(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014599
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】高周波用SOIウエーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240125BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20240125BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20240125BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240125BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/322 E
H01L21/268 E
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117549
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】水澤 康
(72)【発明者】
【氏名】北爪 大地
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168JA12
(57)【要約】
【課題】
BOX層直下にレーザー照射により平坦度の高いトラップリッチ層を形成することにより、高調波歪みが低減された高周波用SOIウエーハの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
第1のシリコン単結晶基板と第2のシリコン単結晶基板の準備工程と、第1のシリコン単結晶基板の表面から所定の深さの表面層にレーザー照射してレーザーダメージ層を形成した後、第1のシリコン単結晶基板を熱酸化処理してレーザーダメージ層上に熱酸化膜を形成する処理工程と、第2のシリコン単結晶基板を熱酸化処理して表面に熱酸化膜を形成する処理工程と、第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を介してシリコン単結晶基板を貼り合わせる工程と、第2のシリコン単結晶基板を薄膜化するSOI層形成工程と、を有する高周波用SOIウエーハの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースウエーハ、レーザーダメージ層、BOX層、及びSOI層がこの順に積層された構造の高周波用SOIウエーハの製造方法であって、
ベースウエーハとなる抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満の第1のシリコン単結晶基板と、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板を準備する工程と、
前記第1のシリコン単結晶基板の表面から所定の深さの表面層にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成した後、該レーザーダメージ層が形成された前記第1のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、前記レーザーダメージ層の上にBOX層となる熱酸化膜を形成する第1のシリコン単結晶基板の処理工程と、
前記第2のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、表面にBOX層となる熱酸化膜を形成する第2のシリコン単結晶基板の処理工程と、
前記第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と前記第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を介して、前記第1のシリコン単結晶基板と前記第2のシリコン単結晶基板を貼り合わせる工程と、
前記第2のシリコン単結晶基板を薄膜化し、所定の厚さのSOI層を形成する工程と、を有することを特徴とする高周波用SOIウエーハの製造方法。
【請求項2】
前記第1のシリコン単結晶基板の表面にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成する場合のレーザー照射条件は、レーザーパワーが2μJ以上で、レーザー照射間隔が2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の高周波用SOIウエーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用SOIウエーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路を作製するための基板として、主にCZ(Czochra1ski)法によって作製されたシリコンウエーハが用いられている。特に、通信機器内の集積回路も高機能化、小型化の要求が強い。通信機器内の集積回路では、トランジスタなどの能動素子やインダクター等の受動素子が組み合わされている。それらの素子が扱う信号のレベルは大信号から微弱な信号まで非常に広い範囲である。そのため、半導体基板上で別々の集積回路の信号がお互いに干渉することを少なくしなければならない。また、能動素子および受動素子ともに、抵抗損失成分や浮遊容量成分を小さくしないと、消費電流が増加し、通信機器の動作可能時間が短くなってしまうことから、高調波歪みレベルは極めて小さな値であることが望ましい。
