熱密度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本開示の化学蓄熱器の一実施形態に該当する化学蓄熱器の斜視図である。
図2図2は、図1のII-II方向断面図である。
図3図3は、同化学蓄熱器の製造方法の充填工程(第一段階)における化学蓄熱器の上下方向断面図である。
図4図4は、同工程(第二段階)における化学蓄熱器の上下方向断面図である。
図5図5は、図4の枠V内の拡大図である。
図6図6は、同化学蓄熱器の製造方法の蓄熱体成形工程における蓄熱材顆粒分解時の模式図である。
図7図7は、同工程における化学蓄熱器の上下方向部分断面図を示す。
図8図8は、試験装置の上下方向断面図である。
図9図9は、同試験装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の化学蓄熱器およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0017】
<化学蓄熱器の構成>
まず、本実施形態の化学蓄熱器の構成について説明する。図1に、本実施形態の化学蓄熱器の斜視図を示す。図2に、図1のII-II方向断面図を示す。化学蓄熱器1は、蓄熱体2と容器3とを備えている。
【0018】
容器3は、ステンレス製であって、直方体箱状を呈している。容器3は、収容部30と、容器本体31と、透過壁32と、を備えている。容器本体31は、上側に開口する有底角筒状(浅底トレイ状)を呈している。容器本体31の下壁は伝熱壁310である。伝熱壁310を介して、容器3の外部と蓄熱体2との間の伝熱が確保されている。
【0019】
透過壁32は、容器本体31の開口を封止している。透過壁32には、多数の透過孔320が全面的に開設されている。透過孔320は、透過壁32を上下方向に貫通している。透過孔320を介して、水蒸気は、容器3の外部と収容部30との間を流動可能である。水蒸気(水)は、本開示の「反応媒体」の概念に含まれる。
【0020】
収容部30は、容器3の内部空間である。収容部30は、直方体状を呈している。収容部30には、蓄熱体2が収容されている。収容部30を区画する容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接している。すなわち、蓄熱体2は、収容部30に拘束されている。
【0021】
以下、収容部30に収容された蓄熱体2が未だ一度も水蒸気と反応していない状態を「初期状態」と称する。初期状態において、蓄熱体2は、多数の蓄熱材顆粒の集合体(粉体)である。すなわち、初期状態において、収容部30には、粉体状の蓄熱材顆粒が充填されている。蓄熱材顆粒は、複数の蓄熱材粒子(一次粒子)と、セピオライトと、を含む造粒体である。初期状態において、蓄熱材粒子は酸化カルシウムである。酸化カルシウム(水和反応後は水酸化カルシウム)は、本開示の「化学蓄熱材」の概念に含まれる。
【0022】
<化学蓄熱器の動き>
次に、本実施形態の化学蓄熱器の動きについて簡単に説明する。図示しない熱回収源からの熱は、伝熱壁310を介して、収容部30の蓄熱体2を加熱する。蓄熱体2が加熱されると、蓄熱材粒子の水酸化カルシウムは、以下の脱水反応により、当該熱を蓄積し、酸化カルシウムとなる。なお、Q1は蓄熱量である。
Ca(OH)+Q1→CaO+H
図示しない水蒸気供給源からの水蒸気は、透過壁32を介して、収容部30の蓄熱体2に供給される。当該水蒸気により、蓄熱材粒子の酸化カルシウムは、以下の水和反応により、蓄積しておいた熱を放出し、水酸化カルシウムとなる。なお、Q2は放熱量である。放出された熱は、伝熱壁310を介して、図示しない熱利用先に供給される。
CaO+HO→Ca(OH)+Q2
化学蓄熱器1は、上述のような放熱、蓄熱を可逆的に繰り返すことができる。
【0023】
<化学蓄熱器の製造方法>
次に、本実施形態の化学蓄熱器の製造方法について説明する。本実施形態の化学蓄熱器の製造方法は、混合工程と、乾燥工程と、造粒工程と、破砕工程と、焼成工程と、分級工程と、充填工程と、蓄熱体成形工程と、を有している。