【0003】
これらの高周波用集積回路には、シリコンウエーハが用いられている場合がある。使用されるシリコンウエーハは、抵抗損失を低減するため抵抗率を高くする必要がある。抵抗率は高いほど、高周波特性が向上することがわかっている。さらに特性を改善するために、トラップリッチ層を用いたウエーハが多く使用されている。
具体的には、トラップリッチ層としてポリシリコン層(多結晶シリコン層)が多く用いられている。高抵抗率基板に高周波信号が入力されると反転層が形成されることで基板の抵抗率が変わってしまう。そこでトラップリッチ層中の深い準位でキャリアを捕獲することで、抵抗率を高い状態に保つことができ、良好な高周波特性を得ることができる。
その他、トラップリッチ層としては、SiGe層や多孔質層、アモルファスシリコン層が用いられる場合がある。
受動素子では、高抵抗率基板の上にトラップリッチ層としてポリシリコン層を形成したウエーハが多く用いられる。
他方、能動素子にはトラップリッチ層を使ったSOIウエーハが多く使用されている。具体的な構造は、高抵抗率基板上にトラップリッチ層としてポリシリコン層、その上に熱酸化膜層としての酸化膜層、その上に単結晶シリコン層である。
しかし、通信機器の小型化や消費電力低減等の要求から、さらなる高周波特性、特に高調波歪みを低減することが求められている。
【0004】
特許文献1には、レーザー照射を用いてトラップリッチSOI構造を作製する方法、具体的には、レーザー照射した層をポリシリコン層とする方法が記載されている。レーザーの焦点深度を調整することで、ポリシリコン層の深さを制御するのであるが、レーザー照射の影響がある層の厚さは面内でばらつくことが多く、これを均一にすることは難しい。レーザー照射の層と酸化膜の間に隙間が生じるとトラップリッチ層としての効果が小さくなる。また、酸化膜の深さの直下を焦点深さとした場合、レーザー照射によるダメージが酸化膜にまで達してしまい、酸化膜に欠陥が導入され耐圧が低下する。
【0005】
特許文献2には、高周波デバイス用のウエーハとして、レーザーマニピュレーションにより機械的に加工された層を用いたウエーハが記載されている。この文献では、レーザーマニュピレーションにより、格子損傷保持領域および破砕シリコン領域が寄生表面伝導を抑制するとある。この格子損傷保持領域もしくは破砕シリコン領域がトラップリッチ層である。しかし、レーザー照射では、狙い焦点深さを設定するが、その深さを中心に照射の層の幅のばらつきが大きく、深さ方向におおよそ数μmの幅の違いがある。このことは、レーザー照射領域が表面まで到達していれば、寄生表面伝導を抑制することができるが、レーザー照射領域が表面まで到達していない場合は、寄生表面伝導を抑制することができないことを示している。特に、周波数が高くなるに従って、高周波信号が流れる深さは浅くなり(表皮効果)、このばらつきによる影響は大きくなる。また、極表層に焦点を合わせて、レーザーを照射した場合は、表面までレーザー照射によるダメージによりウエーハ表面の面荒れを発生させ、その後の貼り合わせ工程が難しくなる問題がある。特許文献2の請求項2には、レーザー照射後に表面を研磨する工程が記載されているが、研磨工程は枚葉もしくは数枚ずつしか処理できず、工程に時間がかかるという問題がある。さらに、レーザー照射による表面のダメージを加工して取り除くことは、トラップリッチ層を取り除くことであり、寄生表面伝導を抑制する効果が低下してしまう。
【0006】
特許文献3には、ボンドウエーハとベースウエーハとを絶縁膜を介して貼り合わせたSOIウエーハであって、前記ベースウエーハの貼り合わせ面側にポリシリコン層を堆積させるものが記載されている。このポリシリコン層がトラップリッチ層となる。ポリシリコン成膜後に貼り合わせをするためには、ポリシリコン表面を平坦にする必要があり、成膜後の研磨が必要になる。しかし、ポリシリコンは、表面がグレインごとに異なる格子面になっており、均一に研磨することは難しく、均一に研磨しようとすると、研磨スピードを遅くしないといけないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-129195号公報
【特許文献2】特表2016-541118号公報
【特許文献3】特開2017-220503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、BOX層直下にレーザー照射により平坦度の高い電荷捕獲層(トラップリッチ層)を形成することにより、高調波歪みが低減された高周波用SOIウエーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、ベースウエーハ、レーザーダメージ層、BOX層、及びSOI層がこの順に積層された構造の高周波用SOIウエーハの製造方法であって、ベースウエーハとなる抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満の第1のシリコン単結晶基板と、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板を準備する工程と、前記第1のシリコン単結晶基板の表面から所定の深さの表面層にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成した後、該レーザーダメージ層が形成された前記第1のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、前記レーザーダメージ層の上にBOX層となる熱酸化膜を形成する第1のシリコン単結晶基板の処理工程と、前記第2のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、表面にBOX層となる熱酸化膜を形成する第2のシリコン単結晶基板の処理工程と、前記第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と前記第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を介して、前記第1のシリコン単結晶基板と前記第2のシリコン単結晶基板を貼り合わせる工程と、前記第2のシリコン単結晶基板を薄膜化し、所定の厚さのSOI層を形成する工程と、を有することを特徴とする高周波用SOIウエーハの製造方法を提供する。