【0024】
(混合工程)
混合工程においては、まず、平均一次粒子径(12μm(レーザ回折法により求められる粒度分布(粒径分布)のメディアン径)、レーザ回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300)、株式会社島津製作所製)の蓄熱材粒子(酸化カルシウム)と、繊維状のセピオライト(繊維径0.1μm以下、繊維長0.5~2μm)と、を準備する。
【0025】
次に、ヘンシェルミキサー(FM150、日本コークス工業株式会社製)を用いて、蓄熱材粒子およびセピオライトを、水と共に撹拌、混合し、懸濁液を作製する。撹拌、混合により、セピオライトは、細かく解きほぐされる。なお、懸濁液全体を100質量%として、懸濁液は、蓄熱材粒子を95質量%、セピオライトを5質量%含有している。なお、必要に応じて、懸濁液に、バインダー(ポリビニルアルコール)を添加する。
【0026】
(乾燥工程)
乾燥工程においては、混合工程後のスラリーを気流式乾燥機(ドライマイスタ(ホソカワミクロン株式会社の登録商標)DMR-1H、ホソカワミクロン株式会社製)により乾燥させ、蓄熱材粒子の周囲に、セピオライトを分散させた乾燥物を作製する。
【0027】
(造粒工程、破砕工程)
造粒工程においては、ロール型圧縮造粒機(CS-25、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、乾燥物を高密度に圧縮、成形し、顆粒状のペレットを作製する。すなわち、多数のペレットの集合物を作製する。破砕工程においては、フレーククラッシャー(FC―200、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、ペレットを破砕する。
【0028】
(焼成工程、分級工程)
焼成工程においては、メッシュベルト式連続炉(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、780℃で、破砕したペレットを焼成する。すなわち、蓄熱材顆粒を作製する。分級工程においては、振動ふるい機(ANF-30、日陶科学株式会社製)を用いて、蓄熱材顆粒を分級する。
【0029】
(充填工程)
図3に、充填工程(第一段階)における化学蓄熱器の上下方向断面図を示す。図4に、同工程(第二段階)における化学蓄熱器の上下方向断面図を示す。図5に、図4の枠V内の拡大図を示す。図6に、蓄熱体成形工程における蓄熱材顆粒分解時の模式図を示す。図7に、同工程における化学蓄熱器の上下方向部分断面図を示す。なお、図7は、図4図5の枠V内に対応している。
【0030】
ここで、図3図7においては、蓄熱材顆粒20、塊状体22、蓄熱材粒子21各々の形状、大きさ、収容部30における位置、配置数などを模式的に示す。また、単一の蓄熱材顆粒20における蓄熱材粒子21の配置数、単一の塊状体22における蓄熱材粒子21の配置数を模式的に示す。複数の蓄熱材顆粒20間、複数の塊状体22間、複数の蓄熱材粒子21間の各々における形状、大きさなどの一致、不一致は特に限定しない。複数の蓄熱材顆粒20間、複数の塊状体22間における蓄熱材粒子21の配置数の一致、不一致は特に限定しない。同様に、図3図7においては、顆粒間隙間30a、顆粒内隙間30b各々の形状、大きさ、収容部30における位置、配置数などを、模式的に示す。複数の顆粒間隙間30a間、複数の顆粒内隙間30b間における形状、大きさなどの一致、不一致は特に限定しない。
【0031】
図3に示すように、充填工程においては、まず、図2に示す容器3の収容部30に、分級後の蓄熱材顆粒20(分級により大径側と小径側とに分けられた蓄熱材顆粒のうち、大径側の蓄熱材顆粒)の集合体、つまり蓄熱体2を充填する。
【0032】
次に、図4に示すように、透過壁32で、容器本体31の開口を封止する。充填工程後において、蓄熱体2は、収容部30を区画する容器3の内面に当接している。隣り合う蓄熱材顆粒20の間、蓄熱材顆粒20と容器3の内面との間には、顆粒間隙間30aが形成されている。また、蓄熱材顆粒20内において隣り合う蓄熱材粒子21の間には、顆粒内隙間30bが形成されている。充填工程後かつ蓄熱体成形工程前の状態は、前述の初期状態に対応する。
【0033】
(蓄熱体成形工程)
図4に矢印で示すように、蓄熱体成形工程においては、透過壁32の透過孔320を介して、外部から収容部30に、水蒸気を導入する。水蒸気は、顆粒間隙間30aや、顆粒内隙間30bを介して、蓄熱材粒子21に到達する。水蒸気との水和反応により、蓄熱材粒子21の酸化カルシウムは水酸化カルシウムになる。この際、図6に示すように、蓄熱材粒子21は膨張する。
【0034】
蓄熱材粒子21の膨張に伴い、少なくとも一部の蓄熱材顆粒20は分解し、細粒化する。すなわち、任意の蓄熱材顆粒20から、蓄熱材粒子(一次粒子)21や、蓄熱材粒子21の塊状体22が生成される。ここで、蓄熱材顆粒20に対して、蓄熱材粒子21や塊状体22は小さい。また、蓄熱材顆粒20に対して、蓄熱材粒子21や塊状体22は流動性が高い。このため、蓄熱材粒子21が膨張することとも相俟って、顆粒内隙間30bは潰れて消える(あるいは小さくなる)。また、図5に示す顆粒間隙間30aは小さくなる。
【0035】
蓄熱体成形工程後において、蓄熱材粒子21は、収容部30の全体に行き渡る。すなわち、蓄熱体2は、収容部30の形状に倣った形状(直方体状)に成形される。この際、収容部30を区画する容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接する。成形後の蓄熱体2は、蓄熱材粒子21と、塊状体22と、蓄熱材顆粒20と、を含有している。なお、加水分解時の膨張に伴う蓄熱材顆粒20の分解により、成形後の蓄熱体2が、蓄熱材顆粒20および塊状体22のうち少なくとも一方を、含有しない場合もある。
【0036】
<作用効果>
次に、本実施形態の化学蓄熱器およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の化学蓄熱器1およびその製造方法によると、収容部30における蓄熱体2の蓄熱密度(GJ/m)をρ、初期状態の蓄熱体2を水蒸気と反応させ膨張させる際の蓄熱体2の膨張圧(MPa)をP1、として、以下の(式1)が成立している。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
このため、単位膨張圧P1あたりの蓄熱密度ρが大きい。したがって、蓄熱体2の膨張圧を小さくしつつ、蓄熱密度を高くすることができる。よって、例えば、従来と同等の膨張圧を確保しつつ、蓄熱密度を高くすることができる。言い換えると、従来と同等の蓄熱密度を確保しつつ、膨張圧を小さくすることができる。この場合、容器3に過度な耐圧構造が不要になる。
【0037】
また、本実施形態の化学蓄熱器1およびその製造方法によると、容器3の構造が耐えうる下限強度(MPa)をP2として、以下の(式2)が成立している。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
このため、容器強度係数(=P1/P2)が0.5未満になり、つまり下限強度が膨張圧を過剰に上回り、容器3の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。また、容器強度係数が1を超過し、つまり膨張圧が下限強度を上回り、容器3に不具合が生じるのを抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の化学蓄熱器1およびその製造方法によると、収容部30における蓄熱体2の充填密度(g/cm)をX1、初期状態の収容部30における蓄熱体2の充填高さ(mm)をX2(図4参照)、初期状態における蓄熱体2の蓄熱材顆粒20の平均粒子径(mm)をX3として、P1は、以下の(式3)により予測される。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