【0010】
このような高周波用SOIウエーハの製造方法によれば、BOX層直下にレーザー照射により平坦度の高い電荷捕獲層(トラップリッチ層)を形成することにより、高調波歪みが低減された高周波用SOIウエーハを製造することができる。
特に、このようにレーザー照射後に酸化性雰囲気で熱処理したベースウエーハを作製し、これを用いて貼り合わせ法によりSOIウエーハを製造する方法であれば、高調波レベルが低減されたSOIウエーハを容易に製造することができ、高周波デバイス用ウエーハを製造することに適している。
また、第1のシリコン単結晶基板の一面から所定の深さにレーザー照射してレーザーダメージ層を形成してから、レーザーダメージ層の表面に熱酸化膜層を形成する構成なので、熱酸化膜層の表面を研磨することなく、平坦にでき、貼り合わせを容易にすることができる。
【0011】
このとき、前記第1のシリコン単結晶基板の表面にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成する場合のレーザー照射条件は、レーザーパワーが2μJ以上で、レーザー照射間隔が2μm以下であることが好ましい。
【0012】
これにより、第1のシリコン単結晶基板の一面から所定の深さにレーザー照射してレーザーダメージ層を形成でき、熱酸化膜層の表面を研磨することなく、平坦にすることができ、貼り合わせを容易かつ確実に行うことができる。これにより、高調波レベルが低減されたSOIウエーハを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の高周波用SOIウエーハの製造方法によれば、レーザー照射によりレーザーダメージ層を形成した後に、酸化工程で形成した酸化膜を有するシリコンウエーハを得ることができ、該シリコンウエーハはレーザー照射によるレーザーダメージ層の欠陥により、高調波レベルを低減することが可能となる。その理由は、レーザー照射によって形成された欠陥が電荷捕獲層(トラップリッチ層)として働き、デバイス動作時に、酸化膜直下の反転層形成を阻害するためである。そして、レーザーダメージ層を形成した後に、酸化工程で形成した酸化膜を有するSOIウエーハは、レーザーダメージ層の欠陥により、高調波レベルを低減できる。このように、本発明のSOIウエーハの製造方法により、上記の高調波歪みレベルが低減されたSOIウエーハを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のSOIウエーハの製造方法の一例を示すフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
上記のように、通信機器の小型化や消費電力低減等の要求から、さらに高調波が低減されたウエーハが求められている。
本発明者らは、この課題について鋭意検討した。実験の一つとして、抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満のシリコン単結晶基板に、レーザーを照射した後に、1050℃の酸素雰囲気の熱処理で厚さ400nmの熱酸化膜を形成した。これらのウエーハに線路長2200μmの電極を形成し、2次および3次高調波特性を測定した。その結果、レーザー照射を行わない場合よりも、2次および3次高調波歪みレベルを低減できることがわかった。この理由は、レーザーダメージ層が電荷捕獲層(トラップリッチ層)として働き、反転層の形成を阻害したためと考えられる。このことから、レーザー照射後に酸化膜を形成した場合に、レーザーダメージ層がトラップリッチ層として有効であることがわかったことから、能動素子として使用されるトラップリッチSOIウエーハにも適応できることがわかった。
以上の知見から、本発明者らは、本発明を為すに至った。すなわち、本発明の形態は、抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満のシリコン単結晶基板に、レーザーを照射したレーザーダメージ層、熱酸化膜層、および、シリコン単結晶層(SOI層)が、この順に構成された構造を有することを特徴とするSOIウエーハの製造方法である。
すなわち、本発明は、ベースウエーハ、レーザーダメージ層、BOX層、及びSOI層がこの順に積層された構造の高周波用SOIウエーハの製造方法であって、ベースウエーハとなる抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満の第1のシリコン単結晶基板と、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板を準備する工程と、前記第1のシリコン単結晶基板の表面から所定の深さの表面層にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成した後、該レーザーダメージ層が形成された前記第1のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、前記レーザーダメージ層の上にBOX層となる熱酸化膜を形成する第1のシリコン単結晶基板の処理工程と、前記第2のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、表面にBOX層となる熱酸化膜を形成する第2のシリコン単結晶基板の処理工程と、前記第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と前記第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を介して、前記第1のシリコン単結晶基板と前記第2のシリコン単結晶基板を貼り合わせる工程と、前記第2のシリコン単結晶基板を薄膜化し、所定の厚さのSOI層を形成する工程と、を有することを特徴とする高周波用SOIウエーハの製造方法である。
以下、図面を参照にして本発明を詳細に説明する。
【0016】
〔高周波用SOIウエーハの製造方法〕
本発明に係る高周波用SOIウエーハの製造方法について説明する。
図1に、本発明に係る高周波用SOIウエーハの製造方法の一例を示す。
本発明に係る高周波用SOIウエーハの製造方法は、シリコン単結晶基板を準備する工程と、第1のシリコン単結晶基板の処理工程と、第2のシリコン単結晶基板の処理工程と、シリコン単結晶基板の貼り合わせ工程と、薄膜化工程と、を有する。
【0017】
(シリコン単結晶基板を準備する工程)
本工程は、ベースウエーハとなる抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満の第1のシリコン単結晶基板と、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板を準備する工程である。
まず、
図1a)に示したように、ベースウエーハとなる抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満の第1のシリコン単結晶基板(シリコンウエーハ)10を準備する。
また、第1のシリコン単結晶基板10とは別に、
図1d)で示したように、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板(シリコンウエーハ)20を準備する。第2のシリコン単結晶基板20としては、抵抗率が例えば10Ω・cm程度のシリコン単結晶とすることができるが、これに限定されない。
第1のシリコン単結晶基板10と第2のシリコン単結晶基板20の準備はどちらを先にやっても良く、並行して行うこともできる。
【0018】
(第1のシリコン単結晶基板の処理工程)
本工程は、第1のシリコン単結晶基板の表面から所定の深さの表面層にレーザー照射を行って、レーザーダメージ層を形成した後、該レーザーダメージ層が形成された前記第1のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、前記レーザーダメージ層の上にBOX層となる熱酸化膜を形成する工程である。
図1a)の後、
図1b)に示したように、第1のシリコン単結晶基板10に、レーザー照射することで、レーザーダメージ層12を形成する。レーザーダメージ層12を形成するためのレーザー条件はダメージが入れば、特に限定する必要はないが、レーザー出力は2μJ以上が好ましい。また、レーザー照射間隔は2μm以下が好ましい。
レーザー照射間隔はCo-planer Waveguide(CPW)の幅より十分狭くするのが好ましい。レーザー照射間隔をCo-planer Waveguide(CPW)の幅より長くすると、レーザーダメージが存在しない領域にCPWが当たってしまう可能性が生じる。レーザー照射方法に関係なく、CPWの信号線の直下にレーザー照射した箇所が存在するように照射間隔は短いことが好ましい。
尚、レーザーダメージ層が形成される表面から所定の深さの表面層としては、0.5μm~5μmとすることが好ましい。この範囲とすることにより、表面に熱酸化膜を形成するために必要な厚さを確保することができる。また、レーザーダメージ層の厚さとしては、5μm~20μmとすることが好ましい。5μm以上とすれば、デバイス動作時に発生する反転層のキャリアを低減することができる。20μmもあれば、十分な効果が得られる。
【0019】
次に、
図1c)に示すように、レーザーダメージ層12を形成した後に、熱酸化膜14を成長させるが、熱酸化膜が形成できればよく、その熱処理温度は特に限定されない。このとき、熱酸化膜14の厚さは400nm以上であることが好ましい。
このようにして作製した第1のシリコン単結晶基板10は、貼り合わせの際にベースウエーハとなる。
【0020】
(第2のシリコン単結晶基板の処理工程)
本工程は、第2のシリコン単結晶基板を熱酸化処理することによって、表面にBOX層となる熱酸化膜を形成する工程である。
図1d)の後、
図1e)で示したように、第2のシリコン単結晶基板20の表面に熱酸化膜22を形成する。この熱酸化膜22の形成は、例えば、酸化性雰囲気下の熱処理であるwet酸化やドライ酸化法等の公知の技術を用いて形成することができる。このようにして熱酸化により第2のシリコン単結晶基板20の表面全体あるいは貼り合わせ面に熱酸化膜22を形成することができる。この第2のシリコン単結晶基板20は貼り合わせの際のボンドウエーハとなる。
図1a)、b)、c)の工程と、
図1d)、e)の工程の順番は問わない。よって、第1のシリコン単結晶基板の処理工程と第2のシリコン単結晶基板の処理工程のどちらを先にやっても良く、並行して行うこともできる。