すなわち、本実施形態の化学蓄熱器1およびその製造方法によると、蓄熱体2の充填密度X1、蓄熱体2の充填高さX2、蓄熱材顆粒20の平均粒子径X3から、蓄熱体2の膨張圧を予測することができる。このため、容器3の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。
【0039】
本実施形態の化学蓄熱器1によると、充填工程後の状態(脱水状態)において、収容部30を区画する容器3の内面は、水和状態の蓄熱体2の外面に当接している。すなわち、蓄熱体2は、容器3の内面に全面的に当接し、拘束されている。このため、蓄熱体2の耐久性を高くすることができる。
【0040】
蓄熱材粒子(酸化カルシウム)20と反応する反応媒体は水蒸気である。このため、水蒸気以外の反応媒体を用いる場合と比較して、環境に与える影響を小さくすることができる。化学蓄熱材の主原料は水酸化カルシウムである。このため、水酸化カルシウム以外の化学蓄熱材を用いる場合と比較して、資源リスクが小さく、蓄熱密度の高い化学蓄熱器1を提供することができる。
【0041】
蓄熱体2は、粘土鉱物(セピオライト)を含有している。粘土鉱物は繊維構造を有している。このため、混合工程において、粘土鉱物からなる骨格中に、蓄熱材粒子21を分散状態で担持、または蓄熱材粒子21の粒子間に粘土鉱物を分散させることができる。また、焼成工程において、この状態で焼成することにより、蓄熱材粒子21と粘土鉱物とが焼結(化学結合)し、構造強度が確保される。また、蓄熱材粒子21の凝集を抑制することができる。
【0042】
粘土鉱物は、セピオライトである。セピオライトは、蓄熱材粒子21より細かい。このため、蓄熱体2の内部において、隣り合う蓄熱材粒子21の間に、粘土鉱物を介在させやすい。
【0043】
容器3は透過壁32を備えている。このため、透過壁32を介して、水蒸気を流動させることができる。容器3は伝熱壁310を備えている。このため、伝熱壁310を介して、化学蓄熱材と容器3の外部との間で、熱の受け渡しを行うことができる。
【0044】
<その他>
以上、本開示の化学蓄熱器およびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0045】
(化学蓄熱材)
化学蓄熱材の種類は特に限定しない。例えば、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Baなど)の化合物(酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物、硫酸化物など)であってもよい。化合物は、アルカリ土類金属を一種以上含んでいればよい。具体的には、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))、マグネシウムとカルシウムの複合水酸化物、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、マグネシウムとカルシウムの複合酸化物などであってもよい。
【0046】
化学蓄熱材の平均一次粒子径(混合工程において懸濁液を作製する前の粒子径)は特に限定しない。例えば、0.1μm以上10μm以下であればよい。前述のとおり、平均一次粒子径は、レーザ回折法により求められる蓄熱材顆粒の粒度分布(粒径分布)のメディアン径である。反応媒体の種類は特に限定しない。化学蓄熱材の種類に応じて、例えば、水蒸気(水)、アンモニアなどを用いることができる。
【0047】
(粘土鉱物)
粘土鉱物の種類は特に限定しない。例えば、セピオライト、アタパルジャイト、カオリナイト、ベントナイトなどであってもよい。これらの粘土鉱物は、単体で、あるいは二種以上混合して、用いることができる。粘土鉱物の繊維径、粒子形状、サイズは特に限定しない。
【0048】
(バインダー)