【0021】
(シリコン単結晶基板の貼り合わせ工程)
本工程は、第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と前記第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を介して、前記第1のシリコン単結晶基板と前記第2のシリコン単結晶基板を貼り合わせる工程である。
上記のように、レーザー照射後に熱酸化膜14を形成した第1のシリコン単結晶基板10と表面に熱酸化膜22を形成した第2のシリコン単結晶基板20を準備した後に、
図1f)に示したように、第1のシリコン単結晶基板10のレーザーダメージ層12上の熱酸化膜14と第2のシリコン単結晶基板20の熱酸化膜22とを貼り合わせる。
【0022】
(薄膜化工程)
本工程は、第2のシリコン単結晶基板を薄膜化し、所定の厚さのSOI層を形成する工程である。
貼り合わせ後に、
図1g)に示したように、SOI層となる第2のシリコン単結晶基板20を薄膜化することができる。この薄膜化は、ボンドウエーハ側の単結晶基板を研磨する方法やイオン注入剥離法により、所望のシリコン単結晶層(SOI層)30の厚さにすることができる。
以上のようにして、高周波用SOIウエーハを製造することができる。
【0023】
〔高周波用SOIウエーハ〕
本発明に係る高周波用SOIウエーハの製造方法によって製造される高周波用SOIウエーハは、ベースウエーハ、レーザーダメージ層、BOX層、及びSOI層がこの順に積層された構造を有する。
抵抗率が10Ω・cm以上10000Ω・cm未満のシリコン単結晶基板のベースウエーハ上に、レーザーダメージ層、熱酸化膜層、シリコン単結晶層がこの順に構成された構造を有し、レーザーダメージ層はトラップリッチ層として機能する。
【0024】
〔高調波特性〕
シリコンウエーハやSOIウエーハの高調波特性の測定について説明する。
SOIウエーハの高調波特性の測定は以下のようにして行う。
2次高調波特性(2HD)および3次高調波特性(3HD)は、まず、SOIウエーハにおける最も上のシリコン単結晶層を除去した後に、熱酸化膜層上に金属でCo-planer Waveguide(CPW)を形成し、この金属電極の両端にプローブを接地させる。
その後、どちらか側から高周波信号を入力し、もう片側から出力される2次もしくは3次高調波特性を測定する(例えば、周波数1GHz、入力電力15dBm)。
その結果、シリコン単結晶基板のレーザーダメージ層中の欠陥が深い準位を持ち、キャリアを捕獲することで、2次高調波歪みおよび3次高調波歪みを低減することができる。
【実施例0025】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0026】
(実施例1)
図1a)~g)に沿って、実施例1のSOIウエーハを製造した。
具体的には、直径300mm、抵抗率が5000Ω・cmである第1のシリコン単結晶基板にレーザーパワー2μJ、レーザー照射間隔2μm、焦点深さ15μmの条件でレーザー照射を行ってレーザーダメージ層を形成した。このとき、観察用サンプルで、レーザーダメージ層の断面を顕微鏡観察した。
図2に、レーダーダメージ層の断面写真を示す。
図2から判るように、表面から約15μm深さのところにレーザーダメージ層が形成されており、表面は平坦度が維持されていることが分かる。
【0027】
その後、1050℃の酸化性雰囲気で熱処理を行い、レーザーダメージ層の上に厚さ400nmの熱酸化膜を形成した。
別途、直径300mmの第2のシリコン単結晶基板を1050℃の酸化性雰囲気で熱処理を行い、厚さ100nmの熱酸化膜を形成した。
次に、第1のシリコン単結晶基板のレーザーダメージ層上の熱酸化膜と第2のシリコン単結晶基板の熱酸化膜を貼り合わせた。第1のシリコン単結晶基板の表面はレーザー照射後、その表面の再研磨は行っていないが、貼り合わせは問題なくできた。
そして、貼り合わせたSOIウエーハの表面のシリコン単結晶層を研磨によって薄膜化し、単結晶シリコン膜(SOI層)の厚さが1μmの実施例1のSOIウエーハを作製した。
【0028】
(比較例1)
実施例1において、第1のシリコン単結晶基板にレーザー照射をせず、レーザーダメージ層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1のSOIウエーハを形成した。
【0029】
実施例1と比較例1のSOIウエーハに対して、上記の手順でシリコン単結晶層を研磨し除去して、酸化膜層を露出させた後、酸化膜上に路線長2200μmの電極を形成し、周波数1GHz、入力電力15dBmの条件で2次高調波および3次高調波を測定した。
【0030】
その結果、実施例1は比較例1よりも2次高調波特性が、30dBm程度、3次高調波特性が、20dBm程度低減できることがわかった。
すなわち、実施例1の第1のシリコン単結晶基板にレーザー照射した方が、レーザー照射しない場合よりも、良好になることがわかった。
この結果から、トラップリッチ層としてレーザーダメージ層が有効で、その後に熱酸化することで、熱酸化膜直下の反転層を抑制する効果があることがわかった。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
10…第1のシリコン単結晶基板(シリコンウエーハ)、 12…レーザーダメージ層、 14…熱酸化膜(BOX層)、 20…第2のシリコン単結晶基板(シリコンウエーハ)、 22…熱酸化膜(BOX層)、30…シリコン単結晶層(SOI層)。