混合工程においては、バインダーを必要に応じて使用してもよい。使用する場合は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース系樹脂、ウレタン樹脂、デンプンなどの樹脂成分、ジエチレングリコール(DEG)、エタノールなどであってもよい。その他、蓄熱体2には、添加物や不可避不純物が含まれていてもよい。なお、添加物には、混合工程のための添加物や、他の工程のための添加物が含まれる。他の工程のための添加物としては、造粒工程において造粒性を高めるための添加剤などが挙げられる。
【0049】
(容器)
容器3の形状は特に限定しない。多角形(三角形、四角形、六角形など)箱状、円形(真円、楕円)箱状などであってもよい。内部に収容部30を区画できればよい。収容部30の形状(空間形状)は特に限定しない。多角形柱状、円柱状などであってもよい。伝熱壁310の位置、大きさ、配置数は限定しない。図1に示す側壁(前壁、後壁、左壁、右壁から選ばれる一つ以上)が伝熱壁310であってもよい。透過壁32についても同様である。伝熱壁310は配置しなくてもよい。例えば、容器3を貫通すると共に、内部を熱媒体が流動する伝熱部材を設けてもよい。当該伝熱部材の壁部を介して、蓄熱体2と熱媒体との間で伝熱を行えばよい。透過壁32の透過孔320の大きさは特に限定しない。水蒸気が通過可能であって、蓄熱材粒子21の通過を抑制できればよい。また、透過孔320の代わりに、あるいは透過孔320と併用して、容器3を貫通すると共に、内部を反応媒体が流動する流路部材を設けてもよい。
【0050】
収容部30の寸法は特に限定しない。収容部30を区画する容器3の内面は、蓄熱体2の外面に、全面的に当接していても、部分的に当接していてもよい。また、使用時において、常時、容器3の内面が蓄熱体2の外面に、全面的に当接していなくてもよい。少なくとも水和状態において、容器3の内面が蓄熱体2の外面に、全面的にあるいは部分的に、当接していればよい。蓄熱体2の過度な体積変化を抑制できればよい。
【0051】
容器3の材質は特に限定しない。金属(例えば、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、鉄など)、樹脂などであってもよい。容器3のうち、伝熱壁310だけを熱伝導率の高い材料(例えば、銅、金など)製としてもよい。透過壁32の材質は特に限定しない。パンチングメタル、メッシュフィルタ、金網、樹脂製の不織布などであってもよい。
【0052】
(化学蓄熱器の製造方法)
化学蓄熱器1の製造方法は特に限定しない。化学蓄熱器1の製造方法(混合工程、乾燥工程、造粒工程、破砕工程、焼成工程、分級工程、充填工程、蓄熱体成形工程)のうち、乾燥工程、破砕工程、分級工程から選ばれる少なくとも一つの工程を、省略してもよい。
【0053】
例えば、混合工程後の混合物を自然乾燥させ、当該乾燥物を顆粒成形してもよい。混合工程において乾式混合を行う場合は、混合工程後の混合物を、そのまま顆粒成形してもよい。このように、混合工程後に、他の工程を介さずに、造粒工程を行ってもよい。
【0054】
混合工程における混合物の作製方法は特に限定しない。湿式混合でも乾式混合でもよい。湿式混合の場合、以下の手順で混合物を作製してもよい。まず、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の懸濁液を調製する。並びに、粘土鉱物(セピオライト)の懸濁液を調製する。次に、化学蓄熱材の懸濁液と粘土鉱物の懸濁液とを混合し、混合液を調製する。続いて、混合液を噴霧乾燥(スプレードライ)させることにより、混合物を作製してもよい。また、混合液を、乾燥(脱水乾燥、自然乾燥)させ、粉砕することにより、混合物を作製してもよい。なお、脱水乾燥には、フィルタプレスを用いてもよい。また、粉砕には、ボールミルを用いてもよい。
【0055】
乾式混合の場合、化学蓄熱材(水酸化カルシウム)の粉体(粒子の集合体)と粘土鉱物の粉体とを、一軸混合や多軸混合により、混合することにより、混合物を作製してもよい。また、当該混合後に、ボールミルや臼挽きなどにより混合物を粉砕して、より粒子の細かい混合物を作製してもよい。また、まず化学蓄熱材の粉体、粘土鉱物の粉体を各々粉砕し、その後、双方の粉砕物を混合することにより、混合物を作製してもよい。
【0056】
混合工程において使用される混合装置の種類は特に限定しない。ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ(ホソカワミクロン株式会社の登録商標)などであってもよい。乾燥工程において使用される乾燥機の種類は特に限定しない。ドライマイスタ、スプレードライヤーなどであってもよい。造粒工程において使用される成形機の種類は特に限定しない。ブリケットマシン、ディスクペレッター、撹拌造粒機などであってもよい。破砕工程において使用される解砕機の種類は特に限定しない。フレーククラッシャー、フェザミル(ホソカワミクロン株式会社の登録商標)などであってもよい。分級工程において使用される分級装置の種類は特に限定しない。振動ふるい機、気流式分級機などであってもよい。焼成工程において使用される焼成炉の種類は特に限定しない。メッシュベルト式連続炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、シャトルキルンなどであってもよい。
【実施例0057】
以下、本開示の化学蓄熱器に対して行った、畜熱密度、膨張圧に関する評価試験について説明する。
【0058】
<試験装置>
まず、試験装置について説明する。図8に、試験装置の上下方向断面図を示す。図9に、同試験装置の分解斜視図を示す。試験装置5は、ロードセル50と、押圧部材51と、型枠部材52と、エッチングフィルタ53と、パンチングメタル54と、試験容器55と、を備えている。
【0059】
試験容器55は、上向きに開口する有底円筒状を呈している。試験容器55の底面には、放射状に複数の溝550が凹設されている。パンチングメタル54は、板厚の薄い円板状であって、複数の貫通孔540を備えている。パンチングメタル54は、試験容器55の底面に載置されている。エッチングフィルタ53は、板厚の薄い円板状であって、複数の貫通孔530を備えている。エッチングフィルタ53は、パンチングメタル54の上面に積層されている。型枠部材52は、上下方向に延在する円筒状を呈している。型枠部材52の下面には、放射状に複数の溝520が凹設されている。上側から見て、型枠部材52の溝520と試験容器55の溝550とは、重複している。蓄熱体2は、上下方向に延在する円柱状を呈している。初期状態において、蓄熱材粒子21は酸化カルシウムである。蓄熱体2は、型枠部材52の径方向内側に配置されている。押圧部材51は、蓄熱体2の上側に配置されている。ロードセル50は、押圧部材51の上側に配置されている。
【0060】
蓄熱体2の外周面は、型枠部材52の内周面に当接している。蓄熱体2の下面は、エッチングフィルタ53の上面に当接している。蓄熱体2の上面は、押圧部材51の下面に当接している。型枠部材52とエッチングフィルタ53と押圧部材51とは、図2に示す容器3に対応している。収容部30は、型枠部材52の内周面と、エッチングフィルタ53の上面と、押圧部材51の下面と、により区画されている。
【0061】
<試験方法>
次に、試験方法について説明する。まず、試験装置5の収容部30に、初期状態の蓄熱体2を充填する。次に、蓄熱体2の上側に、押圧部材51とロードセル50とを配置する。すなわち、収容部30を封止する。続いて、試験容器55に、上向きの開口部を介して、水(反応媒体)を注入する。注入された水は、溝550、貫通孔540、貫通孔530、溝520を介して、蓄熱体2に吸収される。水和反応により、蓄熱体2は膨張する。このため、蓄熱体2は、押圧部材51を押し上げる。ロードセル50は、蓄熱体2から押圧部材51に加わる荷重を検出する。
【0062】
<供試材>
後掲する表1の実施例1~15の蓄熱体2は、前述の実施形態(図1図7参照)の蓄熱体2と同一である。すなわち、初期状態において、蓄熱体2は、多数の蓄熱材顆粒20の集合体(粉体)である。蓄熱材顆粒20は、多数の蓄熱材粒子21と、セピオライトと、を含む造粒体である。表1の比較例1~4の蓄熱体2は、多数の蓄熱材粒子21と、セピオライトと、を含んでいる。比較例1~4の蓄熱体2は、粉体ではなく、プレス成形体である。
【0063】
<試験結果>
表1に、試験結果を示す。
【表1】
【0064】
表中、充填密度X1は、初期状態の収容部30における蓄熱体2のかさ密度である。充填高さX2は、初期状態における収容部30の上下方向距離(エッチングフィルタ53の上面から押圧部材51の下面までの距離)である。実施例1~15の初期状態における蓄熱材顆粒20の平均粒子径X3は、レーザ回折法により求められる蓄熱材顆粒20の粒度分布(粒径分布)のメディアン径である。なお、比較例1~4の蓄熱体2は、プレス成形体であるため、塊状を呈している。したがって、塊状の蓄熱体2自体の径を平均粒子径X3とする。膨張圧P1は、ロードセル50が検出した荷重から算出される、初期状態からの蓄熱体2の膨張圧である。畜熱密度ρは、収容部30における単位体積あたりの蓄熱体2の熱量である。
【0065】
図1に示す容器3の伝熱壁(下壁)310の最長辺の長さをL(m)、図4に示す伝熱壁310の板厚をT(mm)として、下限強度P2は、以下の(式4)から算出される。
P2=0.5×P1×(L×1000)/T ・・・(式4)
表1の実施例1~15と比較例1~4とを比較すると、実施例1~15の方が、比較例1~4よりも、膨張圧P1が著しく小さいことが判る。当該膨張圧P1の差に起因して、表1の実施例1~15によると、以下の(式1)が成立している。他方、比較例1~4によると、以下の(式1)が成立していない。
ρ/P1≧41 ・・・(式1)
このため、比較例1~4に対して、実施例1~15は、単位膨張圧P1あたりの蓄熱密度ρが大きい。したがって、蓄熱体2の膨張圧を小さくしつつ、蓄熱密度を高くすることができる。よって、例えば、従来と同等の膨張圧を確保しつつ、蓄熱密度を高くすることができる。言い換えると、従来と同等の蓄熱密度を確保しつつ、膨張圧を小さくすることができる。この場合、容器3に過度な耐圧構造が不要になる。
【0066】
表1の実施例1~15によると、上述の(式1)に加えて、以下の(式2)が成立している。
0.5≦P1/P2≦1 ・・・(式2)
このため、容器強度係数(=P1/P2)が0.5未満になり、つまり下限強度が膨張圧を過剰に上回り、容器3(図2参照)の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。また、容器強度係数が1を超過し、つまり膨張圧が下限強度を上回り、容器3に不具合が生じるのを抑制することができる。
【0067】
また、表1の実施例1~15からは、以下の(式3)が導出される。すなわち、説明変数をX1、X2、X3とし、目的変数をP1とし、回帰分析を組み合わせることによって、予測式(式3)が導出される。
P1=0.85×[(76.8×X3+29.1×X2+5.3×X2/X3+6.9)×exp(X1)+(-110.3×X3-57.1×X2-7.2×X2/X3+10.1)×0.00338] ・・・(式3)
このため、蓄熱体2の充填密度X1、蓄熱体2の充填高さX2、蓄熱材顆粒20の平均粒子径X3から、蓄熱体2の膨張圧を予測することができる。したがって、容器3の耐圧構造が過剰になるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:化学蓄熱器、2:蓄熱体、20:蓄熱材顆粒、21:蓄熱材粒子、22:塊状体、3:容器、30:収容部、30a:顆粒間隙間、30b:顆粒内隙間、31:容器本体、310:伝熱壁、32:透過壁、320:透過孔、5:試験装置、50:ロードセル、51:押圧部材、52:型枠部材、520:溝、53:エッチングフィルタ、530:貫通孔、54:パンチングメタル、540:貫通孔、55:試験容器、550:溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9